説明

肌評価方法及び皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤のスクリーニング方法

【課題】老化といった肌質を評価することのできる新規なマーカーを探索し、分子レベルで当該肌質を評価する。
【解決手段】被験者から採取した生体由来試料における、E-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子の発現を測定し、測定対象の遺伝子の発現レベルに基づいて、上記被験者における皮膚老化度を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌質に関連する遺伝子の発現を測定するステップを含む肌評価方法、肌質に関連する遺伝子の発現を測定することで被検物質を備える皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤として評価するスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の加齢変化は、しわ、たるみ等の見た目や、ハリ、弾力等の触れた場合の感触等により認知される。そのため、見た目の皮膚老化度、いわゆる肌年齢の推定は外見からの判断により比較的容易に行えるし、また、皮膚表面に接触することを前提とする機器測定を利用すればより数値的な客観的なデータから肌年齢の推定が可能である。
【0003】
また、皮膚の老化マーカーとしては、実年齢や、しわ及びたるみ等の外的容貌の程度を挙げることができる。また、ある種の遺伝子(p53遺伝子、p63遺伝子、p16遺伝子及びFas遺伝子)については、その発現量の高低が実年齢と相関していることも知られており、分子レベルにおける老化マーカーとして報告されている。p53遺伝子については、非特許文献1(BMC Genomics 8: 80, 2007)及び非特許文献2(Nature 415: 45-53, 2002)にて報告されている。p63遺伝子については、非特許文献3(Genes & Development 19: 1986-1999, 2005)及び非特許文献4(J. Dermatol. Sci. 35: 113-123, 2004)にて報告されている。p16遺伝子については、非特許文献5(J. Clin. Invest. 114: 1299-1307, 2004)にて報告されている。Fas遺伝子については、非特許文献6(Br. J. Dermatol. 150: 56-63, 2004)にて報告されている。
【0004】
ところが、実年齢や外的容貌の程度といった指標では、肌質、特に老化を分子レベルで評価することができず、皮膚老化改善剤・予防剤の適応を分子レベルでは判断することができない。また、上述したような老化マーカーとして報告されている遺伝子群については、その全ての遺伝子を老化マーカーとして使用しても非常に複雑な現象である老化といった肌質を詳細に評価することができないといった問題があった。
【0005】
【非特許文献1】BMC Genomics 8: 80, 2007
【非特許文献2】Nature 415: 45-53, 2002
【非特許文献3】Genes & Development 19: 1986-1999, 2005
【非特許文献4】J. Dermatol. Sci. 35: 113-123, 2004
【非特許文献5】J. Clin. Invest. 114: 1299-1307, 2004
【非特許文献6】Br. J. Dermatol. 150: 56-63, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、老化といった肌質を評価することのできる新規なマーカーを探索し、分子レベルで当該肌質を評価することができる肌評価方法を提供することを目的とし、また、新規マーカーを指標として候補物質のなかから新規な皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤をスクリーニングする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討し、ヒト表皮における遺伝子発現解析の結果から老化に関連する新規なマーカーを探索することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明に係る肌評価方法は、被験者から採取した生体由来試料における、E-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子の発現を測定するステップと、測定対象の遺伝子の発現レベルに基づいて、上記被験者における皮膚老化度を評価するステップとを含んでいる。
【0009】
ここで、生体由来試料としては、特に限定されないが、例えば被験者から採取した皮膚組織を含むサンプルを挙げることができる。
【0010】
また、本発明に係る肌評価方法において、上記遺伝子の発現レベルは、特に限定されないが以下の少なくとも1つの方法により測定した値を使用することができる。
(3-a) 当該遺伝子のmRNA量を測定する方法
(3-b) 当該遺伝子の産物であるタンパク質量を測定する方法
【0011】
なお、本発明によれば、E-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子の発現を測定する手段を備える肌評価キットを提供することができる。
【0012】
本発明に係る肌評価キットにおいて、上記手段は、特に限定されないが、例えば以下の(5-a)又は(5-b)を挙げることができる。
(5-a) 当該遺伝子のmRNAを特異的に増幅するプライマーセット、及び/又は当該mRNA に由来するcDNAに対して特異的にハイブリダイズするDNA断片
(5-b) 当該遺伝子の産物に対する抗体
【0013】
一方、本発明に係る皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤のスクリーニング方法は、被検物質を皮膚培養細胞及び/又は皮膚培養組織に作用させるステップと、上記皮膚培養細胞及び/又は皮膚培養組織における、E-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子の発現を測定するステップと、測定対象の遺伝子の発現レベルに基づいて、上記被検物質における皮膚老化改善効果及び/又は皮膚老化予防効果を評価するステップとを含んでいる。
【0014】
また、本発明に係る皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤の評価又はスクリーニング方法において、上記遺伝子の発現レベルは、特に限定されないが以下の少なくとも1つの方法により測定した値を使用することができる。
