説明

肥料用スラグとその製造方法

【課題】稲作と畑作との両方に有効な成分をもつ珪酸質肥料とそのための原料スラグとを提供すること。
【解決手段】CaO:30〜50mass%、SiO:20〜40mass%、MgO:8〜30mass%、Al:1.0〜15.0mass%を含み、CaO/SiOの比率が0.8以上1.4未満に調整され、メルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を30vol%以上、マグネシア(MgO)を3〜40vol%、スピネル(MgO・Al)を3〜40vol%含む鉱物相を有するステンレス鋼、Fe−Ni合金鋼およびNi基合金から選ばれるいずれか1種以上の鋼・合金の精錬工程で発生した精錬滓からなるアルカリ分が56.3mass%以上の肥料用スラグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼等の精錬工程で発生する精錬滓を用いた肥料用スラグとその製造方法に関し、特に、稲作および畑作のいずれに用いても有効な鉱さい珪酸質肥料(ケイカル)についての提案である。
【背景技術】
【0002】
鉱さい珪酸質肥料は、高炉や電気炉、精錬炉等により銑鉄、鋼、合金鉄等を製造する際に発生する鉱滓、精錬滓およびこれらに種々の無機材料を混合して溶融したものを粉末、粒状または砂状にしたものである。その主成分はメタ珪酸カルシウムであって、可溶性珪酸10mass%以上、アルカリ分20mass%以上を保証するもので、その他に、マグネシウム、マンガン、ほう素等を含有するものもある。これらは主として稲作の珪酸補給のための肥料として用いられているものである。
【0003】
ただし、この鉱さい珪酸質肥料に含まれるカルシウムやマグネシウム等からなる前記アルカリ分は、酸性土壌のpH改善のために作用する。しかし、従来の鉱さい珪酸質肥料は、アルカリ分の含有量が20〜50mass%程度であり、60mass%以上が保証されている消石灰や53mass%以上を保証されている炭酸カルシウム肥料などに比べると、酸性土壌のpH改善の効果は小さい。
【0004】
また、従来の鉱さい珪酸質肥料は、通常、1mass%以上のく溶性苦土を保証するものであるが、多くてもその含有量は4mass%程度と少なく、それ故にこの肥料は緑黄色野菜などの畑作用肥料として用いられることはなかった。
【0005】
例えば、従来の鉱さい珪酸質肥料は、引用文献(特許文献1、2、3)の説明に明らかなように、主として上記のいずれか一方、すなわち、稲作もしくは畑作のどちらかのみに適用し得る肥料でしかなかった。
【特許文献1】特開平11−209757号公報
【特許文献2】特開2000−34481号公報
【特許文献3】特開2004−218065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、可溶性珪酸のみならずく溶性苦土の含有量がともに高く、稲用珪酸肥料として必要な条件である可溶性珪酸とアルカリ分との比(バランス)に優れると共に、畑用苦土肥料として必要な条件である苦土分とアルカリ分の比(バランス)にも優れる肥料およびその原料となるスラグを提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、ステンレス鋼、Ni−Cr−Mo−Fe合金やNi−Mo−Fe合金などのFe−Ni合金を電気炉で溶解し、AOD、VODのいずれか一方、または両方で脱炭、Cr還元、脱酸、脱硫する際に生成する精錬滓(以下、単に「スラグ」ともいう)を採取し、これらの肥料としての効果について調査した。同時に、実験室にて試薬を合成して溶解したスラグについても、それの肥料効果を調査した。
【0008】
その結果、主成分としてCaO、SiO、MgO、Alを含むスラグであって、とくにCaO:30〜50mass%、SiO:20〜40mass%、MgO:8〜30mass%、Al:1.0〜15.0mass%を含み、CaO/SiOの比率が0.8以上1.4未満に調整された精錬滓を原料とするスラグは、可溶性珪酸とく溶性苦土分の含有量が高くなるだけではなく、稲用珪酸肥料として必要な可溶性珪酸とアルカリ分のバランスがよく、また畑作用苦土肥料として必要なアルカリ分と苦土とのバランスが共に良好な肥料となり得ることがわかり、請求項1記載の本発明を開発するに到った。
【0009】
