説明

耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素及びその利用

【課題】 イノシトール1燐酸を効率よく製造できる技術を確立する。
【解決手段】 アエロパイラムペルニクス(Aeropyrum pernix)から、特定のアミノ酸配列からなるポリペプチドを単離し、このポリペプチドが、下記(i)及び(ii)の性質を有する耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素であることを見出した。この酵素をグルコース6燐酸に作用させることによりイノシトール1燐酸を高温下で製造することができる。(i)85℃で3時間処理した後に80%以上のイノシトール1燐酸合成酵素活性が保持される(ii)70℃以上で活性を示し、至適温度は95℃以上である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素及びそれをコードする遺伝子に関する。また、本発明は、この遺伝子を用いて遺伝子工学的に耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素を製造する方法に関する。更に本発明は、この耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素を用いてイノシトール1燐酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イノシトールは、主として植物中に存在し、人にとってビタミンB群に属する必須栄養素のひとつである。そのリン酸エステル、イノシトール燐酸は細胞内のシグナル伝達のセカンドメッセンジャーとして注目を集めている。さらに近年では制癌作用に関与していることが知られており、生理活性を有する食品素材、家畜飼料、化粧品などへの応用が期待されている。
【0003】
しかしながら、イノシトール燐酸の生理作用のメカニズム、シグナル伝達における役割の詳細に関しては、未だ解明されていない。このため、各研究分野においてアイソトープを用いたトレーサー実験等に利用する為のイノシトール1燐酸を始めとする高純度なイノシトール燐酸の供給法の確立が渇望されている。
【0004】
これまで行われてきたイノシトール燐酸の製造は、植物から抽出した後に煩雑な操作で精製を行わなければならず、高純度なイノシトール燐酸を生産するためには膨大な労力とコストを要していた。さらに、これまで報告されているイノシトール1燐酸合成酵素は、植物に由来するため、安定性が低く安定的にイノシトール1燐酸を合成することが出来ない。このため、イノシトール1燐酸を効率的に製造するための技術の確立が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、イノシトール1燐酸を効率よく製造できる技術を確立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ね、高い耐熱性を有するイノシトール1燐酸合成酵素を使用すれば高い温度下で効率よくイノシトール1燐酸の合成反応を行うことができることに着目した。そして、超好熱性古細菌のゲノムDNA中に高い耐熱性を有するイノシトール1燐酸合成酵素をコードする遺伝子を初めて見出し、この遺伝子を含むベクターで形質転換された大腸菌を用いてイノシトール1燐酸合成酵素を大量に生産することに成功した。大腸菌で生産された当該酵素は高温下で高い活性を示すとともに、非常に高い耐熱性を有していた。
【0007】
本発明は上記知見に基づいて、更に検討を重ねて完成されたものであり、以下の発明を提供するものである。
【0008】
項1. 下記(i)及び(ii)の性質を有する耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素:
(i)85℃で3時間処理した後に80%以上のイノシトール1燐酸合成酵素活性が保持される
(ii)70℃以上で活性を示し、至適温度は95℃以上である
項2. 至適pHが8.8〜9.2の範囲内にある項1に記載の酵素。
【0009】
項3. アエロパイラムペルニクス(Aeropyrum pernix)由来の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素である項1又は2に記載の酵素。
【0010】
項4. 以下の(1)又は(2)に記載のポリペプチド。
(1)配列番号1〜4のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(2)配列番号1〜4のいずれかに示すアミノ酸配列において、1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素活性を有するポリペプチド
項5. 以下の(3)又は(4)に記載のポリペプチド。
(3)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素活性を有するポリペプチド
項6. 以下の(5)、(6)、又は(7)のポリヌクレオチド。
(5)配列番号5〜8のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(6)配列番号5〜8のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(7) 項4又は5に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
項7. 以下の(8)又は(9)のポリヌクレオチド。
(8)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(9)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
項8. 項6又は7に記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【0011】
