説明

耐火物及び耐火物の製造方法

【課題】水蒸気で加熱して耐火物を製造するにあたって、耐火骨材に対する水蒸気の水分の作用を低減して、強度の高い耐火物を得ることができる耐火物の製造方法を提供する。
【解決手段】耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形した成形物を、気体供給手段2を有する熱処理器3内にセットする。この熱処理器1内に気体供給手段2で水蒸気を吹き込んで水蒸気の凝縮潜熱で成形物を加熱すると共に、次いで加熱した気体を気体供給手段2で熱処理器1内に吹き込んで成形物を加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をする。水蒸気が耐火骨材に作用することを抑制して、加熱処理する際に膨張・収縮などして亀裂等が発生することを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉、混銑車、転炉、取鍋、溶融還元炉等の溶融金属容器の内張りや、連続鋳造設備に具備されるノズル、浸漬ノズル、ロングノズル、スライディングノズル、ストッパー等や、その他非鉄金属用溶解炉るつぼなどに好適に使用される耐火物及び耐火物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記の用途に使用される耐火物は、一般に次のようにして製造されている。まず耐火骨材に粘結剤を配合し、これを混練装置で混練することによって耐火物組成物を調製する。次にこの耐火物組成物をプレス成形し、未硬化の粘結剤をバインダーとして賦形された成形物を得る。この後に成形物を加熱することによって、成形物中の粘結剤を乾燥して固化させたり、粘結剤を硬化させたり、あるいは粘結剤を硬化から炭化に至らせたりして、耐火骨材を粘結剤で結合させることによって、耐火物を得ることができるものである(例えば特許文献1等参照)。
【0003】
ここで、上記のように成形物を加熱して、粘結剤に固化、硬化、炭化のいずれかの処理をして耐火物を製造するにあたって、加熱の方法としては、成形物を高温の乾燥器中に入れて、バッチ式で長時間を要して加熱する方法、成形物をシャットル炉などに入れてバッチ式で加熱する方法、成形物をトンネル式の加熱炉に通して連続式で加熱する方法などがあり、雰囲気温度の程度に応じて、粘結剤を乾燥させて固化させたり、硬化させたり、さらに炭化させたりしている。
【0004】
このように成形物を加熱処理するにあたって、加熱の雰囲気温度が150℃以下の低温域であれば特に大きな問題はないが、それ以上の高温の雰囲気で加熱処理を行なう場合、雰囲気の酸素によって粘結剤が酸化されて熱分解され、耐火物の強度が大きく劣化するという問題がある。
【0005】
また、上記のいずれの加熱処理の方法でも、空気などの気体を加熱して、この熱を成形物の表面に対流と輻射により伝え、成形物の内部に熱を伝導させるようにしているが、空気などの気体は熱容量が小さいため、気体から成形物の表面への伝熱速度が小さく、成形物の表面温度の上昇が遅い。このため成形物の内部まで加熱するのに長時間を要することになり、耐火物を製造するのに長時間が必要であるという問題を有するものであった。しかもこのように成形物の内部まで加熱するのに長時間を要する結果、成形物の表面付近の粘結剤の硬化が進行してガスが通過し難い膜が形成され、成形物の内部の揮発成分が内部に封じ込められてガス圧が高くなり、最終的に爆裂を起こして成形物を破壊したり表面に亀裂を生じさせたりするおそれがあった。
【0006】
さらに、耐火物組成物の調製を容易にしたり、硬化性を高めたりするために、溶剤や硬化剤を配合することがある。この場合、溶剤は加熱処理をする際に大気中に揮散されることになり、硬化剤、例えばノボラック型フェノール樹脂に用いるヘキサメチレンテトラミンは熱分解してホルムアルデヒドとアンモニアとになって、アンモニアの殆どは大気中に放出されることになる。さらに粘結剤を炭化させる工程においても、大量に発生する熱分解成分が大気に放出される。そしてこれらの揮発物が放出されると、作業環境を悪化させるだけでなく、大気をも汚染することになって、環境に悪い影響を与えることになり、さらには揮発物による引火爆発のおそれもある。
【0007】
そこで本出願人は、成形物を短時間で容易に内部まで加熱することができ、しかも酸素の影響を排除した状態で加熱をすることが可能になり、短時間で強度などの物性に優れた耐火物を製造することができると共に、揮発物の放出を防ぐこともできる、耐火物の製造方法を提案している(特許文献2参照)。
【0008】
すなわち、耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、この成形物を熱処理器内にセットし、この熱処理器内に水蒸気を吹き込んで、水蒸気で成形物を加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をし、耐火物の製造を行なうようにしたものである。
【0009】
ここで、水蒸気は高い潜熱を有するので、成形物の表面に水蒸気が接触する際にこの潜熱が成形物に伝達され、成形物の表面の温度を急激に上昇させて、成形物の内部も速やかに加熱することができ、短時間で粘結剤を固化、硬化、炭化させて生産性良く耐火物を製造することができるものである。また成形物の表面と中心部との温度差が小さくなり、成形物から発生する揮発成分が成形物の内部からも万遍なく放出され、揮発成分が内部に閉じ込められることによる亀裂や爆裂を防ぐことができるものである。しかも熱処理器内に水蒸気を吹き込むことによって、熱処理器内の空気を水蒸気で追い出して酸素が希薄な雰囲気にすることができ、酸素の影響を排除して粘結剤が酸化分解されることを防ぎつつ、粘結剤を固化、硬化、炭化させて強度などの物性に優れた耐火物を得ることができるものである。さらに、この加熱処理時に発生するアンモニアなどの揮発物は、水蒸気に取り込まれるものであり、揮発物が大気に放出されることを防ぐことができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−89571号公報
【特許文献2】特開2009−29041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、耐火骨材と粘結剤を含有する耐火物組成物を成形した成形物を水蒸気で加熱することによって、従来の種々の問題を解決しつつ耐火物を製造することが可能になるものである。しかし、このように水蒸気を用いて加熱処理する場合、耐火骨材の種類によっては、耐火物の強度が低下することがあることが考えられる。
【0012】
すなわち、耐火骨材が水と反応し易いものである場合である。例えば、耐火骨材としては高純度の成分のものだけでなく、不純物としてCaOなどの水と反応し易い成分を含んでいるものもあり、特に天然物をそのまま粒度調整して耐火骨材として使用する場合、水と反応し易い成分を含んでいることが多い。そして例えばCaOを含んでいると、CaOは例えば次のような反応式で水蒸気に含まれる水と反応する。この反応は水蒸気のように温度が高いと速く起こり、成形物の表面に含まれているCaOは勿論、成形物の内部に凝縮した水が浸透することによって、成形物の内部に含まれているCaOも反応する。
CaO+HO → Ca(OH)
【0013】
そしてこのようにCaOが水と反応すると体積が大きくなるので、成形物は膨張する。またこの成形物を高温まで加熱すると、例えば次の反応のように脱水されて元のCaOに戻る。体積も元の状態に戻るので、成形物の体積は収縮することになる。
Ca(OH) → CaO+H
【0014】
このように、耐火骨材が水と反応し易いものであると、水蒸気で加熱する際に体積の変化を起こし、成形物は膨張したり収縮したりすることになり、この結果、粘結剤による耐火骨材の結合力が低下し、耐火物に亀裂等が発生したり、耐火物の強度が低下したりするおそれがあるという問題が発生するものである。
【0015】
耐火骨材としてAl,Mg,Ca,Siやこれらの合金を配合することがあるが、これらも水と接触すると反応するので、上記と同様な問題が発生するおそれがある。また耐火物の熱伝導性や耐浸食性を向上させる目的で黒鉛などの炭素材料を耐火骨材として使用することが多い。炭素材料は低温度域では化学的に安定であるが、雰囲気温度が高くなるとHOなどの気体との反応性が高くなることが知られている(炭素材料学会カーボン用語辞典編集委員会編,「カーボン用語辞典」,アグネ承風社)。従って炭素材料も水蒸気に曝されることによって水分と反応し、上記と同様な問題が発生するおそれがある。
【0016】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、水蒸気で加熱して耐火物を製造するにあたって、耐火骨材に対する水蒸気の水分の作用を低減して、亀裂等が発生することなく耐火物を製造することができる耐火物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の請求項1に係る耐火物の製造方法は、耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、気体供給手段を有する熱処理器内にこの成形物をセットし、この熱処理器内に気体供給手段で水蒸気を吹き込んで水蒸気の凝縮潜熱で成形物を加熱すると共に、次いで加熱した気体を気体供給手段で熱処理器内に吹き込んで成形物を加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をすることを特徴とするものである。
【0018】
水蒸気は高い凝縮潜熱を有するので、熱処理器内に吹き込んだ水蒸気が成形物の表面に接触する際にこの潜熱が成形物に伝達され、成形物を表面から内部に至るまで速やかに加熱することができるものであり、短時間で効率高く成形物を昇温させることができると共に、成形物から発生する揮発成分が成形物の内部からも万遍なく放出され、揮発成分が内部に閉じ込められることによる亀裂や爆裂を防ぐことができるものである。しかも熱処理器内に吹き込む水蒸気で熱処理器内の空気を追い出して酸素が希薄な雰囲気にすることができ、酸素の影響を排除して粘結剤が酸化分解されることを防ぐことができるものであり、さらにこの加熱処理時に発生するアンモニアなどの揮発物は、水蒸気に取り込まれるものであって、揮発物が大気に放出されることを防ぐことができるものである。
【0019】
そして、このように熱処理器内に吹き込んだ水蒸気で成形物の温度を迅速に昇温させた後に、加熱した気体を気体供給手段で熱処理器内に吹き込んで成形物を加熱することによって、成形物の温度をさらに高温に昇温させて、粘結剤を固化、硬化、炭化させることができるものであり、このように成形物を固化、硬化、炭化に至るまで昇温させる際には水蒸気が作用することを抑制できるので、耐火骨材が水蒸気の水分と反応して膨張・収縮などすることを防ぐことができ、亀裂が生じることなく高い強度の耐火物を得ることができるものである。
【0020】
また本発明の請求項2に係る耐火物の製造方法は、耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、気体供給手段を有する熱処理器内にこの成形物をセットし、この熱処理器内に水蒸気と加熱した気体を気体供給手段で吹き込んで、水蒸気の凝縮潜熱と加熱気体とで成形物を加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をすることを特徴とするものである。
【0021】
既述のように、水蒸気は高い凝縮潜熱を有するので、熱処理器内に吹き込んだ水蒸気が成形物の表面に接触する際にこの潜熱が成形物に伝達され、成形物を表面から内部に至るまで速やかに加熱することができるものであり、短時間で効率高く成形物を昇温させることができると共に、成形物から発生する揮発成分が成形物の内部からも万遍なく放出され、揮発成分が内部に閉じ込められることによる亀裂や爆裂を防ぐことができるものである。しかも熱処理器内に吹き込む水蒸気で熱処理器内の酸素濃度を低くして、酸素の影響で粘結剤が酸化分解されることを低減できるものであり、さらにこの加熱処理時に発生するアンモニアなどの揮発物は、水蒸気に取り込まれるものであって、揮発物が大気に放出されることを防ぐことができるものである。
【0022】
そして、熱処理器内には水蒸気と加熱した気体を吹き込むようにしているので、加熱気体の割合のぶん、熱処理器内に吹き込む水蒸気の量を少なくすることができ、耐火骨材への水蒸気の作用を低減することができるものであり、耐火骨材が水蒸気の水分と反応して膨張・収縮などすることを低減して、亀裂が生じることなく高い強度の耐火物を得ることができるものである。
【0023】
上記の請求項1又は2の発明において、加熱した気体として、空気、窒素、アルゴンから選ばれるものを用いることができる。
【0024】
また上記の請求項1の発明において、加熱した気体として、空気、窒素、アルゴンから選ばれるものと水蒸気との混合気体を用いることができる。
【0025】
本発明の請求項5に係る耐火物の製造方法は、耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、気体供給手段を有する熱処理器内にこの成形物をセットし、この熱処理器内に気体供給手段で水蒸気を吹き込んで水蒸気の凝縮潜熱で成形物を加熱すると共に、次いで発熱手段を有する加熱炉内に成形物を移して発熱手段で成形物を加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をすることを特徴とするものである。
