説明

耐食性部材の製造方法およびその耐食性部材を用いた発電機器

【課題】高温度の腐食環境で使用された場合においても、優れた耐腐食性、耐エロージョン性および耐高温酸化特性を発揮しうる耐食性部材を効率的に低コストで製造可能な耐食性部材の製造方法およびその耐食性部材を使用した発電機器を提供する。
【解決手段】還元剤粒子4と、酸化剤粒子3と、耐腐食性及び耐エロージョン性を有する添加剤粒子5とを含有するテルミット剤を調製する工程と、このテルミット剤1を対象物基材の表面に塗布して前記テルミット剤1から成るテルミット剤層を形成する工程と、前記テルミット剤層を加熱して当該テルミット剤層にテルミット反応による発熱・溶融を生じさせ、前記対象物基材10の表面に、前記添加剤を含むコーティング層12を一体に形成する工程とを具備することを特徴とする耐食性部材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基材表面に耐食性コーティング層を形成した耐食性部材の製造方法およびその耐食性部材を使用した発電機器に係り、特に発電機器等が高温度の腐食環境で使用された場合においても、優れた耐腐食性、耐エロージョン性および耐高温酸化特性を発揮しうる耐食性部材を効率的に低コストで製造可能な耐食性部材の製造方法およびその耐食性部材を使用した発電機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、腐食やエロージョンが発生し易い環境下で使用される機器、例えば、発電プラントの蒸気タービン翼、ガスタービン翼、配管、熱交換器、タービンケーシング、バルブ等の発電機器等においては、腐食性の向上やエロージョンの発生および高温酸化を抑制することが求められている。
【0003】
このような腐食性の向上やエロージョンの発生を抑制するためには、耐腐食性や耐エロージョン性および耐高温酸化性の高いコーティング層を機器基材の表面に形成することが考えられる。したがって、このような耐腐食性や耐エロージョン性および耐高温酸化性の高いコーティング層を作業性良く低コストで形成することが可能な方法の開発が望まれている。
【0004】
ところで、金属材料の製造方法及び溶接方法として、酸化金属とアルミニウムとによるテルミット反応を利用した方法が知られている。また、金属材料の形状が欠損若しくは磨耗等により変化した場合に、金属材料に対して溶接により肉盛りを施し、元の形状に戻すために行われる補修溶接作業法として、テルミット反応を適用する補修溶接方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記のテルミット反応を適用した補修溶接方法では、補修必要部分に対応する溶接予定形状の外殻を作製して金属材料に装着することにより金属材料側面に溶接空間を形成し、金属材料および外殻の周囲を耐火材料で覆い、外殻内に酸化金属とアルミニウムとの化学反応で生成させた高温度の溶融金属をその直下に配置した溶融金属受けで受け止めた後に流動させながら溶接空間に充填して補修溶接する。この方法では、金属材料および外殻の周囲を耐火材料で覆うなどの煩雑な作業を必要とし、またこの方法はコーティング層を形成するものではない。
【特許文献1】特開2004−98138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したとおり、従来から腐食やエロージョンおよび高温酸化が発生し易い環境下で使用される発電機器等においては、耐腐食性や耐エロージョン性および耐高温酸化性が高いコーティング層を作業性良く低コストで形成することのできる方法の開発が望まれていた。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、耐腐食性や耐エロージョン性および耐高温酸化性が高いコーティング層を作業性良く低コストで形成することができ、耐久性の向上を図ることが可能な耐食性部材の製造方法およびその耐食性部材を使用した発電機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明に係る耐食性部材の製造方法は、還元剤粒子と、酸化剤粒子と、耐腐食性及び耐エロージョン性を有する添加剤粒子とを含有するテルミット剤を調製する工程と、このテルミット剤を対象物基材の表面に塗布して前記テルミット剤から成るテルミット剤層を形成する工程と、前記テルミット剤層を加熱して当該テルミット剤層にテルミット反応による発熱・溶融を生じさせ、前記対象物基材の表面に、前記添加剤を含むコーティング層を一体に形成する工程とを具備することを特徴とする。
【0009】
