説明

肥満遺伝子の遺伝子多型をタイピングするプライマーおよい競合プローブ

【課題】従来のシークエンス法やPCR−RFLP法では簡便に検出することが困難であったβ3AR遺伝子,UCP1遺伝子,β2AR遺伝子の遺伝子多型を、簡便な作業で迅速にタイピング方法を提供する。
【解決手段】核酸の増幅による肥満関連遺伝子の多型のタイピングに使用するプライマーであって、前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、β3AR遺伝子の塩基配列における3215番から3325番の配列、UCP1遺伝子の塩基配列における−3888番から−3739番の配列、β2AR遺伝子の塩基配列における216番から338番の配列、およびそれらの相補配列から選択された標的領域核酸配列を増幅するためプライマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β3AR遺伝子,UCP1遺伝子,β2AR遺伝子の遺伝子多型からなる群より選択される1または2以上の遺伝子多型を含むことを特徴とする簡便で迅速な遺伝子診断方法であり、この遺伝子多型情報をもとに健康支援情報提供を行う。
【背景技術】
【0002】
近年は飽食の時代といわれ、多様な食料が過剰に供給されている。また、ファーストフードなどに代表されるような栄養が偏った食事を摂る機会も多くなっている。このような環境の下で、現代人の間には、過剰な栄養の摂取や栄養素の偏向、運動不足などが原因による「肥満」や「糖尿病」といった、いわゆる現代病、生活習慣病が増加している。
【0003】
肥満は、皮下や内臓に脂肪が過剰に蓄積された状態であり、高血圧などの生活習慣病の危険因子であると言われている。糖尿病は、持続性の高血糖および尿中への糖分排出といった症状を有する疾患である。糖尿病患者は健常者と比較して死亡率が2倍以上といわれており、糖尿病は現代社会に広く蔓延している生活習慣病のひとつである。このような肥満や糖尿病を予防もしくは改善するため、食事制限やダイエットなどにより生活改善を図ることが行われている。特に、2008年には、これらの生活習慣病対策の一環として、日本では、厚生労働省によるメタボリック検診の義務化がスタートされた。メタボリック健診(特定健診・特定保健指導)とは、メタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した健康診断のことで、メタボリック症候群やその予備軍の人に対し、早いうちから治療や生活指導を徹底して、増大する医療費を削減する狙いの新健診であり、社会的にも、肥満予防は深刻な問題になっている。
【0004】
一方で、近年の遺伝学的・生理学的研究の発達により、肥満や糖尿病の原因として、栄養の過剰な摂取といった後天的な要因のみならず、個人の遺伝子の遺伝子多型という先天的な要因も影響していることがわかってきた。ここで遺伝子多型とは、遺伝子を構成しているDNA塩基配列の個体差のことを示す。このDNA塩基配列の差により、個体間で体質や体型などに差が生じる。例えば肥満については、その原因の30〜70%が遺伝的要因によるものと言われている。そして、近年は大掛かりなゲノムプロジェクトなどにより、肥満や糖尿病などの原因となる遺伝子が多く発見され、その詳細な研究がなされている。
【0005】
したがって、利用者の遺伝子多型を解析して、この遺伝子多型情報に基づいてダイエットなどの生活改善プログラムを提案することで、利用者個人の体質にあったオーダーメイド型の健康支援情報を提供することが可能となる。これにより、ただやみくもにダイエットなどを行う場合と比較して、より効率的に体質を改善することが可能となる。具体的には、肥満関連遺伝子であるβ3アドレナリン受容体遺伝子(以下、β3AR遺伝子)、脱共役蛋白遺伝子(以下、UCP1遺伝子)、β2アドレナリン受容体遺伝子(以下、β2AR遺伝子)の遺伝子多型に関する情報をDNA検査などにより調べて、利用者が日常行っている運動などの生活情報とともに生活指導を行うと、肥満の方が痩せるために行動変容を起こし、その効果が向上する。
【0006】
しかし、従来法では、β3AR遺伝子,UCP1遺伝子,β2AR遺伝子の遺伝子多型を判定するには、臨床サンプルから検出操作が煩雑で、時間ならびに検査人件費も含めた費用がかかり、その実施には、特定の機関でなければ検査が出来ない状況にある。例えば従来のβ3AR遺伝子,UCP1遺伝子,β2AR遺伝子の遺伝子多型の診断方法としては、PCR−RFLP法とPCR−シークエンス法などが一般的に使用されている。具体的には、PCR−RFLP法とは、血液などの臨床サンプルから、ゲノムDNAを精製し、目的とする領域をPCR法で増幅し、β3AR遺伝子,UCP1遺伝子,β2AR遺伝子の遺伝子多型部分を認識する制限酵素で処理を行い、その産物をアガロース電気泳動で確認する。PCR増幅反応やアガロース電気泳動に長時間を要し、検体数が多くなると煩雑なゲル電気泳動を行うため多大な労力と時間の浪費を伴い、効率良い検出操作を行う上での障害となり、多検体処理では操作が煩雑ゆえにサンプルの取り間違えによる誤診断につながる可能性が高くなる。また、複雑な温度制御が不可欠であり、専用の反応装置を使用しなければならならず、したがって設備の整った実験室でなければ実施できない。PCR−シークエンス法も同様と言える。
【0007】
これらの課題を解決するための一つの方法として、本発明者らは等温増幅法であるSmart Amplification Process法(Nature Methods.2007 Mar;4(3):257−62.)を開発している。等温増幅方法は、非対称型プライマーセットを用いる方法と、対称型プライマーセットを用いる方法とを例にあげて説明する。前記非対称プライマーセットとは、例えば、一対のプライマーが、一方のプライマーの形態と他方のプライマーの形態とが異なる非対称型のプライマーセット(以下、「非対称型プライマーセット」という)である。また、前記対称型プライマーセットは、例えば、一対のプライマーが、一方の形態と他方のプライマーの形態とが同じである対称型のプライマーセット(以下、「対称型プライマーセット」という)である。前記非対称型プライマーセットは、例えば、前記Smart Amplification Process法に適しており、前記対称型プライマーセットは、LAMP法(Loop mediated Amplification)でNucleic AcidRes.,2000,Vol.28,No.12,e63、に掲載されている方法に適している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、β3AR遺伝子,UCP1遺伝子,β2AR遺伝子の遺伝子多型を簡便で迅速にタイピングする方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記問題を解決するため鋭意研究を行なった結果、β3AR遺伝子,UCP1遺伝子,β2AR遺伝子の遺伝子多型をタイピングするために、その遺伝子多型の周辺配列に選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを作製し、このオリゴヌクレオチドをプライマーまたは競合プローブとしてSmart Amplification Process法またはLAMP法により増幅する事により、遺伝子多型を検体中から特異的に検出する事を見出し本発明を完成した。
【0010】
本発明のプライマーは、
核酸の増幅による肥満関連遺伝子の多型のタイピングに使用するプライマーであって、
前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、β3AR遺伝子の塩基配列における3215番から3325番の配列、UCP1遺伝子の塩基配列における−3888番から−3739番の配列、β2AR遺伝子の塩基配列における216番から338番の配列、およびそれらの相補配列から選択された標的領域核酸配列を増幅するためプライマーであることを特徴とする。
【0011】
前記プライマーが、
配列番号1〜27で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つの塩基配列およびそれに相補的な塩基配列の少なくとも一方における、好ましくは少なくとも連続する7〜15塩基の塩基配列、より好ましくは連続する10〜15塩基の塩基配列、さらに好ましくは連続する15塩基の塩基配列を有する、請求項1記載のプライマーであることが好ましい。

同時に二種類以上の遺伝子について増幅やタイピングを行う場合は、これらβ3AR用プライマー、UCP遺伝子用プライマーおよびβ2AR用プライマーのうち、いずれか二種類を併用してもよいし、三種類全てを併用してもよい。また、各遺伝子を増幅するための本発明のプライマーとしては、例えば、一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0012】
前記プライマーが、
配列番号2〜4で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つに対して相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド−塩基数0から30の任意の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド−配列番号3〜5で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、で構成されるβ3AR遺伝子を増幅可能なプライマー、
配列番号11〜13で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つに対して相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド−塩基数0から30の任意の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド−配列番号12〜14で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、で構成されるUCP1遺伝子を増幅可能なプライマー、または、
配列番号20〜22で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つに対して相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド−塩基数0から30の任意の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド−配列番号21〜23で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、で構成されるB2AR遺伝子を増幅可能なプライマーであるであることが好ましい。
本発明において、β3AR遺伝子を増幅可能なプライマー、UCP1遺伝子を増幅可能なプライマー、およびB2AR遺伝子を増幅可能なプライマーは、それぞれ、例えば、前記3種類(うち1種類は任意)のオリゴヌクレオチドからなるプライマーであってもよいし、前記3種類のオリゴヌクレオチドを含むプライマーであってもよい。また、前記各プライマーは、それぞれ、例えば、前記3種類のオリゴヌクレオチドがこの順序で並んでいることが好ましい。また、前記各プライマーにおいて、前記3種類のオリゴヌクレオチドは、例えば、各オリゴヌクレオチド間にさらに介在する塩基配列を有してもよいし、有していなくてもよい。
【0013】
核酸の増幅法がSmart Amplification Process法またはLAMP法である請求項1から3のプライマーであることが好ましい。
【0014】
本発明の競合プローブは、
核酸の増幅による肥満関連遺伝子の多型のタイピングに使用する競合プローブであって、前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、β3AR遺伝子の塩基配列における3215番から3325番の配列、UCP1遺伝子の塩基配列における−3888番から−3739番の配列、β2AR遺伝子の塩基配列における216番から338番の配列、およびそれらの相補配列から選択された標的領域核酸配列中の遺伝子多型をタイピングするプライマーと競合し、非特異的な増幅を抑制するため含む競合プローブであることを特徴とする。
【0015】
前記の競合プローブが3′末端より伸長反応が起こらないように修飾設計された、配列番号28〜33で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つの塩基配列およびそれに相補的な塩基配列の少なくとも一方における、少なくとも連続する10塩基の塩基配列を有する、請求項5記載の競合プローブであることが好ましい。

