説明

耐熱性不織布

【課題】熱安定性、耐熱性、熱成型加工時の操業性に優れた、耐熱性不織布を提供する。
【解決手段】ポリマーアロイにて形成された長繊維不織ウエブ層と、芳香族ポリエステル系重合体にて形成された長繊維不織ウエブ層とが積層されるとともに、両ウエブ層の構成繊維同士が三次元交絡により一体化されている。ポリマーアロイは、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体と、融点が160〜230℃の共重合芳香族ポリエステル重合体と、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とについての相容化剤とを含有する。またポリマーアロイは、ポリ乳酸系重合体が海成分を形成し、共重合ポリエステル重合体が島成分を形成した海島構造を呈するとともに、島成分のドメインサイズが0.001〜0.1μmの範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タフテッドカーペット用一次基布や熱成形品などに用いることができる耐熱性不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油を原料とする合成繊維は、焼却時の発熱量が多いため、地球環境保護の見地から見直しが必要とされている。これに対し、自然界において生分解する脂肪族ポリエステルからなる繊維が開発されており、環境保護への貢献が期待されている。脂肪族ポリエステルの中でも、石油を原料とせず、植物由来の高分子であるポリ乳酸系重合体は、比較的融点が高いことから、広い分野に使用されることが期待されている。また、ポリ乳酸系重合体は、生分解性ポリマーの中では、力学特性、コストバランスが最も優れている。それに伴い、これを利用した繊維の開発が急ピッチで行われている。
【0003】
しかしながら、最も有望視されているポリ乳酸系重合体にも、ガラス転移温度(Tg)である60℃を超えると重合体が急激に軟化し高温力学特性が悪いという問題点がある。実際に、雰囲気温度を変更してポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織布の引張試験を行うと、70℃以上では急激にその強力が低下することが分かっている。したがって、ポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織布は、通常の雰囲気下で用いる場合は問題ないが、高温雰囲気下では変形やへたりが生じやすい。
【0004】
ポリ乳酸系重合体のもつ上記の欠点を補うべく、高速紡糸による配向結晶化構造を利用する方法などが提案されている。
【0005】
この方法では、例えば、重量平均分子量が10万〜30万であるホモポリL乳酸を紡糸温度200〜250℃で口金より吐出し、冷却風により糸を冷却固化させ、その後、繊維用油剤を付与して高速で引き取り、そのまま巻き取る。このとき、巻き取ったポリ乳酸繊維の(200)面方向の結晶サイズが6nm以上となるように、高速の引き取り速度を設定する。そして、この高速紡糸により配向結晶化したポリ乳酸繊維をさらに延伸温度100℃以上で延伸し、熱セットする(特許文献1)。
【0006】
一方、長繊維群が集積されてなる不織布を、タフテッドカーペット用一次基布として用いることが知られている。この一次基布は、パイル糸をタフティングする際、すなわちパイル糸を植え込む際の支持体として用いられるものである。カーペットの製造工程では、一次基布に所望のパイル糸を用いてタフトすることにより生機が得られ、生機にバッキング処理を行うことによりカーペットが得られ、得られたカーペットは必要に応じて所望の成型が行われる。
【0007】
バッキング処理工程は、通常、熱溶融したバッキング材を生機にラミネートあるいはコーティングし、その後、オーブンにて乾燥させてバッキング材を固めるというものである。そのとき、一次基布には、熱溶融したバッキング材と接することにより熱が付与され、また、その後の乾燥工程でも熱が付与される。したがって、一次基布には、バッキング工程での熱に耐え得る熱安定性、すなわち、加熱の際に変形しにくい熱安定性が求められる。また、得られたカーペットに成型を行う場合は、カーペットに熱を付与して、雄型と雌型とを有した所定の金型を用い、加圧して成型カーペットとする。この成型工程では130〜140℃程度の温度で加熱するため、成型カーペットに用いる一次基布には、高温下であっても、強力や、伸張に対する応力を保持し、かつ適度な伸度を有することが求められる。特に、深絞り成型を行う場合には、パイルの支持体である一次基布が成型金型に沿って良好に追随することが求められる。追随できない場合は、基布全体が均一に変形しないため、深絞り部分のみが過大に伸びて成型部分における基布が薄くなり、均一な厚さのタフテッドカーペットが得られず、ひどい場合には成型加工時に破れてしまうことになる。
【0008】
上記したように、ポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織布は、高温での力学特性に劣るため、カーペット用一次基布に適用した場合には、バッキング工程で付与される熱、自重や応力に耐えることができずに変形したり、熱成型時に付加される熱や応力に耐え切れずに良好な成型が行えなくなったりするという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−41433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ポリ乳酸系重合体を構成成分とし、熱安定性、耐熱性、熱成型加工時の操業性に優れた、耐熱性不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ポリ乳酸系重合体を構成重合体とする長繊維不織布について鋭意検討をした結果、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体と、融点が160〜230℃の共重合芳香族ポリエステル重合体と、これらポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とについての相容化剤とを含有するポリマーアロイを構成繊維として、ポリマーアロイは、ポリ乳酸系重合体が海成分を形成するとともに共重合ポリエステル重合体が島成分を形成した海島構造を呈しており、島成分のドメインサイズが0.001〜0.1μmである長繊維不織ウエブ層と、芳香族ポリエステル系重合体を構成繊維とする長繊維不織ウエブ層とが、積層され、かつ構成繊維同士が三次元交絡により一体化された不織布は、耐熱性を有し、かつ生産時の操業性にも優れることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明の耐熱性不織布は、ポリマーアロイにて形成された第1の長繊維不織ウエブ層と、芳香族ポリエステル系重合体にて形成された第2の長繊維不織ウエブ層とが積層されるとともに、第1の長繊維不織ウエブ層と第2の長繊維不織ウエブ層との構成繊維同士が三次元交絡により一体化されており、
