説明

肝疾患治療用又は予防用の血中滞留型多相エマルション製剤及びその製造方法

【課題】代謝・消失速度が非常に速く、重篤な副作用の危険も大きい生理活性物質の薬効向上を図るため、生体への安全性が高い乳化型キャリア(運搬体)を使って標的細胞組織部位にターゲッティングできる新しい製剤を開発する。
【解決手段】本発明の肝実質細胞を標的とするキャリアには、1)50〜300nmの粒径、2)細網内皮系(RES)回避、3)レセプターと特異的に結合する分子鎖(ターゲッティングリガンド)を利用したターゲッティングの三位一体となる機能が必要である。1)については画期的なS/OサスペンションとS/O/Wエマルションの調製技術を見出したことにより、2)は乳化製剤に適した自己配向型RES回避誘導物質を探索し、その導入技術を開発したことにより、3)は乳化製剤に適した自己配向型肝実質細胞指向性物質を探索し、その導入技術を開発したことにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝疾患治療用又は予防用の血中滞留型多相エマルション製剤及びその製造方法に関する。特に、細網内皮系を効率的に回避しながら肝実質細胞に特異的に生理活性物質を送達し得る機能性乳化製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
極めて低濃度で生体の様々な生理現象に影響を与える生理活性物質は、有力な薬物として多種多様なものが探索され、医薬品として製品化に至っているものが多い。例えば、インターフェロン、インスリン、各種の抗癌剤等が挙げられる。また、その大きな生理活性効果が注目され、製品化が進められている新たな生理活性物質も少なくない。ところが、これらには体内投与後の代謝・消失速度が速いという共通の欠点がある。これを補うために投与量を増加すると、重篤な副作用に見舞われることもある。例えば、肝細胞増殖因子(Hepatocyto Growth Factor、HGF)を単独で投与しても数分で血中から消失するため、医薬品として利用することが困難とされている。その血中クリアランスには肝臓が主に関わっていることが既に知られており,細網内皮系(RES)に取り込まれて瞬時に分解される。また、肝臓治療のために注射剤として単独で患者に投与した場合、半減期が短いことから肝臓での効果を得るためには頻回投与あるいは持続投与が必要になり、それだけ患者の苦痛等の治療上の負担が大きくなることが予想される。このため、血中滞留性を向上させ、肝実質細胞に特異的かつ持続的に効果をもたらす製剤の開発が必要とされている。
【0003】
生理活性物質は、そのほとんどが水溶性であり、これらを薬物として応用するためには、単独で投与する方法に代わり何らかのドラッグデリバリーシステム(薬物送達システム、以下、DDS)のキャリア(運搬体)を利用する手法が考えられる。ここでDDSキャリアは、代謝・消失が起こりにくく、生理活性物質を目的組織へ送達し、その後に放出する機能を有することが必要である。具体的には、脂質二分子膜リポソーム、高分子粒子、脂質粒子等の既存DDSキャリアを利用する方法、あるいは分子複合体にして副作用低減を目指す手法等が盛んに検討されている。しかし、次のような問題から、個々の生理活性物質に適合したDDSキャリアを開発するだけで膨大な時間と経費を費やしているのが現状である。
【0004】
共通する手順で多種類の生理活性物質を封入することができ、体内に送達する有効なキャリアが存在しない。ある生理活性物質をキャリア化したい場合、既存DDSキャリアであるリポソーム、高分子粒子、脂質粒子又は分子複合体のそれぞれについてキャリア化の可能性を検討し、適合する製法を開発しなければならない。すなわち、既存DDSキャリアは封入や送達等の自由度が小さい。
【0005】
また、既存DDSキャリアは、材質的に抗原となる可能性が高く、安全性確保に多大な労力が必要である。
【0006】
さらに、貴重な生理活性物質では、DDSキャリア製造段階で効率よく封入し、生理活性物質のロスを小さくすることが必須である。しかし、リポソーム、高分子粒子、脂質粒子等では、これを実現することは非常に難しい。
【0007】
加えて、生理活性物質の送達場所等を考慮してDDSキャリアに細網内皮系(RES)回避機能又はターゲッティング機能を賦与する必要がある。しかし、既存DDSキャリアや分子複合体では、これらの機能賦与が構造や特性を抜本的に変化させることにつながり、製法の自由度が極めて乏しくなる。
【0008】
上述したような既存DDSキャリアや分子複合体の欠点を克服する新たなDDSキャリアとして多相エマルションが挙げられる。例えば、多相エマルションの代表であるW/O/Wエマルションでは、生理活性物質の水溶液を油相に分散する1次乳化によってW/Oエマルションを調製し、このエマルションを外水相に分散する2次乳化によって生理活性物質水溶液が油滴に封入されたW/O/Wエマルションを調製することができる。ここでは、1)生理活性物質の種類にかかわらず同じ手順で生理活性物質水溶液を油滴に封入することが可能であり、2)既存DDSキャリアや分子複合体に比べて封入の自由度が大きい。また、3)油相は生体に安全な油脂が主成分であり、抗原性や毒性の問題を回避できる。さらに、2段階乳化の手順は、油滴を微細化しない場合には、4)生理活性物質を効率よく封入できるため生理活性物質のロスを小さくできる。
【0009】
しかし、上記1)〜4)のような特徴がありながらW/O/Wエマルションは薬物のDDSキャリアとしてこれまでほとんど現実的な検討が行われていない。これは、次に示す幾つかの重大な問題が存在するためである。
【0010】
1.滴径がサブミクロンのW/O/Wエマルションを効率よく調製する技術が存在しない。
【0011】
2.O/Wエマルションを機械的に微細化する技術はあるが、これをW/O/Wエマルション生成に使用するとW/O/W構造が破壊される。また、こうした機械的な微細化技術では極めて高い剪断力を作用させる場合が一般的であるが、高い剪断によって生理活性物質が変質するか、発生する熱によっても変質が起こりやすい。
【0012】
3.W/O/Wエマルションは液滴合一と封入物質放出の2点で安定性に乏しく、数ヶ月の長期保存に耐えられない。
【0013】
4.また、これまでのエマルション製剤では、RES回避機能や肝実質細胞指向性を賦与する技術も確立されていない。
【特許文献1】特開2003−267891号公報
【特許文献2】特開2001−131056号公報
【特許文献3】特開平10−7587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の主な目的は、血中滞留性に優れ,肝実質細胞指向性を持つ多相エマルション製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の問題点を鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の生理活性物質を封入した微細な油滴を外水相に分散させてなる多相エマルションが上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、下記の肝疾患治療用又は予防用の血中滞留型多相エマルション製剤及びその製造方法に係る。
1. 油剤及び油性乳化剤を含む油相中に生理活性物質が封入されてなる油滴が外水相に分散している多相エマルションであって、
(1)前記生理活性物質が、水への溶解度が1μmol/L以上であり、かつ、油水分配係数が0.001以下であり、
(2)前記生理活性物質が、油滴中0.01〜25重量%の範囲で封入されている、ことを特徴とする、肝疾患治療用又は予防用の血中滞留型多相エマルション製剤。
2. 下記1)〜4)の特徴を有する物質a;
1)水酸基を有する分子鎖をもつ、
