説明

耐震補強窓

【課題】木造建築物の窓を構成する窓枠に補強部材を取り付けることによって、窓を取り付ける開口部に接する軸組部を補強し、地震の際の水平応力に耐え得るようにした耐震補強窓を提供すること。
【解決手段】4つの辺を有し、四角形を形成する窓1において、窓枠2の四隅に耐震補強部材3を、隣接する耐震補強部材3間に耐震補強部材中間プレート4を、それぞれ窓枠2に接合して一体に配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物の窓を構成する窓枠に補強部材を取り付けることによって、窓を取り付ける開口部に接する軸組部を補強し、地震の際の水平応力に耐え得るようにした耐震補強窓に関するものである。
【背景技術】
【0002】
阪神淡路大震災以降、地震対策が特に重要視され、各種提案がなされ、実用化されている。
例えば、戸建住宅に多い木造建築物では、耐震性を高めるため、建築基準法で総壁量の最低値が定められているが、一般的に戸建住宅の間取りの多くは、南面に採光のための大面積の開口部(掃き出し窓など)を多くとる傾向があり、一方、北面においては、熱損失あるいは上記総壁量の確保のために、小窓などの小面積の開口部を形成することが多い。これらの戸建住宅では、建物の重心と剛心の位置が大きく離れており、また、偏心していることが多い。このような建物では、地震の際の水平応力により建物にねじれモーメントが発生し、最悪の場合、建物の倒壊に繋がる。
これに対処するため、近年、築年数を経た古い木造建築物では、耐震補強が行われている。この耐震補強は、一般的には、木造建築物の構造躯体(土台、柱、梁)の接合部に補強金物を取り付けるものである。
【0003】
ところで、木造建築物の窓を取り付ける開口部には、外観上の制約から補強金物などを取り付けることが困難なため、補強金物などは、柱と桁のように水平方向と垂直方向の交わる部分に取り付けられる(例えば、特許文献1参照)。このように、耐震補強を行う場合、壁の内部などの目立たない部位(建物の躯体)に多数の筋交いや補強金物などを施工する必要があるため、耐震性を高めるための改修などのリフォームを行う場合には、外壁を剥がさなければならないケースが多く、非常に工数が掛かるという問題があった。
ちなみに、木造建築物の窓を取り付ける開口部の面内に軸組部を補強するための補強プレートを取り付ける構造(特許文献2参照)が提案されているが、この構造では、窓の内側(躯体の面内)に施工する必要があり、窓枠の納まりが難しくなり、特に開口部の断熱性を阻害する要因となるという問題があった。
また、木造建築物の窓を取り付ける開口部を直接補強する構造として、本件出願人が先に提案した、開口部に木質耐震開口フレームを取り付けることにより、従来と同様の採光性を確保しつつ軸組部を補強するようにしたものがある(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平8−226174号公報
【特許文献2】特開平6−288146号公報
【特許文献3】特開2004−285817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、本件出願人が先に提案した、木造建築物の窓を取り付ける開口部を直接補強する構造をさらに改良し、木造建築物の窓を構成する窓枠に補強部材を取り付けることによって、窓を取り付ける開口部に接する軸組部を補強し、地震の際の水平応力に耐え得るようにしたもので、より具体的には、以下の課題を解決することを目的とする。
(1)窓に剛性を持たせることにより、構造部材と同様な機能を付加することで壁量に寄与させるとともに、建物の重心と剛心の位置を近接させ、地震の際に建物の倒壊を防止する要素の1つである偏心を小さくし、建物に発生するねじれモーメントを抑制すること。
(2)剛性を向上させた窓により、大地震の際に開口部の空間が確保され、逃げ道を確保に繋げること。
(3)耐震性を高めるための改修などのリフォームを行う場合に、外壁を剥がすことなく、少ない工数で簡易に施工を行うことができること。
(4)窓枠の納まりがよく、特に開口部の断熱性の阻害要因とならないこと。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の耐震補強窓は、本件出願人が先に提案した、木造建築物の窓を取り付ける開口部を直接補強する構造の考え方に基づき、木造建築物の窓を構成する窓枠自体に剛性を付与することにより、上記課題を解決するようにしたものである。
