説明

耐衝撃部材

【課題】軽量であり、かつ耐衝撃性が高く防護対象への衝撃を低減することができる耐衝撃部材を提供する。
【解決手段】高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる耐衝撃部材10であって、セラミックスの強化材と金属の母材とからなる金属基複合材料またはセラミックスにより形成される基体11と、基体11に接合され、高強度繊維を含んで形成される緩衝体12、13とを備え、基体11は、3.5×10kg/m以下の密度、およびエコーチップ硬度測定したときに55より大きいロックウェル硬度HRCを有する。したがって、耐衝撃部材は軽量であり、耐衝撃性が高い。したがって、耐衝撃部材10は変形を抑え防護対象への衝撃を低減できる軽量な製品に適用できる。また、基体11が金属基複合材料またはセラミックスにより形成されるため、金属母材の含浸またはセラミックスの焼成前の加工が容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる耐衝撃部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銃弾等の高速飛来物等に対して耐衝撃性を有する部材として、高強度繊維に樹脂など付着させた耐衝撃性繊維強化プラスチックにセラミックスや金属を、接着剤を介して積層した多層積層体が開発されている。そして、そのような多層積層体を防護チョッキ等に用いた耐衝撃部材が提案されている。また、耐衝撃部材には、樹脂の付着した高強度繊維と、樹脂なしの高強度繊維を交互に積層させ、その積層物をアルミナ等のセラミックスに接着剤を介し接合させたものも提案されている(たとえば、特許文献1参照)。また、セラミック粒子を樹脂で結合させてなる防弾部材であって、カーブ面などの複雑形状に対応した耐衝撃部材が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1記載の多層積層体は、樹脂の付着した高強度繊維布帛と樹脂なし高強度繊維布帛からなる耐衝撃性繊維強化プラスチック、および耐衝撃性繊維強化プラスチックが接着剤を介してセラミックスまたは金属と積層されている。これにより、高速の飛来物に対し耐衝撃性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−254487号公報
【特許文献2】特開2005−164071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような耐衝撃部材では、耐衝撃性は優れていても重いか、軽量であっても耐衝撃性が不十分である。例えば人体への防護用に耐衝撃部材を用いる場合、人体に合わせた曲面形状への組立が必要となる。しかし、セラミックスを用いたニアネットでの曲面形状の形成は著しく困難であり、一方、加工削り出しで曲面形状を作り出すには著しい加工コストを要する。したがって、例えば特許文献1に記載されているように、3〜10cmの正方形タイルを千鳥状に配置するといった方法を採らざるを得ない。
【0006】
この場合、タイル間に継ぎ目が生じ、継ぎ目での耐衝撃性能低下が懸念される上、目的とする曲面形状への継ぎ合わせに多くの労力と手間を要する欠点がある。また金属を用いる場合、目的とする曲面形状等への成形は比較的容易であるが、セラミックスを用いる場合に比べ比重が著しく大きく(たとえば鋼鉄の比重は7.6×10kg/m)、部材全体が重量化するという欠点もある。以上の問題点に対して、例えば特許文献2では、セラミック粒子を用いた曲面形状品の成形方法が示唆されているが、同文献の部材にはセラミックを樹脂で結合させるという手段が採られており、銃弾などの衝撃による部材の変形が大きい。本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、軽量であり、かつ耐衝撃性が高く防護対象への衝撃を低減することができる耐衝撃部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係る耐衝撃部材は、高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる耐衝撃部材であって、セラミックスの強化材と金属の母材とからなる金属基複合材料またはセラミックスにより形成される基体と、前記基体に接合され、高強度繊維を含んで形成される緩衝体と、を備え、前記基体は、3.5×10kg/m以下の密度、およびエコーチップ硬度測定したときに55より大きいロックウェル硬度HRCを有することを特徴としている。
