説明

耐摩耗性粒状触媒

【課題】スラリー反応器に使用した際、有利な耐摩耗特性を示す強健な触媒を得ること。
【解決手段】触媒活性成分、担体及び任意に触媒促進剤を含む噴霧乾燥粒状触媒。該触媒は、明細書に記載の剪断試験による触媒の平均粒径の低下が25%以下であり、10μm未満の粒度を有する粒子の分率を20%未満にすることが可能。本発明は、水性スラリーを作り、これを入口温度が300℃未満の噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥し、次いで得られた粒子を焼成する、粒状触媒材料の製造法も提供する。本発明の噴霧乾燥条件(入口温度:300℃未満)で製造した触媒は、これより高温の入口温度で噴霧乾燥して製造した触媒に比べて、耐摩耗性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒,特に噴霧乾燥した触媒に関する。詳しくは本発明は、3相スラリー反応、特に例えば3相スラリー気泡塔反応器で行われるフィッシャー・トロプシュ反応に使用される噴霧乾燥触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
フィッシャー・トロプシュ法は、炭化水素質供給原料を液体及び/又は固体の炭化水素に転化するのに使用できる。供給原料(例えば天然ガス、随伴ガス、炭層メタン、残留油フラクション、バイオマス及び/又は石炭)は、第一工程で水素と一酸化炭素との混合物(これは合成ガスと呼ぶことが多い)に転化される。次に、第二工程では合成ガスは、好適な触媒上で高温高圧下、パラフィン系化合物に転化される。このパラフィン系化合物は、メタンから炭素数200以下又は特定の環境下ではそれ以上の炭素数を有する高分子量までの分子である。
【0003】
フィッシャー・トロプシュ反応を行うため、多種類の反応器システムが開発された。例えばフィッシャー・トロプシュ反応器システムとしては、固定床反応器、特に多管状固定床反応器;飛沫同伴(entrained)流動床反応器及び固定流動床のような流動床反応器;及び3相スラリー気泡塔反応器及び沸騰床反応器のようなスラリー床反応器が挙げられる。
【0004】
フィッシャー・トロプシュ反応は非常に発熱的かつ温度に敏感で、このため、最適操作条件及び所望の炭化水素生成物選択率を維持するには、慎重な温度制御を必要とする。フィッシャー・トロプシュ反応の特徴である非常な高熱を考慮すると、反応器の物質(mass)輸送、熱移動特性及び冷却機構は極めて重要である。
【0005】
3相スラリー気泡反応器では触媒粒子は、液体連続相内で移動しているので、触媒粒子で発生した熱は冷却表面に効率的に移動し、一方、反応器中の多量の液体残留量は、高い熱慣性となり、熱暴走となり得る急速な温度上昇の防止に役立つ。しかし、触媒粒子の絶え間のない動作は、摩耗を誘引する。触媒粒子の摩耗は、一般に反応器の性能に悪影響を及ぼし、特に(触媒は反応生成物から分離しなければならないので)、微細な触媒粒子の存在は問題のあることを示している。
【0006】
したがって、例えばスラリー式フィッシャー・トロプシュ反応器ユニットにおいて、触媒はその寿命中、耐摩耗性を有することが重要な要件である。摩耗は、プロセスにおいて、粒子の不要な破壊又は摩耗を示す広い用語である。一般に粒子には、大粒子が小粒子になる“分解”や更なる“微細粉”を作る粒子端部の摩耗がある。“微細粉”の数が多いほど、下流のフィルターが閉塞しやすい。
【0007】
移動する粒状触媒の摩耗は,触媒粒子の特性(例えば強度、大きさ、形状、組成等)や環境特性(温度、時間、分散媒体、粘度、流体力学(撹乱)、機械的衝撃、設計設備等)によって決まる。現在,摩耗の測定基準はない。
【特許文献1】ヨーロッパ特許公告No.0450859
【非特許文献1】Perry’s Chemical Engineers’ Handbook,第6版、20−54〜20−58
