説明

耐硫酸性付与剤及びその製造方法、耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物及びその製造方法、並びにセメント硬化体

【課題】材料分離が十分に抑制されるとともに、耐硫酸性に十分優れるモルタル及びコンクリートが形成可能な耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物、並びにそれらを製造することが可能な耐硫酸性付与剤を提供すること。
【解決手段】セメントとナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とを含む混合物の硬化体を含有する粉末状の耐硫酸性付与剤、並びに当該耐硫酸性付与剤を含む耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐硫酸性付与剤及びその製造方法、耐硫酸性モルタル組成物、並びに耐硫酸性コンクリート組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道や温泉地等、硫酸又は硫酸塩にさらされる箇所においては、従来から、硫酸によるセメント硬化体の腐食が問題となっている。さらに、近年、酸性雨による腐食は、下水道、温泉地等の限定された箇所での問題に留まらず、セメントを使用した構築物全体の問題となっている。
【0003】
通常のセメント硬化体(モルタルやコンクリート)は、硫酸に長期間接触し続けると、難溶性の石膏を形成すると共に、シリカゲルやアルミナゲルを生成する。硫酸によるこのような作用は、酸の濃度に依存する。そこで、以下のような対策が挙げられる。
【0004】
例えば、pHが2以上(硫酸濃度0.1%以下)の環境における硫酸による腐食に対する対策としては、炭酸ガスや低濃度の酸による腐食、及び硫酸塩等の腐食性を示す塩類等による腐食の対策と同様に、コンクリートを緻密化させることによって腐食物質が内部に浸透するのを抑制する対策が挙げられる。このような対策の具体例としては、高性能AE減水剤等を使用することが挙げられる。高性能AE減水剤を使用すると、作業性を確保しながらセメントに対する水の質量比率を低下させることが可能となり、その結果、コンクリートが緻密化されてコンクリートの耐腐食性を向上させることができる。
【0005】
ところが、硫酸濃度が高い環境下においては、上述のようにコンクリートを緻密化することのみによって、十分な耐腐食性を維持することは困難であった。例えばpHが2より低い環境では、通常のセメント素材のみによって硫酸に対する腐食を十分に低減することが困難であった。
【0006】
このような状況の下、pHが2より低い環境で、硫酸によるセメント硬化体の劣化を防止する方法として、セメント組成物にナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を多量に添加する方法が提案されている(特許文献1、2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−331458号公報
【特許文献2】特開2004−331459号公報
【特許文献3】特開2005−336012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を多量に添加したコンクリート組成物は、コンクリート組成物を構成する材料の分布が不均一になり、材料分離が生じてしまう。このため、pHが低い環境においても耐硫酸性に十分優れるとともに、材料分離が容易に発生しないモルタル組成物及びコンクリート組成物が求められている。
【0009】
そこで、本発明は、材料分離が十分に抑制されるとともに、耐硫酸性に十分優れるモルタル及びコンクリートが形成可能な耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物を提供すること、並びに当該耐硫酸性コンクリート組成物の製造方法を提供することを目的とする。また、そのような耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物を製造することが可能な耐硫酸性付与剤及びその製造方法を提供することを目的とする。また、耐硫酸性に十分優れるモルタル及びコンクリート等のセメント硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、セメントとナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とを含む混合物の硬化体を含有する粉末状の耐硫酸性付与剤を提供する。この耐硫酸性付与剤は、モルタル組成物及びコンクリート組成物に含ませることによって、材料分離が十分に抑制されるとともに耐硫酸性に十分優れるモルタル及びコンクリートを形成することができる。すなわち、本発明の耐硫酸性付与剤を用いれば、セメントにナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を直接配合してモルタル組成物やコンクリート組成物を製造する従来の手法よりも、材料分離が十分に抑制されるとともに、十分に優れた耐硫酸性を有するモルタル及びコンクリートを形成可能なモルタル組成物やコンクリート組成物を得ることができる。
