説明

耐食性に優れたZn−Al系めっき鋼板およびその製造方法

【課題】Mg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板において、耐食性が顕著に改善されたものを提供する。
【解決手段】平均組成が質量%でAl:25〜75%、Si:1〜10%、Mg:0.5〜6%であり、必要に応じてさらにTi、Bの1種または2種を合計0.1%以下の範囲で含有し、残部Znおよび不可避的不純物であるZn−Al系めっき層を有するめっき鋼板であって、当該めっき層は、Znリッチ部、Alリッチ部およびSiリッチ部からなり、Znリッチ部にはMg濃度4.5質量%以上の領域があり、Alリッチ部およびSiリッチ部にはMg濃度4.5質量%以上の領域が観測されない組織状態を呈するものである耐食性に優れたZn−Al系めっき鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板であって、めっき層中のMgが、Siリッチ部ではなく、Znリッチ部に主として分布する特異なめっき層組織を有する高耐食性めっき鋼板、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Znめっき鋼板が有する犠牲防食作用と、Alめっき鋼板が有するめっき表面の高耐食性とをバランス良く兼ね備えためっき鋼板として、25〜75%のAlを含有するZn−Al系めっき鋼板が知られており、例えば溶融Zn−55%Al−1.5%Si合金めっき鋼板などが実用化されている。本明細書ではこのようなSiを含有するZn−Al系めっきを「Si含有Zn−Al系めっき」と呼んでいる。近年ではさらに高耐食性の要求が高まり、Si含有Zn−Al系めっきをベースに数%のMgを含有させた「Mg・Si含有Zn−Al系めっき」が検討され(特許文献1〜4など)、例えば溶融Zn−55%Al−1.5%Si−2%Mg合金めっき鋼板などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−104153号公報
【特許文献2】特開2000−328214号公報
【特許文献3】特開2002−322527号公報
【特許文献4】特開2001−115247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Mg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板は、Mgを含有しないものと比べ、平坦部(めっき表面)および切断端面の耐食性に向上が認められる。この種の溶融めっき鋼板のめっき層中において、Mgの大部分はMg−Si系金属間化合物(Mg2Siなど)として「Siリッチ部」に存在しており、その他、Zn−Mg系金属間化合物(Zn2Mgなど)も「Znリッチ部」に見られる。めっき層中のMgは、めっき層が腐食する際に保護性の高いMg含有Zn系腐食生成物を形成し、主としてこれによって耐食性が向上するものと考えられている。
【0005】
しかしながら、このようなMg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板においても、Mgを含有しないSi含有Zn−Al系めっき鋼板で問題となるような腐食が見られることがあり、耐食性向上効果は必ずしも十分とは言えない。また、溶融めっき浴中にMgを含有すると、めっき面の表面性状が劣化しやすいという問題もある。このようなことから、Mg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板はほとんど普及していないのが現状である。
【0006】
発明者らの検討によれば、Mg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板の耐食性改善効果が不十分となる原因として、Mgの大部分がSiリッチ部に存在していることが考えられる。Zn−Al系めっき鋼板ではめっき層中のZnリッチ部がAlリッチ部よりも選択的に腐食されやすい傾向を有することから、MgがZnリッチ部に少量しか分布していないことは、保護性の高いMg含有Zn系腐食生成物の形成に有利とは言えない。また、Mg2Si相自体は耐食性が良好でなく、Mg2Si相が多量に生成していることもめっき層の耐食性低下要因となっているものと考えられる。
