説明

耐震補強構造用セパレーター及び耐震補強工法

【課題】両端部の型枠を保持する部分を簡単に撤去して、耐震補強構造の美観を高めることができる耐震補強構造用セパレーターを提供する。
【解決手段】型枠5a、5bが係合される溝611を有するU字状部材61の一対と、両端側にそれぞれ設けられる一対のU字状部材61・61を着脱自在に連結する棒状部材62とを備え、U字状部材61の各々の内壁612に内側にへこむ凹部613を形成し、内壁612を貫通する棒状部材62の端部を凹部613内に配置し、凹部613内に配置するナット64により棒状部材62の端部とU字状部材61とを着脱自在に締結し、好適にはU字状部材61の各々の外壁615に、凹部613内のナットを操作可能な窓部616を設ける耐震補強構造用セパレーター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄筋コンクリート建築構造物等の既設構造物の耐震補強構造に用いる耐震補強構造用セパレーター及び耐震補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート建築構造物等の既設構造物の耐震補強構造として、例えば特許文献1のように、既設構造物の壁等に設けられている開口部の縁面に多数のアンカーボルトを植設し、外周面に多数のスタッドボルトを植設した鉄骨ブレース等の略枠状の耐震補強フレームを開口部内に設置し、耐震補強フレームの周縁部の両側外面に、耐震補強フレームと開口部縁面との間の隙間を塞ぐようにして型枠を配置し、その両型枠の開口部縁面側を耐震補強構造用のセパレーターで所定の間隔に保持すると共に、耐震補強フレームと開口部縁面と両型枠とで囲まれた固結材充填領域内に、アンカーボルト及びスタッドボルトを埋設するようにしてモルタル等の固結材を充填して固化する構成が知られている。
【0003】
このセパレーターは、略断面円弧状の金属帯板材からなり、その長手方向の複数箇所に貫通孔が形成されている。そして、金属帯板材の両端部に、金属帯板材の長手方向と略直角に屈曲することにより、型枠を挿入嵌合する略U字状の凹溝が一体的に形成されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−257781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記セパレーターは、強度を確保するために金属帯板材を略断面円弧状に加工する必要があるため、加工コストが高い。また、貫通孔を通して固結材を回り込ませるために、固結材が回り込みにくく、空気溜まりが生じて固結材充填による強度が低下する可能性もある。また、金属帯板材の断面円弧状の部分が固結材の注入圧で開いて変形する可能性もあり、斯様な変形が生ずると、両端部の凹溝も変形して固結材が漏れてしまう不具合も生ずる。また、例えば型枠として木型枠を用い、その木型枠を除去する場合等に、その両端部の凹溝の部分が残ってしまい、美観に劣るという問題もある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、低コストで、空気溜まりの発生を防止して固結材充填領域に固結材を確実に充填し、固結材充填による強度を確実に確保することができると共に、セパレーターの強度を高め、固結材の漏れを確実に防止でき、更には、両端部の型枠を保持する部分を簡単に撤去して、耐震補強構造の美観を高めることができる耐震補強構造用セパレーター及び耐震補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の耐震補強構造用セパレーターは、型枠が係合される溝を有するU字状部材の一対と、両端側にそれぞれ設けられる前記一対のU字状部材を着脱自在に連結する棒状部材とを備え、前記U字状部材の各々の内壁に内側にへこむ凹部を形成し、前記内壁を貫通する前記棒状部材の端部を前記凹部内に配置し、前記凹部内に配置する締結部材により前記棒状部材の端部と前記U字状部材とを着脱自在に締結することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、低コストで加工できると共に、固結材を回り込みやすくし、空気溜まりの発生を防止して固結材充填領域に固結材を確実に充填し、固結材充填による強度を確実に確保することができる。