【0011】
本発明の耐硫酸性付与剤における混合物は、セメント100質量部に対し、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を20〜200質量部、及び水を10〜100質量部含むことが好ましい。
【0012】
セメントに対するナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩及び水の混合割合を上記範囲にすると、本発明の耐硫酸性付与剤をモルタル組成物やコンクリート組成物の製造に使用した際に、材料分離の発生が一層抑制され、かつ耐硫酸性もさらに向上させることができる。
【0013】
本発明の耐硫酸性付与剤は、無機質粉末を含むことが好ましい。この無機質粉末は、石灰石微粉末、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末及びシリカフュームからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉末を含むことがより好ましい。本発明の耐硫酸性付与剤がこのような無機質粉末を含んでいると、モルタルやコンクリート等のセメント硬化体の耐硫酸性をより一層優れたものとすることができる。
【0014】
無機質粉末の量は、セメント100質量部に対して、無機質粉末50〜400質量部とすることが好ましい。
【0015】
本発明における耐硫酸性付与剤は、平均粒子径が3〜300μmであることが好ましい。また、上記耐硫酸性付与剤は、Rosin−Rammler線図におけるn値が0.4〜2.0であることが好ましい。平均粒子径及びn値がこれらの範囲にあることで、耐硫酸性付与剤をモルタル組成物やコンクリート組成物に含有させた場合に、モルタル組成物やコンクリート組成物の材料分離を一層抑制し、セメント硬化体の耐硫酸性を一層向上させることができる。
【0016】
また、本発明は、セメントとナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とを含む混合物を、硬化させ、粉砕して耐硫酸性付与剤を製造する方法を提供する。この製造方法によって得られる耐硫酸性付与剤を用いることによって、材料分離が十分に抑制されるとともに、十分に優れた耐硫酸性を有するモルタル及びコンクリートを形成可能なモルタル組成物やコンクリート組成物を得ることができる。
【0017】
また、本発明は、上記耐硫酸性付与剤とセメントと細骨材とを含む耐硫酸性モルタル組成物を提供する。
【0018】
また、本発明は、上記耐硫酸性付与剤とセメントと細骨材と粗骨材とを含む耐硫酸性コンクリート組成物を提供する。耐硫酸性コンクリート組成物は、セメントに対する水の質量比率(以下、「水/セメント比」という。)が30〜70質量%であることが好ましい。
【0019】
本発明ではまた、上述の耐硫酸性付与剤、水、セメント、石灰石微粉末、細骨材、及び粗骨材を含む耐硫酸性コンクリート組成物であって、耐硫酸性付与剤の単位量が30〜100kg/m、水の単位量が120〜200kg/m、セメントの単位量が200〜400kg/m、石灰石微粉末の単位量が20〜100kg/m、細骨材の単位量が500〜1000kg/m、及び粗骨材の単位量が800〜1400kg/mである耐硫酸性コンクリート組成物を提供する。原材料の単位量を上述の範囲にした耐硫酸性コンクリート組成物によって形成されるコンクリートは、適度な強度及び流動性を有し、材料分離が十分に抑制されるとともに、耐硫酸性に十分優れる。
【0020】
本発明ではまた、上述の耐硫酸性モルタル組成物、又は上述のコンクリート組成物を硬化させたセメント硬化体を提供する。この耐硫酸性モルタル組成物及びコンクリート組成物は、上記特徴を有する耐硫酸性付与剤を含有する耐硫酸性モルタル組成物及びコンクリート組成物の硬化体であることから、耐硫酸性に十分優れる。
【0021】