【0008】
このように、基体が、3.5×10kg/m以下の密度を有するため、耐衝撃部材は軽量である。また、エコーチップ硬度測定をしたとき55より大きいロックウェル硬度HRCを有するため、耐衝撃性が高まる。したがって、耐衝撃部材は変形を抑え防護対象への衝撃を低減できる軽量な製品に適用できる。また、基体が金属基複合材料またはセラミックスにより形成されるため、金属母材の含浸またはセラミックスの焼成前の加工が容易となる。
【0009】
(2)また、本発明に係る耐衝撃部材は、高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる耐衝撃部材であって、セラミックスの強化材と金属の母材とからなる金属基複合材料またはセラミックスにより形成される基体と、前記基体に接合され、高強度繊維を含んで形成される緩衝体と、を備え、前記基体は、10%以下の気孔率および99%以上の純度を有する酸化アルミニウムの緻密体のロックウェル硬度HRCに対して、その1.1倍より大きいロックウェル硬度HRCならびに3.5×10kg/m以下の密度を有することを特徴としている。
【0010】
このように、基体が、3.5×10kg/m以下の密度を有するため、耐衝撃部材は軽量である。また、気孔率10%以下、純度99%以上の酸化アルミニウムの緻密体のロックウェル硬度HRCに対して、その1.1倍より大きいロックウェル硬度HRCを有するため、耐衝撃性が高まる。したがって、耐衝撃部材は変形を抑え防護対象への衝撃を低減できる軽量な製品に適用できる。また、基体が金属基複合材料またはセラミックスにより形成されるため、金属母材の含浸またはセラミックスの焼成前の加工が容易となる。
【0011】
(3)また、本発明に係る耐衝撃部材は、前記基体が、炭化珪素セラミックスの強化材と珪素金属の母材とからなる金属基複合材料により形成されることを特徴としている。このように、炭化珪素セラミックスの強化材と珪素金属の母材とからなる金属基複合材料を用いるため、基体を軽量化できる。また、基体は高硬度を有するため、薄肉化しても十分な耐衝撃性を維持できる。また、プリフォームの形成、加工が容易であるため、大型品、曲面形状の製作も容易となる。
【0012】
(4)また、本発明に係る耐衝撃部材は、前記基体が、7mm以上の厚さを有し、前記緩衝体は、20mm未満の厚さを有することを特徴としている。これにより、薄肉化してもNIJ規格に準拠した試験でレベルIII以上の耐衝撃性を持たせることができる。
【0013】
(5)また、本発明に係る耐衝撃部材は、前記緩衝体が、高強度繊維に樹脂を含浸させて形成される樹脂含浸層と、高強度繊維のみからなる繊維層とが積層して形成されているか、または高強度繊維の繊維層のみからなることを特徴としている。このように樹脂含浸層が存在することで、樹脂が耐衝撃性の向上に寄与する。その一方で、樹脂含浸されていない高強度繊維により繊維自体の変形によるエネルギー吸収能が維持され、耐衝撃性能の低下を阻止することができる。また、このような耐衝撃材料においては、性能上、4〜5回の複数回衝撃に耐えることが要求されるが、樹脂含浸層のみでは硬質であるため1回の衝撃で劣化が進みやすく、複数回の衝撃には弱い。一方、樹脂含浸されていない高強度繊維では、衝撃を受けた後でも繊維自体の変形によるエネルギー吸収能が維持されるため、複数回衝撃時における耐衝撃性能の低下を阻止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軽量であり、耐衝撃性の高い耐衝撃部材を提供できる。また、特に金属基複合材料の場合、プリフォームの形成や加工が容易であるため、大型品や曲面形状の製作も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る耐衝撃部材を示す断面図である。
【図2A】本発明に係る耐衝撃部材を示す断面図である。
【図2B】本発明に係る耐衝撃部材を示す断面図である。
【図3】各材料についての実験結果を示す表である。
【図4】各層の厚さの組合せに対する耐衝撃試験の結果を示す表である。
【図5】複数被弾に関する耐衝撃試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