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、特にスラリー気泡塔反応器に使用した際、有利な耐摩耗特性を示す強健な触媒を提供することである。
本発明の他の目的は、有利な耐摩耗特性を有する触媒の製造方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、フィッシャー・トロプシュ反応、特にフィッシャー・トロプシュスラリー反応器において優れた性能を有する触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、触媒活性成分、担体、及び任意に触媒促進剤を含む噴霧乾燥粒状触媒であって、明細書に記載の剪断試験による触媒の平均粒径の低下が25%以下、好ましくは20%以下であり、触媒活性成分の含有量が担体100重量部当たり、純金属の重量として表して、100重量部以下である該噴霧乾燥粒状触媒を提供する。
【0011】
本発明は、触媒活性成分、担体、及び任意に触媒促進剤を含む噴霧乾燥粒状触媒であって、明細書に記載の剪断試験による10μm未満の粒度を有する触媒の分率が20%未満であり、触媒活性成分の含有量が担体100重量部当たり、純金属の重量として表して、100重量部以下である該噴霧乾燥粒状触媒も提供する。
【0012】
本発明は、触媒活性成分、担体、及び任意に触媒促進剤を含む噴霧乾燥粒状触媒であって、該触媒を1秒当たり900〜1000の範囲の剪断速度又は速度勾配に暴露する方法による触媒の平均粒径の低下が25%以下、好ましくは20%未満であり、触媒活性成分の含有量が担体100重量部当たり、純金属の重量として表して、100重量部以下である該噴霧乾燥粒状触媒も提供する。
【0013】
本発明は、触媒活性成分、担体、及び任意に触媒促進剤を含む噴霧乾燥粒状触媒であって、該触媒を1秒当たり900〜1000の範囲の剪断速度又は速度勾配に暴露する方法による10μm未満の粒度を有する触媒の分率が20%未満であり、触媒活性成分の含有量が担体100重量部当たり、純金属の重量として表して、100重量部以下である該噴霧乾燥粒状触媒も提供する。
【0014】
本発明の噴霧乾燥触媒、特に以上の4種の触媒は、好適には全成分、即ち、触媒活性成分、したがって前駆体、担体、及び任意に触媒促進剤を含むスラリー、特に水性スラリーを噴霧乾燥して得られる。本発明の触媒は、300〜1000℃、特に400〜900℃の温度で焼成することが好ましい。焼成時間は、好適には1分〜2時間、好ましくは3分〜1時間、更に好ましくは5〜30分である。焼成は不活性雰囲気、空気又はそれらの混合物中で行うことができる。空気が好ましい。前述の触媒特性は、通常、1つの同じ実験で得られることが観察される。したがって、これらの特性は、4つの異なる方法で1つの同じ触媒を定義してよい。好ましい実施態様では、剪断試験における触媒の平均粒径の低下は25%以下、好ましくは30%未満であり、また同じ試験において、10μm未満の粒度を有する触媒の分率は20%未満であることが必要である。別の好ましい実施態様では、触媒を1秒当たり900〜1000の範囲、好ましくは965の剪断速度又は速度勾配に暴露する方法で触媒は、その平均粒径の低下が25%以下、好ましくは30%未満を示し、また同じく剪断速度又は速度勾配に暴露する方法で触媒は、10μm未満の粒度を有する触媒の分率が20%未満を示す。本発明の触媒は、担体として特にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア又はそれらの混合物、更に特にチタニアを含む触媒が好ましい。好適には担体の80重量%以上、好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア又はそれらの混合物、特にチタニアである。更に好ましい実施態様では、担体は、任意にシリカ及び/又はアルミナを5〜30重量%含むチタニアである。チタニアは、ルチル、アナターゼ及び板チタン石から選んでよい。本発明の触媒は、特にフィッシャー・トロプシュ触媒である。触媒成分は、通常、鉄又はコバルト、特にコバルトである。促進剤は特にジルコニウム、マンガン、バナジウム、レニウム又は白金から選ばれる。本発明の噴霧乾燥触媒は、更に強度が増大することから、焼成することが好ましい。
