説明

耐熱性コーティング材及び低融点金属鋳造装置用部材

【課題】マグネシウムやマグネシウムを含む合金のように浸食性の強い溶湯に対して優れた耐久性を示す低融点金属鋳造装置用部材、並びに前記部材を形成するのに使用される耐熱性コーティング材を提供する。
【解決手段】低融点金属を鋳造する鋳造装置において低融点金属の溶湯と接触する部材を被覆するコーティング材であって、窒化ホウ素粉末及び炭素粉末の少なくとも一方と、ジルコニアゾルとを含有することを特徴とする耐熱性コーティング材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、スズ、鉛、あるいはこれらの合金等のように概ね融点が800℃以下である比較的低融点の金属を鋳造する鋳造装置において、これら金属の溶湯と接触する部材を被覆する耐熱性コーティング材、並びに耐熱性コーティング材で被覆された低融点金属鋳造装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造装置において、上述のような金属の溶湯の移送や給湯、保持等を行う注湯ボックスや樋、保持炉等の内張り材、あるいはフロートやスパウト、ホット・トップリング、トランジションプレート等の付属部材として、種々の耐熱材料を加工したものが使用されるが、中でも耐熱性が良好で、軽量でありながらも強度が高く、更に加工性に優れることなどから、けい酸カルシウム質を炭素繊維で補強した耐熱材料が広く利用されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特公昭63−53145号公報
【特許文献2】特公平3−3632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、デジタルカメラやデジタルビデオカメラ、携帯電話、ノート型コンピュータ等のモバイル機器、あるいは自動車等の高重量物においても、軽量化のために、フレームや筐体をマグネシウム合金で形成する傾向にある。しかし、マグネシウムやマグネシウムを含む合金は活性が非常に高く、これらの溶湯と接触する材料を浸食する作用が極めて強い。そのため、従来のけい酸カルシウム質、またはアルミナ・シリカ系等からなる部品は数回使用しただけで、場合によっては1回の使用で交換しなけばならないという問題があった。
【0005】
耐食性を高めるために、耐熱性コーティング材を塗布することも試みられているが、既存の耐熱性コーティング材はマグネシウムやマグネシウム合金の溶湯に対して耐食性を改善する効果が少なく、改善が望まれている。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、マグネシウムやマグネシウムを含む合金のように浸食性の強い溶湯に対して優れた耐久性を示す低融点金属鋳造装置用部材、並びに前記部材を形成するのに使用される耐熱性コーティング材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の耐熱性コーティング材及び低融点金属鋳造装置用部材を提供する。
(1)低融点金属を鋳造する鋳造装置において低融点金属の溶湯と接触する部材を被覆するコーティング材であって、窒化ホウ素粉末及び炭素粉末の少なくとも一方と、ジルコニアゾルとを含有することを特徴とする耐熱性コーティング材。
(2)全固形分において、窒化ホウ素粉末及び炭素粉末の少なくとも一方が20〜80質量%、ジルコニアゾルが5〜60質量%であることを特徴とする上記(1)記載の耐熱性コーティング材。
(3)マグネシウムまたはマグネシウムを含む合金の溶湯と接触する部材に被覆されることを特徴とする上記(1)または(2)記載の耐熱性コーティング材。
(4)低融点金属を鋳造する鋳造装置において低融点金属の溶湯と接触する部材であって、上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の耐熱性コーティング材からなる被膜で被覆されていることを特徴とする低融点金属鋳造装置用部材。
(5)気孔率5〜80%の多孔質耐熱性成形体からなり、耐熱性コーティング材からなる被膜で被覆されていることを特徴とする上記(4)記載の低融点金属鋳造装置用部材。
