説明

肺内送達用免疫抑制剤組成物の送達の増強

本発明は、タクロリムスと、ポリマー若しくは非ポリマーの界面活性剤、ポリマー若しくは非ポリマーの単糖類、又はその両方とを任意で含む安定剤マトリックスとからなる、速溶性、高力価、実質的にアモルファスの肺内送達用ナノ構造凝集物を作製及び使用する組成物及び方法であって、該凝集物が、BET解析により測定される5m/gを超える表面積を含み、模擬肺液に水性結晶溶解度の11〜15倍のタクロリムスを添加すると少なくとも0.5時間にわたり過飽和を示す組成物及び方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般に、肺内送達の分野、より具体的には、新規組成物及び肺内送達用免疫抑制剤組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の範囲を限定することなく、肺内送達との関連でその背景を説明する。
【0003】
現在使用される免疫抑制剤による固形臓器移植、特に、肺移植の治療は、経口投与又は静脈内投与後における肺への浸透不良により制限され、長期治療後の著明な有害作用とも関連する。これら各薬剤の経口製剤の開発にも関わらず、全身バイオアベイラビリティが低度でばらつきがあり、副作用が著明であり、治療域が狭いため、その使用及び有効性は制約されている。
【0004】
シクロスポリンの肺用製剤は、エタノール又はプロピレングリコールなどの溶媒中にシクロスポリンを溶解させることにより開発されてきた。しかし、これらの溶媒による結果は、これらの溶媒の刺激特性により満足できないものであった。エアゾール投与前に、リドカインによる気道の麻酔が必要とされた。より重要なことは、噴霧器チャンバー内におけるシクロスポリンの沈殿により、噴霧が煩雑なことであった。さらに、シクロスポリンは高度に毒性であり、長期の移植生存率の上昇に対してはあまり効果がなかった。タクロリムスによる免疫抑制活性の増強(シクロスポリンよりも10〜100倍強力)を踏まえると、刺激性溶媒を用いないタクロリムス送達の改善により、予防処置を用いての感染率の低下、及び、より有効な治療による費用の削減がもたらされるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、肺内送達により投与されるタクロリムスの速溶性ナノ粒子を含む薬剤組成物の改善に関する。より具体的には、急速冷凍技術により作製される組成物は、急速溶出速度、高表面積、高力価(50〜75%の力価)を伴う呼吸用ナノ粒子として適し、薬剤バイオアベイラビリティ不良を克服することができる。本発明の組成物は、薬剤バイオアベイラビリティの増強により臓器拒絶反応の有効な治療を可能とする、高度な薬剤溶出速度及び高表面積を有する高度に多孔質で、アモルファスの、ナノ構造粒子である。提示される組成物により、肺への局所送達及び全身送達の両方に有効な薬剤の低度でばらつきがあるバイオアベイラビリティが克服される。
【0006】
より具体的に、本発明は、タクロリムスと、ポリマー若しくは非ポリマーの界面活性剤、ポリマー若しくは非ポリマーの単糖類、又はその両方を任意で含む安定剤マトリックスとを含む、速溶性、高力価、実質的にアモルファスのナノ構造凝集物の肺内送達用の組成物及び方法であって、該凝集物が、BET解析により測定される5m/gを超える表面積を有し、模擬肺液に水性結晶溶解度の11〜15倍のタクロリムスを添加すると少なくとも0.5時間にわたり過飽和を示す、肺内送達用の組成物及び方法を含む。模擬肺液は、小容量の溶出装置内において37℃に維持され100RPMのパドル速度で撹拌される0.02%w/vのL−α−ホスファチジルコリンジパルミトイル(DPPC:L-α-phosphatidylcholine dipalmitoyl)を伴う100mLの改変模擬肺液を含みうる。本発明の組成物は、一般に、小容量の溶出装置内において37℃に維持され50RPMのパドル速度で撹拌される0.02%w/vのDPPCを伴う100mLの改変模擬肺液に、水性結晶溶解度の約0.59倍と等量のタクロリムスを添加すると薬剤の約80%超が約1時間で溶出することを示す。
