説明

耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法、耐水化アルミニウム顔料およびそれを含有する水性インク組成物

【課題】水性塗料や水性インクに配合された時の白色化を防止すると共に、水分散性および金属光沢性に優れた耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る耐水化アルミニウム顔料の製造方法は、第1の有機溶媒中にアルミニウム顔料を分散させたアルミニウム顔料分散液に、第2の有機溶媒中にポリシラザンを溶解させたポリシラザン溶液を添加し、前記アルミニウム顔料の表面に存在する水酸基と前記ポリシラザンとを反応させ、前記アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成する工程を含み、前記被覆膜を形成する反応系において、前記ポリシラザンの量は、前記アルミニウム顔料1質量部に対して0.4質量部以下であり、かつ、前記ポリシラザンの総添加量は、前記アルミニウム顔料1質量部に対して0.2質量部以上0.6質量部以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法、耐水化アルミニウム顔料およびそれを含有する水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷物上に金属光沢を有する塗膜を形成する手法として、真鍮、アルミニウム微粒子等から作製された金粉、銀粉を顔料に用いた印刷インキや金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写方式等が用いられている。
【0003】
近年、印刷におけるインクジェットの応用例が数多く見受けられ、その中の一つの応用例としてメタリック印刷があり、金属光沢を有するインクの開発が進められている。例えば、特許文献1には、アルキレングリコール等の有機溶媒をベースとしたアルミニウム顔料分散液およびそれを含有する非水系インク組成物が開示されている。
【0004】
その一方で、地球環境面および人体への安全面等の観点から、有機溶媒をベースとした非水系インク組成物よりも水系インク組成物の開発が望まれているという実態がある。
【0005】
しかしながら、アルミニウム顔料は、水中に分散させると水との反応により水素ガスを発生すると共にアルミナを形成することで白色化し、金属光沢が損なわれるという問題があった。そのため、アルミニウム顔料を含有するインク組成物は、水をほとんど含有しない有機溶媒をベースとしたものにせざるを得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−174712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水性塗料や水性インクに配合された時の白色化を防止すると共に、水分散性および金属光沢性に優れた耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法は、
(a)第1の有機溶媒中にアルミニウム顔料を分散させたアルミニウム顔料分散液に、第2の有機溶媒中にポリシラザンを溶解させたポリシラザン溶液を添加し、前記アルミニウム顔料の表面に存在する水酸基と前記ポリシラザンとを反応させ、前記アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成する工程、を含み、
前記被覆膜を形成する反応系において、前記ポリシラザンの量は、前記アルミニウム顔料1質量部に対して0.4質量部以下であり、かつ、前記ポリシラザンの総添加量は、前記アルミニウム顔料1質量部に対して0.2質量部以上0.6質量部以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法において、前記工程(a)における前記ポリシラザン溶液の添加は、複数回に分けて行うことができる。
【0010】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法において、前記工程(a)の後に、
(b)水を添加して、前記被覆膜を緻密化し緻密膜を形成する工程、を含むことができる。
【0011】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法において、前記工程(b)において添加した水に代えて、水および第3の有機溶媒の混合液を用いることができる。
【0012】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法において、前記工程(b)において添加した水または水および第3の有機溶媒の混合液は、複数回に分けて添加することができる。
【0013】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法において、前記アルミニウム顔料は、5nm以上30nm以下の平均厚みを有し、かつ、0.5μm以上3μm以下の50%平均粒子径を有する平板状粒子であることができる。
【0014】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法において、前記被覆膜の厚みは、0.5nm以上10nm以下であることができる。
【0015】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法において、前記第1の有機溶媒は、ジエチレングリコールジエチルエーテルを含むことができる。
【0016】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法において、さらに、前記第1の有機溶媒は、テトラヒドロフランおよびメチルエチルケトンから選択される少なくとも一種を含むことができる。
【0017】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法において、前記第2の有機溶媒は、キシレンを含むことができる。
【0018】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法において、さらに、前記第2の有機溶媒は、テトラヒドロフランおよびメチルエチルケトンから選択される少なくとも一種を含むことができる。
【0019】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法において、前記第3の有機溶媒は、テトラヒドロフランおよびメチルエチルケトンから選択される少なくとも一種を含むことができる。
【0020】
本発明に係る水性インク組成物は、上記の耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法によって製造された耐水化アルミニウム顔料分散液を含有することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料は、
5nm以上30nm以下の平均厚みを有し、かつ、0.5μm以上3μm以下の50%平均粒子径を有するアルミニウム顔料の表面に、少なくともSiを含む被覆膜が形成された耐水化アルミニウム顔料であって、
前記アルミニウム顔料の表面における前記被覆膜の被覆率は、入射角度30°におけるXPS測定から検出されるC、O、Al、Siの組成比から算出されたものであり、その値が20%以上90%以下であることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る耐水化アルミニウム顔料において、前記被覆膜の厚みは、0.5nm以上10nm以下であることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0024】
1.耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法
本発明の一実施形態に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法は、
(a)第1の有機溶媒中にアルミニウム顔料を分散させたアルミニウム顔料分散液に、第2の有機溶媒中にポリシラザンを溶解させたポリシラザン溶液を添加し、前記アルミニウム顔料の表面に存在する水酸基と前記ポリシラザンとを反応させ、前記アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成する工程を含み、前記被覆膜を形成する反応系において、前記ポリシラザンの量は、前記アルミニウム顔料1質量部に対して0.4質量部以下であり、かつ、前記ポリシラザンの総添加量は、前記アルミニウム顔料1質量部に対して0.2質量部以上0.6質量部以下である(以下、単に「工程(a)」ともいう。)。
