説明

耐熱性共役系ピロール共重合体フィルム及びその製造方法

【課題】従来の導電性高分子物質は、熱などによる導電率の低下が生じ、長期間安定に導電率を維持することが困難であった。特に、ポリピロール系高分子化合物は、酸化され易いために、電気伝導度の減少が著しく、必ずしも十分な性能を有しているとはいえず、改善が求められていた。
【解決手段】ピロール及び下記一般式(1)で表されるホルミル(−CHO)基含有モノマーを、ピロール:ホルミル(−CHO)基含有モノマーのモル比が0.9:0.1〜0.1:0.9、その両者の合計モル量に対して2.5〜5.0倍モル量の酸性触媒の存在下、−10℃〜75℃で反応させて得られる共役系ピロール共重合体のフィルムであって、共重合体の少なくともその構造の一部に下記一般式(2)の構造単位を有することを特徴とする耐熱性共役系ピロール共重合体フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性共役系ピロール共重合体フィルム及びその製造方法に関するものである。
具体的には、ピロールとホルミル基由来の炭素を介した共役系を有することを特徴とする耐熱性共役系ピロール共重合体フィルム及びその製造方法に関するものであり、さらにこの耐熱性共役系ピロール共重合体と電子受容性化合物とを組み合わせた導電性フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム2次電池やセンサーなどの電子部品材料の開発が行われており、機能性高分子材料として、新しい導電性材料、特に種々の有機導電性高分子化合物が開発されている。
【0003】
このような有機導電性高分子化合物としては、これまでポリアセチレン系高分子化合物、ポリフェニレン系高分子化合物、ポリアニリン系高分子化合物、ポリピロール系高分子化合物、ポリチオフェン系高分子化合物、ポリセレノフェン系高分子化合物などが知られている。これらの電子共役系高分子化合物と電子受容性化合物(ドーパント)とを組み合わせ、キャパシタ電極材料、電池電極材料、帯電防止材料等として実用化されている例もある。
【0004】
これらの材料のうち、ポリピロール系高分子化合物とポリチオフェン系高分子化合物は合成が比較的容易であり、それらの高分子は高い電気伝導性と安定性を持つので、合成とその応用に関する研究が多く行われている(特許文献1,2)。
【0005】
前記高分子化合物の合成には、従来、電気化学重合法や化学酸化重合法などが採用されているが、ポリチオフェン系高分子化合物やポリピロール系高分子化合物のような5員環高分子化合物の場合はフィルム状で安定な形で形成されるという利点があるため電気化学重合法による製造方法が有利に採用されている。
【0006】
しかし、電気化学重合法で合成された高分子化合物は薄いフィルム状に形成され、機械強度が低いので、実際に応用するのには多くの制限があり、それらの欠点を改良する方法として、新しい電解質を用いる電気化学重合法も提案されている(特許文献3)。
【0007】
また、化学酸化重合法とは、導電性高分子のモノマーと酸化剤とを混合させることで導電性高分子を得る方法で、酸化剤として、一般に、有機酸等の第二鉄塩を各種の溶媒に溶解させたものが多く用いられている(特許文献2)。
【0008】
しかし、いずれの重合法を採用しても、得られた導電性高分子物質は、熱などによる導電率の低下が生じ、長期間安定に導電率を維持することが困難であった。特に、ポリピロール系高分子化合物は、酸化され易いために、電気伝導度の減少が著しく、また、初期の電気伝導度もチオフェン系高分子化合物などに比べて、それほど高くはないことも知られている。その為、実用化されている例がそれ程多くはないのが現状である。
【0009】
以上のとおり、これらの特許文献に記載された高分子化合物や重合方法は、いずれも電気伝導性や安定性において、必ずしも十分な性能を有しているとはいえず、改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭64−74711号公報
【特許文献2】特開2003−147055号公報
【特許文献3】特開平5−255487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明は、耐熱性を有する新規な共役系ピロール共重合体フィルム及びその製造方法を提供すると同時に、該フィルムと電子受容性化合物と組み合わせ電気伝導度の減少が少なく、また、初期の電気伝導度が高い新規な導電性を有する共役系ピロール共重合体フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、上記課題を解決するために、次の構成1〜8を採用する。
1. ピロール及び下記一般式(1)で表されるホルミル(−CHO)基含有モノマーを、ピロール:ホルミル(−CHO)基含有モノマーのモル比が0.9:0.1〜0.1:0.9、その両者の合計モル量に対して2.5〜5.0倍モル量の酸性触媒の存在下、−10℃〜75℃で反応させて得られる共役系ピロール共重合体のフィルムであって、共重合体の少なくともその構造の一部に下記一般式(2)の構造単位を有することを特徴とする耐熱性共役系ピロール共重合体フィルム。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、R及びRは、各々独立して、水素原子、C1〜6の直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基、水酸基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリハロメチル基、フェニル基若しくは置換フェニル基を表す。XはNH又はO)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R及びR、Xは、前記一般式(1)に同じである。nは1以上の整数)
