説明

肝細胞癌の新規腫瘍マーカーとしての機能を有する抗HHMIgG抗体、肝癌のスクリーニング法および肝癌進行度のマーカーとしての利用

【課題】 肝癌患者の血清中の抗HHM IgG抗体の陽性率に着目し、血清中の抗HHM IgGの濃度を測定することにより、肝癌のスクリーニングおよび進行度のマーカーとしての利用を課題としている。
【解決手段】 C型肝硬変合併肝細胞癌患者群とC型肝硬変患者群との間で、抗HHM IgG抗体の陽性率を検査したところ、血清中の抗HHM IgG抗体の陽性率は、C型肝硬変合併肝細胞癌患者群は9例中6例が陽性という高い値を示し、C型肝硬変患者群では3例中1例という低い値であったことに着目して、本発明に至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝癌に対する新規腫瘍マーカーとしての抗HHM IgG抗体、および血清中の抗HHM IgG抗体濃度による肝癌のスクリーニングおよび進行度のマーカーとしての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
単離され、配列決定された初期発生段階特異的な肝タンパク質及びそれをコードする遺伝子を提供するものであり、これらの遺伝子及びタンパク質は種々様々な肝疾患及び他の病気の診断及び/治療に利用できる。本発明において同定され、単離されたタンパク質としては、elf1〜3、liyor‐1(145)、pk、タンパク質106及びpraja‐1として知られているタンパク質が、これらのタンパク質及びその他のタンパク質をコードする核酸配列と共に挙げられ、またこれらのタンパク質から誘導されるペプチドに対して抗体を生成させ得る。本発明の初期発生肝タンパク質は胚形成中に生じることから、肝臓及びその他の臓器が未分化状態から分化した状態への移行状態にある場合には、これらのタンパク質は組織の分化に関わり、従って種々の肝疾患及びその他の病気、例えば発癌及び組織修復に関連する病気を診断及び治療する方法に利用できる。従って、本発明の単離された初期発生肝タンパク質は、末期肝硬変から肝細胞癌までの一連の病気及びその他の多数の病気の診断及び治療に密接な関わりをもつことを特徴とする特許が公表されている(特許文献1)。
【0003】
哺乳動物において、肝細胞癌を含む癌を予防または処置するための方法であって、ここでこの癌は、哺乳動物において、少なくともαフェトプロテイン分子の部分に対する免疫応答を生成することによって、その表面上に少なくともαフェトプロテイン分子の部分を保有しており、また、哺乳動物において、少なくともαフェトプロテイン分子の部分に対する免疫応答を生成するための組成物、肝細胞癌を含む癌の予防またはその処置に使用するための組成物であって、この組成物は、少なくともαフェトプロテイン分子の部分を含むか、または1つ以上のアミノ酸が免疫応答を増強するために天然のアミノ酸で置換されている、少なくともαフェトプロテイン分子の部分を含むことを特徴とする特許が公表されている(特許文献2)。
【0004】
また、新規ポリヌクレオチド、またはヒト肝細胞癌疾病の発生を予測するための診断手段として有用なポリヌクレオチドの新規組み合わせに関する。この発明はまた、その変異が患者における肝細胞癌の発生に関与している癌抑制遺伝子候補にあるポリヌクレオチド、ならびにかかる新規癌抑制遺伝子候補に由来するポリヌクレオチドおよび対応する発現ポリペプチドに向けられる。この発明はまた、診断手段としてこのポリヌクレオチドを用いる診断方法に関する特許が公表されている(特許文献3)。
【0005】
HLH(helix‐loop‐helix)型転写制御分子が細胞の発生分化に重要な役割を担っていることが、これまでに筋肉や膵臓、胆管細胞などで明らかになっている。ユビキタスに発現するE12などのI型HLH型転写制御分子と、組織特異的に発現するII型HLH型転写制御分子がヘテロダイマーを形成し、このテロダイマーのベーシック領域が、CANNTGからなるEボックスに結合することで発生分化に関与する特異的遺伝子群は発現する。肝臓においても発生分化を制御するHLH型転写制御分子が存在するのではないかと考え、酵母を用いた2−ハイブリッド スクリーニング法にて、I型HLH型転写制御分子E12のHLH領域をおとり蛋白とし、ヒト胎児肝cDNAライブラリーでスクリーニングを行った。