説明

耐流動性絵柄層を有する成形用加飾シート、及び射出成形体の加飾方法

【課題】成形用加飾シートの絵柄層について、延伸性を維持しながら耐流動性を向上させること。
【解決手段】基体シートの主要面に加飾層が形成されている成形用加飾シートであって、該加飾層は、顔料及びバインダー樹脂を含有する絵柄層を有し、該バインダー樹脂が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル及びセルロース誘導体の相溶性混合物である成形用加飾シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインモールド射出成形体の表面を加飾するのに適する成形用加飾シートに関し、特に絵柄層が耐流動性に優れている成形用加飾シートに関する。
【背景技術】
【0002】
加飾シートを用いてプラスチック部品や外装品のような射出成形体の表面を加飾又は保護する方法は従来から知られている。例えば、特許文献1には支持体である基体シートの片面上に加飾層が設けられた成形用加飾シート、及びこの成形用加飾シートを射出成形金型内に挿入し、インモールド射出成形することで、加飾された射出成形体を得ること(射出成形同時加飾)が記載されている。
【0003】
加飾層は、一般に、絵柄、着色剤、接着剤等が層状に積層された積層体である。物品表面に貼着された後は、加飾層は装飾機能や保護機能を奏する被覆を形成する。絵柄及び着色剤等の層は基体シート上にグラビアインキ等の印刷インキ又は塗料を順次印刷又は塗工して形成される。
【0004】
一般に、グラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ及び塗料などには、1液型熱可塑性のものと、2液型熱硬化性のものが存在する。例えば、1液型熱可塑性インキはバインダー樹脂としてアクリル樹脂のような熱可塑性樹脂を含有する。これに対し、2液型熱硬化性インキはバインダー樹脂としてポリオール及びポリイソシアネートのような熱硬化性樹脂を含有する。
【0005】
1液型熱可塑性インキを使用して成形用加飾シートの絵柄層や着色層を形成すると、バインダー樹脂である熱可塑性樹脂が射出樹脂の熱によって軟化し、射出樹脂の圧力によって流動して、絵柄の外観不良が生じ易い。特に金属薄膜細片からなる光輝性顔料は顔料の配向が僅かでも変化すると顕著に外観が変化する。そのため、光輝性顔料によって金属調の外観が付与された着色層や絵柄層では、射出樹脂の熱及び圧力による絵柄の外観不良が特に目立ってしまう。射出樹脂の熱及び圧力によってインキが流動して発生する絵柄の外観不良は、特に「インキ流れ」と呼ばれる。
【0006】
他方、2液型熱硬化性インキを使用すると、バインダー樹脂中に3次元網目構造が形成されるために絵柄層の延伸性が低下し、射出成形体の曲面部においてクラックが発生し易くなる。また、射出成形体の立体形状が複雑であったり、深みがある場合、絵柄層が立体形状に対して追随し難くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−264321
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、成形用加飾シートの絵柄層について、延伸性を維持しながら耐流動性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基体シートの主要面に加飾層が形成されている成形用加飾シートであって、
該加飾層は、顔料及びバインダー樹脂を含有する絵柄層を有し、
該バインダー樹脂が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル及びセルロース誘導体の相溶性混合物である成形用加飾シートを提供する。
【0010】
ある一形態においては、前記顔料は金属薄膜細片を含む。
【0011】
ある一形態においては、前記ポリ(メタ)アクリル酸エステルは、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル及びポリ(メタ)アクリル酸ブチルから成る群から選択される少なくとも一種である。
【0012】
ある一形態においては、前記セルロース誘導体は、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート及びエチルセルロースから成る群から選択される少なくとも一種である。
【0013】
ある一形態においては、前記ポリ(メタ)アクリル酸エステルとセルロース誘導体との質量比が固形分を基準にして1/1〜3/1である。
【0014】
また、本発明は、成形用金型内に、基体シートが金型の内面に接するような向きに請求項1〜5のいずれか記載の成形用加飾シートを送り込む工程;
金型を閉じ、溶融樹脂が加飾シートの接着層側(基体シートの反対側)の面に接するように、溶融樹脂を金型内に充満させる工程;及び
樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出す工程;
を包含する射出成形体の表面を加飾する方法を提供する。
【0015】