【0007】
本発明はこのような現状に鑑み、Mg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板において、従来のものより耐食性に優れるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、平均組成が質量%でAl:25〜75%、Si:1〜10%、Mg:0.5〜6%であり、必要に応じてさらにTi、Bの1種または2種を合計0.1%以下の範囲で含有し、残部Znおよび不可避的不純物であるZn−Al系めっき層を有するめっき鋼板であって、当該めっき層は、Znリッチ部、Alリッチ部およびSiリッチ部からなり、Znリッチ部にはMg濃度4.5質量%以上の領域があり、Alリッチ部およびSiリッチ部にはMg濃度4.5質量%以上の領域が観測されない組織状態を呈する耐食性に優れたZn−Al系めっき鋼板によって達成される。鋼板片面当たりのめっき付着量は例えば30〜200g/m2である。
【0009】
このめっき鋼板の製造方法として、鋼板を基材として、下記めっき要件を満たすように、質量%でSi:1〜12%、Zn:0〜10%、残部Alおよび不可避的不純物からなる第1の溶融めっきを施して第1めっき層を形成させ、その上に質量%でAl:3〜22%、Mg:1〜10%、Si:0〜2%、Ti:0〜0.1%、B:0〜0.05%、残部Znおよび不可避的不純物からなる第2の溶融めっきを施して第2めっき層を形成させることにより重層めっき鋼板を製造し、その後、当該重層めっき鋼板を500〜650℃に加熱し、第2めっき層を溶融させて第1めっき層と反応させることにより第1めっき層中に新たに溶融したZnリッチ部を生成させ、第2の溶融めっきに由来するZnおよびMgがめっき層の厚み全域に分布したのち冷却する手法が提供される。
〔めっき要件〕
めっき層全体の平均組成においてAl、SiおよびMgの含有量が、質量%でAl:25〜75%、Si:1〜10%、Mg:0.5〜6%となるように、第1および第2の溶融めっきにおける浴組成およびめっき付着量をそれぞれ設定する。
【0010】
重層めっき鋼板の前記加熱において、例えば加熱温度を550〜650℃とし、加熱時間を均熱0〜5秒とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、めっき層中のMgがSiリッチ部ではなくZnリッチ部に主として存在するMg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板を工業的に製造することが可能になった。このようなめっき層組織を有するMg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板は、従来のめっき層組織を有するものと比べ耐食性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明例のMg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板におけるめっき層断面SEM写真。
【図2】図1に対応する領域におけるZnのEPMA面分析結果を示す画像。
【図3】図1に対応する領域におけるAlのEPMA面分析結果を示す画像。
【図4】図1に対応する領域におけるMgのEPMA面分析結果を示す画像。
【図5】図1に対応する領域におけるSiのEPMA面分析結果を示す画像。
【図6】図1に対応する領域におけるFeのEPMA面分析結果を示す画像。
【図7】1浴めっきにて製造された従来のSi含有Zn−Al系めっき鋼板およびMg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板についてのめっき層断面SEM写真およびEDX分析結果を示す図。
【図8】CCT150サイクル後のめっき層の断面写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