前記ポリマーアロイは、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体と、融点が160〜230℃の共重合芳香族ポリエステル重合体と、前記ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とについての相容化剤とを含有し、
前記ポリマーアロイは、前記ポリ乳酸系重合体が海成分を形成し、前記共重合ポリエステル重合体が島成分を形成した海島構造を呈するとともに、前記島成分のドメインサイズが0.001〜0.1μmの範囲にあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の耐熱性不織布は、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とのポリマーアロイからなる第1の長繊維不織ウエブ層と芳香族ポリエステル系重合体からなる第2の長繊維不織ウエブ層との積層不織布で構成されているものである。詳細には、本発明の耐熱性不織布は、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体と、融点が160〜230℃の共重合芳香族ポリエステル重合体と、これらについての相容化剤とを含有するポリマーアロイからなる第1の長繊維不織ウエブ層と、芳香族ポリエステル系重合体からなる第2の長繊維不織ウエブ層とが積層され、これら不織ウエブ層の構成繊維同士が三次元交絡により一体化されているものであるため、良好な耐熱性を示し、このため高温雰囲気下での熱成形性が良好である。
【0014】
また、高温下でも、高い強力と特定の伸度を有しているため、破断しにくく、タフテッドカーペット用一次基布として用いた場合には、タフト後に熱成型加工する際に十分な伸びを示し、したがって、従来からの素材設計を大きく変更することなく、金型に追随しながら成型破れが生じにくいという効果を奏することを期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の耐熱性不織布は、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体と、融点が160〜230℃の共重合芳香族ポリエステル重合体と、相容化剤とを含有するポリマーアロイからなる長繊維不織ウエブ層と、芳香族ポリエステル系重合体からなる長繊維不織ウエブ層とが積層され、それらの構成繊維同士が三次元交絡されることにより一体化されて不織布化されたものである。このような積層構造とするのは、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とからなるポリマーアロイにて形成された不織ウエブ層によって所定の生分解性を発揮させると同時に、もう一層を形成する芳香族ポリエステル系重合体との相容性を高め、芳香族ポリエステル系重合体にて形成された不織ウエブ層によって、耐熱性すなわち高温時の機械的な物性を維持して良好な熱成形性を発揮させるためである。
【0016】
まず、本発明に用いるポリマーアロイについて説明する。
このポリマーアロイは、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体と、融点が160〜230℃である共重合芳香族ポリエステル重合体と、これらポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とについての相容化剤とを含有するものであって、ポリ乳酸系重合体が海成分を形成するとともに共重合芳香族ポリエステル重合体が島成分を形成した海島構造を呈しており、島成分のドメインサイズが0.001〜0.1μmの範囲にあることが必要である。
【0017】
ポリ乳酸系重合体としては、ポリ−D−乳酸、ポリ−L−乳酸、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との郡から選ばれる重合体、あるいはこれらのブレンド体が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸を共重合する際のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの中でも特に、ヒドロキシカプロン酸やグリコール酸が、低コスト化の点から好ましい。
【0018】
本発明においては、上記ポリ乳酸系重合体であって融点が150℃以上のもの、あるいはそのような重合体のブレンド体を用いる。ポリ乳酸系重合体の融点が150℃以上であることで、高い結晶性を有しているため、耐熱性に優れた不織布となり、たとえば高温での熱処理加工時の収縮が発生しにくく、また熱処理加工を安定して行うことができる。
【0019】
ポリ乳酸のホモポリマーであるポリ−L−乳酸やポリ−D−乳酸の融点は、約180℃である。ポリ乳酸系重合体として、ホモポリマーではなく、共重合体を用いる場合には、共重合体の融点が150℃以上となるようにモノマー成分の共重合比率を決定する。L−乳酸とD−乳酸との共重合体の場合であると、L−乳酸とD−乳酸との共重合比が、モル比で、(L−乳酸)/(D−乳酸)=5/95〜0/100、あるいは(L−乳酸)/(D−乳酸)=95/5〜100/0のものを用いる。共重合比率が前記範囲を外れると、共重合体の融点が150℃未満となり、そのため非晶性が高くなって本発明の目的を達成し得ないこととなる。
【0020】
共重合芳香族ポリエステル重合体としては、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分とブタンジオール成分とを含むものを用いることができる。これらを成分とする共重合芳香族ポリエステル重合体は、結晶性であるので、明確な結晶融点を有する。つまり、融解吸熱曲線を描いた際に明確な融点ピークを示す。このため、この共重合芳香族ポリエステル重合体を含む長繊維を構成繊維とする不織布は、熱収縮が少なく、寸法安定性が良い。また、この繊維は高温雰囲気下でも機械的強力の低下が少ないために、この繊維からなる不織布は、寸法安定性が良好であり、機械的強力の低下が少ない。