(6)マグネシウムまたはマグネシウムを含む合金の溶湯と接触する部位に使用されることを特徴とする上記(4)または(5)記載の低融点金属鋳造装置用部材。
尚、本発明においてマグネシウムを含む合金とは、アルミニウムや亜鉛、スズ、鉛等のマグネシウム以外の低融点金属とマグネシウムとの合金全般を意味し、マグネシウムの含有率は問わないが、現実的には合金全量の0.1質量%〜99.9質量%の範囲でマグネシウムを含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明による耐熱性コーティング材は、適用箇所に、マグネシウムやマグネシウムを含む合金のように浸食性が高い金属の溶湯に対して非常に優れた耐食性を付与できる。そのため、部材の交換頻度は従来と比較して大幅に少なくて済み、所要時間と材料コストで、従来と比較してトータル的に非常に安価で低融点金属の鋳造が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0010】
本発明の耐熱性コーティング材は、窒化ホウ素粉末及び炭素粉末の少なくとも一方と、ジルコニアゾルとを分散液に配合したものである。
【0011】
窒化ホウ素粉末としては、耐熱性及び溶湯の濡れ性に優れることからh−BNの粉末を用いることが好ましい。また、窒化ホウ素粉末は、特に制限されるものではないが、緻密な被膜を形成できることから、平均粒径は小さい方が好ましく、3〜15μmが好ましく、5〜10μmがより好ましい。
【0012】
炭素粉末としては、耐熱性及び溶湯の濡れ性に優れることからグラファイトや黒鉛等の粉末が好適である。また、炭素粉末は、特に制限されるものではないが、緻密な被膜を形成できることから、窒化ホウ素粉末と同様に平均粒径は小さい方が好ましく、3〜15μmが好ましく、5〜10μmがより好ましい。
【0013】
ジルコニアゾルはバインダーとして機能し、被膜中で窒化ホウ素粉末や炭素粉末の粉末間に存在して粉末同士を結合して被膜を形成する。
【0014】
分散液は、水の他に、エタノール、メタノール等のアルコールやトルエン等の有機溶媒が挙げられるが、扱いやすいといった観点からは水を用いることが好ましい。
【0015】
耐熱性コーティング材における窒化ホウ素粉末及び炭素粉末の少なくとも一方、ジルコニアゾルのそれぞれの含有量は、特に制限されるものではないが、十分な耐食性を確保するには、固形分全量において、窒化ホウ素粉末及び炭素粉末の少なくとも一方は20〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは40〜75質量%、特に好ましくは50〜70質量とする。また、ジルコニアゾルは5〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜50質量%、特に好ましくは30〜45質量%である。
【0016】
尚、耐熱性コーティング材における固形分と分散液との配合比率には制限がなく、塗布性を考慮して適宜設定できる。
【0017】
また、耐熱性コーティング材はスラリーであることから、例えば、次のような添加剤を含有することで塗布性や安定性が高まり、好ましい。何れもスラリー全量に対する量で、メチルセルロースやカルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等の増粘剤を0.1〜8質量%、ポリビニルアルコール等の有機バインダーを0.1〜8質量%、窒素硫黄系の防腐剤を0.1〜2質量%、乳酸や酢酸等の安定化剤を0.1〜2質量%、イソプロピルアルコールやリン酸系の分散剤を0.1〜2質量%添加してもよい。
【0018】
更に、耐熱性コーティング材は、その他の耐火物を含有してもよい。本発明では、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、スズ、鉛、あるいはこれらの合金等のように概ね融点が800℃以下の低融点金属の溶湯と接触する部材を対象としており、使用可能な耐火物は融点が800℃以上のものである。具体的には、アルミナやシリカ、ムライト、マグネシア、ケイ酸ジルコニウム等の酸化物系耐火物、窒化珪素や窒化アルミニウム、サイアロン等の窒化物系耐火物、炭化珪素等の炭化物系耐火物が挙げられる。その他の耐火物の含有量は、固形分全量の0〜75質量%とする。
【0019】