2.前記ホルミル(−CHO)基含有モノマーが2−ピロールカルボキシアルデヒド(FPy)であり、共重合体の少なくともその構造の一部に下記一般式(3)の構造単位を有することを特徴とする1に記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルム。
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、R及びR、nは、前記一般式(2)に同じである。)
【0019】
3.前記ホルミル(−CHO)基含有モノマーが2−フランカルボキシアルデヒド(FF)であり、共重合体の少なくともその構造の一部に下記一般式(4)の構造単位を有することを特徴とする請求項1に記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルム。
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、R及びR、nは、前記一般式(2)に同じである。)
【0022】
4.上記1〜3のいずれかに記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムに対し、酸化及び化学ドーピングを行なうことにより得られ、その導電率が9.0×10−5S/cm以上であることを特徴とする導電性共役系ピロール共重合体フィルム。
5.耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムの製造方法において、ピロール及びホルミル(−CHO)基含有モノマーをピロール:ホルミル(−CHO)基含有モノマーのモル比が0.9:0.1〜0.1:0.9で溶媒に溶解し、該モノマー混合溶液を成形型内に流延した後、重合触媒として両者の合計モル量に対して2.5〜5.0倍モル量の酸性触媒を型内のモノマー混合溶液中へ滴下し、−10℃〜75℃で15分〜24時間反応させることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムの製造方法。
【0023】
6.前記酸性触媒が、強酸であることを特徴とする上記5に記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムの製造方法。
7.前記強酸が、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリブロモ酢酸又はジフルオロ酢酸から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする上記6に記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムの製造方法。
8.上記1〜3のいずれかに記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムをドーピング剤と共に密閉容器中に3〜10時間置くことにより、酸化及び化学ドーピングを行なうことを特徴とする上記4に記載の導電性共役系ピロール共重合体フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明の新規な耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムは、ピロールとホルミル基との
間で共役系を形成することができ、共重合フィルム自体が半導電性を有している。
また、共重合成分であるホルミル基を有するピロール又はフランの共重合割合を増減することにより、伝導度や耐熱性、柔軟性の異なる共重合体フィルムを提供することができる。
【0025】
さらに、本発明の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムの製造方法は、従来の電気化学重合法や化学酸化重合法とは異なり酸性触媒を使用することにより、室温程度の温度で短時間のうちに耐熱性共重合体フィルムを製造することが可能であり、フィルム化が容易である。そして、得られる共重合体フィルムは滑らかで、フレキシブルな性状を有するものであり、さらに、電子受容性化合物と組み合わせることにより導電性フィルムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】P(Py−co−FPy)フィルム(ドープ前後)の写真である。
【図2】含有FPyの各モル分率におけるP(Py−co−FPy)フィルムの電気伝導度を示すグラフである。
【図3】含有FPyの各モル分率におけるP(Py−co−FPy)の合成収率を示すグラフである。
【図4】含有FPyの各モル分率におけるP(Py−co−FPy)のFT−IRスペクトルを示すグラフである。
【図5】含有FPyの各モル分率におけるP(Py−co−FPy)のUV−Visスペクトルを示すグラフである。
【図6】含有FPyの各モル分率におけるP(Py−co−FPy)のDSC曲線を示すグラフである。
【図7】P(Py−co−FF)フィルムの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用されるピロールは、次の一般式(5)で表される化合物である。
【0028】
【化5】

