説明

耐火間仕切構造およびその施工方法

【課題】 間仕切壁を取り外すことなく既存の間仕切壁の耐火性能を向上させると共に、その施工作業が容易な間仕切壁構造を提供することにある。
【解決手段】 間柱20とこれに取付けられる下張材31及び上張材32からなり耐火性能を有する一対の間仕切壁30,30とを備えた耐火間仕切構造10において、間柱20と間柱20の間の中空部13に面した下張材31の表面部に耐火性向上材としてシート状の熱膨張材40を張り付けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、一対の間仕切壁で構成される耐火間仕切構造にかかり、間仕切壁の中空部に耐火材を配置した間仕切構造とその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、乾式構造の耐火間仕切壁には、各種の改良・開発が行われている。従来広く採用されている構造は、図5に示すように鋼製間柱1を使用して、その両側面2,3に直接けい酸カルシウム板、石膏板などでの下張り板4と上張り板5とで構成される表面板6を取付けている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第2932352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような構造の場合、間仕切壁の一方側から加熱されたとき、鋼製間柱1を通って他方側に熱が伝わりやすく、耐火性能に問題がある。特に、下張り板4或いは上張り板5のいずれか一方の継目が、鋼製間柱1上に位置してしまうような場合にはより熱が伝わりやすい。
【0005】
この耐火性能を向上させるには、間仕切壁(表面板6)の厚さを増大させればよい。しかし、この方法では壁が厚くなるため、室内を有効に使用することができず好ましくない場合がある。
【0006】
そこで、本願発明は、上記従来技術の有する問題点を解決するためになされたもので、壁厚が薄く、耐火性能の高い間仕切壁の構造とその施工方法、及び既設の間仕切壁を取り外すことなく既存の間仕切壁の耐火性能を向上させると共に、その施工作業が容易な間仕切壁構造の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の発明は、耐火性能を有する一対の間仕切壁を備えた耐火間仕切構造において、間仕切壁と間仕切壁の間に形成される中空部に耐火性充填材を備えたことを特徴とするものである。
第2の発明は、前記耐火性充填材が、シート状の熱膨張材であって、前記中空部に面した板材の表面部に固定したことを特徴とする同耐火間仕切構造である。
第3の発明は、前記耐火性充填材が、固形状であって、前記中空部に充填されたことを特徴とする同耐火間仕切構造である。
第4の発明は、前記耐火性充填材が粒状物を含有し、流動性を有しながら充填されて充填後乾燥すると固化するものであって、固化した時の嵩密度が0.05〜0.50g/cm3であることを特徴とする同耐火間仕切構造である。ここで、「流動性」とは、中空部の奥行幅、すなわち間仕切壁間(その距離は、実際には間柱の幅に相当する。例えば、40〜125mmなど)に充填した際、特に冶具を用いなくても自然に流れて、中空部(特に間柱と床との接点付近)に空隙を残さず充填できる程度の流動性を指す。「乾燥すると固化する」とは、自然乾燥(加熱乾燥ではなく)によって、数日程度静置することで流動性を失うことを指す。
第5の発明は、前記耐火性充填材が綿状物を含有し、堆積した時の嵩密度が0.01〜0.50g/cm3であることを特徴とする同耐火間仕切構造である。
第6の発明は、前記耐火性充填材が、0〜50wt%の吸熱材を配合することを特徴とする同耐火間仕切構造である。
第7の発明は、耐火性能を有する一対の間仕切壁を間柱に取付けた耐火間仕切構造の施工方法において、間柱の両側に間仕切壁を形成し、間仕切壁と間仕切壁の間に形成される中空部へ耐火性充填材を配置することを特徴とするものである。
第8の発明は、既設の耐火性能を有する一対の間仕切壁を間柱に取付けた耐火間仕切構造の耐火性能を向上させる施工方法において、天井裏部分の間仕切壁に施工用開口部を設け、この施工用開口部から間仕切壁と間仕切壁の間に形成される中空部へ耐火性向上材を配置することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本願発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)耐火間仕切構造を構成する間仕切壁と間仕切壁の間に形成される中空部に、耐火性充填材を備えたことで、厚みをとらずに耐火性能の高い間仕切壁を得ることができる。