尚、本明細書では、「主要面」とは最も面積が大きい面をいう。シート及びフィルムでは、表面及び裏面はいずれも主要面に該当する。また、本明細書では、「絵柄層」という文言の意味には、柄を有しない着色層も含めることとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の加飾シートは、射出成形同時加飾を行った場合に絵柄層等にインキ流れが発生せず、しかも複雑又は深みがある立体形状に適用した場合でも絵柄層は立体形状に十分に追随して、曲面部にクラックが発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態である加飾シートの構造を示す断面図である。
【図2】実施例1で得られたバインダー樹脂を電子顕微鏡で40000倍に拡大した状態を示す写真である。
【図3】比較例1で得られたバインダー樹脂を電子顕微鏡で40000倍に拡大した状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
加飾シート
図1は本発明の一実施形態である加飾シートの構造を示す断面図である。基体シート1の片面に接して加飾層2が設けられている。加飾層2は基体シートの側から順に積層された絵柄層3及び接着層4を有している。
【0019】
加飾層を構成する層のうち各樹脂層の形成は、特に断らない限り、従来と同様の方法によって行うことができる。従来の層形成方法の例には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0020】
基体シート
基体シート1は、絵柄層や着色層をシート上に支持する用途に従来から使用されるシート材料又はフィルム材料から構成される。フィルム材料は合成樹脂からなるシート材料をいう。合成樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などが使用できる。
【0021】
基体シートは、射出成形同時加飾を行った後も加飾層と接着して射出成形体の最外側層を形成する場合、及び射出成形同時加飾を行った後に加飾層から剥離する場合がある。基体シートが射出成形体の最外側層を形成する場合は、基体シートは絵柄層及び射出成形体などを傷等から保護する。この場合、基体シートは熱延伸性に優れていることが好ましい。成形用加飾シートの立体形状に対する追随性が向上するからである。基体シートとしては、例えばアクリル樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂/ポリエステル樹脂アロイフィルムなどが好ましい。
【0022】
かかる材質の場合、基体シートの厚さは70〜200μm、好ましくは80〜160μm、より好ましくは90〜140μm程度である。基体シートの厚さが70μm未満であると強度が不足して射出成形同時加飾を行う際に破損するおそれがあり、200μmを超えると射出樹脂の熱が金型に逃げ難くインキ流れが発生し易くなる。
【0023】
射出成形同時加飾を行った後に、加飾層を残して基体シートを射出成形体から剥離する場合は、基体シートは薄く強靭性に優れていることが好ましい。基体シートとしては、例えば延伸ポリエステル樹脂フィルムなどが好ましい。
【0024】
かかる材質の場合、基体シートの厚さは10〜100μm、好ましくは20〜80μm、より好ましくは30〜70μm程度である。基体シートの厚さが10μm未満であると強度が不足して射出成形同時加飾を行う際に破損するおそれがあり、100μmを超えると成形用加飾シートの立体形状に対する追随性が低下することがある。
【0025】
加飾層
加飾層2は基体シートの主要面に設けられる。加飾層は基体シートの片面に設けられても両面に設けられてもよい。加飾層は、少なくとも絵柄層3を有する。絵柄層は複数積層して形成されてよく、シート面の一部に形成されてもよい。また、加飾層2は、要すれば基体シート1と絵柄層3の間に、ハードコート層(非表示)やアンカー層(非表示)、また絵柄層3の露出表面に隣接して、着色層(非表示)、追加のアンカー層(非表示)や接着層4を有してよい。
【0026】
射出成形同時加飾を行った後に、加飾層2を残して基体シート1が射出成形体から剥離される場合、加飾層2は基体シート1に対して離型性を有する必要がある。かかる場合は、基体シート1と絵柄層3との間に、基体シート1に接するように離型層(非表示)が形成される。
【0027】
剥離層は転写時に基体シートと一緒になって転写層から分離するものであってよく、基体シートから分離して転写層の最外側表面を形成するものであってもよい。離型層の材質としては、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、セルロース誘導体、尿素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、パラフィン系樹脂およびこれらの複合物などを用いることができる。
【0028】
接着層4は、必要に応じて、成形用加飾シートの被加飾物、すなわち射出成形体に最も近い面に設けられる。接着層は、射出成形同時加飾の時に、加飾層と射出成形体とを接着するものである。接着層としては、射出成形体に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。たとえば、射出成形体の材質がアクリル系樹脂の場合はアクリル系樹脂を用いるとよい。
【0029】
また、射出成形体の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。さらに、射出成形体の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。
