説明

耐放射線性ノンハロゲン絶縁電線

【課題】BWR用並びにPWR用に適用でき、かつ逆遂次法試験にも対応した耐熱性、耐放射線性、高難燃性の無リンタイプのノンハロゲン難燃電線を提供する。
【解決手段】原子力発電所に使用される絶縁電線において、導体の絶縁層が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等のエンジニアリングプラスチックにヒンダードアミン0.1〜5質量部添加して成るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所に使用される耐放射線性ノンハロゲン絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉(BWR)や加圧水型原子炉(PWR)などの原子力発電所で用いられる電線・ケーブル類は、夫々の運転条件に応じた定常運転時及び想定される冷却材喪失事故(LOCA)時の熱、放射線、熱水に同時に曝されることにより、耐熱性、耐放射線性が要求され、更には、火災時を想定し、高度な難燃性が要求されている。
【0003】
機械特性を保持しながら、耐熱性、耐放射線性及び難燃性などを付与するため、従来、エチレンプロピレンジエンターポリマ(EPDM)やエチレンプロピレンコポリマ(EPM)などのエチレン系ポリマにハロゲン系難燃剤を用いて難燃化した絶縁体を被覆して用いられている。
【0004】
しかし、近年ポリ塩化ビニルやハロゲン系難燃剤は、不適切な条件で焼却するとダイオキシンを発生したり、安定剤として配合されている鉛化合物による土壌汚染が懸念されており、これらの物質を使用しない環境負荷の小さなノンハロゲン難燃性電線・ケーブルは、いわゆるエコ電線・ケーブルとして急速に普及している。
【0005】
これらのノンハロゲン難燃電線・ケーブルでは、電線の絶縁体として水酸化マグネシウムをはじめとするノンハロゲン難燃剤を多量に混和した樹脂組成物が用いられているのが一般的である。水酸化マグネシウムをはじめとするノンハロゲン難燃剤で難燃化した電線は、例えばIEEE規格におけるVTFTのような垂直難燃試験に合格するためには、極めて多量のノンハロゲン難燃剤を混和する必要があり、このため、機械的強度が大幅に低下する問題がある。一方、赤リンなどの難燃助剤を加え、ノンハロゲン難燃剤を減量する方法もあるが、赤リンは燃焼時に有害なホスフィンを発生したり、廃却時にはリン酸を生成し地下水脈を汚染する懸念が指摘されることから、最近では使用を控える傾向にある。
【0006】
さらにBWR、PWRともに定常運転時及び想定される冷却材喪失事故時を模擬して、熱劣化、γ線照射後、熱水に暴露させる試験に耐える必要がある。しかし熱及び放射線に曝された材料は劣化が著しく、特に伸びの低下が大きいことが問題であった。
【0007】
また、従来から、ケーブルの被覆材料の評価方法として、ケーブル被覆材に熱劣化後、放射線を照射する手法(逐次劣化法)が用いられているが、実際の使用時には熱劣化及び放射線照射が同時に行われることから、近年、放射線照射した後、熱劣化をさせる手法(逆逐次法)が併用されてきている。この逆逐次法は、逐次劣化法に比べて特性の劣化が顕著である。
【0008】
これらのことから、難燃性に優れた原子力発電所に適用可能な無リンノンハロゲン難燃電線の開発が要求されていた。
【0009】
そこで、耐放射線性を改良するために、特許文献1〜3に提案されるようにポリオレフィン樹脂に光安定剤であるヒンダードアミンを添加することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−43745号公報
【特許文献2】特開平7−149967号公報
【特許文献3】特開平9−118793号公報
【特許文献4】特許第3023166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、絶縁物にヒンダードアミンを添加しても、数10KGyの耐放射線性しかなく、特許文献4に示されるように、ポリエーテルエーテルケトンなどのエンジニアリングプラスチックを用いた場合の耐放射線性2MGy以上に及ばない問題がある。
【0012】
この特許文献4では、絶縁層を2重とし、外層にエンジニアリングプラスチックで絶縁層を形成することで、2MGy以上の耐放射線性を有する絶縁電線とすることができるとしているが、実際に熱老化を試験を行い、課電状態で100℃以上に保って、LOCA模擬試験で高い放射線(数MGy)を照射する逆逐次劣化法で試験を行うと、劣化してしまうことが本発明者等の試験で判った。
【0013】
そこで、本発明の目的は、BWR用並びにPWR用に適用でき、かつ逆遂次法試験にも対応した耐熱性、耐放射線性、高難燃性の無リンタイプのノンハロゲン難燃電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明は、原子力発電所に使用される絶縁電線において、導体の絶縁層がエンジニアリングプラスチックにヒンダードアミン0.1〜5質量部添加して成ることを特徴とする耐放射線性ノンハロゲン絶縁電線である。
【0015】
また、前記エンジニアリングプラスチックが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂の内、少なくとも1種である耐放射線性ノンハロゲン絶縁電線である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、VW−1レベルの高難燃性を有する無リンでかつノンハロゲン絶縁電線を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明及び比較例におけるノンハロゲン絶縁電線の耐放射線性とLOCA模擬試験の条件を示す図である。
【図2】同じく本発明及び比較例におけるノンハロゲン絶縁電線の耐放射線性とLOCA模擬試験の条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0019】
本発明の耐放射線性ノンハロゲン絶縁電線は、図示していないが導体の外周に絶縁層を被覆して形成したものであり、絶縁層に用いるエンジニアリングプラスチックは、電線に適用したときの初期の伸びが少なくとも150%以上であり、加水分解しにくい構造であることにより耐水性にすぐれた(例えば分子中にエステル結合がない)であること、ポリマー自身が難燃性であることが望ましい。
【0020】
本発明では、これらのエンジニアリングプラスチックにヒンダードアミンを添加することにより、耐放射線性が大幅に向上することを見出した。
【0021】
これにより、本発明は、逆逐次法試験を採用した場合でも放射線による劣化を防止することができる。
【0022】
これらのヒンダードアミンを0.1〜5質量部に規定したのは、0.1質量部未満では耐放射線性の効果がなく、また、5質量部を超えてもそれ以上の効果がなくむしろ成形時にブルームしてスクリュー上で滑りを生じて成形性を著しく損なうからである。
【0023】
また、シリコーンガム、シリコーンパウダー、シリコーンオイル、シリコーングラフトポリオレフィン、ポリオルガノシロキサンとアクリルゴムの複合ゴムなどのシリコーン化合物、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウムなどのホウ酸化合物あるいは、スルファミン酸グアニジン、メラミンシアヌレートなどの窒素系難燃剤を添加してもよい。さらに、燃焼時に発泡する成分と固化する成分の混合物から成る難燃剤であるインテュメッセント系難燃剤、例えば発泡成分として窒素系発泡剤が挙げられテトラゾール化合物などの分解温度の高い(300℃以上)のものを適宜使用してもかまわない。
【0024】
本発明においては、放射線のエネルギーと紫外線のエネルギーとを同類とみなし、ヒンダードアミンを紫外線吸収剤として用いることにより、優れた耐放射線性を付与することができる。
【0025】
ヒンダードアミンとしては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、8−ベンジル−7,7,9,9−テトラメチル−3−オクチル−1,2,3−トリアザスピロ〔4,5〕ウンデカン−2,4−ジオン、テトラキシ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートなどを挙げることができる。
【0026】
なお、これらの樹脂組成物には必要に応じて酸化防止剤、滑剤、界面活性剤、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等の添加物を加えることが出来る。
【実施例】
【0027】
本発明の実施例および比較例を表1に示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
【表1】