本発明ではまた、上述の耐硫酸性付与剤、水、セメント、石灰石微粉末、細骨材、及び粗骨材を混合する混合工程を有しており、混合工程において、耐硫酸性付与剤の単位量が30〜100kg/m、水の単位量が120〜200kg/m、セメントの単位量が200〜400kg/m、石灰石微粉末の単位量が20〜100kg/m、細骨材の単位量が500〜1000kg/m、及び粗骨材の単位量が800〜1400kg/mである耐硫酸性コンクリート組成物の製造方法を提供する。原材料の単位量を上述の範囲にすることによって、適度な強度及び流動性を有し、材料分離が十分に抑制されるとともに、耐硫酸性に十分優れるコンクリートを形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、材料分離が十分に抑制されるとともに、耐硫酸性に十分優れるモルタル及びコンクリートが形成可能な耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物を提供すること、並びに当該耐硫酸性コンクリート組成物の製造方法を提供することができる。また、そのような耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物を製造することが可能な耐硫酸性付与剤及びその製造方法を提供することができる。また、耐硫酸性に十分優れるモルタル及びコンクリート等のセメント硬化体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】耐硫酸性付与剤1(SAD1)の粒度分布を示す図である。
【図2】耐硫酸性付与剤2(SAD2)の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の好適な実施形態について以下に説明する。
<耐硫酸性付与剤>
本実施形態の耐硫酸性付与剤は、粉末状であり、セメントとナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とを含む混合物の硬化体を含有する。この耐硫酸性付与剤は、セメントとナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とを混合して得られる混合物を、硬化させた後、粉砕することにより製造することができる。製造方法の詳細について、以下に説明する。
【0025】
まず、原料として、セメントとナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とセメントとを準備する。セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント、アルミナセメント等を使用することができる。
【0026】
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩は、コンクリート用減水剤、顔料、染料又は農薬水和剤等の分散剤として一般的に使用されている市販のものを使用することができる。
【0027】
混合物におけるナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩の配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは20〜200質量部、より好ましくは30〜100質量部、さらに好ましくは40〜80質量部である。混合物における水の配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは20〜80質量部、さらに好ましくは30〜70質量部である。
【0028】
セメントに対するナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩及び水の配合量を上記範囲にすることで、本実施形態の耐硫酸性付与剤をモルタル組成物やコンクリート組成物の製造に使用した際に、材料分離が十分に抑制され、耐硫酸性に十分優れるモルタル組成物やコンクリート組成物を得ることができる。
【0029】
上述の通りに製造された、セメント、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩、及び水を含む混合物は、常温(例えば20℃)で放置すると水がセメントに水和する。これによって、セメント水和物が形成され、このセメント水和物がナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を取り込みながら徐々に硬化して硬化体を形成する。混合物を硬化させて、硬化体を形成するまでに必要な温度及び時間は、セメント水和物にナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩が取り込まれる時間を確保できるように設定すればよい。具体的には、積算温度で、好ましくは50〜350゜D・D、より好ましくは100〜300゜D・D、さらに好ましくは150〜250゜D・Dである。
【0030】
次に、上述の通り形成された硬化体を粉砕して、粉末状の耐硫酸性付与剤を製造する。粉砕は、例えば、振動ミル又はボールミル等の通常の手法によって行うことができる。
【0031】