【0016】
前記修飾が3′末端水酸基のアミノ化、ダイデオキシ化またはリン酸化である、請求項6に記載の競合プローブであることが好ましい。
【0017】
核酸の増幅法がSmart Amplification Process法またはLAMP法である請求項5からの競合プローブであることが好ましい。
【0018】
本発明の増幅法は、肥満関連遺伝子の増幅法であって、
前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、増幅法が、Smart Amplification Process法またはLAMP法であり、請求項1から4のいずれか一項に記載のプライマーおよび請求項5から8のいずれか一項に記載の競合プローブの少なくとも一方を使用することを特徴とする。
【0019】
本発明のタイピング方法は、
核酸の増幅により肥満関連遺伝子の多型をタイピングする方法であって、前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、増幅法が、Smart Amplification Process法またはLAMP法であり、請求項1から4のいずれか一項に記載のプライマーおよび請求項5から8のいずれか一項に記載の競合プローブの少なくとも一方を使用することを特徴とする。
【0020】
本発明の判断方法は、肥満関連遺伝子の増幅によって、肥満体質を判断する方法であって、前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、請求項9記載の肥満関連遺伝子の増幅法により遺伝子を増幅する工程、および増幅の検出によって、肥満体質を判断する工程を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明のキットは、
核酸の増幅による肥満関連遺伝子の多型のタイピングに使用するキットであって、前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、請求項1から4のいずれか一項に記載のプライマーおよび請求項5から8のいずれか一項に記載の競合プローブの少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0022】
さらに、鎖置換型核酸合成酵素および基質を含む請求項12記載のキットであることが好ましい。
【0023】
本発明の装置は、
請求項1から4のいずれか一項に記載のプライマーおよび請求項5から8のいずれか一項に記載の競合プローブの少なくとも一方を使用する、請求項10記載のタイピング方法を実施するための解析装置であって、増幅反応を実施する反応部と、前記反応部の温度を制御する温度制御手段と、前記反応を検出する検出手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
核酸増幅によるβ3AR遺伝子,UCP1遺伝子,β2AR遺伝子の遺伝子多型のタイピングの検体としては、臨床検査材料、たとえば血液、糞便、吐瀉物、尿、組織、毛髪、爪、口腔粘膜細胞など、また拭き取り検体でも良い。これら被検体をSmart Amplification Process法の試料に用いるには、検体中に存在するゲノムDNAの濃縮、分離や、臨床検査材料から核酸を遊離や濃縮などの操作を前処理として行なうこともできる。その方法としては酵素、界面活性剤、アルカリ、熱による処理などが知られていて、その中から適宜選択できる。
【0025】
本発明において標的配列とは、増幅すべきポリヌクレオチドの塩基配列を意味する。一般にポリヌクレオチドの塩基配列は、5′側から3′側に向けてセンス鎖の塩基配列を記載する。本発明において、連続的に新たな標的塩基配列が合成される事を増幅と呼ぶ。更に本発明において、相補鎖合成の起点を与えることとは、鋳型となるポリヌクレオチドに対して、相補鎖合成に必要なプライマーとして機能するポリヌクレオチドの3′末端をハイブリダイズさせることを言う。また本発明において、3′末端、あるいは5′末端とは、単にいずれかの末端の1塩基のみならず、末端の1塩基を含み、かつ末端に位置する領域を意味する。本発明において、プライマーセットとは同時に用いられるプライマーの組み合わせを言う。
【0026】
核酸増幅方法の中でもSmart Amplification Process法は、例えば、優れた特異性で標的核酸配列を増幅できることから、核酸増幅によって、例えば、遺伝子中における変異、すなわち、塩基の欠失、置換、挿入の有無を判断でき、特に一塩基多型(一塩基の変異の有無)等を判断することが可能である。
【0027】
前記非対称型のプライマーセットは、前述のように、一方のプライマーの形態と他方のプライマーの形態とが異なる非対称型の一対のプライマーを有するプライマーセットであり、中でも、前記Smart Amplification Process法に適用することが好ましい。このプライマーセットを、以下、「Smart Amplification Process用プライマーセット」ともいう。
【0028】
前記Smart Amplification Process用プライマーセットの具体例としては、例えば、非対称型である一対のプライマーが、第一のプライマーと第二のプライマーとを含み、前記第一のプライマーが、標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac′)を3’末端部分に含んでなり、かつ前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B′)を前記配列(Ac′)の5’側に含むものであり、前記第二のプライマーが、前記標的核酸配列の相補配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc′)を3’末端部分に含み、かつ相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D−Dc′)を前記配列(Cc′)の5’側に含むものである。
【0029】
第一のプライマーによる核酸合成の作用機序を図22に模式的に示す。まず、鋳型となる核酸中の標的核酸配列を決定し、その標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)、および配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)を決定する。第一のプライマーは、配列(Ac′)を含み、さらにその5’側に配列(B′)を含む。配列(Ac′)は、配列(A)にハイブリダイズするものであり、配列(B′)は、配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズするものである。ここで、第一のプライマーは、前記配列(Ac′)と前記配列(B′)の間に、反応に影響を与えない介在配列を含んでいてもよい。このようなプライマーを鋳型核酸にアニーリングさせると、プライマー中の配列(Ac′)が標的核酸配列の配列(A)にハイブリダイズした状態となる(図22(a))。この状態でプライマー伸長反応が起こると、標的核酸配列の相補配列を含む核酸が合成される。そして、合成された核酸の5’末端側に存在する配列(B′)が、同核酸中に存在する配列(Bc)にハイブリダイズし、これにより、合成された核酸の5’末端部分においてステム−ループ構造が形成される。その結果、鋳型核酸上の配列(A)が一本鎖となり、この部分に先の第一のプライマーと同一の配列を有する他のプライマーがハイブリダイズする(図22(b))。その後、鎖置換反応により、新たにハイブリダイズした第一のプライマーからの伸長反応が起こると同時に、先に合成された核酸が鋳型核酸から分離される(図22(c))。
【0030】
上記の作用機序において、配列(B′)が配列(Bc)にハイブリダイズする現象は、典型的には、同一鎖上に相補領域が存在することにより起こる。一般に、二本鎖核酸が一本鎖に解離するときは、その末端あるいはそれ以外の比較的不安定な部分から部分的な解離が始まる。上記第一のプライマーによる伸長反応で生成した二本鎖核酸は、比較的高温では末端部分の塩基対は解離と結合の平衡状態にあり、全体としては二本鎖を保っている。そのような状態で末端の解離した部分に相補的な配列が同一鎖上に存在すると、準安定な状態としてステム−ループ構造を形成することができる。このステムループ構造は安定的には存在しないが、その構造の形成により剥き出しとなった相補鎖部分(鋳型核酸上の配列(A))に同一の他のプライマーが結合し、すぐさまポリメラーゼが伸長反応を行うことにより、先に合成された鎖が置換されて遊離すると同時に、新たな二本鎖核酸を生成することができる。
【0031】
本発明の好ましい態様における第一のプライマーの設計基準は次のとおりである。まず、プライマーの伸長により鋳型核酸の相補鎖が合成された後に新たなプライマーが効率よく同鋳型核酸にアニーリングするためには、合成された相補鎖の5’末端におけるステム−ループ構造形成により、鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とする必要がある。そのためには、配列(Ac)の塩基数Xと標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数Yとの差(X−Y)の、Xに対する割合(X−Y)/Xが重要となる。ただし、鋳型核酸上において配列(A)よりも5’側に存在する、プライマーのハイブリダイズとは関係無い部分まで一本鎖とする必要はない。また、新たなプライマーが効率よく鋳型核酸にアニーリングするためには、上述のステム−ループ構造形成を効率よく行なうことも必要となる。そして、効率の良いステム−ループ構造形成、すなわち、効率の良い配列(B′)と配列(Bc)とのハイブリダイゼーションには、前記配列(B′)と前記配列(Bc)との間の距離(X+Y)が重要となる。一般に、プライマー伸長反応のための最適温度は最高でも72℃付近であり、そのような低い温度では、伸長鎖が長い領域にわたって解離することは困難である。従って、配列(B′)が配列(Bc)に効率よくハイブリダイズするためには、両配列の間の塩基数は少ないほうが好ましいと考えられる。一方で、配列(B′)が配列(Bc)にハイブリダイズして鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とするためには、配列(B′)の塩基数は多い方が好ましいと考えられる。
【0032】
以上のような観点から、本発明の好ましい実施態様による前記第一のプライマーは、プライマーを構成する配列(Ac)と配列(B′)の間に介在配列が存在しない場合において、(X−Y)/Xが、例えば、−1.00以上、好ましくは0.00以上、さらに好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上となり、また、例えば、1.00以下、好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.25以下となるように設計される。さらに、(X+Y)は、好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上、さらに好ましくは30以上とされ、また、好ましくは50以下、さらに好ましくは48以下、さらに好ましくは42以下とされる。
【0033】
また、プライマーを構成する配列(Ac)と配列(B′)の間に介在配列(塩基数はY’)が存在する場合もあり、配列(Ac)と配列(B′)の間には0から30塩基よりなる任意のオリゴヌクレオチドを持っても良い。さらに、プライマーは特に検出用として標識されていても良い。プライマーを構成する配列(Ac)と配列(B′)の間に介在配列(塩基数はY’)が存在する場合には、本発明の好ましい実施態様による前記第一のプライマーは、{X−(Y−Y’)}/Xが、例えば、−1.00以上、好ましくは0.00以上、さらに好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上となり、また、例えば、1.00以下、好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.25以下となるように設計される。さらに、(X+Y+Y’)は、好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上、さらに好ましくは30以上とされ、また、好ましくは100以下、さらに好ましくは75以下、さらに好ましくは50以下とされる。
【0034】
前記第一のプライマーは、与えられた条件下で必要な特異性を維持しながら標的核酸との塩基対結合を行うことができる程度の鎖長を有するものである。このプライマーの鎖長は、好ましくは15〜100ヌクレオチド、より好ましくは20〜60ヌクレオチドとする。また、前記第一のプライマーを構成する配列(Ac)と配列(B′)の長さは、それぞれ、好ましくは5〜50ヌクレオチド、より好ましくは7〜30ヌクレオチドである。また、必要に応じて、配列(Ac)と配列(B′)の間に、反応に影響を与えない介在配列である0から30塩基よりなる任意のオリゴヌクレオチドを挿入してもよい。
【0035】
本発明によるプライマーセットに含まれる第二のプライマーは、上述のように、前記標的核酸配列の相補配列(第一のプライマーがハイブリダイズする鎖に対して反対側の鎖)の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc′)を3’末端部分に含み、かつ相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D−Dc′)を前記配列(Cc′)の5’側に含むものである。このような第二のプライマーの構造は、例えば、図23に示すようなものであるが、図23に示される配列やヌクレオチド数に限定されるものではない。第二のプライマーを構成する配列(Cc′)の長さは、好ましくは5〜50ヌクレオチド、より好ましくは10〜30ヌクレオチドである。また、前記折返し配列(D−Dc′)の長さは、好ましくは2〜1000ヌクレオチド、より好ましくは2〜100ヌクレオチド、さらに好ましくは4〜60ヌクレオチド、さらに好ましくは6〜40ヌクレオチドであり、折返し配列の内部におけるハイブリダイゼーションによって形成される塩基対のヌクレオチド数は、好ましくは2〜500bp、より好ましくは2〜50bp、さらに好ましくは2〜30bp、さらに好ましくは3〜20bpである。折返し配列(D−Dc′)のヌクレオチド配列はいかなる配列であってもよく、特に限定されるものではないが、好ましくは標的核酸配列にハイブリダイズしない配列とされる。また、必要に応じて、配列(Cc′)と折返し配列(D−Dc′)の間に、反応に影響を与えない介在配列を挿入してもよい。
【0036】
これら第一のプライマーおよび第二のプライマーによる核酸増幅反応について考えられる作用機序を、図24および図25を用いて説明する。なお、図24および図25では、説明を簡略化するため、ハイブリダイズする2つの配列を相互に相補的な配列としているが、これにより本発明が限定されるものではない。まず、第一のプライマーが標的核酸のセンス鎖にハイブリダイズし、該プライマーの伸長反応が起きる(図24(a))。次いで、伸長鎖(−)上においてステム−ループ構造が形成され、これにより一本鎖となった標的核酸センス鎖上の配列(A)に新たな第一のプライマーがハイブリダイズし(図24(b))、該プライマーの伸長反応が起きて、先に合成された伸長鎖(−)が脱離する。次に、脱離した伸長鎖(−)上の配列(C)に第二のプライマーがハイブリダイズし(図24(c))、該プライマーの伸長反応が起き、伸長鎖(+)が合成される(図24(d))。生成した伸長鎖(+)の3’末端と伸長鎖(−)の5’末端ではステム−ループ構造が形成され(図24(e))、遊離型の3’末端である伸長鎖(+)のループ先端から伸長反応が起こると同時に、前記伸長鎖(−)が脱離する(図24(f))。ループ先端からの前記伸長反応により、伸長鎖(+)の3’側に配列(A)および配列(Bc)を介して伸長鎖(−)が結合したヘアピン型の二本鎖核酸が生成し、その配列(A)および配列(Bc)に第一のプライマーがハイブリダイズし(図24(g))、その伸長反応により伸長鎖(−)が生成する(図24(h)および図25(i))。また、前記ヘアピン型二本鎖核酸の3’末端に存在する折返し配列によって遊離型の3’末端が提供され(図24(h))、そこからの伸長反応により(図25(i))、両端に折返し配列を有し、第一および第二のプライマーに由来する配列を介して伸長鎖(+)と伸長鎖(−)とを交互に含む一本鎖核酸が生成する(図25(j))。この一本鎖核酸では、その3’末端に存在する折返し配列により遊離型の3’末端(相補鎖合成起点)が提供されるため(図25(k))、同様の伸長反応が繰り返され、1回の伸長反応あたり2倍の鎖長となる(図25(l)および(m))。また、図25(i)において脱離した第一のプライマーからの伸長鎖(−)では、その3’末端に存在する折返し配列により遊離型の3’末端(相補鎖合成起点)が提供されるため(図25(n))、そこからの伸長反応により、両端にステム−ループ構造が形成され、プライマーに由来する配列を介して伸長鎖(+)と伸長鎖(−)とを交互に含む一本鎖核酸が生成する(図25(o))。この一本鎖核酸においても、3’末端におけるループ形成によって相補鎖合成起点が順次提供されるため、そこからの伸長反応が次々に起こる。このようにして自動的に延長される一本鎖核酸には、第一のプライマーおよび第二のプライマーに由来する配列が伸長鎖(+)と伸長鎖(−)との間に含まれているため、各プライマーがハイブリダイズして伸長反応を起こすことが可能であり、これにより標的核酸のセンス鎖およびアンチセンス鎖が顕著に増幅される。
【0037】
また、Smart Amplification Process用プライマーセットは、第一のプライマーおよび第二のプライマー以外に、第三のプライマーを含んでもよい。前記第三のプライマーは、例えば、前記標的核酸配列またはその相補配列にハイブリダイズするものであって、標的核酸配列またはその相補配列へのハイブリダイゼーションについて他のプライマーと競合しないプライマーである。本発明において「競合しない」とは、そのプライマーが標的核酸にハイブリダイズすることによって他のプライマーによる相補鎖合成起点の付与が妨げられないことを意味する。
【0038】
第一のプライマーおよび第二のプライマーにより標的核酸配列が増幅された場合には、上述のように、増幅産物は標的核酸配列とその相補配列とを交互に有するものとなる。その増幅産物の3’末端には折返し配列またはループ構造が存在し、これにより提供される相補鎖合成起点から次々に伸長反応が起こっている。第三のプライマーは、このような増幅産物が部分的に一本鎖の状態になった時に、その一本鎖部分に存在する標的配列にアニ−リングすることができるプライマーであることが好ましい。これにより、増幅産物中の標的核酸配列内に新たな相補鎖合成起点が提供され、そこからの伸長反応が起こるため、核酸増幅反応がより迅速に行われるようになる。
【0039】
前記第三のプライマーは、制限されず、1種類でもよいし、例えば、核酸増幅反応の迅速性および特異性を向上させるため、2種類以上の第三のプライマーを同時に用いてもよい。これらの第三のプライマーは、例えば、典型的には第一のプライマーおよび第二のプライマーとは異なる配列からなるが、これらのプライマーと競合しない限りにおいて、部分的に重なる領域にハイブリダイズするものとしてもよい。第三のプライマーの鎖長は、好ましくは2〜100ヌクレオチド、より好ましくは5〜50ヌクレオチド、さらに好ましくは7〜30ヌクレオチドである。
【0040】
前記第三のプライマーは、例えば、第一のプライマーおよび第二のプライマーによる核酸増幅反応をより迅速に進めるための補助的な働きをその主目的とする。従って、前記第三のプライマーは、第一のプライマーおよび第二のプライマーの各3’末端のTmよりも低いTmを有するものとすることが好ましい。また、第三のプライマーの増幅反応液への添加量は、例えば、第一のプライマーおよび第二のプライマーのそれぞれの添加量よりも少ない方が好ましい。
