肝臓卵形細胞の取得方法
【課題】肝臓から肝臓卵形細胞を単離・同定する方法の提供、肝臓卵形細胞を単一細胞培養する方法の提供。
【解決手段】CD133、CD45及びTer119の発現を調べる工程を含む、哺乳動物から肝臓卵形細胞を分離及び/又は取得する方法、特にCD133、CD45及びTer119の3つの細胞表面マーカーをCD133+、CD45−及びTer119−のパターンで呈する肝臓卵形細胞を哺乳動物から分離及び/又は取得する。得られた肝臓卵形細胞を、成長因子及び細胞外マトリックスの存在下で培養することを含む、肝臓卵形細胞の単一細胞培養方法。
【解決手段】CD133、CD45及びTer119の発現を調べる工程を含む、哺乳動物から肝臓卵形細胞を分離及び/又は取得する方法、特にCD133、CD45及びTer119の3つの細胞表面マーカーをCD133+、CD45−及びTer119−のパターンで呈する肝臓卵形細胞を哺乳動物から分離及び/又は取得する。得られた肝臓卵形細胞を、成長因子及び細胞外マトリックスの存在下で培養することを含む、肝臓卵形細胞の単一細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は肝臓の卵形細胞を分離・取得するための方法に関する。より詳細には、本発明は、卵形細胞に特徴的な表現型に基づいて、卵形細胞を選別・分離・取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、増殖する細胞区画に応じて2つの異なる方法で再生することができる。部分的な肝切除(ヘパテクトミー:PH)あるいは化学的な傷害の後に、残った肝組織中の細胞、特に肝臓細胞が迅速に増殖しいかなる肝臓幹細胞や前駆細胞からの寄与もなく無くした細胞を回復することができる。しかしながら、肝臓細胞の増殖が、何らかの慢性的な傷害によって損なわれた場合には、再生のためのシグナルが、肝小葉の門脈周辺に「卵形細胞(oval cell)」と称される小さな上皮細胞の出現を引き起こす。ダメージを受けた肝臓を再生するために劇的に増殖する能力を有すること、及び肝細胞や胆管上皮細胞へと分化する能力を有することから、卵形細胞は、一過的に増幅する肝臓前駆細胞であると考えられている(非特許文献1)。
【0003】
遠心分離水簸ならびに肝臓実質細胞及び肝臓非実質細胞の種々の特徴についての組織化学的解析により卵形細胞が単離され得ることが報告されている(非特許文献2)。密度勾配遠心法をパンニングあるいはフローサイトメトリーを用いた細胞ソーティングと組み合わせて、さらに卵形細胞を濃縮し、それらのインビトロあるいはインビボでの増殖能及び分化能が調べられている(非特許文献3、4)。これらの手法により単離された細胞集団は非常に多くの卵形細胞を含有するものであったが、依然として他の系列の細胞が混じったものであり、卵形細胞のみを特異的に分離する方法が求められている。
【0004】
本発明者ら、並びに他の研究者らによって、発生中のマウスの肝臓から肝幹細胞及び前駆細胞を生成するための戦略が報告されている(非特許文献5〜7)が、肝臓卵形細胞のみを他の細胞から完全に引き離して解析することができず、卵形細胞の多能性や組織再構築能を実験的に証明することは困難であった。
【非特許文献1】Fausto N, Campbell JS. The role of hepatocytes and oval cells in liver regeneration and repopulation. Mech Dev 2003; 120: 117-130.
【非特許文献2】Yaswen P, Hayner NT, Fausto N. Isolation of oval cells by centrifugal elutriation and comparison with other cell types purified from normal and preneoplastic livers. Cancer Res 1984; 44: 324-331.
【非特許文献3】Germain L, Noel M, Gourdeau H, et al. Promotion of growth and differentiation of rat ductular oval cells in primary culture. Cancer Res 1988; 48: 368-378.
【非特許文献4】Wang X, Foster M, Al-Dhalimy M, et al. The origin and liver repopulating capacity of murine oval cells. Proc Natl Acad Sci USA 2003; 100 Suppl 1: 11881-11888.
【非特許文献5】Suzuki A, Zheng YW, Kondo R, et al. Flow cytometric separation and enrichment of hepatic progenitor cells in the developing mouse liver. Hepatology 2000; 32: 1230-1239.
【非特許文献6】Suzuki A, Zheng YW, Kaneko S, et al. Clonal identification and characterization of self-renewing pluripotent stem cells in the developing liver. J Cell Biol 2002; 156: 173-184.
【非特許文献7】Tanimizu N, Nishikawa M, Saito H, et al. Isolation of hepatoblasts based on the expression of Dlk/Pref-1. J Cell Sci 2003; 116: 1775-1786.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は肝臓から肝臓卵形細胞を単離・同定する方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、肝臓卵形細胞を単一細胞培養する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、三種類の細胞表面マーカーの発現状況、具体的にはCD133、CD45及びTer119の三種類の細胞表面マーカーの発現状況を調べることによって、肝臓の卵形細胞を高度に分離・取得し得ることを見出し、さらに卵形細胞のクローナルな培養条件を見出して本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の通りである。
【0007】
[1]CD133、CD45及びTer119の発現を調べる工程を含む、哺乳動物から肝臓卵形細胞を分離及び/又は取得する方法。
[2]CD133を発現し、CD45及びTer119を発現していない細胞を選別する工程をさらに含む、上記[1]記載の方法。
[3]肝臓卵形細胞の産生を誘導する工程をさらに含む、上記[1]又は[2]記載の方法。
[4]肝臓卵形細胞を成長因子及び細胞外マトリックスの存在下で培養する工程をさらに含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]成長因子が、HGF及び/又はEGFである、上記[4]記載の方法。
[6]細胞外マトリックスがコラーゲン又はラミニンである、上記[4]記載の方法。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法によって哺乳動物の肝臓から分離及び/又は取得される肝臓卵形細胞。
[8]CD133、CD45及びTer119の3つの細胞表面マーカーをCD133+、CD45−及びTer119−のパターンで呈する、肝臓卵形細胞。
[9]哺乳動物の肝臓における分化に影響を及ぼす物質をスクリーニングするための方法であって、以下の工程を含む方法;
(1)肝臓卵形細胞と被検物質とを反応させる工程、
(2)反応後の細胞について肝臓マーカーの発現を測定する工程。
【発明の効果】
【0008】
肝幹/前駆細胞の最有力候補である卵形細胞は、存在頻度が低いため、通常の細胞分離法では純化することができず、他の細胞が混在した状況でしか解析することができなかった。そのため卵形細胞を成体肝幹/前駆細胞とする実験的証拠はこれまで存在しなかった。卵形細胞の細胞表面に特異的に発現する抗原分子を指標にして卵形細胞を分離・回収する本発明の方法、及び当該卵形細胞の単一細胞培養によって卵形細胞に対する極めて精度の高い機能解析が可能となる。
ヒト肝臓組織、特に、癌等の病態で卵形細胞様の細胞を解析することによって、癌幹細胞としての性質を調べることが可能となる。また、卵形細胞を肝幹/前駆細胞として用いることにより、肝臓における分化を誘導する物質のスクリーニング方法の確立が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。本明細書に記載されたものと同様又は同等の任意の方法及び材料は、本発明の実施又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。本明細書で言及したすべての刊行物及び特許は、例えば、記載された発明に関連して使用されうる刊行物に記載されている、構築物及び方法論を記載及び開示する目的で、参照として本明細書に組み入れられる。
【0010】
本発明の取得方法及び培養方法の対象となる肝臓卵形細胞は、任意の哺乳動物の肝臓に由来する。ここで「哺乳動物」とは、具体的にはヒトをはじめウシ、ウマ、イヌ、モルモット、マウス、ラット等が挙げられる。好ましくはヒトであるが、基礎医学的研究の見地からは、マウスやラット等の実験動物としてよく用いられる動物も又、好ましい。
【0011】
本発明の肝臓卵形細胞は、任意の哺乳動物の肝臓に由来するが、好ましくは肝臓卵形細胞の産生を誘導するような処理が施された肝臓に由来する。肝臓卵形細胞の産生を誘導するような処理としては、例えば3,5−ジエトキシカルボニル−1,4−ジヒドロコリジン(DDC)を含む飼料をマウスに与えることによって、マウスの肝臓内で卵形細胞を産生、増殖させることができる(DDCモデル)。又、発癌剤の一種である2−アセチルアミノフルオレン(2−AAF)を投与した後に部分肝切除を行なったラットにおいても、卵形細胞の出現が報告されている(2−AAF/PHモデル)。
肝臓、好ましくはDDCを摂食させたマウス等の肝臓は、取り出し細かく切り刻んで、振動等の物理的な手段によって、EGTAあるいはEDTA等を用いた化学的な処理によって、あるいはコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、ジスパーゼ等のプロテアーゼを用いた酵素的な処理によって細胞を分散することによって単一細胞懸濁液としてから、後述する細胞表面マーカー(CD133、CD45及びTER119)の発現を調べる工程を行なう。
【0012】
本発明は、CD133、CD45及びTER119の発現を調べる工程を含む、哺乳動物から肝臓卵形細胞を分離及び/又は取得する方法を提供する。CD133(プロミニン−1としても知られている)蛋白質は、5回膜貫通型の糖蛋白質であって、造血幹細胞、前駆細胞のマーカーであると同時に、近年、神経系腫瘍、前立腺癌、大腸癌の癌幹細胞マーカーの一つであることが報告されている。CD45は、白血球共通抗原の1種で、赤血球、血小板およびそれらの前駆細胞を除く、すべての造血性細胞に発現していることが知られている。TER119は、赤血球系細胞を選別するための有効な細胞表面マーカーであることが知られている。
本発明はこれらの蛋白質またはそれをコードする遺伝子が肝臓卵形細胞においては特有の発現様式を示すという新たな知見に基づいている。
【0013】
本明細書中、「マーカー」とは特にことわりのない限り、このような肝臓卵形細胞に特有な発現様式を示す一連の蛋白質又はそれをコードする遺伝子から構成される群の各々を意味する。かかるマーカー蛋白質は哺乳動物の種類等によってそのアミノ酸配列が異なる場合があり、本発明においてはその肝臓卵形細胞における発現様式が同じである限り、そのような蛋白質もマーカー蛋白質として使用することができ、本発明の範囲内である。具体的には、それぞれの蛋白質についてアミノ酸配列で40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上の相同性を有するホモローグも本発明のマーカー蛋白質、すなわちCD133、CD45及びTER119として用いることができる。本発明はこれらのマーカー蛋白質及び/またはそれをコードする遺伝子の発現状況を、各マーカー蛋白質またはそれをコードする遺伝子と特異的な親和性を有する物質を用いてそれらの発現を調べる工程を含む。
【0014】
本明細書中、「用いて」という用語について、その方法は特に限定されず、具体的には、例えばマーカー蛋白質と特異的親和性を有する物質を用いる場合であれば該マーカー蛋白質の抗体との抗原抗体反応を利用する方法が挙げられ、又、マーカー蛋白質をコードする遺伝子と特異的親和性を有する物質を用いる場合であればハイブリダイゼーション反応を利用する方法が挙げられる(詳細な手順については後述する)。
【0015】
マーカー蛋白質と特異的な親和性を有する物質としては例えば当該蛋白質に特異的親和性を有する抗体またはその断片が挙げられ、その特異的親和性とは抗原・抗体反応により該蛋白質を特異的に認識し、結合する能力のことである。該抗体またはその断片は、当該蛋白質と特異的に結合可能なものであれば特に限定されず、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体およびそれらの機能的断片のいずれであってもよい。これらの抗体あるいはその機能的断片は、通常当分野で行なわれている方法によって製せられる。例えばポリクローナル抗体を用いる場合であれば、該蛋白質をマウスやウサギといった動物の背部皮下あるいは腹腔内あるいは静脈等に注射して免疫し、抗体価が上昇するのを待った後に抗血清を採取する方法が挙げられ、またモノクローナル抗体を用いる場合であれば、常法に従いハイブリドーマを作製して、その分泌液を採取する方法が挙げられる。抗体断片を製造する方法としてはクローニングした抗体遺伝子断片を微生物等に発現させる方法がよく用いられている。当該抗体、抗体断片等の純度は、当該蛋白質との特異的親和性を保持している限り、特に限定されない。これらの抗体またはその断片は、蛍光物質、酵素やラジオアイソトープ等で標識されていてもよい。好ましくは、蛍光物質で標識されている抗体またはその断片である。
さらに、これらは市販されているものを用いても良い。
【0016】
マーカー蛋白質をコードする遺伝子と特異的な親和性を有する物質としては、例えば当該遺伝子に特異的親和性を有するオリゴまたはポリヌクレオチドプローブ(以下、便宜上単にプローブともいう)、ならびにオリゴまたはポリヌクレオチドプライマー対(以下、便宜上単にプライマー対ともいう)が挙げられ、その特異的親和性とは、目的の遺伝子にのみハイブリダイズする性質を意味し、従って当該遺伝子の全部もしくは一部に完全相補的なものか、もしくは上記性質を満たす範囲で1乃至数個のミスマッチを含んでいても良い。該プローブ、プライマー対は、当該遺伝子に特異的親和性を有するものであれば特に限定されないが、例えば当該遺伝子の塩基配列の全部もしくは一部、ならびにそれらの相補配列を含むオリゴまたはポリヌクレオチド等が挙げられ、検出すべき遺伝子の形態に応じて適宜選択する。当該オリゴまたはポリヌクレオチドは当該遺伝子との特異的親和性を有している限りはその由来は特に限定されず、合成されたものであっても、当該遺伝子から必要な部分を切り出し、通常行なわれる方法によって精製されたものであってもよい。これらのオリゴまたはポリヌクレオチドは、蛍光物質、酵素やラジオアイソトープ等で標識されていてもよい。
【0017】
本発明の肝臓卵形細胞を分離及び/又は取得する方法は、上記三種類のマーカー蛋白質又はそれをコードする遺伝子とそれぞれ特異的親和性を有する物質を用いてそれらのマーカーの発現状況を解析することにより実施される。かかる解析によりCD133+、CD45−及びTer119−[CD133発現、CD45非発現、TER119非発現]という特徴を有する細胞を分離することによって、哺乳動物由来の肝臓卵形細胞を得ることができる。すなわち、本発明において分離及び/取得の対象となる、あるいは単一細胞培養の対象となる肝臓卵形細胞は、CD133、CD45及びTer119の3つの細胞表面マーカーをCD133+、CD45−及びTer119−のパターンで呈する。ここで「呈する」とは、それぞれのマーカー蛋白質またはそれをコードする遺伝子を「発現している」あるいは「発現していない」という特徴を有していることを意味する。
【0018】
各特異的親和性を有する物質を用いて、それぞれのマーカー発現のパターンを呈する細胞を選別、分離する方法は、通常、当分野で行われている方法及びそれらを組み合わせた方法が用いられる。例えば、蛋白質レベルでマーカーを解析する場合、特に細胞を生きた状態で回収する必要性がある場合には、当該物質を標識するための色素を適宜選択して、フローサイトメトリーを利用する方法が好都合である。より好適には、蛍光活性化セルソーター(FACS:fluorescence-activated cell sorter)を用いて、細胞を分離する。当該装置を用いることにより、目的とする細胞を自動で分離、回収することができる。
同定する場合等、生細胞としての回収が特に必要でない場合には、細胞を破砕し抽出してmRNAを回収し、ノザンブロットを行ってもよいし、また膜蛋白質を抽出してウエスタンブロットを行うこともできる。
【0019】
