説明

耐放射線性樹脂組成物及び耐放射線性電線・ケーブル

【課題】2.5MGy程度の過酷な放射線照射を受けた後でも機械特性に優れ、且つ、より少量の添加剤配合量で好適な耐放射線性を示して添加剤のブルームのおそれも少ない耐放射線性樹脂組成物、及び耐放射線性電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.3〜1.0質量部のサリチレート系紫外線吸収剤、0.3〜5質量部のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及び0.3〜5質量部のトリアジン系紫外線吸収剤が添加されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂に対して、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤が添加されてなる耐放射線性樹脂組成物、並びに、この耐放射線性樹脂組成物を絶縁体又はシース材料に用いた耐放射線性電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所、放射性廃棄物貯蔵施設及び放射性物質を扱う研究・医療施設等の放射線が存在する場所に敷設された電線・ケーブルの絶縁体・シース、樹脂製パイプ及びその他の樹脂製品は、放射線照射を受けて劣化を生じ、その機械特性が次第に低下してきて絶縁破壊などに到る可能性がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、このような放射線照射を受ける場所で使用する、電線・ケーブルの絶縁体・シース等の樹脂組成物であって、ポリオレフィン系樹脂に特定の酸化防止剤及びサリチレート系紫外線吸収剤を配合することにより、照射される放射線から防御するようにした耐放射線性樹脂組成物が提案されている。
また、例えば特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂に特定の酸化防止剤及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を配合することにより、照射される放射線から防御するようにした耐放射線性樹脂組成物が提案されている。
【0004】
なお、ポリオレフィン系樹脂に耐光性を付与するためには、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やヒンダードアミン系光安定剤が広く用いられており、例えば、非特許文献1には、特定のヒンダードアミン系光安定剤についての解説で、酸化防止剤と紫外線吸収剤との併用系で相乗効果を発揮するとの記載がある。
【特許文献1】特許第2608782号公報
【特許文献2】特開平9−12786号公報
【非特許文献1】「添加剤ドットコム、耐光安定剤」、[online]、2005年、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社、[平成17年11月9日検索]、インターネット<URL:http://tenkazai.com/ciba/syousai_taikou.html#a7_2>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に記載の配合を用いたポリオレフィン系樹脂組成物の場合には、1MGy程度の放射線照射後に引張試験を行うと、照射前よりも破断伸びの著しい低下が見られ、また、ケーブル燃焼試験に合格することが困難であった。一方、耐放射線性の向上を図って添加剤の配合量を増量した場合、その添加剤のブルーム(粉の噴出し)が問題となる。
【0006】
また、ポリオレフィン系樹脂に対してベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光安定剤を併用して配合した樹脂組成物については、耐光性についての効果が期待できるものの、放射線照射後に燃焼試験を行うと、照射前よりも難燃性が著しく低下した。また、耐放射線性の向上を図って添加剤の配合量を増量した場合、やはり、その添加剤のブルームが問題となる。
【0007】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、2.5MGy程度の過酷な放射線照射を受けた後でも機械特性に優れ、且つ、より少量の添加剤配合量で好適な耐放射線性を示して添加剤のブルームのおそれも少ない耐放射線性樹脂組成物、並びに、この耐放射線性樹脂組成物を絶縁体又はシース材料に用いた耐放射線性電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の耐放射線性樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.3〜1.0質量部のサリチレート系紫外線吸収剤、0.3〜5質量部のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及び0.3〜5質量部のトリアジン系紫外線吸収剤が添加されてなることを特徴とする。
また、本発明は、この耐放射線性樹脂組成物を絶縁体又はシース材料に用いた耐放射線性電線・ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤を併用することにより、相乗効果によって、ブルームのおそれのない少量の添加剤を配合することにより、ポリオレフィン系樹脂に対して高度の耐放射線性を付与することが可能となる。そして、2.5MGy程度の過酷な放射線照射を行った後でも、機械特性が維持される。したがって、本発明の耐放射線性樹脂組成物を用いた耐放射線性電線・ケーブル、その他の樹脂製品は、原子力関連施設内など、放射線照射を受ける場所でも好適に使用することができる。
また、本発明の耐放射線性電線・ケーブルは、放射線の存在下で使用する際に引き回した時の耐久性(引き回し性)に優れ、また機械特性の低下を防止することができるため、電線やケーブルの撤去時のシースの欠落等を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の耐放射線性樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.3〜1.0質量部のサリチレート系紫外線吸収剤、0.3〜5質量部のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及び0.3〜5質量部のトリアジン系紫外線吸収剤が添加されてなる。
以下に、本発明の耐放射線性樹脂組成物及び耐放射線性電線・ケーブルに用いられるポリオレフィン系樹脂、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、及び金属水和物、並びに、酸化防止剤、その他の添加剤等について、詳しく説明する。
【0011】
<ポリオレフィン系樹脂>
本発明において、ポリオレフィン系樹脂とは、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)60〜80質量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)5〜20質量部、α−オレフィンコポリマー10〜20質量部からなるものが好ましい。
【0012】
EEAは、アクリル酸エチル(EA)の含有量が10〜15質量%であることが好ましい。EVAは、酢酸ビニルの含有量が10〜30質量%であることが好ましい。α−オレフィンコポリマーは、ポリプロピレン層と他のオレフィン(共)重合体層とのブロックポリマーである。オレフィン(共)重合体としては、エチレン、ブチレン、ペンチレン等の共重合体が挙げられる。このα−オレフィンコポリマーの比重は、0.880〜0.890であることが好ましい。
尚、本発明における、ポリオレフィン系樹脂は上記に挙げたポリオレフィン系樹脂に限定されず、他のエチレンの単独重合体、エチレンと酢酸ビニル若しくはエチルアクリレートとの共重合体、又は、エチレン以外のα−オレフィンとビニルモノマーとの共重合体であっても良い。例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高圧法低密度ポリエチレン、気相法超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、気相法直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、イソブチレン・イソプレンゴム(IIR)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン−1、等を単独で、或いは混合物として用いても良い。
【0013】
<サリチレート系紫外線吸収剤>
ポリオレフィン系樹脂の添加剤として用いられるサリチレート系紫外線吸収剤は、本来は紫外線を吸収して耐光性を付与するものであるが、本発明において用いるサリチレート系紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤との相乗作用で、ポリオレフィン系樹脂に対して耐放射線性を付与するものである。
本発明で用いられるサリチレート系紫外線吸収剤としては、下記一般式(1)
【0014】
【化1】