【0025】
以下、本実施形態に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法の一例を説明する。
【0026】
1.1 工程(a)
まず、下記の(1)ないし(2)の工程により、第1の有機溶媒中にアルミニウム顔料を分散させたアルミニウム顔料分散液を調製する。
【0027】
(1)シート状基材面に剥離用樹脂層とアルミニウムまたはアルミニウム合金層(以下、単に「アルミニウム層」という。)とが、順次積層された構造からなる複合化顔料原体を用意する。
【0028】
前記シート状基材としては、特に制限されないが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、ナイロン66、ナイロン6などのポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、トリアセテートフィルム、ポリイミドフィルムなどの離型性フィルムが挙げられる。これらのうち、ポリエチレンテレフタレートまたはその共重合体が好ましい。
【0029】
前記シート状基材の厚さは、特に制限されないが、好ましくは10μm以上150μm以下である。10μm以上であれば、工程等で取扱い性に問題がなく、150μm以下であれば、柔軟性に富み、ロール化、剥離等に問題がない。
【0030】
前記剥離用樹脂層は、アルミニウム層のアンダーコート層であり、シート状基材面との剥離性を向上させるための剥離性層である。この剥離用樹脂層に用いる樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロース誘導体、アクリル酸重合体または変性ナイロン樹脂が好ましい。
【0031】
前記例示した樹脂の1種または2種以上の混合物の溶液をシート状基材に塗布し乾燥させることにより、剥離用樹脂層を形成することができる。塗布後は、粘度調整剤などの添加剤を添加することもできる。
【0032】
前記剥離用樹脂層の塗布は、一般的に用いられているグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布、ディップ塗布、スピンコート法などの公知の技術を用いることができる。塗布・乾燥後、必要であればカレンダー処理により表面の平滑化を行うことができる。
【0033】
剥離用樹脂層の厚さは、特に制限されないが、好ましくは0.5μm以上50μm以下であり、より好ましくは1μm以上10μm以下である。0.5μm未満では分散樹脂としての量が不足し、50μmを超えるとロール化した場合、顔料層との界面で剥離しやすいものとなってしまう。
【0034】
前記アルミニウム層を積層させる手段としては、真空蒸着、イオンプレーティングまたはスパッタリング法を適用することが好ましい。
【0035】
また、前記アルミニウム層は、特開2005−68250号公報に例示されるように、保護層で挟まれていてもよい。該保護層としては、酸化ケイ素層、保護用樹脂層が挙げられる。
【0036】
前記酸化ケイ素層は、酸化ケイ素を含有する層であれば特に制限されるものではないが、ゾル−ゲル法によって、テトラアルコキシシランなどのシリコンアルコキシドまたはその重合体から形成されることが好ましい。シリコンアルコキシドまたはその重合体を溶解したアルコール溶液を塗布し、加熱焼成することにより、酸化ケイ素層の塗膜を形成する。
【0037】
前記保護用樹脂層としては、分散媒に溶解しない樹脂であれば特に制限されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロース誘導体等を挙げることができる。これらのうち、ポリビニルアルコールまたはセルロース誘導体から形成されることが好ましい。
【0038】
前記例示した樹脂1種または2種以上の混合物の水溶液を塗布し乾燥させると、前記保護用樹脂層を形成することができる。塗布液には、粘度調整剤などの添加剤を添加することができる。前記酸化ケイ素および樹脂の塗布は、前記剥離用樹脂層の塗布と同様の手法により行われる。
【0039】
前記保護層の厚さは、特に制限されないが、50nm以上150nm以下の範囲が好ましい。50nm未満では機械的強度が不足であり、150nmを超えると強度が高くなりすぎるため粉砕・分散が困難となり、またアルミニウム層との界面で剥離してしまう場合がある。
【0040】
また、特開2005−68251号公報に例示されるように、前記「保護層」と「アルミニウム層」との間に色材層を有していてもよい。
【0041】
色材層は、任意の着色複合顔料を得るために導入するものであり、本実施形態に使用するアルミニウム顔料の金属光沢、光輝性、背景隠蔽性に加え、任意の色調、色相を付与できる色材を含有できるものであれば特に制限されるものではない。この色材層に用いる色材としては、染料、顔料のいずれでもよい。また、染料、顔料としては、公知のものを適宜使用することができる。
【0042】
この場合、色材層に用いられる「顔料」とは、一般的な工学の分野で定義される、天然顔料、合成有機顔料、合成無機顔料等を意味する。
【0043】
前記色材層の形成方法としては、特に制限されないが、コーティングにより形成することが好ましい。また、色材層に用いられる色材が顔料の場合は、色材分散用樹脂をさらに含むことが好ましく、該色材分散用樹脂としては、顔料と色材分散用樹脂と必要に応じてその他の添加剤等を溶媒に分散または溶解させ、溶液としてスピンコートで均一な液膜を形成した後、乾燥させて樹脂薄膜として作製されることが好ましい。なお、複合化顔料原体の製造において、上記の色材層と保護層の形成がともにコーティングにより行われることが、作業効率上好ましい。
【0044】
前記複合化顔料原体としては、前記剥離用樹脂層とアルミニウム層との順次積層構造を複数有する層構成も可能である。その際、複数のアルミニウム層からなる積層構造の全体の厚み、すなわち、シート状基材とその直上の剥離用樹脂層を除いた、アルミニウム層−剥離用樹脂層−アルミニウム層、または剥離用樹脂層−アルミニウム層の厚みは5000nm以下であることが好ましい。5000nm以下であると、複合化顔料原体をロール状に丸めた場合でも、ひび割れ、剥離を生じ難く、保存性に優れる。また、顔料化した場合も金属光沢性に優れており好ましいものである。また、シート状基材面の両面に、剥離用樹脂層とアルミニウム層とが順次積層された構造も挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0045】
(2)次いで、前記複合化顔料原体を第1の有機溶媒中で、前記複合化顔料原体のシート基材面と剥離用樹脂層との界面を境界として、前記複合化顔料原体から剥離し、それを粉砕または微細化処理することにより、粗大粒子を含むアルミニウム顔料分散液が得られる。さらに、得られたアルミニウム顔料分散液をろ過し粗大粒子を除去することで、アルミニウムの平板状粒子を含有するアルミニウム顔料分散液を得ることができる。
【0046】
前記第1の有機溶媒としては、アルミニウム顔料の分散安定性や、後述するポリシラザンとの反応性を損なわないものであればよいが、極性有機溶媒であることが好ましい。極性有機溶媒としては、例えば、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、フッ化アルコール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)等が挙げられる。
【0047】
以上例示した極性有機溶媒の中でも、常温常圧下で液体であるテトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アルキレングリコールモノエーテルまたはアルキレングリコールジエーテルであることがより好ましい。
【0048】
アルキレングリコールモノエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0049】
アルキレングリコールジエーテルとしては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0050】