【0015】
本発明は、
(1)媒活性成分、担体、及び任意に触媒促進剤を含む水性スラリーを製造する工程、
(2)水性スラリーを、入口温度が300℃未満、好ましくは250℃未満の噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥する工程、
(3)工程(2)で得られた粒子を焼成する工程
を含む粒状触媒材料の製造方法も提供する。
噴霧乾燥機の温度は、一般に150℃を超え,好ましくは少なくとも200℃を超える。
焼成は好適には300〜1000℃、好ましくは400〜900℃の温度で行われる。
【0016】
本発明は、以上の方法で製造された粒状触媒又は粒状触媒材料も提供する。
本発明の好ましい実施態様は、触媒活性成分、担体、及び任意に触媒促進剤を含む粒状触媒を300℃未満の入口温度で水性スラリーから噴霧乾燥し、次いで空気中、550℃以上の温度で焼成した粒状触媒を提供する。
【0017】
本発明者は、噴霧乾燥条件を慎重に操作すると、触媒強度が向上できることを見出した。特に比較的低いガス入口温度、好ましくは200〜250℃の範囲の温度で噴霧乾燥した触媒は、これより高温で噴霧乾燥して製造した触媒に比べて有利な耐摩耗特性を示すことが見出された。
【0018】
噴霧乾燥は周知の技術である。通常、噴霧乾燥機は、(大型の)円筒室である。円筒は使用時、殆どの場合、垂直位置である。乾燥すべき材料は、小滴の形態で噴霧される。円筒内には大量の熱ガスが供給される。熱ガスの量は、液体の蒸発を完了するのに必要な熱を供給するのに十分な量でなければならない。熱伝達及び物質移動は、熱ガスと分散液滴との直接接触により達成される。乾燥終了後、冷却されたガス及び固体は、分離される。分離は、通常、乾燥室の底部で行われる。残存微粒子は、例えば外部サイクロン又は収集袋中のガス流から分離できる。湿潤スクラバーも使用できる。噴霧乾燥は、液体霧化、ガス滴混合及び液滴乾燥の3つのユニットプロセスを含む。霧化は、例えば高圧ノズル、2つの流体ノズル、又は高速遠心円盤を用いて行ってよい。得られる小滴の大きさは、通常、2〜500μmである。小滴で作られる大きい全乾燥表面のため、噴霧乾燥機での実際の乾燥時間は、通常、1〜0秒、多くの場合、2〜20秒である。乾燥流体は、通常、水蒸気又は空気、好ましくは空気である。噴霧乾燥機の概要については、Perry’s Chemical Engineers’ Handbook,第6版、20−54〜20−58参照。
【0019】
本発明方法では、好適には(大型)垂直円筒型乾燥塔が使用される。スラリーに使用される液体は、好適には水である。少量の有機液体、例えばメタノール又はエタノールが存在してもよい。純水が好ましい。乾燥用ガスは、好適には空気である。小滴の大きさは、好適には10〜500μ、好ましくは20〜200μである。滞留時間は、好適には2〜30秒、好ましくは4〜12秒である。噴霧乾燥すべきスラリー中の固体濃度は、広範囲に変化してよい。好適には固体濃度は、スラリーの全重量に対し、5〜60重量%、好ましくは10〜40重量%である。
【0020】
スラリーの製造に使用される成分は、市販品として得られる。シリカ、アルミナ、ジルコニア及び/又はチタニアは、幾つかの工業メーカーにより供給される。好適なチタニア製品はDegussaから販売されているP25である。触媒金属化合物も幾つかの工業メーカーから粉末として入手し得る。可溶性成分、例えば硝酸鉄、硝酸コバルト等が使用できる。不溶性化合物、例えば水酸化コバルト、ヒドロキシ酸化コバルト、酸化コバルト、炭酸コバルト等も使用できる。スラリーは、これら成分を混合し、好ましくは固体成分を、撹拌した水性相に添加して、製造される。混合後、スラリーは例えば市販の噴霧塔で乾燥される。