【0021】
共重合芳香族ポリエステル重合体は、上記3成分を含んだアルキレンテレフタレート単位にさらにε−カプロラクトンを共重合したものであってもよい。ε−カプロラクトン単位は、他の構成単位とランダム共重合したものであってもよいし、ブロック共重合したものであってもよい。
【0022】
共重合芳香族ポリエステル重合体の融点は、本発明の不織布を高温雰囲気下で用いる時の耐熱性を考慮して、160℃以上であることが必要であり、180℃以上であることが好ましい。融点の上限は、230℃である。その理由は、ポリ乳酸系重合体との融点差を大きくしないためである。230℃を超えると、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体との融点差が大きく、溶融紡糸工程において紡糸温度をポリ乳酸系重合体の分解温度付近に設定することを要し、ポリ乳酸系重合体の熱分解が生じる恐れがある。
【0023】
ポリマーアロイにおいては、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とが均一かつ微細に分散されていることが重要である。つまり、長繊維不織布を構成する長繊維をその長さ方向に対し垂直に切った断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した時に、いわゆる海島構造をとっており、ポリ乳酸系重合体が海成分を構成するとともに共重合芳香族ポリエステル重合体が島成分を構成しており、しかも島成分を構成する共重合芳香族ポリエステル重合体のドメインサイズが直径換算で0.001〜0.1μmで分散していることが重要である。ここで、直径換算とは、ドメインの断面形状が円であると仮定して、ドメインの断面積から換算される直径をいう。島成分のドメインサイズを前記範囲とすることで、高速製糸性に優れたポリマーアロイを得ることができる。
【0024】
島成分のドメインサイズが0.1μm以上であると、繊維の断面積に対して島成分のドメインサイズが大きくなりすぎてしまい、これが高速紡糸の際に欠点となってしまって、製糸性が悪化する。また、島成分のドメインサイズが0.001μm未満であると、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とが相溶化してしまって、ポリマーアロイの靱性が向上せず、耐熱性も劣る傾向となる。
【0025】
ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とのブレンド比率は、(ポリ乳酸系重合体)/(共重合芳香族ポリエステル重合体)=95/5〜70/30(質量%)であることが好ましい。共重合芳香族ポリエステル重合体のブレンド比率が5質量%未満であると、この重合体をブレンドすることによる効果が少なく、耐熱性の向上が顕れにくい。また、共重合芳香族ポリエステル重合体のブレンド比率が30質量%を超えると、この重合体をポリ乳酸系重合体の中に均一かつ微細に分散させることが難しく、このため製糸性に劣り、また、得られる繊維の強度も劣る傾向となる。
【0026】
海成分としてのポリ乳酸系重合体に島成分としての共重合芳香族ポリエステル重合体を均一かつ微細に分散させるために、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とを混合してポリマーアロイを得るにあたり、相容化剤を適宜に添加する必要がある。
【0027】
この相容化剤は、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体との界面を活性させるものであれば、特に限定されるものではない。しかし、一般的に知られている鎖延長剤を最も好適に用いることができる。相容化剤としての鎖延長剤は、エポキシ基、カルボジイミド基、イソシアネート基、無水マレイン酸基などの、鎖延長を伴う反応性を持つものが不可欠である。このような相容化剤としては、エポキシ基含有化合物、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリシジルイミド化合物、オキサゾリン化合物などがある。
【0028】
エポキシ基化合物の具体例としては、Joncryl ADR4300、同4368(いずれもBASF社製)を挙げることができる。
【0029】
イソシアネート系鎖延長剤としては、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)6〜20の芳香族ジイソシアネート、炭素数2〜18の脂肪族ジイソシアネート、炭素数4〜15の脂環式ジイソシアネート、炭素数8〜15の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体、これらの2種以上の混合物を使用できる。イソシアネートの具体例としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、リジントリイソシアネート等が挙げられる。これらのうち、好ましいのは、リジントリイソシアネート、TDI、HDI、IPDIである。特に好ましいのは、リジントリイソシアネートである。
【0030】
カルボジイミド系鎖延長剤としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2´,6´−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロへキシルカルボジイミド、N,N´ベンジルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o―イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6―ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2―エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2―イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,4,6―トリメチルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。中でもN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2´,6´−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましい。具体例としては、スタバックゾールI(ラインへミー社製)、EN−160(松本油脂社製)、LA−1(日清紡社製)等を挙げることができる。