(2)前記耐火性充填材が、シート状の熱膨張材であって、前記中空部に面した板材の表面部に固定することで、火災等による間仕切壁への加熱に対して前記充填材であるシート状の熱膨張材が熱膨張し、これによって前記中空部に断熱層を形成することになり、耐火性能の向上した間仕切壁を得ることができる。
(3)また、前記耐火性充填材が粒状物を含有し、流動性を有しながら充填されて充填後乾燥すると固化するものであって、固化した時の嵩密度が0.05〜0.50g/cm3であることで、中空部に均等に充填材を充填することができる。また、数日で固化することで、間仕切壁に切り欠きを設けた時に、充填材が流出する心配がない。また、充填材は固化した後中空部に断熱層を形成することになり、耐火性能の向上した間仕切壁を得ることができる。
(4)耐火性充填材が、シート状物,粒状物又は綿状物等であることで、シート状物は巻いて、粒状物又は綿状物は袋や容器に入れて輸送することができ、ボード状物に比較してコンパクトであるため輸送が容易である。
(5)耐火性充填材が、粒状物又は綿状物等であることで、現場で充填材を配合することができ、耐火性充填材の保存安定性を考慮する必要がない。
(6)前記耐火性充填材が、シート状物,粒状物又は綿状物等であることで、既設の間仕切壁の天井裏部分に設けられた施工用開口部から、前記耐火性向上材を前記中空部に配置することが容易であり、施工性が高く、簡単に間仕切壁の耐火性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本願発明の実施形態の例を図面に基づいて説明する。
図1は、本願発明に係る実施形態前の耐火間仕切構造を示す透視図である。なお、図1には上張材と下張材とからなる間仕切り構造を示しているが、板材が1枚である間仕切り構造も同様である。また、板材としては石膏ボードやケイ酸カルシウム板が使用できるが、この組み合わせは適宜選択される。
図1に示す耐火間仕切構造10は、水平方向に設けられた略コ字形をした上部ランナー11及び下部ランナー12をつなぐように垂直方向等間隔に取り付けられた間柱(スタッド)20,20,…と、その間柱20に向かい合うようにして取り付けられる一対の間仕切壁30とを備えている。
【0010】
間仕切壁30は、下張材31と上張材32からなる。この下張材31が、ビス・タッカー等の打込型留具37を間柱20に打ち込むとともに、上張材32が、工業用ステープルや接着剤(図示省略)を用いて下張材31に接着することで、間仕切壁30は間柱20に取付固定されている。
【0011】
次に、図2は、本願発明に係る第1実施形態を示す説明図であり、耐火間仕切構造の水平断面図である。
図2(A)は、下張材にケイ酸カルシウム板31a、上張材に石膏板32aを使用した間仕切壁30aである。
図2(B)は、下張材に石膏板31b、上張材にケイ酸カルシウム板32bを使用した間仕切壁30bである。
図2(C)は、下張材と上張材にともにケイ酸カルシウム板31c、ケイ酸カルシウム板32cを使用した間仕切壁30cである。なお、上張材よりも下張材の方が若干厚くなっている。
【0012】
そして、第1実施形態では、間柱20と間柱20の間の中空部13に面した下張材31の表面部に耐熱火性充填材としてシート状の熱膨張材40を固定したことを特徴とするものである。シート状の熱膨張材40としては、膨張黒鉛、マイカ、バーミキュライトなどの無機発泡体、パーライト、ゾノトライトなどの中空断熱体、水酸化アルミニウム、石膏、シリカゲル,ゼオライト,水酸化銅,硫酸マグネシウム水和物,硫酸アルミニウム水和物,リン酸マグネシウム水和物などの吸熱性物質を含有するシートが好ましく、膨張黒鉛とゴムからなる熱膨張層とシリカクロスとアルミ箔からなる支持層とを積層したこの熱膨張性耐火性シート材であればより好ましい。この場合、熱膨張層を間仕切壁側に、支持層を表面側にし、間仕切壁に施工することが好ましい。また、熱膨張層の両面に支持層があればさらに好ましい。このように施工にすることで、加熱された際に熱膨張層が膨張し、ゴムの耐熱性以上に加熱された際も、支持層が熱膨張性耐火性シート材40の脱落を防ぐことができる。この熱膨張材40は、シート状の熱膨張材であるから、火災等による間仕切壁30への加熱に対して熱膨張材40が熱膨張することで、中空部13に熱膨張材40による断熱層を形成することになる。その結果、耐火性能の向上した間仕切壁30を得ることができるのである。なお、熱膨張材40は、両下張材31の表面部に固定したが、中空部13の幅によっては、一方の下張材31の表面部のみに固定することでもよい。