これらの中でも、アルミニウム顔料の分散安定性に優れるという観点からは、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルであることがさらに好ましく、ジエチレングリコールジエチルエーテルであることが特に好ましい。
【0051】
また、後述するポリシラザンとの相溶性が優れ、かつ、ポリシラザンと反応する水酸基を有しないという観点からは、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンが好ましい。
【0052】
上述の様に作成された前記第1の有機溶媒に分散されたアルミニウム顔料分散液に、さらに上述の例示した第1の有機溶媒を添加し所定の濃度まで希釈してもよい。
【0053】
前記第1の有機溶媒は、上記の例示した有機溶媒を単独または2種以上の混合物としても使用できる。
【0054】
前記シート状基材からの剥離処理法としては、特に制限されないが、前記複合化顔料原体を液体中に浸漬することによりなされる方法や、液体中に浸漬すると同時に超音波処理を行い剥離処理と剥離した複合化顔料の粉砕処理を行う方法が好ましい。
【0055】
前記のようにして得られた平板状粒子からなるアルミニウム顔料は、剥離用樹脂層が保護コロイドの役割を有し、溶剤中での分散処理を行うだけで安定な分散液を得ることが可能である。また、該アルミニウム顔料をインク組成物に用いる場合には、前記剥離用樹脂層由来の樹脂が記録媒体に対する接着性を付与する機能も担うことができる。
【0056】
以上の工程により得られたアルミニウム顔料分散液中のアルミニウム顔料の形状は、良好な耐水性や金属光沢性を付与する観点から平板状粒子であることが好ましい。
【0057】
ここで、「平板状粒子」とは、アルミニウム粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、略平坦な面(X−Y平面)を有し、かつ、厚み(Z)が略均一である粒子をいう。より詳しくは、該アルミニウム粒子の略平坦な面(X−Y平面)の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50(以下、単に「R50」ともいう。)が0.5μm以上3μm以下であって、かつ、厚み(Z)が5nm以上30nm以下であることを満たすものをいう。
【0058】
「円相当径」とは、アルミニウム粒子の略平坦な面(X−Y平面)を、該アルミニウム粒子の投影面積と同じ投影面積を持つ円と想定したときの当該円の直径である。例えば、アルミニウム粒子の略平坦な面(X−Y平面)が多角形である場合、その多角形の投影面を円に変換して得られた当該円の直径を、そのアルミニウム粒子の円相当径という。
【0059】
前記平板状粒子の略平坦な面(X−Y平面)の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50は、良好な金属光沢性および印字安定性を確保する観点から、0.5μm以上3μm以下であることが好ましく、0.75μm以上2μm以下であることがより好ましい。R50が0.5μm未満の場合には、金属光沢が不足することがある。一方、R50が3μmを超える場合、印字安定性が低下することがある。
【0060】
前記平板状粒子の略平坦な面(X−Y平面)の面積より求めた円相当径の最大粒子径は、10μm以下であることが好ましい。最大粒子径を10μm以下にすることで、インクジェット記録装置のノズルや、インク流路内に設けられた異物除去フィルター等に該平板粒子が目詰まりすることを防止することができる。
【0061】
前記平板状粒子の平面上の長径X、短径Y、円相当径は、粒子像分析装置を用いて測定することができる。粒子像分析装置としては、例えば、フロー式粒子像分析装置FPIA−2100、FPIA−3000、FPIA−3000S(以上、シスメックス株式会社製)が挙げられる。
【0062】
前記平板状粒子の粒度分布(CV値)は、下記式(1)より求めることができる。
CV値=粒度分布の標準偏差/粒子径の平均値×100 …(1)
ここで、得られるCV値は、好ましくは60以下であり、より好ましくは50以下であり、特に好ましくは40以下である。CV値が60以下の平板状粒子を選択することで、印字安定性に優れるという効果が得られる。
【0063】
前記厚み(Z)は、金属光沢性を確保する観点から、好ましくは5nm以上30nm以下であり、より好ましくは10nm以上25nm以下である。厚み(Z)が5nm未満であると、アルミニウム粒子の表面に被覆膜を形成したときに金属光沢性が低下する傾向がある。一方、厚み(Z)が30nmを超えても、金属光沢性が低下する傾向がある。
【0064】
前記アルミニウム顔料は、コストの観点および金属光沢性を確保する観点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることが好ましい。アルミニウム合金を用いる場合、アルミニウム以外に添加する他の金属元素または非金属元素としては、例えば、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などが挙げられる。
【0065】
(3)次いで、第2の有機溶媒中にポリシラザンを添加して攪拌し、ポリシラザン溶液を調製する。
【0066】
本実施形態に係る耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法において、第2の有機溶媒とは、ポリシラザンを溶解し希釈するために用いられる有機溶媒のことをいう。第2の有機溶媒は、ポリシラザンを溶解、希釈できるため、ポリシラザンの取扱いを容易にすることができる。
【0067】
第2の有機溶媒としては、ポリシラザンを溶解し、取扱いを容易にできるものであり、さらにポリシラザンと反応する水酸基をもたないものであれば特に限定されないが、好ましくは、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられる。
【0068】
これらの中でも、第1の有機溶媒と任意に混ざり合うものという観点から、キシレン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンであることがより好ましい。第1の有機溶媒と第2の有機溶媒とが任意に混ざり合うことで、分散安定性に優れたアルミニウム顔料分散液を得ることができる。
【0069】
これらの第2の有機溶媒は、前記例示した有機溶媒を単独または2種以上の混合物としても使用できる。
【0070】
前記ポリシラザンは、アルミニウム顔料の表面に存在する水酸基と反応させ、前記アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成するために用いられる。
【0071】
前記ポリシラザンとしては、下記一般式(2)で示される鎖状または環状の化合物が挙げられる。これらの中でも、好ましくはアルコキシル基等がケイ素原子に結合したポリシラザン、アルキル基等の有機基が結合したポリシラザン、下記一般式(2)中のR、R、Rがすべて水素であるペルヒドロポリシラザンが挙げられ、より好ましくは、後述する被覆膜の形成においてシリカに転化容易であるペルヒドロポリシラザンである。
【0072】
【化1】

(式中R、R、Rはそれぞれ独立に水素または、有機基、または有機金属基を表す。また、nは1以上30以下の整数である。)
前記ポリシラザン溶液中のポリシラザンの濃度は、ポリシラザン溶液全質量に対して、好ましくは1質量%以上30質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上20質量%以下である。
【0073】
ポリシラザンの濃度が上記範囲を超えると、後述するポリシラザン溶液を前記アルミニウム顔料分散液に添加した際に、ポリシラザン同士の凝集が発生し、前記アルミニウム顔料の表面におけるポリシラザンの被覆膜の形成が不十分になることがある。さらに、ポリシラザンの凝集物にアルミニウム顔料が取り込まれることで、アルミニウム顔料分散液の分散性が悪化することがある。
【0074】
(4)次いで、前記アルミニウム顔料分散液中に前記ポリシラザン溶液を添加して撹拌する。これにより、前記アルミニウム顔料の表面に存在する水酸基とポリシラザンとが加水分解反応して、前記アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成することができる。
【0075】
アルミニウム顔料を水中に分散させると、水素ガスの発生を伴い、アルミナの生成によりアルミニウム顔料分散液が白色化する。そのため、アルミニウム顔料の表面を被覆膜で覆うことによって、酸化を防ぎ、アルミニウム顔料の金属光沢の消失を防ぐことができる。