さらに、発明者らは、上記スラグの鉱物相について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて調査したところ、このスラグを構成している鉱物相が、30vol%以上はメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)が占め、さらに、3〜40vol%はマグネシア(MgO)が占め、そして、スピネル(MgO・Al)を3〜40vol%含むものである場合に、目的とする特性が得られやすいことがわかった。また、これらの鉱物相以外にも、CaOやSiO、MgO、Alのいずれか1種以上を含むガラス相(≦20vol%)が存在することがわかった。ただし、この程度のガラス相の存在は、本発明の目的とする特性を得る障害にはならないと考えられる。
【0010】
これらの実験から、稲作と畑作の両方に有効に作用する兼用型肥料用スラグの条件として重要なことは、メルビナイト、マグネシア、スピネルが共存した鉱物相を有することであることがわかる。このような鉱物相を有するスラグは、水中において、この鉱物相から稲作に必要な可溶性珪酸と畑作に必要なく溶性苦土の両方が、バランスよく溶出するものになる。なお、このとき、マグネシアやスピネルの存在は、その溶出挙動を助勢する働きがある。
【0011】
従って、メルビナイト単相の鉱物相組織をもつスラグよりも、マグネシアやスピネルをともに含む鉱物相の方が、より高い濃度の可溶性珪酸、く溶性苦土を溶出するようになる。この理由は、水中への鉱物相の溶出は、マグネシアから溶出するMgイオン、スピネルから溶出するMgおよびAlイオンがメルビナイト/水溶液界面に作用し、珪酸(Siイオン)および苦土(Mgイオン)の溶出を活発にするからと考えられる。なお、ガラス相からももちろん、珪酸や苦土は補助的に溶出する。
【0012】
本発明において、スラグ中に好ましい上記鉱物相を生成させるには、少なくともスラグの塩基度(CaO/SiO2)の比率を0.8以上1.4未満にすることが有効である。それは、CaO/SiO2の比率が0.8未満では、ガラス相が多くなり、稲作および畑作兼用肥料として必要な珪酸ならび苦土をともに満足させるような溶出量が得られないからである。一方、この比率が1.4以上では、ダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO)が主体の鉱物相となり、可溶性珪酸の溶出はある程度確保できるものの、く溶性苦土の溶出が著しく不足するからである。
【0013】
本発明に係る上述したスラグ中には、上述したように、前記鉱物相以外にも、CaO、SiO、MgOおよびAlのいずれか1種以上からなるガラス相を、20vol%程度以下含有すること、または、これらの鉱物相やガラス相の他に、さらに、CaS、CaTiOなどの含有するが、これらは珪酸や苦土の溶出挙動には特に悪影響を与えるものではない。
【0014】
本発明において、上記の構成を有するスラグを製造するには、ステンレス鋼の精錬、Fe−Ni鋼の精錬、Ni−Cr−Mo−Fe合金、Ni−Mo−Fe合金、Ni−Cu合金、Ni−Cr−Fe合金、またはNi基合金の精錬に際して生成する精錬滓を用いることが有利である。その理由は、これらの精錬滓の場合、基本的に石灰石を投入してスラグを作り、その後、Siおよび/またはAlを用いて脱酸することでCaO、SiO、Alを含むスラグとなるからである。また、これらの精錬では、設備の耐火物としてマグネシア系を用いるのでMgOも混合できるからである。
【0015】
次に、上述した肥料用スラグは、CaO:30〜50mass%、SiO:20〜40mass%、MgO:8〜30mass%、Al:1.0〜15.0mass%を含み、CaO/SiOの比率が0.8以上1.4未満に調整された溶融精錬滓を、0.05〜5℃/分の速度で冷却する。このことにより、冷却後のスラグの組織は、メルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を30vol%以上、マグネシア(MgO)を3〜40vol%、スピネル(MgO・Al)を3〜40vol%を含む鉱物層を生成させることができ、本発明の肥料用スラグの製造ができる。
【0016】
前記鉱物相は、均一融体からの冷却履歴の影響を強く受けて生成する。この点に関し、発明者らは、上記精錬滓と同じ成分組成の試料を調整して溶解し、種々の冷却速度にて冷却し、その影響を調べてみた。その結果、温度1400〜1700℃の融体を冷却速度5℃/分以下で冷却した時に、上記の鉱物相が生成することがわかった。その冷却速度が5℃/分を超えると、原子の拡散が追いつかずにこの鉱物相が得られなかった。一方で、この冷却があまりに遅いと、上記の鉱物相は生成するものの、生産性の観点からは望ましくない上、スラグを格納する鉄製の容器が劣化するなどの問題が発生するので、0.05℃/分程度以上の速度にすることが好ましい。より好ましくは0.1℃/分〜4℃/分である。
【0017】
