説明

耐熱衝撃性電磁波シールド材およびその製造方法

【課題】電磁波シールド効果に優れ、しかも耐熱衝撃性に優れた電磁波シールド材を提供すること。
【解決手段】 ガラス又はセラミックスをマトリックスとし、複合相が不定形扁平状延性金属片と当該不定形扁平状延性金属片の厚みより少なくとも一桁径の小さな金属粒子とにより構成される耐熱衝撃性電磁波シールド材である。複合相を構成する金属は、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Fe、Ni、Co、Cu、Al、Mg、Zn及びそれらの合金、ステンレス鋼、パーマロイ及び超耐熱合金から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱衝撃性電磁波シールド材およびその製造方法に関し、特に、不定形扁平状延性金属片と極微小な金属粒子を複合相とする電磁波シールド材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の電子機器を外部からの電磁波障害から保護するため、あるいは電磁波発生源として周辺機器への障害を防止するために、電磁波シールド材料の開発が進められている。このような電磁波シールド材料としては、樹脂中に金属粉末やCuなどの金属繊維、炭素繊維あるいはガラス繊維に金属メッキしたフィラーを分散させたものが知られている。この他、樹脂の表面に金属粉末などを含んだ導電性の塗料を塗布したものも知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−74298号
【特許文献2】特許第3620104号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
これらのシールド材料は、そのシールド効果は十分ではなく、また曲げ強度等の機械的特性も劣っているという実情がある。これらの欠点を補うべく、特開平9−74298では電磁波シールド効果と機械的性質とを改善する技術が開示されている。すなわち、複合相の金属粒子として粒状金属を用いて粒子分散効果により高強度化を図り、また、扁平状の延性金属粒子により電磁波シールド材の機械的特性を改善している。
【0005】
しかしながら、近年の高度情報化社会の発展に伴って、デジタル技術を利用した電子機器が過酷な熱環境にも多く使われるようになり、電磁波シールド材の劣化が問題となってきている。この結果、耐熱衝撃性に優れる電磁波シールド材の開発が望まれている。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、電磁波シールド効果に優れ、しかも耐熱衝撃性に優れた電磁波シールド材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材は、ガラス又はセラミックスをマトリックスとし、複合相が不定形扁平状延性金属片と当該不定形扁平状延性金属片の厚みより少なくとも一桁径の小さな金属粒子とにより構成される。
【0008】
また、請求項2に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材は、請求項1に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材において、複合相を構成する金属が、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Fe、Ni、Co、Cu、Al、Mg、Zn及びそれらの合金、ステンレス鋼、パーマロイ及び超耐熱合金から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材は、請求項1または2に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材において、金属粒子の径が1000nm以下であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材は、請求項1、2または3に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材において、複合相として、さらに、セラミックス粒子、セラミックスウイスカー、または無機質短繊維を含むことを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材において、複合相の体積率が、2vol%〜60vol%であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材製造方法は、金属粉末と、ガラス粉末またはセラミックス粉末とを、ミルにより混合して、金属粉末を扁平金属片に延性しつつその一部が当該扁平金属片の厚みより少なくとも一桁径の小さな金属粒子として分離するように制御し、その後この混合粉末を焼結することを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材製造方法