【0031】
グリシジルエーテル系鎖延長剤としては、メタクリル酸グリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。これらのうち、特に好ましいのはポリグリセロールポリグリシジルエーテルである。
【0032】
相容化剤は、上記から選ばれた1種以上の化合物を任意に選択したものであることが好ましい。
【0033】
相容化剤の添加量は、使用する化合物の反応性基の単位質量当たりの当量、溶融時の分散性や反応性、島成分のドメインの大きさ、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とのブレンド比などにより、適宜決めることができる。その添加量は、界面剥離抑制の観点にもとづけば、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体と相容化剤との合計100質量%に対し、0.01質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.1質量%以上である。相容化剤の添加量が少なすぎると、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体との界面への拡散、反応量が少なく、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体との界面接着性の向上効果が限定的となる。一方、相容化剤が繊維の基材となるポリ乳酸系重合体および共重合芳香族ポリエステル重合体の特性や製糸性を阻害することなく所要の性能を発揮するためには、その添加量は1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
ポリマーアロイにて形成された第1の長繊維不織ウエブ層に積層される第2の長繊維不織ウエブ層の構成繊維を形成する芳香族ポリエステル系重合体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、これらをベースにした共重合体、これらのブレンド物等のポリマーが挙げられる。芳香族ポリエステル系重合体を用いる理由は、結晶性が高いため、得られる繊維の結晶配向度が高く、耐熱性に優れているためである。中でも、生産性と高温物性とに優れることから、ポリエチレンテレフタレート、またはこれを主体とする共重合体が好適に用いられる。なお、ポリエチレンテレフタレートを主体とする共重合体の場合は、耐熱性の点から、共重合する他の成分の割合は10mol%以下であることが好ましい。
【0035】
積層不織布を構成する、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とのポリマーアロイからなる不織ウエブ層と、芳香族ポリエステル系重合体からなる不織ウエブ層とは、質量比で、(ポリマーアロイからなる不織ウエブ層)/(芳香族ポリエステル系重合体からなる不織ウエブ層)=40/60〜75/25の比率で積層されたものであることが好ましい。ポリマーアロイからなる不織ウエブ層の割合が40質量%より低い場合は、本発明の主旨である「植物由来の樹脂からなる」という概念に含まれにくい。また、ポリマーアロイからなる不織ウエブ層の割合が75質量%より高い場合は、その分だけ芳香族ポリエステル系重合体からなる不織ウエブ層の割合が低下するため、高温時における不織布の機械的物性が低くなる。
【0036】
ポリマーアロイ及び芳香族ポリエステル系重合体には、各々必要に応じて、艶消し剤、顔料、結晶核剤などの各種添加剤を、本発明の効果が損なわない範囲で添加してもよい。とりわけ、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の結晶核剤を添加することが、紡出・冷却工程での糸条の融着(ブロッキング)を防止するために好ましい。この結晶核剤は、0.1〜5質量%の範囲で用いるのが好ましい。0.1質量%未満では添加剤による実質的な効果が期待できない。また5質量%を超えると、得られる糸条の強力が低下するとともに製造時の製糸性に劣る結果となる。
【0037】
本発明の耐熱性不織布を構成する繊維の断面は、通常の丸断面の他、中空断面、異型断面、並列形複合断面、多層型複合断面、芯鞘型複合断面、分割型複合断面、その他目的に応じて任意の繊維横断面形態とすることができる。
【0038】
本発明の耐熱性不織布の目付は、適宜設定すれば良い。例えば、この不織布を熱成形用カーペットのための基布として用いる場合は、目付が80〜230g/mの範囲にあることが好ましく、より好ましくは100〜200g/mである。目付が80g/m未満であると、カーペット作製時の熱成型時に破れが発生しやすくなる。一方、目付が230g/mを超えると、基布の繊維量が多くて、パイル高さが不均一となったりタフト間隔が不揃いになったりしやすい。また、コスト面で不利である。
【0039】
本発明の耐熱性不織布は、ポリマーアロイにて形成された不織ウエブ層と芳香族ポリエステル系重合体にて形成された不織ウエブ層とが、構成繊維同士の三次元交絡により一体化されている。このような構成であると、構成繊維同士が、二次元方向すなわち不織布の面方向のみならず、不織布の厚み方向にも絡み合っているため、層間剥離を起こしにくいという利点がある。特に、ポリマーアロイにて形成された構成繊維と芳香族ポリエステル系重合体にて形成された構成繊維とが三次元方向に相互に絡み合っていることで、ポリマーアロイウエブ層中にも芳香族ポリエステル系重合体の繊維が存在することになり、芳香族ポリエステル系重合体はポリマーアロイよりもガラス転移温度が高くしかも結晶性が高いことから、不織布の高温雰囲気下での機械的強力を保持できて、その形態安定性が向上することになる。ポリマーアロイ中の共重合芳香族ポリエステル重合体は、ポリ乳酸系重合体と比較して、芳香族ポリエステル系重合体と相容性が高い。このため、ポリマーアロイを用いた長繊維不織ウエブは、ポリ乳酸系重合体だけを用いた長繊維不織ウエブを使用する場合と比較して、芳香族ポリエステル系重合体にて形成された長繊維不織ウエブと三次元交絡しやすく、比較的容易に交絡する。このように構成繊維同士が三次元的に、すなわち不織布の厚み方向にも交絡していることにより、この不織布をタフテッドカーペット用一次基布として用いた場合において、タフティング処理の際に基布が層間剥離を起こさず、形態保持性を良好にすることができる。
