耐疲労損傷性ワイヤおよびその製造方法
耐疲労損傷性の、サブミクロンスケールまたはナノ粒子のミクロ構造を有し、改良された耐疲労損傷特性を示す金属または金属合金ワイヤ、およびそのようなワイヤを製造する方法を示す。本方法を使用して、500nm以下の平均粒子径を特徴とするナノ粒子ミクロ構造を有するワイヤを形成できる。本方法では、ワイヤは改良された耐疲労損傷性を示す。本方法に従って作製されるワイヤは、1つ以上のその他の材料特性の改良を示すことができ、例えば、極限強度、無負荷プラトー強度、永久変形、延性、および回復性歪み等である。本方法に従って製造されるワイヤは、医療機器、またはその他の高機能用途に使用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国法典第35巻特許法第119条(e)(U.S.C§119(e))の元で、米国仮特許出願シリアル番号第61/098,427号(特許文献1)、発明の名称「ナノ粒子耐損傷性ワイヤ」(NANOGRAIN DAMAGE RESISTANT WIRE)、2008年9月19日出願の特許;米国仮特許出願シリアル番号第61/110,084号(特許文献2)、発明の名称「ナノ粒子耐損傷性ワイヤ」(NANOGRAIN DAMAGE RESISTANT WIRE)、2008年10月31日出願の特許;米国仮特許出願シリアル番号第61/179,558号(特許文献3)、発明の名称「ナノ粒子耐損傷性ワイヤ」(NANOGRAIN DAMAGE RESISTANT WIRE)、2009年5月19日の出願;および 米国仮特許出願シリアル番号第61/228,677号(特許文献4)、発明の名称「ナノ粒子耐損傷性ワイヤ」(NANOGRAIN DAMAGE RESISTANT WIRE)、2009年7月27日出願の特許の恩恵を主張し、これらの全体の開示は参考として本明細書中に明確に援用される。
【0002】
背景
1.発明の分野
本方法は耐疲労損傷性のワイヤに関し、詳細には改良された耐疲労損傷性を示す金属または金属合金のワイヤを製造する方法に関し、およびにそのような方法によって作製された金属または金属合金のワイヤに関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
大抵の遷移金属は異方性である傾向があり、そのため粘弾性特性、トライボロジ特性、機械特性および電気特性は、結晶方向とともに変化することが良く知られている。従って、金属材料のそのような特性は、原子格子中の結晶テクスチャの存在(もしくはテクスチャの欠落)、または金属材料中の結晶配置によって全面的に決まる。
【0004】
粒子径は、20世紀が生んだ大部分の物に対する材料強度、破壊靱性、および疲労強度を規定する重要な変数であると知られている。例えば、ガスタービンエンジンは、所望用途の特定方位での強度を解決するために、単一の金属結晶または大部分が方向性を持って成長した結晶を含むローターを使用し、そのためには例えば、半径方向に沿って高強度を有するタービンブレード作り出し、高い応力が半径方向に沿って見出される高速回転中の損傷を防止または最小化する。
【0005】
通常のワイヤ材料は、ミクロ構造のセルサイズ(結晶径または粒子径と呼ばれることが多い)を有し、それは加工後で約数ミクロン(μm)〜数mmである。図1に示す顕微鏡写真は、約3〜12μmの粒子径を有する代表的な通常の移植適合性ワイヤであり、そのものは35NLTM(35NLTTMは、インディアナ州フォートウェインのフォートウェイン金属研究製品(Fort Wayne Metals Research Products)社の登録商標である)で作製されている。
【0006】
一般的な医療用ワイヤは、生体適合性で移植適合性の材料で作製され、それらにはASTM F562の化学組成要件に準拠している合金が挙げられる。そのようなワイヤ材料には、35重量%Co−35重量%Ni−20重量%Cr−10重量%Moを含むCo/Cr/Ni/Mo材料およびMP35NTM合金(MP35NTMは、ペンシルバニア州ジェンキンタウンのSPS Technologies社の登録商標である)が挙げられる。その他の生体適合性で移植適合性の材料には、ニチノールを包含するニッケル−チタン(NiTi)の2元系形状記憶材料、並びにニチノール3元系合金(クロム、タンタル、パラジウム、白金、鉄、コバルト、タングステン、イリジウム、および金などの添加物を有するニッケル−チタン)、プラチナ及びプラチナ合金、チタン及びチタン合金、並びに300シリーズのステンレススチール、およびその他の材料が挙げられる。
【0007】
生物学的な宿主応答性の観点から体内においてNiTiのような合金がどのような挙動をするかを理解するためにかなりの研究が熱心に行われているが、構造と機械的特性との定量的な関連付けはほとんど発表されていない。
【0008】
これらの材料は、溶融法由来の熱間加工した棒材を比較的厚い断片に形成することによって製造でき、更にその棒材を細い直径のワイヤに延伸することによってワイヤに加工される。
【0009】
「冷間加工」と呼ばれることが多い、各延伸加工の間では、ワイヤは潤滑化されたダイを通過させて引き出しその直径を減少させる。ワイヤ延伸に伴う変形により、材料中の内部応力または貯蔵エネルギーが増加し延性を減少させる傾向がある。内部応力は、加熱処理または高温でのアニールの方法によって最終的に解放されて延性を回復する必要があり、これにより、その材料をより小さい直径に更に冷間加工することが可能になる。通常のワイヤアニールは、一般的に数段階で応力解放し、例えば、転位消滅、粒子の核形成、並びに結晶粒成長および一般的にランダムな結晶配向分布などをもたらす。冷間加工の間に生成される、種々の材料または繊維の「テクスチャ」は、大抵の場合通常のアニールおよび再結晶化の間に消滅する。これらの冷間加工およびアニールの反復プロセスは数回繰り返され、所望の直径のワイヤが生産され加工が完結する。
【0010】
前述のプロセスに従って作製されたワイヤは、一般的に優れた耐疲労損傷性を示すが、耐疲労損傷性の更なる改良が望まれている。
【0011】
サブミクロンまたはナノレベルに粒子化した金属材料を形成する種々の方法が知られている。一部の方法では熱間等静圧圧縮成形(HIPing)によってナノスケールの粉末を形成して、その粉末を所望の形状に固める。
【0012】
更なる数種の方法は、巨大ひずみ加工(SPD、severe plastic deformation)という種類のものがあり、その方法では金属材料は600%〜800%以上の塑性変形を受ける。これらの各方法は、SPDの前後で被加工物の断面積が一定にとどまることが特徴である。高圧ねじり処理(HPT、high pressure torsion)では、例えば、摩擦けん引力によってせん断を発生させるために、被加工物を互いに対して回転している2つのアンビルの間に設置することによって連続的なせん断応力をかける。等チャネル角圧縮(ECAP、equal channel angular pressing)では、交差するチャネルを有する特殊なツールを使用して、被加工物の断面積を維持しながら被加工物に単純なせん断応力を受けさせ、そして被加工物に幾つかのECAP工程を施し、所望度合いの塑性変形に到達できる。環状溝ダイ圧縮(CCDC、cyclic channel die compression )では、被加工物は、被加工物形状に対応する特殊なダイ中で変形され、その場合、被加工物は最初に、被加工物の形状に対応する公称形状のダイに関してダイ中で90°に方向設定される。被加工物をダイ中で変形させてダイ形状に変化させ、続いてその被加工物を90°回転させ、繰り返して所望の巨大ひずみ加工の度合いに到達する。
【0013】
これらの方法は、特定形状材料の特定用途に好適であるが、これらの方法は、例えば、1.0mm未満のような微細直径の金属または高度な表面品質の連続した金属合金ワイヤの製造には適さない。
【0014】
必要とされるものは、改良された耐疲労損傷性を示す金属または金属合金ワイヤの製造方法であり、並びにそのような方法に従って作製された金属または金属合金ワイヤである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国仮特許出願シリアル番号第61/098,427号
【特許文献2】米国仮特許出願シリアル番号第61/110,084号
【特許文献3】米国仮特許出願シリアル番号第61/179,558号
【特許文献4】米国仮特許出願シリアル番号第61/228,677号
【特許文献5】米国公開特許2005/0051243号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Jermy E. Schaffer により、2007年8月に発表された論文
【非特許文献2】Mitesh Patel により、Journal of ASTM International vol. 4, No. 6に発表された論文
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示は、サブミクロンスケールまたはナノ粒子ミクロ構造を有し、改良された耐疲労損傷性を示す、耐疲労損傷性の、金属または金属合金ワイヤに関し、並びにそのようなワイヤを製造する方法に関する。本方法を使用して、500nm以下の平均粒子径を特徴とするナノ粒子のミクロ構造を有するワイヤを形成でき、そのワイヤは改良された耐疲労損傷性を示す。本方法に従って製造されたワイヤは、1つ以上のその他の材料特性において改良を示すことができ、例えば極限強度、無負荷プラトー強度、永久変形、延性,および回復性歪みなどの特性である。本方法に従って製造されたワイヤは、医療機器またはその他の高機能用途での使用に好適である。
【0018】
それらの一形態において、本発明は、移植適合性の、金属または非形状記憶金属合金であって、直径および厚さの内の1つが1.0mm未満であり、かつ500ナノメーター未満の平均粒子径を有するものを含む金属ワイヤを提供する。そのワイヤは100万サイクルにおいて0.35%歪み振幅を超過する疲労耐久度を有することができる。
【0019】
1つの実施形態では、ワイヤは、106より大のサイクルにおいて0.45%歪み振幅を超過する、107より大のサイクルにおいて0.45%歪み振幅を超過する、および108より大のサイクルにおいて0.45%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有するCo/Ni/Cr/Mo金属合金を含むことができる。別の実施形態では、ワイヤは、ワイヤは、106より大のサイクルにおいて0.4%歪み振幅を超過する、107より大のサイクルにおいて0.4%歪み振幅を超過する、および108より大のサイクルにおいて0.4%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有する304Lステンレススチールを含むことができる。更なる実施形態では、ワイヤは、106より大のサイクルにおいて0.35%歪み振幅を超過する、107より大のサイクルにおいて0.35%歪み振幅を超過する、および108より大のサイクルにおいて0.35%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有する316Lステンレススチールを含むことができる。その上更なる実施形態では、ワイヤは、106より大のサイクルにおいて0.4%歪み振幅を超過する、107より大のサイクルにおいて0.4%歪み振幅を超過する、および108より大のサイクルにおいて0.4%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有するCo/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金を含むことができる。
【0020】
別の実施形態では、ワイヤは、直径および厚さの内1つを有し、298±5Kの温度において、ワイヤの直径または厚さの250倍を超過する標点距離で単調引張試験によって測定した場合に、6%破断歪みより大の軸方向延性を有する。更なる実施形態では、ワイヤは、Co/Ni/Cr/Mo金属合金、316Lステンレススチール、およびCo/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金からなる群から選択される非形状記憶金属合金を含み、少なくとも0.85の降伏強度と極限強度との比を有することができる。
【0021】
更なる実施形態では、ワイヤは、直径および厚さの内1つを有し、かつ298±5Kの温度において、ワイヤの直径または厚さの250倍を超過する標点距離で単調引張試験によって測定した場合に、10%破断歪みより大の軸方向延性を有する。更なる実施形態では、ワイヤは、Co/Ni/Cr/Mo金属合金、316Lステンレススチール、およびCo/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金からなる群から選択される非形状記憶金属合金を含み、少なくとも0.85の降伏強度と極限強度との比を有することができる。
【0022】
本発明の別の形態では、本方法は、移植適合性の、金属または非形状記憶金属合金で作製されたワイヤを形成する方法を提供し、その方法は、比較的大きな直径D1を有するワイヤを準備する工程と、そのワイヤを冷間加工調整にかけてi)50%および99.9%の冷間加工、および ii)ワイヤを比較的小さい直径D2に延伸することによって0.69および6.91の真歪みの内1つを付与する工程であって、%冷間加工は次式:
cw=1−(D2/D1)2で求め、
かつ真歪みは次式:
ts=ln{{D1/D2}2}で求める、冷間加工調整工程と、
ワイヤをアニールして500ナノメーター未満の平均粒子径を有する結晶構造を生成させる工程とを含む。
【0023】
ワイヤは、i)Co/Ni/Cr/Mo金属合金、ii)304Lステンレススチール、iii)316Lステンレススチール、および iv)Co/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金からなる群から選択される金属合金を含むことができる。
【0024】
1つの実施形態では、アニール工程は、600℃〜950℃の間の温度において0.1秒〜3600秒の間の滞留時間でワイヤをアニールする工程を更に含むことができる。別の実施形態では、アニール工程は、750℃〜900℃の間の温度において0.2秒〜120秒の間の滞留時間でワイヤをアニールする工程を更に含むことができる。更に本方法は、アニール工程に続いてワイヤに更なる冷間加工を施すという追加の工程を更に含むことができる。
【0025】
本発明の更なる形態では、本方法は、300nm未満の平均粒子径を有し、寸法が5nmを超過するTixNiy析出物を実質的に含まないニッケル−チタン形状記憶材料で作製されたワイヤを提供する。そのワイヤは1.0mm未満の直径を有する。同様にそのワイヤは、298±5Kの温度における単軸引張試験で測定した場合9%より大の全体的等温回復性歪みを示すことができ、かつ298±5Kの温度における単軸引張試験で測定した場合に9.5%の軸方向公称歪みよりも大の負荷プラトー長さを示すことができる。
【0026】
別の実施形態では、ワイヤは、極限強度が1100MPaを超過すること、平均粒子径が100ナノメーター未満であること、活性オーステナイト終了温度(Af)が325K以下であること、および軸方向の公称破断歪みが10%公称歪みを超過すること、の内1つ以上を有することができる。
【0027】
本発明の更なる形態では、本方法は、ニッケル−チタン形状記憶材料で作製されたワイヤを形成する方法を提供し、その方法は、比較的大きな直径D1を有するワイヤを準備する工程と、比較的小さい直径D2にワイヤを延伸することによって15%〜45%冷間加工を付与するようにワイヤに冷間加工調整工程を施す工程であって、%冷間加工は次式:
cw=1−(D2/D1)2で求める工程と、
300℃〜600℃の間の温度で、0.2秒〜900秒の間の滞留時間でアニールする工程であって、アニールによって500nm未満の平均粒子径を有する結晶構造が生成されるアニール工程とを含む。
【0028】
本発明の上記およびその他の特徴および利点、並びにそれらを得る方法は、付随する図面と関連させて行う本発明の実施形態についての以下の説明を参照することによって更に明らかになり、かつ本発明自体が良好に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】約3μmの平均粒子径を有するワイヤをMP35NTM合金で作製された、従来技術の移植適合性ワイヤについて、後方散乱電子像(BEI)モードの走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して撮影した顕微鏡写真である。
【図2】等軸粒子構造を有するワイヤの一部の概略図である。
【図3】本方法の実施形態に従った冷間加工調整後の、伸長粒子構造を有する図2のワイヤの一部の概略図である。
【図4】本方法の実施形態に従ったナノ再結晶化後の、図2の等軸粒子構造のワイヤよりも小さい粒子の等軸粒子構造を有する図3のワイヤの一部の概略図である,図5は潤滑化延伸ダイを使用する、典型的なモノリシックワイヤの形成を例示する概略図である。
【図6】本方法の典型的な実施形態に従って製造されたナノ結晶の35NLTTM合金ワイヤの断面を明視野透過型電子顕微鏡(BFTEM)撮像およびその回折パターンの顕微鏡写真である。
【図7】単軸引張サイクル試験で集録された公称応力−歪みデータのグラフ表示である。
【図8】実施例1に対応するものであって、図8は、本方法に従って製造された2つの35NLTTM合金ワイヤ、すなわち、ナノ結晶75μmワイヤ(X形状印で表現)と、ナノ結晶177μmワイヤ(黒塗り四角形状印)とを、通常のミクロ結晶のMP35NTMおよび35NLTTM合金ワイヤ(これらはダイヤモンド、三角、および白抜き四角で表示)とで比較するサイクル歪み振幅対疲労サイクル寿命のグラフ図である。
【図9(a)】図9(a)−16(b)は実施例2に対応するものであって、図9(a)は薄箔TEMサンプルの調製に使用された2重ビームSEM/FIB装置の概略図であり、ミリング用のガリウムイオン源は撮像用の電子ビームによって共有された共通のユーセントリック高さ(eucentric height)を標的とされ、ガリウムイオンは30kV 電位を使用して加速され、かつはるかに損傷が少ない走査用電子ビームから集められた撮像データのフィードバックによって制御できる領域に電磁的に焦点合わせされる。
【図9(b)】公称厚さ1000nmに持ち上げて箔をさらす「粗い」切削の断面を図示する。
【図9(c)】2μmのタングステン探針を使用する持ち上げ箔を図示する。
【図9(d)】サンプルがSEMグリッドポストに取り付けられ、その上でサンプルが低減イオン電流で約100nm以下の厚さに薄膜化された後の箔を図示する。
【図10(a)】50nmの平均粒子径を有するニチノールワイヤサンプルの暗視野(DF)TEM撮像を図示する。
【図10(b)】デジタル粒子径解析のための図10(a)のDF−TEM撮像の二値変換を図示する。
【図10(c)】図10(b)の解析した粒子場の楕円体表示を図示し、延伸方向(矢印)に伸長粒子の残留がないことを図示する。図10(d)は、50nmの平均粒子径を有する同等材料(別の領域)の別のサンプルの明視野(BF)−TEM撮像を図示する。
【図10(e)】図10(d)に示した領域の制限視野回折パターン(SADP)を図示し、明るいB2立方晶[110]多結晶リングが示される。
【図10(f)】B2ニチノールに対する計算粉末回折パターン(DP)を図示する。
【図11(a)】平均粒子径50nmを有するニチノールワイヤについて試験した粒子径を示すBF−TEM撮像を図示し、矢印で延伸方向を示す。
【図11(b)】平均粒子径100nmを有するニチノールワイヤについて試験した粒子径を示すBF−TEM撮像を図示し、矢印で延伸方向を示す。
【図11(c)】平均粒子径2μmを有するニチノールワイヤについて試験した粒子径を示すBF−TEM撮像を図示し、矢印で延伸方向を示す。
【図12】左側にニチノール酸化物層、左側の円で囲んだ領域から撮像したSADPを右側に図示し、非常に微細な酸化物ナノ構造の粉末回折が示される。
【図13】種々の平均粒子径に対する粒子径分布の累積分布関数を図示し、平均粒子径は左から右へ、それぞれ50nm、100nm、2000nm、5000nm、および10000nmである。
【図14】5つの別個な粒子径に対する個別の曲げ・自由回復(BFR、bend and free recovery ) 試験データのデジタルビジョンを図示し、この場合、活性オーステナイト終了温度シフトが、ナノ結晶材料の高い粒子境界含量に伴う転移シフトとNi豊富な析出物とによる僅かなマトリックスNi損失との組み合わせに起因すると仮定している。
【図15(a)】静止空気中298Kで10−3s−1の歪み速度における公称応力−歪みデータのグラフ表示であり、等軸粒子径の関数として4%履歴曲線を無負荷時弾性率の値と一緒に示す。
【図15(b)】標準的な超弾性材料および均質で析出物がない100nmマトリックスを有するワイヤに対する単調荷重曲線のグラフ表示である。
【図15(c)】粒子径の関数としての永久変形歪みのグラフ表示である。図15(d)は、粒子径の関数としての極限引張強度のグラフ表示である。
【図16(a)】以下の試験条件:R=−1、T=298K 、f=60s−1、静止空気下環境、各歪みレベルでN=5による回転ビーム疲労試験データの歪み寿命のグラフ表示である。
【図16(b)】107サイクルにおける歪み限界のグラフ表示であり、±3%の最高歪みレベル誤差および0.1%未満のサイクルカウント誤差を有する。
【図17(a)】図17(a)−17(c)は、実施例3に対応するものであって、図17(a)は、本方法に従って作製され、0.18mm(0.007インチ)直径を有する、35NLTTM合金ワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図17(b)】本方法に従って作製され、0.107mm(0.0042インチ)直径を有する、35NLTTM合金ワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図17(c)】本方法に従って作製され、断面厚さが、小寸法において0.127mm(0.005インチ)、小寸法に直交する大寸法において0.229mm(0.009インチ)である、35NLTTM合金リボンに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図18(a)】図18(a)−18(c)は、実施例4に対応するものであって、図18(a)は、本方法に従って追加の冷間加工を用いて作製され、0.089mm(0.0035インチ)直径を有する、35NLTTM合金ワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図18(b)】本方法に従って追加の冷間加工を用いて作製され、0.076mm(0.003インチ)直径を有する、35NLTTM合金ワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図19(a)】図19(a)−19(c)は実施例5に対応するものであって、標準的なミクロ構造を有し、直径が0.18mm(0.007インチ)である304Lワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図19(b)】本方法に従って作製され、0.18mm(0.007インチ)直径を有する304Lワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図19(c)】304Lワイヤに対する以下の試験条件:R=−1、T=298K、f=60s−1、静止空気下環境、による回転ビーム疲労試験データの歪み寿命のグラフ表示である。
【図20(a)】図20(a)−20(c)は、実施例7に対応するものであって、標準的なミクロ構造を有し、直径が0.18mm(0.007インチ)である316Lワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図20(b)】本方法に従って作製され、直径が0.18mm(0.007インチ)である316Lワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図20(c)】316Lワイヤに対する以下の試験条件:R=−1、T=298K 、f=60s−1、静止空気下環境、による回転ビーム疲労試験データの歪み寿命のグラフ表示である。
【図21(a)】図21(a)−21(b)は実施例7に対応するものであって、ASTM F1058の化学組成要件に準拠する合金ワイヤであって、本方法に従って作製され0.23mm(0.0089インチ)の直径を有するものに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図21(b)】ASTM F1058の化学組成要件に準拠する合金ワイヤに対する、以下の試験条件:R=−1、T=298K 、f=60s−1、静止空気下環境、による回転ビーム疲労試験データの歪み寿命のグラフ表示である。
【図22(a)】種々の実験的に制御されたワイヤ材料に対する粒子径の累積分布関数(「CDF」、cumulative distribution function)であり、それには黒塗り四角印で示される35NLTTM合金ワイヤ、星印で示されるニチノールワイヤ、X形状印で示されるASTM F1058に従って作製されたワイヤ、ダイヤモンド形状印で示される304Lステンレススチール、および黒塗り三角印で示される316Lステンレススチール、が含まれる。
【図22(b)】本方法に従って製造された各種ワイヤ材料に対する粒子径の累積分布関数(「CDF」)であり、それには黒塗り四角印で示される35NLTTM合金ワイヤ、星印で示されるニチノールワイヤ、X形状印で示されるASTM F1058の化学組成要件に準拠して作製されたワイヤ、ダイヤモンド形状印で示される304Lステンレススチール、および黒塗り三角印で示される316Lステンレススチール、が含まれる。
【図23(a)】対照の304Lステンレススチール合金ワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図23(b)】本方法の典型的な実施形態に従って製造されたナノ結晶の304Lステンレススチール合金ワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図24(a)】対照の316Lステンレススチール合金ワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図24(b)】本方法の典型的な実施形態に従って製造されたナノ結晶の316Lステンレススチール合金ワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図25(a)】ASTM F1058の化学組成要件に従って作製された対照の合金ワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図25(b)】ASTM F1058の化学組成要件に従って作製された対照の合金ワイヤ、および本方法の典型的実施形態に従って製造された合金ワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図26(a)】対照のニチノールワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図26(b)】本方法の典型的実施形態に従って製造されたナノ結晶ニチノールワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図27】本方法の実施形態に従ったガイドワイヤの部分断面図である。
【図28】心臓に収容された心臓ペーシングリード(複数)を例示する心臓の部分断面図である。
【図29】本方法に従って作製されたワイヤを含む心臓ペーシングリードの断面斜視図である。
【図30(a)】本方法に従って作製されたワイヤを含む、ブレイドの組織スカフォールドまたはステントの立面図である。および
【図30(b)】本方法に従って作製されたワイヤを含む、ニットの組織スカフォールドまたはステントの立面図である。
【0030】
対応する参照記号は、数個の図面を通じて対応する部分を指示する。本明細書で説明した事例は本発明の好ましい実施形態を例示し、そのよう事例は、いかなる方法でも本発明の範囲を制限するものとして解釈すべきではない。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示は、サブミクロンスケールまたはナノ粒子ミクロ構造を有し、改良された耐疲労損傷性を示す耐披露損傷性金属または金属合金のワイヤ、およびそのようなワイヤを製造する方法に関する。
【0032】
本方法に従ってワイヤを作製できる典型的な製造方法を以下のセクションIで説明し、本方法に従って作製されたワイヤで得られる物理的特性の一般的な説明を以下のセクションIIで説明する。加工実施例は以下のセクションIIIで説明する。本方法に従って製造されたワイヤを使用する典型的な用途は以下のセクションIVで説明する。
【0033】
種々の純粋状態の金属材料および金属合金材料に本製造プロセスを施して、以下の議論および対応する実施例の中で確認される材料によって示される、改良された物理的特性と同様な改良された物理的特性を得ることができる。
【0034】
本方法によるワイヤを形成するために使用できる好適な純粋状態の金属としては、生体適合性で移植適合性の金属、例えば、チタン、タンタル、白金、およびパラジウムと、生体適合性でないまたは移植適合性でないと考えられるその他の金属、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、レニウム、ランタン、鉄、およびモリブデンとが挙げられる。
【0035】
本方法によるワイヤを形成するために使用できる好適な生体適合性で移植適合性の金属合金材料としては、上記に列挙した非形状記憶金属合金、並びにCo/Cr/Ni/Mo合金を含む特殊合金、およびASTM F562の化学組成要件に適合するような合金(公称としては35重量%Co−35重量%Ni−20重量%Cr−10重量%Mo)が挙げられる。適切なASTM F562合金には、MP35NTMおよび35NLTTM合金が挙げられる。35NLTTM合金は、インディアナ州フォートウェインの Fort Wayne Metals Research Products社から入手可能である。本方法での使用に好適な35NLTTM合金は、合金中のチタン系混在物が低減または排除され、このことは米国特許出願シリアル番号第10/656、918号で、2003年9月5日出願の、米国公開特許2005/0051243号(特許文献5)、発明の名称;「低減された窒化チタンの混在物を有するコバルト−ニッケル−クロム−モリブデン合金」(COBALT−NICKEL−CHROMIUM− MOLYBDENUM ALLOYS WITH REDUCED LEVEL OF TITANIUM NITRIDE INCLUSIONS)、に開示され、本方法の譲渡人に一部譲渡され、これらの全体の開示は参考として本明細書中に明確に援用される。Co/Cr/Ni/Mo/Feを含む移植適合性特殊合金およびASTM F562の化学組成要件に適合するような合金(公称としては40重量%Co−20重量%Cr−16重量%Fe−15重量%Ni−7重量%Mo)は、その他の好適な生体適合性金属合金であり、本方法によるワイヤ形成に使用でき、例えば Conichrome、エルジロイ(Elgiloy)TM(エルジロイTMは、イリノイ州グローブビレッジのCombined Metals of Chicago有限責任会社の登録商標である)、およびフィノックス(Phynox)である。1つの好適なASTM F1058合金はFWM1058合金であり、インディアナ州フォートウェインのFort Wayne Metals Research Products社から入手可能である。本方法に従ってワイヤを形成するのに好適なその他の生体適合性材料としてステンレススチールが挙げられ、例えば,304Lおよび316Lステンレススチール並びにその他の300−および400−シリーズのステンレススチール、L605合金、チタン6重量%−アルミ4重量%添加のバナジン、β C(これは室温でのβ相を主に含む)のようなその他の安定化β相チタン合金等が挙げられる。