(7-a) 当該遺伝子のmRNAを特異的に増幅するプライマーセット、及び/又は当該mRNA に由来するcDNAに対して特異的にハイブリダイズするDNA断片を用いて測定する方法
(7-b) 当該遺伝子の産物に対する抗体を用いて測定する方法
【0015】
なお、本発明によれば、E-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子の発現を測定する手段を備える皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤の評価又はスクリーニングキットを提供することができる。
【0016】
本発明に係る皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤の評価又はスクリーニングキットにおいて、上記手段は、特に限定されないが、以下の(9-a)又は(9-b)を挙げることができる。
(9-a) 当該遺伝子のmRNAを特異的に増幅するプライマーセット、及び/又は当該mRNA に由来するcDNAに対して特異的にハイブリダイズするDNA断片
(9-b) 当該遺伝子の産物に対する抗体
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る肌評価方法によれば、老化等の肌質と関連する新規マーカーを指標とするため、従来にない被験者に関する皮膚老化度について詳細な評価を行うことができる。また、本発明に係る皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤のスクリーニング方法によれば、老化等の肌質と関連する新規マーカーを指標とするため、種々の候補物質のなかから新規な皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤を選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、老化等の肌質と関連する皮膚の老化と関連する遺伝子として以下の遺伝子群:E-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子を同定した。これら各遺伝子の塩基配列、及び各遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を表1に示すように配列表にまとめた。
【0019】
【表1】

【0020】
なお、配列番号1〜16に示した塩基配列及びアミノ酸配列は、Genbank等のデータベースに格納された情報に基づいて記述している。しかし、上記の遺伝子は、これら具体的な配列からなるものに限定されず、当該遺伝子と機能的に同等な遺伝子であってもよい。このような遺伝子としては、表1に示した遺伝子におけるパラログ遺伝子やオーソログ遺伝子を挙げることができる。
【0021】
また、これら遺伝子についてSNP等の多型が数多く報告されている。これら多型を考慮すると、上述した遺伝子群は、配列番号1〜16に示した塩基配列及びアミノ酸配列とは異なる塩基配列及びアミノ酸配列を有することとなる。したがって、本発明において上述した遺伝子とは、配列番号1〜16に示した塩基配列及びアミノ酸配列とは異なる塩基配列及びアミノ酸配列を有するものも含まれる。
【0022】
例えば、上述した遺伝子群は、配列番号1、3、5、7、9、11、13又は15に示した塩基配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するものであってもよい。
【0023】
本発明は、上述のように特定された遺伝子の発現量が、老化が進行した皮膚において有意に増加しているといった知見に基づいている。よって、被験者の皮膚における、これら遺伝子の発現を測定することで、被験者の肌質、特に皮膚の老化度を評価することができる。ここで、発現量を測定する遺伝子としては、E-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子の全てでも良いが、これら遺伝子群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子、好ましくは2個の遺伝子、より好ましくは4個の遺伝子、更に好ましくは6個の遺伝子、最も好ましくは8個の遺伝子の発現量を測定すれば良い。特に、発現量を測定する遺伝子として2以上の遺伝子を測定する際には、上述した遺伝子群のなかでもE-cadherin遺伝子及びJagged-1遺伝子を測定対象とすることが好ましい。
【0024】
具体的に、被験者の皮膚の老化度を判定する際には、被験者から採取した生体由来試料における上記遺伝子の発現量を測定する。ここで、生体由来試料とは、被験者から採取した皮膚組織、当該皮膚組織から分離した細胞、当該細胞の培養物を意味する。また、生体由来試料としては、被験者から採取した皮膚組織から更に真皮組織を除去して得られる表皮組織を使用することが好ましい。ここで被験者からの皮膚組織の採取手段としては、被験者の皮膚組織、当該皮膚組織から更に真皮組織を除去して得られる表皮組織が得られるものであれば特に限定されず、例えば、パンチバイオプシー法、サクションブリスター法等を挙げることができる。遺伝子の発現量を測定する手段としては、特に限定されないが、例えば、以下の(3-a)及び(3-b)の方法を挙げることができる。
(3-a) 当該遺伝子のmRNA量を測定する方法
(3-b) 当該遺伝子の産物であるタンパク質量を測定する方法
【0025】
方法(3-a)
上記(3-a)の方法は、生体由来試料に含まれるmRNAを定量的に測定する方法である。mRNAを定量的に測定する手法としては、特に限定されないが、測定対象の遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーセットやDNA断片を使用する。例えば、mRNA量の測定法としては、以下の方法が挙げられる。
【0026】