本発明においては、本発明の肝臓卵形細胞の分離及び/又は取得方法を用いて、哺乳動物の肝臓卵形細胞を得ることができる。かかる卵形細胞は、適当な培養条件下で単一細胞培養することができ、さらに生理学的機能を有する細胞、即ち成熟した肝細胞及び胆管上皮細胞へと分化し得る。ここで「適当な培養条件」とは、成長因子及び細胞外マトリックスが存在する培養条件を意味し、例えば、成長因子として肝臓細胞成長因子(hepatocyte growth factor, HGF)及び/又は上皮成長因子(epidermal growth factor, EGF)等のサイトカイン、及び細胞外マトリックスとしてコラーゲン(例えばIV型コラーゲン)又はラミニンを用いた培養条件を意味する。例えば、HGF及びEGFを含有する、Suzuki A, Zheng YW, Kondo R, et al. Flow cytometric separation and enrichment of hepatic progenitor cells in the developing mouse liver. Hepatology 2000; 32: 1230-1239.(非特許文献5)に記載の標準培地を好ましく用いることができる。培地中の成長因子の濃度は、肝臓卵形細胞の単一細胞培養及び分化誘導が可能な範囲であれば特に限定されず、また、用いる成長因子の種類によっても異なるが、EGFの場合には、10〜40ng/mL、好ましくは20ng/mL程度であり、HGFの場合には、40〜80ng/mL、好ましくは50ng/mL程度である。本発明で用いるEGF及びHGF等の成長因子は肝臓卵形細胞の単一細胞培養及び分化誘導が可能な限り、その由来は特に限定されず、天然由来のものであっても公知の遺伝子配列やアミノ酸配列等の情報に基づいて合成又は半合成して製造されるものであってもよい。商業的に入手可能なものであってもよい。肝臓卵形細胞の単一細胞培養及び分化誘導が可能な範囲で、EGF及びHGF等の成長因子は改変されたものであってもよい。このような改変には、1個又は複数個のヌクレオチドあるいはアミノ酸の変異、挿入、欠失及び置換が含まれる。改変された成長因子は、当分野で通常実施される手段によって調製することができる。例えば、エキソヌクレアーゼを用いる欠失変異株(deletion mutant)作製法、カセット変異法等の部位特異的変異(site−directed mutagenesis)によって成長因子のDNAを人為的に改変させ、該改変DNAを用いて、所望蛋白質を調製することができる。
【0020】
本発明において、細胞外マトリックスは、培養容器のコーティング剤として用いられることが好ましく、又簡便である。細胞の培養に用いられる培養容器は、細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。
【0021】
細胞外マトリックスによる培養容器のコーティングは、用いる細胞外マトリックスの種類に応じて当分野で通常実施されている方法によって行なうことができる。
【0022】
その他の培養条件は、適宜設定できる。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30〜40℃、好ましくは約37℃である。CO2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約2〜5%である。
【0023】
本発明において、肝臓卵形細胞の単一細胞培養は、例えば、肝臓細胞懸濁液から、FACS等の細胞分離技術を用いて分離した、CD133+、CD45−及びTer119−という細胞表面マーカーの発現パターンを呈する細胞を、96ウェルプレート等の各ウェルに1つずつ播種し、適当な培養条件下(上述)で培養することによって実施される。
【0024】
また、肝臓卵形細胞は、適当な培養条件で培養すると、その子孫として、分化した細胞、即ち成熟した肝細胞及び胆管上皮細胞を産生する。肝臓卵形細胞の培養により産生される細胞が分化した細胞(成熟肝細胞及び胆管上皮細胞)であるか否かは、各細胞に特異的に発現している成分を該成分に特異的な親和性を有する物質を用いて検出することによって、あるいは分泌成分を直接解析することによって判定することができる。また形態学的な観察によって判定することができる場合もある。例えば、成熟肝細胞であるか否かは、アルブミン産生能の有無、グリコーゲン蓄積能の有無等を調べることによって、また、胆管上皮細胞であるか否かは、胆管様の管構造の有無、ケラチン産生能の有無等を調べることによって判断することができる。「特異的な親和性を有する物質」としては、各分泌成分に特異的親和性を有する抗体又はその断片や、各分泌成分をコードする遺伝子に特異的親和性を有するオリゴ又はポリヌクレオチドプローブが挙げられる。「抗体又はその断片」及び「オリゴ又はポリヌクレオチドプローブ」の詳細は上記に準じる。
成熟肝細胞に関しては、そのグリコーゲンの蓄積能から、PAS染色やアルシアンブルー染色等の染色法によっても判定することもできる。
【0025】
本発明はさらに、本発明の肝臓卵形細胞を用いて、肝臓卵形細胞の分化に影響を及ぼす物質のスクリーニング方法を提供する。当該方法は少なくとも以下の工程を含む。
(1)肝臓卵形細胞と被検物質とを反応させる工程。
(2)反応後の細胞について肝臓マーカーの発現を測定する工程。
本スクリーニング方法で使用する肝臓卵形細胞は、肝臓の機能細胞へと分化する細胞であれば特に限定されず、好ましくは上述の本発明の方法で分離された肝臓卵形細胞である。該卵形細胞と被検物質との反応は、所望とする分化の種類、分化誘導条件等に応じて適宜設定されるが、通常、35〜40℃、数分〜数十日、好ましくは、36.5〜37.5℃、5〜30日間培養する。被検物質との反応後、該卵形細胞の分化の有無、状況を調べる。
【0026】
肝臓卵形細胞が分化したか否かは、その肝臓のマーカーの発現を測定することにより確認することができる。当該マーカーは所望する機能細胞によって適宜選択される。例えば上述のように、成熟肝細胞への分化であればアルブミン産生、グリコーゲン蓄積を調べることにより、胆管上皮細胞への分化であればケラチン産生等を調べることにより確認できる。被検物質非存在下で肝臓卵形細胞を培養した場合に比べ有意にその肝臓機能細胞への分化を促進あるいは阻害する物質を選抜する。
【0027】
本発明のスクリーニング方法においてその対象となる被検物質としては、既知もしくは未知の種々の物質が挙げられ、具体的には既知のサイトカイン、細胞外マトリクス、無機化合物あるいは適当な細胞培養株の培養上清や適当なcDNAライブラリーより得た未知の遺伝子またはそのリコンビナント蛋白質等が例示される。
【0028】
さらに、形質転換された卵形細胞がげっ歯類及びヒトの両方で肝癌の起源の候補となり得ることが報告されている(参考文献1〜5)ことから、本発明の肝臓卵形細胞を用いて、肝臓における癌発生に影響を及ぼす物質をスクリーニングすることが可能となる。
参考文献1:Factor VM, Radaeva SA. Oval cells-hepatocytes relationships in Dipin-induced hepatocarcinogenesis in mice. Exp Toxicol Pathol 1993; 45: 239-244.
参考文献2:Lowes KN, Brennan BA, Yeoh GC, et al. Oval cell numbers in human chronic liver diseases are directly related to disease severity. Am J Pathol 1999; 154: 537-541.
参考文献3:Prior P. Long-term cancer risk in alcoholism. Alcohol Alcohol 1988; 23: 163-171.
参考文献4:Tsukuma H, Hiyama T, Tanaka S, et al. Risk factors for hepatocellular carcinoma among patients with chronic liver disease. N Engl J Med 1993; 328: 1797-1801.
参考文献5:Deugnier YM, Guyader D, Crantock L, et al. Primary liver cancer in genetic hemochromatosis: a clinical, pathological, and pathogenetic study of 54 cases. Gastroenterology 1993; 104: 228-234.
【実施例】
【0029】
以下、実施例にそって本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、本発明において使用する試薬や装置、材料は特に言及されない限り、商業的に入手可能である。
【0030】
(材料と方法)
フローサイトメトリー
卵形細胞を含む細胞懸濁液を、0.1% DDC(Sigma-Aldrich)を含む、あるいは含まない飼料で2週間飼育したC57BL/6野生型マウスあるいはp53−/−マウス(参考文献6)から調製し、続いて以下に示す二重プロテアーゼ消化プロトコルを行なった。肝灌流培地(liver perfusion medium; Invitrogen)及び肝臓細胞分離液(liver digest medium ; Invitrogen)を用いた通常の2工程の灌流の後、未消化の組織をさらにジスパーゼ(1000プロテアーゼ単位/mL; Godoshusei, Japan)を用いて37℃で30〜60分間攪拌しながら消化した。処理後の細胞の生存度は、トリパンブルー色素排除法を用いた解析で90%を上回っていた。細胞を染色培地(staining medium ; 3%FBSを含有するPBS)で洗浄し、次いで、参考文献7に記載の方法に従って蛍光標識した抗体とインキュベートした。フィコエリトリン(PE)−Cy7がコンジュゲートされた抗CD45モノクローナル抗体及び抗Ter119モノクローナル抗体(mAb)(Pharmingen)及びフルオロセインイソチオシアネート(FITC)がコンジュゲートされた抗CD133モノクローナル抗体(eBioscience)を用いた。FACS Aria(BD Biosciences)を用いて、蛍光標識された細胞を解析・分離した。
参考文献6:Tsukada T., et al. Enhanced proliferative potential in culture of cells from p53-deficient mice. Oncogene 1993; 8: 3313-3322.
参考文献7:Suzuki A., et al. Clonal identification and characterization of self-renewing pluripotent stem cells in the developing liver. J Cell Biol 2002; 156: 173-184.
【0031】
インビトロコロニーアッセイ
低密度培養解析のために、ソートされた細胞を、IV型コラーゲンをコートした6ウェルプレート(BD Biosciences)に1000細胞/ウェルの密度で播種し、参考文献8に記載の標準培地を用いて培養した。単一細胞培養解析のために、FACS Ariaによるクローン選別で同定された細胞を、IV型コラーゲンをコートした96ウェルプレート(BD Biosciences)の個々のウェル中で培養した。培養液としては、E13.5胎仔の肝臓細胞を7日間培養することによって得られた馴化培地を50%添加した標準培地(上述)を用いた。いずれの培養液にもヒト組換えHGF(50 ng/ml, Sigma-Aldrich)及びEGF(20 ng/ml, Sigma-Aldrich)が含まれている。形成される大コロニー及び小コロニーの数を、培養8日後に測定した。
参考文献8:Suzuki A., et al. Flow cytometric separation and enrichment of hepatic progenitor cells in the developing mouse liver. Hepatology 2000; 32: 1230-1239.
【0032】
遺伝子発現解析
RT−PCR及び定量PCR(qPCR)は、参考文献9及び参考文献10に準じて行なった。下記のプライマー及び/又はプローブ以外は、本発明者らの既報(参考文献7〜9)に準じて各種のPCRプライマー及びプローブを調製した。
CK7 RT−PCRプライマー:
5’-ATC CGC GAG ATC ACC ATC AAT-3’(配列番号1)及び
5’-ATG TGT CTG AGA TCT GCG ACT-3’(配列番号2)
CD133 qPCRプライマー/プローブ:
TaqMan Gene Expression Assay ID: Mm00477115_m1 (Applied Biosystems)
CK7 qPCRプライマー/プローブ:
TaqMan Gene Expression Assay ID: Mm00466676_m1 (Applied Biosystems)
参考文献9:Suzuki A., et al. Role for growth factors and extracellular matrix in controlling differentiation of prospectively isolated hepatic stem cells. Development 2003; 130: 2513-2524.
参考文献10:Suzuki A., et al., Glucagon-like peptide 1 (1-37) converts intestinal epithelial cells into insulin-producing cells. Proc Natl Acad Sci USA 2003; 100: 5034-5039.
【0033】
免疫染色
組織切片及び培養細胞を固定し、1次抗体とインキュベートした。用いた1次抗体やその入手先、反応条件等を図1にまとめる。1次抗体とのインキュベーション後、切片及び/又は細胞を洗浄し、免疫組織化学のためには、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)をコンジュゲートした2次抗体(用いた1次抗体の種に応じて決定される、1:500、Dako)と、免疫蛍光染色のためには、Alexa 488−及び/又はAlexa 555をコンジュゲートした2次抗体(用いた1次抗体の種に応じて決定される、1:200、Molecular Probes)及びDAPIを用いた。
【0034】
細胞移植
DDCで処理した肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−の表現型を呈する単一細胞を培養・増殖して得られるクローン性の子孫をトリプシン処理し、洗浄し、そして100mlの標準培地に再懸濁した。得られた細胞懸濁液をFAH欠損レシピエントマウス(後述)の肝臓に脾臓内投与した(4×106細胞/マウス)。CD133+CD45−Ter119−の表現型を各々呈するクローンを12個樹立した。そのうち3個のクローンをドナー細胞として移植に用いた(レシピエントのマウスは1クローンにつき6匹用いた)。FAH欠損マウスは通常、7.5 mg/lのNTBC (K. Z. Travis氏及びJ. Doe氏より供与された)を含有する飲料水で飼育していた(参考文献11)が、移植直後にこの処置を止めた。腫瘍形成の解析のためには、DDCを含む飼料で飼育した野生型マウス及びp53−/−マウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−の表現型を呈する単一細胞を培養・増殖して得られるクローン性の子孫をトリプシン処理し、洗浄し、マトリゲル(150ml, BD Biosciences)を含む標準培地(150ml)に再懸濁し、得られた細胞懸濁液をNOD/SCIDレシピエントマウスに皮下注射した(3.5×107細胞/マウス、n=5)。
参考文献11:Overturf K., et al., Hepatocytes corrected by gene therapy are selected in vivo in a murine model of hereditary tyrosinaemia type I. Nat Genet 1996; 12: 266-273.
【0035】
マイクロアレイ
DDCを含まない飼料、あるいは2週間DDCを含む飼料で飼育したマウスの肝臓から、全RNAを、RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて、製造元の指示書に従って調製した。DDCを含まない飼料、あるいはDDCを含む飼料で飼育したマウスの肝臓における複数の遺伝子発現をOne-Cycle Target Labeling and Control Reagents (Affymetrix)及びGeneChip Mouse Genome 430 2.0 Arrays (Affymetrix)を用いてGeneChip Expression Analysis Technical Manual (Affymetrix)に従って解析した。
【0036】
FAH変異マウスの作製
参考文献12〜15に従い、TT2胚性幹(ES)細胞における相同組換えによってマウスFAHの標的破壊を行った。PCRを行ってターゲティングベクター配列の5’アーム(8.2kb)及び3’アーム(5.1kb)を増幅した。用いたプライマーは以下の通り。
5’アーム用プライマー:
5’-GTT TGA GTC GAC CCA ACA AGG ATT ACA TGA GAC CGC C-3’(配列番号3)
5’-TAA GGC GGC CGC GGA TGC TCT TGC CTC CTT CCA TG-3’(配列番号4)
3’アーム用プライマー:
5’-TGC CTC GTC GAC GCG GCC GCG CTG TGA TTG CAT GTG TGA CCT TCC-3’(配列番号5)
5’-CAC CCT CGA GTT AGA CCT GCA GAT GGT AGC CGC C-3’(配列番号6)
FAH変異マウス(ヌルアレル)を作製する為の手順を図2Aに示す。
CD−1系ホストの胚盤胞にターゲティングされたES細胞を注入することによって生殖系列のキメラを作製した(参考文献14)。PCRによりジェノタイピングを行なった。用いたプライマーは以下の通り。
FAHwt-F: 5’-AGG CCT AAC CTC TTG CTT CAT TCA-3’(配列番号7)
FAHmut-F: 5’-CCA GCT CAT TCC TCC CAC TC-3’(配列番号8)
FAHwt/mut-R; 5’-ATC GGG GTT CCA GAT ACC AC-3’(配列番号9)
野生型にはFAHwt-F及びFAHwt/mut-Rを用い809bpを検出した。
変異型にはFAHmut-F及びFAHwt/mut-Rを用い433bpを検出した。
(図2C参照)
尚、FAH変異体のアクセッション番号(RIKEN)はCDB0201Kである。
参考文献12:Yagi T., et al. Homologous recombination at c-fyn locus of mouse embryonic stem cells with diphtheria toxin A fragment gene in negative selection. Proc Natl Acad Sci USA 1990; 87: 9918-9922.
