説明

耐炎化処理炉及び耐炎化処理方法

【課題】 炭素繊維前駆体繊維ストランドの耐炎化処理炉であって、炉内循環風量が一定に保たれ、耐炎化繊維の生産性を向上させうる耐炎化処理炉を提供する。
【解決手段】 炉内を水平走行する前駆体繊維のストランド5の鉛直方向に熱風を送り前記ストランド5を耐炎化する熱処理室4と、熱処理室4の上方に形成した上方流路8と、熱処理室の下方に形成した下方流路10と、前記上方及び下方流路とを連通する熱風循環路12とからなる耐炎化処理炉2であって、前記熱風循環路内に異物除去手段18a、18b、熱風循環手段16、及び熱風風速センサー20を設けると共に、前記熱風風速センサー20からの検出信号を受け、熱風循環手段16の出力制御信号に転換し、熱風循環手段16に送る制御部22を設けて耐炎化処理炉2を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維の前駆体である繊維を耐炎化する耐炎化処理炉及び耐炎化処理方法、より詳しくは生産性に優れた炭素繊維の製造に適した前駆体繊維の耐炎化処理炉及び耐炎化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の製造工程においては、前駆体繊維を耐炎化し、得られた耐炎化繊維を炭素化して炭素繊維とする。前駆体繊維を耐炎化する方法として、酸化雰囲気中で熱風を循環させ、この中に前駆体繊維を通過させる方法がある(例えば、特許文献1参照)。この耐炎化処理方法において、前駆体繊維は通常束ねられたストランドとして耐炎化炉に投入される。
【0003】
図2は従来の耐炎化処理炉の一例を示す概略正面断面図である。図3中、32は耐炎化処理炉で、熱処理室34内には多数本のストランド35が水平面に並んだストランド群(パス)を形成して走行している。このパスを形成しているストランドは、熱処理室34の外部に配設された所定組の折返しローラー(不図示)によって折り返されて熱処理室34に繰り返し供給され、複数段のパスを形成している。
【0004】
上記パスに高温の酸化性気体を通過させることによって、ストランドの酸化反応を促進すると共に、ストランドの反応熱を除去し、耐炎化繊維を生産することが出来る。
【0005】
熱処理室34内を走行するストランドの幅方向の両側は、側壁36a、36bが設けられ、内部と外部とを隔てている。そして、一方の側壁36aの外側には、熱処理室34の上方流路38及び下方流路40を連通する熱風循環路42が空間部44を隔てて設けられている。
【0006】
熱風循環路42に備えられたヒーター(不図示)で加熱された熱風がファン等の熱風循環手段46により熱処理室34の上方流路38から熱処理室34内に送られ、ここで前記パスを形成して走行しているストランドが耐炎化処理される。次いで熱風は下方流路40を通って熱風循環路42に入り、これを通って前記ヒーターに循環されることを繰返す。
【0007】
ストランドの耐炎化処理において熱風循環を繰返すうちに、熱風には、ストランド由来のケバや粉末等の異物が蓄積し、耐炎化繊維を汚染するようになる。これを防ぐため、熱風循環路42内に金網等の異物除去手段を設けることが考えられる。
【0008】
しかし、熱風循環路42内に異物除去手段を設けると、これに異物が堆積することを繰返すうちに異物除去手段前後の抵抗差圧が増加して炉内循環風量が低下し、ストランドの安定した耐炎化処理ができなくなる。
【0009】
そのため、異物除去手段を、異物を取除して再生したものと頻繁に交換することになるが、運転中の交換は異物除去手段前後の抵抗差圧が激しく変動するので、休転を頻繁に行うことになる。その結果、耐炎化繊維の生産性が低下する。
【特許文献1】特開2001−288623号公報 (第2頁〜第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、上記問題を解決するために種々検討しているうちに、耐炎化処理炉の炉内循環風量を一定に保つことにより安定に連続運転ができるようになることを知得した。
【0011】
また、この耐炎化処理炉を用いれば、異物除去手段前後の抵抗差圧の増加により低下した炉内循環風量を、熱風循環路内の異物除去手段を運転中でも交換することができ、所定範囲内の炉内循環風量に戻すことができることを本発明者は知得し、本発明を完成するに到った。
【0012】
従って、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した耐炎化処理炉、及びその炉をを用いて前駆体繊維を耐炎化処理する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0014】