従来、55%前後のAlを含有するZn−Al系めっき鋼板は、他の一般的な溶融めっき鋼板と同様、基材鋼板を合金めっき浴に1回浸漬することによって製造されている。めっき浴への浸漬回数が1回であることから、本明細書ではこれを「1浴めっき」と呼ぶ。1浴めっきによりSi含有Zn−Al系めっきを行うと、めっき層はZnリッチ部、Alリッチ部およびSiリッチ部からなる組織を呈するものとなる。本明細書では、めっき層に含まれる金属元素のうち、質量%でZn含有量が最も高い部分を「Znリッチ部」、Al含有量が最も高い部分を「Alリッチ部」、Si含有量が最も高い部分を「Siリッチ部」と呼んでいる。Mg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板の場合も、めっき層はZnリッチ部、Alリッチ部およびSiリッチ部からなるものとなる。Mgリッチ部は形成されず、Mgは主としてSiリッチ部に金属間化合物として存在する。めっき後に加熱して拡散処理を行った場合でも、Siリッチ部に濃化したMgをめっき層中に拡散させることは困難であり、Znリッチ部にMgが濃化した金属組織を得ることはできない。
【0014】
本発明では、1浴めっきではなく、2浴めっき+拡散処理によって、MgがZnリッチ部に主として存在するめっき層組織を有するMg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板を得る。2浴めっきは、基材表面に第1の溶融めっきを施し、その上に別のめっき浴にて第2の溶融めっきを施すことによって、重層構造のめっき層を形成させるものである。第1の溶融めっきに使用するめっき浴を「第1めっき浴」、それにより形成されためっき層を「第1めっき層」と呼ぶ。また、第2の溶融めっきに使用するめっき浴を「第2めっき浴」、それにより形成された新たなめっき層の部分を「第2めっき層」と呼ぶ。めっき浴あるいはめっき層の組成における「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0015】
〔基材鋼板〕
めっき原板となる基材鋼板としては、従来一般的にZn系めっき鋼板、Al系めっき鋼板、Zn−Al系めっき鋼板などの溶融めっき鋼板の基材として使用されている各種鋼板が適用可能である。用途に応じて種々の鋼種が選択され、ステンレス鋼を適用することもできる。
【0016】
〔第1の溶融めっき〕
第1の溶融めっきは、質量%でSi:1〜12%、Zn:0〜10%、残部Alおよび不可避的不純物からなる「Al系めっき」とする。ただし、第1の溶融めっきにおける浴組成およびめっき付着量は、第1のめっき層と第2のめっき層からなる重層めっき層における平均組成が後述の範囲となるように設定する必要がある。
【0017】
第1の溶融めっきにおけるSiは、Al系めっき浴の液相線温度を低減する作用を有する。また、基材鋼板との界面に脆いFe−Al系反応層が厚く生成することを抑制し、薄いAl−Fe−Si系反応層を生成させる作用もある。ただし、めっき浴のSi含有量が12%を超えると共晶組成を過ぎて逆に液相線温度が上昇する領域に入りやすい。また、第1めっき浴にそのような多量のSiを含有させると第1めっき層/第2めっき層界面に多量のSi晶出相が形成して、拡散処理による組成の均一化を阻害する要因となり得る。このため、第1めっき浴のSi含有量は12%以下とする。
【0018】
第1めっき浴中には必要に応じてZnを含有させることができるが、あまりZn含有量が多いとめっき層全体の平均組成を後述の範囲に調整する上で、第2めっき浴中のZn含有量を低めに設定する必要が生じ、Mg含有量が相対的に高くなって第2の溶融めっき性を低下させる要因となる。このため、第1めっき浴にZnを含有させる場合は10%以下の範囲で行う。
【0019】
第1の溶融めっきにおけるSiとZnの残部は、Alおよび不可避的不純物である。不可避的不純物として2%以下の範囲でFeの混入が許容され、他の不純物元素は合計1%以下の範囲とすることが好ましい。第1の溶融めっきはAl系めっき鋼板の製造ラインをそのまま利用して実施することが可能である。
【0020】
〔第2の溶融めっき〕