参考文献13:Yagi T., et al. A novel negative selection for homologous recombinants using diphtheria toxin A fragment gene. Anal Biochem 1993; 214: 77-86.
参考文献14:Yagi T, Tokunaga T, Furuta Y, et al. A novel ES cell line, TT2, with high germline-differentiating potency. Anal Biochem 1993; 214: 70-76.
参考文献15:Murata T., et al. ang is a novel gene expressed in early neuroectoderm, but its null mutant exhibits no obvious phenotype. Gene Expr Patterns 2004; 5: 171-178.
【0037】
実施例1:胆管上皮細胞及びDDCで誘導された卵形細胞におけるCD133の発現
DDCを2週間摂食させたマウス(以下DDCマウスともいう)の肝臓で卵形細胞が生じることを、卵形細胞の特異抗原であるA6の免疫組織学的解析によって確認した(図3A)。細胞表面マーカーが卵形細胞上に発現していることを同定する為に、本発明者らは、DDCを摂食させていないマウス(以下No−DDCマウスともいう)の肝臓とDDCマウスの肝臓における遺伝子発現をマイクロアレイによって比較した。本解析により、DDCマウスの肝臓では、サイトケラチン(CK)19、α−フェトプロテイン(AFP)及びCD34のより高い発現と、それよりは幾分低いc−kit及びThy1の発現が確認された。これらの遺伝子はそれぞれ、卵形細胞マーカーとして以前に明らかにされたものである(参考文献16〜20)。これらのマーカー遺伝子に加えて、CD133の発現量がDDCマウスの肝臓で4倍以上増加していた(図3B)。続いて、定量PCR(qPCR)解析を行なって、DDCを含む飼料で飼育している間中、CD133の発現量が上昇すること、及び卵形細胞マーカーであるCK19、CK7及びAFPの発現も上昇することを確認した(図4A)。CD133タンパク質それ自体もまた、DDCマウスの肝臓中に蓄積していた(図4B)。興味深いことは、CD133、CK19及びCK7のmRNAの発現レベルがDDCを含む飼料で飼育して、即ちDDCを摂食させて2週間後の時点で同時にピークを迎えるのに対して、AFPのレベルは、DDCの摂食を開始してから1週間までに速やかに上昇することである(図4A)。免疫蛍光染色による解析により、No−DDCマウスの肝臓の胆管上皮細胞及びDDCマウスの肝臓中で増殖している卵形細胞の両方について、CD133が陽性であることがわかった(図4C〜D)。以上の結果から、CD133はDDCを摂食させていないマウスの肝臓の胆管上皮細胞及びDDCを摂食させることによって出現する卵形細胞の両方のマーカーとなり得ることが示された。
参考文献16:Lemire JM, Shiojiri N, Fausto N. Oval cell proliferation and the origin of small hepatocytes in liver injury induced by D-galactosamine. Am J Pathol 1991; 139: 535-552.
参考文献17:Fujio K, Evarts RP, Hu Z, et al. Expression of stem cell factor and its receptor, c-kit, during liver regeneration from putative stem cells in adult rat. Lab Invest 1994; 70: 511-516.
参考文献18:Omori N, Omori M, Evarts RP, et al. Partial cloning of rat CD34 cDNA and expression during stem cell-dependent liver regeneration in the adult rat. Hepatology 1997; 26: 720-727.
参考文献19:Petersen BE, Goff JP, Greenberger JS, et al. Hepatic oval cells express the hematopoietic stem cell marker Thy-1 in the rat. Hepatology 1998; 27: 433-445.
参考文献20:Matsusaka S, Tsujimura T, Toyosaka A, et al. Role of c-kit receptor tyrosine kinase in development of oval cells in the rat 2-acetylaminofluorene/partial hepatectomy model. Hepatology 1999; 29: 670-676.
【0038】
実施例2:フローサイトメトリーを用いたCD133+細胞の単離
CD133+肝臓細胞を単離するために、No−DDCマウスの肝臓及びDDCマウスの肝臓から得られた単一細胞を、CD133、CD45(白血球共通抗原)及びTer119(グリコホリンによく似た分子で未成熟な赤血球系細胞上に独占的に発現している)の発現に基づきフローサイトメトリーを用いて分画した。非造血系のCD45−Ter119−細胞集団中のCD133+細胞の割合はDDCを摂食させなかったマウスの肝臓に比べDDCを摂食させたマウスの肝臓の方が5倍以上も高かった(図5A)。DDCマウスの肝臓中でのCD45+及びTer119+造血系細胞の割合の増加は、DDCによって引き起こされる炎症反応の増強に関係しているかもしれない。No−DDCマウスの肝臓及びDDCマウスの肝臓からすぐに単離したCD133+CD45−Ter119−細胞の免疫蛍光染色解析から、全細胞で、CK7の発現は認められたがアルブミンの発現は認められなかった(アルブミンは肝臓細胞のマーカータンパク質である)(図5B)。
次に、No−DDCマウスの肝臓及びDDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞を特徴付けるために、これらの細胞を低密度で培養した。IV型コラーゲンでコーティングした6ウェルプレートの各ウェルに1000個の細胞を播種した。6ウェルプレートでは、細胞は増殖しコロニーを形成することができるのでセミ・クローン解析が可能である。この条件で、No−DDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞は、細胞培養8日経過した時点でも、10〜50個の細胞から構成される小コロニーを形成するのみであった(図5C)。一方、DDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞は、小コロニーだけでなく、数百の細胞から構成される大コロニーもまた形成することができた(図5C)。これら2つの型の細胞コロニーは培養中のそれらの大きさによって容易に区別することができる。CD133+CD45−Ter119−細胞を単離し培養すると小コロニー及び大コロニーの両方ともを頻繁に生じたが、CD45+Ter119+細胞亜集団やCD133−CD45−Ter119−細胞亜集団から単離された細胞ではコロニーは形成されないか、されても僅かであった(図5D)。大コロニーを形成する細胞の出現はDDC処置に強く依存しており、小コロニーの数もまた、DDCを摂食させたマウスの肝臓では5倍上昇していた(図5D)。さらに、DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞による大コロニーの形成には、培養条件として、成長因子〔肝臓細胞増殖因子(HGF)及び/又は上皮増殖因子(EGF)〕と細胞外マトリックス(ECM)成分(IV型コラーゲン又はラミニン)を必要とすることがわかった(図6参照)。
【0039】
実施例3:単一細胞培養及びCD133+CD45−Ter119−細胞のクローン解析
CD133+CD45−Ter119−細胞の潜在性を調べるために、本発明者らはフローサイトメトリーによって細胞のクローン選別を行い、その後IV型コラーゲンをコーティングした96ウェルプレートの各ウェルで細胞を培養することを試みた。セミ・クローナルな低密度培養条件と同様に、CD133+CD45−Ter119−細胞亜集団から単離された細胞は、肝臓がDDC処置を受けたものであるか否かに応じて、各ウェルで小コロニーあるいは大コロニーを形成した(図7)。CD133+CD45−Ter119−細胞の単一細胞培養におけるクローナルなコロニー形成により、もとの細胞から分化した細胞の研究及び特徴づけが可能になる。Alb及びCK7に対する抗体を用いた免疫蛍光染色解析から、培養6日後及び18日後では、DDCマウスの肝臓及びNo−DDCマウスの肝臓に由来する小コロニーの大部分は、CK7のみを発現する細胞で構成されていることがわかった(図8A、B)。対照的に、培養6日後では、大コロニーの半分はCK7+細胞、Alb+CK7+細胞、及び少数のAlb+細胞から構成され、残りの半分のコロニーは独占的にCK7+細胞によって構成されていた(図8A、B)。しかしながら18日後には、70%以上の大コロニーは最終的にはAlb+細胞、CK7+細胞、及び少数のAlb+CK7+細胞から構成されるようになった(図8A、B)。コロニーサイズや培養期間の長さに係らず、Alb+細胞のみで形成されるコロニーは観察されなかった(図8B)。RT−PCRによる解析は、また、大コロニーに含まれる細胞が、肝細胞及び胆管上皮細胞のマーカーをコードしている複数の遺伝子(トリプトファン−2,3−ジオキシゲナーゼ、グルタチオン S−トランスフェラーゼ、及びグルタミン合成酵素等といった成熟肝細胞で検出される遺伝子を含む)を発現していることを示した(図9)。cKit、CD34及びThy1等の卵形細胞のマーカーとして報告されている遺伝子がすべての大コロニーで発現しているわけではないことは興味深い。さらに、3週間以上培養した大コロニーでは、機能的に成熟した肝細胞に類似する、十分にグリコーゲンを蓄積した、多くの二核性のAlb+細胞がコロニーの中央付近に出現した(図8C、D)。DDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞は、最初はCK7に陽性であるがAlbに対しては陰性である(図5B)ので、大コロニーを形成することができる細胞は培養過程でAlb+の成熟した肝細胞へと分化する子孫を生み出すものと考えられた。
【0040】
実施例4:CD133+CD45−Ter119−細胞の自己複製能
次に、DDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞に自己複製能があるかを調べるためにサブクローニング実験を行なった。IV型コラーゲンをコーティングした96ウェルプレートの各ウェル中で形成された個々のクローナルなコロニー中の細胞をトリプシン処理し、IV型コラーゲンをコーティングした6ウェルプレートに再播種した。培養14日後、DDCマウスの肝臓を起源とする継代培養した細胞からは多くの大コロニー(一つのコロニーから5〜10個のコロニー)が生じたが、No−DDCマウスの肝臓を用いた場合には大コロニーを生じることはなかった(図10A)。これらの二次的コロニー中の細胞をトリプシン処理し、クローン選別にかけ単一細胞培養を行なった。再び大コロニーを形成できる再選別された細胞の割合は低かった(1〜3%)が、形成したコロニーの80%以上において、培養18日目までにAlb+細胞及びCK7+細胞の両方に分化した細胞が含まれていた(図10C)。大コロニーを形成した最初に選別した細胞と同様に、再選別された細胞によって再び形成された大コロニーでは培養過程で次第にAlb+細胞を生じるようになったが、Alb+細胞のみを含むコロニーは形成されなかった(図10C)。これらのデータは、DDCを摂食させたマウスの肝臓から単離された、大コロニーを形成するCD133+CD45−Ter119−細胞がAlb+肝細胞及びCK7+胆管上皮細胞を子孫として生み出すだけでなく、培養中、自己複製する細胞分裂によって肝細胞と胆管上皮細胞へ分化可能な細胞を維持し続けていることを示している。
【0041】
実施例5:CD133+CD45−Ter119−細胞のインビボでの分化能及び肝組織再構築能
傷ついた組織の再構成と機能修復は、器官幹細胞及び器官前駆細胞が有する特別な役割の一つである。以前に報告されたように、DDCを摂食させた成体マウスの肝臓から単離された卵形細胞には、FAH欠損マウスの肝臓に移植することにより肝組織を再構築する能力がある(参考文献21)。DDCを摂食させたマウスの肝臓細胞から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞もまた同様に肝組織を再構築することができ卵形細胞として定義され得るのか否かを決定するために、これらの細胞をFAH−/−マウスの肝臓に脾臓内移植した。ここで用いたFAH−/−マウスは、FAHをターゲット破壊したES細胞から作製したものであり(上記した、「FAH変異マウスの作製」の項を参照、図2)、これらのマウスは他のFAH変異マウスと表現型の上では識別不可能である。本発明において、本発明者らは、肝組織(すなわち、成熟肝細胞)を再構築できる他の細胞種の混入の可能性を排除するために、単一のCD133+CD45−Ter119−細胞由来のクローン化した子孫細胞をドナー細胞として用いた。移植後1及び2ヶ月経過した時点で、FAH+ドナー細胞は、全てのレシピエントマウスで広範に生着し、肝小結節を再構築した。これらのマウスは長期間2−(2−ニトロ−4−トリフルオロメチルベンゾイル)−1,3−シクロヘキサンジオン(NTBC)を中止しても生存することができた(図11A−C)。さらに、免疫蛍光染色及び過ヨウ素酸シッフ試薬(PAS試薬)染色により、FAH+ドナー由来の細胞がAlbを発現し、十分にグリコーゲンを蓄積していることが明らかになった(データ示さず)。これらのデータは、ドナー細胞のプール内に他の細胞系列の混入の可能性がないので、DDCを摂食させたマウスの肝臓から単離され、増殖しているCD133+CD45−Ter119−細胞は、形態学上及び機能的に成熟した肝細胞を生み出すことによって肝組織を再構築する能力を有していることを示している。即ち、DDCを摂食させたマウスの肝臓から単離され、増殖しているCD133+CD45−Ter119−細胞を肝臓卵形細胞と定義付けすることが可能である。
参考文献21:Wang X, Foster M, Al-Dhalimy M, et al. The origin and liver repopulating capacity of murine oval cells. Proc Natl Acad Sci USA 2003; 100 Suppl 1: 11881-11888.
【0042】
実施例6:p53欠失CD133+CD45−Ter119−細胞による肝癌形成
DDCをマウスに与える実験系と同様に、Dipin(シスプラチン)やコリン欠乏エチオニン添加食を用いたげっ歯類の肝癌発生の幾つかの実験モデルにおいて、並びにより頻度高く肝癌へと進行するヒト肝臓の病変(C型肝炎ウイルス、ヘモクロマトーシス及びアルコール性肝疾患等)においてもまた卵形細胞が観察されている(参考文献1〜5)。
このことは、形質転換された卵形細胞がげっ歯類及びヒト両方での肝癌の起源の候補となり得ることを示唆している。この考え方は、また、多くのタイプの癌で想定上の癌始原細胞あるいは癌幹細胞の存在を示す最近の証拠によってサポートされている(参考文献22〜30)。この考え方に一致して、コリン欠乏エチオニン添加食を与えたp53欠失マウス由来の卵形細胞が不死化細胞株を生み出し、ヌードマウスに注射することによって腫瘍細胞を作り出すことが報告されている(参考文献31)。
CD133+CD45−Ter119−細胞が腫瘍形成を開始し得るのか否かを調べるために、DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓からCD133+CD45−Ter119−細胞を単離した。DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞は、大コロニーを形成し増殖したが、DDCを摂食させていないp53−/−マウスの肝臓から単離された細胞では大コロニーを形成せず増殖もしなかった。これは野生型マウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞に類似した結果であった(図12A)。しかしながら、DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓から得られたCD133+CD45−Ter119−細胞は、肝細胞及び胆管上皮細胞へ分化する能力には影響を受けていない(図12C−D)ものの、野生型マウスの肝臓由来のものに比べてよりサイズが小さく、また顕著に高い増殖能を有していた(図12A−B)。DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞から増幅させたクローン性の細胞を、非肥満性糖尿病重症免疫不全(NOD/SCID)マウスに皮下注射して2ヶ月後、Alb+肝細胞及び胆管様構造を形成するケラチン+胆管上皮細胞を含有する腫瘍が、全動物で形成された。一方、野生型マウス由来の細胞を移植した肝臓では腫瘍は形成されなかった(図12E−K)。従って、DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞は、肝細胞癌及び胆管癌の両方の特徴を有する腫瘍を形成することができ、これらの細胞は、p53の機能を欠失させることにより腫瘍を引き起こす能力を獲得する肝臓卵形細胞として特徴づけることができる。
参考文献22: Bonnet D, Dick JE. Human acute myeloid leukemia is organized as a hierarchy that originates from a primitive hematopoietic cell. Nat Med 1997; 3: 730-737.
参考文献23:Al-Hajj M, Wicha MS, Benito-Hernandez A, et al. Prospective identification of tumorigenic breast cancer cells. Proc Natl Acad Sci USA 2003; 100: 3983-3988.