【0007】
例えば、タクロリムスの過飽和は、少なくとも1、2、3、又は4時間にわたり、ナノ構造凝集物は、小容量の溶出装置内において37℃に維持され100RPMのパドル速度で撹拌される0.02%w/vのDPPCを伴う改変模擬肺液中において結晶溶解度を超える溶解度を示しうる。凝集物は、一般に、前臨床げっ歯動物用投与装置を用いて、体重16g〜32gのマウスに対して噴霧により投与すると、約0.10μg/湿潤全肺組織重量gを超える肺内沈着を提供する。一例において、ナノ構造凝集物は、約5、10、20、又は30m/gを超える表面積を有する。ナノ構造凝集物はまた、即時放出、持続放出、パルス放出、遅延放出、制御放出、及びこれらの組み合わせ用にも提供されうる。
【0008】
一例において、組成物は、タクロリムスを含有するナノ構造凝集物を水溶性担体と混合することにより調製され、噴霧器、エアジェット式噴霧器、超音波式噴霧器、又はマイクロポンプ式噴霧器により噴霧される噴霧用分散液として調合されうる。噴霧される液滴の呼吸性画分は、一般に、28.3L/分の気流速度での非活性8段階カスケードインパクターによる測定で約40、50、60、70、又は80%を超える。組成物は、定量送達器、乾燥粉末吸入器、又は加圧式定量吸入器を用いる送達に適切に適合しうる。
【0009】
実質的にアモルファスのナノ構造凝集物は、以下の方法:冷凍スプレー法、液化冷凍法、気化冷凍スプレー法、超急速冷凍法、又はスプレー乾燥法の1又は複数により作製することができる。例えば、実質的にアモルファスのナノ構造凝集物は、溶媒沈殿法、貧溶媒沈殿法、連続沈殿法、又は、水溶液中への蒸発沈殿法により作製される。別の方法では、組成物のすべての成分を薬剤安定化用賦形剤と共に溶出させることができる溶媒又は共溶媒混合物中にタクロリムスを溶解させると、液化冷凍スプレー又は超急速冷凍後の乾燥凍結化時に、個々の粒子中にタクロリムスが5重量%〜99重量%で存在する乾燥粉末が結果として生成される。タクロリムスは、任意の薬剤安定化用賦形剤、例えば、液化冷凍スプレー時又は超急速冷凍時に粉末を生成する炭水化物、有機塩、アミノ酸、ペプチド、又はタンパク質と組み合わせてよい。薬剤安定化賦形剤の非限定的な例は、マンニトール、ラフィノース、ラクトース、マルトデキストリン、トレハロース、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される炭水化物を含む。凝集物は、1又は複数の高湿潤性ナノ粒子ドメイン、及び/又は、水溶液中で速やかに湿潤し溶出するナノ構造凝集物を含みうる。
【0010】
本発明はまた、タクロリムスを界面活性剤若しくは安定剤マトリックス、又は界面活性剤と安定剤マトリックスとの組み合わせと混合するステップと、液化冷凍スプレー又は超急速冷凍によりタクロリムスと界面活性剤/安定剤マトリックスとを速溶性、高力価アモルファスナノ粒子に超急速冷凍するステップとにより肺用組成物を作製する方法であって、ナノ粒子がBET解析による測定で5m/gを超える表面積を有し、0.02%w/vのDPPCを伴う改変模擬肺液に水性結晶溶解度の15倍のタクロリムスを添加すると少なくとも0.5時間にわたり過飽和を示す方法も含む。例えば、本発明の凝集物は、タクロリムス結晶溶解度の約2倍を超える溶解度を示す。肺用組成物は、即時放出、持続放出、パルス放出、遅延放出、制御放出、及びこれらの組み合わせ用にも提供されうる。溶媒中に薬剤安定化用賦形剤と共にタクロリムスを溶解させることができ、ここで、液化冷凍スプレー時又は超急速冷凍時に、個々の粒子中にタクロリムスが5重量%〜99重量%で存在する乾燥粉末が生成される。
【0011】
本発明のさらに別の実施形態は、BET解析による測定で5m/gを超える表面積を有し、0.02%w/vのDPPCを伴う改変模擬肺液に水性結晶溶解度の15倍のタクロリムスを添加すると少なくとも0.5時間にわたり過飽和を示す、肺内投与に適合した界面活性剤/安定剤マトリックス中におけるアモルファス凝集物によるタクロリムスナノ粒子である、高表面積ナノ粒子である。