【0036】
更に一方向記憶効果または二方向記憶効果を有する種々の形状記憶合金は、本製造プロセスを施して以下の議論および対応する実施例で確認されたニチノールの物理的特性と同様な物理的特性が得られる。このような形状記憶合金としては、ニチノール(ニッケル−チタンの二元系形状記憶材料)、三元系または四元系ニチノール(添加金属として例えば,クロム、タンタル、パラジウム、白金、鉄、コバルト、タングステン、イリジウム、金、を有するニチノール)などが挙げられる。
【0037】
セクションIVで詳細に説明されるように、本方法に従って作製された耐疲労損傷性金属または金属合金は、医療機器に使用でき、例えば、移植可能な心臓ペーシング、刺激および/または感知用リード、移植可能で神経学的な刺激および/または感知用リード、ガイドワイヤ、並びに移植可能なワイヤに基づいた胃腸、血管または食道のステント、またはその他の高機能用途、例えば耐疲労性ワイヤおよび自動車用ケーブルまたは航空宇宙作動機である。
【0038】
I.本製造方法の説明
A.非形状記憶の生体適合性金属合金
以下に議論される典型的な非形状記憶の生体適合性金属合金には、ASTM F562の化学組成要件に適合する合金(MP35TMおよび35NLTTM)、ステンレススチール(304Lおよび316Lステンレススチール)、およびASTM F1058の化学組成要件に適合する合金(例えば、FWM1058、Conichrome、エルジロイTM、およびフィノックス)が含まれる。
【0039】
本明細書に説明する性質および利点を有するワイヤを製造する典型的な方法には、例えば、通常の溶融法に基づいて棒材断片を形成する工程と、続いて1つ以上を繰り返す通常の冷間加工およびアニール工程とが含まれる。図2を参照して、通常の冷間加工およびアニール技術に従って製造されたワイヤ10の一部の概略図または誇張図が示される。ワイヤ10は、上記のように、1つ以上、恐らくは数回または非常に多数回の通常の冷間加工およびアニール工程を施され、延性があり一般にワイヤ10の材料内部に等軸結晶構造あるものが得られる。代表的な等軸結晶12をワイヤ10の中に描写した。本明細書で使用する場合、「等軸の」とは、個別の結晶12が材料軸の幅方向および長さ方向に沿ってまたは任意に規定されたあらゆる軸に沿って、近似的に同じ寸法を有する結晶構造を指す。好適な延性が得られる通常の加工の後で、ワイヤ10は、本方法による加工の準備が整う。しかしながら、ワイヤ10の結晶12は完全に等軸でなくてもよい、すなわち、以下に説明する加工にワイヤ10の準備が整うようにするには実質的に等軸であればよい、ということは本発明の範囲内である。
1.冷間加工調整
【0040】
その後、ワイヤ10に冷間加工調整工程を施す。本明細書で使用される場合、「冷間加工調整」は、材料の断面積の同時減少を伴って比較的大量の冷間加工を材料に与えることを意味し、例えばワイヤを延伸することによって、ワイヤが作製される金属または金属合金に基づいた通常のワイヤの冷間加工の繰り返しにおいて一般的であるよりもずっと多い冷間変形を与える。冷間加工調整工程の間に材料に付与される全体の冷間加工は、
次式(1):cw=1−(D2/D1)2 (I)
によれば、大略で少なくとも50%および99.999%である。式中、「cw」は、元の材料の有効断面の減少によって規定される冷間加工であり、「D2」は冷間加工調整(単数または複数の)延伸後のワイヤ直径であり、「D1」は同一物の冷間加工調整(単数または複数の)延伸前のワイヤ直径である。
【0041】
高レベルの冷間加工において、変形の間に付与される真歪みは全変形について良好な表示を与えることができる。付与された全冷間加工の別の表現では、冷間加工調整工程は
次式(II):ts=ln{(D1/D2)2} (II)
(式中、「ts」は真歪みによって規定される冷間加工であり、「ln」は自然対数の演算子であり、D1およびD2は、それぞれ冷間加工前の直径および冷間加工後の直径である。)による真歪みの計算で、約0.6単位より大で、12単位未満の真歪みを与える。
【0042】
図2−4を参照すると、冷間加工調整工程は、ワイヤ10を潤滑化ダイ18(図5)に通して延伸することによって実施され、出口直径D2は図2に示される未延伸のワイヤ10の直径D1より実質的に小さい直径を有する。あるいは,ワイヤ10は冷間型押し(cold swaging)または平らにもしくはその他の形状に圧延(rolling)し、それにより冷間加工の正味の累積がもたらされる。冷間加工調整はまた、ここに説明される技術を含む技術を任意に組み合わせて採用でき、例えば、冷間型押し、続いてリボンまたはシート形状またはその他のワイヤ形状に冷間圧延することによって仕上げされる潤滑化ダイを通して延伸する組み合わせである。ある典型的な実施形態では、ワイヤ10の直径がD1からD2に低減される冷間加工調整が単一の延伸で実施され、そして別の実施形態では、ワイヤ10の直径がD1からD2に低減される冷間加工調整が、それらの間でアニール工程を全く用いないで逐次的に実施される多数の延伸で実施される。
【0043】
非形状記憶の生体適合性金属合金材料に対しては、以下に議論されるように、冷間加工調整工程は、50%〜99.999%の間の冷間加工(0.69〜11.51単位の真歪み)を付与する。
【0044】
例えば、ASTM F562の化学組成要件に準拠する材料に対しては、典型的な冷間加工調整は、冷間加工(または真歪み)を、50%(0.69単位)65%(1.05単位)、もしくは92%(2.53単位)のような少量に、および99%(4.61単位)、99.9%(6.91単位)もしくは99.99%(9.21単位)のような多量に、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲の間で付与できる。これらの材料には、限定されるものではないが、500μm未満の直径を有するMP35NTMワイヤ、500μm未満の直径を有する35NLTTMワイヤ、および小寸法における断面厚さが500μm未満である断面厚さを有する35NLTTMリボンが挙げられる。リボンに関連して使用される場合、用語「厚さ」は、本明細書で使用される場合、小寸法に直交する大寸法を有した状態で、小寸法における断面厚さを指す。
【0045】
500μm未満の直径を有する304Lステンレススチールワイヤのような304ステンレススチールの一形態に対しては、典型的な冷間加工調整工程は、冷間加工(真歪み)を、50%(0.69単位)、70%(1.20単位)、もしくは94%(2.81%単位)のような少量に、および99.99%(9.21単位)のような多量に、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲の間で付与できる。
【0046】
小寸法において500μm未満の厚さを有する304Lステンレススチールリボンのような304ステンレススチールの別の形態に対しては、典型的な冷間加工調整工程は、冷間加工(真歪み)を、60%(0.92単位)、85%(1.90単位)もしくは94%(2.81単位)のような少量に、および99.99%(9.21単位)もしくは99.999%(11.51単位)のような多量に、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲の間で付与できる。
【0047】
500μm未満の直径を有する316Lステンレススチールワイヤのような316Lステンレススチールの一形態に対しては、典型的な冷間加工調整工程は、冷間加工(真歪み)を、60%(0.92単位)、80%(1.61単位)、もしくは90%(2.30単位)のような少量に、および99.9%(6.91単位)もしくは99.999%(11.51単位)のような多量に、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲の間で付与できる。
【0048】
小寸法において500μm未満の厚さを有する316Lステンレススチールリボンのような316Lステンレススチールの別の形態に対しては、典型的な冷間加工調整工程は、冷間加工(真歪み)を、60%(0.92単位)のような少量に、85%(1.90単位)もしくは92%(2.53単位)、および99.95%(7.60単位)もしくは99.999%(11.51単位)のような多量に、または任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲の間で付与できる。
【0049】
ASTM F1058の化学組成要件に準拠する材料に対しては、典型的な冷間加工調整工程は、冷間加工(真歪み)を、50%(0.69単位)、65%(1.05単位)もしくは92%(2.53単位)のような少量に、および99.0%(4.61単位)、99.9%(6.91単位)もしくは99.95%(7.60単位)のような多量に、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲の間で付与できる。これらの材料には、限定されるものではないが、500μm未満の直径を有するFWM1058ワイヤ、小寸法において500μm未満の厚さを有するFWM1058リボン、500μm未満の直径を有するConichromeワイヤ、500μm未満の直径を有するエルジロイTMワイヤ、500μm未満の直径を有するフィノックスワイヤが挙げられる。
【0050】
ワイヤ10の直径をかなり減少させる冷間加工調整工程は、ワイヤ10の中の特殊な材料システムに応じて、転位、積層欠陥、および変形双晶を含む機構を経由して結晶学的欠陥を増加させ、図3中の14にて概略的示した伸長結晶構造を生成する。図3に示した伸長結晶構造の生成は、材料固有のスリップ面に沿った個別結晶の塑性的変形の結果であり、多軸歪み、結晶回転、および終局的に冷間加工方向に沿った軸方向に延長したまたは伸長したミクロ構造をもたらす。冷間加工の間に付与されたかなりの量のエネルギーは、熱を発生して失われるが、各結晶または粒子の中に蓄積されたエネルギー量は冷間加工の変形の増加につれて実質的に増加する。この蓄積されたエネルギーおよび粒子の核形成部位として作用する可能性のある欠陥は、以下に詳細に説明されるように、再結晶化プロセスを促進する。
【0051】
2.ナノ再結晶化
冷間加工調整工程の後で、ワイヤ10はナノ再結晶化を受ける。ナノ再結晶化は材料中でナノ粒子を形成する動的なプロセスであり、本明細書で使用される場合、「ナノ再結晶化」は、制御された時間および温度条件下で実行される熱処理を意味し、結果として、本明細書で規定されるようなサブミクロンスケールの粒子組織の生成をもたらす。ある実施形態では、ナノ再結晶化は、冷間加工調整されたワイヤ10をアニールすることによって達成でき、再結晶化された等軸結晶構造を得る。この実施形態では、ワイヤ10は、ワイヤ10を炉中で、例えばナノ再結晶化温度に加熱することによるナノ再結晶化を受ける。図4に示されるように、ナノ再結晶化工程では、サブミクロンスケールの等軸結晶16がワイヤ10の中に生成する。
【0052】
ナノ再結晶化は、冷間加工調整工程で形成された個別の伸長された結晶または粒子に蓄積されたエネルギーの増加によって容易に達成でき、そのことは、ナノ再結晶化工程を経由してワイヤ10の中に比較的少量のエネルギーを投入することによってナノ粒子結晶構造がワイヤ10の中で素早く形成されることを可能にする。冷間加工はまた、積層欠陥、転位、およびその他の高エネルギー特徴部位のような、高密度の粒子核形成部位を生成し、かつ超微細なナノ構造を形成する傾向を強める。
【0053】
従って、ある典型的な実施形態では、所定の金属または金属合金に対するナノ再結晶化温度は通常のアニール温度よりも実質的に低い。ナノ再結晶化工程のアニールの滞留時間は、秒単位から分また時間の範囲であることができる。1秒未満の短時間がより高い温度において使用されてよい。使用される合金によっては、材料をナノ再結晶化またはアニール工程に続いて迅速にクエンチすることは必須ではない。
【0054】
例えば,ASTM F562の化学組成要件に準拠する材料に対して、本方法に従ってナノ粒子ミクロ構造を形成させるに好適なナノ再結晶化温度は、600℃、750℃、もしくは810℃のような低温、および890℃、900℃もしくは950℃のような高温であってよいし、アニール時間は、0.1s、0.2s、もしくは0.8sのような短時間、および15s、120s,もしくは3600sのような長時間、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内であってよい。これらの材料には、限定されるものではないが、500μm未満の直径を有するMP35NTMワイヤ、500μm未満の直径を有する35NLTTMワイヤ、および小寸法において500μm未満の厚さを有する35NLTTMリボンが挙げられる。
【0055】
304ステンレススチールに対しては、本方法に従ってナノ粒子ミクロ構造を形成させるに好適なナノ再結晶化温度は、600℃、640℃、もしくは680℃のような低温、および760℃、850℃もしくは950℃のような高温であってよいし、アニール時間は、0.1s、0.2s、もしくは0.8sのような短時間、および8s、120s,もしくは3600sのような長時間、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内であってよい。これらの材料には、限定されるものではないが、500μm未満の直径を有する304Lステンレススチールワイヤ、および小寸法において500μm未満の厚さを有する304Lステンレススチールリボンが挙げられる。
【0056】
316Lステンレススチールに対しては、本方法に従ってナノ粒子ミクロ構造を形成させるに好適なナノ再結晶化温度は、600℃、680℃、もしくは740℃のような低温、および820℃、8750℃もしくは950℃のような高温であってよいし、アニール時間は、0.1s、0.2s、もしくは0.8sのような短時間、および8s、120s,もしくは3600sのような長時間、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内であってよい。これらの材料には、限定されるものではないが、500μm未満の直径を有する316Lステンレススチールワイヤ、および小寸法において500μm未満の厚さを有する316Lステンレススチールリボンが挙げられる
【0057】
ASTM F1058の化学組成要件に準拠する材料に対して、本方法に従ってナノ粒子ミクロ構造を形成させるに好適なナノ再結晶化温度は、600℃、750℃、もしくは810℃のような低温、および890℃、900℃もしくは950℃のような高温であってよいし、アニール時間は、0.1s、0.2s、もしくは0.5sのような短時間、および12s、120s,もしくは3600sのような長時間、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内であってよい。これらの材料には、限定されるものではないが、500μm未満の直径を有するFWM1058ワイヤ、小寸法において500μm未満の厚さを有するFWM1058リボン、500μm未満の直径を有するConichromeワイヤ、500μm未満の直径を有するエルジロイTMワイヤ、および500μm未満の直径を有するフィノックスワイヤが挙げられる。
【0058】
ナノ再結晶化工程は、通常の金属加工が実施される、例えば空気中などの任意の環境で実行でき、または任意選択で、窒素のような不活性雰囲気、ハロゲンガス、または希ガス中で実行してよい。
【0059】
有利なことに、本明細書で詳細に説明される冷間加工調整は、標準的な材料中に一般的に存在するよりもより多くの粒子の核形成部位、または粒子形成部位を生成し、再結晶化プロセスを開始するのにより少ない熱エネルギーを必要とする。結果として、再結晶核が形成され、その核は空間的に他の再結晶核のナノメートル以内である。再結晶核の密度および低い熱エネルギー障壁に起因して、再結晶化を開始させるための加熱直後のクエンチにより、それぞれ35NLTTM合金およびニチノールに対する図7および23(a)で示されるように、一様でほぼ均質なナノ粒子構造がもたらされる。
【0060】
3.追加の冷間加工
更に、いくつかの典型的な実施形態では、ワイヤは追加の冷間加工を受ける。例えば、MP35NTM合金または35NLTTM合金は、耐疲労損傷の代表的レベルを維持しながら機械的強度を増加させる目的で、有効断面の低減を達成するか、または冷間加工レベルを5%、10%、もしくは15%のような少量、および60%、70%もしくは99%のような多量で、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内で達成するために延伸してもよい。
【0061】
4.その他のプロセスパラメーター
表1(下に示す)は、本方法の実施形態に従って調製される種々の材料並びの「対照」の材料のための代表的プロセスパラメーターを列挙する。本明細書で使用する場合、「対照」材料は、本方法に従った加工を受けない材料である。
【0062】
非形状記憶の生体適合性金属合金の製造プロセスについての上記の議論を参照して、表1の「中間的歪み」は、ワイヤが中間的な径に延伸された後でかつ最終延伸およびアニールの前の歪みを指す。上記のように調製された材料に対して、この「中間的歪み」は、冷間加工調整工程の後の歪みである。
【0063】
「最終歪み」は、表示された直径をワイヤが有するときの、最終延伸およびアニール後の歪みである。「最終アニール温度」および「最終アニール滞留」は、表1に列挙した実施例に対する最終アニールプロセスに対するものである。上記で説明したように調製された材料に対しては、これらの典型的パラメーターは、ナノ再結晶化工程のものを記述している。最終歪みがゼロである実施例では、この「最終アニール」は、プロセス中の最後の熱機械的工程、すなわち追加の冷間加工が適用されないことである。最終歪みがゼロより大の実施例では、その材料は最終アニールの後で更なる加工を受けた、すなわち、追加の冷間加工が適用されたことである。
【0064】
例えば、表1の2行目(35NLTTM対照材料)は、35NLTTMで作製されたワイヤであり、0.695真歪みに延伸され、1066℃で10秒未満の間アニールされ、次いで0.48真歪みに延伸されて最終直径が177μmであることを指す。3行目(35NLTTM)は、5NLTTMで作製されたワイヤであり、3.270真歪みに延伸され(冷間加工調整工程)、850℃において5秒未満の間でアニールされ(ナノ再結晶化工程)、およびアニール工程の後で再度延伸されない(最終歪みがゼロのため)ことを指す。4行目(35NLTTM−HS)は、35NLTTMで作製されたワイヤであり、3.100真歪みに延伸され(冷間加工調整工程)、850℃において3秒未満の間でアニールされ(ナノ再結晶化工程)、およびアニール工程の後での第2の延伸(追加の冷間加工調整工程)があり、最終の真歪みが0.473,および仕上げの直径が177μmである事を指す。追加の冷間加工は、以下に議論されるように改良された降伏強度を与える。
【0065】
表1において、「HS」は、上記のように追加の冷間加工を受けた高強度の材料を表す。「F」はフラットなリボンまたは細片材料を表す(ワイヤと対照的に)。そして「FWM1058」は、ASTM F1058の化学組成要件に従って作製された材料を表し、インディアナ州のフォートウェインの Fort Wayne Metals Research Products社から入手可能である。表1に示した材料の性質は同様に表3に表示した(以下のセクションIIに示した)。表1の材料は、加工実施例1および以下のセクションIIIの3−8で詳細に議論される。
表1 種々の実施例材料調製のプロセスパラメーター
【0066】
【表1】
【0067】
B.形状記憶材料
種々の形状記憶材料は、本方法に従った方法によりナノ結晶材料にできる。本方法の実施形態で使用するに好適な形状記憶材料の例には、ニチノール(ニッケル−チタン、二元系形状記憶材料)、ニチノール三元系または四元系合金(クロム、タンタル、パラジウム、白金、鉄、コバルト、タングステン、イリジウム、金のような添加物を有するニチノール)などが挙げられる。
【0068】
本明細書に説明される性質および利点を有する形状記憶合金ワイヤの製造方法の典型的な例では、最初にニチノールはインゴットを作ることができる任意の既知方法を用いて溶融される。インゴットはその後の加熱、加温、およびワイヤ形態に冷間加工するのに好適である。加熱、加温、および冷間加工の組み合わせを使用して、例えば、約2〜5mmの直径を有するニチノールワイヤの供給原料を作る。この供給原料は次に、酸化され、通常のワイヤ延伸の常套手段を用いて、仕上げのワイヤ生産のための好適な出発点としての中間的直径に繰り返し冷間延伸およびアニールされる。
【0069】
中間的径に延伸されたら、次いでそのワイヤを、50〜500MPa(7〜70ksi)の一定テンションの下で連続的にアニールする。その時の温度は450℃〜850℃(723K〜1123K)の間の任意の温度であり、あるいは前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内で行う。
【0070】
ワイヤの中間的径は、一般的に仕上げ保持の冷間加工レベルが、15%または25%のような少量、および50%または60%のような多量、または前記冷間加工の値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内のレベルをもたらすように選択される。このことは、最終の仕上げ工程において、ワイヤを1つ以上のダイを通過させて延伸し、最終アニールの前のワイヤに15%〜45%の間の冷間加工を与えることを意味する。
【0071】
最終の寸法決定は、中間的ワイヤを一連のダイヤモンド延伸ダイを通過させて引き出すことによって達成される。図5を参照して、ワイヤ20は、距離D2で分離されて対向するダイヤモンドディスク22、24を通過させて延伸または引き出され、そうでなければ任意のタイプのワイヤ延伸ダイを通して延伸される。 距離D2はワイヤ20の始発の直径D1よりも小さい。その結果、ワイヤ20はディスク22、24の間から出るので、仕上げ直径は実質的に距離D2に等しいことになる。あるいはワイヤ20最終寸法決定は、図5に示したワイヤ10および上記議論と同様に、ワイヤ10を潤滑化ダイに通して延伸することによって、達成できる。
【0072】
最終の寸法決定によってニチノール材料に与えられた冷間加工(または真歪み)は、20%〜99.95%(0.22単位〜7.60単位)の範囲であってよい。例えば、典型的な冷間加工調整工程は、冷間加工(または真歪み)を、20%(0.22単位)、30%(0.36単位)、もしくは35%(0.43単位)のような少量で、および95%(3.00単位)、99.0%(4.61単位)もしくは99.95%(7.60単位)のような多量で、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内で行う。この範囲の最終の冷間加工を受けることができるニチノール材料には、限定されるものではないが、500μmの直径を有するニチノールワイヤ、小寸法において2mm未満の厚さを有するニチノールリボンまたは細片材料、2mm未満の壁厚さを有するニチノールチューブ材料、および5mm未満の直径を有するニチノール棒材料、が挙げられる。
【0073】
最終熱処理またはナノ再結晶化工程は、サブミクロンスケールの粒子径を生成するために使用されるアニール工程である。このアニール工程は、ニッケル豊富な析出物および/または析出物の成長を促進させること無しにナノ再結晶化プロセスを推進する。
【0074】
大抵のニチノール合金に対する、本方法に従ってナノ粒子ミクロ構造を形成するのに好適なナノ再結晶化温度は、300℃、375℃、もしくは475℃のような低い温度、および510℃、550℃、もしくは600℃のような高い温度、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内であってよい。これらの合金には、限定されるものではないが、500μmの直径を有するニチノールワイヤ、小寸法において2mm未満の厚さを有するニチノールリボンまたは細片、および2mm未満の壁厚さを有するニチノールチューブ材料、が挙げられる。
【0075】
例えば、5mm未満の直径を有するニチノール棒材料のようなその他のニチノール材料に対して、本方法に従ってナノ粒子ミクロ構造を形成させるのに好適なナノ再結晶化温度は、300℃、375℃、もしくは450℃のような低い温度、および530℃、550℃、もしくは600℃のような高い温度、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内であってよい。
【0076】
アニール工程は、析出物の形成を制限するために、0.1s、0.2s、もしくは2sのような短時間、および90s、900s、もしくは5400sのような長時間、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内の時間であってもよい滞留時間の連続アニールとして実施できる。上記の温度でこの範囲の滞留時間が可能であるニチノール材料には、限定するものではないが、500μmの直径を有するニチノールワイヤ、小寸法において2mm未満の厚さを有するニチノールリボンまたは細片、2mm未満の壁厚さを有するニチノールチューブ材料、および5mm未満の直径を有するニチノール棒材料が挙げられる。
II.本製造方法に従って作製されたワイヤの特性の説明
A.非形状記憶の生体適合性金属合金
【0077】
以下で議論されるように、本方法に従って作製された金属および金属合金ワイヤは、以下のことを含む、数個の新規な物理的特性および/または物理特性の新規な組み合わせを示す。
1.ナノ粒子ミクロ構造
【0078】
上記のセクションI−Aで説明したプロセスのような、本方法に従って製造されたワイヤは、サブミクロンスケールまたはナノ粒子のミクロ構造を示す。本明細書で使用した場合、「サブミクロンスケール」および「ナノ粒子」は、結晶、すなわち、粒子が500nm以下の平均的結晶径を有する結晶構造を指し、「結晶径」によって、任意の平断面の全域であらゆる所定の結晶を横断する最大面の寸法を指す。図4に描写したような典型的な実施形態において、結晶16は、例えば、平均的結晶径または粒子径として、10nm、50nm、75nm、もしくは100nm、のような小さな、または300nm、350nm、400nm、450nmもしくは500nmのような大きな、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内の大きさであってよい。粒子径は、ASTM E112を含む、粒子径を測定するのに好適な任意の方式により測定し、その粒子径を平均して決定できる。
【0079】
1つの典型的な方法では、電子顕微鏡を使用して材料サンプルの平均結晶径または粒子径を測定できる。詳細には、電界放出走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して、例えば強い境界コントラストを示す数100の結晶を含む画像を集める。TEMを使用して集めた画像の例を、例えば、図7,10(a)および11(a)−(c)に見ることができる。次に、その画像を(図10(b)のような)粒子測定に好適なバイナリフォーマットに、例えば,ワシントンD.C.の国立衛生研究所からオンラインで無料入手できる、ImageJソフトウエアを使用して変換する。解像できる粒子を楕円体でモデル化し(図10(c)参照)、続いて、結晶径または粒子径、例えば、平均径、最大径、および最小径に関して得られる統計値をデジタル的に測定する。得られる平均結晶径は、サンプルを採った材料の平均結晶径であると見なされる。
【0080】
2.高サイクル疲労強度
本方法に従って作製されたサブミクロンンスケールの結晶径または粒子径の材料は、回転ビーム疲労試験で測定された場合に、大いに改良された高サイクル疲労強度のナノ結晶材料をもたらす。回転ビーム疲労試験は、Jeremy E. Schaffer(プルード大学)によって2007年8月に発表された「35Co−35Ni−20Cr−10Mo合金の医療用微細ワイヤにおける疲労寿命の変動をモデル化する階層的開始機構のアプローチ(A Hierarchical Initiation Mechanism Approach to Modeling Fatigue Life Variability in 35co− 35ni−20cr−10mo Alloy Medical Grade Fine Wire)」(非特許文献1)、およびMitesh PatelよってJournal of ASTM International, 4巻,6号に発表された「回転ビーム試験によるニッケル−チタン合金の疲労応答性の特徴付け(Characterizing Fatigue Response of Nickel−Titanium Alloys by Rotary Beam Testing)」(非特許文献2)の記述のように行った。本明細書で使用した場合、用語「高サイクル疲労強度」は、例えば疲労強度または代替する応力レベルが100万回より大で破壊に至ること事を指す。
【0081】
本改良は2つの相互依存現象から生じると考えられる。1つは粒子境界に束縛されたマトリックスを介する転位伝播に必要なエネルギーが増加したことであり、転位は結晶材料中の永久的な塑性損傷の仲介因子であるからである。もう1つはテクスチャ効果に起因し、テクスチャ効果は、冷間加工調整の後のナノ再結晶化プロセスによって推進される非ランダムな結晶学的配向分布を伴い、そのことは荷重を負担する軸方向における材料のコンプライアンスを増加させる。例えば粒子径が1000nm(1μm)を超過する通常のMP35NTM合金ワイヤでは、主要な疲労損傷は、表面近くもしくは表面外周のマイクロクラックを仲介する転位形成、またはサブ表面の応力集中によって生じる。例えば200nmの平均粒子径を有するワイヤのようなナノ粒子MP35NTM 合金ワイヤでは、これらのタイプの転位が移動または伝播することがはるかに困難である。その理由は、転位が、粒子境界のより高い含量または出現率に関連する応力場によって妨害されるからであり、そして転位を推し進める分解せん断応力(resolved shear stress)は、次のセクションで論じられるようにテクスチャ効果によって低減されるからである。従って高サイクル疲労強度および材料の降伏強度は既定の極限引張強度レベルに対して増加することになる。
【0082】
3.結晶配向
本方法は結晶学的テクスチャを増加させることが示され、非ランダムでプロセス特有な結晶配向分布またはテクスチャを生成することが示された。以下で論じられるように、粉末電子回折パターンは非ランダムな結晶配向分布の証拠を示す。例えば,図6の右手上部に示される粉末電子回折パターンを参照すると、ランダムに分散したドット付きリングが、[100]晶帯軸、即ちワイヤ横断方向に対して垂直な軸を主として証拠立てる、高強度のスポット40を含むパターンとして現れている。既知の等軸ミクロ結晶材料は、一般的にランダムに分散したドット付きリングを示すことが知られている。
【0083】
好ましい配向という独特の特性は、金属および/または金属合金に特異的であり、同様にプロセスに特異的であり、本方法に従って製造されたワイヤの全実施形態において存在したりしなかったりする。例えば本明細書で示されるように、 非ランダムな結晶配向分布はMP35NTM合金から本方法によって生産したワイヤ中に認められ、一方、よりランダムなナノ粒子分布が、二元系ニチノール(ニッケル−チタン)形状記憶合金から本方法よって生産されたワイヤ中に認められた。