参考文献24:Singh SK, Hawkins C, Clarke ID, et al. Identification of human brain tumour initiating cells. Nature 2004; 432: 396-401.
参考文献25:Collins AT, Berry PA, Hyde C, et al. Prospective identification of tumorigenic prostate cancer stem cells. Cancer Res 2005; 65: 10946-10951.
参考文献26:Ricci-Vitiani L, Lombardi DG, Pilozzi E, et al. Identification and expansion of human colon-cancer-initiating cells. Nature 2007; 445, 111-115.
参考文献27:O'Brien CA, Pollett A, Gallinger S, et al. A human colon cancer cell capable of initiating tumour growth in immunodeficient mice. Nature 2007; 445: 106-110.
参考文献28:Prince ME, Sivanandan R, Kaczorowski A, et al. Identification of a subpopulation of cells with cancer stem cell properties in head and neck squamous cell carcinoma. Proc Natl Acad Sci USA 2007; 104: 973-978.
参考文献29:Zucchi I, Sanzone S, Astigiano S, et al. The properties of a mammary gland cancer stem cell. Proc Natl Acad Sci USA 2007; 104: 10476-10481.
参考文献30:Li C, Heidt DG, Dalerba P, et al. Identification of pancreatic cancer stem cells. Cancer Res 2007; 67: 1030-1037.
参考文献31:Dumble ML, Croager EJ, Yeoh GC, et al. Generation and characterization of p53 null transformed hepatic progenitor cells: oval cells give rise to hepatocellular carcinoma. Carcinogenesis 2002; 23: 435-445.
【配列表フリーテキスト】
【0043】
配列番号1:CK7 RT−PCRプライマー
配列番号2:CK7 RT−PCRプライマー
配列番号3:ターゲティングベクター配列の5’アーム増幅用プライマー。
配列番号4:ターゲティングベクター配列の5’アーム増幅用プライマー。
配列番号5:ターゲティングベクター配列の3’アーム増幅用プライマー。
配列番号6:ターゲティングベクター配列の3’アーム増幅用プライマー。
配列番号7:プライマー、FAHwt-F
配列番号8:プライマー、FAHmut-F
配列番号9:プライマー、FAHwt/mut-R
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、組織切片及び培養細胞の免疫染色に用いる1次抗体の種類、その入手先、及び反応条件等をまとめた図である。
【図2】図2は、FAH変異マウス(ヌルアレル)を作製するための手順を示した図である。(A)ES細胞における相同組換えによるマウスFAHの標的破壊(B)もとになるES細胞及びターゲッティングされたES細胞ゲノムの5’及び3’プローブを用いたサザンブロット(C)FAH+/+野生型、FAH+/−ヘテロ接合体及びFAH−/−マウスの尾の端から得られたゲノムDNAを用いたPCRジェノタイピングM:マーカー
【図3】図3は、卵形細胞が誘導されるのと同時にCD133の発現が上昇することを示した図である。(A)No−DDCマウスの肝臓(上パネル)及びDDCマウスの肝臓(下パネル)におけるA6の免疫組織学的染色。DDCを摂食させて2週間で肝臓の門脈の周辺に卵形細胞の増殖が誘導される。胆管上皮細胞及び卵形細胞の両方でA6が発現している。スケールバー;500μm(B)No−DDCマウス及びDDCマウス(摂食期間2週間)の肝臓における複数の遺伝子の発現をマイクロアレイ解析により比較した。このグラフは、卵形細胞の増殖が活性化された場合に発現が増加する遺伝子、及びCD133の発現のデータを示している。全てのデータは、No−DDCマウスの肝臓を用いた場合の値で標準化し、何倍の差があるかで示した。
【図4】図4は、胆管上皮細胞及びDDCで誘導された卵形細胞におけるCD133の特異的発現を示した図である。(A)No−DDCマウスの肝臓及びDDCを摂食させた(1〜4週間)マウスの肝臓の、qPCRによる遺伝子発現解析の結果を示す。全てのデータは、No−DDCマウスの肝臓を用いた場合の値で標準化し、何倍の差があるかで示した。平均値±標準偏差(n=3)で示した。(B)No−DDCマウスの肝臓及びDDCを摂食させた(1〜4週間)マウスの肝臓から得られたタンパク質サンプルのウエスタンブロットの結果を示す。(C−D)No−DDCマウスの肝臓及びDDCを摂食させた(2週間)マウスの肝臓の、CD133とA6との(図C)あるいはCD133とケラチンとの(図D)二重免疫蛍光染色の染色像を示す図である。DNAはDAPIで染色した。スケールバー;100μm
【図5】図5は、フローサイトメトリーにより単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞のインビトロでのセミ・クローナルなコロニー解析の結果を示した図である。(A)細胞表面マーカーの発現に基づいて、No−DDCマウスの肝臓由来の細胞及びDDCマウスの肝臓由来の細胞をフローサイトメトリーによって分画した。まず、CD45+細胞及びTer119+細胞にゲートをかけ、No−DDCマウスの肝臓細胞及びDDCマウスの肝臓細胞から血球系細胞を排除した。次いで、CD45−Ter119−細胞(それぞれの比率は各々の左のパネルに示されている)をCD133の発現に基づいてさらに分画した。インビトロのコロニー解析のためには、ソーティングゲートをCD133+CD45−Ter119−細胞亜集団及びCD133−CD45−Ter119−細胞亜集団に設定した。CD45−Ter119−細胞におけるCD133+細胞の割合並びに分画していない全細胞におけるCD133+細胞の割合を、各右のパネルに、括弧の外と中に%でそれぞれ示した。アイソタイプコントロール抗体で染色された、No−DDCマウスの肝臓由来の細胞をコントロールとして用いた(上段のパネル)。(B)フローサイトメトリーによって、No−DDCマウスの肝臓及びDDCマウスの肝臓から単離してすぐにガラススライドに接着させたCD133+CD45−Ter119−細胞に対して、アルブミン(Alb)とサイトケラチン(CK)7との二重免疫蛍光染色を行なった。DNAはDAPIで染色した。スケールバー;50μm(C)No−DDCマウスの肝臓及びDDCマウスの肝臓から単離したCD133+CD45−Ter119−細胞は、8日間培養した後、セミ・クローナルなコロニーを形成した。大コロニーは、DDCマウスの肝臓から得られるCD133+CD45−Ter119−細胞からのみ形成された。各コロニーの形態を示す。スケールバー;500μm(上段パネル)、100μm(下段パネル)。(D)No−DDCマウスの肝臓及びDDCマウスの肝臓由来の各細胞亜集団について1000細胞あたりの小コロニー及び大コロニーの数を示す。このグラフは、3つの個別に行なった実験中、各細胞亜集団について12ディッシュの平均を示すものである(平均値±標準偏差)。
【図6】図6は、DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞のコロニー形成能が、培養液中の増殖因子(GF)及び細胞外マトリックス(ECM)に強く依存していることを示す図である。(A)DDCマウスの肝臓からCD133+CD45−Ter119−細胞を単離し、IV型コラーゲンでコーティングされた6ウェルプレートのウェル中で、増殖因子の存在下あるいは非存在下、低密度培養条件下で培養した。細胞は培養8日後、HGF及び/又はEGFが存在する場合にのみ大コロニーを形成することができた。各コロニーを示す。スケールバー;500μm(上段パネル)、100μm(下段パネル)。(B)DDCマウスの肝臓から単離された細胞(CD133+CD45−Ter119−細胞)1000個あたりの小コロニー及び大コロニーの数を示す図である。細胞は、IV型コラーゲンでコーティングされた6ウェルプレート中、HGF及び/又はEGFの存在下、あるいは非存在下で8日間培養してコロニーを形成させた(n=3、平均値±標準偏差)。(C)DDCマウスの肝臓から単離された細胞(CD133+CD45−Ter119−細胞)1000個あたりの小コロニー及び大コロニーの数を示す図である。細胞は、コーティング処理していない6ウェルプレート(コート処理なし)、IV型コラーゲンでコーティングされた6ウェルプレート、あるいはラミニンでコーティングされた6ウェルプレート中、HGF及びEGFの存在下で8日間培養してコロニーを形成させた(n=8、平均値±標準偏差)。
【図7】図7は、CD133+CD45−Ter119−細胞の単一細胞培養とクローナルなコロニー形成を示した図である。(A)No−DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞の単一細胞培養。IV型コラーゲンをコーティングした96ウェルプレートのウェル中で、培養8日後に形成された代表的な小コロニーを示す。(B−C)Aで示された小コロニーを拡大した像である。スケールバー:500μm(B)、100μm(C)(D)DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞の単一細胞培養。IV型コラーゲンをコーティングした96ウェルプレートのウェル中で、培養8日後に形成された代表的な大コロニーを示す。(E−F)Dで示された大コロニーを拡大した像である。スケールバー:500μm(E)、100μm(F)
【図8】図8は、DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞からの多系列のコロニー形成(インビトロ)を示した図である。(A)No−DDCマウスの肝臓あるいはDDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞の単一細胞培養(6日間及び18日間)により得られたクローナルなコロニーに対してAlb及びCK7の二重免疫蛍光染色を行なった。代表的なコロニーを示す。DNAをDAPIで染色した(下段パネル)。スケールバー:100μm(B)No−DDCマウスの肝臓あるいはDDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞から形成されるコロニーに対して、Alb+細胞及びCK7+細胞、Alb+細胞及びCK7−細胞、Alb−細胞及びCK7+細胞、又はAlb−細胞及びCK7−細胞によって構成されているクローナルなコロニーの割合を、Alb及びCK7の二重免疫蛍光染色によって測定した。培養6日後、及び18日後のコロニーについて調べた。No−DDCマウスの肝臓あるいはDDCマウスの肝臓に由来するCD133+CD45−Ter119−細胞から形成される小コロニーのデータはよく似ていた。本グラフは3つの独立した実験の平均値を示している(平均値±標準偏差)。各実験で調べたコロニーの数は16〜62個である。(C)No−DDCマウスとは異なり、DDCマウスの肝臓に由来するCD133+CD45−Ter119−細胞は、培養25日後には、十分にグリコーゲンを蓄積している機能的な成熟肝細胞を生み出すことがPAS染色によって明らかになった。スケールバー:100μm(D)クローナルなコロニーについてAlbの免疫蛍光染色を行なうことにより、培養30日後には、二核性のAlb+成熟肝細胞がDDCを摂食させたマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞から分化してくることが明らかとなった。DNAはDAPIで染色した。スケールバー:100μm
【図9】図9は、DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞の単一培養細胞によって形成された大コロニー12株について、各系列のマーカー遺伝子の発現を調べた結果を示した図である。18日目にRT−PCRを用いて調べた。
【図10】図10は、DDCマウスの肝臓から単離された1個のCD133+CD45−Ter119−細胞に由来する二次的にクローン選別された子孫の多能性を示す図である。(A)個々のコロニー内で細胞を14日間継代培養することにより、DDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞の1つの子孫からは2次的なコロニーが形成されたが、No−DDCマウスの肝臓から単離されたものからではコロニーは形成されなかった。これらの二次コロニーをTuerk’s溶液で染色し写真撮影した。さらにDDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞の自己複製能を解析するために、二次コロニーの細胞に対しフローサイトメトリーにより二次クローン選別を行なって単一細胞培養を行なった。(B)DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞の再選別された子孫を単一細胞培養して18日後、Alb及びCK7の二重免疫蛍光染色を行なった。代表的なコロニーを示す。DNAはDAPIで染色した。スケールバー:100μm(C)DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞の再選別された子孫から形成されたこれらのコロニーについて、Alb+細胞及びCK7+細胞、Alb+細胞及びCK7−細胞、Alb−細胞及びCK7+細胞、あるいはAlb−細胞及びCK7−細胞によって、培養18日後に構成されるクローナルなコロニーの割合を、Alb及びCK7の二重免疫蛍光染色によって測定した。このグラフは、3つの独立した実験の平均値を示すものである(平均値±標準偏差)。各実験で調べたコロニーの数は12〜21個である。
【図11】図11は、DDCマウスの肝臓から単離された単一のCD133+CD45−Ter119−細胞由来の増殖したクローン性の子孫が、インビボで肝組織を再構築することができたことを示した図である。(A)NTBCを与えたFAH−/−マウス(上段パネル)及びDDCを摂食させたマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞のクローン性の子孫を培養して調製される細胞を移植して2ヶ月後のFAH−/−マウス(下段パネル)の肝臓について、FAHの免疫組織化学的染色を行なった。ドナー細胞に由来するFAH+肝小結節がレシピエントマウスの肝臓で多く観察された。差込図は各スライドのヘマトキシリン肝臓染色の像を示している。(B−C)レシピエントFAH−/−マウスの肝臓におけるドナー細胞に由来するFAH+肝小結節の拡大図である。移植1ヶ月後(B)及び2ヶ月後(C)。スケールバー:100μm
【図12】図12は、DDCマウスの肝臓から単離されたp53欠失CD133+CD45−Ter119−細胞による肝癌形成の様子を示した図である。(A)p53の欠落に係らず、クローナルな大コロニー及び小コロニーが、DDCを摂食させた、あるいは摂食させていないマウスの肝臓から単離された。これは野生型(p53+/+)のマウス由来のCD133+CD45−Ter119−細胞での結果と同様である。しかしながら、DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓に由来するCD133+CD45−Ter119−細胞から増殖した細胞は、野生型のマウスの肝臓に由来するものに比べて小さかった。スケールバー:100μm(B)DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓から単離された単一のCD133+CD45−Ter119−細胞のクローン原性の子孫はDDCを摂食させた野生型のマウスに由来するものに比べてより活発に増殖した。IV型コラーゲンをコーティングした6ウェルプレートの各々に1000個の細胞を播種した(n=3、平均値±標準偏差)。(C−D)DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞を18日間単一細胞培養し、形成された大コロニーについてAlb及びCK7の二重免疫蛍光染色を行なった(C)。代表的なコロニーを示す。DNAはDAPIで染色した(D)。スケールバー:50μm(E)DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓由来の単一CD133+CD45−Ter119−細胞のクローン性の子孫は、NOD/SCIDレシピエントマウスに皮下注射2ヵ月後には腫瘍を形成したが、野生型マウス由来のものは腫瘍を形成しなかった。(F)Eに示したレシピエントマウスから解離された腫瘍。スケールバー:1cm(G−H)胆管様構造を有する(H)あるいは有さない(G)腫瘍領域のヘマトキシリン−エオシン(HE)染色。G−Kに示されるデータはFに存在する腫瘍から得られたものである。スケールバー:100μm(I−K)多くのAlb+細胞及び僅かなケラチン+細胞を含有する腫瘍の領域(I)、胆管様構造を形成する多くのケラチン+細胞及び僅かなAlb+細胞を含有する腫瘍の領域(J)、及びAlb+細胞及び胆管様構造を形成するケラチン+細胞の両方を含有する腫瘍の領域(K)。スケールバー:100μm
【技術分野】
【0001】
本発明は肝臓の卵形細胞を分離・取得するための方法に関する。より詳細には、本発明は、卵形細胞に特徴的な表現型に基づいて、卵形細胞を選別・分離・取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、増殖する細胞区画に応じて2つの異なる方法で再生することができる。部分的な肝切除(ヘパテクトミー:PH)あるいは化学的な傷害の後に、残った肝組織中の細胞、特に肝臓細胞が迅速に増殖しいかなる肝臓幹細胞や前駆細胞からの寄与もなく無くした細胞を回復することができる。しかしながら、肝臓細胞の増殖が、何らかの慢性的な傷害によって損なわれた場合には、再生のためのシグナルが、肝小葉の門脈周辺に「卵形細胞(oval cell)」と称される小さな上皮細胞の出現を引き起こす。ダメージを受けた肝臓を再生するために劇的に増殖する能力を有すること、及び肝細胞や胆管上皮細胞へと分化する能力を有することから、卵形細胞は、一過的に増幅する肝臓前駆細胞であると考えられている(非特許文献1)。
【0003】
遠心分離水簸ならびに肝臓実質細胞及び肝臓非実質細胞の種々の特徴についての組織化学的解析により卵形細胞が単離され得ることが報告されている(非特許文献2)。密度勾配遠心法をパンニングあるいはフローサイトメトリーを用いた細胞ソーティングと組み合わせて、さらに卵形細胞を濃縮し、それらのインビトロあるいはインビボでの増殖能及び分化能が調べられている(非特許文献3、4)。これらの手法により単離された細胞集団は非常に多くの卵形細胞を含有するものであったが、依然として他の系列の細胞が混じったものであり、卵形細胞のみを特異的に分離する方法が求められている。
【0004】
本発明者ら、並びに他の研究者らによって、発生中のマウスの肝臓から肝幹細胞及び前駆細胞を生成するための戦略が報告されている(非特許文献5〜7)が、肝臓卵形細胞のみを他の細胞から完全に引き離して解析することができず、卵形細胞の多能性や組織再構築能を実験的に証明することは困難であった。
【非特許文献1】Fausto N, Campbell JS. The role of hepatocytes and oval cells in liver regeneration and repopulation. Mech Dev 2003; 120: 117-130.