この結果、360個のアミノ酸からなるヒト新規HLH型転写制御分子が同定され、HHM(human homologue of maid)と命名された。HHMはMaid分子同様、発生過程への関与が示唆されたため、肝幹細胞から肝細胞への発生分化過程を評価する動物実験モデル(ラット2 アセトアミノフルオレン・部分肝切除モデル)を用いHHMのmRNAの発現を観察した。そうしたところ、肝幹細胞の発生分化とともにHHMの発現は増加し、分化過程の肝細胞群に特異的な発現を認めた。さらに、肝細胞特異的転写因子Hepatic Nuclear Factor(HNF4)は肝細胞分化促進因子として知られている。このHNF4のプロモーターを解析したところ、肝臓特異的発現に関与する領域にEボックスを認めたため、HHMの関与が想定された。そのためHHM発現時におけるHNF4プロモーターの転写活性をルシフェラーゼアッセイにて解析したところ、HHMは特異的にHNF4のプロモーターに対する阻害能を有することが明らかになった。以上の結果から、HHMは新規HLH型転写制御分子であり、肝臓特異的な遺伝子発現を調節しているかもしれないことが示唆された。しかしながら、この段階においては、この発明の血清中の抗HHM IgG抗体の濃度を測定することによる肝癌のスクリーニングおよび進行度のマーカーとしての利用という発想は有していなかった(非特許文献1)。
【特許文献1】特表2001−518788
【特許文献2】特表2001−515347
【特許文献3】特表2002−503450
【非特許文献1】Shuji Terai et al.Hepatology 2000;32:357‐366.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、肝癌患者の血清中の抗HHM IgG抗体の陽性率に着目し、血清中の抗HHM IgG抗体の濃度を測定することにより、肝癌のスクリーニングおよび進行度のマーカーとしての利用を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者等によって、HHM蛋白が肝発癌のイニシエーションに関与していることが明らかにされた。しかしながらHHM蛋白自体は細胞の核で働く転写制御分子であるため、本来ならば血清中のHHM蛋白自体は測定できない。従って、これでは臨床的な腫瘍マーカー等として使用できなかった。今回新たに行った実験では、この問題点を解決するため、新たにGST−HHM融合蛋白を抗原とし、患者血清中の抗HHM−IgGを測定することで、肝癌のスクリーニングおよび進行度のマーカーとしての利用が可能となり、測定結果の信頼性も向上した。
【発明の効果】
【0008】
肝癌患者の血清中の抗HHM IgG抗体の陽性率に着目して、血清中の抗HHM IgG抗体の濃度を測定することにより、肝癌のスクリーニングおよび進行度のマーカーとしての利用が可能となった。特に、C型肝硬変合併肝細胞癌患者群とC型肝硬変患者群との間で、抗HHM IgG抗体の陽性率を検査したところ、血清中の抗HHM IgG抗体の陽性率は、C型肝硬変合併肝細胞癌患者群は9例中6例が陽性という高い値を示し、C型肝硬変患者群では3例中1例という低い値であった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
血清分離用の採血管を用いて、対象患者より全血採血し、これを遠心分離により各種抗体が含まれる血清を分離する。GST−HHM蛋白は、GST融合蛋白である。すでにクローン実験より得られたHHM cDNAの全長cDNA(AF132034,AF127800、Shuji Terai et al.Hepatology 2000;32:357‐366参照)をGST融合蛋白を発現するpGEX発現プラスミドに組み込み作成した発現プラスミドpGEX−GST−HHMを大腸菌に遺伝子導入し形質転換させる。形質転換した大腸菌を大量培養しIPTGによりGST−HHM蛋白の発現を誘導する。作成したGST−HHM蛋白の発現は既存の抗HHM抗体、GST抗体にて確認する。さらに大腸菌で発現させたGST−HHM蛋白はGST融合蛋白質であるため、まずGST−HHMの発現を誘導した大腸菌から蛋白質を抽出する。蛋白抽出液をさらにGlutathione(GSH)Sepharose 4Bと攪拌結合させたのち遠心し、上清を除くことでGlutathione(GSH)Sepharose 4Bと結合しない蛋白を除去し、最後にGlutathione(GSH)Sepharose 4Bを洗浄しGST−HHM蛋白を精製する。