まず、mRNA量の測定法としては、逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR法)を挙げることができる。RT-PCR法の場合、生体試料から抽出したmRNAから逆転写反応によってcDNAを合成し、測定対象の遺伝子配列に相補的な2種類のDNA断片をプライマーとしたPCR法により測定対象の遺伝子の一部配列を増幅し、増幅されたDNA断片を検出することで、mRNA量を定量することができる。使用するプライマーは、測定対象の遺伝子の塩基配列をPCR法等の核酸増幅法により増幅できるように設計・合成することができる。核酸増幅法は周知であり、核酸増幅法におけるプライマーの設計・合成は当業者に容易に実施することができる。例えば、PCR法においては、2つのプライマーの一方が測定対象遺伝子の2本鎖DNAのプラス鎖に対合し、他方のプライマーが2本鎖DNA のマイナス鎖に対合し、かつ一方のプライマーにより伸長された伸長鎖にもう一方のプライマーが対合するようにプライマーを選択できる。プライマーの長さとしては、例えば、少なくとも10塩基、好ましくは少なくとも15塩基、より好ましくは少なくとも20塩基とする。具体的に、プライマーは、配列番号1、3、5、7、9、11、13及び15に示した塩基配列又はGenbankなどのデータベースより各遺伝子のアクセッション番号により登録された1種以上の塩基配列に基づき設計し、化学合成できる。プライマーの調製は常法に従って実施できる。PCR法により増幅されたDNA断片は、アガロースゲル電気泳動の後、DNAに特異的に結合するエチジウムブロマイドやSYBER GREENなどの蛍光物質で標識することにより視覚化し、定量することができる。
【0027】
また、PCR法としては、定量性の高いリアルタイムPCR法を採用することがより好ましい。ABIPRISM7500(アプライドバイオシステムズ社製)などのリアルタイムPCR装置を用いてPCRを行うことで、増幅産物をリアルタイムに検出・モニタリングし、測定対象の遺伝子発現量(mRNA量)をより定量的に測定することが可能である。増幅されるDNAは前述のSYBER GREENなどの蛍光物質で標識することにより検出できる。
【0028】
また、リアルタイムPCR法では、通常の2種類のプライマーと合わせてTaqManプローブを用いる方法が、核酸増幅の特異性及び測定の感度を上げる方法としてより好ましい。予めクエンチングされたFAM、VICなどの蛍光物質で標識されているTaqMan(登録商標)プローブを含めた3種のDNA断片を用いることにより、測定対象の遺伝子配列を特異的に増幅し、高感度に検出することが可能である。TaqManプローブを用いたリアルタイムPCR法は周知であり、使用するプローブとプライマーの選択は当業者に容易に実施することができる。遺伝子特異的なプローブ及びプライマーは、各遺伝子のmRNA又はcDNA配列情報に基づいて、Primer express(アプライドバイオシステムズ社製)などの作製ソフトを使用することにより設計することが可能である。また、既に特定の遺伝子を検出するために特異的にデザインされ、製品化されたプローブ及びプライマーを用いることもできる。
【0029】
一方、mRNA量の測定法としては、ノーザンブロッティング及びドットブロット等の解析法を適用しても良い。これらの解析法の場合、測定対象の遺伝子に対してストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするDNA断片を用いて測定することができる。この解析方法において使用されるDNA断片の長さは、特に限定されないが、測定対象の遺伝子に対してストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズさせるのに十分な長さである。DNA断片の長さとしては、例えば、少なくとも15塩基、好ましくは少なくとも100塩基、より好ましくは少なくとも200塩基の配列である。ここで、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。すなわち、高い相同性(相同性又は同一性が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上)を有する一対のポリヌクレオチドがハイブリダイズする条件をいう。より具体的に、このような条件は、当該分野において周知慣用な手法、例えば、ノーザンブロッティング法、ドットブロット法、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法又はサザンブロットハイブリダイゼーション法などにおいて、具体的には、ポリヌクレオチドを固定化したメンブランを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(Saline Sodium Citrate;150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウム)溶液を用い、65℃でメンブランを洗浄することにより達成できる。
【0030】
これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するポリヌクレオチドが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0031】
また、この解析法で使用するDNA断片は、表1に示した遺伝子のmRNA又はcDNAに対して特異的にハイブリダイズする塩基配列であればよく、最も好ましくは、表1に示した遺伝子の塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列として設計することができる。また、この解析法で使用するDNA断片は、表1に示した遺伝子のmRNA又はcDNAに対して特異的にハイブリダイズするならば、表1に示した遺伝子の塩基配列の相補鎖に対して高い相同性(相同性又は同一性が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上)を有する塩基配列として設計することもできる。ここで、特異的にハイブリダイズするとは、上述したストリンジェントな条件と言い換えることができる。
【0032】
さらに、この解析法で使用するDNA断片としては、上述した遺伝子の塩基配列に基づいて設計するが、これら遺伝子において知られるSNP等の多型を含まないように設計することが好ましい。これによりDNA断片を用いた遺伝子の検出誤差を低く抑えることができる。
【0033】
さらにまた、遺伝子発現量を測定する手段としては、特に限定されず、生体由来試料に由来するcDNAを固定化したメンブレンフィルター又はリボプローブを用いたRNAプロテクションアッセイ等の従来公知の手段を適用することができる。
【0034】