【0029】
(式中、R及びRは、前記一般式(1)に同じである。)
【0030】
次に、本発明で使用されるホルミル(−CHO)基含有モノマーとしては、一般式(6)で表される2−ピロールカルボキシアルデヒド(FPy)又は一般式(7)で表される2−フランカルボキシアルデヒド(FF)である。
【0031】
【化6】

(式中、R及びRは、前記一般式(1)に同じである。)
【0032】
【化7】

(式中、R及びRは、前記一般式(1)に同じである。)
【0033】
本発明の共重合体フィルムは、ピロールとホルミル(−CHO)基含有モノマーとを溶媒に溶解し成形型内に流延した後、そこに酸触媒を滴下することにより得られる。重合反応は、酸触媒の滴下と同時に始まり、上記ホルミル(−CHO)基含有モノマーが2−ピロールカルボキシアルデヒド(FPy)の場合は、黒緑色の光沢のあるフレキシブルなポリマーフィルムが生成する。
そのポリマーフィルム及びヨウ素ドーピング後の写真を、いずれも図1に示す。
【0034】
得られる共重合体の構造は、共重合モノマーが2−ピロールカルボキシアルデヒド(FPy)の場合は、少なくともその構造の一部に式(3)で示される構造を有するものである。
また、共重合モノマーが2−フランカルボキシアルデヒド(FPy)の場合は、少なくともその構造の一部に式(4)で示される構造を有するものである。
得られた共重合体フィルムが(3)又は(4)の構造を有することは、図4の「含有FPyの各モル分率におけるP(Py−co−FPy)のFT−IRスペクトル」及び表4の「P(Py−co−FPy)のFT−IRスペクトル解析」によって確認されている。
【0035】
【化8】

