説明

耐火被覆構造

【課題】耐火被覆材の耐火性能を保持することができる。
【解決手段】H形鋼(対象物)2の周囲に、薄層シート状の耐火シート(耐火被覆材)3が設置されて、H形鋼2のフランジ2aの端部と耐火シート3との間には、スペーサー4が設置されている。スペーサー4は、H形鋼2のフランジ2aの端部にはめ込まれる凹部4aを備えた略コの字型形状に形成される。スペーサー4は、耐火シート2が加熱により膨張する温度より低い温度で燃焼あるいは熱溶融する性質のポリエチレンなどの樹脂材料や紙などで形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱により膨張するシート状の耐火被覆材で対象物を被覆する耐火被覆構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物の鉄骨材などに、例えばロックウールやセラミックファイバー等で形成された無機繊維シートを巻きつけて、構造物の耐火性能を確保する耐火被覆工法が行われている。これらの工法では工場生産が可能な無機繊維シートを使用するので、建設現場での発塵量が少なく、他工程の作業も並行して行うことができて工期短縮が可能であると共に、耐火被覆材の品質も安定しているなどという利点がある。また、耐火被覆材は主に無機質の材料によって構成されているので、加熱時の有毒ガスの発生量が非常に少ない。
【0003】
また、特許文献1によれば、例えばロックウールやセラミックファイバー等の無機繊維材料と膨張性材料の黒鉛やひる石などを主成分として、それらが混和されたスラリーを抄いて形成されたシート状の耐火被覆材が提案されている。このシート状の耐火被覆材は、火災時に膨張性材料が発泡し、耐火被覆材が面外方向(シート状の耐火被覆材の厚さ方向)に膨張して断熱層を形成するので、所定の耐火性を確保することができる。
そして、このシート状の耐火被覆材は、従来の膨張性材料を含まない無機繊維シートに比べ1/3〜1/2程度の厚さに形成することができる。このような薄層のシート状の耐火被覆材は、従来の膨張性材料を含まない無機繊維シートに比べて運搬、揚重が行いやすく施工時の作業性も高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−45298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の耐火被覆材では以下のような問題があった。
特許文献1によるシート状の耐火被覆材は、火災時に膨張性材料が発泡し、耐火被覆材が面外方向に膨張するが、面内方向(シート状の耐火被覆材の表面に平行な方向)へはほとんど膨張しない性質である。また、この耐火被覆材が鉄骨材などと接している場合には、耐火被覆材は鉄骨材などと接している側の面外方向へはほとんど膨張せず、その反対側の面外方向へ膨張している。
そして、耐火被覆材が鉄骨材などの角部やエッジなどに接して巻き付けられて、所定の角度に曲げられた状態の角部を有する場合には、加熱された耐火被覆材の角部は、鉄骨材などと接していない側の面外方向へ膨張し、耐火被覆材の表面に面内方向に引っ張られる張力が発生している。この張力により、断熱層が部分的に薄くなったり、ひび割れたりして、耐火被覆材の耐火性能が低下してしまう恐れがあるという問題があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、加熱により膨張するシート状の耐火被覆材が膨張した際に、耐火被覆材の表面に発生する張力を低減させることができる耐火被覆構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る耐火被覆構造は、加熱により膨張するシート状の耐火被覆材で対象物を被覆する耐火被覆構造であって、対象物と耐火被覆材との間には、耐火被覆材が膨張する温度よりも低い温度で燃焼または熱溶融する材料で形成されたスペーサーが設けられていることを特徴とする。
本発明では、対象物と耐火被覆材との間に、耐火被覆材が膨張する温度よりも低い温度で燃焼または熱溶融する材料で形成されたスペーサーが設けられていることにより、耐火被覆材が加熱により膨張する前にスペーサーが燃焼または熱溶融し、対象物と耐火被覆材との間にスペースができるので、耐火被覆材がこのスペースへ膨張することができる。
【0008】
また、本発明に係る耐火被覆構造では、スペーサーは、対象物と耐火被覆材の角部との間に設けられていることを特徴とする。
本発明では、対象物と耐火被覆材の角部との間にスペーサーが設けられていることにより、加熱されて耐火被覆材が膨張する前に、対象物と耐火被覆材の角部との間にスペースができる。