【0041】
前記第三のプライマーとしては、例えば、国際公開第02/24902号パンフレットに記載のような、ループを形成できる構造をもつものを鋳型として、そのループ部分に相補鎖合成の起点を付与するものをあげることができるが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、標的核酸配列内であれば、いかなる部位に相補鎖合成起点を付与するものであってもよい。
【0042】
前記Smart Amplification Process用プライマーセットにおいては、例えば、前記第一のプライマーおよび前記第二のプライマーのいずれか一方、または、前記両方のプライマーが、例えば、蛍光色素等で標識化された標識核酸であってもよいし、前記第三のプライマーが前記標識核酸であってもよい。また、第一のプライマーおよび第二のプライマーのいずれか一方もしくは両方と、第三のプライマーとが、全て前記標識核酸であってもよい。
【0043】
また、このSmart Amplification Process法を、例えば、変異判定方法に適用する場合、前記Smart Amplification Process用プライマーを以下のように設計することが好ましい。すなわち、前記Smart Amplification Process用プライマーセットは、検出部位に変異を有する核酸配列(以下、「変異型核酸配列」という)または前記検出部位に変異を有さない核酸配列(以下、「野生型核酸配列」という)を標的核酸配列とし、目的の変異を生じる前記標的部位が、配列(A)、配列(B)もしくは配列(C)に含まれるか、または、配列(A)と配列(B)との間もしくは配列(A)と配列(C)との間に配置されるようにプライマーセットを設計することが好ましい。
【0044】
前記プライマーセットとして、目的の標的部位に変異を有する核酸配列(変異型核酸配列)を標的核酸配列として設計したプライマーセットを用いる場合、例えば、核酸増幅反応後における増幅産物の存在が、変異型核酸配列の存在を示し、増幅産物の不在または減少が、変異型核酸配列の不在を示す。一方、前記目的の標的部位に変異を有さない核酸配列(野生型塩基配列)を標的核酸配列として設計したプライマーセットを用いる場合、例えば、核酸増幅反応後における増幅産物の存在が、変異型塩基配列の不在を示し、増幅産物の不在または減少が、変異型塩基配列の存在を示す。ここで、「増幅産物の減少」とは、得られた増幅産物の量が、核酸試料中の被検核酸に標的核酸配列が存在する場合に得られる増幅産物の量と比較して、減少していることを意味する。
【0045】
前記プライマーセットとしては、例えば、前記目的の標的部位が、前記配列(A)に含まれるように設計されたプライマーセットが好ましい。このようなプライマーセットであれば、例えば、核酸試料中の被検核酸に標的核酸配列(例えば、野生型塩基配列)が含まれる場合、核酸増幅反応において第一のプライマーが配列(A)にアニーリングするため、増幅産物が得られる。一方、核酸試料中の被検核酸に前記標的核酸配列とは異なる核酸配列(例えば、変異型塩基配列)が含まれている場合、核酸増幅反応において第一のプライマーが配列(A)にアニーリングし難いため、増幅産物が得られないか、または、得られる増幅産物の量が著しく減少する。第一のプライマーに含まれる配列(Ac)は、前記配列(A)に相補的な配列とすることが好ましい。
【0046】
また、前記プライマーセットとしては、例えば、前記目的の標的部位が、前記配列(C)に含まれるように設計されたプライマーセットが好ましい。このようなプライマーセットであれば、例えば、核酸試料中の被検核酸に標的核酸配列(例えば、野生型塩基配列)が含まれている場合、核酸増幅反応において第二のプライマーが配列(C)にアニーリングするため、増幅産物が得られる。一方、核酸試料中の被検核酸に前記標的核酸配列とは異なる核酸配列(例えば、変異型塩基配列)が含まれている場合、核酸増幅反応において第二のプライマーが配列(C)にアニーリングし難いため、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。第二のプライマーに含まれる配列(Cc′)は、前記配列(C)に相補的な配列とすることが好ましい。
【0047】
また、前記プライマーとしては、例えば、前記目的の標的部位が、前記配列(B)に含まれるように設計されたプライマーセットであることが好ましい。このようなプライマーセットであれば、例えば、核酸試料中の被検核酸に標的核酸配列(例えば、野生型塩基配列)が含まれている場合、核酸増幅反応において、第一のプライマーが配列(A)にアニーリングして伸長反応が行なわれた後、前記プライマーに含まれる配列(B′)が伸長鎖上の配列(Bc)にハイブリダイズする。このため、ステム−ループ構造が効率的に形成される。この効率的なステム−ループ構造の形成により、他の第一のプライマーが鋳型にアニーリングすることが可能となり、前述の図22に示した作用機序が効率的に進行するため、増幅産物が得られる。一方、核酸試料中の被検核酸に前記標的核酸配列とは異なる核酸配列(例えば、変異型塩基配列)が含まれている場合、核酸増幅反応における前記ステム−ループ構造の形成が困難となるため、前記図22に示される作用機序が妨げられ、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。また、第一のプライマーに含まれる配列(B′)は、前記配列(B)と同一の配列とすることが好ましい。
【0048】
また、前記プライマーセットしては、例えば、前記目的の標的部位が、前記配列(A)と前記配列(B)との間に配置されるように設計されたプライマーセットが好ましい。このようなプライマーセットによれば、核酸試料中の被検核酸に標的核酸配列(例えば、野生型塩基配列)が含まれている場合、核酸増幅反応において、第一のプライマーが配列(A)にアニーリングして伸長反応が行なわれた後、前記プライマーに含まれる配列(B′)が伸長鎖上の配列(Bc)にハイブリダイズするため、ステム−ループ構造が効率的に形成される。この効率的なステム−ループ構造の形成により、他の第一のプライマーが鋳型にアニーリングすることが可能となり、前記図22に示される作用機序が効率的に進行するため、増幅産物が得られる。一方、核酸試料中の被検核酸に前記標的核酸配列とは異なる核酸配列(例えば、変異型塩基配列)が含まれている場合、第一のプライマーに含まれる配列(B′)と伸長鎖上の配列(Bc)とが適切な距離を維持していないため、核酸増幅反応における上記ステム−ループ構造の形成が困難となる。配列(A)と配列(B)との間に、長い配列の挿入や欠失がある場合等である。従って、この場合、前記図22に示される作用機序が妨げられ、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。
【0049】
また、前記プライマーセットとしては、前記目的の標的部位が、前記配列(A)と前記配列(C)との間に配置されるように設計されたプライマーセットが好ましい。このようなプライマーセットによれば、核酸試料中の被検核酸に標的核酸配列が含まれている場合(例えば、野生型塩基配列)、核酸増幅反応において、第一のプライマーが配列(A)にアニーリングして伸長反応が行なわれた後、前記プライマーに含まれる配列(B′)が伸長鎖上の配列(Bc)にハイブリダイズするため、ステム−ループ構造が効率的に形成される。この効率的なステム−ループ構造の形成により、他の第一のプライマーが鋳型にアニーリングすることが可能となり、前記図22、図24、図25に示される作用機序が効率的に進行するため、増幅産物が得られる。一方、核酸試料中の被検核酸に前記標的核酸配列とは異なる核酸配列(例えば、変異型塩基配列)が含まれている場合、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。例えば、配列(A)と配列(C)との間における長い配列の挿入により、標的核酸配列とは異なる核酸配列が核酸試料中に含まれている場合、核酸増幅の速度(効率)が著しく低減されるため、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。また、配列(A)と配列(C)との間における配列の欠失により、標的核酸配列とは異なる核酸配列が核酸試料中に含まれており、かつ、この欠失により配列(B)の一部または全部が失われている場合、第一のプライマーに含まれる配列(B′)が伸長鎖上にハイブリダイズできないため、ステム−ループ構造の形成が不可能となるか、または困難となる。このため、前記図22、図24、図25に示される作用機序が妨げられ、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。さらに、配列(A)と配列(C)との間における配列の欠失により、標的核酸配列とは異なる核酸配列が核酸試料中に含まれており、かつこの欠失による配列(B)の部分的欠失が生じない場合にも、核酸増幅の速度(効率)が低減されるため、増幅産物が得られないか、または得られる増幅産物の量が著しく減少する。
【0050】
競合プローブとは、競合オリゴヌクレオチドとも呼び、特願2006−357509やBiologicals.2008 Jul;36(4):234−8.に記載のオリゴヌクレオチドならびに、その検出方法であり、等温増幅法を用いた遺伝子の検出方法において、非標的塩基配列に特異的にアニールしうるオリゴヌクレオチドを用いることにより、該非標的塩基配列上からの相補鎖合成を防止することを特徴とする、遺伝子の検出方法である。
【0051】
競合プローブまたは競合オリゴヌクレオチドにより、非標的塩基配列に特異的にアニールしうるオリゴヌクレオチドを用いて、該非標的塩基配列における相補鎖合成を防止する効果が得られる。競合プローブ法は、感染症から、SNP、変異など、幅広い増幅、検出の分野に応用可能なものである。
【0052】
競合プローブまたは競合オリゴヌクレオチドのオリゴヌクレオチドは、非標的塩基配列に特異的にアニールしうるオリゴヌクレオチドを用いることにより、該非標的塩基配列上からの相補鎖合成を防止する。さらに、遺伝子の変異検出方法においては、非標的塩基配列における変異部位に特異的にアニールしうるオリゴヌクレオチドを用いることにより、該非標的塩基配列上からの相補鎖合成を防止する。より詳細には、非標的塩基配列における変異部位に特異的にアニールしうるオリゴヌクレオチド(競合オリゴヌクレオチド)を用いることにより、標的塩基配列にアニールしうるプライマーまたは増幅産物の3’末端が、非標的塩基配列にアニーリングすることを防止する。これらのオリゴヌクレオチドは特異的アニールのために、非標的塩基配列上の特定部位を含む5〜100塩基長の領域、特に10〜30塩基長の領域に対し、これと相補的配列を含むことが好ましい。
【0053】
前記オリゴヌクレオチドは、3’末端より伸長反応が起こらないように設計されたオリゴヌクレオチドである。より詳細には、前記オリゴヌクレオチドがその3’末端より伸長反応が起こらないように修飾された、または、オリゴヌクレオチドの3’末端より伸長反応が起こらないように標的塩基配列と非相同的な配列をもたせたものである。該修飾塩基の部位は特に限定されないが、3’末端の塩基であることが好ましい。また、塩基の修飾方法は特に限定されず、アミノ化、ダイデオキシ化またはリン酸化であることが好ましいが、これに限定するものではない。例えば、ビオチン化、蛍光色素、リン酸化、チオール化、アミノ化、ホスホロチオエート化、ハロゲン化などによる塩基の修飾でもかまはない。
【0054】
前記オリゴヌクレオチドの3’末端を修飾する場合、変異部位は競合オリゴヌクレオチドの中央付近に存在することが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0055】
競合プローブまたは競合オリゴヌクレオチドは、等温増幅法を用いた遺伝子の変異検出法において、非標的塩基配列上からの相補鎖合成を様々な核酸配列においても確実に防止する。より詳細には、非標的塩基配列に特異的にアニールしうるオリゴヌクレオチドを用いて、該非標的塩基配列における相補鎖合成を防止する。さらに詳細には、非標的塩基配列に特異的にアニールしうる競合オリゴヌクレオチドを用いて、該非標的塩基配列に特異的でないプライマーがアニーリングし、非特異的な相補鎖合成することを防止する。
【0056】
ペプチド核酸からなる競合オリゴヌクレオチドは、本発明において、ペプチド核酸(PNA)を競合オリゴヌクレオチドの全部、もしくは、その一部として用いることができる。PNAは、オリゴヌクレオチドのデオキシリボース主鎖が、ペプチド主鎖で置換された構造を有する。ペプチド主鎖としては、アミド結合によって結合したN−(2−アミノエチル)グリシンの反復単位が挙げられる。PNAのペプチド主鎖に結合させる塩基としては、チミン、シトシン、アデニン、グアニン、イノシン、ウラシル、5−メチルシトシン、チオウラシルおよび2,6−ジアミノプリンなどの天然に存在する塩基、ブロモチミン、アザアデニンおよびアザグアニンなどの人工塩基が挙げられるが、これのみに限定するものではない。
【0057】
前記PNAは、公知の製造法によって、各核酸塩基を結合させたモノマーを製造後、得られたモノマーを、公知の一般的ペプチド合成方法に従い反応させることができる。固相合成法に従い、自動シンセサイザーを用いて、所望の塩基配列となるように合成させればよい。上記方法は、市販の試薬および原料を用いることが可能であり、市販の試薬を常法に従い適当に誘導体化して、例えば原料とするアミノ酸の反応に関与しないN末端、C末端、側鎖官能基等の保護反応を行なって使用することができる。得られた核酸塩基結合PNAは、高速液体クロマトグラフィー、電気泳動クロマトグラフィー、溶媒抽出、塩析等の通常の分離手段により容易に単離精製することができる。
【0058】
PNAは通常のオリゴヌクレオチドに比較して核酸に対する結合力が強いため、オリゴの設計条件によっては、より確実な変異部位の増幅抑制が可能となる。PNAを競合オリゴヌクレオチドとして用いる場合、非標的塩基配列上の変異部位に相補的な配列はその3’末端でも5’末端でも中央付近であってもよい。また、該PNAからなる競合オリゴヌクレオチドの長さは、5〜50塩基、より望ましくは7〜25塩基長であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0059】
LNAは、糖−リン酸骨格においてリボースの2’位の酸素原子と4’位の炭素原子間がメチレン架橋で結合された、2つの環状構造を持つ核酸である。LNAを含むオリゴがDNAとアニールすると二本鎖のコンフォメーションが変化し、熱安定性が上昇する。LNAは通常のオリゴヌクレオチドに比較して核酸に対する結合力が強いため、オリゴの設計条件によっては、より確実な変異部位のブロックが可能となる。LNAを競合オリゴヌクレオチドとして用いる場合、非標的塩基配列上の変異部位に相補的な配列はその3’末端でも5’末端でも中央付近であってもよい。また、該LNAからなるブロックオリゴの長さは、5〜50塩基、より望ましくは7〜25塩基長であることが好ましいが、これに限定されるものではない。LNAのみで合成されたオリゴヌクレオチドでも、LNAを一部に含むオリゴヌクレオチド、さらには、LNA、PNA、DNA、RNA、その他、人工的な核酸などを複数組み合わせたオリゴヌクレオチドを本発明の競合オリゴヌクレオチドとして用いてもかまわない。
【0060】
競合プローブまたは競合オリゴヌクレオチドの好ましい実施態様によれば、本発明による遺伝子多型のタイピングにおける核酸増幅反応は、競合オリゴヌクレオチドやミスマッチ認識タンパク質の存在下で行なわれ、これにより、より正確に変異を検出することが可能となる。
【0061】
LAMP法
前記対称型のプライマーセットは、前述のように、一方のプライマーの形態と他方のプライマーの形態とが同じである対称型の一対のプライマーを有するプライマーセットであり、中でも、前記LAMP法に適用することが好ましい。このプライマーセットを、以下、「LAMP用プライマーセット」ともいう。
【0062】
LAMP法は、例えば、4種類のプライマーが必要とされ、それらが6個所の領域を認識することにより、目的遺伝子の増幅が可能となる。すなわち、この方法では、まず、第一のプライマーが鋳型鎖にアニーリングして伸長反応が起こる。次に、第一のプライマーよりも上流側に設計された第二のプライマーによる鎖置換反応によって、第一のプライマーによる伸長鎖が鋳型鎖から分離する。この時、剥ぎ取られた第一のプライマー伸長産物の構成に起因して伸長鎖の5’末端部分でステム−ループ構造が形成される。これと同様の反応が二本鎖核酸のもう一方の鎖、もしくは、剥ぎ取られた第一のプライマー伸長産物の3’末端側についても行なわれる。そして、これらの反応が繰り返されることにより、標的核酸配列が増幅される。LAMP法における鋳型は、例えば、3’末端と5’末端において、それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え、この互いに相補的な塩基配列がアニーリングしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型である(「ダンベル型鋳型核酸」ともいう)。LAMP法は、例えば、国際公開第00/28082号パンフレット、国際公開第01/034838号パンフレット等に従って行うことができる。
【0063】
(非等温増幅法)
PCR法
PCR法は、前述のように、反応温度を変化させることにより、例えば、二本鎖核酸の解離、解離した一本鎖へのプライマーのアニーリング、プライマーからの核酸合成により、標的核酸配列の増幅を行うことができる。PCR法の条件は、特に制限されず、当業者であれば適宜設定できる。
【0064】
本発明の第一の判定方法について、以下に、二本鎖DNAを被検核酸(鋳型核酸)とする例をあげて説明する。
【0065】
まず、被検核酸である二本鎖DNA、プライマー、Aac MutS、DNAポリメラーゼおよびdNTPを含む反応液を準備する。なお、使用する前記プライマーの種類は、特に制限されず、例えば、核酸増幅反応の種類や、増幅目的の標的核酸配列の種類に応じて設定でき、1種類または2種類以上を使用してもよく、また、対となるプライマーセットを1種類または2種類以上を使用してもよい。
【0066】
さらに、前記核酸増幅反応により得られる増幅産物を検出し、増幅の有無を確認する。増幅産物の検出は、例えば、反応中において経時的に行ってもよいし、反応開始から一定時間経過後に行ってもよい。前者は、いわゆるリアルタイムでの検出であり、例えば、連続的な検出であってもよいし、断続的な検出であってもよい。後者の場合、例えば、反応開始時と一定時間経過時に増幅産物の検出を行い、その変動から増幅の有無を確認することが好ましい。
【0067】
増幅産物の検出方法は、特に制限されず、以下に示すような従来公知の方法が使用できる。
【0068】