【0036】
(式中、R及びR2、nは、前記一般式(2)に同じである。)
【0037】
【化9】

【0038】
(式中、R及びR2、nは、前記一般式(1)に同じである。)
【0039】
本願発明のピロール共重合体フィルムは上記式(3)及び(4)で示すように、共重合モノマーとしてホルミル(−CHO)基含有モノマーを使用することにより、共重合体中にホルミル基由来の炭素(−C=CH−C=)を介した共役が形成されていると推測され、そのことが、図2「含有FPyの各モル分率におけるP(Py−co−FPy)フィルムの電気伝導度」において、含有FPyのモル分率の増加に伴う導電率の増大に寄与していると考えられる。
【0040】
上記重合反応で使用する溶媒としては、クロロホルム、トルエン、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が使用できるが、クロロホルム、トルエン等の無極性溶媒以外を用いた場合、得られるフィルムの特性が不十分であり、また溶媒除去が容易であるなどの理由でクロロホルムの使用が好ましい。
【0041】
また、本発明の重合反応で使用する酸触媒としては強酸触媒が使用でき、具体的には、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリブロモ酢酸又はジフルオロ酢酸等の含ハロゲンカルボン酸、塩酸、硫酸、臭化水素酸等が使用できる。
しかし、トリフルオロ酢酸等の含ハロゲンカルボン酸以外を用いた場合、良好な特性を有するフィルム作成の条件設定が難しく、トリフルオロ酢酸の使用が好ましい。
上記触媒は、ピロール及びホルミル(−CHO)基含有モノマーの合計モル量に対して、2.5〜5.0倍モル量使用することが必要であるが、好ましくは3.0〜4.5倍モル量、さらに好ましくは、3.5〜4.0倍モル量である。
【0042】
重合反応は、通常、常圧下で行われる。反応温度としては、−10℃〜75℃であることが好ましく、0〜20℃であることがより好ましい。反応時間は、温度、触媒量、溶媒量などの選択により数分程度から1日程度までの範囲で調節が可能であるが、上記の条件を選択することにより、5分〜15分で完結させることも可能である。
また、得られた耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムをヨウ素などのドーパントと組
み合わせ導電性フィルムとすることができ、ヨウ素の場合は、得られたフィルムをヨウ素と共に密閉容器中に3〜10時間程度、好ましくは5〜7時間程度置き、酸化及び化学ドーピングを行うことにより導電性共役系ピロール共重合体フィルムとすることができる。
得られた導電性共役系ピロール共重合体フィルムの電気伝導度は、Py:FPy=0.5:0.5で得られたフィルムは9.3×10−4S/cm程度の値を示し、この電気伝導度はホルミル(−CHO)基含有モノマーの量やドーパントの種類、量により調節可能であるが、少なくとも9.0×10−5S/cm以上の導電率を有することが確認できた。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルム及びその製造方法について、実施例によりさらに詳細に説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【0044】
(実施例1)
クロロホルム2mlにピロール(Py)100mg(1.5mmol)とピロール−2−カボキシアルデヒド(FPy)143mg(1.5mmol)を溶解させた後、直径7cmの円形の型上に滴下し液面が均一に水平となったところで、室温下でトリフルオロ酢酸(TFA)1.5g(13mmol)を加えた。
【0045】
反応溶液の色が黄色から赤黒い色へ変化し、すぐに反応が開始された。10分程度で光沢のある黒緑色のフィルムが生成した。フィルムを純水、クロロホルム、エタノールで洗浄し、室温で減圧乾燥した後、400mg程度のヨウ素と共に密閉容器中に6時間置き、酸化及び化学ドーピングを行った。
【0046】
得られた青黒色のPyとFPyの共重合体P(Py−co−FPy)フィルム表面をエタノールで洗浄することにより過剰なヨウ素を取り除き、四探針法にて電気伝導度の測定を行ったところ、9.3×10−4S/cm程度の値を示した。生成したP(Py−co−FPy)フィルム(ドープ前後)の写真を図1に示す。
【0047】
(実施例2)
P(Py−co−FPy)フィルムの構造などの知見を得るための実験手法として、表1に記載したように、使用するPyとFPyのモル分率をPy:FPy=1:0(1)、0.9:0.1(2)、0.8:0.2(3)、0.7:0.3(4)、0.6:0.4(5)、0.5:0.5(6)、0.4:0.6(7)、0.3:0.7(8)、0.2:0.8(9)、0.1:0.9(10)、0:1(11)と変化させ実施例1の方法にて生成を行い、電気伝導度を測定した。結果を表2に示し、数値をグラフ化したものを図2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表2、図2に示すようにP(Py−co−FPy)フィルムにおける含有FPyモル分率が増加するにつれて、導電率も増加している。このことから、FPyのホルミル基由来の炭素(−C=CH−C=)を介した共役の成長が考えられ、上記フィルムが共重合体の少なくともその構造の一部に一般式(3)の構造を有していることを裏付けている。
また、表2及び図3に示すように、(11)のモル分率(FPyのみ)ではフィルムの生成は見られなかった。
【0051】
また、それぞれのモル分率における化学ドーピング前のP(Py−co−FPy)フィルムを乳鉢にて細かく粉砕し、クロロホルム、アセトンにて未反応物を洗浄し、トリエチルアミン水溶液中で10分洗浄しTFAを取り除いた。
次いで、2N−塩酸水溶液中で10分洗浄し塩基性側から酸性側に傾けた。得られた粉
末を室温で減圧乾燥した後、合成収率算出及びFT−IR測定を行い、化学ドーピング後についてもFT−IR測定を行った。
その結果を表3、図3及び図4に示す。
【0052】
(1)〜(11)の条件におけるそれぞれのモル分率を用いたP(Py−co−FPy)の収量及び収率を表3に、FPyモル分率と合成収率の関係をグラフ化したものを図3に示す。
FPyモル分率の増加につれて収率は減少し、また前述したように(11)(FPyのみ)では重合反応が見られないことから、Pyが本重合反応に必須であることが分かる。
【0053】
【表3】

【0054】
図4に各モル分率((1)、(4)、(6)、(10))におけるヨウ素ドープ前後のP(Py−co−FPy)のFT−IRチャート、表4にその解析結果を示す。図4より、各モル分率の変化とともに構造も変化していることがわかる。さらに、ヨウ素ドープすることによりピロール環由来のN−H伸縮振動のピークが減少しており、共役が成長していると考えられる。また、1510cm−1にピロール環由来、1475cm−1にピロール環同士をつなぐメチン基(−C=CH−C=)由来のC=C伸縮振動のピークが見られる。
【0055】
【表4】