【非特許文献2】Yaswen P, Hayner NT, Fausto N. Isolation of oval cells by centrifugal elutriation and comparison with other cell types purified from normal and preneoplastic livers. Cancer Res 1984; 44: 324-331.
【非特許文献3】Germain L, Noel M, Gourdeau H, et al. Promotion of growth and differentiation of rat ductular oval cells in primary culture. Cancer Res 1988; 48: 368-378.
【非特許文献4】Wang X, Foster M, Al-Dhalimy M, et al. The origin and liver repopulating capacity of murine oval cells. Proc Natl Acad Sci USA 2003; 100 Suppl 1: 11881-11888.
【非特許文献5】Suzuki A, Zheng YW, Kondo R, et al. Flow cytometric separation and enrichment of hepatic progenitor cells in the developing mouse liver. Hepatology 2000; 32: 1230-1239.
【非特許文献6】Suzuki A, Zheng YW, Kaneko S, et al. Clonal identification and characterization of self-renewing pluripotent stem cells in the developing liver. J Cell Biol 2002; 156: 173-184.
【非特許文献7】Tanimizu N, Nishikawa M, Saito H, et al. Isolation of hepatoblasts based on the expression of Dlk/Pref-1. J Cell Sci 2003; 116: 1775-1786.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は肝臓から肝臓卵形細胞を単離・同定する方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、肝臓卵形細胞を単一細胞培養する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、三種類の細胞表面マーカーの発現状況、具体的にはCD133、CD45及びTer119の三種類の細胞表面マーカーの発現状況を調べることによって、肝臓の卵形細胞を高度に分離・取得し得ることを見出し、さらに卵形細胞のクローナルな培養条件を見出して本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の通りである。
【0007】
[1]CD133、CD45及びTer119の発現を調べる工程を含む、哺乳動物から肝臓卵形細胞を分離及び/又は取得する方法。
[2]CD133を発現し、CD45及びTer119を発現していない細胞を選別する工程をさらに含む、上記[1]記載の方法。
[3]肝臓卵形細胞の産生を誘導する工程をさらに含む、上記[1]又は[2]記載の方法。
[4]肝臓卵形細胞を成長因子及び細胞外マトリックスの存在下で培養する工程をさらに含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]成長因子が、HGF及び/又はEGFである、上記[4]記載の方法。
[6]細胞外マトリックスがコラーゲン又はラミニンである、上記[4]記載の方法。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法によって哺乳動物の肝臓から分離及び/又は取得される肝臓卵形細胞。
[8]CD133、CD45及びTer119の3つの細胞表面マーカーをCD133+、CD45−及びTer119−のパターンで呈する、肝臓卵形細胞。
[9]哺乳動物の肝臓における分化に影響を及ぼす物質をスクリーニングするための方法であって、以下の工程を含む方法;
(1)肝臓卵形細胞と被検物質とを反応させる工程、
(2)反応後の細胞について肝臓マーカーの発現を測定する工程。
【発明の効果】
【0008】
肝幹/前駆細胞の最有力候補である卵形細胞は、存在頻度が低いため、通常の細胞分離法では純化することができず、他の細胞が混在した状況でしか解析することができなかった。そのため卵形細胞を成体肝幹/前駆細胞とする実験的証拠はこれまで存在しなかった。卵形細胞の細胞表面に特異的に発現する抗原分子を指標にして卵形細胞を分離・回収する本発明の方法、及び当該卵形細胞の単一細胞培養によって卵形細胞に対する極めて精度の高い機能解析が可能となる。
ヒト肝臓組織、特に、癌等の病態で卵形細胞様の細胞を解析することによって、癌幹細胞としての性質を調べることが可能となる。また、卵形細胞を肝幹/前駆細胞として用いることにより、肝臓における分化を誘導する物質のスクリーニング方法の確立が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。本明細書に記載されたものと同様又は同等の任意の方法及び材料は、本発明の実施又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。本明細書で言及したすべての刊行物及び特許は、例えば、記載された発明に関連して使用されうる刊行物に記載されている、構築物及び方法論を記載及び開示する目的で、参照として本明細書に組み入れられる。
【0010】
本発明の取得方法及び培養方法の対象となる肝臓卵形細胞は、任意の哺乳動物の肝臓に由来する。ここで「哺乳動物」とは、具体的にはヒトをはじめウシ、ウマ、イヌ、モルモット、マウス、ラット等が挙げられる。好ましくはヒトであるが、基礎医学的研究の見地からは、マウスやラット等の実験動物としてよく用いられる動物も又、好ましい。
【0011】
本発明の肝臓卵形細胞は、任意の哺乳動物の肝臓に由来するが、好ましくは肝臓卵形細胞の産生を誘導するような処理が施された肝臓に由来する。肝臓卵形細胞の産生を誘導するような処理としては、例えば3,5−ジエトキシカルボニル−1,4−ジヒドロコリジン(DDC)を含む飼料をマウスに与えることによって、マウスの肝臓内で卵形細胞を産生、増殖させることができる(DDCモデル)。又、発癌剤の一種である2−アセチルアミノフルオレン(2−AAF)を投与した後に部分肝切除を行なったラットにおいても、卵形細胞の出現が報告されている(2−AAF/PHモデル)。
肝臓、好ましくはDDCを摂食させたマウス等の肝臓は、取り出し細かく切り刻んで、振動等の物理的な手段によって、EGTAあるいはEDTA等を用いた化学的な処理によって、あるいはコラゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、ジスパーゼ等のプロテアーゼを用いた酵素的な処理によって細胞を分散することによって単一細胞懸濁液としてから、後述する細胞表面マーカー(CD133、CD45及びTER119)の発現を調べる工程を行なう。
【0012】
本発明は、CD133、CD45及びTER119の発現を調べる工程を含む、哺乳動物から肝臓卵形細胞を分離及び/又は取得する方法を提供する。CD133(プロミニン−1としても知られている)蛋白質は、5回膜貫通型の糖蛋白質であって、造血幹細胞、前駆細胞のマーカーであると同時に、近年、神経系腫瘍、前立腺癌、大腸癌の癌幹細胞マーカーの一つであることが報告されている。CD45は、白血球共通抗原の1種で、赤血球、血小板およびそれらの前駆細胞を除く、すべての造血性細胞に発現していることが知られている。TER119は、赤血球系細胞を選別するための有効な細胞表面マーカーであることが知られている。
本発明はこれらの蛋白質またはそれをコードする遺伝子が肝臓卵形細胞においては特有の発現様式を示すという新たな知見に基づいている。
【0013】
本明細書中、「マーカー」とは特にことわりのない限り、このような肝臓卵形細胞に特有な発現様式を示す一連の蛋白質又はそれをコードする遺伝子から構成される群の各々を意味する。かかるマーカー蛋白質は哺乳動物の種類等によってそのアミノ酸配列が異なる場合があり、本発明においてはその肝臓卵形細胞における発現様式が同じである限り、そのような蛋白質もマーカー蛋白質として使用することができ、本発明の範囲内である。具体的には、それぞれの蛋白質についてアミノ酸配列で40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上の相同性を有するホモローグも本発明のマーカー蛋白質、すなわちCD133、CD45及びTER119として用いることができる。本発明はこれらのマーカー蛋白質及び/またはそれをコードする遺伝子の発現状況を、各マーカー蛋白質またはそれをコードする遺伝子と特異的な親和性を有する物質を用いてそれらの発現を調べる工程を含む。
【0014】
本明細書中、「用いて」という用語について、その方法は特に限定されず、具体的には、例えばマーカー蛋白質と特異的親和性を有する物質を用いる場合であれば該マーカー蛋白質の抗体との抗原抗体反応を利用する方法が挙げられ、又、マーカー蛋白質をコードする遺伝子と特異的親和性を有する物質を用いる場合であればハイブリダイゼーション反応を利用する方法が挙げられる(詳細な手順については後述する)。
【0015】
マーカー蛋白質と特異的な親和性を有する物質としては例えば当該蛋白質に特異的親和性を有する抗体またはその断片が挙げられ、その特異的親和性とは抗原・抗体反応により該蛋白質を特異的に認識し、結合する能力のことである。該抗体またはその断片は、当該蛋白質と特異的に結合可能なものであれば特に限定されず、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体およびそれらの機能的断片のいずれであってもよい。これらの抗体あるいはその機能的断片は、通常当分野で行なわれている方法によって製せられる。例えばポリクローナル抗体を用いる場合であれば、該蛋白質をマウスやウサギといった動物の背部皮下あるいは腹腔内あるいは静脈等に注射して免疫し、抗体価が上昇するのを待った後に抗血清を採取する方法が挙げられ、またモノクローナル抗体を用いる場合であれば、常法に従いハイブリドーマを作製して、その分泌液を採取する方法が挙げられる。抗体断片を製造する方法としてはクローニングした抗体遺伝子断片を微生物等に発現させる方法がよく用いられている。当該抗体、抗体断片等の純度は、当該蛋白質との特異的親和性を保持している限り、特に限定されない。これらの抗体またはその断片は、蛍光物質、酵素やラジオアイソトープ等で標識されていてもよい。好ましくは、蛍光物質で標識されている抗体またはその断片である。
さらに、これらは市販されているものを用いても良い。
【0016】
マーカー蛋白質をコードする遺伝子と特異的な親和性を有する物質としては、例えば当該遺伝子に特異的親和性を有するオリゴまたはポリヌクレオチドプローブ(以下、便宜上単にプローブともいう)、ならびにオリゴまたはポリヌクレオチドプライマー対(以下、便宜上単にプライマー対ともいう)が挙げられ、その特異的親和性とは、目的の遺伝子にのみハイブリダイズする性質を意味し、従って当該遺伝子の全部もしくは一部に完全相補的なものか、もしくは上記性質を満たす範囲で1乃至数個のミスマッチを含んでいても良い。該プローブ、プライマー対は、当該遺伝子に特異的親和性を有するものであれば特に限定されないが、例えば当該遺伝子の塩基配列の全部もしくは一部、ならびにそれらの相補配列を含むオリゴまたはポリヌクレオチド等が挙げられ、検出すべき遺伝子の形態に応じて適宜選択する。当該オリゴまたはポリヌクレオチドは当該遺伝子との特異的親和性を有している限りはその由来は特に限定されず、合成されたものであっても、当該遺伝子から必要な部分を切り出し、通常行なわれる方法によって精製されたものであってもよい。これらのオリゴまたはポリヌクレオチドは、蛍光物質、酵素やラジオアイソトープ等で標識されていてもよい。
【0017】
本発明の肝臓卵形細胞を分離及び/又は取得する方法は、上記三種類のマーカー蛋白質又はそれをコードする遺伝子とそれぞれ特異的親和性を有する物質を用いてそれらのマーカーの発現状況を解析することにより実施される。かかる解析によりCD133+、CD45−及びTer119−[CD133発現、CD45非発現、TER119非発現]という特徴を有する細胞を分離することによって、哺乳動物由来の肝臓卵形細胞を得ることができる。すなわち、本発明において分離及び/取得の対象となる、あるいは単一細胞培養の対象となる肝臓卵形細胞は、CD133、CD45及びTer119の3つの細胞表面マーカーをCD133+、CD45−及びTer119−のパターンで呈する。ここで「呈する」とは、それぞれのマーカー蛋白質またはそれをコードする遺伝子を「発現している」あるいは「発現していない」という特徴を有していることを意味する。
【0018】
各特異的親和性を有する物質を用いて、それぞれのマーカー発現のパターンを呈する細胞を選別、分離する方法は、通常、当分野で行われている方法及びそれらを組み合わせた方法が用いられる。例えば、蛋白質レベルでマーカーを解析する場合、特に細胞を生きた状態で回収する必要性がある場合には、当該物質を標識するための色素を適宜選択して、フローサイトメトリーを利用する方法が好都合である。より好適には、蛍光活性化セルソーター(FACS:fluorescence-activated cell sorter)を用いて、細胞を分離する。当該装置を用いることにより、目的とする細胞を自動で分離、回収することができる。
同定する場合等、生細胞としての回収が特に必要でない場合には、細胞を破砕し抽出してmRNAを回収し、ノザンブロットを行ってもよいし、また膜蛋白質を抽出してウエスタンブロットを行うこともできる。
【0019】
本発明においては、本発明の肝臓卵形細胞の分離及び/又は取得方法を用いて、哺乳動物の肝臓卵形細胞を得ることができる。かかる卵形細胞は、適当な培養条件下で単一細胞培養することができ、さらに生理学的機能を有する細胞、即ち成熟した肝細胞及び胆管上皮細胞へと分化し得る。ここで「適当な培養条件」とは、成長因子及び細胞外マトリックスが存在する培養条件を意味し、例えば、成長因子として肝臓細胞成長因子(hepatocyte growth factor, HGF)及び/又は上皮成長因子(epidermal growth factor, EGF)等のサイトカイン、及び細胞外マトリックスとしてコラーゲン(例えばIV型コラーゲン)又はラミニンを用いた培養条件を意味する。例えば、HGF及びEGFを含有する、Suzuki A, Zheng YW, Kondo R, et al. Flow cytometric separation and enrichment of hepatic progenitor cells in the developing mouse liver. Hepatology 2000; 32: 1230-1239.(非特許文献5)に記載の標準培地を好ましく用いることができる。培地中の成長因子の濃度は、肝臓卵形細胞の単一細胞培養及び分化誘導が可能な範囲であれば特に限定されず、また、用いる成長因子の種類によっても異なるが、EGFの場合には、10〜40ng/mL、好ましくは20ng/mL程度であり、HGFの場合には、40〜80ng/mL、好ましくは50ng/mL程度である。本発明で用いるEGF及びHGF等の成長因子は肝臓卵形細胞の単一細胞培養及び分化誘導が可能な限り、その由来は特に限定されず、天然由来のものであっても公知の遺伝子配列やアミノ酸配列等の情報に基づいて合成又は半合成して製造されるものであってもよい。商業的に入手可能なものであってもよい。肝臓卵形細胞の単一細胞培養及び分化誘導が可能な範囲で、EGF及びHGF等の成長因子は改変されたものであってもよい。このような改変には、1個又は複数個のヌクレオチドあるいはアミノ酸の変異、挿入、欠失及び置換が含まれる。改変された成長因子は、当分野で通常実施される手段によって調製することができる。例えば、エキソヌクレアーゼを用いる欠失変異株(deletion mutant)作製法、カセット変異法等の部位特異的変異(site−directed mutagenesis)によって成長因子のDNAを人為的に改変させ、該改変DNAを用いて、所望蛋白質を調製することができる。
【0020】
本発明において、細胞外マトリックスは、培養容器のコーティング剤として用いられることが好ましく、又簡便である。細胞の培養に用いられる培養容器は、細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。
【0021】
細胞外マトリックスによる培養容器のコーティングは、用いる細胞外マトリックスの種類に応じて当分野で通常実施されている方法によって行なうことができる。
【0022】
その他の培養条件は、適宜設定できる。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30〜40℃、好ましくは約37℃である。CO2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約2〜5%である。
【0023】
本発明において、肝臓卵形細胞の単一細胞培養は、例えば、肝臓細胞懸濁液から、FACS等の細胞分離技術を用いて分離した、CD133+、CD45−及びTer119−という細胞表面マーカーの発現パターンを呈する細胞を、96ウェルプレート等の各ウェルに1つずつ播種し、適当な培養条件下(上述)で培養することによって実施される。
【0024】
また、肝臓卵形細胞は、適当な培養条件で培養すると、その子孫として、分化した細胞、即ち成熟した肝細胞及び胆管上皮細胞を産生する。肝臓卵形細胞の培養により産生される細胞が分化した細胞(成熟肝細胞及び胆管上皮細胞)であるか否かは、各細胞に特異的に発現している成分を該成分に特異的な親和性を有する物質を用いて検出することによって、あるいは分泌成分を直接解析することによって判定することができる。また形態学的な観察によって判定することができる場合もある。例えば、成熟肝細胞であるか否かは、アルブミン産生能の有無、グリコーゲン蓄積能の有無等を調べることによって、また、胆管上皮細胞であるか否かは、胆管様の管構造の有無、ケラチン産生能の有無等を調べることによって判断することができる。「特異的な親和性を有する物質」としては、各分泌成分に特異的親和性を有する抗体又はその断片や、各分泌成分をコードする遺伝子に特異的親和性を有するオリゴ又はポリヌクレオチドプローブが挙げられる。「抗体又はその断片」及び「オリゴ又はポリヌクレオチドプローブ」の詳細は上記に準じる。
成熟肝細胞に関しては、そのグリコーゲンの蓄積能から、PAS染色やアルシアンブルー染色等の染色法によっても判定することもできる。
【0025】
本発明はさらに、本発明の肝臓卵形細胞を用いて、肝臓卵形細胞の分化に影響を及ぼす物質のスクリーニング方法を提供する。当該方法は少なくとも以下の工程を含む。
(1)肝臓卵形細胞と被検物質とを反応させる工程。
(2)反応後の細胞について肝臓マーカーの発現を測定する工程。
本スクリーニング方法で使用する肝臓卵形細胞は、肝臓の機能細胞へと分化する細胞であれば特に限定されず、好ましくは上述の本発明の方法で分離された肝臓卵形細胞である。該卵形細胞と被検物質との反応は、所望とする分化の種類、分化誘導条件等に応じて適宜設定されるが、通常、35〜40℃、数分〜数十日、好ましくは、36.5〜37.5℃、5〜30日間培養する。被検物質との反応後、該卵形細胞の分化の有無、状況を調べる。
【0026】
肝臓卵形細胞が分化したか否かは、その肝臓のマーカーの発現を測定することにより確認することができる。当該マーカーは所望する機能細胞によって適宜選択される。例えば上述のように、成熟肝細胞への分化であればアルブミン産生、グリコーゲン蓄積を調べることにより、胆管上皮細胞への分化であればケラチン産生等を調べることにより確認できる。被検物質非存在下で肝臓卵形細胞を培養した場合に比べ有意にその肝臓機能細胞への分化を促進あるいは阻害する物質を選抜する。
【0027】
本発明のスクリーニング方法においてその対象となる被検物質としては、既知もしくは未知の種々の物質が挙げられ、具体的には既知のサイトカイン、細胞外マトリクス、無機化合物あるいは適当な細胞培養株の培養上清や適当なcDNAライブラリーより得た未知の遺伝子またはそのリコンビナント蛋白質等が例示される。
【0028】
さらに、形質転換された卵形細胞がげっ歯類及びヒトの両方で肝癌の起源の候補となり得ることが報告されている(参考文献1〜5)ことから、本発明の肝臓卵形細胞を用いて、肝臓における癌発生に影響を及ぼす物質をスクリーニングすることが可能となる。
参考文献1:Factor VM, Radaeva SA. Oval cells-hepatocytes relationships in Dipin-induced hepatocarcinogenesis in mice. Exp Toxicol Pathol 1993; 45: 239-244.