mRNA量の測定法としては、DNAマイクロアレイを使用した解析方法を適用することができる。DNAマイクロアレイ法では、特定の遺伝子と特異的にハイブリダイズするDNA断片(オリゴヌクレオチド)をチップ上で高密度に合成・集積したDNAマイクロアレイに対して、生体試料由来のRNA、cDNA又はcRNAをハイブリダイズすることにより、遺伝子のmRNA量を網羅的に定量することができる。例えば、アフィメトリクス社製のGeneChip(登録商標)Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayの場合、各対応配列に相補的なオリゴヌクレオチドプローブは、高密度に集積されin situでアレイ上に合成されている。11対のオリゴヌクレオチドプローブを用いて、チップ上の各配列に対応する転写レベルを測定することができる。具体的には、生体試料由来のRNAからT7 オリゴdTプライマーを使用して2本鎖cDNA合成を行った後、in vitro TranscriptionによりcRNAを合成する。cRNA合成の際にビオチンを取り込み、サンプルを標識する。用いるRNAは、定法に従い任意に増幅して使用することもできる。ビオチン標識cRNAを断片化してDNAアレイにハイブリダイズする。ハイブリダイゼーション後に投入する蛍光色素フィコエリスリンによりcRNAを検出する。スキャナーでアレイ上の蛍光を読み取り、得られたアレイイメージを数値化し、各遺伝子の発現量を比較・定量することができる。
【0035】
また、用いるDNAマイクロアレイは上述の方法に限るものではなく、当業者が入手可能な複数種のDNAマイクロアレイを用いて同様の解析が可能である。
【0036】
上述したように、mRNAを定量的に測定する方法として、RT-PCR法、ノーザンブロッティング及びドットブロット等の解析法及びDNAマイクロアレイ法を例示したが、いずれの方法においても生体由来試料から、測定対象の遺伝子に由来するmRNAを含む試料を調製する。具体的に、生体由来試料に含まれる測定対象の遺伝子に由来するmRNAを調製するには、先ず、公知の手法に従って生体由来試料からtotal RNAを抽出する。total RNAを抽出する方法としては、チオシアン酸グアニジン・塩化セシウム超遠心法、チオシアン酸グアニジン・ホットフェノール法、グアニジン塩酸法、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法等を採用することができる。また、RNeasy (登録商標)kit(QIAGEN社製)等の核酸精製用のカラムを利用した市販のキットを使用してもよい。なお、抽出されたtotal RNAは、必要に応じてさらにmRNAのみに精製して使用しても良い。例えば、抽出したtotal RNAにビオチン化オリゴ(dT)プローブを加えてポリ(A)+RNAを吸着させる。次に、ストレプトアビジンを固定化した常磁性粒子担体を加え、ビオチン/ストレプトアビジン間の結合を利用して、ポリ(A)+RNAを捕捉させる。洗浄操作の後、最後にオリゴ(dT)プローブからポリ(A)+RNAを溶出する。以上のようにしてtotal RNAからmRNAを精製することができる。得られたtotal RNA又はmRNAを使用することによって、上述したようなノーザンブロティング法、DNAマイクロアレイ法等により測定対象の遺伝子の発現量を測定することができる。
【0037】
次に、抽出したtotal RNA又は精製したmRNAを鋳型とした逆転写反応によってcDNAを合成する。逆転写反応は、例えばSuperscriptIIIFirst-Strand Synthesis System for RT-PCR(Invitrogen社製)などの市販のキットを用いて行うことができる。逆転写反応によって得られたcDNAは、生体由来試料における遺伝子発現量を反映している。したがって、得られたcDNAを使用することによって、上述したようなPCR法、リアルタイムPCR法、DNAマイクロアレイ法等により測定対象の遺伝子の発現量を測定することができる。
【0038】
また、2本鎖cDNA合成を行った後、in vitro Transcriptionにより合成したcRNAを用いて、上述のDNAマイクロアレイ法等により測定対象の遺伝子の発現量を測定することもできる。
【0039】
方法(3-b)
上記(3-b)の方法において抗体としては、測定対象の遺伝子がコードするタンパク質(以下、測定対象タンパク質と称する)に対するポリクローナル抗体或いはモノクローナル抗体を使用することができる。本方法で使用可能な抗体としては、測定対象タンパク質に対して特異的に結合する限り、特に限定されないが、例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ヒツジ抗体等を適宜用いることができる。測定対象タンパク質に対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は、測定対象のタンパク質を特異的に認識することが確認されている市販の製品を使用することが好ましいが、従来公知の方法により作製することもできる。
【0040】
モノクローナル抗体を作製する際には、例えば、測定対象タンパク質の全部又は一部若しくは測定対象タンパク質の全部又は一部を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。ハイブリドーマの作製は、例えば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46 )等に準じて行うことができる。
【0041】
なお、測定対象タンパク質若しくは当該タンパク質の断片や断片を発現する細胞は、例えば、Molecuar Cloning: A Laboratory Manual第2版第1−3巻 Sambrook, J.ら著、Cold Spring Harber Laboratory Press出版New York 1989年に記載された方法に準じて、当業者であれば容易に取得することができる。また、測定対象のタンパク質のアミノ酸配列については、表1に示したアミノ酸配列又はアクセッション番号に基づいてGenbankのタンパク質データベースを検索することによって取得することができる。
【0042】
得られたモノクローナル抗体は、測定対象のタンパク質の定量用に、エンザイム−リンクイムノソルベントアッセイ(ELISA)、酵素イムノドットアッセイ、ラジオイムノアッセイ、凝集に基づいたアッセイ、あるいは他のよく知られているイムノアッセイ法で検査試薬として用いることができる。また、モノクローナル抗体は、それ自体が標識化されていても良い。標識化を行う際、標識化合物としては例えば当分野で公知の酵素、蛍光物質、化学発光物質、放射性物質、染色物質などを使用することができる。
【0043】
得られた抗体は、例えば、ポリスチレンやポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリビニール製のマイクロタイタープレート、試験管、キャピラリー、ビーズ、膜及びフィルター等の支持体に固定することもできる。支持体に固定された抗体を用いて、被験者から採取した生体由来試料に含まれる測定対象タンパク質を測定することができる。また、モノクローナル抗体に対して特異的に結合する標識された2次抗体を用いて測定対象のタンパク質を測定しても良い。さらに、測定対象のタンパク質における異なるエピトープを認識する2種の抗体を用いて測定対象のタンパク質を測定してもよい(サンドイッチELISA)。さらにまた、測定対象のタンパク質は、従来公知のビオチン標識抗体及びストレプトアビチン等を使用した方法やウエスタンブロット法によって測定しても良い。