また、上記本発明に係る耐食性部材の製造方法において、予め対象となる発電機器の基材表面に耐熱性と耐腐食性と耐エロージョン性と耐高温酸化性とを有する粒子をコーティング基層として塗布した後に、その表面にさらにテルミット剤を塗布して前記テルミット剤から成るテルミット剤層を形成する工程と、前記テルミット剤層を加熱して当該テルミット剤層にテルミット反応による発熱・溶融を生じさせ、前記コーティング基層を焼結すると共に、コーティング基層の表面に前記添加剤を含むコーティング層を形成する工程とを具備することが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る発電機器は、発電プラントを構成する発電機器であり、腐食、エロージョンまたは高温酸化が発生する可能性がある基材の少なくとも一部の表面部位に耐食性コーティング層を一体に形成した耐食性部材から成る発電機器において、上記耐食性部材が、還元剤粒子と、酸化剤粒子と、耐腐食性及び耐エロージョン性を有する添加剤粒子とを含有するテルミット剤を調製する工程と、このテルミット剤を対象物基材の表面に塗布して前記テルミット剤から成るテルミット剤層を形成する工程と、前記テルミット剤層を加熱して当該テルミット剤層にテルミット反応による発熱・溶融を生じさせ、前記対象物基材の表面に、前記添加剤を含むコーティング層を一体に形成する工程とを具備する製造方法によって製造されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る耐食性部材の製造方法によれば、耐腐食性と耐エロージョン性と耐高温酸化性が高いコーティング層を作業性良く低コストで形成することができ、また、このコーティング層を形成した耐食性部材を発電機器として使用することによって、耐久性の飛躍的な向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る耐食性部材の製造方法を使用したコーティング方法及び発電機器の詳細について図1から図14を参照して以下の実施形態に従って説明する。
【0013】
(実施例1)(請求項1〜請求項7に対応)
(構成)
図1は、本発明の耐食性部材の製造方法の一実施形態で使用するテルミット剤1の基本構成を示すものである。図1に示すように、本実施形態で使用するテルミット剤1は、酸化剤から成る酸化剤粒子3と、還元剤から成る還元剤粒子4と、耐腐食性と耐エロージョン性および耐高温酸化性を有する添加剤から成る添加剤粒子5と、有機溶剤6とから構成されている。
【0014】
図1に示すように、本実施形態では、酸化剤粒子3が酸化鉄(Fe、Fe)から成り、還元剤粒子4がアルミニウム(Al)から成り、添加剤粒子5が窒化チタン(TiN)から構成されている。
【0015】
緻密なコーティングを得るためには、酸化剤粒子3、還元剤粒子4、添加剤粒子5を微細化することが好ましく、例えば、最小直径が3nm程度の粒子を使用することが好ましい。また、コーティングの目的に応じて、酸化剤粒子3、還元剤粒子4、添加剤粒子5は、その直径が3nmから200μm程度の粒子を使用することが好適である。また、対象機器の基材表面に塗布し易くするため、テルミット剤1に有機溶剤6を添加することによって、その粘性、濡れ性、流動性、付着性を調整することが可能である。
【0016】
図2は、本実施形態に係る耐食性部材の製造方法で使用する耐腐食・耐エロージョン・耐高温酸化コーティング方法の工程を示す模式図である。以下の工程では、引火(着火)と酸化還元反応により、添加剤等をコーティングする。まず、図2(a)に示すように、上記した酸化剤粒子3と、還元剤粒子4と、添加剤粒子5と、有機溶剤6とを混合してテルミット剤1を調製する。
【0017】
次に、図2(b)に示すように、対象物基材10の表面に、所定厚さとなるようにテルミット剤1を塗布して、対象物基材10の表面に、所定の厚さでかつ均一な厚さのテルミット剤1の層を形成する。
【0018】
次に、図2(c)に示すように、着火(引火)装置11(例えばバーナー)によって、テルミット剤1を加熱して着火させる。これによって、テルミット剤1自身が激しい酸化還元反応を起こして発熱・溶融し、図2(d)に示すように、対象物基材10の表面に、添加剤粒子5であるTiNが含まれた耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有するコーティング層(耐食性コーティング層)12が形成される。
【0019】
テルミット反応を表わす代表的な反応式は、以下の式(1)に示すアルミニウム粉末と酸化鉄粉末とによる酸化還元反応である。
[数1]
Fe +2Al=Al+2Fe (1)
【0020】
この反応によると、生成する酸化アルミニウム1モル当りに836kJの発熱があり、反応の断熱温度は2800℃になると計算される。このように、テルミット反応により約2800℃の高温溶融剤が得られることを利用し、テルミット剤1に、耐腐食、耐エロージョンに優れるTiN又は、Ti、TiC、TiCN、TiAlN、TiCrAlN、Cr、CrN、CrC、W、WC、WN、B、Ni、NiN、NiC、Co、Zr、Y、Al、Si、SiC、SiN、SiOから選択される少なくとも1種を含む粉末を添加し、主成分と共に高温で溶融することによって対象物基材の表面に耐腐食・耐エロージョン・耐高温酸化コーティング層12を施工する。また、テルミット剤1の発熱を誘起するための引火(着火)装置11としてはバーナーを使用する。