参考文献2:Lowes KN, Brennan BA, Yeoh GC, et al. Oval cell numbers in human chronic liver diseases are directly related to disease severity. Am J Pathol 1999; 154: 537-541.
参考文献3:Prior P. Long-term cancer risk in alcoholism. Alcohol Alcohol 1988; 23: 163-171.
参考文献4:Tsukuma H, Hiyama T, Tanaka S, et al. Risk factors for hepatocellular carcinoma among patients with chronic liver disease. N Engl J Med 1993; 328: 1797-1801.
参考文献5:Deugnier YM, Guyader D, Crantock L, et al. Primary liver cancer in genetic hemochromatosis: a clinical, pathological, and pathogenetic study of 54 cases. Gastroenterology 1993; 104: 228-234.
【実施例】
【0029】
以下、実施例にそって本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、本発明において使用する試薬や装置、材料は特に言及されない限り、商業的に入手可能である。
【0030】
(材料と方法)
フローサイトメトリー
卵形細胞を含む細胞懸濁液を、0.1% DDC(Sigma-Aldrich)を含む、あるいは含まない飼料で2週間飼育したC57BL/6野生型マウスあるいはp53−/−マウス(参考文献6)から調製し、続いて以下に示す二重プロテアーゼ消化プロトコルを行なった。肝灌流培地(liver perfusion medium; Invitrogen)及び肝臓細胞分離液(liver digest medium ; Invitrogen)を用いた通常の2工程の灌流の後、未消化の組織をさらにジスパーゼ(1000プロテアーゼ単位/mL; Godoshusei, Japan)を用いて37℃で30〜60分間攪拌しながら消化した。処理後の細胞の生存度は、トリパンブルー色素排除法を用いた解析で90%を上回っていた。細胞を染色培地(staining medium ; 3%FBSを含有するPBS)で洗浄し、次いで、参考文献7に記載の方法に従って蛍光標識した抗体とインキュベートした。フィコエリトリン(PE)−Cy7がコンジュゲートされた抗CD45モノクローナル抗体及び抗Ter119モノクローナル抗体(mAb)(Pharmingen)及びフルオロセインイソチオシアネート(FITC)がコンジュゲートされた抗CD133モノクローナル抗体(eBioscience)を用いた。FACS Aria(BD Biosciences)を用いて、蛍光標識された細胞を解析・分離した。
参考文献6:Tsukada T., et al. Enhanced proliferative potential in culture of cells from p53-deficient mice. Oncogene 1993; 8: 3313-3322.
参考文献7:Suzuki A., et al. Clonal identification and characterization of self-renewing pluripotent stem cells in the developing liver. J Cell Biol 2002; 156: 173-184.
【0031】
インビトロコロニーアッセイ
低密度培養解析のために、ソートされた細胞を、IV型コラーゲンをコートした6ウェルプレート(BD Biosciences)に1000細胞/ウェルの密度で播種し、参考文献8に記載の標準培地を用いて培養した。単一細胞培養解析のために、FACS Ariaによるクローン選別で同定された細胞を、IV型コラーゲンをコートした96ウェルプレート(BD Biosciences)の個々のウェル中で培養した。培養液としては、E13.5胎仔の肝臓細胞を7日間培養することによって得られた馴化培地を50%添加した標準培地(上述)を用いた。いずれの培養液にもヒト組換えHGF(50 ng/ml, Sigma-Aldrich)及びEGF(20 ng/ml, Sigma-Aldrich)が含まれている。形成される大コロニー及び小コロニーの数を、培養8日後に測定した。
参考文献8:Suzuki A., et al. Flow cytometric separation and enrichment of hepatic progenitor cells in the developing mouse liver. Hepatology 2000; 32: 1230-1239.
【0032】
遺伝子発現解析
RT−PCR及び定量PCR(qPCR)は、参考文献9及び参考文献10に準じて行なった。下記のプライマー及び/又はプローブ以外は、本発明者らの既報(参考文献7〜9)に準じて各種のPCRプライマー及びプローブを調製した。
CK7 RT−PCRプライマー:
5’-ATC CGC GAG ATC ACC ATC AAT-3’(配列番号1)及び
5’-ATG TGT CTG AGA TCT GCG ACT-3’(配列番号2)
CD133 qPCRプライマー/プローブ:
TaqMan Gene Expression Assay ID: Mm00477115_m1 (Applied Biosystems)
CK7 qPCRプライマー/プローブ:
TaqMan Gene Expression Assay ID: Mm00466676_m1 (Applied Biosystems)
参考文献9:Suzuki A., et al. Role for growth factors and extracellular matrix in controlling differentiation of prospectively isolated hepatic stem cells. Development 2003; 130: 2513-2524.
参考文献10:Suzuki A., et al., Glucagon-like peptide 1 (1-37) converts intestinal epithelial cells into insulin-producing cells. Proc Natl Acad Sci USA 2003; 100: 5034-5039.
【0033】
免疫染色
組織切片及び培養細胞を固定し、1次抗体とインキュベートした。用いた1次抗体やその入手先、反応条件等を図1にまとめる。1次抗体とのインキュベーション後、切片及び/又は細胞を洗浄し、免疫組織化学のためには、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)をコンジュゲートした2次抗体(用いた1次抗体の種に応じて決定される、1:500、Dako)と、免疫蛍光染色のためには、Alexa 488−及び/又はAlexa 555をコンジュゲートした2次抗体(用いた1次抗体の種に応じて決定される、1:200、Molecular Probes)及びDAPIを用いた。
【0034】
細胞移植
DDCで処理した肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−の表現型を呈する単一細胞を培養・増殖して得られるクローン性の子孫をトリプシン処理し、洗浄し、そして100mlの標準培地に再懸濁した。得られた細胞懸濁液をFAH欠損レシピエントマウス(後述)の肝臓に脾臓内投与した(4×106細胞/マウス)。CD133+CD45−Ter119−の表現型を各々呈するクローンを12個樹立した。そのうち3個のクローンをドナー細胞として移植に用いた(レシピエントのマウスは1クローンにつき6匹用いた)。FAH欠損マウスは通常、7.5 mg/lのNTBC (K. Z. Travis氏及びJ. Doe氏より供与された)を含有する飲料水で飼育していた(参考文献11)が、移植直後にこの処置を止めた。腫瘍形成の解析のためには、DDCを含む飼料で飼育した野生型マウス及びp53−/−マウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−の表現型を呈する単一細胞を培養・増殖して得られるクローン性の子孫をトリプシン処理し、洗浄し、マトリゲル(150ml, BD Biosciences)を含む標準培地(150ml)に再懸濁し、得られた細胞懸濁液をNOD/SCIDレシピエントマウスに皮下注射した(3.5×107細胞/マウス、n=5)。
参考文献11:Overturf K., et al., Hepatocytes corrected by gene therapy are selected in vivo in a murine model of hereditary tyrosinaemia type I. Nat Genet 1996; 12: 266-273.
【0035】
マイクロアレイ
DDCを含まない飼料、あるいは2週間DDCを含む飼料で飼育したマウスの肝臓から、全RNAを、RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて、製造元の指示書に従って調製した。DDCを含まない飼料、あるいはDDCを含む飼料で飼育したマウスの肝臓における複数の遺伝子発現をOne-Cycle Target Labeling and Control Reagents (Affymetrix)及びGeneChip Mouse Genome 430 2.0 Arrays (Affymetrix)を用いてGeneChip Expression Analysis Technical Manual (Affymetrix)に従って解析した。
【0036】
FAH変異マウスの作製
参考文献12〜15に従い、TT2胚性幹(ES)細胞における相同組換えによってマウスFAHの標的破壊を行った。PCRを行ってターゲティングベクター配列の5’アーム(8.2kb)及び3’アーム(5.1kb)を増幅した。用いたプライマーは以下の通り。
5’アーム用プライマー:
5’-GTT TGA GTC GAC CCA ACA AGG ATT ACA TGA GAC CGC C-3’(配列番号3)
5’-TAA GGC GGC CGC GGA TGC TCT TGC CTC CTT CCA TG-3’(配列番号4)
3’アーム用プライマー:
5’-TGC CTC GTC GAC GCG GCC GCG CTG TGA TTG CAT GTG TGA CCT TCC-3’(配列番号5)
5’-CAC CCT CGA GTT AGA CCT GCA GAT GGT AGC CGC C-3’(配列番号6)
FAH変異マウス(ヌルアレル)を作製する為の手順を図2Aに示す。
CD−1系ホストの胚盤胞にターゲティングされたES細胞を注入することによって生殖系列のキメラを作製した(参考文献14)。PCRによりジェノタイピングを行なった。用いたプライマーは以下の通り。
FAHwt-F: 5’-AGG CCT AAC CTC TTG CTT CAT TCA-3’(配列番号7)
FAHmut-F: 5’-CCA GCT CAT TCC TCC CAC TC-3’(配列番号8)
FAHwt/mut-R; 5’-ATC GGG GTT CCA GAT ACC AC-3’(配列番号9)
野生型にはFAHwt-F及びFAHwt/mut-Rを用い809bpを検出した。
変異型にはFAHmut-F及びFAHwt/mut-Rを用い433bpを検出した。
(図2C参照)
尚、FAH変異体のアクセッション番号(RIKEN)はCDB0201Kである。
参考文献12:Yagi T., et al. Homologous recombination at c-fyn locus of mouse embryonic stem cells with diphtheria toxin A fragment gene in negative selection. Proc Natl Acad Sci USA 1990; 87: 9918-9922.
参考文献13:Yagi T., et al. A novel negative selection for homologous recombinants using diphtheria toxin A fragment gene. Anal Biochem 1993; 214: 77-86.
参考文献14:Yagi T, Tokunaga T, Furuta Y, et al. A novel ES cell line, TT2, with high germline-differentiating potency. Anal Biochem 1993; 214: 70-76.
参考文献15:Murata T., et al. ang is a novel gene expressed in early neuroectoderm, but its null mutant exhibits no obvious phenotype. Gene Expr Patterns 2004; 5: 171-178.
【0037】
実施例1:胆管上皮細胞及びDDCで誘導された卵形細胞におけるCD133の発現
DDCを2週間摂食させたマウス(以下DDCマウスともいう)の肝臓で卵形細胞が生じることを、卵形細胞の特異抗原であるA6の免疫組織学的解析によって確認した(図3A)。細胞表面マーカーが卵形細胞上に発現していることを同定する為に、本発明者らは、DDCを摂食させていないマウス(以下No−DDCマウスともいう)の肝臓とDDCマウスの肝臓における遺伝子発現をマイクロアレイによって比較した。本解析により、DDCマウスの肝臓では、サイトケラチン(CK)19、α−フェトプロテイン(AFP)及びCD34のより高い発現と、それよりは幾分低いc−kit及びThy1の発現が確認された。これらの遺伝子はそれぞれ、卵形細胞マーカーとして以前に明らかにされたものである(参考文献16〜20)。これらのマーカー遺伝子に加えて、CD133の発現量がDDCマウスの肝臓で4倍以上増加していた(図3B)。続いて、定量PCR(qPCR)解析を行なって、DDCを含む飼料で飼育している間中、CD133の発現量が上昇すること、及び卵形細胞マーカーであるCK19、CK7及びAFPの発現も上昇することを確認した(図4A)。CD133タンパク質それ自体もまた、DDCマウスの肝臓中に蓄積していた(図4B)。興味深いことは、CD133、CK19及びCK7のmRNAの発現レベルがDDCを含む飼料で飼育して、即ちDDCを摂食させて2週間後の時点で同時にピークを迎えるのに対して、AFPのレベルは、DDCの摂食を開始してから1週間までに速やかに上昇することである(図4A)。免疫蛍光染色による解析により、No−DDCマウスの肝臓の胆管上皮細胞及びDDCマウスの肝臓中で増殖している卵形細胞の両方について、CD133が陽性であることがわかった(図4C〜D)。以上の結果から、CD133はDDCを摂食させていないマウスの肝臓の胆管上皮細胞及びDDCを摂食させることによって出現する卵形細胞の両方のマーカーとなり得ることが示された。
参考文献16:Lemire JM, Shiojiri N, Fausto N. Oval cell proliferation and the origin of small hepatocytes in liver injury induced by D-galactosamine. Am J Pathol 1991; 139: 535-552.
