説明

肝硬変及び肝線維症の治療のための方法及び組成物

本発明は、IGF−Iをコードする遺伝子を含むウイルスベクターを使用することによる、肝硬変及び肝線維症の治療方法を提供する。本発明は、パルボウイルスベクター及びSV40系ベクターのいずれも、さらにそれらの肝硬変の治療及び遺伝子療法のための使用、並びに前記ウイルスベクターの調製方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子療法の分野に関し、より詳細には、ウイルスベクターを使用することによる肝硬変及び肝線維症の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝移植は、進行性肝硬変を患った患者にとって唯一の治療の選択肢である。この方法は、外科的禁忌と臓器不足があることから、少数の患者にしか適用できない。実際に、米国における待ちリストは約12500人の患者であり、移植に要する平均日数が約300日であり、45%を超える患者の待ち時間が2年を超え、死亡率が1年における1000人の患者あたり130人である(Freeman R.B.ら、Am J.Transplant.2008;8:958−976)。
【0003】
インスリン様成長因子I(IGF−I)は、有力な細胞保護的及びタンパク同化ホルモンである。血清IGF−Iは、ほとんど肝臓由来であり、IGF−I生物活性を調節する一連の結合タンパク質(IGFBP)に結合して循環する(Adamo M、ら、1989、 Endocrinology、124:2737−2744及びMohan Sら、2002、J.Endocrinol.、175:19−31)。IGFBPの分解が遊離IGF−Iを放出し、これは相互作用し、IGF−I受容体(IGF−IR)を活性化することができる。また、IGF−Iはインスリン受容体に結合し、インスリンはIGF−IRを活性化することができるが、それらの同族受容体に対する親和性は100〜1000倍高い(Nitert MDら、2005、Mol.Cell.Endocrinol.229:31−37)。IGF−IRとの相互作用により、MAPキナーゼ及びPI3キナーゼカスケード(細胞の生存、成長及び分化を調節する)が活性化される(Riedemann J.ら、2006、Endocr.Relat.、Cancer.13 Suppl 1:S33−43)。
【0004】
肝硬変にあっては、肝細胞の機能不全の結果、IGF−Iレベルが著しく減少する。このホルモン欠乏が、肝硬変に生じる全身性代謝異常に関与することがある(Conchillo M.ら、2005; 43:630−636及びLorenzo−Zuniga V.ら、2006、Gut 55:1306−1312)。実際、組み換えIGF−I(rIGF−I)で肝硬変ラットを治療すると、体重増加、窒素保持及び栄養素の腸内吸収が促進される(Castilla−Cortazar I.ら、2000、Hepatology、31:592−600)。さらに、rIGF−Iは、肝硬変ラットにおいて肝臓保護活性を示すことが明らにされた(Castilla−Cortazar I. ら、1997、Gastroenterology、113:1682−1691及びMuguerza Bら、2001、Biochim Biophys Acta.1536:185−195)。また、肝硬変の患者で体重1kg当たり100μgの投与量でrIGF−Iを毎日投与する最近のパイロット臨床試験では、血清アルブミンが顕著に増加するとともに、Child−Pughスコアの改善がみられた(Conchillo M.ら、2005、J.Hepatol.43:630−636)。しかしながら、多量のrIGF−Iを必要とするので、肝硬変におけるIGF−I療法の潜在的利益が、治療にかかる高コストにより相殺される。
【0005】
IGF−Iの直接投与の別法として、IGF−Iをコードするポリヌクレオチドを含んでなるウイルスベクターを使用することが提案された。Vera M.ら(Gene Ther.、2007、14:203−210)は、健常なラットに、IGF−Iをコードする組み換えSimian Virus40ベクターを注射すると、CCl誘発肝臓障害から肝臓を守ることができることを述べている。Sobrevalsら(Molecular Therapy Volume 16、Supplement 1、2008年5月、S145)は、IGF−Iをコードする組み換えSimian Virus40ベクターを投与すると、CCl誘発肝硬変の影響を部分的に消すことがあることを述べている。しかしながら、ウイルスベクターに関する全ての結果が良い結果というわけではない。例えば、Zaraiteguiら、(J.Physiol.Biochem.、2002、58:169−176)は、CCl誘発肝硬変を患っているラットにIGF−Iをコードするアデノ関連性ウイルスを筋肉内投与したところ、肝臓障害は顕著には改善されなかったことを述べている。
【0006】
したがって、当該技術分野において、肝硬変の治療に有用なIGF−Iの送達を改善する必要性がある。
【発明の概要】
【0007】
第一の態様によれば、本発明は、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含んでなる、ウイルスゲノムに関する。
【0008】
第二の態様によれば、本発明は、好適なパッケージング細胞で、本発明によるウイルスゲノムを発現することにより得ることができるビリオンに関する。
【0009】
別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用される本発明によるビリオンに関する。更なる態様によれば、本発明は、請求項9で定義されているビリオンと薬学的に許容しうる担体とを含んでなる医薬組成物、及び肝硬変又は肝線維症の治療及び/又は予防方法であって、請求項8又は9で定義したビリオンを、それを必要としている被検者に投与することを含んでなる方法に関する。
【0010】
別の態様によれば、本発明は、肝硬変又は肝線維症の治療及び/又は予防方法であって、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードする配列を含んでなる組み換えパルボウイルスを、それを必要としている被検者に投与することを含んでなる方法に関する。
【0011】
別の態様によれば、本発明は、組み換えAAVビリオンの調製方法であって、
(i)細胞と、
(a)i.IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結した配列を含んでなる発現カセットと、
ii.(i)で定義されている発現カセットの側に位置しているAAV 5’−ITR 及び3’−ITRと、
を含んでなる第1核酸配列と、
(b)AAVrepタンパク質をコードする第2核酸配列と、
(c)AAVcapタンパク質をコードする第3核酸配列と、そして任意の
(d)AAVが複製用に従属するウイルス性及び/又は細胞機能をコードする第4核酸配列とを、
前記細胞に前記三成分が侵入するのに適した条件下で接触させる工程と、
(ii)前記細胞から前記組み換えAAVビリオンを回収する工程と
を含んでなる方法に関する。
【0012】
別の態様によれば、本発明は、組み換えSV40ビリオンの調製方法であって、
(i)細胞と、複製欠損SV40ゲノムを含んでなるポリヌクレオチドとを接触させる工程であって、前記ゲノムが、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結された配列を含んでなる発現カセットを含んでなるものであり、前記細胞が、前記ポリヌクレオチドにおける複製欠損を補完するSV40遺伝子を発現するものであり、前記細胞と前記ポリヌクレオチドとの接触が、前記ポリヌクレオチドが前記細胞に侵入するのに適した条件下で行われる工程と、
(ii)前記組み換えSV40ビリオンを前記細胞から回収する工程と
を含んでなる方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1AB】確立された肝硬変モデルの分析。A.このモデルの分析のために実施された実験の略図。B.トランスアミナーゼの分析。トランスアミナーゼ(AST、ALT及びALP)を、示された時間に、健常なラット又は肝硬変の対照動物から得た血清で評価した。
【図1CD】確立された肝硬変モデルの分析。肝線維症の評価。細胞外沈着を、Sirius Red(C)で染色し、示された時間に、画像分析(D)により定量化した。
【図2】肝硬変におけるdsAAVIGF−Iの影響を評価するためにおこなった実験の略図。肝硬変を8週間誘発し、動物を犠牲死し、血液試料を、ベクターを投与してから4日後、2週間後、8週間後、16週間後及び1年後に評価した。
【図3AB】IGF−I処置した肝臓及び対照におけるIGF−I発現の分析。IGF−I mRNA(A)及びタンパク質(B及びC)を、健常又は肝硬変対照動物(Ci)からか又はdsAAVLuc(Ci+Luc)若しくはdsAAVIGF−I(Ci+IGF−I)で、示されている時間、処置した動物から得た肝臓(A及びB)又は血清(C)由来のqRT−PCR(A)又はELISA(B及びC)により定量化した。また、IGFI−BP3 mRNA(D)も、上記IGF−Iに関する動物群から得た肝臓由来のRT−PCRにより定量化した。
【図3CD】図3ABにて説明。
【図4A】IGF−Iで処置したラット及び対照からの血清パラメータの分析。トランスアミナーゼ(AST、ALT及びALP)(A)、ビリルビン(B)及びアルブミン (C)を、健常ラット、肝硬変の対照動物(Ci)からか、又はdsAAVLuc (Ci+Luc)若しくはdsAAVIGF−I(Ci+IGF−I)で、示された時間、処置した肝硬変の動物から得た血清で評価した。
【図4BC】図4Aにて説明
【図5AB】IGF−I処置ラット及び対照における肝線維症の評価。細胞外沈着を、Sirius Red(A)で染色し、画像解析(B)により定量化した。コラーゲンI(C)及びIV(D)mRNAを、qRT−PCRにより定量化した。全ての試料を、健常なラット、対照肝硬変動物(Ci)から得るか、又はdsAAVLuc (Ci+Luc)若しくはdsAAVIGF−I(Ci+IGF−I)で示された時間処置した肝硬変動物から得た。
【図5CD】図5ABにて説明。
【図6AB】IGF−I処置肝臓及び対照でのMMP及びMMP活性の発現の分析。MMP活性を蛍光発生基質(A)で測定し、MMP2(B)及びMMP9(C)タンパク質をELISAにより定量化し、MMP1(D)、2(E)、9(F)、14(G) mRNA及びTIMP2(H)を、健常肝臓由来qRT−PCR、対照動物(Ci)から得た肝硬変肝臓由来qRT−PCR、dsAAVLuc(Ci+Luc)若しくはdsAAVIGF−I(Ci+IGF−I)で、示された時間処置した動物から得た肝臓由来qRT−PCRにより定量化した。
【図6CD】図6ABにて説明。
【図6EF】図6ABにて説明。
【図6GH】図6ABにて説明。
【図7AB】IGF−I処置動物及び対照におけるプロフィブロジェニック因子TNFα及びIL6の分析。αSMAタンパク質(A)及びmRNA(B)を、健常肝臓、対照動物からの肝硬変肝臓(Ci)、又はdsAAVLuc(Ci+Luc)若しくはdsAAVIGF−I(Ci+IGF−I)で、示された時間、処理した動物から、免疫組織化学(A)により検出するか、又はqRT−PCR(B)により定量化した。これらの動物において、TGFβ mRNA(C)及びタンパク質(D及びE)も、肝臓(C及びD)又は血液(E)で分析し、肝臓CTGF(F)、PDGF(G)、VEGF(H)、アンフィレグリン(AR、I)、TNFα(J)及びIL6(K)mRNAをqRT−PCRにより定量化した。
【図7CD】図7ABにて説明。
【図7EF】図7ABにて説明。
【図7GH】図7ABにて説明。
【図7I】図7ABにて説明。
【図7JK】図7ABにて説明。
【図8AB】IGF−I処置動物及び対照におけるHGF、HNF4α及びWTの分析。HGF(A)、HNF4α(B)及びWT−1 mRNA(C)を、健常肝臓、対照動物からの肝硬変肝臓(Ci)又はdsAAVLuc(Ci+Luc)若しくはdsAAVIGF−I(Ci+IGF−I)で、示された時間、処置した動物からqRT−PCRにより定量化した。
【図8C】図8ABにて説明。
【図9】IGF−I処置動物及び対照における増殖の分析。Ki67染色を、組織学的試料(A)から定量化し、PCNA mRNAを、健常肝臓、対照動物(Ci)からの肝硬変肝臓、又はdsAAVLuc(Ci+Luc)若しくはdsAAVIGF−I(Ci+IGF−I)で、示された時間、処置した動物からの肝硬変肝臓から、qRT−PCRにより定量化した。
【図10AB】SVIGF−I、dsAAV−IGF−Iで処置したラット及び対照における肝線維症の評価。細胞外沈着を、Sirius Redで染色し、画像解析(A及びB)により定量化した。CollagenI(C)及びIV(D)mRNAを、qRT−PCRにより定量化した。全ての試料は、健常なラット、対照肝硬変動物(Ci)、又はdsAAVLuc(Ci+AAVLuc)、dsAAVIGF−I(Ci+AAVIGF−I)、SVLuc(Ci+SVLuc)若しくはSVIGF−I(Ci+SVIGF−I)で、示された時間、処置した肝硬変動物から得た。
【図10CD】図10ABにて説明。
【図11】SVIGF−I、dsAAV−IGF−I及び対照で処置したラットにおけるIGF−I発現の分析。合計(A)及び遊離(B)IGF−Iタンパク質及びmRNA(C)を、健常なラット、対照肝硬変動物(Ci)又はdsAAVLuc(Ci+AAVLuc)、SVIGF−I(Ci+SVIGF−I)若しくはdsAAVIGF−I(Ci+AAVIGF−I)で、示された時間、処置した肝硬変動物からの肝臓から、Elisa(A及びB)又はqRT−PCR(C)により定量化した。
【図12】SVIGF−I、AAV−IGF−I及び対照で処置したラットにおける活性化HSCの分析。αSMAタンパク質(A)及びmRNA(B)を、健常なラット、対照肝硬変動物(Ci)、又はdsAAVLuc(Ci+AAVLuc)、SVIGF−I(Ci+SVIGF−I)若しくはdsAAVIGF−I(Ci+AAVIGF−I)で4日間(A及びB)又は8週間(B)処置した肝硬変動物からの肝臓から、免疫組織化学(A)で検出するか、qRT−PCR(B)により定量化した。
【図13A−C】SVIGF−I、dsAAV−IGF−I及び対照で処置したラットにおけるTGFβ、CTGF及びVEGFの分析。TGFβ mRNA(A)及びタンパク質(B及びC)を、健常なラット、対照肝硬変動物(Ci)、又はdsAAVLuc (Ci+AAVLuc)、SVIGF−I(Ci+SVIGF−I)若しくはdsAAVIGF−I(Ci+AAVIGF−I)で4日間又は8週間処置した肝硬変動物から得た肝臓(A及びB)又は血清(C)から、qRT−PCR(A)又はELISA(B及びC)により定量化した。
【図13DE】図13A−Cにて説明。
【図14】SVIGF−I、dsAAV−IGF−I及び対照で処置したラットにおけるHGF及びHNF4αの分析。HGF(A)及びHNF4α(B)mRNAを、健常なラット、対照肝硬変動物(Ci)又はdsAAVLuc(Ci+AAVLuc)、SVIGF−I(Ci+SVIGF−I)若しくはdsAAVIGF−I(Ci+AAVIGF−I)で4日間又は8週間処置した肝硬変動物から単離した肝臓から、qRT−PCRにより定量化した。
【図15AB】IGF−I発現及び活性の分析。A:処置してから4日又は8週間後の肝臓抽出物におけるIGF−I mRNA発現レベル。B:ベクター投与(4.8x1010 vp/ラットの低用量)してから16週間後の肝臓抽出物におるけるIGF−I mRNA発現レベル。C:肝臓抽出物におけるIGF−Iタンパク質レベル。D及びE:処置してから4日後に定量化した総血清IGF−I(D)及び遊離血清IGF−I(E)レベル;ssAAVLucの場合、表されているIGF−Iレベルは、高用量1.2x1012vp/ラット及び極低用量9.7x10vp/ラットに相当する。F:処置してから4日又は8週間後の肝臓抽出物におけるIGF−IBP3 mRNA発現レベル。G:ベクター投与(低用量4.8x1010 vp/ラット)してから16週間後の肝臓抽出物におけるIGF−IBP3 mRNA発現レベル。H:肝臓抽出物におけるIGF−I受容体(IGF−IR)mRNA発現レベル。全てのmRNA発現レベルを、qRT−PCRにより定量化し、IGF−Iタンパク質レベルをELISAにより定量化した。三角形は、減少順の投与量を示す。
【図15C】図15ABにて説明。
【図15DE】図15ABにて説明。
【図15FG】図15ABにて説明。
【図15H】図15ABにて説明。
【図16AB】血清トランスアミラーゼの分析。ベクターを投与してから4日(A)、8週間(B)、12週間(C)及び1年(D)後の血清の定量化されたトランスアミラーゼレベル(AST, ALT及びALP)。12週間後について、表されているレベルは、低用量ベクター(4.8x1010vp/ラット)に相当する。1年後については、表されたレベルは、高用量ベクター(1.2x1012vp/ラット)に相当する。三角形は、減少順の用量を示す。
【図16CD】図16ABにて説明。
【図17AB】血清ビリルビンの分析。ベクターを投与してから4日(A)、8週間(B)、12週間(C)及び1年(D)後の血清の定量化されたビリルビンレベル。12週間後について、表されているレベルは、低用量ベクター(4.8x1010vp/ラット)に相当する。1年後については、表されたレベルは、高用量ベクター(1.2x1012vp/ラット)に相当する。三角形は、減少順の用量を示す。
【図17CD】図17ABにて説明。
【図18AB】血清アルブミンの分析。ベクターを投与してから4日(A)、8週間(B)、12週間(C)及び1年(D)後の血清の定量化されたアルブミンレベル。12週間後について、表されているレベルは、低用量ベクター(4.8x1010vp/ラット)に相当する。1年後については、表されたレベルは、高用量ベクター(1.2x1012vp/ラット)に相当する。三角形は、減少順の用量を示す。
【図18CD】図18ABにて説明。
【図19AB】肝線維症の評価。肝線維症は、Sius Red(A及びC)で染色した組織試料における細胞外沈着の画像解析定量化;及びqRT−PCRによる肝臓組織のコラーゲンI(B及びD)及びIV(C及びF)mRNA発現レベルの定量化により評価した。表されたデータは、処置してから8週間後に採取した試料(A〜C)及び処置してから16週間後に採取した試料(D〜F)に相当する。後者については、表されたデータは、低用量ssAAVLuc及びssAAVIGF−Iに相当する。三角形は、減少順の用量を示す。
【図19CD】図19ABにて説明。
【図19EF】図19ABにて説明。
【図20AB】MMP及びMMPインヒビターの分析。肝臓抽出物試料を、処置後8週間後(A〜H)又は16週間後(I〜M)に得た。E及びF関して、ssAAVIGF−Iについて表されたデータは、高用量及び極低用量に相当する。後者の場合、表されたデータは、低用量(4.8x1010vp/ラット)のssAAVLuc及びssAAVIGF−Iに相当する。MMP1(A、I)、MMP2(B、J)、MMP9(C、K)、MMP14(D、L)及びTIMP−2(E、M)についてのmRNA発現を、qRT−PCRにより定量化した。MMP2(F)及びMMP9(G)タンパク質レベルを、ELISAにより定量化した。総MMP活性も、評価した(H)。三角形は、減少順の用量を示す。
【図20CD】図20ABにて説明。
【図20EF】図20ABにて説明。
【図20GH】図20ABにて説明。
【図20IJ】図20ABにて説明。
【図20KL】図20ABにて説明。
【図20M】図20ABにて説明。
【図21A】肝星細胞(HSC)の分析。αSMA発現を、処置してから8週間(A〜B)又は16週間(C)後に得た肝臓試料で分析した。後者の場合、表されたデータは、低用量ssAAVLuc及びssAAVIGF−Iに相当する。A:αSMA特異的免疫組織化学による肝組織におけるαSMAの局在化。B及びC:qRT−PCRにより定量化されたαSMA mRNA発現。三角形は、減少順の用量を示す。
【図21BC】図21Aにて説明。
【図22AB】炎症及びプロフィブロジェニック因子の分析。肝臓抽出物試料は、処置してから8週間(A、C、E、G、I、K及びM)又は16週間(B、D、F、I、J、L及びN)後に得た。後者の場合、表されたデータは、低用量ssAAVLuc及びssAAVIGF−Iに相当する。TGFβ、TNFα、IL−6、CTGF、VEGF、PDGF及びアンフィレギュリン(AR)mRNA発現を、qRT−PCRにより定量化した。三角形は、減少順の用量を示す。
【図22CD】図22ABにて説明。
【図22EF】図22ABにて説明。
【図22GH】図22ABにて説明。
【図22IJ】図22ABにて説明。
【図22KL】図22ABにて説明。
【図22MN】図22ABにて説明。
【図23AB】肝細胞成長因子HGFの分析。肝臓抽出物試料を、処置してから4日(A〜B)、8週間(C〜D)又は16週間(E)後に得た。A及びBについて、ssAAVIGF−Iについての表されたデータは、高用量及び極低用量に相当する。後者の場合、表されたデータは、低用量ssAAVLuc及びssAAVIGF−Iに相当する。HGF mRNA発現を、qRT−PCR(A、C及びE)により定量化した;HGFタンパク質レベルを、ELISA(B及びD)により定量化した。三角形は、減少順の用量を示す。
【図23CD】図23ABにて説明。
【図23E】図23ABにて説明。
【図24AB】分化因子の分析。肝臓抽出物試料を、処置してから4日(A)、8週間(B、D)又は16週間(C、E)後に得た。4日後に関して、ssAAVLucについての表された用量は、極低用量に相当する。16週間後に関して、表されたデータは、低用量のssAAVLuc及びssAAVIGF−Iに相当する。成熟因子HNF4a(A、B及びC)及び分化因子WT−1(D及びE)mRNA発現レベルを、qRT−PCRにより定量化した。三角形は、減少順の用量を示す。
【図24C】図24ABにて説明。
【図24DE】図24ABにて説明。
【図25AB】増殖の分析。A:処置してから4日後に得た肝組織試料におけるKi67染色核の定量化。B、C及びD:処置してから4日(B)、8週間(C)又は16週間(D)後に得られる肝臓抽出物試料におけるqRT−PCRにより定量化された増殖因子PCNA mRNA発現レベル。4日後に関して、ssAAVLucについての表された用量は、極低用量に相当する。16週間後に関して、表されたデータは、低用量のssAAVLuc及びssAAVIGF−Iに相当する。三角形は、減少順の用量を示す。
【図25CD】図25ABにて説明。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、肝硬変を患ったラットに、IGF−Iをコードするウイルスベクター(ここで、このIGF−Iをコードするポリヌクレオチドが肝臓特異的プロモーターの制御下にある)を投与すると、フィブロリシスの刺激、プロフィブロジェニック因子の下方制御及び細胞保護的分子の誘発により特徴付けられる健全な組織修復プログラムが活性化されることを見出した。これらの変化は、肝臓構造及び肝細胞機能の著しい改善と関連している。これらの知見は、硬変した肝臓にAAVベクターによりIGF−I遺伝子導入することが、肝臓移植ができない進行性肝硬変を患った患者や、移植の待ちリストで順番がこない患者のための治療の選択肢となる可能性があることを示唆している。
【0015】
ウイルスゲノム
本発明者らは、IGF−Iを、これをコードする配列が肝臓特異的プロモーターの制御下にあるウイルスベクターを用いて、硬変した肝臓に導入すると、肝機能の改善及び肝線維症の減少を生じることを見出した(本発明の実施例3及び10参照)。したがって、第一の態様によれば、本発明は、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結したヌクレオチド配列を含んでなるウイルスゲノムに関する。
【0016】
本明細書において用いられている用語「ウイルスゲノム」は、一またはそれ以上の異種のヌクレオチド配列を含んでなる、組み換えウイルスゲノム(すなわち、ウイルスDNA)に関する。全ての他の構造及び非構造コード配列は、プラスミドなどのベクターによりあるいは配列をパッケージング細胞株に安定的に一体化することによってそれらをトランスに提供することができることから、ウイルスベクターに存在しないことが好ましい。ベクターは、試験管内、生体内又は生体外でDNAを細胞に導入する目的で利用され得るものである。本発明で使用するのに適しているウイルスゲノムには、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、例えば、ポクスウイルス系ベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ポリオーマウイルスベクター、アルファウイルスベクター、ラブドウイルスベクター、ピコルナウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、例えば、EBVベクター、例えば、レンチウイルスベクター、MMLV系ベクターなどが挙げられるが、これらには限定されない。
【0017】
用語「ヌクレオチド配列」は、本明細書において「ポリヌクレオチド」と同義的に使用され、いずれかの長さで、リボヌクレオチド及び/又はデオキシリボヌクレオチドからなる高分子型ヌクレオチドに関する。この用語には、一本鎖ポリヌクレオチド及び二本鎖ポリヌクレオチドの両方、並びに改変ポリヌクレオチド(メチル化、保護など)などが含まれる。
【0018】
本明細書において用いられている用語「IGF−I」は、用語「インスリン様成長因子I」及びソマトメジンCと同義的に使用され、インスリンとアミノ酸相同性がほぼ50%であるインスリン様効果及びインスリン様構造を示すポリペプチド群に関する。さらに、三次元モデリングによって、IGFの構造が、3つのジスルフィド架橋により架橋され、B鎖様アミノ末端部(Bドメイン)、接続ペプチド(Cドメイン)及びA鎖様部(Aドメイン)からなる一本鎖ペプチドであるプロインスリンに類似していることが明らかにされた。さらに、プロインスリンには見られないカルボキシル末端延長が存在する(Dドメイン)。IGF−Iポリペプチドは、さらにEドメインと呼ばれるプロインスリンには見られない別のカルボキシル末端延長を含んでなる。
【0019】
本発明に有用な好適なIGF−I分子には、以下に挙げるものなどが挙げられるが、これらには限定されない。
−プレプロIGF−I、プロIGF−I又は成熟IGF−Iのヒトイソ型1にそれぞれ対応する、NCBIに登録番号NP_001104753(配列番号1)のもと記述されているポリペプチドのアミノ酸1−158、49−158又は49−116。
−プレプロIGF−I、プロIGF−I又は成熟IGF−Iのヒトイソ型2にそれぞれ対応する、NCBIに登録番号NP_001104754(配列番号2)のもと記述されているポリペプチドのアミノ酸1−137、33−137又は33−102。
−ヒトプレプロIGF−I、プロIGF−I又は成熟IGF−Iのヒトイソ型3にそれぞれ対応する、NCBIに登録番号NP_001104755(配列番号3)のもと記述されているポリペプチドのアミノ酸1−195、49−195又は49−118。
【0020】
また、本発明は、種々の動物種(限定されない)からのIGF−Iをコードするポリヌクレオチドの使用も意図している:アカシカインスリン様成長因子I(IGF−I)mRNA(GenBank登録番号:U62106);ウマインスリン様成長因子I前駆体(IGF−I)mRNA、(GenBank登録番号:U28070);インスリン様成長因子I用ヤギmRNA、(GenBank登録番号:D11378);アナウサギインスリン様成長因子1前駆体(IGF−1)mRNA、(GenBank登録番号:U75390);ブタインスリン様成長因子I(pIGF−I)mRNA、(GenBank登録番号:M31175);ヒツジインスリン様成長因子I(IGF−I)mRNA、(GenBank登録番号:M89787);ヒトインスリン様成長因子(IGF−I)IA及びIB遺伝子、エクソン1、(GenBank登録番号:M12659及びM77496);ラットインスリン様成長因子I(IGF−I)mRNA、(GenBank登録番号:M15480);ニワトリインスリン様成長因子(IGF−I)mRNA、(GenBank登録番号:M32791及びM29720);サケインスリン様成長因子I(IGF−I)mRNA、(GenBank登録番号:M32792);アフリカツメガエルインスリン様成長因子I(IGF−I)mRNA、(GenBank登録番号:M29857)。
【0021】