【0040】
構成繊維同士を三次元交絡させるための手法としては、ニードルパンチ処理が好適である。なぜなら、剛性の高い針で構成繊維を強く押し込むことになるために、不織布の厚み方向に沿って両ウエブ層間で構成繊維どうしの絡み合いが良好になるためである。
【0041】
ニードルパンチの際の針密度は、20〜100回/cmであるのが好ましい。針密度が20回/cm未満であると、長繊維相互間の絡み合いの程度が低く、ニードルパンチを施す効果を発揮しにくい。一方、針密度が100回/cmを超えると、長繊維の損傷が激しく、繊維自体が著しく強力の低いものとなってしまうため、不織布の機械的強力が劣る傾向となる。
【0042】
本発明の耐熱性不織布においては、伸長時の応力と引張強力とを向上させるために、バインダー樹脂を付着させて構成繊維同士の接点を接着させることが好ましい。バインダー樹脂の付着量(固形分付着量)は、不織布の総質量に対し、2〜15質量%であることが好ましい。樹脂の付着量が2質量%未満であると、バインダー樹脂を付与する効果を発揮しにくい。一方、付着量が15質量%を超えると、長繊維相互間に存在する樹脂が多くなりすぎる。このため、付着量が15質量%を超えると、本発明の耐熱性不織布を熱成形用カーペットのための基布として用いる場合において、パイル糸をタフティングする際に、繊維の自由度が失われてタフティング用針が基布を貫通しにくくなり、また得られるカーペットの柔軟性も劣る傾向となる。
【0043】
バインダー樹脂としては、不織布に用いられるポリ乳酸系重合体を好適に用いることができる。また、ポリビニルアルコール、天然物であるデンプン等の多糖類、タンパク質、キトサン等を用いてもよい。その他にも、不織布の全質量中のポリ乳酸系重合体の質量が40質量%以上となる限りにおいて、バインダー樹脂として従来から使用されているアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリロニトリル、スチレンなどのモノマーを二種類以上組み合わせて所望のモル比で共重合した共重合体を採用することもできる。また、これらの共重合体をメラミン樹脂、フェノール樹脂等の架橋剤によって架橋している架橋型のバインダー樹脂を用いてもよい。
【0044】
本発明の耐熱性不織布は、タフテッドカーペット用一次基布として用いたときに、熱成型性を考慮して、タフト後の130℃での最大引張強力が、タテ方向(MD)、ヨコ方向(TD)ともに50N/5cm幅以上であり、かつ同130℃での破断時の伸度が、タテ方向、ヨコ方向ともに50%以上であることが好ましい。最大引張強力が50N/5cm幅未満、破断時の伸度が50%未満であると、成型金型に追随することができず、熱成型加工時に破れやすくなる。なお、上限は、特に限定されないが、強力は150N/5cm幅程度、伸度は100%程度であればよい。
【0045】
近年、省エネルギーの観点から、低温加熱で成型を行うタフテッドカーペット用基布が登場している。この点に関し、本発明の耐熱性不織布は、タフテッドカーペット用一次基布として用いた場合に、タフト後の90℃での破断時の伸度も高いため、低温での熱成型加工に優れている。
【0046】
次に、本発明の耐熱性不織布の製造方法について説明する。本発明の耐熱性不織布を構成するところの、ポリマーアロイにて形成された長繊維不織ウエブ層と芳香族ポリエステル系重合体にて形成された長繊維不織ウエブ層とは、いずれも、いわゆるスパンボンド法によって効率良く製造することができる。
【0047】
すなわち、まず、ポリマーアロイ、芳香族ポリエステル系重合体を用意する。ポリマーアロイとしては、海成分であるポリ乳酸系重合体中に、共重合芳香族ポリエステルが多数の島成分として分散し、この島成分のドメインサイズの平均径が0.5μm未満かつ最大径が1.0μm未満であるポリマーアロイチップを準備する。用意したポリマーアロイ、芳香族ポリエステル系重合体をそれぞれ個別の溶融押し出し機により溶融計量し、所定の紡糸口金を介して溶融紡糸し、その口金より紡出した紡出糸条を従来公知の横吹付や環状吹付等の冷却装置を用いて冷却した後、吸引装置を用いて牽引細化して引き取る。
【0048】
このときの牽引速度は、3000〜6000m/分に設定することが好ましく、4000〜6000m/分であることがさらに好ましい。牽引速度が3000m/分未満であると、糸条において分子配向が十分に促進されず、最終的に得られる不織布の寸法安定性が劣る。一方、牽引速度が高すぎると紡糸安定性に劣る。この範囲の牽引速度を採用することで、前述のように長繊維のポリマーアロイにおいて直径換算で0.001〜0.1μmのドメインサイズで共重合芳香族ポリエステル重合体が分散している構成とすることができる。
【0049】
牽引細化した長繊維は、公知の開繊器具にて開繊した後、スクリーンコンベアなどの移動式捕集面上に開繊堆積させる。これにより双方の不織ウエブ層を形成し、両不織ウエブ層を積層する。この際に、ポリマーアロイからなる不織ウエブ層と芳香族ポリエステル系重合体からなる不織ウエブ層とのどちらを上層にするかは、適宜選択する。
【0050】
その後、この不織ウエブ層同士を積層したものに、熱圧着装置を用いて部分的熱圧着を施すことで、両者を仮に一体化する。部分的な熱圧着処理を施すに際しては、加熱されたエンボスロールと表面が平滑な金属ロールとを用いて不織ウエブに点状融着区域を形成する方法が好ましい。熱処理時の温度は、ポリ乳酸系重合体が溶融または軟化する温度に設定するとよいが、処理時間などに応じて適宜選択する。
【0051】
積層されたポリマーアロイからなる不織ウエブ層と芳香族ポリエステル系重合体からなる不織ウエブ層とを、ニードルパンチ処理により交絡一体化させる。そのときの針密度の条件は、上述した通りである。
【0052】
本発明の耐熱性不織布は、得られたポリ乳酸系不織布に、所望のパイル糸を用いてタフトすることにより生機を得ることができる。そして、この生機にバッキング処理を行った後、所望の金型にて加熱成形することにより、成形タフテッドカーペットを得ることができる。
【実施例】
【0053】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例における各種物性値の測定は、以下の方法により実施した。