2)油相への溶解度が1μmol/L以上である、
3)油水分配係数が1000以上である、
4)油相中において前記水酸基を有する分子鎖を外水相に向けて自己配向する、
がさらに油相中に含まれる、前記項1に記載の多相エマルション製剤。
3. 前記物質aが、コレステロールPEG(polyoxyethanyl-cholesteryl sebacate)、ジステアリン酸フォスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール(DSPE−PEG)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ステアリン酸ジエチレングリコール、ポリオキシエチレンPOE(3)ヒマシ油、ポリオキシエチレンPOE(5)硬化ヒマシ油及びPCA(ピロリドンカルボン酸)イソステアリン酸テアリン酸PEG−40水添ヒマシ油の少なくとも1種である、前記項2に記載の多相エマルション製剤。
4. 前記物質aが、油相中において前記分子鎖を外水相に向けて配向している、前記項2又は3に記載の多相エマルション製剤。
5. 下記1)〜4)の特徴を有する物質b;
1)肝実質細胞表面上のレセプターと特異的に結合する分子鎖を有する、
2)油相への溶解度が1μmol/L以上である、
3)油水分配係数が1000以上である、
4)油相中において前記分子鎖を外水相に向けて自己配向する、
がさらに油相中に含まれる、前記項1〜4のいずかに記載の多相エマルション製剤。
6. 前記物質bが、下記の少なくとも1種;
1)プルラン誘導体、ガングリオシド誘導体、アシアロトランスフェリン誘導体、アシアロフェツイン誘導体、ラクトノラクトン誘導体及びラクトース誘導体ならびに
2)低比重リポ蛋白及び高比重リポ蛋白
である、前記項5に記載の多相エマルション製剤。
7. 前記物質bが、油相中において前記分子鎖を外水相に向けて配向している、前記項5又は6に記載の多相エマルション製剤。
8. 前記油滴の平均滴径が、1)動的散乱式粒度分布測定による値で50〜500nmの範囲又は2)レーザー回折散乱式粒度分布測定による値で500〜1000nmである、前記項1〜7のいずれかに記載の多相エマルション製剤。
9. 前記項1〜8のいずれかに記載の静注用多相エマルション製剤。
10. 肝疾患治療用又は予防用の血中滞留型多相エマルション製剤を製造する方法であって、
(1)生理活性物質の水溶液を油相に分散させることによりW/Oエマルションを調製する第1工程、
(2)前記W/Oエマルション中の水分の全部又は一部を除くことによりS/Oサスペンションを調製する第2工程、
(3)前記S/Oサスペンションを外水相に分散させることによりS/O/W系多相エマルションを得る第3工程、
(4)前記S/O/W系多相エマルションを多孔質膜を用いて膜透過させることにより、前記油相の平均滴径が50〜1000nmである多相エマルション製剤を得る第4工程
を含む、多相エマルション製剤の製造方法。
11. 第2工程に先立って、請求項2又は3に記載の物質a又はその溶液をあらかじめ油相へ溶解又は分散させる工程をさらに含む、前記項10に記載の製造方法。
12. 第3工程及び/又は第4工程において、前記物質aの水酸基を有する分子鎖を外水相に自己配向させる、前記項11に記載の製造方法。
13. 第2工程に先立って、前記項4又は5に記載の物質b又はその溶液をあらかじめ油相へ溶解又は分散させる工程をさらに含む、前記項10に記載の製造方法。
14. 第3工程及び/又は第4工程において、前記物質bの当該分子鎖を外水相に自己配向させる、前記項13に記載の製造方法。
【0017】
なお、本明細書で用いる用語は、次のように定義する。
【0018】
「多相エマルション」は、封入物質の存在状態が固相粒子(13)であるS/O/W系エマルション(図2)あるいは水溶液状態の内水相液滴(14)であるW/O/W系エマルション(図3)を示している。何故ならS/O/W系であっても固相に何らかの水は必ず付随することから、本明細書では両エマルションを区別せずに多相エマルションと一括した。
【0019】
本明細書では積算体積分布の50%径を「平均粒径」あるいは「平均滴径」とし、それぞれ個々の大きさを「粒径」あるいは「滴径」とする。
【0020】
本明細書では、油滴に生理活性物質を閉じ込めることを「封入」と表記する。
【0021】
本発明製剤の製造に使用される膜状多孔質体の「平均孔径」は、その相対累積細孔分布曲線において貫通細孔容積が全体の50%を占めるときの孔径を示す。
【0022】
本明細書におけるRES回避誘導物質及びターゲッティングリガンド援助物質は、油滴/外水相界面で「自己配向」する性質を有している。すなわち、油相に溶解したRES回避誘導物質成分及びターゲッティングリガンド援助物質成分のいずれも自己拡散によって界面に集まり、疎水基を油滴側、親水基を外水相側に向けて配向する。こうした特徴的な挙動を「自己配向」と記す。
【0023】
本発明製剤の製法における「膜透過」技術とは、膜状多孔質体を利用した油滴の微細化技術(例えば、特開2004−8837、特開2002−292263、特開2003−1080等)で例示される技術をいう。
【0024】
「油水分配係数」は、対象となる物質が水に溶けやすいか、油に溶けやすいかを表す指標のことであり、油水分配係数=[(油相への飽和溶解度)/(水相への飽和溶解度)]と規定される。絶対的には油相をn−オクタノールとするが、本明細書においては使用する種々の油相に対する飽和溶解度とする。
【0025】
「ターゲッティングリガンド」とは、肝実質細胞表面のアシアロ糖タンパクレセプターと特異的に結合するガラクトース残基あるいは肝実質細胞表面にある他のレセプターと同様に結合する分子鎖(官能基)のことであり、これを持つ物質を本明細書では「ターゲッティングリガンド援助物質」と称する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の多相エマルション製剤は、さまざまな生理活性物質を封入・送達できる自由度の高いDDSキャリアである。本発明製剤は、安全性が高く、RES回避と肝実質細胞指向性が可能な範囲の滴径であり、特に平均粒径が300nm以下に微細化したものでは、より高い血中滞留性を得ることができる。
【0027】
とりわけ、本発明製剤では、RES回避誘導物質及び/又はターゲッティングリガンド援助物質を外水相/油滴界面に配向することにより、より優れた血中滞留性と持続的な肝実質細胞指向性を発揮することができる。
【0028】
また、本発明の製造方法により、これらの機能を自在にコントロールしながらDDSキャリアを製造することもできる。
【0029】
このように、本発明の多相エマルション製剤によれば、生理活性物質本来の生理活性機能を維持したまま血中滞留性を高めることができる。これにより、所望の生理活性物質を肝実質細胞に特異的に集積できることが期待される。その結果、本発明の多相エマルション製剤は、肝機能の改善及び亢進作用を必要とする場合、例えば急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝線維化症、肝臓ガン(ウイルス性肝癌の癌化も含む。)等の肝疾患の治療又は予防に期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
1.多相エマルション製剤
本発明における肝疾患治療用又は予防用の血中滞留型多相エマルション製剤(本発明製剤)は、油剤及び油性乳化剤を含む油相中に生理活性物質が封入されてなる油滴が外水相に分散している多相エマルションであって、
(1)前記生理活性物質が、水への溶解度が1μmol/L以上であり、かつ、油水分配係数が0.001以下であり、
(2)前記生理活性物質が、油滴中0.01〜25重量%の範囲で封入されている、ことを特徴とする。