【0056】
図5に条件(6)Py:FPy=0.5:0.5で生成したP(Py−co−FPy)のヨウ素ドープ前後のUV−Visスペクトルを示す。極大吸収波長は510nmであり、ヨウ素ドープ後(b)に見られる300nm、380nmのピークはヨウ素由来のものである。
図6に(1)、(2)、(4)、(6)、(10)におけるP(Py−co−FPy)のDSC曲線を示す。それぞれの比率により熱分解温度の変化が見られ、FPyの含有率が高いほど熱分解温度が高く、耐熱性があることがわかる。
【0057】
(実施例3)
クロロホルム2mlにピロール(Py)100mg(1.5mmol)とフラン−2−カボキシアルデヒド(FF)145mg(1.5mmol)を溶解させた後、直径7cmの円形の型上に滴下し液面が均一に水平となったところで、室温下でトリフルオロ酢酸(TFA)1.5g(13mmol)を加えた。
反応溶液の色が黄色から黒色へ変化し、すぐに反応が開始した。10分程度で光沢のある黒色のフィルムが生成した。フィルムを純水、クロロホルム、エタノールで洗浄し、室温で減圧乾燥した後、400mg程度のヨウ素と共に密閉容器中に6時間置き、酸化及び化学ドーピングを行った。
【0058】
得られた青黒色のPyとFFの共重合体P(Py−co−FF)フィルム表面をエタノールで洗浄することにより過剰なヨウ素を取り除き、四探針法にて電気伝導率の測定を行ったところ、8.5×10−5S/cm程度の値を示した。生成したP(Py−co−FF)フィルムの写真を図7に示す。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムは優れた耐熱性を有する新規なフィルムであり、また、導電性材料としても新規であり、機械的物性、導電状態における安定性も良好なフィルムなので、電極材料、成形材料などの多様な製品の製造に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロール及び下記一般式(1)で表されるホルミル(−CHO)基含有モノマーを、ピロール:ホルミル(−CHO)基含有モノマーのモル比が0.9:0.1〜0.1:0.9、その両者の合計モル量に対して2.5〜5.0倍モル量の酸性触媒の存在下、−10℃〜75℃で反応させて得られる共役系ピロール共重合体のフィルムであって、共重合体の少なくともその構造の一部に下記一般式(2)の構造単位を有することを特徴とする耐熱性共役系ピロール共重合体フィルム。
【化1】

(式中、R及びRは、各々独立して、水素原子、C1〜6の直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基、水酸基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリハロメチル基、フェニル基若しくは置換フェニル基を表す。XはNH又はO)
【化2】

(式中、R及びR、Xは、前記一般式(1)に同じである。nは1以上の整数)
【請求項2】
前記ホルミル(−CHO)基含有モノマーが2−ピロールカルボキシアルデヒド(FPy)であり、共重合体の少なくともその構造の一部に下記一般式(3)の構造単位を有することを特徴とする請求項1に記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルム。
【化3】

(式中、R及びR、nは、前記一般式(2)に同じである。)
【請求項3】
前記ホルミル(−CHO)基含有モノマーが2−フランカルボキシアルデヒド(FF)であり、共重合体の少なくともその構造の一部に下記一般式(4)の構造単位を有することを特徴とする請求項1に記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルム。
【化4】

(式中、R及びR、nは、前記一般式(2)に同じである。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムに対し、酸化及び化学ドーピングを行なうことにより得られ、その導電率が9.0×10−5S/cm以上であることを特徴とする導電性共役系ピロール共重合体フィルム。
【請求項5】
耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムの製造方法において、ピロール及びホルミル(−CHO)基含有モノマーをピロール:ホルミル(−CHO)基含有モノマーのモル比が0.9:0.1〜0.1:0.9で溶媒に溶解し、該モノマー混合溶液を成形型内に流延した後、重合触媒として両者の合計モル量に対して2.5〜5.0倍モル量の酸性触媒を型内のモノマー混合溶液中へ滴下し、−10℃〜75℃で15分〜24時間反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記酸性触媒が、強酸であることを特徴とする請求項5に記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記強酸が、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリブロモ酢酸又はジフルオロ酢酸から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項6に記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱性共役系ピロール共重合体フィルムをドーピング剤と共に密閉容器中に3〜10時間置くことにより、酸化及び化学ドーピングを行なうことを特徴とする請求項4に記載の導電性共役系ピロール共重合体フィルムの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−42738(P2011−42738A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191526(P2009−191526)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】