より具体的には、本発明の耐震補強窓は、4つの辺を有し、四角形を形成する窓において、窓枠の四隅に耐震補強部材を、隣接する耐震補強部材間に耐震補強部材中間プレートを、それぞれ窓枠に接合して一体に配設してなることを特徴とする。
【0006】
この場合において、耐震補強部材を、鉄等の金属、強化プラスチック等の剛性及び靭性の高い材料から構成することができる。
【0007】
また、耐震補強部材を、断面L形の材料からなり、かつ窓枠の外部形状に沿った形状に形成することができる。
【0008】
また、窓枠の内部に補強材を配設し、該補強材に、耐震補強部材及び耐震補強部材中間プレートを、窓枠を介して接合することができる。
【0009】
また、窓枠を、補強材を配設するための中空形状を有するように構成することができる。
【0010】
また、補強材を、角パイプ材からなり、かつ窓枠の内部形状に沿った形状に形成することができる。
【0011】
また、耐震補強部材と耐震補強部材中間プレートとを、耐震補強部材連結プレートにより接合して一体に配設することができる。
【0012】
また、耐震補強窓を、耐震補強部材を介して、木造建築物の開口部の軸組部に、ビス、釘等の固定金具によって固定することができる。
【0013】
また、窓枠に、合成樹脂製のものを用いることができる。
【0014】
また、本発明の耐震補強窓は、外開き窓、引き違い窓、ドレーキップ窓、はめ殺し窓、両開き窓、縦すべりだし窓、横すべり出し窓、出窓、上下スライド窓、ドア及びそれらを組み合わせた連窓の窓のいずれにも適用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐震補強窓は、合成樹脂製などの窓枠の四隅並びに四辺の外周部位に、剛性の高い材料からなる耐震補強部材及び耐震補強部材中間プレート、さらに必要に応じて、耐震補強部材と耐震補強部材中間プレートとを接合する耐震補強部材連結プレートを、窓枠、より具体的には、柱からの水平応力を伝達するために窓枠の内部に配設した角パイプ材などからなる補強材と接合することにより、木造建築物の窓を構成する窓枠自体に剛性を付与したもので、これにより、地震の際に柱から水平応力が伝達される窓に水平応力を抑制する耐震機能を付加するようにし、地震の際の水平応力に耐え得るようにし、上記(1)〜(4)の課題を解決することができるようにしたものである。
また、窓枠に接合される耐震補強部材等の部材は、窓枠の形状に沿った形状とすることで通常の窓枠と同様に施工することが可能である。
このように、本発明の耐震補強窓は、地震の際に構造躯体の変形の抑制機能を補うための耐震補強部材及び耐震補強部材中間プレート、さらに必要に応じて、耐震補強部材と耐震補強部材中間プレートとを接合する耐震補強部材連結プレートを窓枠に接合することを特徴とし、窓の四隅に接合された耐震補強部材により、木造建築物の窓を取り付ける開口部の軸組部の変形を抑制し、窓の四辺に接合された耐震補強部材中間プレートにより、柱部の曲げ応力及び挫屈を防止するものであり、開口部の形状を確実に維持して開口部を避難経路として確保することに繋げることができる。
また、本発明の耐震補強窓を既設の木造建築物の耐震性を高めるための改修などのリフォームに適用することにより、開口部の耐震補強とともに、断熱改修を兼ねることができる。
そして、耐震補強部材を一体としながらも、外観及び内観的にも通常の窓と同様の納まり性を確保することができ、見た目にも違和感が発生しない。
また、本発明の耐震補強窓を施工する場合には、外壁をすべて剥がす必要がなく、窓あるいは窓枠の交換のみで効果を発揮し、ごく一般的な窓枠の施工方法で構造部材化できるため、施工に掛かる工数を軽減するとともに施工に掛かる費用についても抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の耐震補強窓の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
図1〜図7に、本発明の耐震補強窓の一実施例を示す。
この耐震補強窓は、木造建築物の4つの辺を有し、四角形を形成する窓1を構成する窓枠2に適用することによって、窓1を取り付ける開口部6に接する軸組部8を補強し、地震の際の水平応力に耐え得るようにしたもので、窓1において、窓枠2の四隅に耐震補強部材3を、隣接する耐震補強部材3間に耐震補強部材中間プレート4を、さらに、必要に応じて、耐震補強部材3と耐震補強部材中間プレート4とを、耐震補強部材連結プレート7により接合して、それぞれ窓枠2に接合して一体に配設するようにしたものである。