項9. 項8に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【0012】
項10. 項9に記載の形質転換体を培養し、培養物から耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素を回収する、耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の製造方法。
【0013】
項11. 項1〜3のいずれかに記載の酵素、又は項4又は5に記載のポリペプチドの存在下で、グルコース6燐酸の異性化によりイノシトール1燐酸を得る工程を含むイノシトール1燐酸の製造方法。
【0014】
項12. 50℃の温度下で上記異性化を行う項11に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素は、85℃以上という高温条件下で酵素活性を発揮できるので、高温下で効率よくイノシトール1燐酸合成反応を行うことができる。このように、本酵素は、基質特異性が高いという酵素反応のメリットを備え、かつ熱に弱いという酵素のデメリットを克服したものとなる。また、本酵素を用いたイノシトール1燐酸合成反応中に雑菌の繁殖を抑制したり、夾雑酵素の影響を抑えることができるという利点がある。このことから、グルコース6燐酸の異性化物であるイノシトール1燐酸を高純度かつ安価に供給することが可能となる。
【0016】
また、本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素によれば、耐熱性が高く、すなわち安定性が高いので、長時間の合成反応を行っても活性を安定に保持できる。また、長期保存によっても活性を安定に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(I)耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素
イノシトール1燐酸合成酵素は、グルコース6燐酸に作用して、その異性化により、イノシトール1燐酸を生成する酵素である。
イノシトール1燐酸合成酵素活性測定法
本発明において、イノシトール1燐酸合成酵素の活性は、下記方法により測定した値である。なお、pHが酵素活性に与える影響を検討する際には、pH条件は種々変更している。また、反応温度が酵素活性に与える影響を検討する際には、温度条件は種々変更している。
【0018】
先ず、15mM塩化アンモニウム、1 mM酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、及び5 mM グルコース6燐酸を含むpH9.0の100mM炭酸ナトリウム緩衝液0.23 mlに、検体酵素溶液0.02 ml(0.02 units))を添加し、85℃で10分間反応させる。反応液に20% トリクロロ酢酸0.125mlを加えることにより反応を停止させた後、反応液の一部0.05mlに0.05mlの0.2MNaIO4を加え37℃で1時間処理する。
【0019】
この溶液に、0.05mlの1M亜硫酸ナトリウム、0.225mlの1.5% tween-20、及び0.75mlのマラカイトグリーン発色液(4.2%モリブデン酸アンモニウムの塩酸溶液と0.2%マラカイトグリーン水溶液を1:3の割合で混合し濾過したもの)を順次混合し、660 nmにおける吸光度を測定した。反応液の代わりに既知濃度のリン酸溶液を用いて同様に測定した吸光度と比較することにより、生成したイノシトール1燐酸を定量する。生成したイノシトール1燐酸の量を比較することにより、相対的な酵素活性を算出する。
【0020】
なお、本発明において、耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の活性単位1Uとは、上記測定条件において、1分間に1μモルのイノシトール1燐酸を生産することができる酵素量を意味する。
温度特性
本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素は、85℃で3時間処理した後にイノシトール1燐酸合成酵素活性が80%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上保持されるものである。なお、従来のイノシトール1燐酸合成酵素では、85℃で30分間処理すると、活性は完全に消失する。
【0021】
また、本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素は、70℃以上、好ましくは85℃以上、更に好ましくは90℃以上、特に好ましくは95℃以上の温度下で活性を示し、至適温度は95℃以上である。なお、ここでいう「活性を示す」とは、至適温度における活性を100%とした場合の相対活性で5%以上を示すことを意味する。
その他の特性
上記特性に加えて、本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素は、下記のいずれか1以上の特性を備えていることが好ましい。
【0022】
85℃の温度下、pH7〜10程度の範囲で活性を示す。ここでいう「活性を示す」とは、至適pHにおける活性を100%とした場合の相対活性で20%以上を示すことを意味する。また同温度下、pH8〜9.5程度の範囲で一層高い活性を示し、pH8.5〜9.3程度の範囲でより一層高い活性を示し、至適pHは8.8〜9.2程度である。
【0023】
補酵素として酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)若しくはその誘導体を必要とする。
【0024】
活性を高い活性を得る上で、反応液中のNAD濃度は0.05〜10mM程度が好ましく、0.1〜5mM程度が好ましく、0.5〜2mM程度がさらにより好ましい。
起源
