説明

耐震壁

【課題】軽量化を踏襲した上で、より耐震性を向上すること。
【解決手段】建造物の柱101と梁102とから成る架構100内に構成する耐震壁10において、木質材料から成り、架構100の内周に沿って配設する周辺フレーム20と、それぞれ木質材料から成り、周辺フレーム20によって囲まれる空間を閉塞する態様で配設する複数の格子ユニット30と、それぞれ木質材料から成る複数のコッター40とを備え、周辺フレーム20と格子ユニット30との互いに対向する部位にそれぞれ凹部22,32bを設け、凹部22,32bにより形成される挿通孔25に、コッター40を嵌合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、既存の建物の耐震強度を高めるため、柱梁架構内に耐震壁を設置する場合がある。この耐震壁としては、例えば、鉄筋コンクリート製のものがある(例えば、特許文献1参照)。この従来技術の耐震壁では、溝形鋼状材から成る鉄骨枠材を、柱梁架構の内面に沿うように、鉄骨枠材の溝形を内向きに配置して柱梁架構と接着し、かつ鉄骨枠材の溝底から内向きにアンカー筋を突設させている。その後、柱梁架構の内面に沿うように、壁用の型枠を組立て、その型枠にコンクリートを打設することにより耐震壁を構成している。
【0003】
【特許文献1】特開2001−27048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の耐震壁において、鉄筋コンクリート製のものは、重量が重いため耐震壁の設置に伴って建物の重量が増加するので、建物の補強が必要な場合がある。
【0005】
こうした問題は、鉄筋コンクリートよりも比重の小さい材料を用いて耐震壁を構成することで解決することが可能である。
【0006】
例えば、本願出願人は、比重の小さい材料として木材を用いた耐震壁を提案している(特願2007−125752号)。この耐震壁では、木質材料から成る複数の格子ユニットを、柱梁架構の内周面に沿って固定された木質材料から成る周辺フレームの内周面に接合している。こうした耐震壁によれば、軽量化を図ることができるとともに、地震の発生に伴う、水平荷重に抵抗することができる。しかしながら、市場においては、さらに耐震性を向上したものが要求される場合がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、軽量化を踏襲した上で、より耐震性を向上することができる耐震壁の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1にかかる耐震壁は、建造物の柱と梁とから成る架構内に構成する耐震壁において、木質材料から成り、前記架構の内周に沿って配設する周辺フレームと、それぞれ木質材料から成り、前記周辺フレームによって囲まれる空間を閉塞する態様で配設する複数の格子ユニットと、それぞれ木質材料から成る複数の接合部材とを備え、前記周辺フレームと前記格子ユニットとの互いに対向する部位にそれぞれ凹部を設け、前記凹部により形成される挿通孔に、前記接合部材を嵌合したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2にかかる耐震壁は、前述した請求項1において、隣接する格子ユニットの互いに対向する部位にそれぞれ凹部を設け、前記凹部により形成される挿通孔に、前記接合部材をさらに嵌合したことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の請求項3にかかる耐震壁は、前述した請求項1または2において、前記接合部材は、積層した複数の単板に熱硬化性樹脂を含浸し、熱圧したものであり、前記接合部材を前記挿通孔に嵌合した場合に、前記複数の単板の積層面が、前記挿通孔を形成する部材の対向面と交差する方向となるように構成したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4にかかる耐震壁は、前述した請求項3において、前記接合部材を前記挿通孔に嵌合した場合に、前記複数の単板の積層面が、前記接合部材を嵌合する方向と直交するように構成したことを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明の請求項5にかかる耐震壁は、前述した請求項3において、前記接合部材を前記挿通孔に嵌合した場合に、前記複数の単板の繊維方向が、前記挿通孔を形成する部材の対向面と交差する方向となるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる耐震壁は、周辺フレーム、格子ユニットおよび接合部材を、木質材料を用いて構成してある。木質材料は、鉄筋コンクリートに比して比強度が大きい。