【0026】
既述のように、水蒸気は高い凝縮潜熱を有するので、熱処理器内に吹き込んだ水蒸気が成形物の表面に接触する際にこの潜熱が成形物に伝達され、成形物を表面から内部に至るまで速やかに加熱することができるものであり、短時間で効率高く成形物を昇温させることができると共に、成形物から発生する揮発成分が成形物の内部からも万遍なく放出され、揮発成分が内部に閉じ込められることによる亀裂や爆裂を防ぐことができるものである。しかも熱処理器内に吹き込む水蒸気で熱処理器内の空気を追い出して酸素が希薄な雰囲気にすることができ、酸素の影響を排除して粘結剤が酸化分解されることを防ぐことができるものであり、さらにこの加熱処理時に発生するアンモニアなどの揮発物は、水蒸気に取り込まれるものであって、揮発物が大気に放出されることを防ぐことができるものである。
【0027】
そして、このように水蒸気で成形物の温度を迅速に昇温させた後に、加熱炉に移して発熱手段で成形物を加熱することによって、成形物の温度をさらに高温に昇温させて、粘結剤を固化、硬化、炭化させることができるものであり、このように成形物を固化、硬化、炭化に至るまで昇温させる際には水蒸気が作用することをなくすことができるので、耐火骨材が水蒸気の水分と反応して膨張・収縮などすることを防ぐことができ、亀裂が生じることなく高い強度の耐火物を得ることができるものである。
【0028】
また本発明の請求項6に係る耐火物の製造方法は、耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、気体供給手段と発熱手段を有する熱処理器内にこの成形物をセットし、この熱処理器内に気体供給手段で水蒸気を吹き込んで水蒸気の凝縮潜熱で成形物を加熱し、次いで熱処理器内の成形物を発熱手段で加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をすることを特徴とするものである。
【0029】
既述のように、水蒸気は高い凝縮潜熱を有するので、熱処理器内に吹き込んだ水蒸気が成形物の表面に接触する際にこの潜熱が成形物に伝達され、成形物を表面から内部に至るまで速やかに加熱することができるものであり、短時間で効率高く成形物を昇温させることができると共に、成形物から発生する揮発成分が成形物の内部からも万遍なく放出され、揮発成分が内部に閉じ込められることによる亀裂や爆裂を防ぐことができるものである。しかも熱処理器内に吹き込む水蒸気で熱処理器内の空気を追い出して酸素が希薄な雰囲気にすることができ、酸素の影響を排除して粘結剤が酸化分解されることを防ぐことができるものであり、さらにこの加熱処理時に発生するアンモニアなどの揮発物は、水蒸気に取り込まれるものであって、揮発物が大気に放出されることを防ぐことができるものである。
【0030】
そして、このように水蒸気で成形物の温度を迅速に昇温させた後に、発熱手段で成形物を加熱することによって、成形物の温度をさらに高温に昇温させて、粘結剤を固化、硬化、炭化させることができるものであり、このように成形物を固化、硬化、炭化に至るまで昇温させる際には水蒸気が作用することをなくすことができるので、耐火骨材が水蒸気の水分と反応して膨張・収縮などすることを防ぐことができ、亀裂が生じることなく高い強度の耐火物を得ることができるものである。
【0031】
また本発明の請求項7に係る耐火物の製造方法は、耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、気体供給手段と発熱手段を有する熱処理器内にこの成形物をセットし、この熱処理器内に気体供給手段で水蒸気を吹き込んで水蒸気の凝縮潜熱で成形物を加熱すると同時に、熱処理器内の成形物を発熱手段で加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をすることを特徴とするものである。
【0032】
既述のように、水蒸気は高い凝縮潜熱を有するので、熱処理器内に吹き込んだ水蒸気が成形物の表面に接触する際にこの潜熱が成形物に伝達され、成形物を表面から内部に至るまで速やかに加熱することができるものであり、短時間で効率高く成形物を昇温させることができると共に、成形物から発生する揮発成分が成形物の内部からも万遍なく放出され、揮発成分が内部に閉じ込められることによる亀裂や爆裂を防ぐことができるものである。しかも熱処理器内に吹き込む水蒸気で熱処理器内の空気を追い出して酸素が希薄な雰囲気にすることができ、酸素の影響を排除して粘結剤が酸化分解されることを防ぐことができるものであり、さらにこの加熱処理時に発生するアンモニアなどの揮発物は、水蒸気に取り込まれるものであって、揮発物が大気に放出されることを防ぐことができるものである。
【0033】
そして、熱処理器内での成形物の加熱は、この水蒸気の他に発熱手段でも行なわれるため、発熱手段で加熱するぶん、熱処理器内に吹き込む水蒸気の量を少なくすることができ、耐火骨材への水蒸気の作用を低減することができるものであり、耐火骨材が水蒸気の水分と反応して膨張・収縮などすることを低減して、亀裂が生じることなく高い強度の耐火物を得ることができるものである。
【0034】
また本発明の請求項8に係る耐火物の製造方法は、耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、気体供給手段と発熱手段を有する熱処理器内にこの成形物をセットし、この熱処理器内に気体供給手段で水蒸気を吹き込んで水蒸気の凝縮潜熱で成形物を加熱した後、水蒸気による加熱を継続しつつ同時に熱処理器内の成形物を発熱手段で加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をすることを特徴とするものである。
【0035】
既述のように、水蒸気は高い凝縮潜熱を有するので、熱処理器内に吹き込んだ水蒸気が成形物の表面に接触する際にこの潜熱が成形物に伝達され、成形物を表面から内部に至るまで速やかに加熱することができるものであり、短時間で効率高く成形物を昇温させることができると共に、成形物から発生する揮発成分が成形物の内部からも万遍なく放出され、揮発成分が内部に閉じ込められることによる亀裂や爆裂を防ぐことができるものである。しかも熱処理器内に吹き込む水蒸気で熱処理器内の空気を追い出して酸素が希薄な雰囲気にすることができ、酸素の影響を排除して粘結剤が酸化分解されることを防ぐことができるものであり、さらにこの加熱処理時に発生するアンモニアなどの揮発物は、水蒸気に取り込まれるものであって、揮発物が大気に放出されることを防ぐことができるものである。
【0036】
そして、熱処理器内に水蒸気を供給して成形物を迅速に加熱した後、水蒸気による加熱を継続しつつ同時に熱処理器内の成形物を発熱手段で加熱することによって、成形物の温度をさらに高温に昇温させて、粘結剤を固化、硬化、炭化させることができるものであり、このように成形物を固化、硬化、炭化に至るまで昇温させる際には、発熱手段で加熱するぶん、熱処理器内に吹き込む水蒸気の量を少なくすることができ、耐火骨材への水蒸気の作用を低減することができるものであり、耐火骨材が水蒸気の水分と反応して膨張・収縮などすることを低減して、亀裂が生じることなく高い強度の耐火物を得ることができるものである。
【0037】
上記の各発明において、水蒸気としては過熱水蒸気を用いることができる。過熱水蒸気は高温の乾き蒸気であって、水蒸気としてこのような過熱水蒸気を用いることによって、水蒸気から凝縮水が生成されることが少なくなり、耐火骨材が水蒸気の水分と反応することをより低減することができるものである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、この成形物を水蒸気で加熱して耐火物を製造するにあたって、耐火骨材に対する水蒸気の水分の作用を低減することができ、亀裂が生じることなく強度の高い耐火物を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)(b)はそれぞれ概略図である。
【図2】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)(b)はそれぞれ概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0041】
本発明において耐火骨材としては、特に制限されることなく任意のものを用いることができるが、例えば、電融アルミナ、電融マグネシア等の電融品、焼成マグネシア等の焼成品、また天然マグネシア、ボーキサイト、アンダリュサイト、シリマナイト等の天然原料の他、仮焼アルミナ、シリカフラワー等の超微粉原料など、粗粒から微粉まで任意の耐火原料を粒度配合して使用することができる。また耐食性を向上させるために、溶融スラグとの濡れ性が悪い炭素質材料の粉末を耐火骨材として配合するのが好ましい。この炭素質材料としては天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、カーボンブラック、キッシュ黒鉛、メソフェースカーボン、木炭など任意の炭素質のものを用いることができるが、できるだけ高純度のものを用いるのが好ましい。耐火骨材としてはさらに、Al,Mg,Ca,Siやこれらの合金の一種あるいは二種以上を配合して用いることもできる。さらに炭素材料の酸化防止剤などとして各種の炭化物、硼化物、窒化物、例えばSiC,BC,BN,Si等を用いることもできる。
【0042】
これらの耐火骨材に粘結剤を配合し、さらに必要に応じてカップリング剤などの他の成分を配合して混練することによって、耐火物組成物を得ることができる。この粘結剤としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などを用いることができるが、熱硬化性樹脂としてはフェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂など任意のものを用いることができ、これらを一種単独で使用したり、複数種を組み合わせたり、さらにタール・ピッチ類を併用することもできる。粘結剤としてはこれらの中でも、熱硬化性のフェノール樹脂を用いるのが好ましい。
【0043】
ここで、フェノール樹脂はフェノール類とアルデヒド類を反応触媒の存在下で反応させることによって調製したものを用いることができる。フェノール類はフェノール及びフェノールの誘導体を意味するものであり、例えばフェノールの他にm−クレゾール、レゾルシノール、3,5−キシレノールなどの3官能性のもの、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o−クレゾール、p−クレゾール、p−ter−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4又は2,6−キシレノールなどの2官能性のo−又はp−置換のフェノール類を挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノールなども用いることができる。勿論、これらから一種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。
【0044】
またアルデヒド類としては、水溶液の形態であるホルマリンが最適であるが、パラホルムアルデヒドやアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものも用いることもでき、その他、ホルムアルデヒドの一部を2−フルアルデヒドやフルフリルアルコールに置き換えて使用することも可能である。
【0045】
上記のフェノール類とアルデヒド類の配合比率は、モル比で1:0.5〜1:3.5の範囲になるように設定するのが好ましい。また反応触媒としては、ノボラック型フェノール樹脂を調製する場合は、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、あるいはシュウ酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸などの有機酸、さらに酢酸亜鉛などを用いることができる。レゾール型フェノール樹脂を調製する場合は、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物を用いることができ、さらにジメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジエチレントリアミン、ジシアンジアミドなどの脂肪族の第一級、第二級、第三級アミン、N,N−ジメチルベンジルアミンなどの芳香環を有する脂肪族アミン、アニリン、1,5−ナフタレンジアミンなどの芳香族アミン、アンモニア、ヘキサメチレンテトラミンなどや、その他二価金属のナフテン酸や二価金属の水酸化物を用いることもできる。
【0046】
ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂は、それぞれ単独で使用しても、両者を任意の割合で混合して使用してもいずれでもよい。またシリコン変性、ゴム変性、硼素変性などの各種の変性フェノール樹脂を使用することもできる。ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤としては、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、ヘキサメチレンテトラミン、トリオキサン、テトラオキサンなどを用いることができる。またレゾール型フェノール樹脂は100℃以上に加熱することでも硬化するが、硬化剤を使用することもできるものであり、硬化剤としては、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、有機エステル、アルキレンカーボネートなどを用いることができる。またレゾール型フェノール樹脂の硬化触媒としては、塩酸、硫酸等の無機酸や、塩化アルミニウム、塩化亜鉛等の無機化合物や、ベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、キシレンスルホン酸等の有機酸などを用いることができる。
【0047】
また、粘結剤としては糖類を用いることもできる。糖類としては、単糖類、少糖類、多糖類を用いることができ、各種の単糖類、少糖類、多糖類のなかから、1種を選んで単独で用いる他、複数種を選んで併用することもできる。
【0048】
単糖類としては、特に限定されるものではないが、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトースなどを挙げることができる。
【0049】
また少糖類としては、マルトース(麦芽糖)、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)、セロビオースなどの二糖類を挙げることができる。
【0050】
さらに多糖類としては、でんぷん糖、デキストリン、ザンサンガム、カードラン、プルラン、シクロアミロース、キチン、セルロース、でんぷんなどがあり、これらのうち一種を選択して、あるいは複数種を併用して、用いることができる。またでんぷんとしては、未加工でんぷん及び加工でんぷんが挙げられる。具体的には馬鈴薯でんぷん、コーンスターチ、ハイアミロース、甘藷でんぷん、タピオカでんぷん、サゴでんぷん、米でんぷん、アマランサスでんぷんなどの未加工でんぷん、及びこれらの加工でんぷん(焙焼デキストリン、酵素変性デキストリン、酸処理でんぷん、酸化でんぷん)、ジアルデヒド化でんぷん、エーテル化でんぷん(カルボキシメチルでんぷん、ヒドロキシアルキルでんぷん、カチオンでんぷん、メチロール化でんぷんなど)、エステル化でんぷん(酢酸でんぷん、リン酸でんぷん、コハク酸でんぷん、オクテニルコハク酸でんぷん、マレイン酸でんぷん、高級脂肪酸エステル化でんぷんなど)、架橋でんぷん、クラフト化でんぷん、及び湿熱処理でんぷんなどが挙げられる。これらのなかでも、焙焼デキストリン、酵素変性デキストリン、酸処理でんぷん、酸化でんぷんのように低分子化されたもの、及び架橋でんぷんなどの粘度の低いでんぷんが好ましい。さらに糖類を含有する植物、例えば麦、米、馬鈴薯、トウモロコシ、タピオカ、甘藷、サゴ、アマランサス等の粉末などを用いることができる。また食用に供するために市販されている糖、例えば白粗、中粗、グラニュ糖、転化糖、上白糖、中白糖、三温糖などを用いることもできる。さらに糖類とフェノール類とを反応させたフェノール変性糖類を用いることもできる。
【0051】
糖類には、特に多糖類の硬化剤として、カルボン酸を配合するようにしてもよい。カルボン酸としては、特に限定されるものではないが、シュウ酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、ブタンテトラジカルボン酸、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体などを挙げることができる。糖類に対するカルボン酸の配合量は、糖類100質量部に対してカルボン酸0.1〜10質量部となる範囲が好ましい。カルボン酸は予め水に溶解させた状態で糖類と混合するのが、硬化剤としての効果を高く発揮するので好ましい。
【0052】
そして耐火骨材に粘結剤などを配合して混練することによって耐火物組成物を調製することができる。混練は、シンプソンミル、メランジャ、アイリッヒ、スピードマラー、ワールミックスなどの任意の混練装置を用いて行なうことができる。耐火骨材に対する粘結剤の配合量は、特に制限されるものではないが、耐火骨材100質量部に対して、フェノール樹脂や糖類などの粘結剤が1〜50質量部の範囲になるように設定するのが好ましい。
【0053】
次に、上記のように調製した耐火物組成物を成形することによって、液状の粘結剤をバインダーとして賦形した成形物を得ることができる。成形は、オイルプレス、フリクションプレス、真空プレス、静水圧プレスなどの任意のプレス装置を用いて行なうことができる。
【0054】
上記のように耐火物組成物を成形して調製した成形物を加熱処理して、成形物中の粘結剤を乾燥固化、あるいは硬化、あるいは炭化させることによって、耐火物を得ることができるものである。そして本発明では成形物を加熱処理する加熱手段として、主として水蒸気を用いるものである。
【0055】
図1(a)は成形物を加熱処理する熱処理器1の一例を示すものである。熱処理器1は気体供給手段2を備えて形成されるものであり、気体が熱処理器1内に吹き込まれる導入口3が下部に、熱処理器1内の気体が排出される排気口4が上部に設けてある。熱処理器1の前面の開口部5を扉6で閉じることによって、熱処理器1内は導入口3と排気口4以外は密閉される構造になっている。そして導入口3に気体供給手段2が接続してある。
【0056】
気体供給手段2は、蒸気生成装置10と加熱気体生成装置11を備えて形成されるものであり、蒸気生成装置10及び加熱気体生成装置11は切換え弁12を介して導入口3に接続してある。蒸気生成装置10はボイラーを備えて形成されるものであり、水をボイラー内で加熱して水蒸気(飽和水蒸気)を生成して送り出すことができるものである。このボイラーに過熱器を接続することによって、ボイラーで生成された水蒸気を過熱器でさらに加熱して過熱水蒸気として蒸気生成装置10から送り出すこともできる。また加熱気体生成装置11は、ヒーターなどの加熱器と、送風機とを備えて形成されるものであり、加熱器で加熱した気体を送風機で送り出すようにしてある。気体として空気を用いる場合は、外気をそのまま加熱気体生成装置11に取り込んで、加熱器で加熱した後に送風機で送り出すようにしてあり、また気体として窒素やアルゴンなどを用いる場合は、ボンベを接続して、ボンベからこれらの気体を加熱気体生成装置11に取り込んで、加熱器で加熱した後に送風機で送り出すようにしてある。
【0057】
そして、熱処理器1内に成形物を入れてセットし、扉6を閉じた後、まず、蒸気生成装置10で生成された水蒸気を切換え弁12を通して熱処理器1内に吹き込む。このように熱処理器1内に水蒸気を吹き込むと、成形物の表面に水蒸気が接触することによって、水蒸気は潜熱が成形物に奪われて凝縮するが、水蒸気は高い潜熱を有するので、この潜熱で成形物の表面は急速に温度が上昇する。凝縮した凝縮水は水蒸気が有する顕熱によって蒸発され、また水蒸気のこの顕熱によって成形物の温度はさらに上昇する。ここで、加熱された空気などの気体で成形物を加熱する場合、気体の熱容量は小さいので成形物の表面温度を上昇させるのに時間を要するが、水蒸気を用いて加熱する場合、水蒸気が有する大きな潜熱で成形物を加熱することができるので、短時間で成形物の表面温度を上昇させることができるものである。そしてこのように成形物の表面温度が急激に上昇すると、成形物の内部への伝熱も速やかに行なわれ、短時間で成形物の全体を均一な温度で加熱することができるものである。
【0058】
このように水蒸気による加熱で成形物の全体を短時間で均一に加熱することができるので、成形物の表面付近の粘結剤と、成形物の内部の粘結剤とで、固化や硬化の進行の時間差が小さくなり、成形物の表面付近の粘結剤の固化や硬化の進行による膜の形成で成形物の内部の揮発成分が内部に封じ込められるようなことを防ぐことができるものであり、成形物に亀裂や爆裂が生じることを防ぐことができるものである。
【0059】
また、上記のように成形物をセットした熱処理器1内に導入口3から水蒸気を吹き込んで加熱するにあたって、水蒸気を吹き込むことによって熱処理器1内の酸素を含む空気は排気口4から押し出されて排除されるものである。水から生成される水蒸気中には酸素が数ppm程度しか存在しないので、水蒸気を吹き込んで空気を排除すると、熱処理器1内の雰囲気はほぼ無酸素状態になる。従って、成形物中の粘結剤を加熱処理するにあたって、酸素の影響で粘結剤が熱分解することを防ぐことができるものであり、成形物の強度などの物性が低下することを防止することができ、また耐火物に角欠けが発生したり耐火物の表面の組織劣化が生じたりすることを防止することができるものである。このとき、熱処理器1内の雰囲気の酸素濃度が、体積百分率比で3%以下になることが望ましい。酸素濃度が体積百分率比で3%以下であれば、粘結剤が熱分解することを実質的に防止しながら加熱処理することができるものである。水蒸気を吹き込んで熱処理器1内の空気を排出することによって、酸素濃度を体積百分率比で3%以下に保つことは容易である。
【0060】
また上記のように成形物を水蒸気で加熱処理するにあたって、粘結剤等から揮発ガスや分解ガスなどが発生しても、このガス分は温度の下がった水蒸気の凝縮水に吸収され、ガスの臭気が作業雰囲気に放出されることを防ぐことができるものである。従ってこれらのガスによって、作業環境が悪化することを防ぐことができると共に、大気の汚染など環境に悪い影響が及ぼされることを防ぐことができるものであり、さらにはガスによる引火爆発のおそれもなくなるものである。またこれらの揮発ガスや分解ガスは、ガスの毒性を凝縮水に閉じ込めた状態で排水処理することができるものであり、特に、水蒸気は凝縮することにより気体から液体になって体積が著しく小さくなるので、加熱処理で発生する揮発ガスや分解ガスがそのまま排出される場合に比べて、凝縮水に吸収して極めて小さな体積にした状態で排出することができ、その処理は容易になるものである。
【0061】
ここで、高温の水蒸気を用いて加熱処理をする場合、成形物の温度上昇が急激に過ぎて、得られる耐火物にフクレ等が発生することがある。このときには、まず低温の水蒸気を用いて成形物を加熱処理した後、次いで高温の水蒸気を用いて成形物を加熱処理するという、二段階で加熱処理を行なうことによって、このようなフクレ等の発生を防ぐことができる。勿論、二段階に限らず、三段階や四段階など、段階ごとに順に水蒸気の温度を上げる複数段階で成形物を加熱処理するようにすればよい。
【0062】
上記のように熱処理器1に水蒸気を吹き込んで成形物を水蒸気で加熱処理するにあたって、水蒸気による加熱は成形物の粘結剤を乾燥固化、硬化、炭化させるまで行なう必要はなく、これらの乾燥固化、硬化、炭化が容易になる温度になるまで成形物の全体を均一に昇温させればよい。熱処理器1に水蒸気を吹き込んで加熱処理する時間は、水蒸気の温度や水蒸気の供給量などによって異なり、さらに熱処理器1内を加熱する時間も必要であるため、熱処理器1や成形物の大きさによっても異なるが、単に成形物を100℃近傍まで上昇させるのであれば、30〜300秒程度で十分である。
【0063】
ここで水蒸気の温度は、特に限定されるものではないが、110℃以上であることが望ましく、粘結剤を分解させる温度以下の範囲で任意に設定することができる。また水蒸気としては、飽和水蒸気を用いる他、過熱水蒸気を用いることもできる。過熱水蒸気は、飽和水蒸気をさらに加熱して、沸点以上の温度とした完全気体状態の水蒸気であり、100℃以上の乾き蒸気である。過熱水蒸気は900℃程度まで温度を上昇させることが可能であり、このため高温で粘結剤を加熱処理することができ、加熱処理の時間をより短縮することが可能になる。
【0064】
次に、切換え弁12を切り換えて、蒸気生成装置10から熱処理器1への水蒸気の吹き込みを停止すると同時に、加熱気体生成装置11から加熱した気体を熱処理器1内に吹き込む。この加熱気体は、上記の水蒸気の温度より高い温度に加熱した気体であり、また上記の水蒸気よりも含有水分量が少ない乾燥気体である。加熱気体の温度は、特に限定されるものではないが、上記の水蒸気の温度よりも20℃以上高い温度であることが好ましい。加熱気体の温度の上限は、粘結剤を分解させる温度以下であればよい。また加熱気体の含有水分量は、特に限定されるものではないが、飽和蒸気量の1/3以下であることが好ましい。
【0065】
上記のように熱処理器1に水蒸気を吹き込んで成形物を短時間で昇温させた後、このように水蒸気よりも高温の加熱気体を熱処理器1内に吹き込んで、加熱気体で成形物を加熱することによって、成形物の粘結剤を乾燥固化させ、あるいは硬化させ、あるいはさらに炭化させることができるものであり、このように固化、硬化、炭化した粘結剤で耐火骨材を結合させて、耐火物を得ることができるものである。
【0066】
ここで、このように加熱気体で成形物を加熱して粘結剤を固化、硬化、炭化させるため、成形物の耐火骨材が水と反応し易い成分を含んでいても、水蒸気で加熱して粘結剤を固化、硬化、炭化させるときのような、水蒸気の水分が耐火骨材に作用することを防ぐことができるものである。従って、耐火骨材が水蒸気の水分と反応することを抑制して、成形物に膨張・収縮が生じるようなことを低減できるものであり、成形物の膨張・収縮で粘結剤による耐火骨材の結合力が低下することを抑制して、耐火物の強度が低下したり亀裂が発生したりすることを防ぐことができるものである。
【0067】