噴霧乾燥機の入口温度、例えば乾燥用ガスの温度は、300℃未満である。噴霧塔の圧力は、好適には周囲圧であり、或いは液体の蒸発により、周囲圧より若干高い。他の圧力、例えば0.1〜5バール、特に0.5〜2バールも使用できるが、周囲圧が好ましい。噴霧乾燥機での滞留時間は、好適には2〜30秒、好ましくは10〜20秒である。実際の乾燥時間は、好適には1〜25秒、好ましくは4〜20秒、更に好ましくは6〜15秒である。乾燥時間は、滞留時間を変化させて見積もってよい。粒子の乾燥は、強熱減量(LOI)が5重量%未満、好ましくは2重量%未満となった時、完了したとみなされる。この噴霧乾燥法で得られた粒子で観察された形状は、多少、球形である。これは、本方法の噴霧部分で作られた小滴は、球形に育ち、乾燥プロセス中、殆ど変化しないからである。
【0021】
出発材料としては、特に耐火性酸化物粉末が使用される。好適には1nm〜100μ、好ましくは1〜1000nm、特に2〜500nm、更に特に3〜200nm、更には5〜100nmの粒度を有する粉末が好ましい。粉末のBET表面積は、10〜500m/g、好ましくは20〜300m/gである。同じ大きさの金属又は金属化合物の粉末を用いることが好ましい。粉末は、25℃の水に現れないか、又は極少量しか現れない。これらの小粒粉末を用いて、非常に活性の触媒が得られる。同じ効果は、可溶性金属化合物を用いても得られる。直接沈殿した金属化合物、例えば水酸化物、酸化物及び炭酸塩は使用されない。この方法では、大きな固体塊が比較的低表面で得られる。
【0022】
担体上の触媒活性金属の最適量は、特定の触媒活性金属に依存する。触媒活性金属の量は、担体重量に対し純金属の量として表して、担体100重量部当たり、通常、1〜100重量部、好ましくは10〜50重量部、更に好ましくは15〜40重量部である。構造促進剤が存在する金属化合物の連続相を有する金属触媒は、本発明では含まれないことが観察される。このような触媒では、純金属の量(重量)は、構造促進剤の量(重量)よりも多い。この種の触媒は、触媒活性金属化合物の沈殿により作られる。これらの触媒は、金属表面積が小さいので、金属1g当たりの生産性が比較的低い。この理由から、沈殿触媒は除外される。本発明の触媒は、担体上に別個の金属(化合物)微結晶を持った連続担体相を有する。
【0023】
理論による制約を望むものではないが、出願人は、噴霧乾燥工程の入口温度を低下させると、乾燥速度が遅くなる結果、粒子の凝集時間は一層増えると考える。この理由から、比較的長い滞留時間を低ガス温度と組合わせ使用することが好ましい。これは或る程度、噴霧乾燥機の生産性を低下させるが、触媒は改良される。また、300℃を超える温度での噴霧乾燥触媒の焼成は、更に好ましい実施態様である。
【0024】
剪断試験は、次のようにして行われる。IKAにより供給されるUltra Turrax T50/S50N/G45F配合機の撹拌器を5750rpmで操作する。この回転数は、965s−1の剪断速度と同等である。撹拌器は、G45F分散用エレメントを有し、またエレメントは外径40mmのローターと、外径45mmで内径41mmのステーターとを備える。ローター及びステーターは各々、幅が2mmで高さが12mmの一連の垂直スリットを有する。撹拌器は、高さが120mmで内径が55mmの250mlビーカーの底面から18mmの所にある。このビーカーには、水100g中に触媒濃縮物を5%v/v含む水性サンプル100mlが入れてある。ビーカーは、温度を20℃±2℃に保持した恒温浴中に固定する。試験の際、撹拌器は30分間操作される。剪断速度は好ましくは965/秒である。
【0025】
剪断試験は約500μm未満の粒子に対して行える。大粒子を試験する場合、このような粒子は圧潰でき、さもなければ大きさを500μm以下に低下させる。
【0026】