【0015】
(ただし、R、R、R及びRは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基である。)で表されるものが好ましく用いられる。
、R、R及びRは、好ましくは、水素原子又は炭素数1〜6までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であり、より好ましくは、水素原子又は炭素数3〜5までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基である。
【0016】
一般式(1)で示されるサリチレート系紫外線吸収剤として、特に好ましいものとしては、2’,4’−ジ−tert−ブチルフェニル3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。
【0017】
なお、本発明で用いられるサリチレート系紫外線吸収剤としては、これらのほかに、例えば、4−tert−ブチル−4−ブチルフェニルサリチレート、4−tert−ブチルフェニルサリチレート、フェニルサリチレート、アミルサリチレート、メンチルサリチレート、ホモメンチルサリチレート、オクチルサリチレート、4−オクチルサリチレート、ベンジルサリチレート、ジプロピレングリコールサリチレート、エチレングリコールサリチレート、p−イソプロパノールフェニルサリチレート、フェニル2−ヒドロキシ−3−(1−プロペニル)ベンゾエート、2−エチルヘキシルサリチレート、トリエタノールアミンサリチレート、等を用いることもできる。
【0018】
本発明の耐放射線性樹脂組成物に添加されるサリチレート系紫外線吸収剤の添加量は、優れた耐放射線性を得るために、100質量部のポリオレフィン系樹脂に対して0.3質量部以上である必要がある。また、ブルームの染み出しのおそれのないものとするために、100質量部のポリオレフィン系樹脂に対して1.0質量部以下である必要がある。
【0019】
<ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤>
本発明において用いるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、サリチレート系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤との相乗作用で、ポリオレフィン系樹脂に対して耐放射線性を付与するものである。
本発明で用いられるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、下記一般式(2)
【0020】
【化2】