【0013】
次に、第1実施形態の施工方法の例を説明する。図2で示した熱膨張材40を固定するためには、まず、ロール状に巻かれた熱膨張材40を用意する。そして、天井裏部分の間仕切壁30にあらかじめ施工用開口部を設けておき、この施工用開口部から中空部13に面した下張材31の表面部に用意した熱膨張材40を挿入する。熱膨張材40は、上部ランナー11へのビス止めや下張材31へのタッカ止めで固定する。このようにすることで、間仕切壁30を取り外すことなく且つ人目に触れる間仕切壁30(部屋に現れる間仕切壁)に何ら手を加えることなく、熱膨張材40を中空部13に施工できる。
【0014】
図3は、本願発明に係る第2実施形態を示す説明図であり、耐火間仕切構造の水平断面図である。
図3(A)〜図3(C)で使用する下張材31と上張材32の材料は、第1実施形態の場合と同一であるので、その説明を省略する。
【0015】
第2実施形態では、中空部13に耐火性充填材として固形状の充填材を充填したことを特徴とする同耐火間仕切構造である。第2実施形態で使用した充填材は、粒状物51をバインダーと混合した混合物で、充填後乾燥・固化した充填材50である。ここで、粒状物としては、マイカ、バーミキュライトなどの無機発泡断熱体、パーライト、ゾノトライトなどの中空断熱体などの断熱性のある粒状物を指し、この中で、特にパーライトが流動性、断熱性の点から好ましい。また、バインダーとしては、有機バインダーとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂などが、無機バインダーとしては、水ガラス、珪酸リチウム、コロイダルシリカ、アルミナゾル、リン酸アルミニウムなどが挙げられ、特に、水ガラスが接着力の高いことから好ましい。これらのバインダー必須ではないが、粒状物を固めるために使用するとよい。粒状物はそのままでは流動性があるので、固めていないと間仕切壁にダクトを設けるなどの目的で切り欠きを設けた時、切り欠き孔から粒状物がこぼれる不具合が発生する。そのほかに、必要に応じて、その他の断熱材、吸熱材などを含有させれば、より耐火性が向上する。これらの材料を適宜混合し、流動性のある混合物を得る。この混合物は流動性を有しながら中空部13に充填されて充填後乾燥、固化すると嵩密度0.05〜0.50g/cm3、好ましくは0.07〜0.25g/cm3となり、断熱材としての性能を発揮する。中空部13がこの充填材50によって充填されるので、中空部13における空気の対流が無くなり、充填材50が断熱層としての役割を果たすことになる。その結果、間仕切壁30の耐火性能を向上させることができるのである。
【0016】
次に、第2実施形態の施工方法の例を説明する。図3で示した充填材50を充填するためには、天井裏部分の間仕切壁30に施工用開口部を設け、この施工用開口部から中空部13へ粒状物51をバインダーと混合した混合物を流し込んで充填し、中空部13内を埋め尽くす。そのまま数日静置して乾燥し、固化し充填材50となる。このようにすることで、間仕切壁30を取り外すことなく且つ人目に触れる間仕切壁30(部屋に現れる間仕切壁)に何ら手を加えることなく、充填材50を中空部13に施工できる。ここで、粒状物51は、略コ字形の間柱20の内側にも入り込むので、間柱20部分の断熱性能向上に極めて大きな役割を果たす。
【0017】
図4は、本願発明に係る第3実施形態を示す説明図であり、耐火間仕切構造の水平断面図である。
図4(A)〜図4(C)で使用する下張材31と上張材32の材料は、第1実施形態の場合と同一であるので、その説明を省略する。
【0018】