【0084】
このテクスチャ現象は、MP35NTM合金が冷間ワイヤ延伸の間に特定のスリップシステムに従った塑性変形に伴う結晶回転効果による、ファイバーテクスチャ化(fiber texturization)を受ける傾向があることに関連すると考えられる。ここでスリップシステムは、結晶変形またはスリップが、それに沿って発生する結晶内部の特定方向として規定され、再結晶化後でさえもある程度発生する。本方法の冷間加工調整工程は、非ランダムに変形したスリップ面、双晶境界またはその他の結晶学的形体に従って起こる、好ましい粒子核形成部位を生成する。
【0085】
テクスチャの強度および感知は、TEMおよび電子後方散乱回折(EBSD、electron backscatter diffraction)技術を含む種々の技術を使用する電子顕微鏡によって解析できる。EBSDにおいては、10から40keV の電子ビームを使用して、ワイヤの横断断面のような研磨表面を精査し、散乱ビームを像として集め、幾何学的に解析して多くの結晶に対して断面全体の結晶配向を決定する。成功したEBSD解析の最終結果は、問題になっているサンプル全体の結晶配向を統計的に定量化することであり、方位像顕微鏡(OIM、orientation imaging microscopy)と呼ばれる技術で配向マップとして表示される。通常のアニール実施は、増加した熱エネルギーに伴う高度な拡散に起因する核形成の特徴によって規定される初期配向を顕著に取り除き、および効果的にランダムな配向をもたらす。対照的に、本明細書に説明したMP35NTM合金を調製するための代表的プロセスではテクスチャが保存され、結果として予備アニール変形および熱処理加工パラメータによって異方性を制御できる独特な材料が得られる。
【0086】
4.疲労耐久度
医療用材料で作製された通常の金属ワイヤは、交番疲労の歪み限界(alternating fatigue strain limit)、(これ以降は耐久限度と称する)を有し、その限界以下では、材料は、疲労破壊する前に1000万回の疲労サイクルに持ちこたえる。詳細には、ミクロ粒子結晶構造および25×106psiを超過する弾性率を有する通常の金属ワイヤは、平滑なサンプルを回転ビーム疲労試験によって測定すると0.35%交番歪み付近またはそれ以下の耐久限度を有する。その試験法は、Jeremy E. Schafferによって2007年8月に発表された(非特許文献1)、「35Co−35Ni−20Cr−10Mo合金の医療用微細ワイヤにおける疲労寿命の変動をモデル化する階層的開始機構のアプローチ(A Hierarchical Initiation Mechanism Approach to Modeling Fatigue Life Variability in 35co− 35ni−20cr−10mo Alloy Medical Grade Fine Wire)」で論じられた方法に従った。
【0087】
対照的に、ナノ結晶構造を有し本方法に従って製作した金属ワイヤは、耐久限度が、例えば図8に示され、かつ以下の実施例1および3−7で論じられるミクロ粒子結晶構造を有する、通常の金属ワイヤの耐久限度を20%〜130%上回る耐久限度を有する。
【0088】
例えば以下の表2に示されるように、疲労荷重能力における改良は、対照実験材料と比較して本方法に従って作製されたワイヤにおいて実証され、一部のナノ粒子材料では、高サイクル(即ち、108サイクル)歪み許容限界において100%増加を示す。表2の材料は、以下のセクションIIIの中で、実施例1および5−7で詳細に論じられる。
表2 種々の材料の疲労荷重能力
【0089】
【表2】
【0090】
5.延性、疲労強度,および降伏強度
軸方向のワイヤ延性は、例えば、ペースメーカーリード要素のコイリング、および生体刺激リード用ケーブリングのような種々の形成加工用途のための金属材料の適合性を決定するのに重要な基準値である。軸方向のワイヤ延性はまた、ワイヤの靭性、およびヒト体内での応力に耐えるワイヤ性能の決定にも重要である。通常のワイヤ製造の実施では、材料の高サイクル疲労強度および降伏強度を増加させながら材料の延性を減少させる。通常、延性は、混在物の再結晶化、粒子成長、並びに降伏強度および高サイクル疲労強度の減少を伴うアニールを介して回復される。
【0091】
所与の荷重方向における材料剛性の1つの尺度は、弾性ヤング率として知られ、弾性ヤング率は、これ以降、ワイヤの軸方向ヤング率または単に弾性率と呼ぶ。高い弾性率を有する材料は、軸方向の弾性変形の所定の増加に対して、比較的低い弾性率を有する材料よりも、より大きな力を持って変形に抵抗する。この場合、比較的低い弾性率を有する材料は、より従順であり、所定の弾性歪みの増加に対してより少ない内部弾性エネルギーを蓄積し、結果としてより少ない、内部応力および潜在的疲労クラック起動力をもたらすことになる.このことは本方法によって作製されるワイヤの改良された歪み制御疲労性能の原因となるもう1つの現象と考えられる。
【0092】
本方法は、高い延性の相対的度合を与えると判明し、例えばモノフィラメントワイヤの破壊に至る軸方向公称歪みは約2%、4%、または8%より大であり、ケーブルまたはブライド製品の破壊に至る軸方向公称歪みは約1.5%、3%、または6%より大であり、同時に疲労強度を増加させ、かつ高い降伏強度、および降伏強度と極限強度との比を保持させる。例えば、すでに示したことおよび以下に論じることのように、本方法による生体適合性材料から作製されたワイヤの実施例においては、幾つかのワイヤ材料では、破壊に至る軸方向公称歪みは8%より大であり、降伏強度と極限強度との比が90%を超過するという組み合わせ特性が認められる。延性であって、疲労限界/耐損傷性が高く、および降伏強度が高いという、この独特で好ましい組み合わせは種々の用途にとって利点である。以下の表3には、本方法に従って作製されたワイヤ材料の代表例および対照の疲労特性および強度特性を例示するものが含まれる。
B.追加の冷間加工を有する生体適合性金属合金
【0093】
上記のように、例えばASTM F562の化学組成要件に従う材料で作製されたワイヤは、任意選択でナノ再結晶化に続いて追加の冷間加工を受けることができる。追加の冷間加工が実施されると、ワイヤは、以下のことを含む、新規な物理特性および/または新規な物理特性の組み合わせを示すことができる。
1.増加した極限強度
【0094】
上記で説明したワイヤのように、本方法に従って作製されたナノ結晶ワイヤは、更なる極限破壊強度を示すことができる。この追加の強度は、いくつかの装置においてワイヤが過荷重に抵抗するのに役立つことができ、その装置には、以下のセクションIVで詳細に論じられるように、心臓ペーシングリード、または電気的除細動リードワイヤを含む医療装置が挙げられる。例えば、ASTM F562の化学組成要件に準拠する合金で本方法に従って調製されたものにおける追加の冷間加工(本明細書で詳細に論じられるように)は、追加の冷間加工が全くない同様なナノ結晶合金材料に対する1400〜1500MPaの強度レベルと比較して1900MPaに至る極限強度を示した。この冷間加工された材料を、2200〜2500MPaのような高い値に極限強度を増加させるために、更に300℃のような低い温度または800℃のような高い温度で熱処理できる。
【0095】
2.形状安定化
幾つかの用途では、形成後の熱処理を介した形状安定化が望まれる場合がある。そのような用途には、セクションIVで論じられるように、例えば冠状動脈リードの製造、コイル製造、またはケーブル製造が挙げられる。これらの場合、本方法の実施形態に従って製造されたナノ結晶材料は、続いて追加の冷間加工を受けた際に、ミクロ構造に貯蔵されたエネルギーによる更なる利益を提供できる。例えば、MP35NTM合金のような材料は、実質的に低温で反応させるために貯蔵されたエネルギーが必要とされる。その温度は、550℃、625℃、もしくは700℃のような低い温度、または870℃、900℃、もしくは950℃のような高い温度、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内の大きさであってよい。本明細書で説明されるように、追加の冷間加工がないと、ナノ再結晶化材料は、標的のパーツ形状を有利に安定化させるように反応することができない。
【0096】
更に、本方法に従って作製された材料は、対照材料と比較して改良された引張強度を示す。例えば、以下の表3には、本方法に従って作製されたワイヤにおいて、高強度、および/または破断前のより大きな歪みに耐える性能のような改良が示される。例えば、以下の表3には、本方法に従って作製されたワイヤにおいて、高強度、および/または破断前のより大きな歪みに耐える性能、および/または材料中に残留応力勾配が比較的少ないことを示す増加した降伏強度/極限強度比、のような改良が示される。表3において、「HS」は上記のように追加の冷間加工を受けた高強度材料を指し、「F」はフラットなリボンもしくは細片の材料(丸いワイヤと対立させて)を指し、および「FWM1058」は上記で論じたように、ASTM F1058の化学組成要件に従って作製された材料を指す。表3の材料は、加工実施例1および以下のセクションIIIの3−8で詳細に論じる。
表3 種々の対照およびナノ粒子材料の引張特性
【0097】
【表3】
【0098】
形状記憶材料
上記のセクションI−Bにて説明した方法のような本方法に従った製造方法の使用は、ニチノールを含むNiTi形状記憶合金に適用でき、結果として次の粒子径を有するNiTiワイヤの生成をもたらす。粒子径は、1nm、10nm、もしくは25nmのような小さいもの、および75nm、150nm、もしくは350nmのような大きなもの、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内の大きさである。更に、本方法に従って作製された金属および金属合金ワイヤは、以下のものを含む、数個の新規な物理特性および/または物理特性の新規な組み合わせを示す。
【0099】
1.析出物がないこと
等軸で均質なミクロ構造が、177μm直径を有し平均粒子径が50nm〜10μmの間にある、ニチノールワイヤで生成される。すべての材料は、Ni豊富なレンズ状の析出物を含まなかったという証拠が示される。1つの典型的な実施形態では、材料は、標準的な明視野TEM分析で視認できるTixNiy析出物が実質的になかった。別の典型的な実施形態では、材料は、寸法が5nmを超過するTixNiy析出物がなかった。ナノ結晶、析出物がないミクロ構造、全体的転移歪み能力(total transformation strain capability)の結果として、図7で表示される材料のプラトー長さL2が改良される。
【0100】
2.活性オーステナイト転移温度
約100nm未満の平均粒子径を有するサンプルにおいて、多段性の可能性がある拡張曲げ部および応力無しの歪み回復が見出された。図14に示される活性オーステナイト転移終了温度(Af)の増加は、以下でより詳細に論じられるが、主として高い粒子境界エネルギー密度に起因し,かつナノ結晶ワイヤにおける粒子拘束効果によるものと仮定される。図14に同様に示されるオーステナイト開始温度(AS)において、同時的上昇は、これらのサンプル中で観察されなかった。このことは、種々のNi豊富な析出反応から想定されるようなマトリックスのNi欠乏がないことを示唆する。典型的な実施形態では、得られた材料は325K以下のAfを有していた。
【0101】
3.無負荷プラトー強度および極限引張強度
粒子径の減少は、無負荷プラトー強度(図7に示される曲線の下方の近似的に勾配ゼロの部分で概略的に表示される)と、永久変形の消滅と組み合わさった極限引張との両方において、かなりの増加が同時に起こった。図14に示され、かつ以下で詳細に論じられる1つの典型的な実施形態では、材料は1100MPaより大の極限引張強度を有していた。
【0102】
4.強度特性
強度特性において40%の増加が、図15(d)に示されるように、粒子径が100と50nmとの間で発生した。これらの効果は、マルテンサイト変異体の活性と、完全に適応されたミクロ構造のその後の弾性負荷とが古典的なミクロ粒子の強度増加効果と組み合わさって関係している可能性がある。
【0103】
5.4%歪みサイクルにおけるゼロの永久変形
4%歪みサイクルにおけるゼロの永久変形は、図15(c)および以下で詳細に論じられるように、平均粒子径50nmの、等軸で、析出物のない、および歪み無し材料で示された。
【0104】
6.回復性歪み
図7を参照して、ナノ結晶ニチノールワイヤにおいて、図7でL1にて示されるニチノールの9.6%公称等温回復性歪み、および公称回復性歪みが[123] 配向における理論的限界の90%より大であることを実証した。この試験は、温度T=298±5K、またはAf±10Kで、単軸引張試験として実施した。100nmの等軸粒子径を有する析出物のない構造では、転移プラトー(transformation plateau)は10%軸方向公称歪みより大に拡張し、10.1%軸方向公称歪みで終わった。このことは軸方向公称破断歪みが10%歪みより大で、1%非回復性歪みより小であることを提供する。従って、熱摂動のない全回復性歪みは9%過剰であった。更に長いプラトー挙動は欠陥密度が低減した状態を含む均質な転移に対する好ましい条件に起因し、より大きな利用可能転移容積およびテクチャ効果の可能性をもたらした。
【0105】
7.無負荷剛性と粒子径との相関関係
無負荷剛性は、図15(a)に示されるように、粒子径が100nmから50nmに動くと、段階的に42GPa〜29GPaに減少することが分かった。 この挙動は、単一および複合したマンテルサイト変異体との間のエネルギー的な競合の結果であろう。剛性改変のメカニズムを描写することにより、例えばニチノールステントのような、装置の設計を容易にできる。ニチノールステントでは、荷重剛性および無負荷剛性が、装置機能および血管応答性の両方で動力学的に重要である。
【0106】
8.弾性、歪み転移、機械強度、および疲労限界歪みの組み合わせ
典型的なニチノール製品は、擬似弾性体として、一般的に約773Kで60秒間より大で加熱するように設計される。本方法は、良好な弾性および約7.1%歪みより少ないプラトー長さ(図7でのL1)を有する材料をもたらす。通常の考えでは、等軸の、アニールしたニチノールは、弾性が劣り、歪みサイクルの間で高レベルの塑性流動を示すと示唆される。しかしながら、上記で論じたように、本方法に従って作製された材料は、ナノ結晶で等軸のニチノールワイヤを与え、そのものは、良好な弾性、拡張した歪み転移プラトー(低い析出物密度とテクスチャの効果が組み合わさって)、および良好な機械強度(>1199MPaUTS)、並びに106サイクルにおいて0.9%を超過する疲労限界歪みを有する。
【0107】
III.実施例
以下の非限定的実施例は、本方法による種々の特徴および特性を例示するが、それらは限定されるものではないと解釈すべきである。
実施例1
ナノ粒子結晶構造を有する、ASTM F562の化学組成要件に準拠する合金ワイヤの製造、およびそのワイヤの物理的性質の特徴表示
【0108】
この実施例では、代表的なワイヤは、ASTM F562の化学組成要件に従って35NLTTM ワイヤの形体で作製されたものであり、0.0076mm(0.0030インチ)〜0.18mm(0.0070インチ)の範囲の直径を有するものを製作し試験した。そのワイヤは、本方法の実施形態に合致したワイヤ特性および特徴を示した。
【0109】
1.実験的手法
本方法は、VIM(真空誘導溶解)/VAR(真空アーク再溶解)の35NLTTM インゴットで開始し、インゴットを加熱ローリングで加工し棒材にした。次いで材料を、通常の方法で反復的な冷間加工およびアニール加工し1.6mm直径にした。1.6mmにおける通常のアニール工程に続いて、材料を丸いダイヤモンドダイを通過させる冷間延伸によって0.91mmにした。次に材料を従来のようにアニールし、約1〜5μmの平均粒子径を有する等軸粒子構造にした。
【0110】
本方法の冷間加工調整およびナノ再結晶化工程に関して、ナノ再結晶化のための35NLTTM 合金の調製では、冷間加工調整工程において比較的多量の変形を伴うことが見出された。
【0111】
本実施例では、ナノ再結晶化の準備において、0.45−0.91mmの範囲の直径を有するアニールしたワイヤに延伸による冷間加工調整工程を施し、直径を小で0.076mm(0.0030インチ)および大で0.18mm(0.0070インチ)にした。従って、上記の式Iによると、冷間加工調整は材料に98%までの冷間加工を与えたことになった。
【0112】
2.結果
ナノ再結晶化工程を、850℃で約2〜3秒の滞留時間で実施した。得られたナノ粒子結晶構造を図6に示し、図6の右手側の上部に粉末電子回折パターンを示し、非ランダム結晶配向が示される。詳細には、ランダムに離間したドット付きリングが、 [100] 晶帯軸、即ちワイヤ横断する方位に対して垂直な軸を主として証拠立てる、高強度のスポット40を含むパターンとして現れている。既知の等軸ミクロ結晶材料は、一般的にランダムに分散したドット付きリングを示すことが知られている。
【0113】
図8を参照すると、ワイヤの耐久限度の比較がグラフ表示され、耐久限度は、回転ビーム疲労試験によって測定し、本方法の典型的な実施形態に従って作製された種々のワイヤと、通常のワイヤ設計のものとを比較した。以下で議論する。
【0114】
図8において、X形状印で示されたデータポイント51は、以下の表4Aに表示した。この表データは、0.076mm(0.0030インチ)直径の、本方法に従って製造された35NLTTM合金ワイヤを使用して作られた(本明細書で以下の実施例4で詳細に論じた)。図8および表4Aのデータポイント51で示されるように、このワイヤは。1350MPaを超えて応力振幅に耐え、少なくとも0.60の公称歪みであると分かった。
表4A 疲労データ、35NLTTM合金ナノ粒子ワイヤ、直径76μm
【0115】
【表4】
【0116】
図8において黒塗り四角印で例示したデータポイント52は、以下の表4Bに表示した。この表データは、0.18mm(0.0070インチ)直径の、本方法に従って製造された35NLTTM合金ワイヤを使用して作られた。 図8のデータポイント52で示されるように、このワイヤは、1000MPaを超えて応力振幅に耐え、0.450より大の公称歪みであると分かった。
表4B 疲労データ、35NLTTM合金ナノ粒子ワイヤ、直径177μm
【0117】
【表5】
【0118】
対照的に、チャートにプロットしたその他の伝統的ワイヤは、約900MPa未満の応力振幅で破損し、0.400未満の歪み振幅であった。例えば、 直径177μmおよび平均粒子径約3μmを有する、MP35NTMで作製された標準的なミクロ結晶ワイヤは、データポイント54を生成し、図8にダイヤモンド形状印で示し、以下の表4Cに表示した。この物は900MPa未満で破損し、0.400未満の公称歪みを示した。
表4C 疲労データ、MP35NTM標準的ワイヤ、直径177μm、平均粒子径3μm
【0119】
【表6】
【0120】
データポイント56を生成したミクロ結晶ワイヤは、図8に三角印で示し、以下の表4Dに表示した。この物は700MPa未満で破損し、0.310未満の公称歪みを示した。
表4D 疲労データ、MP35NTM標準的ワイヤ、直径177μm
【0121】
【表7】
【0122】
アルトマン(Altman)に記載された(上記で説明した)既知の方法に従って作製されたワイヤは、データポント56を生成し、図8に白塗り四角印で示し、以下の表4Eに表示した。この物は600MPa未満で破損し、または0.73未満の公称歪みを示した。
表4E アルトマン文献による疲労データ
【0123】
【表8】
【0124】
従って、上記および図8および表4A−4Eに示されるように、本方法に従って作製されたワイヤの疲労限界は、通常のミクロ結晶ワイヤを20%〜100%上回る改良を示した。
【0125】
上記で論じたように製造された、約0.12mm〜0.15mm(0.0046インチ〜0.0059インチ)の35NLTTM 合金ワイヤの引張りデータおよび応力−歪み曲線を以下の表5および図11に示した。表5を参照して、公称破断歪みを伸び率(「Elong」)として示し、降伏を降伏強度で表示し、極限強度を極限引張で表示した。このデータはまた図17(a)−17(c)にも提示し、以下で論じる。
表5 表(まとめ)
【0126】
【表9】
【0127】
実施例2
通常およびナノ結晶ニチノール金属間合金ワイヤにおける構造−特性の相関関係
この実施例では、均質な177μm直径のナノ結晶ニチノールワイヤを製造し、等価なインゴット原料からのミクロ結晶ニチノールと比較した。 ワイヤの物理的性質の解析は、循環引張試験、歪み制御疲労試験、および曲げ・自由回復試験(BFR)を以下の説明のように実施した。更に、極度に微細な構造を観察するため、集束イオンビーム(FIB)ミリングを使用して、透過型電子顕微鏡(TEM)用の薄箔サンプルを生成した。 TEM写真により、均質な5〜60nmの粒子径であるB2立方構造を確認した。更に、107サイクルでの一定歪み寿命試験で、ナノ結晶アニールワイヤがミクロ結晶アニールワイヤよりも30%大であることを見出した。更に、粒子径と、超弾性温度内および歪み領域内での単軸引張りサイクル試験における不可逆的塑性歪みとの間で正の相関関係を確認した。
【0128】
1.実験的手法
この実施例では、インゴットが243KのAsで、チタン50.9重量%を含むTiNiの約2mmのニチノールワイヤを等価的に延伸およびアニールし230μm直径のものにした。この段階でのワイヤを、650〜850℃で、公称2μmの粒子径で完全な再結晶化を確実にするに十分な滞留時間で、連続ストランドアニールした。次いでそのサンプルを天然ダイヤモンド延伸ダイおよびオイル系潤滑剤を使用して、仕上げ直径177μmで公称40%保持冷間加工に通常的なウエット延伸した。ワイヤサンプルは、最終的に一定応力で60秒未満の時間で、発生可能なNi豊富な析出物を最小化しながら再結晶化をもたらすように連続的にアニールした。
【0129】
表面付近のミクロ構造および酸化物の厚さの決定は、集束イオンビーム(FIB)および透過型電子顕微鏡(TEM)による薄箔調製および取り出し(extraction)を使用して実施した。調製方法を図22(a)−(d)に絵入りで示した。ターゲットサンプル表面を、最初に白金化合物蒸気の堆積物の薄層でマスクし、イオン打込み損傷からその表面を保護した。マスクしたすぐ後に、粒子径分布を図10(a)−(f)に示されるようにデジタル画像解析を使用して計算した。
【0130】
サンプルの活性転移温度を、曲げ・自由回復(BFR)方法学を使用して解析した。その方法学は、標準ASTM F2082−06(Standard Test Method for Determination of Transformation Temperature of Nickel−Titanium Shape Memory Alloys by Bend and Free Recovery)のための専有のデジタルビデオ解析装置を使用する。サイクルおよび単調な単軸引張特性は、298Kの周囲温度で、歪み速度10−3s−1で、空気式掴み具を装備したインストロン(モデル5565)の引張試験ベンチを使用して測定した。疲労挙動は、ポジトール (Positool)社で製造される回転ビーム疲労試験装置を使用して、3600r/分で、空気中298K周囲温度で特性評価した。各粒子径条件のサンプルを0.5〜2.5%の範囲の交番歪みレベルで最高約108サイクルにて試験した。
【0131】
種々のニチノールワイヤは、177μm直径でうまく製造でき、各ワイヤは異なったレベルの粒子の核形成および成長を有した。平均粒子径が50nm、100nm、2μm、5μmおよび10μmを有する5種の個別のミクロ構造体を、熱機械的(thermomechanical)、メカノサイクリック(mechanocyclic)および構造物疲労試験のために選別した。粒子径の分布は、図10(a)−(c)に示されるようにデジタル画像解析を用いて各材料に対して計算した。テクスチャ状態を観察するため、および析出物反射の証拠を探すため、選択した面積の電子回折パターンを得た。その例を図10(d)−(f)に示す。これらのパターンに基づいて、レンズ状のNi豊富な析出物の証拠は見出されなかった。
【0132】
ナノ結晶サンプルは、延伸後の酸化物表面下材料が最初の10μm以内では均質であると、TEMを使用して確認された。50nm〜2μm範囲の観察された構造を図11(a)−(c)に示す。すべてのサンプルは、等軸のミクロ構造を有し、冷間加工残存物の明白な痕跡は殆ど無く、一番右側図のずっと黒いフリンジを示す画像は、モアレ干渉に伴うフリンジであり、粒子−境界厚さフリンジを強弱の傾きで示す。全サンプルの平均的な酸化物厚さは約120nmであると分かった。その例は図12で与えられ、中央部の円中に酸化物層190が示され、酸化物層は、酸化物層190のすぐ下に白金堆積物192、および酸化物190の上部にNiTiマトリックス194を有する。更に図13は、粒子径50nmに対する累積分布関数(CDF)表示を与え(データセット200で指差)、100nm(データセット202で指差)、2μm(データセット204で指差)、5μm(データセット206で指差)、および10μm(データセット208で指差)を与える。
2.結果
【0133】
活性転移温度を、各サンプルに対して、ASTM標準F2082−6に従った曲げ・回復法を使用して測定した。その方法の題名は、Standard Test Method for Determination of Transformation Temperature of Nickel−Titanium Shape Memory Alloys by Bend and Free Recoveryである。 解析されたすべてのデータは、インゴットのDSCデータと良好に一致する240±5KのAS温度を示した。各サンプルに対する回復データを図14に与え、小さい四角形状の印210は粒子径50nmを有する材料に対するデータを示し、X形状の印212は100nmの粒子径を有する材料に対するデータ、+形状の印214は2μmの粒子径を有する材料に対するデータ、三角形状の印216は5μmの粒子径を有する材料に対するデータ、および小さい四角形状の印218は10μmの粒子径を有する材料に対するデータを示す。100nmより大の等軸粒子径を有するサンプルは、マルテンサイト構造からオーステナイト構造への回復に伴う明確な単一段階の転移を示し、活性Afは250±5Kを有した。50nm粒子径においては、サンプルは(大きな四角形状印210で表示)は幾つかの多段階回復の特徴を示し、少なくとも1つの260K付近の変曲点210’から明らかである。50nmサンプルの277〜279KにおいてのAfに対する計算では、完全にオーステナイト転移であるという仮説を置いた。拡張した熱回復は、ナノ結晶材料では粒子境界のエネルギー含量が高いことと、今までのTEM研究では析出物が検出されなかったけれども、僅かなNi−豊富な析出物に起因するマトリックスNi損失との組み合わせによると仮定される。
【0134】
サンプルの軸方向特性の試験に基づいて、粒子径の関数としての軸方向特性の発生は、古典的なホール・ペッチ(Hall−Petch)の相関関係(より小さい粒子は増加した強度をもたらし、サイクルテストの間の塑性を低下させる)から予想される道をたどった。例えば、図15(c)に示されるように、4%歪みの反転点へ向かう単一歪みサイクル試験では、永久変形により測定された場合に粒子径と塑性変形との間に正の相関が示された。軸方向単調試験で測定した極限引張強度は、図15(d)に示されるように粒子系が減少すると大きく増加した。
【0135】
回復性転移歪みの初期の立ち上がりおよび2μmの粒子径におけるかなりの復元応力の原因は、応力−誘起転移の間の不可逆的塑性挙動の低減であった。微細であればあるほど、転位ネットワーク形成によって、より多くの塑性抵抗ミクロ構造体がマルテンサイトの安定化を受けないようになる。
【0136】
222、220の極限強度(図15(d)に示されるように)と、224,226の無負荷プラトー強度(図15(a)に示されるように)との両方の大きな増加が、それぞれ100および50nm粒子径を有するサンプルで見出された。マルテンサイト系ニチノールにおいて、競合する適応機構が見出され、その機構は、約80nm以下における単一の変異体B19’ プレートの形成と、約100nm以上における双子の複合変異体の形成とである。このタイプの閾値挙動は、これらのサンプルで見出される構成挙動の違いの説明に役立たせることができる。
【0137】
応力誘起マルテンサイトの負荷プラトーの長さが、ミクロ構造状態とともに変わることが見出された。図15(b)は一般的な超塑性プラトー230を示す。すなわち、B19’ マトリックスの塑性負荷の立ち上がりが7%歪で発生した。一方、100nmの等軸粒子径を有する析出物のない構造では、転移プラトー232は、10.1%歪で終わり、無負荷にすると9.6%歪み回復を有した。
【0138】
図15(a)で示されるように、無負荷剛性は、ほぼ粒子径−不変量の42GPaから50nm粒子径での29GPaにかなり減少すると分かった。この例では、粒子径の関数としての変動性が50〜100nmの間で観察された。この挙動は、単一マルテンサイトと複合マルテンサイトとの間のエネルギー競合の結果である可能性がある。
【0139】
回転ビーム疲労試験結果は、粒子径の増加と共に損傷蓄積率が増加することが示された。このことは、寿命が105〜107サイクルである近限界条件で特に明らかであった。例えば、図16(a)は、各粒子径の試験した材料の歪み寿命曲線を示す。四角形状印を有する最低部の曲線240は、10μmの材料寸法に対するデータを示す。ダイヤモンド形状印を有する曲線242は、5μm材料に対するものである。 三角形状印を有する曲線244は、2μm材料に対するものである。 +形状印を有する曲線246は、100nm材料に対するものである。白抜き円形印を有する曲線248は、アニール後の50nm材料に対するものである。黒塗り円形印を有する最上部の曲線250は、アニール前の50nm材料に対するものである。
【0140】
図16(a)と16(b)に示される107サイクルのデータは、序列のついた連続を例示する。すなわち、50nm平均粒子径を有するワイヤに対する曲線248は、0.9%交番歪みレベルにおける疲労損傷抵抗を示し、一方、10μm粒子ワイヤに対する曲線240は、0.6%レベルにおける疲労損傷抵抗を示す。曲線242、244、246で表示されるその他の構造ではこれらの値の間で順番に低下した。
【0141】
実施例3
ASTM F562組成要件に従った形状化ワイヤ材料
以下の、図17(a)−17(c)および表6−8並びに19を参照して、この実施例では、25NLTのフラット形状ワイヤを以下の寸法で製造し試験した。厚さを小さい方の横断寸法として規定し、それは0.127mm(0.0050インチ)であった。幅を小寸法と直交する横断寸法として規定し、それは0.229mm(0.0090インチ)であった。それらの材料は、本方法の実施形態に従ったワイヤの性質および特性を示した。
【0142】
1.実験的手法
本方法は、VIM(真空誘導溶解)/VAR(真空アーク溶解)の35NLTTM インゴットで開始し、インゴットを加熱ローリングで加工し棒材にした。次いで材料を、通常の方法で反復的な冷間加工およびアニール加工し1.6mm直径にした。1.6mmにおける通常のアニール工程に続いて、材料を丸いダイヤモンドダイを通過させる冷間延伸によって0.91mmにした。次に材料を従来のようにアニールし、約1〜5μmの平均粒子径を有する等軸粒子構造にした。
【0143】
本方法の冷間加工調整およびナノ再結晶化工程に関して、以下に詳述したように、ナノ再結晶化のための35NLTTM合金の調製では、冷間加工調整工程において比較的多量の変形を伴うことが見出された。