前記増幅産物の検出方法としては、例えば、一般的なゲル電気泳動により、特定のサイズの増幅産物を検出する方法があげられ、例えば、エチジウムブロマイドやサイバーグリーン等の蛍光物質により検出できる。また、標識化物質で標識化されたプローブを用い、これを前記増幅産物にハイブリダイズさせて、検出することもできる。前記標識化物質としては、例えば、ビオチンがあげられる。前記ビオチンは、例えば、蛍光標識されたアビジン、ペルオキシダーゼ等酵素に結合したアビジン等との結合によって検出可能である。さらに、免疫クロマトグラフを用いる方法があり、例えば、肉眼で検出可能な標識を利用したクロマトグラフ媒体を使用する方法(イムノクロマトグラフィー法)があげられる。具体的には、例えば、前記増幅産物と標識プローブとをハイブリダイズさせ、これを、前記プローブとは異なる部位で前記増幅産物にハイブリダイズ可能な補足プローブを固定化したクロマト媒体に接触させる。すると、前記クロマト媒体に固定した前記補足プローブにより前記増幅産物と前記標識化プローブとのハイブリッド体をトラップできる。その結果、例えば、肉眼により前記増幅産物を容易に検出することが可能となる。さらに、本発明においては、例えば、増幅の副産物であるピロリン酸を検出することで、間接的に増幅産物を検出することも可能である。特に、前述のSmart Amplification Process法は、増幅効率が非常に高いため、ピロリン酸による間接的な検出も好ましい。このような方法では、例えば、反応液中のマグネシウムと生成したピロリン酸とが結合して、ピロリン酸マグネシウムの白色沈澱が生じることを利用し、前記反応液の白濁を目視または光学的手法で観察することにより、増幅の有無を検出できる。また、ピロリン酸がマグネシウム等の金属イオンと強く結合して不溶性塩を形成し、前記反応液中のマグネシウムイオン濃度が著しく減少することを利用する方法もある。このような方法では、例えば、マグネシウムイオン濃度に応じて色調が変化する金属指示薬(例えば、Eriochrome Black T、Hydroxy Naphthol Blue等)を前記反応液に添加しておき、前記反応液の色の変化を目視または光学的手法で観察することにより、増幅の有無を検出できる。さらに、例えば、Calcein等の蛍光色素を用いることによっても、増幅反応に伴う蛍光の増大を目視や光学的手法で観察できるため、リアルタイムでの増幅産物の検出が可能となる。
【0069】
本発明においては、例えば、増幅産物の生成に起因する固相担体の凝集を観察することで、増幅産物の有無を検出することもできる。このような方法においては、例えば、本発明において使用する少なくとも一種類のプライマーが、例えば、固相担体または固相担体と結合可能な部位または基を含むことが好ましい。前記固相担体または固相担体と結合可能な部位は、例えば、前記プライマーの3’末端領域、5’末端領域、中央領域等、いずれの領域に導入されてもよく、好ましくは、5’末端領域である。また、増幅反応において使用されるデオキシヌクレオチド(dNTP)等の基質が、例えば、固相担体または固相担体と結合可能な部位を含んでもよい。
【0070】
前記固相担体としては、特に制限されず、例えば、増幅反応に使用する反応液に不溶性の担体、増幅の前後において液相から固相(ゲル相)に性状が変化する相転移性担体、または、増幅の前後において固相(ゲル相)から液相に性状が変化する相転移性担体等が使用できる。好ましい固相担体としては、例えば、水不溶性有機高分子担体、水不溶性無機高分子担体、合成高分子担体、相転移性担体、金属コロイド、磁性粒子、溶媒不溶性有機高分子担体、溶媒不溶性無機高分子担体、溶媒可溶性高分子担体、ゲル高分子担体等があげられる。前記水不溶性有機高分子としては、例えば、多孔質シリカ、多孔質ガラス、珪藻土、セライト等の珪素含有物質;ニトロセルロース、ヒドロキシアパタイト、アガロース、デキストラン、セルロース、カルボキシメチルセルロース等の多糖類の架橋体;メチル化アルブミン、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン等のタンパク質の架橋体;ゲル状粒子、染料ゾル等があげられる。前記水不溶性無機高分子としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、セラミック粒子等があげられる。前記合成高分子としては、例えば、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリルまたはこれらの共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体等があげられる。前記金属コロイドとしては、例えば、金コロイド等があげられる。前記磁性粒子としては、例えば、磁性酸化鉄のビーズ、磁性酸化鉄の微粉砕粒子を表面に有する粒子、超常磁性粒子(特表平4−501959号公報)、重合性シラン被膜で覆われた超常磁性酸化鉄を有する磁気応答粒子(特公平7−6986号公報)、有機ポリマー中に封入された微粉末状の磁化可能な粒子等があげられる。磁性化された固相担体は、例えば、固体と液体との分離を磁力を利用して簡単に行うことができる。前記固相担体の形状としては、特に制限されないが、例えば、粒子、膜、繊維状、フィルター等があげられ、中でも粒子が好ましく、その表面は、例えば、多孔質または非多孔質のいずれであってもよい。特に好ましい固相担体としては、例えば、合成高分子担体が水等に均一に分散されたラテックス、金コロイド等の金属コロイド粒子、マグネットビーズ等の磁性粒子等があげられる。
【0071】
前記固相担体への前記プライマーまたは前記基質の固定化方法は、特に制限されない。前記固定化は、例えば、当業者に公知の方法により行うことができ、物理的な結合または化学的な結合のいずれによる方法であってもよい。前記固定化は、例えば、一般的にプライマーやプローブ等のオリゴヌクレオチドを標識化しうる物質と、これに結合可能な物質を結合させた固相担体とを組み合わせて使用することにより行える。前記物質の組み合わせとしては、特に制限されず、当該技術分野において公知のものを使用でき、例えば、ビオチンとアビジンまたはストレプトアビジンとの組み合わせ、抗原とこれに結合しうる抗体との組み合わせ、リガンドとこれに結合しうるレセプターとの組み合わせ、相互にハイブリダイズする2つの核酸の組み合わせ等があげられる。具体的には、例えば、ビオチンで標識したプライマーまたは基質を、アビジンもしくはストレプトアビジンで表面をコートした固相担体に結合させることにより、プライマーまたは基質を固相担体に固定化できる。前記抗原としては、例えば、FITC、DIG、DNP等のハプテンがあげられ、これらと結合しうる抗体としては、例えば、抗FITC抗体、抗DIG抗体、抗DNP抗体等の抗体があげられる。また、これらの抗体は、例えば、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体のいずれであってもよい。特に、ビオチンとストレプトアビジンとの結合は、例えば、特異性が高く結合効率も良好であるため、特に好ましい。ビオチン、ハプテン、リガンド等の標識物質は、例えば、いずれも単独で、あるいは必要に応じて複数の組み合わせで、公知の手段(例えば、特開昭59−93099号公報、特開昭59−148798号公報、および特開昭59−204200号公報を参照)により、プライマーの5’末端領域等に導入できる。
【0072】
前記固相担体と結合可能な部位または基は、例えば、前述した前記固相担体へのプライマーまたは基質の固定化方法に応じて、適宜選択可能である。このため、前記部位または基は、例えば、前記固相担体との物理的な結合を可能とするもの、および化学的な結合を可能とするもののいずれであってもよいが、特異的結合を可能とするものが好ましい。前記固相担体と結合可能な部位としては、例えば、前述のように、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、抗原、抗体、リガンド、レセプター、核酸、タンパク質などがあげられ、好ましくは、ビオチンまたはストレプトアビジンであり、より好ましくは、ビオチンである。このような部位を有するプライマーまたは基質を用いることにより、例えば、増幅反応後、生成した増幅産物に前記固相担体を結合させることが可能となる。この場合、前記固相担体は、例えば、必要に応じて、前記プライマーまたは基質に含まれる前記部位の結合相手を含むことが好ましい。前記固相担体における前記結合相手は、例えば、プライマーまたは基質における前記部位に対して結合可能な状態で存在すればよく、好ましくは、前記固相担体の表面上に存在するものであり、より好ましくは、前記固相担体の表面上に塗布されたものである。
【0073】
本発明においては、例えば、複数の標的核酸配列のそれぞれに対して、前述のようなプライマーセットを用意し、これらの複数のプライマーセットを、相互に識別可能な形で前記固相担体にそれぞれ固定化し、前記複数の固定化プライマーセットを用いて増幅反応を行ってもよい。このような方法によれば、複数の標的核酸配列を同時に増幅し、各標的核酸配列の増幅産物を、識別して検出することが可能である。前記増幅産物の検出は、例えば、インターカレーター等を用いて行うことができる。具体的には、例えば、前記複数のプライマーを、平面状の固相担体上の特定の位置にそれぞれ固定化しておけば、増幅反応および増幅産物の検出の後、前記増幅産物が検出された位置によって、増幅された標的核酸配列を特定できる。このような方法における前記固相担体としては、前記平面状の固相担体だけでなく、例えば、相互に識別可能なビーズ表面(米国特許第6046807号明細書および米国特許第6057107号明細書)、繊維状担体に各プライマーセットを固相化したものを束ね、それを薄片に切断して作製された準平板担体(特開2000−245460号公報)等、当該技術分野において公知のものを使用できる。
【0074】
これらの他に、増幅産物の検出方法としては、例えば、二本鎖核酸にインターカレートするインターカレーターを使用し、励起光照射により発生する蛍光により、増幅の有無を判断する、いわゆるインターカレーター法があげられる。また、蛍光物質とクエンチャーとを利用する方法も採用でき、例えば、TaqMan(商標)プローブ法、サイクリングプローブ法等があげられる。また、国際公開第WO2008/111485号パンフレットに開示されている化合物を有するプローブやプライマーを用いて、増幅の有無を判断することが好ましい。この方法によれば、前記プローブまたはプライマーと増幅産物とが二本鎖核酸を形成すると、励起光の照射により蛍光を発するため、前記蛍光の検出により増幅の有無を判断することができる。この方法によれば、例えば、未精製の核酸試料や精製度の低い核酸試料であっても、バックグラウンドの上昇を軽減できることから、特に好ましい。これらの方法は、例えば、いわゆるリアルタイムでの検出に適用することが好ましい。
【0075】
また、プライマーの5’末端をチップ等の固相に固定化しておき、前記固相上で増幅反応を行ってもよい。この場合、例えば、前記プライマーに二本鎖形成により発光する蛍光物質を付加しておいてもよいし、前記蛍光物質を付加したプローブを反応液に添加した状態で増幅反応を行ってもよい。これにより、例えば、前記チップ等の固相上で増幅反応を行いながら、リアルタイムで増幅産物の検出を行うことが可能である。
【0076】
そして、増幅の有無から、被検核酸配列における目的対象部位が野生型であるか変異型であるかを判断する。プライマーとして、例えば、野生型核酸配列における前記目的対象部位を含む所定領域に対して完全に相補的なプライマーを使用すれば、増幅が確認された場合は、前記目的対象部位は野生型であり、変異は存在しないと判断でき、増幅が確認されなかった場合は、前記目的対象部位は変異型であり、変異が存在すると判断できる。他方、プライマーとして、例えば、変異型核酸配列における前記目的対象部位を含む所定領域に対して完全に相補的なプライマーを使用すれば、増幅が確認された場合には、前記目的対象部位は変異型であり、変異が存在すると判断でき、増幅が確認されなかった場合は、前記目的対象部位は野生型であり、変異は存在しないと判断できる。
【0077】
本発明の判定方法は、特に示さない限り、限定されるものではない。具体的には、本発明の第一の判定方法における「標的プライマー」に代えて、前記標的プローブを使用した第二の判定方法、さらに、前記標的核酸配列を増幅するためのプライマーを使用する以外は、第一の判定方法と同様に行うことができる。
【0078】
前記標的プローブは、例えば、前記プローブを構成する核酸や塩基の種類等、前記第一の判定方法における前記標的プライマーと同様にすることができる。前記プローブの長さは、特に制限されないが、例えば、5〜40塩基、より好ましくは15〜25塩基である。また、前記プローブの被検核酸に対するアニーリング条件は、特に制限されないが、例えば、20〜80℃の範囲でハイブリダイズすることが好ましい。また、前記プローブは、例えば、一方もしくは両方の末端に、標識やアミノ基等の活性基等を有してもよい。
【0079】
本発明の第一の判定方法では、例えば、前記(I’)工程において、前記標的部位の塩基が変異型である前記領域にハイブリダイズ可能な標的プローブを使用すれば、前記(II)工程において、増幅が確認された場合は、前記標的部位の塩基が変異型であると判定し、増幅が確認されなかった場合は、前記標的部位の塩基が正常型であると判定することができる。他方、例えば、前記(I’)工程において、前記標的部位の塩基が野生型である前記領域にハイブリダイズ可能な標的プローブを使用すれば、前記(II)工程において、増幅が確認された場合は、前記標的部位の塩基が正常型であると判定し、増幅が確認されなかった場合は、前記標的部位の塩基が変異型であると判定することができる。
【0080】
なお、本発明の非特異増幅の抑制方法および核酸増幅方法として、Taq MutSやAac MutSの存在下で増幅反応を行うことも可能であり、その他の条件は、特に制限されない。これらの具体的な手法については、前述した本発明の変異の判定方法と同様である。
【0081】
本発明の判定試薬は、さらに、前述したADP等の添加剤、他のMutS、プライマー、ポリメラーゼ等の酵素、dNTP、緩衝液、融解温度調整剤、酵素安定剤等の試薬類を含んでもよい。本発明の判定試薬における各成分の添加割合は、特に制限されないが、例えば、増幅反応の反応液に添加した際、前述のような濃度となるように添加することが好ましい。また、本発明の判定試薬は、例えば、本発明の判定方法に使用するための判定キットであってもよい。この場合、例えば、さらに使用説明書を含むことが好ましい。また、本発明の判定試薬および判定キットにおいて、各成分は、例えば、それぞれ単独で容器に収容されてもよいし、適宜組み合せて、各容器に収容されてもよい。前記容器の形態や材質等も、特に制限されない。
【0082】
β3AR(β3−adrenergic receptor)はヒト第8番染色体の8p12〜8p11.2に存在し、Gタンパク質共役受容体タンパク質であるβ3アドレナリン受容体をコードする遺伝子である。このβ3ARには、N末端から64番目のトリプトファンがアルギニンに置き換わった変異(以下、Trp64Arg)が存在しており、肥満などとの関連が指摘されている。従って、β3AR遺伝子の遺伝子多型情報として、ワイルド型,ヘテロ型,ホモ型の3種類の遺伝子型が存在する。
ここで、ワイルド型とはいずれの対立遺伝子にも遺伝子の変異が無いタイプ、ヘテロ型とは一方の対立遺伝子に変異があるタイプ、ホモ型とは対立遺伝子の両方に変異があるタイプである。このTrp64Argを有するヘテロ型およびホモ型の人は、安静時の代謝量がワイルド型に比べて両型ともに一日あたりの基礎代謝量が200kcal程度低い。従って、これらの遺伝子型の人は、ワイルド型の人に比べて痩せにくい体質をしている。また、この遺伝子に変異を有する人は、下半身や臀部に脂肪が付きやすく、内臓脂肪よりも皮下脂肪が蓄積されやすい体質をしていると言われている。
【0083】
また、UCP1(Uncoupling protein1)は、ヒト第4番染色体の4q28〜4q31に存在し、ミトコンドリアにおけるプロトン移送に関連する遺伝子である。このUCP1には、5’末端から−3826番目のアデニンがグアニンに変異した点変異(以下、A−3826G)が存在している。従って、UCP1遺伝子の遺伝子多型情報として、ワイルド型,ヘテロ型,ホモ型の3種類の遺伝子型が存在する。このA−3826Gを有するホモ型の人は、安静時の代謝量がワイルド型やヘテロ型に比べて100kcal程度低い。従って、この遺伝子型の人は、ワイルド型やヘテロ型の人に比べて痩せにくい体質をしている。また、この遺伝子に変異を有する人は、下半身や臀部に脂肪が付きやすく、内臓脂肪よりも皮下脂肪が蓄積されやすい体質をしていると言われている。
【0084】
β2AR遺伝子(β2−adrenergic receptor)は、ヒト第5番染色体の5q31〜5q32に存在し、Gタンパク質共役受容体タンパク質であるβ2アドレナリン受容体をコードする遺伝子である。このβ2AR遺伝子には、N末端から16番目のアルギニンがグリシンに置き換わった変異(以下、Arg16Gly)が存在している。従って、β2AR遺伝子の遺伝子多型情報として、ワイルド型,ヘテロ型,ホモ型の3種類の遺伝子型が存在する。このArg16Glyを有するホモ型の人は、安静時の代謝量がワイルド型やヘテロ型に比べて200kcal程度高い。従って、この遺伝子型の人は、ワイルド型やヘテロ型の人に比べて全体的に痩せた体型をしている。また、この遺伝子に変異を有する人は、脂肪および筋肉が付きにくい体質をしていると言われている。
【0085】
この遺伝子型と1日あたりの基礎代謝量との関係を示した表を以下に示す。表の中の数値が、ワイルド型を基準とした1日あたりの基礎代謝量を示しており、単位は「kcal」である。たとえば、β3AR遺伝子のホモ型は、一日あたりの基礎代謝量がワイルド型と比べて−200kcal程度少ないことを示している。
【0086】
また、臨床検体のサンプリング方法に関しては、綿棒を含む生体細胞取得キットを検査機関から利用者の自宅に送付して、利用者が自宅で生体細胞を取得したのち、上記綿棒を所定の保存容器に収納して検査機関に郵送などにより返送するようにしてもよい。この場合、自宅で細胞を取得することが可能となるため、わざわざ検査機関に出向く必要がなく、利用者にとっての利便性が向上する。
【0087】
なお、取得する細胞は上記のような粘膜細胞に限定されず、血液中に含まれる白血球などの血液細胞や毛根にある毛母細胞や爪の細胞など、遺伝子情報を含む核を細胞内に備えた有核細胞であればどのような細胞であってもよい。また、細胞を取得する方法も、上記のような綿棒を使って取得する方法に限定されず、ブラシなどで取得したり、10mM生理的食塩水などで口腔洗浄を行って取得したりする方法などであってもよいし、注射器などで血液を取得する方法であってもよい。
【0088】
上記の生体細胞取得工程で取得された生体細胞からDNAを抽出して、肥満遺伝子の遺伝子多型情報を取得するDNA検査工程を行う。生体細胞からDNAを抽出する方法としては、生命科学の分野における公知の方法が用いられる。
【0089】
以下に、生体細胞からDNAを抽出して、その遺伝子多型情報を取得する方法の一例について具体的に説明するがこれに限定されるものではない。まず生体細胞が付着した綿棒の先端部をPBS緩衝液300μLに浸漬して懸濁する。続いて10000rpm,5分間の遠心分離を行い、上清を除去する。次に、この溶液中に所定ユニットのプロテアーゼKを含むpH7.0の10mMリン酸緩衝液を混合して撹拌し、55℃で30分間インキュベートする。その後、この反応溶液中にフェノール/クロロホルム(1:1)溶液200μLを混合して5分間撹拌し、10000rpm,5分間で遠心分離を行う。遠心分離後の水相を取得して、3M酢酸ナトリウムおよびエタノール400μLを混合して、1000rpm,10分間行う。得られた沈殿をエタノールで洗浄して、エバポレータで乾燥してDNAサンプルを得る。DNAサンプルは、この乾燥状態で長期間保存することができる。
【0090】
また、血液などの検体であれば、後述の実験実施例に記載のような、血液とアルカリ試薬を混合し、加熱処理するだけで、等温増幅の鋳型として用いることも可能である。
【0091】
なお、本発明の健康支援情報提供について肥満遺伝子の遺伝子多型情報に基づいて利用者に健康支援情報を提供する例を挙げて説明したが、本発明の健康支援情報提供としては、このような肥満遺伝子の遺伝子多型情報に限定されない。例えばp53やRASなどの腫瘍遺伝子や、ALDH2などのアルコール分解に関する遺伝子といった各種疾患や体質に関連する遺伝子の遺伝子多型情報に基づいて、健康支援情報を提供することができる。
【0092】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により制限されない。
【実施例1】
【0093】
実施例1
ヒトUCP1−3826(A>G)の遺伝子多型検出
ヒトUCP1−3826(A>G)の遺伝子多型を検出するプライマーセットとして、以下のものを用いた。プライマーの位置は図1のとおりである。