【0021】
次に、図3を参照して、耐腐食・耐エロージョン・耐高温酸化コーティング層12にSi成分を含有させる例について説明する。図3(a)に示すように、酸化剤粒子3として酸化鉄(Fe)粉末と、還元剤粒子4としてアルミニウム(またはマグネシウム)粉末と、添加剤粒子5aとして前述したTiNに換えて珪砂(SiO)粉末とを有機溶剤6と混合して、テルミット剤1aを調製する。
【0022】
次に、図3(b)に示すように、対象物基材10の表面に、所定厚さとなるようにテルミット剤1aを塗布して、対象物基材10の表面に、所定の厚さでかつ均一な厚さのテルミット剤1aの層を形成する。
【0023】
次に、図3(c)に示すように、引火装置11(例えばバーナー)によって、テルミット剤1aを加熱して引火させる。これによって、テルミット剤1a自身が激しい酸化還元反応であるテルミット反応を起こして発熱、溶融し、図3(d)に示すように、対象物基材10の表面に、耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層12aが形成される。
【0024】
上記テルミット反応の中で、下記の式(2)に示すアルミニウム粉末と珪砂粉末による酸化還元反応によりSiが還元され、対象物基材10の表面にSiを含有する耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層12aがコーティングされる。
[数2]
3SiO+4Al=3Si+2Al (2)
この場合、コークス(C)と石英や珪砂の粉末を混合して熱し、テルミット反応の中でSiを還元し、対象物基材の表面にSiを含有する耐食性コーティング層12aを形成してもよい。
【0025】
上記のテルミット剤1,1aにおいて、還元剤の割合は例えば10〜45質量%の範囲とする一方、酸化剤の割合は例えば90〜55質量%の範囲とすることにより、必要なテルミット反応温度や速度に対応して調合することができる。還元剤と酸化剤との質量比を上記の範囲に設定することにより、テルミット反応を迅速に進行させることが可能であり、発熱量も十分となる。
【0026】
また、耐腐食性、耐エロージョン性・耐高温酸化性に優れるTiN又は、Ti、TiC、TiCN、TiAlN、TiCrAlN、Cr、CrN、CrC、W、WC、WN、B、Ni、NiN、NiC、Co、Zr、Y、Al、SiC、SiN、SiO等の粉末を一定の比率(例えば、1ppm〜0.8質量%の範囲)で添加することによって、テルミット反応温度や速度を制御することができる。
【0027】
添加剤としては上記TiNが好ましいが、他のTi、TiC、TiCN、…SiO等の添加剤を使用した場合においても、同様な効果が得られる。上記添加量が1ppm未満の場合には、部材の耐腐食性、耐エロージョン性・耐高温酸化性を得ることが困難である一方、添加量が0.8質量%を超えると、対象物基材との密着性が低下する恐れが生じる。
【0028】
図4は本実施形態に係る耐食性部材の製造方法で形成する、耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する二層のコーティング方法の工程を示す図である。図4(a)に示すように、本実施形態では、酸化剤粒子3が酸化鉄(Fe)であり、還元剤粒子4がアルミニウム(Al)であり、基層粒子が炭化クロム(CrC)から構成されている。
【0029】
次に、図4(b)に示すように、対象物基材10の表面に、所定厚さとなるように基層粒子7であるCrCを用いて基層コーティング8を塗布する。
【0030】
基層コーティング8の厚さは付着性を鑑み対象物基材の種類に応じて1μm〜10mm程度に調整することが好ましい。上記基層コーティング8の厚さが上記規定範囲外になると、いずれも基層コーティング8と対象物基材との密着性(接合強度)が低下してしまう。
【0031】
また、上記基層コーティング8に有機溶剤6を添加することによって、その粘性、濡れ性、流動性、付着性を調整することが可能である。
【0032】
基層粒子7としては、耐腐食性、耐エロージョン性および耐高温酸化性に優れるTiN又は、Ti、TiC、TiCN、TiAlN、TiCrAlN、Cr、CrN、W、WC、WN、B、Ni、NiN、NiC、Co、Zr、Y、Al、Si、SiC、SiN、SiOから選択される少なくとも1種を使用するとよい。
【0033】