本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素は、85℃で3時間処理した場合に80%以上のイノシトール1燐酸合成活性を示し、70℃以上で活性を示し、かつ至適温度が95℃以上の酵素であればよく、その起源は特に限定されないが、好熱性古細菌が生産するものを挙げることができる。好熱性古細菌としては、例えば、アエロパイラム(Aeropyrum)属(例えばアエロパイラム・ペルニクス(Aeropyrum pernix));パイロコッカス(Pyrococcus)属(例えばパイロコッカスホリコシ(Pyrococcus horikoshii)、パイロコッカスアブシ(Pyrococcus abyssi)、パイロコッカスフリオサス(Pyrococcus furiosus))などが挙げられる。温度特性などの点でより好ましいのは、アエロパイラム属由来のイノシトール1燐酸合成酵素であり、中でもアエロパイラム・ペルニクスが生産するものが最も好ましい。
アミノ酸配列
本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素として、具体的には、以下の(1)又は(2)のポリペプチドを挙げることができる。
(1)配列番号1〜4のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(2)配列番号1〜4のいずれかに示すアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
配列番号1に示すアミノ酸配列は、アエロパイラム・ペルニクスK-1(理化学研究所微生物検討保存施設におけるJCM9820)の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素のアミノ酸配列である。配列番号2に示すアミノ酸配列は、パイロコッカス・ホリコシOT3(同施設におけるJCM9974)の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素のアミノ酸配列である。配列番号3に示すアミノ酸配列は、パイロコッカス・フリオサス(同施設におけるJCM8422)の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素のアミノ酸配列である。配列番号4に示すアミノ酸配列はパイロコッカス・アブシ(パスツール研究所におけるNCNM I-1302)の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素のアミノ酸配列である。
【0025】
(2)のポリペプチドにおいて、欠失、置換若しくは付加の範囲は、実質的に同等のイノシトール1燐酸合成酵素活性及び耐熱性を有する範囲であればよく、特に制限されないが、アミノ酸配列の相同性50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらにより好ましい。なお、相同性はLipman-Pearson法(Science, 227, 1435(1985))により計算される。配列番号2〜4と配列番号1との間の相同性は全て53%であり、配列番号2と配列番号3との間の相同性は86%であり、配列番号2と配列番号4との間の相同性は89%であり、配列番号3と配列番号4との間の相同性は90%である。
【0026】
なお、本発明において「耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素活性を有する」とは、グルコース6燐酸の異性化によりイノシトール1燐酸を生成する活性を有することを指す。
【0027】
本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の一態様として、アミノ酸配列1〜4において、N末端側及びC末端側のいずれか一方又は双方から1〜50個程度、好ましくは1〜25個程度、さらに好ましくは1〜20個程度のアミノ酸を欠失しているものを挙げることができる。上記の領域は、本酵素においてイノシトール1燐酸合成酵素活性及び耐熱性のいずれにも影響を与えないと考えられる領域であるため、上記領域の欠失であれば耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素活性を保持できる。また、上記領域内で30個程度まで、好ましくは10個程度までであれば、アミノ酸が置換又は付加されていてもよい。アミノ酸の置換の場合は、タンパク質の構造保持の観点から、極栄、電荷、親水性/疎水性などの点で置換前のアミノ酸と共通するアミノ酸に置換すれば、耐熱性及び酵素活性が維持される。
製造方法
本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素は、当該酵素を産生する微生物の培養物から精製することができる。また、本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素は、該酵素をコードするDNAを単離し、これを適当な宿主で発現させることにより得ることができる。
耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素をコードするポリヌクレオチド
上記耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素をコードするポリヌクレオチドとして、具体的には、以下の(5)又は(6)のDNAを例示できる:
(5)配列番号5〜8のいずれかに示す塩基配列を含むポリヌクレオチド、好ましくは配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(6)配列番号5〜8のいずれかに示す塩基配列(好ましくは配列番号5に示す塩基配列)からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