【0031】
生理活性物質としては、医学・薬学的に生理活性を有するものから適宜選択することができる。特に、肝疾患の治療又は予防に効果のある薬剤となり得る物質を好適に用いることができる。例えば、HGF、インターフェロン、インスリン、TNF-α、各種サイトカイン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、単独で封入してもよく、併用してもよい。中でも、HGFは、肝細胞に対する強力な増殖効果等の組織再生に対する多様な生理活性をもつ。また例えば、肝硬変においては、その繊維化抑制としてウイルス性肝癌前癌期での病態の食い止めが可能であると考えられる。
【0032】
上記物質は、その全てが本発明製剤(DDSキャリア)に封入できるわけではなく、本発明所定の溶解度及び油水分配係数を有するものであることが必要である。すなわち、上記物質は、水への溶解度が1μmol/L以上(好ましくは1〜10000μmol/L、より好ましくは10〜2000μmol/L)であり、かつ、油水分配係数が0.001以下(好ましくは0.0001以下、より好ましくは0.00001以下)であることが必要である。上記の数値範囲内の生理活性物質を用いることにより、優れた血中滞留性(生理活性物質が長時間にわたり血中に存在する性能)を得ることができる。油水分配係数は油相によって異なることから、使用する油相に適用できる生理活性物質を適宜選択すれば良い。
【0033】
生理活性物質は、油滴中0.01〜25重量%(好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%)の範囲で封入されている。上記濃度が低すぎる場合は、所望の効果を得ることが困難になる。また、上記濃度が高すぎる場合は、生理活性物質が析出するため、固相粒子を微細化して油滴に効率よく封入することが困難になる。
【0034】
油剤としては、脂質等を適宜用いることができる。この脂質は実質的に水と混ざり合わない生理学的に許容される油性媒体であれば制限されない。特に、日本薬局方、食品添加物公定書等に記載された安全性の高いものを用いることが望ましい。具体的には、大豆油のほか、X線造影剤の一種であるヨウ素化ケシ油脂肪酸エステル等の油脂などを単独又は混合して用いることができる。
【0035】
油剤の使用量は、生理活性物質の油滴中の濃度が上記範囲内になるように適宜設定すれば良い。
【0036】
油性乳化剤は、生理活性物質を油滴に封入する上で最も重要な役割を果たす。油剤に溶解し、生理学的に許容されるものであれば特に限定はない。具体的には、グリセリンがテトラ、ヘキサ、デカ等のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、酸化エチレン付加モルが5、10、20,40及び50のポリオキシエチレン硬化ひまし油、HLBが4以下のショ糖エルカ酸エステルに代表されるショ糖脂肪酸エステル等が特に好適である。
【0037】
油性乳化剤の含有量は限定的ではないが、油剤100重量部に対して1〜50重量部、特に5〜25重量部とすることが望ましい。
【0038】
本発明では、その他にも必要に応じて各種の添加剤を油相に配合することも可能である。例えば、溶解補助剤、保存安定剤、保護剤等の封入添加剤を用いることができる。特に、本発明では、RES回避誘導物質及びターゲティングリガンド援助物質の少なくとも1種を油相に配合することが望ましい。
【0039】
RES回避誘導物質は、生理活性物質を肝実質細胞に特異的かつ持続的に送達する上で必要不可欠な細網内皮系を回避する機能をキャリアに発現させる物質である.特に、本発明では、下記1)〜4)の特徴を有する物質;
1)水酸基を有する分子鎖をもつ、
2)油相への溶解度が1μmol/L以上である、
3)油水分配係数が1000以上である、
4)油相中において前記水酸基を有する分子鎖を外水相に向けて自己配向する、
を用いることが望ましい。これにより、より優れたRES回避機能を発揮することができ、より効率的な肝実質細胞への送達が期待される。
【0040】
RES回避誘導物質としては、上記のような機能を有するものであれば限定的ではない。例えば、ポリエチレングリコール誘導体としてコレステロールPEG(polyoxyethanyl-cholesteryl sebacate)、ジステアリン酸フォスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール(DSPE−PEG)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルのうちHLBが6.0以下のものとしてモノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ステアリン酸ジエチレングリコールなど,ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油のうちHLBが6.0以下のものとしてポリオキシエチレンPOE(3)ヒマシ油、POE(5)硬化ヒマシ油のほか、PCA(ピロリドンカルボン酸)イソステアリン酸テアリン酸PEG−40水添ヒマシ油等を挙げることができる。これらの少なくとも1種から、用いる油相の種類に応じて上記1)〜4)を満たす物質を適宜選択して用いることができる。
【0041】
RES回避誘導物質の含有量は、用いるRES回避誘導物質の種類、所望のRES回避特性等に応じて適宜設定できるが、通常は油相中0.001〜10重量%、特に0.1〜5重量%とすることが好ましい。
【0042】
ターゲッティングリガンド援助物質は、肝実質細胞表面上のレセプターのリガンドとなり得る分子鎖(又は官能基)を有することにより、より効率的な肝実質細胞への送達を可能とするものである。特に、下記1)〜4)の特徴を有する物質;
1)肝実質細胞表面上のレセプターと特異的に結合する分子鎖を有する、
2)油相への溶解度が1μmol/L以上である、
3)油水分配係数が1000以上である、
4)油相中において前記分子鎖を外水相に向けて自己配向する、
を用いることが望ましい。これにより、良好な血中滞留性を維持しつつ、肝実質細胞への効率的な送達が可能となる。
【0043】
ターゲッティングリガンド援助物質としては、低比重リポ蛋白(LDL)、高比重リポ蛋白(HDL)等のほか、プルラン誘導体、ガングリオシド誘導体、アシアロトランスフェリン誘導体、アシアロフェツイン誘導体、ラクトノラクトン誘導体、ラクトース誘導体等のの少なくとも1種から、用いる油相の種類に応じて上記1)〜4)を満たす物質を適宜選択して用いることができる。これらの誘導体は、エステル、修飾体等を含む。より具体的には、コレステロールプルラン、ショ糖エルカ酸エステル等を例示することができる。
【0044】
ターゲッティングリガンド援助物質の含有量は、用いるターゲッティングリガンド援助物質の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は油相中0.001〜10重量%、特に0.1〜1重量%とすることが好ましい。
【0045】
水相は、注射用水,除菌された蒸留水,脱イオン水等を用いて構成することができる。水相の量、すなわち後述する外水相の量は,特に限定されないが、通常は油相100重量部に対して40〜100,000重量部、特に100〜10,000重量部とすることが望ましい。
【0046】
水相には、必要に応じて各種の添加剤を配合しても良い。例えば、水性乳化剤、浸透圧調整剤等を好適に用いることができる。
【0047】