したがって、木質材料を用いた耐震壁においては、鉄筋コンクリート製の耐震壁と比して同じ耐力を持たせた場合でも軽量化することができる。しかも、周辺フレームの凹部と格子ユニットの凹部とが対向することで形成される挿通孔に、接合部材を嵌合するように構成してある。このため、例えば、地震の発生に伴い、周辺フレームと格子ユニットとを、架構の構面に沿って互いに異なる方向に移動させるような力が加わった場合にも、接合部材がその力に抵抗することになり、周辺フレームおよび格子ユニットの移動が阻止されることになる。したがって、建造物の耐震性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる耐震壁の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明にかかる耐震壁の実施の形態を示す正面図である。ここで例示する耐震壁10は、地震に発生に伴う、水平荷重に抵抗するために、鉄筋コンクリート造(RC造:Reinforced Concrete)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造:Steel Reinforced Concrete)、鉄骨造、木造およびレンガ造などの種々の建造物に用いられるものである。この耐震壁10は、図1に示すように、建造物の柱101と梁102とから成る架構100内に、周辺フレーム20と複数の格子ユニット30とを備えて構成してある。
【0016】
周辺フレーム20は、木質材料から成るもので、架構100をその内周に沿って縁取るためのものであり、これにより開口部21を形成している。この開口部21は、周辺フレームによって囲まれた空間である。この周辺フレーム20には、複数の凹部22が設けてある。複数の凹部22は、それぞれ周辺フレーム20の内方に向けて開口する溝であり、周辺フレーム20の内周縁における所定の位置に配置してある。
【0017】
周辺フレーム20に適用する木質材料としては、木材の薄板を数枚接着した集成材、および積層した複数の単板に熱硬化性樹脂を含浸し、熱圧した強化木などがある。本実施の形態では、周辺フレーム20に、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を使用した強化木を採用している。
【0018】
図2に示すように、周辺フレーム20と架構100とは、複数のボルト部材50で接合してある。この複数のボルト部材50は、それぞれ周辺フレーム20から架構100に亘って、周辺フレーム20を架構100に固定するために必要な本数設けてある。ここで、ボルト部材50は、架構100の材質により、適宜選択することが好ましい。非木造の架構100に適用するボルト部材50としては、周知の鋼製アンカーボルトなどがある。一方、木造の架構100に適用するボルト部材50としては、スクリューボルトなどがある。なお、図2においては、架構100が木造の場合を例示している。
【0019】
複数の格子ユニット30は、それぞれ木質材料から成るもので、周辺フレーム20によって囲まれる空間を閉塞する態様で配設してある。この複数の格子ユニット30は、それぞれパネル31および枠材32を備えている。
【0020】
パネル31は、略矩形状の板材である。パネル31に適用する木質材料としては、積層した複数の単板に熱硬化性樹脂を含浸し、熱圧した強化木が最適である。本実施の形態では、パネル31に、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を使用した強化木を採用している。
【0021】
枠材32は、パネル31の全周縁に設けたものである。この枠材32には、開口部32aおよび複数の凹部32bが設けてある。開口部32aは、略矩形状の開口である。複数の凹部32bは、それぞれ枠材32の外方に向けて開口する溝であり、枠材32の外周縁における所定の位置に配置してある。この複数の凹部32bは、枠材32を架構100内に配設した場合に、周辺フレーム20の凹部22に対向し、かつ隣接する枠材32の凹部32bと対向するように構成してある。枠材32に適用する木質材料としては、木材の薄板を数枚接着した集成材、主伐材あるいは間伐材の製材、および積層した複数の単板に熱硬化性樹脂を含浸し、熱圧した強化木などがある。本実施の形態では、枠材32に、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を使用した強化木を採用している。
【0022】
図には明示していないが、パネル31と枠材32とは、接着剤で接合してある。この接着剤は、パネル31と枠材32との接触する部分に、適量塗布してある。
【0023】