【0021】
(ただし、R、R、R及びRは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基または炭素数1〜10までのアルコキシ基である。)で表されるものが好ましく用いられる。
、R、R及びRは、好ましくは、水素原子又は炭素数1〜6までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基または炭素数1〜6までのアルコキシ基であり、より好ましくは、水素原子又は炭素数3〜5までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、または炭素数3〜5までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルコキシ基である。
【0022】
上記一般式(2)で示されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として、特に好ましいものとしては、2−(3,5−ジ−tert−ペンチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0023】
なお、本発明で用いられるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、これらのほかに、例えば、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチロシキフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0024】
本発明の耐放射線性樹脂組成物に添加されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の添加量は、優れた耐放射線性を得るために、100質量部のポリオレフィン系樹脂に対して0.3質量部以上である必要がある。また、100質量部のポリオレフィン系樹脂に対して5質量部以下であれば、ブルームの染み出しがないことが確認されている。5質量部以上に関しては、更に検討を進めている。
【0025】
<トリアジン系紫外線吸収剤>
ポリオレフィン系樹脂の添加剤として用いられるトリアジン系紫外線吸収剤は、本来は紫外線を吸収して耐光性を付与するものであるが、本発明において用いるトリアジン系紫外線吸収剤は、サリチレート系紫外線吸収剤、及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤との相乗作用で、ポリオレフィン系樹脂に対して耐放射線性を付与するものである。
本発明で用いられるトリアジン系紫外線吸収剤としては、少なくとも下記一般式(3)
【0026】
【化3】

【0027】
で表される構造を有する分子からなる。上記一般式(3)におけるAは、下記一般式(4)
【0028】
【化4】

【0029】
(ただし、R、R10及びRは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基または炭素数1〜10までのアルコキシ基である。)
で表されるものが好ましい。R、R10及びR11は、好ましくは、水素原子又は炭素数1〜6までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、または炭素数1〜6までのアルコキシ基であり、より好ましくは、水素原子又は炭素数3〜5までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、または炭素数3〜5までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルコキシ基である。
【0030】
また、上記一般式(3)におけるX及びYは、それぞれ独立的に、下記一般式(5)
【0031】
【化5】

【0032】
(ただし、R12、R13及びR14は、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基または炭素数1〜10までのアルコキシ基)若しくは下記一般式(6)
【0033】
【化6】

【0034】
(ただし、R15、R16及びR17は、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基または炭素数1〜10までのアルコキシ基)で表されるものが好ましい。R12、R13、R14、R15、R16及びR17は、好ましくは、水素原子又は炭素数1〜6までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基または炭素数1〜6までのアルコキシ基であり、より好ましくは、水素原子又は炭素数3〜5までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、または炭素数3〜5までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルコキシ基である。
トリアジン系紫外線吸収剤は、さらに、下記一般式(7)
【0035】
【化7】