参考文献17:Fujio K, Evarts RP, Hu Z, et al. Expression of stem cell factor and its receptor, c-kit, during liver regeneration from putative stem cells in adult rat. Lab Invest 1994; 70: 511-516.
参考文献18:Omori N, Omori M, Evarts RP, et al. Partial cloning of rat CD34 cDNA and expression during stem cell-dependent liver regeneration in the adult rat. Hepatology 1997; 26: 720-727.
参考文献19:Petersen BE, Goff JP, Greenberger JS, et al. Hepatic oval cells express the hematopoietic stem cell marker Thy-1 in the rat. Hepatology 1998; 27: 433-445.
参考文献20:Matsusaka S, Tsujimura T, Toyosaka A, et al. Role of c-kit receptor tyrosine kinase in development of oval cells in the rat 2-acetylaminofluorene/partial hepatectomy model. Hepatology 1999; 29: 670-676.
【0038】
実施例2:フローサイトメトリーを用いたCD133+細胞の単離
CD133+肝臓細胞を単離するために、No−DDCマウスの肝臓及びDDCマウスの肝臓から得られた単一細胞を、CD133、CD45(白血球共通抗原)及びTer119(グリコホリンによく似た分子で未成熟な赤血球系細胞上に独占的に発現している)の発現に基づきフローサイトメトリーを用いて分画した。非造血系のCD45−Ter119−細胞集団中のCD133+細胞の割合はDDCを摂食させなかったマウスの肝臓に比べDDCを摂食させたマウスの肝臓の方が5倍以上も高かった(図5A)。DDCマウスの肝臓中でのCD45+及びTer119+造血系細胞の割合の増加は、DDCによって引き起こされる炎症反応の増強に関係しているかもしれない。No−DDCマウスの肝臓及びDDCマウスの肝臓からすぐに単離したCD133+CD45−Ter119−細胞の免疫蛍光染色解析から、全細胞で、CK7の発現は認められたがアルブミンの発現は認められなかった(アルブミンは肝臓細胞のマーカータンパク質である)(図5B)。
次に、No−DDCマウスの肝臓及びDDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞を特徴付けるために、これらの細胞を低密度で培養した。IV型コラーゲンでコーティングした6ウェルプレートの各ウェルに1000個の細胞を播種した。6ウェルプレートでは、細胞は増殖しコロニーを形成することができるのでセミ・クローン解析が可能である。この条件で、No−DDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞は、細胞培養8日経過した時点でも、10〜50個の細胞から構成される小コロニーを形成するのみであった(図5C)。一方、DDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞は、小コロニーだけでなく、数百の細胞から構成される大コロニーもまた形成することができた(図5C)。これら2つの型の細胞コロニーは培養中のそれらの大きさによって容易に区別することができる。CD133+CD45−Ter119−細胞を単離し培養すると小コロニー及び大コロニーの両方ともを頻繁に生じたが、CD45+Ter119+細胞亜集団やCD133−CD45−Ter119−細胞亜集団から単離された細胞ではコロニーは形成されないか、されても僅かであった(図5D)。大コロニーを形成する細胞の出現はDDC処置に強く依存しており、小コロニーの数もまた、DDCを摂食させたマウスの肝臓では5倍上昇していた(図5D)。さらに、DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞による大コロニーの形成には、培養条件として、成長因子〔肝臓細胞増殖因子(HGF)及び/又は上皮増殖因子(EGF)〕と細胞外マトリックス(ECM)成分(IV型コラーゲン又はラミニン)を必要とすることがわかった(図6参照)。
【0039】
実施例3:単一細胞培養及びCD133+CD45−Ter119−細胞のクローン解析
CD133+CD45−Ter119−細胞の潜在性を調べるために、本発明者らはフローサイトメトリーによって細胞のクローン選別を行い、その後IV型コラーゲンをコーティングした96ウェルプレートの各ウェルで細胞を培養することを試みた。セミ・クローナルな低密度培養条件と同様に、CD133+CD45−Ter119−細胞亜集団から単離された細胞は、肝臓がDDC処置を受けたものであるか否かに応じて、各ウェルで小コロニーあるいは大コロニーを形成した(図7)。CD133+CD45−Ter119−細胞の単一細胞培養におけるクローナルなコロニー形成により、もとの細胞から分化した細胞の研究及び特徴づけが可能になる。Alb及びCK7に対する抗体を用いた免疫蛍光染色解析から、培養6日後及び18日後では、DDCマウスの肝臓及びNo−DDCマウスの肝臓に由来する小コロニーの大部分は、CK7のみを発現する細胞で構成されていることがわかった(図8A、B)。対照的に、培養6日後では、大コロニーの半分はCK7+細胞、Alb+CK7+細胞、及び少数のAlb+細胞から構成され、残りの半分のコロニーは独占的にCK7+細胞によって構成されていた(図8A、B)。しかしながら18日後には、70%以上の大コロニーは最終的にはAlb+細胞、CK7+細胞、及び少数のAlb+CK7+細胞から構成されるようになった(図8A、B)。コロニーサイズや培養期間の長さに係らず、Alb+細胞のみで形成されるコロニーは観察されなかった(図8B)。RT−PCRによる解析は、また、大コロニーに含まれる細胞が、肝細胞及び胆管上皮細胞のマーカーをコードしている複数の遺伝子(トリプトファン−2,3−ジオキシゲナーゼ、グルタチオン S−トランスフェラーゼ、及びグルタミン合成酵素等といった成熟肝細胞で検出される遺伝子を含む)を発現していることを示した(図9)。cKit、CD34及びThy1等の卵形細胞のマーカーとして報告されている遺伝子がすべての大コロニーで発現しているわけではないことは興味深い。さらに、3週間以上培養した大コロニーでは、機能的に成熟した肝細胞に類似する、十分にグリコーゲンを蓄積した、多くの二核性のAlb+細胞がコロニーの中央付近に出現した(図8C、D)。DDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞は、最初はCK7に陽性であるがAlbに対しては陰性である(図5B)ので、大コロニーを形成することができる細胞は培養過程でAlb+の成熟した肝細胞へと分化する子孫を生み出すものと考えられた。
【0040】
実施例4:CD133+CD45−Ter119−細胞の自己複製能
次に、DDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞に自己複製能があるかを調べるためにサブクローニング実験を行なった。IV型コラーゲンをコーティングした96ウェルプレートの各ウェル中で形成された個々のクローナルなコロニー中の細胞をトリプシン処理し、IV型コラーゲンをコーティングした6ウェルプレートに再播種した。培養14日後、DDCマウスの肝臓を起源とする継代培養した細胞からは多くの大コロニー(一つのコロニーから5〜10個のコロニー)が生じたが、No−DDCマウスの肝臓を用いた場合には大コロニーを生じることはなかった(図10A)。これらの二次的コロニー中の細胞をトリプシン処理し、クローン選別にかけ単一細胞培養を行なった。再び大コロニーを形成できる再選別された細胞の割合は低かった(1〜3%)が、形成したコロニーの80%以上において、培養18日目までにAlb+細胞及びCK7+細胞の両方に分化した細胞が含まれていた(図10C)。大コロニーを形成した最初に選別した細胞と同様に、再選別された細胞によって再び形成された大コロニーでは培養過程で次第にAlb+細胞を生じるようになったが、Alb+細胞のみを含むコロニーは形成されなかった(図10C)。これらのデータは、DDCを摂食させたマウスの肝臓から単離された、大コロニーを形成するCD133+CD45−Ter119−細胞がAlb+肝細胞及びCK7+胆管上皮細胞を子孫として生み出すだけでなく、培養中、自己複製する細胞分裂によって肝細胞と胆管上皮細胞へ分化可能な細胞を維持し続けていることを示している。
【0041】
実施例5:CD133+CD45−Ter119−細胞のインビボでの分化能及び肝組織再構築能
傷ついた組織の再構成と機能修復は、器官幹細胞及び器官前駆細胞が有する特別な役割の一つである。以前に報告されたように、DDCを摂食させた成体マウスの肝臓から単離された卵形細胞には、FAH欠損マウスの肝臓に移植することにより肝組織を再構築する能力がある(参考文献21)。DDCを摂食させたマウスの肝臓細胞から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞もまた同様に肝組織を再構築することができ卵形細胞として定義され得るのか否かを決定するために、これらの細胞をFAH−/−マウスの肝臓に脾臓内移植した。ここで用いたFAH−/−マウスは、FAHをターゲット破壊したES細胞から作製したものであり(上記した、「FAH変異マウスの作製」の項を参照、図2)、これらのマウスは他のFAH変異マウスと表現型の上では識別不可能である。本発明において、本発明者らは、肝組織(すなわち、成熟肝細胞)を再構築できる他の細胞種の混入の可能性を排除するために、単一のCD133+CD45−Ter119−細胞由来のクローン化した子孫細胞をドナー細胞として用いた。移植後1及び2ヶ月経過した時点で、FAH+ドナー細胞は、全てのレシピエントマウスで広範に生着し、肝小結節を再構築した。これらのマウスは長期間2−(2−ニトロ−4−トリフルオロメチルベンゾイル)−1,3−シクロヘキサンジオン(NTBC)を中止しても生存することができた(図11A−C)。さらに、免疫蛍光染色及び過ヨウ素酸シッフ試薬(PAS試薬)染色により、FAH+ドナー由来の細胞がAlbを発現し、十分にグリコーゲンを蓄積していることが明らかになった(データ示さず)。これらのデータは、ドナー細胞のプール内に他の細胞系列の混入の可能性がないので、DDCを摂食させたマウスの肝臓から単離され、増殖しているCD133+CD45−Ter119−細胞は、形態学上及び機能的に成熟した肝細胞を生み出すことによって肝組織を再構築する能力を有していることを示している。即ち、DDCを摂食させたマウスの肝臓から単離され、増殖しているCD133+CD45−Ter119−細胞を肝臓卵形細胞と定義付けすることが可能である。
参考文献21:Wang X, Foster M, Al-Dhalimy M, et al. The origin and liver repopulating capacity of murine oval cells. Proc Natl Acad Sci USA 2003; 100 Suppl 1: 11881-11888.
【0042】
実施例6:p53欠失CD133+CD45−Ter119−細胞による肝癌形成
DDCをマウスに与える実験系と同様に、Dipin(シスプラチン)やコリン欠乏エチオニン添加食を用いたげっ歯類の肝癌発生の幾つかの実験モデルにおいて、並びにより頻度高く肝癌へと進行するヒト肝臓の病変(C型肝炎ウイルス、ヘモクロマトーシス及びアルコール性肝疾患等)においてもまた卵形細胞が観察されている(参考文献1〜5)。
このことは、形質転換された卵形細胞がげっ歯類及びヒト両方での肝癌の起源の候補となり得ることを示唆している。この考え方は、また、多くのタイプの癌で想定上の癌始原細胞あるいは癌幹細胞の存在を示す最近の証拠によってサポートされている(参考文献22〜30)。この考え方に一致して、コリン欠乏エチオニン添加食を与えたp53欠失マウス由来の卵形細胞が不死化細胞株を生み出し、ヌードマウスに注射することによって腫瘍細胞を作り出すことが報告されている(参考文献31)。
CD133+CD45−Ter119−細胞が腫瘍形成を開始し得るのか否かを調べるために、DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓からCD133+CD45−Ter119−細胞を単離した。DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞は、大コロニーを形成し増殖したが、DDCを摂食させていないp53−/−マウスの肝臓から単離された細胞では大コロニーを形成せず増殖もしなかった。これは野生型マウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞に類似した結果であった(図12A)。しかしながら、DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓から得られたCD133+CD45−Ter119−細胞は、肝細胞及び胆管上皮細胞へ分化する能力には影響を受けていない(図12C−D)ものの、野生型マウスの肝臓由来のものに比べてよりサイズが小さく、また顕著に高い増殖能を有していた(図12A−B)。DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞から増幅させたクローン性の細胞を、非肥満性糖尿病重症免疫不全(NOD/SCID)マウスに皮下注射して2ヶ月後、Alb+肝細胞及び胆管様構造を形成するケラチン+胆管上皮細胞を含有する腫瘍が、全動物で形成された。一方、野生型マウス由来の細胞を移植した肝臓では腫瘍は形成されなかった(図12E−K)。従って、DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞は、肝細胞癌及び胆管癌の両方の特徴を有する腫瘍を形成することができ、これらの細胞は、p53の機能を欠失させることにより腫瘍を引き起こす能力を獲得する肝臓卵形細胞として特徴づけることができる。
参考文献22: Bonnet D, Dick JE. Human acute myeloid leukemia is organized as a hierarchy that originates from a primitive hematopoietic cell. Nat Med 1997; 3: 730-737.
参考文献23:Al-Hajj M, Wicha MS, Benito-Hernandez A, et al. Prospective identification of tumorigenic breast cancer cells. Proc Natl Acad Sci USA 2003; 100: 3983-3988.
参考文献24:Singh SK, Hawkins C, Clarke ID, et al. Identification of human brain tumour initiating cells. Nature 2004; 432: 396-401.
参考文献25:Collins AT, Berry PA, Hyde C, et al. Prospective identification of tumorigenic prostate cancer stem cells. Cancer Res 2005; 65: 10946-10951.
参考文献26:Ricci-Vitiani L, Lombardi DG, Pilozzi E, et al. Identification and expansion of human colon-cancer-initiating cells. Nature 2007; 445, 111-115.
参考文献27:O'Brien CA, Pollett A, Gallinger S, et al. A human colon cancer cell capable of initiating tumour growth in immunodeficient mice. Nature 2007; 445: 106-110.
参考文献28:Prince ME, Sivanandan R, Kaczorowski A, et al. Identification of a subpopulation of cells with cancer stem cell properties in head and neck squamous cell carcinoma. Proc Natl Acad Sci USA 2007; 104: 973-978.
参考文献29:Zucchi I, Sanzone S, Astigiano S, et al. The properties of a mammary gland cancer stem cell. Proc Natl Acad Sci USA 2007; 104: 10476-10481.
参考文献30:Li C, Heidt DG, Dalerba P, et al. Identification of pancreatic cancer stem cells. Cancer Res 2007; 67: 1030-1037.
参考文献31:Dumble ML, Croager EJ, Yeoh GC, et al. Generation and characterization of p53 null transformed hepatic progenitor cells: oval cells give rise to hepatocellular carcinoma. Carcinogenesis 2002; 23: 435-445.
