説明

耐火パネル

【課題】コンクリート構造物の表面に装着する耐火パネルに係り、パネル本体と埋設されたナット部材との熱膨張率の相違によりパネル本体に亀裂が生じるのを防止するとともに、動風圧によるナット部材の損傷を防止する。
【解決手段】無機質材からなるパネル本体14と、コンクリート構造物の表面側に開口し、パネル本体14内に埋設されたナット部材7をセラミックスにより形成し、かつナット部材7の外形形状を曲面状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート構造物の表面に装着する耐火パネルに係り、例えばシールドトンネル等のトンネルの覆工内面へ装着する耐火パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、シールドトンネルにおいては、トンネル内面の覆工材としてコンクリート製のセグメントが一般的に用いられている。また、最近は、この種のシールドトンネルを耐火構造とすることが求められており、その耐火構造としては、セグメント内面に直接耐火材料を吹き付け、塗布して耐火構造とするもの、あるいは耐火パネルを装着するものが知られている。
【0003】
例えば、耐火パネルを装着するものとしては、特許文献1が知られており、これについて説明すると、図8において、1は既設のシールドトンネルであり、地山の内面に鉄筋コンクリートパネル、あるいは鉄とコンクリートとの合成パネル等からなる一次覆工体(コンクリート構造物、コンクリートセグメント)2を環状に構築して、トンネル内壁が構築されている。一次覆工体2内には床スラブ3が打設されており、床スラブ3の上面が自動車走行用の道路床4となる。又、一次覆工体2の内面には耐火パネル5が配設され、耐火パネル5は断熱材とその内側にボルトにより取り付けられた金属板とにより形成されている。2a,5aは一次覆工体2の目地部及び耐火パネル5の目地部である。
【0004】
しかし、このように、耐火パネルの取付部材がトンネルの内面側に露出していると、火災時に取付部材が火炎や熱に直接曝され、耐火性の劣化に影響することから、取付部材が表面に露出しないように工夫したものもある。例えば、特許文献2においては、耐火パネルを固定する金属ボルトの頭部を耐火パネル内に埋没して耐火性の目地材で被覆し、金属ボルトの頭部がトンネル内周面に露出しないようにしている。又、特許文献3は、上記のような目地作業を改善したものであり、耐火パネルの取付において取付部材がトンネル内面側に露出しないように、ナット部材がパネル本体に埋設されている。
【特許文献1】特開2002−201896号公報
【特許文献2】特開2001−311395号公報
【特許文献3】特開2004−238873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3によれば、トンネルの内面側に耐火パネルの取付部材は露出しないが、パネル本体にナット部材を埋設する必要がある。このナット部材の材質や形状については開示されていないが、円筒状で一端に円板状の鍔部を備えた形状から推察すると、金属製であると思われる。一方、耐火パネルのトンネル内面側は、例えば1200℃に1時間曝されても耐火、耐熱性があることが求められており、次のような課題があった。即ち、加熱されたパネル本体の熱はパネル本体で吸収されるが、熱の一部はナット部材及びボルトを介してセグメント側に伝わる。このため、ナット部材は集中して加熱されることになり、パネル本体と埋設されたナット部材との熱膨張の違いにより、膨張するナット部材によりパネル本体に亀裂が生じる可能性があった。又、ナット部材が角張った形状であることから、トンネル内を通過する車両による動風圧の影響により、パネル本体は振動を繰り返し、ナット部材の埋設力が低下する可能性があった。
【0006】