当業者は、IGF−Iが前駆体として合成され、それから分泌経路へ到達してシグナルペプチダーゼによる第一開裂工程を経てプロIGF−Iが産生された後、そのC末端領域の細胞内タンパク質分解処理により処理されてIGF−Iに成熟することが理解されるであろう。したがって、本発明によるベクターに存在するヌクレオチド配列は、IGF−I内在性シグナルペプチドの存在に基づいて標的細胞内機構により処理する必要がある全長前駆体型をコードしてもよい。あるいは、異種のシグナル配列に融合したプロIGF−Iをコードするポリヌクレオチド含むことも可能である。本明細書において用いられている「シグナル配列」との表現は、遺伝子とともに転写され、翻訳される構造遺伝子の5’端でのDNA配列を指す。リーダーは、プロ配列と呼ばれることがあるN末端ペプチド延長を有するタンパク質を生じる。細胞外培地又は膜に分泌するようになるタンパク質については、このシグナル配列は、タンパク質を小胞体に向け、小胞体から適当な目的地に排出される。リーダー配列は、通常異なる遺伝子配列から合成的に誘導するか、単離される所望の核酸によりコードされる。本発明によるポリヌクレオチドの分泌を促進するためのシグナル配列として好適な異種の配列には、ゲルゾリン、アルブミン、フィブリノーゲンのシグナル配列、とりわけ組織プラスミノーゲン活性化因子、インスリン及びニューロン成長因子(NGF)からのシグナルペプチドなどがある。
【0022】
また、当業者には、ウイルスゲノムの長さがウイルスカプシドのパッケージングサイズ限界を超えない限り、本発明によるウイルスゲノムはIGF−Iをコードするゲノム配列の一部分又は全て(この場合、IGF−Iのコード領域はイントロン領域により遮断されている)を含んでなることもできることも理解されるであろう。
【0023】
また、本発明は、当該技術分野において知られているIGF−I変異体をコードする配列及び断片、例えば、Sara、V.R.ら(Proc.Natl.Acad.Sci.米国、1986、83:4904−4907)、Ballard、F.J.ら(Biochem.Biophys.Res.Commun.1987、149:398−404);Bayneら(J.Biol.Chem.1988、263:6233−6239);Sara V.R.ら(Biochem.Biophys.Res.Commun.1989、165:766−771);Forsbergら、1990、Biochem.J.271:357−363);米国特許第4,876,242号及び第5,077,276号;並びに国際特許公開公報WO87/01038及びWO89/05822により記載されているものを含んでなるウイルスゲノムも意図している。代表的な類似体には、成熟分子のGlu−3が欠失したもの、5以下のアミノ酸がN末端から切断された類似体、最初の3つのN末端アミノ酸が切断された類似体(des(1−3)−IGF−I、des−IGF−I、tIGF−I又は脳IGFと称される)、及びヒトIGF−Iの最初の16のアミノ酸の代りにヒトインスリンのB鎖の最初の17のアミノ酸を含む類似体などがある。
【0024】
したがって、本発明は、IGF−Iの機能的に同等の変異体をコードするDNAを含として解釈されるべきである。本明細書において用いられている用語「機能的に同等の変異体」は、配列が、配列における一つ以上のヌクレオチドを挿入するか、配列のいずれかの末端又は内部に一つ以上のヌクレオチドを付加するか、配列のいずれかの末端又は内部で、IGF−Iの生物学的活性を実質的に保存する一つ以上のヌクレオチドを欠失させることにより、上記で定義される通りのIGF−Iの配列から得ることができるポリペプチドに関する。変異体が天然IGF−Iの生物学的活性を保存するかどうかを測定する方法は当業者に広く知られており、Canalisら(J.Clin.Invest、1980、66:709−719)により記載されているDNAの測定及び培養ラット頭蓋冠におけるタンパク質合成、Jenningsら(J.Clin.Endocrinol.Metab.、1980、51:1166−70)により記載されているひよこ軟骨におけるスルフェート及びチミジン取込みの刺激、又はBayneら(J.Biol.Chem.、1988、263:6233−6239)により記載されているラットクローン大動脈平滑筋細胞株A10におけるDNA合成の刺激などがある。
【0025】
IGF−Iの変異体は、IGF−Iを産生するのに使用される宿主細胞におけるコドン選択する役割を果たすポリヌクレオチド内のヌクレオチドを置き換えることにより得ることができる。このような「コドンの最適化」は、University of Wisconsin Package Version 9.0(Genetics Computer Group、Madison,Wis)により提供されている高度発現バクテリア遺伝子のコドン選択のための「Ecohigh.Cod」などのコドン頻度テーブルを組み込むコンピュータアルゴリズムを介して決定することができる。他の有用なコドン頻度テーブルには、「Celegans_ high.cod」、「Celegans _low.cod」、「Drosophila_high.cod」、「Human_ high.cod」、「Maize_ high.cod」及び「Yeast_ high.cod」などがある。
【0026】
IGF−Iの変異体は、保存アミノ酸の変更を行い、上記した機能アッセイの一つ又は当該技術分野において知られている別の機能アッセイによって得られた変異体を試験することにより得ることができる。保存アミノ酸置換は、同様な側鎖を有する残基の互換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンであり;脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸群は、セリン及びトレオニンであり;アミド含有側鎖を有するアミノ酸群はアスパラギン及びグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸群は、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸群は、リジン、アルギニン及びヒスチジンであり;イオウ含有側鎖を有するアミノ酸群は、システィン及びメチオニンである。好ましい保存アミノ酸置換基群は、バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リジン−アルギニン、アラニン−バリン及びアスパラギン−グルタミンである。
【0027】
IGF−Iの機能的に同等の変異体には、天然IGF−Iに実質的に相同であるポリペプチドなどがある。本明細書において用いられている表現「実質的に相同」とは、ヌクレオチド配列が本発明によるヌクレオチドに対して、少なくとも60%、有利には少なくとも70%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも95%の同一性度を有するときの上記のいずれかのヌクレオチド配列に関する。本発明によるヌクレオチド配列に実質的に相同であるヌクレオチド配列は、典型的には前記ヌクレオチド配列に含有されている情報に基づいて本発明によるポリヌクレオチドの産生生物から単離することができ、又は上記したDNA配列に基づいて構成される。2つのポリヌクレオチド間の同一性度は、当業者に周知のコンピュータアルゴリズム及び方法を用いて測定される。2つのアミノ酸配列間の同一性は、好ましくはBLASTNアルゴリズム[BLAST Manual、Altschul、S.、ら、NCBI NLM NIH Bethesda、Md.20894、Altschul、S.、ら、J.Mol.Biol.215:403−410(1990)]を使用することにより測定される。BLAST及びBLAST2.0を用いて、本明細書に記載されているパラメータで、配列同一%を決定する。BLAST解析をおこなうためのソフトウエアは、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)を介して公的に入手可能である。このアルゴリズムは、まずデータベース配列で同じワード長で整列したとき、ある正値のスコア閾値Tと一致するか又はそれを満足する照会配列における短ワード長Wを同定することにより高スコア配列対(HSP)を同定することを含む。Tは、近接ワードスコア閾値(上記したAltschulら)と称される。これらの最初の近接ワードヒットは、それらを含むより長いHSPを見つけるための調査を開始するための種としての役割を果たす。ワードヒットは、累積整列スコアが増加する限りは、各配列に沿って両方向に延びる。累積スコアは、ヌクレオチド配列に関して、パラメータM(一対の一致残余についての報酬スコア;常に0)及びN(不一致残余についてのペナルティスコア;常に0)を用いて算出される。アミノ酸配列については、スコアマトリックスを使用して累積スコアを算出する。各方向におけるワードヒットの延長は、以下のときに停止する:累積整列スコアが、最大達成値から量Xだけ減少するとき;累積スコアが、一つ以上の負のスコア残余整列の累積のためゼロ以下になるとき;又はどちらかの配列の末端に至ったとき。BLASTアルゴリズムパラメータ W、T及びXは、整列の感度及び速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列について)は、デフォルトとして、ワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=−4及び両方のストランドの比較を使用する。アミノ酸配列については、BLASTPグログラムは、デフォルトとして、ワード長3、期待値(E)10及びBLOSUM62スコアマトリックス(Henikoff and Henikoff、Proc.Natl.Acad.Sd.USA、1989、89:10915参照)整列(B)50、期待値(E)10、M=5、N=−4及び両方のストランドの比較を使用する。
【0028】
当業者は、IGF−Iの変異体又は断片が離散点突然変異を作成することを含む突然変異生成などの従来技術を用いるか、又は切断により生成することができることを理解するであろう。例えば、突然変異は、誘導源のポリペプチド成長因子の実質的に同じ又は一部分の生物学的活性を保持する変異体を生じることができる。
【0029】
本明細書において用いられている用語「作動可能に連結された」とは、機能的な関係におけるポリヌクレオチド(又はポリペプチド)要素の連結を指す。核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に配置されたときに「作動可能に連結」される。例えば、転写調節配列は、コード配列の転写に影響する場合には、コード配列に作動可能に連結される。作動可能に連結されたとは、連結されているDNA配列が、典型的に連続しており、必要に応じ、連続しており且つリーディングフレームにおける2つのタンパク質コード領域に接合していることを意味する。
【0030】
本明細書において用いられている用語「プロモーター」又は「転写調節配列」は、一またはそれ以上のコード配列の転写を制御するように機能し、コード配列の転写開始部位の転写の方向に対して上流に位置しており、DNA依存RNAポリメラーゼのための結合部位、転写開始部位及びいずれかの他のDNA配列、例えば、転写因子結合部位、リプレッサー及び活性化タンパク質結合部位(これらには限定されない)、さらにプロモーターからの転写の量を調節するために、直接又は間接的に作用する当業者に知られているいずれかの他のヌクレオチド配列、例えば、アテニュエーター又はエンハンサー、さらにサイレンサーの存在により構造的に同定される、核酸断片を指す。「構成」プロモーターは、ほとんどの生理学的及び発生学的条件下でほとんどの組織において活性であるプロモーターである。「誘発」プロモーターは、生理学的又は発生学的に、例えば、化学誘導物質の適用により調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、組織又は細胞の特異的型においてのみ活性であるプロモーターである。すなわち、本発明に関連して、組織特異的プロモーターは、他の組織よりも一つ又はいくつか(例えば、2、3又は4)の特定の組織においてより活性であるものである(すなわち、他に比較して特異的である組織において作動可能に連結されているコード配列の発現が可能であるプロモーターをより高く駆動できる)。典型的には、「組織特異的」プロモーターにおける下流遺伝子は、他におけるよりも特異的である組織においてはるかに高く活性であるものである。この場合、特異的であるもの以外の組織におけるプロモーターの活性がほとんど又は実質的になくてもよい。
【0031】
本発明に関連して、肝臓特異的プロモーターは、肝臓における活性が、体内における他の組織における活性と比較して大きいプロモーターである。典型的には、肝臓特異的プロモーターの活性は、肝臓において他の組織よりもかなり大きい。例えば、このようなプロモーターは、他の細胞又は組織における発現を防止しながら、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍又は少なくとも10倍活性が高い(例えば、一定組織における発現を駆動する能力により測定したとき)。したがって、肝臓特異的プロモーターは、肝臓における連結遺伝子の活性発現が可能であり、他の細胞又は組織における発現を防止する。
【0032】
好適な肝臓特異的プロモーターには、α1−アンチトリプシン(AAT)プロモーター、チロイドホルモン結合グロブリンプロモーター、アルファフェトプロテインプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター、IGF−IIプロモーター、因子VIII(FVIII)プロモーター、HBV塩基コアプロモーター(BCP)及びPreS2プロモーター、アルブミンプロモーター、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、肝臓制御領域(HCR)−ApoCIIハイブリッドプロモーター、HCR−hAATハイブリッドプロモーター、AATプロモーター(マウスアルブミン遺伝子エンハンサー(Ealb)要素と結合したもの)、アポリポタンパク質Eプロモーター、低密度リポタンパク質プロモーター、ピルビン酸キナーゼプロモーター、ホスフェノールピルビン酸カルボキシキナーゼプロモーター、レシチン−コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)プロモーター、アポリポタンパク質H(ApoH)プロモーター、トランスフェリンプロモーター、トランスサイレチンプロモーター、アルファ−フィブリノゲン及びベータ−フィブリノゲンプロモーター、アルファ1−抗キモトリプシンプロモーター、アルファ 2−HS糖タンパク質プロモーター、ハプトグロビンプロモーター、セルロプラスミンプロモーター、プラスミノーゲンプロモーター、補体タンパク質のプロモーター (CIq、CIr、C2、C3、C4、C5、C6、C8、C9、補体因子I及び因子H)、C3補体活性化因子及びαl−酸糖タンパク質プロモーターなどがあるが、これらには限定されない。追加の組織特異的プロモーターは、組織特異的プロモーターデータベースTiProD(Nucleic Acids Research、J4:D104−D107(2006)に記載されている。
【0033】
好ましい実施態様によれば、肝臓特異的プロモーターは、肝臓特異的エンハンサー及び肝臓特異的プロモーター、例えば、肝臓制御領域(HCR)−ApoCIIハイブリッドプロモーター、HCR−hAATハイブリッドプロモーター、AATプロモーター(マウスアルブミン遺伝子エンハンサー(Ealb)要素との組み合わせ)及びアポリポタンパク質Eプロモーターを含んでなるハイブリッドプロモーターである。好ましい実施態様によれば、ハイブリッドプロモーターは、マウスアルブミン遺伝子エンハンサー(Ealb)とマウスアルファ1−アンチトリプシン(AAT)プロモーター(Ealb−AATp)とを含んでなる。さらにより好ましい実施態様によれば、プロモーター領域は、配列番号4の配列に相当する。
【0034】
好ましい実施態様によれば、肝臓特異的プロモーターは、誘導性肝臓特異的プロモーター、例えば、テトラサイクリン誘発性肝臓特異的プロモーター、例えば、Wangら(Nature Biotech.、1997;15:239−43)により記載されているプロモーター、Burcinら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1999、96:355−60)により記載されているアデノウイルス介在調節可能肝臓特異的プロモーター、Manickanら(J.Biol.Chem.2001、276:13989−13994)により記載されているテトラサイクリン調節性肝臓特異的プロモーター、Hanら(Molecular Therapy、2005、11、S161)により記載されているプロモーター、Tietgeら(J.Gen.Medicine、2003、5:567−575)により記載されている肝臓への生体内送達のためのテトラサイクリン調節アデノウイルス発現系、Crettazら(Molecular Therapy(2006)13、S224)に記載されているmifepristone(RU−486)誘発性肝臓特異的プロモーターである。
【0035】
本発明によるウイルスゲノムに挿入されることができるさらなる要素としては、IGF−I又はその変異体をコードするヌクレオチド配列の開始コドン付近のKozakコンセンサス配列がある。Kozakコンセンサス配列は、本明細書ではGCCRCC(AUG)A(配列番号5)として定義されている。ここで、Rは、プリン(すなわち、A、アデノシン又はG、グアノシン)であり、(AUG)はポルホビリノゲンデアミナーゼコード配列の開始コドンを意味する。Kozakコンセンサス配列の前には、別のGCCトリプレットがあってもよい。
【0036】
また、本発明によるウイルスゲノムは、IGF−Iまたその機能的に同等の変異体をコードする核酸に作動可能に連結したポリアデニル化信号を含んでもよい。本明細書において用いられている用語「ポリアデニル化信号」とは、mRNAの3’端へのポリアデニンストレッチの連結を介在する核酸配列に関する。好適なポリアデニル化信号には、SV40前半ポリアデニル化信号、SV40後半ポリアデニル化信号、HSVチミジンキナーゼポリアデニル化信号、プロタミン遺伝子ポリアデニル化信号、アデノウイルス5EIbポリアデニル化信号、ウシ成長ホルモンポリアデニル化信号、ヒト変異体成長ホルモンポリアデニル化信号等がある。
【0037】
好ましい実施態様によれば、本発明によるウイルスゲノムは、ポリオーマウイルスゲノムである。SV40などのポリマーウイルスは、非分裂、さらには能動的分裂細胞を感染することが知られており、また、非免疫原性であり、同じ個体への反復投与が可能であることが知られている。さらに、導入遺伝子の長期発現を可能とする。ポリオーマウイルスには、ポリオーマウイルス属に基づくいずれのベクターも含まれ、JCウイルス、BKウイルス、KIウイルス、Wuウイルス、Merkel細胞ポリマーウイルス及びSimian空胞化ウイルス40(以下、SV40と称する)などが挙げられる。好ましい実施態様によれば、ポリオーマウイルスゲノムは、SV40ゲノムである。
【0038】
SV40は、2つの調節領域と、プロモーター/オリジン領域と、ポリアデニル化領域とからなる、5.25キロベースの長さの環状二本鎖DNAゲノムを含んでなる。プロモーター/オリジン領域は、長さ500塩基対であり、2つの逆方向プロモーターと、複製及びパッケージ信号の中央オリジンの側面に位置する前半及び後半プロモーター(それぞれSVEP及びSVLP)を含んでなる。ポリアデニル化領域は、長さ100塩基対であり、前半及び後半転写物の両方のポリアデニル化信号を含む。前半プロモーターは、ウイルス複製と後半プロモーターの活性化に必要な小、中及び大T抗原(それぞれstag、mtag及びTag)の発現を駆動する。後半プロモーターは、ウイルスカプシドタンパク質VP1、2及び3の発現を駆動する。
【0039】
本発明は、SV40の少なくとも一つの発現カセットを、肝臓特異的プロモーターと、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードする配列とを含んでなるポリヌクレオチドにより置き換えることを意図している。当業者は、肝臓特異的プロモーターとIGF−Iコード配列を含んでなるポリヌクレオチドは、前半プロモーター及び小、中及び大T抗原を置き換えることにより挿入できることは理解されるところであろう。別法として、肝臓特異的プロモーターとIGF−Iコード配列を含んでなるポリヌクレオチドは、後半プロモーター領域とウイルスカプシドタンパク質VP1、2及び3をコードする配列を置き換えることにより挿入してもよい。また、本発明は、全てのコード配列(ガットレス(gutless)SV40ゲノム)を欠いているSV40ベクター、ベクターの複製及びパッケージングに必要な制御要素を含んでなる領域を除いた全てのウイルスゲノムを欠いているSV40ベクターを包含することも意図している。したがって、最小限のSV40ゲノムが、この領域から由来し、少なくとも完全複製オリジンを含んでいる。本発明に好適なSV40ベクターは、pSVT7及びpMT2を含む。
【0040】
別の実施態様によれば、本発明によるウイルスゲノムは、パルボウイルスゲノムである。本発明で使用される用語「パルボウイルス」は、自己複製パルボウイルス及びディペンドウイルスなどのパルボウイルス科を包含する。自律型パルボウイルスには、パルボウイルス属、エリスロウイルス属、デンソウイルス属、イテラウイルス属及びコントラウイルス属などがある。典型的な自律型パルボウイルスには、微小マウスウイルス、ウシパルボウイルス、イヌパルボウイルス、ニワトリパルボウイルス、ネコ白血球減少ウイルス、ネコパルボウイルス、ガチョウパルボウイルス、H1パルボウイルス、タイワンアヒルパルボウイルス、B19ウイルス及び現在知られているか又はこれから見出される他の自律型パルボウイルスなどがあるが、これらには限定されない。他の自己パルボウイルスは、当業者に知られている。例えば、BERNARD N.FIELDSら、VIROLOGY、第2巻、第69章(第4版、Lippincott−Raven Publishers)参照。
【0041】
一方及びそれらの属の名前から推定できるように、ディペンドウイルスに属するものは、細胞培養における増殖感染のためのアデノウイルス又はヘルペスウイルスなどのヘルパーウイルスでの重感染を通常必要とする点で独特である。ディペンドウイルス属には、通常ヒトに感染するAAV(例えば、血清型1、2、3A、3B、4、5及び6)又は霊長類(例えば、血清型1及び4)、及び他の温血動物(例えば、ウシ、イヌ、ウマ及びヒツジアデノ関連ウイルス)に感染する関連ウイルスなどがある。さらに、パルボウイルス及びパルボウイルス科に属する他のものについての情報が、Kenneth I.Berns、“Parvoviridae:The Viruses and Their Replication(ウイルス及びそれらの複製),”Chapter 69 in Fields Virology(第3版、1996)に記載されている。
【0042】
さらにより好ましい実施態様によれば、パルボウイルスゲノムは、アデノ関連ウイルス(AAV)ゲノムである。本明細書において用いられている用語「アデノ関連ウイルス」(AAV)は、AAV血清型を含む。一般的に、AAV血清型は、アミノ酸及び核酸レベルで顕著な相同性のゲノム配列を有し、同一の一連の遺伝機能を提供し、実質的に物理的及び機能的に同等であるビリオンを産生し、事実上同一の機構により複製し、集合する。特に、本発明は、AAV血清型1(AAV1)、AAV2、AAV3(3A型及び3B型など)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、avian AAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、及び現在知られているか又は今後見出される他のAAVを用いて実施されてもよい。例えば、Fieldsら、Virology、第2巻、第69章(第4版、Lippincott−Raven Publishers)参照。最近、多数の推定の新規AAV血清型及び分岐群が確認された(例えば、Gaoら、(2004)J.Virology78:6381−6388;Morisら、(2004)Virology33−:375−383;及び表1)。AAV及び自律型パルボウイルスの種々の血清型のゲノム配列、さらには末端反復、Repタンパク質及びカプシドサブユニットの配列が当該技術分野において知られている。このような配列は、文献又は公開データベース、例えば、GenBankから入手できる。例えば、GenBank登録番号NC_002077、NC_001401、NC_001729、NC_001863、NC_001829、NC_001862、NC_000883、NC_001701、NC_001510、NC_006152、NC_006261、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、NC_001358、NC_001540、AF513851、AF513852、AY530579(これらに開示されているものは、パルボウイルス並びにAAV核酸及びアミノ酸配列を教示するために引用することにより本明細書の開示の一部とされる)参照。また、例えば、Srivistavaら、(1983)J.Virology45:555;Chioriniら、(1998)J.Virology71:6823;Chioriniら、(1999)J.Virology73:1309;Bantel−Schaalら、(1999)J.Virology73:939;Xiaoら、(1999)J.Virology73:3994;Muramatsuら、(1996)Virology221:208;Shadeら、(1986)J.Virol.58:921;Gaoら、(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854;Morisら、(2004)Virology33−:375−383;国際特許公開WO00/28061、WO99/61601、WO98/11244;及び米国特許第6,156,303号(これらに開示されているものは、パルボウイルス並びにAAV核酸及びアミノ酸配列を教示するために引用することにより本明細書の開示の一部とされる)も参照されたい。
【0043】
説明の都合上、本発明を、AAVについて以下に述べ、さらに例示し且つ記載する。しかしながら、本発明は、AAVに限定されず、同等に他のパルボウイルスにも適用できる。
【0044】
全ての知られているAAV血清型のゲノム機構は、極めて類似している。AAVのゲノムは、長さが約5,000ヌクレオチド(nt)より短い直線状一本鎖DNA分子である。逆方向末端反復(ITR)は、非構造複製(Rep)タンパク質及び構造(VP)タンパク質のためのユニークコードヌクレオチド配列の側面に位置している。VPタンパク質(VP1、−2及び−3)は、カプシドを形成する。末端145ntは、自己相補的であり、T型ヘアピンを形成するエネルギー的に安定な分子内二本鎖を形成してもよいように構成される。これらのヘアピン構造は、細胞DNAポリメラーゼ複合体のプライマーとしての役割を果たす、ウイルスDNA複製のオリジンとして機能する。哺乳動物細胞におけるwtAAV感染に続いて、Rep遺伝子(すなわち、Rep78及びRep52)が、それぞれP5プロモーター及びP19プロモーターから発現され、両方のRepタンパク質はウイルスゲノムの複製において機能を有している。RepORFにおけるスプライシング現象は、実際に4種のRepタンパク質(すなわち、Rep78、Rep68、Rep52及びRep40)の発現を生じる。しかしながら、哺乳動物細胞においてRep78及びRep52タンパク質をコードする、つなぎ合わされていないmRNAが、AAVベクター産生に十分であることが判明した。また、昆虫細胞において、Rep78及びRep52タンパク質がAAVベクター産生に十分である。
【0045】
本明細書における「組み換えパルボウイルス又はAAVゲノム」(又は「rAAVゲノム」)は、目的とする一つまたはそれ以上のポリヌクレオチド配列、目的とする遺伝子又は「導入遺伝子」(少なくとも一つのパルボウイルス又はAAV逆方向末端反復配列(ITR)が横に位置している)を含んでなるベクターを指す。このようなrAAVベクターは、AAVrep及びcap遺伝子産生物(すなわち、AAVRep及びCapタンパク質)を発現している昆虫宿主細胞に存在するとき、複製し、感染性ウイルス粒子にパッケージされることができる。rAAVベクターがより大きな核酸構築物(例えば、染色体又は別のベクター、例えば、クローニング又はトランスフェクションに使用されるプラスミド又はバキュロウイルス)に組み込まれるとき、rAAVベクターは、典型的には、AAVパッケージ機能及び必要なヘルパー機能の存在下での複製及びキャプシド形成により「レスキュー(rescue)」され得る「プロベクター(pro-vector)」と呼ばれる。
【0046】