第2の溶融めっきは、質量%でAl:3〜22%、Mg:1〜10%、Si:0〜2%、Ti:0〜0.1%、B:0〜0.05%、残部Znおよび不可避的不純物からなる「Zn−Al−Mg系めっき」とする。ただし、第2の溶融めっきにおける浴組成およびめっき付着量は、第1のめっき層と第2のめっき層からなる重層めっき層における平均組成が後述の範囲となるように設定する必要がある。
【0021】
第2の溶融めっきは、主としてMgをめっき層中に供給する役割を担う。目標組成のSiとMgを1つの溶融めっき浴から1浴めっきで供給しようとすると、めっき浴の凝固過程においてMg2Si相の生成が避けられず、Mg添加による耐食性向上効果が十分に活かしきれない。そこで本発明ではSiを添加していないか、またはSi添加量を低く抑えた第2めっき浴を用いて、Mg含有めっき層を新たに形成させる。また、第1の溶融めっきがAl系めっきであるから、第2の溶融めっきでは目的とするZn−Al系めっき層の構成成分であるZnを供給する役割も有する。ただし、Zn系めっき浴にMgを含有させると、Mg酸化物系ドロスの生成によりめっき性が低下する。これを抑制するにはMg含有めっき浴中にAlを含有させることが有効である。また、Alは目的とするZn−Al系めっき層の主たる構成成分の1つであるから、第2めっき浴に添加することに問題はない。したがって、本発明では第2の溶融めっきをZn−Al−Mg系めっきとしている。
【0022】
最終的なめっき層において後述のMg含有量を確保するためには、第2の溶融めっき浴中のMg含有量は1%以上とすることが望まれる。2%以上に管理してもよい。一方、めっき浴中のMg含有量が多くなるとMg酸化物系ドロスが発生しやすくなる。このため第2めっき浴中のMg含有量は10%以下に規定され、8%以下とすることがより好ましく、7%以下あるいは6%以下に管理してもよい。めっき浴中のMgは、第1の溶融めっきにより形成されたAl系めっき層の表面酸化皮膜を還元し表面を活性化する作用を有しており、第1めっき層の上層に第2めっき層を密着性良く不めっきなどの欠陥を発生させずに健全に形成させるのにも役立っていると推察される。さらに、後述する加熱処理において第1めっき層/第2めっき層の界面における拡散を滑らかに進行させるのにも役立っていると推察される。
【0023】
第2の溶融めっきにおけるAl含有量が3%を下回ると、Mg酸化物系ドロスの生成抑制効果が不十分となる。一方、めっき浴中のAl含有量が22%を超えるとめっき浴の融点が高くなり表面性状の良好なめっき面を得ることが難しくなる。第2めっき浴中のAl含有量は15%以下とすることがより好ましい。
【0024】
第2めっき浴中には、さらにSi、Ti、Bの1種以上を含有させることができる。めっき浴中にSiを含有させると、めっき層の黒色化が防止され、表面の光沢性が維持されるので、拡散処理までの保管期間が長い場合などには有利となる。ただし、Si含有量が多くなるとMg2Si相の生成を招くので、第2めっき浴にSiを含有させる場合は2%以下の範囲で行う。Ti、Bの1種または2種を含有させると、斑点状の外観不良の要因となるZn11Mg2相の生成・成長が抑制される。また、表面性状の良い溶融Zn−Al−Mg系めっき層を得るための浴温および冷却速度の自由度が拡大する。Ti、Bの1種以上を含有させる場合は、Ti:0.1%以下、B:0.05%以下の範囲とすればよい。
【0025】
第2の溶融めっきにおける上記元素以外の残部は、Znおよび不可避的不純物である。不可避的不純物として2%以下の範囲でFeの混入が許容され、他の不純物元素は合計1%以下の範囲とすることが好ましい。第2の溶融めっきはZn−Al−Mg系めっき鋼板の製造ラインをそのまま利用して実施することが可能である。
【0026】
〔拡散処理〕
以上のようにして重層構造のめっき層を形成したのち、加熱による拡散処理を行う。この加熱処理は実際のめっきラインにおいては、第2の溶融めっき後に引き続き加熱炉を通過させることにより実施することが可能である。加熱温度は500〜650℃の範囲とする。この温度域は、第2めっき層を溶融させて第1めっき層と反応させることで、第1めっき層中に新たに溶融したZnリッチ部を生成させる温度域であり、Siリッチ部は溶融しない温度域である。本発明ではめっき層中に溶融したZnリッチ部を生成させて、厚さ方向におけるめっき層組織の均一化を図る。その際、重層めっき層中のAlリッチ部も溶融して構わない。ただし、未溶融のSiリッチ部と溶融状態となった液相中のMgが反応すると、Siリッチ部にMg2Siが形成される恐れがあるので、加熱時間はできるだけ短時間とすることが望ましい。