【0054】
(1)メルトフローレート値(以降、「MFR値」と記す)[g/10分]:
ASTM−D−1238(E)に記載の方法に準じて、荷重2160gf、温度210℃で測定した。
【0055】
(2)相対粘度(ηrel):
フェノールと四塩化エタンとの等質量比の混合溶媒100ccに試料0.5gを溶解しオストワルド粘度計を用いて測定した。
【0056】
(3)融点[℃]:
示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、DSC−2型)を用いて、試料重量を5mg、昇温速度を10℃/分として測定し、得られた融解吸熱曲線の最大値を与える温度を融点[℃]とした。
【0057】
(4)目付[g/m]:
標準状態の試料から、試料長が10cm、試料幅が5cmの試料片10点を作成し、平衡水分にした後、各試料片の質量[g]を秤量し、得られた値の平均値を単位面積あたりに換算し、目付[g/m]とした。
【0058】
(5)合成繊維中の島ドメインのサイズ:
長繊維不織布を構成する繊維の繊維軸と垂直の方向に超薄切片を切り出し、可視硬化樹脂(エポキシ包埋材)中に数時間浸漬した後、硬化させて、切片を採取した。その切片を用いて、日本電子社製の、JEM−1230 TEM装置によって、加速電圧100kV、電流58μA、照射絞り3にて透過測定で2万倍の写真撮影を行った。そのときの島ドメイン100個について上述した直径換算を行い、個々のドメインサイズを求めた。
【0059】
(6)常温雰囲気下での引張強力[N/5cm幅]、伸度[%]:
幅5cm×長さ30cmの短冊状試験片を10個準備し、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製 テンシロンRTC−1310)を用いて、つかみ間隔10cm、引張速度20cm/分で引張試験を行い、JIS L1906に準じて測定した。そして10点の平均値を引張強力[N/5cm幅]とした。また、上記条件で得られた切断時の伸度[%]を破断伸度[%]とした。
【0060】
(7)高温雰囲気下での引張強力[N/5cm幅]、伸度(%):
130℃の高温雰囲気下で、JIS L1906に準じて測定した。すなわち、不織布のタテ方向およびヨコ方向について、幅5cm、長さ20cmの試料片各10点を作製した。所定の高温雰囲気下にある定速伸張型引張試験機(東洋ボールドウィン社製 テンシロンUTM−4−1−100)を用い、これに試料片をつかみ間隔10cmで設置し、5分間放置した後に、引張速度20cm/分で伸張し、得られた切断時荷重値[N/5cm幅]についての10点の平均値を高温雰囲気下での引張強力[N/5cm幅]とし、破断時の伸度についての10点の平均値を高温雰囲気下での破断伸度[%]とした。
【0061】
(8)タフト後の引張強力保持率(%):
基布にパイルをタフトした後、タフト後の物性として上記(6)に記載の方法により引張強力を測定し、下記式のように強力保持率を算出した。また、求めた保持率より、強力保持性について、下記3段階で評価を行った。なお、タフト後の染色工程、バッキング工程等において、特にヨコ方向(CD)に強力を要するため、保持率の評価はヨコ方向(CD)のみについて行った。
【0062】
タフト後の引張強力保持率(%)
=タフト後の引張強力/タフト前の引張強力×100
タフト後の引張強力保持性◎:タフト後の強力保持率が120%を超える
タフト後の引張強力保持性○:タフト後の強力保持率が120〜100%
タフト後の引張強力保持性△:タフト後の強力保持率が100%未満
タフトの条件は、次の通りとした。すなわち、1890デシテックス/108フィラメントのナイロン捲縮糸をパイル糸として用い、タフティングマシンにより、ゲージ10本/2.54cm、10ステッチ/2.54cm、パイル高さ5mmとして、パイル糸447g/mの条件にてタフティングを行った。これによって、一次基布にパイルが植設された生機を得て、供試サンプルとした。
【0063】
(9)タフト後の高温での引張強力保持率(%)およびタフト後の高温での引張強力保持性:
基布にパイルをタフトした後、タフト後の物性として上記(6)に記載の方法により引張強力を測定したサンプルと、基布にパイルをタフトした後、130℃の雰囲気で上記(7)に記載の方法により引張強力を測定したサンプルとについて、それらの引張強力を比較し、下記式より高温での引張強力保持率を算出した。また、求めた保持率より、保持性について、下記3段階で評価を行った。
【0064】
タフト後の高温での引張強力保持率(%)
=タフト後の高温での引張強力/タフト後の引張強力×100
タフト後の高温での引張強力保持性◎:タフト後の高温での強力保持率が50%を超える
タフト後の高温での強力保持性○:タフト後の高温での引張強力保持率が30〜50%
タフト後の高温での強力保持性×:タフト後の高温での引張強力保持率が30%未満
タフトの条件は、上記(8)に記載の条件と同様の条件とした。
【0065】
(実施例1)
ポリマーアロイを、次のようにして得た。
すなわち、融点が168℃、MFR値が20g/10分の、L−乳酸/D−乳酸=98.6/1.4モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体(以下、「P1」と略記する)を用意した。
【0066】
また、テレフタル酸成分と、エチレングリコール成分と、1,4−ブタンジオール成分とを含む、相対粘度が1.38、融点が180℃の、日本エステル社製のポリエステル共重合体(以下、「P2」と略記する)を用いた。
【0067】
そして、この「P2」と、上述の「P1」と、相容化剤としてのBASF社製のエポキシ系鎖延長剤、CESA−ADR4368(以下、「C1」と略記する)とを、P1:P2:C1=89.9:10:0.1(質量%)でブレンドし、210℃に温度設定された二軸混練機(日本製鋼所社製、TEX44αII)に供給した。その後、6孔のダイスよりストランドを押し出した。このストランドを引き続き冷却バスで冷却した後、ペレタイザーでカットして、ポリマーアロイを採取した。得られたポリマーアロイのMFR値は、17g/10分であった。
【0068】
さらに、P1をベースにして結晶核剤としてのタルク(TA)を20質量%練り込み含有させたマスターバッチを用意した。
そして、ポリマーアロイの溶融重合体中にタルクが0.5質量%含まれるように、上記したポリマーアロイとマスターバッチとを個別に計量した後に混合して、エクストルーダー型押出機を用いて温度230℃で溶融し、円形断面の口金を有する単相ノズルにて、単孔吐出量1.67g/分の条件で溶融紡糸した。