【0144】
本実施例では、ナノ再結晶化の準備において、0.91mm直径のアニールしたワイヤに延伸による冷間加工調整工程を施し0.19mm(0.0074インチ)にした。従って、上記の式Iによると、冷間加工調整工程は、材料に公称96%の冷間加工を与えたことになった。ナノ再結晶化工程を、850℃で約2〜3秒の滞留時間で実施した。得られたナノ粒子結晶構造を機械試験、詳細には引張試験によって定性的に確認し、その結果を図17(c)に示した。詳細には、材料は、前に論じた、本方法に従ったものと同様なレベルの強度、延性、および降伏特性を持つことを観測した。
表6 真歪みと真応力、35NLTTM 合金ワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、−図17(a)
【0145】
【表10】
【0146】
表7 真歪みと真応力、35NLTTM 合金ワイヤ、直径0.107mm(0.0042インチ)、 −図17(b)
【0147】
【表11】
【0148】
表8 真歪みと真応力、35NLTTM 合金リボン、0.127mm×0.229mm(0.005インチ×0.009インチ)、 −図17(c)
【0149】
【表12】
【0150】
実施例4
追加の冷間加工を有するASTM F562材料
以下の、図18(a)−18(b)および表9−10、および19を参照して、この実施例では、直径76μm(0.0030インチ)および0.089mm(0.0035インチ)を有する25NLTの丸いワイヤを製造し試験した。ワイヤは本方法の実施形態に従った性質および特性を示した。
【0151】
1.実験的手法
本方法は、VIM(真空誘導溶解)/VAR(真空アーク溶解)の35NLTTM インゴットで開始し、インゴットを加熱ローリングで加工し棒材にした。次いで材料を、通常の方法で反復的な冷間加工およびアニール加工し1.6mm直径にした。1.6mmにおける通常のアニール工程に続いて、材料を丸いダイヤモンドダイを通過する冷間延伸によって0.91mmにした。次に材料を従来のようにアニールし、約1〜5μmの平均粒子径を有する等軸粒子構造にし、更に直径0.076mmおよび0.089mmワイヤ用に、通常的延伸してそれぞれ0.45mmおよび0.51mm直径にした。
【0152】
本方法の冷間加工調整およびナノ再結晶化工程に関して、以下に詳述したように、ナノ再結晶化のための35NLTTM 合金の調製では、冷間加工調整工程において比較的多量の変形を伴うことが見出された。
【0153】
本実施例では、ナノ再結晶化の準備において、0.45mmおよび0.51mm直径を有するアニールしたワイヤに延伸による冷間加工調整工程を施してそれぞれ0.096mmおよび0.107mm直径にした。従って、上記の式Iによると、冷間加工調整工程は、材料に公称95%の冷間加工を与えた。
【0154】
ナノ再結晶化工程を、850℃で約2〜3秒の滞留時間で実施した。得られたナノ粒子結晶構造は、0.096mmおよび0.107mmワイヤを機械試験、詳細には引張試験によって定性的に確認し、それらの得られた結果は、強度、延性、および降伏特性に関して前に論じた、本方法に従ったものと同様であった。
【0155】
材料の強度レベルを高めるために、続いて0.096mmおよび0.107mmワイヤを通常の方法によって直径0.076mmおよび0.089mmに延伸し、強度および延性を評価するために引張試験した。
【0156】
2.結果
これらのワイヤの引張試験の結果を、図18(a)および(b)に提示し、0.089mmおよび0.076mm材料に対する生のデータは、それぞれ表9−表10に与え、表3に要約した。
【0157】
0.076mmワイヤの回転ビーム疲労試験から得られたデータを、図20(c)に提示し、黒塗り印で示す。108サイクルで材料の回転ビーム疲労試験によって決定された場合、観測された耐久限度は、0.60%の歪み振幅を超えた(表2)。
表9 真歪みと真応力、追加の冷間加工を有する35NLTTM ワイヤ、直径0.089mm(0.0035インチ)、 −図18(a)
【0158】
【表13】
【0159】
表10 真歪みと真応力、追加の冷間加工を有する35NLTTM ワイヤ、直径0.076(0.003インチ)、 −図18(b)
【0160】
【表14】
【0161】
実施例5
304Lステンレススチール
本実施例では、以下の、図19(a)−19(c)および表11−13および19を参照して、直径0.18mm(0.0070インチ)を有する304Lの丸いワイヤを製造し試験した。ワイヤは本方法の実施形態に従った性質および特性を示した。
1.実験的手法
【0162】
本方法は、VIM(真空誘導溶解)/VAR(真空アーク溶解)の304Lインゴットで開始し、インゴットを加熱ローリングで加工し棒材にした。次いで材料を、通常の方法で反復的な冷間加工およびアニール加工し2.4mm直径にし、約10〜20μmの平均粒子径を有する等軸粒子構造を生み出した。
【0163】
本方法の冷間加工調整およびナノ再結晶化工程に関して、以下に説明したように、ナノ再結晶化のための304L合金の調製では、冷間加工調整工程において比較的多量の変形を伴うことが見出された。
【0164】
本実施例では、ナノ再結晶化の準備において、2.4mm直径を有するアニールしたワイヤに延伸による冷間加工調整工程を施して0.18mm直径にした。従って、上記の式Iによると、冷間加工調整工程は、材料に公称99.5%の冷間加工(上記の式IIにより5.22単位の真歪み)を与えた。
2.結果
【0165】
ナノ再結晶化工程を720℃、約2−4秒の滞留時間で実施した。得られたナノ粒子結晶構造は、イオンビーム断面画像化によって234nmの平均粒子径を有することを確認した(図23(b)、表19)。
【0166】
ナノ粒子304Lワイヤの引張試験を以前説明したように、298K周囲空気中で約250mmの標点距離および125mm/分の歪み速度を用いて実施した。本方法に従って観測された機械的性質を、四角形状のデータポイント270で示し、11.9%の破断歪み(表3)および回転ビーム疲労試験によって測定した場合の疲労耐久度(108サイクルにおいて0.45%歪み振幅)を含めた(表2、図19(c))。対照材料は円のデータポイント272で示し、108サイクルにおいて0.40%歪み振幅というより低い耐久限度を示す。
表11 真歪みと真応力、304L対照ワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、 −図19(a)
【0167】
【表15】
【0168】
表12 真歪みと真応力、ナノ粒子304Lワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、−図19(b)
【0169】
【表16】
【0170】
表13 疲労データ、対照およびナノ粒子304Lワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、−図19(c)
【0171】
【表17】
【0172】
実施例7
316Lステンレススチール
本実施例では、以下の、図20(a)−20(c)および表14−16および19を参照して、直径0.18mm(0.0070インチ)を有する316Lの丸いワイヤを製造し試験した。ワイヤは本方法の実施形態に従った性質および特性を示した。
1.実験的手法
【0173】
本方法は、VIM(真空誘導溶解)の316Lインゴットで開始し、インゴットを加熱ローリングで加工し棒材にした。次いで材料を、通常の方法で反復的な冷間加工およびアニール加工し1.8mm直径にし、約10〜20μmの平均粒子径を有する等軸粒子構造を生み出した。
【0174】
本方法の冷間加工調整およびナノ再結晶化工程に関して、以下に説明したように、ナノ再結晶化のための316L合金の調製では、冷間加工調整工程において比較的多量の変形を伴うことが見出された。
【0175】
本実施例では、ナノ再結晶化の準備において、1.8mm直径を有するアニールしたワイヤに延伸による冷間加工調整工程を施して0.18mm直径にした。従って、上記の式Iによると、冷間加工調整工程は、材料に公称99.1%の冷間加工(上記の式IIにより4.66単位の真歪み)を与えた。
2.結果
【0176】
ナノ再結晶化工程を780℃、約4−6秒の滞留時間で実施した。得られたナノ粒子結晶構造は、イオンビーム断面画像化によって311nmの平均粒子径を有することを確認した(図24(b)、表19)
【0177】
ナノ粒子316Lワイヤの引張試験を以前説明したように、298K周囲空気中で約250mmの標点距離および125mm/分の歪み速度を用いて実施した。本方法に従って観測された機械的性質は、12.3%の破断歪み(表3)であり、および回転ビーム疲労試験によって測定した場合の疲労耐久度、すなわち108サイクルにおける0.35%歪み振幅、を図20(c)の四角形状印280で含めた(表2、図20(c))。対照材料は円のデータポイント282で示し、108サイクルにおいて0.25%歪み振幅というより低い耐久限度を示す。
表14 真歪みと真応力、316L対照ワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、 −図20(a)
【0178】
【表18】
【0179】
表15 真歪みと真応力、ナノ粒子316Lワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、 −図20(b)
【0180】
【表19】
【0181】
表16 疲労データ、対照およびナノ粒子316Lワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、 −図20(c)
【0182】
【表20】
【0183】
実施例7
ASTM F1058材料
本実施例では、以下の、図21(a)−21(c)および表17−19を参照して、直径0.18mm(0.0070インチ)を有するFWM1058形状化ワイヤを製作し試験した。ワイヤは本方法の実施形態に従った性質および特性を示した。
【0184】
1.実験的手法
本方法は、VIM(真空誘導溶解)FWM1058インゴットで開始し、インゴットを加熱ローリングで加工し棒材にした。次いで材料を、通常の方法で反復的な冷間加工およびアニール加工して1.15mm直径にし、約10〜20μmの平均粒子径を有する等軸粒子構造を生み出した。
【0185】
本方法の冷間加工調整およびナノ再結晶化工程に関して、以下に説明したように、ナノ再結晶化のためのFWM1058合金の調製では、冷間加工調整工程において比較的多量の変形を伴うことが見出された。
【0186】
本実施例では、ナノ再結晶化の準備において、1.15mm直径を有するアニールしたワイヤに延伸による冷間加工調整工程を施して0.225mm直径にした。従って、上記の式Iによると、冷間加工調整工程は、材料に公称96.1%の冷間加工(上記の式IIにより3.26単位の真歪み)を与えた。
【0187】
2.結果
ナノ再結晶化工程を850℃、約0.5〜2秒の滞留時間で実施した。得られたナノ粒子結晶構造は、イオンビーム断面画像化によって247nmの平均粒子径を有することを確認した(図25(b)、表19)
【0188】
ナノ粒子FWM1058ワイヤの引張試験を以前説明したように、298K周囲空気中で約250mmの標点距離および125mm/分の歪み速度を用いて実施した。本方法に従って観測された機械的性質は、1409MPaの降伏強度、17.9%の破断歪み(表3)であり、および回転ビーム疲労試験によって測定した場合の疲労耐久限度は108サイクルにおいて0.45%歪み振幅であり、図21(b)では円のデータポイント290で示す(表2、図21(b))。対照材料を円のデータポイント292で示し、108サイクルにおいて0.40%歪み振幅というより低い耐久限度を示す。
表17 真歪みと真応力、ナノ粒子1058ワイヤ、直径0.23mm(0.0089インチ)、−図21(a)
【0189】
【表21】
【0190】
表18 疲労データ、対照およびナノ粒子1058ワイヤ、直径0.23mm(0.0089インチ)、 −図21(b)
【0191】
【表22】
【0192】
実施例8 本方法に従って作製された種々の材料の粒子径測定
1.実験的手法
この実施例では種々の材料の粒子径が測定され、特別の材料(いわゆる「対照」材料)の通常のサンプル、および本方法に従って材料を加工した後の第2のサンプルに対して行った。粒子径画像は任意の通常的な方法で測定でき、例えば、上記セクションII−Aで論じたように、標準的な光学顕微鏡、電界放出走査型電子顕微鏡(FE−SEM)、または透過型電子顕微鏡(TEM)である。
【0193】
各ワイヤの粒子構造の顕微鏡写真を撮像し、本明細書の図23(a)〜26(b)として示す。
【0194】
対照ワイヤの粒子径分布を図22(a)に示す。本方法に従って加工した後のワイヤの粒子径分布を図22(b)に標準的なワイヤ材料について集めたデータと一緒に示す。それぞれのワイヤ材料に対する粒子径データもまた、以下の表19、パートIおよびIIに示す。
2.結果
【0195】
35NLTTM に関して集めたデータを、図22(a)および22(b)に黒塗り四角形状印で示す。35NLTTMの対照ワイヤはデータ曲線500を生じ約1480nmの平均粒子径を示した。一方、本方法に従って製造された35NLTTMワイヤはデータ曲線500’ を生じ約200nmの平均粒子径を示した。粒子径の写真表示を図6に示す。
【0196】
304Lステンレススチールワイヤに関して集めたデータを、図22(a)および22(b)にダイヤモンド形状印で示す。304Lの対照ワイヤはデータ曲線502を生じ約26,690nmの平均粒子径を示した。一方、本方法に従って製造された304Lワイヤはデータ曲線502’ を生じ約234nmの平均粒子径を示した。粒子径の写真表示を図23(a)および23(b)に示す。
【0197】
316Lステンレススチールワイヤに関して集めたデータを、図22(a)および22(b)に三角印で示す。316Lの対照ワイヤはデータ曲線504を生じ約20,020nmの平均粒子径を示した。一方、本方法に従って製造された316Lワイヤはデータ曲線504’ を生じ約311nmの平均粒子径を示した。粒子径の写真表示を図24(a)および24(b)に示す。
【0198】
ASTM F1058標準に従って製造されたワイヤに関して集めたデータを図22(a)および22(b)にX形状印で示す。1058の対照ワイヤはデータ曲線506を生じ約7,614nmの平均粒子径を示した。一方、本方法に従って製造された1058ワイヤはデータ曲線506’ を生じ約247nmの平均粒子径を示した。粒子径の写真表示を図25(a)および25(b)に示す。
【0199】
ニチノールワイヤに関して集めたデータを、図22(a)および22(b)に星形状印で示す。ニチノールの対照ワイヤはデータ曲線508を生じ約3,573nmの平均粒子径を示した。一方、本方法に従って製造されたニチノールワイヤはデータ曲線508’を生じ約50nmの平均粒子径を示した。粒子径の写真表示を図26(a)および26(b)に示す。
【0200】
表4および図22(a)−26(b)は、本方法の実施形態に従った上記材料の加工が、上記で論じたように粒子径にかなりの減少をもたらすことを例示する。
表19 パートI 種々の材料に対する粒子径のデータ
【0201】
【表23−1】
【0202】
表19 パートII 種々の材料に対する粒子径のデータ
【0203】
【表23−2】
【産業上の利用可能性】
【0204】
IV.用途
本方法に従って作製されたワイヤは、限定されるものではないが以下に詳細に述べる用途を含めた種々の利用が可能である。本方法に従ったワイヤの典型的な用途を以下に説明し、図27−30(b)に概略的に示す。
【0205】
A.ガイドワイヤ
図27を参照して、経皮経管冠動脈拡張術(PTCA)ガイドワイヤ300が示され、そのものには、本方法に従って製造された金属製伸長ワイヤ302が先細末端302’ を有して含まれる。ワイヤ302はコイルワイヤ304内に受容され、304はハウジング306内に受容される。
【0206】
PTCAガイドワイヤを使用して、人体内の遠方位置に接近でき血管疾患部の治療すること、例えば、アテローム動脈硬化症治療、または除細動電極の移植を容易化するための使用が含まれる。これらの位置に到達するために、ガイドワイヤは十分に可撓性であって標的の疾患部または器官への途中で人体構造部位を航行できる必要がある。
【0207】
ガイドワイヤの設計では、ガイドワイヤの弾性特性が重要である。何故なら、ガイドワイヤを使用して体内の治療のための種々の標的位置、例えば、図28に示されるような心臓の右心室、に接近する場合に、それは人体構造内の蛇行した血管に追従する必要がある。
【0208】
ガイドワイヤは、材料の破壊を被る事なしに人体構造をうまく航行する必要がある。
【0209】
本方法により、降伏強度と極限強度との比が0.85より大であって比較的高いために、それによってガイドワイヤに比較的高い降伏歪みが与えられ、高度の可撓性を有するワイヤが提供される。
【0210】
幾つかの場合では、医師は特殊な人体構造内の血管内航行を容易にするために、ガイドワイヤの先端部を手細工で成形することがある。この場合、材料は特殊形状を作るために塑性変形を受け入れることと、人体構造内を通って順調に移動するために良好な弾性を維持することとの両方の能力を有する必要がある。
【0211】
本方法に従って調製されたワイヤ302は、比較的高い降伏強度と延性との組み合わせを提供し、その結果、ワイヤ302が、処置前に医師が計画する塑性変形と、その後の処置時の標的疾患へたどる途中における弾性変形との両方に耐える能力を高められる。
B.移植可能な心臓ペーシングワイヤ
【0212】
図28、および29を参照すると、本方法に従って作製された第1の心臓ペーシングリードワイヤ310、および第2の心臓ペーシングリードワイヤ312が示される。ワイヤ310、312により、単一または複数状の、導電性のブレイド、ストランド、またはマイクロケーブルの形態で利用され、それを用いて治療上の電気信号が心臓に送達される。
【0213】
図29を参照すると、心臓ペーシングリードワイヤ310、312は、巻きワイヤ314および/またはマイクケーブル要素316の組み合わせを有するが、これらは被覆成形されるか、および/または医療用のポリウレタンもしくはシリコーンゴムのような電気絶縁性ポリマースリーブ318によって分離される。スリーブ318およびワイヤ314、316はハウジング320の内部に受容される。
【0214】
図28を参照すると、リードは、右心房および/または心臓Hの心室Vに移植される。移植により、電気的制御信号を送達し、それによって心臓を刺激するか、またはその他の方法で、ペーシング、除細動、または心臓の徐脈、頻脈、不整脈の治療のための心臓再同調療法を提供する目的である。
【0215】
本開示の精神の範囲内で、意図する治療および患者の生理機能に応じて、本方法に従って作製されたリードワイヤ310,312,またはワイヤを利用する同様なシステムもまた、心臓以外、左心房、および左心室に電気的接続を有して移植できる。臨床結果および要求材料特性は前に説明したものとほぼ同じである。
【0216】
ペーシングリードワイヤ310、312が、機械的サイクル疲労損傷に実質的に抵抗することは有利である。機械的サイクル疲労損傷は、一般的に心臓の各脈拍が平均的に最大2Hzであるリードシステムの空間的変位に付随している。
【0217】
心臓のこのような変位、および従ってリードシステムは、リードワイヤ自体の導電性部分を構成する金属ワイヤ中に、心臓のリズムだけでも年間に6000万のサイクルまでに蓄積する形状寸法制限のサイクル歪みを生成する。
【0218】
常在する機械的サイクル負荷に加えて、心臓リードワイヤ310、312は、移植の間にシステムに付与される荷重による幾らかの塑性変形を受ける可能性がある。従って、リードワイヤ310、312は、移植荷重に関連する変形および移植後の形状寸法制限のサイクル変形に持ちこたえることができることによって利益を受ける。リードワイヤ310、312の機能改善は、高レベルの疲労耐久度および延性を有する金属ワイヤ材料の選択によって実現できる。
【0219】
有利なことに、ワイヤ310、312は、形状寸法制限負荷における高レベルの疲労耐久歪みおよび延性を提供し、従って任意の種々の心臓リード設計に設置される場合、改良された長期間の装置性能を提供することができる。
【0220】
同様に、本方法に従って作製されたワイヤは、胃腸、神経、またはその他の生体的電気刺激用のリードに使用できる。
C.ワイヤ系ステント
【0221】
図30(a)を参照して、本方法に従って作製された1つ以上のワイヤ372から作製される、組織スカフォールドまたは血管内ステントデバイス370が示される。ワイヤは、一般的に円筒の断面形状のデバイス370を製造するためにブレイドされ、ニットされ、または別の方法で一緒に形成された形態である。
【0222】
図30(b)を参照して、本方法に従って作製された1つ以上のワイヤ372’ から作製される、組織スカフォールドまたは血管内ステントデバイス370’ が示される。ワイヤは、一般的に円筒の断面形状のデバイス370’ を形成するために一緒にニットされた形態である。
【0223】
送達用カテーテルから解放されると、ステントは、関係する血管とデバイスの順応性に応じてある程度まで移動する。その移動は、動脈での血圧変動、動脈血管のスムーズな筋肉収縮および膨張、並びに一般的な器官運動による。このような機械的位置変動は、ステント370、370’ 構造体の構造を構成するワイヤ372,372’ にサイクル歪みをもたらす。
【0224】
非生体浸食性(non bioerodable)の組織スカフォールドまたはステントは一般的に永久的に移植され、従って何百万の機械的負荷サイクルに対して機械的疲労による構造的完全性を失うことなく持ちこたえることができる必要がある。
【0225】
本方法に従って作製されたワイヤ372,372’から構成されるステント370、370’ は、高度の疲労損傷抵抗性を有し、従って、より低い疲労強度を有するワイヤで作製された通常のステントと比較して、最適化された性能を与えることができる。
【0226】
本発明を推奨される設計を有するとして説明してきたが、本方法は、本開示の精神および範囲内において更に改変できる。従って本出願は一般的な原理を使用する、本発明の任意の変形、使用、または適応を対象にすることを意図する。更に本出願は、本発明が関わる当該技術分野において公知または慣用の実施方法の範囲内で生じるような本開示からのそのような逸脱を対象にし、かつその逸脱が付属する特許請求項の範囲内に含まれることを意図する。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国法典第35巻特許法第119条(e)(U.S.C§119(e))の元で、米国仮特許出願シリアル番号第61/098,427号(特許文献1)、発明の名称「ナノ粒子耐損傷性ワイヤ」(NANOGRAIN DAMAGE RESISTANT WIRE)、2008年9月19日出願の特許;米国仮特許出願シリアル番号第61/110,084号(特許文献2)、発明の名称「ナノ粒子耐損傷性ワイヤ」(NANOGRAIN DAMAGE RESISTANT WIRE)、2008年10月31日出願の特許;米国仮特許出願シリアル番号第61/179,558号(特許文献3)、発明の名称「ナノ粒子耐損傷性ワイヤ」(NANOGRAIN DAMAGE RESISTANT WIRE)、2009年5月19日の出願;および 米国仮特許出願シリアル番号第61/228,677号(特許文献4)、発明の名称「ナノ粒子耐損傷性ワイヤ」(NANOGRAIN DAMAGE RESISTANT WIRE)、2009年7月27日出願の特許の恩恵を主張し、これらの全体の開示は参考として本明細書中に明確に援用される。
【0002】
背景
1.発明の分野
本方法は耐疲労損傷性のワイヤに関し、詳細には改良された耐疲労損傷性を示す金属または金属合金のワイヤを製造する方法に関し、およびにそのような方法によって作製された金属または金属合金のワイヤに関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
大抵の遷移金属は異方性である傾向があり、そのため粘弾性特性、トライボロジ特性、機械特性および電気特性は、結晶方向とともに変化することが良く知られている。従って、金属材料のそのような特性は、原子格子中の結晶テクスチャの存在(もしくはテクスチャの欠落)、または金属材料中の結晶配置によって全面的に決まる。
【0004】
粒子径は、20世紀が生んだ大部分の物に対する材料強度、破壊靱性、および疲労強度を規定する重要な変数であると知られている。例えば、ガスタービンエンジンは、所望用途の特定方位での強度を解決するために、単一の金属結晶または大部分が方向性を持って成長した結晶を含むローターを使用し、そのためには例えば、半径方向に沿って高強度を有するタービンブレード作り出し、高い応力が半径方向に沿って見出される高速回転中の損傷を防止または最小化する。
【0005】
通常のワイヤ材料は、ミクロ構造のセルサイズ(結晶径または粒子径と呼ばれることが多い)を有し、それは加工後で約数ミクロン(μm)〜数mmである。図1に示す顕微鏡写真は、約3〜12μmの粒子径を有する代表的な通常の移植適合性ワイヤであり、そのものは35NLTM(35NLTTMは、インディアナ州フォートウェインのフォートウェイン金属研究製品(Fort Wayne Metals Research Products)社の登録商標である)で作製されている。
【0006】
一般的な医療用ワイヤは、生体適合性で移植適合性の材料で作製され、それらにはASTM F562の化学組成要件に準拠している合金が挙げられる。そのようなワイヤ材料には、35重量%Co−35重量%Ni−20重量%Cr−10重量%Moを含むCo/Cr/Ni/Mo材料およびMP35NTM合金(MP35NTMは、ペンシルバニア州ジェンキンタウンのSPS Technologies社の登録商標である)が挙げられる。その他の生体適合性で移植適合性の材料には、ニチノールを包含するニッケル−チタン(NiTi)の2元系形状記憶材料、並びにニチノール3元系合金(クロム、タンタル、パラジウム、白金、鉄、コバルト、タングステン、イリジウム、および金などの添加物を有するニッケル−チタン)、プラチナ及びプラチナ合金、チタン及びチタン合金、並びに300シリーズのステンレススチール、およびその他の材料が挙げられる。
【0007】
生物学的な宿主応答性の観点から体内においてNiTiのような合金がどのような挙動をするかを理解するためにかなりの研究が熱心に行われているが、構造と機械的特性との定量的な関連付けはほとんど発表されていない。
【0008】
これらの材料は、溶融法由来の熱間加工した棒材を比較的厚い断片に形成することによって製造でき、更にその棒材を細い直径のワイヤに延伸することによってワイヤに加工される。
【0009】
「冷間加工」と呼ばれることが多い、各延伸加工の間では、ワイヤは潤滑化されたダイを通過させて引き出しその直径を減少させる。ワイヤ延伸に伴う変形により、材料中の内部応力または貯蔵エネルギーが増加し延性を減少させる傾向がある。内部応力は、加熱処理または高温でのアニールの方法によって最終的に解放されて延性を回復する必要があり、これにより、その材料をより小さい直径に更に冷間加工することが可能になる。通常のワイヤアニールは、一般的に数段階で応力解放し、例えば、転位消滅、粒子の核形成、並びに結晶粒成長および一般的にランダムな結晶配向分布などをもたらす。冷間加工の間に生成される、種々の材料または繊維の「テクスチャ」は、大抵の場合通常のアニールおよび再結晶化の間に消滅する。これらの冷間加工およびアニールの反復プロセスは数回繰り返され、所望の直径のワイヤが生産され加工が完結する。
【0010】
前述のプロセスに従って作製されたワイヤは、一般的に優れた耐疲労損傷性を示すが、耐疲労損傷性の更なる改良が望まれている。
【0011】
サブミクロンまたはナノレベルに粒子化した金属材料を形成する種々の方法が知られている。一部の方法では熱間等静圧圧縮成形(HIPing)によってナノスケールの粉末を形成して、その粉末を所望の形状に固める。
【0012】
更なる数種の方法は、巨大ひずみ加工(SPD、severe plastic deformation)という種類のものがあり、その方法では金属材料は600%〜800%以上の塑性変形を受ける。これらの各方法は、SPDの前後で被加工物の断面積が一定にとどまることが特徴である。高圧ねじり処理(HPT、high pressure torsion)では、例えば、摩擦けん引力によってせん断を発生させるために、被加工物を互いに対して回転している2つのアンビルの間に設置することによって連続的なせん断応力をかける。等チャネル角圧縮(ECAP、equal channel angular pressing)では、交差するチャネルを有する特殊なツールを使用して、被加工物の断面積を維持しながら被加工物に単純なせん断応力を受けさせ、そして被加工物に幾つかのECAP工程を施し、所望度合いの塑性変形に到達できる。環状溝ダイ圧縮(CCDC、cyclic channel die compression )では、被加工物は、被加工物形状に対応する特殊なダイ中で変形され、その場合、被加工物は最初に、被加工物の形状に対応する公称形状のダイに関してダイ中で90°に方向設定される。被加工物をダイ中で変形させてダイ形状に変化させ、続いてその被加工物を90°回転させ、繰り返して所望の巨大ひずみ加工の度合いに到達する。
【0013】
これらの方法は、特定形状材料の特定用途に好適であるが、これらの方法は、例えば、1.0mm未満のような微細直径の金属または高度な表面品質の連続した金属合金ワイヤの製造には適さない。
【0014】
必要とされるものは、改良された耐疲労損傷性を示す金属または金属合金ワイヤの製造方法であり、並びにそのような方法に従って作製された金属または金属合金ワイヤである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国仮特許出願シリアル番号第61/098,427号
【特許文献2】米国仮特許出願シリアル番号第61/110,084号
【特許文献3】米国仮特許出願シリアル番号第61/179,558号
【特許文献4】米国仮特許出願シリアル番号第61/228,677号
【特許文献5】米国公開特許2005/0051243号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Jermy E. Schaffer により、2007年8月に発表された論文
【非特許文献2】Mitesh Patel により、Journal of ASTM International vol. 4, No. 6に発表された論文
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示は、サブミクロンスケールまたはナノ粒子ミクロ構造を有し、改良された耐疲労損傷性を示す、耐疲労損傷性の、金属または金属合金ワイヤに関し、並びにそのようなワイヤを製造する方法に関する。本方法を使用して、500nm以下の平均粒子径を特徴とするナノ粒子のミクロ構造を有するワイヤを形成でき、そのワイヤは改良された耐疲労損傷性を示す。本方法に従って製造されたワイヤは、1つ以上のその他の材料特性において改良を示すことができ、例えば極限強度、無負荷プラトー強度、永久変形、延性,および回復性歪みなどの特性である。本方法に従って製造されたワイヤは、医療機器またはその他の高機能用途での使用に好適である。
【0018】
それらの一形態において、本発明は、移植適合性の、金属または非形状記憶金属合金であって、直径および厚さの内の1つが1.0mm未満であり、かつ500ナノメーター未満の平均粒子径を有するものを含む金属ワイヤを提供する。そのワイヤは100万サイクルにおいて0.35%歪み振幅を超過する疲労耐久度を有することができる。