は、請求項6に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材製造方法において、金属粉末が、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Fe、Ni、Co、Cu、Al、Mg、Zn及びそれらの合金、ステンレス鋼、パーマロイ及び超耐熱合金から選ばれる少なくとも一種の粉末であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項8に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材製造方法は、請求項6または7に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材製造方法において、金属粒子の径が1000nm以下となるように制御することを特徴とする。
【0015】
また、請求項9に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材製造方法は、請求項6、7または8に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材製造方法において、金属粉末の体積率が、2vol%〜60vol%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電磁波シールド効果に優れ、しかも耐熱衝撃性に優れた電磁波シールド材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明は、マトリックスと複合相からなり、マトリックスとしては、ガラス又はセラミックスを用いることができる。マトリックスを構成するガラスとしては、特に制限はなく、例えば、結晶化ガラス、汎用ガラス等の酸化物系ガラスや非酸化物系ガラスから選ばれる一種又は二種以上のガラスを用いることができる。
【0018】
具体的には、結晶化ガラスとしては、LAS I(LiO−Al−SiO−MgO系)、LAS II,III(LiO−Al−SiO−MgO−Nb系)、MAS(MgO−Al−SiO系)、BMAS(BaO−MgO−Al−SiO系)、Ternary mullite(BaO−Al−SiO系)、Hexacelsian(BaO−Al−SiO系)や、LiO−Al−SiO系、NaO−Al−SiO系、NaO−CaO−MgO−SiO系、PbO−ZnO−B系、ZnO−B−SiO系、ZrO−SiO系、CaO−Y−Al−SiO系、CaO−Al−SiO系、MgO−CaO−Al−SiO系、SiO−B−Al−MgO−KO−F系等を挙げることができる。
【0019】
汎用ガラスとしては、ケイ酸ガラス(SiO系)、ソーダ石灰ガラス(NaO−CaO−SiO系)、カリ石灰ガラス(KO−CaO−SiO系)、ホウケイ酸ガラス(NaO−B−SiO系)、アルミノケイ酸ガラス(Al−MgO−CaO−SiO系)、鉛ガラス(KO−PbO−SiO系)、バリウムガラス(BaO−SiO−B系)等を挙げることができる。
【0020】
また、低融点ガラスとして、鉛ケイ酸塩ガラス(PbO−SiO系、PbO−B−SiO系等)、ほう酸塩ガラス(B系、LiO−B系、NaO−B系等)、りん酸塩ガラス(NaO−P系、B−P系等)やAl−LiO−NaO−KO−P系等を挙げることができる。
【0021】
さらに、近年、開発が進められているY−Al−SiO系ガラス、オキシナイトライドガラス(La−Si−O−N系、Ca−Al−Si−O−N系、Y−Al−Si−O−N系、Na−Si−O−N系、Na−La−Si−O−N系、Mg−Al−Si−O−N系、Si−O−N系、Li−K−Al−Si−O−N系)や熱膨張率の小さいTiO−SiO系、CuO−Al−SiO系等を挙げることができる。また、非酸化物系ガラスとしては、ふっ化物系ガラスやカルコゲン系ガラスを用いることができる。
【0022】
一方、マトリックスをセラミックスとする場合は、Al、ZrO、MgO、ムライト、MgO/Al,Al/Y等を挙げることができる。
【0023】
また、複合相の金属(不定形扁平状延性金属片および金属粒子)としては、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Fe、Ni、Co、Cu、Al、Mg、Zn及びそれらの合金、ステンレス鋼、パーマロイ及び超耐熱合金から選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。特に、金属としてFe、Ni、Co及びそれらの合金の少なくとも一種を選択した場合には、磁場におけるシールド効果が特に優れた材料が得られることとなる。なお、金属粒子(粒状金属)と不定形扁平状延性金属片の金属種は同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