【0036】
(ただし、R18は、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルコキシ基)で表される構造を有していても良い。R18は、好ましくは、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜6までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、または炭素数1〜6までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルコキシ基である。
一般式(6)で表されるトリアジン系紫外線吸収剤の好ましいものとしては、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5、−トリアジン−2−イル]−5−(オクチルオキシ)フェノール等が挙げられる。また、一般式(7)で表されるトリアジン系紫外線吸収剤の好ましいものとしては、ポリ[(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)〔2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル〕イミノ]−ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]等が挙げられる。上記一般式(6)で表されるトリアジン系紫外線吸収剤と、上記一般式(7)で表されるトリアジン系紫外線吸収剤との両者を混合して用いることが好ましい。
【0037】
なお、本発明で用いられるトリアジン系紫外線吸収剤としては、これらのほかに、例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクトキシ)フェノール、等が挙げられる。
【0038】
本発明の耐放射線性樹脂組成物に添加されるトリアジン系紫外線吸収剤の添加量は、優れた耐放射線性を得るために、100質量部のポリオレフィン系樹脂に対して0.3質量部以上である必要がある。また、100質量部のポリオレフィン系樹脂に対して5質量部以下であれば、ブルームの染み出しがないことが確認されている。5質量部以上に関しては、更に検討を進めている。
【0039】
<金属水和物>
本発明で用いられる金属水和物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらはそのまま使用しても良いが、ポリオレフィン系樹脂との相溶性を高めるために、シランカップリング処理、又は高級脂肪酸処理等の表面処理が施されたものが好ましい。
【0040】
本発明の耐放射線性樹脂組成物に添加される金属水和物の添加量は、優れた難燃性を得るために、100質量部のポリオレフィン系樹脂に対して50質量部以上であることが好ましい。また、200質量部までの添加については、優れた難燃性を有することが確認されている。200質量部以上に関しては、更に検討を進めている。
【0041】
<酸化防止剤>
本発明の耐放射線性樹脂組成物には、酸化防止剤を添加剤として含むことができる。フェノール系酸化防止剤、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤を含むことが好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−1−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)トリオン、イソオクチル(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチル−ベンジル)−sym−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)トリオン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、等が挙げられる。
【0042】
本発明の耐放射線性樹脂組成物に添加される酸化防止剤の添加量としては、100質量部のポリオレフィン系樹脂に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
【0043】
<その他の添加剤>
本発明の耐放射線性樹脂組成物には、上記の他にも、公知の樹脂組成物に通常用いられる各種の補助資材を添加剤として含むことができる。このような補助資材としては、安定剤、充填剤、着色剤、難燃剤、カーボンブラック、架橋剤、滑剤、加工性改良剤、帯電防止剤等がある。
【0044】
<耐放射線性電線・ケーブル>
本発明の耐放射線性樹脂組成物は、絶縁体又はシース材料として用いて、通常の方法に従って導体を被覆することにより、図1に示すように、電線又はケーブルとすることができる。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明の実施例について説明する。各試験例の耐放射線性樹脂組成物の組成及び評価結果を表1及び表2に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
[耐放射線性樹脂組成物及びケーブルの作製]
(1)表1及び表2に示す各種組成について、170℃の密閉型混練機で均一に分散させてポリオレフィン系樹脂組成物を得た(試験例1〜28)。
(2)(1)で得られた各ポリオレフィン系樹脂組成物から、圧縮成型機で160℃、150kgf/cm(10分間加圧)の条件にて厚さ2mmのプレスシートを作製した。
(3)(1)で得られたポリオレフィン系樹脂組成物(試験例1〜28)を造粒物とした。その後、9mmφの導体11に架橋ポリエチレンを被覆して12mmφの絶縁体12とし、これに上記の造粒物を更に被覆してシース13として、15mmφのケーブル1を作製した(図1)。
【0049】
[評価方法]
(放射線照射)
上記(2)で作製した各プレスシート及び上記(3)で作製した各ケーブルについて、コバルト60を線源とするγ線を、室温、線量率5kGy/hで、2.5MGyまで放射線照射した。
【0050】
(機械特性評価)
上記放射線照射前後における各プレスシートについて、次の方法で機械特性評価を行った。それぞれのプレスシートよりJIS3号ダンベルを打ち抜き、200mm/min.の引張速度で引張試験を実施した。照射前についてはJISC3605「600Vポリエチレンケーブル」の耐燃性ポリエチレンシースに相当するそれぞれ破断強度10MPa以上、破断伸び350%以上を合格(○)とし、それらを下回るものを不合格(×)とした。また、照射後については自己径で巻いた際に亀裂が入らないための目安として、破断伸び50%以上を合格(○)とし、破断伸び50%未満を不合格(×)とした。
【0051】
(難燃性評価)
上記(3)で作製した上記放射線照射前後の各ケーブルについて、JIS C3521に準拠して、垂直トレイ燃焼試験を実施した。それぞれ、長さ2400mmの試料ケーブル7本を準備し、7本全てのケーブルの燃焼が途中で自然停止したものを合格(○)、いずれか1本以上の試料ケーブルの最上部まで燃え上がったものを不合格(×)とした。
【0052】
(ブルーム性評価)
上記(2)で作製した各プレスシートを、50℃の恒温槽中に14日間保管し、表面に白い粉体の染み出しが確認できないものを合格(○)とし、染み出しが確認できたものを不合格(×)とした。
【0053】
(曲げ試験)
上記(3)で作製した上記放射線照射前後の各ケーブルを、自己径の4倍の径を有するマンドレル(mandrel)に3往復巻きつけて、曲げ試験を実施した。ケーブルの絶縁体まで貫通するひび割れが起こらないものを合格(○)とし、絶縁体にまで達したひび割れを確認できたものを不合格(×)とした。
【0054】
[評価結果]
(試験例1〜15)
