肉盛溶接方法及び該方法によって形成した肉盛溶接部
【課題】基材の表面に耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性に優れた肉盛溶接部を形成する肉盛溶接方法及び該方法によって形成した肉盛溶接部を提供する。
【解決手段】厚さ1.5mm以上の基材11表面に、ニッケル基合金はステンレス合金を肉盛溶接して、耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性に優れた肉盛溶接部を形成する肉盛溶接方法において、MIG溶接又はMAG溶接を行う溶接機27を使用し、ウィービングの振幅を7mm以上で20mm以下、ウィービングの振動数を7回/秒以下、溶接速度を2mm/秒以上で17mm/秒以下にして、肉盛溶接部の基材11からの希釈率を10質量%以下にする。ここで、溶接機による溶接の入熱量は400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下にするのがよい。
【解決手段】厚さ1.5mm以上の基材11表面に、ニッケル基合金はステンレス合金を肉盛溶接して、耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性に優れた肉盛溶接部を形成する肉盛溶接方法において、MIG溶接又はMAG溶接を行う溶接機27を使用し、ウィービングの振幅を7mm以上で20mm以下、ウィービングの振動数を7回/秒以下、溶接速度を2mm/秒以上で17mm/秒以下にして、肉盛溶接部の基材11からの希釈率を10質量%以下にする。ここで、溶接機による溶接の入熱量は400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下にするのがよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性に優れた肉盛溶接部を形成する肉盛溶接方法及び該方法によって形成した肉盛溶接部に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉排ガス処理設備における排ガス通路は、転炉から排出される温度が1450〜1800℃で、しかも、ダスト(例えば、鉄粉)及び塩素イオンや硫化水素等の腐食性ガスを多量に含む排ガスを冷却して安全に集塵機に導く冷却機能を有している。ここで、排ガス通路の側壁には、冷却器を構成する水管(ボイラー用鋼管)が配設されているが、ダストによる摩耗や腐食性ガスの侵食による水管の減肉、減耗が問題となっている。このため、損傷の激しい水管を抜き取り新しい水管と交換する補修が行なわれているが、工期が長く補修コストも高くなるという問題がある。そこで、減肉、減耗の生じている水管の外表面に、溶接トーチを用いて水管と同材質の肉盛溶接部を形成すること(例えば、特許文献1参照)が行なわれている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−344142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、溶接トーチを用いて水管と同材質の肉盛溶接部を形成する方法は、水管に水漏れが発生した場合の応急的処理方法としては有効であるが、水管の減肉、減耗を抑えて水管の寿命を延ばすという本質的な解決方法ではない。そこで、水管表面に、耐腐食性及び耐摩耗性を有する保護層を溶射により形成して、水管の減肉、減耗を抑えることで水管の寿命を延ばすことが行なわれている。ここで、保護層としては、例えば、クロムが15質量%以下、鉄が8質量%以下、銅が4質量%以下、硼素が1〜3質量%以下、シリコンが1.5〜6質量%以下、タングステンが2質量%以下、炭素が1質量%以下、残部がニッケルからなる溶射材料が使用できる。
【0005】
しかし、冷却器には使用環境下において急加熱及び急冷の繰り返し熱衝撃が作用するため、水管の表面に形成された保護層にも繰り返し熱衝撃が作用すると共に、水管自体も熱膨張及び熱収縮を繰り返す。これにより、水管の表面に形成された保護層には表面割れが発生し、水管と保護層の熱膨張係数の差から保護層の水管表面からの剥離が生じるという問題が生じる。なお、保護層に再溶融処理を施すと、表面割れが消失すると共に保護層と水管表面との間に拡散層が形成されて保護層と水管表面との密着力を向上させることができるが、保護層の再溶融処理を行なうには保護層を加熱せねばならず、そのときに保護層に割れが生じるという問題がある。このため、再溶融処理による保護層の補修は困難となり、保護層に表面割れや剥離が発生すると、形成している保護層をブラスト処理等で除去して溶射により新たな保護層を形成する必要があり、工期が長く補修コストも高くなるという問題がある。
【0006】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、基材の表面に耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性に優れた肉盛溶接部を形成する肉盛溶接方法及び該方法によって形成した肉盛溶接部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明に係る肉盛溶接方法は、垂直又は斜めに設けられた中空長尺の構造物の一部又は全部であって厚さ1.5mm以上の基材表面に、ニッケル基合金又はステンレス合金を肉盛溶接して、耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性に優れた肉盛溶接部を形成する肉盛溶接方法において、
MIG溶接又はMAG溶接を行う溶接機を含む溶接装置を前記構造物に取付けて、前記溶接機を用いて行う溶接部のウィービングの振幅を7mm以上で20mm以下、該ウィービングの振動数を7回/秒以下、溶接速度を2mm/秒以上で17mm/秒以下にして、前記肉盛溶接部の前記基材からの希釈率を10質量%以下にする。
ここで、前記溶接機による溶接の入熱量を400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下にすることが好ましく、同一の前記溶接部に1回又は2回以上の肉盛溶接を行うことによって、前記肉盛溶接部の厚みを1.5mm以上とするのがよい。
【0008】
本発明に係る肉盛溶接方法において、前記ウィービングの振幅を7mm以上で14mm以下、該ウィービングの振動数を5回/秒以下、溶接速度を3mm/秒以上で17mm/秒以下にすることが好ましい。
本発明に係る肉盛溶接方法において、前記肉盛溶接部は予め形成された溶接ビードの上に他の溶接ビードの一部を積層して構成され、しかも上から重ねられる前記他の溶接ビードの溶接狙い位置を、単一ビードの端から該単一ビードの幅の0.15倍以上0.45倍以下の範囲内とし、前記溶接ビードを3層以上積層することが好ましい。
【0009】
本発明に係る肉盛溶接方法において、前記構造物は筒状であって、前記溶接装置を、該構造物の内面上にそれぞれ支持金具を介して上下周方向に取付けられた第1、第2のレールと、該第1、第2のレールに沿って移動する対となる走行台車に連結された縦ガイド部材と、該縦ガイド部材に沿って上下動する昇降台車と、該昇降台車に取付けられて該昇降台車に対して水平方向に進退する水平ロッド部材と、該水平ロッド部材の一端部の取付け金具に前記構造物の内面の前記溶接部に向けて進退機構及び傾動機構を介して設けられ、前記溶接機の一部を構成する溶接トーチと、該溶接トーチのオシレート制御手段を含むこれらの制御装置と、前記溶接トーチに溶接ワイヤ及び電力を供給する前記溶接機とを有する構成とすることができる。
【0010】
本発明に係る肉盛溶接方法において、前記第1、第2のレールを、それぞれ摺動機構を介して前記走行台車のフレーム部で挟持し、該第1、第2のレールの内側面にはチェーンがそれぞれ取付けられ、該走行台車に設けられた回転駆動するスプロケットを該チェーンに噛合させることが好ましい。
本発明に係る肉盛溶接方法において、前記第1、第2のレールに、前記縦ガイド部材、前記昇降台車、前記水平ロッド部材、前記溶接トーチをそれぞれ複数任意位置に設けることができる。また、前記溶接トーチと前記基材表面との距離を測定する距離センサーを設けることが好ましい。
【0011】
前記目的に沿う本発明に係る肉盛溶接部は、厚さ1.5mm以上の基材表面に、ニッケル基合金又はステンレス合金からなる溶接材料を、MIG溶接機(メタルイナートガス溶接機)又はMAG溶接機(メタルアクティブガス溶接機)を用いて、ウィービングの振幅を7mm以上で20mm以下、該ウィービングの振動数を7回/秒以下、溶接速度を2mm/秒以上で17mm/秒以下の条件で溶接を行って形成した肉盛溶接部であって、前記基材からの希釈率が10質量%以下である。
ここで、前記溶接の入熱量が400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下とすることが好ましく、該肉盛溶接部の厚さは1.5mm以上であることガ好ましい。
【0012】
本発明に係る肉盛溶接部において、前記ウィービングの振幅を7mm以上で14mm以下、該ウィービングの振動数を5回/秒以下、溶接速度を3mm/秒以上で17mm/秒以下にすることが好ましい。
本発明に係る肉盛溶接部において、該肉盛溶接部は予め形成された溶接ビードの上に他の溶接ビードの一部を積層して構成され、しかも上から重ねられる前記他の溶接ビードの溶接狙い位置を、単一ビードの端から該単一ビードの幅の0.15倍以上0.45倍以下の範囲内とし、前記溶接ビードを3層以上積層することが好ましい。
本発明に係る肉盛溶接部において、前記基材を複数の管を長尺板材で連結した伝熱部材とすることができる。また、前記基材を、製鉄用排ガス処理設備の排ガス通路の側壁部材としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜9記載の肉盛溶接方法及び請求項10〜16記載の肉盛溶接部においては、溶接装置を使用し、ウィービングの振幅を7mm以上で20mm以下の範囲内、ウィービングの振動数を7回/秒以下の範囲内、溶接速度を2mm/秒以上で17mm/秒以下の範囲内にして、肉盛溶接部の基材からの希釈率を10質量%以下にするので、肉盛溶接部ではニッケル基合金又はステンレス合金が本来備えている特性が維持され、肉盛溶接部の耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性を図ることが可能になり、例えば、温度変動が激しく、ダスト及び腐食性ガスの環境下で使用される機器(構造物)の基材の表面に肉盛溶接部を形成することで、機器を長期間に渡って保護することができる。
特に、請求項2記載の肉盛溶接方法及び請求項11記載の肉盛溶接部においては、溶接機による溶接部への入熱量が400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下であるので、肉盛溶接部では基材からの溶け込み量が少なくなり、希釈率を10質量%以下にすることができる。
請求項3記載の肉盛溶接方法、及び請求項12に記載の肉盛溶接部においては、肉盛溶接部の厚さが1.5mm以上であるので、長期間に渡り基材の保護を行なうことができる。
【0014】
請求項4記載の肉盛溶接方法、及び請求項13に記載の肉盛溶接部においては、ウィービングの振幅、ウィービングの振動数、及び溶接速度の範囲を更に限定するので、肉盛溶接部ではニッケル基合金又はステンレス合金が本来備えている特性が更に維持され、肉盛溶接部の耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性を図ることが可能になる。これにより、機器を更に長期間に渡って保護することができる。
請求項5記載の肉盛溶接方法、及び請求項14に記載の肉盛溶接部においては、肉盛溶接部が予め形成された溶接ビードの上に他の溶接ビードの一部を重ねて形成して、溶接ビードを3層以上積層するので、重ねられた溶接ビードと基材との間に溶接ビードが配置され、最表層部に位置する溶接ビードの希釈率を更に低減できる。
また、上から重ねられる他の溶接ビードの溶接狙い位置を、単一ビードの端から単一ビードの幅の0.15倍以上0.45倍以下の範囲内とするので、予め形成された溶接ビードと、その上から重ねられる他の溶接ビードとの重なり代を、例えば、0.65倍以上0.95倍以下にできる。
【0015】
請求項6記載の肉盛溶接方法においては、構造物の内面に支持金具を介して上下周方向に第1、第2のレールを取付けることで、溶接トーチを構造物の内面の溶接部に向けて移動させ、更に、溶接トーチを溶接部に向けることができ、例えば、構造物を据え付けた現地において、短時間でしかも均質な肉盛溶接部を形成することが可能になる。
請求項7記載の構造物の肉盛溶接方法においては、チェーン及びスプロケットを用いるので、第1、第2のレールに沿って走行台車を容易に移動させることが可能になる。
【0016】
請求項8記載の構造物の肉盛溶接方法においては、構造物内に複数の溶接トーチを設けることで、構造物の内面の離れた複数箇所に対して同時に肉盛溶接を行なうことができ、構造物の熱変形を抑えながら短時間で構造物の内面全体に肉盛溶接部を形成することが可能になる。
請求項9記載の構造物の肉盛溶接方法においては、溶接トーチと基材表面との距離を距離センサーで把握することができ、基材表面に均質な肉盛溶接部を形成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法で使用する溶接装置のブロック図、図2は同肉盛溶接方法で使用する溶接装置の部分正断面図、図3は同肉盛溶接方法で使用する溶接装置の部分側断面図、図4は同肉盛溶接方法で使用する溶接装置の部分平断面図、図5は同肉盛溶接方法で使用する溶接装置の溶接トーチの取付け状態を示す平面図、図6は同溶接トーチの取付け状態を示す正面図、図7は同溶接トーチの取付け状態を示す側面図、図8(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法を使用して形成した肉盛溶接部の正断面図、平面図、図9(A)、(B)はそれぞれ同肉盛溶接方法の説明図、図10は第1の変形例に係る縦ガイド部材の説明図、図11は第2の変形例に係る縦ガイド部材の説明図、図12は変形例に係る溶接装置の説明図である。
【0018】
図1〜図4に示すように、本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法で使用する溶接装置10は、垂直に設けられた中空長尺の構造物の一部又は全部である基材の一例であって、製鉄用排ガス処理設備(転炉排ガス処理設備)に設けられた垂直に延びる断面が円形の排ガス通路の側壁部材11(例えば、厚みが5〜10mm)の内面上にそれぞれ複数の支持金具12を介して周方向に取付けられ、しかも、それぞれは上下方向に距離を有した枠状の第1、第2のレール13、14と、第1、第2のレール13、14に沿って移動する対となる走行台車15、16に連結された縦ガイド部材17と、縦ガイド部材17に沿って上下動する昇降台車18と、昇降台車18に取付けられて昇降台車18に対して水平方向に進退する水平ロッド部材19とを有している。更に、溶接装置10は、水平ロッド部材19の一端部の取付け金具20に排ガス通路の側壁部材11の内面の溶接部に向けて進退機構21及び傾動機構22を介して進退及び傾動可能に設けられパルスMIG溶接機(MIG溶接機の一例)27の一部を構成する、オシレート機構23付きの溶接トーチ24と、これらの制御装置25と、溶接トーチ24に溶接ワイヤ26及び電力を供給するパルスMIG溶接機27とを有している。以下、これらについて詳細に説明する。
【0019】