そして、耐火被覆材の角部はこのスペース側と、その反対側の面外方向に向かって膨張することができるので、耐火被覆材の膨張により耐火被覆材の角部の表面に発生する張力を低減させることができ、膨張により形成された断熱層が部分的に薄くなったり、ひび割れたりすることを防止し、耐火被覆材の耐火性能を保持することができる。
【0009】
また、本発明に係る耐火被覆構造では、スペーサーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリオレフィン、紙のいずれかを材料として形成されていることが好ましい。
本発明では、スペーサーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリオレフィン、紙のいずれかを材料として形成されていることにより、耐火被覆材が加熱により膨張する温度よりも低い温度で、スペーサーを燃焼または熱溶融させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、対象物と耐火被覆材との間に、耐火被覆材が膨張する温度よりも低い温度で燃焼または熱溶融する材料で形成されたスペーサーが設けられているので、耐火被覆材の膨張によって生じる面内方向への張力を低減させることができ、耐火被覆材が部分的に薄くなったりひび割れたりすることを防止して、安定した耐火性能の耐火被覆構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一の実施の形態による耐火被覆構造の一例を示す図である。
【図2】本発明の第二の実施の形態による耐火被覆構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の第一の実施の形態による耐火被覆構造について、図1に基づいて説明する。
図1に示すように、第一の実施の形態による耐火被覆構造1は、例えば、鉄骨造の独立柱として立設されるH形鋼(対象物)2の周囲に、薄層シート状の耐火シート(耐火被覆材)3が設置されて、H形鋼2のフランジ2aの端部と耐火シート3との間には、スペーサー4が設置されている構成である。
【0013】
耐火シート3は、主にロックウールやセラミックファイバーなどの無機繊維材料と、加熱されると本体が膨張する性質を有する、例えば膨張性黒鉛やひる石などの膨張性材料とから形成されている耐火被覆材である。
耐火シート3は、無機繊維材料を例えば、アクリル樹脂やフェノール樹脂などの有機バインダーと共に水に混和させて、このスラリーに膨張性材料を混和させ、膨張性材料を混和させたスラリーを抄いて抄紙技術によってシート状に形成される。耐火シート3には、必要に応じてガラス繊維などの補強用の繊維が配合されている。
このように形成された耐火シート3は、火災時に膨張性材料が膨張し、面外(耐火シート3の厚さ方向)方向に膨張して断熱層を形成するので、従来の無機繊維シートに比べて1/3〜1/2程度の厚さで従来の無機繊維シートと同様の耐火性能を得ることができる。なお、耐火シート3は、面内方向(耐火シート3の表面に平行な方向)へはほとんど膨張しない性質である。
【0014】
スペーサー4は、H形鋼2のフランジ2aの端部にはめ込まれる凹部4aを備えた断面が略コの字型形状に形成されている。スペーサー4は、耐火シート3が加熱により膨張する温度よりも低い温度で燃焼あるいは熱溶融する性質のポリエチレンなどの樹脂材料や紙などで形成される。また、ポリエチレンに代わってポリプロピレン、ポリスチレン、ポリオレフィンなどの樹脂材料で形成されてもよい。
【0015】
次に、第一の実施の形態による耐火シート3のH形鋼2への設置方法を説明する。
まず、H形鋼2の各フランジ2aの端部に、凹部4aをはめ込むようにスペーサー4を設置する。スペーサー4は、ずれたり外れたりしないように必要に応じて接着剤を用いてH形鋼2へ接着する。
そして、スペーサー4の設置されたH形鋼2の周囲に耐火シート3を巻きつける。このとき、耐火シート3は、H形鋼2のフランジ2aを囲うように断面が略ロの字型に巻きつけられており、耐火シート3にはスペーサー4の外形に合わせて曲げられた状態の角部3aが形成される。ここで、耐火シート3の表面はH形鋼2側を内面3bとし、その反対側を外面3cとする。
耐火シート3は、例えば溶接ピンなどでH形鋼2に複数点付け固定されて、H形鋼2に固定される。
【0016】
このような耐火被覆構造1では、火災により加熱されると、まず、耐火シート3が加熱により膨張する温度より低い温度でスペーサー4が燃焼あるいは熱溶融し、H形鋼2のフランジ2aの端部と膨張する前の耐火シート3の角部3aとの間にスペースができる。そして、更に温度が上がると、耐火シート3内の膨張性材料が膨張し、断熱層が形成される。このとき、耐火シート3の角部3aとフランジ2aの端部との間にはスペースがあるので、耐火シート3の角部3aは外面3c側と内面3b側とに膨張することことができる。