【0076】
アルミニウム顔料の表面に被覆膜が形成される反応は、以下のように行われると考えられる。まず、ポリシラザンの加水分解反応によって、シラザン結合における窒素原子の脱離、および水酸基の付加によりシラノール結合が形成される。また、脱離した窒素原子はアンモニアガスとして発生する。次に、シラノール基とアルミニウム顔料の表面に存在する水酸基とが縮合反応し、さらに前記シラノール基同士の脱水重合反応により、アルミニウム顔料の表面の全部または一部にシロキサン結合をもつ被覆膜が形成される。なお、前記被覆膜には、シラザン基が残存する場合がある。
【0077】
前記ポリシラザン溶液の添加は、複数回に分けて行うことができる。アルミニウム顔料を複数回に分けて添加することで、独立したポリシラザン粒子が形成されることを防ぎ、分散安定性に優れたアルミニウム顔料分散液を得ることができる。
【0078】
アルミニウム顔料分散液の分散性は、独立したポリシラザン粒子の形成によって悪化する。アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させる反応系において、ポリシラザンの濃度が急激に上昇すると、独立したポリシラザン粒子が形成されて、アルミニウム顔料が該ポリシラザンに取り込まれる。このように、アルミニウム顔料を取り込んだ該ポリシラザン粒子同士が凝集することで、アルミニウム顔料分散液の分散性が悪化すると考えられる。
【0079】
前記反応系におけるポリシラザンの量は、アルミニウム顔料1質量部に対して、0.4質量部以下であり、0.04質量部以上0.4質量部以下であることが好ましく、0.04質量部以上0.32質量部以下であることがより好ましい。前記反応系におけるポリシラザンの量が上記範囲を超えると、反応系においてポリシラザンの濃度が急激に上昇するので、独立したポリシラザン粒子が形成されたり、アルミニウム顔料分散液の分散性が悪化したりすることがある。
【0080】
ポリシラザンの総添加量は、前記被覆膜の厚みが0.5nm以上10nm以下、好ましくは5nmとなるような量を計算して決定すればよい。加水分解反応後のアルミニウム顔料の厚さが30nmを超えると、金属光沢性が低下することがあるからである。
【0081】
ポリシラザンの総添加量は、アルミニウム顔料1質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上0.6質量部以下、より好ましくは0.3質量部以上0.5質量部以下である。ポリシラザンの総添加量が上記範囲未満であると、アルミニウム顔料の表面に存在する水酸基を完全に被覆できないため、耐水性が不十分となることがある。一方、ポリシラザンの総添加量が上記範囲を超えると、アルミニウム顔料の被覆膜が厚くなり、金属光沢性が低下することがある。
【0082】
前記加水分解反応における反応温度は、好ましくは10℃以上90℃以下、より好ましくは20℃以上70℃以下である。10℃未満では、加水分解反応の進行が遅くなり、アルミニウム顔料表面の被覆膜形成が不十分となりやすい。90℃を超えると安全上格別の注意を要する。
【0083】
前記加水分解反応における反応時間は、好ましくは0.5時間以上100時間以下、より好ましくは1時間以上80時間以下である。反応時間が0.5時間未満では、加水分解反応が十分に完結しない場合があり、十分な耐水性および水分散性が得られない場合がある。100時間を超えると、アルミニウム顔料が凝集することがある。
【0084】
なお、反応系におけるpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれであってもよい。
【0085】
1.2 工程(b)
前記工程(a)の後に、さらに(b)前記被覆膜を緻密化する工程(以下、単に「工程(b)」ともいう。)を行ってもよい。前記被覆膜を緻密化することで、アルミニウム顔料の表面に水が侵入するのを阻害することができ、耐水性を付与することができる。
【0086】
前記被覆膜を緻密化する方法として、例えば、水を添加、攪拌する方法が挙げられる。水の添加により起こる反応は、加水分解反応である。具体的には、水を添加することで、前記被覆膜に残存するシラザン結合がシロキサン結合へと転化され、被覆膜を緻密化することができる。
【0087】
水の添加は、前記ポリシラザン溶液の添加後に行うことが好ましく、前記被覆膜を形成する反応が停止した後に加えることがさらに好ましい。被覆膜の形成前に水を添加すると、ポリシラザンの凝集や、アルミニウム顔料分散液の白濁化が発生する場合があるためである。
【0088】
また、水の添加は、複数回に分けて行うことができる。水を複数回に分けて添加することで、前記被覆膜に残存するシラザン基同士の凝集を防ぐことができ、分散安定性に優れたアルミニウム顔料分散液を得ることができる。
【0089】
アルミニウム顔料分散液の分散性は、被覆膜を緻密化させる反応系において、水の濃度が急激に上昇し、前記被覆膜に残存するシラザン基同士が凝集することで悪化すると考えられる。
【0090】
前記水としては、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水などの純水または超純水を用いることが好ましい。
【0091】
被覆膜を緻密化する反応系における水の量は、アルミニウム顔料1質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは0.05質量部以上5質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以上2質量部以下である。被覆膜を緻密化する反応系における水の量が上記範囲を超えると、水の濃度が急激に上昇し、前記被覆膜に残存するシラザン基が凝集したり、アルミニウム顔料分散液の分散性が悪化したりすることがある。
【0092】
水の総添加量は、アルミニウム顔料1質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上8質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以上5質量部以下である。
【0093】
前記被覆膜を緻密化する反応における反応温度は、好ましくは10℃以上90℃以下、より好ましくは20℃以上70℃以下である。10℃未満では、反応の進行が遅くなり、被覆膜の緻密化が起こりにくい。90℃を超えると安全上格別の注意を要する。
【0094】
前記被覆膜を緻密化する反応における反応時間は、好ましくは0.5時間以上100時間以下、より好ましくは1時間以上80時間以下である。反応時間が上記範囲未満では、反応が十分に完結しない場合がある。
【0095】
前記被覆膜を緻密化する方法として、水にかえて、水および第3の有機溶媒の混合溶液を用いてもよい。水および第3の有機溶媒の混合溶液は、水を希釈する役割を果たすことができる。したがって、水および第3の有機溶媒をアルミニウム顔料分散液に添加した際に、水の急激な濃度上昇を防ぐことができる。
【0096】
前記第3の有機溶媒としては、前記第2の有機溶媒において挙げられた有機溶媒を用いることができる。
【0097】
また、添加した水を、アルミニウム顔料分散液中に均一に行き渡せることができるので、前記第2の有機溶媒と同一の有機溶媒を用いることが好ましい。
【0098】
前記被覆膜を緻密化する方法に用いる有機溶媒は、水の添加量1質量部に対して、好ましくは1質量部以上15質量部以下、より好ましくは5質量部以上10質量部以下である。
【0099】
1.3 工程(c)
前記各工程の後に、(c)前記有機溶媒の少なくとも一部を除去した後、界面活性剤水溶液を添加して溶媒置換する工程(以下、単に「工程(c)」ともいう。)を行ってもよい。工程(c)により、上記の各工程で得られたアルミニウム顔料分散液中の有機溶媒を水系溶媒へと置換することができ、水分散性および耐水性に優れたアルミニウム顔料分散液を得ることができる。また、工程(c)により得られたアルミニウム顔料分散液の溶媒は水系溶媒であるから、容易に水性インク組成物に適用することが可能となる。
【0100】
まず、前記アルミニウム顔料分散液をろ過、遠心沈降または遠心分離等の操作により、前記有機溶媒と前記被覆膜の形成されたアルミニウム顔料とを分離して前記アルミニウム顔料分散液に含まれる有機溶媒を除去する。上記の操作の中でも簡便であることから、遠心分離により分離して有機溶媒を除去する方法が好ましい。これらの方法により、前記アルミニウム顔料分散液に含まれる有機溶媒の70%以上除去することが好ましい。