本発明において、ポリヌクレオチドには、特に言及しない限り、DNA及びRNAの双方が含まれる。
【0028】
本発明において、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、6×SSC、0.5% SDS及び50%ホルムアミドの溶液中で42℃で加温した後、0.1×SSC、0.5% SDSの溶液中で68℃で洗浄した場合に、陽性のハイブリタイズのシグナルが観察される条件が挙げられる。
【0029】
なお、配列番号5に示す塩基配列は配列番号1に示すアミノ酸配列に、配列番号6に示す塩基配列は配列番号2に示すアミノ酸配列に、配列番号7に示す塩基配列は配列番号3に示すアミノ酸配列に、配列番号8に示す塩基配列は配列番号4に示すアミノ酸配列に、それぞれ対応している。
【0030】
本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素遺伝子の取得方法の一例を以下に記載する。配列番号5のポリヌクレオチドは、遺伝子源としてアエロパイラム・ペルニクスのゲノムDNA、配列番号6のポリヌクレオチドはパイロコッカス・ホリコシのゲノムDNA、配列番号7のポリヌクレオチドはパイロコッカス・フリオサスのゲノムDNA、配列番号8のポリヌクレオチドはパイロコッカス・アブシのゲノムDNAをそれぞれ用いればよい。これらのゲノムDNAを適当な制限酵素で切断し、同一の制限酵素又は共通の切断末端を与える制限酵素で切断したプラスミド又はファージにリガーゼ等を用いて連結することによりゲノムDNAライブラリーを作製する。次いで、配列番号5〜8に基づき設計したプライマーセットを用いてこれらのゲノムDNAライブラリーを鋳型としたPCRを行うことにより上記塩基配列のポリヌクレオチドを得ることができる。あるいは、上記塩基配列に基づき設計したプローブを用いてこれらのゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることによっても、上記塩基配列のポリヌクレオチドを得ることができる。
また上記(6)の変異した耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素DNAは、化学合成法、遺伝子工学的手法、突然変異誘発法などの公知の方法で作成することができる。遺伝子工学的手法としては、入手可能な耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素DNAに対して、エキソヌクレアーゼを用いたDNA欠失導入、リンカー導入、位置指定突然変異導入、変異プライマーを用いたPCR法による塩基配列の改変などの公知の方法を挙げることができる。また(6)のポリヌクレオチドは、古細菌の上記以外の菌種のゲノムDNAライブラリーを用いて発現ライブラリーを構築し、配列番号1〜4に示すポリペプチドに対する抗体と反応するクローンを選別すればよい。さらに、選別したクローンの生産する酵素の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素活性を測定することで、該酵素の発現を確認することができる。
組換えベクター
上記耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素をコードするポリヌクレオチド(ここではDNA)を適当なベクターに連結することによって、該遺伝子を含有する組換えベクターを得ることができる。ベクターとしては、形質転換する宿主において耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素を発現させ得るものであれば、特に制限されない。例えば、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス等のベクターを用いることができる。具体的には、大腸菌ベクターのpBR322、pUC19、pKK233-2、pET21a等、バチルス属細菌ベクターのpUB110、pC194、pE194、pTHT15、pBD16等、酵母用ベクターYip5、Yrp17、Yep24等、動物細胞用ベクターのpcDNA、pBAC等を例示できる。
【0031】
上記組換えベクターには、形質転換された細胞の選択を可能とするために、マーカー遺伝子が含まれていることが望ましい。当該マーカー遺伝子としては、例えば、宿主の栄養要求性を相補する遺伝子、又は薬剤に対する抵抗遺伝子等を挙げることができる。また、上記組換えベクターには、宿主で上記遺伝子の発現を可能にするためのプロモーターやその他の制御配列(例えば、エンハンサー配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列等)が含まれていることが好ましい。当該プロモーターとして、具体的にはSV40、CMV、ie1、T7、lac、trp、tac等のプロモーターを例示できる。
形質転換体
上記組換えベクターを用いて、宿主を形質転換することによって、該組換えベクターを含む形質転換体を得ることができる。宿主としては、上記耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素を生産可能なものであれば、真核生物及び原核生物のいずれを用いることもできる。例えば、大腸菌等の細菌、酵母、糸状菌、動物細胞等を挙げることができる。形質転換は、宿主の種類に応じて、公知の方法に従って行うことができる。例えば、宿主として細菌を使用する場合であれば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いることができる。
本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の製造方法
上記形質転換体を培養し、培養物から耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素を回収することによって、上記耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素を取得することができる。