また、耐震壁10は、図1に示すように、複数のコッター(接合部材)40を備えている。複数のコッター40は、図3に示すように、繊維方向を略同一方向に揃えて積層した複数の単板41に熱硬化性樹脂を含浸し、熱圧した強化木から成るもので、横断面が略矩形状の柱状部材である。本実施の形態では、コッター40に、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を採用している。
【0024】
この複数のコッター40は、図1および図3に示すように、周辺フレーム20と複数の格子ユニット30とを架構100内に配設した場合に、周辺フレーム20の凹部22と複数の格子ユニット30における枠材32の凹部32bとが対向することで形成される挿通孔25に嵌合してある。なお、本実施の形態では、コッター40の横断面形状を、挿通孔25の開口形状と略同一形状とすることにより、コッター40と挿通孔25との間に隙間が開くことを防止しているが、隙間が開いた場合には、木質材料から成る埋木部材で隙間を埋めることが望ましい。埋木部材に適用する木質材料としては、木材の薄板を数枚接着した集成材、主伐材あるいは間伐材の製材、および積層した複数の単板に熱硬化性樹脂を含浸し、熱圧した強化木などがある。
【0025】
ここで、複数のコッター40は、当該コッター40を構成する複数の単板41の積層面41aが、コッター40を嵌合する方向と直交するように構成してある。さらに、このとき、コッター40を構成する複数の単板41の繊維方向が、挿通孔25を形成する周辺フレーム20と格子ユニット30との対向面26と、略直交する方向となるように構成してある。
【0026】
さらに、この複数のコッター40は、図1および図3に示すように、複数の格子ユニット30を架構100内に配設した場合に、複数の格子ユニット30において一方の格子ユニット30における枠材32の凹部32bと、一方の格子ユニット30に隣接する他方の格子ユニット30における枠材32の凹部32bとが対向することで形成される挿通孔35に嵌合してある。なお、本実施の形態では、コッター40の横断面形状を、挿通孔35の開口形状と略同一形状とすることにより、コッター40と挿通孔35との間に隙間が開くことを防止しているが、隙間が開いた場合には、木質材料から成る埋木部材で隙間を埋めることが望ましい。埋木部材に適用する木質材料としては、木材の薄板を数枚接着した集成材、主伐材あるいは間伐材の製材、および積層した複数の単板に熱硬化性樹脂を含浸し、熱圧した強化木などがある。
【0027】
ここで、複数のコッター40は、当該コッター40を構成する複数の単板41の積層面41aが、コッター40を嵌合する方向と直交するように構成してある。さらに、このとき、コッター40を構成する複数の単板41の繊維方向が、挿通孔35を形成する複数の格子ユニット30における一方の格子ユニット30と、一方の格子ユニット30に隣接する他方の格子ユニット30との対向面36と、略直交する方向となるように構成してある。
【0028】
上記のように構成した耐震壁10によれば、架構100の内周に沿って配設する周辺フレーム20と、周辺フレーム20によって囲まれる空間を閉塞する態様で配設する複数の格子ユニット30と、複数のコッター40とを壁として構成することにより、耐震壁10としている。したがって、地震の発生に伴い、建造物に加わる水平荷重に抵抗することができる。
【0029】
また、上記のように構成した耐震壁10によれば、周辺フレーム20、格子ユニット30およびコッター40に木質材料を用いて耐震壁10を構成してある。木質材料は、鉄筋コンクリートに比して比強度が大きい。したがって、木質材料を用いた耐震壁10においては、鉄筋コンクリート製の耐震壁と比して同じ耐力を持たせた場合でも軽量化することができる。さらに、周辺フレーム20、格子ユニット30およびコッター40を、木質材料を用いて構成したため、それらのいずれかに異種材料を用いて構成した場合と比較して、各部材間に温度差が生じにくくなる。したがって、周辺フレーム20、格子ユニット30およびコッター40に結露が発生することを抑制できることになり、結露による各部材の腐食を防止することができる。それに加えて、周辺フレーム20、格子ユニット30およびコッター40を、木質材料を用いて構成したため、それらの解体時に、材料に応じた分別を行う必要がない。また、周辺フレーム20、格子ユニット30およびコッター40を、木質材料を用いて構成したため、見栄えがよく、意匠に優れる。さらに、周辺フレーム20、格子ユニット30およびコッター40を、木質材料を用いて構成したため、それらに錆が発生することがなく、これによる強度の低下がない。
【0030】