第3実施形態では、第2実施形態と同様に、中空部13に耐火性向上材として固形状の充填材を充填したことを特徴とする同耐火間仕切構造である。第3実施形態で使用した充填材は、綿状物56で堆積させた充填材55である。ここで、綿状物56としては、無機繊維であるロックウール、グラスウール、セラミック繊維、シリカ繊維、ムライト繊維、アルミナ繊維などが挙げられるが、耐熱性と価格の点からロックウールが好ましい。これらの繊維はそのまま充填しても良いが、吸熱材などを含有させれば、より耐火性が向上するため好ましい。これらの材料を適宜混合し、中空部に充填し、堆積すると嵩密度0.01〜0.50g/cm3、好ましくは0.03〜0.20g/cm3の綿状物からなる充填材となる。中空部13がこの充填材55によって充填されるので、中空部13における空気の対流が無くなり、充填材55が断熱層としての役割を果たすことになる。その結果、間仕切壁30の耐火性能を向上させることができるのである。
【0019】
次に、第3実施形態の施工方法の例を説明する。図4で示した充填材55を充填するためには、天井裏部分の間仕切壁30に施工用開口部を設け、この施工用開口部から中空部13へ綿状物56を詰め込み、中空部13内を埋め尽くした綿状物56が堆積されて充填材55となる(綿状物は積層させることで接着剤無しでも固定される)。このようにすることで、間仕切壁30を取り外すことなく且つ人目に触れる間仕切壁30(部屋に現れる間仕切壁)に何ら手を加えることなく、充填材55を中空部13に施工できる。ここで、綿状物56は、略コ字形の間柱20の内側にも入り込むので、間柱20部分の断熱性能向上に極めて大きな役割を果たす。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本願発明の耐火間仕切構造およびその施工方法は、既存の間仕切壁にも幅広く利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本願発明に係る実施形態前の耐火間仕切構造を示す透視図。
【図2】本願発明に係る第1実施形態を示す説明図(耐火間仕切構造の水平断面図)。
【図3】本願発明に係る第2実施形態を示す説明図(耐火間仕切構造の水平断面図)。
【図4】本願発明に係る第3実施形態を示す説明図(耐火間仕切構造の水平断面図)。
【図5】従来技術を説明する説明図。
【符号の説明】
【0022】
10 耐火間仕切構造
11 上部ランナー
12 下部ランナー
13 中空部
20 間柱(スタッド)
30 間仕切壁
31 下張材
32 上張材
37 打込型留具
40 膨張黒鉛シート
50 充填材
51 粒状物
55 充填材
56 綿状物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性能を有する一対の間仕切壁を備えた耐火間仕切構造において、間仕切壁と間仕切壁の間に形成される中空部に耐火性充填材を備えたことを特徴とする耐火間仕切構造。
【請求項2】
前記耐火性充填材は、シート状の熱膨張材であって、前記中空部に面した板材の表面部に固定したことを特徴とする請求項1記載の耐火間仕切構造。
【請求項3】
前記耐火性充填材は、固形状であって、前記中空部に充填されたことを特徴とする請求項1記載の耐火間仕切構造。
【請求項4】
前記耐火性充填材は粒状物を含有し、流動性を有しながら充填されて充填後乾燥すると固化するものであって、固化した時の嵩密度が0.05〜0.50g/cm3であることを特徴とする請求項3記載の耐火間仕切構造。
【請求項5】
前記耐火性充填材は綿状物を含有し、堆積した時の嵩密度が0.01〜0.50g/cm3であることを特徴とする請求項3記載の耐火間仕切構造。
【請求項6】
前記耐火性充填材は、0〜50wt%の吸熱材を配合することを特徴とする請求項3〜5記載の耐火間仕切構造。
【請求項7】
耐火性能を有する一対の間仕切壁を間柱に取付けた耐火間仕切構造の施工方法において、間柱の両側に間仕切壁を形成し、間仕切壁と間仕切壁の間に形成される中空部へ耐火性充填材を配置することを特徴とする耐火間仕切構造の施工方法。
【請求項8】
既設の耐火性能を有する一対の間仕切壁を間柱に取付けた耐火間仕切構造の耐火性能を向上させる施工方法において、天井裏部分の間仕切壁に施工用開口部を設け、この施工用開口部から間仕切壁と間仕切壁の間に形成される中空部へ耐火性充填材を配置することを特徴とする耐火間仕切構造の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−243174(P2009−243174A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91925(P2008−91925)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】