【0032】
上記形質転換体の培養は、宿主の種類に応じた通常の方法を採用すればよい。具体的には、炭素源、窒素源、その他微量栄養物を含む培地で培養を行う方法を挙げることができる。培養は、液体培養であっても、また固体培養であってもよい。
【0033】
培養物から耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の採取は、適当な濃度の緩衝液で行なわれる。使用する緩衝液としては、該酵素に悪影響を及ぼさないことを限度として、特に制限されないが、好ましくはトリス塩酸を挙げることができる。このような緩衝液中で酵素を採取することにより、酵素の活性に悪影響を及ぼすことなく酵素の精製が可能となる。具体的には、培養上清を回収することにより本発明酵素を回収できる。なお、宿主を大腸菌として生産させた酵素のように、耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素が菌体内又は表面に蓄積されている場合には、菌体を回収し、これを上記緩衝液中で破砕又は溶菌して菌体抽出物を得ることにより本発明酵素を回収できる。
【0034】
さらに、回収した酵素を硫安分画、各種のクロマトグラフィー等により精製することができる。

(II)イノシトール1燐酸の製造方法
かくして得られた耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素を、グルコース6燐酸に作用させることによって、転位物であるイノシトール1燐酸を取得することができる。
【0035】
酵素反応の条件は、使用する耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素が活性を発揮できる条件であればよく、特に限定されない。反応温度、pHは、その酵素の至適条件とするのが好ましい。
【0036】
例えば、反応温度は、50℃以上、好ましくは60℃以上、更に好ましくは70〜85℃程度とすればよい。pHは、例えばpH7〜10程度、好ましくはpH8〜9.5、更に好ましく特に好ましくはpH8.8〜9.2程度とすればよい。pHは、トリス塩酸、炭酸、ホウ酸などの緩衝液を用いて調整すればよい。
【0037】
反応開始時の反応液中のグルコース6燐酸の濃度は、例えば0.1mM〜500mM程度、好ましくは1〜100mM程度、更に好ましくは2〜10mM程度とすることができる。耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の使用量は、反応時間等によって異なるが、一例として、グルコース6燐酸1モルに対して、100〜100000U程度、好ましくは1000〜50000U程度、更に好ましくは5000〜10000U程度の比率が挙げられる。
【0038】
また、補酵素として、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを、例えば0.05〜10mM程度、好ましくは0.1〜5mM程度、更に好ましくは0.5〜2mM程度の濃度で使用すればよい。
【0039】
反応時間は、所望量のイノシトール1燐酸が得られる時間とすればよいが、例えば1分間〜24時間程度、好ましくは2〜3時間程度とすればよい。
実施例
以下、本発明を実施例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例1】
【0040】
(アエロパイラム・ペルニクス由来イノシトール1リン酸合成酵素遺伝子のクローニング)
i)Aeropyrum pernix K1株(JCM9820)の培養
2 gの酵母エキス、5gのバクトペプトンを1Lの海水に溶かし、この溶液のpHを6.8に調整し加圧殺菌した。ついで、チオ硫酸ナトリウムを0.076%となるように加え、JCM9820を植菌した。この培養液を90℃で2日振とう培養し、その後遠心分離し集菌した。

ii)染色体DNAの調製
JCM9820の染色体DNAは以下の方法により調製した。培養終了後5000rpm、10分間の遠心分離により菌体を集菌した。菌体を20mM Tris(pH 7.5)−1mM EDTA 溶液で2回洗浄後、InCert Agarose(FMC社製)ブロック中に封入した。このブロックを1%N-lauroylsarcosine−1mg/ml プロティナーゼK溶液中で処理することにより、染色体DNAをAgaroseブロック中に分離調製した。

iii)イノシトール1燐酸合成酵素遺伝子の増幅
配列番号5の塩基配列を含むDNAをPCR法により増幅した。配列番号5は、Aeropyrum pernix K1株のゲノムにおけるイノシトール1燐酸合成酵素遺伝子であることが予測される塩基配列である。PCR条件は、PCRキットの添付マニュアルに従った。5'末端側に対応するプライマーとしては、配列表の配列番号5に示す塩基配列において、開始コドンの位置に制限酵素NdeIの認識配列が存在するように、オリゴヌクレオチドプライマーを合成した。また、3'末端側に対応するプライマーとしては、Aeropyrum pernix K1株の染色体DNA配列中の配列番号5に示す塩基配列において、開始コドンの位置に制限酵素NdeIの認識配列の塩基配列の3'末端より下流域に対応するプライマーであって、増幅されたDNA中に制限酵素のBamHIサイトが生じるようなプライマーを合成した。PCR反応後、DNAを制限酵素 のNdeI及びBamHIで完全分解(37℃で5時間)した。次いで、イノシトール1燐酸合成酵素遺伝子を含むDNA断片を精製カラムキットを用いて精製した。

iv)イノシトール1燐酸合成酵素遺伝子を含有するベクターの構築