〔1〕 炉内を水平走行する前駆体繊維のストランドの鉛直方向に熱風を送り前記ストランドを耐炎化する熱処理室と、熱処理室の上方に形成した上方流路と、熱処理室の下方に形成した下方流路と、前記上方及び下方流路とを連通する熱風循環路と、前記熱風循環路内に設けた異物除去手段と熱風循環路内に設けた熱風循環手段と熱風循環路内に設けた熱風風速センサーと制御部とを有し、制御部が前記熱風風速センサーの検出信号に基づいて熱風循環手段の送風量を所定量に制御する耐炎化処理炉。
【0015】
〔2〕 〔1〕に記載の耐炎化処理炉を用いる前駆体繊維の耐炎化処理方法であって、熱風循環路内風量を熱風風速センサーで検出し、前記検出信号の値を基準にして制御部で熱風循環手段の出力制御信号に転換し、前記出力制御信号で熱風循環手段の出力を制御することにより、熱風循環手段の送風量を一定に保つ耐炎化処理方法。
【0016】
〔3〕 〔1〕に記載の耐炎化処理炉を用いる前駆体繊維の耐炎化処理方法であって、異物除去手段を通過する熱風循環路内風量を、熱風循環路内の異物除去手段を交換することにより、所定範囲内の熱風循環路内風量に制御する耐炎化処理方法。
【0017】
〔4〕 〔1〕に記載の耐炎化処理炉を用いる前駆体繊維の耐炎化処理方法であって、熱風循環路内風量検出用の熱風風速センサーとしてピトー管を用いる耐炎化処理方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の耐炎化処理炉は、前記のように構成したので、炉内循環風量の変動に応じて熱風循環手段の出力が制御され、炉内循環風量が一定に保たれる。また、本発明の耐炎化処理炉によれば、異物除去手段前後の抵抗差圧の増加により低下した炉内循環風量を、熱風循環路内の異物除去手段を運転中でも交換することができ、所定範囲内の炉内循環風量に戻すことができ、耐炎化繊維の生産性を向上することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明の耐炎化処理炉の一例を示す概略正面断面図である。
【0021】
図1中、2は耐炎化処理炉で、熱処理室4内には多数本のストランド5が水平面(本紙面に垂直方向の面)に並んだストランド群(パス)を形成して走行している。このパスを形成しているストランド5は、熱処理室4の外部に配設された所定組の折返しローラー(不図示)によって折り返されて熱処理室4に繰り返し供給され、複数段のパスを形成している。
【0022】
熱処理室4の両側は、側壁6a、6bが設けられ、内部と外部とを隔てている。そして、一方の側壁6aの外側には、熱処理室4の上方流路8及び下方流路10を連通する熱風循環路12が空間部14を隔てて設けられている。
【0023】
なお、熱風供給手段は、上方流路8、下方流路10、熱風循環路12からなる。また、空間部14は無くても良いが、側壁6bの外側からばかりでなく、側壁6aの外側からも加熱又は冷却して熱処理室4内の温度調節をする場合などは空間部14はあった方が好ましい。
【0024】
熱風循環路12に備えられたヒーター15で加熱された熱風がファン等の熱風循環手段16により熱処理室4の上方流路8から熱処理室4内に送られ、ここで前記パスを形成して走行しているストランド5が耐炎化処理される。次いで熱風は下方流路10を通って熱風循環路12に入り、これを通って前記ヒーター15に循環されることを繰返す。
【0025】
この耐炎化処理炉2において、前記熱風循環路12内の熱風循環手段16の前後に、異物除去手段18a及び熱風風速センサー20が設けられている。前記熱風循環路12外には、前記熱風風速センサー20からの風速検出信号を受け、熱風循環手段16の出力制御信号に転換し、熱風循環手段16に送ることにより、前記熱風循環路12内の熱風風量を予め定められた所定値に保つように動作する制御部22が設けられている。その結果、熱処理室4の風量も所定値に保たれる。
【0026】
熱風循環路12内に異物除去手段18aが設けられていることにより、ストランド5の耐炎化処理において熱風循環が繰返されても、熱風におけるケバや粉末等の異物の蓄積、耐炎化繊維の汚染は防がれる。異物除去手段としては、金網、パンチングプレート等の多孔質板などが使用でき、その目開きは10〜100メッシュが好ましい。
【0027】
本例の耐炎化処理炉を用いた耐炎化処理方法においては、熱風循環路12内の熱風風量を熱風風速センサー20で検出し、前記検出信号の値を基準に制御部22で熱風循環路内風量の変動に応じた熱風循環手段16の出力制御信号に転換し、熱風循環手段16の出力が制御されるので、熱風循環を繰返すうちに異物除去手段18a前後の抵抗差圧が増加しても、熱風循環路内風量は所定範囲内で一定に保たれ、耐炎化繊維は安定して生産される。