水性乳化剤は、生理学的に許容されるものであれば特に限定されず、本発明製剤の剤型等に応じて適宜選択し得る。例えば、注射剤であれば、酸化エチレン付加60モルのポリオキシエチレン硬化ひまし油(例えば、日光ケミカルズ製HCO-60等)、ポロクサマー188(例えば、三菱ウェルファーマ製エキソコルポール等)、リゾレシチン、胆汁酸等を用いることができる。経口製剤であれば、モノグリセリン脂肪酸エステル系、ジグリセリン脂肪酸エステル系、ポリグリセリン脂肪酸エステル系、ショ糖脂肪酸エステル系、ソルビタン系等の食品用乳化剤を加えることができる。塗布外用剤であれば、ポリオキシエチレン・ソルビタン系、ポリオキシエチレン・エーテル系、ポリオキシエチレン・アルコール系等化粧品用乳化剤等も加えることができる。
【0048】
水性乳化剤の濃度は、用いる水性乳化剤の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は水相中0.1〜25重量%、特に0.5〜10重量%とすることが好ましい。
【0049】
浸透圧調整剤は、生理学的に許容されるものであれば限定的でない。この中でも、塩類又は糖類で浸透圧を調整する役割の物質は好適である。より具体的には、グルコース、ラクトース、スクロース等の糖類、食塩等の塩類,グリセリンなどが挙げられる。
【0050】
浸透圧調整剤の濃度は、用いる浸透圧調整剤の種類等に応じて適宜設定できる。通常は生理食塩水の浸透圧Π0に対する浸透圧調整剤水溶液の浸透圧Πの比,すなわち浸透圧比Π/Π0が0.1〜10、特に0.9〜1.1となるような濃度にすることが好ましい。
【0051】
<実施の形態>
以下、本発明の多相エマルション製剤の実施の形態について、図示しながら説明する。
【0052】
本発明製剤の概念図を図1に示す。図1では、生理活性物質(1)と封入添加剤(2)を含む油相(3)で取り囲んだ油滴(4)とともに、それらの分散媒である外水相(5)(白地部分)からなる。油相(3)は、油剤(6)、油性乳化剤(7)及び油相添加剤(8)で構成される。外水相(5)は、水性乳化剤(9)及び添加剤(10)の水溶液である。
【0053】
必要に応じて、細網内皮系を回避する機能(RES回避機能)を付与する場合は、RES回避誘導物質(11)を添加することができる。この場合、RES回避誘導物質(11)は、図1に示すように、水酸基を有する分子鎖が外水相側に向かい、疎水性の部分は外水相から遠ざかるように配向する。
【0054】
さらに、必要に応じて、肝実質細胞への指向性を付与する場合は、ターゲッティングリガンド援助物質(12)を添加することができる。この場合、ターゲッティングリガンド援助物質(12)は、図1に示すように、肝実質細胞表面上のレセプターと特異的に結合する分子鎖が外水相側に向かい、疎水性の部分は外水相から遠ざかるように配向する。
【0055】
生理活性物質(1)としては、医学・薬学的に生理活性を有するものであって、水への溶解度が1μmol/L以上であり、かつ、油水分配係数が0.001以下である物質を用いる。具体的には、HGF、インターフェロン、インスリン、TNF-α、各種サイトカイン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
生理活性物質には多種多様のものが存在する。しかし、これら全てがDDSキャリアに封入できるわけではなく、その適否を判断する上で非常に重要となるファクターが溶解度と油水分配係数である。例えば、HGFの分子量は、特開平3−285693号公報に記載されているBD24株等を用いて製造した組換えヒト肝細胞増殖因子(以下、rh-HGF)の場合に約9万である。従って、表1に示すとおり、溶解度が1μmol/L以上である場合は、濃度0.09g/L(0.009重量%)以上に相当する。ここで油滴の中には、0.01重量%以上の生理活性物質が封入されることになる。
【0057】
【表1】

【0058】
また、油水分配係数0.001以下というのは、生理活性物質の水相溶解度に対して油相への溶解度が1/1000以下であることを表している。生理活性物質を油滴に封入した多相エマルションの場合であっても油相への溶解度が1/1000を超える場合は、生理活性物質が経時的に油相に溶けだし、次に油相から外水相へ溶ける傾向が生じる。これは生理活性物質の漏洩であり、DDSキャリアの機能不全につながる。このため、最低でも0.001以下の油水分配係数が必要であり、望ましくは0.0001以下、さらには無限小であることが望ましい。生理活性物質の多くは、大きな分子量を有するタンパク質やペプチドであることから、この条件に適合し得る。
【0059】
封入添加剤(2)としては、生理学的に許容されるものであれば特に種類の限定はない。例えば、各種糖類や塩類で外水相よりも浸透圧が高くならない範囲のもの、溶解補助剤としてサリチル酸ナトリウムやマンニトール、グリセリン等、保存安定のために各種アミノ酸やポリエチレングリコール等、デキストラン等の多糖類、保護剤としてアルブミンやヘパリン等があげられる。
【0060】
油剤(6)としては、脂質等を適宜用いることができる。前記のとおり、日本薬局方や食品添加物公定書等に記載された安全性の高いものを用いることが望ましい。具体的には、大豆油のほか、X線造影剤の一種であるヨウ素化ケシ油脂肪酸エステル等の油脂を単独又は混合して用いることができる。
【0061】
油性乳化剤(7)は、生理活性物質を油相に封入する上で最も重要な役割を果たす。油剤に溶解し生理学的に許容されるものであれば特に限定はないが、具体的には、グリセリンがテトラ、ヘキサ、デカ等のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、酸化エチレン付加モルが5、10、20,40及び50のポリオキシエチレン硬化ひまし油、HLBが4以下のショ糖エルカ酸エステルに代表されるショ糖脂肪酸エステル等が特に好適である。これらは、市販品を用いることもできる。
【0062】
油相添加剤(8)としては、例えばコレステロール、PEG脂質、レシチン等を適宜用いることができる。
【0063】
水性乳化剤(9)は、生理学的に許容されるものであれば特に限定されず、前記のとおり、本発明製剤の剤型等に応じて公知又は市販のものを使用することができる。
【0064】
水性添加剤(10)は、生理学的に許容されるものであれば限定的でない。この中でも、塩類又は糖類で浸透圧を調整する役割の物質は好適である。より具体的には、グルコース、ラクトース、スクロース等の糖類、食塩等の塩類,グリセリンなどが挙げられる。
【0065】
RES回避誘導物質(11)としては、水酸基を有する分子鎖を持つ物質でありながら油相への溶解度が1μmol/L以上かつ油水分配係数が1000以上であり、さらに油相に存在しながら水酸基を有する分子鎖を外水相に向けて自己配向し、油滴/外水相界面に親水性の層を生じて細網内皮系を回避する機能を発現する物質を使用することができる。具体的には、ポリエチレングリコール誘導体としてコレステロールPEG(polyoxyethanyl-cholesteryl sebacate)、ジステアリン酸フォスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール(DSPE−PEG)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルのうちHLBが6.0以下のものとしてモノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ステアリン酸ジエチレングリコールなど,ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油のうちHLBが6.0以下のものとしてポリオキシエチレンPOE(3)ヒマシ油、POE(5)硬化ヒマシ油など及びPCA(ピロリドンカルボン酸)磯ステアリン酸テアリン酸PEG−40水添ヒマシ油等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、単独で封入してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