ベクターのpET21a(Novagen社製)を制限酵素 NdeIおよびBamHIで切断し、精製した。次いで、切断されたpET21aとイノシトール1燐酸合成酵素遺伝子を含むDNA断片とをT4DNAリガーゼを用いて16℃で、16時間反応させることにより連結した。連結したDNAを用いて、大腸菌(E. coli JM109株)を形質転換した。形質転換体は、0.05 mg/ml アンピシリンを含むLB寒天プレート上でのコロニー形成を指標に選択した。得られた形質転換体からイノシトール1燐酸合成酵素遺伝子を含むプラスミドをアルカリ法で抽出した。
【実施例2】
【0041】
アエロパイラム・ペルニクス由来のイノシトール1燐酸合成酵素の生産
i) イノシトール1燐酸合成酵素遺伝子を含有する形質転換体の作製
1.5ml容チューブ内に、大腸菌(E. coli) Rosetta (DE3)株( Novagen社製)のコンピテントセル0.04ml(2,000,0000cfu/μg)と、実施例1で調製したイノシトール1燐酸合成酵素遺伝子含有プラスミドDNA溶液とを加え氷上に30分間放置した後、42℃で30秒間ヒートショックを与えた。次いで、チューブ内にSOC培地を0.5ml加え、37℃で1時間振とう培養した。次いで、アンピシリン及びクロラムフェニコールを含むLB寒天プレートに塗布し、37℃で一晩培養することにより形質転換体を得た。

ii) イノシトール1燐酸合成酵素の精製
得られた形質転換体をアンピシリン及びクロラムフェニコールを含むLB培地に接種し、600nmにおける吸光度が0.2に達するまで、37℃で培養した後、10 μMのIPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を加えさらに19時間培養した。培養液を7,000rpmで5分間遠心分離することにより集菌した。集菌した菌体に、湿菌体重量の20倍量の、1mMジチオトレイトールを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)を加え、菌体を90Wの出力で5分間超音波破砕した。破砕した菌液を 18,000rpmで20分間遠心分離し、上清を採取した。夾雑蛋白を沈殿させて除去する目的で、この上清を85℃で30分間加熱した後、18,000rpmで20分間遠心分離し、上清を採取した。上清に固形硫酸アンモニウムを50%飽和になるように加え、生じた蛋白質の沈澱を遠心分離機で集め、1mMジチオトレイトールを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で透析した後、1mM ジチオトレイトールを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化した、HiTrap Q(ファルマシア社製)カラムを用いて陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを行った。さらに、活性画分を1mMジチオトレイトールを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)中で透析した後、1.5Mになるように固形硫酸アンモニウムを加え、1.5M硫酸アンモニウム、1 mM ジチオトレイトールを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化した、HiTrap Phenyl(ファルマシア社製)カラムを用いて疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーを行った。活性画分には、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により単一バンドを与える均一標品が含まれていた。また、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果、耐熱性イノシトール燐酸合成酵素の分子量は42kDaであった。
<精製工程におけるイノシトール1燐酸合成酵素の検出方法>
精製工程におけるイノシトール1燐酸合成酵素の検出は、以下の方法でグルコース6燐酸からイノシトール1燐酸を生成する活性を測定することにより行った。
【0042】
15mM塩化アンモニウム、1 mM酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、5 mM グルコース6燐酸を含むpH9.0の100mM炭酸ナトリウム緩衝液0.23 mlに、検体酵素溶液0.02 mlを添加し、85℃で10分間反応させる。反応液に20% トリクロロ酢酸0.125mlを加えることにより反応を停止させた後、反応液の一部0.05mlに0.05mlの0.2MNaIO4を加え37℃で1時間処理する。これに0.05mlの1M亜硫酸ナトリウムと0.225mlの1.5% tween-20を混合した後、0.75mlのマラカイトグリーン発色液(4.2%モリブデン酸アンモニウムの塩酸溶液と0.2%マラカイトグリーン水溶液を1:3の割合で混合し濾過したもの)を加え、660 nmにおける吸光度を測定し、反応液の代わりに既知濃度のリン酸溶液を用いて同様に測定した吸光度と比較することにより、生成したイノシトール1燐酸を定量する。生成したイノシトール1燐酸の量を比較することにより、相対的な酵素活性を算出する。
【実施例3】
【0043】
超好熱性古細菌Aeropyrum pernix K1株のイノシトール1燐酸合成酵素遺伝子の同定
実施例1で得られた超好熱性古細菌Aeropyrum pernix K1株の染色体DNA中のイノシトール1燐酸合成酵素遺伝子の塩基配列を同定した。この塩基配列を配列番号5に示す。
【0044】
また、実施例2で得られたAeropyrum pernix K1株のイノシトール1燐酸合成酵素のアミノ酸配列を同定した。このアミノ酸配列を配列番号1に示す。
【実施例4】
【0045】
耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の性質
前記の方法で得られたAeropyrum pernix K1株由来のイノシトール1燐酸合成酵素の諸特性を評価した。