【0012】
本発明の別の実施形態は、タクロリムスを界面活性剤若しくは安定剤マトリックス、又は界面活性剤と安定剤マトリックスとの組み合わせと混合するステップと、液化冷凍スプレー又は超急速冷凍によりタクロリムスと界面活性剤/安定剤マトリックスとを速溶性、高力価アモルファスナノ粒子に超急速冷凍するステップであって、タクロリムスナノ粒子がBET解析による測定で5m/gを超える表面積を含み、改変模擬肺液に水性結晶溶解度の11〜15倍のタクロリムスを添加すると少なくとも0.5時間にわたり過飽和を示すステップと、移植拒絶反応を防止する有効量のタクロリムスナノ粒子組成物により対象を治療するステップとにより、対象における移植拒絶反応を軽減する組成物及び方法を含む。一態様において、タクロリムスナノ粒子は、肺内送達に適合される。別の態様において、タクロリムスナノ粒子は肺移植の拒絶反応を防止するために提供される。別の態様において、タクロリムスナノ粒子は、0.1mg/ml〜100mg/mlで提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の特徴及び利点をより完全に理解するために、ここで、以下の付属の図面と共に、本発明の詳細な説明を参照する。
【図1A−1B】図1A及び1Bは、タクロリムス(TAC:tacrolimus):ラクトース(1:1)を含むナノ粒子の、異なる2種類の倍率におけるSEM画像である。
【図2A−2B】図2A及び2Bは、タクロリムス(TAC):ポロキサマー407(4:1)を含有するナノ粒子のSEM画像である。
【図3】TAC結晶バルク粉末のSEMである。
【図4】未加工TACと比較した、TAC URF製剤のX線回折プロファイルを示す図である。
【図5】溶出試験結果を示すグラフである。溶出試験はUSPによる2型装置(Vanderkamp社製VK650A型加熱器/循環器を伴うVanKel社製VK6010型溶出試験器)を用いてシンク状態において実施され、溶出溶媒は37℃で維持され100rpmで撹拌される0.02%のDPPCを含有する900mlの改変模擬肺液であり、溶出プロファイルは6回反復で決定された。
【図6】(■)URF法によるアモルファスTAC組成物:ラクトース(1:1)、(▲)URF法による結晶TAC組成物単独、及び(●)未加工結晶TACのシンク溶出プロファイルを示すグラフである。溶出溶媒は、37℃で100rpmで0.02%のDPPCを含有する改変模擬肺液(この溶媒中におけるTACの平衡溶解度は約6.8μg/mL)であった。溶出プロファイルは、3回反復で決定された。
【図7】(□)URF法によるアモルファスTAC組成物:ラクトース(1:1)、(■)URF法による結晶TAC組成物単独の過飽和溶出プロファイルを示すグラフであり、(---)は溶出溶媒中におけるTACの平衡溶解度(6.8μg/mL)である。溶出溶媒は、37℃で100rpmで0.02%のDPPCを含有する改変模擬肺液(SLF:simulated lung fluids)であった。溶出プロファイルは3回反復で決定され、Cは所与の時点におけるTACの測定濃度であり、CeqはTACの平衡濃度である。
【図8】URF製剤に対する、マウスにおける平均肺内濃度(TACμg/組織g)対時間プロファイルの比較を示すグラフである。(□)URF法によるアモルファスTAC組成物:ラクトース(1:1)及び(■)URF法による結晶TAC組成物単独。
【図9】単回吸入投与後のURF製剤に対する、平均全血液中TAC濃度プロファイルの比較を示すグラフである。(□)URF法によるアモルファスTAC組成物:ラクトース(1:1)及び(■)URF法による結晶TAC組成物単独。