(耐衝撃部材の構成)
図1は、耐衝撃部材10を示す断面図である。耐衝撃部材10は、銃弾等の高速飛来物の衝撃に対して、人体等を防護するために用いられる。耐衝撃部材10の用途には、防弾服、防弾盾、ヘルメット、建屋およびその構成部材、乗り物用装甲部材が挙げられる。図1に示すように、耐衝撃部材10は、基体11、被衝撃側の緩衝体12および防護対象側の緩衝体13により構成されている。
【0018】
基体11は、セラミックスの強化材と金属の母材とからなる金属基複合材料またはセラミックスにより形成される。たとえば、金属基複合材料には炭化珪素セラミックスの強化材と珪素金属の母材とからなる複合材料(以下、SiC/Si複合材料)が挙げられる。SiC/Si複合材料は密度が小さいため、基体11を軽量化できる。また、基体11は高硬度を有するため、薄肉化しても十分な耐衝撃性を維持できる。また、プリフォームの形成および加工が容易であるため、大型品、曲面形状の製作も可能となる。たとえば、250×300mm程度の一体品を製作可能である。基体11の厚さは、米国NIJ規格のレベルIII対応とするには6mm以上、同規格のレベルIV対応とする場合には10mm以上とすることが望ましい。なお、基体11がSiC/Si複合材料により形成される場合には、軽量化、高硬度化の観点から、特に強化材の体積率が50%以上70%以下で、比重が3.0×10kg/m以下であることが好ましい。
【0019】
基体11は、エコーチップ硬度測定したときに55より大きいロックウェル硬度HRCを有する。したがって、耐衝撃部材10の耐衝撃性が高まる。変形が大きいと人体への衝撃が増大するため、高硬度材料により変形が所定の基準以下に抑えられることが重要である。エコーチップ硬度測定とは、従来、鋼、鋳鋼、鋳鉄の硬さ試験に用いられ、エコーチップ硬さ試験法(ASTM規格 A956−96「鋼製品のエコーチップ硬さ試験の標準試験方法」)に従う硬度測定法である。すなわち、被試験体の表面をインパクトボディーで打撃し、このインパクトボディーの反発速度と打撃速度との比を求め、この比を基準とした被試験体の硬さ値(L=反発速度/打撃速度×1000)に基づいて上記の被試験体の圧縮強度を推定する方法である。
【0020】
また、気孔率10%以下、純度99%以上の酸化アルミニウムの緻密体のロックウェル硬度HRCは、エコーチップ硬度測定によれば50であり、基体11は、この硬度の1.1倍より大きいロックウェル硬度HRCを有することが好ましい。なお、上記の例では、基体11の材質はSiC/Si複合材料であるが、サイアロン(Si、Al、O、Nからなるセラミックス)、窒化珪素やボロンカーバイド(BC)等のセラミックスの材料を用いてもよい。なお、サイアロンやボロンカーバイドのロックウェル硬度HRCは、エコーチップ硬度測定によれば55より大きい。
【0021】
被衝撃側(着弾側)の緩衝体12も、接着剤により基体11の一方の主面に接合され、高強度繊維を含んで形成される。高強度繊維とは、引っ張り強度や弾性率に優れた繊維を意味し、高強度繊維として好ましくはアラミド繊維、または全芳香族ポリエステルを用いることができる。厚さは0.5mm程度であることが好ましく、この緩衝体12により衝撃が緩衝され、破片等の飛散が防止される。なお、接着剤は、樹脂繊維と金属基複合材料、または樹脂繊維とセラミックスを接合するのに適したものであれば特に限定されない。
【0022】
防護対象側の緩衝体13は、接着剤により基体11に接合され、高強度繊維を含んで形成される。これにより身体等の防護対象への衝撃を緩衝することができる。
【0023】
(変形例)
図2Aおよび図2Bは、それぞれ耐衝撃部材20および30を示す断面図である。図2Aに示す耐衝撃部材20は、被衝撃側の緩衝体12を有さない。緩衝体12を有する方が好ましいが、耐衝撃部材20のような構成でも十分な耐衝撃性が得られる。
【0024】
図2Bに示す耐衝撃部材30において、緩衝体31は、高強度繊維に樹脂を含浸させて形成される樹脂含浸層32と、高強度繊維のみからなる繊維層33とが積層して形成されている。人体防護等に使用される耐衝撃材料においては、性能上複数回衝撃に耐えることが要求され、例えばNIJ規格では1試料につき5発の弾丸を被弾させ、全てが貫通しないことが性能上の条件とされている。しかし、樹脂含浸層32は樹脂により耐衝撃性が向上する反面、硬質であるため1回の衝撃で劣化が進みやすく、複数回の衝撃には弱い。一方、樹脂含浸されていない高強度繊維では、繊維自体の変形によるエネルギー吸収能が維持されるため、樹脂含浸されていない高強度繊維を用いることで、複数回衝撃時における耐衝撃性能の低下を阻止することができる。なお、両層を交互に積層してもよい。なお、繊維層33とは別に樹脂含浸層32を作製し、これらを貼り付けてもよいが、繊維層33の所定厚さまで樹脂を浸透させてもよい。