本発明はまた、上記耐熱性コーティング材からなる被膜で被覆した低融点金属鋳造装置用部材を提供する。耐熱性コーティング材は、既存の低融点金属鋳造装置用部材に広く適用でき、金属製の部材にも適用できる。中でも、耐熱性コーティング材からなる被膜の密着強度に優れ、更に耐熱性等にも優れることから、気孔率が5〜80%、好ましくは50〜80%の多孔質の耐熱性成形体からなる部材を被覆することが好ましい。とりわけ、断熱性能や比強度、加工性等に優れることからけい酸カルシウムを含むものが好ましい。けい酸カルシウムは、特に制限はないが、ワラストナイト(CaSiO)、トバモライト(5CaO・6SiO・5HO)及びゾノトライト(6CaO・6SiO・HO)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、これらを10〜100質量%の割合で含有することが好ましい。
【0020】
また、けい酸カルシウム単体であってもよいが、必要に応じて、従来から耐熱材料に配合されている公知の材料を添加してもよい。中でも、補強繊維の添加は好ましく、ガラス繊維や炭素繊維、セラミックス繊維等を0.1〜3質量%の割合で添加させることができる。尚、これら補強繊維の繊維径や繊維長は、繊維径3〜15μm、繊維長3〜10mmのものが補強効果に優れ、好ましい。
【0021】
けい酸カルシウムを含む多孔質の成形体を得るには、公知の製造方法を用いることができ、例えば、抄造法や脱水プレス法が用いられればよい。具体的には、けい酸カルシウム原料や補強用繊維を含む水性スラリーを脱水成形して例えば板状の脱水成形物とし、脱水成形物を水熱処理すればよい。尚、けい酸カルシウム原料は、石灰原料とけい酸原料との混合物であり、石灰、ゾノトライト、ワラストナイト、けい石等で構成される。また、水性スラリーには消泡剤や凝集剤を添加することが好ましく、それぞれスラリー中に固形物換算で0.01〜0.3質量%の割合で添加することができる。消泡剤は、得られる低融点金属鋳造装置用耐熱材料に残留しない方が好ましく、そのため水溶性のものを用いて脱水成形時に水とともに排出することが好ましい。
【0022】
水熱処理は、脱水成形物をオートクレーブに入れ、水蒸気雰囲気下で加熱すればよい。この水熱処理はけい酸カルシウムの合成が完了するまで行う必要があり、けい酸カルシウム原料の組成、脱水成形物の大きさ、生成させるけい酸カルシウムの種類に応じて適宜設定されるが、水蒸気圧0.9〜1.8MPa、処理時間2〜20時間が適当である。
【0023】
水熱処理後に乾燥して、そのまま使用に供することができるが、この状態でのけい酸カルシウムの結晶形態はワラストナイトとゾノトライトの混合であり、より耐食性を高めるためにゾノトライトの結晶水を脱水させる目的で焼成することが好ましい。焼成は、結晶水を脱水できれば制限がなく、例えば窒素雰囲気中で600〜800℃、2〜5時間行うのが適当である。焼成後のけい酸カルシウムの結晶形態はゾノトライトが脱水しているため、ワラストナイトが主成分となっている。
【0024】
尚、けい酸カルシウムを含む多孔質の成形体は、上記に限らず、市販品を使用することもできる。
【0025】
耐熱性コーティング材からなる被膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、十分な耐食性を得るためには、30μm以上であることが好ましく、50μm以上がより好ましい。尚、必要以上に厚い被膜を形成しても耐食性の更なる向上は見込めず、膜厚の上限は100μmとするのが適当である。
【0026】
被膜形成方法にも制限がなく、刷毛等による塗布、スプレーによる噴霧、浸漬等、適宜選択できる。
【0027】
そして、耐熱性コーティング材を塗布した後、乾燥して水分を蒸発させて被膜を形成することで、本発明の低融点金属鋳造装置用耐熱材料が得られる。本発明の低融点金属鋳造装置用耐熱材料は、被膜中の窒化ホウ素粉末または炭素粉末により優れた耐食性が付与されており、特にマグネシウムやマグネシウムを含む合金の溶湯と接触する部位に最適である。また、多孔質耐熱性成形体としてけい酸カルシウムを用いた場合には、加工性に優れ、切削加工等により容易に所望形状に加工することができるようになる。そのため、マグネシウムやマグネシウム合金を鋳造する装置の注湯ボックスや樋、保持炉等の内張り材、あるいはフロートやスパウト、ホット・トップリング、トランジションプレート等の付属部材として好適である。