・ 至適pH
以下のイノシトール1燐酸合成酵素の活性測定方法により至適pHを求めた。すなわち、15mM塩化アンモニウム、1 mM酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、5 mM グルコース6燐酸を含む様々なpHの緩衝液0.23 mlに、検体酵素溶液0.02 mlを添加し、85℃で10分間反応させた。反応液に20% トリクロロ酢酸0.125mlを加えることにより反応を停止させた後、反応液の一部0.05mlに0.05mlの0.2MNaIO4を加え37℃で1時間処理した。反応液に0.05mlの1M亜硫酸ナトリウムと0.225mlの1.5% tween-20とを混合した後、0.75mlのマラカイトグリーン発色液(4.2%モリブデン酸アンモニウムの塩酸溶液と0.2%マラカイトグリーン水溶液を1:3の割合で混合し濾過したもの)を加え、660 nmにおける吸光度を測定し、反応液の代わりに既知濃度のリン酸溶液を用いて同様に測定した吸光度と比較することにより、生成したイノシトール1燐酸を定量した。生成したイノシトール1燐酸の量を比較することにより、相対的な酵素活性を算出した。
【0046】
比較する緩衝液としては、pH6.0〜8.0の0.1Mリン酸カリウム緩衝液およびpH8.0〜10.0の0.1M炭酸ナトリウム緩衝液を用いた。
【0047】
得られた結果を図1に示す。なお、図1の縦軸は、最大活性を示すpH(pH7.8)での活性を100とした場合の相対活性(%)を示す。図1から分かるように、本酵素の至適pHは8.8〜9.2であった。

ii)耐熱性
実施例2で得たイノシトール1燐酸合成酵素溶液(0.23 mg/ml)を1mMジチオトレイトールを含む0.1M Tris-HCl,pH8.0中で70℃、85℃、100℃で3時間インキュベートし、残存活性(%)を測定した。
【0048】
得られた結果を図2に示す。図2から分かるように、本酵素は、85℃で3時間処理しても、活性が99%以上残存していた。このような熱安定性を有するイノシトール1燐酸合成酵素は今まで存在しない。

iii)至適温度
15mM塩化アンモニウム、1 mM酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、5 mM グルコース6燐酸を含むpH9.0の100mM炭酸ナトリウム緩衝液0.23 mlに、検体酵素溶液0.02 mlを添加し、50,70,85,95℃で10分間反応させた。反応液に20% トリクロロ酢酸0.125mlを加えることにより反応を停止させた後、反応液の一部0.05mlに0.05mlの0.2MNaIO4を加え37℃で1時間処理した。反応液に0.05mlの1M亜硫酸ナトリウムと0.225mlの1.5% tween-20を混合した後、0.75mlのマラカイトグリーン発色液(4.2%モリブデン酸アンモニウムの塩酸溶液と0.2%マラカイトグリーン水溶液を1:3の割合で混合し濾過したもの)を加え、660 nmにおける吸光度を測定し、反応液の代わりに既知濃度のリン酸溶液を用いて同様に測定した吸光度と比較することにより、生成したイノシトール1燐酸を定量した。
【0049】
得られた結果を図3に示す。図3の縦軸は、最大活性を示す温度(95℃)での活性を100とした際の相対活性(%)を示す。図3から分かるように、本発明の酵素は、至適温度が95℃以上であると考えられる。
【実施例5】
【0050】
イノシトール1燐酸合成酵素によるイノシトール1燐酸の生産
実施例2で得られたAeropyrum pernix K1株由来のイノシトール1燐酸合成酵素を用いて、以下の方法に従って、イノシトール1燐酸の製造を行った。
【0051】
1mlの5mMグルコース6燐酸、1mM 酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、15mM塩化アンモニウムを含む0.1M炭酸緩衝液pH9.0に、実施例2で得られた酵素0.05mgを混合し、85℃で2時間インキュベートした。その後、反応液に20% トリクロロ酢酸0.5mlを加えることにより反応を停止させた後、反応液の一部0.05mlに0.05mlの0.2MNaIO4を加え37℃で1時間処理した。反応液に0.05mlの1M亜硫酸ナトリウムと0.225mlの1.5% tween-20とを混合した後、0.75mlのマラカイトグリーン発色液(4.2%モリブデン酸アンモニウムの塩酸溶液と0.2%マラカイトグリーン水溶液を1:3の割合で混合し濾過したもの)を加え、660 nmにおける吸光度を測定し、反応液の代わりに既知濃度のリン酸溶液を用いて同様に測定した吸光度と比較することにより、生成したイノシトール1燐酸を定量した。その結果、グルコース6燐酸5μモルから、26nモルのイノシトール1燐酸が生成していることが確認された。
【実施例6】
【0052】
パイロコッカス・ホリコシ(Pyrococcus horikoshii)由来耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素
Pyrococcus horikoshii OT3(JCM9974、理化学研究所微生物検討保存施設)を用いて、実施例1の方法に従って、Pyrococcus horikoshii由来の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の遺伝子(配列番号6)及び該遺伝子を含むベクターを調製できる。
【0053】
また、実施例2の方法に従って、上記遺伝子を含有する形質転換体を作製し、それを使用してPyrococcus horikoshii由来耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素(配列番号2)を製造することができる。
【実施例7】
【0054】