【0101】
次いで、界面活性剤に水を添加し溶解させた界面活性剤水溶液を添加し撹拌する。前記界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等を用いることができる。
【0102】
アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸系として高級脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩、直鎖アルキルベンゼン系として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール系としてアルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ジオクチルスルホサクシネート塩、αオレフィン系としてα−オレフィンスルホン酸塩、ノルマルパラフィン系としてアルカンスルホン酸塩等が挙げられる。アニオン性界面活性剤は、これらに限定されるものではない。
【0103】
カチオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム系としてアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩およびアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アミン塩系としてNメチルビスヒドロキエチルアミン脂肪酸エステル塩酸塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤は、これらに限定されるものではない。
【0104】
非イオン性界面活性剤としては、脂肪酸系としてショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルフェノール系としてポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルグリコシド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどが挙げられる。非イオン性界面活性剤は、これらに限定されるものではない。
【0105】
両性界面活性剤としては、アミノ酸系としてアルキルアミノ脂肪酸塩、ベタイン系としてアルキルカルボキシルベタイン、アミンオキシド系としてアルキルアミンオキシドなどが挙げられる。両性界面活性剤は、これらに限定されるものではない。
【0106】
高分子界面活性剤としては、ポリカルボン酸系、ナフタレン系、メラミン系、アミノスルホン酸系の高分子界面活性剤等が挙げられる。ポリカルボン酸系界面活性剤としては、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリ無水マレイン酸、マレイン酸または無水マレイン酸とオレフィン(例えばイソブチレンおよびジイソブチレン等)との共重合体、アクリル酸とイタコン酸の共重合体、メタアクリル酸とイタコン酸の共重合体、マレイン酸または無水マレイン酸とスチレンとの共重合体、アクリル酸とメタアクリル酸との共重合体、アクリル酸とアクリル酸メチルエステルとの共重合体、アクリル酸と酢酸ビニルとの共重合体、アクリル酸とマレイン酸または無水マレイン酸との共重合体、並びにこれらのアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムおよびアミン塩が挙げられる。
【0107】
これらの中でも、好ましくはポリカルボン酸系界面活性剤であり、より好ましくは無水マレイン酸とスチレンとの共重合体、または無水マレイン酸とオレフィンとの共重合体ナトリウム塩、特に好ましくは無水マレイン酸とオレフィンとの共重合体ナトリウム塩である。ポリカルボン酸系界面活性剤は、アルミニウム顔料表面に吸着後、ポリカルボン酸系界面活性剤が有する立体障害作用により、アルミニウム顔料同士の凝集を効果的に抑制することができる。
【0108】
無水マレイン酸とオレフィンとの共重合体ナトリウム塩の重量平均分子量は、好ましくは2000以上50万以下であり、さらに好ましくは1万以上10万以下である。無水マレイン酸とオレフィンとの共重合体ナトリウム塩の重量平均分子量が上記範囲を超えると、アルミニウム顔料分散液の粘度が高くなり、分散性が悪化する。一方、無水マレイン酸とオレフィンとの共重合体ナトリウム塩の重量平均分子量が上記範囲未満であると、界面活性剤の立体障害効果が期待できなくなり、アルミニウム顔料の分散性が悪化する。無水マレイン酸とオレフィンとの共重合体ナトリウム塩としては、ポリスターOM(商品名、日本油脂株式会社製、pH10.0〜12.0)が挙げられる。
【0109】
無水マレイン酸とスチレンとの共重合体の重量平均分子量は、好ましくは2000以上50万以下であり、さらに好ましくは1万以上10万以下である。無水マレイン酸とスチレンとの共重合体の重量平均分子量が上記範囲を超えると、アルミニウム顔料分散液の粘度が高くなり、分散性が悪化する。一方、無水マレイン酸とスチレンとの共重合体の重量平均分子量が上記範囲未満であると、界面活性剤の立体障害効果が期待できなくなり、アルミニウム顔料の分散性が悪化する。無水マレイン酸とスチレンとの共重合体としては、マリアリムAKM−0531(商品名、日本油脂株式会社製、pH2.3〜5.5)が挙げられる。
【0110】
なお、重量平均分子量は、例えば、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、ポリスチレン換算分子量によって求めることができる。
【0111】
前記界面活性剤の添加量は、アルミニウム顔料1質量部に対して、好ましくは0.02質量部以上1.5質量部以下である。前記界面活性剤の添加量が上記範囲を超えると、アルミニウム顔料の分散性が悪化する場合がある。一方、前記界面活性剤の添加量が上記範囲未満であると、アルミニウム顔料の凝集が発生し、金属光沢を維持できなくなる。
【0112】
前記界面活性剤水溶液は、アルミニウム顔料分散液の全質量に対して、70質量%以上となるように添加することが好ましい。
【0113】
2.耐水化アルミニウム顔料
本実施形態に係る耐水化アルミニウム顔料は、上述した製造工程を経て得られるものである。この耐水化アルミニウム顔料は、5nm以上30nm以下の平均厚みを有し、かつ、0.5μm以上3μm以下の50%平均粒子径を有するアルミニウム顔料の表面に、少なくともSiを含む被覆膜が形成されたものである。上述したようにアルミニウム顔料の平均厚みが5nm以上30nm以下であると、優れた金属光沢性を有する耐水化アルミニウム顔料となる。平均厚みが5nm未満では金属光沢性が低下する傾向があり、30nmを超えても金属光沢性が低下する傾向がある。
【0114】
前記被覆膜の厚みは、好ましくは2nm以上10nm以下であり、より好ましくは3nm以上9nm以下である。被覆膜の厚みが2nm未満であると、アルミニウム顔料に十分な耐水性や水分散性を付与することができない。一方、被覆膜の厚みが10nmを超えると、アルミニウム顔料に耐水性や水分散性を付与することはできるが、金属光沢性が低下する傾向がある。
【0115】
前記アルミニウム顔料の表面における前記被覆膜の被覆率は、X線光電子分光装置(以下、「XPS」という。)を用いて測定されたX線照射角度30°におけるC、O、Al、Si元素の組成比から算出されたものである。X線照射角度を30°とした理由は、X線照射角度をθとすると、測定深さはsinθに比例するため、X線の照射角度をできる限り小さくすることにより、より表面の情報が得られると考えたからである。
【0116】
以下、XPSを用いて測定されたX線照射角度30°におけるC、O、Al、Si元素の組成比からアルミニウム顔料の表面における被覆膜の被覆率を求める方法について説明する。
【0117】
まず、XPS測定から得られたC、O、Al、Si元素の組成比は、以下のように帰属することができる。
(1)Al
酸素と結合していない単体のAl(Al)と、酸素と結合した状態のAl(Al)と、に帰属することができる。Al−2pスペクトルのピークを分離し、そのピークの面積比から、酸素と結合していない単体のAl(Al)と酸素と結合した状態のAl(Al)との比率を求めることができる。
(2)Si
ポリシラザン由来のSi(Si)に帰属することができる。
(3)O
