説明

耐熱性絶縁樹脂の金属めっき方法

【課題】環境負荷が小さく、工程数が短く、コストを低減可能とする、ポリイミド樹脂等の耐熱性絶縁樹脂の所望の部位に金属層を形成させる方法を提供すること。
【解決手段】 次の工程(a)〜(d)
(a)耐熱性絶縁樹脂の所望の部位に波長300nm以下の紫外線を照射する工程
(b)ノニオン系および/またはアニオン系界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬
する工程
(c)酸性コロイド触媒溶液に浸漬する工程
(d)金属めっきを施す工程
を含むことを特徴とする耐熱性絶縁樹脂の所望の部位への金属めっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性絶縁樹脂の金属めっき方法に関し、更に詳細には耐熱性絶縁樹脂の所望の部位に金属めっきを施すことのできる金属めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高速化により、フレキシブルプリント基板材料として、誘電率が小さく、絶縁抵抗値が高く、さらには耐熱性が良好なポリイミド樹脂フィルムが汎用されている。
【0003】
一般的にフレキシブルプリント基板は、ポリイミド樹脂フィルムの少なくとも片面に導電層として主に銅を被覆した基板が使用されている。この様なフレキシブルプリント基板は、従来はポリイミド樹脂フィルムと銅箔とを接着剤を介して接合したラミネート法による3層基材が用いられてきたが、接着剤が基板の絶縁性、耐熱性に悪影響を与えるため、最近では、ポリイミド樹脂フィルム上へ直接金属層を形成した2層基材が用いられてきている。そして、このようなポリイミド樹脂フィルム上に金属層を形成した2層基材の作製には乾式法や湿式法が用いられている。
【0004】
上記2層基材の作成における乾式法としては、金属層をポリイミド樹脂フィルム上に形成するスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法や金属箔にポリイミド樹脂を成膜するキャスティング法が挙げられる。
【0005】
一方、湿式法としては、無電解めっきおよび電気めっきを利用する方法が挙げられる。具体的には、ポリイミド樹脂フィルム表面をヒドラジンとアルカリ金属水酸化物の混合水溶液を用いて親水化した後、ニッケルやコバルト等を無電解めっきし、450℃程度の高温で熱処理した後、電気銅めっきする方法が報告されている(特許文献1)。
【0006】
また、湿式法によるめっきに先立ち、ポリイミド樹脂フィルム表面を短波長紫外線処理した後、当該処理表面を、アルカリ金属水酸化物を用いて活性化することにより、銅の接着力等が増強されることも報告されている(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、従来の乾式法や湿式法によりポリイミド樹脂フィルム上に金属層を形成して2層基材を作製する場合、片面側のみに金属層を形成させるには次のような問題点がある。例えば、乾式法を用いた場合には、片面側に金属層を形成することは容易であるが、装置が大型化し、コストがかかる。一方、上記のような湿式法では、毒性の高いヒドラジンを使用することや、高温処理が必要なため環境負荷が高く、更に、片面側のみに金属層を形成するためにはめっきの不必要な側への金属の析出を防止するためマスキング工程およびマスク除去工程が必要となり、工程が多くなる。
【0008】
【特許文献1】特開平5−114779号公報
【特許文献2】特開2004−186661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、上記技術の問題点を解決することのできる、環境負荷が小さく、工程数が短く、コストを低減可能とする、ポリイミド樹脂等の耐熱性絶縁樹脂の所望の部位に金属層を形成させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは上記課題を達成するために、鋭意研究を行った結果、耐熱性絶縁樹脂の所望の部位に波長300nm以下の紫外線を照射し、次いで、ノニオン系および/またはアニオン系界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬し、更に、酸性コロイド触媒溶液に浸漬することにより、耐熱性絶縁樹脂の所望の部位に金属めっきができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は 次の工程(a)〜(d)
(a)耐熱性絶縁樹脂の所望の部位に波長300nm以下の紫外線を照射する工程