図3、図4に示すように、支持金具12は、排ガス通路の側壁部材11に取付けられる固定部28と、固定部28の先側にそれぞれ連結され先部に隣り合うレール部材29の端部がそれぞれ支持され固定される座板部材30が設けられたレール受け部31とを有している。このような構成とすることにより、側壁部材11の周方向にそれぞれ固定部28を取付け、更にレール受け部31を連結すると、座板部材30上に隣り合うレール部材29の端部同士を対向させながら固定することができる。これにより、排ガス通路の側壁部材11の肉盛溶接部(即ち、肉盛溶接金属)を形成する領域を上、下から挟むように側壁部材11の全周に渡って第1、第2のレール13、14を配置することができる。ここで、第1、第2のレール13、14の内側面の全周にはチェーン32が取付けられている。
【0020】
走行台車15、16は、それぞれ第1、第2のレール13、14の上下両端部を、それぞれ摺動機構の一例であるローラーベアリング33を介して上下方向から挟持するフレーム部34と、フレーム部34内に設けられチェーン32に噛合して回転駆動するスプロケット35と、フレーム部34に設けられた軸受36により両側が回転可能に支持されスプロケット35と連結してスプロケット35に回転駆動力を伝達する回転軸37と、回転軸37に回転駆動力を与える減速機付き電動機38とを有している。
このような構成とすることにより、減速機付き電動機38を駆動させて回転軸37を回転させるとスプロケット35をチェーン32に噛合させながら回転させることができる。これにより、第1、第2のレール13、14の上下両端部に対してフレーム部34をローラーベアリング33を介して摺動させることができる。その結果、第1、第2のレール13、14に沿って走行台車15、16をそれぞれ移動させることができる。なお、符号39はローラーベアリング33をフレーム部34に取付ける固定用ノブである。
【0021】
縦ガイド部材17は、走行台車15、16にそれぞれ取付け部材40、41を介して両側が固定される連結部42と、連結部42に取付け台43を介して両側がそれぞれ固定される縦レール44を有している。ここで、縦レール44の前側面にはラック歯45が取付けられている。昇降台車18は、縦レール44の水平方向の両端部を、それぞれ摺動機構の一例であるローラーベアリング46を介して左右方向から挟持するフレーム部47と、フレーム部47内に設けられラック歯45に噛合して回転駆動するピニオン48と、フレーム部47に設けられた図示しない軸受により回転可能に支持されピニオン48と連結してピニオン48に回転駆動力を伝達する図示しない回転軸と、回転軸に回転駆動力を与える減速機付き電動機49とを有している。なお、符号50はローラーベアリング46をフレーム部47に取付ける固定用ノブである。
このような構成とすることにより、減速機付き電動機49を駆動させて回転軸を回転させるとピニオン48をラック歯45に噛合させながら回転させることができる。これにより、縦レール44の左右両端部に対してフレーム部47をローラーベアリング46を介して摺動させることができる。その結果、縦レール44に沿って昇降台車18を移動させることができる。
【0022】
水平ロッド部材19は、昇降台車18のフレーム部47に固定され水平方向の両側に開口を備えた筒体51内を水平方向に貫通して設けられ、筒体51の天井面及び底面にそれぞれ配置された摺動機構の一例であるローラーベアリング52を介して上下両端部が摺動可能に支持された水平レール53と、水平レール53の裏面側に取付けられた水平フレーム54と、水平レール53の表面側に取付けられたラック歯55とを有している。そして、筒体51内にはラック歯55に噛合して回転するピニオン56が設けられ、ピニオン56は図示しない回転軸を介して減速機付き電動機57の回転軸と連結している。なお、符号58はローラーベアリング52を筒体51に取付ける固定用ノブである。
このような構成とすることにより、減速機付き電動機57を駆動させて回転軸を回転させるとピニオン56をラック歯55に噛合させながら回転させることができる。これにより、水平レール53をその上下両端部をローラーベアリング52で支えられながら水平方向に移動させることができ、水平レール53と共に水平フレーム54を移動させることができる。
【0023】
図5〜図7に示すように、水平ロッド部材19の水平フレーム54の一端部には、溶接トーチ24を取付ける取付け金具20が設けられている。ここで、取付け金具20は水平フレーム54の一端部に取付けられた連結部59と、連結部59に対して水平フレーム54の軸心に直交して取付けられた固定板60と、固定板60の一側に距離を開けて平行に立設され先側が平面視して円板状となった対となる取付け板61、62を有している。
【0024】
また、傾動機構22は、一側が円板状となって取付け板61、62に外側から当接し第1のピン65を介して回動可能に取付けられるガイド板63、64を備えた第1の傾動部66を有している。なお、ガイド板63、64の他端部は、それぞれ連結板67の両側に連結しており、ガイド板64には、第1のピン65の中心位置を中心とする異なる2つの半径の円弧(中心角が90〜100度)で挟まれた弧状孔68、69が第1のピン65の中心位置に対して対称に形成され、弧状孔68、69には取付け板62に立設された第2のピン70、71がそれぞれ嵌入している。更に、傾動機構22は、連結板67の中央部に形成された図示しない挿通孔を挿通する第3のピン72を中央部に備えて連結板67の下面側に当接し回動可能なトーチ取付け板73と、トーチ取付け板73の第3のピン72の先側に形成された雌ねじ部に螺合し連結板67に対して任意の角度位置まで回動した状態のトーチ取付け板73を固定する固定用ノブ74とを備えた第2の傾動部75を有している。
【0025】
進退機構21は、トーチ取付け板73の下面側に取付けられ、平面視して矩形状のフレーム部76と、フレーム部76の長手方向に沿って電動機77の回転駆動力により進退する図示しないスライド台と、スライド台の下面側に取付けられた架台部78とを有している。更に、フレーム部76には、架台部78を突出させた状態でスライド台の進退範囲を覆ってフレーム部76内に埃が進入するのを防止する伸縮性のカバー部材79が設けられている。そして、架台部78の上側にはオシレート機構23が取付けられ、オシレート機構23に取付け部材80を介して溶接トーチ24が取付けられている。更に、図6に示すように、架台部78の下側には、センサー収納部81が取付けられ、センサー収納部81内には溶接トーチ24と排ガス通路の側壁部材11の表面との距離を測定する距離センサーの一例である超音波センサー82が設けられている。ここで、超音波センサー82では、非接触式で距離を測定することができるので、溶接トーチ24を制約を比較的受けずに移動させることが可能になる。なお、溶接トーチ24を比較的自由に移動させることができる場合は、例えば、検出部に差動トランスを用いた接触式の距離センサーを使用することができる。
【0026】
以上の構成により、傾動機構22の第1の傾動部66を用いて連結板67を水平ロッド部材19の軸方向に対して傾斜させることができ、第2の傾動部75を用いて連結板67に対してトーチ取付け板73を連結板67面内で傾動させることができる。その結果、水平ロッド部材19の一端部で、溶接トーチ24を任意の方向に向けることができる。更に、進退機構21により、溶接トーチ24と排ガス通路の側壁部材11との距離を任意に調整できる。これにより、排ガス通路の側壁部材11の溶接部に対して、溶接トーチ24の方向を所定の溶接方向になるように調整すると共に、溶接部と溶接トーチ24との距離を、設定した溶接距離に調整できる。
なお、第1、第2のレール13、14、走行台車15、16、縦ガイド部材17、昇降台車18、水平ロッド部材19、取付け金具20、進退機構21、傾動機構22、オシレート機構23、及び溶接トーチ24は、いずれも、主要部材にアルミ材質を使用し、例えば重量が20kg以下の構成部品に分解可能な構成となっている。これによって、現地において構造物の溶接装置10を容易に組み立てることができ、作業終了後には素早く分解することが可能になる。
【0027】
図1に示すように、制御装置25には、第1、第2のレール13、14に沿って移動する対となる走行台車15、16の走行を制御する走行台車制御部、縦ガイド部材17に沿って上下動する昇降台車18の移動を制御する昇降台車制御部、昇降台車18に対して水平方向に水平ロッド部材19を進退させる水平ロッド制御部、超音波センサー82からの信号に基づいて溶接トーチ24を排ガス通路の側壁部材11の溶接部に対して進退させる進退機構21の動作を制御するトーチ進退制御部が設けられている。これによって、排ガス通路の側壁部材11の溶接部及び溶接部に対する溶接距離を決めて、溶接部に対して溶接トーチ24の方向を傾動機構22により予め設定しておくと、溶接トーチ24を自動で溶接部位に向けて移動させ、溶接部から設定された溶接距離を有して溶接トーチ24を配置することができる。これによって、溶接部の凹凸に応じて溶接トーチ24を進退させること(倣い制御)が可能になる。
【0028】
更に、制御装置25には、オシレート機構23の動作を制御するオシレート制御手段が設けられている。一方、パルスMIG溶接機27は、溶接トーチ24と、溶接トーチ24に不活性ガス(例えば、アルゴンガス)を供給しながらパルス電力を供給するガス電力供給部86と、ガス電力供給部86からのパルス電力供給に同期して溶接トーチ24に溶接ワイヤ26を供給するワイヤ供給部87とを有している。このような構成とすることにより、排ガス通路の側壁部材11の溶接部に対して溶接トーチ24を向けて、オシレート制御手段により溶接トーチ24を単位時間当たり設定した回数で一定の振幅となるように水平面内で振動させながらパルスMIG溶接機27を駆動させると、溶接部に一定幅の溶接肉盛層を形成することができる。
【0029】
続いて、本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法について説明する。
先ず、転炉排ガス処理設備が設置されている現地で、垂直に設けられた断面が円形の排ガス通路の側壁部材11で肉盛溶接部を形成する領域を上下から挟むように第1、第2のレール13、14をそれぞれ配置する。そして、第1、第2のレール13、14にそれぞれ走行台車15、16を取付け、走行台車15、16を縦ガイド部材17で連結する。また、縦ガイド部材17に昇降台車18を取付け、昇降台車18に水平ロッド部材19を取付ける。更に、水平ロッド部材19の一端部に取付け金具20を取付け、取付け金具20に進退機構21及び傾動機構22を介してオシレート機構23付きの溶接トーチ24を固定する。続いて、走行台車15、16、昇降台車18、及び水平ロッド部材19にそれぞれ設けられた減速機付き電動機38、49、57、並びに進退機構21に設けられた電動機77を、制御装置25に設けられた走行台車制御部、昇降台車制御部、水平ロッド制御部、トーチ進退制御部と接続し、オシレート機構23はオシレート制御手段と接続する。そして、溶接トーチ24をガス電力供給部86と接続すると共に、溶接トーチ24にワイヤ供給部87からニッケル基合金又はステンレス合金の溶接ワイヤ26を供給する。これによって、側壁部材11への溶接装置10の配置が完了する。
【0030】
次いで、排ガス通路の側壁部材11における肉盛溶接を開始する位置(側壁部材11の任意の周方向角度位置で肉盛溶接領域の上端)を決め、制御装置25の走行台車制御部により対となる走行台車15、16を第1、第2のレール13、14に沿って移動させ、次いで昇降台車制御部により昇降台車18を縦ガイド部材17に沿って上昇させる。そして、水平ロッド制御部により昇降台車18に対して水平方向に水平ロッド部材19を移動させ、更に、超音波センサー82による溶接トーチ24と側壁部材11との距離を測定しながらトーチ進退制御部を介して進退機構21を電動機77を駆動させて操作し水平ロッド部材19の一端部の取付け金具20に取付けられた溶接トーチ24と側壁部材11の溶接部との距離を予め設定された溶接距離に調整すると共に、傾動機構22を手動で操作して溶接部に対する溶接トーチ24の方向を調整する。以上の操作により、肉盛溶接を開始する位置の溶接部に対して立て向き下進溶接を行なうための溶接トーチ24の位置決め作業が終了する。
【0031】
続いて、ウィービング振幅が7mm以上で20mm以下(好ましくは、下限を8mm、上限を、14mm、更には13mm)、ウィービング振動数が7回/秒以下(好ましくは、5回/秒以下)となるようにオシレート機構23を駆動させると共にパルスMIG溶接機27を稼動させながら昇降台車制御部により昇降台車18を縦ガイド部材17に沿って2mm/秒以上で17mm/秒以下(好ましくは、下限を3mm/秒)の下進溶接速度Sで下降させる。これにより、溶接トーチ24に不活性ガスを供給しパルス電力供給に同期して溶接トーチ24に溶接ワイヤ26を供給すると共に、溶接トーチ24を水平面内で振動させながら徐々に下降させることができ、パルスMIG溶接により肉盛溶接を開始する位置から下方に向けて、7〜20mmの一定幅の肉盛溶接部が徐々に形成されていく。
【0032】
ここで、溶接トーチ24を下方に移動させる、即ち下進溶接することにより、溶接ワイヤ26の溶解により形成された肉盛溶接部の一部は溶接部から垂れて溶接部の下側の側壁部材11上に溶着金属層を形成することになり、溶接ワイヤ26とこの溶着金属層の間にアークが発生することになって、側壁部材11の表層部がアークにより溶融する深さが浅くなる。更に、パルス電力供給では、溶接電流Iを100〜300アンペア、溶接電圧Vを10〜30ボルトの範囲でそれぞれ調整するので、下進溶接の溶接部への入熱量Qを400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下(好ましくは、上限を700Joule/mm)とすることができ、これによって、側壁部材11を構成する基材の溶け込みによる希釈率が10質量%以下となる肉盛溶接部を一筋形成することができる。ここで、入熱量Qは、IV/Sを用いて算定し、ウィービングは考慮していない。
【0033】
なお、別の手法により、肉盛溶接部の重ね代を、以下検討する。
図8(A)、(B)に示すように、肉盛溶接部は、間隔を有して配置された水管パネルの構造物に形成している。なお、図8(A)、(B)において、符号1a〜7aは肉盛溶接部の溶接ビードを示しており、その番号は溶接部に溶接ビードが形成される順番を示している。これにより肉盛溶接部を多層盛りとすることができる。即ち、水管パネルの各水管150を連接する各平板151の上に肉盛溶接して1番目の溶接ビードを形成し(図8(A)、(B)に示す1a、2a)、この溶接ビードと水管150の上に被さるようにして2番目の溶接ビードを形成する(図8(A)、(B)に示す3a、4a)。次に、2番目の溶接ビードと水管150の上に被さるように3番目の溶接ビードを形成し(図8(A)、(B)に示す5a、6a)、最後に3番目の溶接ビードと水管150の上に被さるように4番目の溶接ビードを形成する(図8(A)、(B)に示す7a)。このように、各水管150と各平板151の同じ領域を順次溶接することによって、熱ひずみを最小にできる。ここで、各溶接ビードに以下に説明する多層盛りを適用するのが好ましく、これによって表面がインコネルの肉盛溶接部が形成される。
ここで、水管パネルにインコネル625を、直流又は交流のパルス溶接のMIG溶接で下進溶接した場合、ウィービング幅とビード幅の関係について説明する。
ウィービング幅が5〜15mmの場合、ビード幅は8〜20mmになるため、溶接トーチの速度を適切に調整して形成した溶接ビードの重ね代の限定範囲の下限値は、(8mm−5mm)/8mm=0.24、又は(20mm−15mm)/20mm=0.25にできる。