また非特異増幅を抑制するため、競合オリゴヌクレオチドとして、3’末端をアミノ化修飾した長さ17塩基の以下のオリゴヌクレオチドCO(m)を野生型プライマーセットに、3’末端をアミノ化修飾した長さ15塩基の以下のオリゴヌクレオチドCO(w)を変異型プライマーセットに加えて用いた。

【0094】
核酸試料の調製は、以下のとおり行なった。UCP1−3826 A(野生型)をホモで持つゲノムDNA(濃度10ng/μL)、UCP1−3826 G(変異型)をホモで持つゲノムDNA(濃度10ng/μL)及びUCP1−3826 A/G(ヘテロ型)のゲノムDNA(濃度10ng/μL)を98℃、3分熱処理後、氷冷したものを核酸試料とした。ここで使用するゲノムDNAの遺伝子多型はシークエンス法で確認した。
【0095】
SMAP法による増幅は以下のように行った。反応系の組成(25μL)は以下の通りである。20mM Tris−HCl(pH8.0)、1.4mM dNTPs、10mM KCl、10mM(NH4)2SO4、8mM MgSO4、0.1% Tween▲R▼20、1/100,000diluted SYBR▲R▼ Green I、6U Aacポリメラーゼ、1uL核酸試料、2.0μM FP、2.0μM TP、1.0μM BP、0.25μM OP1、0.25μM OP2、10μM COで反応を行った。上記の反応組成で60℃、40分間反応を行った。反応はMX−3000P(STRATAGENE)を用い、経時的に蛍光強度を測定しながら行った。
【0096】
結果は図2〜4のとおりである。UCP1−3826 A(野生型)増幅プライマーセットを用い、3タイプのゲノムDNAを増幅した場合、野生型遺伝子(−3826 A)を含む野生型ホモとヘテロ型のゲノムDNAから増幅が確認され、変異型ホモのゲノムDNAからの増幅は確認されなかった。UCP1−3826 G(変異型)増幅プライマーセットを用い、3タイプのゲノムDNAを増幅した場合、変異型遺伝子(−3826 G)を含む変異型ホモとヘテロ型のゲノムDNAから増幅が確認され、野生型ホモのゲノムDNAからの増幅は確認されなかった。この結果はシークエンス法による解析結果と完全に一致した。
【0097】
実施例2
ヒトβ3AR(Trp64Arg)の遺伝子多型検出
ヒトβ3AR(Trp64Arg)の遺伝子多型を検出するプライマーセットとして、以下のものを用いた。プライマーの位置は図5のとおりである。