粒度分布(PSD)の測定はレーザー光回折(LLD)により行われる。この装置はMalvern Mastersizer Micro+である。剪断試験終了後、代表的なサンプルを取り、PSDを測定する。摩耗の定義に使用される2つのパラメーターは、平均粒径(APD)及びfr<10である。APDは、容量加重平均粒径D(4,3)、又はDe Broucker平均として測定する。Fr<10は、直径が<10μmである粒子の容量分率である。
【0027】
ここで使用した摩耗率は、試験中のAPDの低下%として定義する。更に摩耗率は、直径が10μm未満である粒子の増加の絶対量、‘fr<10μm’としても定義する。後者のパラメーターは、試験中に形成される可能性のある、いわゆる“微細粉”の量について、更なる重要な情報を与える。微細粉は、スラリー操作で触媒/生成物の分離に使用されるフィルターを詰まらせる可能性があるので、スラリーの処理操作に有害である。
【0028】
APDは次のとおり定義する。
【数1】


fr<10の増加は、
【数2】


として定義する。
【0029】
試験の反復精度を測るため、一連の試験を行う。反復精度は、同一の試験材料について同じ条件下、同じ方法で得られた2つの試験結果の絶対差が特定の確率であることが予測できる値未満の値として定義する。他の情報がない場合、信頼レベルは95%である。両パラメーターについての相対標準偏差は5%未満である。
【0030】
試験は、長期間に亘って信頼性があることも必要である。即ち、装置は、いかなる擦り減りサインも示してはならず、摩耗率は、一定のままでなければならない。これが事実であることを証明するため、定期的に基準触媒を試験した。即ち、各(一連の)試験の前に基準試験を先行させた。
【0031】
全ての触媒は5%v/v濃度、即ち、下記式を用いて算出される容量基準の濃度で試験する。
【数3】

【0032】
Mcatは触媒の質量、MLは液体の質量、dLは液体の密度、PVは触媒の細孔容積(ml/g;既知質量の触媒に濡れが生じるまで、少量の水を加えて、マニュアルに測定)、またPADは、触媒のPV及び骨格密度、SKDから算出した触媒の粒子密度である。
【数4】

【0033】
この試験の絵で表した図を添付図の図1に示す。
前記試験は信頼性があり、簡単、迅速かつ効率的で、液体媒体として水中、20℃の温度で便利に行われる。この試験は、触媒粒子を特定時間、高剪断混合機/分散機に暴露して起こる、工業的方法(ポンプループ、撹拌器、その他の内部品)での剪断条件を真似たものである。触媒における粒度分布の変化は、粒子の強度又は耐摩耗性の尺度となる。試験は、±5%より良好な推定反復精度で実施できる。
【0034】
本発明で得られた触媒は、スラリー反応、特にフィッシャー・トロプシュ型反応に好適である。
フィッシャー・トロプシュ合成は当業者に周知で、水素と一酸化炭素とのガス状混合物を反応条件下でフィッシャー・トロプシュ触媒と接触させて、該混合物から炭化水素を合成するものである。
【0035】
フィッシャー・トロプシュ合成の生成物は、メタンから重質パラフィン蝋までの範囲に亘る可能性がある。メタンの生成は最小化すると共に、生成した炭化水素の大部分は、炭素原子数5以上の炭素鎖長を有することが好ましい。C+炭化水素の量は、好ましくは全生成物の60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、なお更に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは85重量%以上である。反応条件下で液相である反応生成物は、1種以上のフィルターのような好適手段を用いて、分離、除去してよい。内部又は外部フィルター又は両方を使用してよい。軽質炭化水素及び水のような気相生成物は、当業者に公知の好適手段を用いて、除去してよい。
【0036】
3相スラリー反応で使用される触媒粒子の平均粒度は、特にスラリー帯体制の種類に依存して、広い限界内で変化できる。平均粒径は、通常、1μm〜2mm、好ましくは1μm〜1mmの範囲であってよい。
【0037】