【0019】
1つの実施形態では、ワイヤは、106より大のサイクルにおいて0.45%歪み振幅を超過する、107より大のサイクルにおいて0.45%歪み振幅を超過する、および108より大のサイクルにおいて0.45%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有するCo/Ni/Cr/Mo金属合金を含むことができる。別の実施形態では、ワイヤは、ワイヤは、106より大のサイクルにおいて0.4%歪み振幅を超過する、107より大のサイクルにおいて0.4%歪み振幅を超過する、および108より大のサイクルにおいて0.4%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有する304Lステンレススチールを含むことができる。更なる実施形態では、ワイヤは、106より大のサイクルにおいて0.35%歪み振幅を超過する、107より大のサイクルにおいて0.35%歪み振幅を超過する、および108より大のサイクルにおいて0.35%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有する316Lステンレススチールを含むことができる。その上更なる実施形態では、ワイヤは、106より大のサイクルにおいて0.4%歪み振幅を超過する、107より大のサイクルにおいて0.4%歪み振幅を超過する、および108より大のサイクルにおいて0.4%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有するCo/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金を含むことができる。
【0020】
別の実施形態では、ワイヤは、直径および厚さの内1つを有し、298±5Kの温度において、ワイヤの直径または厚さの250倍を超過する標点距離で単調引張試験によって測定した場合に、6%破断歪みより大の軸方向延性を有する。更なる実施形態では、ワイヤは、Co/Ni/Cr/Mo金属合金、316Lステンレススチール、およびCo/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金からなる群から選択される非形状記憶金属合金を含み、少なくとも0.85の降伏強度と極限強度との比を有することができる。
【0021】
更なる実施形態では、ワイヤは、直径および厚さの内1つを有し、かつ298±5Kの温度において、ワイヤの直径または厚さの250倍を超過する標点距離で単調引張試験によって測定した場合に、10%破断歪みより大の軸方向延性を有する。更なる実施形態では、ワイヤは、Co/Ni/Cr/Mo金属合金、316Lステンレススチール、およびCo/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金からなる群から選択される非形状記憶金属合金を含み、少なくとも0.85の降伏強度と極限強度との比を有することができる。
【0022】
本発明の別の形態では、本方法は、移植適合性の、金属または非形状記憶金属合金で作製されたワイヤを形成する方法を提供し、その方法は、比較的大きな直径D1を有するワイヤを準備する工程と、そのワイヤを冷間加工調整にかけてi)50%および99.9%の冷間加工、および ii)ワイヤを比較的小さい直径D2に延伸することによって0.69および6.91の真歪みの内1つを付与する工程であって、%冷間加工は次式:
cw=1−(D2/D1)2で求め、
かつ真歪みは次式:
ts=ln{{D1/D2}2}で求める、冷間加工調整工程と、
ワイヤをアニールして500ナノメーター未満の平均粒子径を有する結晶構造を生成させる工程とを含む。
【0023】
ワイヤは、i)Co/Ni/Cr/Mo金属合金、ii)304Lステンレススチール、iii)316Lステンレススチール、および iv)Co/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金からなる群から選択される金属合金を含むことができる。
【0024】
1つの実施形態では、アニール工程は、600℃〜950℃の間の温度において0.1秒〜3600秒の間の滞留時間でワイヤをアニールする工程を更に含むことができる。別の実施形態では、アニール工程は、750℃〜900℃の間の温度において0.2秒〜120秒の間の滞留時間でワイヤをアニールする工程を更に含むことができる。更に本方法は、アニール工程に続いてワイヤに更なる冷間加工を施すという追加の工程を更に含むことができる。
【0025】
本発明の更なる形態では、本方法は、300nm未満の平均粒子径を有し、寸法が5nmを超過するTixNiy析出物を実質的に含まないニッケル−チタン形状記憶材料で作製されたワイヤを提供する。そのワイヤは1.0mm未満の直径を有する。同様にそのワイヤは、298±5Kの温度における単軸引張試験で測定した場合9%より大の全体的等温回復性歪みを示すことができ、かつ298±5Kの温度における単軸引張試験で測定した場合に9.5%の軸方向公称歪みよりも大の負荷プラトー長さを示すことができる。
【0026】
別の実施形態では、ワイヤは、極限強度が1100MPaを超過すること、平均粒子径が100ナノメーター未満であること、活性オーステナイト終了温度(Af)が325K以下であること、および軸方向の公称破断歪みが10%公称歪みを超過すること、の内1つ以上を有することができる。
【0027】
本発明の更なる形態では、本方法は、ニッケル−チタン形状記憶材料で作製されたワイヤを形成する方法を提供し、その方法は、比較的大きな直径D1を有するワイヤを準備する工程と、比較的小さい直径D2にワイヤを延伸することによって15%〜45%冷間加工を付与するようにワイヤに冷間加工調整工程を施す工程であって、%冷間加工は次式:
cw=1−(D2/D1)2で求める工程と、
300℃〜600℃の間の温度で、0.2秒〜900秒の間の滞留時間でアニールする工程であって、アニールによって500nm未満の平均粒子径を有する結晶構造が生成されるアニール工程とを含む。
【0028】
本発明の上記およびその他の特徴および利点、並びにそれらを得る方法は、付随する図面と関連させて行う本発明の実施形態についての以下の説明を参照することによって更に明らかになり、かつ本発明自体が良好に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】約3μmの平均粒子径を有するワイヤをMP35NTM合金で作製された、従来技術の移植適合性ワイヤについて、後方散乱電子像(BEI)モードの走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して撮影した顕微鏡写真である。
【図2】等軸粒子構造を有するワイヤの一部の概略図である。
【図3】本方法の実施形態に従った冷間加工調整後の、伸長粒子構造を有する図2のワイヤの一部の概略図である。
【図4】本方法の実施形態に従ったナノ再結晶化後の、図2の等軸粒子構造のワイヤよりも小さい粒子の等軸粒子構造を有する図3のワイヤの一部の概略図である,図5は潤滑化延伸ダイを使用する、典型的なモノリシックワイヤの形成を例示する概略図である。
【図6】本方法の典型的な実施形態に従って製造されたナノ結晶の35NLTTM合金ワイヤの断面を明視野透過型電子顕微鏡(BFTEM)撮像およびその回折パターンの顕微鏡写真である。
【図7】単軸引張サイクル試験で集録された公称応力−歪みデータのグラフ表示である。
【図8】実施例1に対応するものであって、図8は、本方法に従って製造された2つの35NLTTM合金ワイヤ、すなわち、ナノ結晶75μmワイヤ(X形状印で表現)と、ナノ結晶177μmワイヤ(黒塗り四角形状印)とを、通常のミクロ結晶のMP35NTMおよび35NLTTM合金ワイヤ(これらはダイヤモンド、三角、および白抜き四角で表示)とで比較するサイクル歪み振幅対疲労サイクル寿命のグラフ図である。
【図9(a)】図9(a)−16(b)は実施例2に対応するものであって、図9(a)は薄箔TEMサンプルの調製に使用された2重ビームSEM/FIB装置の概略図であり、ミリング用のガリウムイオン源は撮像用の電子ビームによって共有された共通のユーセントリック高さ(eucentric height)を標的とされ、ガリウムイオンは30kV 電位を使用して加速され、かつはるかに損傷が少ない走査用電子ビームから集められた撮像データのフィードバックによって制御できる領域に電磁的に焦点合わせされる。
【図9(b)】公称厚さ1000nmに持ち上げて箔をさらす「粗い」切削の断面を図示する。
【図9(c)】2μmのタングステン探針を使用する持ち上げ箔を図示する。
【図9(d)】サンプルがSEMグリッドポストに取り付けられ、その上でサンプルが低減イオン電流で約100nm以下の厚さに薄膜化された後の箔を図示する。
【図10(a)】50nmの平均粒子径を有するニチノールワイヤサンプルの暗視野(DF)TEM撮像を図示する。
【図10(b)】デジタル粒子径解析のための図10(a)のDF−TEM撮像の二値変換を図示する。
【図10(c)】図10(b)の解析した粒子場の楕円体表示を図示し、延伸方向(矢印)に伸長粒子の残留がないことを図示する。図10(d)は、50nmの平均粒子径を有する同等材料(別の領域)の別のサンプルの明視野(BF)−TEM撮像を図示する。
【図10(e)】図10(d)に示した領域の制限視野回折パターン(SADP)を図示し、明るいB2立方晶[110]多結晶リングが示される。
【図10(f)】B2ニチノールに対する計算粉末回折パターン(DP)を図示する。
【図11(a)】平均粒子径50nmを有するニチノールワイヤについて試験した粒子径を示すBF−TEM撮像を図示し、矢印で延伸方向を示す。
【図11(b)】平均粒子径100nmを有するニチノールワイヤについて試験した粒子径を示すBF−TEM撮像を図示し、矢印で延伸方向を示す。
【図11(c)】平均粒子径2μmを有するニチノールワイヤについて試験した粒子径を示すBF−TEM撮像を図示し、矢印で延伸方向を示す。
【図12】左側にニチノール酸化物層、左側の円で囲んだ領域から撮像したSADPを右側に図示し、非常に微細な酸化物ナノ構造の粉末回折が示される。
【図13】種々の平均粒子径に対する粒子径分布の累積分布関数を図示し、平均粒子径は左から右へ、それぞれ50nm、100nm、2000nm、5000nm、および10000nmである。
【図14】5つの別個な粒子径に対する個別の曲げ・自由回復(BFR、bend and free recovery ) 試験データのデジタルビジョンを図示し、この場合、活性オーステナイト終了温度シフトが、ナノ結晶材料の高い粒子境界含量に伴う転移シフトとNi豊富な析出物とによる僅かなマトリックスNi損失との組み合わせに起因すると仮定している。
【図15(a)】静止空気中298Kで10−3s−1の歪み速度における公称応力−歪みデータのグラフ表示であり、等軸粒子径の関数として4%履歴曲線を無負荷時弾性率の値と一緒に示す。
【図15(b)】標準的な超弾性材料および均質で析出物がない100nmマトリックスを有するワイヤに対する単調荷重曲線のグラフ表示である。
【図15(c)】粒子径の関数としての永久変形歪みのグラフ表示である。図15(d)は、粒子径の関数としての極限引張強度のグラフ表示である。
【図16(a)】以下の試験条件:R=−1、T=298K 、f=60s−1、静止空気下環境、各歪みレベルでN=5による回転ビーム疲労試験データの歪み寿命のグラフ表示である。
【図16(b)】107サイクルにおける歪み限界のグラフ表示であり、±3%の最高歪みレベル誤差および0.1%未満のサイクルカウント誤差を有する。
【図17(a)】図17(a)−17(c)は、実施例3に対応するものであって、図17(a)は、本方法に従って作製され、0.18mm(0.007インチ)直径を有する、35NLTTM合金ワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図17(b)】本方法に従って作製され、0.107mm(0.0042インチ)直径を有する、35NLTTM合金ワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図17(c)】本方法に従って作製され、断面厚さが、小寸法において0.127mm(0.005インチ)、小寸法に直交する大寸法において0.229mm(0.009インチ)である、35NLTTM合金リボンに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図18(a)】図18(a)−18(c)は、実施例4に対応するものであって、図18(a)は、本方法に従って追加の冷間加工を用いて作製され、0.089mm(0.0035インチ)直径を有する、35NLTTM合金ワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図18(b)】本方法に従って追加の冷間加工を用いて作製され、0.076mm(0.003インチ)直径を有する、35NLTTM合金ワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図19(a)】図19(a)−19(c)は実施例5に対応するものであって、標準的なミクロ構造を有し、直径が0.18mm(0.007インチ)である304Lワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図19(b)】本方法に従って作製され、0.18mm(0.007インチ)直径を有する304Lワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図19(c)】304Lワイヤに対する以下の試験条件:R=−1、T=298K、f=60s−1、静止空気下環境、による回転ビーム疲労試験データの歪み寿命のグラフ表示である。
【図20(a)】図20(a)−20(c)は、実施例7に対応するものであって、標準的なミクロ構造を有し、直径が0.18mm(0.007インチ)である316Lワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図20(b)】本方法に従って作製され、直径が0.18mm(0.007インチ)である316Lワイヤに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図20(c)】316Lワイヤに対する以下の試験条件:R=−1、T=298K 、f=60s−1、静止空気下環境、による回転ビーム疲労試験データの歪み寿命のグラフ表示である。
【図21(a)】図21(a)−21(b)は実施例7に対応するものであって、ASTM F1058の化学組成要件に準拠する合金ワイヤであって、本方法に従って作製され0.23mm(0.0089インチ)の直径を有するものに対する真歪み対真応力のグラフ図である。
【図21(b)】ASTM F1058の化学組成要件に準拠する合金ワイヤに対する、以下の試験条件:R=−1、T=298K 、f=60s−1、静止空気下環境、による回転ビーム疲労試験データの歪み寿命のグラフ表示である。
【図22(a)】種々の実験的に制御されたワイヤ材料に対する粒子径の累積分布関数(「CDF」、cumulative distribution function)であり、それには黒塗り四角印で示される35NLTTM合金ワイヤ、星印で示されるニチノールワイヤ、X形状印で示されるASTM F1058に従って作製されたワイヤ、ダイヤモンド形状印で示される304Lステンレススチール、および黒塗り三角印で示される316Lステンレススチール、が含まれる。
【図22(b)】本方法に従って製造された各種ワイヤ材料に対する粒子径の累積分布関数(「CDF」)であり、それには黒塗り四角印で示される35NLTTM合金ワイヤ、星印で示されるニチノールワイヤ、X形状印で示されるASTM F1058の化学組成要件に準拠して作製されたワイヤ、ダイヤモンド形状印で示される304Lステンレススチール、および黒塗り三角印で示される316Lステンレススチール、が含まれる。
【図23(a)】対照の304Lステンレススチール合金ワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図23(b)】本方法の典型的な実施形態に従って製造されたナノ結晶の304Lステンレススチール合金ワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図24(a)】対照の316Lステンレススチール合金ワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図24(b)】本方法の典型的な実施形態に従って製造されたナノ結晶の316Lステンレススチール合金ワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図25(a)】ASTM F1058の化学組成要件に従って作製された対照の合金ワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図25(b)】ASTM F1058の化学組成要件に従って作製された対照の合金ワイヤ、および本方法の典型的実施形態に従って製造された合金ワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図26(a)】対照のニチノールワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図26(b)】本方法の典型的実施形態に従って製造されたナノ結晶ニチノールワイヤの断面の顕微鏡写真である。
【図27】本方法の実施形態に従ったガイドワイヤの部分断面図である。
【図28】心臓に収容された心臓ペーシングリード(複数)を例示する心臓の部分断面図である。
【図29】本方法に従って作製されたワイヤを含む心臓ペーシングリードの断面斜視図である。
【図30(a)】本方法に従って作製されたワイヤを含む、ブレイドの組織スカフォールドまたはステントの立面図である。および
【図30(b)】本方法に従って作製されたワイヤを含む、ニットの組織スカフォールドまたはステントの立面図である。
【0030】
対応する参照記号は、数個の図面を通じて対応する部分を指示する。本明細書で説明した事例は本発明の好ましい実施形態を例示し、そのよう事例は、いかなる方法でも本発明の範囲を制限するものとして解釈すべきではない。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示は、サブミクロンスケールまたはナノ粒子ミクロ構造を有し、改良された耐疲労損傷性を示す耐披露損傷性金属または金属合金のワイヤ、およびそのようなワイヤを製造する方法に関する。
【0032】
本方法に従ってワイヤを作製できる典型的な製造方法を以下のセクションIで説明し、本方法に従って作製されたワイヤで得られる物理的特性の一般的な説明を以下のセクションIIで説明する。加工実施例は以下のセクションIIIで説明する。本方法に従って製造されたワイヤを使用する典型的な用途は以下のセクションIVで説明する。
【0033】
種々の純粋状態の金属材料および金属合金材料に本製造プロセスを施して、以下の議論および対応する実施例の中で確認される材料によって示される、改良された物理的特性と同様な改良された物理的特性を得ることができる。
【0034】
本方法によるワイヤを形成するために使用できる好適な純粋状態の金属としては、生体適合性で移植適合性の金属、例えば、チタン、タンタル、白金、およびパラジウムと、生体適合性でないまたは移植適合性でないと考えられるその他の金属、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、レニウム、ランタン、鉄、およびモリブデンとが挙げられる。
【0035】
本方法によるワイヤを形成するために使用できる好適な生体適合性で移植適合性の金属合金材料としては、上記に列挙した非形状記憶金属合金、並びにCo/Cr/Ni/Mo合金を含む特殊合金、およびASTM F562の化学組成要件に適合するような合金(公称としては35重量%Co−35重量%Ni−20重量%Cr−10重量%Mo)が挙げられる。適切なASTM F562合金には、MP35NTMおよび35NLTTM合金が挙げられる。35NLTTM合金は、インディアナ州フォートウェインの Fort Wayne Metals Research Products社から入手可能である。本方法での使用に好適な35NLTTM合金は、合金中のチタン系混在物が低減または排除され、このことは米国特許出願シリアル番号第10/656、918号で、2003年9月5日出願の、米国公開特許2005/0051243号(特許文献5)、発明の名称;「低減された窒化チタンの混在物を有するコバルト−ニッケル−クロム−モリブデン合金」(COBALT−NICKEL−CHROMIUM− MOLYBDENUM ALLOYS WITH REDUCED LEVEL OF TITANIUM NITRIDE INCLUSIONS)、に開示され、本方法の譲渡人に一部譲渡され、これらの全体の開示は参考として本明細書中に明確に援用される。Co/Cr/Ni/Mo/Feを含む移植適合性特殊合金およびASTM F562の化学組成要件に適合するような合金(公称としては40重量%Co−20重量%Cr−16重量%Fe−15重量%Ni−7重量%Mo)は、その他の好適な生体適合性金属合金であり、本方法によるワイヤ形成に使用でき、例えば Conichrome、エルジロイ(Elgiloy)TM(エルジロイTMは、イリノイ州グローブビレッジのCombined Metals of Chicago有限責任会社の登録商標である)、およびフィノックス(Phynox)である。1つの好適なASTM F1058合金はFWM1058合金であり、インディアナ州フォートウェインのFort Wayne Metals Research Products社から入手可能である。本方法に従ってワイヤを形成するのに好適なその他の生体適合性材料としてステンレススチールが挙げられ、例えば,304Lおよび316Lステンレススチール並びにその他の300−および400−シリーズのステンレススチール、L605合金、チタン6重量%−アルミ4重量%添加のバナジン、β C(これは室温でのβ相を主に含む)のようなその他の安定化β相チタン合金等が挙げられる。
【0036】
更に一方向記憶効果または二方向記憶効果を有する種々の形状記憶合金は、本製造プロセスを施して以下の議論および対応する実施例で確認されたニチノールの物理的特性と同様な物理的特性が得られる。このような形状記憶合金としては、ニチノール(ニッケル−チタンの二元系形状記憶材料)、三元系または四元系ニチノール(添加金属として例えば,クロム、タンタル、パラジウム、白金、鉄、コバルト、タングステン、イリジウム、金、を有するニチノール)などが挙げられる。
【0037】
セクションIVで詳細に説明されるように、本方法に従って作製された耐疲労損傷性金属または金属合金は、医療機器に使用でき、例えば、移植可能な心臓ペーシング、刺激および/または感知用リード、移植可能で神経学的な刺激および/または感知用リード、ガイドワイヤ、並びに移植可能なワイヤに基づいた胃腸、血管または食道のステント、またはその他の高機能用途、例えば耐疲労性ワイヤおよび自動車用ケーブルまたは航空宇宙作動機である。
【0038】
I.本製造方法の説明
A.非形状記憶の生体適合性金属合金
以下に議論される典型的な非形状記憶の生体適合性金属合金には、ASTM F562の化学組成要件に適合する合金(MP35TMおよび35NLTTM)、ステンレススチール(304Lおよび316Lステンレススチール)、およびASTM F1058の化学組成要件に適合する合金(例えば、FWM1058、Conichrome、エルジロイTM、およびフィノックス)が含まれる。
【0039】
本明細書に説明する性質および利点を有するワイヤを製造する典型的な方法には、例えば、通常の溶融法に基づいて棒材断片を形成する工程と、続いて1つ以上を繰り返す通常の冷間加工およびアニール工程とが含まれる。図2を参照して、通常の冷間加工およびアニール技術に従って製造されたワイヤ10の一部の概略図または誇張図が示される。ワイヤ10は、上記のように、1つ以上、恐らくは数回または非常に多数回の通常の冷間加工およびアニール工程を施され、延性があり一般にワイヤ10の材料内部に等軸結晶構造あるものが得られる。代表的な等軸結晶12をワイヤ10の中に描写した。本明細書で使用する場合、「等軸の」とは、個別の結晶12が材料軸の幅方向および長さ方向に沿ってまたは任意に規定されたあらゆる軸に沿って、近似的に同じ寸法を有する結晶構造を指す。好適な延性が得られる通常の加工の後で、ワイヤ10は、本方法による加工の準備が整う。しかしながら、ワイヤ10の結晶12は完全に等軸でなくてもよい、すなわち、以下に説明する加工にワイヤ10の準備が整うようにするには実質的に等軸であればよい、ということは本発明の範囲内である。
1.冷間加工調整
【0040】
その後、ワイヤ10に冷間加工調整工程を施す。本明細書で使用される場合、「冷間加工調整」は、材料の断面積の同時減少を伴って比較的大量の冷間加工を材料に与えることを意味し、例えばワイヤを延伸することによって、ワイヤが作製される金属または金属合金に基づいた通常のワイヤの冷間加工の繰り返しにおいて一般的であるよりもずっと多い冷間変形を与える。冷間加工調整工程の間に材料に付与される全体の冷間加工は、
次式(1):cw=1−(D2/D1)2 (I)
によれば、大略で少なくとも50%および99.999%である。式中、「cw」は、元の材料の有効断面の減少によって規定される冷間加工であり、「D2」は冷間加工調整(単数または複数の)延伸後のワイヤ直径であり、「D1」は同一物の冷間加工調整(単数または複数の)延伸前のワイヤ直径である。
【0041】
高レベルの冷間加工において、変形の間に付与される真歪みは全変形について良好な表示を与えることができる。付与された全冷間加工の別の表現では、冷間加工調整工程は
次式(II):ts=ln{(D1/D2)2} (II)
(式中、「ts」は真歪みによって規定される冷間加工であり、「ln」は自然対数の演算子であり、D1およびD2は、それぞれ冷間加工前の直径および冷間加工後の直径である。)による真歪みの計算で、約0.6単位より大で、12単位未満の真歪みを与える。
【0042】
図2−4を参照すると、冷間加工調整工程は、ワイヤ10を潤滑化ダイ18(図5)に通して延伸することによって実施され、出口直径D2は図2に示される未延伸のワイヤ10の直径D1より実質的に小さい直径を有する。あるいは,ワイヤ10は冷間型押し(cold swaging)または平らにもしくはその他の形状に圧延(rolling)し、それにより冷間加工の正味の累積がもたらされる。冷間加工調整はまた、ここに説明される技術を含む技術を任意に組み合わせて採用でき、例えば、冷間型押し、続いてリボンまたはシート形状またはその他のワイヤ形状に冷間圧延することによって仕上げされる潤滑化ダイを通して延伸する組み合わせである。ある典型的な実施形態では、ワイヤ10の直径がD1からD2に低減される冷間加工調整が単一の延伸で実施され、そして別の実施形態では、ワイヤ10の直径がD1からD2に低減される冷間加工調整が、それらの間でアニール工程を全く用いないで逐次的に実施される多数の延伸で実施される。
【0043】
非形状記憶の生体適合性金属合金材料に対しては、以下に議論されるように、冷間加工調整工程は、50%〜99.999%の間の冷間加工(0.69〜11.51単位の真歪み)を付与する。
【0044】
例えば、ASTM F562の化学組成要件に準拠する材料に対しては、典型的な冷間加工調整は、冷間加工(または真歪み)を、50%(0.69単位)65%(1.05単位)、もしくは92%(2.53単位)のような少量に、および99%(4.61単位)、99.9%(6.91単位)もしくは99.99%(9.21単位)のような多量に、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲の間で付与できる。これらの材料には、限定されるものではないが、500μm未満の直径を有するMP35NTMワイヤ、500μm未満の直径を有する35NLTTMワイヤ、および小寸法における断面厚さが500μm未満である断面厚さを有する35NLTTMリボンが挙げられる。リボンに関連して使用される場合、用語「厚さ」は、本明細書で使用される場合、小寸法に直交する大寸法を有した状態で、小寸法における断面厚さを指す。
【0045】
500μm未満の直径を有する304Lステンレススチールワイヤのような304ステンレススチールの一形態に対しては、典型的な冷間加工調整工程は、冷間加工(真歪み)を、50%(0.69単位)、70%(1.20単位)、もしくは94%(2.81%単位)のような少量に、および99.99%(9.21単位)のような多量に、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲の間で付与できる。
【0046】
小寸法において500μm未満の厚さを有する304Lステンレススチールリボンのような304ステンレススチールの別の形態に対しては、典型的な冷間加工調整工程は、冷間加工(真歪み)を、60%(0.92単位)、85%(1.90単位)もしくは94%(2.81単位)のような少量に、および99.99%(9.21単位)もしくは99.999%(11.51単位)のような多量に、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲の間で付与できる。
【0047】
500μm未満の直径を有する316Lステンレススチールワイヤのような316Lステンレススチールの一形態に対しては、典型的な冷間加工調整工程は、冷間加工(真歪み)を、60%(0.92単位)、80%(1.61単位)、もしくは90%(2.30単位)のような少量に、および99.9%(6.91単位)もしくは99.999%(11.51単位)のような多量に、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲の間で付与できる。
【0048】
小寸法において500μm未満の厚さを有する316Lステンレススチールリボンのような316Lステンレススチールの別の形態に対しては、典型的な冷間加工調整工程は、冷間加工(真歪み)を、60%(0.92単位)のような少量に、85%(1.90単位)もしくは92%(2.53単位)、および99.95%(7.60単位)もしくは99.999%(11.51単位)のような多量に、または任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲の間で付与できる。
【0049】
ASTM F1058の化学組成要件に準拠する材料に対しては、典型的な冷間加工調整工程は、冷間加工(真歪み)を、50%(0.69単位)、65%(1.05単位)もしくは92%(2.53単位)のような少量に、および99.0%(4.61単位)、99.9%(6.91単位)もしくは99.95%(7.60単位)のような多量に、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲の間で付与できる。これらの材料には、限定されるものではないが、500μm未満の直径を有するFWM1058ワイヤ、小寸法において500μm未満の厚さを有するFWM1058リボン、500μm未満の直径を有するConichromeワイヤ、500μm未満の直径を有するエルジロイTMワイヤ、500μm未満の直径を有するフィノックスワイヤが挙げられる。
【0050】