そして加熱気体は、水蒸気に比べて熱容量が小さいので、成形物の温度を上昇させるのに時間を要するが、成形物の粘結剤がフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂のように熱硬化性の場合、加熱気体ではゆっくりと昇温することができるので、粘結剤が急速に硬化しないように反応速度をコントロールしながら硬化させることができるものであり、歪の少ない耐火物を得ることができるものである。また揮発成分の多い粘結剤を用いる場合、成形物が急激に昇温するとガス膨れやひび割れ、剥落などが発生するそれがあるが、加熱気体は成形物の温度を急激に上昇させることなく加熱することができるので、急激な揮発を防いで、ガス膨れ、ひび割れ、剥落などの発生を低減することができるものである。熱膨張率の大きな耐火骨材を用いる場合にも、成形物の急激な温度上昇でひび割れ等が発生するおそれがあるが、加熱気体で成形物を加熱することによって急激な温度上昇を抑制して、同様にひび割れ等の発生を抑制することができるものである。
【0068】
加熱気体の気体としては、特に限定されるものではないが、大気中の空気をそのまま用いることができる。加熱気体としてこのように空気を用いると、粘結剤を焼き飛ばして成形物中に粘結剤が残存させないようにすることが可能であり、高温まで熱処理する焼結物(セラミックス)などを作製する際に好適である、また加熱気体の気体として、窒素やアルゴンのような不活性気体を用いると、粘結剤を酸化分解などして変質させることなく加熱して、固化、硬化、炭化させることができ、粘結剤による耐火骨材の結合強度が高い耐火物を得ることができるものである。勿論、これらの空気、窒素、アルゴンのうち2種以上を任意の割合で混合した混合気体を用いることもできる。
【0069】
また加熱気体の気体としては、上記の空気、窒素、アルゴンなどの気体と、水蒸気との混合気体を用いることもできる。このように空気、窒素、アルゴンなどの気体と水蒸気との混合気体を用いることによって、水蒸気の作用で成形物の昇温速度を上げて、加熱処理の生産性を向上することができるものである。また空気と水蒸気の混合気体であっても、熱処理器1内の酸素濃度を低くすることが可能であって、酸素の影響を低く抑えることができ、さらに粘結剤中の揮発分や分解ガスを水蒸気に吸収して臭気の発生やガス爆発を抑制することができるものである。そして混合気体は水蒸気を単独で用いる場合よりも水分含有量が少ないので、成形物の耐火骨材と水分との反応を低く抑えることができるものであり、成形物に膨張・収縮が生じるようなことを低減できるものである。水蒸気と他の空気、窒素、アルゴンとの混合比率は、特に限定されるものではないが、体積比で2:8〜8:2の範囲が好ましい。
【0070】
上記のように熱処理器1に加熱気体を吹き込んで成形物の粘結剤を固化、硬化、炭化させる処理を行なうにあたって、加熱気体を吹き込むのに要する時間は、加熱気体の温度や粘結剤の種類、成形物の大きさ、また固化や硬化や炭化の度合いなどによって異なるものであり、必要に応じて任意に設定されるものである。
【0071】
図1(b)は成形物を加熱処理する熱処理器1の一例を示すものである。熱処理器1は気体供給手段2を備えて形成されるものであり、気体が熱処理器1内に吹き込まれる導入口3が下部に、熱処理器1内の気体が排出される排気口4が上部に設けてある。熱処理器1の前面の開口部5を扉6で閉じることによって、熱処理器1内は導入口3と排気口4以外は密閉される構造になっている。そして導入口3に気体供給手段2が接続してある。
【0072】
気体供給手段2は、蒸気生成装置10と加熱気体生成装置11を備えて形成されるものであり、蒸気生成装置10及び加熱気体生成装置11は混合器14を介して導入口3に接続してある。蒸気生成装置10はボイラーを備えて形成されるものであり、水をボイラー内で加熱して水蒸気(飽和水蒸気)を生成して送り出すことができるものである。このボイラーに過熱器を接続することによって、ボイラーで生成された水蒸気を過熱器でさらに加熱して過熱水蒸気として蒸気生成装置10から送り出すこともできる。また加熱気体生成装置11は、ヒーターなどの加熱器と、送風機とを備えて形成されるものであり、加熱器で加熱した気体を送風機で送り出すようにしてある。気体として空気を用いる場合は、外気をそのまま加熱気体生成装置11に取り込んで、加熱器で加熱した後に送風機で送り出すようにしてあり、また気体として窒素やアルゴンなどを用いる場合は、ボンベを接続して、ボンベからこれらの気体を加熱気体生成装置11に取り込んで、加熱器で加熱した後に送風機で送り出すようにしてある。
【0073】
そして、熱処理器1内に成形物を入れてセットし、扉6を閉じた後、蒸気生成装置10で生成された水蒸気と、加熱気体生成装置11で生成された加熱気体を、それぞれ混合器14に送り出すと、水蒸気と加熱気体とが混合器14で混合され、水蒸気と加熱気体の混合気体が熱処理器1内に吹き込まれる。このように熱処理器1内に水蒸気と加熱気体の混合気体を吹き込むと、成形物の表面に水蒸気が接触することによって、水蒸気は潜熱が成形物に奪われて凝縮するが、水蒸気は高い潜熱を有するので、この潜熱で成形物の表面は急速に温度が上昇する。凝縮した凝縮水は水蒸気が有する顕熱によって蒸発され、また水蒸気のこの顕熱によって成形物の温度はさらに上昇する。ここで、加熱された空気などの加熱気体のみで成形物を加熱する場合、気体の熱容量は小さいので成形物の表面温度を上昇させるのに時間を要するが、混合気体に水蒸気が含まれている場合、水蒸気が有する大きな潜熱で成形物を加熱することができるので、短時間で成形物の表面温度を上昇させることができるものである。そしてこのように成形物の表面温度が急激に上昇すると、成形物の内部への伝熱も速やかに行なわれ、短時間で成形物の全体を均一な温度で加熱することができるものである。
【0074】
このように水蒸気と加熱気体の混合気体を用いると、主として水蒸気による加熱で成形物の全体を短時間で均一に加熱することができるので、成形物の表面付近の粘結剤と、成形物の内部の粘結剤とで、固化や硬化の進行の時間差が小さくなり、成形物の表面付近の粘結剤の固化や硬化の進行による膜の形成で成形物の内部の揮発成分が内部に封じ込められるようなことを防ぐことができるものであり、成形物に亀裂や爆裂が生じることを防ぐことができるものである。
【0075】
また、上記のように成形物をセットした熱処理器1内に導入口3から水蒸気と加熱気体との混合気体を吹き込んで加熱するにあたって、水蒸気と加熱空気の混合気体であっても、水蒸気がしめる容積分、混合気体中の酸素濃度は低いものであり、熱処理器1内の雰囲気は低酸素状態になる。従って、成形物中の粘結剤を加熱処理するにあたって、酸素の影響で粘結剤が熱分解することを防ぐことができるものであり、成形物の強度などの物性が低下することを防止することができ、また耐火物に角欠けが発生したり耐火物の表面の組織劣化が生じたりすることを防止することができるものである。
【0076】
また上記のように成形物を水蒸気で加熱処理するにあたって、粘結剤等から揮発ガスや分解ガスなどが発生しても、このガス分は温度の下がった混合気体中の水蒸気の凝縮水に吸収され、ガスの臭気が作業雰囲気に放出されることを防ぐことができるものである。従ってこれらのガスによって、作業環境が悪化することを防ぐことができると共に、大気の汚染など環境に悪い影響が及ぼされることを防ぐことができるものであり、さらにはガスによる引火爆発のおそれもなくなるものである。またこれらの揮発ガスや分解ガスは、ガスの毒性を凝縮水に閉じ込めた状態で排水処理することができるものであり、特に、水蒸気は凝縮することによって体積が著しく小さくなるので、加熱処理で発生する揮発ガスや分解ガスがそのまま排出される場合に比べて、凝縮水に吸収して極めて小さな体積にした状態で排出することができ、その処理は容易になるものである。
【0077】
そして上記のように熱処理器1内に水蒸気と加熱気体との混合気体を吹き込んで成形物を加熱処理することによって、成形物の粘結剤を乾燥固化させ、あるいは硬化させ、あるいはさらに炭化させることができるものであり、このように固化、硬化、炭化した粘結剤で耐火骨材を結合させて、耐火物を得ることができるものである。
【0078】
ここで、上記のように水蒸気を用いて成形物を加熱処理しているが、水蒸気は加熱気体との混合気体として用いているので、加熱気体によって成形物を加熱するぶん、水蒸気の量を減らすことができるものである。従って、水蒸気単独で加熱して粘結剤を固化、硬化、炭化させるときよりも、水蒸気の水分が耐火骨材に作用することを低減することができ、耐火骨材が水蒸気の水分と反応することを抑制することができるものであり、成形物に膨張・収縮が生じるようなことを低減することができるものであって、成形物の膨張・収縮で粘結剤による耐火骨材の結合力が低下することを抑制して、耐火物の強度が低下したり亀裂が発生したりすることを防ぐことができるものである。
【0079】
また、水蒸気と加熱気体の混合気体は、水蒸気単独の場合よりも加熱効率が低いので、成形物を昇温させる速度を水蒸気単体の場合よりも遅くすることができる。従って成形物の粘結剤がフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂のように熱硬化性の場合、粘結剤が急速に硬化しないように反応速度をコントロールしながら硬化させることができるものであり、歪の少ない耐火物を得ることができるものである。また揮発成分の多い粘結剤を用いる場合、成形物が急激に昇温するとガス膨れやひび割れ、剥落などが発生するおそれがあるが、急激な揮発を防いで、ガス膨れ、ひび割れ、剥落などの発生を低減することができるものである。熱膨張率の大きな耐火骨材を用いる場合にも、成形物の急激な温度上昇でひび割れ等が発生するおそれがあるが、急激な温度上昇を抑制して、同様にひび割れ等の発生を抑制することができるものである。
【0080】
ここで水蒸気の温度は、特に限定されるものではないが、110℃以上であることが望ましく、粘結剤を分解させる温度以下の範囲で任意に設定することができる。また水蒸気としては、飽和水蒸気を用いる他、過熱水蒸気を用いることもできる。過熱水蒸気は、飽和水蒸気をさらに加熱して、沸点以上の温度とした完全気体状態の水蒸気であり、100℃以上の乾き蒸気である。過熱水蒸気は900℃程度まで温度を上昇させることが可能であり、このため高温で粘結剤を加熱処理することができ、粘結剤を炭化させることも容易に行なうことができるものである。
【0081】
また加熱気体の気体としては、特に限定されるものではないが、大気中の空気をそのまま加熱して用いることができる。加熱気体としてこのように空気を用いると、粘結剤を焼き飛ばして成形物中に粘結剤を残存させないようすることが可能であり、高温まで熱処理する焼結物(セラミックス)などを作製する際に好適である、また加熱気体の気体として、窒素やアルゴンのような不活性気体を用いると、粘結剤を酸化分解などして変質させることなく加熱して、固化、硬化、炭化させることができ、粘結剤による耐火骨材の結合強度が高い耐火物を得ることができるものである。勿論、これらの空気、窒素、アルゴンのうち2種以上を任意の割合で混合した混合気体を用いることもできる。加熱気体の温度は、特に限定されるものではないが、上記の水蒸気の温度よりも20℃以上高い温度であることが好ましい。加熱気体の温度の上限は、粘結剤を分解させる温度以下であればよい。また加熱気体の含有水分量は、特に限定されるものではないが、飽和蒸気量の1/3以下であることが好ましい。
【0082】
また水蒸気と加熱気体との混合比率は、特に限定されるものではないが、水蒸気と加熱気体の各作用を有効に発揮させるために、体積比で8:2〜2:8の範囲に設定するのが好ましい。
【0083】
尚、図1(b)の実施の形態では、水蒸気生成装置10で生成された水蒸気と、加熱気体生成装置11で生成された加熱気体とを、混合器14で混合した状態で、熱処理器1に吹き込むようにしているが、特に混合器14を用いる必要なく、水蒸気生成装置10で生成された水蒸気と加熱気体生成装置11で生成された加熱気体を同じ配管を通して送ることによって、混合気体として加熱処理器1に吹き込むことができるものである。また水蒸気生成装置10で生成された水蒸気と加熱気体生成装置11で生成された加熱気体を別々に熱処理器1に吹き込んで、熱処理器1内で水蒸気と加熱気体が混合されるようにしてもよい。要するに、水蒸気と加熱気体が混合された気体の状態で熱処理器1内の成形物に作用することができればよいものである。
【0084】
図2(a)は本発明の他の実施の形態を示すものであり、成形物を熱処理する装置として熱処理器1と加熱炉7とを用いるものである。熱処理器1は気体供給手段2を備えて形成されるものであり、気体が熱処理器1内に吹き込まれる導入口3が下部に、熱処理器1内の気体が排出される排気口4が上部に設けてある。熱処理器1の前面の開口部5を扉6で閉じることによって、熱処理器1内は導入口3と排気口4以外は密閉される構造になっている。そして導入口3に気体供給手段2が接続してある。気体供給手段2は蒸気生成装置10を備えて形成されるものである。蒸気生成装置10はボイラーを備えて形成されるものであり、水をボイラー内で加熱して水蒸気(飽和水蒸気)を生成して送り出すことができるものである。このボイラーに過熱器を接続することによって、ボイラーで生成された水蒸気を過熱器でさらに加熱して過熱水蒸気として蒸気生成装置10から送り出すこともできる。
【0085】