耐硫酸性付与剤の平均粒子径は、好ましくは3〜300μm、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは7〜50μm、特に好ましくは10〜25μmである。また、粒度分布の指標であるn値は、好ましくは0.4〜2.0、より好ましくは0.6〜1.8、さらに好ましくは0.8〜1.5、特に好ましくは1.0〜1.3、最も好ましくは1.1〜1.2である。平均粒子径及び/又は粒度分布の指標であるn値が上記範囲にあると、耐硫酸性付与剤を含むモルタル組成物やコンクリート組成物の材料分離が一層発生し難くなり、硬化後の耐硫酸性もさらに向上させることができる。
【0032】
本明細書におけるn値は、粉末状である耐硫酸性付与剤の粒度分布を示す指標であり、「粉体工学会編、粉体工学便覧、初版、日刊工業新聞社、昭和61年2月28日、p7〜11」に記載のRosin−Rammler線図におけるn値である。
【0033】
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩をモルタル組成物やコンクリート組成物を構成する材料に直接添加するのではなく、一旦、セメントで硬化させた本実施形態の耐硫酸性付与剤を使用することにより、材料分離の発生が十分に抑制されるとともに、十分に優れた耐硫酸性を有するセメント硬化体を得ることができる。
【0034】
このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のような機構が推察される。本実施形態の耐硫酸性付与剤を用いると、モルタル組成物やコンクリート組成物を構成する他の材料とともにナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を直接添加する場合に比べて、過剰なナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩がコンクリートの液相に存在することを抑制することが可能となる。これによって、モルタル組成物やコンクリート組成物の材料分離の発生を抑制することができると推察される。また、本実施形態の耐硫酸性付与剤を使用して形成したセメント硬化体は、硫酸と接するとセメント硬化体中の耐硫酸性付与剤が硫酸により溶解し、耐硫酸性付与剤に含まれるナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩の存在下でセメント硬化体中のセメント水和物が硫酸と反応し、硫酸に対して難溶性である石膏が形成される。この石膏がセメント硬化体の表面を覆うことにより硫酸の浸透を抑制し、優れた耐硫酸性を示すものと推察される。
【0035】
本実施形態の耐硫酸性付与剤は、セメントとナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水と無機質粉末とを混合して得られる混合物を用いて製造することが好ましい。無機質粉末としては、石灰石微粉末、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末及びシリカフューム等から選ばれる少なくとも1種の粉末を使用することが好ましい。これらの粉末の中でも、石灰石微粉末を使用することがより好ましい。石灰石微粉末は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を一旦吸着させる機能を有するとともに、それ自体が硫酸に対して高い抵抗性を有する。
【0036】
石灰石微粉末の使用による耐硫酸性の発現機序は明らかではないが、コンクリート表面のバリアとなる石膏が生成しやすいこと、及び石膏生成時の膨張が少ないこと等が関係していると考えられる。
【0037】
石灰石微粉末は、ブレーン比表面積(JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定)が、好ましくは2000〜10000cm/g、より好ましくは3000〜80000cm/g、さらに好ましくは4000〜6000cm/gである。ブレーン比表面積がこれらの範囲であれば、本実施形態の耐硫酸性付与剤を使用して形成されるモルタルやコンクリートの耐硫酸性をさらに向上させることができる。
【0038】
混合物における無機質粉末の配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは50〜400質量部、より好ましくは100〜300質量部、さらに好ましくは150〜250質量部である。無機質粉末の配合量がこれらの範囲であれば、適度に、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を一旦吸着させることが可能となり、また、硫酸に対する耐食性により優れた耐硫酸性付与剤とすることができる。
【0039】