本発明に係る上記スラグを用いると、6mass%以上のく溶性苦土を含み、アルカリ分/く溶性苦土の比率が3〜7であり、かつ可溶性珪酸30mass%以上を含み、可溶性珪酸/アルカリ分の比率が0.5〜0.8である畑作および稲作の両方に有効な兼用型珪酸肥料が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る肥料用スラグを用いて製造された珪酸質肥料によれば、稲作と畑作の両方に使用可能な実用型肥料となるので、稲作から畑作へまたは畑作から稲作への転作をする場合にとくに有利に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の肥料用スラグを用いた珪酸質肥料は、各種精錬スラグの肥料効果試験を行った結果、開発されたものである。とくに、発明者らが知見した最も重要な点は、稲作ー畑作兼用型肥料とするためには、スラグ中に30vol%以上のメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)と、3〜40vol%のマグネシア(MgO)と、3〜40vol%のスピネル(MgO・Al)を含むことが必要である。以下、本発明に係るスラグの組織が上記のような鉱物相を有することが有効な理由について説明する。
【0020】
(1)メルビナイト≧30vol%について
このメルビナイトが30vol%未満では、6mass%以上のく溶性苦土、30mass%以上の可溶性珪酸が得られなくなるからである。
なお、このメルビナイトの上限は、精錬温度(1500〜1700℃)にて流動性を確保できなくなるため、80vol%程度と考えられる。
【0021】
(2)マグネシア:3〜40vol%について
このマグネシアは、3vol%未満では、可溶性珪酸/アルカリ分0.5〜0.8、アルカリ分/く溶性苦土3〜7が得られないからであり、一方、40vol%超では、精錬温度にて流動性を確保できなくなるからである。
【0022】
(3)スピネル:3〜40vol%について
このスピネルは、3vol%未満では、可溶性珪酸/アルカリ分0.5〜0.8、アルカリ分/く溶性苦土3〜7が得られないからであり、一方、40vol%超では、精錬温度にて流動性を確保できなくなるからである。
【0023】
(4)ガラス相について
CaO、SiO、MgOおよびAlのいずれか1種以上からなるガラス相は、主としてく溶性苦土と可溶性珪酸を低減する作用があり、そのためこの量は20vol%程度以下になるようにする。これは溶融精錬滓の成分調整と冷却速度制御によって調整することができる。
【0024】
次に、上記スラグ組成にするために必要な精錬滓の条件、即ち精錬滓の成分組成限定の理由について説明する。
【0025】
CaO:30〜50mass%
このCaOは、メルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を30vol%以上生成させるために必要な成分である。この量が30mass%未満または50mass%を超えると、所定量のメルビナイトが形成できなくなる。
【0026】
SiO:20〜40mass%
このSiOは、メルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を30vol%以上生成させるために必要な成分である。この量が20mass%未満または40mass%を超えると、所定量のメルビナイトが形成できなくなる。
【0027】
MgO:8〜30mass%
このMgOは、メルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を30vol%以上、マグネシア(MgO)を3〜40vol%、スピネル(MgO・Al)を3〜40vol%形成するために必要である。この量が8mass%未満または30mass%を超えると、いずれもこれらの鉱物相の生成が不足する。
【0028】
Al:1.0〜15.0mass%
このAlは、スピネル(MgO・Al)を3〜40vol%形成するために必要な成分である。この量が1.0mass%未満または15.0mass%を超えると、いずれも所定量のスピネルが形成できない。さらに、Alは、スラグの融点を低下させ、適正な融点に保つという重要な役割もある。例えば、ステンレス鋼の精錬において生成するスラグは、その精錬温度で均一融体であることが必要であるが、この点、Alの量が1.0mass%未満では融点が高すぎて均一な融体できない。一方、15.0mass%を超えると、逆に融点が低すぎて、冷却時にメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を形成せずガラス化してしまう。
【0029】
