説明

耐火モルタル硬化成形物

【課題】クラックを抑制し、耐熱衝撃性に優れた耐火モルタル硬化成形物を提供する。
【解決手段】セラミック基材の表面に、セラミック粒子をシラノール基を有する無機バインダーと水により混練した耐火モルタルを施工して形成された耐火モルタル硬化成形物である。耐火モルタル中のセラミック粒子の平均粒子径を10〜50μm、90%粒子径と10%粒子径の差を10μm以上60μm以下とし、かつ耐火モルタル硬化成形物の平均気孔径を5〜25μm、気孔径分布の幅を20μm以上80μm以下とすることによって、クラックを抑制する。なお、かさ密度を0.9〜1.5g/cmとすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温で使用する溶融炉や焼成炉などのライニングなどに使用される耐火煉瓦等のセラミック耐火物の表面もしくは目地部分に形成された耐火モルタル硬化成形物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質のセラミック耐火物の表面もしくは目地部分に、使用される雰囲気との断絶による耐蝕性や機械的強度向上や接着や補修などの目的で耐火モルタル硬化成形物を形成することがある。このような場合には、耐火モルタルを基材表面もしくは目地部分に施工する際に基材に水分が吸収されるため、耐火モルタル硬化成形物に局部的な収縮差が生じ、微細なクラックが発生することがある。また基材に水分が吸収されることにより耐火モルタルの粘度が上昇し、施工性が低下するという問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するために、特許文献1には、タップかさ密度が1.3g/cm以上であり、平均粒子径が20〜55μmである粉末と水とを含む材料が開示されている。この特許文献1の技術は、水分吸収を抑制し、収縮差を抑制することによってセラミックの成形物のクラックや剥離を防止しようとするものである。
【0004】
しかしこの特許文献1の技術によっても、セラミックの成形物に初期に発生するクラック及び塗工後の加熱により発生するクラックの抑制は不十分であり、耐熱衝撃性の点で未だ満足できない点があった。一般にクラックはセラミックの成形物が乾燥・加熱工程において熱応力を受けることにより発生するが、組織中に気孔が存在するとクラックの進展が防止される。しかし特許文献1のセラミックの成形物では気孔の大きさがバラバラで局所的な偏りが大きいため、クラックの抑制を十分に行うことができないものと推察される。
【特許文献1】特開2004‐231506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した従来の問題点を解決して、セラミック耐火物の表面もしくは目地部分に形成された耐火モルタル硬化成形物に初期に発生するクラック及び施工後の加熱により発生するクラックを抑制し、耐熱衝撃性を向上させた耐火モルタル硬化成形物を提供することを目的とするものである。また本発明のその他の目的は、耐食性能やセラミック耐火物を保護性能を向上させることも可能な耐火モルタル硬化成形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、セラミック耐火物の表面もしくは目地部分に耐火モルタルを硬化させて成形した成形物であって、耐火モルタルを構成するセラミック粒子の平均粒子径を10〜50μm、90%粒子径と10%粒子径の差を10〜60μmとし、かつ耐火モルタル硬化成形物の平均気孔径を5〜25μm、気孔径分布の幅を20〜80μmとしたことを特徴とするものである。なお、請求項2のように耐火モルタル硬化成形物のかさ密度を0.9〜1.5g/cmとすることが好ましい。
【0007】
また請求項3のように、耐火モルタル硬化成形物が、セラミック粒子をシラノール基を有する無機バインダーと水により混練したモルタルをセラミック基材の表面に配して形成されたものであることが好ましい。さらに請求項4のように、セラミック基材が多孔質セラミックであり、請求項5のように、セラミック基材及びセラミック粒子を共にコージライト質とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐火モルタル硬化成形物を構成するセラミック粒子の平均粒子径を10〜50μm、90%粒子径と10%粒子径の差を10μm以上60μm以下とし、セラミック粒子の粒度分布を制御した。またこれにより形成される耐火モルタル硬化成形物の平均気孔径を5〜25μm、気孔径分布の幅を20μm以上80μm以下と制御した。このようにして耐火モルタル硬化成形物の気孔径のバラツキを小さくしたので、クラックの進展を効果的に抑制し、耐久性、信頼性に優れた耐火モルタル硬化成形物を得ることができる。なお、耐火モルタル硬化成形物の気孔径やその分布は、市販の解析ソフトを利用した画像解析により求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