【実施例】
【0028】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明について更に説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。
【0029】
(実施例1〜8、比較例1〜4)
表1〜2に示す配合物を20分間混合攪拌し、コーティング材を調製した。尚、配合物の詳細は以下のとおりである。
【0030】
【表1】

【0031】
このコーティング材をニチアス株式会社製「ルミボード LH−200S(気孔率71%)」に坪量200g/mとなるように塗布した後、105℃で24時間乾燥して試験体を作製した。尚、前記気孔率はJIS R 2614に準じて測定した。そして、試験体について下記に示す浸食試験を行った。
【0032】
<浸食試験>
試験体から一辺が約70mmの正方形で、厚さが25mmの試験片を切り出し、図2に模式的に示すように、セッターの上に配置した試験片のほぼ中心部にマグネシウム合金(AZ31)からなる直径8mmで高さ10mmの円柱を置き、円柱の上面に0.2MPaの荷重を加えた状態で、アルゴン雰囲気中で室温から2時間かけて800℃まで昇温してマグネシウム合金を溶融させ、その後、マグネシウム合金融液の液面上に同荷重を負荷した状態で、アルゴン雰囲気中、800℃にて1時間保持し、マグネシウム合金融液と試験片との接触状態を保った。1時間後、開圧してマグネシウム合金融液を試験片の表面から回収し、室温まで冷却した後、試験片の断面を観察してマグネシウム合金融液との接触により浸食された部分の面積を測定した。結果を同表に示すが、実用上特に問題なしに「○」、実用上問題有りに「×」を記した。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
実施例1〜8のように窒化ホウ素粉末や炭素粉末と、ジルコニアゾルとを含むコーティング材からなる被膜を形成することで、耐食性が格段に向上することがわかる。これに対し、バインダーとしてアルミナゾルやコロイダルシリカを用いても耐食性向上には効果が殆どみられない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例における浸食試験の試験方法を説明するための模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低融点金属を鋳造する鋳造装置において低融点金属の溶湯と接触する部材を被覆するコーティング材であって、窒化ホウ素粉末及び炭素粉末の少なくとも一方と、ジルコニアゾルとを含有することを特徴とする耐熱性コーティング材。
【請求項2】
全固形分において、窒化ホウ素粉末及び炭素粉末の少なくとも一方が20〜80質量%、ジルコニアゾルが5〜60質量%であることを特徴とする請求項2記載の耐熱性コーティング材
【請求項3】
マグネシウムまたはマグネシウムを含む合金の溶湯と接触する部材に被覆されることを特徴とする請求項1または2記載の耐熱性コーティング材。
【請求項4】
低融点金属を鋳造する鋳造装置において低融点金属の溶湯と接触する部材であって、請求項1〜3の何れか1項に記載の耐熱性コーティング材からなる被膜で被覆されていることを特徴とする低融点金属鋳造装置用部材。
【請求項5】
気孔率5〜80%の多孔質耐熱性成形体からなり、耐熱性コーティング材からなる被膜で被覆されていることを特徴とする請求項4記載の低融点金属鋳造装置用部材。
【請求項6】
マグネシウムまたはマグネシウムを含む合金の溶湯と接触する部位に使用されることを特徴とする請求項4または5記載の低融点金属鋳造装置用部材。

【図1】
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【公開番号】特開2007−268599(P2007−268599A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100493(P2006−100493)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】