平均粒径が100μmを超え、また粒子が機械装置で懸濁状態に保持されない場合、このようなスラリー帯体制は、普通、沸騰床体制と言われている。沸騰床体制での平均粒径は、好ましくは600μm未満、更に好ましくは100〜400μmの範囲である。一般に粒子の粒度が大きいほど、粒子がスラリー帯から反応器の空間高さ(freeboad)帯に逃げる機会が少なくなることは理解されよう。したがって、沸騰床体制を採用する場合、触媒粒子の主として微粒子は空間高さ帯に逃げる。
【0038】
平均粒径が100μm以下で、また粒子が機械装置で懸濁状態に保持されない場合、このようなスラリー帯体制は、普通、スラリー相体制と言われている。スラリー相体制での平均粒径は、好ましくは5μmを超え、更に好ましくは10〜75μmの範囲である。
【0039】
フィッシャー・トロプシュ触媒は当該技術分野で公知で、通常、第VIII族金属成分、好ましくはコバルト、鉄及び/又はルテニウム、更に好ましくはコバルトを含む。触媒は、通常、触媒担体を含む。触媒担体は、好ましくは多孔質無機耐火性酸化物のような多孔質であり、更に好ましくはアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア又はそれらの混合物である。
【0040】
担体上に存在する触媒活性金属の最適量は、特に特定の触媒活性金属に依存する。担体に存在するコバルトの量は、通常、担体材料100重量部当たり1〜100重量部、好ましくは10〜50重量部の範囲であってよい。
【0041】
触媒活性金属は、1種以上の金属促進剤又は助触媒と一緒に触媒中に存在してよい。促進剤は、関連する特定の促進剤に依存して、金属として、或いは金属酸化物として存在してよい。好適な促進剤としては、周期表第IIA、IIIB、IVB、VB、VIB及び/又はVIIB族金属の酸化物、ランタニドの酸化物及び/又はアクチニドの酸化物が挙げられる。触媒は、周期表第IVB、VB及び/又はVIIB族元素の少なくとも1種、特にチタン、ジルコニウム、マンガン及び/又はバナジウムを含有することが好ましい。金属酸化物促進剤の代わりに、又は該促進剤の他に、触媒は周期表第VIIB及び/又はVIII族から選ばれた金属促進剤を含有してよい。好ましい金属促進剤としてはレニウム、白金及びパラジウムが挙げられる。
【0042】
最も好適な触媒は、触媒活性金属としてコバルト、及び促進剤としてジルコニウムを含有する。他の最も好適な触媒は、触媒活性金属としてコバルト、及び促進剤としてマンガン及び/又はバナジウムを含有する。
【0043】
触媒中に促進剤が存在すれば、促進剤は、担体材料100重量部当たり、通常、0.1〜60重量部の範囲の量で存在する。しかし、促進剤の最適量は、促進剤として作用するそれぞれの元素について変化し得る。触媒が触媒活性金属としてコバルト、及び促進剤としてマンガン及び/又はバナジウムを含有する場合、コバルト:(マンガン+バナジウム)原子比は少なくとも12:1が有利である。
【0044】
スラリー中に存在する触媒粒子の濃度は、5〜45容量%、好ましくは10〜35容量%の範囲であってよい。例えばヨーロッパ特許公告No.0450859に記載されるように、スラリーには更に他の粒子を添加することが望ましいかも知れない。スラリー中の固体粒子の全濃度は、通常、50容量%以下、好ましくは45容量%以下である。
【0045】
好適なスラリー液体は当業者に公知である。通常、スラリー液体の少なくとも一部は、この発熱反応の反応生成物である。好ましくはスラリー液体は、ほぼ完全に反応生成物である。
【0046】
フィッシャー・トロプシュ合成は、好ましくは125〜350℃、更に好ましくは175〜275℃、最も好ましくは200〜260℃の範囲の温度で行われる。圧力は、好ましくは5〜150バール絶対圧、更に好ましくは5〜80バール絶対圧の範囲である。
【0047】
水素及び一酸化炭素(合成ガス)は、3相スラリー反応器に、通常、0.4〜2.5の範囲のモル比で供給される。水素対一酸化炭素のモル比は、好ましくは1.0〜2.5の範囲である。