Pyrococcus furiosus由来耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素
Pyrococcus furiosus(JCM8422、理化学研究所微生物検討保存施設)を用いて、実施例1の方法に従って、Pyrococcus furiosus由来の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の遺伝子(配列番号7)及び該遺伝子を含むベクターを調製できる。
【0055】
また、実施例2の方法に従って、上記遺伝子を含有する形質転換体を作製し、それを使用してPyrococcus furiosus由来耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素(配列番号3)を製造することができる。
【実施例8】
【0056】
Pyrococcus abyssi由来耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素
Pyrococcus abyssi(CNCM I-1302、パスツール研究所)を用いて、実施例1の方法に従って、Pyrococcus abyssi由来の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素遺伝子(配列番号8)及び該遺伝子を含むベクターを調製できる。
【0057】
また、実施例2の方法に従って、上記遺伝子を含有する形質転換体を作製し、それを使用してPyrococcus abyssi由来耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素遺伝子(配列番号4)を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の活性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図2】本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の耐熱性を示す図である。
【図3】本発明の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の活性に及ぼす温度の影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)及び(ii)の性質を有する耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素:
(i)85℃で3時間処理した後に80%以上のイノシトール1燐酸合成酵素活性が保持される
(ii)70℃以上で活性を示し、至適温度は95℃以上である
【請求項2】
至適pHが8.8〜9.2の範囲内にある請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
アエロパイラムペルニクス(Aeropyrum pernix)由来の耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素である請求項1又は2に記載の酵素。
【請求項4】
以下の(1)又は(2)に記載のポリペプチド。
(1)配列番号1〜4のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(2)配列番号1〜4のいずれかに示すアミノ酸配列において、1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素活性を有するポリペプチド
【請求項5】
以下の(3)又は(4)に記載のポリペプチド。
(3)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素活性を有するポリペプチド
【請求項6】
以下の(5)、(6)、又は(7)のポリヌクレオチド。
(5)配列番号5〜8のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(6)配列番号5〜8のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(7) 請求項4又は5に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
【請求項7】
以下の(8)又は(9)のポリヌクレオチド。
(8)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(9)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
【請求項8】
請求項6又は7に記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項10】
請求項9に記載の形質転換体を培養し、培養物から耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素を回収する、耐熱性イノシトール1燐酸合成酵素の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれかに記載の酵素、又は請求項4又は5に記載のポリペプチドの存在下で、グルコース6燐酸の異性化によりイノシトール1燐酸を得る工程を含むイノシトール1燐酸の製造方法。
【請求項12】
50℃の温度下で上記異性化を行う請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−223151(P2006−223151A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39310(P2005−39310)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(505057738)株式会社耐熱性酵素研究所 (10)
【Fターム(参考)】