Alと結合しているO(O)と、Siと結合しているのO(O)とに帰属することができる。
(4)C
炭素はすべて有機溶媒や界面活性剤等を検出しており、被覆膜の形成には関与しないとすることができる。
【0118】
以上の元素帰属から、アルミニウム顔料の表面における被覆膜の被覆率は、下記式(3)から求めることができる。
【0119】
【数1】

【0120】
本実施形態に係る耐水化アルミニウム顔料の上記式(3)から算出される被覆膜の被覆率は20%以上90%以下であり、より好ましくは30%以上60%以下である。被覆率が上記範囲内であると、アルミニウム顔料に耐水性を付与することができ、水中に分散させても白色化することがない。被覆率が20%未満であると、十分な耐水性が得られないためアルミニウム顔料が白色化したり、十分な水分散性が得られないためアルミニウム顔料が凝集し黒色化することがある。一方、被覆率が90%を超えるには、技術的困難性を伴う。
【0121】
3.水性インク組成物
本実施形態に係る水性インク組成物は、上記の耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法によって製造されたアルミニウム顔料分散液を含有することを特徴とする。本明細書において、「水性インク組成物」とは、溶媒として水を70質量%以上含有するインク組成物のことをいう。水は、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水などの純水または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を紫外線照射または過酸化水素添加などにより滅菌処理した水は、長期間に亘りカビやバクテリアの発生を抑制することができるので好ましい。
【0122】
本実施形態に係る水性インク組成物中のアルミニウム顔料の濃度は、水性インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上3.0質量%以下、より好ましくは0.25質量%以上2.5質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下である。
【0123】
本実施形態に係る水性インク組成物は、必要に応じて、有機溶媒、樹脂類、界面活性剤、多価アルコール、酸化防止剤、紫外線吸収剤、pH調整剤等を添加することができる。
【0124】
本実施形態に係る水性インク組成物の20℃における粘度は、好ましくは2mPa・s以上10mPa・s以下であり、より好ましくは3mPa・s以上5mPa・s以下である。水性インク組成物の20℃における粘度が上記範囲内にあると、インクジェット記録装置にさらに好適となり、ノズルから組成物が適量吐出され、組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができる。
【0125】
4.実施例
4.1 実施例1
膜厚100μmのPETフィルム上に、セルロースアセテートブチレート(ブチル化率35〜39%、関東化学社製)3.0質量%およびジエチレングリコールジエチルエーテル(日本乳化剤社製)97質量%からなる樹脂層塗工液をバーコート法によって均一に塗布し、60℃、10分間乾燥することで、PETフィルム上に樹脂層薄膜を形成した。
【0126】
次いで、真空蒸着装置(「VE−1010型真空蒸着装置」、真空デバイス社製)を用いて、上記の樹脂層上に平均膜厚20nmのアルミニウム蒸着層を形成した。
【0127】
次いで、上記方法にて形成した積層体を、ジエチレングリコールジエチルエーテル(以下、「DEGDEE」ともいう。)中、VS−150超音波分散機(アズワン社製)を用いて、剥離・微細化・分散処理を同時に行い、積算の超音波分散処理時間が12時間であるアルミニウム顔料分散液を作製した。
【0128】
得られたアルミニウム顔料分散液を、開き目5μmのSUSメッシュフィルターにてろ過処理を行い、粗大粒子を除去した。次いで、ろ液を丸底フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターを用いてDEGDEEを留去した。これにより、アルミニウム顔料分散液を濃縮し、その後、そのアルミニウム顔料分散液の濃度調整を行い、5質量%のアルミニウム顔料分散液(以下、「5%AL分散液」ともいう。)を得た。
【0129】
次いで、ペルヒドロポリシラザンをキシレン溶媒に溶解した、20質量%のペルヒドロポリシラザン溶液(商品名「アクアミカNN110」、クラリアントジャパン株式会社製。以下、「20%PS溶液」ともいう。)を準備した。
【0130】
次いで、5%AL分散液20gをビーカーへ投入し、これに20%PS溶液0.8gを添加して、24時間室温で撹拌することにより加水分解反応させ、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させた。
【0131】
前記20%PS溶液を添加し、24時間室温で撹拌する工程は、3回行った。
【0132】
これにより、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させたアルミニウム顔料分散液Aを得た。
【0133】
4.2 実施例2
まず、上記「4.1 実施例1」において得られた5%AL分散液に、テトラヒドロフラン(以下、「THF」ともいう。)を添加、攪拌し、0.5質量%のアルミニウム顔料分散液(以下、「0.5%AL分散液」ともいう。)を調製した。
【0134】
次いで、20%PS溶液にTHFを添加し、攪拌して、2質量%のペルヒドロポリシラザン溶液(以下、「2%PS溶液」ともいう。)を調製した。
【0135】
次いで、得られた0.5%AL分散液200gをビーカーへ投入し、これに前記2%PS溶液8gを添加して、24時間室温で撹拌することにより加水分解反応させ、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させた。
【0136】
前記2%PS溶液を添加し、24時間室温で撹拌する工程は、3回行った。
【0137】
これにより、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させたアルミニウム顔料分散液Bを得た。
【0138】
4.3 実施例3
上記「4.2 実施例2」において、5%AL分散液に添加したTHFに代えてメチルエチルケトン(以下、「MEK」ともいう。)を添加し、さらに、20%PS溶液に添加したTHFに代えてMEKを用いたこと以外は、同様にした。
【0139】
これにより、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させたアルミニウム顔料分散液Cを得た。
【0140】
4.4 実施例4
上記「4.2 実施例2」において、前記2%PS溶液を添加し24時間室温で撹拌する工程を2回にしたこと以外は、同様にした。
【0141】
これにより、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させたアルミニウム顔料分散液Dを得た。
【0142】
4.5 実施例5
上記「4.3 実施例3」において、前記2%PS溶液を添加し24時間室温で撹拌する工程を2回にしたこと以外は、同様にした。
【0143】
これにより、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させたアルミニウム顔料分散液Eを得た。
【0144】
4.6 実施例6
まず、上記「4.1 実施例1」と同様にして得られた5%AL分散液20gをビーカーへ投入し、これに上記「4.1 実施例1」と同様にして得られた20%PS溶液0.8gを添加して、12時間室温で撹拌することにより加水分解反応させ、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させた。
【0145】
次いで、ビーカーに蒸留水0.1gを添加し、12時間室温で撹拌することにより、前記被覆膜を緻密化させた。
【0146】
前記20%PS溶液を添加し12時間攪拌する工程、およびその後前記ビーカーに蒸留水を添加し12時間攪拌する工程は、3回行った。
【0147】
これにより、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させたアルミニウム顔料分散液Fを得た。
【0148】
4.7 実施例7