【配列表フリーテキスト】
【0043】
配列番号1:CK7 RT−PCRプライマー
配列番号2:CK7 RT−PCRプライマー
配列番号3:ターゲティングベクター配列の5’アーム増幅用プライマー。
配列番号4:ターゲティングベクター配列の5’アーム増幅用プライマー。
配列番号5:ターゲティングベクター配列の3’アーム増幅用プライマー。
配列番号6:ターゲティングベクター配列の3’アーム増幅用プライマー。
配列番号7:プライマー、FAHwt-F
配列番号8:プライマー、FAHmut-F
配列番号9:プライマー、FAHwt/mut-R
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、組織切片及び培養細胞の免疫染色に用いる1次抗体の種類、その入手先、及び反応条件等をまとめた図である。
【図2】図2は、FAH変異マウス(ヌルアレル)を作製するための手順を示した図である。(A)ES細胞における相同組換えによるマウスFAHの標的破壊(B)もとになるES細胞及びターゲッティングされたES細胞ゲノムの5’及び3’プローブを用いたサザンブロット(C)FAH+/+野生型、FAH+/−ヘテロ接合体及びFAH−/−マウスの尾の端から得られたゲノムDNAを用いたPCRジェノタイピングM:マーカー
【図3】図3は、卵形細胞が誘導されるのと同時にCD133の発現が上昇することを示した図である。(A)No−DDCマウスの肝臓(上パネル)及びDDCマウスの肝臓(下パネル)におけるA6の免疫組織学的染色。DDCを摂食させて2週間で肝臓の門脈の周辺に卵形細胞の増殖が誘導される。胆管上皮細胞及び卵形細胞の両方でA6が発現している。スケールバー;500μm(B)No−DDCマウス及びDDCマウス(摂食期間2週間)の肝臓における複数の遺伝子の発現をマイクロアレイ解析により比較した。このグラフは、卵形細胞の増殖が活性化された場合に発現が増加する遺伝子、及びCD133の発現のデータを示している。全てのデータは、No−DDCマウスの肝臓を用いた場合の値で標準化し、何倍の差があるかで示した。
【図4】図4は、胆管上皮細胞及びDDCで誘導された卵形細胞におけるCD133の特異的発現を示した図である。(A)No−DDCマウスの肝臓及びDDCを摂食させた(1〜4週間)マウスの肝臓の、qPCRによる遺伝子発現解析の結果を示す。全てのデータは、No−DDCマウスの肝臓を用いた場合の値で標準化し、何倍の差があるかで示した。平均値±標準偏差(n=3)で示した。(B)No−DDCマウスの肝臓及びDDCを摂食させた(1〜4週間)マウスの肝臓から得られたタンパク質サンプルのウエスタンブロットの結果を示す。(C−D)No−DDCマウスの肝臓及びDDCを摂食させた(2週間)マウスの肝臓の、CD133とA6との(図C)あるいはCD133とケラチンとの(図D)二重免疫蛍光染色の染色像を示す図である。DNAはDAPIで染色した。スケールバー;100μm
【図5】図5は、フローサイトメトリーにより単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞のインビトロでのセミ・クローナルなコロニー解析の結果を示した図である。(A)細胞表面マーカーの発現に基づいて、No−DDCマウスの肝臓由来の細胞及びDDCマウスの肝臓由来の細胞をフローサイトメトリーによって分画した。まず、CD45+細胞及びTer119+細胞にゲートをかけ、No−DDCマウスの肝臓細胞及びDDCマウスの肝臓細胞から血球系細胞を排除した。次いで、CD45−Ter119−細胞(それぞれの比率は各々の左のパネルに示されている)をCD133の発現に基づいてさらに分画した。インビトロのコロニー解析のためには、ソーティングゲートをCD133+CD45−Ter119−細胞亜集団及びCD133−CD45−Ter119−細胞亜集団に設定した。CD45−Ter119−細胞におけるCD133+細胞の割合並びに分画していない全細胞におけるCD133+細胞の割合を、各右のパネルに、括弧の外と中に%でそれぞれ示した。アイソタイプコントロール抗体で染色された、No−DDCマウスの肝臓由来の細胞をコントロールとして用いた(上段のパネル)。(B)フローサイトメトリーによって、No−DDCマウスの肝臓及びDDCマウスの肝臓から単離してすぐにガラススライドに接着させたCD133+CD45−Ter119−細胞に対して、アルブミン(Alb)とサイトケラチン(CK)7との二重免疫蛍光染色を行なった。DNAはDAPIで染色した。スケールバー;50μm(C)No−DDCマウスの肝臓及びDDCマウスの肝臓から単離したCD133+CD45−Ter119−細胞は、8日間培養した後、セミ・クローナルなコロニーを形成した。大コロニーは、DDCマウスの肝臓から得られるCD133+CD45−Ter119−細胞からのみ形成された。各コロニーの形態を示す。スケールバー;500μm(上段パネル)、100μm(下段パネル)。(D)No−DDCマウスの肝臓及びDDCマウスの肝臓由来の各細胞亜集団について1000細胞あたりの小コロニー及び大コロニーの数を示す。このグラフは、3つの個別に行なった実験中、各細胞亜集団について12ディッシュの平均を示すものである(平均値±標準偏差)。
【図6】図6は、DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞のコロニー形成能が、培養液中の増殖因子(GF)及び細胞外マトリックス(ECM)に強く依存していることを示す図である。(A)DDCマウスの肝臓からCD133+CD45−Ter119−細胞を単離し、IV型コラーゲンでコーティングされた6ウェルプレートのウェル中で、増殖因子の存在下あるいは非存在下、低密度培養条件下で培養した。細胞は培養8日後、HGF及び/又はEGFが存在する場合にのみ大コロニーを形成することができた。各コロニーを示す。スケールバー;500μm(上段パネル)、100μm(下段パネル)。(B)DDCマウスの肝臓から単離された細胞(CD133+CD45−Ter119−細胞)1000個あたりの小コロニー及び大コロニーの数を示す図である。細胞は、IV型コラーゲンでコーティングされた6ウェルプレート中、HGF及び/又はEGFの存在下、あるいは非存在下で8日間培養してコロニーを形成させた(n=3、平均値±標準偏差)。(C)DDCマウスの肝臓から単離された細胞(CD133+CD45−Ter119−細胞)1000個あたりの小コロニー及び大コロニーの数を示す図である。細胞は、コーティング処理していない6ウェルプレート(コート処理なし)、IV型コラーゲンでコーティングされた6ウェルプレート、あるいはラミニンでコーティングされた6ウェルプレート中、HGF及びEGFの存在下で8日間培養してコロニーを形成させた(n=8、平均値±標準偏差)。
【図7】図7は、CD133+CD45−Ter119−細胞の単一細胞培養とクローナルなコロニー形成を示した図である。(A)No−DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞の単一細胞培養。IV型コラーゲンをコーティングした96ウェルプレートのウェル中で、培養8日後に形成された代表的な小コロニーを示す。(B−C)Aで示された小コロニーを拡大した像である。スケールバー:500μm(B)、100μm(C)(D)DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞の単一細胞培養。IV型コラーゲンをコーティングした96ウェルプレートのウェル中で、培養8日後に形成された代表的な大コロニーを示す。(E−F)Dで示された大コロニーを拡大した像である。スケールバー:500μm(E)、100μm(F)
【図8】図8は、DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞からの多系列のコロニー形成(インビトロ)を示した図である。(A)No−DDCマウスの肝臓あるいはDDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞の単一細胞培養(6日間及び18日間)により得られたクローナルなコロニーに対してAlb及びCK7の二重免疫蛍光染色を行なった。代表的なコロニーを示す。DNAをDAPIで染色した(下段パネル)。スケールバー:100μm(B)No−DDCマウスの肝臓あるいはDDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞から形成されるコロニーに対して、Alb+細胞及びCK7+細胞、Alb+細胞及びCK7−細胞、Alb−細胞及びCK7+細胞、又はAlb−細胞及びCK7−細胞によって構成されているクローナルなコロニーの割合を、Alb及びCK7の二重免疫蛍光染色によって測定した。培養6日後、及び18日後のコロニーについて調べた。No−DDCマウスの肝臓あるいはDDCマウスの肝臓に由来するCD133+CD45−Ter119−細胞から形成される小コロニーのデータはよく似ていた。本グラフは3つの独立した実験の平均値を示している(平均値±標準偏差)。各実験で調べたコロニーの数は16〜62個である。(C)No−DDCマウスとは異なり、DDCマウスの肝臓に由来するCD133+CD45−Ter119−細胞は、培養25日後には、十分にグリコーゲンを蓄積している機能的な成熟肝細胞を生み出すことがPAS染色によって明らかになった。スケールバー:100μm(D)クローナルなコロニーについてAlbの免疫蛍光染色を行なうことにより、培養30日後には、二核性のAlb+成熟肝細胞がDDCを摂食させたマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞から分化してくることが明らかとなった。DNAはDAPIで染色した。スケールバー:100μm
【図9】図9は、DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞の単一培養細胞によって形成された大コロニー12株について、各系列のマーカー遺伝子の発現を調べた結果を示した図である。18日目にRT−PCRを用いて調べた。
【図10】図10は、DDCマウスの肝臓から単離された1個のCD133+CD45−Ter119−細胞に由来する二次的にクローン選別された子孫の多能性を示す図である。(A)個々のコロニー内で細胞を14日間継代培養することにより、DDCマウスの肝臓から単離されたCD133+CD45−Ter119−細胞の1つの子孫からは2次的なコロニーが形成されたが、No−DDCマウスの肝臓から単離されたものからではコロニーは形成されなかった。これらの二次コロニーをTuerk’s溶液で染色し写真撮影した。さらにDDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞の自己複製能を解析するために、二次コロニーの細胞に対しフローサイトメトリーにより二次クローン選別を行なって単一細胞培養を行なった。(B)DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞の再選別された子孫を単一細胞培養して18日後、Alb及びCK7の二重免疫蛍光染色を行なった。代表的なコロニーを示す。DNAはDAPIで染色した。スケールバー:100μm(C)DDCマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞の再選別された子孫から形成されたこれらのコロニーについて、Alb+細胞及びCK7+細胞、Alb+細胞及びCK7−細胞、Alb−細胞及びCK7+細胞、あるいはAlb−細胞及びCK7−細胞によって、培養18日後に構成されるクローナルなコロニーの割合を、Alb及びCK7の二重免疫蛍光染色によって測定した。このグラフは、3つの独立した実験の平均値を示すものである(平均値±標準偏差)。各実験で調べたコロニーの数は12〜21個である。
【図11】図11は、DDCマウスの肝臓から単離された単一のCD133+CD45−Ter119−細胞由来の増殖したクローン性の子孫が、インビボで肝組織を再構築することができたことを示した図である。(A)NTBCを与えたFAH−/−マウス(上段パネル)及びDDCを摂食させたマウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞のクローン性の子孫を培養して調製される細胞を移植して2ヶ月後のFAH−/−マウス(下段パネル)の肝臓について、FAHの免疫組織化学的染色を行なった。ドナー細胞に由来するFAH+肝小結節がレシピエントマウスの肝臓で多く観察された。差込図は各スライドのヘマトキシリン肝臓染色の像を示している。(B−C)レシピエントFAH−/−マウスの肝臓におけるドナー細胞に由来するFAH+肝小結節の拡大図である。移植1ヶ月後(B)及び2ヶ月後(C)。スケールバー:100μm
【図12】図12は、DDCマウスの肝臓から単離されたp53欠失CD133+CD45−Ter119−細胞による肝癌形成の様子を示した図である。(A)p53の欠落に係らず、クローナルな大コロニー及び小コロニーが、DDCを摂食させた、あるいは摂食させていないマウスの肝臓から単離された。これは野生型(p53+/+)のマウス由来のCD133+CD45−Ter119−細胞での結果と同様である。しかしながら、DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓に由来するCD133+CD45−Ter119−細胞から増殖した細胞は、野生型のマウスの肝臓に由来するものに比べて小さかった。スケールバー:100μm(B)DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓から単離された単一のCD133+CD45−Ter119−細胞のクローン原性の子孫はDDCを摂食させた野生型のマウスに由来するものに比べてより活発に増殖した。IV型コラーゲンをコーティングした6ウェルプレートの各々に1000個の細胞を播種した(n=3、平均値±標準偏差)。(C−D)DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓由来のCD133+CD45−Ter119−細胞を18日間単一細胞培養し、形成された大コロニーについてAlb及びCK7の二重免疫蛍光染色を行なった(C)。代表的なコロニーを示す。DNAはDAPIで染色した(D)。スケールバー:50μm(E)DDCを摂食させたp53−/−マウスの肝臓由来の単一CD133+CD45−Ter119−細胞のクローン性の子孫は、NOD/SCIDレシピエントマウスに皮下注射2ヵ月後には腫瘍を形成したが、野生型マウス由来のものは腫瘍を形成しなかった。(F)Eに示したレシピエントマウスから解離された腫瘍。スケールバー:1cm(G−H)胆管様構造を有する(H)あるいは有さない(G)腫瘍領域のヘマトキシリン−エオシン(HE)染色。G−Kに示されるデータはFに存在する腫瘍から得られたものである。スケールバー:100μm(I−K)多くのAlb+細胞及び僅かなケラチン+細胞を含有する腫瘍の領域(I)、胆管様構造を形成する多くのケラチン+細胞及び僅かなAlb+細胞を含有する腫瘍の領域(J)、及びAlb+細胞及び胆管様構造を形成するケラチン+細胞の両方を含有する腫瘍の領域(K)。スケールバー:100μm
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD133、CD45及びTer119の発現を調べる工程を含む、哺乳動物から肝臓卵形細胞を分離及び/又は取得する方法。
【請求項2】
CD133を発現し、CD45及びTer119を発現していない細胞を選別する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
肝臓卵形細胞の産生を誘導する工程をさらに含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
肝臓卵形細胞を成長因子及び細胞外マトリックスの存在下で培養する工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
成長因子が、HGF及び/又はEGFである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
細胞外マトリックスがコラーゲン又はラミニンである、請求項4記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって哺乳動物の肝臓から分離及び/又は取得される肝臓卵形細胞。
【請求項8】
CD133、CD45及びTer119の3つの細胞表面マーカーをCD133+、CD45−及びTer119−のパターンで呈する、肝臓卵形細胞。
【請求項9】
哺乳動物の肝臓における分化に影響を及ぼす物質をスクリーニングするための方法であって、以下の工程を含む方法;
(1)肝臓卵形細胞と被検物質とを反応させる工程、
(2)反応後の細胞について肝臓マーカーの発現を測定する工程。
【請求項1】
CD133、CD45及びTer119の発現を調べる工程を含む、哺乳動物から肝臓卵形細胞を分離及び/又は取得する方法。
【請求項2】
CD133を発現し、CD45及びTer119を発現していない細胞を選別する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
肝臓卵形細胞の産生を誘導する工程をさらに含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
肝臓卵形細胞を成長因子及び細胞外マトリックスの存在下で培養する工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
成長因子が、HGF及び/又はEGFである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
細胞外マトリックスがコラーゲン又はラミニンである、請求項4記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって哺乳動物の肝臓から分離及び/又は取得される肝臓卵形細胞。
【請求項8】
CD133、CD45及びTer119の3つの細胞表面マーカーをCD133+、CD45−及びTer119−のパターンで呈する、肝臓卵形細胞。
【請求項9】
哺乳動物の肝臓における分化に影響を及ぼす物質をスクリーニングするための方法であって、以下の工程を含む方法;
(1)肝臓卵形細胞と被検物質とを反応させる工程、
(2)反応後の細胞について肝臓マーカーの発現を測定する工程。
【図1】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−195142(P2009−195142A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39015(P2008−39015)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年12月11日及び平成19年12月12日 特定非営利活動法人日本分子生物学会及び社団法人日本生化学会主催のBMB2007(第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会)において、文書を持って発表(「BMB2007(第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会)講演要旨集」(平成19年11月25日発行)において要旨を掲載)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年12月11日及び平成19年12月12日 特定非営利活動法人日本分子生物学会及び社団法人日本生化学会主催のBMB2007(第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会)において、文書を持って発表(「BMB2007(第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会)講演要旨集」(平成19年11月25日発行)において要旨を掲載)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
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