【0028】
なお、熱風循環路12内の熱風風量は、熱風風速センサー20における風速で2〜10m/秒が好ましく、4〜8m/秒が更に好ましい。熱風循環路内風量検出用の熱風風速センサーとしてはピトー管を用いることが好ましい。
【0029】
図1中、18bは異物が取除された再生異物除去手段、又は未使用の異物除去手段である。熱風循環が繰返され、熱風風速センサー20における風速が2m/秒になった時点、好ましくは4m/秒になった時点で、異物除去手段18aを異物除去手段18bに交換することが好ましい。
【0030】
この異物除去手段交換により、熱風循環路内風量は上記所定範囲内に戻すことができる。 図1において手順を追って異物除去手段交換方法を説明すると、熱風循環路12内の熱風循環手段16の上流側には異物除去手段をセットする段が二段設けられている。
【0031】
その上段には、異物除去手段18aがセットされている。その下段に異物除去手段18bがセットされる。この時、異物除去手段18aに異物が蓄積するに従って、異物除去手段18a前後の抵抗差圧が徐々に増加して、一瞬熱風循環路内風量が低下していく。この低下する熱風循環路内風量は、熱風風速センサー20で検出される。この検出信号の値を基準に制御部22で熱風循環路内風量の低下に応じた熱風循環手段16の出力制御信号に転換され、熱風循環手段16の出力が制御される。熱風循環手段16がファンの場合はファンの回転数が上がり、熱風循環路内風量は上記所定範囲内に回復する。
【0032】
次に、異物除去手段18bがセットの下段に取り付けられる。次いで、異物除去手段18aが取り外される。この時、異物除去手段18aの差圧から異物除去手段18bの差圧に低下して、一瞬熱風循環路内風量が増加する。この増加した熱風循環路内風量は、熱風風速センサー20で検出される。この検出信号の値を基準に制御部22で熱風循環路内風量の増加に応じた熱風循環手段16の出力制御信号に転換され、熱風循環手段16の出力が制御される。熱風循環手段16がファンの場合はファンの回転数が下がり、熱風循環路内風量は上記所定範囲内に戻される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の耐炎化処理炉の一例を示す概略正面断面図である。
【図2】従来の耐炎化炉の一例を示す概略正面断面図である。
【符号の説明】
【0034】
2 耐炎化処理炉
4 熱処理室
5 ストランド
6a、6b 側壁
8 上方流路
10 下方流路
12 熱風循環路
14 空間部
15 ヒーター
16 熱風循環手段
18a、18b 異物除去手段
20 熱風風速センサー
22 制御部
32 耐炎化処理炉
34 熱処理室
35 ストランド
36a、36b 側壁
38 上方流路
40 下方流路
42 熱風循環路
44 空間部
46 熱風循環手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内を水平走行する前駆体繊維のストランドの鉛直方向に熱風を送り前記ストランドを耐炎化する熱処理室と、熱処理室の上方に形成した上方流路と、熱処理室の下方に形成した下方流路と、前記上方及び下方流路とを連通する熱風循環路と、前記熱風循環路内に設けた異物除去手段と熱風循環路内に設けた熱風循環手段と熱風循環路内に設けた熱風風速センサーと制御部とを有し、制御部が前記熱風風速センサーの検出信号に基づいて熱風循環手段の送風量を所定量に制御する耐炎化処理炉。
【請求項2】
請求項1に記載の耐炎化処理炉を用いる前駆体繊維の耐炎化処理方法であって、熱風循環路内風量を熱風風速センサーで検出し、前記検出信号の値を基準にして制御部で熱風循環手段の出力制御信号に転換し、前記出力制御信号で熱風循環手段の出力を制御することにより、熱風循環手段の送風量を一定に保つ耐炎化処理方法。
【請求項3】
請求項1に記載の耐炎化処理炉を用いる前駆体繊維の耐炎化処理方法であって、異物除去手段を通過する熱風循環路内風量を、熱風循環路内の異物除去手段を交換することにより、所定範囲内の熱風循環路内風量に制御する耐炎化処理方法。
【請求項4】
請求項1に記載の耐炎化処理炉を用いる前駆体繊維の耐炎化処理方法であって、熱風循環路内風量検出用の熱風風速センサーとしてピトー管を用いる耐炎化処理方法。

【図1】
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【図2】
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