次に、図4(c)に示すように、基層コーティング8の上面に、さらに所定の厚さを有し、かつ均一な厚さのテルミット剤表面コーティング9を形成する。そして対象物基材の表面に耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層12を施工する。
【0034】
次に図5(a)に示すように、対象物基材10の表面に塗布した基層コーティング8およびテルミット剤表面コーティング9に対して、図5(b)に示すように、引火装置11(例えばバーナー)によって、テルミット剤1を加熱して着火する。これによって、テルミット剤1自身が激しい酸化還元反応を起こして発熱・溶融し、図5(c)に示すように、耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層12が形成される。また、図5(c)のd部を拡大して示す図5(d)に示すように、耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層12は焼結反応によって構成した緻密な基層コーティング層8とテルミット反応によって構成したテルミット剤表面コーティング層9との二層コーティング構造によって構成することを特徴とする。
【0035】
図6は対象物基材10の表面に塗布したテルミット剤1を着火(引火)させる着火装置の構成例を示す断面図である。
【0036】
対象物基材10の表面に塗布したテルミット剤1に対する着火装置11は、図6(a)に示すように、バーナー11で構成することができる。またバーナー以外のものとして、図6(b)に示すように、安全性を考慮して事前に火縄11(a)を設置してテルミット剤1を着火することも可能である。また、図6(c)に示すように、放電装置11(b)を用いて放電によりテルミット剤1を着火することも可能である。また、図6(d)に示すように、高周波加熱装置11(c)を用いて高周波発熱によりテルミット剤1を着火することも可能である。
【0037】
図7に示すように、上記した耐腐食性・耐エロージョン性を有する耐食性コーティング層12の最小厚さは、付着性を考慮して対象物基材の種類に応じて3μm〜10mm程度、より好ましくは5μm〜8mm程度に調整することが好ましい。この耐食性コーティング層12の最小厚さが、上記規定範囲を超えると、いずれも対象物基材との接合性(密着強度)が低下してしまう。
【0038】
(作用)
以上説明した通り、上記の実施形態においては、テルミット反応により約2800℃の高温度の溶融剤が得られることを利用し、テルミット剤1に、耐腐食性、耐エロージョン性および耐高温酸化性が優れるTiN又は、Ti、TiC、TiCN、TiAlN、TiCrAlN、Cr、CrN、CrC、W、WC、WN、B、Ni、NiN、NiC、Co、Zr、Y、Al、Si、SiC、SiN、SiO等の粉末を添加し、主成分と共に高温で溶融することによって対象物基材の表面に耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層を容易に施工することができる。
【0039】
また、対象物基材の表面に耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する基層コーティングを塗布した後にテルミット剤を塗布し、テルミット反応により約2800℃の高温度状態が得られることを利用して基層コーティングを焼結し、緻密な基層コーティング層を含めて二層のコーティング構造を有する耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層を一体化した耐食性部材を容易に得ることもできる。
【0040】
(効果)
本発明は、テルミット剤自身が発熱・溶融することを利用し、対象物基材の損傷状況に応じて一層または複層の耐腐食性、耐エロージョン性および耐高温酸化性が優れるコーティング層を効率的に施工することができる。
【0041】
(実施例2)(請求項8〜請求項11に対応)
(構成)
図8は、本発明の実施形態に係る発電機器の要部概略構成を示す図であり、図8(a)は、火力発電所用および原子力発電所用の蒸気タービン20の全体構成を示している。図8(a)に示すように、蒸気タービン20は、火力発電所用として高圧部21と、中圧部22と低圧部23とを具備し、図示していないが、原子力発電所用として高圧部21と、低圧部23とを具備している。図8(b)は、蒸気タービン20の低圧部23の要部を拡大して示す断面図である。図8(b)において、蒸気タービン20の低圧部23は、動翼24と、ノズル25と、ケーシング26と、タービンロータ27、シール部28とから構成され、図中に矢印で示すように、蒸気は同図の左側から右側に向けて流れる構成となっている。
【0042】