【0044】
また、市販又は作製した抗体を用いて免疫組織学的染色法によって被験者から採取した生体由来試料に含まれる測定対象タンパク質を測定することができる。
【0045】
以上で説明したように、方法(3-a)又は(3-b)によって測定対象の遺伝子の発現を測定することができるが、本発明において測定対象の遺伝子の発現を測定する手法としてはこれらに限定されるものではない。例えば、測定対象の遺伝子の発現を測定する手法としては、クロスハイブリダイゼーション法等を挙げることができる。
【0046】
生体由来試料に含まれる測定対象の遺伝子の発現量を測定した後、被験者の皮膚の老化度を判定する。具体的には、表1に示した各遺伝子の発現量と皮膚老化度とを予め対応づけておき、被験者における測定対象の遺伝子の発現量に基づいて当該被験者の皮膚老化度を判定する。
【0047】
また、方法(3-a)又は(3-b)等によって測定された測定対象遺伝子の発現量は、細胞や組織の種類に拘わらず一定量に発現している遺伝子の発現量に対する相対発現量として被験者の皮膚の老化度を判定することが好ましい。
【0048】
一方、本発明に係る肌評価キットは、上述したE-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子の発現を測定する手段を備える。ここで、遺伝子の発現を測定する手段としては、上述した(3-a)及び(3-b)に記載された手段を含む意味である。また、遺伝子の発現を測定する手段としては、クロスハイブリダイゼーション法等に使用される手段も含む意味である。
【0049】
また、肌評価キットには、被験者から生体由来試料を採取するための採取手段が含まれていても良い。ここで、採取手段としては、被験者の皮膚組織、当該皮膚組織から更に真皮組織を除去して得られる表皮組織が得られるものであれば特に限定されず、例えば、サクションブリスター法に使用されるシリンジ等を挙げることができる。
【0050】
一方、上述したように、表1に挙げた遺伝子の発現量が、老化が進行した皮膚において有意に増加しているといった知見に基づいている。よって、これら遺伝子うち少なくとも1つの遺伝子の発現量を有意に低下させる物質は、皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤としての新規な機能を有する物質として同定することができる。すなわち、本発明に係る皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤の評価又はスクリーニング方法は、被検物質を皮膚培養細胞及び/又は皮膚培養組織に作用させ、上記皮膚培養細胞及び/又は皮膚培養組織における、表1に挙げた遺伝子のうち少なくとも1つの遺伝子の発現を測定し、測定対象の遺伝子の発現レベルに基づいて、上記被検物質における皮膚老化改善効果及び/又は皮膚老化予防効果を評価するものである。
【0051】
ここで、被検物質としては、特に限定されず、如何なる物質であってもよい。被検物質としては、単独の物質であってもよいし、複数の構成成分からなる混合物であってもよい。被検物質としては、例えば植物からの抽出物のように未同定の物質を含むような構成であってもよいし、既知の組成物を所定の組成比で含むような構成であってもよい。また、被検物質としては、タンパク質、核酸、脂質、多糖類、有機化合物及び無機化合物のいずれでもよい。
【0052】
また、本発明に係るスクリーニング方法において、皮膚培養細胞としては、例えば表皮角化細胞(ケラチノサイト)を使用することが好ましい。表皮角化細胞としては、初代培養細胞と継代培養後の細胞といずれも使用可能であるが、表皮角化細胞は継代培養に伴い増殖能低下や老化関連分子の発現上昇などの細胞老化が誘導されることが知られている。したがって、スクリーニングの際は、継代培養後の細胞を用いることがより好ましい。また、培養対象の細胞は、如何なる動物由来の細胞であっても良く、例えば、ヒト、サル、チンパンジー、ラット及びマウス等の動物由来の細胞を使用することができる。皮膚培養細胞としては、表皮角化細胞を培養した単層培養物であっても良いが、表皮角化細胞を重層培養したものを使用しても良い。表皮角化細胞を重層培養する手法については、特に限定されないが、例えば、Hamanaka S, et al., Br J Dermatol. 2005 Mar;152(3):426-34. Glucosylceramide accumulates preferentially in lamellar bodies in differentiated keratinocytes.、Uchida Y, et al., J Invest Dermatol. 2001 Nov;117(5):1307-13. Vitamin C stimulates sphingolipid production and markers of barrier formation in submerged human keratinocyte cultures. 及びPonec M, et al., Int J Pharm. 2000 Aug 10;203(1-2):211-25. Lipid and ultrastructural characterization of reconstructed skin models.を参照することができる。
【0053】
なお、本発明に係るスクリーニング方法において、測定対象の遺伝子の発現量は、上述した方法に準じて測定することができる。候補物質を作用させることによって測定対象の遺伝子の発現量が有意に減少している場合には、当該候補物質を皮膚老化改善剤、皮膚老化予防剤として評価することができる。
【0054】
このとき、従来公知の皮膚老化改善剤や皮膚老化予防剤を皮膚培養細胞及び/又は皮膚培養組織に作用させ、その後、測定対象の遺伝子の発現量の変化を予め測定しておくことが好ましい。そして、候補物質を作用させたときの測定対象の遺伝子の発現量を、公知の皮膚老化改善剤や皮膚老化予防剤を作用させたときの発現量と比較することによって、当該候補物質の皮膚老化改善効果及び皮膚老化予防効果を従来公知の皮膚老化改善剤や皮膚老化予防剤との比較において評価することもできる。
【0055】
一方、本発明に係る皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤の評価又はスクリーニングキットは、上述したE-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子の発現を測定する手段を備える。ここで、遺伝子の発現を測定する手段としては、上述した(3-a)及び(3-b)に記載された手段を含む意味である。また、遺伝子の発現を測定する手段としては、クロスハイブリダイゼーション法等に使用される手段も含む意味である。