そして、このように補強部材を、耐震補強部材3、耐震補強部材中間プレート4及び耐震補強部材連結プレート7に分割して構成することにより、製作及び輸送に適するものとなるとともに、施工時の作業性も良好となる。
【0017】
この場合において、この耐震補強窓は、外開き窓、引き違い窓、ドレーキップ窓、はめ殺し窓、両開き窓、縦すべりだし窓、横すべり出し窓、出窓、上下スライド窓、ドア及びそれらを組み合わせた連窓の窓のいずれにも適用することができる。
【0018】
また、窓枠2は、合成樹脂製のものを用いることができるが、これに限定されず、アルミニウム等の金属製のものを用いることもできる。
合成樹脂製の窓枠2は、材料である塩化ビニル樹脂等の合成樹脂を押出成形により成形した異形押出型材からなり、具体的には、異形押出型材と異形押出型材とを溶接することにより中空の四角形状に形成し、内部に補強材5を配設することができるようにしている。
この窓枠2は、成形後、窓1に必要な部品を取り付け、複層ガラス等を組み込んで使用するものである。
【0019】
窓枠2の内部に配設する補強材5は、窓枠2の内部形状に合った角パイプ材を選択するが、材質は、汎用的な一般構造用圧延鋼材のほか、防錆の観点からステンレス鋼を使用するのが好ましい。
この補強材5は、窓枠2自体を補強することに加え、補強材5に、耐震補強部材3及び耐震補強部材中間プレート4、さらに、耐震補強部材連結プレート7を、窓枠2を介して接合することにより、窓1全体を一層強固に一体化することができる。
なお、この補強材5を配設することにより、耐震補強部材連結プレート7を省略しても、耐震補強部材3と耐震補強部材中間プレート4の一体性を確保することができる。
【0020】
耐震補強部材3及び耐震補強部材中間プレート4、さらに、耐震補強部材連結プレート7は、鉄、鋳鉄、ステンレス鋼、炭素鋼、工具鋼、鋳造鋼鉄、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属、強化プラスチック等の剛性及び靭性の高い材料を用いて製作され、強度とともに、各材料の特徴、使用する部位、コストにより使い分けられる。
これら耐震補強部材3、耐震補強部材中間プレート4及び耐震補強部材連結プレート7の厚みtは、特に限定されるものではないが、3.0〜6.0mm程度のものが好ましい。
耐震補強部材3及び耐震補強部材中間プレート4は、耐震補強窓の施工を従来と同じ施工方法で実施できるようにするため、特に限定されるものではないが、断面L形の材料を用い、窓枠2を構成する型材の外部形状に沿った形状に形成し、一方、耐震補強部材連結プレート7は、特に限定されるものではないが、平板状の材料を用いた。
さらに、耐震補強部材3、耐震補強部材中間プレート4及び耐震補強部材連結プレート7には、適当な間隔で、ビス、釘等の固定金具9により施工するための施工用の孔を設けている。
ここで、耐震補強部材3は、各辺の長さL1、L2を、窓枠2の水平方向(窓の幅方向)の寸法W及び鉛直方向(窓の高さ方向)の寸法Hの1/2〜1/5の間でその長さを2分した長さ、また、幅W1、W2を、20〜80mm程度に形成するが、これらの寸法は、開口部6の軸組部8の形状等に合わせて適宜設定することができる(耐震補強部材中間プレート4の場合も同様)。
また、耐震補強部材中間プレート4及び耐震補強部材連結プレート7の辺の長さL4、L7等は、耐震補強部材3の長さに合わせて形成し、重ね合わせる部分の寸法を考慮して、全体として、窓枠2の水平方向(窓の幅方向)の寸法W及び垂直方向(窓の高さ方向)の寸法Hをカバーできるように設定する。
この場合、耐震補強部材3の各辺の長さL1、L2と、耐震補強部材中間プレート4の辺の長さL4を加えたものが、窓枠2の水平方向(窓の幅方向)の寸法W及び鉛直方向(窓の高さ方向)の寸法Hに略相当するようにそれぞれの長さを設定することが好ましい。
【0021】
この耐震補強窓の窓枠2の施工は、耐震補強部材3及び耐震補強部材中間プレート4、さらには、耐震補強部材連結プレート7を介し、ビス、釘等の固定金具9で開口部6の軸組部8に直接固定される。
ビス、釘等の固定金具9には、φ3.0〜φ6.0の鉄あるいはステンレス鋼製のものを用いることができる。
【0022】
本発明の耐震補強窓は、建築基準法施行令第46条第4項表1の(ハ)に基づく、木造軸組耐力壁の試験方法と評価方法により評価される面内せん断試験により評価を得ることができ、開口部でありながら壁倍率0.5以上を得ることができる。この面内せん断試験は、窓のサイズが、窓枠2の水平方向(窓の幅方向)の寸法Wが1695mm、鉛直方向(窓の高さ方向)の寸法Hが1870mmの外開きとはめ殺し窓の連窓を軸組部に施工したものについて行った。