そこで、発明者らは、ナット部材を熱膨張率がパネル本体と同程度の材料により形成し、また動風圧の影響による振動の影響を受け難くするために、ナット部材の外形形状を曲面状の滑らかな形状にすることにより、上記課題を解決できることに着目した。即ち、ナット部材をセラミックスにより形成することにより、パネル本体との熱膨張率を近似させることができ、ナット部材の存在によりパネル本体に亀裂が生じるという課題を解決することができ、またナット部材が滑らかな曲面からなる部材であることから、振動による損傷を防止することができることに着目した。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するために成されたものであり、パネル本体の亀裂の発生を防止することができるとともに、動風圧の影響による振動によりナット部材が損傷するのを防止することができる耐火パネルを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の請求項1に係る耐火パネルは、コンクリート構造物の表面に装着する耐火パネルであり、無機質材からなるパネル本体と、コンクリート構造物の表面側に開口し、パネル本体内に埋設された複数のナット部材とを備え、ナット部材をセラミックスにより外形形状を曲面状に形成したものである。
請求項2に係るに係る耐火パネルは、パネル本体が、水硬化反応による無機質材からなる結合体であるものである。
請求項3に係る耐火パネルは、ナット部材が、一端が開口するとともに他端が閉鎖した半円筒状であり、軸方向略中央部の外径をD、開口側端部の外径をD1、閉鎖側端部の外径をD2として、D>D1,D2とし、中央部と両端間を凸曲面状に形成したものである。
【0009】
請求項4に係る耐火パネルは、ナット部材が、袋ナットであるものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のようにこの発明によれば、ナット部材をセラミックスにより形成したので、熱膨張率をパネル本体と近似したものとすることができ、パネル本体とパネル本体に埋設したナット部材との熱膨張率の相違により火災時の加熱によりパネル本体に亀裂等が生じるのを防止することができる。又、ナット部材の外形形状を曲面状に形成したので、振動による損傷を防止することができる。従って、通常時及び火災時において安定、安全な耐火パネルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面とともに説明する。図4(a)〜(c)はこの発明の実施最良形態による曲面状の耐火パネルの製造方法の説明図であり、曲面状の耐火パネルは曲面状のコンクリート構造物の表面(内面)に装着される。曲面状の型枠6にはコンクリート構造物の表面側に開口するとともに、パネル本体内に埋設される複数のナット部材7が取り付けられる。図4(a)において、6は金属製の曲面状の中空型枠であり(図では便宜上直線状に記載している。)、その上部凸面側に複数の耐火原料の圧入口6aを有する。型枠6は搬送ローラ8に載置されて搬入されるが、図4(b)に示すように型枠6は凹面を下部側にして搬送側面ガイド9により案内されて搬送される。次の原料圧入工程においては、型枠6の上部凸面側の原料圧入口6aから耐火原料を圧入する。耐火原料は、主成分の骨材と、結合材である水硬性無機質材と、靭性化付与繊維質材とを含む無機質材からなる。骨材としては、コーディエライト等を用い、水硬性無機質材としてはアルミナセメント又は高炉セメント等を用いる。靭性化付与繊維質材は耐アルカリ性の繊維であり、ポリビニルアルコール系繊維等を用いる。そして、これらの各材料を有水下で混練して水硬性混和物を得る。
【0012】
次に、水硬性混和物を圧入をしながら、又は圧入後に図2(c)の振動工程においては、型枠6又は搬送側面ガイド9に直接振動を与え、気泡の除去を行い、型枠6内の原料充填を確実に行う。振動を付与するものとしては、コンクリートバイブレータとして一般的に使用されているものを使用する。例えば、特開2000−27440号公報等により知られているもの又は加振機である。次に、圧入された水硬性混和物の粘性が増大する前に水蒸気養生し、水硬性混和物の自硬化後、脱型して、ナット部材7が埋設されたパネル本体を得る。従って、パネル本体は水硬化反応による無機質材からなる結合体である。
【0013】
図5(a)は図4(b)のA部拡大展開断面図を示し、型枠6の上部凸面側にはナット部材7が取付ボルト10により取り付けられ、型枠6の内部には耐火原料充填空間6eが形成される。原料圧入口6aは図示しない空気孔を有するとともに、図5(a)のB部拡大図である図5(b)に示すように蝶番6bを介して開閉自在な蓋6cが設けられ、また蓋6cを原料圧入口6aにロックするロック部6dが設けられる。又、図5(c)は図5(a)のC部拡大図を示し、筐体状の型枠6の下枠上に内装材となる琺瑯鋼板11を設ける。内装材が不要なトンネルの中・上部に設置する耐火パネルの場合には、琺瑯鋼板11は不要である。琺瑯鋼板11は、トンネル内の全面に適用してもよいが、高価となるので、トンネル内の下部(車道に近接した側部の部分)に設置し、排気ガス等の汚損に対する清掃が容易に行えるようにしている。又、トンネル内には、視線誘導効果のために、トンネル内の照明灯、ヘッドライトによる可視光を反射させるために、琺瑯鋼板11が適用されている。