また非特異増幅を抑制するための競合オリゴヌクレオチドとして、3’末端をアミノ化修飾した長さ15塩基の以下のオリゴヌクレオチドCO(m)を野生型プライマーセットに、3’末端をアミノ化修飾した長さ15塩基の以下のオリゴヌクレオチドCO(w)を変異型プライマーセットに加えて用いた。

【0098】
核酸試料の調製は、以下のとおり行なった。β3AR Trp64(野生型)をホモで持つゲノムDNA、β3AR Arg64(変異型)をホモで持つゲノムDNA及びβ3AR Trp64/Arg64(ヘテロ型)のゲノムDNAを98℃、3分熱処理後、氷冷したものを核酸試料とした。ここで使用するゲノムDNAの遺伝子多型は、ゲノムDNAを抽出後、シークエンス法で確認した。
【0099】
SMAP反応による増幅反応は以下のように行なった。反応系の組成(25μL)は以下の通りである。20mM Tris−HCl(pH8.0)、1.4mM dNTPs、5% DMSO、10mM KCl、10mM(NH4)2SO4、8mM MgSO4、0.1% Tween20、1/100,000diluted SYBR▲R▼ Green I、6U Aacポリメラーゼ、1μL核酸試料、2.0μM FP、2.0μM TP、1.0μM BP、0.25μM OP、10μM COで反応を行った。上記の反応組成で60℃、40分間反応を行った。反応はMX−3000P(STRATAGENE)を用い、経時的に蛍光強度を測定しながら行った。
【0100】
結果は図6〜8のとおりである。β3AR Trp64(野生型)増幅プライマーセットを用い、3タイプのゲノムDNAを増幅した場合、野生型遺伝子(β3AR Trp64)を含む野生型ホモとヘテロ型のゲノムDNAから増幅が確認され、変異型ホモのゲノムDNAからの増幅は確認されなかった。β3AR Arg64(変異型)増幅プライマーセットを用い、3タイプのゲノムDNAを増幅した場合、変異型遺伝子(β3AR Arg64)を含む変異型ホモとヘテロ型のゲノムDNAから増幅が確認され、野生型ホモのゲノムDNAからの増幅は確認されなかった。この結果はシークエンス法による解析結果と完全に一致した。
【0101】
実施例3
ヒトβ2AR(Arg16Gly)の遺伝子多型検出
ヒトβ2AR(Arg16Gly)の遺伝子多型を検出するプライマーセットとして、以下のものを用いた。プライマーの位置は図9のとおりである。