【0027】
具体的には、第2の溶融めっきに由来するZnおよびMgがめっき層の厚み全域に分布するに足る加熱時間が確保できればよい。基材鋼板とめっき層の界面に介在するAl−Fe−Si系反応層近傍までMgが拡散して到達していれば、十分に拡散が進行したと判断できる。例えば、加熱温度を550〜650℃とし、加熱時間を均熱0〜5秒とすることができる。ここで「均熱」とはめっき層の温度が目標温度に達してから冷却するまでの時間である。例えば「600℃、均熱0秒」というときは、めっき層温度が600℃に到達した時点で、直ちに冷却する加熱パターンである。第1めっき層、第2めっき層の構成などに応じて、予め予備実験により最適な加熱パターンのデータを把握しておけばよい。加熱雰囲気は特に限定されるものではなく、大気雰囲気、N2ガスなどの非酸化性雰囲気、N2−H2ガスなどの還元性雰囲気とすることができる。
【0028】
〔最終的なめっき層〕
拡散処理によって得られる最終的なめっき層(目的とするめっき層)の平均組成は、Al、SiおよびMgの含有量が、質量%でAl:25〜75%、Si:1〜10%、Mg:0.5〜6%となるようにする。第2の溶融めっきでTi、Bの1種または2種を添加する場合は、Ti、Bの1種または2種を合計0.1%以下の範囲で含有して構わない。残部元素はZnおよび不可避的不純物である。
【0029】
Alは「めっき面の高耐食性」を付与する元素であり、Znは「犠牲防食作用」を付与する元素である。それらの特性バランスを考慮して、用途に応じてAl含有量を25〜75%の範囲で設定する。
【0030】
Mgは保護性に優れたZn系腐食生成物を形成させ、めっき層の腐食の進行を抑制する作用を担う。そのためにはめっき層中のMg含有量は0.5%以上とする必要があり、1%以上とすることがより好ましく、2%以上が一層好ましい。ただし過剰のMgはめっき層の加工性を低下させる要因となり、また第2の溶融めっきでのMg添加量が増大するので、平均組成におけるMg含有量は6%以下の範囲とする。
【0031】
Siは上述のように基材鋼板とめっき層の間に生成する脆いFe−Al系反応層の生成を抑制する作用や、めっき層表面の黒色化を抑制する作用を有し、第1めっき浴あるいはさらに第2めっき浴に配合される。めっき層全体の平均組成においてSi含有量は1%以上となる。ただし、多量のSi含有は塊状の析出物の多量生成を招くことがあり、めっき層の加工性を低下させる要因となるので、平均組成におけるSi含有量は10%以下の範囲とする。
【0032】
上記の平均組成を有する重層構造のめっき層は、上記の拡散処理により、Znリッチ部、Alリッチ部およびSiリッチ部からなり、Znリッチ部にはMg濃度4.5質量%以上の領域があり、Alリッチ部およびSiリッチ部にはMg濃度4.5質量%以上の領域が観測されない組織状態を呈するものとなる。断面組織構造は、Alリッチ部の間をZnリッチ部が網目状に埋めるような構造を基本とし、部分的にSiリッチ部が存在する状態となる。
【0033】
従来の1浴めっきによるMg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板と最も相違する点は、本発明に従った場合、めっき層中のMgは、その大部分がZnリッチ部に分布する点である。Siリッチ部にはMgがほとんど検出されないか、あるいは非常に少量である。すなわちSiリッチ部をEDX等の微視的手段で分析したとき、Mg濃度4.5質量%以上の領域が観測されない。Siはほとんど金属Siの状態で存在していると考えられる。一方、Znリッチ部には、EDX等の微視的手段で分析したときにMg濃度が4.5質量%以上となる部分がある。このようにMgは腐食されやすいZnリッチ部に多く存在しているため、Znリッチ部に腐食が生じたときに迅速に保護性の高いMg含有Zn系腐食生成物が形成され、これが従来よりもめっき層の耐食性を大幅に向上させているものと考えられる。