また、セパレーターの強度を高め、セパレーターの変形による固結材の漏れを確実に防止できる。また、型枠とU字状部材を撤去して仕上げる場合に、両端部の型枠を保持するU字状部材を、工具での切断等の手間を要する作業を必要とせずに簡単且つ綺麗に撤去して、耐震補強構造の表面仕上げの美観を高めることができる。また、撤去した締結部材とU字状部材は再利用することにより、部品コストを低減することも可能である。
【0009】
本発明の耐震補強構造用セパレーターは、前記U字状部材の各々の外壁に、前記凹部内の前記締結部材を操作可能な窓部を設けることを特徴とする。前記窓部には、周囲が囲まれた貫通穴或いは周囲の一部が欠落している切欠が含まれる。
【0010】
この構成によれば、特別な工具を用いずに簡単に締結部材を外すことができ、U字状部材を容易な作業で撤去することができる。
【0011】
また、本発明の既設構造物の耐震補強工法は、既設構造物の開口部内に略枠状の耐震補強フレームを配置する工程と、前記耐震補強フレームの周縁部の両側外面に、前記開口部の縁面側を本発明の耐震補強構造用セパレーターに係合するようにして型枠を配置し、前記耐震補強フレームと前記開口部の縁面との間の隙間を前記型枠で閉塞する工程と、前記耐震補強フレームと前記開口部縁面と前記両側の型枠とで囲まれる固結材充填領域内に固結材を充填して固化する工程と、前記耐震補強構造用セパレーターの前記締結部材を取り外して前記一対のU字状部材を撤去する工程と、前記U字状部材の撤去跡に仕上材を充填する工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、U字状部材の撤去で表面仕上げが美観に優れる耐震補強構造を得ることができると共に、U字状部材の撤去跡の美観をも簡単な作業で高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の耐震補強構造用セパレーター或いは既設構造物の耐震補強工法では、低コストで加工できると共に、固結材を回り込みやすくし、空気溜まりの発生を防止して固結材充填領域に固結材を確実に充填し、固結材充填による強度を確実に確保することができる。また、セパレーターの強度を高め、セパレーターの変形による固結材の漏れを確実に防止できる。また、木型枠等の型枠とU字状部材を撤去して、U字状部材の撤去跡を仕上材を充填して仕上げる場合や、仕上げの充填や表面に化粧板材を施さない場合等に、両端部の型枠を保持するU字状部材を、工具での切断等の手間を要する作業を必要とせずに簡単且つ綺麗に撤去して、耐震補強構造の表面仕上げの美観を高めることができる。また、撤去した締結部材とU字状部材は再利用することにより、部品コストを低減することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は本発明による実施形態の耐震補強構造用セパレーターを用いた既設構構造物の耐震補強構造の正面図、同図(b)は(a)におけるB−B断面図。
【図2】図1(a)におけるA−A拡大断面図。
【図3】図2の一部の分解説明図。
【図4】(a)は実施形態の耐震補強構造用セパレーターの斜視図、(b)はその一部の分解説明図。
【図5】(a)は実施形態の耐震補強構造用セパレーターの正面図、(b)はその縦断面図、(c)はその側面図、(d)は棒状部材の正面図。
【図6】実施形態における既設構築物の耐震補強構造の施工手順で開口部を示す説明図。
【図7】実施形態における既設構築物の耐震補強構造の施工手順で開口部にアンカーボルトを設けた状態を示す説明図。
【図8】実施形態における既設構築物の耐震補強構造の施工手順で開口部に耐震補強フレームを配置した状態を示す説明図。
【図9】実施形態における既設構築物の耐震補強構造の施工手順でスパイラル筋を設けた状態を示す説明図。
【図10】(a)〜(d)は実施形態における既設構造物の耐震補強構造の施工手順を示す説明図。