ワイヤ10の直径をかなり減少させる冷間加工調整工程は、ワイヤ10の中の特殊な材料システムに応じて、転位、積層欠陥、および変形双晶を含む機構を経由して結晶学的欠陥を増加させ、図3中の14にて概略的示した伸長結晶構造を生成する。図3に示した伸長結晶構造の生成は、材料固有のスリップ面に沿った個別結晶の塑性的変形の結果であり、多軸歪み、結晶回転、および終局的に冷間加工方向に沿った軸方向に延長したまたは伸長したミクロ構造をもたらす。冷間加工の間に付与されたかなりの量のエネルギーは、熱を発生して失われるが、各結晶または粒子の中に蓄積されたエネルギー量は冷間加工の変形の増加につれて実質的に増加する。この蓄積されたエネルギーおよび粒子の核形成部位として作用する可能性のある欠陥は、以下に詳細に説明されるように、再結晶化プロセスを促進する。
【0051】
2.ナノ再結晶化
冷間加工調整工程の後で、ワイヤ10はナノ再結晶化を受ける。ナノ再結晶化は材料中でナノ粒子を形成する動的なプロセスであり、本明細書で使用される場合、「ナノ再結晶化」は、制御された時間および温度条件下で実行される熱処理を意味し、結果として、本明細書で規定されるようなサブミクロンスケールの粒子組織の生成をもたらす。ある実施形態では、ナノ再結晶化は、冷間加工調整されたワイヤ10をアニールすることによって達成でき、再結晶化された等軸結晶構造を得る。この実施形態では、ワイヤ10は、ワイヤ10を炉中で、例えばナノ再結晶化温度に加熱することによるナノ再結晶化を受ける。図4に示されるように、ナノ再結晶化工程では、サブミクロンスケールの等軸結晶16がワイヤ10の中に生成する。
【0052】
ナノ再結晶化は、冷間加工調整工程で形成された個別の伸長された結晶または粒子に蓄積されたエネルギーの増加によって容易に達成でき、そのことは、ナノ再結晶化工程を経由してワイヤ10の中に比較的少量のエネルギーを投入することによってナノ粒子結晶構造がワイヤ10の中で素早く形成されることを可能にする。冷間加工はまた、積層欠陥、転位、およびその他の高エネルギー特徴部位のような、高密度の粒子核形成部位を生成し、かつ超微細なナノ構造を形成する傾向を強める。
【0053】
従って、ある典型的な実施形態では、所定の金属または金属合金に対するナノ再結晶化温度は通常のアニール温度よりも実質的に低い。ナノ再結晶化工程のアニールの滞留時間は、秒単位から分また時間の範囲であることができる。1秒未満の短時間がより高い温度において使用されてよい。使用される合金によっては、材料をナノ再結晶化またはアニール工程に続いて迅速にクエンチすることは必須ではない。
【0054】
例えば,ASTM F562の化学組成要件に準拠する材料に対して、本方法に従ってナノ粒子ミクロ構造を形成させるに好適なナノ再結晶化温度は、600℃、750℃、もしくは810℃のような低温、および890℃、900℃もしくは950℃のような高温であってよいし、アニール時間は、0.1s、0.2s、もしくは0.8sのような短時間、および15s、120s,もしくは3600sのような長時間、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内であってよい。これらの材料には、限定されるものではないが、500μm未満の直径を有するMP35NTMワイヤ、500μm未満の直径を有する35NLTTMワイヤ、および小寸法において500μm未満の厚さを有する35NLTTMリボンが挙げられる。
【0055】
304ステンレススチールに対しては、本方法に従ってナノ粒子ミクロ構造を形成させるに好適なナノ再結晶化温度は、600℃、640℃、もしくは680℃のような低温、および760℃、850℃もしくは950℃のような高温であってよいし、アニール時間は、0.1s、0.2s、もしくは0.8sのような短時間、および8s、120s,もしくは3600sのような長時間、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内であってよい。これらの材料には、限定されるものではないが、500μm未満の直径を有する304Lステンレススチールワイヤ、および小寸法において500μm未満の厚さを有する304Lステンレススチールリボンが挙げられる。
【0056】
316Lステンレススチールに対しては、本方法に従ってナノ粒子ミクロ構造を形成させるに好適なナノ再結晶化温度は、600℃、680℃、もしくは740℃のような低温、および820℃、8750℃もしくは950℃のような高温であってよいし、アニール時間は、0.1s、0.2s、もしくは0.8sのような短時間、および8s、120s,もしくは3600sのような長時間、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内であってよい。これらの材料には、限定されるものではないが、500μm未満の直径を有する316Lステンレススチールワイヤ、および小寸法において500μm未満の厚さを有する316Lステンレススチールリボンが挙げられる
【0057】
ASTM F1058の化学組成要件に準拠する材料に対して、本方法に従ってナノ粒子ミクロ構造を形成させるに好適なナノ再結晶化温度は、600℃、750℃、もしくは810℃のような低温、および890℃、900℃もしくは950℃のような高温であってよいし、アニール時間は、0.1s、0.2s、もしくは0.5sのような短時間、および12s、120s,もしくは3600sのような長時間、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内であってよい。これらの材料には、限定されるものではないが、500μm未満の直径を有するFWM1058ワイヤ、小寸法において500μm未満の厚さを有するFWM1058リボン、500μm未満の直径を有するConichromeワイヤ、500μm未満の直径を有するエルジロイTMワイヤ、および500μm未満の直径を有するフィノックスワイヤが挙げられる。
【0058】
ナノ再結晶化工程は、通常の金属加工が実施される、例えば空気中などの任意の環境で実行でき、または任意選択で、窒素のような不活性雰囲気、ハロゲンガス、または希ガス中で実行してよい。
【0059】
有利なことに、本明細書で詳細に説明される冷間加工調整は、標準的な材料中に一般的に存在するよりもより多くの粒子の核形成部位、または粒子形成部位を生成し、再結晶化プロセスを開始するのにより少ない熱エネルギーを必要とする。結果として、再結晶核が形成され、その核は空間的に他の再結晶核のナノメートル以内である。再結晶核の密度および低い熱エネルギー障壁に起因して、再結晶化を開始させるための加熱直後のクエンチにより、それぞれ35NLTTM合金およびニチノールに対する図7および23(a)で示されるように、一様でほぼ均質なナノ粒子構造がもたらされる。
【0060】
3.追加の冷間加工
更に、いくつかの典型的な実施形態では、ワイヤは追加の冷間加工を受ける。例えば、MP35NTM合金または35NLTTM合金は、耐疲労損傷の代表的レベルを維持しながら機械的強度を増加させる目的で、有効断面の低減を達成するか、または冷間加工レベルを5%、10%、もしくは15%のような少量、および60%、70%もしくは99%のような多量で、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内で達成するために延伸してもよい。
【0061】
4.その他のプロセスパラメーター
表1(下に示す)は、本方法の実施形態に従って調製される種々の材料並びの「対照」の材料のための代表的プロセスパラメーターを列挙する。本明細書で使用する場合、「対照」材料は、本方法に従った加工を受けない材料である。
【0062】
非形状記憶の生体適合性金属合金の製造プロセスについての上記の議論を参照して、表1の「中間的歪み」は、ワイヤが中間的な径に延伸された後でかつ最終延伸およびアニールの前の歪みを指す。上記のように調製された材料に対して、この「中間的歪み」は、冷間加工調整工程の後の歪みである。
【0063】
「最終歪み」は、表示された直径をワイヤが有するときの、最終延伸およびアニール後の歪みである。「最終アニール温度」および「最終アニール滞留」は、表1に列挙した実施例に対する最終アニールプロセスに対するものである。上記で説明したように調製された材料に対しては、これらの典型的パラメーターは、ナノ再結晶化工程のものを記述している。最終歪みがゼロである実施例では、この「最終アニール」は、プロセス中の最後の熱機械的工程、すなわち追加の冷間加工が適用されないことである。最終歪みがゼロより大の実施例では、その材料は最終アニールの後で更なる加工を受けた、すなわち、追加の冷間加工が適用されたことである。
【0064】
例えば、表1の2行目(35NLTTM対照材料)は、35NLTTMで作製されたワイヤであり、0.695真歪みに延伸され、1066℃で10秒未満の間アニールされ、次いで0.48真歪みに延伸されて最終直径が177μmであることを指す。3行目(35NLTTM)は、5NLTTMで作製されたワイヤであり、3.270真歪みに延伸され(冷間加工調整工程)、850℃において5秒未満の間でアニールされ(ナノ再結晶化工程)、およびアニール工程の後で再度延伸されない(最終歪みがゼロのため)ことを指す。4行目(35NLTTM−HS)は、35NLTTMで作製されたワイヤであり、3.100真歪みに延伸され(冷間加工調整工程)、850℃において3秒未満の間でアニールされ(ナノ再結晶化工程)、およびアニール工程の後での第2の延伸(追加の冷間加工調整工程)があり、最終の真歪みが0.473,および仕上げの直径が177μmである事を指す。追加の冷間加工は、以下に議論されるように改良された降伏強度を与える。
【0065】
表1において、「HS」は、上記のように追加の冷間加工を受けた高強度の材料を表す。「F」はフラットなリボンまたは細片材料を表す(ワイヤと対照的に)。そして「FWM1058」は、ASTM F1058の化学組成要件に従って作製された材料を表し、インディアナ州のフォートウェインの Fort Wayne Metals Research Products社から入手可能である。表1に示した材料の性質は同様に表3に表示した(以下のセクションIIに示した)。表1の材料は、加工実施例1および以下のセクションIIIの3−8で詳細に議論される。
表1 種々の実施例材料調製のプロセスパラメーター
【0066】
【表1】
【0067】
B.形状記憶材料
種々の形状記憶材料は、本方法に従った方法によりナノ結晶材料にできる。本方法の実施形態で使用するに好適な形状記憶材料の例には、ニチノール(ニッケル−チタン、二元系形状記憶材料)、ニチノール三元系または四元系合金(クロム、タンタル、パラジウム、白金、鉄、コバルト、タングステン、イリジウム、金のような添加物を有するニチノール)などが挙げられる。
【0068】
本明細書に説明される性質および利点を有する形状記憶合金ワイヤの製造方法の典型的な例では、最初にニチノールはインゴットを作ることができる任意の既知方法を用いて溶融される。インゴットはその後の加熱、加温、およびワイヤ形態に冷間加工するのに好適である。加熱、加温、および冷間加工の組み合わせを使用して、例えば、約2〜5mmの直径を有するニチノールワイヤの供給原料を作る。この供給原料は次に、酸化され、通常のワイヤ延伸の常套手段を用いて、仕上げのワイヤ生産のための好適な出発点としての中間的直径に繰り返し冷間延伸およびアニールされる。
【0069】
中間的径に延伸されたら、次いでそのワイヤを、50〜500MPa(7〜70ksi)の一定テンションの下で連続的にアニールする。その時の温度は450℃〜850℃(723K〜1123K)の間の任意の温度であり、あるいは前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内で行う。
【0070】
ワイヤの中間的径は、一般的に仕上げ保持の冷間加工レベルが、15%または25%のような少量、および50%または60%のような多量、または前記冷間加工の値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内のレベルをもたらすように選択される。このことは、最終の仕上げ工程において、ワイヤを1つ以上のダイを通過させて延伸し、最終アニールの前のワイヤに15%〜45%の間の冷間加工を与えることを意味する。
【0071】
最終の寸法決定は、中間的ワイヤを一連のダイヤモンド延伸ダイを通過させて引き出すことによって達成される。図5を参照して、ワイヤ20は、距離D2で分離されて対向するダイヤモンドディスク22、24を通過させて延伸または引き出され、そうでなければ任意のタイプのワイヤ延伸ダイを通して延伸される。 距離D2はワイヤ20の始発の直径D1よりも小さい。その結果、ワイヤ20はディスク22、24の間から出るので、仕上げ直径は実質的に距離D2に等しいことになる。あるいはワイヤ20最終寸法決定は、図5に示したワイヤ10および上記議論と同様に、ワイヤ10を潤滑化ダイに通して延伸することによって、達成できる。
【0072】
最終の寸法決定によってニチノール材料に与えられた冷間加工(または真歪み)は、20%〜99.95%(0.22単位〜7.60単位)の範囲であってよい。例えば、典型的な冷間加工調整工程は、冷間加工(または真歪み)を、20%(0.22単位)、30%(0.36単位)、もしくは35%(0.43単位)のような少量で、および95%(3.00単位)、99.0%(4.61単位)もしくは99.95%(7.60単位)のような多量で、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内で行う。この範囲の最終の冷間加工を受けることができるニチノール材料には、限定されるものではないが、500μmの直径を有するニチノールワイヤ、小寸法において2mm未満の厚さを有するニチノールリボンまたは細片材料、2mm未満の壁厚さを有するニチノールチューブ材料、および5mm未満の直径を有するニチノール棒材料、が挙げられる。
【0073】
最終熱処理またはナノ再結晶化工程は、サブミクロンスケールの粒子径を生成するために使用されるアニール工程である。このアニール工程は、ニッケル豊富な析出物および/または析出物の成長を促進させること無しにナノ再結晶化プロセスを推進する。
【0074】
大抵のニチノール合金に対する、本方法に従ってナノ粒子ミクロ構造を形成するのに好適なナノ再結晶化温度は、300℃、375℃、もしくは475℃のような低い温度、および510℃、550℃、もしくは600℃のような高い温度、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内であってよい。これらの合金には、限定されるものではないが、500μmの直径を有するニチノールワイヤ、小寸法において2mm未満の厚さを有するニチノールリボンまたは細片、および2mm未満の壁厚さを有するニチノールチューブ材料、が挙げられる。
【0075】
例えば、5mm未満の直径を有するニチノール棒材料のようなその他のニチノール材料に対して、本方法に従ってナノ粒子ミクロ構造を形成させるのに好適なナノ再結晶化温度は、300℃、375℃、もしくは450℃のような低い温度、および530℃、550℃、もしくは600℃のような高い温度、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内であってよい。
【0076】
アニール工程は、析出物の形成を制限するために、0.1s、0.2s、もしくは2sのような短時間、および90s、900s、もしくは5400sのような長時間、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内の時間であってもよい滞留時間の連続アニールとして実施できる。上記の温度でこの範囲の滞留時間が可能であるニチノール材料には、限定するものではないが、500μmの直径を有するニチノールワイヤ、小寸法において2mm未満の厚さを有するニチノールリボンまたは細片、2mm未満の壁厚さを有するニチノールチューブ材料、および5mm未満の直径を有するニチノール棒材料が挙げられる。
II.本製造方法に従って作製されたワイヤの特性の説明
A.非形状記憶の生体適合性金属合金
【0077】
以下で議論されるように、本方法に従って作製された金属および金属合金ワイヤは、以下のことを含む、数個の新規な物理的特性および/または物理特性の新規な組み合わせを示す。
1.ナノ粒子ミクロ構造
【0078】
上記のセクションI−Aで説明したプロセスのような、本方法に従って製造されたワイヤは、サブミクロンスケールまたはナノ粒子のミクロ構造を示す。本明細書で使用した場合、「サブミクロンスケール」および「ナノ粒子」は、結晶、すなわち、粒子が500nm以下の平均的結晶径を有する結晶構造を指し、「結晶径」によって、任意の平断面の全域であらゆる所定の結晶を横断する最大面の寸法を指す。図4に描写したような典型的な実施形態において、結晶16は、例えば、平均的結晶径または粒子径として、10nm、50nm、75nm、もしくは100nm、のような小さな、または300nm、350nm、400nm、450nmもしくは500nmのような大きな、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内の大きさであってよい。粒子径は、ASTM E112を含む、粒子径を測定するのに好適な任意の方式により測定し、その粒子径を平均して決定できる。
【0079】
1つの典型的な方法では、電子顕微鏡を使用して材料サンプルの平均結晶径または粒子径を測定できる。詳細には、電界放出走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して、例えば強い境界コントラストを示す数100の結晶を含む画像を集める。TEMを使用して集めた画像の例を、例えば、図7,10(a)および11(a)−(c)に見ることができる。次に、その画像を(図10(b)のような)粒子測定に好適なバイナリフォーマットに、例えば,ワシントンD.C.の国立衛生研究所からオンラインで無料入手できる、ImageJソフトウエアを使用して変換する。解像できる粒子を楕円体でモデル化し(図10(c)参照)、続いて、結晶径または粒子径、例えば、平均径、最大径、および最小径に関して得られる統計値をデジタル的に測定する。得られる平均結晶径は、サンプルを採った材料の平均結晶径であると見なされる。
【0080】
2.高サイクル疲労強度
本方法に従って作製されたサブミクロンンスケールの結晶径または粒子径の材料は、回転ビーム疲労試験で測定された場合に、大いに改良された高サイクル疲労強度のナノ結晶材料をもたらす。回転ビーム疲労試験は、Jeremy E. Schaffer(プルード大学)によって2007年8月に発表された「35Co−35Ni−20Cr−10Mo合金の医療用微細ワイヤにおける疲労寿命の変動をモデル化する階層的開始機構のアプローチ(A Hierarchical Initiation Mechanism Approach to Modeling Fatigue Life Variability in 35co− 35ni−20cr−10mo Alloy Medical Grade Fine Wire)」(非特許文献1)、およびMitesh PatelよってJournal of ASTM International, 4巻,6号に発表された「回転ビーム試験によるニッケル−チタン合金の疲労応答性の特徴付け(Characterizing Fatigue Response of Nickel−Titanium Alloys by Rotary Beam Testing)」(非特許文献2)の記述のように行った。本明細書で使用した場合、用語「高サイクル疲労強度」は、例えば疲労強度または代替する応力レベルが100万回より大で破壊に至ること事を指す。
【0081】
本改良は2つの相互依存現象から生じると考えられる。1つは粒子境界に束縛されたマトリックスを介する転位伝播に必要なエネルギーが増加したことであり、転位は結晶材料中の永久的な塑性損傷の仲介因子であるからである。もう1つはテクスチャ効果に起因し、テクスチャ効果は、冷間加工調整の後のナノ再結晶化プロセスによって推進される非ランダムな結晶学的配向分布を伴い、そのことは荷重を負担する軸方向における材料のコンプライアンスを増加させる。例えば粒子径が1000nm(1μm)を超過する通常のMP35NTM合金ワイヤでは、主要な疲労損傷は、表面近くもしくは表面外周のマイクロクラックを仲介する転位形成、またはサブ表面の応力集中によって生じる。例えば200nmの平均粒子径を有するワイヤのようなナノ粒子MP35NTM 合金ワイヤでは、これらのタイプの転位が移動または伝播することがはるかに困難である。その理由は、転位が、粒子境界のより高い含量または出現率に関連する応力場によって妨害されるからであり、そして転位を推し進める分解せん断応力(resolved shear stress)は、次のセクションで論じられるようにテクスチャ効果によって低減されるからである。従って高サイクル疲労強度および材料の降伏強度は既定の極限引張強度レベルに対して増加することになる。
【0082】
3.結晶配向
本方法は結晶学的テクスチャを増加させることが示され、非ランダムでプロセス特有な結晶配向分布またはテクスチャを生成することが示された。以下で論じられるように、粉末電子回折パターンは非ランダムな結晶配向分布の証拠を示す。例えば,図6の右手上部に示される粉末電子回折パターンを参照すると、ランダムに分散したドット付きリングが、[100]晶帯軸、即ちワイヤ横断方向に対して垂直な軸を主として証拠立てる、高強度のスポット40を含むパターンとして現れている。既知の等軸ミクロ結晶材料は、一般的にランダムに分散したドット付きリングを示すことが知られている。
【0083】
好ましい配向という独特の特性は、金属および/または金属合金に特異的であり、同様にプロセスに特異的であり、本方法に従って製造されたワイヤの全実施形態において存在したりしなかったりする。例えば本明細書で示されるように、 非ランダムな結晶配向分布はMP35NTM合金から本方法によって生産したワイヤ中に認められ、一方、よりランダムなナノ粒子分布が、二元系ニチノール(ニッケル−チタン)形状記憶合金から本方法よって生産されたワイヤ中に認められた。
【0084】
このテクスチャ現象は、MP35NTM合金が冷間ワイヤ延伸の間に特定のスリップシステムに従った塑性変形に伴う結晶回転効果による、ファイバーテクスチャ化(fiber texturization)を受ける傾向があることに関連すると考えられる。ここでスリップシステムは、結晶変形またはスリップが、それに沿って発生する結晶内部の特定方向として規定され、再結晶化後でさえもある程度発生する。本方法の冷間加工調整工程は、非ランダムに変形したスリップ面、双晶境界またはその他の結晶学的形体に従って起こる、好ましい粒子核形成部位を生成する。
【0085】
テクスチャの強度および感知は、TEMおよび電子後方散乱回折(EBSD、electron backscatter diffraction)技術を含む種々の技術を使用する電子顕微鏡によって解析できる。EBSDにおいては、10から40keV の電子ビームを使用して、ワイヤの横断断面のような研磨表面を精査し、散乱ビームを像として集め、幾何学的に解析して多くの結晶に対して断面全体の結晶配向を決定する。成功したEBSD解析の最終結果は、問題になっているサンプル全体の結晶配向を統計的に定量化することであり、方位像顕微鏡(OIM、orientation imaging microscopy)と呼ばれる技術で配向マップとして表示される。通常のアニール実施は、増加した熱エネルギーに伴う高度な拡散に起因する核形成の特徴によって規定される初期配向を顕著に取り除き、および効果的にランダムな配向をもたらす。対照的に、本明細書に説明したMP35NTM合金を調製するための代表的プロセスではテクスチャが保存され、結果として予備アニール変形および熱処理加工パラメータによって異方性を制御できる独特な材料が得られる。
【0086】
4.疲労耐久度
医療用材料で作製された通常の金属ワイヤは、交番疲労の歪み限界(alternating fatigue strain limit)、(これ以降は耐久限度と称する)を有し、その限界以下では、材料は、疲労破壊する前に1000万回の疲労サイクルに持ちこたえる。詳細には、ミクロ粒子結晶構造および25×106psiを超過する弾性率を有する通常の金属ワイヤは、平滑なサンプルを回転ビーム疲労試験によって測定すると0.35%交番歪み付近またはそれ以下の耐久限度を有する。その試験法は、Jeremy E. Schafferによって2007年8月に発表された(非特許文献1)、「35Co−35Ni−20Cr−10Mo合金の医療用微細ワイヤにおける疲労寿命の変動をモデル化する階層的開始機構のアプローチ(A Hierarchical Initiation Mechanism Approach to Modeling Fatigue Life Variability in 35co− 35ni−20cr−10mo Alloy Medical Grade Fine Wire)」で論じられた方法に従った。
【0087】
対照的に、ナノ結晶構造を有し本方法に従って製作した金属ワイヤは、耐久限度が、例えば図8に示され、かつ以下の実施例1および3−7で論じられるミクロ粒子結晶構造を有する、通常の金属ワイヤの耐久限度を20%〜130%上回る耐久限度を有する。
【0088】
例えば以下の表2に示されるように、疲労荷重能力における改良は、対照実験材料と比較して本方法に従って作製されたワイヤにおいて実証され、一部のナノ粒子材料では、高サイクル(即ち、108サイクル)歪み許容限界において100%増加を示す。表2の材料は、以下のセクションIIIの中で、実施例1および5−7で詳細に論じられる。
表2 種々の材料の疲労荷重能力
【0089】
【表2】
【0090】
5.延性、疲労強度,および降伏強度
軸方向のワイヤ延性は、例えば、ペースメーカーリード要素のコイリング、および生体刺激リード用ケーブリングのような種々の形成加工用途のための金属材料の適合性を決定するのに重要な基準値である。軸方向のワイヤ延性はまた、ワイヤの靭性、およびヒト体内での応力に耐えるワイヤ性能の決定にも重要である。通常のワイヤ製造の実施では、材料の高サイクル疲労強度および降伏強度を増加させながら材料の延性を減少させる。通常、延性は、混在物の再結晶化、粒子成長、並びに降伏強度および高サイクル疲労強度の減少を伴うアニールを介して回復される。
【0091】
所与の荷重方向における材料剛性の1つの尺度は、弾性ヤング率として知られ、弾性ヤング率は、これ以降、ワイヤの軸方向ヤング率または単に弾性率と呼ぶ。高い弾性率を有する材料は、軸方向の弾性変形の所定の増加に対して、比較的低い弾性率を有する材料よりも、より大きな力を持って変形に抵抗する。この場合、比較的低い弾性率を有する材料は、より従順であり、所定の弾性歪みの増加に対してより少ない内部弾性エネルギーを蓄積し、結果としてより少ない、内部応力および潜在的疲労クラック起動力をもたらすことになる.このことは本方法によって作製されるワイヤの改良された歪み制御疲労性能の原因となるもう1つの現象と考えられる。
【0092】
本方法は、高い延性の相対的度合を与えると判明し、例えばモノフィラメントワイヤの破壊に至る軸方向公称歪みは約2%、4%、または8%より大であり、ケーブルまたはブライド製品の破壊に至る軸方向公称歪みは約1.5%、3%、または6%より大であり、同時に疲労強度を増加させ、かつ高い降伏強度、および降伏強度と極限強度との比を保持させる。例えば、すでに示したことおよび以下に論じることのように、本方法による生体適合性材料から作製されたワイヤの実施例においては、幾つかのワイヤ材料では、破壊に至る軸方向公称歪みは8%より大であり、降伏強度と極限強度との比が90%を超過するという組み合わせ特性が認められる。延性であって、疲労限界/耐損傷性が高く、および降伏強度が高いという、この独特で好ましい組み合わせは種々の用途にとって利点である。以下の表3には、本方法に従って作製されたワイヤ材料の代表例および対照の疲労特性および強度特性を例示するものが含まれる。
B.追加の冷間加工を有する生体適合性金属合金
【0093】
上記のように、例えばASTM F562の化学組成要件に従う材料で作製されたワイヤは、任意選択でナノ再結晶化に続いて追加の冷間加工を受けることができる。追加の冷間加工が実施されると、ワイヤは、以下のことを含む、新規な物理特性および/または新規な物理特性の組み合わせを示すことができる。
1.増加した極限強度
【0094】
上記で説明したワイヤのように、本方法に従って作製されたナノ結晶ワイヤは、更なる極限破壊強度を示すことができる。この追加の強度は、いくつかの装置においてワイヤが過荷重に抵抗するのに役立つことができ、その装置には、以下のセクションIVで詳細に論じられるように、心臓ペーシングリード、または電気的除細動リードワイヤを含む医療装置が挙げられる。例えば、ASTM F562の化学組成要件に準拠する合金で本方法に従って調製されたものにおける追加の冷間加工(本明細書で詳細に論じられるように)は、追加の冷間加工が全くない同様なナノ結晶合金材料に対する1400〜1500MPaの強度レベルと比較して1900MPaに至る極限強度を示した。この冷間加工された材料を、2200〜2500MPaのような高い値に極限強度を増加させるために、更に300℃のような低い温度または800℃のような高い温度で熱処理できる。
【0095】
2.形状安定化
幾つかの用途では、形成後の熱処理を介した形状安定化が望まれる場合がある。そのような用途には、セクションIVで論じられるように、例えば冠状動脈リードの製造、コイル製造、またはケーブル製造が挙げられる。これらの場合、本方法の実施形態に従って製造されたナノ結晶材料は、続いて追加の冷間加工を受けた際に、ミクロ構造に貯蔵されたエネルギーによる更なる利益を提供できる。例えば、MP35NTM合金のような材料は、実質的に低温で反応させるために貯蔵されたエネルギーが必要とされる。その温度は、550℃、625℃、もしくは700℃のような低い温度、または870℃、900℃、もしくは950℃のような高い温度、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内の大きさであってよい。本明細書で説明されるように、追加の冷間加工がないと、ナノ再結晶化材料は、標的のパーツ形状を有利に安定化させるように反応することができない。
【0096】
更に、本方法に従って作製された材料は、対照材料と比較して改良された引張強度を示す。例えば、以下の表3には、本方法に従って作製されたワイヤにおいて、高強度、および/または破断前のより大きな歪みに耐える性能のような改良が示される。例えば、以下の表3には、本方法に従って作製されたワイヤにおいて、高強度、および/または破断前のより大きな歪みに耐える性能、および/または材料中に残留応力勾配が比較的少ないことを示す増加した降伏強度/極限強度比、のような改良が示される。表3において、「HS」は上記のように追加の冷間加工を受けた高強度材料を指し、「F」はフラットなリボンもしくは細片の材料(丸いワイヤと対立させて)を指し、および「FWM1058」は上記で論じたように、ASTM F1058の化学組成要件に従って作製された材料を指す。表3の材料は、加工実施例1および以下のセクションIIIの3−8で詳細に論じる。
表3 種々の対照およびナノ粒子材料の引張特性
【0097】
【表3】
【0098】
形状記憶材料
上記のセクションI−Bにて説明した方法のような本方法に従った製造方法の使用は、ニチノールを含むNiTi形状記憶合金に適用でき、結果として次の粒子径を有するNiTiワイヤの生成をもたらす。粒子径は、1nm、10nm、もしくは25nmのような小さいもの、および75nm、150nm、もしくは350nmのような大きなもの、または前記値の任意の組み合わせの間で規定される任意の範囲内の大きさである。更に、本方法に従って作製された金属および金属合金ワイヤは、以下のものを含む、数個の新規な物理特性および/または物理特性の新規な組み合わせを示す。
【0099】
1.析出物がないこと