【0025】
(耐衝撃部材の製造方法)
次に、上記のように構成される耐衝撃部材10の製造方法を説明する。まず、金属基複合材料の強化材のプリフォームを作製する。たとえばゴム型に強化材のスラリーを注入して焼き固めることで作製できる。ゴム型でプリフォームを作製することにより、加工が簡単になり、その後金属を浸透すればよいため、最終形状の自由度が高くなる。たとえば、弧状の曲線を持つ製品や、大型品を作ることができる。そして、プリフォームに母材となる珪素金属を浸透させて、5〜10mm程度の厚さの基体11を作製する。一方で、厚さ0.5mm程度の高強度繊維(緩衝体12)と、厚さ2mm以上で、高強度繊維および高強度繊維に樹脂を含浸させたもの(緩衝体13)を準備する。最後に、金属基複合材料の基体11と緩衝体12および緩衝体13を接合させて、耐衝撃部材10が完成する。なお、上記各部の厚さは一例であり、これらに限定されるものではない。また、上記の例では、基体10に金属基複合材料を用いているが、セラミックスを用いてもよい。
【0026】
なお、基体11の両方の主面は、研削加工が施されていない面であることが好ましい。研削加工を施していない所謂鋳放し面、または焼き放し面をそのまま基体11の主面とすることで耐衝撃性をより高めることができる。たとえば、金属基複合材料により基体11を作製する場合、プリフォームにおける基体11の側面に該当する箇所に浸透口を設けて金属をプリフォームへ浸透させる。そして、浸透後冷却して得られた金属基複合材料における基体11の主面に該当する面は加工せず鋳放し面とし、側面の浸透口のみを加工することで基体11を得ることができる。また、セラミックスの場合には、焼結体に研削加工を施していない焼き放し面を主面とする。ここで、基体11の両方の主面とは、図1の構成では緩衝体が接合される面を言い、図2Aの構成では緩衝体13が接合される面および緩衝体13が接合されない被衝撃側の面を言う。
【実施例1】
【0027】
[各材料についての実験]
次に、耐衝撃部材10について行った実験について説明する。まず、基体11に適した材料を探索するため、7種類の材料で板状の試料を作製し、硬度を測定した。硬度としてエコーチップ試験によりロックウェル硬度HRCを測定した。また、試料について米国NIJ規格のレベルIIIに準拠する条件により耐弾試験を行った。すなわち、64式小銃を用いて7.62mm径の弾丸を射撃距離8m、弾速700m/sで射撃し、試料の状態を観察した。各材料の試料について厚さを変えて試験を行い、貫通しない最小の厚さと比重との積を非貫通時の重量として評価した。
【0028】
図3は、各材料についての実験結果を示す表である。図3に示すように、硬度と非貫通時の重量とは正の相関関係を有しており、特にSiC/Si複合材料、窒化珪素、ボロンカーバイドが軽量であり、かつ耐衝撃性に優れていることが実証された。
【0029】
[各層の厚さの組合せの実験(1発被弾)]
次に、それぞれの厚さを変えてSiC/Si複合材料の基体11に繊維層33および樹脂含浸層32を接合した試料について米国NIJ規格のレベルIIIに準拠する条件で、耐弾試験を行った。図4は、各層の厚さの組み合わせに対する耐衝撃試験の結果を示す表である。ただし、NIJ規格では同一試料に5発被弾させることが規定されているが、各試料1発のみの被弾により評価した。図4において、「○」は、銃弾が貫通せず変形が規定の変形量以内であり、耐衝撃性が十分であることを示している。「×」は、銃弾が貫通したことを示し、「△」は、銃弾は貫通しなかったものの規定の変形量をオーバーしていることを示している。「−」は試験を行っていないことを示している。
【0030】
たとえば、基体11の厚さが9mm以上の場合には、緩衝体12の厚さを9mm以上とすることで十分に耐衝撃性を高められることが分かる。また、緩衝体12の厚さが18mm以上の場合には、基体11の厚さを7mm以上とすることで十分に耐衝撃性を高められることが分かる。また、緩衝体31が繊維層33のみの耐衝撃部材より、樹脂含浸層32が存在する耐衝撃部材の方が、耐衝撃性に優れていることが分かる。