(b)ノニオン系および/またはアニオン系界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬
する工程
(c)酸性コロイド触媒溶液に浸漬する工程
(d)金属めっきを施す工程
を含むことを特徴とする耐熱性絶縁樹脂の所望の部位への金属めっき方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は上記金属めっき方法により得られる表面の所望の部位に金属めっきが施された耐熱性絶縁樹脂を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属めっき方法によれば、耐熱性絶縁樹脂の所望の部位のみに金属めっきを施すことができるので、例えば、片面のみや、表面上に所定のパターンでのめっきが要求されるフレキシブルプリント配線板等の製造に好適に用いることができる。
【0014】
また、本発明の金属めっき方法は、従来法と比べてマスキングや高温の熱処理を必要とせず、かつ、環境負荷の高い物質を用いることがないことから、金属めっきにかかるコストも低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の金属めっき方法で被めっき物となる耐熱性絶縁樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリアミド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド等の紫外線照射工程によって、樹脂の一部が破壊され、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基等の親水性基が生成される樹脂が挙げられる。これらの耐熱性絶縁樹脂の中でも、耐熱性、電気的、機械的および化学的特性に優れたポリイミド樹脂が好ましい。また、これらの樹脂の形態も特に限定されるものではないが、フレキシブルプリント配線板の製造に用いられるフィルム状のものが好ましい。
【0016】
上記耐熱性絶縁樹脂は、次の工程(a)〜(d)で処理することにより所望の部位への金属めっきをすることができる。以下に、各工程を詳細に説明する。
(a)耐熱性絶縁樹脂の所望の部位に波長300nm以下の紫外線を照射する工程
(b)ノニオン系および/またはアニオン系界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬
する工程
(c)酸性コロイド触媒溶液に浸漬する工程
(d)金属めっきを施す工程
【0017】
工程(a)の耐熱性絶縁樹脂の所望の部位に波長300nm以下の紫外線を照射する工程(以下、「紫外線照射工程」という)は、紫外線の光源として低圧水銀ランプやエキシマランプを用い、紫外線を耐熱性絶縁樹脂の所望の部位に照射することにより行われる。この紫外線照射工程により耐熱性絶縁樹脂の表面分子が切断され、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基等の親水性基が生成される。上記紫外線照射工程においては、波長180〜290nmで、その強度が5mW/cm以上の紫外線を照射することが好ましく、特に波長が254nmで、その強度が10mW/cm以上の紫外線を照射することが好ましい。
【0018】
上記工程(a)を施した耐熱性絶縁樹脂は、次に、工程(b)のノニオン系および/またはアニオン系界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬する工程(以下、「アルカリ処理工程」という)に付される。前記ノニオン系および/またはアニオン系界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤またはポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンドデシルエーテル等のノニオン系界面活性剤が挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。これらの界面活性剤の中でもアニオン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤としてカチオン系界面活性剤が好ましくない理由は、これを用いると絶縁樹脂の紫外線非照射面にも触媒が吸着しやすくなり、両面に無電解めっきされるため、マスキングを用いずに片面側のみをめっきするのが困難となるためである。
【0019】