【0029】
本発明に係る電線は以下の要領で作製した。
【0030】
20AWGの銅撚り線導体に表1に示すエンジニアリングプラスチックを25mm押出機を用いて250〜380℃で厚さ0.3mmに押出被覆し、外径1.43mmの電線を得た。
【0031】
電線の評価は以下に示す方法で行った。
【0032】
(1)機械特性:
作製した電線から、芯線を抜き取り、JIS C3005に従い、ショッパー型引張試験機を用いて速度50mm/minで引張り、引張強さと伸びを評価し、引張強さが40MPa以上、伸び150%以上を目標とした。
【0033】
(2)難燃性:
作製した電線をVTFT試験:IEEEStd.383−2003(IEEEStd.1202−1991による)により実施した。
【0034】
(3)耐放射線性:
電線を約300mmφの束にまるめ、60Coγ線にて4kGy/hの線量率で照射を行った。BWR条件の場合、760kGy照射後、121℃×7日熱老化試験を行い、PWR条件の場合、2.3MGy照射後、140℃×9日間の熱老化試験を行った。(1)項と同様に引張試験を実施し、伸び50%以上を合格(○)、50%未満を不合格(×)とした。
【0035】
(4)LOCA(冷却材喪失事故)模擬試験:
ケーブルを約600mmφの束にまるめ、BWR型条件の場合、図1の条件で、すなわち121℃、7日間熱老化試験を行い、大気中常温で760kGyγ線を照射し、その後LOCA模擬試験として、13日間温度と圧力を図1のように変えて試験を行った。
【0036】
また、PWR型条件の場合、141℃×9日の熱老化試験後、2.3MGyの線量を照射し、図2の条件で温度と圧力を変えて、化学スプレーを行ってLOCA模擬試験を行った。
【0037】
この試験において、表1では、短絡を起さないこと、外観が目視で分かる程度の劣化を起していないことを合格(○)、短絡したり劣化が確認された場合を不合格(×)とした。本試験が耐水性試験をかねる。
【0038】
表1から明らかな様に、本発明の実施例1〜5はいずれも機械特性及び難燃性に優れ、耐放射線性および耐LOCA性が良好であることがわかる。
【0039】
一方、比較例1はヒンダードアミンが無添加の場合であり、耐放射線性はBWR、PWRとも不合格となった。また、ヒンダードアミンが規定より多い比較例2は、材料の吐出量が不安定なため、寸法精度が悪く、成形性が不合格となった。本発明の対象外であるエンジニアリングプラスチックを適用した比較例3および4は、難燃性や耐LOCA性が不合格となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所に使用される絶縁電線において、導体の絶縁層が、エンジニアプラスチックにヒンダードアミン0.1〜5質量部添加して成ることを特徴とする耐放射線性ノンハロゲン絶縁電線。
【請求項2】
前記エンジニアリングプラスチックが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂の内、少なくとも1種である請求項1記載の耐放射線性ノンハロゲン絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−186586(P2010−186586A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28631(P2009−28631)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】