したがって、別の態様によれば、本発明は、核酸構築物が組み換えパルボウイルス又はAAVベクターであり、したがって、少なくとも一つのパルボウイルス又はAAVITRを含んでなる、IGF−I又はその機能的に同等の変異体(上記で定義される通りのもの)をコードするヌクレオチド配列を含んでなる核酸構築物に関する。好ましくは、核酸構築物において、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードするヌクレオチド配列は、どちらかの側にパルボウイルス又はAAVITRが位置している。パルボウイルス又はAAVITRは、AAV1、AAV2、AAV4及び/又はAAV5からのITRを含む本発明の構築物に使用することができる。AAV2のITRが、最も好ましい。
【0047】
本発明において使用できるAAV配列は、いずれかAAV血清型のゲノム由来のものであることができる。一般的に、AAV血清型は、アミノ酸及び核酸レベルで顕著な相同性のゲノム配列を有し、同一の一連の遺伝機能を提供し、実質的に物理的且つ機能的に同等であるビリオンを産生し、事実上同一の機構により複製し、集合する。種々のAAV血清型のゲノム配列及びゲノムの類似点の概略については、例えば、GenBank登録番号U89790;GenBank登録番号J01901;GenBank登録番号AF043303;GenBank登録番号AF085716;Chloriniら(1997、J.Vir.71:6823−33);Srivastavaら(1983、J.Vir.45:555−64);Chloriniら(1999、J.Vir.73:1309−1319);Rutledgeら(1998、J.Vir.72:309−319);及びWuら(2000、J.Vir.74:8635−47)を参照されたい。AAV血清型1、2、3、4及び5は、本発明に関連して使用される好ましいAAVヌクレオチド配列源である。好ましくは、本発明に関連して使用されるAAVITR配列は、AAV1、AAV2及び/又はAAV4から得られる。
【0048】
カプシド遺伝子をコードする核酸配列はパッケージング細胞によるか又は第二ベクターによりトランスに提供されることが好ましいが、本発明は、上記したポリヌクレオチド配列をパッケージする一つ以上のカプシドタンパク質をコードする配列をさらに含んでなるAAVゲノムも意図している。しかしながら、本発明に関連して使用されるVP1、VP2及びVP3カプシドタンパク質をコードする配列は、既知の42血清型のいずれかからか、より好ましくはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、又は、例えば、カプシドシャフリング法及びAAVカプシドライブラリーにより得られる新規に開発されたAAV様粒子からから得ることができる。カプシドタンパク質をコードする配列がITRとして異なるAAV血清型由来であるとき、AAVゲノムは、国際特許公開WO00/28004及びChaoら、(2000)Molecular Therapy 2:619に記載されているような、「ハイブリッド」パルボウイルスゲノム(すなわち、AAVカプシド及びAAV末端反復(単一または複数)が異なるAAV由来である)として知られている。本明細書に記載されているrAAVベクターは、現在知られているか又は今後見出されるいずれかの好適なrAAVベクターであることができる。別法として、カプシド遺伝子をコードする配列は、前記カプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドをパッケージング細胞に共トランスフェクションすることによりトランスで提供されてもよい。好ましい実施態様によれば、ウイルスベクターは、AAV1、AAV2及び/又はAAV4からのITRと、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6又はAAV8からの一つ以上又は全てのカプシド遺伝子を含んでなる。
【0049】
ウイルスベクターがカプシドタンパク質をコードする配列を含んでなる場合、これらは、外因性標的配列を含んでなるように改変してもよい。好適な外因性標的配列は、本発明によるビリオンに関して以下に詳細に説明する。
【0050】
必要に応じて、本発明によるAAVゲノムは、Repタンパク質をコードする追加の配列を含んでいてもよい。Rep(Rep78/68及びRep52/40)コード配列は、好ましくはAAV1、AAV2及び/又はAAV4由来である。AAVRep及びITR配列は、特にほとんどの血清型間に保存される。種々のAAV血清型のRep78タンパク質は、例えば、同一度が89%超であり、AAV2、AAV3A、AAV3B及びAAV6間のゲノムレベルでの総ヌクレオチド配列同一度は、82%ほどである(Bantel−Schaalら、1999、J.Virol.、73:939−947)。さらに、数多くのAAV血清型のRep配列及びITRは、哺乳動物細胞におけるAAV粒子の産生における他の血清型からの対応の配列を効率的に交差補足(すなわち、機能的に置き換え)することが知られている。US2003148506は、AAVRep及びITR配列が昆虫細胞において他のAAVRep及びITR配列も効率的に交差補足することを報告している。
【0051】
AAVVPタンパク質は、AAVビリオンの細胞栄養価値を決定することが知られている。VPタンパク質コード配列は、Repタンパク質及び遺伝子よりも、異なるAAV血清型の間で保存されない。他の血清型の対応する配列を交差補足するRep及びITR配列の能力は、一つの血清型(例えば、AAV5)のカプシドタンパク質及び別のAAV血清型(例えば、AAV2)のRep及び/又はITR配列を含んでなる偽型rAAV粒子の産生を可能にすることである。このような偽型rAAV粒子は、本発明の一部分である。
【0052】
典型的には、本発明によるAAVゲノムは、肝臓特異的プロモーターと、IGF−Iまたその機能的に同等の変異体をコードする配列とを含んでなる発現カセットの他に、以下の要素の一つ以上を含んでなる:
−逆方向末端反復
−非分解性末端反復
−カプシド遺伝子をコードする配列
−極小パッケージ性ゲノムサイズを完成するスタッファー配列
【0053】
逆方向末端反復(ITR)は、典型的に異種の配列を含む発現カセットを横に有する少なくとも2組のAAVベクターに典型的に存在する。ITRは、典型的に異種のヌクレオチド配列(単一または複数)の5’端及び3’端にあるが、それらに隣接している必要はない。末端反復は、互いに異なっていても、同一でもよい。用語「末端反復」には、米国特許第5,478,745号(Samulskiら)に記載されている「二重D配列(double−D sequence)」などの逆方向末端反復として機能しヘアピン構造を形成するウイルス末端反復及び/又は部分的若しくは完全合成配列などがある。「AAV末端反復」は、いずれかのAAV、例えば、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11若しくは12又は現在知られているか又は今後見出されるいずれかの他のAAVからのものであることができるが、これらには限定されない。AAV末端反復は、末端反復が所望の機能、例えば、複製、ニッキング、ウイルスパッケージング、組み込み及び/又はプロウイルスレスキュー等を介在する限り、野生型配列を有する必要はない(例えば、野生型配列は、挿入、削除、切断又はミスセンス突然変異により変更してもよい)。ベクターゲノムは、同一でも異なっていてもよい一つ以上(例えば、2つ)のAAV末端反復を含んでなることができる。さらに、この一つ以上のAAV末端反復は、AAVカプシドと同じAAV血清型からのものでもよいし、又は異なっていてもよい。特定の実施態様によれば、ベクターゲノムは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11及び/又はAAV12末端反復、特に特にAAV1、AAV2及び/又はAAV4からのものを含んでなる。好ましい実施態様によれば、ITRはAAV2由来であることができ、配列番号6(5’ITR)及び配列番号7(3’ITR)により定義することができる。
【0054】
本発明によるAAVゲノムは、また、非分解性末端反復を含んでいてもよい。本明細書において用いらされる表現「非分解性末端反復」は、AAVRepタンパク質により認識されず、分解され(すなわち、「切断され」)、末端反復の分解が実質的に減少(例えば、分解性末端反復と比較して少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%又はそれ以上)するか、又はなくなる末端反復に関する。このような非分解性末端反復は、天然末端反復配列(その変更形態を含む)であることができ、例えば、AAVなどのパルボウイルス由来であることができ、又は別のウイルスからのものであることができ、又はさらに別のものとして、部分的又は完全に合成であることができる。非分解性末端反復は、AAVRepタンパク質により認識されない非AAVウイルス配列であるか、又はもはやAAVRepタンパク質により認識されないように改変された(例えば、挿入、置換及び/又は削除により)AAV末端反復であることができる。さらに、非分解性末端反復は、ウイルスベクターを生成するために使用される条件下で非分解であるいずれかの末端反復であることができる。例えば、非分解性末端反復は、ベクターゲノムを複製するのに使用されるRepタンパク質により認識されなくてもよい。具体的には、非分解性末端反復は、自律型パルボウイルス末端反復、又はAAVRepタンパク質により認識されないパルボウイルス末端反復以外のウイルス末端反復であることができる。好ましい実施態様によれば、分解性末端反復及びRepタンパク質は一つのAAV血清型(例えば、AAV8)からのものでもよく、非分解性末端反復はAAV8Repタンパク質により認識されず、分解が実質的に減少又はなくなるような別のAAV血清型(例えば、AAV2)からのものである。さらに、AAV末端反復は、AAVRepタンパク質による分解が実質的に減少するか又はなくなるように改変することができる。非分解性末端反復は、ヘアピン構造を形成し、AAVRepタンパク質により切断されることができないいずれかの逆方向反復配列であることができる。
【0055】
パルボウイルスITRヌクレオチド配列は、典型的には、「A」領域、「B」領域及び「C」領域とも処されるほとんど相補的で対称的に配置された配列を含んでなるパリンドローム配列である。ITRは、複製源、複製における「シス」の役割を果たす部位として機能し、すなわち、パリンドローム及びパリンドロームに対して内部である特異的配列を認識する、例えば、Rep78(又はRep68)などのトランス作用複製タンパク質のための認識部位である。ITR配列の対称についての1つの例外は、ITRの「D」領域である。これは、ユニーク(1つのITR内に相補を有しない)なものである。一本鎖DNAの切断が、A領域とD領域との間の接合部で生じる。これは、新しいDNA合成が開始する領域である。D領域は、パリンドロームの一方の側に通常位置し、核酸複製工程へと導く。哺乳動物細胞中で複製しているパルボウイルスは、典型的に2つのITR配列を有している。しかしながら、結合部位がA領域の両方の鎖上にあり、D領域がパリンドロームの各側に1つずつ対称に位置するようにITRを設計することができる。二本鎖環状DNA鋳型(例えば、プラスミド)上に、次にRep78又はRep68アシスト核酸複製が両方向に進行する。単一のITRが、環状ベクターのパルボウイルス複製には十分である。したがって、1つのITRヌクレオチド配列を、本発明に関連して使用できる。しかしながら、好ましくは、2つ又は別の偶数のレギュラーITRが使用される。最も好ましくは、2つのITR配列が使用される。したがって、本発明によれば、少なくとも1つのITRを使用することができ、すなわち、1つのITRを使用することができるが、より典型的には2つのITRが使用される。
【0056】
好ましい実施態様によれば、本発明によるAAVゲノムは、肝臓特異的プロモーターと、IGF−I又はその機能的に同等の変異体と、ポリアデニル化信号とにより形成されている発現カセット(AAVITRが側に位置しているものであるも)を含んでなるポリヌクレオチドを含んでなる。さらにより好ましい実施態様によれば、肝臓特異的プロモーターは、アルブミンエンハンサーとアルファ1−アンチトリプシンプロモーター領域とを含んでなるハイブリッドプロモーターである。
【0057】
本発明によるウイルスゲノムは、AAVベクターなどの一本鎖パルボウイルスベクターであることができる。好ましい実施態様によれば、AAVベクターは、一本鎖AAV(ssAAV)である。本明細書において用いられている表現「一本鎖パルボウイルスベクター」は、AAVカプシド内にパッケージされている一本鎖ポリヌクレオチド(典型的にはDNA)に関する。本明細書において用いられている用語「一本鎖」は、核酸分子として使用されるとき、別の核酸分子にハイブリダイズしておらず、生理学的条件又はストリンジェント条件下で分子内ハイブリダイズする領域がない核酸分子を指す。これは、鎖間塩基対相互作用により互いに保持される核酸の2つの鎖として存在する二本鎖標的と対照的である。一本鎖核酸分子は、両方の鎖が同等に伝染性であるので、センス鎖又はアンチセンス鎖のいずれかである。
【0058】
本明細書において用いられているのウイルスゲノムは、国際特許公開WO01/92551及びMcCartyら、(2003)Gene Therapy 10:2112−2118に記載されているような二重パルボウイルスベクターであることができる。本発明に関連して、用語「二本鎖パルボウイルスベクター」と「二重パルボウイルスベクター」は同義であり、明細書を通じて区別せずに使用されている。特定の実施態様によれば、パルボウイルスベクターは、AAVベクター、好ましくは二本鎖AAVである。さらに、AAVカプシド又はベクターゲノムは、挿入、削除及び/又は置換を含む他の改変を含むことができる。rAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11又はAAV12カプシド(改変形態を含む)由来のAAVカプシドを含んでなるが、これらには限定されない。必要に応じて、カプシドは、AAV2、AAV3若しくはAAV6カプシド又はそれらの改変型、例えば、シャフリング法及びAAVカプシドライブラリーを用いて生成した改変カプシドであることができる。
【0059】
本発明の代表的な実施態様によれば、ウイルスゲノムは、組み換えベクターゲノムが5’及び3’AAV末端反復(分解性)と、IGF−I又はその機能的変異体をコードする異種のヌクレオチド配列と、非分解性末端反復とを含んでなる、二重パルボウイルスベクターである。二重パルボウイルスベクターとそれらの産生については、国際特許公開WO01/92551及びMcCartyら、(2003) Gene Therapy 10:2112−2118に記載されている。
【0060】
典型的には、rAAVベクターゲノムは、極小の末端反復配列(単一または複数)(各々145塩基)を保持し、それにより、ベクターによって効率的にパッケージされ得るトランス遺伝子の大きさを最大化する。
【0061】
一般的に、二重パルボウイルスベクターは、AAVカプシド内にパッケージされた二量体自己相補的ポリヌクレオチド(典型的にはDNA)である。ある態様によれば、カプシド内にパッケージされている組み換えウイルスゲノムは、実質的に分解して正及び負の極性の鎖を生成できない「補足」AAV複製中間体である。二重パルボウイルスベクターは、従来のrAAVベクターに固有の相補DNAの宿主細胞介在合成の必要性を回避し、rAAVベクターの制限の一つに対応できると思われる。
【0062】
二重パルボウイルスベクターは、基本的に従来のrAAVベクター及び親AAVとは、ウイルスDNAは、鎖内塩基対により、二本鎖ヘアピン構造を形成することができ、両方の極性のDNA鎖が封入されている点で異なる。したがって、二重パルボウイルスベクターは、由来源AAVではなく二本鎖DNAウイルスベクターに機能的に類似している。この特徴は、通常AAVにより封入された一本鎖ゲノムに相補的なDNAを合成する所望の標的細胞の限定された傾向であるrAAV介在遺伝子導入の以前から認識されていた欠点に対応している。
【0063】
本発明を特定の理論により限定することを意図するものではないが、ビリオンゲノムが一本鎖形態でウイルスカプシド内にパッケージされた状態で保持されることが可能である。ウイルス感染中にカプシドから放出されると、二量体分子は「急速に元の状態にもどる」か、又はアニールして、鎖内塩基対により二本鎖分子を形成し、非分解性TR配列が一端に共有結合ヘアピン構造を形成すると思われる。この二本鎖ウイルスDNAは、AAV導入の律速段階であると想定された宿主細胞介在二本鎖合成の必要をなくす。
【0064】
肝臓組織細胞の場合、二重パルボウイルスベクターは、遺伝子発現の開始をより速くし、及び/又は遺伝子発現レベルをより高くすることにより、用量を少なくして、ひいては標的組織における炎症の可能性及び/又は程度を減少することができるので有利であることがある。
【0065】
二重パルボウイルスベクターゲノムは、一般的に、5’−3’方向に、(i)分解性AAV末端反復と、(ii)目的とする異種のヌクレオチド配列(コード又は非コード鎖)と、(iii)非分解性末端反復と、(iv)(ii)の目的とする異種のヌクレオチド配列に相補な配列又は実質的に相補な(例えば、少なくとも約90%、95%、98%、99%、又はそれ以上)配列と、(v)分解性AAV末端反復とを含んでなる。当業者は、ベクターゲノムが他の配列(上記で具体的に述べた配列間に介在している配列)を含むことができることを理解するであろう。
【0066】
特定の実施態様によれば、ベクターゲノムの各半分における配列(例えば、全体の配列又はAAV末端反復と非分解性末端反復との間の配列)は、実質的に相補(すなわち、相補の度合いが少なくとも約90%、95%、98%、99%ヌクレオチド配列又はそれ以上)であり、ベクターゲノムは、相補配列間の塩基対により二本鎖分子を形成することができる。換言すれば、ベクターゲノムは、実質的に逆方向反復であり,両半分が非分解性末端反復により接合されている。特定の実施態様によれば、ベクターゲノムの両半分(すなわち、全体の配列又はAAV末端反復と非分解性末端反復との間の配列)は、実質的に完全に自己相補的(すなわち、わずかな数の一致しない塩基を含む)であるか又は完全に自己相補的である。
【0067】
他の実施態様によれば、目的とする異種のヌクレオチド配列(調節要素があるか又はない)の二本鎖は、実質的に相補(すなわち、相補の度合いが少なくとも約90%、95%、98%、99%ヌクレオチド配列又はそれ以上)である。特定の実施態様によれは、異種のヌクレオチド配列の二本鎖は、実質的に完全に自己相補的(すなわち、わずかな数の一致しない塩基を含む)か又は完全に自己相補的である。
【0068】
一般的に、二重パルボウイルスのベクターゲノムは、対応するrAAVベクターからよりも、二重パルボウイルスベクターからの異種のヌクレオチド配列の発現が高まる(例えば、開始がより早くなる、及び/又は発現レベルがより高くなる)程度までの非相補性の位置又は領域を含むことができる。本発明による二重パルボウイルスによれば、rAAVベクターの欠点の一つ、すなわち一本鎖rAAVビリオンDNAを二本鎖DNAに転換するために宿主細胞が必要となることに向けられた、二本鎖分子を有する宿主細胞が提供される。ビリオンDNA内、特に異種のヌクレオチド配列内の、非相補性の実質的な領域の存在が宿主細胞により認識され、そして不一致塩基を修正するために採用されるDNA修復機構をもたらし、それにより二重パルボウイルスベクターの有利な特徴(例えば宿主細胞についてウイルス鋳型を処理する必要性が減る又は除かれる)を弱める。
【0069】
非分解性AAV末端反復は、当該技術分野において公知のいずれかの方法により生成できる。例えば、末端反復への挿入により、切断部位(すなわち、trs)を移し、非分解性末端反復を生じる。末端反復内の種々の領域又は要素の名称は、当該技術分野において知られている(例えば、BERNARD N. FIELDS ら、VIROLOGY、第2巻、第69章、図5、第3版、Lippincott−Raven Publishers及びWO01/925551の図6参照)。また、末端分離部位(trs)の配列への挿入もおこなうことができる。別法として、A要素内のRep結合要素(RBE)とtrsとの間の部位に挿入することもできる(WO01/925551の図6参照)。AAVtrs部位のコア配列は当該技術分野において知られており、記載されている(Snyder ら、(1990) Cell、60:105; Snyder ら、(1993) J. Virology 67:6096;Brister及びMuzyczka、(2000) J. Virology 74:7762;Brister及びMuzyczka、(1999) J. Virology 73:9325)。例えば、Brister及びMuzyczka、(1999) J.Virology 73:9325は、D要素に隣接する3’−CCGGT/TG−5のコアtrs配列を記載している。Snyderら、(1993) J.Virology 67:6096は、Brister及びMuzyczkaにより確認された配列と実質的に重なり合う3’−GGT/TGA−5’として、最小trs配列を同定した。
【0070】
挿入は、末端反復の分解を実質的に減少する(少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%又はそれ以上)又は分解をなくすいずれかの好適な長さであることができる。挿入は、少なくとも約3、4、5、6、10、15、20若しくは30ヌクレオチド又はそれ以上であることができる。好適なレベルのウイルス複製及びパッケージングが得られる限りは、挿入配列のサイズの上限は特にない(例えば、挿入は、50、100、200若しくは500ヌクレオチド又はそれ以上の長さであることができる)。
【0071】
別の手法として、末端反復は、trs部位の欠失により非分解性とすることができる。欠失は、鋳型が所望の機能を保持する限りは、trs部位を越えて1、3、5、8、10、15、20、30ヌクレオチド又はそれ以上延びていてよい。trs部位の他に、D要素の一部又は全てを欠失させることができる(例えば、McCartyら(2003)Gene Therapy 10:2112−2118;及びWO01/92551参照)。欠失は、さらにA要素に延びることもできる;しかしながら、当業者は、RBEをA要素に保持して、例えば、パッケージジングを容易に効率的におこなうことが有利なことであることを理解されるところであろう。A要素への欠失は、非分解性末端反復がいずれかの他の望ましい機能を保持する限りは、長さが2、3、4、5、8、10又は15ヌクレオチド又はそれ以上であることができる:さらに、末端反復配列の外のD要素を越えて位置しているウイルス配列の一部又は全て(例えば、PCT公開WO01/925551の図6におけるD要素の右まで)を欠失させて、変更した末端反復を修正する遺伝子変換プロセスを減少又は防止することができる。
【0072】
さらなる別法として、切断部位で配列を、Repタンパク質による分解を減少又は実質的になくすように突然変異させることができる。例えば、A及び/又はC塩基は、切断部位又はその近くで、G及び/又はT塩基の代りとすることができる。Rep切断での末端分解部位での置換の効果については、Brister及びMuzyczka、(1999)J. Virology 73:9325に記載されている。
【0073】
さらなる別法として、ステムループ構造を形成することを想定していた切断部位を包囲している領域におけるヌクレオチド置換を使用して、末端分解部位でのRep切断を減少させることができる。当業者には、非分解性末端反復における変更は、変更末端反復の所望の機能(もしあれば)(例えば、パッケージング、Rep認識及び/又は部位特異的組み込みなど)を維持するように選択できることが理解されるであろう。
【0074】
さらに、非分解性末端反復は、Samulskiら、(1983)Cell 33:135に記載されているように、遺伝子変換プロセスに対して耐性とすることができる。非分解性末端反復での遺伝子変換は、分解性末端反復を生成するtrs部位を回復する。遺伝子変換は、分解性末端反復と変更された末端反復との間の相同的組み換えから生じる。遺伝子変換を減少させる1つの方法は、当該技術分野において知られているように、DNA修復が欠如している細胞株(例えば、哺乳動物)を用いてウイルスを産生することである。これは、ウイルス鋳型に導入される突然変異体を修正するこれらの細胞株の能力が低下するからである。
【0075】
別法として、実質的に減少した遺伝子変換率を有する鋳型は、非相同性領域を非分解性末端反復に導入することにより生成することができる。非分解性末端反復と未変更末端反復(鋳型について)との間のtrs要素を包囲している領域における非相同性により、遺伝子変換が減少又はさらに実質的になくなる。遺伝子変換が減少するか又はなくなる限りは、いずれかの好適な挿入又は欠失を、非分解性末端反復に導入して非相同領域を生成することができる。非相同とするのに欠失を用いる方法が好ましい。さらに、欠失が鋳型の複製又はパッケージングを過度に害しないことが好ましい。欠失の場合、同じ欠失が、trs部位の分解を減じたり、さらには遺伝子変換を減少させたりするのに十分なこともある。
【0076】
さらなる別法として、遺伝子変換は、非分解性末端反復への挿入によるか、又はRBEとtrs部位との間のA要素に挿入することにより減少させることができる。挿入は、典型的には長さが、少なくとも約3、4、5、6、10、15、20若しくは30ヌクレオチド又はそれ以上のヌクレオチドである。挿入配列のサイズについては特に上限がなく、50、100、200若しくは500ヌクレオチド又はそれ以上のヌクレオチドでよいが、一般的に、挿入は、ベクターゲノムの複製及びパッケージングを過度に阻害しないように選択される。
【0077】
非分解性末端反復と二重パルボウイルスベクターは、国際特許公開WO01/92551及びMcCartyら、(2003)Gene Therapy 10:2112−2118)に記載されている。
【0078】
また、本発明によるrAAVベクターは、転写終止シグナルも含んでよい。いずれの転写終止シグナルを本発明のベクターに含めてもよく、好ましくは転写終止シグナルはSV40転写終止シグナルである。
【0079】
改変「AAV」配列も、本発明に関連して、例えば、昆虫細胞におけるrAAVベクターの産生のために使用できる。このような改変配列は、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8又はAAV9 ITR、Rep若しくはVPに対して少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%又はそれ以上のヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列同一性を有する配列(例えば、約75〜99%ヌクレオチド配列同一性を有する配列)を含み、野生型AAV ITR、Rep又はVP配列の代りに使用できる。
【0080】
多くの態様において他のAAV血清型と類似しているが、AAV5は、他の知られているヒト及びサル血清型だけではなく他のヒト及びサルAAV血清型と異なる。この観点において、rAAV5の産生は、昆虫細胞における他の血清型の産生とは異なることができる。本発明による方法をrAAV5を産生するのに用いる場合、集合的に複数の構築物の場合において、AAV5 ITRを含んでなるヌクレオチド配列を含んでなる1つ以上の構築物は、AAV5 Repコード配列を含んでなる(すなわち、ヌクレオチド配列は、AAV5 Rep78を含んでなる)ことが好ましい。このようなITR及びRep配列は、所望のように改変して、昆虫細胞におけるrAAV5又は偽型rAAVベクターを効率的に産生することできる。例えば、Rep配列の開始コドンは改変でき、VPスプライス部位は改変できるか又はなくすことができ、及び/又はVP1開始コドン及び隣接するヌクレオチドを改変して昆虫細胞におけるrAAV5ベクターの産生を向上させることができる。
【0081】
組み換えビリオン
別の態様によれば、本発明は、好適なパッケージング細胞における本発明によるウイルスゲノムを発現することにより得ることができるビリオンに関する。
【0082】
用語「ビリオン」、「組み換えウイルス粒子」及び「ウイルスベクター」は、本明細書では、同義的に使用され、カプシド内にパッケージされたウイルスゲノムを含んでなる感染性複製欠損ウイルス粒子、及び場合によってはカプシドを包囲している脂質エンベロープに関する。
【0083】
本発明によるビリオンは、ポリオーマビリオン、より好ましくはSV40ビリオンでよい。本発明によるSV40ビリオンは、5.2kbの二本鎖環状DNAゲノムと、ウイルス小染色体を包囲し、3つのウイルスコードタンパク質、VP1、VP2及びVP3からなるウイルスカプシドを含んでなる。
【0084】
