説明

耐炎化処理炉

【課題】 炭素繊維前駆体繊維ストランドの耐炎化処理炉であって、ケバや粉末等の異物の蓄積を防止すること及び耐炎化繊維の汚染を防止するばかりでなく、熱処理室内を走行するストランドには均一な温度の熱風を与え、耐炎化繊維の安定した生産ができる耐炎化処理炉を提供する。
【解決手段】 炉内を水平走行する前駆体繊維のストランド6の鉛直方向に熱風を送り前記ストランド6を耐炎化する熱処理室4と、熱処理室4の上方に形成した上方流路10と、熱処理室4の下方に形成した下方流路12と、前記上方及び下方流路とを連通する熱風循環路14と、前記下方流路から熱風循環路を経て上方流路までの熱風流路に加熱外気導入口22と、前記熱風流路に熱風排出口24と、前記加熱外気導入口22を通して熱風流路内に加熱外気を供給する加熱外気供給手段28と有することで耐炎化処理炉2を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維の前駆体である繊維を耐炎化する耐炎化処理炉、より詳しくは生産性に優れた炭素繊維の製造に適した前駆体繊維の耐炎化処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の製造工程においては、前駆体繊維を耐炎化し、得られた耐炎化繊維を炭素化して炭素繊維とする。前駆体繊維を耐炎化する方法として、酸化雰囲気中で熱風を循環させ、この中に前駆体繊維を通過させる方法がある(例えば、特許文献1参照)。この耐炎化処理方法において、前駆体繊維は通常束ねられたストランドとして耐炎化炉に投入される。
【0003】
図2は従来の耐炎化処理炉の一例を示す概略正面断面図である。図2中、42は耐炎化処理炉で、熱処理室44内には多数本のストランド46が水平に並んだストランド群(パス)を形成して走行している。このパスを形成しているストランド46は、熱処理室44の外部に配設された所定組の折返しローラー(不図示)によって折り返されて熱処理室44に繰り返し供給される。
【0004】
上記パスに高温の酸化性気体を通過させることによって、ストランド46の酸化反応を促進すると共に、ストランド46の反応熱を除去し、耐炎化繊維を生産することが出来る。
【0005】
熱処理室44内を走行するストランド46の幅方向の両側は、側壁48a、48bが設けられ、内部と外部とを隔てている。そして、一方の側壁48aの外側には、熱処理室44の上方流路50及び下方流路52を連通する熱風循環路54が空間部56を隔てて設けられている。
【0006】
熱風循環路54に備えられたヒーター58で加熱された熱風がファン等の熱風循環手段60により熱処理室44の上方流路50から熱処理室54内に送られ、ここで前記パスを形成して走行しているストランド46が耐炎化処理される。次いで熱風は下方流路52を通って熱風循環路54に入り、これを通って前記ヒーターに循環されることを繰返す。
【0007】
耐炎化処理時には、ストランド46を構成する単繊維相互の膠着が発生し易く、この発生を防止することが製造上重要である。そのため、アミノシリコーン系油剤等のシリコン系油剤をストランド46に付与する方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0008】
この場合、ストランド46の耐炎化処理において熱風循環を繰返すうちに、熱風中には、シラン等の揮発性珪素の濃度が高くなり、シリコン系油剤由来の粉末や繊維由来のケバ等の異物が蓄積し、これらが耐炎化繊維を汚染するようになる。
【0009】
そこで、下方流路52から熱風循環路54を経て上方流路50までの熱風流路に外気導入口を設け、この外気導入口からフレッシュエアとして外気を導入し、前記熱風流路に熱風排出口を設け、この熱風排出口から揮発性珪素含有の熱風を排出することにより、熱風中の揮発性珪素の濃度を低減させ、ケバや粉末等の異物の蓄積を防止し、ひいては耐炎化繊維の汚染を防止しようとしている。しかし、汚染を完全に防止することはできていない。
【特許文献1】特開2001−288623号公報 (第2頁〜第3頁)
【特許文献2】特開昭52−24136号公報 (特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、上記問題を解決するために種々検討しているうちに、以下のように考えるに到った。即ち、耐炎化繊維の安定した生産をするためには、ストランドには均一な温度の熱風を与える必要がある。しかし、熱風流路内に冷たい外気が混ざると、熱処理室内において部分的な温度の不均一が起こる。即ち、温度斑が大きくなる。この部分的な温度の不均一により、反応不足、若しくは異常な発熱によりストランドが切断することが懸念される。
【0011】
このような問題を避けるためには、耐炎化処理炉の熱風流路に導入するフレッシュエア(外気)を予め加熱し、この外気を前記熱風流路に導入し、前記熱風流路に設けた熱風排出口から揮発性珪素含有の熱風を排出する方法に想到した。このようにすることにより、熱風中の揮発性珪素の濃度を低減させ、ケバや粉末等の異物の蓄積を防止でき、更には耐炎化繊維の汚染を防止できるばかりでなく、熱処理室内を走行するストランドに均一な温度の熱風を与え、耐炎化繊維の安定した生産ができる。
【0012】
従って、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した耐炎化処理炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0014】
〔1〕 炉内を水平走行する前駆体繊維のストランドの鉛直方向に熱風を送り前記ストランドを耐炎化する熱処理室と、熱処理室の上方に形成した上方流路と、熱処理室の下方に形成した下方流路と、前記上方流路及び下方流路を連通する熱風循環路と、前記下方流路と熱風循環路と上方流路とからなる熱風流路に形成した加熱外気導入口と、前記熱風流路に形成した熱風排出口と、前記加熱外気導入口に連結した熱風流路内に加熱外気を供給する加熱外気供給手段と有する耐炎化処理炉。