また非特異増幅を抑制するための競合オリゴヌクレオチドとして、3’末端をアミノ化修飾した長さ15塩基の以下のオリゴヌクレオチドCO(m)を野生型プライマーセットに、3’末端をアミノ化修飾した長さ15塩基の以下のオリゴヌクレオチドCO(w)を変異型プライマーセットに加えて用いた。

【0102】
核酸試料の調製は、以下のとおり行なった。β2AR Arg16(野生型)をホモで持つゲノムDNA、β2AR Gly16(変異型)をホモで持つゲノムDNA及びβ2AR Arg16/Gly16(ヘテロ型)のゲノムDNAを、98℃、10分熱処理後、氷冷したものを核酸試料とした。ここで使用するゲノムDNAの遺伝子多型は、ゲノムDNAを抽出後、シークエンス法で確認した。
【0103】
SMAP反応による増幅反応は以下のように行なった。反応系の組成(25μL)は以下の通りである。20mM Tris−HCl(pH8.0)、1.4mM dNTPs、5% DMSO、10mM KCl、10mM(NH4)2S04、8mM MgSO4、0.1% Tween20、1/100,000diluted SYBR▲R▼ Green I、6U Aacポリメラーゼ、1uL核酸試料、2.0μM FP、2.0μM TP、1.0μM BP、0.25μM OP、10μM COで反応を行った。上記の反応組成で60℃、40分間反応を行った。反応はMX−3000P(STRATAGENE)を用い、経時的に蛍光強度を測定しながら行った。
【0104】
結果は図10〜12のとおりである。β2AR Arg16(野生型)増幅プライマーセットを用い、3タイプのゲノムDNAを増幅した場合、野生型遺伝子(β2AR Arg16)を含む野生型ホモとヘテロ型のゲノムDNAから増幅が確認され、変異型ホモのゲノムDNAからの増幅は確認されなかった(図11)。β2AR Gly16(変異型)増幅プライマーセットを用い、3タイプのゲノムDNAを増幅した場合、変異型遺伝子(β2AR Gly16)を含む変異型ホモとヘテロ型のゲノムDNAから増幅が確認され、野生型ホモのゲノムDNAからの増幅は確認されなかった(図12)。この結果はシークエンス法による解析結果と完全に一致した。
【0105】
実施例4
ヒトUCP1−3826(A>G)の遺伝子多型検出
ヒトUCP1−3826(A>G)の遺伝子多型を検出するプライマーセットとして、以下のものを用いた。プライマーの位置は図1のとおりである。

また非特異増幅を抑制するため、競合オリゴヌクレオチドとして、3’末端をアミノ化修飾した長さ17塩基の以下のオリゴヌクレオチドCO(m)を野生型プライマーセットに、3’末端をアミノ化修飾した長さ15塩基の以下のオリゴヌクレオチドCO(w)を変異型プライマーセットに加えて用いた。