【0034】
鋼板片面あたりのトータルのめっき付着量は30〜200g/m2とすることが望ましい。めっき付着量が少なすぎると鋼板の耐食性(特に長期耐食性)が不足し、多すぎると加工性の低下を招く。
【実施例】
【0035】
〔本発明例〕
基材鋼板として板厚0.8mmの普通鋼冷延鋼板(C含有量:0.04質量%)を用意した。この基材鋼板をめっき原板として、溶融Al系めっきラインを用いて第1の溶融めっきを施し、片面あたりのめっき付着量75g/m2の溶融Al系めっき鋼板を得た。次いで、このめっき鋼板を原板として、溶融Zn−Al−Mg系めっきラインを用いて第2の溶融めっきを施し、片面あたりのめっき付着量60g/m2の第2めっき層を有する重層めっき鋼板を得た。めっき浴組成はそれぞれ以下のとおりである。
(第1めっき浴)
質量%でSi:9%、Zn:0%、残部Alおよび不可避的不純物
(第2めっき浴)
質量%でAl:6%、Mg:3%、Si:0.025%、Ti:0.02%、B:0.005%、残部Znおよび不可避的不純物
この場合、めっき層全体の平均組成においてAl、SiおよびMgの含有量は以下のようになる。
(平均組成)
質量%でAl:53.2%、Si:5.0%、Mg:1.3%
【0036】
上記の重層めっき鋼板を、大気雰囲気中にて600℃、均熱0秒の加熱パターンで加熱することにより拡散処理を施し、Mg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板を得た。
【0037】
このめっき鋼板の断面についてSEM観察を行うとともに、EPMAによる面分析を行った。図1にめっき層断面のSEM写真を例示する。また、図2〜図6にそれぞれ図1に対応する領域についてのZn、Al、Mg、Si、FeのEPMA面分析結果を示す。面分析画像において当該元素が検出された位置が白く表示されている。面分析の結果、めっき層は、Znリッチ部、Alリッチ部およびSiリッチ部からなり、MgはZnリッチ部に濃化していることがわかる。Siリッチ部にはMgの濃化が認められない。
【0038】
図1中に表示した1〜5の位置についてのEDX分析値(質量%)は以下のとおりである。
分析位置1; Zn:36.0%、Al:64.0%、Si:0%、Mg:0%
分析位置2; Zn:0%、Al:0%、Si:100%、Mg:0%
分析位置3; Zn:91.7%、Al:2.9%、Si:0%、Mg:5.4%
分析位置4; Zn:0%、Al:0%、Si:100%、Mg:0%
分析位置5; Zn:90.5%、Al:2.8%、Si:0%、Mg:6.7%
Znリッチ部(分析位置3、5)にはMg濃度4.5%以上の領域があり、Siリッチ部(分析箇所2、4)は金属Si相であると考えられる。
【0039】
〔従来例〕
1浴めっきにて製造されためっき鋼板として、Si含有Zn−Al系めっき鋼板(Zn−55%Al−1.5%Si合金めっき鋼板)、およびMg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板(Zn−55%Al−1.5%Si−2%Mg合金めっき鋼板)を用意した。図7に、これらについてのめっき層断面のSEM写真を示す。図7中にはアルファベットで示した位置のEDX分析結果(質量%)を併記した。いずれもめっき層の断面組織はZnリッチ部、Alリッチ部およびSiリッチ部で構成されている。ただし、Mgを含有するものにおいては、MgはSiリッチ部に最も多く存在しており、別途X線回折を行ったところ、Mg2Si相の存在が認められた。
【0040】
《耐食性試験》
上記の本発明例および従来例のめっき鋼板から耐食性試験片を切り出し、複合サイクル腐食試験(CCT)に供した。試験片の寸法は75mm×150mm×板厚であり、ここではめっき面の耐食性を比べるために、切断端面と裏面全面を絶縁性テープにより被覆した。CCT条件はJIS H8502の中性塩水噴霧サイクル試験に準拠したもので、「塩水噴霧(5%NaCl水溶液、35℃)2h→乾燥(60℃、25%RH)4h→湿潤(50℃、98%RH)2h」のサイクルを1サイクルとするものである。150サイクル終了後に腐食生成物を液温70℃の10%塩化アンモニウム水溶液にて除去し、試験前との質量差から腐食減量を求めた。