【0056】
また、皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤の評価又はスクリーニングキットには、被検物質を接触させるための皮膚培養細胞及び/又は皮膚培養組織を含むものであってもよい。さらに、皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤の評価又はスクリーニングキットには、皮膚培養細胞及び/又は皮膚培養組織のための容器や培地等を含むものであってもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
〔実施例1〕
本実施例では、ヒト皮膚の老化に関連する新規遺伝子マーカー(老化マーカー)を同定した。具体的には、種々の遺伝子の発現量を測定し、従来公知の老化マーカーの発現量と相関している遺伝子を新規な老化マーカーとして同定した。
【0059】
先ず、健常男性15名(25〜48歳、平均35±7.4歳)の前腕外側及び上腕内側部の皮膚から、サクションブリスター法を用いて表皮を採取した。具体的には、被験部位を消毒し、1.0〜2.5mm径シリンジ(TERUMO社製)を皮膚表面に接し、ポンプで約1〜2時間吸引することで表皮と真皮を剥離した。滅菌鋏を用いて剥離した表皮を採取し、被験者から生体由来試料を調製した。
【0060】
得られた表皮組織をPBS中で洗った後、2mlチューブに移し、1mlのTRIzol(登録商標) Reagent(Invitrogen社製)中でホモジナイザーにより組織を破砕した。クロロホルムを200μL添加し、ボルテックスにてよく攪拌後、15000 rpmで15分間遠心した。上層を新しい1.5mLチューブに移し、等量のイソプロパノールを添加し、攪拌後12000 rpmで10分間遠心した。上清をアスピレートし、75%エタノールを1mL添加し、8500 rpmで5分間遠心した。上清をアスピレートにより除いた後、沈殿を15〜30μLのdH2Oに溶解し、total RNAを調製した。
【0061】
抽出したRNA溶液のうち1μgを用いて、逆転写反応によりcDNAを合成した。逆転写反応には、インビトロジェン社製のSuperScript III First-Strand Synthesis System for RT-PCRを用い、定法に従って行った。反応には、MJ Research社製のPeltier Thermal Cyclerを用いた。
【0062】
合成したcDNAについて、Taqman probeを用いた定量的PCRによる遺伝子発現解析を行った。各遺伝子特異的なプローブ及びプライマーは、アプライドバイオシステムズ社製のTaqman(登録商標) Gene Expresson Assays(P/N 4331182)を用いた。それぞれの遺伝子について検量線法による絶対定量を行った。各々の発現量は、内部標準遺伝子RPLP0の発現量により補正した。反応条件は定法に従い、アプライドバイオシステムズ社製のシークエンスディテクター(ABI PRISM 7500 Real Time PCR System)を用いて行った。なお、内部標準遺伝子として使用したRPLP0遺伝子の塩基配列を配列番号17に示し、RPLP0遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号18に示した。
【0063】
具体的に、本実施例では、E-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子、遺伝子及びKeratin 10遺伝子の発現量を測定した。また、本実施例では、公知の老化マーカーとして、p53遺伝子、Fas遺伝子及びp16遺伝子の発現量との相関関係を評価した。なお、これらp53遺伝子、Fas遺伝子及びp16遺伝子は、老化した皮膚組織における発現量が増加することが知られている。また、被験者の年齢との相関関係も評価した。
【0064】
これら遺伝子の発現量を測定するためのプローブ及びプライマーは、E-cadherin遺伝子の定量用にAssay ID Hs00170423_m1を使用し、H-cadherin遺伝子の定量用にAssay ID Hs00169908_m1を使用し、Nectin-1遺伝子の定量用にAssay ID Hs00161050_m1を使用し、Poliovirus receptor遺伝子の定量用にAssay ID Hs00197846_m1を使用し、Integrin beta-1遺伝子の定量用にAssay ID Hs00236976_m1を使用し、Laminin alpha 3遺伝子の定量用にAssay ID Hs00165042_m1を使用し、Jagged-1遺伝子の定量用にAssay ID Hs00164982_m1を使用し、Delta-like 1遺伝子の定量用にAssay ID Hs00194509_m1を使用し、及びKeratin 10遺伝子の定量用にAssay ID Hs00166289_m1を使用した。また、公知の老化マーカーであるp53遺伝子の定量用にAssay ID Hs00153349_m1を使用し、p16遺伝子の定量用にAssay ID Hs00233365_m1を使用し、Fas遺伝子の定量用にAssay ID Hs00163653 m1を使用した。
【0065】
なお、上記に示した遺伝子特異的なプローブ及びプライマーは、各遺伝子のmRNA又はcDNA配列情報に基づいて、Primer express(アプライドバイオシステムズ社製)などの作製ソフトを使用することにより配列をデザインすることが可能である。
【0066】
定量的PCR解析における各遺伝子発現データについて、表計算ソフトを用いて単回帰分析を行い、得られた相関係数(R2値)及び有意差(P値)を計算し、表2に記載した。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示すように、E-cadherin遺伝子の発現量は、p53遺伝子及びFas遺伝子の発現量と高い相関関係を示し、統計的にも有意であることが明らかとなった。T-cadherin(H-cadherin)遺伝子の発現量はp53遺伝子の発現量と高い相関関係を示し、統計的にも有意であることが明らかとなった。Nectin-1遺伝子の発現量は、公知の老化マーカー及び年齢いずれとも統計的に有意な相関関係は見られなかった。Poliovirus receptor遺伝子の発現量は、p53遺伝子及びFas遺伝子の発現量と高い相関関係を示し、統計的にも有意であることが明らかとなった。Integrin beta-1遺伝子の発現量は、Fas遺伝子の発現量と高い相関関係を示し、統計的にも有意であることが明らかとなった。Laminin alpha 3遺伝子の発現量は、p53遺伝子及びFas遺伝子の発現量と高い相関関係を示し、統計的にも有意であることが明らかとなった。Jagged 1遺伝子の発現量は、p53遺伝子及びFas遺伝子の発現量と高い相関関係を示し、統計的にも有意であることが明らかとなった。Delta-like 1遺伝子の発現量は、p53遺伝子の発現量及び年齢と高い相関関係を示し、統計的にも有意であることが明らかとなった。Keratin 10遺伝子の発現量は、p53遺伝子及びFas遺伝子の発現量と高い相関関係を示し、統計的にも有意であることが明らかとなった。