【図10A−10D】図10A:第7日におけるTAC:LAC実薬群に由来する肺組織の組織学的解析を示す図である;図10B:第14日におけるTAC:LAC実薬群に由来する肺組織の組織学的解析を示す図である;図10C:第7日におけるLACのみの対照群に由来する肺組織の組織学的解析を示す図である;図10D:第14日におけるLACのみの対照群に由来する肺組織の組織学的解析を示す図である(組織学的解析についての注記:a:肺胞腔、b:毛細血管、c:リンパ組織、及びd:赤血球の存在する細動脈;倍率20倍)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の各種の実施形態を実施し使用するステップについて以下で詳細に述べるが、本発明は、広範な具体的文脈において実施しうる、多くの適用可能な発明コンセプトを提示することを理解されたい。本明細書で論じられる具体的な実施形態は、本発明を実施し使用する具体的な方式を例示するに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0015】
本発明の理解を容易にするため、以下でいくつかの用語を定義する。本明細書で定義される用語は、本発明に関連する領域内の当業者により一般的に理解される意味を有する。「a」、「an」、及び「the」などの用語は、単一の実体のみを指すことを意図するものではなく、その具体例を例示に用いうる一般的なクラスを含む。本明細書における用語法は、本発明の具体的な実施形態を説明するのに用いられるが、その用法は、特許請求の範囲において概括される場合を除いて、本発明を限定しない。
【0016】
本明細書で用いられる「BET解析」という用語は、分子スケールにおける固体試料の曝露された表面の表面積を測定する方法を指す。BET(ブルナウアー、エメット、及びテラー:Brunauer, Emmet, and Teller)理論は、固体の面積を決定するのに用いるのが典型的である。試料を加熱し、これと同時に、試料上から気体を抜いて、又は試料上に気体を流動させて浮遊した不純物を除去することにより試料を調製するのが一般的である。次いで、調製された試料を液体窒素で冷却し、特定の圧力で吸着されたガス(典型的にはN又はKr)の体積を測定することにより解析する。測定された表面が2m/g未満であると予測される場合(典型的には、薬剤試料及び天然の有機物質)には、クリプトンガスが多く用いられる。当業者は、表面積を測定するのにいくつかの種類の測定器を用いることができ、それは、表面の広がり又は最良の結果を達成するのに必要なガスによって決まることを理解するであろう。用いうる装置の例は、ASAP 2020型及びASAP 2405 Kr型、Tristar 3000型、Gemini 2380型、並びにFlowsorb 2310型を含む。
【0017】
本明細書で用いられる「0.02%w/vのDPPCを伴う改変模擬肺液(modified simulated lung fluid with 0.02% W/V DPPC)」という用語は、参考文献Davies, N. M. and Feddah, M. R. (2003) A novel method for assessing dissolution of aerosol inhaler products. International Journal of Pharmaceutics, 255, 175-187の表1に報告される組成物を指す。Daviesらの表1で見られる通り、組成物は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、重炭酸イオン、塩化物イオン、クエン酸イオン、酢酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、及びDPPCを含む。pHは、7.3〜7.4の範囲にある。
【0018】
本明細書で用いられる「過飽和を示す(exhibiting supersaturation)」という用語は、結晶タクロリムスと比較して、0.02%w/vのDPPCを伴う改変模擬肺液により溶出しうるタクロリムスよりも多くの溶出タクロリムスを含有する溶液を指す。
【0019】
本明細書で用いられる「速やかに湿潤する」という用語は、ナノ構造凝集物が、体温(37℃)での0.02%w/vのDPPCを伴う改変模擬肺液又はインビボにおける肺液により湿潤する能力を指す。