しかし、ウィービング幅とビード幅の関係は、肉盛溶接する水管内部の水冷状態により変化するため、水冷が十分行われている場合には、溶接部のウィービングなしの溶接トーチで溶接する場合の溶接ビードの幅が小さくなり、ウィービング幅とビード幅の差異が小さくなるので、この下限値をビード幅の0.15倍とすることができる。
【0034】
一方、上限値は、後述するように、ビードを肉盛溶接する位置によってビードの重なりが片方だけの場合と両側に生ずる場合があるので、溶接トーチの速度を適切に調整して形成した溶接ビードの重ね代の下限値の2倍以上となるため、0.25×2=0.50となる。
通常、構造物の肉盛溶接を施工する場合、構造物の溶接熱ひずみによる曲り等の変形を防止するため、先に溶接したビードとは対称となる反対側の位置に肉盛溶接の施工をする。
これらを交互に繰返し、最後に構造物の中央部の位置における位置の肉盛溶接を施工して、肉盛溶接施工は完成し、最終の溶接ビードには、前述したように重なりが両側に発生する。従って、上限値は、ビード幅の0.55倍とすることができる。
【0035】
また、図9(A)に示すように、肉盛溶接部100は、予め形成された溶接ビード101の上に他の溶接ビード102の一部、この溶接ビード102の上に他の溶接ビード103の一部を重ねる溶接作業を複数回行って形成することが好ましい。また、図9(B)に示すように、肉盛溶接部110は、予め形成された溶接ビード111の上に他の溶接ビード112の一部、この溶接ビード112の上に他の溶接ビード113の一部を重ねる溶接作業を複数回行って形成することが好ましい。なお、図9(A)、(B)においては、ウィービングを図示していない。
このとき、図9(A)に示すように、溶接ビード101に対する他の溶接ビード102、及び溶接ビード102に対する溶接ビード103の溶接狙い位置、即ち、溶接トーチの位置決め位置P1を、単一ビードの端からこの単一ビードの幅dの0.15倍以上とする。また、溶接ビード111に対する他の溶接ビード112、及び溶接ビード112に対する溶接ビード113の溶接狙い位置、即ち、溶接トーチの位置決め位置を、単一ビードの端からこの単一ビードの幅の0.45倍以下、好ましくは0.33倍以下、更に好ましくは、図9(B)に示すように、溶接トーチの位置決め位置P2を、単一ビードの端からこの単一ビードの幅dの0.25倍以下とする。
これにより、溶接ビードを3層以上積層する。なお、単一ビード幅とは、前記した溶接条件と同一条件で、ウィービングを行うことなく直線的に溶接を行った場合に形成される溶接ビードの幅dを意味する。
【0036】
ここで、他の溶接トーチの位置決めした位置が、単一ビード幅の0.15倍未満の場合、形成される溶接ビードの重なる領域が少なくなり、下層に形成された溶接ビードが表面に露出し、希釈された部分が表面に現れ易くなる。なお、溶接トーチの位置決め位置を、単一ビード幅の0.15倍とした場合、図9(A)に示すように、溶接ビードを3層以上積層できない領域が発生するように思われる。しかし、前記したように、本実施の形態では下進溶接を行っているので、溶接ワイヤの溶解により形成された肉盛溶接部の一部が溶接部から垂れ、溶接部の下側の側壁部材上に溶着金属層を形成するため問題ない。
一方、単一ビード幅の0.45倍を超える場合、溶接ビードが過剰に積層されることになり、下進速度が遅くなり過ぎて作業効率の低下を招く。
【0037】
以上のことから、上から重ねられる他の溶接ビードの溶接狙い位置を、単一ビードの端から単一ビードの幅の0.15倍以上0.45倍以下の範囲内としたが、下限を0.17倍、上限を0.33倍、更には0.25倍とすることが好ましい。
このように、肉盛溶接部を形成するに際しては、溶接ビードを積層するごとに、基材の溶け込みによる希釈率が低減され、特に肉盛溶接部の最表層部となる溶接ビードの希釈率を10質量%以下、更には5質量%以下まで低減できる。
なお、複数の溶接ビードを積層するに際しては、下層となる溶接ビードが凝固した後に、その上から溶接ビードを形成することが好ましい。これにより、下層となる溶接ビードの希釈率が高くなったとしても、その上から積層される溶接ビードへの溶け込みが少なく、希釈率の低減が図れる。この方法としては、例えば、ウィービングの振動数を遅くする方法がある。
【0038】
以上に示した方法を適用し、溶接トーチ24を下降させて、排ガス通路の側壁部材11における肉盛溶接の終了の位置(内肉盛溶接を開始した位置と同一の周方向角度位置で肉盛溶接領域の下端)まで肉盛溶接部が形成されると、昇降台車18を停止させると共に、オシレート機構23及びパルスMIG溶接機27を停止させる。次いで、排ガス通路の側壁部材11における肉盛溶接部を形成した周方向角度位置から離れた周方向角度位置(例えば、周方向角度差が90〜180度となる位置)で肉盛溶接領域の上端となる位置に向けて、走行台車15、16、昇降台車18、及び水平ロッド部材19を操作することで溶接トーチ24を移動させ、更に、進退機構21及び傾動機構22を操作して、溶接トーチ24と側壁部材11の溶接部との溶接距離及び溶接部に対する溶接トーチ24の方向を調整する。そして、オシレート機構23を駆動させると共にパルスMIG溶接機27を稼動させながら昇降台車制御部により昇降台車18を縦ガイド部材17に沿って下降させ、肉盛溶接領域の下端となる位置まで肉盛溶接部を形成すると、昇降台車18を停止させると共に、オシレート機構23及びパルスMIG溶接機27を停止させる。これにより、側壁部材11に二筋目の肉盛溶接部が形成される。二筋目の肉盛溶接部を一筋目の肉盛溶接部を形成した場所から離れた位置に形成することにより、排ガス通路の側壁部材11に対する肉盛溶接に伴う入熱を分散させることができ、排ガス通路の熱変形を防止することができる。
【0039】
側壁部材11への二筋目の肉盛溶接部の形成が終了すると、溶接トーチ24を三筋目の肉盛溶接部を開始する位置まで移動させ、溶接トーチ24と側壁部材11の溶接部との溶接距離及び溶接部に対する溶接トーチ24の方向を調整して、肉盛溶接を開始する。以上の肉盛溶接作業を繰り返すことにより、排ガス通路の側壁部材11全周に肉盛溶接部を形成することができる。
ここで、走行台車15、16にそれぞれ距離計を設けると共に、走行台車制御部に、走行台車15、16の移動機能、走行台車15、16の停止機能、走行台車15、16の移動速度調整機能、走行台車15、16の移動距離計測機能、走行台車15、16の移動(停止)回数の計数機能、及び各機能を組み合わせて走行台車15、16に複合動作を行なわせるプログラム機能を設けることにより、予め、溶接開始位置、即ち走行台車15、16の初期位置、走行台車15、16の移動速度、走行台車15、16の移動距離、走行台車15、16の移動(停止)回数のデータを走行台車制御部に入力することで、一つの肉盛溶接作業が終了すると、自動で次の肉盛溶接位置に向けて溶接トーチ24を移動させることができる。
【0040】
また、昇降台車18に距離計を設けると共に、昇降台車制御部に、昇降台車18の移動機能、停止機能、移動速度調整機能、移動距離計測機能、及び各機能を組み合わせて昇降台車18に複合動作を行なわせるプログラム機能を設けることにより、予め、溶接開始位置、即ち昇降台車18の初期位置、昇降台車18の移動速度、移動距離のデータを昇降台車制御部に入力することで、一つの肉盛溶接作業を自動で行なうことができる。
更に、制御装置25に、走行台車15、16及び昇降台車18を連携させて移動させた際に走行台車15、16及び昇降台車18の位置をそれぞれ記憶する位置記憶機能、位置記憶機能に記憶された走行台車15、16及び昇降台車18の各位置データに基づいて走行台車制御部及び昇降台車制御部を介して走行台車15、16及び昇降台車18を連携動作させる連携動作機能を備えた連携動作制御部を設けることにより、予め、肉盛溶接を行なう経路に沿って溶接トーチ24を移動させて溶接経路を教えておくと、教えた溶接経路に沿って自動で溶接トーチ24を移動させることができる。これによって、曲線状の肉盛溶接が可能になる。
以上の実際の形態においては、肉盛溶接を開始する位置の溶接部に対して立て向き下進溶接を行なう場合について説明したが、水平溶接を行うこともできる。この場合、下進溶接速度は、水平溶接速度となる。
【0041】
続いて、本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法で形成した肉盛溶接部について説明する。
ここで、ニッケル基合金の溶接ワイヤ26は、(1)ニッケルを36.5質量%以上、クロムを14.0〜23.5質量%含有する合金のソリッドワイヤ、(2)ニッケルを36.5質量%以上、モリブデンを5.5〜30.0質量%含有する合金のソリッドワイヤ、(3)ニッケルを36.5質量%以上、クロムを14.0〜23.5質量%、及びモリブデンを5.5〜30.0質量%含有する合金のソリッドワイヤをいい、具体的には表1に示すソリッドワイヤがある。
また、ステンレス合金の溶接ワイヤ26は、(1)ニッケルを9.0〜22.5質量%、クロムを11.5〜28.0質量%含有する合金のソリッドワイヤ、(2)ニッケルを9.0〜22.5質量%、モリブデンを2.0〜3.0質量%含有する合金のソリッドワイヤ、(3)ニッケルを9.0〜22.5質量%、クロムを11.5〜28.0質量%、及びモリブデンを2.0〜3.0質量%含有する合金のソリッドワイヤ、(4)ニッケルを16.0質量%以下、クロムを11.0質量%以上含有する合金のフラックス入りワイヤをいい、具体的には表2に示すものがある。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
そして、下進溶接の入熱量を400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下に制限するので、排ガス通路の側壁部材11に形成した肉盛溶接部では、側壁部材11からの溶け込み量が少なくなって希釈率が10質量%以下になっている。このため、肉盛溶接部ではニッケル基合金又はステンレス合金が本来備えている特性が維持され、肉盛溶接部の耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性を図ることが可能になる。その結果、肉盛溶接部の厚さを1.5mm以上にすることで、長期間に渡り側壁部材11の保護を行なうことができる
【実施例】
【0045】
(実施例1)
垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に使用し、パルスMIG溶接機を用いて、表3に示すA〜Fと表4に示すK〜Vの溶接条件でインコネル625(YNiCrMo−3)のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。また、比較例として、垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に使用し、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すG〜Jの溶接条件でインコネル625のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。なお、表3は立て向き下進溶接での溶接条件であり、表4は水平溶接での溶接条件である。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
表4から明らかなように、実施例では、溶け込み深さの平均が、最大でも0.5mm程度であり、希釈率の低減が図れることを確認できた。
また、表3の溶接条件については、得られた肉盛溶接部のニッケル、クロム、及びモリブデンの各成分の基材からの希釈率を求めると共に、鉄の濃化率を求めた。また、形成した肉盛溶接部の一部については、濃度32%の塩酸と濃度65%の硝酸を3:1の割合で混合した腐食液に120分間浸漬した際の腐食減量の測定を行なった。その結果を表5に示す。なお、成分Xの希釈率は、溶接ワイヤ中のXの分析値をXW、肉盛溶接部中のXの分析値をXBとした場合、100(XW−XB)/XWから求めた。また、鉄の濃化率は、溶接ワイヤ中の鉄の分析値をFW、肉盛溶接部中の鉄の分析値をFBとした場合、100(FB−FW)/(100−FW)から求めた。なお、表5には、使用したインコネル625のソリッドワイヤ中のニッケル、クロム、モリブデン、鉄、及びその他成分の含有率も合わせて示している。また、希釈率の平均欄は、ニッケル、クロム、及びモリブデンの各希釈率の平均希釈率を示し、−符号は濃化を示す。
【0049】
【表5】
【0050】
表5から、本実施例では、肉盛溶接部のニッケル、クロム、及びモリブデンの各成分の基材からの希釈率を10質量%以下にできることが確認された。そして、希釈率を10質量%以下にできることから、肉盛溶接部にニッケル基合金が本来備えている耐腐食性を付与できることが確認できた。
【0051】
(実施例2)
垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すA〜Fの溶接条件でハステロイX(YNiCrMo−2)のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。また、比較例として、垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に使用し、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すG〜Jの溶接条件でハステロイXのソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した.そして、得られた肉盛溶接部のニッケル、クロム、及びモリブデンの各成分の基材からの希釈率を求めると共に、鉄の濃化率を求めた。その結果を表6に示す。なお、表6には、使用したハステロイXのソリッドワイヤ中のニッケル、クロム、モリブデン、鉄、及びその他成分の含有率も合わせて示している。また、希釈率の平均欄は、ニッケル、クロム、及びモリブデンの各希釈率の平均希釈率を示し、−符号は濃化を示す。
表6から、本実施例では、肉盛溶接部のニッケル、クロム、及びモリブデンの各成分の基材からの希釈率を10質量%以下にできることが確認された。
【0052】
【表6】
【0053】
(実施例3)
垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すA〜Fの溶接条件で25Cr−20Niステンレス合金(Y310)のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。また、比較例として、垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に使用し、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すG〜Jの溶接条件で25Cr−20Niステンレス合金のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。そして、得られた肉盛溶接部のニッケル及びクロムの各成分の基材からの希釈率を求めると共に、鉄の濃化率を求めた。その結果を表7に示す。なお、表7には、使用した25Cr−20Niステンレス合金のソリッドワイヤ中のニッケル、クロム、鉄、及びその他成分の含有率も合わせて示している。また、希釈率の平均欄は、ニッケル及びクロムの各希釈率の平均希釈率を示し、−符号は濃化を示す。
表7から、本実施例では、肉盛溶接部のニッケル及びクロムの各成分の基材からの希釈率を10質量%以下にできることが確認された。