別の実施態様によれば、ビリオンが本発明によるAAVベクターのパッケージングにより得られる場合、本発明によるビリオンは、「組み換えAAVビリオン」である。本明細書において用いられている用語「組み換えAAVビリオン」又は「rAAVビリオン」は、AAV ITRと1つ以上のRepタンパク質が両側に位置している、意図する異種のヌクレオチド配列をカプシドで包んだシェルにおけるAAVタンパク質からなる感染性複製欠損ウイルスを指す。
【0085】
本明細書において用いられている用語「Capプタンパク質」は、天然AAVCapタンパク質(例えば、VP1、VP2、VP3)の少なくとも1つの機能活性を有するポリペプチドを指す。Capタンパク質(例えば、VP1、VP2、VP3)の機能活性には、例えば、カプシド形成を誘発する能力、一本鎖DNAの蓄積を容易にする能力、カプシドへのAAV DNAパッケージング(すなわち、カプシド形成)を容易にする能力、細胞受容体に結合する能力、及び宿主細胞へのビリオンの侵入を容易にする能力などがある。好ましい実施態様によれば、Cap遺伝子をコードするポリヌクレオチド配列は、AAV8
Cap遺伝子に相当する。AAVビリオンのシェルは、20面体対称を示し、通常主要Capタンパク質、通常Capタンパク質のうち最小のもの、及び1つ又は2つの少量のCapタンパク質を含む。
【0086】
本明細書において用いられている用語「Repタンパク質」は、天然のAAVRepタンパク質(例えば、Rep40、52、68、78)の少なくとも1つの機能活性を有するポリペプチドを指す。Repタンパク質(例えば、Rep40、52、68、78)の「機能活性」は、DNA複製のAAV源の認識、結合及び切断を介したDNAの複製を容易にすることを含む、タンパク質の生理学的機能と関連した活性、さらにはDNAヘリカーゼ活性である。さらなる機能には、AAV(又は他の異種の)プロモーターからの転写の調節及び宿主染色体へのAAV DNAの部位特異的組み込みなどが挙げられる。好ましい実施態様によれば、rep遺伝子をコードするポリヌクレオチド配列は、AAV1rep遺伝子に相当する。
【0087】
当業者には、本発明によるAAVビリオンは、AAV血清型からのカプシドタンパク質を含んでなることができることを理解されるであろう。しかしながら、異なる細胞のための既知のAAV血清型の異なる指向性により、AAVビリオンは、肝細胞への送達により適しているカプシドタンパク質を含む。肝細胞の形質導入のためには、AAV1、AAV8及びAAV5カプシドタンパク質を有するrAAVビリオンが好ましい(Nathwaniら、2007、Blood 109:1414−1421;Kitajimaら、2006、Atherosclerosis 186:65−73)。
【0088】
さらに、本発明によるAAVゲノムは、Stemmer、W.P.C.、(Nature 270:389−391、1994);Schmidt−Dannertら、(Nat. Biotech.18:750−753、2000)及びOreneisら、(Nat. Struct.Biol.9:238−242、2001)に記載されているように、DNAシャッフリングにより調製されたAAVゲノムも含む。DNA又は遺伝子シャッフリングにより、遺伝子ファミリーのメンバーのランダム断片の作成及びそれらの組み換えで数多くの新しい組み合わせが生じる。AAVカプシド遺伝子をシャフルするために、以下のことを含むいくつかのパラメータを考慮する必要がある:3つのカプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3並びに8つの血清型間の種々の相同性の関与。細胞又は組織特異的指向性の生存rcAAVベクターが得られる可能性を増加するために、例えば、高多様性及び多数の置換を生じるシャッフリングプロトコルが好ましい。キメラrcAAVの生成のためのDNAシャッフリングプロトコルとして、例えば、過渡的鋳型(RACHITT)でのランダムキメラ形成がある(Coco ら、Nat. Biotech.19:354−358、2001)。
【0089】
RACHITT方法を使用して、2つの異なる血清型(例えば、AAV1及びAAV2)のAAVゲノム由来の2つのPCR断片を再結合することができる。例えば、cap遺伝子の保存領域、同一度が85%、約1kbpにわたり、全て3つの遺伝子(VP1、VP2及びVP3)についてのコドンを開始することを含む断片を、生体内シャッフリングプロトコルを含むRATCHITT又は他のDNAシャッフリングプロトコルを用いてシャッフリングすることができる(米国特許第5,093,257号;Volkovら、NAR27:e18、1999;及びWang P.L.、Dis. Markers 16:3−13、2000)。得られた組み合わせキメラライブラリーは、好適なAAV TR含有ベクター(例えば、pTR−AAV2)にクローニングして、WT AAVゲノムのそれぞれの断片を置き換えることができる。ランダムクローンを配列決定し、ベクターNTI7 Suite SoftwareのAlignXアプリケーションを用いて、親ゲノムと整列することができる。配列決定及び整列から、1Kbp遺伝子当たりの交叉型組み換え数を求めることができる。別法として、AAVゲノムの可変領域を、本発明による方法を用いてシャッフリングすることができる。例えば、突然変異は、VP3において粒子表面ループを形成しうるAAVの2つのアミノ酸クラスター(アミノ酸509−522および561−591)内で生成できる。この低相同性ドメインをシャッフリングするために、親の相同性とは無関係である組み換えプロトコル(Ostermeierら、Nat.Biotechnol.17:1205−1209、1999;Lutzら、Proc.Nat.Acad.Sci. 98:11248−11253、2001)及びLutzら、(NAR 29:E16、2001)又は低相同性のDNA断片をアニールし、組み換えるように改良されたRACHITTプロトコルを利用することができる。
【0090】
組み換えライブラリーは、ループを形成することが可能であり、粒子表面に露出して細胞表面受容体と相互作用するカプシド遺伝子の特定の位置への短ランダム化オリゴヌクレオチドの挿入を用いて構成することもできる(例えば、AAV2におけるアミノ酸509−522及び561−591)(Xieら、2002、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99:10405−10410)。このようなライブラリーを使用して、新たな細胞/組織指向性のビリオンを選択することができる。ビリオンの選択は、図1B及び1Cに記載されているプロトコルを含む。
【0091】
オリゴヌクレオチド合成、ランダムペプチド挿入及びRATCHITT方法を退行することに加えて、AAVカプシド突然変異を作る方法も、使用することもできるであろう。別法として、例えば、部位特異的突然変異誘発(Wuら、J.Virol.72:5919−5926);分子育種、核酸、エクソン及びDNAファミリーシャッフリング(Soongら、Nat.Genet.25:436−439、2000;Cocoら、Nature Biotech.2001;19:354;並びに米国特許第5,837,458号;第5,811,238号;及び6,180,406;Kolkman及びStemmer、Nat.Biotech.19:423−428、2001;Fischら、Proceedings of the National Academy of Sciences 93:7761−7766、1996;Christiansら、Nat.Biotech.17:259−264、1999);リガンドの挿入(Girodら、Nat. Med.9:1052−1056、1999);並びにカセット突然変異誘発(Ruedaら、Virology 263:89−99、1999;Boyerら、J.Virol 66:1031−1039、1992)などがある。AAVカプシド遺伝子の突然変異解析については、Wuら、J.Virol.74:8635−8647、2000及びRabinowitzら、Virology 265;274−285、1999を参照されたい。
【0092】
改変「AAV」配列も、例えば、昆虫細胞におけるrAAVベクターの産生のために、本発明に関連して使用できる。このような改変配列は、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8又はAAV9 ITR、Rep若しくはVPに対して少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%又はそれ以上のヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列同一性を有する配列(例えば、約75〜99%ヌクレオチド配列同一性を有する配列)を含み、野生型AAV ITR、Rep又はVP配列の代りに使用できる。
【0093】
Rep(Rep78/68及びRep52/40)コード配列は、いずれのAAV血清型由来でもよいが、好ましくはAAVl、AAV2及び/又はAAV4由来のものである。しかしながら、本発明に関連して使用されるVPl、VP2及びVP3 カプシドタンパク質をコードする配列は、既知の42の血清型、好ましくはAAVl、AAV2、AAV5、AAV6又はAAV8から得てもよい。
【0094】
また、本発明は、カプシドと組み換えウイルスゲノムとを含んでなり、外因性標的配列が天然カプシドに挿入又は代入されたビリオンも意図している。ビリオンは、外因性標的配列をカプシドへ置換又は挿入することにより標的とされる(すなわち、特定の細胞型を対象とする)ことが好ましい。あるいは、外因性標的配列は、ビリオンに対して変更された指向性を付与することが好ましい。さらにあるいは、標的配列は細胞への標的ベクターの送達効率を増加する。
【0095】
外因性標的配列は、1つのカプシドサブユニット、あるいは複数のカプシドサブユニットの一部又は全てを置き換えるものでもよい。さらにあるいは、複数の外因性標的配列(例えば、2、3、4、5又はそれ以上の配列)をビリオンカプシドに導入してもよい。別の実施態様によれば、小カプシドサブユニット(例えば、AAVのVp1及びVp2)内での挿入又は置換が好ましい。AAVカプシドについて、Vp2又はVp3における挿入又は置換も好ましい。
【0096】
より好ましい実施態様によれば、外因性標的配列は、ビリオンカプシド内に挿入又は置換されてビリオンの指向性を変更する、ペプチド又はタンパク質をコードするアミノ酸配列でもよい。天然ビリオンの指向性は、アミノ酸配列の挿入又は置換により減少又はなくすこともできる。あるいは、外因性アミノ酸配列の挿入又は置換により、ビリオンを特定の細胞型に対する標的としてもよい。外因性標的配列は、ビリオンの指向性を変更するタンパク質又はペプチドをコードするいずれのアミノ酸配列でもよい。特定の実施態様によれば、標的ペプチド又はタンパク質は、天然あるいは完全又は部分的に合成したものでよい。典型的なペプチド及びタンパク質として、リガンド及び肝細胞に存在する細胞表面受容体に結合する他のペプチド、例えば、Apoliprotein E、ガラクトース及びラクトース特異的レクチンのSr−B1受容体を結合することができるリガンド、低密度リポタンパク質受容体リガンド、アシアログリコプロテイン(ガラクトース−末端)リガンドなどがある。
【0097】
あるいは、外因性標的配列は、抗体又はその抗原認識部分でもよい。本明細書において用いられている用語「抗体」は、全ての種類の免疫グロブリン、例えば、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEを指す。抗体は、モノクローナル抗体でも、ポリクローナル抗体でもよく、いずれの原種、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ウマ又はヒトでもよく、又はキメラ抗体でもよい。また、用語「抗体」には、当業者には知られている二重特異性又は「架橋」抗体が含まれる。本発明の範囲内の抗体断片には、例えば、Fab、F(ab‘)2及びFc断片、並びにIgG以外の抗体からえられる対応の断片などがある。
【0098】
ビリオンカプシドに挿入された外因性アミノ酸配列は、ビリオンの精製又は検出を容易にするものでよい。本発明のこの態様によれば、外因性アミノ酸配列も、改変パルボウイルスのビリオンを変更する必要がない。例えば、外因性アミノ酸配列は、当業者に知られているニッケルカラムでビリオンを精製するのに有用であるポリヒスチジン配列、又は標準免疫精製法によりビリオンを精製するのに用いることができる抗原性ペプチド又はタンパク質を含むことができる。あるいは、アミノ酸配列は、アフィニティー精製又は当該技術分野において知られているいずれかの他の方法(例えば、サイズ、密度、電荷若しくは等電点の差に基づく精製法、イオン交換クロマトグラフィー又はペプチドクロマトグラフィー)により、改変されたビリオンを精製するのに使用されることができる受容体リガンド又はいずれかの他のペプチド又はタンパク質をコードしていてもよい。
【0099】
パルボウイルス小Capサブユニット内、例えば、AAV Vp1及びVp2サブユニット内に外因性アミノ酸配列を挿入することが好ましい。あるいは、Vp2又はVp3における挿入が好ましい。
【0100】
好ましいAAVビリオンを改変して、Russell(2000、J.Gen.Virol.81:2573−2604)により検討されているように、又はUS20080008690並びにZaldumbide及びHoeben(Gene Therapy、2008:239−246)に記載されているようにして、宿主反応を減少させる。
【0101】
好ましい実施態様によれは、本発明によるビリオンは、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結したIGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードするヌクレオチド配列を含んでなるウイルスゲノムを含んでなる。さらに別の実施態様によれば、肝臓特異的プロモーターは、アルブミン遺伝子エンハンサー領域及びアルファ1−アンチトリプシンプロモーターを含んでなる。別の実施態様によれば、IGF−Iは、ヒトIGF−Iである。
【0102】
治療法
本発明者らは、CCl誘発肝硬変を患っている動物にウイルスベクターを投与すると、生化学的肝臓検査(血清AST、ALT、ALP及びビリルビンの減少並びに血清アルブミンの増加)及び組織化学的観察(実施例3及び10参照)により測定したときに肝機能が顕著に改善されることを見出した。さらに、本発明によるビリオンは、硬変した肝臓におけるフィブロリシスの誘発(実施例4及び11参照)及びプロフィブロジェニック因子の減少(実施例5及び12参照)を生じる。
【0103】
したがって、別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用される本発明によるビリオンに関する。別の態様によれば、本発明は、本明細書において上記したビリオンを含んでなる医薬組成物に関する。医薬組成物は、さらに好ましくは薬学的に許容しうる担体を含んでなる。いずれかの好適な薬学的に許容しうる担体又は賦形剤を、本発明の組成物に使用できる(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、Alfonso R.Gennaro(編者)Mack Publishing Company、1997年4月参照)。好ましい医薬の剤形は、無菌食塩水、デキストロース溶液、緩衝液又は他の薬学的に許容しうる無菌液を組み合わせたものである。あるいは、固体担体、例えば、微小担体ビーズは、そのまま使用してもよい。
【0104】
さらに別の態様によれは、本発明は、必要としている被検者に、本発明によるビリオンを投与することを含んでなる、肝硬変又は肝線維症の治療及び/又は予防に関する。
【0105】
別の態様によれば、本発明は、肝硬変又は肝線維症の予防及び/又は治療用薬剤の製造のための、本発明によるビリオンの使用に関する。
【0106】
さらに別の態様によれば、本発明は、肝硬変又は肝線維症の治療及び/又は予防に使用される、本発明によるビリオンに関する。
【0107】
本明細書において用いられている用語「肝硬変」は、肝臓組織が線維性瘢痕組織及び再生結節により置き換えられるため、肝臓がゆっくりと劣化し機能不全となる状態に関する。これにより、肝臓を介して血液の流れの部分的な障害、さらに感染を制御し、血液からバクテリア及び毒素を除去し、栄養素、ホルモン及び薬物を処理し、血液凝固を調節するタンパク質を生成し、脂肪含有コレステロール及び脂肪可溶ビタミンを吸収しやすくする胆汁を製造する肝臓の能力に障害を生じる。本発明の治療方法は、種々の原因の肝硬変、例えば、アルコール関連肝硬変、慢性肝炎C、B又はD、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、自己免疫性肝炎、原発性又は続発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、遺伝疾患、例えば、嚢胞性線維症、アルファ1アンチトリプシン欠乏症、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、ガラクトース血症及びグリコーゲン蓄積症の治療に好適である。
【0108】
本明細書において用いられている用語「肝線維症」は、コラーゲンなどの細胞外のマトリックスタンパク質の肝臓における蓄積の増加により特徴付けられる状態に関し、メタビア(metavir)スコアシステムによる線維化スコア1(最小瘢痕)、2(瘢痕が生じ、血管を含む肝臓における領域の外に延びている)、3(架橋線維症が広がり、線維症を含む他の領域に接続している)又は4(肝硬変又は肝臓の進行した瘢痕);又はKnodellスコアによるスコア1−4、5−8、9−12又は13−18を含む。
【0109】
ビリオンの量及びこの組成物の投与の時間は、本開示の利点を認識した当業者には明らかであろう。実際のところ、本発明者らは、本発明によるビリオンの治療に有効な量を投与することは、単一投与、例えばこのような治療を受ける患者に治療効果を得るのに十分な数の感染性粒子を一回注射することによりなされると考えている。あるいは、ある状況では、ビリオン組成物を、この組成物の投与を監督している医療従事者により決定されるであろう、比較的短期間又は比較的長期間にわたる、複数回又は連続投与が望ましい。例えば、哺乳動物に投与した感染性粒子数は、治療されている特定疾患又は障害の治療を達成するのに必要とされる単回投与としてか、あるいは2回以上の投与に分割して、約10、10、10、1010、1011、1012、1013又はそれ以上の感染性粒子/mlであることができる。実際に、一定の実施態様によれば、2種以上の異なるビリオンベクター組成物を、単独か又は1種以上の治療薬剤と組み合わせて投与して、所望の特定の治療レジメン効果を得ることが好ましいことがある。ほとんどのビリオン系遺伝子療法レジメンにおいて、本発明者らは、IGF−I又はその機能的に同等の変異体の発現を制御するために肝臓特異的プロモーターを使用することにより、従来の遺伝子療法プロトコルと比較して、本発明によるビリオンを用いたときには、より低い力価の感染性粒子が必要されることになると考えている。
【0110】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、目的とするヌクレオチド配列は、対象の肝臓に送達される。肝臓への投与は、当該技術分野において知られている方法、例えば、静脈投与、門脈内投与、胆管内投与、動脈内投与及び肝実質への直接注射(これらには限定されない)によりおこなうことができる。好ましい実施態様によれば、ビリオンオンは、動脈内投与される。さらに好ましい実施態様によれば、動脈内投与は肝動脈を介して実施される。
【0111】
IGF−Iをコードするパルボウイルスベクターを用いた肝硬変及び線維症の予防方法及び/又は治療方法
本発明者らが得た結果から、IGF−Iコード配列を含んでなる組み換えパルボウイルスビリオンを投与すると、動物肝硬変モデルにおいて肝機能が改善されることが明らかとなった(実施例3〜6及び10〜14参照)。さらに、他のウイルスベクターで観察された結果は、IGF−Iは、疾患の発生前に適用すると、疾患の進行を遅らせることを示している。したがって、本発明によるビリオンは、肝硬変又は肝線維症の発生を予防することにも適する。
【0112】
したがって、別の態様によれば、本発明は、医薬として使用するため、より好ましくは肝硬変又は肝線維症の治療及び/又は予防に使用するための、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードする配列を含んでなる組み換えパルボウイルスに関する。
【0113】
別の態様によれば、本発明は、肝硬変又は肝線維症の治療及び/又は予防用薬剤の調製のための、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードする配列を含んでなる組み換えパルボウイルスの使用に関する。
【0114】
別の実施態様によれば、本発明は、必要としている被検者に、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードする配列を含んでなる組み換えパルボウイルスを投与することを含んでなる肝硬変又は肝線維症の治療方法に関する。
【0115】
本明細書において用いられている用語「治療」は、このような用語が適用される障害若しくは状態、又はこのような障害若しくは状態の1つ以上の症状の進行を回復、軽減、又は抑制する作用を指す。
【0116】
本明細書において用いられている用語「予防」は、このような用語が使われる疾患、障害や状態の発症若しくは再発、又は疾患、障害や状態と関連した1つ以上の症状が発生、存在しないようにしたり、遅延させたりする作用を指す。
【0117】
用語「肝硬変」及び「肝線維症」については、既に詳細に説明した。
【0118】
用語「パルボウイルス」も、本発明によるウイルスベクターとの関連で、既に詳細に説明した。好ましくは、パルボウイルスは、アデノ関連性ウイルスである。さらに好ましくは、AAVは、AAV1、AAV2及び/又はAAV4由来であるITRが側に位置するIGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードする配列を含んでなるゲノムを含んでなる。さらにより好ましい実施態様によれば、AAV1、AAV2及び/又はAAV4で偽型化したAAV1、AAV5、AAV6又はAAV8である。すなわち、AAVは、AAV1、AAV5、AAV6又はAAV8由来のcapタンパク質を含有する。好ましい実施態様によれば、組み換えパルボウイルスは、一本鎖パルボウイルス、好ましくは一本鎖AAVである。別の好ましい実施態様によれば、組み換えパルボウイルスは、二本鎖パルボウイルス、好ましくは二本鎖AAVである。
【0119】
用語「IGF−I」は、本発明によるウイルスベクターに言及しながら、既に詳細に説明した。好ましい実施態様によれば、IGF−Iは、ヒトIGF−Iである。
【0120】
IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードする配列は、プロモーター領域に作動可能に連結したものでよい。本発明の治療法に使用されるビリオンに使用するのに好適なプロモーターには、構成プロモーター及び肝臓特異的プロモーターを含む肝臓細胞における下流配列の転写を活性化することができるプロモーターが含まれる。肝臓における異種の配列の発現に好適な構成プロモーターには、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPTR)のプロモーター、アデノシンデアミナーゼのプロモーター、ピルビン酸キナーゼのプロモーター、β−アクチンのプロモーター、鎖延長因子1アルファ(EF1)プロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーター、ユビキチン(Ubc)プロモーター、アルブミンプロモーター、中間フィラメント(デスミン、ニューロフィラメント、ケラチン、GFAP等)のプロモーター及び他の構成プロモーターなどがあるが、これらには限定されない。真核細胞において構成的に機能する典型的なウイルスプロモーターには、例えば、SV40初期プロモーター領域(Bernoist及びChambon、1981、Nature 290:304−310)、ラウス肉腫ウイルスの3’の長い末端反復に含まれるプロモーター(Yamamotoら、1980、Cell 22:787−797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagnerら、1981、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:1441−1445)などがある。
【0121】
好ましい実施態様によれば、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードする配列に作動可能に連結しているプロモーターは、肝臓特異的プロモーターである。より好ましい実施態様によれば、肝臓特異的プロモーターは、アルブミン遺伝子エンハンサー領域とアルファ1−アンチトリプシンプロモーターとを含んでなるハイブリッドプロモーターである。別の好ましい実施態様によれば、肝臓特異的プロモーターは、誘発性肝臓特異的プロモーターである。
【0122】
本発明の治療方法には、ビリオン/ウイルス粒子とともにインキュベーションすることにより細胞に形質導入することによって、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードするパルボウイルスビリオンを投与することが含まれる。細胞は生物に存在するものでよく、この場合、細胞は、針注射、ジェット式注射又は粒子ガンにより到達可能であるものである。一方、形質導入される細胞は、生物から単離され、生物外で感染し、その後再び生物に戻してもよい。このような細胞は、自己細胞と称される。さらに、生物に関して、形質導入のために、同種異系細胞を使用することもできる。これに関連して、これらの細胞が生物に対応するHLA型に属するのが好ましい。当業者には、一定のHLA型を有する細胞を提供する方法が知られている。ビリオン調製の好ましい力価は、通常10〜10感染性ウイルス/mlである。
【0123】
本発明は、獣医及び医療いずれにも使用できる。好適な対象には、鳥類及び哺乳動物の両方が含まれ、哺乳動物が好ましい。本明細書において用いられている用語「鳥類」として、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ及びキジなどがあげられるが、これらには限定されない。本明細書において用いられている用語「哺乳動物」として、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギなどが挙げられるが、これらには限定されない。対象として、ヒトが最も好ましい。ヒト対象として、胎児、新生児、幼児、若年者、大人が挙げられる。
【0124】
したがって、本発明の主題は、本発明によるパルボウイルス粒子、好ましくはAAV粒子を含んでなる薬剤にも関する。ここで、薬剤は、薬学的に許容しうる担体をさらに含んでいてもよい。このような薬剤の好適な担体及び剤形は、当業者に知られている。好適な担体は、例えば、リン酸緩衝食塩水、水、エマルジョン、例えば、油/水エマルジョン、湿潤剤、滅菌溶液等を含んでなる。担体の種類は、プラスミド及び/又はパルボウイルス粒子をパッケージングしている本発明によるパルボウイルスベクターをどのように投与するかに依存する。好適な用量は、主治医により決定され、種々の因子、患者の年齢、性別及び体重、疾患の重症度、投与の種類などに依存する。プラスミド及び/又は粒子をパッケージングしている本発明によるパルボウイルスベクターにより、ほとんどの異なる細胞、例えば、角膜上皮又は筋肉細胞の一次細胞で、高形質導入率を得ることができる。
【0125】
本発明によるパルボウイルス粒子を、それを必要としているヒト被検者又は動物に投与することは、ウイルスベクターを投与するための当該技術分野において公知の手段により行うことができる。典型的な投与形態として、経口、直腸、経粘膜、局所、経皮、吸入、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、筋肉内及び関節内)投与等、さらには直接組織又は器官注射、あるいは鞘内、直接筋肉内、心室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内又は眼内注射などがある。注射物質は、注射前の液体における液剤又は懸濁剤に好適な溶液又は懸濁液、固形物してか、又は乳剤として、従来の形態で調製できる。あるいは、例えば、貯蔵又は持続放出製剤において、全身ではなく局所的にウイルスを投与してもよい。