【図11】(a)及び(b)は型枠とU字状部材を撤去する施工手順を示す説明図。
【図12】型枠とU字状部材を撤去した状態における耐震補強構造の一部を示す斜視説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態の耐震補強構造用セパレーター、既設構造物の耐震補強構造及び耐震補強工法〕
本発明による実施形態の耐震補強構造用セパレーター、既設構造物の耐震補強構造及び耐震補強工法について説明する。図1(a)は実施形態の耐震補強構造用セパレーターを用いた既設構構造物の耐震補強構造の正面図、同図(b)は(a)におけるB−B断面図、図2は図1(a)におけるA−A拡大断面図。図3は図2の一部の分解説明図である。
【0016】
本実施形態における既設構造物の耐震補強構造は、図1〜図3に示すように、鉄筋コンクリート製構造物等の既設構造物における外壁等の躯体1に形成された開口部1aの縁面に設けられるアンカーボルト2と、開口部1a内に設置される鉄骨ブレース等の略枠状の耐震補強フレーム4と、耐震補強フレーム4の外周面に設けられるスタッドボルト3と、耐震補強フレーム4の周縁部の両側外面に配置され、耐震補強フレーム4と開口部1aの縁面との間の隙間を閉塞する型枠5a、5bと、両側の型枠5a、5bの開口部1aの縁面側を所定の間隔に保持する耐震補強構造用のセパレーター6と、耐震補強フレーム4と開口部1aの縁面と両側の型枠5a、5bとで囲まれる固結材充填領域S内に、アンカーボルト2とスタッドボルト3とを埋設するようにして充填され固化される無収縮モルタル等の固結材gとを備える。図中、7は耐震補強フレーム4と開口部1aの縁面との間の隙間において、アンカーボルト2及びスタッドボルト3に絡めて設けられるスパイラル筋で、スパイラル筋7は必要に応じて設けられる。
【0017】
アンカーボルト2は、開口部1aの縁面から突出するようにして前記縁面に多数植設されている。また、スタッドボルト3は、耐震補強フレーム4の外周面から突出するようにして前記外周面に多数植設されている。
【0018】
耐震補強フレーム4は、略方形のフレーム本体4aと、その内部に溶接等で取付けた複数本の補強用の筋交い4bとから構成され、フレーム本体4a及び筋交い4bは例えば図2のH型鋼等で形成される。フレーム本体4aをH型鋼で構成する場合、外周側の片のうち固結材充填作業等の作業側となる片の一部は予め工場等で切除しておくとよく、図2の例では作業側となることが多い既設構造物の屋内側の一方の片を切除したものが用いられている。これにより、耐震補強フレーム4と開口部1aの縁面との間の隙間に対する開放部分を大きく確保し、後述する固結材gの充填作業やスパイラル筋7の装填作業等を容易且つ迅速に行うことが可能となる。
【0019】
型枠5a、5bは、耐震補強フレーム4と開口部1aの縁面との間の隙間の内側と外側とにそれぞれ設けられ、本例では木製の型枠(木型枠)である。図2の例では、耐震補強フレーム4を建物の外側から建て込むことを想定した耐震補強フレーム4の形状であるため、耐震補強フレーム4と開口部1aの縁面との間の隙間に対する開放部分が作業側である屋内側で大きくなることから、屋内側の型枠5aは屋外側の型枠5bよりも幅広に形成されている。
【0020】
セパレーター6は、図4及び図5に示すように、型枠5a、5bの厚みに対応し、型枠5a、5bがそれぞれ挿入して係合される溝611を有するU字状部材61の一対と、両端側にそれぞれ設けられる一対のU字状部材61・61を着脱自在に連結する棒状部材62とを備える。棒状部材62は、好適には直径を5mm〜10mmとする略円柱状の丸棒材であり、その両端部にはそれぞれ螺子部621・621が形成され、螺子部621・621には溝611の向きを揃えるようにしてU字状部材61が螺着されている。尚、棒状部材62は、略円柱状に限定されず、例えば略楕円柱状、或いは断面視三角形、四角形、六角形等の略多角柱状とすることも可能である。
【0021】