本発明の耐火モルタル硬化成形物はセラミック耐火物の表面もしくは目地部分にモルタルを施工することにより形成されるものである。セラミック耐火物は特に限定されるものではないが、セラミック耐火物は一般的に多孔質であり、この実施形態では耐火煉瓦等を用いる耐火炉材の一部として使用されたり、炉材煉瓦の表面を保護や強度向上を狙って使用されることなどがある。セラミック耐火物は構造用耐火物以外とすることもできる。また、ここで言う多孔質とは気孔率20〜70%のものを示す。
【0010】
本発明の耐火モルタル硬化成形物は、セラミック粒子を主成分とし、水及びシラノール基を有する無機バインダーとしてシリカゾルなどで混練し、施工に適した粘性に調整したものである。後記する実施例に示すように、10%を越えない少量のセラミックファイバー、0.1〜0.2%程度の有機バインダー、0.5〜1.5%程度の粘土鉱物などを添加することができる。このとき有機バインダーはカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ウレタン、デンプン、などが挙げられる。セラミックスファイバーは耐火モルタル硬化成形物の弾性率向上、ファイバーの引き抜き効果によるクラック抑制や強度向上などを得ることができる。有機バインダーや粘土は適度な粘性が付与され、均一混合性と共に施工性などの他に、適正な範囲に結合力を向上させることで、耐火モルタル硬化成形物の強度を向上させ施工性を向上させるために添加させるものである。
【0011】
セラミック粒子としてはムライト、コージライト、アルミナ、炭化珪素などの各種セラミック粒子を用いることができるが、耐火モルタル硬化成形物の主成分はセラミック耐火物と同質とすることが熱膨張差を抑制するうえで有利であり、ムライト質のセラミック耐火物の表面もしくは目地部分に形成される耐火モルタル硬化成形物の場合には、セラミック粒子としてムライト粒子を使用することが好ましく、コージライト質の耐火物の場合はコージライト粒子を使用することが好ましい。
【0012】
セラミック粒子の粒度分布は一般に正規分布またはそれに近いものとなるが、通常の粉砕法により製造すると0.1μmから数百μmに及ぶ広範な粒径に分布する。しかしそのような通常の粒度分布を持つセラミック粒子をモルタルの主成分とすると、耐火モルタル硬化成形物中の粒径の大きい粗大粒子の近傍には大きな気孔が形成され、微粒子が集まった部分には微小な気孔が形成されることとなって、気孔径のバラツキも大きくなる。その結果、クラックの進展を抑制する効果が小さい部分が局部的に生じ、耐火モルタル硬化成形物の耐熱衝撃性などが低下することとなる。
【0013】
そこで本発明では、耐火モルタル硬化成形物を構成するセラミック粒子の平均粒子径を、10〜50μmとし、また90%粒子径と10%粒子径の差を10μm以上60μm以下とする。ここで平均粒子径とはメジアン径を意味するもので、図1に示すようにセラミック粒子の粒度分布をグラフで示した場合、累積値が50%となる粒径を意味する。この平均粒子径が10μm未満となると耐火モルタル硬化成形物の収縮が大きくなってクラックの発生を招き、50μmを越えると耐火モルタル硬化成形物の気孔径も大きくなってクラックの進展を抑制する効果が低下する。
【0014】
また50%粒子径が10〜50μmの範囲にあっても、広範な粒度分布である場合には耐火モルタル硬化成形物の気孔径のバラツキが大きくなることは前述の通りである。そこで本発明では90%粒子径と10%粒子径の差を10μm以上60μm以下とした。90%粒子径とは累積値が90%となる粒子径であり、10%粒子径とは累積値が10%となる粒子径であり、図1に示した。この限定はシャープな粒度分布であることを意味するもので、90%粒子径と10%粒子径の差が60μmを越えると気孔径のバラツキが大きくなる。逆に10μmより小さくするには特別な整粒処理が必要となるため経済的でないだけでなく、粒子の充填が悪くなりかさ比重が低下する。
【0015】
上記したように、本発明ではセラミック粒子の平均粒子径を10〜50μm、90%粒子径と10%粒子径の差を10μm以上60μm以下としたモルタルを用いて耐火モルタル硬化成形物を構成することにより、耐火モルタル硬化成形物の平均気孔径を5〜25μm、気孔径分布の幅を20μm以上80μm以下とする。最大気孔径は110μmを超えないことが好ましく、最小気孔径は0.5μmより小さくないことが好ましい。耐火モルタル硬化成形物の気孔径は市販の解析ソフト(例えばメディアサイバネティクス社のイメージプロプラス)を用いた画像解析により精度よく測定可能である。この画像解析においては、一つの気孔について長径と短径とをそれぞれ測定してその平均値を計算し、その気孔の径とする。そして画像全体の各気孔につきこの測定を行い、平均気孔径、最小気孔径、最大気孔径を求め、最大気孔径−最小気孔径を気孔径分布の幅とした。