【0126】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、目的とするヌクレオチド配列は、対象の肝臓に送達される。肝臓への投与は、当該技術分野において知られているいずれかの方法、例えば、静脈内投与、門脈内投与、胆管内投与、動脈内投与、肝実質への直接注射(これらには限定されない)などによりおこなうことができる。好ましい実施態様によれば、ビリオンを、動脈内に投与する。さらに好ましい実施態様によれば、動脈内投与を、肝動脈を介して実施する。
【0127】
本発明によるパルボウイルス粒子の用量は、投与形態、個々の対象の状態、特定のウイルスベクター及び送達される遺伝子に依存し、通常の方法で決定できる。治療効果を得るための典型的な用量は、少なくとも約10、10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、1014の形質導入単位又はそれ以上、好ましくは約10〜1013形質導入単位、さらに好ましくは1012形質導入単位のウイルス力価である。
【0128】
本発明の特定の実施態様によれば、複数回の投与(例えば、2回、3回、4回又はそれ以上の回数の投与)により、治療レベルの遺伝子発現を達成してもよい。この実施態様によれば、そして上記したように、各投与により抗体を中和する効果を防止する種々の抗原特性を有するパルボウイルスベクターを使用することが好ましい。
【0129】
組み換えAAVビリオンを調製する方法
さらに本発明の別の態様によれば、組み換えAAVビリオンの製造方法であって、
細胞と、
(a)i.IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結した配列を含んでなる発現カセットと、
ii.(i)で定義されている発現カセットの側に位置しているAAV 5’−ITR 及び3’−ITRと、
を含んでなる第1核酸配列と、
(b)AAVrepタンパク質をコードする第2核酸配列と、
(c)AAVcapタンパク質をコードする第3核酸配列と、そして任意の
(d)AAVが複製用に従属するウイルス性及び/又は細胞機能をコードする第4核酸配列とを、
前記細胞に前記の三つ又は四つの成分が侵入するのに適切な条件下で接触させる工程と、
前記細胞から前記組み換えAAVビリオンを回収する工程と
を含んでなる方法が提供される。
【0130】
組み換えAAVビリオンを製造する方法の工程(i)は、
細胞と、
(a)i.IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結した配列を含んでなる発現カセットと、
ii.(i)で定義されている発現カセットの側に位置しているAAV 5’−ITR及び3’−ITRと、
を含んでなる第1核酸配列と、
(b)AAVrepタンパク質をコードする第2核酸配列と、
(c)AAVcapタンパク質をコードする第3核酸配列と、そして任意の
(d)AAVが複製用に従属するウイルス性及び/又は細胞機能をコードする第4核酸配列とを、
前記細胞に前記三つ又は四つの成分が侵入するのに適切な条件下で接触させることを含んでなる。
【0131】
第一の核酸配列を構成する要素は、実質的に本発明によるウイルスベクターと関して既に説明した通りのものである。好ましい実施態様によれば、第一の核酸配列は、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードする配列の下流に位置するポリアデニル化信号をさらに含んでなる。好適なポリアデニル化信号は、先に述べた通りである。一例として、ポリアデニル化信号は、SV40ポリアデニル化信号である。
【0132】
肝臓特異的プロモーターは、上記したいずれかのプロモーターであることができる。好ましい実施態様によれば、肝臓特異的プロモーターは、アルブミンエンハンサー領域と、α1−アンチトリプシンのプロモーターとを含んでなるハイブリッドプロモーターである。別の好ましい実施態様によれば、肝臓特異的プロモーターは、誘発性肝臓特異的プロモーターである。
【0133】
パッケージングを容易にするために組み換えベクターゲノムは、一般的に野生型ゲノムのサイズの約80%〜約105%であり、適切なパッケージングシグナルを含んでなる。AAVカプシドへのパッケージングを容易にするために、ゲノムは、好ましくはサイズが約5.2kb以下である。他の実施態様によれば、ゲノムは、好ましくは長さが約3.6、3.8、4.0、4.2又は4.4kbを超え及び/又は長さが約5.4、5.2、5.0又は4.8kb未満である。あるいは、異種のヌクレオチド配列は、典型的にはAAVカプシドによる組み換えゲノムのパッケージングを容易にするために、長さが約5kb未満(より好ましくは約4.8kb未満、さらに好ましくは長さが約4.4kb未満、さらにより好ましくは長さが約4.2kb未満)である。
【0134】
本発明によるビリオンの製造に必要とされる第2核酸配列及び第3核酸配列は、いわゆる「AAVヘルパー機能」であり、主要AAV ORFS、すなわち、rep及びcapコード領域又はそれらの機能的相同体の1つ又は両方を含んでなる。本発明の方法に使用されるrep及びcapタンパク質をコードする好適な核酸配列は、本発明によるビリオンに関して先に詳細に説明した通りである。
【0135】
しかしながら、当業者は、第1、第2、及び第3核酸配列を、種々の組み合わせで2以上の配列上に提供できることを理解されるであろう。本明細書において用語「ベクター」には、適切な制御要素と関連したときに複製でき、細胞間で遺伝子配列を移送することができる、遺伝子要素、例えば、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミッド、染色体、人工染色体、ウイルス、ビリオン等などが含まれる。したがって、この用語には、クローニング及び発現ビヒクル、さらにはウイルスベクターが含まれる。
【0136】
あるいは、AAVrep及び/又はcap遺伝子は、遺伝子を安定的に発現するパッケージング細胞により提供できる(例えば、Gaoら、(1998)Human Gene Therapy 9:2353;Inoueら(1998)J.Virol.72:7024;米国特許第5,837,484号;WO98/27207;米国特許第5,658,785;WO96/17947参照)。
【0137】
好ましい実施態様によれば、第2及び第3ポリヌクレオチドは、通常AAVヘルパー機能ベクターと称される単一ベクターにおいて提供してもよい。本明細書で使用されるのに好適なベクターとしては、例えば、米国特許第6,001,650号に記載されているpHLP19及び米国特許第6,156,303号に記載されているpRep6cap6ベクターなどがある(これらの特許に開示されている事項の全体は、引用することによりその全体が本明細書の開示の一部とされる)。
【0138】
他の特定の実施態様によれば、第2及び第3核酸配列は、AAVRep及び/又はカプシドタンパク質をコードするハイブリッドヘルパーウイルスであってもよいアデノウイルスヘルパーウイルスの形態である。AAVrep及び/又はcap遺伝子を発現するハイブリッドヘルパーAd/AAVベクター及びこれらの試薬を用いたAAVストックを製造する方法は、当該技術分野において知られている(例えば、米国特許第5,589,377号;米国特許第5,871,982号、米国特許第6,251,677号;及び米国特許第6,387,368号参照)。好ましくは、本発明によるハイブリッドAdは、AAVカプシドタンパク質(すなわち、VP1、VP2及びVP3)を発現する。あるいは又はさらに、ハイブリッドアデノウイルスは、AAVRepタンパク質の1つ以上を発現できる(すなわち、Rep40、Rep52、Rep68及び/又はRep78)。AAV配列は、組織特異的又は誘発可能プロモーターと作動可能に関連させることができる。
【0139】
別の特定の実施態様によれば、組み換えAAVビリオンの調製に使用される細胞は昆虫細胞であり、第1、第2及び第3核酸配列はバキュロウイルスベクターに含まれる。
【0140】
好ましい実施態様によれば、この方法により製造される組み換えAAVビリオンは、一本鎖AAVビリオンである。別の好ましい実施態様によれば、製造される組み換えAAVビリオンは、二本鎖AAVビリオンである。
【0141】
異なる核酸配列は、細胞に前記核酸配列が侵入するのに適切な条件下で、細胞と接触させられる。この目的に好適な多数のトランスフェクション法は、一般的に当該技術分野において知られており、リン酸カルシウム共沈、培養細胞への直接マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソーム介在遺伝子導入、脂質介在形質導入、及び高速ミクロプロジェクタイルを用いた核酸伝達等がある。
【0142】
成分(d)は、AAVが複製のために依存する非AAV由来ウイルス及び/又は細胞機能(すなわち、「アクセサリー機能」)をコードする核酸配列を含んでなる。アクセサリー機能には、AAV複製のために必要とされる機能、例えば、AAV遺伝子導入の活性化、時期特異的AAV mRNAスプライシング、AAV DNA複製、cap発現産物の合成及びAAVカプシドアセンブリーに関与している部分(これらには限定されない)などがある。ウイルス系アクセサリー機能は、既知のヘルパーウイルス、例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス型1以外)及びワクチンウイルスから得ることができる。
【0143】
あるいは、成分(d)の核酸配列は、パッケージング細胞によりエピソーム的に実施したり、及び/又はパッケージング細胞のゲノムに組み込まれたりしてもよい。アクセサリー機能は、上記した第4核酸(成分(d))とパッケージング細胞との間に分配できる。
【0144】
アデノウイルスは多数の異なるサブグループを含むが、サブグループC(Ad5)のアデノウイルス型5が最も一般的に使用される。ヒト、非ヒト哺乳動物及び鳥類オリジンの非常に多くのアデノウイルスが知られており、ATCCなどの寄託機関から入手可能である。
【0145】
通常「ヘルパーウイルス」と称されるウイルスDNA配列として第4ヌクレオチド配列を提供することもできる。本発明による好適なヘルパーウイルスは、例えば、ドイツ国特許出願196 44 500.0−41に記載されており、これらは、例えば、ヘルパーウイルスDNA配列として、E1領域を除く完全アデノウイルス5配列を含んでなるプラスミドpTG9585のこの特許出願に開示されているDNA配列も含んでなる。
【0146】
ヘルペスウイルスDNAを構成する配列は、通常「AAVベクターパッケージングプラスミド」と称されるベクターに組み込まれてもよい。また、パッケージングプラスミドは、pTG9585におけるものとは、特にヌクレオチド16614−18669の領域において、Ad5配列の構造遺伝子L1が欠失している点で異なるヘルパーウイルスDNA配列を含むこともできる。
【0147】
アクセサリーウイルスDNA配列は、好ましくはヘルペスウイルス又はアデノウイルスから得られたものであり、アデノウイルス5(Ad5)が好ましい。
【0148】
特に好ましい実施態様によれば、本発明によるAAVベクターパッケージングプラスミドは、ヘルパーウイルスDNA配列として、例えば、ドイツ国特許出願196 44 500.0−41に記載されているpDGプラスミドから得ることができ、各起源プロモーターによるか又は異種のプロモーターにより制御される、Ad5遺伝子E2A、E4及びVAを含有する。
【0149】
さらに、AAVベクターパッケージングプラスミドは、標的細胞にAAVベクターパッケージングプラスミドをうまく導入するように、検出可能な発現型マーカーをコードする遺伝子を含有してもよい。さらに好ましい実施態様によれば、したがって、本発明によるAAVベクターパッケージングプラスミドは、マーカータンパク質、好ましくは蛍光タンパク質の発現用発現カセットをさらに含有する。これに関連して、用語「発現カセット」は、例えば、蛍光遺伝子をコードする遺伝子と、この遺伝子を制御する好適なプロモーターと、ポリアデニル化信号との組み合わせを指す。これにより、容易に所望の標的細胞のトランスフェクションが提供される。蛍光タンパク質をコードする好適な遺伝子は、例えば、RFP−(赤)、GFP−(緑)、CFP−(シアン)及びYFP−(黄色)遺伝子であり、RFP−(赤)(Dsred−cDNA;Clontech)が好ましい。好適なプロモーターは、例えば、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター及びHSV(単純ヘルペスウイルス)tkプロモーターであり、RSVプロモーターが好ましい。この発現カセットを、AAVベクターパッケージングプラスミドの、当業者により容易に決定できる好適な部位、好ましくはcap遺伝子の3’端と、例えば、ClaI開裂部位におけるアデノウイルスVA遺伝子の開始との間に挿入される。このClaI開裂部位は、pDGに存在する。
【0150】
別の特に好ましい実施態様によれば、本発明は、AAVベクターパッケージングプラスミドに関し、AAV発現ベクターDNA配列はCMVプロモーターの制御下のHPV16−L1コードDNA配列を含有する。pDS2−Lh1と称されるこのようなAAVベクターパッケージングプラスミドは、2001年7月17日のブタペスト条約の規定に基づき、ドイツ国BraunschweigにあるDSMZ[German collection of microorganisms and cell cultures]に、DSM 14406で寄託された。このようなプラスミドは、全ての必要とするアクセサリー機能又は必要な機能の一部分のみを有していてもよい。一部分のみを有する場合、残りのアクセサリー機能は、パッケージング細胞により提供されてもよい。
【0151】
別の方法によれば、本発明によるAAVビリオンは、
(i)i.IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結した配列を含んでなる発現カセットと、
ii.(i)で定義されている発現カセットの側に位置しているAAV 5’−ITR及び3’−ITRと
を含んでなる第一核酸配列を、
AAVカプシドタンパク質を含んでなる組成物と接触させる工程と、
(ii)前記混合物から組み換えAAVビリオンを回収する工程と
を含んでなる方法により製造してもよい。
【0152】
AAVビリオンを製造する別の方法は、昆虫細胞系システムを使用する。バキュロウイルス発現システムは、真核生物クローニング及び発現ベクターとして使用されることは周知である(King、L.A.、及びR.D.Possee、1992、「The baculovirus expression system(バキュロウイルス発現システム)」、Chapman及びHall、United Kingdom;O‘Reilly、D.R.ら、1992。バキュロウイルス発現ベクター:A Laboratory Manual.New York:W.H.Freeman.)。バキュロウイルス発現システムの利点は、とりわけ、発現タンパク質がほとんどいつも可溶性であり、正しく折り畳まれ、生物学的に活性であることである。さらなる利点には、高タンパク質発現レベル、より早い産生、巨大タンパク質の発現に好適、及び大規生産に好適などである。
【0153】
バキュロウイルス発現システムは、組み換えアデノ関連ウイルス(AAV)ベクターの製造にうまく使用されてきた(Urabeら、2002、Hum.Gene Ther. 13:1935−1943;US6,723,551及びUS20040197895)。このシステムは、昆虫細胞においてAAV製造システムを開発したUrabeら(2002、前掲)により記載された。
【0154】
このシステムでは、以下の核酸配列を生成する:
(i)IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結した配列を含んでなる発現カセットと、前記発現カセットの側に位置しているAAV5’−ITR及び3’−ITRとを含んでなる第1核酸配列、
(ii)AAVrepタンパク質をコードする第2核酸配列及び
(iii)AAVcapタンパク質をコードする第3核酸配列。
【0155】
3つの核酸配列は、昆虫細胞適合性ベクターであるベクターに典型的に担持されている。配列は、1つ、2つ又は3つのベクターに担持されることができる。上記したように、第1ヌクレオチド配列は、少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)ヌクレオチド配列を含んでなる。第2ヌクレオチド配列は、典型的には昆虫細胞において発現のための少なくとも1つの発現制御配列に作動可能に連結したAAV VP1、VP2及びVP3カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含んでなるオープンリーディングフレーム(ORF)を含んでなる。第3ヌクレオチド配列は、典型的には昆虫細胞における発現のための少なくとも1つの発現制御配列に作動可能に連結したRep52又はRep40コード配列及びRep78又はRep68コード配列をコードするオープンリーディングフレームを含んでなる。Repタンパク質は、単一のオープンリーディングフレームによりコードされることができる。
【0156】
AAVビリオンを生成する方法は、例えば、1つ、2つ又は3つの昆虫細胞適合性ベクター(典型的にはバキュロウイルス)に含まれる核酸配列を昆虫細胞に導入すること、及びAAVが産生される条件下で昆虫細胞を維持することを含んでなる。次に、AAVを回収する。
【0157】
昆虫細胞においてAAVを産生するため、3つのAAVカプシドタンパク質(VPl、VP2及びVP3)を正しい化学量論とするために、改変が必要なことがある。これは、2つのスプライスアクセプター部位の交互利用と、正確には昆虫細胞により再現しないVP2用ACG開始コドンの準最適利用との組み合わせによるものである。昆虫細胞においてカプシドタンパク質の正しい化学量論を示すために、Urabeら(2002、前掲)は、スプライシングを必要とすることなく全ての3つのVPタンパク質を発現できる単一のポリシストロニックメッセンジャーに翻訳される構築物で、最も上流の開始コドンが準最適開始コドンACGにより置き換えられたものを使用することを提案した。WO2007/046703は、昆虫細胞において産生されるAAVカプシドタンパク質の化学量論の最適化により、バキュロウイルス産生rAAVベクター系産生の感染性がさらに向上することを開示している。
【0158】
Urabeら(2002、前掲)により最初に開発されたAAV昆虫細胞発現システムにおけるAAVRepタンパク質の発現のために、2つの独立したRep発現単位(Rep78について1つ及びRep52について1つ)(各々別個の昆虫細胞プロモーター、δIE1及びPolHプロモーターの制御下)を有する組み換えバキュロウイルス構築物が使用される。
【0159】
Kohlbrennerら(2005、MoI.Ther. 12:1217−25;WO2005/072364)は、Urabeらにより使用されたような2つのRepタンパク質の発現用バキュロウイルス構築物は、固有的に不安定であることを報告した。Urabeのオリジナルベクターにおける2つのRep遺伝子の回帰性配向を分割し、Rep52及びRep78を発現するための2つの別個のバキュロウイルスベクターを設計することにより、Kohlbrennerら(2005、前掲)は、ベクターの通過安定性を増加した。しかしながら、少なくとも5回通過にわたっての昆虫細胞における2つの独立したバキュロウイルスRep構築物からのRep78及びRep52の一貫した発現にも関わらず、rAAVベクターの収率は、Urabeら(2002、前掲)により設計されたオリジナルバキュロウイルスrRep構築物と比較して、5〜10倍低い。
【0160】
WO2007/148971では、Rep78及びRep52タンパク質の単一のコード配列を用いることにより、昆虫細胞においてrAAVベクター産生の安定性を顕著に向上した。ここでは、準最適開始コドンを、スキャンリボソームにより部分的にスキップされているRep78タンパク質に使用して、翻訳の開始がさらに下流でRep52タンパク質の開始コドンでも生じることを可能にしている。
【0161】
上記した改変の全ては、本明細書において用いられている方法で使用してもよい。
【0162】
本発明の昆虫細胞において、第1、第2及び第3核酸配列は、好ましくは核酸ベクター内に含まれ、ベクターは同一又は異なるベクターでよい。昆虫細胞は、3つの別個の核酸構築物(第1、第2及び第3核酸配列の各々について1つずつ)を含んでなるものでもよいし、又は昆虫細胞は、単一型核酸構築物を含んでなるものでもよいし、又は適切に分配された第1、第2及び第3核酸配列を含んでなる2つのベクター(例えば、第1核酸配列が第1ベクターに位置し、第2及び第3核酸配列が第2ベクターに位置していてもよい)を含んでなるものでもよい。
【0163】
好ましくは、第2及び第3核酸配列は、昆虫細胞における発現のための発現制御配列に作動可能に連結している。これらの発現制御配列は、少なくとも昆虫細胞において活性であるプロモーターを含む。昆虫宿主細胞において外来遺伝子を発現することについて当該技術分野において知られている技術を使用して、本発明を実施することができる。分子工学及び昆虫細胞におけるポリペプチドの発現方法は、例えば、Summers及びSmith.1986、A Manual of Methods for Baculovirus Vectors and Insect Culture Procedures(バキュロウイルスベクター及び昆虫培養手順についての方法)、Texas Agricultural Experimental Station Bull. No.7555、College Station、Tex.;Luckow.1991.In Prokopら、Cloning and Expression of Heterologous Genes in Insect Cells with Baculovirus Vectors‘ Recombinant DNA Technology and Applications(バキュロウイルスベクターの組み換えDNA技術を用いた昆虫細胞における異種の遺伝子のクローニング及び発現、並びに用途)、97−152;King、L.A.及びR.D.Possee、1992、The baculovirus expression system(バキュロウイルス発現システム)、Chapman and Hall、United Kingdom;O’Reilly、D.R.、L.K.Miller、V.A.Luckow、1992、Baculovirus Expression Vectors(バキュロウイルス発現ベクター):A Laboratory Manual、New York;W.H.Freeman及びRichardson、C.D.、1995、Baculovirus Expression Protocols(バキュロウイルス発現プロトコル)、Methods in Molecular Biology、volume39;US4,745,051;US2003148506;及びWO03/074714に記述されている。本発明による第1及び第2ヌクレオチド配列の転写に好適なプロモーターには、例えば、多面体(PoIH)、plO、p35、IE−I又はδIE−1プロモーター及び上記文献に記載されているさらなるプロモーターなどがある。哺乳動物細胞において、Rep52と比較してRep78の発現が十分ではないことが、高ベクター収率には好ましい(Liら、1997、J Virol.71:5236−43;Grimmら、1998、Hum Gene Ther. 9、2745−2760)知られているので、好ましくは、Rep78又は68タンパク質の発現を駆動するために、Rep52又は40タンパク質の発現に使用されるプロモーターよりも弱いプロモーターを使用する。例えば、より強い多面体プロモーターを、Rep52又は40タンパク質の発現に使用し、δIE1プロモーター、PoIHプロモーターよりもはるかに弱いプロモーターを、Rep78又は68タンパク質の発現を駆動するのに選択することができる。好ましくは、それぞれRep52又は40タンパク質及びRep78又は68タンパク質のためのプロモーターは、昆虫細胞において、バキュロウイルス発現を用いて、好ましくは約20〜40時間後感染、より好ましくは約30〜40時間後感染で、Rep78/68:Rep52/40モル比が1:10〜10:1、1:5〜5:1又は1:3〜3:1の範囲で産生するように選択する。Rep78とRep52のモル比は、好ましくはRep78/68及びRep52/40の共通抗原決定基を認識するモノクローナル抗体を用いるか、又はマウス抗Rep抗体(303.9、Progen、Germany;希釈比1:50)を用いて、ウエスタンブロット法により決定できる。
【0164】
好ましくは、昆虫細胞において本発明による第2及び第3ヌクレオチド配列発現のための核酸構築物は、昆虫細胞適合性ベクターである。「昆虫細胞適合性ベクター」又は「ベクター」は、昆虫又は昆虫細胞の産生形質転換又はトランスフェクションができる核酸分子である。典型的には生物学的ベクターには、プラスミド、線状核酸分子及び組み換えウイルスなどがある。昆虫細胞適合性でる限りは、いずれのベクターも用いることができる。ベクターは、昆虫細胞ゲノムに組み込んでもよいが、ベクターはエピソームでもよい。昆虫細胞におけるベクターの存在は永久的である必要はなく、過渡的エピソームベクターも含まれる。ベクターは、いずれかの公知の手段、例えば、細胞の化学処理、エレクトロポレーション又は感染により導入できる。好ましい実施態様によれは、ベクターは、バキュロウイルス、ウイルスベクター又はプラスミドである。より好ましい実施態様によれば、ベクターはバキュロウイルスである。すなわち、構築物はバキュロウイルスベクターである。バキュロウイルスベクター及びそれらの使用方法は、昆虫細胞の分子工学について上記で引用された文献に記載されている。
【0165】
昆虫細胞は、異種のタンパク質の産生に好適であるいずれかの細胞であることができる。好ましくは、昆虫細胞は、バキュロウイルスベクターの複製が可能であり、培養において維持できる。より好ましくは、昆虫細胞は、rAAVベクターを含む組み換えパルボウイルスベクターの複製が可能である。例えば、使用される細胞株は、Spodoptera frugiperda、Drosophila細胞株又は蚊細胞株由来のもの、例えば、Aedes albopictus由来細胞株であることができる。好ましい昆虫細胞又は細胞株は、バキュロウイルス感染しやすい昆虫種由来の細胞、例えば、Se301、SeIZD2109、SeUCRl、Sf9、Sf900+、Sf21、BTI−TN−5B1−4、MG−I、Tn368、HzAmI、Ha2302、Hz2E5、High Five(Invitrogen、CA、USA)及びexpresSF+(登録商標)(US6,103,526;Protein Sciences Corp.、CT、USA)である。
【0166】
本発明による方法において使用される好ましい昆虫細胞は、組み換えパルボウイルスベクターの産生用昆虫細胞である。この昆虫細胞は、さらに、上記した「第2」及び「第3」核酸配列の他に、少なくとも1つのパルボウイルス逆方向末端反復(ITR)ヌクレオチド配列及びIGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結した配列を含んでなる第1核酸構築物を含んでなる。
【0167】
組み換えパルボウイルス(rAAV)ベクターの産生用昆虫細胞に(上記した3つの核酸配列を送達するために)用いられる核酸構築物数は、本発明では限定されない。例えば、1、2、3、4、5又はそれ以上の別個の構築物を、本発明による方法による昆虫細胞においてrAAVを産生するのに用いることができる。5つの構築物を用いる場合、1つの構築物はAAV VP1をコードし、別の構築物はAAV VP2をコードし、さらに別の構築物はAAV VP3をコードし、さらに別の構築物は上記で定義したRepタンパク質をコードし、最後の構築物は少なくとも1つのAAV ITRを含んでなる。5つより少ない構築物を使用する場合、構築物は、少なくとも1つのAAV ITRと、VPl、VP2、VP3及びRepタンパク質コード配列の種々の組み合わせを含んでなることができる。
【0168】
本明細書において用いられている「パッケージング」は、ウイルスベクター、特にrAAVベクターのアセンブリー及びカプシド形成を生じる一連の細胞内現象を指す。したがって、好適なベクターを適当な条件下でパッケージング細胞株に導入するとき、ウイルス粒子に集合できる。ウイルスベクター、特にrAAVベクターのパッケージングに関連した機能は、本明細書及び当該技術分野において説明されている。
【0169】
AAVビリオンを製造する方法の工程(ii)は、パッケージング細胞からビリオンを回収することを含んでなる。このために、ウイルス含有試料を、1回以上の精製工程、例えば密度勾配分離及びクロマトグラフィーに附する
【0170】