上述の製造方法によって得られる耐硫酸性付与剤は、セメント、水、セメント水和物、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と、場合により無機質粉末を含有する粉末状の硬化体である。
【0040】
<耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物>
耐硫酸性モルタル組成物は上記耐硫酸性付与剤にセメント、細骨材、及び水を配合して製造することができる。これらの材料の配合割合は特に制限されず、モルタルの使用用途に応じて配合割合を調整すればよい。例えば、水/セメント比を、好ましくは30〜70質量%、より好ましくは40〜60質量%、さらに好ましくは45〜58質量%とする。水/セメント比を上述の範囲とすることによって、十分な強度と流動性とを兼ね備えた耐硫酸性モルタル組成物とすることができる。
【0041】
耐硫酸性コンクリート組成物は、耐硫酸性付与剤にセメント、細骨材、粗骨材及び水を配合して製造することができる。これらの材料の配合割合は特に制限されず、コンクリートの使用用途に応じて配合割合を調整すればよい。例えば、水/セメント比を好ましくは30〜70質量%、より好ましくは40〜60質量%、さらに好ましくは45〜58質量%とする。耐硫酸性コンクリート組成物1mを製造する際の水の単位量は、好ましくは120〜200kg/m、より好ましくは140〜180kg/m、さらに好ましくは150〜170kg/mである。
【0042】
耐硫酸性コンクリート組成物1mを製造する際のセメントの単位量は、好ましくは200〜400kg/m、より好ましくは220〜380kg/m、さらに好ましくは250〜350kg/mである。石灰石微粉末の単位量は、好ましくは20〜400kg/m、より好ましくは50〜350kg/m、さらに好ましくは70〜300kg/mである。
【0043】
細骨材の単位量は、好ましくは500〜1000kg/m、より好ましくは600〜900kg/m、さらに好ましくは650〜800kg/mである。粗骨材の単位量は、好ましくは800〜1400kg/m、より好ましくは900〜1200kg/m、さらに好ましくは1000〜1100kg/mである。耐硫酸性付与剤の単位量は、好ましくは30〜100kg/m、より好ましくは40〜90kg/m、さらに好ましくは50〜80kg/mである。
【0044】
各原材料の単位量を上述の範囲とすることによって、十分な強度と流動性とを兼ね備えたコンクリート組成物及び耐硫酸性に優れるセメント硬化体が得られる。
【0045】
本実施形態に係る耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物の製造に使用される骨材は、モルタルやコンクリート等の骨材として通常用いられるものであれば特に制限されない。細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、高炉スラグ細骨材等を、粗骨材としては、砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材等を使用することができる。
【0046】
セメント硬化体の耐硫酸性をさらに向上させる観点から、細骨材、粗骨材として、石灰石骨材を用いることが好ましい。これは、石灰石微粉末の添加による効果と同じ要因と推察される。なお、骨材として石灰石を用いると、石灰石、すなわち骨材の単位量を増やすことができるので好ましい。
【0047】
また、通常のモルタル組成物及びコンクリート組成物と同様に、本実施形態の耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物には、必要に応じて減水剤、石灰石微粉末、さらには骨材分離を低減するための水溶性増粘剤及び/又は無機増粘剤を別途添加してもよい。
【0048】
減水剤としては、リグニンスルフォン酸系、ナフタレンスルホン酸系、及びポリカルボン酸系等を使用することができる。その中でも耐硫酸性を示すナフタレンスルホン酸系のホルマリン縮合物塩を使用することが好ましい。
【0049】
水溶性増粘剤としては、アクリル系水溶性高分子、バイオポリマー、グリコール系水溶性高分子、セルロース系水溶性高分子等が挙げられる。これらのうちの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
アクリル系水溶性高分子としては、アクリルアミドとアクリル酸の共重合体、ポリアクリル酸等を使用することができる。バイオポリマーとしては、β−1,3グルカン、水溶性ポリサッカライド等を使用することができる。グリコール系水溶性高分子としては、ポリアルキレングリコール、ジステアリン酸グリコール、繊維素グリコール酸等を使用することができる。セルロース系水溶性高分子としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース等を使用することができる。