そして、本実施形態では、図8(b)に示される低圧部23の最終段動翼24aのエロージョン部(例えば蒸気流れ方向における上流側前面)に耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層12が形成された耐食性部材が配置されている。なお、耐腐食性・耐エロージョン性を有する耐食性コーティング層12は、上記低圧部23の最終段動翼24aに限らず、他の部位、例えば、高圧部21、中圧部22の動翼24、ノズル25のエロージョン部位等に施すことも可能である。
【0043】
図9は、本発明の他の実施形態に係る発電機器の要部概略構成を示すものであり、図8と対応する部位には同一の符号を付してある。図9(a)は、図8(b)に対応する断面図であり、図8(a)に示す蒸気タービン20の低圧部23の要部構成を示す断面図である。
【0044】
また、図9(b)〜(d)は、図9(a)の一部(b部、c部、d部)の構成をそれぞれ拡大して示す断面図である。
【0045】
図9(b)に示すように、ケーシング26に損傷が生じた場合、このケーシング26の損傷部位に対して、耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層12を施工して損傷部位を修復することができる。
【0046】
また、図9(c)に示すように、蒸気タービン20のノズル25のシール部28に対して、耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層12を施してシールし、蒸気の漏洩を低減することもできる。
【0047】
さらに、図9(d)に示すように、蒸気タービンロータ27に損傷が生じた場合、このタービンロータ27の損傷部位に対して、耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層12を施し、損傷部位を修復することができる。
【0048】
図10(a)、(b)は、本発明の他の実施形態に係る発電機器の要部概略構成を示す断面図であり、図10(a)は、ガスタービン30及びガスタービン圧縮機40の概略構成を示す断面図であり、図10(b)は、ガスタービン30の一部(b部)を拡大して示す断面図であり、図10(c)は、ガスタービン30のガスタービン燃焼器33の一部(c部)を拡大して示す断面図であり、図10(d)は、ガスタービン圧縮機40の一部(d部)を拡大して示す断面図である。
【0049】
図10(b)に示すように、ガスタービン30の動翼31、静翼32等に対して、腐食・エロージョン・高温酸化部(例えば流体流れ方向における上流側前面)となる部位に、耐腐食性・耐エロージョン性を有する耐食性コーティング層12を施すことにより、コーティングおよび補修を行うことができる。
【0050】
また、図10(c)に示すように、ガスタービン燃焼器33に対しても同様に、耐腐食性・耐エロージョン性を有する耐食性コーティング層12を施すことにより、コーティングおよび補修を行うことができる。
【0051】
図10(b)に示すガスタービン30の動翼31、静翼32は、1000℃以上の高温燃焼ガスに曝され、高温腐食や高温酸化エロージョンが起き易い。このため、このような温度における高温腐食や高温酸化や高温酸化エロージョンを低減するために、耐高温腐食性、耐高温酸化性および耐高温酸化エロージョン特性を発揮し得るテルミット剤1を使用することが好ましい。
【0052】
この場合、例えば、テルミット剤1のZr、Y、Alに、Co、Ni、Crから選択される少なくとも1種の成分を添加することによって耐食性コーティング層12の遮熱性、緻密性の向上を図ることができる。
【0053】
また、図10(d)に示すように、ガスタービン圧縮機40の動翼41と静翼42に対して、耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層12を施すことにより、コーティングおよび補修を行うことができる。
【0054】
ガスタービン圧縮機40の動翼41と静翼42は、大気中のNOx、SOxおよび海塩粒子、湿り空気に曝されるために、腐食、孔食および飛来物の衝突による打孔が起き易い。このため、上記のような腐食、孔食および飛来物の衝突による打孔による損傷を低減するために、耐孔食性、耐衝撃性、耐海水腐食性を発揮し得るテルミット剤1を使用することが好ましい。例えば、テルミット剤1に、TiN、WC、CrC、Cr、Ni、Siから選択された少なくとも1種の成分を添加することによって、耐食性コーティング層の耐腐食性、硬度の向上を図ることができる。
【0055】
図11は、本発明の他の実施形態に係る発電機器としての水車の要部概略構成を示す断面図である。図11に示す水車50は、水車本体に一体に形成したランナー51を備えている。この図11に示すように、水車50のランナー51に対して、耐腐食性・耐エロージョン性を有する耐食性コーティング層12を施すことにより、コーティングおよび肉盛溶接や補修を行うことができる。
【0056】