さらに、上記のように構成した耐震壁10によれば、周辺フレーム20、格子ユニット30およびコッター40に木質材料を用いて耐震壁10を構成してある。木質材料は、鉄筋コンクリートに比して熱伝導率が低い。したがって、木質材料を用いた耐震壁10においては、鉄筋コンクリート製の耐震壁に比して断熱効果を高めることができる。
【0031】
また、上記のように構成した耐震壁10によれば、複数の格子ユニット30を用いて耐震壁10を構成してある。したがって、個々の格子ユニット30を小型化できることになり、格子ユニット30を運搬する際の作業を容易にすることができる。そのため、パネル31と枠材32との接合作業は、現場で行うこともできるが、工場などの別の場所で行ってもよく、施工に伴う作業の自由度を高めることができる。
【0032】
しかも、周辺フレーム20の凹部22と、格子ユニット30における枠材32の凹部32bとが対向することで形成される挿通孔25に、コッター40を嵌合するように構成してある。このため、例えば、地震の発生に伴い、周辺フレーム20と格子ユニット30とを、架構100の構面に沿って互いに異なる方向に移動させるような力が加わった場合にも、その力が図1において上下方向および左右方向であれば、コッター40がその力に抵抗することになり、周辺フレーム20および格子ユニット30の移動が阻止されることになる。したがって、建造物の耐震性を向上することができる。
【0033】
さらに、上記のように構成した耐震壁10によれば、複数の格子ユニット30において一方の格子ユニット30における枠材32の凹部32bと、一方の格子ユニット30に隣接する他方の格子ユニット30における枠材32の凹部32bとが対向することで形成される挿通孔35に、コッター40を嵌合するように構成してある。このため、例えば、地震の発生に伴い、複数の格子ユニット30における一方の格子ユニット30と、一方の格子ユニット30に隣接する他方の格子ユニット30とを、架構100の構面に沿って互いに異なる方向に移動させるような力が加わった場合にも、その力が図1において上下方向および左右方向であれば、コッター40がその力に抵抗することになり、複数の格子ユニット30における一方の格子ユニット30、および一方の格子ユニット30に隣接する他方の格子ユニット30の移動が阻止されることになる。したがって、建造物の耐震性を向上することができる。
【0034】
また、上記のように構成した耐震壁10によれば、コッター40を構成する複数の単板41の積層面41aが、コッター40を嵌合する方向と直交するように構成している。そのため、積層面41aを、挿通孔25を形成する周辺フレーム20と格子ユニット30との対向面26と、平行に構成した場合と比較して、コッター40の耐力を高めることができる。さらに、このとき、コッター40を構成する複数の単板41の繊維方向が、挿通孔25を形成する周辺フレーム20と格子ユニット30との対向面26と略直交する方向となるように構成してある。そのため、コッター40を構成する複数の単板41の繊維方向を、他の方向に構成した場合と比較して、コッター40の耐力を高めることができる。
【0035】
さらに、上記のように構成した耐震壁10によれば、コッター40を構成する複数の単板41の積層面41aが、コッター40を嵌合する方向と直交するように構成している。そのため、積層面41aを、挿通孔35を形成する複数の格子ユニット30における一方の格子ユニット30と、一方の格子ユニット30に隣接する他方の格子ユニット30との対向面36と、平行に構成した場合と比較して、コッター40の耐力を高めることができる。さらに、このとき、コッター40を構成する複数の単板41の繊維方向が、挿通孔35を形成する複数の格子ユニット30における一方の格子ユニット30と、一方の格子ユニット30に隣接する他方の格子ユニット30との対向面36と略直交する方向となるように構成してある。そのため、コッター40を構成する複数の単板41の繊維方向を、他の方向に構成した場合と比較して、コッター40の耐力を高めることができる。
【0036】
しかしながら、本発明では必ずしもコッター40を構成する複数の単板41の積層面41aを、コッター40を嵌合する方向と直交するように構成する必要はない。例えば、コッター40を構成する複数の単板41の積層面41aが、図3において、コッター40の手前側の面と平行となるように構成してもよい。
【0037】
なお、本実施の形態では、繊維方向を略同一方向に揃えて積層した複数の単板41から成る複数のコッター40を例示しているが、必ずしも繊維方向を略同一方向に揃えなくてもよい。例えば、図4に示すように、繊維方向が互いに略直交するように積層した複数の単板41から成る複数のコッター40’でもよい。さらには、図には明示していないが、繊維方向を規定せずに複数の単板を積層し、結果として繊維方向がそれぞれ不規則な方向を向いたコッターであってもよい。
【0038】