ここで、耐火シート3の角部3aとフランジ2aの端部との間にスペースがないと、耐火シート3の角部は内面3b側にはほとんど膨張できず、外面3c側へ膨張することになる。そして、膨張した耐火シート3の外面3cには張力が生じ、耐火シート3が面内方向に引っ張られることになる。しかし、上述した耐火被覆構造1では、耐火シート3の角部3aは、外面3cと共に内面3bも膨張するので、耐火シート3の角部3aに生じる張力を低減させることができる。
【0017】
上述した第一の実施の形態による耐火被覆構造1では、H形鋼2のフランジ2aの端部と耐火シート3の角部3aとの間に、耐火シート3が加熱により膨張する温度より低い温度で燃焼あるいは熱溶融する材料で形成されたスペーサー4が設けられているので、火災により加熱されると、耐火シート3が膨張する前にスペーサー4が燃焼または熱溶融し、耐火シート3の角部3aとフランジ2aの端部との間にスペースができる。そして、耐火シート3の角部3aは外面3c側と内面3b側へ膨張できて、膨張によって生じる耐火シート3の角部3aの張力を低減できるので、耐火シート3が部分的に薄くなったり、ひび割れしたりすることを防ぐことができて、耐火シート3の耐火性能を安定させることができる効果を奏する。
【0018】
次に、第二の実施の形態の変形例による耐火被覆構造ついて、添付図面に基づいて説明するが、上述の第一の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第一の実施の形態と異なる構成について説明する。
図2に示すように、第二の実施の形態による耐火被覆構造11では、鉄骨造の独立柱として立設される角型鋼管12の角部12aに、断面形状が略L字型のスペーサー14を設置し、角型鋼管12の周囲に耐火シート3を設置した構成である。スペーサー14は、第一の実施の形態によるスペーサー4と同様に、耐火シート3が加熱により膨張する温度より低い温度で燃焼あるいは熱溶融する性質の材料で形成されている。
【0019】
第二の実施の形態による耐火被覆構造11では、角部12aにスペーサー14を設置した角型鋼管12の周囲に耐火シート3を設置しているので、第一の実施の形態と同様の効果を奏する。
【0020】
以上、本発明による耐火被覆構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施の形態では、H形鋼2、角型鋼管12の独立柱に耐火被覆構造1、11を施工しているが、そのほかの形鋼の独立柱に本発明の実施の形態による耐火被覆構造1、11を施工してもよく、また、独立柱に代えて梁などの他の部材に本発明による耐火被覆構造1、11を施工してもよい。
また、上記の実施の形態では、スペーサー4、14は、断面形状を略コの字型や略L字型としているが、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレン、ポリオレフィンなどの樹脂材料を発泡させて軟質のシート状のスペーサーを形成し、設置部分の形状に合わせてシート状のスペーサーを接着してもよい。
【符号の説明】
【0021】
1、11 耐火被覆構造
2 H形鋼(対象物)
3 耐火シート(耐火被覆材)
4、14 スペーサー
12 角型鋼管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱により膨張するシート状の耐火被覆材で対象物を被覆する耐火被覆構造であって、
前記対象物と前記耐火被覆材との間には、前記耐火被覆材が膨張する温度よりも低い温度で燃焼または熱溶融する材料で形成されたスペーサーが設けられていることを特徴とする耐火被覆構造。
【請求項2】
前記スペーサーは、前記対象物と前記耐火被覆材の角部との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の耐火被覆構造。
【請求項3】
前記スペーサーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリオレフィン、紙のいずれかを材料として形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の耐火被覆構造。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−265605(P2010−265605A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115791(P2009−115791)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000217295)田中製紙工業株式会社 (15)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】