【0051】
無機増粘剤としては、アタパルジャイト、セピオライト、ベントナイト、タルク、及びシリカフューム等が挙げられる。これらのうちの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
本実施形態の耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物は、施工性及び自己充てん性に優れるとともに、高い耐硫酸性が求められる下水道管、下水道処理場や管渠等の下水道関連施設、又は温泉施設の給排水設備や温泉地域における農業用及び排水用の水路構造物等温泉地関連施設、化学工場等で使用される構造物や二次製品、補修材用としての使用に特に有効である。
【0053】
下水道処理関連のコンクリート施設においては、例えば、ポンプ場、沈殿池、分配槽、反応タンク、汚泥貯留槽、連絡水路、汚泥消化槽等に、本実施形態の耐硫酸性モルタル組成物や耐硫酸性コンクリート組成物を使用することができる。また、温泉地のコンクリート施設において、温泉施設の浴槽、浴室内装材、内部設備類の他、温泉水や温泉蒸気の影響を受ける温泉地の建築物の基礎や壁、地中ばり、コンクリートを利用したトンネル、電柱、舗装コンクリート等に、本実施形態の耐硫酸性モルタル組成物や耐硫酸性コンクリート組成物を使用することができる。
【0054】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0056】
[使用材料]
耐硫酸性付与剤及び耐硫酸性コンクリート組成物を製造するために、以下に示す材料を準備した。
(1)セメント(C)
普通ポルトランドセメント(宇部興産株式会社製、ブレーン比表面積 3270cm/g)
(2)無機質粉末
石灰石微粉末(LSP)(ブレーン比表面積 4500cm/g)
(3)骨材
(i)細骨材(S)
海砂(S1)(表乾密度2.59g/cm、粗粒率2.66)
砕砂(S2)(表乾密度2.68g/cm、粗粒率2.79)
(ii)粗骨材(G)
硬質砂岩砕石(表乾密度2.70g/cm、粗粒率6.61)
(4)混和剤
(i)ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩(NS)(固形分濃度40質量%)
(ii)AE減水剤(AD)(BASFポゾリス株式会社製、商品名:ポゾリスNo.70)
(5)練混ぜ水(W)
上水道水
(6)耐硫酸性付与剤(SAD)
(i)耐硫酸性付与剤1(SAD1)
(ii)耐硫酸性付与剤2(SAD2)
【0057】
耐硫酸性付与剤1(SAD1)は、以下の通りにして製造した。まず、上述のセメント(C)100質量部に対し、石灰石微粉末(LSP)を200質量部、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物(NS)を64質量部、及び水(W)を55質量部混合して混合物を製造した。この混合物を、60℃で3日間、すなわち積算温度で210゜D・D封かん養生して硬化させて硬化体を得た。この硬化体を最大粒径が20mm程度になるまで破砕して、105℃に温度調整された恒温槽中に1日間保管し、破砕した硬化体を乾燥させた。乾燥後、更に粉砕することによって、粉末状の耐硫酸性付与剤1(SAD1)を得た。
【0058】
レーザー回折式粒度分布測定装置[株式会社セイシン企業製、商品名:LMS−30(レーザー・マイクロ・サイザー)]を用いて、耐硫酸性付与剤1(SAD1)の粒度分布を測定し、後述する方法によって平均粒子径とn値を求めた。なお、粒度分布測定用の試料の分散溶媒にはエタノールを用いた。測定前の超音波による試料分散時間は60秒間、測定時間は30秒間とし、測定繰り返し回数は2回とした。レーザー回折方式はFraunhofer回析とMie散乱を併用した。光源としては半導体レーザー(波長670nm、出力2mW)を用いた。相対屈折率(粒子屈折率/溶媒屈折率)は1.330とした。
【0059】
平均粒子径は、上述の通り測定した粒度分布から粒子径−積算篩上質量%曲線を作成し、粒子径―積算篩上質量%曲線より積算質量%が50質量%となる粒子径とした。
【0060】
n値は、「粉体工学会編、粉体工学便覧、初版、日刊工業新聞社、昭和61年2月28日、p7〜11」に記載のRosin−Rammler線図におけるn値であり、粉末の粒度分布を示す指標である。上述の通りにして測定した粒度分布よりRosin−Rammler線図を作成し、その傾きからn値を求めた。なお、Rosin−Rammler線図は、全粒子径の各測定値を用いて、最小二乗法により求めた。平均粒子経及びn値の結果は表1に、粒度分布の測定結果は、表2、表3及び図1に示すとおりであった。
【0061】