また、本実施の形態では、パネル31と枠材32とを、接着剤のみで接合した格子ユニット30を例示しているが、必ずしも接着剤のみで接合しなくてもよく、図5に示すように、複数の補強ピン60を併用して接合してもよい。複数の補強ピン60は、それぞれ木質材料から成るもので、横断面が略円状の棒状部材である。この複数の補強ピン60は、パネル31’および枠材32’に設けた複数の孔(図示せず)に嵌合してある。補強ピン60に適用する木質材料としては、積層した複数の単板に熱硬化性樹脂を含浸し、熱圧した強化木が最適である。なお、図5においては、枠材32’の凹部を省略しているが、枠材32’の外周縁における所定の位置に凹部が設けてある。
【0039】
図6は、上述した耐震壁の変形例1を示したものである。この変形例1の耐震壁110は、上述した実施の形態と同様に、建造物の柱101と梁102とから成る架構100内に構成したものであり、耐震壁を構成する格子ユニットを、梁の延在方向に長くするとともに、上下方向に1列に構成してある点のみが異なっている。このように構成した変形例1の耐震壁110においても、同様の作用効果を奏することができる。
【0040】
なお、この変形例1でも、パネル131と枠材132とを、接着剤のみで接合して格子ユニット130を構成しているが、必ずしも接着剤のみで接合しなくてもよく、実施の形態と同様に、複数の補強ピンを併用して接合してもよい。さらに、この変形例1では、格子ユニット130に、図7に示すように、複数の補強部材70を併用して構成してもよい。複数の補強部材70は、それぞれ木質材料から成るもので、略矩形状の板状部材である。この複数の補強部材70は、枠材132の開口部132aにおいて、枠材132の相互間に適宜介在させてある。この場合においても、パネル131と枠材132との接合に、複数の補強ピンを併用してもよい。なお、図7においては、枠材132の凹部を省略しているが、枠材132の外周縁における所定の位置に凹部が設けてある。
【0041】
図8は上述した耐震壁の変形例2を示したものである。この変形例2の耐震壁210は、上述した実施の形態および変形例1と同様に、建造物の柱101と梁102とから成る架構100内に構成したものであり、耐震壁を構成する格子ユニットを、上下方向に長くするとともに、梁の延在方向に1列に構成してある点、格子ユニットに突出部および嵌合溝を備える点、複数の格子ユニットにおける一方の格子ユニットと、一方の格子ユニットに隣接する他方の格子ユニットとの間に、コッターを介在させない点のみ異なっている。なお、変形例2において実施の形態と同様の構成に関しては同一の符号を付してそれぞれの詳細説明を省略する。
【0042】
複数の格子ユニット230は、それぞれ木質材料から成るもので、周辺フレーム20によって囲まれる空間を閉塞する態様で配設してある。この複数の格子ユニット230は、図9−1および図9−2に示すように、それぞれパネル231および枠材232を備えている。
【0043】
パネル231は、略矩形状の板材である。パネル231に適用する木質材料としては、積層した複数の単板に熱硬化性樹脂を含浸し、熱圧した強化木が最適である。本実施の形態では、パネル231に、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を使用した強化木を採用している。
【0044】
枠材232は、図9−1において、パネル231の上下の周縁を嵌合保持するためのもので、嵌合保持した場合に突出部231aおよび嵌合溝237を形成するように構成してある。この枠材232には、開口部232aおよび複数の凹部(図示せず)が設けてある。開口部232aは、略矩形状の開口である。複数の凹部(図示せず)は、それぞれ枠材232の外方に向けて開口する溝であり、枠材232の外周縁における所定の位置に配置してある。この複数の凹部(図示せず)は、枠材232を架構100内に配設した場合に、周辺フレーム20の凹部22に対向するように構成してある。枠材232に適用する木質材料としては、木材の薄板を数枚接着した集成材、主伐材あるいは間伐材の製材、および積層した複数の単板に熱硬化性樹脂を含浸し、熱圧した強化木などがある。本実施の形態では、枠材232に、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を使用した強化木を採用している。なお、図9−1においては、枠材232の凹部を省略しているが、枠材232の外周縁における所定の位置に凹部が設けてある。
【0045】
図には明示していないが、パネル231と枠材232とは、接着剤で接合してある。この接着剤は、パネル231を枠材232に嵌合した場合に接触する部分に、適量塗布してある。
【0046】