【0030】
絵柄層
絵柄層3は、例えば、インキ又は塗料を基体シート1の表面に展着させて形成する。基体シート1と絵柄層3の間にハードコート層やアンカー層が形成される場合は、インキ又は塗料はこれらの層の表面に展着させる。インキ又は塗料を展着させる方法としては、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷等の印刷方式;及びグラビアコーター、グラビアリバースコーター、フレキソコーター、ブランケットコーター、ロールコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、キスタッチコーター、キスタッチリバースコーター、コンマコーター、コンマリバースコーター、マイクログラビアコーター等の塗工方式を用いることが出来る。
【0031】
絵柄層の厚さは特に限定されないが、隠蔽性及び意匠性に優れ、かつ熱成形時に色むらが発生しにくいことから、0.1〜5μmが好ましく、特に好ましくは0.5〜3μmである。基体シートと絵柄層の密着性を制御する目的で、基体シートの表面にはコロナ処理やプライマー塗工等の表面処理を施しても良い。
【0032】
絵柄層を形成するために、金属薄膜細片をバインダー樹脂中に分散した、鏡面状金属光沢を有するインキ(以下、高輝性インキと言う。)からなる高輝性インキ層を用いることができる。金属薄膜細片のインキ中の不揮発分に対する含有量は、3〜60質量%の範囲であることが好ましい。顔料として金属薄膜細片を使用した高輝性インキは、該インキを印刷又は塗布した際に金属薄膜細片が被塗物表面に対して平行方向に配向する結果、従来の金属粉を使用したメタリックインキでは得られない高輝度の鏡面状金属光沢が得られる。
【0033】
該高輝性インキ層に使用する高輝性インキに用いられる金属薄膜細片の金属としては、アルミニウム、金、銀、銅、チタン、クロム、ニッケル、インジウム、モリブデン、タングステン、パラジウム、イリジウム、シリコン、タンタル、ニッケルクロム、クロム銅、アルミニウムシリコン、真鍮、ステンレス等を使用することができる。金属を薄膜にする方法としては、アルミニウムのように融点の低い金属の場合は蒸着、アルミニウム、金、銀、銅など展性を有する場合は箔、融点が高く展性も持たない金属の場合はスパッタリング等を挙げることができる。
【0034】
これらの中でも、蒸着金属薄膜から得た金属薄膜細片が好ましく用いられる。金属薄膜の厚さは、0.01〜0.10μmが好ましく、さらに好ましくは0.02〜0.08μmである。インキ中に分散させる金属薄膜細片の面方向の大きさは、5〜25μmが好ましく、さらに好ましくは10〜15μmである。上記範囲内であると、金属薄膜細片が容易に配向するため十分な輝度が得られるほか、グラビア方式あるいはスクリーン印刷方式でインキを印刷又は塗布する場合に、版の目詰まりの原因とならない。
【0035】
金属薄膜細片は、インキ中における分散性を高めるために表面処理されるのが好ましい。表面処理剤としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の有機脂肪酸;及びメチルシリルイソシアネート、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、エチルセルロース等のセルロース誘導体が挙げられ、公知慣用の方法で金属薄膜細片表面に吸着させる。
【0036】
絵柄層を形成するインキ又は塗料のバインダー樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸エステル及びセルロース誘導体の相溶混合物を用いる。絵柄層の耐流動性が向上してインキ流れが防止されるからである。両樹脂が相溶すると分子鎖に絡み合いが生じるため、高温下で圧力がかかってもバインダー樹脂のマトリックスが流動し難くなると考えられる。この効果は、特に顔料として金属薄膜細片を含む高輝性インキを用いる場合に顕著に現れる。
【0037】
ポリ(メタ)アクリル酸エステルとしては、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸イソプロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸イソブチル及びポリ(メタ)アクリル酸sec−ブチルから成る群から選択される少なくとも一種が好ましい。これらの中でも特に好ましいものはポリ(メタ)アクリル酸エチルであり、最も好ましくはポリメタクリル酸エチルである。
【0038】
ポリ(メタ)アクリル酸エステルの分子量は、質量平均分子量が10〜30万、好ましくは18〜28万、より好ましくは20〜25万程度である。ポリ(メタ)アクリル酸エステルの質量平均分子量が10万未満であると分子鎖が短くなり、分子同士の絡み合いが少なくなるため、インキ流れに対する耐性が低くなる。また、分子量が30万を超えると溶液粘度が高くなり、印刷しづらくなる。
【0039】
セルロース誘導体としては、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート及びエチルセルロースから成る群から選択される少なくとも一種が好ましい。これらの中でも特に好ましいものはセルロースアセテートプロピオネートである。