一方、耐硫酸性付与剤2(SAD2)は、混合物の封かん養生の時間を2日間、すなわち積算温度で140゜D・Dに変更したこと以外は、耐硫酸性付与剤1と同様にして製造した。その後、耐硫酸性付与剤1と同様にして、耐硫酸性付与剤2の平均粒子径、n値、及び粒度分布を求めた。平均粒子経及びn値の結果は表1に、粒度分布の結果は表2、表3及び図2に示すとおりであった。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
[コンクリート組成物の製造]
コンクリート組成物の製造は、以下の通りに行った。
(比較例1)
セメント(C)、石灰石微粉末(LSP)、海砂(S1)、砕砂(S2)、及び粗骨材(G)を、表4に示す単位量で配合し、二軸強制練りミキサを用いて30秒間撹拌した。次に、表4に示す単位量の、AE減水剤(AD)を含む練混ぜ水(W)をミキサ内に投入して90秒間撹拌し、コンクリート組成物を製造した。これを比較例1のコンクリート組成物とした。
【0066】
(比較例2)
セメント(C)、石灰石微粉末(LSP)、海砂(S1)、砕砂(S2)、粗骨材(G)、及びナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物(NS)を、表4に示す単位量で配合したこと、及び練混ぜ水投入後の撹拌時間を150秒間に変更したこと以外は、比較例1と同様にしてコンクリート組成物を製造した。これを比較例2のコンクリート組成物とした。
【0067】
(実施例1)
セメント(C)、石灰石微粉末(LSP)、海砂(S1)、砕砂(S2)、粗骨材(G)、及び耐硫酸性付与剤1(SAD1)を、表4に示す単位量で配合したこと、及び練混ぜ水投入後の撹拌時間を150秒間に変更したこと以外は、比較例1と同様にしてコンクリート組成物を製造した。これを実施例1のコンクリート組成物とした。
【0068】
(実施例2)
セメント(C)、石灰石微粉末(LSP)、海砂(S1)、砕砂(S2)、粗骨材(G)、及び耐硫酸性付与剤2(SAD2)を、表4に示す単位量で配合したこと、及び練混ぜ水投入後の撹拌時間を150秒間に変更したこと以外は、比較例1と同様にしてコンクリート組成物を製造した。これを実施例2のコンクリート組成物とした。
【0069】
なお、実施例1及び実施例2では、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物(NS)のコンクリート組成物への配合量が比較例2と等しくなるように、耐硫酸性付与剤1(SAD1)及び耐硫酸性付与剤2(SAD2)をそれぞれ配合した。
【0070】
また、実施例1及び実施例2では、比較例1及び比較例2で配合した石灰石微粉末(LSP)の量から、耐硫酸性付与剤1(SAD1)及び耐硫酸性付与剤2(SAD2)に含まれる石灰石微粉末(LSP)の量をそれぞれ差し引いた量の石灰石微粉末(LSP)を配合した。
【0071】
【表4】


注1 セメント(C)に対する練混ぜ水(W)の質量比率を示す。
注2 1mのコンクリート組成物に外割り添加した値である。
注3 固形分としての添加量を示す。
注4 Wの単位量に内割り添加した値である。
【0072】
[コンクリートの試験方法及び評価結果]
(1)フレッシュ性状
(試験方法)
実施例1及び2、並びに比較例1及び2で得られたコンクリート組成物を用いて、スランプ及びスランプフローを測定した。スランプは、JIS A 1101:2005「コンクリートのスランプ試験方法」、スランプフローは、JIS A 1150:2007「コンクリートのスランプフロー試験方法」に準じて測定した。
【0073】
(評価結果)
表5に、スランプ試験及びスランプフロー試験の結果を示す。ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物をコンクリート組成物に直接添加した比較例2は、スランプが大きく材料分離が生じた。これに対し、実施例1は、スランプが一般的なコンクリート組成物である比較例1とほぼ同等であり、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物(NS)添加による材料分離が殆ど生じなかった。また、実施例2ではスランプが実施例1よりも大きくなったが、実施例1と同様にナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物(NS)添加による材料分離が生じなかった。
【0074】
【表5】

【0075】
(2)耐硫酸性
(試験方法)
フレッシュ性状が良好だった実施例1、実施例2及び比較例1のコンクリート組成物を、直径10cm×高さ20cmの寸法を有する円柱型枠に、それぞれ打設した。材齢1日経過後に、各型枠からコンクリートを脱型し、20℃の水中で材齢28日まで養生して供試体を得た。これらの供試体を、それぞれ5質量%の硫酸水溶液に浸せきした。浸せきして4週間経過後、8週間経過後、13週間経過後及び26週間経過後に、供試体を水中から取り出し、供試体の表面を水洗いした後、表面の水分を拭き取って供試体の質量を測定した。予め測定しておいた養生後(浸せき前)の供試体の質量(I)と、各浸せき期間後における供試体の質量(II)とから質量変化率[質量(II)/質量(I)]を算出した。