U字状部材61の各々の内壁612には、内側に截頭円錐形にへこんで形成されている凹部613が設けられており、凹部613の貫通孔614を貫通するようにして棒状部材62の端部が内壁612を貫通して配置され、棒状部材62の端部にある螺子部621が凹部613内に配置され、溝611内に突出しないようになっている。螺子部621には、凹部613の底部を挟むようにして内側のナット63と凹部613内に収納して配置される締結部材に相当する外側のナット64が螺合されており、U字状部材61は、ナット63、64の締め付けで棒状部材62の端部である螺子部621の所定位置に着脱自在に締着されている。また、U字状部材61の各々の外壁615に、凹部613内の締結部材である外側のナット64を操作可能な窓部616が設けられている。窓部616は、周囲が囲まれた貫通穴或いは周囲の一部が欠落している切欠等とすることが可能であるが、本例では貫通穴になっている。
【0022】
セパレーター6で所定の間隔に保持された各型枠5a、5bの他端側や中央は、耐震補強フレーム4の周縁部外側面に当接配置された型枠把持部材8で把持される。本例の型枠把持部材8はねじタイプであり、引掛部81を耐震補強フレーム4に引っ掛け、ねじ式の把持部82で外側から型枠5a、5bを把持するようになっている。
【0023】
型枠5aの下部の左右方向中央部には、図1に示すように固結材充填領域S内にモルタル等の固結材gを注入充填するための注入口9が設けられ、開口部1aの左右両側部に位置する型枠5aの上下方向中央部には予備注入口9aが、また型枠5aの上部の左右方向中央部には予備注入口9bがそれぞれ設けられている。各注入口9、予備注入口9a・9bには、図示省略する注入ホースを接続することによって固結材充填領域S内に固結材gを注入する構成であるが、注入口9、予備注入口9a・9bの配置位置や、それに対する注入ホースの接続構造等は適宜である。
【0024】
型枠5aの最上部の両側角部には、図1に示すように空気抜き孔11が設けられ、その空気抜き孔11には図示省略する抜気ホースを挿通することによって固結材充填領域S内に固結材gを注入する際に固結材充填領域S内に残留する空気を排出させるようになっている。空気抜き孔11の配置位置や、それに対する抜気ホースの接続構造も適宜である。また、各型枠5a、5bの外面と開口部1aの縁面との角部には、必要に応じてシール専用モルタル又はエポキシ樹脂等のシール部材13を設けるとよい。
【0025】
次に、耐震補強工法を施工する場合の具体的な手順の一例を説明する。先ず、図6に示すように耐震補強すべき鉄筋コンクリート製建築構造物等の既設構築物における外壁等の躯体1に形成した開口部1aの縁面をピック等で目荒らしした後、図7に示すように開口部1aの縁面にアンカーボルト2を開口部1aの周方向に所定のピッチで植設する。その植設方法は適宜であるが、例えば開口部1aの縁面にアンカーボルト2の挿入孔を穿孔した後、挿入孔内に接着系カプセル等を挿入し、そのカプセルをアンカーボルト2で破壊すると共にアンカーボルト2で接着剤を攪拌混合して反応させながら固定すればよい。
【0026】
尚、開口部1aの縁面には、必要に応じてフレーム仮止め用のアンカー(不図示)等を打設すると共に、開口部1aの縁面を適宜の手段で清掃した後、その表面にシール部材13との密着強度の確保および耐震補強フレーム4と開口部1aの縁面との間に充填される固結材gの品質を確保するためのプライマーを噴霧器等で塗布しておくとよい。
【0027】
次いで、開口部1a内に図8に示すように耐震補強フレーム4を収容配置する。耐震補強フレーム4は、予め工場等で開口部1aの大きさに合わせて所定形状に形成すると共に、耐震補強フレーム4の外周面にスタッドボルト3を所定ピッチで溶接等で固着しておく。また、耐震補強フレーム4は、耐震補強すべき躯体1の開口部1aの縁面との間に固結材gの固結材充填領域Sが充分に確保できるように開口部1aの縁面より一回り小さく形成する。尚、耐震補強フレーム4は図8に示すような、いわゆるK型ブレースのほか、D型ブレースなどと呼称されるもの、さらには耐震補強フレーム4に出入口通路を設置できるようにフレーム本体4aの下部の一部が切り欠かれている、いわゆるマンサード型等もあり、本発明はいずれの構成のものにも適用できる。