rAAVビリオンを精製する方法の一例は、数工程を含む。第一に、rAAVビリオンで感染された複数の細胞を準備する。これらの感染細胞から、rAAVビリオンを集める。次に、これらのビリオンをイオディキサノール勾配を用いるものなどの密度勾配分離工程に附する。典型的なイオディキサノール工程勾配は、15%イオディキサノール工程、25%イオディキサノール工程、40%イオディキサノール工程及び60%イオディキサノール工程を含む。イオディキサノール工程は、さらに1M NaClを含む。ビリオン含有イオディキサノール工程では遠心分離し、得られたビリオン含有試料をイオディキサノール勾配工程から集める。次に、この試料を、クロマトグラフィー工程、例えば、イオン交換又はヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー工程に附する。
【0171】
本発明による精製方法は、AAV血清型1及び5由来のカプシド含有タンパク質を有するビリオンを精製するのに特に有用である。この理由は、これらの血清型がヘパリンカラムに結合しないからである。rAAV1及びrAAV5ビリオンを精製するために、イオディキサノール密度勾配遠心分離後にアニオン交換又はヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーをおこなう精製プロトコルを用いる。イオディキサノールは、ヒトへの注射用のX線コントラスト化合物として最初に生成されるヨード密度勾配媒体である。巨大分子を分画するのに一般的に使用される高浸透圧無機塩(CsCl)及びスクロース勾配とは異なり、イオディキサノール溶液は、全ての密度で等浸透圧とすることができる。この性質のため、イオディキサノールが分析及び下流の精製工程のための理想的な媒体である。さらに、イオディキサノールは、ベクターゲノム含有(全)カプシドから、遊離カプシドタンパク質及び空カプシドを分離する能力を有している。イオディキサノールを使用することは本発明において好ましいが、他の好適な密度勾配媒体を代りに用いてもよい。
【0172】
密度勾配遠心分離後、rAAVベクターをカラムクロマトグラフィーにより精製する。rAAVビリオンを精製できるいずれのクロマトグラフィー法も使用することができる。例えば、イオン交換クロマトグラフィーを使用できる。イオン交換クロマトグラフィーは、意図するタンパク質と、一般的にアガロース、デキストラン並びに架橋セルロース及びアガロース(帯電した基に共有結合している)などの樹脂からなるイオン交換マトリックスとの間の電荷の相互作用による方法である。荷電基は、型(カチオン及びアニオン)及び強度(強弱)により分類される。イオン交換クロマトグラフィー法では、いくつかの工程をおこなう:標的タンパク質結合に理想的なpH及びイオン条件へのカラムの平衡化、対イオン置換による試料のカラムへの可逆吸着、結合タンパク質を置換するための緩衝液のpH又はイオン強度を変化させる溶離条件の導入、及び結合強度の順序でのカラムからの物質の溶離(弱く結合したタンパク質が最初に溶離する)。イオン交換クロマトグラフィーは、小規模から大規模レベルに直接アップグレードできる。アニオン交換クロマトグラフィーは、負に帯電した樹脂が正味が正の電荷のタンパク質に結合する、イオン交換クロマトグラフィーの一種である。市販のアニオン交換樹脂としては、例えば、Pharmacia製HiTrapQ;Amersham Biosciences(Piscataway、N.J.)製MonoQ、MonoS、MiniQ、Source 15Q、30Q、Q Sepharose、DEAE、及びQ Sepharose High Performance;J.T.Baker(St.Louis、Mo.)製WP PEI、WP DEAM及びWP QUAT;Biochrom Labs(Terre Haute、Ind.)製Hydrocell DEAE及びHydrocell QA;Bio−Rad(Hercules、Calif.)製UNOsphere Q、Macro−Prep DEAE及びMacro−Prep HighQ;Ciphergen(Fremont、Calif.)製Ceramic HyperD Q、Ceramic HyperD S、Ceramic HyperD DEAE、Trisacryl M DEAE、Trisacryl LS. DEAE、Spherodex LS DEAE、QMA Spherosil、及びQMA M Spherosil;Dow Liquid Separations(Midland、Mich.)製DOWEX MONOSPHERE;Millipore(Bedford、Mass.)製Matrex Q500、Matrex A500、Matrex Q800、Matrex A800及びMatrex A200;Novagen(Madison、Wis.)製Fractogel EMD TMAE、Fractogel EMD DEAE及びFractogel EMD DMAE;Sigma−Aldrich(St.Louis、Mo.)製I型アンバーライト強アニオン交換体、II型アンバーライト強アニオン交換体、I型DOWEX強アニオン交換体、II型DOWES強アニオン交換体、I型Diaion強アニオン交換体、I型Diaion強アニオン交換体、II型Diaion強アニオン交換体、アンバーライト弱アニオン交換体及びDOWEX弱アニオン交換体;Tosoh Biosep(Montgomeryville、PA)製TSK Gel DEAE−5PW−HR、TSK Gel DEAE−5PW、TSK Gel Q−5PW−HR及びTSK Gel Q−5PW;並びにWhatman(Kent、UK)製QA52、DE23、DE32、DE51、DE52、DE53、Express−Ion D及びExpress−Ion Qなどが挙げられる。rAAV1及びrAAV5ビリオンの精製には、アニオン交換クロマトグラフィーが好ましい。
【0173】
ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーは、好適なクロマトグラフィー法の別の例である。ヒドロキシアパタイトは、結晶形態のリン酸カルシウムである。ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーの機構は、負に帯電したタンパク質カルボキシル基と樹脂の正に帯電したカルシウムイオンとの間、及び正に帯電したタンパク質アミノ基と樹脂の負に帯電したリン酸イオンとの間の非特異的相互作用を含む。市販のヒドロキシアパタイト樹脂としては、例えば、Bio−Rad(Hercules、Calif.)製Bio−Gel HT及びCHTセラミック樹脂;Calbiochem(San Diego、Calif.)製高分解能ヒドロキシアパタイト及び高速流ヒドロキシアパタイト;Ciphergen(Fremont、Calif.)製HA Ultrogel;及びSigma−Aldrich(St.Louis、Mo.)製ヒドロキシアパタイトなどがある。アニオン交換クロマトグラフィーの他に、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーを用いて、rAAV5ビリオンを精製した(図3B)。好ましいヒドロキシアパタイト樹脂の一例として、Bio−Rad、Hercules、Calif.製セラミックヒドロキシアパタイトがある。これは、過剰のリン酸塩により低結合能を克服する向上したカルシウム:リン酸塩比を有する、安定な多孔形態のヒドロキシアパタイトである。
【0174】
rAAV2ビリオンを精製するためには、ヘパリン−アガロースクロマトグラフィーが好ましい。例えば、米国特許第6,146,874号を参照されたい。
【0175】
イオディキサノール工程勾配後アフィニティーヘパリン(rAAV2を精製するため)、ヒドロキシアパタイト又はアニオン交換クロマトグラフィー(AAV1、2及び5を精製するため)を組み合わせて使用し、いくつかのウイルスの高処理量を容易にして、動物モデル及び細胞培養における形質導入効率及び特異性を直接比較できるようにする。組織培養におけるウイルスの大規模生産は、大培養表面積を有する細胞工場、例えば、プラスチックトレイを使用することにより容易になる(Nunc、ROCHESTER、N.Y.)。さらに重要なことに、Q−SepharoseによるrAAV1、2及び5ビリオンの精製により、同じ方法を用いて精製したビリオンの比較ができる。さらに、細胞工場系プロトコルにより、1×10個の細胞から精製した1×1012〜1×1013vg/mlの力価を有するビリオンストックが得られる。これらのクロマトグラフィー法は、1×1010個の細胞からのウイルスを精製するのを容易にスケールアップすることができる。
【0176】
トランスフェクションプロトコル及び精製方法を最適化することにより、細胞1個当たり100〜200感染単位(IU)が通常得られる。1×10個の細胞から調製するために、例えば、rAAVの最終収率は、約1〜5×1011IU又は約1×1012〜1×10−13ベクターゲノムである。
【0177】
また、ビリオンは、密度勾配遠心分離の不存在下でクロマトグラフィーを用いても精製される。一例として、感染細胞からの溶解物を、クロマトグラフィーに直接附してrAAVビリオンを精製する。クロマトグラフィーを含むrAAVベクターの大規模生産法については、Potterら(Methods Enzymol.、2002、346:413−430)を参照されたい。
【0178】
組み換えビリオンは、抗AAV抗体、好ましくは固定化抗体を用いたビリオンベクターのアフィニティー精製の追加の工程を実施又は含んでもよい。抗AAV抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。特に好適な抗体は、例えば、ラクダ又はラマから得ることができる単一鎖ラクダ科抗体又はその断片である(例えば、Muyldermans、2001、Biotechnol.74:277−302参照)。rAAVのアフィニティー精製用抗体は、好ましくはAAVカプシドタンパク質にエピトープを特異的に結合する抗体である。好ましくは、エピトープは、複数のAAV血清型のカプシドタンパク質に存在するエピトープである。例えば、抗体は、AAV2カプシドへの特異的結合に基づいて産生、又は選択するが、同時に、AAV1、AAV3及びAAV5カプシドに特異的に結合してもよい。
【0179】
組み換えSV40ビリオンの調製方法
別の態様によれば、本発明は、組み換えSV40ビリオンの調製方法であって、
(i)細胞と、複製欠損SV40ゲノムを含んでなるポリヌクレオチドとを接触させる工程であって、前記該ゲノムがGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、かつ肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結された配列を含んでなる発現カセットを含んでなるものであり、前記細胞が前記ポリヌクレオチドにおける複製欠損を補完するSV40遺伝子を発現するものであり、前記細胞と前記ポリヌクレオチドと接触が、前記ポリヌクレオチドが前記細胞に侵入するのに適している条件下で行われる工程と、
(ii)前記組み換えSV40ビリオンを前記細胞から回収する工程と
を含んでなる方法に関する。
【0180】
工程(i)において、細胞を、複製欠損SV40ゲノムを含んでなるポリヌクレオチドと接触させる、ここで前記ゲノムはIGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結した配列を含んでなる発現カセットを含んでなる。好ましくは、SV40ゲノムはラージT抗原をコードする領域を欠いている。
【0181】
ラージT抗原をコードする配列を欠いているが、後期プロモーターの制御下でカプシドタンパク質をコードする配列を未だ含むSV40ゲノムは、次に通常のクローニングベクターにおいて増殖できる。肝臓特異的プロモーターの制御下で導入遺伝子を、次にラージT抗原により前に占められていたクローニングベクターの領域にクローニングすることができる。ウイルスDNA配列は、クローニングベクターから切り取り、精製し、再結紮して環状DNAを形成することができる。ビリオンは、ラージT抗原を発現するパッケージング細胞に再結紮した環状ウイルスベクターDNAをトランスフェクションすることにより産生し、増幅することができる。特に好ましいパッケージング細胞は、SV40ベクターを補完することができるT抗原を構成的に発現する細胞株である。好適な細胞は、Cos−1細胞株である。しかしながら、他の細胞株を、SV40ラージT抗原用遺伝子を導入後使用することができる。
【0182】
肝臓特異的プロモーターは、上記で定義したいずれのプロモーターでもよい。好ましい実施態様によれば、肝臓特異的プロモーターは、アルブミンエンハンサー領域と、α1−アンチトリプシンのプロモーターとを含んでなるハイブリッドプロモーターである。別の好ましい実施態様によれば、肝臓特異的プロモーターは、誘発性肝臓特異的プロモーターである。
【0183】
本発明を、以下の実施例により説明するが、以下の実施例は説明の目的のみであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0184】
肝硬変におけるIGF−I(dsAAVIGF−I)をコードする二本鎖AAVベクターの効果の評価
材料及び方法
二本鎖AAVベクター構築及び産生 この検討において使用されるAAVプラスミドは、AAV2と適切なスタッファー配列からの2つのITRが横に位置する発現カセットを含んでおり、AAVゲノムのサイズを、AAVについて述べた最適なパッケージング能に調整する。導入遺伝子発現カセットは、以下の要素を有している:AAV2由来5’ITR、アルブミンエンハンサー由来調節配列を有する肝臓特異的プロモーターEalbAATp(Kramerら、2003、Mol Ther.7:375−85)、ラットIGF−I cDNA、SV40ポリアデニル化、及びAAV2由来3’ITR。二本鎖AAVベクターを精製するために、3’ITRは、McCartyら(Gene Therapy2003;10:2112−2118)により記載されているような末端分解部位を欠いていた。このAAVプラスミドを、pAAVIGF−Iと命名した。同様な構築物を、どこにでも存在し、ルシフェラーゼリポーター遺伝子(GenBank登録番号:M15077)であるPBGDプロモーターを用いて作成した。このAAVプラスミドを、pAAVLucと命名した。二本鎖dsAAV2/1ベクターを、3つの異なるプラスミドpAdDeltaF6、p5E18−VD2/8及び治療(pAAVIGF−I)又はリポーター遺伝子(pAAVLuc)(Hermensら、1999 Hum Gene Ther.10:1885−91及びGaoら2002、Proc Natl Acad Sci USA、99:11854−9)の293細胞へのリン酸カルシウム介在共トランスフェクションにより生成した。簡単に述べると、293細胞に、リン酸カルシウムによりpAdDeltaF6、p5E18−VD2/8及び標的ベクターを共トランスフェクションし、トランスフェクションしてから48時間後に、ウイルスを細胞の凍結解凍により採取した。ウイルスは、イオン交換カラムクロマトグラフィー及びイオディキサノール勾配遠心分離した後、濾過及びさらにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)−5%スクロースに対して濃縮することにより精製した。ゲノムコピー数/mlでのdsAAVIGF−Iウイルス力価を、hAATプロモーター領域の95bp断片を増幅する、プライマーpr300fw5’CCCTGTTTGCTCCTCCGATAA3’(配列番号8)pr301rv5’GTCCGTATTTAAGCAGTGGATCCA3’(配列番号9)を用いた、三重でおこなうQ−PCR、TaqMan(AppliedBiosystems)分析により決定した。タンパク質組成と純度をドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により決定した。
【0185】
肝硬変のモデル 体重180〜200gの雄のSprague−Dawleyラットに、説明されているように8週間にわたって四塩化炭素(CCl、Riedel−de Haae)を週に1回胃内投与するとともに、飲料水にフェノバルビタールを400mg/l入れることにより、肝硬を誘発した(Runyon BAら、Gastroenterology1991;100:489−493)。簡単に説明すると、最初のCCl用量は、ラット1匹あたり20μlであった。続いての用量は、最終用量の48時間後に体重変化に基づいて調整した(Runyonら、前掲)。全てのラットを、死亡するまで毎日少なくとも2回観察した。このプロトコル後では、動物の一部では明らかに腹水症となっていた。血液試料を、CClを最初に投与してから3、5及び8週間後に、眼窩後叢から採取した。血清トランスアミナーゼ(アラニンアミノトランスフェラーゼ並びにアスパラギン酸及びアルカリホスファターゼ)、アルブミン及びビリルビンを、Hitachi自動測定装置(Roche)で測定した(ABX診断法)。結果から、トランスアミナーゼが、CClを投与して8週間後に最高レベルに達したことが分かった。
【0186】
ウイルスベクターの投与 4つの実験動物群を分析した:健常なラット (n=19)、食塩水を注射した肝硬変ラット(Ci)(n=16)、dsAAVLucの3.4 x 10ウイルス粒子で処置した肝硬変ラット(Ci+Luc)(n=19)又はdsAAVIGF−Iの3.4 x 10ウイルス粒子で処置した肝硬変ラット(Ci+IGF−I)(n=23)。肝動脈に注射することにより、ベクターを投与した。ベクター投与後、4日後(健常n=5、Ci n=4、Ci+Luc n=4、Ci+IGF−I n=6)、2週間後(健常n=4、Ci n=3、Ci+Luc n=5、Ci+IGF−I n=6)、8週間後(健常n=5、Ci n=4、Ci+Luc n=5、Ci+IGF−I n=5)、16週間後(健常n=5、Ci n=5、Ci+Luc n=5、Ci+IGF−I n=6)又は1年後(健常n=3、食塩水n=4、Ci+AAVLuc n=2、Ci+IGF−I n=4)に犠牲死した。また、健常なラットも、対照として犠牲死した。SVIGF−Iの1011ウイルス粒子で処置し、CClの最終投与してから4日後及び8週間後に犠牲死した動物も、陽性対照として含め、補足情報に含める。血液試料を、犠牲死前に採取し、上記したようにして分析した。肝臓試料を、組織学的分析並びにさらなる分析のためのRNA及びタンパク質の精製のために処理した。
【0187】
血清マーカー及び血清中IGF−Iの分析 血清トランスアミナーゼ(アラニンアミノトランスフェラーゼ並びにアスパラギン酸及びアルカリフォスファターゼ)、アルブミン及びビリルビンを、Hitachi自動分析装置(Roche)で測定した(ABX診断法)。血清中のIGF−Iを、ELISAによりOCTEIAラット/マウスIGF−I(IDS)で定量化した。
【0188】
肝組織学び免疫組織化学 肝臓コラーゲン含量を評価し、説明されているようにして定量化した(Vera M.ら、Gene Ther.2007;14:203−210)。α−平滑筋アクチン(αSMA)のための免疫組織化学染色を1:100又は1:400で希釈した抗体1A4(M0851、Dako)を用い、Ki−67については1:50で希釈した抗体SP6(RM−9106、NeoMarkers)を用いておこなった。
【0189】
肝臓タンパク質及びRNA分析。総肝臓IGF−I(OCTEIAラット/マウスIGF−I、生体外)を、ELISAにより肝臓抽出物で測定した。HGF(Institute of immunology Co、Ldt)、MMP2(Matrix Metalloproteinase−2 Activity Assay Biotrak System)及びMMP9(Matrix Metalloproteinase−9 Activity Assay Biotrak System)を、ELISAにより肝臓抽出物で測定した。
【0190】
総MMP活性も、肝臓抽出物で、蛍光発生ペプチド基質(Mca−Pro−Leu−Gly−Leu−Dpa−Ala−Arg−NH2;R&D systems)(Knight CGら FEBS Lett.1992;296:263−266)を用いて測定した。組み換えヒトMMP−2(Calbiochem)を、陽性対照として使用した。
【0191】
総RNAを、先に述べたようにして抽出した(Veraら、前掲)。qRT−PCRを、表1に示すプライマーを用いて、説明されているようにしておこなった(Veraら、前掲)。
【0192】
【表1】

【0193】
肝細胞の単離 肝細胞を、プロナーゼ及びリベラーゼ(星細胞、クッパー細胞及び内皮細胞を単離するため)でのかんりゅう、及びコラゲナーゼ(肝細胞を単離するため)でのかんりゅう後に単離した(Wang SRらIn Vitro Cell Dev Biol.1985;21:526−530)。肝細胞を単離するために、肝細胞を500rpmで4分間4℃で遠心分離した。肝細胞ペレットを無血清William培地で2回洗浄し、500rpmで2分間、4℃で遠心分離した。細胞生存率が70%未満であるとき、生存肝細胞を80%パーコール勾配で精製した。星細胞、クッパー細胞及び内皮細胞を単離するため、肝細胞をまず50gで5分間、4℃で遠心分離後に捨てた。上清を、3回無血清DMEM−F12中、450gで7分間、4℃で遠心分離することにより洗浄した。次に、細胞を、Nycodenz勾配で、1450gで20分間、4℃で分離した。肝星細胞を、勾配の上層から除去し、DMEMで洗浄し、450gで5分間、4℃で遠心分離した。クッパー細胞及び内皮細胞を、Nicodenz勾配の相間から回収し、無血清DMEMで洗浄した。
【0194】
統計分析 データを、平均±標準偏差として表した。統計的有意性を、スチューデントt検定で推定した。<0.05のP値は、有意であるとみなした(*)。全ての統計分析を、SPSS v11.0(SPSS Inc)を用いて実施した。
【0195】
実施例1 肝硬変のモデルの分析
血液試料を、CClを最初に投与してから8、16、25及び33週後に眼窩後叢から採取した(図1A)。血清トランスアミナーゼ(アラニンアミノトランスフェラーゼ並びにアスパラギン酸及びアルカリフォスェート)、アルブミン及びビリルビンを、Hitachi自動分析装置(Roche)で測定した(ABX診断法)。結果から、CClを投与してから8週間後にトランスアミナーゼは最高レベルに達したことが明らかである(図1B)。次に、トランスアミナーゼが減少したが、レベルはCClを投与してから33週間後であっても、健常動物よりも高かった(図1B)。ビリルビンでも同じ結果が得られた(データを図示せず)。また、アルブミンレベルが、CClを投与してから8週間後に減少し、プロトコルを開始してから33週間後、健常対照より低いままであった(データは図示せず)。
【0196】
動物を、CClを最初に投与してから16、21又は33週間後に犠牲死した(図1A)。肝臓試料を、4%パラホルムアルデヒドに固定し、パラフィン包埋し、ヘマトキシリンエオシンで染色して、肝臓の形態を評価した(データは図示せず)。肝臓のコラーゲン含量を、Siriusレッド染色により評価し、画像解析(AnalySIS 3.1、Soft Imaging System)(Veraら、前掲)により記録した。肝線維症は、プロトコルを開始してから16週間後で明らかとなり、プロトコルを開始してから21週間及び33週間後維持されていた(図1C及び図1D)。同様のレベルが、全ての場合において、Siriusレッド染色の定量化により示すように観察された(図1D)。種々の試料において、実質結節のサイズにおいては有意な変化は観察されなかった。
【0197】
実施例2 硬変した肝臓へのIGF−I遺伝子導入
ラットの硬変した肝臓におけるIGF−I効果を評価するために、肝硬変をCClで8週間誘発した(図2)。肝硬変ラットを、動脈内投与により、食塩水で処置するか、又はルシフェラーゼ(dsAAVLuc)又はIGF−I(dsAAVIGF−I)をコードする組み換え二本鎖アデノ関連(dsAAV)ベクターで処置した。本発明者らは、dsAAVLucでの先におこなわれた実験でベクターの動脈内注射後に良好な発現レベルを示したので、このルートを選択した。また、肝動脈へのカテーテル法でのこのルートが、患者において使用される最も適当な手順と思われる。処置した動物を、ウイルスを注射してから4日、2週間、8週間、16週間及び1年後に犠牲死した。また、健常なラットを対照として犠牲死した。
【0198】
ラットの肝臓におけるdsAAVIGF−Iからの遺伝子導入発現を評価するために、本発明者らは、肝臓におけるIGF−I及び全ての群からの血清試料のqRT−PCR及びELISAをおこなった。予測したように、IGF−IのmRNA及びタンパク質レベルの両方が、Ci+IGF−I群において顕著に増加し、健常なラットと比較して、対照の硬変した肝臓で減少した(Ci及びCi+Luc)(図3A及び3B)。説明したように、IGF−Iが、CClの最終用量を投与してから4日後に、健常対照と比較して肝硬変動物における血清において減少した。しかしながら、肝硬変動物及び健常動物におけるIGF−Iレベルは、肝臓毒物質を最終投与してから2週間後も同様であった。dsAAVIGF−I投与は、いずれの分析時間でも血清においてIGF−Iの増加を生じなかった(図3C)。まとめると、これらのデータは、dsAAVIGF−Iベクターは、硬変した肝臓に形質導入でき、そして肝臓に保持するIGF−Iタンパク質を発現することができたことを示している。IGF−IBP3 mRNAレベルを、肝臓抽出物で、qRT−PCRにより評価した(図3D)。結果から、IGF−Iは対照と比較してdsAAVIGF−Iで処置した動物で増加することが明らかである。発現したIGF−Iは、IGF−IBP3の発現を活性化できるので活性である。IGF−I及びIGF−IBP3のレベルの増加は、dsAAVIGF−Iを注射してから1年後でも検出できる。しかしながら、これらの因子のレベルは、ベクター投与後のもっと早い時期で観察されるよりも低い。
【0199】
実施例3 硬変した肝臓へのIGF−I遺伝子導入により肝機能が改善され、肝線維症が著しく減少する
dsAAVIGF−Iで処置した肝硬変ラットは、生化学的肝臓検査で顕著な改善を示した:血清AST、ALT、ALP及びビリルビンは、対照肝硬変ラットにおけるよりも顕著に低く、健常対照とは同様であった(図4A〜B)。また、血清アルブミンが、Ci及びCi+Luc動物と比較してCi+IGF−Iラットにおいて顕著に増加し、健常対照と同様なレベルに到達した(図4C)。これらの変化は、ベクターを投与してから2週間後から顕著である。
【0200】
これらの知見は、組織学的な著しい改善を伴うものであり、dsAAVIGF−I処置ラットにおける線維症を著しく減少するとともに、肝硬変が解消した(図5A)。線維症の定量化並びにqRT−PCRによるコラーゲンI及びIV mRNA発現の測定により、肝硬変対照と比較して、dsAAVIGF−I処置動物において線維症が減少したことが確認された(図5B〜D)。線維症の減少はベクターを投与してから2週間後から顕著であり、処置の16週間後には、線維症が解消し、健常肝臓となる。さらに、ベクターを投与してから1年後に肝臓を病理組織学的分析したところ、肝硬変がなかった。このことは、肝硬変が、肝臓毒物質を最終用量投与してから1年後に肝硬変対照においてでさえ退縮することを示している。肝臓切片をSiriusレッド染色ところ、肝硬変対照において多少の線維性病変を示した。Siriusレッド染色を定量化したところ、肝硬変対照が、健常動物又はdsAAVIGF−Iで処置した動物よりもより多くの線維症を示すことが分かった(図5B)。驚くことではないが、コラーゲンI及びIV mRNAのレベルは、全ての実験群において、1年後同様である(図5C及び5D)。
【0201】
さらに、(データを図示せず)完全解剖と完全組織学的分析を、ベクターを投与してから1年後に動物の一部において実施した。結果から、dsAAVIGF−Iで処置した動物は、健常なラット又は肝硬変対照と顕著な差はないことが明らかである。
【0202】
実施例4 硬変した肝臓内のIGF−I遺伝子発現はフィブロリシスを誘発する
IGF−Iを投与した動物で観察される肝硬変の実質的な解消には、MMPなどのコラーゲンを除去することができる酵素の活性化が必要であろう。MMP活性を測定するため機能アッセイを用いて、本発明者らは、Ci群及びCi+Luc群からの肝臓抽出物において、MMP活性が健常対照と比較して減少したことを見出した(図6A)。これに対して、IGF−I処置動物におけるMMP活性は、健常動物におけるよりも顕著に高かった(図6A)。MMP活性は、dsAAVIGF−Iを投与した肝臓におけるMMP1、2、9及び14 mRNA並びにMMP2及びMMP9タンパク質の発現の顕著な増加と相関していた(図6B〜G)。MMP発現の活性化及びdsAAVIGF−I処置動物における活性は、ベクターを投与してから2週間後から検出される。検討の終わりに、MMP1、MMP2、MMP9及びMMP14は、全ての群において同様なレベルを示した(図6B〜G)。これとは反対に、IGF−I処置動物は、ベクターを投与してから2週間後に最高のMMPレベルを示す。次に、レベルは減少し、検討の終わりでは、健常動物及び肝硬変対照と同様なレベルに到達する。