【0048】
ガスの時間当たり空間速度は広範囲に変化でき、通常、1500〜10000Nl/l/h、好ましくは2500〜7500Nl/l/hの範囲である。
【0049】
フィッシャー・トロプシュ合成は、触媒粒子が上向きの表面ガス及び/又は液体速度により懸濁状態に保持されるスラリー相体制又は沸騰床体制で行うことが好ましい。
【0050】
当業者ならば、特定の反応器構造及び反応体制に最も適切な条件を選択できることは理解されよう。合成ガスの表面ガス速度は、好ましくは0.5〜50cm/秒、更に好ましくは5〜35cm/秒の範囲である。
【0051】
表面液体速度は、液体の生成を含めて、通常、0.001〜4.00cm/秒の範囲に保持される。好ましい範囲は、好ましい操作様式に依存し得ることは理解されよう。
好ましい一実施態様では、表面液体速度は、通常、0.005〜1.0cm/秒の範囲に保持される。
【0052】
更に本発明は、前述の触媒を、水素化転化法、水素化法、炭化水素合成反応又は排気ガスの精製、好ましくは炭化水素合成法、フィッシャー・トロプシュ法に使用する方法に関する。また本発明は、合成ガスを高温高圧で前述の触媒と接触させて、合成ガスから、普通はガス状、普通は液体及び任意に普通は固体の炭化水素を製造する方法にも関する。この方法は、好ましくはスラリー相反応、更に特にフィッシャー・トロプシュ反応で行われる。このようなスラリー法では触媒は、同じ粒度及び/又は同じ出発材料で作ったが、300℃より高温で噴霧乾燥した触媒と比べて、特に摩耗性について特性ばかりでなく、C+生成物に対する選択性、活性及び/又は安定性としての特性が向上する。更に本発明は、炭化水素合成法で作った生成物及びこの直接生成物の水素化、水素化異性化及び/又は水素化分解で得られるいずれの生成物にも関する。これら生成物の例は、ナフサ、ケソ(keso)、ガス油、n−パラフィン、蝋状ラフィネート基油及び/又は蝋である。
【実施例】
【0053】
実施例
第1表に示すデータは、種々の入口温度条件下で噴霧乾燥して製造した多くの触媒の摩耗特性を比較したものである。各触媒は噴霧乾燥後、空気中、550℃で焼成した。各例とも、触媒材料はTiO 71.8%、Co 19.9%及びMn 0.67%からなる。
【0054】
【表1】

【0055】
入口温度は噴霧乾燥機の入口温度;APDは平均粒径(噴霧乾燥及び焼成後);△(APD)は、触媒を剪断に暴露した後の平均粒径の変化;△(Fr<10)は、粒度10μm未満の分率である。
【0056】
第1表に示すデータから判るように、使用した噴霧乾燥条件が触媒粒子、特に300℃未満の入口温度で製造した粒子の強度に影響を与え、例3、4では低い△(APD)値及び△(Fr<10)値から、有利な耐摩耗特性を示すことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明で使用される剪断試験を絵で表した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒活性成分、担体、及び任意に触媒促進剤を含む噴霧乾燥粒状触媒であって、明細書に記載の剪断試験による触媒の平均粒径の低下が25%以下であり、触媒活性成分の含有量が担体100重量部当たり、純金属の重量として表して、100重量部以下である該噴霧乾燥粒状触媒。
【請求項2】
触媒活性成分、担体、及び任意に触媒促進剤を含む噴霧乾燥粒状触媒であって、明細書に記載の剪断試験による10μm未満の粒度を有する触媒の分率が20%未満であり、触媒活性成分の含有量が担体100重量部当たり、純金属の重量として表して、100重量部以下である該噴霧乾燥粒状触媒。
【請求項3】
触媒活性成分、担体、及び任意に触媒促進剤を含む噴霧乾燥粒状触媒であって、該触媒を1秒当たり900〜1000の範囲の剪断速度又は速度勾配に暴露する方法による触媒の平均粒径の低下が25%以下であり、触媒活性成分の含有量が担体100重量部当たり、純金属の重量として表して、100重量部以下である該噴霧乾燥粒状触媒。