【0106】
核酸試料の調製は、以下のとおり行なった。UCP1−3826 A(野生型)をホモで持つ血液サンプル、UCP1−3826 G(変異型)をホモで持つ血液サンプル及びUCP1−3826 A/G(ヘテロ型)の血液サンプルを98℃、3分熱処理後、氷冷したものを核酸試料とした。ここで使用する血液サンプルの遺伝子多型はシークエンス法で確認した。
【0107】
SMAP法による増幅は以下のように行った。反応系の組成(25μL)は以下の通りである。20mM Tris−HCl(pH8.0)、1.4mM dNTPs、10mM KCl、10mM(NH4)2SO4、8mM MgSO4、0.1% Tween▲R▼20、1/100,000diluted SYBR▲R▼ Green I、6U Aacポリメラーゼ、1μL核酸試料、2.0μM FP、2.0μM TP、1.0μM BP、0.25μM OP1、0.25μM OP2、10μM COで反応を行った。上記の反応組成で60℃、40分間反応を行った。反応はMX−3000P(STRATAGENE)を用い、経時的に蛍光強度を測定しながら行った。
【0108】
結果は図13〜15のとおりである。UCP1−3826 A(野生型)増幅プライマーセットを用い、3タイプの血液サンプルを増幅した場合、野生型遺伝子(−3826 A)を含む野生型ホモとヘテロ型の血液サンプルから増幅が確認され、変異型ホモの血液サンプルからの増幅は確認されなかった。UCP1−3826 G(変異型)増幅プライマーセットを用い、3タイプの血液サンプルを増幅した場合、変異型遺伝子(−3826 G)を含む変異型ホモとヘテロ型の血液サンプルから増幅が確認され、野生型ホモの血液サンプルからの増幅は確認されなかった。この結果はシークエンス法による解析結果と完全に一致した。
【0109】
実施例5
ヒトβ3AR(Trp64Arg)の遺伝子多型検出
ヒトβ3AR(Trp64Arg)の遺伝子多型を検出するプライマーセットとして、以下のものを用いた。プライマーの位置は図5のとおりである。

また非特異増幅を抑制するための競合オリゴヌクレオチドとして、3’末端をアミノ化修飾した長さ15塩基の以下のオリゴヌクレオチドCO(m)を野生型プライマーセットに、3’末端をアミノ化修飾した長さ15塩基の以下のオリゴヌクレオチドCO(w)を変異型プライマーセットに加えて用いた。

【0110】
核酸試料の調製は、以下のとおり行なった。β3AR Trp64(野生型)をホモで持つ血液サンプル、β3AR Arg64(変異型)をホモで持つ血液サンプル及びβ3AR Trp64/Arg64(ヘテロ型)の血液サンプルを98℃、3分熱処理後、氷冷したものを核酸試料とした。ここで使用する血液サンプルの遺伝子多型は、血液サンプルを抽出後、シークエンス法で確認した。
【0111】
SMAP反応による増幅反応は以下のように行なった。反応系の組成(25μL)は以下の通りである。20mM Tris−HCl(pH8.0)、1.4mM dNTPs、5% DMSO、10mM KCl、10mM(NH4)2SO4、8mM MgSO4、0.1% Tween20、1/100,000diluted SYBR▲R▼ Green I、6U Aacポリメラーゼ、1uL核酸試料、2.0μM FP、2.0μM TP、1.0μM BP、0.25μM OP、10μM COで反応を行った。上記の反応組成で60℃、40分間反応を行った。反応はMX−3000P(STRATAGENE)を用い、経時的に蛍光強度を測定しながら行った。
【0112】
結果は図16〜18のとおりである。β3AR Trp64(野生型)増幅プライマーセットを用い、3タイプの血液サンプルを増幅した場合、野生型遺伝子(β3AR Trp64)を含む野生型ホモとヘテロ型の血液サンプルから増幅が確認され、変異型ホモの血液サンプルからの増幅は確認されなかった。β3AR Arg64(変異型)増幅プライマーセットを用い、3タイプの血液サンプルを増幅した場合、変異型遺伝子(β3AR Arg64)を含む変異型ホモとヘテロ型の血液サンプルから増幅が確認され、野生型ホモの血液サンプルからの増幅は確認されなかった。この結果はシークエンス法による解析結果と完全に一致した。
【0113】
実施例6
ヒトβ2AR(Arg16Gly)の遺伝子多型検出
ヒトβ2AR(Arg16Gly)の遺伝子多型を検出するプライマーセットとして、以下のものを用いた。プライマーの位置は図9のとおりである。

また非特異増幅を抑制するための競合オリゴヌクレオチドとして、3’末端をアミノ化修飾した長さ15塩基の以下のオリゴヌクレオチドCO(m)を野生型プライマーセットに、3’末端をアミノ化修飾した長さ15塩基の以下のオリゴヌクレオチドCO(w)を変異型プライマーセットに加えて用いた。

【0114】
核酸試料の調製は、以下のとおり行なった。β2AR Arg16(野生型)をホモで持つ血液サンプル、β2AR Gly16(変異型)をホモで持つ血液サンプル及びβ2AR Arg16/Gly16(ヘテロ型)の血液サンプルを、98℃、10分熱処理後、氷冷したものを核酸試料とした。ここで使用する血液サンプルの遺伝子多型は、血液サンプルを抽出後、シークエンス法で確認した。
【0115】
SMAP反応による増幅反応は以下のように行なった。反応系の組成(25μL)は以下の通りである。20mM Tris−HCl(pH8.0)、1.4mM dNTPs、5% DMSO、10mM KCl、10mM(NH4)2SO4、8mM MgSO4、0.1% Tween20、1/100,000diluted SYBR▲R▼ Green I、6U Aacポリメラーゼ、1uL核酸試料、2.0μM FP、2.0μM TP、1.0uM BP、0.25μM OP、10μM COで反応を行った。上記の反応組成で60℃、40分間反応を行った。反応はMX−3000P(STRATAGENE)を用い、経時的に蛍光強度を測定しながら行った。
【0116】
結果は図19〜21のとおりである。β2AR Arg16(野生型)増幅プライマーセットを用い、3タイプの血液サンプルを増幅した場合、野生型遺伝子(β2AR Arg16)を含む野生型ホモとヘテロ型の血液サンプルから増幅が確認され、変異型ホモの血液サンプルからの増幅は確認されなかった。β2AR Gly16(変異型)増幅プライマーセットを用い、3タイプの血液サンプルを増幅した場合、変異型遺伝子(β2AR Gly16)を含む変異型ホモとヘテロ型の血液サンプルから増幅が確認され、野生型ホモの血液サンプルからの増幅は確認されなかった。この結果はシークエンス法による解析結果と完全に一致した。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸の増幅による肥満関連遺伝子の多型のタイピングに使用するプライマーであって、
前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、β3AR遺伝子の塩基配列における3215番から3325番の配列、UCP1遺伝子の塩基配列における−3888番から−3739番の配列、β2AR遺伝子の塩基配列における216番から338番の配列、およびそれらの相補配列から選択された標的領域核酸配列を増幅するためプライマー。
【請求項2】
前記プライマーが、
配列番号1〜27で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つの塩基配列およびそれに相補的な塩基配列の少なくとも一方における、少なくとも連続する7塩基の塩基配列を有する、請求項1記載のプライマー。

【請求項3】
前記プライマーが、
配列番号2〜4で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つに対して相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド−塩基数0から30の任意の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド−配列番号3〜5で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、で構成されるβ3AR遺伝子を増幅可能なプライマー、
配列番号11〜13で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つに対して相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド−塩基数0から30の任意の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド−配列番号12〜14で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、で構成されるUCP1遺伝子を増幅可能なプライマー、または、
配列番号20〜22で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つに対して相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド−塩基数0から30の任意の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド−配列番号21〜23で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、で構成されるB2AR遺伝子を増幅可能なプライマーである、請求項2のプライマー
【請求項4】
核酸の増幅法がSmart Amplification Process法またはLAMP法である請求項1から3のプライマー。
【請求項5】
核酸の増幅による肥満関連遺伝子の多型のタイピングに使用する競合プローブであって、前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、β3AR遺伝子の塩基配列における3215番から3325番の配列、UCP1遺伝子の塩基配列における−3888番から−3739番の配列、β2AR遺伝子の塩基配列における216番から338番の配列、およびそれらの相補配列から選択された標的領域核酸配列中の遺伝子多型をタイピングするプライマーと競合し、非特異的な増幅を抑制するため競合プローブ。
【請求項6】
前記の競合プローブが3′末端より伸長反応が起こらないように修飾設計された、
配列番号28〜33で表わされる塩基配列からなる群から選択された少なくとも一つの塩基配列およびそれに相補的な塩基配列の少なくとも一方における、少なくとも連続する10塩基の塩基配列を有する、請求項5記載の競合プローブ。

【請求項7】
前記修飾が3′末端水酸基のアミノ化、ダイデオキシ化またはリン酸化である、請求項6に記載の競合プローブ。
【請求項8】
核酸の増幅法がSmart Amplification Process法またはLAMP法である請求項5からの競合プローブ。
【請求項9】
肥満関連遺伝子の増幅法であって、
前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、増幅法が、Smart Amplification Process法またはLAMP法であり、請求項1から4のいずれか一項に記載のプライマーおよび請求項5から8のいずれか一項に記載の競合プローブの少なくとも一方を使用する増幅法
【請求項10】
核酸の増幅により肥満関連遺伝子の多型をタイピングする方法であって、前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、増幅法が、Smart Amplification Process法またはLAMP法であり、請求項1から4のいずれか一項に記載のプライマーおよび請求項5から8のいずれか一項に記載の競合プローブの少なくとも一方を使用する遺伝子多型のタイピング方法。
【請求項11】
肥満関連遺伝子の増幅によって、肥満体質を判断する方法であって、前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、請求項9記載の肥満関連遺伝子の増幅法により遺伝子を増幅する工程、および増幅の検出によって、肥満体質を判断する工程を含む肥満体質の判断方法。
【請求項12】
核酸の増幅による肥満関連遺伝子の多型のタイピングに使用するキットであって、前記肥満関連遺伝子が、β3AR遺伝子、UCP1遺伝子およびβ2AR遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つの遺伝子であり、請求項1から4のいずれか一項に記載のプライマーおよび請求項5から8のいずれか一項に記載の競合プローブの少なくとも一方を含むキット。
【請求項13】
さらに、鎖置換型核酸合成酵素および基質を含む請求項12記載のキット。
【請求項14】
請求項1から4のいずれか一項に記載のプライマーおよび請求項5から8のいずれか一項に記載の競合プローブの少なくとも一方を使用する、請求項10記載のタイピング方法を実施するための解析装置であって、増幅反応を実施する反応部と、前記反応部の温度を制御する温度制御手段と、前記反応を検出する検出手段とを備えることを特徴とする解析装置。

【公開番号】特開2010−124823(P2010−124823A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326499(P2008−326499)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(501293666)株式会社ダナフォーム (25)
【出願人】(503011767)イービーエス株式会社 (5)
【Fターム(参考)】