その結果、腐食減量は以下のとおりであった。
1浴めっきによるSi含有Zn−Al系めっき鋼板; 31g/m2
1浴めっきによるMg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板; 23g/m2
本発明例のMg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板; 12g/m2
【0041】
図8に、上記CCT150サイクル後の代表的なめっき層の断面写真を例示する。
本発明例のものは、従来の1浴めっきによるMg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板に比べ、めっき面の耐食性が顕著に改善された。
【0042】
なお、別途パイロットラインにより第1の溶融めっきおよび第2の溶融めっきの浴組成を本発明に従う範囲で種々変えた重層構造のめっき鋼板(第2めっき浴にTi、B、Siを添加していないものを含む)を製造し、本発明に従う条件で拡散処理を施すことによって、本発明に該当するMg・Si含有Zn−Al系めっき鋼板を種々作製し、これらについて上記の耐食性試験を実施している。その結果、いずれも上記の従来例のものと比べ顕著な耐食性向上効果が確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均組成が質量%でAl:25〜75%、Si:1〜10%、Mg:0.5〜6%、残部Znおよび不可避的不純物であるZn−Al系めっき層を有するめっき鋼板であって、当該めっき層は、Znリッチ部、Alリッチ部およびSiリッチ部からなり、Znリッチ部にはMg濃度4.5質量%以上の領域があり、Alリッチ部およびSiリッチ部にはMg濃度4.5質量%以上の領域が観測されない組織状態を呈する耐食性に優れたZn−Al系めっき鋼板。
【請求項2】
Zn−Al系めっき層の平均組成が質量%でAl:25〜75%、Si:1〜10%、Mg:0.5〜5%であり、さらにTi、Bの1種または2種を合計0.1%以下の範囲で含有し、残部Znおよび不可避的不純物である請求項1に記載のZn−Al系めっき鋼板。
【請求項3】
鋼板片面当たりのめっき付着量が30〜200g/m2である請求項1または2に記載のZn−Al系めっき鋼板。
【請求項4】
鋼板を基材として、下記めっき要件を満たすように、質量%でSi:1〜12%、Zn:0〜10%、残部Alおよび不可避的不純物からなる第1の溶融めっきを施して第1めっき層を形成させ、その上に質量%でAl:3〜22%、Mg:1〜10%、Si:0〜2%、Ti:0〜0.1%、B:0〜0.05%、残部Znおよび不可避的不純物からなる第2の溶融めっきを施して第2めっき層を形成させることにより重層めっき鋼板を製造し、その後、当該重層めっき鋼板を500〜650℃に加熱し、第2めっき層を溶融させて第1めっき層と反応させることにより第1めっき層中に新たに溶融したZnリッチ部を生成させ、第2の溶融めっきに由来するZnおよびMgがめっき層の厚み全域に分布したのち冷却する耐食性に優れたZn−Al系めっき鋼板の製造方法。
〔めっき要件〕
めっき層全体の平均組成においてAl、SiおよびMgの含有量が、質量%でAl:25〜75%、Si:1〜10%、Mg:0.5〜6%となるように、第1および第2の溶融めっきにおける浴組成およびめっき付着量をそれぞれ設定する。
【請求項5】
重層めっき鋼板の前記加熱において、加熱温度を550〜650℃とし、加熱時間を均熱0〜5秒とする請求項4に記載のZn−Al系めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−229483(P2010−229483A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77769(P2009−77769)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】