【0010】
標識蛋白(GSTやHIS蛋白など)とHHMを共発現する発現プラスミドを構築し、これを用いて標識蛋白融合HHM蛋白を精製した(Shuji Terai et al.Hepatology 2000;32:357‐366.)。標識蛋白融合HHM蛋白と、陰性コントロールとして標識蛋白のみを同量ずつSDS−PAGEで展開し、ニトロセルロース膜に転写し、一次抗体として対象患者から分離した希釈血清を用いることにより、血清中の抗HHM IgG抗体の有無を、ウエスタンブロット法により解析する。また、精製した標識蛋白融合HHM蛋白を用いることでエライザ法やドットプロット法で解析することも可能である。
【実施例】
【0011】
C型肝硬変合併肝細胞癌患者9例、C型肝硬変患者3例からそれぞれ全血採血し、これを遠心分離により血清を分離し、解析するまで−20℃で凍結保存した。
【0012】
標識蛋白(GST)とHHMを共発現する発現プラスミドを構築し、これを用いて標識GST融合HHM蛋白を精製した。また、GST蛋白のみ発現するプラスミドを用いてGST蛋白を精製し、これを陰性コントロールとした。次に、GST蛋白融合HHM蛋白と陰性コントロールをSDS−PAGEを用いて展開し、これをニトロセルロース膜に転写し、HHM蛋白に反応するIgG抗体が患者血清中に存在するかをウエスタンブロット法により、それぞれ解析した。なお、今回は血清を2500倍希釈した溶液をウエスタンブロット法の一次抗体として使用した。
【0013】
その結果、C型肝硬変合併肝細胞癌患者9例中6例にHHM蛋白に特異的に反応するIgG抗体(抗HHM IgG抗体)の存在が確認された。一方、C型肝硬変患者3例のうち、1例にHHM蛋白に特異的に反応するIgG抗体(抗HHM IgG抗体)の存在が確認されたが、その抗体濃度は明らかに低かった。
【0014】
以上より、慢性肝疾患患者の血清中の抗HHM IgG抗体の濃度を測定することにより、肝癌のスクリーニングおよび進行度のマーカーとしての利用が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】C型肝硬変合併肝細胞癌患者群とC型肝硬変患者群との間で、抗HHM IgG抗体の陽性率を検査したところ、血清中の抗HHM IgG抗体の陽性率は、C型肝硬変合併肝細胞癌患者群は9例中6例が陽性という高い値を示し、C型肝硬変患者群では3例中1例という低い値であったことを示す図である。さらに、C型肝硬変患者で陽性を示したOnlyLC001のバンドは、C型肝硬変合併肝細胞癌患者の陽性例に比べて薄く、抗HHM IgG抗体の濃度が低いことを示している。なお、GSTとは今回用いた標識蛋白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞癌の新規腫瘍マーカーとしての機能を有する抗HHM IgG抗体。
【請求項2】
C型肝硬変合併肝細胞癌の新規腫瘍マーカーとしての機能を有する抗HHM IgG抗体。
【請求項3】
慢性肝疾患患者の血清中の抗HHM IgG抗体濃度の増加を指標とする肝癌のスクリーニング法。
【請求項4】
肝細胞癌患者の血清中の抗HHM IgG抗体濃度の増加を指標とする肝細胞癌のスクリーニング法。
【請求項5】
C型肝硬変合併肝細胞癌患者の血清中の抗HHM IgG抗体濃度の増加を指標とする肝細胞癌のスクリーニング法。
【請求項6】
血清中の抗HHM IgG抗体濃度による肝癌進行度のマーカーとしての利用。

【図1】
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【公開番号】特開2006−84224(P2006−84224A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267065(P2004−267065)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月25日 日本癌学会発行の「第63回 日本癌学会学術総会記事」に発表
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】