また加熱炉7は発熱手段8を備えて形成されるものであり、加熱炉7の前面に扉16付きの開口部17が設けてある。発熱手段8は加熱炉7の側壁などに設けられるものであり、発熱手段8としては、燃焼や電気抵抗などで自己発熱して加熱炉7内を加熱することができるものであれば何でもよいが、例えばガスバーナー、電気ヒーターなどを用いることができる。発熱手段8を発熱させることによって、加熱炉7内を加熱することができるようにしてある。
【0086】
そして、まず熱処理器1内に成形物を入れてセットし、扉6を閉じた後、蒸気生成装置10で生成された水蒸気を熱処理器1内に吹き込む。このように熱処理器1内に水蒸気を吹き込むと、成形物の表面に水蒸気が接触することによって、水蒸気は潜熱が成形物に奪われて凝縮するが、水蒸気は高い潜熱を有するので、この潜熱で成形物の表面は急速に温度が上昇する。凝縮した凝縮水は水蒸気が有する顕熱によって蒸発され、また水蒸気のこの顕熱によって成形物の温度はさらに上昇する。ここで、加熱された空気などの気体で成形物を加熱する場合、気体の熱容量は小さいので成形物の表面温度を上昇させるのに時間を要するが、水蒸気を用いて加熱する場合、水蒸気が有する大きな潜熱で成形物を加熱することができるので、短時間で成形物の表面温度を上昇させることができるものである。そしてこのように成形物の表面温度が急激に上昇すると、成形物の内部への伝熱も速やかに行なわれ、短時間で成形物の全体を均一な温度で加熱することができるものである。
【0087】
このように水蒸気による加熱で成形物の全体を短時間で均一に加熱することができるので、成形物の表面付近の粘結剤と、成形物の内部の粘結剤とで、固化や硬化の進行の時間差が小さくなり、成形物の表面付近の粘結剤の固化や硬化の進行による膜の形成で成形物の内部の揮発成分が内部に封じ込められるようなことを防ぐことができるものであり、成形物に亀裂や爆裂が生じることを防ぐことができるものである。
【0088】
また、上記のように成形物をセットした熱処理器1内に導入口3から水蒸気を吹き込んで加熱するにあたって、水蒸気を吹き込むことによって熱処理器1内の酸素を含む空気は排気口4から押し出されて排除されるものである。水から生成される水蒸気中には酸素が数ppm程度しか存在しないので、水蒸気を吹き込んで空気を排除すると、熱処理器1内の雰囲気はほぼ無酸素状態になる。従って、成形物中の粘結剤を加熱処理するにあたって、酸素の影響で粘結剤が熱分解することを防ぐことができるものであり、成形物の強度などの物性が低下することを防止することができ、また耐火物に角欠けが発生したり耐火物の表面の組織劣化が生じたりすることを防止することができるものである。このとき、熱処理器1内の雰囲気の酸素濃度が、体積百分率比で3%以下になることが望ましい。酸素濃度が体積百分率比で3%以下であれば、粘結剤が熱分解することを実質的に防止しながら加熱処理することができるものである。水蒸気を吹き込んで熱処理器1内の空気を排出することによって、酸素濃度を体積百分率比で3%以下に保つことは容易である。
【0089】
また上記のように成形物を水蒸気で加熱処理するにあたって、粘結剤等から揮発ガスや分解ガスなどが発生しても、このガス分は温度の下がった水蒸気の凝縮水に吸収され、ガスの臭気が作業雰囲気に放出されることを防ぐことができるものである。従ってこれらのガスによって、作業環境が悪化することを防ぐことができると共に、大気の汚染など環境に悪い影響が及ぼされることを防ぐことができるものであり、さらにはガスによる引火爆発のおそれもなくなるものである。またこれらの揮発ガスや分解ガスは、ガスの毒性を凝縮水に閉じ込めた状態で排水処理することができるものであり、特に、水蒸気は凝縮することによって体積が著しく小さくなるので、加熱処理で発生する揮発ガスや分解ガスがそのまま排出される場合に比べて、凝縮水に吸収して極めて小さな体積にした状態で排出することができ、その処理は容易になるものである。
【0090】
上記のように熱処理器1に水蒸気を吹き込んで成形物を水蒸気で加熱処理するにあたって、水蒸気による加熱は成形物の粘結剤を乾燥固化、硬化、炭化させるまで行なう必要はなく、これらの乾燥固化、硬化、炭化が容易になる温度になるまで成形物の全体を均一に昇温させればよい。熱処理器1に水蒸気を吹き込んで加熱処理する時間は、水蒸気の温度や水蒸気の供給量などによって異なり、さらに熱処理器1内を加熱する時間も必要であるため、熱処理器1や成形物の大きさによっても異なるが、単に成形物を100℃近傍まで上昇させるのであれば、30〜300秒程度で十分である。
【0091】
ここで水蒸気の温度は、特に限定されるものではないが、110℃以上であることが望ましく、粘結剤を分解させる温度以下の範囲で任意に設定することができる。また水蒸気としては、飽和水蒸気を用いる他、過熱水蒸気を用いることもできる。過熱水蒸気は、飽和水蒸気をさらに加熱して、沸点以上の温度とした完全気体状態の水蒸気であり、100℃以上の乾き蒸気である。過熱水蒸気は900℃程度まで温度を上昇させることが可能であり、このため高温で粘結剤を加熱処理することができ、加熱処理の時間をより短縮することが可能になる。
【0092】
次に、熱処理器1への水蒸気の吹き込みを停止し、扉6を開いて熱処理器1内の成形物を取り出し、加熱炉7内にこの成形物を入れて扉16を閉める。この熱処理器1から加熱炉7への成形物の移し替えは、成形物の温度が低下しないように素早く行なうのが望ましい。加熱炉7内は発熱手段8の発熱によって高温の雰囲気になっており、加熱炉7内にセットされた成形物は発熱手段8によって加熱される。発熱手段8による加熱温度は、上記の水蒸気の温度より高い温度であればよく、特に限定されるものではないが、上記の水蒸気の温度よりも20℃以上高い温度であることが好ましい。発熱手段8による加熱温度の上限は、粘結剤を分解させる温度以下であればよい。
【0093】
上記のように熱処理器1に水蒸気を吹き込んで成形物を短時間で昇温させた後、このように発熱手段8で成形物を加熱することによって、成形物の粘結剤を乾燥固化させ、あるいは硬化させ、あるいはさらに炭化させることができるものであり、このように固化、硬化、炭化した粘結剤で耐火骨材を結合させて、耐火物を得ることができるものである。
【0094】
ここで、このように発熱手段8の発熱で成形物を加熱して粘結剤を固化、硬化、炭化させるため、成形物の耐火骨材が水と反応し易い成分を含んでいても、水蒸気で加熱して粘結剤を固化、硬化、炭化させるときのような、水蒸気の水分が耐火骨材に作用することを防ぐことができるものである。従って、耐火骨材が水蒸気の水分と反応することを抑制して、成形物に膨張・収縮が生じるようなことを低減できるものであり、成形物の膨張・収縮で粘結剤による耐火骨材の結合力が低下することを抑制して、耐火物の強度が低下したり亀裂が生じたりすることを防ぐことができるものである。
【0095】
また発熱手段8としてガスバーナーを用いる場合、可燃性ガスを空気中の酸素で燃焼させるため、加熱炉7内は酸素濃度が低くなる。このため、成形物中の粘結剤を発熱手段8で加熱して固化、硬化、炭化させるにあたって、酸素の影響で粘結剤が熱分解することを抑制できるものであり、成形物の強度などの物性が低下することを防止することができるものである。
【0096】
上記のように加熱炉7内で発熱手段8によって成形物を加熱して、粘結剤を固化、硬化、炭化させる処理を行なうにあたって、加熱炉7内で成形物を加熱するのに要する時間は、発熱手段8の加熱温度や粘結剤の種類、成形物の大きさ、また粘結剤の固化や硬化や炭化の度合いなどによって異なるものであり、必要に応じて任意に設定されるものである。
【0097】
図2(b)は成形物を加熱処理する熱処理器1の一例を示すものである。熱処理器1は気体供給手段2と発熱手段8を備えて形成されるものであり、気体が熱処理器1内に吹き込まれる導入口3が下部に、熱処理器1内の気体が排出される排気口4が上部に設けてある。熱処理器1の前面の開口部5を扉6で閉じることによって、熱処理器1内は導入口3と排気口4以外は密閉される構造になっている。
【0098】
そして導入口3に気体供給手段2が接続してある。気体供給手段2は蒸気生成装置10を備えて形成されるものである。蒸気生成装置10はボイラーを備えて形成されるものであり、水をボイラー内で加熱して水蒸気(飽和水蒸気)を生成して送り出すことができるものである。このボイラーに過熱器を接続することによって、ボイラーで生成された水蒸気を過熱器でさらに加熱して過熱水蒸気として蒸気生成装置10から送り出すこともできる。
【0099】
また発熱手段8は熱処理器1の側壁などに設けられるものである。発熱手段8としては、燃焼や電気抵抗などで自己発熱して熱処理器1内を加熱することができるものであれば何でもよいが、例えばガスバーナー、電気ヒーターなどを用いることができる。発熱手段8を発熱させることによって、熱処理器1内を加熱することができるようにしてある。
【0100】
そして、熱処理器1内に成形物を入れてセットし、扉6を閉じた後、まず蒸気生成装置10で生成された水蒸気を熱処理器1内に吹き込む。このとき、発熱手段8の作動は停止している。このように熱処理器1内に水蒸気を吹き込むと、成形物の表面に水蒸気が接触することによって、水蒸気は潜熱が成形物に奪われて凝縮するが、水蒸気は高い潜熱を有するので、この潜熱で成形物の表面は急速に温度が上昇する。凝縮した凝縮水は水蒸気が有する顕熱によって蒸発され、また水蒸気のこの顕熱によって成形物の温度はさらに上昇する。ここで、加熱された空気などの気体で成形物を加熱する場合、気体の熱容量は小さいので成形物の表面温度を上昇させるのに時間を要するが、水蒸気を用いて加熱する場合、水蒸気が有する大きな潜熱で成形物を加熱することができるので、短時間で成形物の表面温度を上昇させることができるものである。そしてこのように成形物の表面温度が急激に上昇すると、成形物の内部への伝熱も速やかに行なわれ、短時間で成形物の全体を均一な温度で加熱することができるものである。
【0101】
このように水蒸気による加熱で成形物の全体を短時間で均一に加熱することができるので、成形物の表面付近の粘結剤と、成形物の内部の粘結剤とで、固化や硬化の進行の時間差が小さくなり、成形物の表面付近の粘結剤の固化や硬化の進行による膜の形成で成形物の内部の揮発成分が内部に封じ込められるようなことを防ぐことができるものであり、成形物に亀裂や爆裂が生じることを防ぐことができるものである。
【0102】
また、上記のように成形物をセットした熱処理器1内に導入口3から水蒸気を吹き込んで加熱するにあたって、水蒸気を吹き込むことによって熱処理器1内の酸素を含む空気は排気口4から押し出されて排除されるものである。水から生成される水蒸気中には酸素が数ppm程度しか存在しないので、水蒸気を吹き込んで空気を排除すると、熱処理器1内の雰囲気はほぼ無酸素状態になる。従って、成形物中の粘結剤を加熱処理するにあたって、酸素の影響で粘結剤が熱分解することを防ぐことができるものであり、成形物の強度などの物性が低下することを防止することができ、また耐火物に角欠けが発生したり耐火物の表面の組織劣化が生じたりすることを防止することができるものである。このとき、熱処理器1内の雰囲気の酸素濃度が、体積百分率比で3%以下になることが望ましい。酸素濃度が体積百分率比で3%以下であれば、粘結剤が熱分解することを実質的に防止しながら加熱処理することができるものである。水蒸気を吹き込んで熱処理器1内の空気を排出することによって、酸素濃度を体積百分率比で3%以下に保つことは容易である。
【0103】
また上記のように成形物を水蒸気で加熱処理するにあたって、粘結剤等から揮発ガスや分解ガスなどが発生しても、このガス分は温度の下がった水蒸気の凝縮水に吸収され、ガスの臭気が作業雰囲気に放出されることを防ぐことができるものである。従ってこれらのガスによって、作業環境が悪化することを防ぐことができると共に、大気の汚染など環境に悪い影響が及ぼされることを防ぐことができるものであり、さらにはガスによる引火爆発のおそれもなくなるものである。またこれらの揮発ガスや分解ガスは、ガスの毒性を凝縮水に閉じ込めた状態で排水処理することができるものであり、特に、水蒸気は凝縮することによって体積が著しく小さくなるので、加熱処理で発生する揮発ガスや分解ガスがそのまま排出される場合に比べて、凝縮水に吸収して極めて小さな体積にした状態で排出することができ、その処理は容易になるものである。
【0104】
上記のように熱処理器1に水蒸気を吹き込んで成形物を水蒸気で加熱処理するにあたって、水蒸気による加熱は成形物の粘結剤を乾燥固化、硬化、炭化させるまで行なう必要はなく、これらの乾燥固化、硬化、炭化が容易になる温度になるまで成形物の全体を均一に昇温させればよい。熱処理器1に水蒸気を吹き込んで加熱処理する時間は、水蒸気の温度や水蒸気の供給量などによって異なり、さらに熱処理器1内を加熱する時間も必要であるため、熱処理器1や成形物の大きさによっても異なるが、単に成形物を100℃近傍まで上昇させるのであれば、30〜300秒程度で十分である。
【0105】
ここで水蒸気の温度は、特に限定されるものではないが、110℃以上であることが望ましく、粘結剤を分解させる温度以下の範囲で任意に設定することができる。また水蒸気としては、飽和水蒸気を用いる他、過熱水蒸気を用いることもできる。過熱水蒸気は、飽和水蒸気をさらに加熱して、沸点以上の温度とした完全気体状態の水蒸気であり、100℃以上の乾き蒸気である。過熱水蒸気は900℃程度まで温度を上昇させることが可能であり、このため高温で粘結剤を加熱処理することができ、加熱処理の時間をより短縮することが可能になる。