また、前記界面活性剤を含有するアルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ成分で、pH8以上、好ましくはpH10〜14に調整されたものが好ましい。アルカリ溶液のpHが8未満であると触媒吸着量が低下して後の無電解めっきが困難になることがあるため好ましくない。
【0020】
このようにアルカリ処理工程を経た耐熱性絶縁樹脂の表面粗さ(Ra)は紫外線照射前と比較して2倍以上、好ましくは3〜10倍に増大するので触媒吸着量および銅めっき層の密着性が向上する。なお、本発明において表面粗さとはJIS B0601に記載の算術平均粗さのことをいう。
【0021】
上記工程(b)で処理された耐熱性絶縁樹脂は、更に、工程(c)の酸性コロイド触媒溶液に浸漬する工程(以下、「触媒吸着工程」という)に付される。前記酸性コロイド触媒溶液としては、スズ−パラジウム、スズ−ロジウム、スズ−ルテニウム、スズ−白金、スズ−銀、スズ−ニッケル、スズ−銅、スズ−コバルト等を含有したものが挙げられる。触媒としてアルカリ性の触媒溶液を用いた場合には、紫外線の照射面(所望の部位)以外にも触媒が吸着し、めっきされてしまうので好ましくない。この触媒吸着工程における触媒の吸着は処理温度20〜40℃、処理時間1〜10分の条件で行えば良い。
【0022】
上記工程(c)を施した耐熱性絶縁樹脂は、必要により、活性化処理を施した後、工程(d)として金属めっきが行われる。この活性化処理において使用される活性化処理液としては、特に限定されるものではなく、通常の活性化処理に用いられる塩酸溶液や硫酸溶液が挙げられる。また、活性化に、ヒドラジン、塩化スズ、ホルマリン、次亜リン酸ナトリウム、水酸化ホウ素化合物、アミンボラン化合物を使用しても良い。
【0023】
また、工程(d)の金属めっき工程(以下、「金属めっき工程」という)では、まず、無電解めっきを行い、次いで電気めっきを行うことが好ましいが、無電解めっきだけであっても良い。めっきされる金属としては、特に限定されるものではなく、ニッケル、コバルト、銅等が挙げられる。また、めっき条件も、めっきする金属および膜厚に応じて適宜決定すればよい。例えば、フレキシブルプリント配線を製造するための金属めっき工程であれば、無電解ニッケルめっきを0.05〜0.3μm、電気銅めっきを5〜35μm程度の膜厚となるような条件で行えばよい。
【0024】
本発明の金属めっき方法には、その効果を損なわない程度で、適宜、乾燥等の工程を追加することができる。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明の実施例および比較例によって、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
実 施 例 1
10×10cmのポリイミド樹脂フィルム(カプトン100EN:東レデュポン社製)を紫外線照射装置(センエンジニアリング社製)にセットし、ポリイミド樹脂フィルムの被めっき面の上部より紫外線(波長254nm、紫外線強度20mW/cm)を60秒間照射した。
【0027】
次に、ドデシル硫酸ナトリウムを0.5g/L、水酸化ナトリウムを50g/L含む混合水溶液(pH13)を50℃に加熱し、そこへ紫外線照射したポリイミド樹脂フィルムを3分間浸漬した後、十分に水洗した。これらの処理によりポリイミド樹脂フィルムの表面粗さ(Ra)は、紫外線照射前の0.9692nmから3.282nmに増大した。なお、表面粗さはプローブ顕微鏡(SPA−400:エスエスアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて測定した。
【0028】
つづいて、これを、25℃のスズ−パラジウム混合触媒溶液(PB−318:荏原ユージライト社製)で5分間触媒化処理をした後、同じく25℃の活性化処理液(PB−445:荏原ユージライト社製)を用いて5分間活性化処理を行った。
【0029】
更に、これを無電解ニッケルめっき浴(エニレックスNI−100:荏原ユージライト社製)により、35℃で2分間処理を行い、膜厚0.1μmのニッケル層を形成した。つづいて、乾燥機を用いて80℃で15分間乾燥させた後、硫酸銅75g/L、硫酸180g/L、塩酸40mg/L、光沢剤(キューブライト21MU:荏原ユージライト社製)5ml/Lの硫酸銅めっき浴を用いて25℃、2A/dmで50分間電気めっきを行い、上記ニッケル層上に20μmの銅層を形成し、フレキシブルプリント基板を作製した。
【0030】
実 施 例 2
上記実施例1において波長254nmの紫外線強度を10mW/cmとして紫外線照射を行ったこと以外は実施例1と同様にフレキシブルプリント基板を作製した。
【0031】
実 施 例 3