【0054】
【表7】
【0055】
(実施例4)
垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すA〜Fの溶接条件で13Crステンレス合金(420J2)のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。また、比較例として、垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に使用し、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すG〜Jの溶接条件で13Crステンレス合金のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。そして、得られた肉盛溶接部のクロム成分の基材からの希釈率を求めると共に、鉄の濃化率を求めた。その結果を表8に示す。なお、表8には、使用した13Crステンレス合金のソリッドワイヤ中のクロム、鉄、及びその他成分の含有率も合わせて示している。また、表中の−符号は濃化を示す。
表8から、本実施例では、肉盛溶接部のクロム成分の基材からの希釈率を10質量%以下にできることが確認された。
【0056】
【表8】
【0057】
(実施例5)
垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に、MAG溶接機を用いて表3に示すA〜Fの溶接条件で23Cr−13Ni−2.5Moステンレス合金(YF309Mo)のフラックス入りワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。また、比較例として、垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に使用し、MAG溶接機を用いて表3に示すG〜Jの溶接条件で23Cr−13Ni−2.5Moステンレス合金(YF309Mo)のフラックス入りワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した.そして、得られた肉盛溶接部のニッケル、クロム、及びモリブデンの各成分の基材からの希釈率を求めると共に、鉄の濃化率を求めた。その結果を表9に示す。なお、表9には、使用した23Cr−13Ni−2.5Moステンレス合金(YF309Mo)のフラックス入りワイヤ中のニッケル、クロム、モリブデン、鉄、及びその他成分の含有率も合わせて示している。また、希釈率の平均欄は、ニッケル、クロム、及びモリブデンの各希釈率の平均希釈率を示し、−符号は濃化を示す。
表9から、本実施例では、肉盛溶接部のニッケル、クロム、及びモリブデンの各成分の基材からの希釈率を10質量%以下にできることが確認された。
【0058】
【表9】
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の肉盛溶接方法及びそれを用いて形成した肉盛溶接部を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、第1、第2のレール上に、縦ガイド部材、昇降台車、水平ロッド部材、溶接トーチをそれぞれ複数任意位置、好ましくは複数均等位置に配置してもよい。これによって、同時に複数筋の肉盛溶接部を排ガス通路の内面に形成することができ、排ガス通路の内面全周に肉盛溶接部を短時間で形成することができる。
本実施の形態では、垂直に設けられた中空長尺の構造物の一部又は全部である基材の一例として、転炉排ガス処理設備の排ガス通路の側壁部材表面に肉盛溶接部を形成したが、転炉排ガス処理設備の転炉フードの内面、ごみ焼却炉の煙道の側壁部材、排ガス通路内の熱交換チューブの外面等のように、第1、第2のレールが取付け可能であれば断面が任意形状の構造体の内面又は外面に対しても、更に、熱交換器の熱交換チューブパネルの内面のように平面状の構造体に対しても本発明を適用して肉盛溶接部を形成することができる。なお、基材の厚みは1.5mm以上とする。また、斜めに設けられた構造物に対して適用することもできる。基材が複数の管を長尺板材で連結した伝熱部材であってもよい。
そして、本実施の形態では、パルスMIG溶接機を用いて溶接を行ったが、その他のMIG溶接機又はMAG溶接を使用して溶接を行ってもよい。更に、本実施の形態では、同一溶接部に1回の肉盛溶接を行ったが、2回以上の肉盛溶接を行うこともできる。
【0060】
本実施の形態では、図2に示すように、縦ガイド部材17の縦レール44が第1、第2のレール13、14の間に配置されるようにしたが、図10に示す縦ガイド部材17aのように、連結部83を長くして、縦レール84の両側が第1、第2のレール13、14の外側にそれぞれ突出するようにしてもよい。これによって、ラック歯85の長さを長くでき、昇降台車18を第1、第2のレール13、14の外側領域まで移動させて、第1、第2のレール13、14の外側領域に肉盛溶接部を形成することができる。
また、各走行台車15、16に設けた取付け部材40、41に連結部の両側をそれぞれ固定したが、図11に示す縦ガイド部材17bのように、連結部88に伸縮機構89を設けて連結部88の長さを可変にすると共に、連結部88の両側を取付け部材40、41にそれぞれピン部材90を用いてピン結合することもできる。これによって、各走行台車15、16を第1、第2のレール13、14上で単独動作させることで、連結部88を手動操作により傾斜させることができる。その結果、肉盛ビード芯が傾斜している場合、縦レール44の軸方向を肉盛ビード芯の軸方向に実質的に一致させて昇降台車18を肉盛ビード芯の軸方向に沿って斜行させることができ、スカート等の末広がり構造の構造物の内面又は外面に肉盛溶接部を形成することができる。
更に、図12に示すように、排ガス通路が斜めに設けられている場合は、排ガス通路の側壁部材91の肉盛溶接部を形成する領域を斜め上と斜め下から挟むように排ガス通路の側壁部材91の全周に渡って第1、第2のレール92、93を配置する。そして、第1、第2のレール92、93にそれぞれ走行台車15、16を設け、走行台車15、16を縦ガイド部材17で連結し、縦ガイド部材17には縦ガイド部材17の軸方向に移動する昇降台車18を設け、昇降台車18には昇降台車18に対して水平方向、即ち、縦位ガイド部材17と直交する方向に進退する水平ロッド部材19を取付け、水平ロッド部材19の一端部に設けられた取付け金具20に進退機構21及び傾動機構22を介して進退及び傾動可能にオシレート機構23付きの溶接トーチ24を設けるようにすればよい。なお、走行台車15、16には、それぞれ駆動源として減速機付きの電動機(図示せず)を搭載させ、各減速機付きの電動機は同調運転させる。これにより、第1、第2のレール92、93上を、走行台車15、16は安定して走行することができ、斜めに設けられた排ガス通路の側壁部材91の任意の部位に肉盛溶接部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法で使用する溶接装置のブロック図である。
【図2】同溶接装置の部分正断面図である。
【図3】同溶接装置の部分側断面図である。
【図4】同溶接装置の部分平断面図である。
【図5】同溶接装置の溶接トーチの取付け状態を示す平面図である。
【図6】同溶接トーチの取付け状態を示す正面図である。
【図7】同溶接トーチの取付け状態を示す側面図である。
【図8】(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法を使用して形成した肉盛溶接部の正断面図、平面図である。
【図9】(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法の説明図である。
【図10】第1の変形例に係る縦ガイド部材の説明図である。
【図11】第2の変形例に係る縦ガイド部材の説明図である。
【図12】変形例に係る溶接装置の説明図である。
【符号の説明】
【0062】
10:溶接装置、11:側壁部材、12:支持金具、13:第1のレール、14:第2のレール、15、16:走行台車、17、17a、17b:縦ガイド部材、18:昇降台車、19:水平ロッド部材、20:取付け金具、21:進退機構、22:傾動機構、23:オシレート機構、24:溶接トーチ、25:制御装置、26:溶接ワイヤ、27:パルスMIG溶接機、28:固定部、29:レール部材、30:座板部材、31:レール受け部、32:チェーン、33:ローラーベアリング、34:フレーム部、35:スプロケット、36:軸受、37:回転軸、38:減速機付き電動機、39:固定用ノブ、40、41:取付け部材、42:連結部、43:取付け台、44:縦レール、45:ラック歯、46:ローラーベアリング、47:フレーム部、48:ピニオン、49:減速機付き電動機、50:固定用ノブ、51:筒体、52:ローラーベアリング、53:水平レール、54:水平フレーム、55:ラック歯、56:ピニオン、57:減速機付き電動機、58:固定用ノブ、59:連結部、60:固定板、61、62:取付け板、63、64:ガイド板、65:第1のピン、66:第1の傾動部、67:連結板、68、69:弧状孔、70、71:第2のピン、72:第3のピン、73:トーチ取付け板、74:固定用ノブ、75:第2の傾動部、76:フレーム部、77:電動機、78:架台部、79:カバー部材、80:取付け部材、81:センサー収納部、82:超音波センサー、83:連結部、84:縦レール、85:ラック歯、86:ガス電力供給部、87:ワイヤ供給部、88:連結部、89:伸縮機構、90:ピン部材、91:側壁部材、92:第1のレール、93:第2のレール、100:肉盛溶接部、101〜103:溶接ビード、110:肉盛溶接部、111〜113:溶接ビード、150:水管、151:平板
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性に優れた肉盛溶接部を形成する肉盛溶接方法及び該方法によって形成した肉盛溶接部に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉排ガス処理設備における排ガス通路は、転炉から排出される温度が1450〜1800℃で、しかも、ダスト(例えば、鉄粉)及び塩素イオンや硫化水素等の腐食性ガスを多量に含む排ガスを冷却して安全に集塵機に導く冷却機能を有している。ここで、排ガス通路の側壁には、冷却器を構成する水管(ボイラー用鋼管)が配設されているが、ダストによる摩耗や腐食性ガスの侵食による水管の減肉、減耗が問題となっている。このため、損傷の激しい水管を抜き取り新しい水管と交換する補修が行なわれているが、工期が長く補修コストも高くなるという問題がある。そこで、減肉、減耗の生じている水管の外表面に、溶接トーチを用いて水管と同材質の肉盛溶接部を形成すること(例えば、特許文献1参照)が行なわれている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−344142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、溶接トーチを用いて水管と同材質の肉盛溶接部を形成する方法は、水管に水漏れが発生した場合の応急的処理方法としては有効であるが、水管の減肉、減耗を抑えて水管の寿命を延ばすという本質的な解決方法ではない。そこで、水管表面に、耐腐食性及び耐摩耗性を有する保護層を溶射により形成して、水管の減肉、減耗を抑えることで水管の寿命を延ばすことが行なわれている。ここで、保護層としては、例えば、クロムが15質量%以下、鉄が8質量%以下、銅が4質量%以下、硼素が1〜3質量%以下、シリコンが1.5〜6質量%以下、タングステンが2質量%以下、炭素が1質量%以下、残部がニッケルからなる溶射材料が使用できる。
【0005】
しかし、冷却器には使用環境下において急加熱及び急冷の繰り返し熱衝撃が作用するため、水管の表面に形成された保護層にも繰り返し熱衝撃が作用すると共に、水管自体も熱膨張及び熱収縮を繰り返す。これにより、水管の表面に形成された保護層には表面割れが発生し、水管と保護層の熱膨張係数の差から保護層の水管表面からの剥離が生じるという問題が生じる。なお、保護層に再溶融処理を施すと、表面割れが消失すると共に保護層と水管表面との間に拡散層が形成されて保護層と水管表面との密着力を向上させることができるが、保護層の再溶融処理を行なうには保護層を加熱せねばならず、そのときに保護層に割れが生じるという問題がある。このため、再溶融処理による保護層の補修は困難となり、保護層に表面割れや剥離が発生すると、形成している保護層をブラスト処理等で除去して溶射により新たな保護層を形成する必要があり、工期が長く補修コストも高くなるという問題がある。
【0006】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、基材の表面に耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性に優れた肉盛溶接部を形成する肉盛溶接方法及び該方法によって形成した肉盛溶接部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明に係る肉盛溶接方法は、垂直又は斜めに設けられた中空長尺の構造物の一部又は全部であって厚さ1.5mm以上の基材表面に、ニッケル基合金又はステンレス合金を肉盛溶接して、耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性に優れた肉盛溶接部を形成する肉盛溶接方法において、
MIG溶接又はMAG溶接を行う溶接機を含む溶接装置を前記構造物に取付けて、前記溶接機を用いて行う溶接部のウィービングの振幅を7mm以上で20mm以下、該ウィービングの振動数を7回/秒以下、溶接速度を2mm/秒以上で17mm/秒以下にして、前記肉盛溶接部の前記基材からの希釈率を10質量%以下にする。
ここで、前記溶接機による溶接の入熱量を400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下にすることが好ましく、同一の前記溶接部に1回又は2回以上の肉盛溶接を行うことによって、前記肉盛溶接部の厚みを1.5mm以上とするのがよい。
【0008】
本発明に係る肉盛溶接方法において、前記ウィービングの振幅を7mm以上で14mm以下、該ウィービングの振動数を5回/秒以下、溶接速度を3mm/秒以上で17mm/秒以下にすることが好ましい。
本発明に係る肉盛溶接方法において、前記肉盛溶接部は予め形成された溶接ビードの上に他の溶接ビードの一部を積層して構成され、しかも上から重ねられる前記他の溶接ビードの溶接狙い位置を、単一ビードの端から該単一ビードの幅の0.15倍以上0.45倍以下の範囲内とし、前記溶接ビードを3層以上積層することが好ましい。
【0009】
本発明に係る肉盛溶接方法において、前記構造物は筒状であって、前記溶接装置を、該構造物の内面上にそれぞれ支持金具を介して上下周方向に取付けられた第1、第2のレールと、該第1、第2のレールに沿って移動する対となる走行台車に連結された縦ガイド部材と、該縦ガイド部材に沿って上下動する昇降台車と、該昇降台車に取付けられて該昇降台車に対して水平方向に進退する水平ロッド部材と、該水平ロッド部材の一端部の取付け金具に前記構造物の内面の前記溶接部に向けて進退機構及び傾動機構を介して設けられ、前記溶接機の一部を構成する溶接トーチと、該溶接トーチのオシレート制御手段を含むこれらの制御装置と、前記溶接トーチに溶接ワイヤ及び電力を供給する前記溶接機とを有する構成とすることができる。
【0010】