【0014】
琺瑯鋼板11はステンレス鋼板11aの内面側にステンレス製の金属メッシュ等の固定強化部材11bを点溶接部11cにより溶接した後、ステンレス鋼板11aの外面側に琺瑯層11dを施す。固定強化部材11bは、琺瑯鋼板11と耐火層との結合力を確保するために設ける。固定強化部材11bとしては、金属メッシュに限らず、棒状のアングル材やチャンネル材等でもよい。金属メッシュを使用した場合には、波状に加工して、結合力を一層強固にする。なお、琺瑯層11dをパネル本体に直接設けることも可能である。又、耐汚損性及び視線誘導効果の向上のために、琺瑯鋼板11を設けたが、琺瑯鋼板11以外のものを用いてもよい。さらに、琺瑯鋼板11は必ずしも設けなくても良く、ナット部材7を埋設したパネル本体14のみによって耐火パネル13を形成してもよい。
【0015】
図6(a)は図5(a)のD部拡大図、図6(b)はさらにその一部拡大図を示し、型枠6の上枠の下側には断面台形状の鳩尾状の穴6fが設けられるとともに、上枠の上側から穴6fに貫通する貫通孔6gが設けられ、穴6fには断面台形状のゴムパッキン12を嵌合し、両者の間を接着剤で接着する。ゴムパッキン12は流動性がある耐火原料がナット部材7内に浸入するのを防止するために設ける。ゴムパッキン12には、例えば、硬度70〜90°のSBR(スチレン・ブタジェン・ラバー)を使用する。ナット部材7はアルミナセラミックス焼結体により外径形状を曲面状に形成する。又、ナット部材7は一端が開口するとともに、他端が閉鎖した半円筒状の袋ナットに形成し、軸方向略中央部の外径をD、開口側端部の外径をD1、閉鎖側端部の外径をD2として、D>D2≧D1とし、中央部と両端間を凸曲面状に形成する。ナット部材7の外周には切欠した回り止め7aを設け、取付ボルト10を型枠6の貫通孔6g及びゴムパッキン12の挿通孔12aに挿通し、ナット部材7に螺合して、ナット部材7を型枠6に取り付ける。
【0016】
図8に示すように、耐火パネル5は一次覆工体2であるコンクリートセグメントの内面に取り付けられるので、ナット部材7の型枠6に対する取付位置は、基本的にはコンクリートセグメントとの関係で決まる。又、琺瑯鋼板11を設置している場合には、固定強化部材11bの存在によりナット部材7の埋設効果が影響を受けないように、固定強化部材11bとの干渉を避ける必要がある。固定強化部材11bが金属メッシュの場合には、図5(a)に示すように、波状の金属メッシュ11bとの距離が離れる位置、即ち波の谷に対向する部分に取り付ける。又は、図7に示すように金属メッシュ11bのメッシュ線間の中央部分に取り付ける。
【0017】
図1(a)は上記のようにして製造された耐火パネル13の一例を示し、曲面状に形成されたパネル本体14は、曲率半径が5550mm、幅が1550mm、高さが1150mm、厚さが27mmであり、ナット部材7は二個一組で計6箇所に埋設する。又、図1(b)はシールドトンネル1を水平に切断した場合の一次覆工体(コンクリートセグメント)2に対する耐火パネル13の取付構造を示し、一次覆工体2にもセラミックス製で、かつナット部材7と相似形で大きいナット部材15を埋設し、このナット部材15に固定金具16をボルト17により取り付ける。一方、耐火パネル13の埋設された一組のナット部材7間に取付金具18をボルト19により取り付ける。図2(a)は固定金具16の斜視図を示し、コ字状の本体部16aの端部から上下に折曲して突出した係合部16bが設けられるとともに、本体部16aの中央部にボルト17の挿通孔16cが設けられており、この挿通孔16cに挿通したボルト17を一次覆工体2に螺着することにより固定金具16を一次覆工体2に取り付ける。係合部16bは下側の方が長い。
【0018】
図2(b)はシールドトンネル1を縦に切断した場合の一次覆工体2に対する耐火パネル13の取付構造を示し、上部側の耐火パネル13に取り付けた取付金具18及び下部側の耐火パネル13に取り付けた取付金具18に固定金具16の上下の係合部16bを挿入するとともに、耐火パネル13と固定金具16の係合部16bとの間に板ばね20を挿入して、金具16,18間を固定する。