【0203】
MMPのインヒビターであるTIMP−2も、検討の終わりで、全ての群において同様なレベルを示す(図6E)。TIMP−2レベルは、健常動物において一定であり、全ての肝硬変群において経時的に減少した。IGF−I処置動物は、肝硬変対照よりも早い減少を示すが、検討の終わりでは、肝硬変対照と同様なレベルを示す。
【0204】
実施例5 硬変した肝臓内でのIGF−I遺伝子発現は、プロフィブロジェニック因子の発現を減少させる
線維症は、活性化HSCの減少からも減少できるであろう。したがって、肝臓試料の免疫組織化学分析から、αSMA(HSC活性化のマーカー)の発現は、IGF−I処置動物ではほとんどなかったが、対照肝硬変動物(Ci及びCi+Luc)における結節を包囲している隔膜においては明らかに発現していた(図7A)。この観察にしたがって、本発明者らは、IGF−I処置肝臓においてαSMA mRNAレベルが顕著に減少することを見出した(図7B)。このことは、IGF−I療法が、活性化HSCを減少することができたことを示している。驚くべきことに、活性化HSCの減少は、ベクターを投与した4日後には検出される。
【0205】
ベクターを投与してから1年後に、肝硬変対照において、健常動物及びIGF−I処置動物と比較して、αSMA mRNAレベルのわずかな増加が、未だ検出される。このときに、ベクター投与後、本発明者らは、Ci+IGF−IラットのTGFβ発現が減少することも見出した(図7C〜E)。TGFβは、HSCの強力な活性剤であり且つ肝線維症の最も効力のある促進剤であるので、IGF−I遺伝子療法によるダウンレギュレーションは、処置の抗線維形成効果の根底にある主要な要因である可能性がある。TGFβ mRNAとタンパク質の減少は、肝臓において(図7C及び7D)だけでなく、血清においても(図7E)検出できる。TGFβの他に、HSC増殖を促進し、肝線維症の一因となる他の分子、例えば、結合組織成長因子(CTGF)、血小板由来成長因子(PDGF)血管内皮成長因子(VEGF)及びアンフィレギュリン(AR)を、対照の硬変した肝臓においてアップレギュレーションしたが、対照肝硬変ラットと比較して、dsAAVIGF−Iで処置してものにおいて著しく抑制された(図7F〜I)。損傷及び炎症の他のマーカー、例えば、IL6及びTNFαも、対照肝硬変ラットと比較してdsAAVIGF−Iにおいて減少する(図7J及び7K)。これらのマーカーの多くは、ベクターを投与してから4日後に顕著に減少する。これらの因子のレベルは、健常動物において、評価した全ての時間で同様であった。肝硬変動物において、レベルは、経時的に減少した。IGF−I処置動物は、肝硬変対照よりも早く減少したが、検討の終わりでは、肝硬変対照と同様のレベルであった。
【0206】
実施例6 硬変した肝臓内のIGF−I遺伝子発現は、抗線維形成及び肝臓保護因子の発現を増加し、増殖を刺激しない
これらの変化とともに、本発明者らは、対照動物と比較して、Ci+IGF−Iラットの肝臓において肝細胞成長因子(HGF)の発現が顕著に増加することを見出した(図8A)。HGFは強力な抗線維形成活性を示すので、この分子のアップレギュレーションは、IGF−I処置ラットで観察される肝硬変の解消の一因となる可能性がある。また、HGFは、肝臓保護因子として作用し、HNF4αとともに、肝細胞分化のためのマーカーとして作用する。また、HNF4αは、ベクターを投与してから4日後にdsAAVIGF−I処置動物においてアップレギュレーションされる(図8B)。逆に、肝細胞分化のマーカーであるWT−1は、処置動物で減少する(図8C)。最後に、IGF−Iが成長因子であるにもかかわらず、PCNA発現及びKi67染色の定量化により測定された細胞増殖も、dsAAVIGF−I処置動物では減少する(図9A及び9B)。検討の終わりでは、HNF4a、WT−1及びPCNAレベルは、全ての実験群で同様であった。しかしながら、IGF−Iの存在下におけるHGFの増加は、IGF−Iベクターを投与してから1年後でもまだ検出される。
【0207】
実施例7 dsAAVIGF−IとSVIGF−Iとの間の比較
肝硬変におけるSVIGF−Iの効果を独立的に検討するか(Veraら、前掲)又はdsAAVIGF−Iと並列で検討した。2つの独立した検討を、再現性のある結果を示したIGF−Iの唯一の源としてSVIGF−Iを用いて実施した。これらの結果は、SVIGF−IをdsAAVIGF−Iと並列で分析したときにに得られたものと極めて類似している。この最後の場合、SVIGF−Iは、ベクターを投与してから4日及び8週間後にのみ分析した。一般的に、dsAAVIGF−IとSVIGF−Iの両方は、肝硬変を解消する。どちらかのベクターを用いて、肝機能を回復させ、同様のトランスアミナーゼ、ビリルビン及びアルブミンレベルを生じる(データは図示せず)。トランスアミナーゼ及びビリルビンは、SVIGF−Iで、dsAAVIGF−Iでよりもわずかに高いが、差は顕著ではない(データは図示せず)。しかしながら、肝線維症は、ベクターを投与してから8週間後では、SVIGF−I処置動物において、dsAAVIGF−Iで処置したラットにおいてよりも、顕著に高い(図10)。他に、線維症は、dsAAVIGF−Iベクターを投与してから16週間後に消失した。この減少は、動物を、ベクターを投与してから25週間後に分析したときにSVIGF−I処置動物において観察されなかった(図10B)。同様の差が、コラーゲンI及びIV mRNAを測定することこにより観察される(上記図10C及び10D)。
【0208】
SVIGF−Iに対してdsAAVIGF−Iの効率が高い理由はまだ明らかでない。IGF−Iの発現レベルは、SVIGF−I処置動物とdsAAVIGF−I処置動物の両方で増加し(図11)、SV40から発現したIGF−Iは、IGF−IBP3の発現を活性化するので、活性である(データは図示せず)。しかしながら、dsAAVIGF−I投与により、ベクターを投与してから種々の時間で、SVIGF−I注射よりもIGF−Iの発現レベルが高くなる(図11)。IGF−I発現におけるこれらの差は、dsAAVIGF−I処置動物及びSVIGF−I処置動物において、ベクターを投与してから4日間又は8週間で、異なるMMP活性を生じることはない(データは図示せず)。ELISAにより測定されるMMP2及びMMP9の量又はqRT−PCRにより測定されるMMP1、MMP2、MMP9及びMMP14 mRNAのレベルは、dsAAVIGF−I又はSVIGF−Iで処置した動物から単離した肝臓抽出物において同様である(データは図示せず)。しかしながら、dsAAVIGF−I処置により、ベクターを投与してから4日後のαSMAタンパク質及びmRNAレベルが減少し、一方、SVIGF−Iは肝硬変対照と同様なレベルを示す(図12)。dsAAVIGF−I動物で観察される活性化HSCの減少は、SVIGF−I投与ラットと比較して、これらの動物におけるプロフィブロジェニック因子のより大きな減少と相関している。したがって、TGFβ、CTGF及びVEGFは、dsAAVIGF−I処置動物において、ベクターを投与してから4日後に、SVIGF−I処置ラット及び肝硬変対照と比較して減少した(図13)。また、HGF及びHNF4αなどの肝臓保護因子は、対照又はSVIGF−I投与と比較して、dsAAVIGF−Iを送達してから4日後に増加した(図14)。Ki67染色の定量化により検出したとき、dsAAVIGF−I処置動物とSVIGF−I処置動物との間では、増殖において顕著な差は観察されなかった(データは図示せず)。
【0209】
実施例8 処置してから1年後のdsAAVIGF−I処置動物の毒物分析
dsAAVIGF−I、dsAAVLuc又は食塩水で処置した肝硬変動物と、健常動物とを比較することにり、評価をおこなった。
【0210】
ウイルスを注射してから1年後に犠牲死した動物を解剖した。血液を採取して、いくつかのパラメータを評価した。腎臓、肺、小腸、肝臓、脳、小脳、骨格筋、睾丸、脾臓、胃、骨髄、リンパ節、胸腺及び心臓を、病理組織学的分析により評価した。
【0211】
脾臓、心臓、睾丸、腎臓及び肝臓の相対的重さは、検討した実験群の間では顕著な差を示さなかった。
【0212】
尿を、犠牲死する24時間前に、代謝ケージにおける全ての動物から採取した。密度、pH、色及び濁度などいくつかのパラメータ並びにケトン体、グルコース、ビリルビン、タンパク質及びウロビリノーゲンを含む分子を評価した。尿中の赤血球及び白血球の存在も、定量化した。結果から、全ての実験群間の全てのこれらのパラメータにおいて有意な差を示さない。一部の定量化においてでさえ、得られた値はばらつきが大きい。
【0213】
血清を使用して、赤血球細胞、血小板、白血球細胞、好中球、リンパ球、単球、好酸球及び好塩基球を定量化した。単球、好酸球及び好塩基球は、全ての実験群間で同様な値を示した。このことは、群の一部についてのばらつきが大きい場合であっても、赤血球細胞、血小板、白血球細胞及びリンパ球についても同様のことが言える。好中球の量は、健常動物及びdsAAVLucで処置した肝硬変動物おいて同様であったが、dsAAVIGF−Iで処置した動物においてよりも低かった。
【0214】
造血細胞のいくつかの特性を分析した。これらには、ヘモグロビン(HGB)、ヘマトクリット(HCT)、総濃厚赤血球細胞数を総赤血球細胞(MCV)数により割ることにより算出される平均血球体積、赤血球細胞内の酸素担持ヘモグロビンの平均量の計算値である平均血球ヘモグロビン(MCH)及び平均細胞ヘモグロビン濃度(MCHC)などがある。これらのパラメータでは、値のばらつきが小さく、全ての実験群間での有意な差はなかった。
【0215】
全ての実験群間に有意の差がないことは、ベクターを投与してから1年後に、トランスアミナーゼ、ビリルビン及びアルブミンについて観察された。さらに、いくつかのパラメータを、ベクターを投与してから1年後に血清において分析した(データは図示せず)。クレアチンフォスフォキナーゼ、トリグリセリド、ナトリウム、クロラム、クレアチニン、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びプロトロンビン時間などのこれらのパラメータのほとんどは、全ての実験群間での値のばらつきが小さく、極めて類似しており、統計分析では、差は有意ではなかった。全ての実験群間での差が有意ではないことは、トランスアミナーゼ及びLDHについても観察されたが、これらの場合においては、ばらつきが大きかった。差が有意でない同様の結果が総タンパク質、グルコース、リン及びTCAについて観察されたが、これらのパラメータはdsAAVIGF−I処置動物においてわずかに増加した(総タンパク質及びTCA)又は減少した(グルコース及びリン)。
【0216】
上記で示したように、肝臓の病理組織学的分析では、肝硬変を示さなかった。このことは、肝硬変が、肝臓毒物質の最終用量投与をしてから1年後に肝硬変対照においてであっても退縮することを示している。肝臓切片のSiriusレッド染色から、肝硬変対照において多少の線維形成病変が明らかとなった。Siriusレッド染色の定量化から、肝硬変対照が、健常動物又はdsAAVIGF−Iで処置した動物よりも線維症の程度が大きかったことがわかる。しかしながら、線維化対照における線維症の百分率は、より早い時点で15%であり、肝臓毒物質の最終用量投与と処理してから1年後に、約5%まで減少した。驚くことではないが、コラーゲンI及びIV mRNAのレベルは、全ての実験群で同様である。
【0217】
腎臓、肺、小腸、肝臓、脳、小脳、骨格筋、睾丸、脾臓、胃、骨髄、リンパ節、胸腺及び心臓を、病理組織学的分析により評価した。睾丸、胸腺、脳及び小脳、骨髄、リンパ節並びに胃は、顕著な組織病理学的変化を示さなかった。一部の肝硬変対照は、健常又はdsAAVIGF−I処置動物においては観察されなかった心臓、筋肉及び脾臓において変更を示した。dsAAVIGF−I処置動物で観察された全ての変更は、対照動物においても観察された。例外は、腎臓、肺、肝臓及び小腸だけであった。半分又は半分より少ない数の動物が、肺気管支における出血、軽実質性炎症及び肝臓における小領域の壊死又は小腸のパイアー斑におけるリンパ球の減少を示す。dsAAVIGF−I処置動物の腎臓において、より大きな程度の変更が観察された。半分又は半分より少ない数の動物が、糸球体サイズの増加、ボーマン嚢への時折のアシドフィルス菌の含有、腎炎又は再生糸球体周囲の増殖を示した。全ての動物は、おそらく血清におけるGGTレベルの増加の一因である多少の尿細管壊死を示した。外因性肝臓IGF−I発現を観察された変更と相関することは困難である。この結果が統計的に有意であり関連性があるかどうかをみきわめるには、より多くの動物を評価する必要がある。
【0218】
結論として、1年間外因性肝臓IGF−Iを発現する肝硬変動物は、健常及び肝硬変対照と類似している。分析されたほとんどの血清及び尿パラメータ及び組織病理学的検討によれば、AAVIGF−I処置動物と対照との間には再現性のある有意な差がない。しかしながら、GGTの血清レベルなどのあるパラメータ及び腎臓における組織病理学的変化は、臨床試験の前の毒物学的検討においてより大きな群で再評価される必要がある。
【0219】
興味深いことに、IGF−I発現は、dsAAVIGF−Iを投与してから1年後にもまだ検出されることができる。IGF−I発現は、健常動物において観察されるように、IGFIBP3及びHGFレベルの増加と相関している。しかしながら、この時点では、メタロプロテイナーゼ、炎症及びプロフィブロジェニック因子の変化は検出されない。
【0220】
肝硬変におけるIGF−I(ssAAVIGF−I)をコードする一本鎖AAVベクターの効果の評価
材料及び方法
一本鎖AAVベクターの構築及び製造
AAV2のゲノムを使用し、ウイルスをAAV1で偽型化した。ssAAVベクターは、遺伝子構造において、IGF−Iベクターのものと同一のa1ATプロモーターを有するルシフェラーゼカセットを除いて、dsAAVベクター(上記した)と同一である。さらに、発現カセットの5’及び3’ITR隣接領域は、AAV2野生型である。
【0221】
プラスミドpVD204の構築 pVD204を生成するために、IGF−I遺伝子配列を、Accuprime(商標)pfxDNAポリメラーゼキット(Stratagene;参照番号12344−024)を用いて、PCRクローニングをおこなった。遺伝子配列の増幅に使用したプライマーは、前方向プライマー373(5’−GGTACCATGTCGTCTTCACATCTC−3’)(配列番号:56)及び後方向プライマー374(5’−GCGGCCGCGAATGTTTACTT−3’)(配列番号:57)であった。プライマー373は、5’側にKpnI部位を含み、プライマー374は5’側にNotI部位を含む。鋳型プラスミドscAAV−IGF1(外部から得られる)を、増幅に使用した。PCR産物を、1%アガロースゲルで視覚化し、直接使用してPCR産物を、Zero Blunt(登録商標)TOPO(登録商標)PCRクローニングキット(Invitrogen)からのpCR(登録商標)II−Blunt−TOPO(登録商標)ベクターに結紮した。結紮反応後、組み換えTOPOベクターをStablIII細胞に導入して化学的形質転換をおこない、カナマイシンLB−アガープレートで一晩増殖させた。次の日に、6つの単一コロニーを選び、直接コロニーPCRに使用して、組み換えTOPO−IGFベクターを担持している株のスクリーニングをおこなった。このPCRのために、Multiplex PCRキット(QIAGEN)及びプライマー373及び374を使用して、TOPOベクター内のPCR産物の存在について検証した。次に、1つの陽性コロニーを選択し、カナマイシンを含有するLB培地250mlにおいて一晩増殖させた。Maxiprepをおこなった後、単離したTOPO−IGFプラスミド20μgをNotI100単位で切断し、pVD158 20μgをNheI100単位で切断した。80℃で20分間熱不活性化した後、両方の線状化構築物を、Klenow 4μL添加することにより平滑末端とした。大断片(Westburg)を、両反応に添加し、25℃で15分間、インキュベーションした。EDTA(100μM)20μLを添加し、20分間、75℃で熱不活性化した後、両方の反応でのDNA単離を、Qiaquick PCR精製キットを用いておこなって、線状TOPO−IGF 11.4μg及び線状pVD157 7.2μgを得た。次に、第二の消化反応を、TOPO−IGF 11.4μg及びpVD157 7.2μgをKpnI100単位で切断することによりおこなった。断片の分離をアガロースゲル電気泳動(1.0%)によりおこない、TOPO−IGFベクターから600bpインサート断片、及び10900bp pVD157ベクター断片を、QiaQuickゲル抽出キットを用いてゲルから単離した。ベクター及びインサートDNAの結紮を、3:1ベクター/インサートモル比に基づく迅速結紮(NEB)を用いることによりおこなった。室温で15分間のインキュベーションをおこなった後、化学的コンピテントSUREII細胞(Stratagene)に導入して形質転換することを、業者のマニュアルに記載されているようにしておこなった。2つの陽性コロニーを選択し、コロニーPCRによりスクリーニングした。次に、陽性クローンを、増幅し、大量調製して、−20℃で保存した。
【0222】
バキュロウイルスストックの生成 バキュロウイルスストックを、バキュロウイルス発現システムを用いて製造する:標的プラスミドpVD204には、セルフェクチンを用いて、線状化バキュロウイルスゲノムDNAが導入され、S.frugiperda Sf9昆虫細胞に共トランスフェクションされる。ここで、意図する配列は、相同的組み換えを介してバキュロウイルスゲノムに移入させる。生成された組み換えバキュロウイルスは、標準プラークアッセイ法を用いて同定し、精製した。うまく単離されたウイルスプラークを選び、それを使用して、昆虫細胞の培養を次第に大きくし、P2以上に到達させ、感染させてウイルスストックを作成し、−170℃で保存した。これらのストックを、挿入したDNAの安定性及び野生型バキュロウイルス不純物の存在についてスクリーニングした。rAAVの産生のために、3つの異なるバキュロウイルスストックを使用する:1)AAV2−Rep78/52発現カセットを採取するバキュロウイルス;Bac.Rep、2)AAV−Cap血清型1発現カセットを採取するバキュロウイルス;Bac.Cap、及び3)AAV2 ITRが横に位置するベクターゲノムを提示し、AAV粒子にパッケージングされるバキュロウイルス(Bac.VD204)。
【0223】
1L rAAV産生のためのバキュロウイルスの増幅 凍結したバキュロウイルスストックを37℃で解凍した後、1.7x10Sf9細胞培養液に添加する(細胞培養液1mL当たり3μL)。72±5時間後、感染懸濁液を、1900Gで15分間遠沈させることにより採取する。上清を、単離し、使用するまで暗所に、4℃で保存する。rAAV 1.0L産生のために、3つのバキュロウイルス増幅を準備し、等量のBac.Rep P5;Bac.Cap P5及びBac.VD204 P3を、産生細胞に投与した。
【0224】
rAAVの産生 各々Sf9培養液400mL(1.0x10細胞)を入れた2つのシェーカーを、感染させる20時間前に起動する。感染の日に、細胞密度を監視すると、2.0x10細胞/mLであり、生存率が98%超である。採取したバキュロウイルス(Bac.Rep、Bac.Cap(AAV1ウイルスタンパク質)及びBac.VD204(AAV−IGF1発現カセット))を、シェーカーの培養液に添加した。72±5時間後、各シェーカーフラスコに(10X)Tris−Lysis緩衝液45mLを添加することにより、rAAVを採取する。28℃で1時間のインキュベーションをおこなった後、ベンゾナーゼ4000単位を、各シェーカーに添加し、シェーカーインキュベーター中、37℃、128rpmで1時間インキュベーションする。
【0225】
rAAVの精製:粗製溶解バルクを3000gで遠心分離し、上清をMillipak60フィルター(Millipore)を用いて濾過した(0.45μm)。アフィニティークロマトグラフィーを、5mL床容積のAVBセファロース高速アフィニティー媒体を充填した、XK−16カラムを備えたAKTA−Explorerクロマトグラフィーシステム(これらは、全てGE healthcare製、Piscataway、NJ)を用いておこなった。処理に続いて、溶離画分(約50ml)を、25mL [0.1]Tris−HCL(pH7.5)が入った容器に集めた。続いて、緩衝液交換を、交差流ダイアフィルトレーションモジュールを用いておこなった。溶離液をダイアフィルトレーションし、0.22μM濾過した。産物を−80℃で凍結保存した。
【0226】
肝硬変のモデル 肝硬変を、上記したdsAAVIGF−Iの検討のようにして、雄のSprague−Dawleyラットに、CClを1週間に1回、8週間にわたって胃内投与して誘発させた。
【0227】
ウイルスベクターの投与 健常動物を未処置(健常)にするか、又は肝硬変を誘発するのに使用した。食塩水で処置した健常なラット群(健常)及び肝硬変未処置ラット(Ci)も、対照に含めた。肝硬変の誘発の終わりから1週間後、肝硬変動物を、以下のもので処置した:
−食塩水(Ci);
−用量9.7x10vp/ラット(極低用量)、4.8x1010vp/ラット(低用量)、2.4x1011vp/ラット(中用量)、あるいは1.2×1012vp/ラット(高用量)でのルシフェラーゼ(ssAAV−Luc)をコードする組み換え一本鎖アデノ関連ウイルスベクター(ssAAV);
−この場合も9.7x10vp/ラット(極低用量)、4.8x1010vp/ラット(低用量)、2.4x1011vp/ラット(中用量)、あるいは1.2x1012vp/ラット(高用量)での、IGF−Iをコードする組み換えssAAV(ssAAVIGF−I);
−用量3.4x10vp/ラットでの、ルシフェラーゼをコードする二本鎖アデノ関連ウイルスベクター(dsAAV)(dsAAVLuc);又は
−用量3.4x10vp/ラットでの、IGF−IをコードするdsAAV(dsAAVIGF−I)。
【0228】
処置のために、動脈内投与ルートを選択した。dsAAVLucを用いた先の実験では、動脈内注射をおこなったときに、良好な発現レベルが得られた。おそらく、肝動脈のカテーテル法による投与も、患者に使用するのに最も適当な方法である。
【0229】
血清タンパク質及び因子の生化学的分析のための血液試料を、感染(処置)してから、4日、2週間、3週間、4週間、8週間、12週間及び1年後に採取した。dsAAVIGF−I又は中用量のssAAVLucで処置した一部の動物(n=4)を、2カ月間評価した後、犠牲死して種々の集団の肝臓細胞を単離し、ルシフェラーゼ発現を測定した。感染後の種々の時間で、一部の動物を選択し、犠牲死し、肝臓試料を採取して評価した:
ベクターを投与してから、
−4日後(健常n=4、食塩水n=4、dsAAVLuc n=4、dsAAVIGF−I n=5、ssAAVLuc、高用量n=4、中用量n=4、低用量n=4及び極低用量n=4並びにssAAVIGF−I、高用量n=6、中用量n=5、低用量n=4及び極低用量n =5);
−8週間後(健常n=5、食塩水n=4、dsAAVLuc n=3、dsAAVIGF −I n=6、ssAAVLuc、高用量n=5、中用量n=4、低用量n=6及び極低用量n=6並びにssAAVIGF−I、高用量n=6、中用量n=4、低用量n=6及び極低用量n=6);
−16週間後(健常n=6、食塩水n=6、ssAAVLuc低用量n=6、ssAAVIGF−I低用量n=6);並びに
−1年後(健常n=4、食塩水n=4、ssAAVLuc高用量n=4、ssAAVIGF−I高用量n=6)。
【0230】
全ての手順及び分析方法は、dsAAVIGF−Iの効果の評価について述べたようにしておこなった。
【0231】
実施例9 硬変した肝臓へのIGF−I遺伝子の移入
ベクターを接種してから4日、8週間後に、qRT−PCRにより、肝臓抽出物で評価した(図15A)。より低用量のssAAVLuc及びssAVVIGF−Iでの処置については、IGF−I mRNAを、さらにベクターを投与してから16週間後に評価した(図15C)。ベクターを投与してから4日及び8週間後に、総肝臓IGF−Iタンパク質を、ELISAにより評価した(図15B)。
【0232】
得られた結果から、IGF−I mRNAは、健常対照と比較して、肝硬変動物で減少したことが分かった。IGF−Iレベルは、健常及び肝硬変対照と比較して、IGF−I処置動物(ssAAVIGF−I又はdsAAVIGF−I)で増加した。IGF−Iレベルの増加は、IGF−I発現ベクターを投与してから4日後には既に明らかであった。次に、IGF−Iタンパク質レベルが、AAVIGF−Iを投与しから8週間後に増加し、検討の終わりまで一定のまま維持した。また、より高用量のssAAVIGF−Iを使用したときには、より高レベルのIGF−Iが観察された。
【0233】
IGF−Iを、ベクターを投与してから4日、2週間及び8週間後に血清において評価した。結果から、処置してから4日後、総IGF−Iレベルは、全ての肝硬変群において、健常動物におけるよりも低いことが分かった(図15D)。しかしながら、遊離IGF−Iタンパク質は、高及び中用量のssAAVIGF−Iを注射した動物の血清で増加する。ベクターを投与してから2週間及び8週間後、総及び遊離(データは図示されず)IGF−Iの両方が、全ての群において同様である。最高用量のssAAVIGF−Iで処置した動物における増加した無血清IGF−Iは、IGF−I結合タンパク質の発現の増加を誘発することによるより後の時点での総IGF−Iとなることが可能でろう。
【0234】
さらに、ベクターから発現されたIGF−Iは、4日間、8週間及び16週間ベクターを注射したIGF−I発現動物において増加するIGF−IBP3及びIGF−IRの発現を活性化できるので、活性である(図15F〜H)。
【0235】
実施例10 硬変した肝臓へのIGF−I遺伝子移入により、肝機能が改善され、肝線維症が著しく減少する
ベクターを接種してから4日目でのトランスアミナーゼは、全ての肝硬変群で同様であり、健常動物においてよりも高かった(図16A)。しかしながら、ssAAVIGF−I又はdsAAVIGF−Iベクターで処置した動物は、ベクターを投与してから2週間後に肝硬変対照よりも低いトランスアミナーゼレベルを示した。より後の時点で、トランスアミナーゼレベルは、IGF−I処置動物においてさらに減少し、ベクターを投与してから8週間後では、ssAAVIGF−I又はdsAAVIGF−Iベクターで処置した動物におけるトランスアミナーゼレベルは健常動物と同様であった(図16B)。同様のことが、低用量のssAAVIGF−Iで処置した動物において、ベクターを投与してから12週間後に観察された(図16C)。興味深いことに、同様の効果が、dsAAVIGF−Iで処置した動物及び低用量のssAAVIGF−Iで処置した動物において観察された。しかしながら、この効果は、最高の用量のss−AAV1−IGF−Iで処置した動物ではより低かった(図16D)。
【0236】
ビリルビンは、ベクターを接種してから4日目で、全ての肝硬変動物において同様であり、健常対照においてよりも高かった(図17A)。しかしながら、dsAAVIGF−Iで処置した動物とssAAVIGF−Iで処置した動物の両方は、ベクターを投与してから2週間後で、肝硬変対照よりもビリルビンレベルが低かった。より後の時点で、ビリルビンレベルは、AAVIGF−I(一本鎖と二本鎖の両方)で処置した動物においてさらに減少し、ベクターを投与してから8週間後では、AAVIGF−Iで処置した動物におけるビリルビンレベルは、健常動物と同様であった(図17B)。同じことが、低用量のssAAVIGF−Iで処置した動物において、ベクターを投与してから12週間後で観察された(図17C)。同様の結果が、高用量のssAAVIGF−Iで処置した動物において投与してから1年後にみられ、その統計的分析では、有意な差はなかった。興味深いことに、同様の効果が、dsAAV1IGF−Iで処置した動物又は低用量のssAAV1IGF−Iで処置した動物において観察された。しかしながら、この効果は、高用量のssAAVIGF−Iで処置した動物においては低かった(図17D)。
【0237】
アルブミンは、ベクターを接種してから4日及び2週間後で、全ての肝硬変動物において同様であり、健常対照におけるよりは低かった(図18A、18B)。しかしながら、AAVIGF−I(一本鎖又は二本鎖)で処置した動物は、ベクターを投与してから8週間後で、肝硬変対照と比較して、アルブミンレベルが増加した(図18B)。同じことが、低用量のssAAVIGF−Iで処置した動物において、ベクターを投与してから12週間後に観察された(図18C)。同様の結果が高用量のssAAVIGF−Iで処置した動物において、投与してから1年後にみられ、統計的分析では、有意の差はみられなかった(図18D)。
【0238】