試験例1は、28%の酢酸ビニル成分を含むEVA樹脂(三井デュポンポリケミカル社製EV270)20質量部、EEA樹脂(日本ポレエチレン社製 レクスパールA1150)60質量部、α−オレフィンコポリマー(三井化学社製 タフマーMA8510)20質量部を配合したポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.5質量部のサリチレート系紫外線吸収剤(2’,4’−ジ−tert−ブチルフェニル3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、シプロ化成社製SEESORB712)、0.5質量部のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(2−(3,5−ジ−tert−ペンチル−2−ハイドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、シプロ化成社製SEESORB704)、0.5質量部のトリアジン系紫外線吸収剤(サイテック社製CYASORB THT 4611)、及び1質量部のヒンダードフェノール系酸化防止剤(ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、テトラエステル型高分子量ヒンダードフェノール、旭電化工業社製AO−60)を添加した耐放射線性樹脂組成物、及びこれをシース材料に用いた耐放射線性ケーブルである。試験例2は、試験例1において、EVA樹脂、EEA樹脂及びα−オレフィンコポリマーを、20質量部、70質量部及び10質量部とした以外は、試験1と同様にしたものである。試験例3は、試験例1において、EVA樹脂、EEA樹脂及びα−オレフィンコポリマーを、10質量部、75質量部及び15質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例4は、試験例1において、EVA樹脂、EEA樹脂及びα−オレフィンコポリマーを、10質量部、80質量部及び10質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例5は、試験例1において、EVA樹脂、EEA樹脂及びα−オレフィンコポリマーを、5質量部、75質量部及び、20質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例6〜7は、試験例1において、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤を、それぞれ0.3質量部、1質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例8〜9は、試験例1において、サリチレート系紫外線吸収剤を1質量部とし、さらにベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤を、それぞれ3質量部、5質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例10〜13は、試験例1において、さらに水酸化マグネシウム(協和化学工業製 キスマ5A)を、それぞれ50質量部、100質量部、150質量部、200質量部配合したものである。試験例14〜15は、試験例1において、酸化防止剤をそれぞれ0.1、5質量部としたものである。
表1から明らかなように、試験例1〜15は、いずれも、2.5MGy程度の非常に過酷な放射線照射を行った後でも、優れた耐放射線性(機械特性・曲げ特性)及び低ブルーム性を示した。さらに、水酸化マグネシウムを50〜200質量部配合した試験例10〜13は、優れた難燃性を示した。また、オレフィン系樹脂に添加するサリチレート系樹脂組成物、ベンゾトリアゾール系樹脂組成物、及びトリアジン系樹脂組成物は、それぞれ0.3質量部添加すればよく、より少ない添加量で優れた耐放射線性を示した。
【0055】
(試験例16〜28)
試験例16は、試験例1に対して、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤を欠くものである。試験例17は、試験例1において、EVA樹脂、EEA樹脂及びα−オレフィンコポリマーを、5質量部、90質量部及び5質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例18は、試験例1において、EVA樹脂、EEA樹脂及びα−オレフィンコポリマーを、20質量部、55質量部及び25質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例19は、試験例1において、EVA樹脂、EEA樹脂及びα−オレフィンコポリマーを、30質量部、70質量部及び0質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例20は、試験例1において、EVA樹脂、EEA樹脂及びα−オレフィンコポリマーを、0質量部、70質量部及び30質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例21は、試験例1において、EVA樹脂、EEA樹脂及びα−オレフィンコポリマーを、25質量部、70質量部及び5質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例22は、試験例1において、サリチレート系紫外線吸収剤を0.2質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例23は、試験例1において、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.2質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例24は、試験例1において、トリアジン系紫外線吸収剤を0.2質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例25は、試験例1において、サリチレート系紫外線吸収剤を1.2質量部とした以外は、試験例1と同様にしたものである。試験例26は、試験例1に対して、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤を欠き、水酸化マグネシウムを50質量部配合したものである。試験例27は、試験例1において、さらに水酸化マグネシウムを、それぞれ30質量部配合したものである。試験例28は、試験例1において、サリチレート系紫外線吸収剤を1.2質量部とし、さらに水酸化マグネシウムを50質量部配合したものである。
表2から明らかなように、ポリオレフィン系樹脂を構成する各樹脂の含有量が本発明の範囲から逸脱する場合(試験例17〜21)、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤を欠くか含有量が本発明の範囲から逸脱する場合(試験例16、22〜26、28)は、本発明の効果を奏し得ないことが明らかである。さらに、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤を欠く場合(試験例26)、水酸化マグネシウムを配合しても機械特性、難燃性は向上しなかった。サリチレート系紫外線吸収剤の配合量が1質量部を超える場合(試験例25、28)、ブルームが発生した。また、水酸化マグネシウムを50質量部未満で配合しても十分な難燃性は得られなかった(試験例27)。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、電線・ケーブルの絶縁体・シース等の樹脂組成物に適用でき、特に放射性物質を扱う場所(事業所等)で敷設等する場合に利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明の耐放射線性ケーブルを示した概略図である。
【符号の説明】
【0058】
1:耐放射線性ケーブル、11:導体、12:絶縁体、13:シース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.3〜1.0質量部のサリチレート系紫外線吸収剤、0.3〜5質量部のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及び0.3〜5質量部のトリアジン系紫外線吸収剤が添加されてなることを特徴とする耐放射線性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂は、エチレン−アクリル酸エチル共重合体60〜80質量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体5〜20質量部、α−オレフィンコポリマー10〜20質量部からなることを特徴とする請求項1に記載の対放射線性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、50質量部以上200質量部以下の金属水和物が添加されてなることを特徴とする請求項2に記載の耐放射線性樹脂組成物。
【請求項4】
前記サリチレート系紫外線吸収剤が、一般式(1)で表されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐放射線性樹脂組成物。
【化1】