【0069】
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアサッカーにて牽引速度4600m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させることで、単糸繊度3.6デシテックス、目付60g/mの長繊維不織ウエブを形成した。
【0070】
なお、牽引細化工程での製糸性は良好で、高速紡糸が可能であった。また、得られた不織布を構成する繊維の横断面には、0.001〜0.1μmの範囲のドメインサイズの島成分が存在していた。
【0071】
一方、相対粘度1.38、融点256℃のポリエチレンテレフタレートを、紡糸温度285℃で、丸型の紡糸口金より、単孔吐出量1.67g/分で溶融紡糸した。次に紡出糸条を冷却空気流にて冷却した後、引き続いてエアサッカーにて5000m/分で引き取り、これを公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させることで、単糸繊度3.3デシテックス、目付70g/mのポリエチレンテレフタレートからなる長繊維不織ウエブを得た。
【0072】
ポリエチレンテレフタレートからなる不織ウエブとポリマーアロイからなる不織ウエブを積層し、得られた積層ウエブをエンボスロールと表面平滑な金属ロールとからなる部分熱圧着装置に通し、ロール温度95℃、圧着点密度21.9個/cm、圧接面積率14.9%、線圧294N/cmの条件により仮に部分的に熱圧着して、積層長繊維不織ウエブを得た。
【0073】
次にこの積層長繊維不織ウエブにシリコン系の油剤を0.5質量%付着させ、ニードルパンチ処理にて、ポリエチレンテレフタレートからなる長繊維不織ウエブ層とポリマーアロイからなる長繊維不織ウエブ層との構成繊維同士を三次元交絡させた。この時、ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とを含むポリマーアロイは、ポリ乳酸系重合体の単体と比較してポリエチレンテレフタレートとの相容性が高いために、比較的容易に三次元交絡することができた。
【0074】
ニードルパンチ条件は、針密度45回/cm、針深度12mmとした。この後、アクリル系バインダー樹脂を7質量%付着させて、目付162g/mの、本発明の長繊維不織布を得た。
【0075】
このようにして得られた不織布の物性を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
(実施例2、3、4)
ポリマーアロイからなる長繊維不織ウエブの目付とポリエチレンテレフタレートからなる長繊維不織ウエブの目付とを、表1に示すように変更した。これによって、両者の積層比を表1に示すように変化させた。
【0078】
このようにして得られた不織布の物性を表1に示す。
【0079】
(実施例5)
ポリマーアロイを得るときに、融点が174℃、MFR値が14g/10分の、L−乳酸/D−乳酸=99.6/0.4モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体を用意した。
【0080】
それ以外は実施例1と同様にして、目付165g/mの長繊維不織ウエブを形成した。
そうしたところ、牽引細化工程での製糸性は良好で、高速紡糸が可能であった。また、得られた不織布を構成する繊維の横断面には、0.001〜0.1μmの範囲のドメインサイズの島成分が存在していた。
【0081】
上記以外は実施例1と同様にして、目付161g/mの、本発明の長繊維不織布を得た。
このようにして得られた不織布の物性を表1に示す。
【0082】
(比較例1)
ポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織ウエブのみにて不織布を製造した。すなわち、実施例1と同様に、融点が168℃、MFR値が70g/10分であるL−乳酸/D−乳酸=98.6/1.4モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体を用い、丸型の紡糸口金より、紡糸温度210℃、単孔吐出量1.67g/分で溶融紡糸した。次に紡出糸状を冷却空気流にて冷却した後、引き続いてエアサッカーにて5000m/分で引き取り、これを公知の開繊装置にて開繊して移動するコンベアの捕集面上に堆積することでウエブを形成した。次いでこのウエブをエンボスロールと表面平滑な金属ロールとからなる部分熱圧着装置に通し、ロール温度95℃、圧着点密度21.9個/cm、圧接面積率14.9%、線圧30kg/cmの条件にて仮に部分的に熱圧着し、単糸繊度3.3デシテックスのポリ乳酸系重合体長繊維のみからなる目付130g/mの長繊維不織ウエブを得た。
【0083】
次に、このポリ乳酸系重合体長繊維のみからなる不織ウエブにシリコン系の油剤を0.5質量%付着させ、ニードルパンチ処理にて一体化を行った。ニードルパンチ条件は、針密度45回/cm、針密度12mmとした。この後、アクリル系バインダー樹脂を7質量%付着させて、目付164g/mのポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0084】
このようにして得られた不織布の物性を表1に示す。
【0085】
(比較例2)
比較例1と同じポリ乳酸系重合体を用いて、比較例1と同様の条件によって、ポリ乳酸系重合体からなる目付80g/mの長繊維不織ウエブを得た。一方、実施例1と同様の手法によって、ポリエチレンテレフタレートからなる目付50g/mの長繊維不織ウエブを得た。
【0086】
そして、ポリエチレンテレフタレートからなる不織ウエブとポリ乳酸系重合体からなる不織ウエブとを積層し、得られた積層ウエブに実施例1と同様の処理を施して、積層長繊維不織ウエブを得た。
【0087】
次にこの積層長繊維不織ウエブを用いて、実施例1と同様の処理により両不織ウエブ層の構成繊維同士を三次元交絡させた。これにより、目付162g/mのポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0088】
このようにして得られた不織布の物性を表1に示す。
【0089】
(比較例3)
比較例2に比べて、ポリ乳酸系重合体からなる不織ウエブの目付を70g/mに変更するとともに、ポリエチレンテレフタレートからなる長繊維不織ウエブの目付を60g/mに変更した。それ以外は比較例2と同じとして、目付164g/mのポリ乳酸系長繊維不織布を得た。