【0023】
以上、本発明の耐震補強窓について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の耐震補強窓は、木造建築物の窓を構成する窓枠に補強部材を取り付けることによって、窓を取り付ける開口部に接する軸組部を補強し、地震の際の水平応力に耐え得るようにしたことから、新設の木造建築物の用途のほか、既設の木造建築物の耐震性を高めるための改修などのリフォームの用途にも断熱改修を兼ねて好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の耐震補強窓の一実施例を示す外観図である。
【図2】同要部の断面斜視図である。
【図3】耐震補強部材、耐震補強部材中間プレート及び耐震補強部材連結プレートを示す説明図である。
【図4】窓枠の内部に配設する補強材を示す説明図である。
【図5】耐震補強窓の木造建築物の開口部への施工方法を示す説明図である。
【図6】耐震補強窓を木造建築物の開口部へ取り付けた状態を示す外観説明図である。
【図7】木造建築物の開口部へ施工後の耐震補強窓の納まり状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 窓
2 窓枠
3 耐震補強部材
4 耐震補強部材中間プレート
5 補強材
6 開口部
7 耐震補強部材連結プレート
8 軸組部
9 固定金具


【特許請求の範囲】
【請求項1】
4つの辺を有し、四角形を形成する窓(1)において、窓枠(2)の四隅に耐震補強部材(3)を、隣接する耐震補強部材(3)間に耐震補強部材中間プレート(4)を、それぞれ窓枠(2)に接合して一体に配設してなることを特徴とする耐震補強窓。
【請求項2】
耐震補強部材(3)が、鉄等の金属、強化プラスチック等の剛性及び靭性の高い材料からなることを特徴とする請求項1記載の耐震補強窓。
【請求項3】
耐震補強部材(3)が、断面L形の材料からなり、かつ窓枠(2)の外部形状に沿った形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の耐震補強窓。
【請求項4】
窓枠(2)の内部に補強材(5)を配設し、該補強材(5)に、耐震補強部材(3)及び耐震補強部材中間プレート(4)を、窓枠(2)を介して接合してなることを特徴とする請求項1、2又は3記載の耐震補強窓。
【請求項5】
窓枠(2)が、補強材(5)を配設するための中空形状を有することを特徴とする請求項4記載の耐震補強窓。
【請求項6】
補強材(5)が、角パイプ材からなり、かつ窓枠(2)の内部形状に沿った形状であることを特徴とする請求項4又は5記載の耐震補強窓。
【請求項7】
耐震補強部材(3)と耐震補強部材中間プレート(4)とを、耐震補強部材連結プレート(7)により接合して一体に配設してなることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の耐震補強窓。
【請求項8】
耐震補強窓が、耐震補強部材(3、4、7)を介して、木造建築物の開口部(6)の軸組部(8)に、ビス、釘等の固定金具(9)によって固定されることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の耐震補強窓。
【請求項9】
窓枠(2)が、合成樹脂製のものからなることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の耐震補強窓。
【請求項10】
窓(1)が、外開き窓、引き違い窓、ドレーキップ窓、はめ殺し窓、両開き窓、縦すべりだし窓、横すべり出し窓、出窓、上下スライド窓、ドア及びそれらを組み合わせた連窓の窓のいずれかからなることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の耐震補強窓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−224582(P2007−224582A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46319(P2006−46319)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(593053977)ジェイ建築システム株式会社 (13)
【Fターム(参考)】