本発明に係る肉盛溶接方法において、前記第1、第2のレールを、それぞれ摺動機構を介して前記走行台車のフレーム部で挟持し、該第1、第2のレールの内側面にはチェーンがそれぞれ取付けられ、該走行台車に設けられた回転駆動するスプロケットを該チェーンに噛合させることが好ましい。
本発明に係る肉盛溶接方法において、前記第1、第2のレールに、前記縦ガイド部材、前記昇降台車、前記水平ロッド部材、前記溶接トーチをそれぞれ複数任意位置に設けることができる。また、前記溶接トーチと前記基材表面との距離を測定する距離センサーを設けることが好ましい。
【0011】
前記目的に沿う本発明に係る肉盛溶接部は、厚さ1.5mm以上の基材表面に、ニッケル基合金又はステンレス合金からなる溶接材料を、MIG溶接機(メタルイナートガス溶接機)又はMAG溶接機(メタルアクティブガス溶接機)を用いて、ウィービングの振幅を7mm以上で20mm以下、該ウィービングの振動数を7回/秒以下、溶接速度を2mm/秒以上で17mm/秒以下の条件で溶接を行って形成した肉盛溶接部であって、前記基材からの希釈率が10質量%以下である。
ここで、前記溶接の入熱量が400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下とすることが好ましく、該肉盛溶接部の厚さは1.5mm以上であることガ好ましい。
【0012】
本発明に係る肉盛溶接部において、前記ウィービングの振幅を7mm以上で14mm以下、該ウィービングの振動数を5回/秒以下、溶接速度を3mm/秒以上で17mm/秒以下にすることが好ましい。
本発明に係る肉盛溶接部において、該肉盛溶接部は予め形成された溶接ビードの上に他の溶接ビードの一部を積層して構成され、しかも上から重ねられる前記他の溶接ビードの溶接狙い位置を、単一ビードの端から該単一ビードの幅の0.15倍以上0.45倍以下の範囲内とし、前記溶接ビードを3層以上積層することが好ましい。
本発明に係る肉盛溶接部において、前記基材を複数の管を長尺板材で連結した伝熱部材とすることができる。また、前記基材を、製鉄用排ガス処理設備の排ガス通路の側壁部材としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜9記載の肉盛溶接方法及び請求項10〜16記載の肉盛溶接部においては、溶接装置を使用し、ウィービングの振幅を7mm以上で20mm以下の範囲内、ウィービングの振動数を7回/秒以下の範囲内、溶接速度を2mm/秒以上で17mm/秒以下の範囲内にして、肉盛溶接部の基材からの希釈率を10質量%以下にするので、肉盛溶接部ではニッケル基合金又はステンレス合金が本来備えている特性が維持され、肉盛溶接部の耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性を図ることが可能になり、例えば、温度変動が激しく、ダスト及び腐食性ガスの環境下で使用される機器(構造物)の基材の表面に肉盛溶接部を形成することで、機器を長期間に渡って保護することができる。
特に、請求項2記載の肉盛溶接方法及び請求項11記載の肉盛溶接部においては、溶接機による溶接部への入熱量が400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下であるので、肉盛溶接部では基材からの溶け込み量が少なくなり、希釈率を10質量%以下にすることができる。
請求項3記載の肉盛溶接方法、及び請求項12に記載の肉盛溶接部においては、肉盛溶接部の厚さが1.5mm以上であるので、長期間に渡り基材の保護を行なうことができる。
【0014】
請求項4記載の肉盛溶接方法、及び請求項13に記載の肉盛溶接部においては、ウィービングの振幅、ウィービングの振動数、及び溶接速度の範囲を更に限定するので、肉盛溶接部ではニッケル基合金又はステンレス合金が本来備えている特性が更に維持され、肉盛溶接部の耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性を図ることが可能になる。これにより、機器を更に長期間に渡って保護することができる。
請求項5記載の肉盛溶接方法、及び請求項14に記載の肉盛溶接部においては、肉盛溶接部が予め形成された溶接ビードの上に他の溶接ビードの一部を重ねて形成して、溶接ビードを3層以上積層するので、重ねられた溶接ビードと基材との間に溶接ビードが配置され、最表層部に位置する溶接ビードの希釈率を更に低減できる。
また、上から重ねられる他の溶接ビードの溶接狙い位置を、単一ビードの端から単一ビードの幅の0.15倍以上0.45倍以下の範囲内とするので、予め形成された溶接ビードと、その上から重ねられる他の溶接ビードとの重なり代を、例えば、0.65倍以上0.95倍以下にできる。
【0015】
請求項6記載の肉盛溶接方法においては、構造物の内面に支持金具を介して上下周方向に第1、第2のレールを取付けることで、溶接トーチを構造物の内面の溶接部に向けて移動させ、更に、溶接トーチを溶接部に向けることができ、例えば、構造物を据え付けた現地において、短時間でしかも均質な肉盛溶接部を形成することが可能になる。
請求項7記載の構造物の肉盛溶接方法においては、チェーン及びスプロケットを用いるので、第1、第2のレールに沿って走行台車を容易に移動させることが可能になる。
【0016】
請求項8記載の構造物の肉盛溶接方法においては、構造物内に複数の溶接トーチを設けることで、構造物の内面の離れた複数箇所に対して同時に肉盛溶接を行なうことができ、構造物の熱変形を抑えながら短時間で構造物の内面全体に肉盛溶接部を形成することが可能になる。
請求項9記載の構造物の肉盛溶接方法においては、溶接トーチと基材表面との距離を距離センサーで把握することができ、基材表面に均質な肉盛溶接部を形成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法で使用する溶接装置のブロック図、図2は同肉盛溶接方法で使用する溶接装置の部分正断面図、図3は同肉盛溶接方法で使用する溶接装置の部分側断面図、図4は同肉盛溶接方法で使用する溶接装置の部分平断面図、図5は同肉盛溶接方法で使用する溶接装置の溶接トーチの取付け状態を示す平面図、図6は同溶接トーチの取付け状態を示す正面図、図7は同溶接トーチの取付け状態を示す側面図、図8(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法を使用して形成した肉盛溶接部の正断面図、平面図、図9(A)、(B)はそれぞれ同肉盛溶接方法の説明図、図10は第1の変形例に係る縦ガイド部材の説明図、図11は第2の変形例に係る縦ガイド部材の説明図、図12は変形例に係る溶接装置の説明図である。
【0018】
図1〜図4に示すように、本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法で使用する溶接装置10は、垂直に設けられた中空長尺の構造物の一部又は全部である基材の一例であって、製鉄用排ガス処理設備(転炉排ガス処理設備)に設けられた垂直に延びる断面が円形の排ガス通路の側壁部材11(例えば、厚みが5〜10mm)の内面上にそれぞれ複数の支持金具12を介して周方向に取付けられ、しかも、それぞれは上下方向に距離を有した枠状の第1、第2のレール13、14と、第1、第2のレール13、14に沿って移動する対となる走行台車15、16に連結された縦ガイド部材17と、縦ガイド部材17に沿って上下動する昇降台車18と、昇降台車18に取付けられて昇降台車18に対して水平方向に進退する水平ロッド部材19とを有している。更に、溶接装置10は、水平ロッド部材19の一端部の取付け金具20に排ガス通路の側壁部材11の内面の溶接部に向けて進退機構21及び傾動機構22を介して進退及び傾動可能に設けられパルスMIG溶接機(MIG溶接機の一例)27の一部を構成する、オシレート機構23付きの溶接トーチ24と、これらの制御装置25と、溶接トーチ24に溶接ワイヤ26及び電力を供給するパルスMIG溶接機27とを有している。以下、これらについて詳細に説明する。
【0019】
図3、図4に示すように、支持金具12は、排ガス通路の側壁部材11に取付けられる固定部28と、固定部28の先側にそれぞれ連結され先部に隣り合うレール部材29の端部がそれぞれ支持され固定される座板部材30が設けられたレール受け部31とを有している。このような構成とすることにより、側壁部材11の周方向にそれぞれ固定部28を取付け、更にレール受け部31を連結すると、座板部材30上に隣り合うレール部材29の端部同士を対向させながら固定することができる。これにより、排ガス通路の側壁部材11の肉盛溶接部(即ち、肉盛溶接金属)を形成する領域を上、下から挟むように側壁部材11の全周に渡って第1、第2のレール13、14を配置することができる。ここで、第1、第2のレール13、14の内側面の全周にはチェーン32が取付けられている。
【0020】
走行台車15、16は、それぞれ第1、第2のレール13、14の上下両端部を、それぞれ摺動機構の一例であるローラーベアリング33を介して上下方向から挟持するフレーム部34と、フレーム部34内に設けられチェーン32に噛合して回転駆動するスプロケット35と、フレーム部34に設けられた軸受36により両側が回転可能に支持されスプロケット35と連結してスプロケット35に回転駆動力を伝達する回転軸37と、回転軸37に回転駆動力を与える減速機付き電動機38とを有している。
このような構成とすることにより、減速機付き電動機38を駆動させて回転軸37を回転させるとスプロケット35をチェーン32に噛合させながら回転させることができる。これにより、第1、第2のレール13、14の上下両端部に対してフレーム部34をローラーベアリング33を介して摺動させることができる。その結果、第1、第2のレール13、14に沿って走行台車15、16をそれぞれ移動させることができる。なお、符号39はローラーベアリング33をフレーム部34に取付ける固定用ノブである。
【0021】
縦ガイド部材17は、走行台車15、16にそれぞれ取付け部材40、41を介して両側が固定される連結部42と、連結部42に取付け台43を介して両側がそれぞれ固定される縦レール44を有している。ここで、縦レール44の前側面にはラック歯45が取付けられている。昇降台車18は、縦レール44の水平方向の両端部を、それぞれ摺動機構の一例であるローラーベアリング46を介して左右方向から挟持するフレーム部47と、フレーム部47内に設けられラック歯45に噛合して回転駆動するピニオン48と、フレーム部47に設けられた図示しない軸受により回転可能に支持されピニオン48と連結してピニオン48に回転駆動力を伝達する図示しない回転軸と、回転軸に回転駆動力を与える減速機付き電動機49とを有している。なお、符号50はローラーベアリング46をフレーム部47に取付ける固定用ノブである。
このような構成とすることにより、減速機付き電動機49を駆動させて回転軸を回転させるとピニオン48をラック歯45に噛合させながら回転させることができる。これにより、縦レール44の左右両端部に対してフレーム部47をローラーベアリング46を介して摺動させることができる。その結果、縦レール44に沿って昇降台車18を移動させることができる。
【0022】
水平ロッド部材19は、昇降台車18のフレーム部47に固定され水平方向の両側に開口を備えた筒体51内を水平方向に貫通して設けられ、筒体51の天井面及び底面にそれぞれ配置された摺動機構の一例であるローラーベアリング52を介して上下両端部が摺動可能に支持された水平レール53と、水平レール53の裏面側に取付けられた水平フレーム54と、水平レール53の表面側に取付けられたラック歯55とを有している。そして、筒体51内にはラック歯55に噛合して回転するピニオン56が設けられ、ピニオン56は図示しない回転軸を介して減速機付き電動機57の回転軸と連結している。なお、符号58はローラーベアリング52を筒体51に取付ける固定用ノブである。
このような構成とすることにより、減速機付き電動機57を駆動させて回転軸を回転させるとピニオン56をラック歯55に噛合させながら回転させることができる。これにより、水平レール53をその上下両端部をローラーベアリング52で支えられながら水平方向に移動させることができ、水平レール53と共に水平フレーム54を移動させることができる。
【0023】
図5〜図7に示すように、水平ロッド部材19の水平フレーム54の一端部には、溶接トーチ24を取付ける取付け金具20が設けられている。ここで、取付け金具20は水平フレーム54の一端部に取付けられた連結部59と、連結部59に対して水平フレーム54の軸心に直交して取付けられた固定板60と、固定板60の一側に距離を開けて平行に立設され先側が平面視して円板状となった対となる取付け板61、62を有している。
【0024】
また、傾動機構22は、一側が円板状となって取付け板61、62に外側から当接し第1のピン65を介して回動可能に取付けられるガイド板63、64を備えた第1の傾動部66を有している。なお、ガイド板63、64の他端部は、それぞれ連結板67の両側に連結しており、ガイド板64には、第1のピン65の中心位置を中心とする異なる2つの半径の円弧(中心角が90〜100度)で挟まれた弧状孔68、69が第1のピン65の中心位置に対して対称に形成され、弧状孔68、69には取付け板62に立設された第2のピン70、71がそれぞれ嵌入している。更に、傾動機構22は、連結板67の中央部に形成された図示しない挿通孔を挿通する第3のピン72を中央部に備えて連結板67の下面側に当接し回動可能なトーチ取付け板73と、トーチ取付け板73の第3のピン72の先側に形成された雌ねじ部に螺合し連結板67に対して任意の角度位置まで回動した状態のトーチ取付け板73を固定する固定用ノブ74とを備えた第2の傾動部75を有している。
【0025】
進退機構21は、トーチ取付け板73の下面側に取付けられ、平面視して矩形状のフレーム部76と、フレーム部76の長手方向に沿って電動機77の回転駆動力により進退する図示しないスライド台と、スライド台の下面側に取付けられた架台部78とを有している。更に、フレーム部76には、架台部78を突出させた状態でスライド台の進退範囲を覆ってフレーム部76内に埃が進入するのを防止する伸縮性のカバー部材79が設けられている。そして、架台部78の上側にはオシレート機構23が取付けられ、オシレート機構23に取付け部材80を介して溶接トーチ24が取付けられている。更に、図6に示すように、架台部78の下側には、センサー収納部81が取付けられ、センサー収納部81内には溶接トーチ24と排ガス通路の側壁部材11の表面との距離を測定する距離センサーの一例である超音波センサー82が設けられている。ここで、超音波センサー82では、非接触式で距離を測定することができるので、溶接トーチ24を制約を比較的受けずに移動させることが可能になる。なお、溶接トーチ24を比較的自由に移動させることができる場合は、例えば、検出部に差動トランスを用いた接触式の距離センサーを使用することができる。
【0026】
以上の構成により、傾動機構22の第1の傾動部66を用いて連結板67を水平ロッド部材19の軸方向に対して傾斜させることができ、第2の傾動部75を用いて連結板67に対してトーチ取付け板73を連結板67面内で傾動させることができる。その結果、水平ロッド部材19の一端部で、溶接トーチ24を任意の方向に向けることができる。更に、進退機構21により、溶接トーチ24と排ガス通路の側壁部材11との距離を任意に調整できる。これにより、排ガス通路の側壁部材11の溶接部に対して、溶接トーチ24の方向を所定の溶接方向になるように調整すると共に、溶接部と溶接トーチ24との距離を、設定した溶接距離に調整できる。