ターゲッティングリガンド援助物質(12)とは、肝実質細胞表面のアシアロ糖タンパクレセプターと特異的に結合するガラクトース残基を有する物質、あるいはその他のレセプターと同様に結合する分子鎖を有する物質でありながら、油相への溶解度が1μmol/L以上かつ油水分配係数が1000以上であり、さらに油相に存在しながらターゲッティングリガンドを外水相に向けて自己配向し、肝実質細胞への導入を援助する機能を発現する物質である。具体的には、プルラン誘導体、ガングリオシド誘導体、アシアロトランスフェリン誘導体、アシアロフェツイン誘導体、ラクトノラクトン誘導体及びラクトース誘導体ならびに低比重リポ蛋白及び高比重リポ蛋白等が挙げられる。より具体的には、コレステロールプルラン、ショ糖エルカ酸エステル等がある。これらは、単独で封入してもよく、併用してもよい。
【0067】
生理活性物質を封入した油滴の平均滴径は、50〜1000nm、好ましくは50〜300nmの範囲であることが望ましい。これは1)日本薬局方第14改正注射剤の要件において、乳濁性注射剤の粒子の大きさは7μm以下で血管内可とされていること、2)大きな粒子は、マクロファージ等の細網内皮系を含む細胞性免疫系に補足されて瞬時に分解されること、3)300nm以下の粒子は細網内皮系に補足されにくいという実験結果が得られていること、4)リポソーム等の実績、5)注射剤の滅菌条件として微生物・エンドトキシン除去のため0.20〜0.45μmのフィルターでろ過しなくてはならないが、300nm以下の粒子であればエマルションを破壊することなく、ろ過滅菌が可能である等の理由による。
【0068】
本発明では、平均滴径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法及び動的散乱式粒度分布測定法による値を示す。これは、測定手法によって計測される滴径や滴径分布に差が生じる場合が多く、平均滴径の範囲で規定するためには測定手法も明確にする必要がある。そもそも50〜300nmの油滴は、光学顕微鏡で観察しようとしても不可能であり,電子顕微鏡では真空乾燥による形態変化があり直接的な測定が困難である。一方、遠心沈降式、動的散乱式、静的散乱式、レーザー回折散乱式等の機器測定があるが、こうした機器にはそれぞれ特性があって同じ油滴であっても平均滴径が一致することは少ない。本発明では、平均滴径が数10〜500nmの範囲は動的散乱式粒度分布測定法を用い、500nm以上のものについては、現在最も広く利用されている装置であるレーザー回折散乱式粒度分布測定法を選択する。
【0069】
本発明の製剤は、長期安定性に優れている。すなわち、特に室温下及び冷蔵保存で長期にわたり保存でき、安定性に優れている。このため、例えば室温(20℃)で6ヶ月保管した場合でも平均滴径がほとんど変化しない。具体的には、平均滴径の変化が±10%以内、特に±5%以内である。また、例えば室温(20℃)で6ヶ月保管した場合でも生理活性物質の封入率もほとんど変化しない。具体的には、製剤調製直後の封入率を100%とすると,6ヶ月保管した後でも封入率は90〜100%、特に95〜100%を維持することができる。
【0070】
本発明製剤は、特にその優れた血中滞留性(長時間血中に存在する性質)により、ほ乳動物(特にヒト)の肝疾患治療用又は予防用製剤として有用である。すなわち、生理活性物質が、細網内皮系に取り込まれることなく、血中に長時間にわたり存在するので、それだけ肝実質細胞に送達できる確率が高まる。その結果、肝疾患(肝障害)をより効果的に(より少ない副作用で)治療又は予防することが可能となる。
【0071】
本発明製剤は、そのまま又は希釈剤、製剤用添加剤等とともに所定の剤型に調製して用いることができる。剤型は限定的でなく、公知の剤型に従えばよい。例えば、液剤、カプセル剤、注射剤、経口製剤、塗布外用剤として使用できる。特に、静脈への注入用(静注用)等として好適である。また例えば、非経口的投与に適する注射用アンプル剤、点滴剤等の形態の医薬組成物として調製することができる。上記非経口投与用製剤の形態の医薬組成物として血管内投与法によっても投与することができる。投与量及び投与方法は特に限定されず、所定量を単回又は連続的(あるいは断続的)に点滴投与することが可能である。投与量は、患者の年齢、性別、症状、及び体重等の種々の条件に応じて適宜調整することができる。
【0072】
2.多相エマルション製剤の製造方法
前記1.の多相エマルション製剤の製造方法は限定されないが、例えば本発明の製造方法により好適に製造することができる。
【0073】
すなわち、肝疾患の治療用又は予防用の多相エマルション製剤を製造する方法であって、
(1)生理活性物質の水溶液を油相に分散させることによりW/Oエマルションを調製する第1工程、
(2)前記W/Oエマルション中の水分の全部又は一部を除くことによりS/Oサスペンションを調製する第2工程、
(3)前記S/Oサスペンションを外水相に分散させることによりS/O/W系多相エマルションを得る第3工程、
(4)前記S/O/W系多相エマルションを多孔質膜を用いて膜透過させることにより、前記油相の平均滴径が50〜1000nmである多相エマルション製剤を得る第4工程
を含む、多相エマルション型乳化製剤の製造方法を好適に採用することができる。
【0074】
以下、各工程について説明する。なお、本発明の製造方法で用いる材料は、前記1.で説明したものと同じものを使用することができる。
【0075】
<第1工程>
第1工程では、生理活性物質の水溶液を油相に分散させることによりW/Oエマルションを調製する。
【0076】
生理活性物質の水溶液の濃度は、通常は0.001〜5重量%の範囲内において、用いる生理活性物質の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0077】
W/Oエマルションの調製方法は、公知のW/Oエマルションの調製方法に従って実施すれば良い。例えば、油相に上記水溶液を滴下した後、水相が所望の粒径になるまで攪拌する方法等を挙げることができる。
【0078】
この場合、油相に予め各種の添加剤を配合することも可能である。例えば、溶解補助剤、保存安定剤、保護剤等の封入添加剤を用いることができる。特に、本発明では、RES回避誘導物質及びターゲッティングリガンド援助物質の少なくとも1種を油相に配合しておくことが望ましい。
【0079】
<第2工程>
第2工程では、前記W/Oエマルション中の水分の全部又は一部を除くことによりS/Oサスペンションを調製する。
【0080】
水分の除去は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、W/Oエマルションをロータリーエバポレーター等の公知又は市販の装置で脱水処理すれば良い。
【0081】
水分の除去量は、所望のS/Oサスペンションが得られる限り、完全に水分を除去する必要はない。通常は、得られたS/Oサスペンション中の水分含量が0〜0.5重量%,望ましくは0〜0.1重量%の範囲内になるように設定すれば良い。
【0082】
<第3工程>
第3工程では、前記S/Oサスペンションを外水相に分散させることによりS/O/W系多相エマルションを得る。
【0083】
第3工程では、第4工程で微細なエマルションを調製するに先立って、予め粗エマルションを調製する。
【0084】
S/Oサスペンションを外水相に分散させる方法としては特に制限されない。例えば、1)外水相となる水にS/Oサスペンションを添加混合する方法、2)多孔質膜を介して外水相となる水にS/Oサスペンションを圧入する方法等が挙げられる。これらは、いずれも公知の方法に従って実施することができる。