【0106】
次に、熱処理器1への水蒸気の吹き込みを停止すると同時に、発熱手段8を作動させ、熱処理器1内を発熱手段8の発熱によって高温の雰囲気にし、成形物を発熱手段8によって加熱する。発熱手段8による加熱温度は、上記の水蒸気の温度より高い温度であればよく、また成形物の加熱目標温度によって異なるので、特に限定されるものではないが、上記の水蒸気の温度よりも20℃以上高い温度であることが好ましい。発熱手段8による加熱温度の上限は、粘結剤を分解させる温度以下であればよい。
【0107】
上記のように熱処理器1に水蒸気を吹き込んで成形物を短時間で昇温させた後、このように発熱手段8で成形物を加熱することによって、成形物の粘結剤を乾燥固化させ、あるいは硬化させ、あるいはさらに炭化させることができるものであり、このように固化、硬化、炭化した粘結剤で耐火骨材を結合させて、耐火物を得ることができるものである。
【0108】
ここで、このように発熱手段8の発熱で成形物を加熱して粘結剤を固化、硬化、炭化させるため、成形物の耐火骨材が水と反応し易い成分を含んでいても、水蒸気で加熱して粘結剤を固化、硬化、炭化させるときのような、水蒸気の水分が耐火骨材に作用することを防ぐことができるものである。従って、耐火骨材が水蒸気の水分と反応することを抑制して、成形物に膨張・収縮が生じるようなことを低減できるものであり、成形物の膨張・収縮で粘結剤による耐火骨材の結合力が低下することを抑制して、耐火物の強度が低下することを防ぐことができるものである。
【0109】
また発熱手段8としてガスバーナーを用いる場合、可燃性ガスを空気中の酸素で燃焼させるため、熱処理器1内は酸素濃度が低くなる。このため、成形物中の粘結剤を発熱手段8で加熱して固化、硬化、炭化させるにあたって、酸素の影響で粘結剤が熱分解することを抑制できるものであり、成形物の強度などの物性が低下することを防止することができるものである。
【0110】
上記のように発熱手段8によって成形物を加熱して、粘結剤を固化、硬化、炭化させる処理を行なうにあたって、発熱手段8で成形物を加熱するのに要する時間は、発熱手段8の加熱温度や粘結剤の種類、成形物の大きさ、また粘結剤の固化や硬化や炭化の度合いなどによって異なるものであり、必要に応じて任意に設定されるものである。
【0111】
次に、図2(b)の熱処理器1を用いて成形物を加熱処理する他の態様について説明する。まず、熱処理器1内に成形物を入れてセットし、扉6を閉じた後、蒸気生成装置10で生成された水蒸気を熱処理器1内に吹き込むと同時に、発熱手段8を作動させて、発熱手段8により熱処理器1内を加熱する。従って熱処理器1内の成形物は水蒸気と発熱手段8とで加熱される。
【0112】
そしてこのとき、成形物の表面に水蒸気が接触することによって、水蒸気は潜熱が成形物に奪われて凝縮するが、水蒸気は高い潜熱を有するので、この潜熱で成形物の表面は急速に温度が上昇する。凝縮した凝縮水は水蒸気が有する顕熱によって蒸発され、また水蒸気のこの顕熱によって成形物の温度はさらに上昇する。ここで、加熱された空気などの気体で成形物を加熱する場合、気体の熱容量は小さいので成形物の表面温度を上昇させるのに時間を要するが、水蒸気を用いて加熱する場合、水蒸気が有する大きな潜熱で成形物を加熱することができるので、短時間で成形物の表面温度を上昇させることができるものである。そしてこのように成形物の表面温度が急激に上昇すると、成形物の内部への伝熱も速やかに行なわれ、短時間で成形物の全体を均一な温度で加熱することができるものである。また同時に発熱手段8による発熱も加わるので、成形物の全体を均一に昇温させることがより容易になるものである。
【0113】
このように水蒸気による加熱で成形物の全体を短時間で均一に加熱することができるので、成形物の表面付近の粘結剤と、成形物の内部の粘結剤とで、固化や硬化の進行の時間差が小さくなり、成形物の表面付近の粘結剤の固化や硬化の進行による膜の形成で成形物の内部の揮発成分が内部に封じ込められるようなことを防ぐことができるものであり、成形物に亀裂や爆裂が生じることを防ぐことができるものである。
【0114】
また、上記のように成形物をセットした熱処理器1内に導入口3から水蒸気を吹き込んで加熱するにあたって、水蒸気を吹き込むことによって熱処理器1内の酸素を含む空気は排気口4から押し出されて排除されるものである。水から生成される水蒸気中には酸素が数ppm程度しか存在しないので、水蒸気を吹き込んで空気を排除すると、熱処理器1内の雰囲気はほぼ無酸素状態になる。従って、成形物中の粘結剤を加熱処理するにあたって、酸素の影響で粘結剤が熱分解することを防ぐことができるものであり、成形物の強度などの物性が低下することを防止することができ、また耐火物に角欠けが発生したり耐火物の表面の組織劣化が生じたりすることを防止することができるものである。このとき、熱処理器1内の雰囲気の酸素濃度が、体積百分率比で3%以下になることが望ましい。酸素濃度が体積百分率比で3%以下であれば、粘結剤が熱分解することを実質的に防止しながら加熱処理することができるものである。水蒸気を吹き込んで熱処理器1内の空気を排出することによって、酸素濃度を体積百分率比で3%以下に保つことは容易である。
【0115】
また上記のように成形物を水蒸気で加熱処理するにあたって、粘結剤等から揮発ガスや分解ガスなどが発生しても、このガス分は温度の下がった水蒸気の凝縮水に吸収され、ガスの臭気が作業雰囲気に放出されることを防ぐことができるものである。従ってこれらのガスによって、作業環境が悪化することを防ぐことができると共に、大気の汚染など環境に悪い影響が及ぼされることを防ぐことができるものであり、さらにはガスによる引火爆発のおそれもなくなるものである。またこれらの揮発ガスや分解ガスは、ガスの毒性を凝縮水に閉じ込めた状態で排水処理することができるものであり、特に、水蒸気は凝縮することによって体積が著しく小さくなるので、加熱処理で発生する揮発ガスや分解ガスがそのまま排出される場合に比べて、凝縮水に吸収して極めて小さな体積にした状態で排出することができ、その処理は容易になるものである。
【0116】
ここで熱処理器1に吹き込む水蒸気の温度は、特に限定されるものではないが、110℃以上であることが望ましく、粘結剤を分解させる温度以下の範囲で任意に設定することができる。また水蒸気としては、飽和水蒸気を用いる他、過熱水蒸気を用いることもできる。過熱水蒸気は、飽和水蒸気をさらに加熱して、沸点以上の温度とした完全気体状態の水蒸気であり、100℃以上の乾き蒸気である。過熱水蒸気は900℃程度まで温度を上昇させることが可能であり、このため高温で粘結剤を加熱処理することができ、加熱処理の時間をより短縮することが可能になる。
【0117】
また発熱手段8による加熱温度は、特に限定されるものではないが、上記の水蒸気の温度より高い温度であることが好ましく、上記の水蒸気の温度よりも20℃以上高い温度であることが望ましい。発熱手段8による加熱温度の上限は、粘結剤を分解させる温度以下であればよく、特に設定されるものではない。
【0118】
上記のように熱処理器1内の成形物を水蒸気と発熱手段8で加熱することによって、成形物の粘結剤を乾燥固化させ、あるいは硬化させ、あるいはさらに炭化させることができるものであり、このように固化、硬化、炭化した粘結剤で耐火骨材を結合させて、耐火物を得ることができるものである。
【0119】
ここで、成形物の加熱はこのように水蒸気と発熱手段8とを併用して行なうので、発熱手段8で成形物を加熱するぶん、熱処理器1への水蒸気の吹き込み量を少なくすることができるものである。このため、成形物の耐火骨材が水と反応し易い成分を含んでいても、水蒸気単独で加熱して粘結剤を固化、硬化、炭化させるときのような、水蒸気の水分が耐火骨材に作用することを低減できるものである。従って、耐火骨材が水蒸気の水分と反応することを抑制して、成形物に膨張・収縮が生じるようなことを低減できるものであり、成形物の膨張・収縮で粘結剤による耐火骨材の結合力が低下することを抑制して、耐火物の強度が低下したり亀裂が生じたりすることを防ぐことができるものである。
【0120】
上記のように水蒸気と発熱手段8を併用して成形物を加熱して、粘結剤を固化、硬化、炭化させる処理を行なうにあたって、成形物を加熱処理するのに要する時間は、粘結剤の種類、成形物の大きさ、また粘結剤の固化や硬化や炭化の度合いなどによって異なるものであり、必要に応じて任意に設定されるものである。
【0121】
次に、図2(b)の熱処理器1を用いて成形物を加熱処理する他の態様について説明する。熱処理器1内に成形物を入れてセットし、扉6を閉じた後、まず蒸気生成装置10で生成された水蒸気を熱処理器1内に吹き込む。このとき、発熱手段8の作動は停止している。このように熱処理器1内に水蒸気を吹き込むと、成形物の表面に水蒸気が接触することによって、水蒸気は潜熱が成形物に奪われて凝縮するが、水蒸気は高い潜熱を有するので、この潜熱で成形物の表面は急速に温度が上昇する。凝縮した凝縮水は水蒸気が有する顕熱によって蒸発され、また水蒸気のこの顕熱によって成形物の温度はさらに上昇する。ここで、加熱された空気などの気体で成形物を加熱する場合、気体の熱容量は小さいので成形物の表面温度を上昇させるのに時間を要するが、水蒸気を用いて加熱する場合、水蒸気が有する大きな潜熱で成形物を加熱することができるので、短時間で成形物の表面温度を上昇させることができるものである。そしてこのように成形物の表面温度が急激に上昇すると、成形物の内部への伝熱も速やかに行なわれ、短時間で成形物の全体を均一な温度で加熱することができるものである。
【0122】
このように水蒸気による加熱で成形物の全体を短時間で均一に加熱することができるので、成形物の表面付近の粘結剤と、成形物の内部の粘結剤とで、固化や硬化の進行の時間差が小さくなり、成形物の表面付近の粘結剤の固化や硬化の進行による膜の形成で成形物の内部の揮発成分が内部に封じ込められるようなことを防ぐことができるものであり、成形物に亀裂や爆裂が生じることを防ぐことができるものである。
【0123】
また、上記のように成形物をセットした熱処理器1内に導入口3から水蒸気を吹き込んで加熱するにあたって、水蒸気を吹き込むことによって熱処理器1内の酸素を含む空気は排気口4から押し出されて排除されるものである。水から生成される水蒸気中には酸素が数ppm程度しか存在しないので、水蒸気を吹き込んで空気を排除すると、熱処理器1内の雰囲気はほぼ無酸素状態になる。従って、成形物中の粘結剤を加熱処理するにあたって、酸素の影響で粘結剤が熱分解することを防ぐことができるものであり、成形物の強度などの物性が低下することを防止することができ、また耐火物に角欠けが発生したり耐火物の表面の組織劣化が生じたりすることを防止することができるものである。このとき、熱処理器1内の雰囲気の酸素濃度が、体積百分率比で3%以下になることが望ましい。酸素濃度が体積百分率比で3%以下であれば、粘結剤が熱分解することを実質的に防止しながら加熱処理することができるものである。水蒸気を吹き込んで熱処理器1内の空気を排出することによって、酸素濃度を体積百分率比で3%以下に保つことは容易である。
【0124】
また上記のように成形物を水蒸気で加熱処理するにあたって、粘結剤等から揮発ガスや分解ガスなどが発生しても、このガス分は温度の下がった水蒸気の凝縮水に吸収され、ガスの臭気が作業雰囲気に放出されることを防ぐことができるものである。従ってこれらのガスによって、作業環境が悪化することを防ぐことができると共に、大気の汚染など環境に悪い影響が及ぼされることを防ぐことができるものであり、さらにはガスによる引火爆発のおそれもなくなるものである。またこれらの揮発ガスや分解ガスは、ガスの毒性を凝縮水に閉じ込めた状態で排水処理することができるものであり、特に、水蒸気は凝縮することによって体積が著しく小さくなるので、加熱処理で発生する揮発ガスや分解ガスがそのまま排出される場合に比べて、凝縮水に吸収して極めて小さな体積にした状態で排出することができ、その処理は容易になるものである。
【0125】
上記のように熱処理器1に水蒸気を吹き込んで成形物を水蒸気で加熱処理するにあたって、水蒸気による加熱は成形物の粘結剤を乾燥固化、硬化、炭化させるまで行なう必要はなく、これらの乾燥固化、硬化、炭化が容易になる温度になるまで成形物の全体を均一に昇温させればよい。熱処理器1に水蒸気を吹き込んで加熱処理する時間は、水蒸気の温度や水蒸気の供給量などによって異なり、さらに熱処理器1内を加熱する時間も必要であるため、熱処理器1や成形物の大きさによっても異なるが、単に成形物を100℃近傍まで上昇させるのであれば、30〜300秒程度で十分である。
【0126】
ここで水蒸気の温度は、特に限定されるものではないが、110℃以上であることが望ましく、粘結剤を分解させる温度以下の範囲で任意に設定することができる。また水蒸気としては、飽和水蒸気を用いる他、過熱水蒸気を用いることもできる。過熱水蒸気は、飽和水蒸気をさらに加熱して、沸点以上の温度とした完全気体状態の水蒸気であり、100℃以上の乾き蒸気である。過熱水蒸気は900℃程度まで温度を上昇させることが可能であり、このため高温で粘結剤を加熱処理することができ、加熱処理の時間をより短縮することが可能になる。
【0127】
次に、熱処理器1への水蒸気の吹き込みを継続しながら、発熱手段8を作動させ、熱処理器1内の成形物を発熱手段8の発熱によっても加熱する。発熱手段8による加熱温度は、上記の水蒸気の温度より高い温度であればよく、特に限定されるものではないが、上記の水蒸気の温度よりも20℃以上高い温度であることが好ましい。発熱手段8による加熱温度の上限は、粘結剤を分解させる温度以下であればよい。