本発明に係る上記スラグ(精錬滓)には、その他の成分として、Fe、Cr、S、TiおよびMnのいずれか1種以上を合計で10mass%程度以下含有することが許容される。
【0030】
次に、本発明に係るスラグの製造方法について説明する。一般に、電気炉などを用いて製鋼精錬する場合、熱源として、FeSi合金を投入すると共に、酸素を吹き込んで酸化精錬するのが普通である。その際、スラグ成分の1つであるSiOを生成させることができる。また、この精錬時に保温や酸化防止の目的で石灰石の投入を行う共に、スラグ中にはそれの融点を低下させて流動性を確保するためにAl源となるAlが添加され、さらに炉床からは溶損によってMgOが混入するので、本発明で用いる上記精錬滓を得ることができる。
【0031】
以下、この点の構成につきさらに詳しく説明する。例えば、Fe−Ni合金をAODやVODなどによって脱炭精錬することを考えると、AODの精錬では、酸素を吹き込むことから、スロッピング防止のために、予め石灰石(CaO)が投入される他、ステンレス鋼の精錬ではスラグ中に移行した酸化クロムを還元して溶鋼中に戻すために、FeSi合金の投入が行われる。この場合、酸化クロムとSiが反応して、金属Crを生成すると同時にスラグ中ではSiOが生成する。このようにして、CaO−SiO系の融体が形成される。また、Alについては、金属Alを積極的に投入して脱酸する場合、あるいは、FeSi合金に0.1〜2mass%程度含まれるAlが酸化されることにより生成する。また、MgOは、MgO系耐火物の溶損抑制のために、耐火物屑を投入したり、あるいは、MgO系耐火物の溶損によって添加される。一方、VODの場合は、脱炭精錬の時に石灰石を投入せず、Cr還元期に投入する点のみ異なるが、基本的には上述したAODの場合と同様の操作を行って、本発明として必要な精錬滓を確保することができる。
【0032】
上記のような化学成分に調整された溶融精錬滓(均一融体)は、次いで、1400℃〜1700℃の温度域から5℃/分以下速度で冷却する。この操作によって、該精錬滓は、30vol%以上のメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)、3〜40vol%のマグネシア(MgO)、3〜40vol%のスピネル(MgO・Al)を含む鉱物相の組織をもつスラグが得られる。
なお、前記精錬滓の冷却速度があまり遅いと、上記の鉱物相は得られるものの、生産性の観点からは望ましくないこと、スラグを格納する鉄製の容器が劣化するなどの問題が発生するため下限は0.05℃/分以上の冷却速度とする。
【0033】
このようにして得られたスラグはまた、可溶性珪酸とアルカリ分との比率、およびアルカリ分とく溶性苦土の比率(バランス)が、稲作用、畑作用に兼用できる最適のものとなる。その他の鉱物相としては、CaS、CaTiOが合計で10vol%程度以下含むものであってもよい。
【0034】
本発明に係る上記珪酸質肥料は、下記に示す肥料取締法の鉱さい珪酸質肥料二(鉱さい珪酸質肥料のうち、含有すべき主成分の最小量(%)が可溶性珪酸及びアルカリ分の他、く溶性苦土、く溶性マンガン又はく溶性ほう素を保証するもの)の適用規格を充分満足するものになる。
アルカリ分:20mass%以上
可溶性珪酸:10mass%以上
く溶性苦土:1mass%以上
【0035】
しかしながら、近年では、農家の高齢化等により省力化の要望が強くなっており、可溶性珪酸やく溶性苦土の含有量が高い肥料が望まれている。すなわち、上記の取締法に定められた範囲を満たすだけではなく、下記の肥料成分を満足するものが切望されている。
可溶性珪酸:30mass%以上
く溶性苦土:6mass%以上
【0036】
この点、本発明の上述した成分組成と塩基度ならびに鉱物相を有するものからなるスラグ肥料は、上記の条件を十分に満たすものである。
さらに、この肥料は、稲作ならびに畑作の肥料として、可溶性珪酸、く溶性苦土およびこれらとアルカリ分のバランスが良好である。
稲作用:可溶性珪酸/アルカリ分=0.5〜0.8
畑作用:アルカリ分/く溶性苦土=3〜7
【0037】
以下に、本発明に係る肥料の指標値について説明する。
a.アルカリ分:肥料中に含まれる可溶性石灰(0.5Mの塩酸液に溶解する石灰)と可溶性苦土(0.5Mの塩酸液に溶解する苦土(MgO))を、酸化カルシウムに換算した量として定義されるものである。
b.アルカリ分=可溶性CaO+可溶性MgO×1.39で表わされるものである。本発明においては、表1の発明例(2)に示すとおり、56.3mass%以上とする。
c.く溶性苦土:2%のクエン酸液に溶解しうる苦土(MgO)の量である。
d.可溶性珪酸:0.5Mの塩酸液に溶解する珪酸である。
これらは、農林水産省告示の独立行政法人農業環境技術研究所が定める肥料分析法に定められたものである。