また水力発電用の水車50のランナー51は土砂磨耗による損傷が起き易い。このような、水車50のランナー51は土砂磨耗による損傷を低減するために、耐磨耗性および耐腐食性を発揮し得るテルミット剤1を使用することが好ましい。例えば、テルミット剤1に、W、WC、Cr、CrC、TiN、Si、SiC、SiN、SiOから選択される少なくとも1種の成分を添加することによって、ランナー51の耐腐食性、硬度の向上を図ることができる。
【0057】
図12は、本発明の他の実施形態に係る発電機器の要部概略構成を示す図である。図12(a)は、発電プラントの熱交換器60(本実施形態では復水器)の概略構成を示す断面図である。図12(b)は、熱交換器60の管板61に耐食性コーティング層12を形成した熱交換器60の一部を拡大して示す断面図である。この図12(b)に示すように、熱交換器60の管板61に対して、耐腐食性・耐エロージョン性を有する耐食性コーティング層12を施すことにより、コーティングおよび補修を行うことができる。
【0058】
また、海水を冷却媒体として使用する熱交換器60の管板61には、海水腐食による損傷が起き易い。このような海水腐食による損傷を低減するために、耐磨耗性、耐腐食性を発揮し得るテルミット剤1を使用することが好ましい。例えば、テルミット剤1に、Cr、Ni、Co、Tiから選択される少なくとも1種の成分を添加することによって、耐腐食性の向上を図ることができる。
【0059】
図13は、本発明の他の実施形態に係る発電機器の要部概略構成を示す図である。図13(a)は、火力発電プラントの二酸化炭素回収装置70の一部を破断して概略構成を示す正面図であり、図13(b)は、図13(a)に示す二酸化炭素回収装置70の胴体壁内側71の一部(b部)を拡大して示す部分断面図である。
【0060】
この図13(a)に示すように、二酸化炭素回収装置70は二酸化炭素を回収するものである。しかし、二酸化炭素回収装置70の内部は腐食され易く、この腐食を防止するために、図13(b)に示すように、二酸化炭素回収装置70の胴体壁内側71に耐腐食性を発揮し得るテルミット剤1から成る耐食性コーティング層12を形成することが好ましい。例えば、テルミット剤1に、Cr、Ni、Co、Ti、Si、SiC、SiN、SiOから選択される少なくとも1種の成分を添加することによって、耐腐食性の向上を図ることができる。
【0061】
図14は、本発明の他の実施形態に係る発電機器の要部概略構成を示すものである。図14(a)は、発電プラント、化学プラント、鉄鋼プラント等から排出された排熱を蓄積して発電する蓄熱発電装置80の概略構成を示し、図14(b)は、図14(a)に示す蓄熱発電装置80の胴体壁内側81の一部(b部)を拡大して示す断面図である。
【0062】
この図14(a)に示すように、蓄熱発電装置80は排熱を回収して発電するものである。しかし、蓄熱発電装置80の内部は腐食され易く、この腐食を防止するために、図14(b)に示すように、蓄熱発電装置80の胴体壁内側81に耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層12を施すことが好ましい。例えば、テルミット剤1に、Cr、Ni、Co、Ti、Si、SiC、SiN、SiOから選択される少なくとも1種の成分を添加することによって、耐腐食性の向上を図ることができる。
【0063】
(作用)
以上説明したとおり、本実施形態によれば、常温で対象物基材の表面にテルミット剤をコーティングし、テルミット剤自身が発熱・溶融することにより、複雑な装置等を用いることなく、作業性良く、低コストで、多種の耐腐食性、耐エロージョン性が優れた成分を添加した耐腐食・耐エロージョン・耐高温酸化コーティングを施すことができる。また、コーティング層を薄くすることができるため、発熱による対象物への熱影響を少なくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る耐食性部材の製造方法によれば、耐腐食性と耐エロージョン性と耐高温酸化性が高いコーティング層を作業性良く低コストで形成することができ、また、このコーティング層を形成した耐食性部材を発電機器として使用することによって、耐久性の飛躍的な向上を図ることができる。
【0065】
また、本発明は、上記実施例で記載した発電機器に適用したときに特に優れた耐食性を発揮することができる。さらに、上記発電機器以外であっても、腐食、エロージョン、高温酸化が発生する環境にて使用する他の機器の構成部材にも適用可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る耐食性部材の製造方法の一実施形態で使用するテルミット剤の構成を模式的に示す概略図。
【図2】(a)〜(d)は、本発明に係る耐食性部材の製造方法の一実施形態で形成する、耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層の形成工程を模式的に示す断面図。