【0019】
一次覆工体2に対する耐火パネル13の取付作業について図3により改めて説明すると、図3において、下部側の耐火パネル13の下部は既に覆工体2側の固定金具16及び耐火パネル13側の取付金具18を介して覆工体2側に固定されている。ここで、下部側の耐火パネル13の上部にボルト19により取り付けた取付金具18に覆工体2に取り付けた固定金具16の下部の係合部16bを挿入し、耐火パネル13と下部の係合部16bとの間に板ばね20を挿入して、金具16,18間を固定し、下側の耐火パネル13を固定する。次に、上部側の耐火パネル13の下部に取り付けた取付金具18に覆工体2側の固定金具16の上部の係合部16bを挿入し、耐火パネル13と上部側の係合部16bとの間に板ばね20を挿入して、金具16,18間を固定し、上部の耐火パネル13の下部を固定する。以後、同様にして、覆工体2の内壁に順次、耐火パネル13を取り付ける。
【0020】
以上のように、上記実施最良形態においては、パネル本体14に埋設したナット部材7をセラミックスにより形成したので、熱膨張率を無機質材からなるパネル本体14と近似したものとすることができ、パネル本体14とナット部材7との熱膨張率の相違により火災時の加熱によりパネル本体14に亀裂等が生じるのを防止することができる。又、ナット部材7の外形形状を曲面状に形成したので、振動による損傷を防止することができる。従って、通常時及び火災時において安定、安全な耐火パネル13を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施最良形態による耐火パネルの斜視図及び一次覆工体に対する耐火パネルの取付構造の横断平面図である。
【図2】この発明の実施最良形態による固定金具の斜視図及び一次覆工体に対する耐火パネルの取付構造の縦断正面図である。である。
【図3】この発明の実施最良形態による一次覆工体に対する耐火パネルの取付作業の説明図である。
【図4】この発明の実施最良形態による耐火パネルの製造方法の説明図である。
【図5】図4(b)のA部拡大展開断面図、図5(a)のB部拡大図及びC部拡大図である。
【図6】図5(a)のD部拡大図及びその一部拡大図である。
【図7】この発明の実施最良形態によるナット部材の金属メッシュに対する配置関係の説明図である。
【図8】特許文献1に示されたシールドトンネルの斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1…シールドトンネル
2…一次覆工体
6…型枠
7…ナット部材
13…耐火パネル
14…パネル本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面に装着する耐火パネルであり、無機質材からなるパネル本体と、コンクリート構造物の表面側に開口し、パネル本体内に埋設された複数のナット部材とを備え、ナット部材をセラミックスにより外形形状を曲面状に形成したことを特徴とする耐火パネル。
【請求項2】
パネル本体は、水硬化反応による無機質材からなる結合体であることを特徴とする請求項1記載の耐火パネル。
【請求項3】
ナット部材は、一端が開口するとともに他端が閉鎖した半円筒状であり、軸方向略中央部の外径をD、開口側端部の外径をD1、閉鎖側端部の外径をD2として、D>D1,D2とし、中央部と両端間を凸曲面状に形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の耐火パネル。
【請求項4】
ナット部材は、袋ナットであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の耐火パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−39924(P2007−39924A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223557(P2005−223557)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(500551323)明電セラミックス株式会社 (7)
【出願人】(000223159)東和耐火工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】