【0069】
以上、表2に示した結果から、本実施例により被験者の皮膚の老化と関連する新規な老化マーカーとしてE-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子、及びKeratin 10遺伝子を同定することができた。
【0070】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1で同定された新規な老化マーカー遺伝子の発現量に基づいて新規な皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤をスクリーニングできることを実証するための実験を行った。
【0071】
具体的には、従来公知の皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤を皮膚培養細胞に作用させたときの新規老化マーカー遺伝子の発現量の変化を測定した。皮膚培養細胞を準備するために、正常ヒト新生児包皮由来表皮角化細胞(品名:凍結NHEK(F))をクラボウ株式会社より入手した。増殖用無血清基礎培地(EpiLife,クラボウ社製)を用いて、5% (v/v) CO2雰囲気下、37℃でコンフルエント状態まで前培養した。細胞を12ウェルの培養プレートに0.4×105cells/ml/wellとなるように播き、24時間後に培地添加剤hEGF(ヒト上皮増殖因子)及びBPE(牛脳下垂体抽出液)を含まない培地に交換し、24時間処理した。
【0072】
その後、従来公知の皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤として、1μMのall-trans-レチノイン酸(RA)を添加した(N=2)。その24時間後にTRIzol(登録商標) Reagent(Invitrogen)を用いてTotal RNAを抽出した。1μgのTotal RNAを鋳型とし、Super script III first strand system(Invitrogen社製)による逆転写反応を行い、cDNAを合成した。定量的RT-PCR法によりE-cadherin遺伝子、Jagged-1遺伝子及び内部標準RPLP0遺伝子(Ribosomal Protein Large P0)の遺伝子発現量を測定した。各遺伝子の特異的プローブ及びプライマーには、アプライドバイオシステムズ社製のTaqMan(登録商標) Gene Expression Assayを使用した(E-cadherin遺伝子の定量用にAssay ID Hs00170423_m1を使用し、Jagged-1遺伝子の定量用にAssay ID Hs00164982_m1を使用し、RPLP0遺伝子の定量用にAssay ID Hs99999902_m1を使用した)。PCR反応試薬には、TaqMan(登録商標) Universal PCR Master Mixを使用し、PCR反応及び解析には、7500 Real-time PCR Systemを用いた。各遺伝子について検量線法による絶対定量を行い、得られた発現量は、内部標準遺伝子RPLP0(Ribosomal Protein Large P0)の発現量により補正した。陰性対照(コントロール)の発現量を1として算出した相対発現量を表3に示した。
【0073】
【表3】

【0074】
表3に示した相対発現量の結果から、従来公知の皮膚老化予防剤であるRAは、E-cadherin遺伝子及びJagged-1遺伝子の発現量を有意に抑制することが明らかとなった。したがって、実施例1で同定した新規老化マーカー遺伝子の発現量を抑制する物質は、RAと同様に皮膚老化改善作用・皮膚老化予防作用を有すると評価することができる。本実施例により、実施例1で同定した新規老化マーカー遺伝子を利用することによって、種々の候補物質のなかから新規な皮膚老化改善剤及び皮膚老化予防剤を選抜できることが明らかとなった。
【0075】
〔実施例3〕
本実施例では、実施例1で新規に同定した老化マーカー遺伝子のうちE-cadherin遺伝子について、E-cadherin遺伝子によりコードされるE-カドヘリンの機能を欠失することで皮膚の老化を改善・予防できることを実証した。
【0076】
[抗E-カドヘリン中和抗体による細胞増殖への影響]
ヒト新生児包皮由来表皮角化細胞はクラボウ社より購入し、増殖用無血清基礎培地(EpiLife,クラボウ社製)を用いて、5% (v/v) CO2雰囲気下、37℃でコンフルエント状態まで前培養した。前培養で得られた表皮角化細胞を96穴培養プレート(ファルコン社製)に約0.5×104cell/wellで播種し、24時間後に増殖用培地からBPE(牛脳下垂体抽出液)とhEGF(ヒト上皮増殖因子)を除いた培地で培養し、さらに24時間後に0.5又は5μg/ml濃度の抗E-カドヘリン中和抗体(H-108、sc-7870、サンタクルズ社製)若しくはコントロールIgG(サンタクルズ社製)を添加した。
【0077】
細胞増殖アッセイは、細胞増殖ELISA、BrdU発色キット(Roche社製)を用いて評価した。すなわち、抗体添加24時間後にブロモデオキシウリジン(BrdU)を加え、増殖中の細胞のDNAにピリミジンアナログのBrdUを取り込ませるために、さらに2時間培養した。その後、標識培地を除去し、細胞を固定し、DNAを変性させた。ペルオキシダーゼで標識された抗BrdU抗体を添加し、室温にて90分反応させた。洗浄後、基質液を加え、適当な発色が得られるまで室温に放置し、1M硫酸にて酵素反応を停止し、マイクロプレートリーダーを用いて、450nm(対照波長:690nm)の吸光度を測定し、細胞増殖活性とした。
【0078】
抗E-カドヘリン中和抗体を添加した時の培養表皮角化細胞のBrdUの取り込み量を図1に示す。図1から判るように、抗E-カドヘリン中和抗体により、培養表皮角化細胞のBrdUの取り込み量は有意に増加した。この結果から、表皮角化細胞においてE-カドヘリンの機能を欠失することで、表皮角化細胞の細胞増殖を亢進できることが確認された。一般に表皮角化細胞において老化により細胞増殖が低下することが知られているので、本実験によって、新規な皮膚老化防止剤及び皮膚老化予防剤の創薬ターゲットとしてE-カドヘリンを使用できることが実証された。