【0016】
以上に説明したように、本発明の耐火モルタル硬化成形物は気孔径のバラツキを小さくし、気孔径と粒子径の分布がクラックの進展を抑制する効果が最も得れる様厳密に抑制するすることによりクラックの進展を効果的に抑制したものであるが、請求項2に記載のように耐火モルタル硬化成形物のかさ密度を0.9〜1.5g/cmとすることにより、さらにこの効果を高めることができる。かさ密度はJIS R2665に準拠して測定することができる。かさ密度がこの範囲よりも低いと低強度となってクラックが発生し易くなり、この範囲より大きくなると熱膨張係数が大きくなってやはりクラックが発生し易くなる。
【0017】
このようにして、本発明によればコージライト粒子を用いた場合、熱膨張係数が1.5×10‐61/K以下(800℃まで、JIS R2207準拠)、4点曲げ強度が1MPa〜7MPa(JIS R1601準拠)、熱伝導率0.5W/m・k以上(JIS R1611準拠)の特性を持つ耐火モルタル硬化成形物を得ることができ、局部的な熱応力を抑制してクラックの進展を効果的に抑制できるため、耐火モルタル硬化成形物の耐久性、信頼性を従来よりも大幅に向上させることができる。
【実施例】
【0018】
以下に本発明の実施例を示す。
表1に示す各種の耐火モルタルを作成し、コージライト質のセラミック耐火物の表面に施工して耐火モルタル硬化成形物を形成し、画像解析により気孔径を測定した。またそれぞれの耐火モルタル硬化成形物の特性を測定し、表中に記載した。なお、クラック発生温度の評価は、60×50×1mmの耐火モルタル硬化成形物ピースを40〜110℃で8時間以上乾燥した試料を種々温度に加熱した状態から室温下に取出し、クラック発生の有無を目視にて確認し、加熱後に初めてクラックが発生した温度をクラック発生温度とした。実施例は何れも良好な結果を示しており、クラック発生温度も500℃を越えている。
【0019】
これに対して比較例1、2はセラミック粒子の90%粒子径と10%粒子径の差が60μmを越え、気孔径分布の幅も80μmを越えているため、クラック発生温度が450℃以下と低くなっている。比較例3はセラミック粒子の平均粒子径が10μm未満と小さいため、施工性が悪くまたクラック発生温度が350℃と非常に低くなっている。比較例4はセラミック粒子の平均粒子径が50μmを越えており、90%粒子径と10%粒子径の差も60μmを越えている。さらに平均気孔径も大きい。このため施工性が悪くまたクラック発生温度も400℃と低くなっている。比較例5はセラミック粒子の90%粒子径と10%粒子径の差が10μm未満であり、最大気孔径と最小気孔径の差も20μm未満である。さらにかさ比重が小さくなっている。このためクラック発生温度が400℃と低くなっている。
【0020】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】セラミック粒子の粒度分布のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック耐火物の表面もしくは目地部分に耐火モルタルを硬化させて成形した成形物であって、耐火モルタルを構成するセラミック粒子の平均粒子径を10〜50μm、90%粒子径と10%粒子径の差を10〜60μmとし、かつ耐火モルタル硬化成形物の平均気孔径を5〜25μm、気孔径分布の幅を20〜80μmとしたことを特徴とする耐火モルタル硬化成形物。
【請求項2】
かさ密度を0.9〜1.5g/cmとしたことを特徴とする請求項1記載の耐火モルタル硬化成形物。
【請求項3】
セラミック粒子をシラノール基を有する無機バインダーと水により混練したモルタルをセラミック基材の表面に配して形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の耐火モルタル硬化成形物。
【請求項4】
セラミック耐火物が多孔質セラミックであることを特徴とする請求項1記載の耐火モルタル硬化成形物。
【請求項5】
セラミック耐火物及びセラミック粒子がともにコージライト質であることを特徴とする請求項1記載の耐火モルタル硬化成形物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−155166(P2009−155166A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335620(P2007−335620)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(000237868)エヌジーケイ・アドレック株式会社 (37)
【Fターム(参考)】