【0085】
第3工程で得られる粗エマルションの油滴径は500nm〜100μm程度の範囲内で適宜調整すれば良い。
【0086】
<第4工程>
第4工程では、前記S/O/W系多相エマルションを多孔質膜を用いて膜透過させることにより、前記油相の平均滴径が50〜1000nmである多相エマルション製剤を得る。
【0087】
第4工程では、第3工程で得られたS/O/W系多相エマルション(粗エマルション)を多孔質膜を介してその油滴を微細化する。これにより、肝疾患の治療又は予防に適した粒度をもつS/O/W系多相エマルション製剤を得ることができる。
【0088】
第4工程においては、前記油滴の粒度として、平均滴径が50〜1000nm(好ましくは50〜300nm)のものを効率的に得ることができる。平均滴径は、用いる膜状多孔質体の平均孔径に応じて適宜制御することができる。
【0089】
膜状多孔質体としては、均一な貫通孔を有するものであればよく、その細孔形状は円柱状であっても、角柱状であっても、あるいは他の形状であってもかまわない。また、細孔が膜面に対して垂直あるいは斜めに貫通したり、あるいは絡み合い構造でも粒子は生成する。特に、本発明では、細孔の水力学的直径及び有効長さが均一である膜状多孔質体を用いることが好ましい。また、膜状多孔質体の形状も限定されず、例えばパイプ状、平膜型等の多くの種類があり、構造的にも対称膜と非対称膜あるいは均質膜と不均質膜等に分けられるが、そうした形状や構造は本質的に本発明の効果に影響を与えないので、特に制限されない。膜状多孔質体の材質も、例えばガラス、セラミックス、シリコン、耐熱性高分子、金属等が挙げられ、接触角が90°を超えて油相に濡れないものであれば、特に制限されない。
【0090】
第4工程における膜透過は、1回又は必要により複数回実施すれば良い。また、孔径が異なる複数の多孔質膜を用い、徐々にエマルションの油滴を微細化することもできる。例えば、孔径が大きな多孔質膜から順に孔径の小さな多孔質膜に透過することにより微細化を行うことができる。
【0091】
また、特にRES回避誘導物質又はターゲッティングリガンド援助物質を用いる場合は、少なくとも第4工程の段階において、これらの物質の所定の分子鎖が外水相に向かって自己配向する。この自己配向は、第3工程でなされていても良い。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、下記の実施例に限定されない。
【0093】
実施例1
リコンビナントヒトインスリン(以下rhインスリンとする)を封入し、平均油滴径50〜1000nmの多相エマルション製剤を調製した。
【0094】
1.水溶性生理活性物質としてrhインスリン(Sigma社、リコンビナントヒトインスリン、分子量5800)80mgを0.01mol/Lの塩酸3 mlに溶解し、0.1mol/Lの水酸化ナトリウムで中和、蒸留水で8 mlとし、1.7mmol/Lのインスリン水溶液とした。大豆油12.8 mlに3.2gのテトラグリセリン縮合リシノオレイン酸エステル(阪本薬品工業製、CR-310,以下PGCRと記す)を加え、攪拌中にインスリン水溶液を滴下し、W/Oエマルションを調製した。このW/Oエマルションを4℃、1000rpmで66時間攪拌し、平均滴径325nmの水滴で構成されるW/Oエマルションを得た。
【0095】
2.上記W/Oエマルション24mlを35℃に加温しながらロータリーエバポレーターで減圧−0.1MPa下6時間脱水し、16mlのS/Oサスペンションを得た。カールフィッシャー水分計(京都電子社製,MKA-3P)によってS/Oサスペンションの水分含量を測定したところ0.14重量%であった。
【0096】
3.1重量%ポリオキシエチレン硬化ひまし油(HCO-60)、5重量%グルコースを含む外水相49.5mlに、上記S/Oサスペンション5.5mlを滴下し、スターラーにて15分攪拌しS/O/Wエマルションを得た。これを平均孔径11.8μmの多孔質ガラス膜(エス・ピー・ジーテクノ製)に膜透過して、平均油滴径8780nmの粗エマルションを得た。液滴径の測定は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(島津製作所製,SALD-2000)により行った.
4.上記粗エマルションを、平均孔径3.1μmの多孔質ガラス膜に1.5MPaで高圧膜透過させ、平均油滴径1730nmに微細化した。以下、多孔質ガラス膜の平均孔径を1.5μm、1.0μm、0.8μm、0.6μm、0.5μmと徐々に小さくし,それぞれを適切な圧力で膜透過させて最終的に平均油滴径551nmのS/O/Wエマルションを得た。
【0097】
5.上記S/O/Wエマルション15mlを、6.25重量%コール酸ナトリウム(和光純薬社製)を加えた外水相60mlと混合し、平均孔径0.4μmの多孔質ガラス膜に4.5MPaで膜透過させ、平均油滴径307.8nmのエマルションを得た。これを平均孔径0.4μm、0.2μm、0.1μmのポリカーボネート膜(Whatman社製、サイクロポアメンブレン)に順次透過させた。それぞれの透過時の圧力は、1.5〜4.5MPaで行った。0.4μmを透過させたエマルションの平均油滴径は300.9nm、0.2μmでは209.1nm、0.1μmでは153.2nmであった。500nmよりも小さい粒子は、動的散乱式粒度分布測定装置(大塚電子社製,ELS-800)を用いて測定した。
【0098】
以上の方法によりrhインスリンを封入した平均油滴径が50〜1000nmの範囲にある種々の多相エマルション製剤を調製することができた。
【0099】
実施例2
rhインスリンを封入し、RES回避誘導物質を配向した平均油滴径50〜1000nmの多相エマルション製剤を調製した。
【0100】
1. 水溶性生理活性物質としてrhインスリン(Sigma社、酵母発現リコンビナントヒトインスリン)80mgを0.01mol/Lの塩酸3mlに溶解し、0.1mol/Lの水酸化ナトリウムで中和、蒸留水で8mlとした。大豆油12.8mlに3.2gのPGCRを加え、攪拌中にインスリン水溶液を滴下し、W/Oエマルションを調製した。このW/Oエマルションを4℃、1200rpmで66時間攪拌し、平均滴径325nmの水滴で構成されるW/Oエマルションを得た。
【0101】
2. 上記W/Oエマルション24mlを35℃に加温しながらロータリーエバポレーターで減圧−0.1MPa下6時間脱水し、16mlのS/Oサスペンションを得た。カールフィッシャー水分計によってS/Oサスペンションの水分含量を測定したところ0.14重量%であった。
【0102】
3. 得られたS/Oサスペンション6 mlにモノオレイン酸ポリエチレングリコール(日光ケミカルズ社製、MYO-2、以下PEGと記す)60mgを添加し均一に攪拌した。
【0103】
4. 1重量%ポリオキシエチレン硬化ひまし油(HCO-60)及び5重量%グルコースを含む外水相49.5mlに、上記S/Oサスペンション5.5mlを滴下し、スターラーにて15分攪拌しS/O/Wエマルションを得た。これを平均孔径11.8μmの多孔質ガラス膜で膜透過して平均油滴径8,320nmの粗エマルション(15)を得た。油滴径はレーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定した。その油滴径分布を図4に示す。
【0104】
5. 上記粗エマルションを、平均孔径3.1μmの多孔質ガラス膜に1.5MPaで膜透過させ、平均油滴径1,690nm(16)に微細化した。以下、それぞれに適切な圧力で,平均孔径1.5μmの多孔質ガラス膜を膜透過させたエマルション(17)、次に1.0μmを膜透過させたエマルション、0.8μmを膜透過させたエマルション(18)、0.6μmを膜透過させたエマルション、最後に0.5μmを膜透過させたエマルションと徐々に小さくし、最終的に平均油滴径576nmの多相エマルションを得た。