なお、第1、第2のレール13、14、走行台車15、16、縦ガイド部材17、昇降台車18、水平ロッド部材19、取付け金具20、進退機構21、傾動機構22、オシレート機構23、及び溶接トーチ24は、いずれも、主要部材にアルミ材質を使用し、例えば重量が20kg以下の構成部品に分解可能な構成となっている。これによって、現地において構造物の溶接装置10を容易に組み立てることができ、作業終了後には素早く分解することが可能になる。
【0027】
図1に示すように、制御装置25には、第1、第2のレール13、14に沿って移動する対となる走行台車15、16の走行を制御する走行台車制御部、縦ガイド部材17に沿って上下動する昇降台車18の移動を制御する昇降台車制御部、昇降台車18に対して水平方向に水平ロッド部材19を進退させる水平ロッド制御部、超音波センサー82からの信号に基づいて溶接トーチ24を排ガス通路の側壁部材11の溶接部に対して進退させる進退機構21の動作を制御するトーチ進退制御部が設けられている。これによって、排ガス通路の側壁部材11の溶接部及び溶接部に対する溶接距離を決めて、溶接部に対して溶接トーチ24の方向を傾動機構22により予め設定しておくと、溶接トーチ24を自動で溶接部位に向けて移動させ、溶接部から設定された溶接距離を有して溶接トーチ24を配置することができる。これによって、溶接部の凹凸に応じて溶接トーチ24を進退させること(倣い制御)が可能になる。
【0028】
更に、制御装置25には、オシレート機構23の動作を制御するオシレート制御手段が設けられている。一方、パルスMIG溶接機27は、溶接トーチ24と、溶接トーチ24に不活性ガス(例えば、アルゴンガス)を供給しながらパルス電力を供給するガス電力供給部86と、ガス電力供給部86からのパルス電力供給に同期して溶接トーチ24に溶接ワイヤ26を供給するワイヤ供給部87とを有している。このような構成とすることにより、排ガス通路の側壁部材11の溶接部に対して溶接トーチ24を向けて、オシレート制御手段により溶接トーチ24を単位時間当たり設定した回数で一定の振幅となるように水平面内で振動させながらパルスMIG溶接機27を駆動させると、溶接部に一定幅の溶接肉盛層を形成することができる。
【0029】
続いて、本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法について説明する。
先ず、転炉排ガス処理設備が設置されている現地で、垂直に設けられた断面が円形の排ガス通路の側壁部材11で肉盛溶接部を形成する領域を上下から挟むように第1、第2のレール13、14をそれぞれ配置する。そして、第1、第2のレール13、14にそれぞれ走行台車15、16を取付け、走行台車15、16を縦ガイド部材17で連結する。また、縦ガイド部材17に昇降台車18を取付け、昇降台車18に水平ロッド部材19を取付ける。更に、水平ロッド部材19の一端部に取付け金具20を取付け、取付け金具20に進退機構21及び傾動機構22を介してオシレート機構23付きの溶接トーチ24を固定する。続いて、走行台車15、16、昇降台車18、及び水平ロッド部材19にそれぞれ設けられた減速機付き電動機38、49、57、並びに進退機構21に設けられた電動機77を、制御装置25に設けられた走行台車制御部、昇降台車制御部、水平ロッド制御部、トーチ進退制御部と接続し、オシレート機構23はオシレート制御手段と接続する。そして、溶接トーチ24をガス電力供給部86と接続すると共に、溶接トーチ24にワイヤ供給部87からニッケル基合金又はステンレス合金の溶接ワイヤ26を供給する。これによって、側壁部材11への溶接装置10の配置が完了する。
【0030】
次いで、排ガス通路の側壁部材11における肉盛溶接を開始する位置(側壁部材11の任意の周方向角度位置で肉盛溶接領域の上端)を決め、制御装置25の走行台車制御部により対となる走行台車15、16を第1、第2のレール13、14に沿って移動させ、次いで昇降台車制御部により昇降台車18を縦ガイド部材17に沿って上昇させる。そして、水平ロッド制御部により昇降台車18に対して水平方向に水平ロッド部材19を移動させ、更に、超音波センサー82による溶接トーチ24と側壁部材11との距離を測定しながらトーチ進退制御部を介して進退機構21を電動機77を駆動させて操作し水平ロッド部材19の一端部の取付け金具20に取付けられた溶接トーチ24と側壁部材11の溶接部との距離を予め設定された溶接距離に調整すると共に、傾動機構22を手動で操作して溶接部に対する溶接トーチ24の方向を調整する。以上の操作により、肉盛溶接を開始する位置の溶接部に対して立て向き下進溶接を行なうための溶接トーチ24の位置決め作業が終了する。
【0031】
続いて、ウィービング振幅が7mm以上で20mm以下(好ましくは、下限を8mm、上限を、14mm、更には13mm)、ウィービング振動数が7回/秒以下(好ましくは、5回/秒以下)となるようにオシレート機構23を駆動させると共にパルスMIG溶接機27を稼動させながら昇降台車制御部により昇降台車18を縦ガイド部材17に沿って2mm/秒以上で17mm/秒以下(好ましくは、下限を3mm/秒)の下進溶接速度Sで下降させる。これにより、溶接トーチ24に不活性ガスを供給しパルス電力供給に同期して溶接トーチ24に溶接ワイヤ26を供給すると共に、溶接トーチ24を水平面内で振動させながら徐々に下降させることができ、パルスMIG溶接により肉盛溶接を開始する位置から下方に向けて、7〜20mmの一定幅の肉盛溶接部が徐々に形成されていく。
【0032】
ここで、溶接トーチ24を下方に移動させる、即ち下進溶接することにより、溶接ワイヤ26の溶解により形成された肉盛溶接部の一部は溶接部から垂れて溶接部の下側の側壁部材11上に溶着金属層を形成することになり、溶接ワイヤ26とこの溶着金属層の間にアークが発生することになって、側壁部材11の表層部がアークにより溶融する深さが浅くなる。更に、パルス電力供給では、溶接電流Iを100〜300アンペア、溶接電圧Vを10〜30ボルトの範囲でそれぞれ調整するので、下進溶接の溶接部への入熱量Qを400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下(好ましくは、上限を700Joule/mm)とすることができ、これによって、側壁部材11を構成する基材の溶け込みによる希釈率が10質量%以下となる肉盛溶接部を一筋形成することができる。ここで、入熱量Qは、IV/Sを用いて算定し、ウィービングは考慮していない。
【0033】
なお、別の手法により、肉盛溶接部の重ね代を、以下検討する。
図8(A)、(B)に示すように、肉盛溶接部は、間隔を有して配置された水管パネルの構造物に形成している。なお、図8(A)、(B)において、符号1a〜7aは肉盛溶接部の溶接ビードを示しており、その番号は溶接部に溶接ビードが形成される順番を示している。これにより肉盛溶接部を多層盛りとすることができる。即ち、水管パネルの各水管150を連接する各平板151の上に肉盛溶接して1番目の溶接ビードを形成し(図8(A)、(B)に示す1a、2a)、この溶接ビードと水管150の上に被さるようにして2番目の溶接ビードを形成する(図8(A)、(B)に示す3a、4a)。次に、2番目の溶接ビードと水管150の上に被さるように3番目の溶接ビードを形成し(図8(A)、(B)に示す5a、6a)、最後に3番目の溶接ビードと水管150の上に被さるように4番目の溶接ビードを形成する(図8(A)、(B)に示す7a)。このように、各水管150と各平板151の同じ領域を順次溶接することによって、熱ひずみを最小にできる。ここで、各溶接ビードに以下に説明する多層盛りを適用するのが好ましく、これによって表面がインコネルの肉盛溶接部が形成される。
ここで、水管パネルにインコネル625を、直流又は交流のパルス溶接のMIG溶接で下進溶接した場合、ウィービング幅とビード幅の関係について説明する。
ウィービング幅が5〜15mmの場合、ビード幅は8〜20mmになるため、溶接トーチの速度を適切に調整して形成した溶接ビードの重ね代の限定範囲の下限値は、(8mm−5mm)/8mm=0.24、又は(20mm−15mm)/20mm=0.25にできる。
しかし、ウィービング幅とビード幅の関係は、肉盛溶接する水管内部の水冷状態により変化するため、水冷が十分行われている場合には、溶接部のウィービングなしの溶接トーチで溶接する場合の溶接ビードの幅が小さくなり、ウィービング幅とビード幅の差異が小さくなるので、この下限値をビード幅の0.15倍とすることができる。
【0034】
一方、上限値は、後述するように、ビードを肉盛溶接する位置によってビードの重なりが片方だけの場合と両側に生ずる場合があるので、溶接トーチの速度を適切に調整して形成した溶接ビードの重ね代の下限値の2倍以上となるため、0.25×2=0.50となる。
通常、構造物の肉盛溶接を施工する場合、構造物の溶接熱ひずみによる曲り等の変形を防止するため、先に溶接したビードとは対称となる反対側の位置に肉盛溶接の施工をする。
これらを交互に繰返し、最後に構造物の中央部の位置における位置の肉盛溶接を施工して、肉盛溶接施工は完成し、最終の溶接ビードには、前述したように重なりが両側に発生する。従って、上限値は、ビード幅の0.55倍とすることができる。
【0035】
また、図9(A)に示すように、肉盛溶接部100は、予め形成された溶接ビード101の上に他の溶接ビード102の一部、この溶接ビード102の上に他の溶接ビード103の一部を重ねる溶接作業を複数回行って形成することが好ましい。また、図9(B)に示すように、肉盛溶接部110は、予め形成された溶接ビード111の上に他の溶接ビード112の一部、この溶接ビード112の上に他の溶接ビード113の一部を重ねる溶接作業を複数回行って形成することが好ましい。なお、図9(A)、(B)においては、ウィービングを図示していない。
このとき、図9(A)に示すように、溶接ビード101に対する他の溶接ビード102、及び溶接ビード102に対する溶接ビード103の溶接狙い位置、即ち、溶接トーチの位置決め位置P1を、単一ビードの端からこの単一ビードの幅dの0.15倍以上とする。また、溶接ビード111に対する他の溶接ビード112、及び溶接ビード112に対する溶接ビード113の溶接狙い位置、即ち、溶接トーチの位置決め位置を、単一ビードの端からこの単一ビードの幅の0.45倍以下、好ましくは0.33倍以下、更に好ましくは、図9(B)に示すように、溶接トーチの位置決め位置P2を、単一ビードの端からこの単一ビードの幅dの0.25倍以下とする。
これにより、溶接ビードを3層以上積層する。なお、単一ビード幅とは、前記した溶接条件と同一条件で、ウィービングを行うことなく直線的に溶接を行った場合に形成される溶接ビードの幅dを意味する。
【0036】
ここで、他の溶接トーチの位置決めした位置が、単一ビード幅の0.15倍未満の場合、形成される溶接ビードの重なる領域が少なくなり、下層に形成された溶接ビードが表面に露出し、希釈された部分が表面に現れ易くなる。なお、溶接トーチの位置決め位置を、単一ビード幅の0.15倍とした場合、図9(A)に示すように、溶接ビードを3層以上積層できない領域が発生するように思われる。しかし、前記したように、本実施の形態では下進溶接を行っているので、溶接ワイヤの溶解により形成された肉盛溶接部の一部が溶接部から垂れ、溶接部の下側の側壁部材上に溶着金属層を形成するため問題ない。
一方、単一ビード幅の0.45倍を超える場合、溶接ビードが過剰に積層されることになり、下進速度が遅くなり過ぎて作業効率の低下を招く。
【0037】
以上のことから、上から重ねられる他の溶接ビードの溶接狙い位置を、単一ビードの端から単一ビードの幅の0.15倍以上0.45倍以下の範囲内としたが、下限を0.17倍、上限を0.33倍、更には0.25倍とすることが好ましい。
このように、肉盛溶接部を形成するに際しては、溶接ビードを積層するごとに、基材の溶け込みによる希釈率が低減され、特に肉盛溶接部の最表層部となる溶接ビードの希釈率を10質量%以下、更には5質量%以下まで低減できる。
なお、複数の溶接ビードを積層するに際しては、下層となる溶接ビードが凝固した後に、その上から溶接ビードを形成することが好ましい。これにより、下層となる溶接ビードの希釈率が高くなったとしても、その上から積層される溶接ビードへの溶け込みが少なく、希釈率の低減が図れる。この方法としては、例えば、ウィービングの振動数を遅くする方法がある。
【0038】
以上に示した方法を適用し、溶接トーチ24を下降させて、排ガス通路の側壁部材11における肉盛溶接の終了の位置(内肉盛溶接を開始した位置と同一の周方向角度位置で肉盛溶接領域の下端)まで肉盛溶接部が形成されると、昇降台車18を停止させると共に、オシレート機構23及びパルスMIG溶接機27を停止させる。次いで、排ガス通路の側壁部材11における肉盛溶接部を形成した周方向角度位置から離れた周方向角度位置(例えば、周方向角度差が90〜180度となる位置)で肉盛溶接領域の上端となる位置に向けて、走行台車15、16、昇降台車18、及び水平ロッド部材19を操作することで溶接トーチ24を移動させ、更に、進退機構21及び傾動機構22を操作して、溶接トーチ24と側壁部材11の溶接部との溶接距離及び溶接部に対する溶接トーチ24の方向を調整する。そして、オシレート機構23を駆動させると共にパルスMIG溶接機27を稼動させながら昇降台車制御部により昇降台車18を縦ガイド部材17に沿って下降させ、肉盛溶接領域の下端となる位置まで肉盛溶接部を形成すると、昇降台車18を停止させると共に、オシレート機構23及びパルスMIG溶接機27を停止させる。これにより、側壁部材11に二筋目の肉盛溶接部が形成される。二筋目の肉盛溶接部を一筋目の肉盛溶接部を形成した場所から離れた位置に形成することにより、排ガス通路の側壁部材11に対する肉盛溶接に伴う入熱を分散させることができ、排ガス通路の熱変形を防止することができる。
【0039】
側壁部材11への二筋目の肉盛溶接部の形成が終了すると、溶接トーチ24を三筋目の肉盛溶接部を開始する位置まで移動させ、溶接トーチ24と側壁部材11の溶接部との溶接距離及び溶接部に対する溶接トーチ24の方向を調整して、肉盛溶接を開始する。以上の肉盛溶接作業を繰り返すことにより、排ガス通路の側壁部材11全周に肉盛溶接部を形成することができる。
ここで、走行台車15、16にそれぞれ距離計を設けると共に、走行台車制御部に、走行台車15、16の移動機能、走行台車15、16の停止機能、走行台車15、16の移動速度調整機能、走行台車15、16の移動距離計測機能、走行台車15、16の移動(停止)回数の計数機能、及び各機能を組み合わせて走行台車15、16に複合動作を行なわせるプログラム機能を設けることにより、予め、溶接開始位置、即ち走行台車15、16の初期位置、走行台車15、16の移動速度、走行台車15、16の移動距離、走行台車15、16の移動(停止)回数のデータを走行台車制御部に入力することで、一つの肉盛溶接作業が終了すると、自動で次の肉盛溶接位置に向けて溶接トーチ24を移動させることができる。
【0040】
また、昇降台車18に距離計を設けると共に、昇降台車制御部に、昇降台車18の移動機能、停止機能、移動速度調整機能、移動距離計測機能、及び各機能を組み合わせて昇降台車18に複合動作を行なわせるプログラム機能を設けることにより、予め、溶接開始位置、即ち昇降台車18の初期位置、昇降台車18の移動速度、移動距離のデータを昇降台車制御部に入力することで、一つの肉盛溶接作業を自動で行なうことができる。