まず、上記「4.1 実施例1」と同様にして得られた、5%AL分散液に、THFを添加し、攪拌して、1.7質量%のアルミニウム顔料分散液(以下、「1.7%AL分散液」ともいう。)に調整した。
【0149】
次いで、20%PS溶液に、THFを添加し、攪拌して、2%PS溶液に調整した。
【0150】
次いで、得られた1.7%AL分散液60gをビーカーへ投入し、これに前記2%PS溶液8gを添加して、6時間室温で撹拌することにより加水分解反応させ、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させた。
【0151】
次いで、ビーカーに、蒸留水2gおよびTHF18gからなる混合液を加え、ビーカーを密閉した。その後、密閉されたビーカーをポリエチレン袋内に入れることで、さらに密閉した。その後、18時間室温で撹拌することにより、前記被覆膜を緻密化させた。なお、前記ポリエチレン袋は、あらかじめ内部の気体をArガスで置換し、袋内にシリカゲルを加えたものを使用した。
【0152】
前記2%PS溶液を添加し6時間攪拌する工程、およびその後前記ビーカーに混合液を添加し18時間攪拌する工程は、2回行った。
【0153】
これにより、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させたアルミニウム顔料分散液Gを得た。
【0154】
なお、使用した有機溶媒はすべてモレキュラーシーブで脱水処理して用いた。
【0155】
4.8 実施例8
上記「4.7 実施例7」において、5%AL分散液に添加したTHFに代えてMEKを添加し、20%PS溶液に添加したTHFに代えてMEKを用いた以外は、同様にした。これにより、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させたアルミニウム顔料分散液Hを得た。
【0156】
4.9 比較例1
上記「4.1 実施例1」において、20%PS溶液の添加量を4gとしたこと以外は同様にした。これにより、アルミニウム顔料分散液Iを得た。
【0157】
4.10 比較例2
まず、上記「4.1 実施例1」において、20%PS溶液の添加量を2.4gとし、さらに、20%PS溶液を添加して24時間室温で攪拌する工程を1回としたこと以外は同様にした。これにより、アルミニウム顔料分散液Jを得た。
【0158】
4.11 比較例3
まず、「4.7 実施例7」と同様にして得られた1.7%AL分散液60gをビーカーに投入し、これに「4.2 実施例2」と同様にして得られた2%PS溶液24gを添加し、24時間室温で撹拌することにより加水分解反応させた。これにより、アルミニウム顔料分散液Kを得た。
【0159】
4.12 比較例4
上記「4.11 比較例3」において、5%AL分散液に添加するTHFをMEKに代え、20%PS溶液に添加するTHFをMEKに代え、20%PS溶液の添加量を0.8gに代えた以外は、同様に行った。これにより、アルミニウム顔料分散液Lを得た。
【0160】
4.13 比較例5
上記「4.11 比較例3」において、5%AL分散液に添加するTHFをトルエンに代え、20%PS溶液に添加するTHFをトルエンに代え、20%PS溶液の添加量を0.8gに代えた以外は、同様に行った。これにより、アルミニウム顔料分散液Mを得た。
【0161】
4.14 比較例6
上記「4.11 比較例3」において、5%AL分散液に添加するTHFをヘキサンに代え、20%PS溶液に添加するTHFをヘキサンに代えた以外は、同様に行った。これにより、アルミニウム顔料分散液Nを得た。
【0162】
4.15 比較例7
上記「4.2 実施例2」において、2%PS溶液を添加し24時間室温で攪拌する工程を1回としたこと以外は同様にした。これにより、アルミニウム顔料分散液Oを得た。
【0163】
4.16 比較例8
上記「4.3 実施例3」において、2%PS溶液を添加し24時間室温で攪拌する工程を1回としたこと以外は同様にした。これにより、アルミニウム顔料分散液Pを得た。
【0164】
4.17 比較例9
上記「4.10 比較例2」において、2%PS溶液を添加後の攪拌時間を12時間とし、さらにその後、ビーカーに蒸留水4gを添加し12時間室温で攪拌する工程を追加したこと以外は同様にした。
【0165】
これにより、アルミニウム顔料分散液Qを得た。
【0166】
4.18 比較例10
上記「4.11 比較例3」において、2%PS溶液を添加し6時間攪拌した。その後、ビーカーに蒸留水1.3gおよびTHF12.7gからなる混合液を添加し24時間室温で攪拌する工程を3回行った。
【0167】
これらの変更点以外は、「4.11 比較例3」と同様にした。
【0168】
これにより、アルミニウム顔料分散液Rを得た。
【0169】
4.19 比較例11
上記「4.18 比較例10」において、5%AL分散液に添加するTHFをMEKに換え、20%PS溶液に添加するTHFをMEKに換え、さらに蒸留水およびTHFからなる混合液を、蒸留水およびMEKからなる混合液に換えた以外は同様に行った。
【0170】
これにより、アルミニウム顔料分散液Sを得た。
【0171】
4.20 比較例12
上記「4.7 実施例7」において、蒸留水2gおよびTHF18gからなる混合液を、蒸留水4gおよびTHF36gからなる混合液に換えた。
【0172】
さらに、「4.7 実施例7」において、2%PS溶液を添加し6時間攪拌する工程、およびその後蒸留水およびTHFからなる混合液を加え18時間室温で撹拌する工程を、1回とした。
【0173】
これらの変更点以外は、「4.7 実施例7」と同様にした。これにより、アルミニウム顔料分散液Tを得た。
【0174】
4.21 比較例13
上記「4.20 比較例12」において、5%AL分散液に添加したTHFに代えてMEKを添加し、20%PS溶液に添加したTHFに代えてMEKを用い、蒸留水およびTHFからなる混合液に代えて蒸留水およびMEKからなる混合液を用いたこと以外は、同様にした。これにより、アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成させたアルミニウム顔料分散液Uを得た。
【0175】
4.22 比較例14
上記「4.1 実施例1」と同様にして得られた、5%AL分散液20gをビーカーへ添加、攪拌し、アルミニウム顔料分散液Vを得た。
【0176】
4.23 比較例15
上記「4.7 実施例7」と同様にして得られた、1.7%AL分散液60gをビーカーへ添加、攪拌し、アルミニウム顔料分散液Wを得た。
【0177】
4.24 比較例16
上記「4.8 実施例8」と同様にして得られた、1.7%AL分散液60gをビーカーへ添加、攪拌しアルミニウム顔料分散液Xを得た。
【0178】
4.25 評価試験
4.25.1 耐水性評価試験
サンプル瓶に水4gを投入し、さらに得られたアルミニウム顔料分散液A〜Xのいずれか1種を1g添加し、攪拌後、25℃恒温下に静置した。その経時変化を目視により観察することで、アルミニウム顔料分散液の耐水性を評価した。アルミニウム顔料分散液の耐水性の評価基準は、以下のとおりである。
AA:耐水性が極めて良好(10日経過後においても特に変化なし)。
A:耐水性が良好(8日後の時点で白色化が認められた。)
B:耐水性が不良(5日後の時点で白色化が認められた。)
C:耐水性が極めて不良(2日後の時点で白色化が認められた。)
4.25.2 分散性評価試験
上記工程により得られたアルミニウム顔料分散液A〜Xのいずれか1種を印画紙(「PM写真用紙(光沢)型番:KA450PSK」、セイコーエプソン社製)に滴下・塗布して、室温で1日間乾燥させた。得られたサンプルを光学顕微鏡で観察することで、アルミニウム顔料分散液の分散性を評価した。アルミニウム顔料分散液の分散性の評価基準は、凝集物の発生度合い、および凝集物の大きさにより評価した。アルミニウム顔料分散液の分散性の評価基準は、以下のとおりである。
「AAA」・・・分散性が極めて良好(凝集物が認められない)
「AA」・・・・分散性が良好(凝集物がわずかに認められる)
「A」・・・・・分散性がやや良好(黒色の凝集物が認められ、小さな塊がある)
「B」・・・・・分散性が不良(凝集物が認められ、中程度の塊がある)
「C」・・・・・分散性が極めて不良(凝集物が認められ、大きな塊がある)
4.25.3 評価結果
表1および表2に、上記工程により得られたアルミニウム顔料分散液A〜Xの耐水性、分散性の評価試験の結果を示す。
【0179】
【表1】

【0180】
【表2】

【0181】