【0079】
[抗E-カドヘリン中和抗体による老化マーカーp63の変動]
表皮角化細胞を6穴培養プレート(ファルコン社製)に約1×105cell /wellで播種し、24時間後に増殖用培地からBPE(牛脳下垂体抽出液)とhEGF(ヒト上皮増殖因子)を除いた培地で培養し、さらに24時間後に0.5又は5μg/ml濃度の抗E-カドヘリン中和抗体(H-108、sc-7870、サンタクルズ社製)若しくはコントロールIgG(サンタクルズ社製)を添加し、3日間培養した。
【0080】
培養終了後、PBSで洗浄し、蛋白質分解酵素阻害剤 (Complete, ロッシュ社製)を含むRIPA buffer (シグマ社製)0.2mlで回収し、超音波処理により細胞を破砕した。その後、15,000rpmで30分遠心分離し、その上清についてタンパク定量を行った後、定法に従ってSDS-PAGEに供した。一次抗体は抗p63抗体 (4A4、sc-8431、サンタクルズ社製)を200倍、二次抗体はAnti-mouse IgG peroxidaselinked F(AB`)2 fragment(アマシャム社製)を2,000倍に希釈して用いた。その後、ECL western blotting detection reagents(アマシャム社製)を用いて発色し、Lane & Spot Analyzer(アトー社製)によりp63蛋白質に相当するバンドの強度を定量した。
【0081】
抗E-カドヘリン中和抗体を添加した時のp63の発現量を図2に示す。図2から判るように抗E-カドヘリン中和抗体により、培養表皮角化細胞のp63は有意に増加した。なお、p63は、従来公知の老化マーカーであり、ヒト皮膚から採取したケラチノサイトにおけるp63発現は加齢により減少するという報告(J. Dermatol. Sci. 35: 113-123, 2004)と、p63を皮膚で欠損させると著しい皮膚老化症状をきたすという報告に基づいている。(Genes & Development 19: 1986-1999, 2005)。この結果から、表皮角化細胞においてE-カドヘリンの機能を欠失することで、表皮角化細胞における従来公知の老化マーカーであるp63遺伝子の発現量を老化が改善する方向に制御できることが明らかとなった。本実験によって、例えば、新規な皮膚老化防止剤及び皮膚老化予防剤のターゲットとしてE-カドヘリンを使用できることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】抗E-カドヘリン中和抗体を添加した時の培養表皮角化細胞におけるBrdUの取り込み量を示す特性図である。
【図2】抗E-カドヘリン中和抗体を添加した時のp63の発現量を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取した生体由来試料における、E-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子の発現を測定するステップと、
測定対象の遺伝子の発現レベルに基づいて、上記被験者における皮膚老化度を評価するステップと
を含む肌評価方法。
【請求項2】
上記生体由来試料は、上記被験者から採取した皮膚組織を含むことを特徴とする請求項1記載の肌評価方法。
【請求項3】
上記遺伝子の発現レベルを以下の少なくとも1つの方法により測定することを特徴とする請求項1又は2記載の肌評価方法。
(3-a) 当該遺伝子のmRNA量を測定する方法
(3-b) 当該遺伝子の産物であるタンパク質量を測定する方法
【請求項4】
E-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子の発現を測定する手段を備える肌評価キット。
【請求項5】
上記手段は、以下の(5-a)又は(5-b)であることを特徴とする請求項4記載の肌評価キット。
(5-a) 当該遺伝子のmRNAを特異的に増幅するプライマーセット、及び/又は当該mRNA に由来するcDNAに対して特異的にハイブリダイズするDNA断片
(5-b) 当該遺伝子の産物に対する抗体
【請求項6】
被検物質を皮膚培養細胞及び/又は皮膚培養組織に作用させるステップと、
上記皮膚培養細胞及び/又は皮膚培養組織における、E-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子の発現を測定するステップと、
測定対象の遺伝子の発現レベルに基づいて、上記被検物質における皮膚老化改善効果及び/又は皮膚老化予防効果を評価するステップと
を含む皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤の評価又はスクリーニング方法。
【請求項7】
上記遺伝子の発現レベルを以下の少なくとも1つの方法により測定することを特徴とする請求項6記載の方法。
(7-a) 当該遺伝子のmRNAを特異的に増幅するプライマーセット、及び/又は当該mRNA に由来するcDNAに対して特異的にハイブリダイズするDNA断片を用いて測定する方法
(7-b) 当該遺伝子の産物に対する抗体を用いて測定する方法
【請求項8】
E-cadherin遺伝子、T-cadherin(H-cadherin)遺伝子、Poliovirus receptor遺伝子、Integrin beta-1遺伝子、Laminin alpha 3遺伝子、Jagged 1遺伝子、Delta-like 1遺伝子及びKeratin 10遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子の発現を測定する手段を備える皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤の評価又はスクリーニングキット。
【請求項9】
上記手段は、以下の(9-a)又は(9-b)であることを特徴とする請求項9記載の皮膚老化改善剤・皮膚老化予防剤の評価又はスクリーニングキット。
(9-a) 当該遺伝子のmRNAを特異的に増幅するプライマーセット、及び/又は当該mRNA に由来するcDNAに対して特異的にハイブリダイズするDNA断片
(9-b) 当該遺伝子の産物に対する抗体

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−115131(P2010−115131A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289592(P2008−289592)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】