【0105】
6. 上記S/O/Wエマルション15mlを、6.25重量%コール酸ナトリウム(和光純薬社製)を加えた外水相60mlと混合し、平均孔径0.4μmの多孔質ガラス膜に圧力4.5MPaで膜透過させ、平均油滴径346.5nmのエマルションを得た。これを平均孔径0.4μm、0.2μm、0.1μmのポリカーボネート膜(Whatman社製、サイクロポアメンブレン)に順次膜透過させた。それぞれの透過時の圧力は、1.5〜4.5MPaで行った。0.4μmを透過させたエマルションの平均油滴径は286.0nm(19)、0.2μmでは193.3nm(20)、0.1μmでは149.4nmであった。
【0106】
7. ポリカーボネート膜を膜透過させた上記S/O/Wエマルションを、平均孔径0.1μm、0.02μmの陽極酸化皮膜(Whatman社製、アノディスクメンブレン)に、2.0〜5.0MPaの圧力で膜透過させた。得られたS/O/Wエマルションの平均油滴径は、0.1μmでは135.7nm、0.02μmでは74nmであった。
【0107】
こうしてrhインスリンを封入し、RES回避誘導物質を配向した平均油滴径50〜1000nmの多相エマルション製剤を調製することができた。
【0108】
実施例3
実施例1及び2のS/O/W型エマルション(rhインスリン封入DDSキャリア)のうち、平均油滴径が550nm前後と200nm前後及びコントロールであるrhインスリン水溶液をラットに静脈内投与し、経時的に血液を採取して血中のrhインスリン濃度を比較した。血中インスリン濃度はIMxアナライザー(アボットジャパン製、全自動酵素免疫測定装置)を用いて測定した。表2及び図5のように、コントロール(21)及び平均油滴径550nmの多相エマルション製剤では速やかに血中からインスリンが消失した.これはPEGが配向した製剤(PEG+:PEGが含まれているもの)(22)および配向していない製剤(PEG−:PEGが含まれていないもの)(23)のいずれも消失が早かった.一方,平均油滴径200nmの多相エマルション製剤は、PEG配向製剤PEG+(24)および配向していない製剤PEG−(25)のいずれも長時間血中でインスリンが検出され、血中滞留性が著しく向上したことが確認された。特に、平均油滴径200nmの多相エマルション製剤では、3時間にわたり血中の初期濃度を実質的に維持できることがわかる。
【0109】
【表2】

【0110】
実施例4
rhインスリンを封入し、RES回避誘導物質及びターゲッティングリガンド援助物質を配向した多相エマルション製剤を下記の方法で調製し,その物性を調べた。
【0111】
1. 水溶性生理活性物質としてrhインスリン(Sigma社、大腸菌発現リコンビナントヒトインスリン)250mgを0.01mol/Lの塩酸15mlに溶解し、0.1mol/Lの水酸化ナトリウムで中和、蒸留水で20mlとした。大豆油20mlに5.0gのPGCRを加え、攪拌中にインスリン水溶液19mlを滴下し、W/Oエマルションを調製した。このW/Oエマルションを4℃、1,600rpmで20時間攪拌し、平均滴径431nmの水滴粒子であるW/Oエマルションを得た。
【0112】
2. 上記W/Oエマルション44mlを35℃に加温しながらロータリーエバポレーターで-0.1MPaで7.5時間減圧脱水し、25mlのrhインスリンS/Oサスペンションを得た。水分含量は0.04重量%であった。
【0113】
3. コレステロールプルラン(日本油脂社製、PUREBRIGHT CP-100T、以下CHPと記す)100mgを蒸留水20mlに超音波分散し,これをPGCR6.0gを添加した大豆油24mlに加えて攪拌することによりW/Oエマルションを調製した。このW/Oエマルションを室温下1,600rpmで44時間攪拌し、平均滴径804nmの水滴粒子で構成されるW/Oエマルション(以下,CHP-W/Oエマルション)を得た。
【0114】
4. 上記CHP-W/Oエマルション50mlを35℃に加温しながらロータリーエバポレーターで-0.1MPaで6.5時間減圧脱水し、30mlのCHP-S/Oサスペンションを得た。水分含量は0.03重量%であった。
【0115】
5. 得られたrhインスリンS/Oサスペンション15 mlに、CHP-S/Oサスペンション15ml、モノオレイン酸ポリエチレングリコール(日光ケミカルズ社製、MYO-2)300mgを添加し、均一に攪拌した。
【0116】
6. 1重量%ポリオキシエチレン硬化ひまし油(HCO-60)、5重量%グルコースを含む外水相75mlに、上記混合S/Oサスペンション25mlを滴下し、スターラーにて30分攪拌しS/O/Wエマルションを得た。これをシリンジに採取して平均孔径11.8μmの多孔質ガラス膜に透過し、平均油滴径6100nmの粗エマルションを得た。
【0117】
7. 上記粗エマルションを、平均孔径3.1μmの多孔質ガラス膜に1.5MPaで膜透過させ、平均油滴径2130nmに微細化した。以下、多孔質ガラス膜の平均孔径を1.8μm、1.5μm、1.0μm、0.9μm、0.8μm、0.7μm、0.6μm、0.5μmと徐々に小さくし、それぞれに適切な圧力で膜透過させ、最終的に548nmの平均油滴径のエマルションを得た。このエマルションを電気泳動法によるζ電位測定装置(大塚電子社製、ELS-800)にてζ電位を測定したところ、−5.42mVであった。
【0118】
以上の方法により得られた平均油滴径が1000nm以下の多相エマルション製剤は安定性が高く,6ヶ月後でも油滴径や封入率は変化しなかった.
実施例5
rhインスリンを封入し、RES回避誘導物質及びターゲッティングリガンド援助物質を配向した多相エマルション型DDSキャリアの製造方法を以下に示す.
1. 実施例4のインスリンS/Oサスペンション、CHP-S/Oサスペンション、PEGを調製例3と同じ比率で混合した。
【0119】
2. 1重量%ポリオキシエチレン硬化ひまし油(HCO-60)、5重量%グルコース、0.5重量%コール酸ナトリウム(和光純薬工業製)を含む外水相75mlに、上記混合S/Oサスペンション15mlを滴下(S/O滴の体積16.7容積%)し、ホモミキサーにて16,000rpmで1分攪拌し、平均油滴径4100nmの粗エマルションを得た。
【0120】
3.この粗エマルションを、平均孔径3.1μmの多孔質ガラス膜に1.5MPaで膜透過させ、平均油滴径1610nmに微細化した。以下、多孔質ガラス膜の平均孔径を1.5μm、1.0μm、0.8μm、と徐々に小さくし、それぞれに適切な圧力で膜透過させ、平均油滴径706nmのS/O/Wエマルションを得た。
【0121】
4. 上記S/O/Wエマルションを、平均孔径0.7μm、0.6μm、0.5μmの多孔質ガラス膜に3.5〜4.8MPaで順次膜透過させ、平均油滴径565nmのS/O/Wエマルションを得た。
【0122】
5. 上記S/O/Wエマルション10mlに5重量%コール酸ナトリウムを添加した外水相70mlを加え、スターラーで攪拌混合した。これを、平均孔径0.4μm、0.2μmのポリカーボネート膜(Whatman社製、サイクロポアメンブレン)に透過圧力1.5〜4.5MPaで順次膜透過させた。最終的に、平均油滴径224nmのS/O/Wエマルションを得た。このエマルションのζ電位は−7.27mVであった。
【0123】
以上の方法により得られた平均油滴径が1000nm以下の多相エマルション製剤は安定性が高く,6ヶ月後でも油滴径や封入率は変化しなかった。
【0124】
実施例6
rhインスリンを封入し、RES回避誘導物質及びターゲッティングリガンド援助物質を配向した多相エマルション型DDSキャリアの特徴的な製造条件を以下に示す.