図10からも明らかなように、複数の格子ユニット230における一方の格子ユニット230と、一方の格子ユニット230に隣接する他方の格子ユニット230とは、互いの突出部231aと嵌合溝237とを嵌合してある。このように嵌合することによって、複数の格子ユニット230を配設することが容易となる。
【0047】
この変形例2の耐震壁210においても、架構100の内周に沿って配設する周辺フレーム20と、周辺フレーム20によって囲まれる空間を閉塞する態様で配設する複数の格子ユニット230と、複数のコッター40とを壁として構成することにより、耐震壁210としている。したがって、地震の発生に伴い、建造物に加わる水平荷重に抵抗することができる。
【0048】
また、この変形例2の耐震壁210においても、周辺フレーム20、格子ユニット230およびコッター40に木質材料を用いて耐震壁210を構成してある。木質材料は、鉄筋コンクリートに比して比強度が大きい。したがって、木質材料を用いた耐震壁210においては、鉄筋コンクリート製の耐震壁と比して同じ耐力を持たせた場合でも軽量化することができる。さらに、周辺フレーム20、格子ユニット230およびコッター40を、木質材料を用いて構成したため、それらのいずれかに異種材料を用いて構成した場合と比較して、各部材間に温度差が生じにくくなる。したがって、周辺フレーム20、格子ユニット230およびコッター40に結露が発生することを抑制できることになり、結露による各部材の腐食を防止することができる。それに加えて、周辺フレーム20、格子ユニット230およびコッター40を、木質材料を用いて構成したため、それらの解体時に、材料に応じた分別を行う必要がない。また、周辺フレーム20、格子ユニット230およびコッター40を、木質材料を用いて構成したため、見栄えがよく、意匠に優れる。さらに、周辺フレーム20、格子ユニット230およびコッター40を、木質材料を用いて構成したため、それらに錆が発生することがなく、これによる強度の低下がない。
【0049】
さらに、この変形例2の耐震壁210においても、周辺フレーム20、格子ユニット230およびコッター40に木質材料を用いて耐震壁210を構成してある。木質材料は、鉄筋コンクリートに比して熱伝導率が低い。したがって、木質材料を用いた耐震壁210においては、鉄筋コンクリート製の耐震壁に比して断熱効果を高めることができる。
【0050】
また、この変形例2の耐震壁210においても、複数の格子ユニット230を用いて耐震壁210を構成してある。したがって、個々の格子ユニット230を小型化できることになり、格子ユニット230を運搬する際の作業を容易にすることができる。そのため、パネル231と枠材232との接合作業は、現場で行うこともできるが、工場などの別の場所で行ってもよく、施工に伴う作業の自由度を高めることができる。
【0051】
しかも、周辺フレーム20の凹部22と、格子ユニット230における枠材232の凹部(図示せず)とが対向することで形成される挿通孔(図示せず)に、コッター40を嵌合するように構成してある。このため、例えば、地震の発生に伴い、周辺フレーム20と格子ユニット230とを、架構100の構面に沿って互いに異なる方向に移動させるような力が加わった場合にも、その力が図8において上下方向および左右方向であれば、コッター40がその力に抵抗することになり、周辺フレーム20および格子ユニット230の移動が阻止されることになる。したがって、建造物の耐震性を向上することができる。
【0052】
なお、この変形例2でも、パネル231と枠材232とを、接着剤のみで接合して格子ユニット230を構成しているが、必ずしも接着剤のみで接合しなくてもよく、実施の形態および変形例1と同様に、複数の補強ピンを併用して接合してもよい。さらに、この変形例2でも、変形例1と同様に、格子ユニット230に、複数の補強部材を併用して構成してもよい。この場合においても、パネル231と枠材232との接合に、複数の補強ピンを併用してもよい。
【0053】
また、この変形例2では、枠材232で、図9−1において、パネル231の上下の周縁を嵌合保持した格子ユニット230を例示しているが、必ずしも嵌合保持しなくてもよい。例えば、図11−1および図11−2に示すように、一対の枠材232’,233’の間に、パネル231’を挟み込むように構成した格子ユニット230’でもよい。この場合、一対の枠材232’,233’の凹部(図示せず)に対応するように、パネル231’に凹部を設ける必要がある。なお、図11−1においては、一対の枠材232’,233’の凹部を省略しているが、一対の枠材232’,233’の外周縁における所定の位置に凹部が設けてある。
【0054】