【0040】
セルロースアセテートプロピオネートは、主にアセチル基とプロピオニル基とを置換基として有するセルロースエステル樹脂である。セルロースアセテートプロピオネートは印刷インキのバインダーとして用途があり、粉体又は適当な有機溶媒に溶解した溶液の形態で市販されている。この種のセルロースアセテートプロピオネートは、例えば、アセチル基含有量が0.5〜3.0質量%、好ましくは1.5〜2.0質量%、プロピオニル基含有量が40〜50質量%、好ましくは47〜49質量%、水酸基含有量が1.0〜5.0質量%、好ましくは1.5〜2.0質量%、融点が188〜210℃である(ガラス転移温度は140〜160℃)。
【0041】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル及びセルロース誘導体は、相溶するのに適当な比率で混合される。両者が相溶したことは、混合液の外観が透明になることで確認される。また、混合後の樹脂の外観を顕微鏡などで拡大して観察した場合に均質であれば両者は相溶している。
【0042】
ポリ(メタ)アクリル酸エステルとセルロース誘導体との具体的な混合比は、固形分質量を基準にして1/1〜3/1、好ましくは3/2〜5/2、より好ましくは2/1である。両者の混合比が1/1未満であるとインキ流れには効果はあるが、印刷適性が悪くなる。即ち、セルロース誘導体の含有量が多すぎるインキは汎用される印刷インキに対する馴染み性が低く、層を重ねて印刷した場合に色柄が乱れ易くなる。両者の混合比が3/1を超えるとインキ流れを抑制する効果がほとんど見られなくなる。
【0043】
高輝性インキには、必要に応じて、意匠性、展延性を阻害しない限り、インキ中に消泡、沈降防止、顔料分散、流動性改質、ブロッキング防止、帯電防止、酸化防止、光安定性、紫外線吸収、内部架橋等を目的として、従来のグラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、あるいは塗料等に使用されている各種添加剤を使用することができる。このような添加剤としては、着色用顔料、染料、ワックス、可塑剤、レベリング剤、界面活性剤、分散剤、消泡剤、キレート化剤、ポリイソシアネート等を挙げることができる。
【0044】
高輝性インキ層に使用する高輝性インキに用いられる溶剤としては、従来のグラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、あるいは塗料等に使われている公知慣用の溶剤を使用することができる。具体的にはたとえば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0045】
一般にインキの配合原料を安定して分散させるには、ロールミル、ボールミル、ビーズミル、あるいはサンドミル等を使用して練肉することにより、顔料その他添加剤をサブミクロンまで微粒子化する。しかし、本発明の鮮映性に優れた熱成形用積層シートの高輝性インキ層に使用する高輝性インキに、金属光沢を発現させるために配合する金属薄膜細片は5〜25μmの大きさが好ましい。上記練肉を行った場合は金属薄膜細片が微粒子化してしまい、金属光沢が極端に低下する。したがって、本発明においては練肉は行わず、単に上記配合原料を混合してインキとすることが望ましい。そのためには、分散性を向上させる目的で、前記したように金属薄膜細片を表面処理しておくことが好ましい。
【0046】
物品の加飾方法
本発明の加飾シートを使用して熱ロール転写やインモールド成形などにより、物品を加飾することができる。例えば、熱ロール転写においては、加飾シートの接着層側(基体シートの反対側)の面を被加飾物の表面に重ね、ロール転写機、アップダウン転写機などの転写機を用いて、加飾シートの基体シート側から熱及び圧力をかける。こうすることにより、加飾シートが被加飾物の表面に接着し、物品の表面が加飾される。
【0047】
また、インモールド射出成形においては、まず、成形用金型内に、基体シートが金型の内面に接するような向きに加飾シートを送り込む。次いで、金型を閉じ、溶融樹脂が加飾シートの接着層側(基体シートの反対側)の面に接するように、すなわち、加飾シートが溶融樹脂と金型の内面に挟まれるように、溶融樹脂を金型内に充満させる。その結果、溶融樹脂は成形され、同時に加飾シートは射出成形体の表面に接着される。樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出すと、加飾層が射出成形体の表面に接着されて、射出成形体の表面が加飾される。
【0048】
基体シートと加飾層の間に離型層が形成されている場合は、最後に基体シートが剥離される。
【0049】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、実施例中「部」又は「%」で表される量は特に断りなき限り質量を基準にして表す。
【実施例】
【0050】
実施例1
分子量23万及びガラス転移温度(Tg)65℃のポリエチルメタクリレート10部、アセチル基含有量1.3質量%、プロピオニル基含有量48質量%、水酸基含有量1.7質量%、融点188〜210℃(Tgは147℃)のセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル製「CAP−482−20」)5部(固形分)を混合してバインダー樹脂を得た。図2は得られたバインダー樹脂を電子顕微鏡で40000倍に拡大した状態を示す写真である。写真に示されている樹脂のモルホロジーは均質であり、相溶していることが確認された。