【図3】(a)〜(d)は、本発明に係る耐食性部材の製造方法の他の実施形態で形成する、耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する耐食性コーティング層の形成工程を模式的に示す断面図。
【図4】(a)〜(c)は、本発明に係る耐食性部材の製造方法の一実施形態であり、耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する二層のコーティング層の形成方法の工程を模式的に示す断面図。
【図5】(a)〜(d)は、本発明の他の実施形態に係る耐食性部材の製造方法を示し、耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する二層のコーティング層の形成方法の工程を模式的に示す断面図。
【図6】(a)〜(d)は、本発明の他の実施形態において使用するテルミット剤の着火(引火)装置の構成例をそれぞれ示す断面図。
【図7】本発明に係る耐食性部材の製造方法で形成した、耐腐食性・耐エロージョン性を有する耐食性コーティング層の最小厚さを説明するための断面図。
【図8】本発明に係る発電機器の一実施形態である蒸気タービンの概略構成を示す図であり、(a)は、全体構成を示す断面図、(b)は、(a)の一部(b部)を拡大して示す断面図。
【図9】本発明に係る発電機器の一実施形態である蒸気タービンの要部概略構成を示す断面図であり、(a)は、全体構成を示す断面図、(b)、(c)、(d)は、図9(a)の一部(b部、c部、d部)をそれぞれ拡大して示す断面図。
【図10】本発明の一実施形態に係る発電機器であるガスタービンの概略構成を示す図であり、(a)は、要部構成を示す断面図、(b)、(c)、(d)は、図10(a)の一部(b部、c部、d部)をそれぞれ拡大して示す断面図。
【図11】本発明に係る発電機器の一実施形態である水車の概略構成を示す斜視図。
【図12】本発明に係る発電機器の一実施形態である熱交換器の概略構成を示す断面図であり、(a)は、全体構成を示す断面図、(b)は、(a)に示す熱交換器の一部(b部)を拡大して示す断面図。
【図13】本発明に係る発電機器の一実施形態である二酸化炭素吸収装置の概略構成を示す正面図であり、(a)は、二酸化炭素吸収装置を示す概略図、(b)は(a)に示す二酸化炭素吸収装置の一部(b部)を拡大して示す断面図。
【図14】本発明に係る発電機器の一実施形態である蓄熱発電装置の概略構成を示す図であり、(a)は、蓄熱発電装置を示す斜視図、(b)は(a)に示す蓄熱発電装置の一部(b部)を拡大して示す胴体壁に耐食性コーティング層を形成した状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0067】
1…テルミット剤、3…酸化剤粒子、4…還元剤粒子、5…添加剤粒子、6…有機溶剤、7…基層粒子、8…基層コーティング層、9…テルミット剤表面コーティング、10…対象物基材、11…着火(引火)装置、11(a)…火縄、11(b)…放電装置、11(c)…高周波加熱装置、12…耐腐食性,耐エロージョン性および耐高温酸化性を有するコーティング層(耐食性コーティング層)、20…蒸気タービン、21…高圧部、22…中圧部、23…低圧部、24…動翼、25…ノズル、26…ケーシング、27…タービンロータ、30…ガスタービン、31…動翼、32…静翼、33…ガスタービン燃焼器、40…ガスタービン圧縮機、41…動翼、42…静翼、50…水車、51…ランナー、60…熱交換器、61…管板、70…二酸化炭素回収装置、71…胴体壁内側、80…蓄熱発電装置、81…胴体壁内側。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤粒子と、酸化剤粒子と、耐腐食性及び耐エロージョン性を有する添加剤粒子とを含有するテルミット剤を調製する工程と、このテルミット剤を対象物基材の表面に塗布して前記テルミット剤から成るテルミット剤層を形成する工程と、前記テルミット剤層を加熱して当該テルミット剤層にテルミット反応による発熱・溶融を生じさせ、前記対象物基材の表面に、前記添加剤を含むコーティング層を一体に形成する工程とを具備することを特徴とする耐食性部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の耐食性部材の製造方法において、前記添加剤粒子が、TiN粒子又は、Ti、TiC、TiCN、TiAlN、TiCrAlN、Cr、CrN、CrC、W、WC、WN、B、Ni、NiN、NiC、Co、Zr、Y、Al、Si、SiC、SiN、SiOから選択される少なくとも1種から成る粒子であることを特徴とする耐食性部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