更に、制御装置25に、走行台車15、16及び昇降台車18を連携させて移動させた際に走行台車15、16及び昇降台車18の位置をそれぞれ記憶する位置記憶機能、位置記憶機能に記憶された走行台車15、16及び昇降台車18の各位置データに基づいて走行台車制御部及び昇降台車制御部を介して走行台車15、16及び昇降台車18を連携動作させる連携動作機能を備えた連携動作制御部を設けることにより、予め、肉盛溶接を行なう経路に沿って溶接トーチ24を移動させて溶接経路を教えておくと、教えた溶接経路に沿って自動で溶接トーチ24を移動させることができる。これによって、曲線状の肉盛溶接が可能になる。
以上の実際の形態においては、肉盛溶接を開始する位置の溶接部に対して立て向き下進溶接を行なう場合について説明したが、水平溶接を行うこともできる。この場合、下進溶接速度は、水平溶接速度となる。
【0041】
続いて、本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法で形成した肉盛溶接部について説明する。
ここで、ニッケル基合金の溶接ワイヤ26は、(1)ニッケルを36.5質量%以上、クロムを14.0〜23.5質量%含有する合金のソリッドワイヤ、(2)ニッケルを36.5質量%以上、モリブデンを5.5〜30.0質量%含有する合金のソリッドワイヤ、(3)ニッケルを36.5質量%以上、クロムを14.0〜23.5質量%、及びモリブデンを5.5〜30.0質量%含有する合金のソリッドワイヤをいい、具体的には表1に示すソリッドワイヤがある。
また、ステンレス合金の溶接ワイヤ26は、(1)ニッケルを9.0〜22.5質量%、クロムを11.5〜28.0質量%含有する合金のソリッドワイヤ、(2)ニッケルを9.0〜22.5質量%、モリブデンを2.0〜3.0質量%含有する合金のソリッドワイヤ、(3)ニッケルを9.0〜22.5質量%、クロムを11.5〜28.0質量%、及びモリブデンを2.0〜3.0質量%含有する合金のソリッドワイヤ、(4)ニッケルを16.0質量%以下、クロムを11.0質量%以上含有する合金のフラックス入りワイヤをいい、具体的には表2に示すものがある。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
そして、下進溶接の入熱量を400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下に制限するので、排ガス通路の側壁部材11に形成した肉盛溶接部では、側壁部材11からの溶け込み量が少なくなって希釈率が10質量%以下になっている。このため、肉盛溶接部ではニッケル基合金又はステンレス合金が本来備えている特性が維持され、肉盛溶接部の耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性を図ることが可能になる。その結果、肉盛溶接部の厚さを1.5mm以上にすることで、長期間に渡り側壁部材11の保護を行なうことができる
【実施例】
【0045】
(実施例1)
垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に使用し、パルスMIG溶接機を用いて、表3に示すA〜Fと表4に示すK〜Vの溶接条件でインコネル625(YNiCrMo−3)のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。また、比較例として、垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に使用し、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すG〜Jの溶接条件でインコネル625のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。なお、表3は立て向き下進溶接での溶接条件であり、表4は水平溶接での溶接条件である。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
表4から明らかなように、実施例では、溶け込み深さの平均が、最大でも0.5mm程度であり、希釈率の低減が図れることを確認できた。
また、表3の溶接条件については、得られた肉盛溶接部のニッケル、クロム、及びモリブデンの各成分の基材からの希釈率を求めると共に、鉄の濃化率を求めた。また、形成した肉盛溶接部の一部については、濃度32%の塩酸と濃度65%の硝酸を3:1の割合で混合した腐食液に120分間浸漬した際の腐食減量の測定を行なった。その結果を表5に示す。なお、成分Xの希釈率は、溶接ワイヤ中のXの分析値をXW、肉盛溶接部中のXの分析値をXBとした場合、100(XW−XB)/XWから求めた。また、鉄の濃化率は、溶接ワイヤ中の鉄の分析値をFW、肉盛溶接部中の鉄の分析値をFBとした場合、100(FB−FW)/(100−FW)から求めた。なお、表5には、使用したインコネル625のソリッドワイヤ中のニッケル、クロム、モリブデン、鉄、及びその他成分の含有率も合わせて示している。また、希釈率の平均欄は、ニッケル、クロム、及びモリブデンの各希釈率の平均希釈率を示し、−符号は濃化を示す。
【0049】
【表5】
【0050】
表5から、本実施例では、肉盛溶接部のニッケル、クロム、及びモリブデンの各成分の基材からの希釈率を10質量%以下にできることが確認された。そして、希釈率を10質量%以下にできることから、肉盛溶接部にニッケル基合金が本来備えている耐腐食性を付与できることが確認できた。
【0051】
(実施例2)
垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すA〜Fの溶接条件でハステロイX(YNiCrMo−2)のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。また、比較例として、垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に使用し、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すG〜Jの溶接条件でハステロイXのソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した.そして、得られた肉盛溶接部のニッケル、クロム、及びモリブデンの各成分の基材からの希釈率を求めると共に、鉄の濃化率を求めた。その結果を表6に示す。なお、表6には、使用したハステロイXのソリッドワイヤ中のニッケル、クロム、モリブデン、鉄、及びその他成分の含有率も合わせて示している。また、希釈率の平均欄は、ニッケル、クロム、及びモリブデンの各希釈率の平均希釈率を示し、−符号は濃化を示す。
表6から、本実施例では、肉盛溶接部のニッケル、クロム、及びモリブデンの各成分の基材からの希釈率を10質量%以下にできることが確認された。
【0052】
【表6】
【0053】
(実施例3)
垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すA〜Fの溶接条件で25Cr−20Niステンレス合金(Y310)のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。また、比較例として、垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に使用し、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すG〜Jの溶接条件で25Cr−20Niステンレス合金のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。そして、得られた肉盛溶接部のニッケル及びクロムの各成分の基材からの希釈率を求めると共に、鉄の濃化率を求めた。その結果を表7に示す。なお、表7には、使用した25Cr−20Niステンレス合金のソリッドワイヤ中のニッケル、クロム、鉄、及びその他成分の含有率も合わせて示している。また、希釈率の平均欄は、ニッケル及びクロムの各希釈率の平均希釈率を示し、−符号は濃化を示す。
表7から、本実施例では、肉盛溶接部のニッケル及びクロムの各成分の基材からの希釈率を10質量%以下にできることが確認された。
【0054】
【表7】
【0055】
(実施例4)
垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すA〜Fの溶接条件で13Crステンレス合金(420J2)のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。また、比較例として、垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に使用し、パルスMIG溶接機を用いて表3に示すG〜Jの溶接条件で13Crステンレス合金のソリッドワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。そして、得られた肉盛溶接部のクロム成分の基材からの希釈率を求めると共に、鉄の濃化率を求めた。その結果を表8に示す。なお、表8には、使用した13Crステンレス合金のソリッドワイヤ中のクロム、鉄、及びその他成分の含有率も合わせて示している。また、表中の−符号は濃化を示す。
表8から、本実施例では、肉盛溶接部のクロム成分の基材からの希釈率を10質量%以下にできることが確認された。
【0056】
【表8】
【0057】
(実施例5)
垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に、MAG溶接機を用いて表3に示すA〜Fの溶接条件で23Cr−13Ni−2.5Moステンレス合金(YF309Mo)のフラックス入りワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した。また、比較例として、垂直に保持した厚さ5mmのSS400を基材に使用し、MAG溶接機を用いて表3に示すG〜Jの溶接条件で23Cr−13Ni−2.5Moステンレス合金(YF309Mo)のフラックス入りワイヤを溶接ワイヤとして肉盛溶接部を形成した.そして、得られた肉盛溶接部のニッケル、クロム、及びモリブデンの各成分の基材からの希釈率を求めると共に、鉄の濃化率を求めた。その結果を表9に示す。なお、表9には、使用した23Cr−13Ni−2.5Moステンレス合金(YF309Mo)のフラックス入りワイヤ中のニッケル、クロム、モリブデン、鉄、及びその他成分の含有率も合わせて示している。また、希釈率の平均欄は、ニッケル、クロム、及びモリブデンの各希釈率の平均希釈率を示し、−符号は濃化を示す。
表9から、本実施例では、肉盛溶接部のニッケル、クロム、及びモリブデンの各成分の基材からの希釈率を10質量%以下にできることが確認された。
【0058】
【表9】
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の肉盛溶接方法及びそれを用いて形成した肉盛溶接部を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、第1、第2のレール上に、縦ガイド部材、昇降台車、水平ロッド部材、溶接トーチをそれぞれ複数任意位置、好ましくは複数均等位置に配置してもよい。これによって、同時に複数筋の肉盛溶接部を排ガス通路の内面に形成することができ、排ガス通路の内面全周に肉盛溶接部を短時間で形成することができる。
本実施の形態では、垂直に設けられた中空長尺の構造物の一部又は全部である基材の一例として、転炉排ガス処理設備の排ガス通路の側壁部材表面に肉盛溶接部を形成したが、転炉排ガス処理設備の転炉フードの内面、ごみ焼却炉の煙道の側壁部材、排ガス通路内の熱交換チューブの外面等のように、第1、第2のレールが取付け可能であれば断面が任意形状の構造体の内面又は外面に対しても、更に、熱交換器の熱交換チューブパネルの内面のように平面状の構造体に対しても本発明を適用して肉盛溶接部を形成することができる。なお、基材の厚みは1.5mm以上とする。また、斜めに設けられた構造物に対して適用することもできる。基材が複数の管を長尺板材で連結した伝熱部材であってもよい。
そして、本実施の形態では、パルスMIG溶接機を用いて溶接を行ったが、その他のMIG溶接機又はMAG溶接を使用して溶接を行ってもよい。更に、本実施の形態では、同一溶接部に1回の肉盛溶接を行ったが、2回以上の肉盛溶接を行うこともできる。
【0060】
本実施の形態では、図2に示すように、縦ガイド部材17の縦レール44が第1、第2のレール13、14の間に配置されるようにしたが、図10に示す縦ガイド部材17aのように、連結部83を長くして、縦レール84の両側が第1、第2のレール13、14の外側にそれぞれ突出するようにしてもよい。これによって、ラック歯85の長さを長くでき、昇降台車18を第1、第2のレール13、14の外側領域まで移動させて、第1、第2のレール13、14の外側領域に肉盛溶接部を形成することができる。
また、各走行台車15、16に設けた取付け部材40、41に連結部の両側をそれぞれ固定したが、図11に示す縦ガイド部材17bのように、連結部88に伸縮機構89を設けて連結部88の長さを可変にすると共に、連結部88の両側を取付け部材40、41にそれぞれピン部材90を用いてピン結合することもできる。これによって、各走行台車15、16を第1、第2のレール13、14上で単独動作させることで、連結部88を手動操作により傾斜させることができる。その結果、肉盛ビード芯が傾斜している場合、縦レール44の軸方向を肉盛ビード芯の軸方向に実質的に一致させて昇降台車18を肉盛ビード芯の軸方向に沿って斜行させることができ、スカート等の末広がり構造の構造物の内面又は外面に肉盛溶接部を形成することができる。
更に、図12に示すように、排ガス通路が斜めに設けられている場合は、排ガス通路の側壁部材91の肉盛溶接部を形成する領域を斜め上と斜め下から挟むように排ガス通路の側壁部材91の全周に渡って第1、第2のレール92、93を配置する。そして、第1、第2のレール92、93にそれぞれ走行台車15、16を設け、走行台車15、16を縦ガイド部材17で連結し、縦ガイド部材17には縦ガイド部材17の軸方向に移動する昇降台車18を設け、昇降台車18には昇降台車18に対して水平方向、即ち、縦位ガイド部材17と直交する方向に進退する水平ロッド部材19を取付け、水平ロッド部材19の一端部に設けられた取付け金具20に進退機構21及び傾動機構22を介して進退及び傾動可能にオシレート機構23付きの溶接トーチ24を設けるようにすればよい。なお、走行台車15、16には、それぞれ駆動源として減速機付きの電動機(図示せず)を搭載させ、各減速機付きの電動機は同調運転させる。これにより、第1、第2のレール92、93上を、走行台車15、16は安定して走行することができ、斜めに設けられた排ガス通路の側壁部材91の任意の部位に肉盛溶接部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法で使用する溶接装置のブロック図である。
【図2】同溶接装置の部分正断面図である。
【図3】同溶接装置の部分側断面図である。
【図4】同溶接装置の部分平断面図である。
【図5】同溶接装置の溶接トーチの取付け状態を示す平面図である。
【図6】同溶接トーチの取付け状態を示す正面図である。
【図7】同溶接トーチの取付け状態を示す側面図である。
【図8】(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法を使用して形成した肉盛溶接部の正断面図、平面図である。
【図9】(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る肉盛溶接方法の説明図である。
【図10】第1の変形例に係る縦ガイド部材の説明図である。
【図11】第2の変形例に係る縦ガイド部材の説明図である。