【0038】
本発明の前記精錬滓(スラグ)は、塩基度CaO/SiO(C/S)の範囲が0.8以上1.4未満に調整される。この場合、図1および図2に示すように、可溶性珪酸が30mass%以上、く溶性苦土が6mass%以上となり、望ましい肥料効果が得られることがわかる。さらに、図3および図4に示すように、CaO/SiOの範囲が0.8以上1.4未満の場合、(可溶性珪酸/アルカリ分)の比率が0.5〜0.8、(アルカリ分/く溶性苦土)の比率が3〜7と、稲作および畑作の両方の要求特性を満足する兼用型スラグを得ることができる。
【0039】
以下に、本発明において重要な意味をもつ、CaO/SiOの範囲を0.8以上1.4未満に規定した理由を、それぞれの肥料効果を示す成分バランスについて説明する。
【0040】
CaO/SiOが0.8未満の場合は、メルビナイトを30vol%以上、マグネシアを3〜40vol%、スピネルを3〜40vol%含む組織が得られず、ガラス質になり易く、しかも溶出バランスが崩てしまう。即ち、稲作、畑作にとって好ましいバランスが崩れてしまい、兼用型肥料とすることができない。即ち、可溶性珪酸/アルカリ分の比が、0.5未満と低くなり、水稲作の肥料としては好ましくない。また、アルカリ分/く溶性苦土の比が7超となり、畑作の肥料としては好ましくないものとなる。
【0041】
一方、CaO/SiOが、1.4以上になると、メルビナイトを30vol%以上、マグネシアを3〜40vol%、スピネルを3〜40vol%含む組織が得られず、ダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO)が主体のものとなる。この場合もまた、前記溶出のバランスが崩れる原因となり、特に、く溶性苦土が著しく低くなるため、下記のように上述した好ましいバランスが崩れてしまう。
稲作用:可溶性珪酸/アルカリ分<0.5(低く外れている)
畑作用:アルカリ分/く溶性苦土>7(高く外れている)
【0042】
上述したように、CaO/SiOの比率が、本発明の範囲の上限を外れると、Caの溶出が著しく高くなり、水溶液のpH値が11を超えるような高いアルカリ性となる原因と考えられる。一方の可溶性珪酸も、最低限必要とされる10vol%以上は確保できるものの、望ましい30vol%以上は得られない。以上の観点から、スラグのCaO/SiOの比率は、好ましくは、0.9以上1.4未満である。より好ましくは、0.9以上1.35以下とする。
【実施例】
【0043】
表1は、水稲作および畑作の両方に共用した場合のスラグ成分および肥料効果、施肥試験結果を、本発明例のものと比較例のものとを対比して示したものである。
各項目の測定方法は下記のとおりである。
(1)スラグの化学成分:蛍光X線分析により定量分析した。
(2)鉱物相:まず、X線回折により、鉱物相を特定し、そしてSEM観察およびEDSによる各鉱物相の定量分析を実施した。鉱物相の割合(体積率)は、一般的に、ある任意の断面における面積率は体積率に近似し得ることから、SEM観察の際に写真撮影し、画像解析することで定量化した。
(3)アルカリ分:0.5Mの塩酸液に溶解するCaO分を定量分析した。さらに、0.5Mの塩酸液に溶解するMgO分を定量分析した。これらの値を、すべてCaO分に換算(アルカリ分=可溶性CaO+1.39×可溶性MgO)して得た。
(4)可溶性珪酸:30℃の0.5M塩酸液に溶解する珪酸を定量分析した。
(5)く溶性苦土:30℃の2%クエン酸液に溶解した苦土(MgO)を定量分析した。
(6)稲作の施肥効果は、市販の珪酸カルシウム肥料を施肥して水稲を栽培し、最終的に得られた米の収穫量を1として換算した値である。
(7)畑作の施肥効果は、市販の苦土肥料を施肥してコマツナを栽培し、最終的に得られた収穫量を1として換算した値である。
【0044】
表1に示す条件、試験結果からわかるように、本発明に適合する例1〜5はすべてステンレス鋼(A)、Fe−Ni合金鋼(B)あるいはNi基合金(C)のいずれかの溶湯を精錬する際に発生したスラグから製造された肥料である。いずれも、本発明の化学成分の範囲を満たしており、鉱物相も必要な量のメルビナイトが形成されている。可溶性珪酸は30%mass以上、く溶性苦土は6mass%以上、CaO/SiOが0.8以上1.4未満、そして、可溶性珪酸/アルカリ分は0.5〜0.8、アルカリ分/く溶性苦土は3〜7であり、稲作および畑作ともに適した肥料であることが明らかである。実際の施肥試験結果も、稲作では従来の1.1倍以上、畑作では従来の1.05倍以上の収穫が得られた。
【0045】