の耐食性部材の製造方法において、前記還元剤粒子がアルミニウム粉末であり、前記酸化剤粒子が金属酸化物粉末であることを特徴とする耐食性部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の耐食性部材の製造方法において、前記添加剤粒子が、SiO粉末を含有し、前記対象物基材の表面にSiを含むコーティング層を形成することを特徴とする耐食性部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の耐食性部材の製造方法において、前記テルミット剤は、前記還元剤粒子の割合が10〜45質量%の範囲であり、前記酸化剤粒子の割合が90〜55質量%の範囲とされていることを特徴とする耐食性部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の耐食性部材の製造方法において、前記テルミット剤に有機溶剤を添加し、当該テルミット剤の粘性、濡れ性、流動性、付着性の少なくとも1つの特性を調整することを特徴とする耐食性部材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の耐食性部材の製造方法において、前記対象物基材の表面に耐腐食性・耐エロージョン性・耐高温酸化性を有する基層粒子から成る基層コーティングを施工した後に、前記テルミット剤を使用した表面コーティングを施工し、テルミット剤自身が発熱・溶融することを利用して、耐食性部材の運転環境や損傷状況に応じて少なくとも2層以上の耐腐食・耐エロージョン・耐高温酸化コーティングを施工することを特徴とする耐食性部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の耐食性部材の製造方法において、前記コーティング層の厚さを3μm〜10mmとすることを特徴とする耐食性部材の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の耐食性部材の製造方法において、前記テルミット剤を着火させるために、着火装置を使用し、この着火装置として、バーナー、火縄、放電装置および高周波加熱装置のいずれかの着火装置を使用することを特徴とする耐食性部材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項記載の耐食性部材の製造方法において、前記耐食性部材を、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンのノズル、蒸気タービンのロータ、蒸気タービンのケーシング、ガスタービンの動翼、ガスタービンの静翼、ガスタービンの燃焼器、水車のランナー、発電プラントの配管、熱交換器中の管板、二酸化炭素回収装置の胴体内部の腐食側部材、蓄熱発電装置の胴体内部の腐食側部材のいずれかに用いることを特徴とする耐食性部材の製造方法。
【請求項11】
発電プラントを構成する発電機器であり、腐食、エロージョンまたは高温酸化が発生する可能性がある対象物基材の少なくとも一部の表面部位に耐食性コーティング層を一体に形成した耐食性部材から成る発電機器において、上記耐食性部材が還元剤粒子と、酸化剤粒子と、耐腐食性及び耐エロージョン性を有する添加剤粒子とを含有するテルミット剤を調製する工程と、このテルミット剤を対象物基材の表面に塗布して前記テルミット剤から成るテルミット剤層を形成する工程と、前記テルミット剤層を加熱して当該テルミット剤層にテルミット反応による発熱・溶融を生じさせ、前記対象物基材の表面に、前記添加剤を含むコーティング層を一体に形成する工程とを具備する製造方法によって製造されていることを特徴とする発電機器。
【請求項12】
請求項11に記載の発電機器において、前記腐食、エロージョンまたは高温酸化が発生する可能性がある部位が、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンのノズル、蒸気タービンのロータ、蒸気タービンのケーシング、ガスタービンの動翼、ガスタービンの静翼、ガスタービン圧縮機の動翼、ガスタービン圧縮機の静翼、ガスタービンの燃焼器、水車のランナー、発電プラントの配管、熱交換器中の管板、二酸化炭素回収装置胴体内部の腐食側部材、蓄熱発電装置胴体内部の腐食側部材のいずれかの部位であることを特徴とする発電機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−99660(P2010−99660A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270795(P2008−270795)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【Fターム(参考)】