【0031】
また、上記の実験結果を考慮すると、基体11は6mm以上の厚さを有し、緩衝体13は9mm以上の厚さを有し、全体で19mm以上の厚さを有することが好ましいことが分かる。このような形態とすることで、軽量化しつつ、耐衝撃部材10にNIJ規格に準拠した試験でレベルIII以上に耐衝撃性を高めることができる。一方で、防弾盾等に用いる場合には、全体の厚さで30mm未満に薄肉化することで取り扱いが容易になる。その際、全体の厚さを30mm未満とするには、基体11は厚さ7mm以上、緩衝体13は厚さ20mm未満とすることが望ましい。
【0032】
[各層の厚さの組合せの実験(5発被弾)]
一方、図4で示した組合せの一部を選んで作製された試料に対し、米国NIJ規格と同様に複数回被弾させた。図5は、複数被弾に関する耐衝撃試験の結果を示す表である。表の構成、および記号の意味は、図4と各々同様である。
【0033】
図5に示すように、緩衝体13に樹脂含浸層32が無い組合せでは、1発被弾でも5発被弾でも結果は同様である(図4で○、図5でも○)。これに対し、緩衝体31が樹脂含浸層32のみで形成される組合せでは、1発被弾では耐弾性能が十分と評価されたにもかかわらず5発被弾では銃弾が貫通している(図4で○、図5では×)。このように、1発被弾と5発被弾で結果に差異が生じた原因として、樹脂含浸層32は硬質であるため、1回の衝撃で劣化が進みやすく、2回目以降の被弾時点では最初の被弾時よりも大幅に耐衝撃性能が低下していたことが挙げられる。このことから、緩衝体31を樹脂含浸層32のみで構成した耐衝撃部材10は、1回の衝撃に対しては耐衝撃性が高いが、複数回の衝撃に対しては耐衝撃性が低いことが分かる。したがって、高強度繊維を緩衝体に使用する場合、少なくともその一部は樹脂を含浸されず、高強度繊維のみで構成されることが望ましい。
【符号の説明】
【0034】
10、20、30 耐衝撃部材
11 基体
12、13、31 緩衝体
32 樹脂含浸層
33 繊維層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる耐衝撃部材であって、
セラミックスの強化材と金属の母材とからなる金属基複合材料またはセラミックスにより形成される基体と、
前記基体に接合され、高強度繊維を含んで形成される緩衝体と、を備え、
前記基体は、3.5×10kg/m以下の密度、およびエコーチップ硬度測定したときに55より大きいロックウェル硬度HRCを有することを特徴とする耐衝撃部材。
【請求項2】
高速飛来物の衝撃に対する防護に用いられる耐衝撃部材であって、
セラミックスの強化材と金属の母材とからなる金属基複合材料またはセラミックスにより形成される基体と、
前記基体に接合され、高強度繊維を含んで形成される緩衝体と、を備え、
前記基体は、10%以下の気孔率および99%以上の純度を有する酸化アルミニウムの緻密体のロックウェル硬度HRCに対して、その1.1倍より大きいロックウェル硬度HRCならびに3.5×10kg/m以下の密度を有することを特徴とする耐衝撃部材。
【請求項3】
前記基体は、炭化珪素セラミックスの強化材と珪素金属の母材とからなる金属基複合材料により形成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の耐衝撃部材。
【請求項4】
前記基体は、7mm以上の厚さを有し、
前記緩衝体は、20mm未満の厚さを有することを特徴とする請求項3記載の耐衝撃部材。
【請求項5】
前記緩衝体は、高強度繊維に樹脂を含浸させて形成される樹脂含浸層と、高強度繊維のみからなる繊維層とが積層して形成されているか、または高強度繊維の繊維層のみからなることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の耐衝撃部材。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−175211(P2010−175211A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21292(P2009−21292)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】