上記実施例1において波長254nmの紫外線強度を5mW/cmとして紫外線照射を行ったこと以外は実施例1と同様にフレキシブルプリント基板を作製した。
【0032】
実 施 例 4
上記実施例1においてドデシル硫酸ナトリウムをノニオン系界面活性剤であるポリエチレングリコール(分子量1000)を同量用いたこと以外は実施例1と同様にフレキシブルプリント基板を作製した。
【0033】
比 較 例 1
上記実施例1において紫外線照射を行わなかったこと以外は実施例1と同様にポリイミド樹脂フィルムを処理した。
しかし、本比較例では無電解ニッケルめっきの成膜は認められず、したがって電気銅めっきはできなかった。
【0034】
比 較 例 2
上記実施例1においてドデシル硫酸ナトリウムをカチオン系界面活性剤である塩化ドデシルトリメチルアンモニウムを同量用いたこと以外は実施例1と同様にポリイミド樹脂フィルムを処理した。
しかし、本比較例では無電解ニッケルめっきの成膜がポリイミド樹脂フィルムの両面、すなわち紫外線非照射面にも認められた。
【0035】
比 較 例 3
上記実施例においてドデシル硫酸ナトリウム0.5g/Lのみを用い、アルカリ成分を含まない水溶液(pH6)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミド樹脂フィルムを処理した。
しかし、本比較例では無電解ニッケルめっきの成膜は認められず、したがって電気銅めっきではなかった。
【0036】
比 較 例 4
上記実施例1においてスズ−パラジウム混合触媒溶液の代わりに、アルカリイオン触媒(ActivatorPC−65H(処理条件:50℃、5分):荏原ユージライト社製)を使用し、活性化処理液(PB−445:荏原ユージライト社製)での活性化処理の代わりに還元処理液(AcceleratorPC−66H(処理条件:35℃、5分):荏原ユージライト社製)で活性化処理したこと以外は実施例1と同様にポリイミド樹脂フィルムを処理した。
しかし、本比較例では無電解ニッケルめっきの成膜がポリイミド樹脂フィルムの両面、すなわち紫外線非照射面にも認められた。
【0037】
試 験 例 1
密着強度試験:
実施例1〜4および比較例1〜4のフレキシブルプリント基板について、めっきの析出状態を下記の評価基準で評価した。また、めっきが析出したものについては、銅めっき層に耐熱性絶縁樹脂まで達する切込みを1cm幅で入れ、引っ張り試験機にて銅めっき層の密着力を測定した。これら結果を表1に示した。
【0038】
<めっき析出状態の評価基準>
(評価) (内容)
○ : 片面にのみめっきされている
△ : 両面にめっきされている
× : めっきがされてない
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の金属めっき方法は、耐熱性絶縁樹脂の所望の部位に金属めっきを行うことができるため、特にフレキシブルプリント配線板の製造に好適である。
以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(a)〜(d)
(a)耐熱性絶縁樹脂の所望の部位に波長300nm以下の紫外線を照射する工程
(b)ノニオン系および/またはアニオン系界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬
する工程
(c)酸性コロイド触媒溶液に浸漬する工程
(d)金属めっきを施す工程
を含むことを特徴とする耐熱性絶縁樹脂の所望の部位への金属めっき方法。
【請求項2】
工程(a)に記載の波長300nm以下の紫外線が、波長180〜290nmで、その強度が5mW/cm以上の紫外線である請求項第1項記載の金属めっき方法。
【請求項3】
工程(b)に記載のアルカリ溶液のpHが8以上である請求項第1項または第2項記載の金属めっき方法。
【請求項4】
耐熱性絶縁樹脂が、ポリイミド樹脂である請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載の金属めっき方法。
【請求項5】
請求項第1項ないし第4項の何れかの金属めっき方法により得られる表面の所望の部位に金属めっきが施された耐熱性絶縁樹脂。


【公開番号】特開2006−219715(P2006−219715A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33164(P2005−33164)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000120386)荏原ユージライト株式会社 (48)
【Fターム(参考)】