等軸で均質なミクロ構造が、177μm直径を有し平均粒子径が50nm〜10μmの間にある、ニチノールワイヤで生成される。すべての材料は、Ni豊富なレンズ状の析出物を含まなかったという証拠が示される。1つの典型的な実施形態では、材料は、標準的な明視野TEM分析で視認できるTixNiy析出物が実質的になかった。別の典型的な実施形態では、材料は、寸法が5nmを超過するTixNiy析出物がなかった。ナノ結晶、析出物がないミクロ構造、全体的転移歪み能力(total transformation strain capability)の結果として、図7で表示される材料のプラトー長さL2が改良される。
【0100】
2.活性オーステナイト転移温度
約100nm未満の平均粒子径を有するサンプルにおいて、多段性の可能性がある拡張曲げ部および応力無しの歪み回復が見出された。図14に示される活性オーステナイト転移終了温度(Af)の増加は、以下でより詳細に論じられるが、主として高い粒子境界エネルギー密度に起因し,かつナノ結晶ワイヤにおける粒子拘束効果によるものと仮定される。図14に同様に示されるオーステナイト開始温度(AS)において、同時的上昇は、これらのサンプル中で観察されなかった。このことは、種々のNi豊富な析出反応から想定されるようなマトリックスのNi欠乏がないことを示唆する。典型的な実施形態では、得られた材料は325K以下のAfを有していた。
【0101】
3.無負荷プラトー強度および極限引張強度
粒子径の減少は、無負荷プラトー強度(図7に示される曲線の下方の近似的に勾配ゼロの部分で概略的に表示される)と、永久変形の消滅と組み合わさった極限引張との両方において、かなりの増加が同時に起こった。図14に示され、かつ以下で詳細に論じられる1つの典型的な実施形態では、材料は1100MPaより大の極限引張強度を有していた。
【0102】
4.強度特性
強度特性において40%の増加が、図15(d)に示されるように、粒子径が100と50nmとの間で発生した。これらの効果は、マルテンサイト変異体の活性と、完全に適応されたミクロ構造のその後の弾性負荷とが古典的なミクロ粒子の強度増加効果と組み合わさって関係している可能性がある。
【0103】
5.4%歪みサイクルにおけるゼロの永久変形
4%歪みサイクルにおけるゼロの永久変形は、図15(c)および以下で詳細に論じられるように、平均粒子径50nmの、等軸で、析出物のない、および歪み無し材料で示された。
【0104】
6.回復性歪み
図7を参照して、ナノ結晶ニチノールワイヤにおいて、図7でL1にて示されるニチノールの9.6%公称等温回復性歪み、および公称回復性歪みが[123] 配向における理論的限界の90%より大であることを実証した。この試験は、温度T=298±5K、またはAf±10Kで、単軸引張試験として実施した。100nmの等軸粒子径を有する析出物のない構造では、転移プラトー(transformation plateau)は10%軸方向公称歪みより大に拡張し、10.1%軸方向公称歪みで終わった。このことは軸方向公称破断歪みが10%歪みより大で、1%非回復性歪みより小であることを提供する。従って、熱摂動のない全回復性歪みは9%過剰であった。更に長いプラトー挙動は欠陥密度が低減した状態を含む均質な転移に対する好ましい条件に起因し、より大きな利用可能転移容積およびテクチャ効果の可能性をもたらした。
【0105】
7.無負荷剛性と粒子径との相関関係
無負荷剛性は、図15(a)に示されるように、粒子径が100nmから50nmに動くと、段階的に42GPa〜29GPaに減少することが分かった。 この挙動は、単一および複合したマンテルサイト変異体との間のエネルギー的な競合の結果であろう。剛性改変のメカニズムを描写することにより、例えばニチノールステントのような、装置の設計を容易にできる。ニチノールステントでは、荷重剛性および無負荷剛性が、装置機能および血管応答性の両方で動力学的に重要である。
【0106】
8.弾性、歪み転移、機械強度、および疲労限界歪みの組み合わせ
典型的なニチノール製品は、擬似弾性体として、一般的に約773Kで60秒間より大で加熱するように設計される。本方法は、良好な弾性および約7.1%歪みより少ないプラトー長さ(図7でのL1)を有する材料をもたらす。通常の考えでは、等軸の、アニールしたニチノールは、弾性が劣り、歪みサイクルの間で高レベルの塑性流動を示すと示唆される。しかしながら、上記で論じたように、本方法に従って作製された材料は、ナノ結晶で等軸のニチノールワイヤを与え、そのものは、良好な弾性、拡張した歪み転移プラトー(低い析出物密度とテクスチャの効果が組み合わさって)、および良好な機械強度(>1199MPaUTS)、並びに106サイクルにおいて0.9%を超過する疲労限界歪みを有する。
【0107】
III.実施例
以下の非限定的実施例は、本方法による種々の特徴および特性を例示するが、それらは限定されるものではないと解釈すべきである。
実施例1
ナノ粒子結晶構造を有する、ASTM F562の化学組成要件に準拠する合金ワイヤの製造、およびそのワイヤの物理的性質の特徴表示
【0108】
この実施例では、代表的なワイヤは、ASTM F562の化学組成要件に従って35NLTTM ワイヤの形体で作製されたものであり、0.0076mm(0.0030インチ)〜0.18mm(0.0070インチ)の範囲の直径を有するものを製作し試験した。そのワイヤは、本方法の実施形態に合致したワイヤ特性および特徴を示した。
【0109】
1.実験的手法
本方法は、VIM(真空誘導溶解)/VAR(真空アーク再溶解)の35NLTTM インゴットで開始し、インゴットを加熱ローリングで加工し棒材にした。次いで材料を、通常の方法で反復的な冷間加工およびアニール加工し1.6mm直径にした。1.6mmにおける通常のアニール工程に続いて、材料を丸いダイヤモンドダイを通過させる冷間延伸によって0.91mmにした。次に材料を従来のようにアニールし、約1〜5μmの平均粒子径を有する等軸粒子構造にした。
【0110】
本方法の冷間加工調整およびナノ再結晶化工程に関して、ナノ再結晶化のための35NLTTM 合金の調製では、冷間加工調整工程において比較的多量の変形を伴うことが見出された。
【0111】
本実施例では、ナノ再結晶化の準備において、0.45−0.91mmの範囲の直径を有するアニールしたワイヤに延伸による冷間加工調整工程を施し、直径を小で0.076mm(0.0030インチ)および大で0.18mm(0.0070インチ)にした。従って、上記の式Iによると、冷間加工調整は材料に98%までの冷間加工を与えたことになった。
【0112】
2.結果
ナノ再結晶化工程を、850℃で約2〜3秒の滞留時間で実施した。得られたナノ粒子結晶構造を図6に示し、図6の右手側の上部に粉末電子回折パターンを示し、非ランダム結晶配向が示される。詳細には、ランダムに離間したドット付きリングが、 [100] 晶帯軸、即ちワイヤ横断する方位に対して垂直な軸を主として証拠立てる、高強度のスポット40を含むパターンとして現れている。既知の等軸ミクロ結晶材料は、一般的にランダムに分散したドット付きリングを示すことが知られている。
【0113】
図8を参照すると、ワイヤの耐久限度の比較がグラフ表示され、耐久限度は、回転ビーム疲労試験によって測定し、本方法の典型的な実施形態に従って作製された種々のワイヤと、通常のワイヤ設計のものとを比較した。以下で議論する。
【0114】
図8において、X形状印で示されたデータポイント51は、以下の表4Aに表示した。この表データは、0.076mm(0.0030インチ)直径の、本方法に従って製造された35NLTTM合金ワイヤを使用して作られた(本明細書で以下の実施例4で詳細に論じた)。図8および表4Aのデータポイント51で示されるように、このワイヤは。1350MPaを超えて応力振幅に耐え、少なくとも0.60の公称歪みであると分かった。
表4A 疲労データ、35NLTTM合金ナノ粒子ワイヤ、直径76μm
【0115】
【表4】
【0116】
図8において黒塗り四角印で例示したデータポイント52は、以下の表4Bに表示した。この表データは、0.18mm(0.0070インチ)直径の、本方法に従って製造された35NLTTM合金ワイヤを使用して作られた。 図8のデータポイント52で示されるように、このワイヤは、1000MPaを超えて応力振幅に耐え、0.450より大の公称歪みであると分かった。
表4B 疲労データ、35NLTTM合金ナノ粒子ワイヤ、直径177μm
【0117】
【表5】
【0118】
対照的に、チャートにプロットしたその他の伝統的ワイヤは、約900MPa未満の応力振幅で破損し、0.400未満の歪み振幅であった。例えば、 直径177μmおよび平均粒子径約3μmを有する、MP35NTMで作製された標準的なミクロ結晶ワイヤは、データポイント54を生成し、図8にダイヤモンド形状印で示し、以下の表4Cに表示した。この物は900MPa未満で破損し、0.400未満の公称歪みを示した。
表4C 疲労データ、MP35NTM標準的ワイヤ、直径177μm、平均粒子径3μm
【0119】
【表6】
【0120】
データポイント56を生成したミクロ結晶ワイヤは、図8に三角印で示し、以下の表4Dに表示した。この物は700MPa未満で破損し、0.310未満の公称歪みを示した。
表4D 疲労データ、MP35NTM標準的ワイヤ、直径177μm
【0121】
【表7】
【0122】
アルトマン(Altman)に記載された(上記で説明した)既知の方法に従って作製されたワイヤは、データポント56を生成し、図8に白塗り四角印で示し、以下の表4Eに表示した。この物は600MPa未満で破損し、または0.73未満の公称歪みを示した。
表4E アルトマン文献による疲労データ
【0123】
【表8】
【0124】
従って、上記および図8および表4A−4Eに示されるように、本方法に従って作製されたワイヤの疲労限界は、通常のミクロ結晶ワイヤを20%〜100%上回る改良を示した。
【0125】
上記で論じたように製造された、約0.12mm〜0.15mm(0.0046インチ〜0.0059インチ)の35NLTTM 合金ワイヤの引張りデータおよび応力−歪み曲線を以下の表5および図11に示した。表5を参照して、公称破断歪みを伸び率(「Elong」)として示し、降伏を降伏強度で表示し、極限強度を極限引張で表示した。このデータはまた図17(a)−17(c)にも提示し、以下で論じる。
表5 表(まとめ)
【0126】
【表9】
【0127】
実施例2
通常およびナノ結晶ニチノール金属間合金ワイヤにおける構造−特性の相関関係
この実施例では、均質な177μm直径のナノ結晶ニチノールワイヤを製造し、等価なインゴット原料からのミクロ結晶ニチノールと比較した。 ワイヤの物理的性質の解析は、循環引張試験、歪み制御疲労試験、および曲げ・自由回復試験(BFR)を以下の説明のように実施した。更に、極度に微細な構造を観察するため、集束イオンビーム(FIB)ミリングを使用して、透過型電子顕微鏡(TEM)用の薄箔サンプルを生成した。 TEM写真により、均質な5〜60nmの粒子径であるB2立方構造を確認した。更に、107サイクルでの一定歪み寿命試験で、ナノ結晶アニールワイヤがミクロ結晶アニールワイヤよりも30%大であることを見出した。更に、粒子径と、超弾性温度内および歪み領域内での単軸引張りサイクル試験における不可逆的塑性歪みとの間で正の相関関係を確認した。
【0128】
1.実験的手法
この実施例では、インゴットが243KのAsで、チタン50.9重量%を含むTiNiの約2mmのニチノールワイヤを等価的に延伸およびアニールし230μm直径のものにした。この段階でのワイヤを、650〜850℃で、公称2μmの粒子径で完全な再結晶化を確実にするに十分な滞留時間で、連続ストランドアニールした。次いでそのサンプルを天然ダイヤモンド延伸ダイおよびオイル系潤滑剤を使用して、仕上げ直径177μmで公称40%保持冷間加工に通常的なウエット延伸した。ワイヤサンプルは、最終的に一定応力で60秒未満の時間で、発生可能なNi豊富な析出物を最小化しながら再結晶化をもたらすように連続的にアニールした。
【0129】
表面付近のミクロ構造および酸化物の厚さの決定は、集束イオンビーム(FIB)および透過型電子顕微鏡(TEM)による薄箔調製および取り出し(extraction)を使用して実施した。調製方法を図22(a)−(d)に絵入りで示した。ターゲットサンプル表面を、最初に白金化合物蒸気の堆積物の薄層でマスクし、イオン打込み損傷からその表面を保護した。マスクしたすぐ後に、粒子径分布を図10(a)−(f)に示されるようにデジタル画像解析を使用して計算した。
【0130】
サンプルの活性転移温度を、曲げ・自由回復(BFR)方法学を使用して解析した。その方法学は、標準ASTM F2082−06(Standard Test Method for Determination of Transformation Temperature of Nickel−Titanium Shape Memory Alloys by Bend and Free Recovery)のための専有のデジタルビデオ解析装置を使用する。サイクルおよび単調な単軸引張特性は、298Kの周囲温度で、歪み速度10−3s−1で、空気式掴み具を装備したインストロン(モデル5565)の引張試験ベンチを使用して測定した。疲労挙動は、ポジトール (Positool)社で製造される回転ビーム疲労試験装置を使用して、3600r/分で、空気中298K周囲温度で特性評価した。各粒子径条件のサンプルを0.5〜2.5%の範囲の交番歪みレベルで最高約108サイクルにて試験した。
【0131】
種々のニチノールワイヤは、177μm直径でうまく製造でき、各ワイヤは異なったレベルの粒子の核形成および成長を有した。平均粒子径が50nm、100nm、2μm、5μmおよび10μmを有する5種の個別のミクロ構造体を、熱機械的(thermomechanical)、メカノサイクリック(mechanocyclic)および構造物疲労試験のために選別した。粒子径の分布は、図10(a)−(c)に示されるようにデジタル画像解析を用いて各材料に対して計算した。テクスチャ状態を観察するため、および析出物反射の証拠を探すため、選択した面積の電子回折パターンを得た。その例を図10(d)−(f)に示す。これらのパターンに基づいて、レンズ状のNi豊富な析出物の証拠は見出されなかった。
【0132】
ナノ結晶サンプルは、延伸後の酸化物表面下材料が最初の10μm以内では均質であると、TEMを使用して確認された。50nm〜2μm範囲の観察された構造を図11(a)−(c)に示す。すべてのサンプルは、等軸のミクロ構造を有し、冷間加工残存物の明白な痕跡は殆ど無く、一番右側図のずっと黒いフリンジを示す画像は、モアレ干渉に伴うフリンジであり、粒子−境界厚さフリンジを強弱の傾きで示す。全サンプルの平均的な酸化物厚さは約120nmであると分かった。その例は図12で与えられ、中央部の円中に酸化物層190が示され、酸化物層は、酸化物層190のすぐ下に白金堆積物192、および酸化物190の上部にNiTiマトリックス194を有する。更に図13は、粒子径50nmに対する累積分布関数(CDF)表示を与え(データセット200で指差)、100nm(データセット202で指差)、2μm(データセット204で指差)、5μm(データセット206で指差)、および10μm(データセット208で指差)を与える。
2.結果
【0133】
活性転移温度を、各サンプルに対して、ASTM標準F2082−6に従った曲げ・回復法を使用して測定した。その方法の題名は、Standard Test Method for Determination of Transformation Temperature of Nickel−Titanium Shape Memory Alloys by Bend and Free Recoveryである。 解析されたすべてのデータは、インゴットのDSCデータと良好に一致する240±5KのAS温度を示した。各サンプルに対する回復データを図14に与え、小さい四角形状の印210は粒子径50nmを有する材料に対するデータを示し、X形状の印212は100nmの粒子径を有する材料に対するデータ、+形状の印214は2μmの粒子径を有する材料に対するデータ、三角形状の印216は5μmの粒子径を有する材料に対するデータ、および小さい四角形状の印218は10μmの粒子径を有する材料に対するデータを示す。100nmより大の等軸粒子径を有するサンプルは、マルテンサイト構造からオーステナイト構造への回復に伴う明確な単一段階の転移を示し、活性Afは250±5Kを有した。50nm粒子径においては、サンプルは(大きな四角形状印210で表示)は幾つかの多段階回復の特徴を示し、少なくとも1つの260K付近の変曲点210’から明らかである。50nmサンプルの277〜279KにおいてのAfに対する計算では、完全にオーステナイト転移であるという仮説を置いた。拡張した熱回復は、ナノ結晶材料では粒子境界のエネルギー含量が高いことと、今までのTEM研究では析出物が検出されなかったけれども、僅かなNi−豊富な析出物に起因するマトリックスNi損失との組み合わせによると仮定される。
【0134】
サンプルの軸方向特性の試験に基づいて、粒子径の関数としての軸方向特性の発生は、古典的なホール・ペッチ(Hall−Petch)の相関関係(より小さい粒子は増加した強度をもたらし、サイクルテストの間の塑性を低下させる)から予想される道をたどった。例えば、図15(c)に示されるように、4%歪みの反転点へ向かう単一歪みサイクル試験では、永久変形により測定された場合に粒子径と塑性変形との間に正の相関が示された。軸方向単調試験で測定した極限引張強度は、図15(d)に示されるように粒子系が減少すると大きく増加した。
【0135】
回復性転移歪みの初期の立ち上がりおよび2μmの粒子径におけるかなりの復元応力の原因は、応力−誘起転移の間の不可逆的塑性挙動の低減であった。微細であればあるほど、転位ネットワーク形成によって、より多くの塑性抵抗ミクロ構造体がマルテンサイトの安定化を受けないようになる。
【0136】
222、220の極限強度(図15(d)に示されるように)と、224,226の無負荷プラトー強度(図15(a)に示されるように)との両方の大きな増加が、それぞれ100および50nm粒子径を有するサンプルで見出された。マルテンサイト系ニチノールにおいて、競合する適応機構が見出され、その機構は、約80nm以下における単一の変異体B19’ プレートの形成と、約100nm以上における双子の複合変異体の形成とである。このタイプの閾値挙動は、これらのサンプルで見出される構成挙動の違いの説明に役立たせることができる。
【0137】
応力誘起マルテンサイトの負荷プラトーの長さが、ミクロ構造状態とともに変わることが見出された。図15(b)は一般的な超塑性プラトー230を示す。すなわち、B19’ マトリックスの塑性負荷の立ち上がりが7%歪で発生した。一方、100nmの等軸粒子径を有する析出物のない構造では、転移プラトー232は、10.1%歪で終わり、無負荷にすると9.6%歪み回復を有した。
【0138】
図15(a)で示されるように、無負荷剛性は、ほぼ粒子径−不変量の42GPaから50nm粒子径での29GPaにかなり減少すると分かった。この例では、粒子径の関数としての変動性が50〜100nmの間で観察された。この挙動は、単一マルテンサイトと複合マルテンサイトとの間のエネルギー競合の結果である可能性がある。
【0139】
回転ビーム疲労試験結果は、粒子径の増加と共に損傷蓄積率が増加することが示された。このことは、寿命が105〜107サイクルである近限界条件で特に明らかであった。例えば、図16(a)は、各粒子径の試験した材料の歪み寿命曲線を示す。四角形状印を有する最低部の曲線240は、10μmの材料寸法に対するデータを示す。ダイヤモンド形状印を有する曲線242は、5μm材料に対するものである。 三角形状印を有する曲線244は、2μm材料に対するものである。 +形状印を有する曲線246は、100nm材料に対するものである。白抜き円形印を有する曲線248は、アニール後の50nm材料に対するものである。黒塗り円形印を有する最上部の曲線250は、アニール前の50nm材料に対するものである。
【0140】
図16(a)と16(b)に示される107サイクルのデータは、序列のついた連続を例示する。すなわち、50nm平均粒子径を有するワイヤに対する曲線248は、0.9%交番歪みレベルにおける疲労損傷抵抗を示し、一方、10μm粒子ワイヤに対する曲線240は、0.6%レベルにおける疲労損傷抵抗を示す。曲線242、244、246で表示されるその他の構造ではこれらの値の間で順番に低下した。
【0141】
実施例3
ASTM F562組成要件に従った形状化ワイヤ材料
以下の、図17(a)−17(c)および表6−8並びに19を参照して、この実施例では、25NLTのフラット形状ワイヤを以下の寸法で製造し試験した。厚さを小さい方の横断寸法として規定し、それは0.127mm(0.0050インチ)であった。幅を小寸法と直交する横断寸法として規定し、それは0.229mm(0.0090インチ)であった。それらの材料は、本方法の実施形態に従ったワイヤの性質および特性を示した。
【0142】
1.実験的手法
本方法は、VIM(真空誘導溶解)/VAR(真空アーク溶解)の35NLTTM インゴットで開始し、インゴットを加熱ローリングで加工し棒材にした。次いで材料を、通常の方法で反復的な冷間加工およびアニール加工し1.6mm直径にした。1.6mmにおける通常のアニール工程に続いて、材料を丸いダイヤモンドダイを通過させる冷間延伸によって0.91mmにした。次に材料を従来のようにアニールし、約1〜5μmの平均粒子径を有する等軸粒子構造にした。
【0143】
本方法の冷間加工調整およびナノ再結晶化工程に関して、以下に詳述したように、ナノ再結晶化のための35NLTTM合金の調製では、冷間加工調整工程において比較的多量の変形を伴うことが見出された。
【0144】
本実施例では、ナノ再結晶化の準備において、0.91mm直径のアニールしたワイヤに延伸による冷間加工調整工程を施し0.19mm(0.0074インチ)にした。従って、上記の式Iによると、冷間加工調整工程は、材料に公称96%の冷間加工を与えたことになった。ナノ再結晶化工程を、850℃で約2〜3秒の滞留時間で実施した。得られたナノ粒子結晶構造を機械試験、詳細には引張試験によって定性的に確認し、その結果を図17(c)に示した。詳細には、材料は、前に論じた、本方法に従ったものと同様なレベルの強度、延性、および降伏特性を持つことを観測した。
表6 真歪みと真応力、35NLTTM 合金ワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、−図17(a)
【0145】
【表10】
【0146】
表7 真歪みと真応力、35NLTTM 合金ワイヤ、直径0.107mm(0.0042インチ)、 −図17(b)
【0147】
【表11】
【0148】
表8 真歪みと真応力、35NLTTM 合金リボン、0.127mm×0.229mm(0.005インチ×0.009インチ)、 −図17(c)
【0149】
【表12】
【0150】
実施例4
追加の冷間加工を有するASTM F562材料
以下の、図18(a)−18(b)および表9−10、および19を参照して、この実施例では、直径76μm(0.0030インチ)および0.089mm(0.0035インチ)を有する25NLTの丸いワイヤを製造し試験した。ワイヤは本方法の実施形態に従った性質および特性を示した。
【0151】
1.実験的手法
本方法は、VIM(真空誘導溶解)/VAR(真空アーク溶解)の35NLTTM インゴットで開始し、インゴットを加熱ローリングで加工し棒材にした。次いで材料を、通常の方法で反復的な冷間加工およびアニール加工し1.6mm直径にした。1.6mmにおける通常のアニール工程に続いて、材料を丸いダイヤモンドダイを通過する冷間延伸によって0.91mmにした。次に材料を従来のようにアニールし、約1〜5μmの平均粒子径を有する等軸粒子構造にし、更に直径0.076mmおよび0.089mmワイヤ用に、通常的延伸してそれぞれ0.45mmおよび0.51mm直径にした。
【0152】
本方法の冷間加工調整およびナノ再結晶化工程に関して、以下に詳述したように、ナノ再結晶化のための35NLTTM 合金の調製では、冷間加工調整工程において比較的多量の変形を伴うことが見出された。
【0153】
本実施例では、ナノ再結晶化の準備において、0.45mmおよび0.51mm直径を有するアニールしたワイヤに延伸による冷間加工調整工程を施してそれぞれ0.096mmおよび0.107mm直径にした。従って、上記の式Iによると、冷間加工調整工程は、材料に公称95%の冷間加工を与えた。
【0154】
ナノ再結晶化工程を、850℃で約2〜3秒の滞留時間で実施した。得られたナノ粒子結晶構造は、0.096mmおよび0.107mmワイヤを機械試験、詳細には引張試験によって定性的に確認し、それらの得られた結果は、強度、延性、および降伏特性に関して前に論じた、本方法に従ったものと同様であった。
【0155】
材料の強度レベルを高めるために、続いて0.096mmおよび0.107mmワイヤを通常の方法によって直径0.076mmおよび0.089mmに延伸し、強度および延性を評価するために引張試験した。
【0156】
2.結果
これらのワイヤの引張試験の結果を、図18(a)および(b)に提示し、0.089mmおよび0.076mm材料に対する生のデータは、それぞれ表9−表10に与え、表3に要約した。
【0157】
0.076mmワイヤの回転ビーム疲労試験から得られたデータを、図20(c)に提示し、黒塗り印で示す。108サイクルで材料の回転ビーム疲労試験によって決定された場合、観測された耐久限度は、0.60%の歪み振幅を超えた(表2)。
表9 真歪みと真応力、追加の冷間加工を有する35NLTTM ワイヤ、直径0.089mm(0.0035インチ)、 −図18(a)
【0158】
【表13】
【0159】
表10 真歪みと真応力、追加の冷間加工を有する35NLTTM ワイヤ、直径0.076(0.003インチ)、 −図18(b)
【0160】
【表14】
【0161】
実施例5
304Lステンレススチール
本実施例では、以下の、図19(a)−19(c)および表11−13および19を参照して、直径0.18mm(0.0070インチ)を有する304Lの丸いワイヤを製造し試験した。ワイヤは本方法の実施形態に従った性質および特性を示した。
1.実験的手法
【0162】
本方法は、VIM(真空誘導溶解)/VAR(真空アーク溶解)の304Lインゴットで開始し、インゴットを加熱ローリングで加工し棒材にした。次いで材料を、通常の方法で反復的な冷間加工およびアニール加工し2.4mm直径にし、約10〜20μmの平均粒子径を有する等軸粒子構造を生み出した。
【0163】
本方法の冷間加工調整およびナノ再結晶化工程に関して、以下に説明したように、ナノ再結晶化のための304L合金の調製では、冷間加工調整工程において比較的多量の変形を伴うことが見出された。
【0164】
本実施例では、ナノ再結晶化の準備において、2.4mm直径を有するアニールしたワイヤに延伸による冷間加工調整工程を施して0.18mm直径にした。従って、上記の式Iによると、冷間加工調整工程は、材料に公称99.5%の冷間加工(上記の式IIにより5.22単位の真歪み)を与えた。
2.結果
【0165】
ナノ再結晶化工程を720℃、約2−4秒の滞留時間で実施した。得られたナノ粒子結晶構造は、イオンビーム断面画像化によって234nmの平均粒子径を有することを確認した(図23(b)、表19)。
【0166】
ナノ粒子304Lワイヤの引張試験を以前説明したように、298K周囲空気中で約250mmの標点距離および125mm/分の歪み速度を用いて実施した。本方法に従って観測された機械的性質を、四角形状のデータポイント270で示し、11.9%の破断歪み(表3)および回転ビーム疲労試験によって測定した場合の疲労耐久度(108サイクルにおいて0.45%歪み振幅)を含めた(表2、図19(c))。対照材料は円のデータポイント272で示し、108サイクルにおいて0.40%歪み振幅というより低い耐久限度を示す。
表11 真歪みと真応力、304L対照ワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、 −図19(a)
【0167】
【表15】
【0168】
表12 真歪みと真応力、ナノ粒子304Lワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、−図19(b)
【0169】
【表16】
【0170】
表13 疲労データ、対照およびナノ粒子304Lワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、−図19(c)
【0171】
【表17】
【0172】
実施例7
316Lステンレススチール
本実施例では、以下の、図20(a)−20(c)および表14−16および19を参照して、直径0.18mm(0.0070インチ)を有する316Lの丸いワイヤを製造し試験した。ワイヤは本方法の実施形態に従った性質および特性を示した。
1.実験的手法
【0173】
本方法は、VIM(真空誘導溶解)の316Lインゴットで開始し、インゴットを加熱ローリングで加工し棒材にした。次いで材料を、通常の方法で反復的な冷間加工およびアニール加工し1.8mm直径にし、約10〜20μmの平均粒子径を有する等軸粒子構造を生み出した。
【0174】
本方法の冷間加工調整およびナノ再結晶化工程に関して、以下に説明したように、ナノ再結晶化のための316L合金の調製では、冷間加工調整工程において比較的多量の変形を伴うことが見出された。
【0175】
本実施例では、ナノ再結晶化の準備において、1.8mm直径を有するアニールしたワイヤに延伸による冷間加工調整工程を施して0.18mm直径にした。従って、上記の式Iによると、冷間加工調整工程は、材料に公称99.1%の冷間加工(上記の式IIにより4.66単位の真歪み)を与えた。
2.結果
【0176】
ナノ再結晶化工程を780℃、約4−6秒の滞留時間で実施した。得られたナノ粒子結晶構造は、イオンビーム断面画像化によって311nmの平均粒子径を有することを確認した(図24(b)、表19)
【0177】
ナノ粒子316Lワイヤの引張試験を以前説明したように、298K周囲空気中で約250mmの標点距離および125mm/分の歪み速度を用いて実施した。本方法に従って観測された機械的性質は、12.3%の破断歪み(表3)であり、および回転ビーム疲労試験によって測定した場合の疲労耐久度、すなわち108サイクルにおける0.35%歪み振幅、を図20(c)の四角形状印280で含めた(表2、図20(c))。対照材料は円のデータポイント282で示し、108サイクルにおいて0.25%歪み振幅というより低い耐久限度を示す。
表14 真歪みと真応力、316L対照ワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、 −図20(a)
【0178】
【表18】
【0179】
表15 真歪みと真応力、ナノ粒子316Lワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、 −図20(b)
【0180】
【表19】
【0181】
表16 疲労データ、対照およびナノ粒子316Lワイヤ、直径0.18mm(0.007インチ)、 −図20(c)
【0182】
【表20】
【0183】
実施例7
ASTM F1058材料
本実施例では、以下の、図21(a)−21(c)および表17−19を参照して、直径0.18mm(0.0070インチ)を有するFWM1058形状化ワイヤを製作し試験した。ワイヤは本方法の実施形態に従った性質および特性を示した。
【0184】
1.実験的手法
本方法は、VIM(真空誘導溶解)FWM1058インゴットで開始し、インゴットを加熱ローリングで加工し棒材にした。次いで材料を、通常の方法で反復的な冷間加工およびアニール加工して1.15mm直径にし、約10〜20μmの平均粒子径を有する等軸粒子構造を生み出した。