【0128】
このように熱処理器1に吹き込んだ水蒸気と、発熱手段8の発熱とを併用して、成形物を加熱することによって、成形物の粘結剤を乾燥固化させ、あるいは硬化させ、あるいはさらに炭化させることができるものであり、このように固化、硬化、炭化した粘結剤で耐火骨材を結合させて、耐火物を得ることができるものである。
【0129】
ここで、成形物の加熱はこのように水蒸気と発熱手段8とを併用して行なうので、発熱手段8で成形物を加熱するぶん、熱処理器1に吹き込む水蒸気の量を減らすことができるものである。このため、成形物の耐火骨材が水と反応し易い成分を含んでいても、水蒸気単独で加熱して粘結剤を固化、硬化、炭化させるときのような、水蒸気の水分が耐火骨材に作用することを低減できるものである。従って、耐火骨材が水蒸気の水分と反応することを抑制して、成形物に膨張・収縮が生じるようなことを低減できるものであり、成形物の膨張・収縮で粘結剤による耐火骨材の結合力が低下することを抑制して、耐火物の強度が低下することを防ぐことができるものである。
【0130】
上記のように水蒸気と発熱手段8を併用して成形物を加熱して、粘結剤を固化、硬化、炭化させる処理を行なうにあたって、成形物を加熱処理するのに要する時間は、粘結剤の種類、また粘結剤の固化や硬化や炭化の度合いなどによって異なるものであり、必要に応じて任意に設定されるものである。
【実施例】
【0131】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0132】
(実施例1)
反応容器にフェノール940質量部、37質量%ホルマリン1216質量部、28質量%アニモニア水50質量部を仕込み、約60分を要して70℃まで昇温させ、そのまま240分間反応させた。そして133hPaで80℃まで減圧脱水を行なった後、エチレングリコール300質量部に溶解させ、レゾール型フェノール樹脂溶液を得た。このレゾール型フェノール樹脂溶液の25℃における粘度は9Pa・s、135℃における不揮発分は77質量%であった。
【0133】
次に、耐火骨材として粒径3.0〜0.0mmの電融アルミナ70質量部と固定炭素量98%の天然黒鉛30質量部を用い、これらをミキサーに投入すると共に、さらに粘結剤として上記のレゾール型フェノール樹脂溶液を8.0質量部投入し、10分間混練して湿潤状態の耐火物組成物を得た。
【0134】
次にこの耐火物組成物を内径45mmの円柱状のキャビティを有する成形型に250g入れ、油圧プレスを用いて60mmの高さになるようにプレス成形し、円柱形の成形物を得た。
【0135】
また熱処理器1として、庫内の有効寸法が幅390mm、奥行き370mm、高さ390mmの過熱蒸気小型バッチ試験機(野村技工株式会社製「型式GE−10B」)を用いた。この熱処理器1には底部に水蒸気を導入する導入口3が、天井部に排気口4がそれぞれ設けてあり、前面の開口部5の扉6を閉じることによって密閉できるようにしてある。本実施例の熱処理器1の導入口3には図1(a)のように蒸気生成装置10と加熱気体生成装置11が接続してある。
【0136】
そして熱処理器1内に設けたステンレス製の金網の上に上記の成形物を載せ、成形物を熱処理器1内にセットした。このとき、成形物として、側面の中央部から成形物の内部中央に至る穴を開けて温度センサーを差し込んで、成形物の中央部の温度を継時的に測定できるようにしたものと、このような穴を開けていない成形物とを用い、それぞれ熱処理器1内にセットした(以下の実施例、比較例においても同じ)。
【0137】
このように熱処理器1内に成形物をセットした後、蒸気生成装置10のボイラーで発生させたゲージ圧0.3MPa、温度143℃の飽和水蒸気を過熱器(野村技工株式会社製「型式GE−10B」)で加熱して生成される、温度350℃、ゲージ圧力0.35MPaの過熱水蒸気を、60kg/hの流量で導入口3から熱処理器1内に吹き込んだ。そして加熱処理の開始から63秒後に成形物の中央の温度が水蒸気の凝縮温度付近の100℃に達し、この時点で速やかに蒸気生成装置10から加熱気体生成装置11へと切り替え、過熱水蒸気の供給を停止すると共に、加熱気体として450℃の加熱空気をゲージ圧力0.10MPaで熱処理器1内に吹き込んだ。加熱処理の開始から47分後に成形物の中央の温度が300℃に達し、そのまま加熱空気の吹き込みを3時間継続した。このように加熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂を硬化させ、耐火物を得た。
【0138】
(実施例2)
熱処理器1内に成形物をセットした後、蒸気生成装置10のボイラーで発生させたゲージ圧0.3MPa、温度143℃の飽和水蒸気を、過熱器で加熱することなくそのまま、60kg/hの流量で導入口3から熱処理器1内に吹き込んだ。そして加熱処理の開始から76秒後に成形物の中央の温度が100℃に達し、この時点で速やかに蒸気生成装置10から加熱気体生成装置11へと切り替えるようにした。その他は実施例1と同様にして、成形物のフェノール樹脂を硬化させ、耐火物を得た。
【0139】
(実施例3)
実施例1と同様にして熱処理器1内に過熱水蒸気を吹き込んで、成形物の中央の温度が水蒸気の凝縮温度付近の100℃に達した時点で速やかに蒸気生成装置10から加熱気体生成装置11へと切り替えた。そして加熱気体として、温度350℃、ゲージ圧力0.35MPa、流量30kg/hの過熱水蒸気と、温度450℃、ゲージ圧力0.05MPaの加熱空気との混合気体を熱処理器1内に吹き込んだ。加熱処理の開始から33分後に成形物の中央の温度が300℃に達し、そのまま混合気体の吹き込みを3時間継続した。このように加熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂を硬化させ、耐火物を得た。
【0140】
(実施例4)
実施例1と同様にして耐火物組成物を調製し、成形物を得た。また熱処理器1として実施例1と同じ過熱蒸気小型バッチ試験機(野村技工株式会社製「型式GE−10B」)を用いた。本実施例の熱処理器1の導入口3には図1(b)のように蒸気生成装置10と加熱気体生成装置11が接続してある。
【0141】
そして実施例1と同様に熱処理器1内に成形物をセットした後、蒸気生成装置10のボイラーで発生させたゲージ圧0.3MPa、温度143℃の飽和水蒸気を過熱器(野村技工株式会社製「型式GE−10B」)で加熱して生成される、温度350℃、ゲージ圧力0.35MPaの過熱水蒸気を30kg/hの流量で、また加熱気体生成装置11から加熱気体として450℃の加熱空気をゲージ圧力0.05MPaで、それぞれ混合器14を介して熱処理器1内に吹き込んだ。加熱処理の開始から85秒後に成形物の中央の温度が100℃に達し、さらに加熱処理の開始から32分後に成形物の中央の温度が300℃に達した。このまま過熱水蒸気と加熱空気の混合気体の吹き込みを3時間継続した。このように加熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂を硬化させ、耐火物を得た。
【0142】
(実施例5)
実施例1と同様にして耐火物組成物を調製し、成形物を得た。また熱処理器1として実施例1と同じ過熱蒸気小型バッチ試験機(野村技工株式会社製「型式GE−10B」)を用いた。本実施例の熱処理器1の導入口3には図2(a)のように蒸気生成装置10が接続してある。さらに加熱炉7として、高温乾燥器((株)東洋製作所製「型式DRD360DA」、庫内寸法:幅300mm、奥行300mm、高さ300mm)を用いた。この加熱炉7は発熱手段8として電気ヒーターを備えて形成されている。
【0143】
実施例1と同様に熱処理器1内に成形物をセットした後、蒸気生成装置10のボイラーで発生させたゲージ圧0.3MPa、温度143℃の飽和水蒸気を過熱器(野村技工株式会社製「型式GE−10B」)で加熱して生成される、温度350℃、ゲージ圧力0.35MPaの過熱水蒸気を、60kg/hの流量で導入口3から熱処理器1内に吹き込んだ。そして加熱処理の開始から63秒後に成形物の中央の温度が水蒸気の凝縮温度付近の100℃に達し、この時点で素早く、成形物を熱処理器1から、予め庫内を450℃の温度に加熱した加熱炉7内に移し替えた。加熱処理の開始から53分後に成形物の中央の温度が300℃に達し、そのまま加熱炉7内での加熱を2時間継続した。このように加熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂を硬化させ、耐火物を得た。
【0144】
(実施例6)
実施例1と同様にして耐火物組成物を調製し、成形物を得た。また熱処理器1として、底部に水蒸気を導入する導入口3を、天井部に排気口4を設け、前面の開口部5の扉6を閉じることによって密閉できるようにしたものを用いた。本実施例の熱処理器1の導入口3には図2(b)のように蒸気生成装置10が接続してあり、側壁には発熱手段8として電気ヒーターが設けてある。
【0145】
実施例1と同様に熱処理器1内に成形物をセットした後、蒸気生成装置10のボイラーで発生させたゲージ圧0.3MPa、温度143℃の飽和水蒸気を過熱器(野村技工株式会社製「型式GE−10B」)で加熱して生成される、温度350℃、ゲージ圧力0.35MPaの過熱水蒸気を、60kg/hの流量で導入口3から熱処理器1内に吹き込んだ。そして加熱処理の開始から64秒後に成形物の中央の温度が水蒸気の凝縮温度付近の100℃に達し、この時点で速やかに過熱水蒸気の吹き込みを停止すると同時に、電気ヒーターを作動させ、電気ヒーターの発熱によって庫内温度を450℃に上昇させた。加熱処理の開始から55分後に成形物の中央の温度が300℃に達し、そのまま電気ヒーターの発熱を2時間継続した。このように加熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂を硬化させ、耐火物を得た。
【0146】
(実施例7)
実施例1と同様にして耐火物組成物を調製し、成形物を得た。また熱処理器1として、実施例6と同じ図2(b)に示すものを用いた。
【0147】
実施例1と同様に熱処理器1内に成形物をセットした後、蒸気生成装置10のボイラーで発生させたゲージ圧0.3MPa、温度143℃の飽和水蒸気を過熱器(野村技工株式会社製「型式GE−10B」)で加熱して生成される、温度350℃、ゲージ圧力0.35MPaの過熱水蒸気を、30kg/hの流量で導入口3から熱処理器1内に吹き込んだ。また同時に電気ヒーターを作動させて、電気ヒーターで熱処理器1の庫内を加熱した。このとき、電気ヒーターは、単独で加熱したときに庫内温度が450℃に上昇する発熱条件で作動させた。そして加熱処理の開始から78秒後に成形物の中央の温度が100℃に達した。さらに49分後に成形物の中央の温度が300℃に達し、そのままこの加熱を2時間継続した。このように加熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂を硬化させ、耐火物を得た。
【0148】
(実施例8)
実施例1と同様にして耐火物組成物を調製し、成形物を得た。また熱処理器1として、実施例6と同じ図2(b)に示すものを用いた。
【0149】
実施例1と同様に熱処理器1内に成形物をセットした後、蒸気生成装置10のボイラーで発生させたゲージ圧0.3MPa、温度143℃の飽和水蒸気を過熱器(野村技工株式会社製「型式GE−10B」)で加熱して生成される、温度350℃、ゲージ圧力0.35MPaの過熱水蒸気を、60kg/hの流量で導入口3から熱処理器1内に吹き込んだ。そして加熱処理の開始から68秒後に成形物の中央の温度が水蒸気の凝縮温度付近の100℃に達し、この時点で、過熱水蒸気の吹き込みの流量を30kg/hに下げると同時に、電気ヒーターを作動させた。このとき電気ヒーターは、単独で加熱したときに庫内温度が450℃に上昇する発熱条件で作動させた。そして加熱処理の開始から47分後に成形物の中央の温度が300℃に達し、そのままこの加熱を2時間継続した。このように加熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂を硬化させ、耐火物を得た。
【0150】
(比較例1)
実施例1と同様にして作製した成形物を、高温乾燥器(株式会社東洋製作所製「型式DRD360DA」:電気ヒーター内臓、庫内寸法幅300mm、奥行き300mm、高さ300mm)の庫内に、テフロン(登録商標)シートの上に載せてセットした。庫内温度を450℃に調整して加熱し、成形物の中心部の温度が300℃に達したところで、庫内温度を300℃に調整し、そのまま3時間加熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂を硬化させ、耐火物を得た。
【0151】
(比較例2)
実施例1と同様にして作製した成形物を、実施例1と同様に熱処理器内にセットし、実施例1と同じ条件で過熱水蒸気を吹き込んで、成形物の中心部の温度が300℃になるまで過熱水蒸気で加熱した。成形物の中心部の温度が300℃になった時点で、成形物のこの300℃の温度が維持されるように、過熱水蒸気の吹き込み量を調整しながら3時間加熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂を硬化させ、耐火物を得た。
【0152】