【0028】
開口部1a内に収容配置した耐震補強フレーム4は、フレーム仮止め用のアンカー(不図示)に溶接する等して所定の位置に固定するもので、そのとき、開口部1aの縁面に植設したアンカーボルト2と、耐震補強フレーム4の外周面に植設したスタッドボルト3とは、図8のように互いに交互にかみ合うように配置される。そして、耐震補強フレーム4と開口部1aの縁面との間には、必要に応じて図9、図10(a)に示すようにスパイラル筋7等を配筋するもので、その際、スパイラル筋7はアンカーボルト2とスタッドボルト3に図に省略した針金等で結束するのが望ましい。
【0029】
次いで、図10(b)、(c)のように、耐震補強フレーム4と開口部1aとの間の隙間において、開口部1aの縁面にセパレーター6を設けると共に、セパレーター6の溝611に挿入係合し、且つ、耐震補強フレーム4の周縁部の両側外面に、耐震補強フレーム4と開口部1aの縁面との間の隙間を塞ぐようにして、型枠5a、5bを配置する。型枠5a、5bの開口部1aの縁面側の端部は、セパレーター6により所定の間隔に保持され、開口部1aの縁面に配置固定される。尚、型枠5a、5bを溝611に挿入する際に、棒状部材62の端部とナット64は凹部613内に配置されているため、干渉することはない。また、各型枠5a、5bの幅は、耐震補強フレーム4と開口部1aの縁面との間隔よりもやや広めに形成しておき、各型枠5a、5bの一部が耐震補強フレーム4をラップするように構成することが望ましい。
【0030】
次に、図10(c)に示すように、セパレーター6で所定の間隔に保持された状態で開口部1aの縁面に配置固定された各型枠5a、5bの耐震補強フレーム4側について、耐震補強フレーム4の外側面にラップさせて型枠把持部材8で固定する。型枠把持部材8は、引掛部81を耐震補強フレーム4に引っ掛け、ねじ式の把持部82で外側から型枠5a、5bを押圧して把持する。尚、型枠把持部材8もセパレーター6と同様に各型枠5a、5bの長手方向に複数個に設置するのが望ましい。
【0031】
その後、図10(d)に示すように、注入口9に注入ホース10を接続し、開口部1aの上部角部等に抜気ホースを設置した後、各型枠5a、5bの外面と開口部1aの縁面との角部に、必要に応じてシール専用モルタル又はエポキシ樹脂等のシール部材13を設けて密封する。そして、注入ホース10からモルタル等の固結材gを耐震補強フレーム4と開口部1aの縁面との間の両型枠5a、5bで閉塞された固結材充填領域Sに注入充填し、固結材充填領域S内にアンカーボルト2とスタットボルト3を埋設するようにして、固結材gを固化させる。更に、この固結材gは、U字状部材61の内壁612やその一部である凹部613の内側面に亘って接触すると共に、U字状部材61・61を連結する棒状部材62をほぼ全長に亘って埋設するようにして、固化される。尚、固結材充填領域Sに固結材gを注入する際、固結材充填領域S内に残留する空気は前述の抜気ホースから排出されるため、固結材充填領域Sの上部に空気溜まり等が生じるのが防止される。
【0032】
固結材9が所定強度に達するまで固化したなら、次いで、図11(a)に示すように、把持部82のねじを弛めて引掛部81を耐震補強フレーム4から取り外して型枠保持部材8を撤去すると共に、型枠5a、5bを溝611への係合から抜き出して撤去する。更に、図11(b)に示すように、U字状部材61の窓部616から工具を入れて凹部613内の締結部材であるナット64の螺合を弛めて螺子部621から取り外し、U字状部材61も螺子部621も取り外して、棒状部材62から両端部のU字状部材61・61を撤去する。
【0033】
U字状部材61を撤去した固結材gには、図12に示すように、U字状部材61の撤去跡g1である窪みがへこんで残るので、この撤去跡g1にはモルタル等の仕上材を充填してコテ仕上げする。また、撤去したU字状部材61とナット64は、再利用することが可能である。尚、撤去跡g1への仕上材の充填や表面に化粧板材を敷設することを行わずに、撤去跡g1をそのままの状態にすることも可能である。
【0034】