マトリックスと金属との関係においては、マトリックスの焼結可能温度より金属の融点が高い組み合わせとなるようにすることが必要である。マトリックスがガラスの場合、例えば、ケイ酸ガラス系やTiO−SiO系の場合には、焼結温度が1600℃以上になるため、それより高い融点を持つ金属であるV、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W及びそれらの合金を用いることが好ましい。
【0025】
また、オキシナイトライドガラスの焼結温度、及びPbO−ZnO−B系を除く結晶化ガラスの焼結温度と結晶化温度は、およそ700℃〜1300℃であるため、さらにTi、Fe、Ni、Co及びそれらの合金、ステンレス鋼、パーマロイ、超耐熱合金も使用可能となる。
【0026】
汎用ガラスの場合には、焼結温度がおよそ600℃〜1000℃であるため、上記の他にCuも使用することができる。PbO−ZnO−B系結晶化ガラスと低融点ガラスでは焼結温度がおよそ200℃〜600℃であるため、さらにAl、Mg、Zn及びそれらの合金を使用することもできる。
【0027】
一方、セラミックスをマトリックスとする場合は、例えば、Alの場合には、一般的な粉末では焼結温度が1600℃であるため、それより高い融点を持つ金属であるV、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wを用いることが好ましい。また、低温度焼結タイプ(例えば、タイミクロンTM−DAR;大明化学工業株式会社製)では、焼結温度が1200℃となるため、さらにTi、Fe、Ni、Co、ステンレス鋼、超耐熱合金も使用することができる。さらに、Alにガラス相を加えていくと焼結温度を約900℃まで下げることができるので、Cuも使用することができる。また、ZrO(焼結温度>1800℃)とMgO(焼結温度>1400℃)の場合には、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Fe、Ni、Co、ステンレス鋼、超耐熱合金を用いることができる。ムライト(焼結温度>1500℃)の場合には、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Feを用いることができる。
【0028】
本発明においては、ガラス又はセラミックスのマトリックスに、複合相として金属粒子を含ませることにより、体積抵抗率(電気抵抗率)が低下すると共に、電磁波シールド効果が向上する。また、複合相として不定形偏平状延性金属片を含ませ、これを分散させることにより、破壊時に亀裂先端で塑性変形が生じ、シールド材全体としてはその強度および靭性の向上を図ることができる。
【0029】
金属粒子の径としては、1000nm以下の極微小な金属粒子が好ましく、特に40nm〜400nmであることが望ましい。金属粒子のサイズが1000nm以上に大きくなると粒子分散強化効果が十分発揮されず、強度向上が期待できない。反対に、金属粒子のサイズが小さ過ぎる場合にも強度向上が不十分となる。耐熱衝撃性電磁波シールド材として考えた場合、金属粒子のサイズがおおよそ40nm〜400nmの範囲が望ましい強度範囲となる。金属粒子の体積率は0.01vol%〜15vol%、特に、0.05vol%〜10vol%であることが好ましい。0.01vol%以下の場合は、添加による十分な強度の向上が得られず、15vol%よりも多くなると金属粒子の分散性が悪くなる結果強度の向上が頭打ちとなる。
【0030】
不定形扁平状延性金属片に関しては、扁平面の最小径をd、厚さをtとしたときにd/t≧3であることが望ましい。d/tが3未満の場合には、亀裂が金属粒子とマトリックスとの界面を進行しやすくなるため金属相の塑性変形を十分に利用できなくなるので好ましくない。d及びtの範囲としては特に制限はないが、d/t≧3の関係を満足していることが好ましい。
【0031】
また、不定形扁平延性金属片と金属粒子との関係は、不定形扁平状延性金属片の厚みより金属粒子の径が少なくとも一桁小さなものであることが好ましい。不定形扁平延性金属片は主として電磁波シールド特性の改善に、金属粒子は主として強度の改善のために複合化されるので、両者の金属の径が同レベルであると、強度向上の効果が十分ではなく、耐熱衝撃性と電磁波シールド特性に優れた複合材を製造できない。いずれの複合相もマトリックス中に均一分散させるためには両者の径が同レベルではなく、少なくとも一桁以上異なることが必要となる。
【0032】
なお、複合相全体の体積率は2vol%〜60vol%、特に10vol%〜50vol%であることが好ましい。複合相の体積率が2vol%よりも低い場合には、十分な導電性が得られないためシールド効果が不十分となる。また、強度および破壊の抵抗の向上という観点においても2vol%より低い場合には、その効果が十分ではなく、耐熱衝撃性は改善されない。一方、複合相の体積率が60vol%よりも多くなると、複合体の密度が大きく実用的でない。
【0033】
<製造方法>