上記のように各実施例及び各比較例で成形物を加熱処理するにあたって、成形物の温度の経時変化を温度センサーで測定した。各実施例及び各比較例において、成形物の内部の中心部の温度が100℃、200℃、250℃、300℃に達するまでの時間を表1に示す。
【0153】
また、上記のようにして得られた耐火物について、かさ比重、揮発分、圧縮強さ、外観の測定をし、表1に示す。測定は、温度センサーを差し込む孔を設けていない成形物(耐火物)について行なった。ここで、かさ比重はJIS R2001に準拠して、加熱処理する前の成形物と加熱処理後の耐火物についてそれぞれ測定した。また揮発分は次の式から求めた。
揮発分(%)=100−(熱処理後の質量(g)/熱処理前の質量(g))×100
【0154】
圧縮強さは、JIS R2206に準拠して測定した。また外観は、目視により耐火物の表面を観察して測定し、次のように評価した。
「◎」:フクレや亀裂の発生がないもの。
「○」:数か所程度のフクレはあるが、亀裂のないもの。
「△」:フクレの他に、亀裂も数か所発生するもの。
「×」:フクレが無数にあり、亀裂が多くあるもの。
【0155】
【表1】

【0156】
表1にみられるように、水蒸気で成形物を加熱する各実施例では1分少々で成形物の内部の温度が100℃にまで上昇するが、電気ヒーターで成形物を加熱して熱処理するようにした比較例1では、成形物の内部温度が100℃に達するのに11分を要するものであり、さらに300℃に達する時間も長くなるものであった。また各実施例では耐火物にフクレや亀裂が発生することなく、加熱処理を行なうことができるが、成形物を最初から最後まで通して水蒸気のみで加熱するようにした比較例2では、昇温速度は速いものの、得られた耐火物にフクレが発生するものであった。
【0157】
(実施例9〜16、比較例3)
反応容器にフェノール940質量部、37質量%ホルマリン568質量部、シュウ酸3.76質量部を仕込み、撹拌しながら約1時間を要して還流させ、還流温度で3時間反応させた。次に脱水しながら内温が170℃になるまで加熱した。さらに減圧しながら40hPaで内温が200℃になるまで脱液を行なった。この後、反応溶液から払い出して冷却することによって、固形のノボラック型フェノール樹脂を得た。得られたノボラック型フェノール樹脂の軟化点は78℃であった。このノボラック型フェノール樹脂70質量部にエチレングリコール30質量部を加えて良く混合し、粘度が8.5Pa・s(25℃)のノボラック型フェノール樹脂液を得た。
【0158】
次に、耐火骨材として、天然マグネシア(MgO含有量95.55質量%、SiO含有量1.32質量%、CaO含有量2.81質量%、Al含有量0.32質量%)の粒径3mm未満1mm以上のもの30質量部、粒径1mm未満0.5mm以上のもの20質量部、粒径0.5mm未満0.21mm以上のもの25質量部、T粉(粒径0.21mm未満0mm以上)10質量部、天然黒鉛15質量部を用い、これらをヘンシェルミキサーに入れて5分間撹拌した。さらに粘結剤として上記のノボラック型フェノール樹脂溶液を3.0質量部、ヘキサメチレンテトラミンを0.3質量部を配合し、285rpmの回転速度で15分間混練して湿潤状態の耐火物組成物を得た。
【0159】
次にこの耐火物組成物を内径45mmの円柱状のキャビティを有する成形型に285g入れ、油圧プレスを用いて60mmの高さになるようにプレス成形し、円柱形の成形物を得た。
【0160】
このように調製した成形物を用い、上記の実施例1〜8、比較例2と同じ方法・条件で成形物を加熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂を硬化させ、耐火物を得た。このように加熱処理した際の成形物の中心部の温度変化を上記と同様に測定し、また得られた耐火物について、上記と同様な測定をし、表2に示した。
【0161】
【表2】

【0162】
表2にみられるように、各実施例ではフクレを抑制し、また亀裂が発生することなく加熱処理を行なうことができるが、成形物を最初から最後まで通して水蒸気のみで加熱するようにした比較例3では、昇温速度は速いものの、得られた耐火物にフクレや亀裂が発生するものであった。これは、耐火骨材として水と反応し易いCaOを含有する天然マグネシアを用いるため、成形物を最初から最後まで通して水蒸気のみで加熱する比較例3では水との反応で成形物に膨張・伸縮が発生し、亀裂の発生が顕著になったものと考えられる。
【0163】
(実施例17)
糖類としてデキストリン(日澱化學(株)製「No4−C」)を用い、このデキストリン70質量部をエチレングリコール30質量部に加えて混合することによって分散させ、デキストリンのエチレングリコール液を粘結剤として調製した。
【0164】
上記の実施例1において、レゾール型フェノール樹脂の代わりにこのデキストリンのエチレングリコール液を用いる他は、実施例1と同様にして円柱形の成形物を得た。そしてこの成形物を、実施例1と同様にして、過熱水蒸気と加熱空気で加熱処理することによって、成形物のデキストリンを固化させ、耐火物を得た。
【0165】
(実施例18)
実施例1と同様にして耐火物組成物を調製し、また実施例1と同様にして成形物を得た。そして実施例1と同様にして熱処理器1内に過熱水蒸気を吹き込んで、成形物の中央の温度が水蒸気の凝縮温度付近の100℃に達した時点で速やかに蒸気生成装置10から加熱気体生成装置11へと切り替えた。
【0166】
このとき、加熱気体生成装置11から加熱気体として、温度600℃、ゲージ圧力0.25MPa、流量30kg/hの過熱水蒸気と、温度750℃、ゲージ圧力0.05MPaの加熱空気との混合気体を熱処理器1内に吹き込んだ。加熱処理の開始から58分後に成形物の中央の温度が600℃に達し、そのまま混合気体の吹き込みを3時間継続した。このように加熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂を炭化させ、耐火物を得た。
【0167】
(実施例19)
実施例1と同様にして耐火物組成物を調製し、実施例1と同様にして成形物を得た。また熱処理器1として、実施例6と同じ図2(b)に示すものを用いた。
【0168】
実施例1と同様に熱処理器1内に成形物をセットした後、蒸気生成装置10のボイラーで発生させたゲージ圧0.3MPa、温度143℃の飽和水蒸気を過熱器(野村技工株式会社製「型式GE−10B」)で加熱して生成される、温度600℃、ゲージ圧力0.35MPaの過熱水蒸気を、30kg/hの流量で導入口3から熱処理器1内に吹き込んだ。また同時に電気ヒーターを作動させて、電気ヒーターで熱処理器1の庫内を加熱した。このとき、電気ヒーターは、単独で加熱したときに庫内温度が600℃に上昇する発熱条件で作動させた。そして加熱処理の開始から60秒後に成形物の中央の温度が100℃に達した。さらに成形物の中央の温度が600℃に達した後、そのままこの加熱を3時間継続した。このように加熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂を炭化させ、耐火物を得た。
【0169】
(比較例4)
実施例1と同様にして耐火物組成物を調製し、実施例1と同様にして成形物を得た。この成形物を耐熱箱に入れてコークスで被覆し、電気炉((株)シリコニット製「シリコニット電気炉 型式「BSH−1530」)内にセットした。そして10℃/分の昇温速度で600℃まで昇温し、さらにこの温度で3時間保持した後に降温することによって、成形物中のフェノール樹脂が炭化した耐火物を得た。
【0170】
上記のように実施例及17〜19で成形物を加熱処理するにあたって、上記と同様に成形物の温度の経時変化を温度センサーで測定し、成形物の内部の中心部の温度が100℃、300℃、600に達するまでの時間を表3に示す。また実施例17〜19及び比較例4で得られた耐火物について、上記と同様な測定をし、表3に示す。
【0171】
【表3】

【0172】
実施例17は粘結剤として糖類を用い、粘結剤を乾燥固化して耐火物を得るようにしたものであり、この場合もフクレや亀裂が発生することなく加熱処理を行なうことができるものであった。
【0173】
実施例18,19は粘結剤を炭化させるまで加熱して耐火物を得るようにしたものであり、この場合もフクレや亀裂が発生することなく加熱処理を行なうことができるものであった。そして実施例18,19では、コークスを用いて焼成することによって炭化させるようにした従来工法の比較例4のものと同等以上の結果を得ることができるものであった。
【符号の説明】
【0174】
1 熱処理器
2 気体供給手段
7 加熱炉
8 発熱手段
10 蒸気生成装置
11 加熱気体生成装置
12 切換え弁
14 混合器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、気体供給手段を有する熱処理器内にこの成形物をセットし、この熱処理器内に気体供給手段で水蒸気を吹き込んで水蒸気の凝縮潜熱で成形物を加熱すると共に、次いで加熱した気体を気体供給手段で熱処理器内に吹き込んで成形物を加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をすることを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項2】
耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、気体供給手段を有する熱処理器内にこの成形物をセットし、この熱処理器内に水蒸気と加熱した気体を気体供給手段で吹き込んで、水蒸気の凝縮潜熱と加熱気体とで成形物を加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をすることを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項3】
上記の加熱した気体として、空気、窒素、アルゴンから選ばれるものを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐火物の製造方法。
【請求項4】
上記の加熱した気体として、空気、窒素、アルゴンから選ばれるものと水蒸気との混合気体を用いることを特徴とする請求項1に記載の耐火物の製造方法。
【請求項5】
耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、気体供給手段を有する熱処理器内にこの成形物をセットし、この熱処理器内に気体供給手段で水蒸気を吹き込んで水蒸気の凝縮潜熱で成形物を加熱し、次いで発熱手段を有する加熱炉内に成形物を移して発熱手段で成形物を加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をすることを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項6】
耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、気体供給手段と発熱手段を有する熱処理器内にこの成形物をセットし、この熱処理器内に気体供給手段で水蒸気を吹き込んで水蒸気の凝縮潜熱で成形物を加熱し、次いで熱処理器内の成形物を発熱手段で加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をすることを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項7】
耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、気体供給手段と発熱手段を有する熱処理器内にこの成形物をセットし、この熱処理器内に気体供給手段で水蒸気を吹き込んで水蒸気の凝縮潜熱で成形物を加熱すると同時に、熱処理器内の成形物を発熱手段で加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をすることを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項8】
耐火骨材と粘結剤を含有して調製される耐火物組成物を成形し、気体供給手段と発熱手段を有する熱処理器内にこの成形物をセットし、この熱処理器内に気体供給手段で水蒸気を吹き込んで水蒸気の凝縮潜熱で成形物を加熱した後、水蒸気による加熱を継続しつつ同時に熱処理器内の成形物を発熱手段で加熱することによって、粘結剤に固化、硬化、炭化から選ばれる処理をすることを特徴とする耐火物の製造方法。
【請求項9】
上記の水蒸気として過熱水蒸気を用いることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の耐火物の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかの製造方法により、固化、硬化、炭化から選ばれる処理がされた粘結剤で耐火骨材が結合されて形成されて成ることを特徴とする耐火物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−135953(P2012−135953A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289999(P2010−289999)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000115658)リグナイト株式会社 (34)
【Fターム(参考)】