【図12】変形例に係る溶接装置の説明図である。
【符号の説明】
【0062】
10:溶接装置、11:側壁部材、12:支持金具、13:第1のレール、14:第2のレール、15、16:走行台車、17、17a、17b:縦ガイド部材、18:昇降台車、19:水平ロッド部材、20:取付け金具、21:進退機構、22:傾動機構、23:オシレート機構、24:溶接トーチ、25:制御装置、26:溶接ワイヤ、27:パルスMIG溶接機、28:固定部、29:レール部材、30:座板部材、31:レール受け部、32:チェーン、33:ローラーベアリング、34:フレーム部、35:スプロケット、36:軸受、37:回転軸、38:減速機付き電動機、39:固定用ノブ、40、41:取付け部材、42:連結部、43:取付け台、44:縦レール、45:ラック歯、46:ローラーベアリング、47:フレーム部、48:ピニオン、49:減速機付き電動機、50:固定用ノブ、51:筒体、52:ローラーベアリング、53:水平レール、54:水平フレーム、55:ラック歯、56:ピニオン、57:減速機付き電動機、58:固定用ノブ、59:連結部、60:固定板、61、62:取付け板、63、64:ガイド板、65:第1のピン、66:第1の傾動部、67:連結板、68、69:弧状孔、70、71:第2のピン、72:第3のピン、73:トーチ取付け板、74:固定用ノブ、75:第2の傾動部、76:フレーム部、77:電動機、78:架台部、79:カバー部材、80:取付け部材、81:センサー収納部、82:超音波センサー、83:連結部、84:縦レール、85:ラック歯、86:ガス電力供給部、87:ワイヤ供給部、88:連結部、89:伸縮機構、90:ピン部材、91:側壁部材、92:第1のレール、93:第2のレール、100:肉盛溶接部、101〜103:溶接ビード、110:肉盛溶接部、111〜113:溶接ビード、150:水管、151:平板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直又は斜めに設けられた中空長尺の構造物の一部又は全部であって厚さ1.5mm以上の基材表面に、ニッケル基合金又はステンレス合金を肉盛溶接して、耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性に優れた肉盛溶接部を形成する肉盛溶接方法において、
MIG溶接又はMAG溶接を行う溶接機を含む溶接装置を前記構造物に取付けて、前記溶接機を用いて行う溶接部のウィービングの振幅を7mm以上で20mm以下、該ウィービングの振動数を7回/秒以下、溶接速度を2mm/秒以上で17mm/秒以下にして、前記肉盛溶接部の前記基材からの希釈率を10質量%以下にすることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項2】
請求項1記載の肉盛溶接方法において、前記溶接機による溶接の入熱量を400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下にすることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の肉盛溶接方法において、同一の前記溶接部に1回又は2回以上の肉盛溶接を行うことによって、前記肉盛溶接部の厚みを1.5mm以上とすることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の肉盛溶接方法において、前記ウィービングの振幅を7mm以上で14mm以下、該ウィービングの振動数を5回/秒以下、溶接速度を3mm/秒以上で17mm/秒以下にすることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項5】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の肉盛溶接方法において、前記肉盛溶接部は予め形成された溶接ビードの上に他の溶接ビードの一部を重ねて形成され、しかも上から重ねられる前記他の溶接ビードの溶接狙い位置を、単一ビードの端から該単一ビードの幅の0.15倍以上0.45倍以下の範囲内とし、前記溶接ビードを3層以上積層することを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の肉盛溶接方法において、前記構造物は筒状であって、前記溶接装置は、該構造物の内面上にそれぞれ支持金具を介して上下周方向に取付けられた第1、第2のレールと、該第1、第2のレールに沿って移動する対となる走行台車に連結された縦ガイド部材と、該縦ガイド部材に沿って上下動する昇降台車と、該昇降台車に取付けられて該昇降台車に対して水平方向に進退する水平ロッド部材と、該水平ロッド部材の一端部の取付け金具に前記構造物の内面の前記溶接部に向けて進退機構及び傾動機構を介して設けられ、前記溶接機の一部を構成する溶接トーチと、該溶接トーチのオシレート制御手段を含むこれらの制御装置と、前記溶接トーチに溶接ワイヤ及び電力を供給する前記溶接機とを有することを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項7】
請求項6記載の肉盛溶接方法において、前記第1、第2のレールを、それぞれ摺動機構を介して前記走行台車のフレーム部で挟持し、該第1、第2のレールの内側面にはチェーンがそれぞれ取付けられ、該走行台車に設けられた回転駆動するスプロケットを該チェーンに噛合させることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項8】
請求項6及び7のいずれか1項に記載の肉盛溶接方法において、前記第1、第2のレールに、前記縦ガイド部材、前記昇降台車、前記水平ロッド部材、前記溶接トーチをそれぞれ複数任意位置に設けることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の肉盛溶接方法において、前記溶接トーチと前記基材表面との距離を測定する距離センサーを設けることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項10】
厚さ1.5mm以上の基材表面に、ニッケル基合金又はステンレス合金からなる溶接材料を、MIG溶接機又はMAG溶接機を用いて、ウィービングの振幅を7mm以上で20mm以下、該ウィービングの振動数を7回/秒以下、溶接速度を2mm/秒以上で17mm/秒以下の条件で溶接を行って形成した肉盛溶接部であって、前記基材からの希釈率が10質量%以下であることを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項11】
請求項10記載の肉盛溶接部において、前記溶接機による溶接の入熱量が400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下であることを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項12】
請求項10及び11のいずれか1項に記載の肉盛溶接部において、該肉盛溶接部の厚さが1.5mm以上であることを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の肉盛溶接部において、前記ウィービングの振幅を7mm以上で14mm以下、該ウィービングの振動数を5回/秒以下、溶接速度を3mm/秒以上で17mm/秒以下にすることを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項14】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の肉盛溶接部において、該肉盛溶接部は予め形成された溶接ビードの上に他の溶接ビードの一部を積層して構成され、しかも上から重ねられる前記他の溶接ビードの溶接狙い位置を、単一ビードの端から該単一ビードの幅の0.15倍以上0.45倍以下の範囲内とし、前記溶接ビードを3層以上積層することを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか1項に記載の肉盛溶接部において、前記基材が複数の管を長尺板材で連結した伝熱部材であることを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項16】
請求項10〜14のいずれか1項に記載の肉盛溶接部において、前記基材が、製鉄用排ガス処理設備の排ガス通路の側壁部材であることを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項1】
垂直又は斜めに設けられた中空長尺の構造物の一部又は全部であって厚さ1.5mm以上の基材表面に、ニッケル基合金又はステンレス合金を肉盛溶接して、耐摩耗性、耐腐食性、及び耐熱衝撃性に優れた肉盛溶接部を形成する肉盛溶接方法において、
MIG溶接又はMAG溶接を行う溶接機を含む溶接装置を前記構造物に取付けて、前記溶接機を用いて行う溶接部のウィービングの振幅を7mm以上で20mm以下、該ウィービングの振動数を7回/秒以下、溶接速度を2mm/秒以上で17mm/秒以下にして、前記肉盛溶接部の前記基材からの希釈率を10質量%以下にすることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項2】
請求項1記載の肉盛溶接方法において、前記溶接機による溶接の入熱量を400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下にすることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の肉盛溶接方法において、同一の前記溶接部に1回又は2回以上の肉盛溶接を行うことによって、前記肉盛溶接部の厚みを1.5mm以上とすることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の肉盛溶接方法において、前記ウィービングの振幅を7mm以上で14mm以下、該ウィービングの振動数を5回/秒以下、溶接速度を3mm/秒以上で17mm/秒以下にすることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項5】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の肉盛溶接方法において、前記肉盛溶接部は予め形成された溶接ビードの上に他の溶接ビードの一部を重ねて形成され、しかも上から重ねられる前記他の溶接ビードの溶接狙い位置を、単一ビードの端から該単一ビードの幅の0.15倍以上0.45倍以下の範囲内とし、前記溶接ビードを3層以上積層することを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の肉盛溶接方法において、前記構造物は筒状であって、前記溶接装置は、該構造物の内面上にそれぞれ支持金具を介して上下周方向に取付けられた第1、第2のレールと、該第1、第2のレールに沿って移動する対となる走行台車に連結された縦ガイド部材と、該縦ガイド部材に沿って上下動する昇降台車と、該昇降台車に取付けられて該昇降台車に対して水平方向に進退する水平ロッド部材と、該水平ロッド部材の一端部の取付け金具に前記構造物の内面の前記溶接部に向けて進退機構及び傾動機構を介して設けられ、前記溶接機の一部を構成する溶接トーチと、該溶接トーチのオシレート制御手段を含むこれらの制御装置と、前記溶接トーチに溶接ワイヤ及び電力を供給する前記溶接機とを有することを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項7】
請求項6記載の肉盛溶接方法において、前記第1、第2のレールを、それぞれ摺動機構を介して前記走行台車のフレーム部で挟持し、該第1、第2のレールの内側面にはチェーンがそれぞれ取付けられ、該走行台車に設けられた回転駆動するスプロケットを該チェーンに噛合させることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項8】
請求項6及び7のいずれか1項に記載の肉盛溶接方法において、前記第1、第2のレールに、前記縦ガイド部材、前記昇降台車、前記水平ロッド部材、前記溶接トーチをそれぞれ複数任意位置に設けることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の肉盛溶接方法において、前記溶接トーチと前記基材表面との距離を測定する距離センサーを設けることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項10】
厚さ1.5mm以上の基材表面に、ニッケル基合金又はステンレス合金からなる溶接材料を、MIG溶接機又はMAG溶接機を用いて、ウィービングの振幅を7mm以上で20mm以下、該ウィービングの振動数を7回/秒以下、溶接速度を2mm/秒以上で17mm/秒以下の条件で溶接を行って形成した肉盛溶接部であって、前記基材からの希釈率が10質量%以下であることを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項11】
請求項10記載の肉盛溶接部において、前記溶接機による溶接の入熱量が400Joule/mm以上で1100Joule/mm以下であることを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項12】
請求項10及び11のいずれか1項に記載の肉盛溶接部において、該肉盛溶接部の厚さが1.5mm以上であることを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の肉盛溶接部において、前記ウィービングの振幅を7mm以上で14mm以下、該ウィービングの振動数を5回/秒以下、溶接速度を3mm/秒以上で17mm/秒以下にすることを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項14】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の肉盛溶接部において、該肉盛溶接部は予め形成された溶接ビードの上に他の溶接ビードの一部を積層して構成され、しかも上から重ねられる前記他の溶接ビードの溶接狙い位置を、単一ビードの端から該単一ビードの幅の0.15倍以上0.45倍以下の範囲内とし、前記溶接ビードを3層以上積層することを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか1項に記載の肉盛溶接部において、前記基材が複数の管を長尺板材で連結した伝熱部材であることを特徴とする肉盛溶接部。
【請求項16】
請求項10〜14のいずれか1項に記載の肉盛溶接部において、前記基材が、製鉄用排ガス処理設備の排ガス通路の側壁部材であることを特徴とする肉盛溶接部。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−93732(P2008−93732A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237132(P2007−237132)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(591209280)株式会社フジコー (25)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(591209280)株式会社フジコー (25)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]