本発明の耐熱衝撃電磁波シールド材は、金属粉末とガラス粉末またはセラミックス粉末とを混合し、このとき、ボールミル等を用いて金属粉末を扁平金属片に延性しつつ金属粒子が一部生成されるようにし、最後にその混合粉末を焼結して製造できる。より具体的には、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0034】
まず、金属粉末表面にガラス粉末又はセラミックス粉末が付着した複合粉末を製造する。このような複合粉末は、金属粉末と、ガラス粉末又はセラミックス粉末と、を混合することにより製造できる。不定形偏平状延性金属片は、金属粉末の混合中に塑性変形により扁平化させることにより得られる。この混合過程で、極微小な金属粒子も生成され、これらの金属がガラス粉末又はセラミックス粉末の表面に付着する。
【0035】
ガラス粉末の粒度は、特に制限はないが、50μm以下のものが望ましい。セラミックス粉末の粒度も特に制限はないが、焼結性のよい平均粒径1μm以下のものが望ましい。また、金属粉末の粒子径は、混合する際の形状が球状である場合には、機械的性質を維持する点から150μm以下、特に100μm以下のものが望ましく、扁平化を容易に促進する観点からは、1μm〜200μm、特に3μm〜100μmの範囲であることが好ましい。延性金属粉末の粒子径が1μmよりも小さいと、超微粒のため扁平化させることが困難となる。また、200μmよりも大きくなると、粗粒のため焼結を困難にし、またガラス粉末又はセラミックス粉末との分離が激しくなるため、均一混合が困難となる。金属粉末とガラス粉末又はセラミックス粉末の混合割合は、混合粉末における金属粉末の体積率が2vol%〜60vol%、特に10vol%〜50vol%であることが好ましい。
【0036】
金属粉末とガラス粉末又はセラミックス粉末との混合方法については、特に制限はなく湿式及び乾式のいずれも採用できる。湿式混合の場合の溶媒としてはエ夕ノール、メ夕ノール等が一般に使用される。混合装置については、ボールミル、振動ミル、アトライター、遊星型ボールミル等を用いることができる。金属粉末は、混合時のボール等の混合媒体による機械的混合により球状から扁平状へと変形が進む。したがって、混合条件の制御により扁平化の程度を調整でき、球状から扁平状までの状態選択が可能となる。
【0037】
一般に、混合時間、回転数等の条件により変形量は変わってくるので、扁平とするときはこれらの条件を制御し、形状がd/t≧3を満足するようにすることが望ましい。さらに、この混合過程で、極微小な金属粒子が生成され、これらの金属粉末がガラス粉末又はセラミックス粉末の表面に付着する。これにより、極微小な金属粒子の均一分散を図ることができる。また、使用する金属粉末の粒度によっては、混合後も未変形の粒子が残るが、扁平化した粒子が適当量あれば、機械的特性の改善効果は得られる。また、上記の不定形扁平状延性金属片の表面にガラス粉末又はセラミックス粉末が付着している複合粉末は、予め延性金属粉末を圧延加工等により扁平化させ、これとガラス粉末又はセラミックス粉末を混合することによっても製造することができるが、混合と扁平化を同時に行う前述の方法が工程の簡略化と均−混合の面で有利である。
【0038】
次に、得られた混合粉末を所望の形状に成形した後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下または真空中で200℃〜1800℃で焼結する。焼結方法としては、公知の焼結方法を用いることができる。例えば、CIP成形や射出成形した成形体を常圧焼結や真空焼結さらにHIP(Hot Isostatic Press)で高密度化するプロセスでは、球状粒子の場合や扁平化した粒子でも3次元にランダムに配向するため等方的な組織となるが、扁平粒子を用いてホットプレス等の一軸加圧方法により成形をおこなうと、扁平化した粒子はプレス方向と垂直方向に2次元に配向するので、特に厚さ方向の電磁波シールド効果が向上する。また、マトリックスがガラスの場合、押し出し法やロール成形などにより、長尺の形状に成形することもできる。さらに、鍛造法や鋳造法、好ましくは加圧鋳造法により直接複雑形状の成形をすることもできる。また、焼結は、200℃〜1800℃の温度範囲で行うことができるが、扁平粒子を用いる場合には、扁平な延性金属の形状が保持されるように延性金属の融点より低い温度で行えるように、前記したガラス粉末又はセラミックス粉末と延性金属を選択することが必要である。
【0039】
<実施例1>
マトリックスにMAS(MgO−Al−SiO系)粉末(粒径20μm以下)を用い、添加金属としてMo粉末(昭和電工株式会社製:品番M−60(粒径53μm〜10μm))を、体積率が70:30となるように配合した。
【0040】
これらの混合粉末をエ夕ノール溶媒中、窒化珪素ボールを用いてボールミル混合を行った。これによりFe粉末がボールミル混合により偏平化し、ガラス粉末が表面に付着した混合粉末が得られた。ボールミル処理時間は極微小な金属粒子を得るため300時間行った。この混合粉末を黒鉛のモールドにいれ、ホットプレスにより、アルゴン雰囲気下で1000℃、100kg/cmの圧力で1時間保持して焼結を行い、複合材料を得た。