【0185】
本方法の冷間加工調整およびナノ再結晶化工程に関して、以下に説明したように、ナノ再結晶化のためのFWM1058合金の調製では、冷間加工調整工程において比較的多量の変形を伴うことが見出された。
【0186】
本実施例では、ナノ再結晶化の準備において、1.15mm直径を有するアニールしたワイヤに延伸による冷間加工調整工程を施して0.225mm直径にした。従って、上記の式Iによると、冷間加工調整工程は、材料に公称96.1%の冷間加工(上記の式IIにより3.26単位の真歪み)を与えた。
【0187】
2.結果
ナノ再結晶化工程を850℃、約0.5〜2秒の滞留時間で実施した。得られたナノ粒子結晶構造は、イオンビーム断面画像化によって247nmの平均粒子径を有することを確認した(図25(b)、表19)
【0188】
ナノ粒子FWM1058ワイヤの引張試験を以前説明したように、298K周囲空気中で約250mmの標点距離および125mm/分の歪み速度を用いて実施した。本方法に従って観測された機械的性質は、1409MPaの降伏強度、17.9%の破断歪み(表3)であり、および回転ビーム疲労試験によって測定した場合の疲労耐久限度は108サイクルにおいて0.45%歪み振幅であり、図21(b)では円のデータポイント290で示す(表2、図21(b))。対照材料を円のデータポイント292で示し、108サイクルにおいて0.40%歪み振幅というより低い耐久限度を示す。
表17 真歪みと真応力、ナノ粒子1058ワイヤ、直径0.23mm(0.0089インチ)、−図21(a)
【0189】
【表21】
【0190】
表18 疲労データ、対照およびナノ粒子1058ワイヤ、直径0.23mm(0.0089インチ)、 −図21(b)
【0191】
【表22】
【0192】
実施例8 本方法に従って作製された種々の材料の粒子径測定
1.実験的手法
この実施例では種々の材料の粒子径が測定され、特別の材料(いわゆる「対照」材料)の通常のサンプル、および本方法に従って材料を加工した後の第2のサンプルに対して行った。粒子径画像は任意の通常的な方法で測定でき、例えば、上記セクションII−Aで論じたように、標準的な光学顕微鏡、電界放出走査型電子顕微鏡(FE−SEM)、または透過型電子顕微鏡(TEM)である。
【0193】
各ワイヤの粒子構造の顕微鏡写真を撮像し、本明細書の図23(a)〜26(b)として示す。
【0194】
対照ワイヤの粒子径分布を図22(a)に示す。本方法に従って加工した後のワイヤの粒子径分布を図22(b)に標準的なワイヤ材料について集めたデータと一緒に示す。それぞれのワイヤ材料に対する粒子径データもまた、以下の表19、パートIおよびIIに示す。
2.結果
【0195】
35NLTTM に関して集めたデータを、図22(a)および22(b)に黒塗り四角形状印で示す。35NLTTMの対照ワイヤはデータ曲線500を生じ約1480nmの平均粒子径を示した。一方、本方法に従って製造された35NLTTMワイヤはデータ曲線500’ を生じ約200nmの平均粒子径を示した。粒子径の写真表示を図6に示す。
【0196】
304Lステンレススチールワイヤに関して集めたデータを、図22(a)および22(b)にダイヤモンド形状印で示す。304Lの対照ワイヤはデータ曲線502を生じ約26,690nmの平均粒子径を示した。一方、本方法に従って製造された304Lワイヤはデータ曲線502’ を生じ約234nmの平均粒子径を示した。粒子径の写真表示を図23(a)および23(b)に示す。
【0197】
316Lステンレススチールワイヤに関して集めたデータを、図22(a)および22(b)に三角印で示す。316Lの対照ワイヤはデータ曲線504を生じ約20,020nmの平均粒子径を示した。一方、本方法に従って製造された316Lワイヤはデータ曲線504’ を生じ約311nmの平均粒子径を示した。粒子径の写真表示を図24(a)および24(b)に示す。
【0198】
ASTM F1058標準に従って製造されたワイヤに関して集めたデータを図22(a)および22(b)にX形状印で示す。1058の対照ワイヤはデータ曲線506を生じ約7,614nmの平均粒子径を示した。一方、本方法に従って製造された1058ワイヤはデータ曲線506’ を生じ約247nmの平均粒子径を示した。粒子径の写真表示を図25(a)および25(b)に示す。
【0199】
ニチノールワイヤに関して集めたデータを、図22(a)および22(b)に星形状印で示す。ニチノールの対照ワイヤはデータ曲線508を生じ約3,573nmの平均粒子径を示した。一方、本方法に従って製造されたニチノールワイヤはデータ曲線508’を生じ約50nmの平均粒子径を示した。粒子径の写真表示を図26(a)および26(b)に示す。
【0200】
表4および図22(a)−26(b)は、本方法の実施形態に従った上記材料の加工が、上記で論じたように粒子径にかなりの減少をもたらすことを例示する。
表19 パートI 種々の材料に対する粒子径のデータ
【0201】
【表23−1】
【0202】
表19 パートII 種々の材料に対する粒子径のデータ
【0203】
【表23−2】
【産業上の利用可能性】
【0204】
IV.用途
本方法に従って作製されたワイヤは、限定されるものではないが以下に詳細に述べる用途を含めた種々の利用が可能である。本方法に従ったワイヤの典型的な用途を以下に説明し、図27−30(b)に概略的に示す。
【0205】
A.ガイドワイヤ
図27を参照して、経皮経管冠動脈拡張術(PTCA)ガイドワイヤ300が示され、そのものには、本方法に従って製造された金属製伸長ワイヤ302が先細末端302’ を有して含まれる。ワイヤ302はコイルワイヤ304内に受容され、304はハウジング306内に受容される。
【0206】
PTCAガイドワイヤを使用して、人体内の遠方位置に接近でき血管疾患部の治療すること、例えば、アテローム動脈硬化症治療、または除細動電極の移植を容易化するための使用が含まれる。これらの位置に到達するために、ガイドワイヤは十分に可撓性であって標的の疾患部または器官への途中で人体構造部位を航行できる必要がある。
【0207】
ガイドワイヤの設計では、ガイドワイヤの弾性特性が重要である。何故なら、ガイドワイヤを使用して体内の治療のための種々の標的位置、例えば、図28に示されるような心臓の右心室、に接近する場合に、それは人体構造内の蛇行した血管に追従する必要がある。
【0208】
ガイドワイヤは、材料の破壊を被る事なしに人体構造をうまく航行する必要がある。
【0209】
本方法により、降伏強度と極限強度との比が0.85より大であって比較的高いために、それによってガイドワイヤに比較的高い降伏歪みが与えられ、高度の可撓性を有するワイヤが提供される。
【0210】
幾つかの場合では、医師は特殊な人体構造内の血管内航行を容易にするために、ガイドワイヤの先端部を手細工で成形することがある。この場合、材料は特殊形状を作るために塑性変形を受け入れることと、人体構造内を通って順調に移動するために良好な弾性を維持することとの両方の能力を有する必要がある。
【0211】
本方法に従って調製されたワイヤ302は、比較的高い降伏強度と延性との組み合わせを提供し、その結果、ワイヤ302が、処置前に医師が計画する塑性変形と、その後の処置時の標的疾患へたどる途中における弾性変形との両方に耐える能力を高められる。
B.移植可能な心臓ペーシングワイヤ
【0212】
図28、および29を参照すると、本方法に従って作製された第1の心臓ペーシングリードワイヤ310、および第2の心臓ペーシングリードワイヤ312が示される。ワイヤ310、312により、単一または複数状の、導電性のブレイド、ストランド、またはマイクロケーブルの形態で利用され、それを用いて治療上の電気信号が心臓に送達される。
【0213】
図29を参照すると、心臓ペーシングリードワイヤ310、312は、巻きワイヤ314および/またはマイクケーブル要素316の組み合わせを有するが、これらは被覆成形されるか、および/または医療用のポリウレタンもしくはシリコーンゴムのような電気絶縁性ポリマースリーブ318によって分離される。スリーブ318およびワイヤ314、316はハウジング320の内部に受容される。
【0214】
図28を参照すると、リードは、右心房および/または心臓Hの心室Vに移植される。移植により、電気的制御信号を送達し、それによって心臓を刺激するか、またはその他の方法で、ペーシング、除細動、または心臓の徐脈、頻脈、不整脈の治療のための心臓再同調療法を提供する目的である。
【0215】
本開示の精神の範囲内で、意図する治療および患者の生理機能に応じて、本方法に従って作製されたリードワイヤ310,312,またはワイヤを利用する同様なシステムもまた、心臓以外、左心房、および左心室に電気的接続を有して移植できる。臨床結果および要求材料特性は前に説明したものとほぼ同じである。
【0216】
ペーシングリードワイヤ310、312が、機械的サイクル疲労損傷に実質的に抵抗することは有利である。機械的サイクル疲労損傷は、一般的に心臓の各脈拍が平均的に最大2Hzであるリードシステムの空間的変位に付随している。
【0217】
心臓のこのような変位、および従ってリードシステムは、リードワイヤ自体の導電性部分を構成する金属ワイヤ中に、心臓のリズムだけでも年間に6000万のサイクルまでに蓄積する形状寸法制限のサイクル歪みを生成する。
【0218】
常在する機械的サイクル負荷に加えて、心臓リードワイヤ310、312は、移植の間にシステムに付与される荷重による幾らかの塑性変形を受ける可能性がある。従って、リードワイヤ310、312は、移植荷重に関連する変形および移植後の形状寸法制限のサイクル変形に持ちこたえることができることによって利益を受ける。リードワイヤ310、312の機能改善は、高レベルの疲労耐久度および延性を有する金属ワイヤ材料の選択によって実現できる。
【0219】
有利なことに、ワイヤ310、312は、形状寸法制限負荷における高レベルの疲労耐久歪みおよび延性を提供し、従って任意の種々の心臓リード設計に設置される場合、改良された長期間の装置性能を提供することができる。
【0220】
同様に、本方法に従って作製されたワイヤは、胃腸、神経、またはその他の生体的電気刺激用のリードに使用できる。
C.ワイヤ系ステント
【0221】
図30(a)を参照して、本方法に従って作製された1つ以上のワイヤ372から作製される、組織スカフォールドまたは血管内ステントデバイス370が示される。ワイヤは、一般的に円筒の断面形状のデバイス370を製造するためにブレイドされ、ニットされ、または別の方法で一緒に形成された形態である。
【0222】
図30(b)を参照して、本方法に従って作製された1つ以上のワイヤ372’ から作製される、組織スカフォールドまたは血管内ステントデバイス370’ が示される。ワイヤは、一般的に円筒の断面形状のデバイス370’ を形成するために一緒にニットされた形態である。
【0223】
送達用カテーテルから解放されると、ステントは、関係する血管とデバイスの順応性に応じてある程度まで移動する。その移動は、動脈での血圧変動、動脈血管のスムーズな筋肉収縮および膨張、並びに一般的な器官運動による。このような機械的位置変動は、ステント370、370’ 構造体の構造を構成するワイヤ372,372’ にサイクル歪みをもたらす。
【0224】
非生体浸食性(non bioerodable)の組織スカフォールドまたはステントは一般的に永久的に移植され、従って何百万の機械的負荷サイクルに対して機械的疲労による構造的完全性を失うことなく持ちこたえることができる必要がある。
【0225】
本方法に従って作製されたワイヤ372,372’から構成されるステント370、370’ は、高度の疲労損傷抵抗性を有し、従って、より低い疲労強度を有するワイヤで作製された通常のステントと比較して、最適化された性能を与えることができる。
【0226】
本発明を推奨される設計を有するとして説明してきたが、本方法は、本開示の精神および範囲内において更に改変できる。従って本出願は一般的な原理を使用する、本発明の任意の変形、使用、または適応を対象にすることを意図する。更に本出願は、本発明が関わる当該技術分野において公知または慣用の実施方法の範囲内で生じるような本開示からのそのような逸脱を対象にし、かつその逸脱が付属する特許請求項の範囲内に含まれることを意図する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径および厚さの内の1つが1.0mm未満であり、500ナノメーター未満の平均粒子径を有する、移植適合性の、金属または非形状記憶金属合金を含む、金属ワイヤ。
【請求項2】
前記ワイヤが100万サイクルにおいて0.35%歪み振幅を超過する疲労耐久度を有する、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項3】
疲労耐久度が、
106サイクルより大において0.45%歪み振幅を超過する、
107サイクルより大において0.45%歪み振幅を超過する、および
108サイクルより大において0.45%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有するCo/Ni/Cr/Mo金属合金を含む、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項4】
疲労耐久度が、
106サイクルより大において0.4%歪み振幅を超過する、
107サイクルより大において0.4%歪み振幅を超過する、および
108サイクルより大において0.4%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有する304Lステンレススチールを含む、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項5】
疲労耐久度が、
106サイクルより大において0.35%歪み振幅を超過する、
107サイクルより大において0.35%歪み振幅を超過する、および
108サイクルより大において0.35%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有する316Lステンレススチールを含む、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項6】
疲労耐久度が、
106サイクルより大において0.4%歪み振幅を超過する、
107サイクルより大において0.4%歪み振幅を超過する、および
108サイクルより大において0.4%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有するCo/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金を含む、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項7】
直径および厚さの内1つを有し、かつ298±5Kの温度において前記ワイヤの前記直径または厚さの250倍を超過する標点距離で単調引張試験によって測定した場合に、6%破断歪みより大の軸方向延性を有する、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項8】
Co/ Ni/Cr/Mo金属合金、316Lステンレススチール、およびCo/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金からなる群から選択される非形状記憶金属合金を含むものであって、少なくとも0.85の降伏強度と極限強度との比を有する、請求項7に記載のワイヤ。
【請求項9】
直径および厚さの内1つを有し、かつ298±5Kの温度において前記ワイヤの前記直径または厚さの250倍を超過する標点距離で単調引張試験によって測定した場合に、10%破断歪みより大の軸方向延性を有する、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項10】
Co/ Ni/Cr/Mo金属合金、316Lステンレススチール、およびCo/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金からなる群から選択される非形状記憶金属合金を含むものであって、少なくとも0.85の降伏強度と極限強度との比を有する、請求項9に記載のワイヤ。
【請求項11】
移植適合性の、金属または非形状記憶金属合金で作製されるワイヤを形成する方法であって、その工程が、
比較的大きな直径D1を有するワイヤを準備する工程と、
前記ワイヤを比較的小さい直径D2に延伸することによって、i)50%および99.9%冷間加工、および ii)0.69単位〜6.91単位の間の真歪み、の内1つを付与させるように前記ワイヤに冷間加工調整を施す工程であって、
ここで%冷間加工は、次式:
cw=1−{D2/D1}2
によって決定され、かつ真歪みは、次式:
ts=ln{{D1/D2}2}
によって決定される、冷間加工調整工程と、
前記ワイヤをアニールして、500ナノメーター未満の平均粒子径を有する結晶構造を生成するアニール工程と
を含む、ワイヤを形成する方法。
【請求項12】
前記ワイヤが、i)Co/Ni/Cr/Mo金属合金、ii)304Lステンレススチール、iii)316Lステンレススチール、およびiv)Co/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金からなる群から選択される金属合金を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アニールする工程が、前記ワイヤを600℃〜950℃の間の温度で、0.1〜3600秒の間の滞留時間でアニールする工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記アニールする工程が、前記ワイヤを750℃〜900℃の間の温度で、0.2〜120秒の間の滞留時間でアニールする工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記アニールする工程に続いて、前記ワイヤに追加の冷間加工を施す追加の工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
300nm未満の平均粒子径を有し、かつ大きさが5ナノメーターを超過するTixNiy析出物を実質的に含まないニッケル−チタン形状記憶材料で作製されるワイヤ。
【請求項17】
1.0mm未満の直径を有する、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項18】
298±5Kの温度における単軸引張試験で測定した場合に、9%より大である全体的等温回復性歪みを示す、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項19】
298±5Kの温度における単軸引張試験で測定した場合に、9.5%軸方向公称歪みより大の負荷プラトーを示す、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項20】
1100MPaを超過する極限引張強度を有する、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項21】
100ナノメーター未満の平均粒子径を有する、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項22】
325K未満の活性オーステナイト終了温度(Af)を有する、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項23】
10%公称歪みを超過する軸方向公称破断歪みを有する、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項24】
ニッケル−チタン形状記憶材料で作製されるワイヤを形成する方法であって、その工程が、
比較的大きな直径D1を有するワイヤを準備する工程と、
前記ワイヤを比較的小さい直径D2に延伸することによって15%〜45%の間の冷間加工を付与させるように、前記ワイヤに冷間加工調整を施す工程であって、
%冷間加工は、次式:
cw=1−{D2/D1}2
によって決定される、冷間加工調整工程と、
前記ワイヤを300℃〜600℃の間の温度で、0.2〜900秒の間の滞留時間でアニールする工程であって、前記アニールが500ナノメーター未満の平均粒子径を有する結晶構造を生成する、アニール工程とを含む、ワイヤを形成する方法。
【請求項1】
直径および厚さの内の1つが1.0mm未満であり、500ナノメーター未満の平均粒子径を有する、移植適合性の、金属または非形状記憶金属合金を含む、金属ワイヤ。
【請求項2】
前記ワイヤが100万サイクルにおいて0.35%歪み振幅を超過する疲労耐久度を有する、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項3】
疲労耐久度が、
106サイクルより大において0.45%歪み振幅を超過する、
107サイクルより大において0.45%歪み振幅を超過する、および
108サイクルより大において0.45%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有するCo/Ni/Cr/Mo金属合金を含む、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項4】
疲労耐久度が、
106サイクルより大において0.4%歪み振幅を超過する、
107サイクルより大において0.4%歪み振幅を超過する、および
108サイクルより大において0.4%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有する304Lステンレススチールを含む、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項5】
疲労耐久度が、
106サイクルより大において0.35%歪み振幅を超過する、
107サイクルより大において0.35%歪み振幅を超過する、および
108サイクルより大において0.35%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有する316Lステンレススチールを含む、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項6】
疲労耐久度が、
106サイクルより大において0.4%歪み振幅を超過する、
107サイクルより大において0.4%歪み振幅を超過する、および
108サイクルより大において0.4%歪み振幅を超過する、からなる群から選択される疲労耐久度を有するCo/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金を含む、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項7】
直径および厚さの内1つを有し、かつ298±5Kの温度において前記ワイヤの前記直径または厚さの250倍を超過する標点距離で単調引張試験によって測定した場合に、6%破断歪みより大の軸方向延性を有する、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項8】
Co/ Ni/Cr/Mo金属合金、316Lステンレススチール、およびCo/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金からなる群から選択される非形状記憶金属合金を含むものであって、少なくとも0.85の降伏強度と極限強度との比を有する、請求項7に記載のワイヤ。
【請求項9】
直径および厚さの内1つを有し、かつ298±5Kの温度において前記ワイヤの前記直径または厚さの250倍を超過する標点距離で単調引張試験によって測定した場合に、10%破断歪みより大の軸方向延性を有する、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項10】
Co/ Ni/Cr/Mo金属合金、316Lステンレススチール、およびCo/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金からなる群から選択される非形状記憶金属合金を含むものであって、少なくとも0.85の降伏強度と極限強度との比を有する、請求項9に記載のワイヤ。
【請求項11】
移植適合性の、金属または非形状記憶金属合金で作製されるワイヤを形成する方法であって、その工程が、
比較的大きな直径D1を有するワイヤを準備する工程と、
前記ワイヤを比較的小さい直径D2に延伸することによって、i)50%および99.9%冷間加工、および ii)0.69単位〜6.91単位の間の真歪み、の内1つを付与させるように前記ワイヤに冷間加工調整を施す工程であって、
ここで%冷間加工は、次式:
cw=1−{D2/D1}2
によって決定され、かつ真歪みは、次式:
ts=ln{{D1/D2}2}
によって決定される、冷間加工調整工程と、
前記ワイヤをアニールして、500ナノメーター未満の平均粒子径を有する結晶構造を生成するアニール工程と
を含む、ワイヤを形成する方法。
【請求項12】
前記ワイヤが、i)Co/Ni/Cr/Mo金属合金、ii)304Lステンレススチール、iii)316Lステンレススチール、およびiv)Co/Cr/Fe/Ni/Mo金属合金からなる群から選択される金属合金を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アニールする工程が、前記ワイヤを600℃〜950℃の間の温度で、0.1〜3600秒の間の滞留時間でアニールする工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記アニールする工程が、前記ワイヤを750℃〜900℃の間の温度で、0.2〜120秒の間の滞留時間でアニールする工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記アニールする工程に続いて、前記ワイヤに追加の冷間加工を施す追加の工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
300nm未満の平均粒子径を有し、かつ大きさが5ナノメーターを超過するTixNiy析出物を実質的に含まないニッケル−チタン形状記憶材料で作製されるワイヤ。
【請求項17】
1.0mm未満の直径を有する、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項18】
298±5Kの温度における単軸引張試験で測定した場合に、9%より大である全体的等温回復性歪みを示す、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項19】
298±5Kの温度における単軸引張試験で測定した場合に、9.5%軸方向公称歪みより大の負荷プラトーを示す、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項20】
1100MPaを超過する極限引張強度を有する、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項21】
100ナノメーター未満の平均粒子径を有する、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項22】
325K未満の活性オーステナイト終了温度(Af)を有する、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項23】
10%公称歪みを超過する軸方向公称破断歪みを有する、請求項16に記載のワイヤ。
【請求項24】
ニッケル−チタン形状記憶材料で作製されるワイヤを形成する方法であって、その工程が、
比較的大きな直径D1を有するワイヤを準備する工程と、
前記ワイヤを比較的小さい直径D2に延伸することによって15%〜45%の間の冷間加工を付与させるように、前記ワイヤに冷間加工調整を施す工程であって、
%冷間加工は、次式:
cw=1−{D2/D1}2
によって決定される、冷間加工調整工程と、
前記ワイヤを300℃〜600℃の間の温度で、0.2〜900秒の間の滞留時間でアニールする工程であって、前記アニールが500ナノメーター未満の平均粒子径を有する結晶構造を生成する、アニール工程とを含む、ワイヤを形成する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図9(c)】
【図9(d)】
【図10(a)−10(f)】
【図11(a)−11(c)】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15(a)】
【図15(b)】
【図15(c)】
【図15(d)】
【図16(a)】
【図16(b)】
【図17(a)】
【図17(b)】
【図17(c)】
【図18(a)】
【図18(b)】
【図19(a)】
【図19(b)】
【図19(c)】
【図20(a)】
【図20(b)】
【図20(c)】
【図21(a)】
【図21(b)】
【図22(a)】
【図22(b)】
【図23(a)】
【図23(b)】
【図24(a)】
【図24(b)】
【図25(a)】
【図25(b)】
【図26(a)】
【図26(b)】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30(a)】
【図30(b)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図9(c)】
【図9(d)】
【図10(a)−10(f)】
【図11(a)−11(c)】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15(a)】
【図15(b)】
【図15(c)】
【図15(d)】
【図16(a)】
【図16(b)】
【図17(a)】
【図17(b)】
【図17(c)】
【図18(a)】
【図18(b)】
【図19(a)】
【図19(b)】
【図19(c)】
【図20(a)】
【図20(b)】
【図20(c)】
【図21(a)】
【図21(b)】
【図22(a)】
【図22(b)】
【図23(a)】
【図23(b)】
【図24(a)】
【図24(b)】
【図25(a)】
【図25(b)】
【図26(a)】
【図26(b)】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30(a)】
【図30(b)】
【公表番号】特表2012−502190(P2012−502190A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527075(P2011−527075)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/057586
【国際公開番号】WO2010/033873
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(510199708)フォート ウェイン メタルス リサーチ プロダクツ コーポレーション (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/057586
【国際公開番号】WO2010/033873
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(510199708)フォート ウェイン メタルス リサーチ プロダクツ コーポレーション (2)
【Fターム(参考)】
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