【0051】
このバインダー樹脂を14部(固形分)、金属薄膜細片としてアルミニウム薄膜細片を5部、酢酸エチル23部、メチルエチルケトン26部、イソプロパノール10部を混合し、不揮発分中のアルミニウム薄膜細片濃度が42質量%である光輝性インキを調製した。
【0052】
基体シートとして厚さ125μmのアクリル系フイルムを準備した。このフィルムの上に、絵柄層として光輝性インキをグラビアコーターを使用して乾燥膜厚2μmとなるように塗工した。更にアクリル系樹脂を含む塗料を塗布乾燥して接着層を形成して、加飾フィルムを得た。上記工程において樹脂層の形成は全てグラビアコート法にて行った。
【0053】
得られた加飾フィルムを金型に入れて、ポリカーボネート/ABSアロイ樹脂のインモールド射出成形を行い、自動車内装用スイッチベースを作成した。
【0054】
得られたスイッチベース成形品の外観は均一な高輝度の鏡面状光沢を有しており、樹脂の射出ノズルに対応する部位にもインキ流れは認められなかった。また、立体形状の曲面部位にもクラックは発生しなかった。
【0055】
比較例1
ポリエチルメタクリレートの代わりに分子量25万及びガラス転移温度(Tg)65℃のポリイソブチルメタクリレートを10部(固形分)用いること以外は実施例1と同様にしてバインダー樹脂を得た。図3は得られたバインダー樹脂を電子顕微鏡で40000倍に拡大した状態を示す写真である。写真に示されている樹脂のモルホロジーは不均質であり、相溶していないことが確認された。
【0056】
このバインダー樹脂を14部(固形分)、金属薄膜細片としてアルミニウム薄膜細片を5部、酢酸エチル23部、メチルエチルケトン26部、イソプロパノール10部を混合し、不揮発分中のアルミニウム薄膜細片濃度が42質量%である光輝性インキを調製した。
【0057】
基体シートとして厚さ125μmのアクリル系フイルムを準備した。このフィルムの上に、絵柄層として光輝性インキをグラビアコーターを使用して乾燥膜厚2μmとなるように塗工した。更にアクリル系樹脂を含む塗料を塗布乾燥して接着層を形成して、加飾フィルムを得た。上記工程において樹脂層の形成は全てグラビアコート法にて行った。
【0058】
得られた加飾フィルムを金型に入れて、ポリカーボネート/ABSアロイ樹脂のインモールド射出成形を行い、自動車内装用スイッチベースを作成した。
【0059】
得られたスイッチベース成形品の外観は均一な高輝度の鏡面状光沢を有していたが、樹脂の射出ノズルに対応する部位でインキ流れが認められた。
【符号の説明】
【0060】
1…基体シート、
2…装飾層、
3…絵柄層、
4…接着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シートの主要面に加飾層が形成されている成形用加飾シートであって、
該加飾層は、顔料及びバインダー樹脂を含有する絵柄層を有し、
該バインダー樹脂が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル及びセルロース誘導体の相溶性混合物である成形用加飾シート。
【請求項2】
前記顔料が金属薄膜細片を含む請求項1記載の成形用加飾シート。
【請求項3】
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステルが、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル及びポリ(メタ)アクリル酸ブチルから成る群から選択される少なくとも一種である請求項1又は2記載の成形用加飾シート。
【請求項4】
前記セルロース誘導体が、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート及びエチルセルロースから成る群から選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか記載の成形用加飾シート。
【請求項5】
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステルとセルロース誘導体との質量比が固形分を基準にして1/1〜3/1である請求項1〜4のいずれか記載の成形用加飾シート。
【請求項6】
成形用金型内に、基体シートが金型の内面に接するような向きに請求項1〜5のいずれか記載の成形用加飾シートを送り込む工程;
金型を閉じ、溶融樹脂が加飾シートの接着層側(基体シートの反対側)の面に接するように、溶融樹脂を金型内に充満させる工程;及び
樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出す工程;
を包含する射出成形体の表面を加飾する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−68086(P2011−68086A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222852(P2009−222852)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】