さらに、この変形例2では、枠材232で嵌合保持した場合に突出部231aおよび嵌合溝237を形成するように構成しているが、必ずしも突出部231aおよび嵌合溝237を設けなくてもよい。また、突出部231aおよび嵌合溝237を設けて嵌合する場合には、接触する部分に接着剤を適量塗布してもよい。さらに、突出部231aおよび嵌合溝237を設けて嵌合する場合には、複数の補強ピン(図示せず)を用いてもよい。複数の補強ピン(図示せず)は、それぞれ木質材料から成るもので、横断面が略円状の棒状部材である。この複数の補強ピン(図示せず)は、突出部231aと嵌合溝237との嵌合部に、図10において、上下方向に貫通する態様で構成することが望ましい。補強ピンに適用する木質材料としては、積層した複数の単板に熱硬化性樹脂を含浸し、熱圧した強化木が最適である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明にかかる耐震壁の実施の形態を示す正面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】図1に示した耐震壁の要部拡大斜視図である。
【図4】図1に示した耐震壁に適用する接合部材の一例を示す要部拡大斜視図である。
【図5】図1に示した耐震壁に適用する格子ユニットの一例を示す正面図である。
【図6】本発明にかかる耐震壁の変形例1を示す正面図である。
【図7】図6に示した耐震壁に適用する格子ユニットの一例を示す正面図である。
【図8】本発明にかかる耐震壁の変形例2を示す正面図である。
【図9−1】図8に示した耐震壁に適用する格子ユニットの正面図である。
【図9−2】図9−1におけるB−B線断面図である。
【図10】図8におけるC−C線断面図である。
【図11−1】図8に示した耐震壁に適用する格子ユニットの一例を正面図である。
【図11−2】図11−1におけるD−D線断面図である。
【符号の説明】
【0056】
10 耐震壁
20 周辺フレーム
21 開口部
22 凹部
25 挿通孔
26 対向面
30 格子ユニット
30’ 格子ユニット
31 パネル
31’ パネル
32 枠材
32’ 枠材
32a 開口部
32a’ 開口部
32b 凹部
35 挿通孔
36 対向面
40 コッター
40’ コッター
41 単板
41a 積層面
100 架構
101 柱
102 梁
110 耐震壁
130 格子ユニット
130’ 格子ユニット
131 パネル
132 枠材
132a 開口部
210 耐震壁
230 格子ユニット
230’ 格子ユニット
231 パネル
231’ パネル
231a 突出部
231a’ 突出部
232 枠材
232’,233’ 枠材
232a 開口部
232a’,233a’ 開口部
237 嵌合溝
237’ 嵌合溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の柱と梁とから成る架構内に構成する耐震壁において、
木質材料から成り、前記架構の内周に沿って配設する周辺フレームと、
それぞれ木質材料から成り、前記周辺フレームによって囲まれる空間を閉塞する態様で配設する複数の格子ユニットと、
それぞれ木質材料から成る複数の接合部材とを備え、
前記周辺フレームと前記格子ユニットとの互いに対向する部位にそれぞれ凹部を設け、前記凹部により形成される挿通孔に、前記接合部材を嵌合したこと
を特徴とする耐震壁。
【請求項2】
隣接する格子ユニットの互いに対向する部位にそれぞれ凹部を設け、前記凹部により形成される挿通孔に、前記接合部材をさらに嵌合したことを特徴とする請求項1に記載の耐震壁。
【請求項3】
前記接合部材は、積層した複数の単板に熱硬化性樹脂を含浸し、熱圧したものであり、前記接合部材を前記挿通孔に嵌合した場合に、前記複数の単板の積層面が、前記挿通孔を形成する部材の対向面と交差する方向となるように構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の耐震壁。
【請求項4】
前記接合部材を前記挿通孔に嵌合した場合に、前記複数の単板の積層面が、前記接合部材を嵌合する方向と直交するように構成したことを特徴とする請求項3に記載の耐震壁。
【請求項5】
前記接合部材を前記挿通孔に嵌合した場合に、前記複数の単板の繊維方向が、前記挿通孔を形成する部材の対向面と交差する方向となるように構成したことを特徴とする請求項3に記載の耐震壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【公開番号】特開2009−102940(P2009−102940A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277649(P2007−277649)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】