肝臓試料をSiriusレッドで染色し、肝線維症を定量化した(図19A)。結果から、硬変した肝臓は線維化していることと、線維症はAAVIGF−I (一本鎖又は二本鎖)で処置した動物において減少することが分かった。驚くべきことに、高用量のAAVIGF−Iは、残りよりも効率が低い。コラーゲンI及びIV mRNA発現レベルをqRT−PCRにより定量化したときに、同様の結果が観察された(図19B、19C)。低用量のssAAVIGF−Iで処置してから16週間後では、線維症及びコラーゲンmRNA発現レベルは、健常動物におけるものと同一であった。このことは、肝硬変が完全に解消されたことを示している(図19D〜F)。コラーゲンII mRNAは検出されず、コラーゲンIII mRNAレベルは群間での差はなかった(データは図示せず)。これから、肝線維症において蓄積しないものと予想された。
【0239】
実施例11 硬変した肝臓内のIGF−I遺伝子発現はフィブロリシスを誘発する
AAVIGF−Iベクターでの線維症の減少は、既存のマトリックス堆積物の分解から生じる。MMPは細胞外コラーゲンを分解するので、本発明者らは全ての実験群の肝臓におけるMMP発現を評価した。
【0240】
MMP1、MMP2、MMP9及びMMP14 mRNA発現レベル(図20A〜D及びI〜M)並びにMMP2及びMMP9タンパク質レベル(図20F、20G)を、ベクターを接種してから8週間及び16週間後に、それぞれqRT−PCR及びELISAにより測定した。結果から、全てのこれらのMMPの発現は、健常対照と比較して、肝硬変動物において減少する。しかしながら、これらの因子のレベルは、AAVIGF−Iベクター(一本鎖又は二本鎖)で処置したラットにおいて、肝硬変動物と健常動物の両方と比較して、著しく増加する。この増加は、処置してから4日後には検出されないが、AAVIGF−Iベクターを投与してから8週間又は16週間で検出される。たとえ、AAVIGF−I処置動物におけるMMPレベルが経時的に減少しても、AAVIGF−Iベクターを投与してから16週間で健常動物において観察されるよりもまだ高い。
【0241】
TIMP−2発現については、逆パターンが観察された(図20E及び20M)。TIMPタンパク質は、MMP活性のインヒビターである。したがって、高MMP活性のためにTIMPレベルが減少することが必須である。TIMP−2 mRNA発現は、健常対照と比較して、肝硬変動物において増加した。TIMP−2のレベルは、AAVIGF−Iベクターで処置したラットにおいて、肝硬変対照と比較して減少した。この減少は、AAVIGF−Iベクターを投与してから8週間後に検出され、TIMP−2レベルは経時的にさらに減少したが、処置してから16週間後で、健常動物において観察されるレベルよりもまだ高かった。増加したMMPと減少したTIMPとのバランスは、増加したMMP活性と相関する。驚くべきことに、最高用量のAAVIGF−Iでは、MMP発現の誘発が少なく、残りよりも活性が低い。
【0242】
実施例12 硬変した肝臓内でのIGF−I遺伝子発現は、プロフィブロジェニック因子の発現を減少する
線維症の減少は、プロフィブロジェニック細胞の減少からも生じる。平滑筋アクチン(αSMA)により特徴付けられる活性化肝臓星細胞(HSC)は、細胞外コラーゲンの主要な生成源である。したがって、本発明者らは、αSMAに対する抗体を用いた免疫組織化学によるか(図21A)、又はαSMA mRNAの定量化により(図21B、21C)、活性化したHSCの量を評価した。
【0243】
結果から、肝硬変動物に高レベルのαSMA発現細胞があることが分かった。AAVIGF−Iベクター(一本鎖又は二本鎖)を投与してから8週間後、αSMA mRNA発現レベル及びαSMA発現細胞が著しく減少した。8週間後、αSMA mRNA発現が肝硬変動物で減少したが、健常対照よりも高かった。しかしながら、ssAAVIGF−Iで処置した動物におけるαSMA mRNAのレベルは、健常動物において観察されるレベルと同様であった。高用量のssAAVIGF−Iで処置した動物におけるαSMAの減少は、それほど大きくなかった。
【0244】
活性化、増殖、移動及びHSCからのコラーゲン合成は、プロフィブロジェニック因子、例えば、TGFβ、VEGF、PDGF、アンフィレギュリン(AR)又は CTGFにより介在される。この応答は、IL−6及びTNFα発現により標識される炎症環境が都合がよい。したがって、これらの因子の肝臓発現を、ベクターを接種してから8週間後及び16週間後に評価した(図22)。これらの因子は、健常動物と比較して、全ての肝硬変対照において大きく増加し、経時的に減少する傾向があった。しかしながら、これらの因子の全ては、AAVIGF−I処置肝硬変動物において著しく減少し、健常動物において観察されるよりも有意差は小さかった。唯一の例外は、IL6であり、全ての動物において同様であった。プロフィブロジェニック及び炎症因子の減少は、高用量のssAAVIGF−Iを使用したとき、それほど明らかでなかった。
【0245】
実施例13 硬変した肝臓内のIGF−I遺伝子発現により、抗線維形成及び肝臓保護因子の発現が増加し、増殖を刺激しない
AAVIGF−I処置で改善された肝機能は、HGF又はHNF4αなどの肝臓保護因子の活性化から得ることができるであろう。したがって、本発明者らは、まずmRNA、及びHGFのタンパク質発現を測定した(図23)。
【0246】
HGFのレベルは、健常ラットと比較して、肝硬変対照において減少した。しかしながら、AAVIGF−I(一本鎖又は二本鎖)で処置した動物は、このベクターを投与してから4日後で、健常なラットと同様なHGFレベルを示した。これらの動物におけるHGFレベルは、健常対照において観察されるレベルと比較して、より後の時点でより高く、大きく増加した。高用量のssAAVIGF−Iを使用したとき、HGFの増加はそれほど明らかでなかった。
【0247】
HGFについて観察された結果は、HNF4α mRNAについて観察されたものと極めて類似していた(図24A〜C)。HNF4aは成熟因子であるので、このことは非常に興味深いことである。実際に、IGF−Iは、成長因子であり、したがって、IGF−I受容体で細胞の増殖を活性化できるであろう。他に、IGF−Iは、これも成長因子であるHGFを活性化する。たとえ、肝細胞が健常肝臓においてIGF−I受容体を発現しない場合であっても、本発明者らは、AAVIGF−I処置による肝臓細胞の増殖及び分化を評価しようとした。本発明者らは、肝臓分化マーカーとして、胎児肝臓において発現し、成人組織では発現しないWT−1を使用した。WT−1 mRNAレベルは、健常ラットと比較して、肝硬変動物において著しく増加した(図24D、24E)。興味深いことに、AAVIGF−Iで処置したラットは、健常動物と同様のWT−1のmRNAレベルを示した。これらの効果は、高用量のssAAVIGF−Iを使用したときに、それほど明らかでなかった。
【0248】
増殖を、PCNA mRNA発現レベルの定量化及び増殖マーカーKi67での染色により評価した(図25)。染色後、陽性細胞を、全ての実験群でカウントし、結果を、肝臓細胞の増殖を測定するグラフにプロットした。増殖レベルは、肝硬変対照において、健常対照又はAAVIGF−Iで処置した動物と比較して、最も高かった。ベクターを投与してから4日後で、肝硬変動物とAAVIGF−I処置動物との間にはKi67レベルの差は観察されなかった。しかしながら、IGF−Iを発現する動物は、ベクターを投与してから8週間後に、より低いKi67レベルを示し(図25A)、ベクターを投与してから4日、8週間又は16週間後により低いPCNA mRNAレベルを示した(図25B〜D)。IGF−I処置動物におけるこれらの増殖因子レベルは、健常対照において観察されるものと同様であった。唯一の例外は、最高用量のAAVIGF−Iで処置した動物において観察され、健常動物よりも高い増殖レベルを示したが、肝硬変対照よりも低かった。
【0249】
実施例14 処置してから1年後におけるssAAVIGF−I処置動物 (高用量)の毒物学的評価
高用量のssAAVIGF−I若しくはssAAVLuc又は食塩水で処置した肝硬変動物を、健常動物と比較することにより、評価をおこなった。ウイルスを注射してから1年後に犠牲死した動物を解剖した。血液を採取して、いくつかのパラメータを評価した。腎臓、肺、小腸、肝臓、脳、小脳、骨格筋、睾丸、脾臓、胃、骨髄、リンパ節、胸腺及び心臓を、組織病理学的分析により評価した。
【0250】
脾臓、心臓、睾丸、腎臓及び肝臓の相対的重さは、検討した実験群間では有意な差はなかった。
【0251】
血清を使用して、赤血球細胞、血小板、白血球細胞、好中球、リンパ球、単球、好酸球及び好塩基球を定量した。全ての細胞は、全ての実験群間で同様の値を示した。
【0252】
造血細胞のいくつかの特性を分析した。これらには、ヘモグロビン(HGB)、ヘマトクリット(HCT)、総濃厚赤血球細胞数を総赤血球細胞(MCV)数により割ることにより算出される平均血球体積、赤血球細胞内の酸素担持ヘモグロビンの平均量の計算値である平均血球ヘモグロビン(MCH)及び平均細胞ヘモグロビン濃度(MCHC)などがある。これらのパラメータでは、値のばらつきが小さく、全ての実験群間での有意な差はなかった。
【0253】
いくつかのパラメータを、血清で分析した。これらには、トランスアミナーゼ(AST、ALT及びALP)(図16D)、ビリルビン(図17D)、アルブミン(図18D)、ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)、クレアチニン、カリウム、カルシウム、リン、マグネシウム、ナトリウム及びクロラム(chlorum)などがある。これらのパラメータは、全ての実験群間で同様の値を示し、統計的分析では、有意な差はなかった。場合によっては、ビリルビン、アルブミン又はGGTなどの測定では、ばらつきが大きかった。
【0254】
プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)及びフィブリノゲンを測定することにより、凝集を評価した。これらの測定では、ばらつきが大きかったが、全ての実験群間では平均は同様であった。統計的分析をしたところ、有意な差はなかった。
【0255】
肝臓切片のSiriusレッド染色の定量化により、肝線維症を評価した(図19D)。その結果及び肝臓の組織病理学的分析では、実験群のいずれにおいても肝硬変はなかった。このことは、肝硬変は肝臓毒物質を最終用量投与してから1年後に、肝硬変対照においてでさえ退縮することを示している。
【0256】
腎臓、肺、小腸、肝臓、脳、小脳、骨格筋、睾丸、脾臓、胃、骨髄、リンパ節、胸腺及び心臓を、組織病理学的分析により評価した。脳、小脳、骨格筋、睾丸、胃、骨髄、リンパ節及び胸腺は、顕著な組織病理学的変化を示さなかった。一部の肝硬変対照は、健常動物又はssAAVIGF−I処置動物において観察されない、肺、小腸、肝臓及び脾臓において変化を示す。興味深いことに、肝硬変動物には2つの腫瘍、肝臓に1つの腫瘍、肺に1つの腫瘍がある。ssAAVIGF−I処置動物に観察された全ての変更は、対照動物にも観察される。唯一の例外は、ssAAVIGF−Iで処置された6匹の動物のうち2匹の動物において軽度の腸炎があったことである。
【0257】
結論として、ssAAVIGF−Iでの処置により外因性肝臓IGF−Iを発現した肝硬変動物は、処置してから1年後で、健常動物及び肝硬変対照と同様である。分析された全ての血清パラメータ及び組織病理学的検討は、ssAAVIGF−I処置動物と対照との間では再現可能な有意な差はなかった。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含んでなる、ウイルスゲノム。
【請求項2】
パルボウイルスベクター又はポリオーマウイルスベクターである、請求項1に記載のウイルスゲノム。
【請求項3】
前記ポリオーマウイルスベクターが、SV40系ベクターである、請求項2に記載のウイルスゲノム。
【請求項4】
前記パルボウイルスベクターが、AAVである、請求項2に記載のウイルスゲノム。
【請求項5】
前記AAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV5又はAAV8である、請求項4に記載のウイルスゲノム。
【請求項6】
前記AAVベクターが、一本鎖AAVである、請求項4又は5に記載のウイルスゲノム。
【請求項7】
前記AAVベクターが、二本鎖AAVである、請求項4又は5に記載のウイルスゲノム。
【請求項8】
前記肝臓特異的プロモーターが、アルブミン遺伝子エンハンサー領域と、アルファ1−アンチトリプシンプロモーターとを含んでなるものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のウイルスゲノム。
【請求項9】
IGF−Iは、ヒトIGF−Iに対応するものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載のウイルスゲノム。
【請求項10】
適切なパッケージング細胞において請求項1〜9のいずれかに記載のウイルスゲノムを発現させることにより得ることができる、ビリオン。
【請求項11】
医薬として使用される、請求項10に記載のビリオン。
【請求項12】
請求項11で定義されているビリオンと、薬学的に許容しうる担体とを含んでなる、医薬組成物。
【請求項13】
肝硬変又は肝線維症の治療及び/又は予防方法であって、請求項10又は11で定義したビリオンを、それを必要としている被検者に投与することを含んでなる、方法。
【請求項14】
肝硬変又は肝線維症の治療及び/又は予防方法であって、IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードする配列を含んでなる組み換えパルボウイルスを、それを必要としている被検者に投与することを含んでなる、方法。
【請求項15】
前記組み換えパルボウイルスが、AAVである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記AAVが、AAV1、AAV2、AAV5又はAAV8である、請求項15に記載野方法。
【請求項17】
前記AAVが、一本鎖AAVである、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記AAVが、二本鎖AAVである、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項19】
前記AAVが、aAAV8偽型AAV1、AAV5又はAAV8である、請求項15〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
IGF−Iをコードする前記配列が、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結しているものである、請求項14〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記肝臓特異的プロモーターが、アルブミン遺伝子エンハンサー領域とアルファ1−アンチトリプシンプロモーターとを含んでなる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記IGF−IがヒトIGF−Iである、請求項14〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記ビリオン又は組み換えパルボウイルスを、動脈内投与する、請求項13〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記動脈内投与を、肝動脈を介して実施する、請求項23で定義されている方法。
【請求項25】
組み換えAAVビリオンの調製方法であって、
(i)細胞と、
(a)i.IGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結した配列を含んでなる発現カセットと、
ii.(i)で定義されている発現カセットの側に位置しているAAV 5’−ITR 及び3’−ITRと、
を含んでなる第1核酸配列と、
(b)AAVrepタンパク質をコードする第2核酸配列と、
(c)AAVcapタンパク質をコードする第3核酸配列と、そして任意に
(d)AAVが複製用に従属するウイルス性及び/又は細胞機能をコードする第4核酸配列とを、
前記細胞に前記三成分が侵入するのに適した条件下で接触させる工程と、
(ii)前記細胞から前記組み換えAAVビリオンを回収する工程と
を含んでなる、方法。
【請求項26】
前記工程(i)において使用される細胞が昆虫細胞であり、前記第1核酸配列、第2核酸配列及び第3核酸配列がバキュロウイルスベクターに含まれるものである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記組み換えAAVビリオンが、一本鎖AAVビリオンである、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記組み換えAAVビリオンが、二本鎖AAVビリオンである、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項29】
前記発現カセット(a)が、IGF−I又はその機能的同等物をコードする配列の下流に位置してポリアデニル化信号を含んでなるものである、請求項25〜28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
成分(b)がAAV2rep遺伝子をコードする遺伝子を含んでなり、及び/又は成分(c)がAAV1、AAV2、AAV5若しくはAAV8cap遺伝子を含んでなるものである、請求項25〜29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記肝臓特異的プロモーターが、前記アルブミン遺伝子エンハンサー領域と前記アルファ1−アンチトリプシンプロモーターとを含んでなる、請求項25〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
組み換えSV40ビリオンの調製方法であって、
(i)細胞と、複製欠損SV40ゲノムを含んでなるポリヌクレオチドとを接触させる工程であって、前記ゲノムがIGF−I又はその機能的に同等の変異体をコードし、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結した配列を含んでなる発現カセットを含んでなるものであり、前記細胞が前記ポリヌクレオチドにおける複製欠損を補完するSV40遺伝子を発現するものであり、前記接触に、前記ポリヌクレオチドが侵入するのに適した条件下で接触させる工程と、
(ii)前記組み換えSV40ビリオンを前記細胞から回収する工程と
を含んでなる方法。
【請求項33】
前記複製欠損SV40ゲノムがラージT抗原をコードする前記配列を欠いているものであり、前記パッケージング細胞が前記ラージT抗原を発現するものである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記肝臓特異的プロモーターが、前記アルブミン遺伝子エンハンサー領域と、前記アルファ1−アンチトリプシンプロモーターとを含んでなるものである、請求項32又は33に記載の方法。

【図1AB】
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【図1CD】
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【図2】
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【図3AB】
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【図3CD】
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【図4A】
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【図4BC】
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【図5AB】
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【図5CD】
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【図6AB】
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【図6CD】
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【図6EF】
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【図6GH】
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【図7AB】
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【図7CD】
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【図7EF】
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【図7GH】
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【図7I】
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【図7JK】
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【図8AB】
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【図8C】
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【図9】
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【図10AB】
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【図10CD】
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【図11】
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【図12】
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【図13A−C】
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【図13DE】
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【図14】
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【図15AB】
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【図15C】
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【図15DE】
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【図15FG】
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【図15H】
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【図16AB】
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【図16CD】
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【図17AB】
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【図17CD】
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【図18AB】
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【図18CD】
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【図19AB】
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【図19CD】
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【図19EF】
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【図20AB】
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【図20CD】
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【図20EF】
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【図20GH】
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【図20IJ】
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【図20KL】
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【図20M】
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【図21A】
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【図21BC】
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【図22AB】
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【図22CD】
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【図22EF】
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【図22GH】
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【図22IJ】
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【図22KL】
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【図22MN】
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【図23AB】
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【図23CD】
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【図23E】
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【図24AB】
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【図24C】
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【図24DE】
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【図25AB】
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【図25CD】
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【公表番号】特表2012−521750(P2012−521750A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501327(P2012−501327)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070184
【国際公開番号】WO2010/109053
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(506061716)プロイェクト、デ、ビオメディシナ、シーマ、ソシエダッド、リミターダ (34)
【氏名又は名称原語表記】PROYECTO DE BIOMEDICINA CIMA, S.L.
【Fターム(参考)】