【0041】
この複合材料についてシールド効果を測定した。測定に際しては、焼結体を165mm×165mm×5mmの試験片に加工し、KEC法により電場におけるシールド効果を測定した(社団法人関西電子工業振興センターの生駒電波測定所にて測定)。その結果を図1に示す。なお比較のため、代表的な電磁波シールド材について、導電性プラスチック2種および無電解メッキ法と導電塗料の計4種の測定結果をあわせて示した。なお、これらの比較例は、「工業材料」(1994年3月号(Vol.42,No.3)p39による)。図から明らかなように、本発明の複合材料は測定周波数すべてにおいて測定限界を越えるシールド効果が得られた。また、比較データよりもはるかに優れたシールド効果であることも確認できる。
【0042】
次に、この複合材料の熱衝撃特性を、複合相のないマトリックス、すなわちマトリックスそのものの熱衝撃特性と比較した。試験は、所定の温度に試験片を一定時間保持後20℃の水に投入して急冷し、その後の試験片の曲げ強度を測定することにより評価した。結果を図2に示す。マトリックスそのものに比べ、明らかに本発明の複合材料が優れた耐熱衝撃性を持つことがわかる。なお、図示は省略するが、透過型電子顕微鏡観察により、Moの扁平状延性金属片を観測すると共に、ナノサイズ(50nm−200nm)のMo粒子がマトリックス中に分散していることも確認した。
【0043】
<実施例2>
ソーダ石灰ガラス(NaO−CaO−SiO系)粉末(粒径45μm以下)とFe粉末(300メッシュアンダー;高純度化学研究所製)を体積率が80:20となるように秤量した。これらの混合粉末をエ夕ノール溶媒中、窒化珪素ボールを用いてボールミル混合を行った。これによりFe粉末がボールミル混合により偏平化し、ガラス粉末が表面に付着した混合粉末が得られた。ボールミル処理時間は極微小な金属粒子を得るため300時間行った。この混合粉末を黒鉛のモールドにいれ、ホットプレスにより、アルゴン雰囲気下で740℃、100kg/cmの圧力で1時間保持して焼結を行い、複合材料を得た。
【0044】
図3に、得られた複合材料のプレス方向と平行方向の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図では主として扁平状のFeが白く表示されているが、複合相は2次元に配向し、d/t≧3を満たして扁平化していることが確認できる。また透過型電子顕微鏡により観察したところ、極微小なFe粒子(サイズ:約40nm−400nm)がマトリックスに分散していることも確認できた(図示せず)。
【0045】
この複合材料の耐熱衝撃特性を実施例1と同様に調べたところ、実施例1と同様にマトリックスそのものに比して優れた耐熱衝撃性を示すことを確認した。また、実施例1と同様にシールド効果の測定もおこなった。その結果を図4に示す。本発明の複合材料は測定周波数すべてにおいて測定限界を越え、優れた電磁波シールド効果を示すことを確認した。
【0046】
<実施例3>
マトリックスとして、純度99.99%のアルミナ粉末(住友化学株式会社製:品番AKP−30)と粒径53μm〜10μmのMo粉末(昭和電工株式会社製:品番MA−60)とを体積率が80:20になるようにして、実施例1と同様にして複合材料を製造した。なお、ホットプレス温度は1600℃、圧力は300kg/cmとした。
【0047】
この複合材料の複合相の分散状況を、透過電子顕微鏡により観察した。顕微鏡写真を図5に示す。不定形偏平Mo片とナノサイズのMo粒子がよく分散していることが確認できた。
【0048】
また、この複合材料について実施例1と同様にしてシールド特性を測定したところ、実施例1および実施例2とほぼ同等の優れたシールド特性を示すことも確認した。また、得られた複合材料について実施例1と同様に耐熱衝撃特性を評価したところ、優れた耐熱衝撃特性を示すことも確認した。
【0049】
実施例は以上の通りであるが、なお、本発明においては、複合相として、上述の金属粒子と不定形扁平状延性金属片に加え、セラミックス粒子やセラミックスウイスカーや無機質短繊維等を添加してもよい。これらを併用することにより、複合体の強度や靱性をさらに向上させることができる。
【0050】
このうち、セラミックス粒子としては、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Fe、Ni、Co、Al、Y、Si及びBの酸化物、窒化物、炭化物、ほう化物、珪化物及び炭窒化物を挙げることができる。セラミックスウイスカーとしては、Si、SiC、TiC、グラファイト、チタン酸カリウム、ほう酸アルミニウム、ZnO、MgO、ほう酸マグネシウム、TiB、ムライトを挙げることができる。また、無機質短繊維としては、アルミナ、アルミナ・シリカ、シリカ、ジルコニア等の短繊維を挙げることができる。この他、アルミナ、Si、SiC、または、特公昭58−5286号公報に開示されるSi、Ti、C及びOを主成分とした無機繊維等の長繊維をチョップ状に切断したものを挙げることができる。これらは、特に、焼結温度で使用する金属粒子と反応して脆弱な化合物を生成しないものを選択することが重要である。