実施例1〜実施例8に係る製造方法によって得られたアルミニウム顔料分散液は、いずれも、ポリシラザンの量は、被覆膜を形成する反応系において、アルミニウム顔料1質量部に対して0.4質量部以下であり、かつ、ポリシラザンの総添加量は、アルミニウム顔料1質量部に対して0.2質量部以上0.6質量部以下であるように調製されたものである。そのため、表1の結果から、このような方法によって得られたアルミニウム顔料分散液は、耐水性および分散性が良好であることが示された。
【0182】
比較例1に係る製造方法によって得られたアルミニウム顔料分散液は、被覆膜を形成する反応系において、アルミニウム顔料1質量部に対するポリシラザンの量が0.4質量部を超えている。さらに、アルミニウム顔料1質量部に対するポリシラザンの総添加量も0.6質量部を超えている。その結果、分散性評価試験において、中程度の塊を持つ凝集物が認められ、良好な耐水化アルミニウム顔料分散液が得られなかった。
【0183】
比較例2および比較例3に係る製造方法によって得られたアルミニウム顔料分散液は、被覆膜を形成する反応系において、アルミニウム顔料1質量部に対するポリシラザンの添加量が0.4質量部を超えている。その結果、分散性評価試験において、中程度の塊を持つ凝集物が認められ、良好な耐水化アルミニウム顔料分散液が得られなかった。
【0184】
比較例4に係る製造方法によって得られたアルミニウム顔料分散液は、アルミニウム顔料1質量部に対するポリシラザンの総添加量が0.2質量部未満である。その結果、耐水性評価試験において、耐水性が不良であり、良好な耐水化アルミニウム顔料分散液が得られなかった。
【0185】
比較例5に係る製造方法によって得られたアルミニウム顔料分散液は、アルミニウム顔料1質量部に対するポリシラザンの総添加量が0.2質量部未満である。その結果、耐水性評価試験において、耐水性が不良であった。また、分散性評価試験において、大きな塊を持つ凝集物が認められた。したがって、良好な耐水化アルミニウム顔料分散液が得られなかった。
【0186】
比較例6に係る製造方法によって得られたアルミニウム顔料分散液は、ポリシラザンを添加する工程を実施していない。その結果、耐水性が極めて不良であり、良好な耐水化アルミニウム顔料分散液が得られなかった。また、分散性評価試験において、大きな塊を持つ凝集物が認められた。したがって、良好な耐水化アルミニウム顔料分散液が得られなかった。
【0187】
比較例7および比較例8に係る製造方法によって得られたアルミニウム顔料分散液は、アルミニウム顔料1質量部に対するポリシラザンの総添加量が0.2質量部未満である。その結果、耐水性評価試験において、耐水性が不良であり、良好な耐水化アルミニウム顔料分散液が得られなかった。
【0188】
比較例9および比較例10に係る製造方法によって得られたアルミニウム顔料分散液は、被覆膜を形成する反応系において、アルミニウム顔料1質量部に対するポリシラザンの量が0.4質量部を超えている。その結果、分散性評価試験において、中程度の塊を持つ凝集物が認められ、良好な耐水化アルミニウム顔料分散液が得られなかった。
【0189】
比較例11に係る製造方法によって得られたアルミニウム顔料分散液は、被覆膜を形成する反応系において、アルミニウム顔料1質量部に対するポリシラザンの量が0.4質量部を超えている。その結果、分散性評価試験において、大きな塊を持つ凝集物が認められた。また、耐水性評価試験において、耐水性が極めて不良であった。したがって、良好な耐水化アルミニウム顔料分散液が得られなかった。
【0190】
比較例12および比較例13に係る製造方法によって得られたアルミニウム顔料分散液は、アルミニウム顔料1質量部に対するポリシラザンの総添加量が0.2質量部未満である。その結果、耐水性評価試験において、耐水性が極めて不良であり、良好な耐水化アルミニウム顔料分散液が得られなかった。
【0191】
比較例14〜比較例16に係る製造方法によって得られたアルミニウム顔料分散液は、ポリシラザンを添加する工程を実施していない。そのため、耐水性が極めて不良であり、良好な耐水化アルミニウム顔料分散液が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1の有機溶媒中にアルミニウム顔料を分散させたアルミニウム顔料分散液に、第2の有機溶媒中にポリシラザンを溶解させたポリシラザン溶液を添加し、前記アルミニウム顔料の表面に存在する水酸基と前記ポリシラザンとを反応させ、前記アルミニウム顔料の表面に被覆膜を形成する工程、を含み、
前記被覆膜を形成する反応系において、前記ポリシラザンの量は、前記アルミニウム顔料1質量部に対して0.4質量部以下であり、かつ、前記ポリシラザンの総添加量は、前記アルミニウム顔料1質量部に対して0.2質量部以上0.6質量部以下である、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記工程(a)における前記ポリシラザン溶液の添加は、複数回に分けて行う、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記工程(a)の後に、
(b)水を添加して、前記被覆膜を緻密化し緻密膜を形成する工程、を含む、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記工程(b)において添加した水に代えて、水および第3の有機溶媒の混合液を用いる、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、
前記工程(b)において添加した水または水および第3の有機溶媒の混合液は、複数回に分けて添加される、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
前記アルミニウム顔料は、5nm以上30nm以下の平均厚みを有し、かつ、0.5μm以上3μm以下の50%平均粒子径を有する平板状粒子である、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項において、
前記被覆膜の厚みは、0.5nm以上10nm以下である、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項において、
前記第1の有機溶媒は、ジエチレングリコールジエチルエーテルを含む、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、
さらに、前記第1の有機溶媒は、テトラヒドロフランおよびメチルエチルケトンから選択される少なくとも一種を含む、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項において、
前記第2の有機溶媒は、キシレンを含む、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、
さらに、前記第2の有機溶媒は、テトラヒドロフランおよびメチルエチルケトンから選択される少なくとも一種を含む、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法。
【請求項12】
請求項4において、
前記第3の有機溶媒は、テトラヒドロフランおよびメチルエチルケトンから選択される少なくとも一種を含む、耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載の耐水化アルミニウム顔料分散液の製造方法によって製造された耐水化アルミニウム顔料分散液を含有する、水性インク組成物。
【請求項14】
5nm以上30nm以下の平均厚みを有し、かつ、0.5μm以上3μm以下の50%平均粒子径を有するアルミニウム顔料の表面に、少なくともSiを含む被覆膜が形成された耐水化アルミニウム顔料であって、
前記アルミニウム顔料の表面における前記被覆膜の被覆率は、
入射角度30°におけるXPS測定から検出されるC、O、Al、Siの組成比から算出されたものであり、その値が20%以上90%以下であることを特徴とする、耐水化アルミニウム顔料。
【請求項15】
請求項14において、
前記被覆膜の厚みは、0.5nm以上10nm以下である、耐水化アルミニウム顔料。

【公開番号】特開2010−241976(P2010−241976A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92971(P2009−92971)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】