【0076】
(評価結果)
表6に、上述のとおりにして算出した質量変化率を示す。実施例1及び実施例2は、比較例1よりも質量変化率が小さかった。これにより耐硫酸性付与剤1(SAD1)又は耐硫酸性付与剤2(SAD2)を用いたコンクリートは、優れた耐硫酸性を有することが確認された。
【0077】
【表6】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントとナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とを含む混合物の硬化体を含有する粉末状の耐硫酸性付与剤。
【請求項2】
前記混合物は、前記セメント100質量部に対し、前記ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を20〜200質量部、及び前記水を10〜100質量部含む請求項1記載の耐硫酸性付与剤。
【請求項3】
前記混合物は無機質粉末を含む請求項1又は2記載の耐硫酸性付与剤。
【請求項4】
前記混合物は、前記セメント100質量部に対し、前記無機質粉末を50〜400質量部含む請求項3記載の耐硫酸性付与剤。
【請求項5】
前記無機質粉末は、石灰石微粉末、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末及びシリカフュームからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉末を含む請求項4記載の耐硫酸性付与剤。
【請求項6】
平均粒子径が3〜300μmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐硫酸性付与剤。
【請求項7】
Rosin−Rammler線図におけるn値が0.4〜2.0である請求項1〜6のいずれか1項に記載の耐硫酸性付与剤。
【請求項8】
セメントとナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とを含む混合物を硬化させて硬化体を得る工程と、
前記硬化体を粉砕する工程と、を有する耐硫酸性付与剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の耐硫酸性付与剤とセメントと細骨材と水とを含む耐硫酸性モルタル組成物。
【請求項10】
請求項9記載の耐硫酸性モルタル組成物と粗骨材とを含む耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項11】
前記セメントに対する前記水の質量比率が30〜70質量%である請求項10記載の耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の耐硫酸性付与剤、水、セメント、石灰石微粉末、細骨材、及び粗骨材を含む耐硫酸性コンクリート組成物であって、
前記耐硫酸性付与剤の単位量が30〜100kg/m、前記水の単位量が120〜200kg/m、前記セメントの単位量が200〜400kg/m、前記石灰石微粉末の単位量が20〜100kg/m、前記細骨材の単位量が500〜1000kg/m、及び前記粗骨材の単位量が800〜1400kg/mである耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項13】
請求項9記載の耐硫酸性モルタル組成物、又は請求項10〜12のいずれか1項に記載の耐硫酸性コンクリート組成物を硬化させたセメント硬化体。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の耐硫酸性付与剤、水、セメント、石灰石微粉末、細骨材、及び粗骨材を混合する混合工程を有しており、
前記混合工程において、前記耐硫酸性付与剤の単位量が30〜100kg/m、前記水の単位量が120〜200kg/m、前記セメントの単位量が200〜400kg/m、前記石灰石微粉末の単位量が20〜100kg/m、前記細骨材の単位量が500〜1000kg/m、及び前記粗骨材の単位量が800〜1400kg/mである耐硫酸性コンクリート組成物の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−222149(P2010−222149A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68352(P2009−68352)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】