【0015】
〔2〕 加熱外気供給手段が、外気を加熱する熱交換器と、送風器とで構成される〔1〕に記載の耐炎化処理炉。
【0016】
〔3〕 加熱外気供給手段が、耐炎化工程の後工程の炭素化工程における焼成炉の排出ガスで外気を加熱する熱交換器と、送風器とで構成される〔1〕に記載の耐炎化処理炉。
【発明の効果】
【0017】
本発明の耐炎化処理炉は、前記のように構成したので、熱処理室内を循環する熱風の温度が均一になり、耐炎化繊維の安定した生産が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明の耐炎化処理炉の正面断面の一例と、前記耐炎化処理炉の周辺設備の一例とを示す概略図である。
【0020】
図1中、2は耐炎化処理炉で、熱処理室4内には多数本のストランド6が水平面(本紙面に垂直方向の面)に並んだストランド群(パス)を形成して走行している。このパスを形成しているストランド6は、熱処理室4の外部に配設された所定組の折返しローラー(不図示)によって折り返されて熱処理室4に繰り返し供給され、複数段のパスを形成している。
【0021】
熱処理室4の両側は、側壁8a、8bが設けられ、内部と外部とを隔てている。そして、一方の側壁8aの外側には、熱処理室4の上方流路10及び下方流路12を連通する熱風循環路14が空間部16を隔てて設けられている。
【0022】
なお、熱風流路は、上方流路10、下方流路12、熱風循環路14からなる。
【0023】
熱風循環路14に備えられたヒーター18で加熱された熱風がファン等の熱風循環手段20により熱処理室4の上方流路10から熱処理室4内に送られ、ここで前記パスを形成して走行しているストランド6が耐炎化処理される。次いで熱風は下方流路12を通って熱風循環路14に入り、これを通って前記ヒーター18に循環されることを繰返す。
【0024】
下方流路12には、加熱外気導入口22が形成されている。前記加熱外気導入口22と、熱交換器32の出口側34とはパイプ36により連結されている。26は焼成炉で、耐炎化工程の後工程の炭素化工程を実施するものである。焼成炉26の排出ガスは、パイプ27を通して熱交換器32に送られる。
【0025】
30は、熱交換器32に連結された送風器で、これにより外気が熱交換器32に送られる。外気は、熱交換器32により焼成炉26の廃熱で加熱されて加熱外気となり、前記加熱外気導入口22に送られる。
【0026】
加熱外気導入口22の設置位置は、前記熱風流路の何れの位置でも良いが、熱処理室4の入口部で温度がより均一になるためには、図1に示すヒーター18の上流部がより好ましい。
【0027】
上記熱風流路には、熱風排出口24が設けられる。ストランドを構成する単繊維相互の膠着発生防止のため、ストランドにシリコン系油剤を付与する場合、上記熱風排出口24から、揮発性珪素含有の熱風が排出され、熱風中の揮発性珪素の濃度が低減し、ケバや粉末等の異物の蓄積を防止でき、ひいては耐炎化繊維の汚染を防止できる。
【0028】
熱風排出口24の設置位置は、前記熱風流路の何れの位置でも良いが、熱風循環手段20の送風圧がより強く掛かる位置であって、図1に示す熱風循環手段20の下流部がより好ましい。
【0029】
なお、加熱外気供給手段としては、可燃ガスを燃焼し熱交換を通して外気を加熱供給する手段、ヒーターにより外気を加熱供給する手段など種々の手段を用いることができる。送風器30としては、軸流ブロワー、ターボブロワー等が好ましい。
【0030】
加熱後の外気温度と下方流路12における熱風との温度差は、200℃以下が好ましく、100℃以下が更に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の耐炎化処理炉の正面断面の一例と、前記耐炎化処理炉の周辺設備の一例とを示す概略図である。
【図2】従来の耐炎化処理炉の一例を示す概略正面断面図である。
【符号の説明】
【0032】
2 耐炎化処理炉
4 熱処理室
6 ストランド
8a、8b 側壁
10 上方流路
12 下方流路
14 熱風循環路
16 空間部
18 ヒーター
20 熱風循環手段
22 加熱外気導入口
24 熱風排出口
26 耐炎化工程の後工程の炭素化工程における焼成炉
27、36 パイプ
28 外気加熱供給手段
30 送風器
32 熱交換器
34 熱交換器の出口側
42 耐炎化処理炉
44 熱処理室
46 ストランド
48a、48b 側壁
50 上方流路
52 下方流路
54 熱風循環路
56 空間部
58 ヒーター
60 熱風循環手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内を水平走行する前駆体繊維のストランドの鉛直方向に熱風を送り前記ストランドを耐炎化する熱処理室と、熱処理室の上方に形成した上方流路と、熱処理室の下方に形成した下方流路と、前記上方流路及び下方流路を連通する熱風循環路と、前記下方流路と熱風循環路と上方流路とからなる熱風流路に形成した加熱外気導入口と、前記熱風流路に形成した熱風排出口と、前記加熱外気導入口に連結した熱風流路内に加熱外気を供給する加熱外気供給手段と有する耐炎化処理炉。
【請求項2】
加熱外気供給手段が、外気を加熱する熱交換器と、送風器とで構成される請求項1に記載の耐炎化処理炉。
【請求項3】
加熱外気供給手段が、耐炎化工程の後工程の炭素化工程における焼成炉の排出ガスで外気を加熱する熱交換器と、送風器とで構成される請求項1に記載の耐炎化処理炉。

【図1】
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【図2】
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