【請求項4】
触媒活性成分、担体、及び任意に触媒促進剤を含む噴霧乾燥粒状触媒であって、該触媒を1秒当たり900〜1000の範囲の剪断速度又は速度勾配に暴露する方法による10μm未満の粒度を有する触媒の分率が20%未満であり、触媒活性成分の含有量が担体100重量部当たり、純金属の重量として表して、100重量部以下である該噴霧乾燥粒状触媒。
【請求項5】
触媒が300℃を超え、好ましくは400〜900℃の温度で焼成されたものであり、触媒活性成分の含有量が担体100重量部当たり、純金属の重量として表して、100重量部以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の噴霧乾燥粒状触媒。
【請求項6】
(1)触媒活性成分、担体、及び任意に触媒促進剤を含む水性スラリーを製造する工程、
(2)水性スラリーを、入口温度が300℃未満の噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥する工程、
(3)工程(2)で得られた粒子を焼成する工程であって、好ましくは焼成は約400〜900℃の範囲の温度で行い、更に好ましく焼成は550℃以上の温度の空気中で行う該工程、
を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載した粒状触媒の製造方法。
【請求項7】
触媒の平均粒径が約1μm〜約2mm、好ましくは約100μm〜約400μmか或いは約10μm〜約70μmである請求項1〜6のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項8】
触媒活性成分が、第VIII族金属を含み、好ましくはコバルト、鉄、ルテニウム及びそれらの混合物よりなる群から選ばれ、更に好ましくはコバルトである請求項1〜5又は7のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項9】
担体が多孔質無機耐火性酸化物であり、好ましくはアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア及びそれらの混合物から選ばれる請求項1〜5、7又は8のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項10】
促進剤を含み、促進剤が周期表の第IIA、IIIB、IVB、VB、VIB、VIIB族、ランタニド族又はアクチニド族よりなる群から選ばれた金属又はそれらの酸化物であり、好ましくは促進剤がチタン、ジルコニウム、マンガン、バナジウム、レニウム、白金及びパラジウムよりなる群から選ばれる請求項1〜5又は7〜9のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項11】
触媒活性材料としてコバルト;及びジルコニウム、マンガン、バナジウム及びそれらの混合物から選ばれた促進剤を含む請求項1〜5又は7〜10のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項12】
請求項1〜5又は7〜11のいずれか1項に記載の触媒を、炭化水素転化法、水素化法、炭化水素合成反応又は排気ガスの精製、好ましくはフィッシャー・トロプシュ法に使用する方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−518750(P2008−518750A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538433(P2007−538433)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055701
【国際公開番号】WO2006/048421
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】