(ただし、R、R、R及びRは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基)
【請求項5】
前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が、一般式(2)で表されるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐放射線性樹脂組成物。
【化2】

(ただし、R、R、R及びRは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基または炭素数1〜10までのアルコキシ基)
【請求項6】
前記トリアジン系紫外線吸収剤が、少なくとも一般式(3)で表される構造を有し、前記一般式(3)において、Aは一般式(4)であり、かつ、X及びYはそれぞれ独立的に、一般式(5)若しくは一般式(6)で表されるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の耐放射線性樹脂組成物。
【化3】

【化4】

(ただし、R、R10及びR11は、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルコキシ基)
【化5】

(ただし、R12、R13及びR14は、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基または炭素数1〜10までのアルコキシ基)
【化6】

(ただし、R15、R16及びR17は、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基または炭素数1〜10までのアルコキシ基)
【請求項7】
前記トリアジン系紫外線吸収剤が、前記一般式(3)で表される構造に加えて、一般式(7)で表される構造を有するものであることを特徴とする請求項6に記載の耐放射線性樹脂組成物。
【化7】

(ただし、R18は、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数1〜10までの直鎖状若しくは分岐鎖状のアルコキシ基)
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の耐放射線性樹脂組成物を絶縁体又はシース材料に用いたことを特徴とする耐放射線性電線・ケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2009−84571(P2009−84571A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235393(P2008−235393)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】