【0090】
このようにして得られた不織布の物性を表1に示す。
実施例1〜5のポリ乳酸系長繊維不織布は、実用的な機械的強力を備えたものであり、また比較例1と対比して高温下である130℃での強力低下が少なかった。つまり高温雰囲気下での強力保持率が良好であった。特に高温下である130℃での伸度が高かった。したがって、高温雰囲気下で強力と伸度を必要とする分野、すなわち具体的には熱成型により特定の形に成型する用途に、本発明の不織布を使用することが大いに期待できるものであった。
【0091】
これに対し、比較例1のポリ乳酸系長繊維不織布は、ポリ乳酸系重合体のみからなる繊維によって構成されるものであったため、高温雰囲気下での強力および伸度の低下は極めて大きく、高温雰囲気下での使用が期待できるものではなかった。
【0092】
比較例2、3のポリ乳酸系長繊維不織布は、実施例2、3のポリマーアロイからなる不織ウエブに代えてポリ乳酸系重合体からなる不織ウエブを用い、実施例2、3と同じ目付比で積層したものであったが、これらの比較例2、3と実施例2、3とを比較すると、実施例2、3の方が、高温雰囲気下の強力がタテ方向(MD)、ヨコ方向(TD)共に優れており、特にタテ方向の強力がより向上したものであった。
【0093】
さらに、実施例1〜5、比較例1〜3、参考例1の長繊維不織布にパイル糸をタフトし、カーペット生機を得た。すなわち、1890デシテックス/108フィラメントのナイロン捲縮糸をパイル糸として用い、タフティングマシンにより、ゲージ10本/2.54cm、10ステッチ/2.54cm、パイル高さ5mmとして、パイル糸447g/mの条件にてタフトを行った。実施例1〜3、比較例1〜3の不織布は、問題なくタフトを行うことができた。
【0094】
得られたカーペット生機の特性を表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
実施例1〜5の不織布は、いずれも、タフト後の高温雰囲気下でのタテ方向とヨコ方向の最大引張強力が100N/5cm幅以上であり、また高温雰囲気下でのタテ方向とヨコ方向の破断時の伸度が50%以上であった。すなわち、良好な耐熱性を示すものであった。このため、高温雰囲気下での熱成形性が良好な不織布にて構成されたタフテッドカーペット用一次基布を得ることができた。また、タフト後の引張強力保持率、高温雰囲気下でのタフト後の引張強力保持率も高かった。このため、実施例1〜5の長繊維不織布をタフテッドカーペット用一次基布として用いた場合に、製造しやすく、従来からの素材設計を大きく変更することがなく、したがって自動車用カーペット等の熱成形カーペットの一次基布として好適に使用できるものであった。
【0097】
これに対し、比較例1の不織布は、ポリ乳酸系繊維のみで構成される不織ウエブからなるものであったため、高温雰囲気下での引張強力、伸度ともに、実施例1〜5に比べて低く、耐熱性及び良好な熱成形性を示さず、タフト後強力保持率も低かった。このため、熱成形が必要な用途に使用するのを期待できないものであった。
【0098】
比較例2、3の不織布に関しては、タフト前と同様に、実施例2、3の方が、高温雰囲気下の強力がタテ方向(MD)、ヨコ方向(TD)共に優れており、特にタテ方向の強力がより向上したものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーアロイにて形成された第1の長繊維不織ウエブ層と、芳香族ポリエステル系重合体にて形成された第2の長繊維不織ウエブ層とが積層されるとともに、第1の長繊維不織ウエブ層と第2の長繊維不織ウエブ層との構成繊維同士が三次元交絡により一体化されており、
前記ポリマーアロイは、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体と、融点が160〜230℃の共重合芳香族ポリエステル重合体と、前記ポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体とについての相容化剤とを含有し、
前記ポリマーアロイは、前記ポリ乳酸系重合体が海成分を形成し、前記共重合ポリエステル重合体が島成分を形成した海島構造を呈するとともに、前記島成分のドメインサイズが0.001〜0.1μmの範囲にあることを特徴とする耐熱性不織布。
【請求項2】
共重合芳香族ポリエステル重合体が、テレフタル酸成分と、エチレングリコール成分と、ブタンジオール成分とを含むものであることを特徴とする請求項1記載の耐熱性不織布。
【請求項3】
ポリマーアロイにおけるポリ乳酸系重合体と共重合芳香族ポリエステル重合体との構成比率が、(ポリ乳酸系重合体)/(共重合芳香族ポリエステル重合体)=95/5〜70/30(質量%)であることを特徴とする請求項1または2記載の耐熱性不織布。
【請求項4】
相容化剤が、エポキシ系鎖延長剤と、イソシアネート系鎖延長剤と、カルボジイミド系鎖延長剤と、グリシジルエーテル系鎖延長剤とから選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の耐熱性不織布。
【請求項5】
目付が80〜230g/mであることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の耐熱性不織布。
【請求項6】
構成繊維にバインダーが付着していることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項記載の耐熱性不織布。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の耐熱性不織布にて構成されたタフテッドカーペット用一次基布であって、前記タフテッドカーペット用一次基布にパイル糸をタフトした生機の130℃での引張強力がタテ方向、ヨコ方向ともに50N/5cm幅以上であり、前記生機の130℃での破断時の伸度がタテ方向、ヨコ方向ともに50%以上であることを特徴とするタフテッドカーペット用一次基布。
【請求項8】
請求項7に記載のタフテッドカーペット用一次基布にパイル糸が植設されたものであることを特徴とするタフテッドカーペット。

【公開番号】特開2010−168683(P2010−168683A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11467(P2009−11467)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】