【0051】
本発明によれば、ガラス又はセラミックスマトリックスに複合相として極微小な金属粒子が含まれることにより体積抵抗率が下がると共に、電磁波シールド効果が向上する。さらに複合相として不定形偏平状延性金属片が分散することにより破壊時に亀裂先端での塑性変形を十分利用できるため高靱性化に寄与し、さらに強度も向上させることができる。したがって、シールド効果に優れしかも耐熱衝撃性の優れた電磁波シールド材が提供可能となる。また、複合相としてセラミックス粒子、セラミックスウイスカー、無機質短繊維等を併用することにより、ガラスマトリックス部の高強度化を図ることが可能となり、複合体の強度、靱性をさらに向上させることができる。また、前述したように扁平状の複合相を2次元に配向させれば、配向方向と垂直方向のシールド効果をさらに向上させることができる。さらに、複合相の形態は、原料粉末である延性金属粉末とガラス粉末又はセラミックス粉末の混合中の変形を利用して扁平化が達成できるため、複合相の形状の制御が容易であり、追加の製造プロセスを必要とせず、複合化によるコスト増を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明を、例えば、人工衛星に搭載する測定機器の筐体等に適用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例1で得られた複合材料の電場におけるシールド効果を測定した結果を表す図である。
【図2】耐熱衝撃性の結果を示す図である。
【図3】実施例2で得られた複合材料の組織を表す光学顕微鏡写真である。
【図4】実施例2で得られた複合材料の電場におけるシールド効果を測定した結果を表す図である。
【図5】実施例3で得られた複合材料におけるナノサイズの金属粒子の分散を表す透過電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスまたはセラミックスをマトリックスとし、複合相が不定形扁平状延性金属片と当該不定形扁平状延性金属片の厚みより少なくとも一桁径の小さな金属粒子とにより構成される耐熱衝撃性電磁波シールド材。
【請求項2】
複合相を構成する金属が、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Fe、Ni、Co、Cu、Al、Mg、Znおよびそれらの合金、ステンレス鋼、パーマロイ及び超耐熱合金から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材。
【請求項3】
金属粒子の径が1000nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材。
【請求項4】
複合相として、さらに、セラミックス粒子、セラミックスウイスカー、または無機質短繊維を含むことを特徴とする請求項1、2または3に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材。
【請求項5】
複合相の体積率が、2vol%〜60vol%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材。

【請求項6】
金属粉末と、ガラス粉末またはセラミックス粉末とを、ミルにより混合して、金属粉末を扁平金属片に延性しつつその一部が当該扁平金属片の厚みより少なくとも一桁径の小さな金属粒子として分離するように制御し、その後この混合粉末を焼結することを特徴とする耐熱衝撃性電磁波シールド材製造方法。
【請求項7】
金属粉末が、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Fe、Ni、Co、Cu、Al、Mg、Zn及びそれらの合金、ステンレス鋼、パーマロイ及び超耐熱合金から選ばれる少なくとも一種の粉末であることを特徴とする請求項6に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材製造方法。
【請求項8】
金属粒子の径が1000nm以下となるように制御することを特徴とする請求項6または7に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材製造方法。
【請求項9】
金属粉末の体積率が、2vol%〜60vol%であることを特徴とする請求項6、7または8に記載の耐熱衝撃性電磁波シールド材製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−76619(P2009−76619A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243451(P2007−243451)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】