すなわち,実施例5の3で調製したS/O/Wエマルション10mlを、0.5重量%コール酸ナトリウムを加えた外水相70mlと混合して希釈(S/O滴の体積2容積%)した。これを平均孔径0.7μm、0.6μm、0.5μm、0.4μmの多孔質ガラス膜に3.5〜4.8MPaで順次膜透過させた。0.5μmで膜透過したS/O/Wエマルションの平均油滴径は542nm,0.4μmで膜透過したS/O/Wエマルションの平均油滴径は541nmであり,実施例5の結果と比較すると,S/O滴の体積が小さくなっても平均油滴径は小さくならず,多孔質ガラス膜を使用する場合は平均孔径0.5〜0.4μmが限界であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の実施例では、肝硬変治療を目的とした肝実質細胞HGF封入乳化製剤について説明したが、本発明は、インターフェロン、インターロイキン等といった体内安定性が低く血中半減期の短い多くの生理活性物質の問題点を、物質のPEGylation(PEG化)といった合成工程を経ずに解決することが可能である。また、全身投与では副作用が重篤なTNF-α等では、体内安定性を維持しつつ局所投与が可能となり、創薬化が困難であったこうした生理活性物質がもつ問題課題を解決する手段となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】DDSキャリアの概念図
【図2】S/O/W型エマルション模式図
【図3】W/O/W型エマルション模式図
【図4】多相エマルションの滴径分布
【図5】多相エマルション(DDSキャリア)の血液中の濃度推移
【符号の説明】
【0127】
1 生理活性物質
2 封入添加剤
3 油相
4 油滴
5 外水相
6 油剤
7 油性乳化剤
8 油相添加剤
9 水性乳化剤
10 水性添加剤
11 RES回避誘導物質
12 ターゲッティングリガンド援助物質
13 固相粒子
14 内水相液滴
15 平均油滴径8320nmのエマルション
16 平均油滴径1690nmのエマルション
17 平均孔径1.5μmの多孔質ガラス膜を透過したエマルションの油滴径分布
18 平均孔径0.8μmの多孔質ガラス膜を透過したエマルションの油滴径分布
19 平均孔径0.4μmのポリカーボネート膜を透過したエマルションの油滴径分布
20 平均孔径0.2μmのポリカーボネート膜を透過したエマルションの油滴径分布
21 コントロールの血中インスリン濃度経時変化
22 平均油滴径500nm PEG+ 製剤の血中インスリン濃度経時変化
23 平均油滴径550nm PEG- 製剤の血中インスリン濃度経時変化
24 平均油滴径200nm PEG+ 製剤の血中インスリン濃度経時変化
25 平均油滴径200nm PEG- 製剤の血中インスリン濃度経時変化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油剤及び油性乳化剤を含む油相中に生理活性物質が封入されてなる油滴が外水相に分散している多相エマルションであって、
(1)前記生理活性物質が、水への溶解度が1μmol/L以上であり、かつ、油水分配係数が0.001以下であり、
(2)前記生理活性物質が、油滴中0.01〜25重量%の範囲で封入されている、ことを特徴とする、肝疾患治療用又は予防用の血中滞留型多相エマルション製剤。
【請求項2】
下記1)〜4)の特徴を有する物質a;
1)水酸基を有する分子鎖をもつ、
2)油相への溶解度が1μmol/L以上である、
3)油水分配係数が1000以上である、
4)油相中において前記水酸基を有する分子鎖を外水相に向けて自己配向する、
がさらに油相中に含まれる、請求項1に記載の多相エマルション製剤。
【請求項3】
前記物質aが、コレステロールPEG(polyoxyethanyl-cholesteryl sebacate)、ジステアリン酸フォスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール(DSPE−PEG)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ステアリン酸ジエチレングリコール、ポリオキシエチレンPOE(3)ヒマシ油、ポリオキシエチレンPOE(5)硬化ヒマシ油及びPCA(ピロリドンカルボン酸)イソステアリン酸テアリン酸PEG−40水添ヒマシ油の少なくとも1種である、請求項2に記載の多相エマルション製剤。
【請求項4】
前記物質aが、油相中において前記分子鎖を外水相に向けて配向している、請求項2又は3に記載の多相エマルション製剤。
【請求項5】
下記1)〜4)の特徴を有する物質b;
1)肝実質細胞表面上のレセプターと特異的に結合する分子鎖を有する、
2)油相への溶解度が1μmol/L以上である、
3)油水分配係数が1000以上である、
4)油相中において前記分子鎖を外水相に向けて自己配向する、
がさらに油相中に含まれる、請求項1〜4のいずかに記載の多相エマルション製剤。
【請求項6】
前記物質bが、下記の少なくとも1種;
1)プルラン誘導体、ガングリオシド誘導体、アシアロトランスフェリン誘導体、アシアロフェツイン誘導体、ラクトノラクトン誘導体及びラクトース誘導体ならびに
2)低比重リポ蛋白及び高比重リポ蛋白
である、請求項5に記載の多相エマルション製剤。
【請求項7】
前記物質bが、油相中において前記分子鎖を外水相に向けて配向している、請求項5又は6に記載の多相エマルション製剤。
【請求項8】
前記油滴の平均滴径が、1)動的散乱式粒度分布測定による値で50〜500nmの範囲又は2)レーザー回折散乱式粒度分布測定による値で500〜1000nmである、請求項1〜7のいずれかに記載の多相エマルション製剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の静注用多相エマルション製剤。
【請求項10】
肝疾患治療用又は予防用の血中滞留型多相エマルション製剤を製造する方法であって、
(1)生理活性物質の水溶液を油相に分散させることによりW/Oエマルションを調製する第1工程、
(2)前記W/Oエマルション中の水分の全部又は一部を除くことによりS/Oサスペンションを調製する第2工程、
(3)前記S/Oサスペンションを外水相に分散させることによりS/O/W系多相エマルションを得る第3工程、
(4)前記S/O/W系多相エマルションを多孔質膜を用いて膜透過させることにより、前記油相の平均滴径が50〜1000nmである多相エマルション製剤を得る第4工程
を含む、多相エマルション製剤の製造方法。
【請求項11】
第2工程に先立って、請求項2又は3に記載の物質a又はその溶液をあらかじめ油相へ溶解又は分散させる工程をさらに含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
第3工程及び/又は第4工程において、前記物質aの水酸基を有する分子鎖を外水相に自己配向させる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
第2工程に先立って、請求項4又は5に記載の物質b又はその溶液をあらかじめ油相へ溶解又は分散させる工程をさらに含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
第3工程及び/又は第4工程において、前記物質bの当該分子鎖を外水相に自己配向させる、請求項13に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−119436(P2007−119436A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317608(P2005−317608)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】