本実施形態では、セパレーター6を低コストで加工できると共に、固結材gを回り込みやすくし、空気溜まりの発生を防止して固結材充填領域Sに固結材gを確実に充填し、固結材充填による強度を確実に確保することができる。また、セパレーター6の強度を高め、セパレーター6の変形による固結材gの漏れを確実に防止できる。また、型枠5a、5bとU字状部材61を撤去して仕上げる場合に、両端部の型枠5a、5bを保持するU字状部材61を、工具での切断等の手間を要する作業を必要とせずに簡単且つ綺麗に撤去して、耐震補強構造の表面仕上げの美観を高めることができる。また、撤去した締結部材であるナット64とU字状部材61は再利用することにより、部品コストを低減することも可能である。
【0035】
また、窓部616により、特別な工具を用いずに簡単にナット64を外すことができ、U字状部材61を容易な作業で撤去することができる。また、仕上材の充填により、U字状部材61の撤去跡g1の美観をも簡単な作業で高めることができる。
【0036】
尚、本明細書開示の発明には、各発明や実施形態等の構成の他に、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものも含まれる。また、上記実施形態では、耐震補強フレーム4を用いる耐震補強構造を例としたが、本発明の耐震補強構造用セパレーターは、耐震補強フレーム4を用いない耐震補強構造にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、既設構造物の耐震補強に利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…躯体 1a…開口部 2…アンカーボルト 3…スタッドボルト 4…耐震補強フレーム 4a…フレーム本体 4b…筋交い 5a、5b…型枠 6…セパレーター 61…U字状部材 611…溝 612…内壁 613…凹部 614…貫通孔 615…外壁 616…窓部 62…棒状部材 621…螺子部 63、64…ナット 7…スパイラル筋 8…型枠把持部材 81…引掛部 82…把持部 9…注入口 9a…予備注入口 9b…予備注入口 10…注入ホース 11…空気抜き孔 13…シール部材 S…固結材充填領域 g…固結材 g1…撤去跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠が係合される溝を有するU字状部材の一対と、
両端側にそれぞれ設けられる前記一対のU字状部材を着脱自在に連結する棒状部材とを備え、
前記U字状部材の各々の内壁に内側にへこむ凹部を形成し、
前記内壁を貫通する前記棒状部材の端部を前記凹部内に配置し、
前記凹部内に配置する締結部材により前記棒状部材の端部と前記U字状部材とを着脱自在に締結することを特徴とする耐震補強構造用セパレーター。
【請求項2】
前記U字状部材の各々の外壁に、前記凹部内の前記締結部材を操作可能な窓部を設けることを特徴とする請求項1記載の耐震補強構造用セパレーター。
【請求項3】
既設構造物の開口部内に略枠状の耐震補強フレームを配置する工程と、
前記耐震補強フレームの周縁部の両側外面に、前記開口部の縁面側を請求項1又は2記載の耐震補強構造用セパレーターに係合するようにして型枠を配置し、前記耐震補強フレームと前記開口部の縁面との間の隙間を前記型枠で閉塞する工程と、
前記耐震補強フレームと前記開口部縁面と前記両側の型枠とで囲まれる固結材充填領域内に固結材を充填して固化する工程と、
前記耐震補強構造用セパレーターの前記締結部材を取り外して前記一対のU字状部材を撤去する工程と、
前記U字状部材の撤去跡に仕上材を充填する工程と、
を備えることを特徴とする既設構造物の耐震補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−246883(P2011−246883A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118070(P2010−118070)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【Fターム(参考)】