一方、比較例6〜12もすべてステンレス鋼(A)、Fe−Ni合金鋼(B)あるいはNi基合金(C)のいずれかの溶湯を精錬する際に発生したスラグから製造された肥料である。比較例6〜8は、CaO/SiOが0.8未満と低い場合であり、く溶性苦土、可溶性珪酸の分析値が化学成分に比べて、低いため、稲作、畑作とも施肥効果は本発明例に比べて低いことがわかる。
【0046】
また、比較例9〜12は、CaO/SiOが1.46〜2.18と本発明の範囲である1.4未満を上回る場合の結果である。この場合、メルビナイトの相が30vol%未満となり、代わってダイカルシウムシリケートの相が30vol%以上となった。その結果、可溶性珪酸は23〜27mass%であり、最低限必要とされる10mass%は得られたが、必要な30mass%以上にはならないことがわかった。一方、く溶性苦土については、2mass%未満と著しく低下した。さらに、稲作、畑作とも施肥効果は本発明例に比べて低かった。なお、比較例12、13の試料は、冷却時に粉になってしまった。そのため、SEM観察が不可能であり、X線回折のみの結果である。実際、同定された鉱物相は、ダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO)のみであり、冷却時における体積膨張のため、粉化してしまったものと考えられる。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、稲作および畑作の両方に兼用できる肥料製造用原料として使用できる他、もちろん、土壌中に可溶性珪酸分を必要とする稲作用土壌改良材として、あるいはく溶性苦土を有効成分とする畑作用土壌改良材として、それぞれ独立した使用目的でも使われるものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】スラグ塩基度と可溶性珪酸との関係を示すグラフである。
【図2】スラグ塩基度とく溶性苦土との関係を示すグラフである。
【図3】スラグ塩基度と(可溶性珪酸/アルカリ分)との関係を示すグラフである。
【図4】スラグ塩基度と(アルカリ分/く溶性苦土)との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO:30〜50mass%、SiO:20〜40mass%、MgO:8〜30mass%、Al:1.0〜15.0mass%を含み、CaO/SiOの比率が0.8以上1.4未満に調整され、メルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を30vol%以上、マグネシア(MgO)を3〜40vol%、スピネル(MgO・Al)を3〜40vol%含む鉱物相を有し、かつアルカリ分が56.3mass%以上であるステンレス鋼、Fe−Ni合金鋼およびNi基合金から選ばれるいずれか1種以上の鋼・合金の精錬工程で発生した精錬滓からなる肥料用スラグ。
【請求項2】
前記精錬滓は、鉱物相の他に、CaO、SiO、MgOおよびAlのいずれか1種以上からなるガラス相を有することを特徴とする請求項1に記載の肥料用スラグ。
【請求項3】
CaO:30〜50mass%、SiO:20〜40mass%、MgO:8〜30mass%、Al:1.0〜15.0mass%を含み、CaO/SiOの比率が0.8以上1.4未満に調整されたステンレス鋼、Fe−Ni合金鋼およびNi基合金から選ばれるいずれか1種以上の鋼・合金の精錬工程で発生した精錬滓からなる溶融精錬滓を、0.05〜5℃/分の速度で冷却することにより、メルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を30vol%以上、マグネシア(MgO)を3〜40vol%、スピネル(MgO・Al)を3〜40vol%を含む鉱物層を有し、かつアルカリ分が56.3mass%以上に調整されたスラグを生成させることを特徴とする肥料用スラグの製造方法。
【請求項4】
前記鉱物の他に、CaO、SiO、MgOおよびAlのいずれか1種以上からなるガラス相を生成させることを特徴とする請求項3に記載の肥料用スラグの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−214184(P2008−214184A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73094(P2008−73094)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【分割の表示】特願2006−113021(P2006−113021)の分割
【原出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000232793)日本冶金工業株式会社 (84)
【Fターム(参考)】