【0020】
本明細書で用いられる「湿潤全肺組織重量(wet whole lung tissue weight)」という用語は、マウスの総肺重量を指す。
【0021】
本明細書で用いられる「薬学的に許容される担体」という用語は、薬剤組成物の不活性成分を意味する。
【0022】
本明細書で用いられる「界面活性剤」という用語は、液体の表面張力を低減し、これにより、固体表面において液体をより広がりやすくする物質を意味する。本発明により用いられる界面活性剤の例は、コール酸のナトリウム塩、デオキシコール酸、グリココール酸、及び他の胆汁塩;Span 85、ラウリル−ベータ−D−マルトシド、パルミチン酸、グリセロールトリオレエート、リノレイン酸、DPPCオレイルアルコール、オレイン酸、オレイン酸ナトリウム、及びオレイン酸エチルを含む、肺への投与に適するすべての界面活性剤を含む。
【0023】
本明細書で用いられる「前臨床げっ歯動物用投与装置」という用語は、関連部分が参照により本明細書に組み込まれる、J. T. McConville, P. Sinswat, J. Tam, K. P. Johnston and R. O. Williams III, In vitro and in vivo validation of a high-concentration pre-clinical rodent dosing apparatus for inhalation, Proceedings of the American Association of Pharmaceutical Scientists, San Antonio, TX, October, 2006により報告された装置を指す。
【0024】
該技法では、FDA(http://www.fda.gov/ohrms/dockets/GRAS/gmsindx.htm)により承認されているGRASリストからすべてが選択され、その使用が、FDA(http://www.fda.gov/cder/drug/iig/default.htm)により承認されているか、又は、哺乳動物組織内で自然発生している、既に使用されている賦形剤を用いる。該賦形剤は、経口錠剤又は非経口製剤中でしばしば用いられ、最小の毒性レベルを示す。これらは、有効成分と組み合わせて用いられて、安定的なナノサイズの剤形を形成する。
【0025】
高度の溶出速度を得るには、加工された薬剤生成物が、高表面積を有する安定したナノ粒子を含有することが重要である。急速冷凍法、貧溶媒法、及び沈殿法など、他の加工法も用いることができる。
【0026】
TACが、進行中の拒絶反応を可逆化することができることもまた判明した。その後、多数の研究により、各種の固形臓器移植における一次療法としてのTACの有効性が確認されている。TACによる免疫抑制活性の増強が、感染又は悪性腫瘍の危険性の増大なしに達成されることが重要である。多くの研究により、TACが、シクロスポリンと比較して優れた免疫抑制活性を有しうることが示されたが、経口投与後における消化管からの不安定な吸収により、該薬剤の臨床的可能性は制約されてきた。
【0027】
この薬剤の平均経口バイオアベイラビリティは、成人において約25%である。タクロリムスと関連する拒絶反応治療の高額な費用は、1年目において約34,200ドルである。本発明の組成物は、薬剤バイオアベイラビリティの増強より臓器拒絶反応の有効な治療を可能とする、高薬剤溶出速度及び高表面積を有する小粒子の多孔質凝集物からなる。
【0028】
【表1】

【0029】
SEM法による粒子の形態:35秒間にわたり粉末試料に金−パラジウムでスパッタリング被覆し、Hitachi S-4500型電界放射型走査電子顕微鏡を用いて観察した。SEM法により、多孔質凝集小粒子の存在が示される。
【0030】
x線回折法:銅製標的及びニッケル製フィルターを有するPhilips 1710型x線回折計(ニュージャージー州、マーワー、Philips Electronic Instruments社製)を用いて、粉末のx線回折パターンを解析した。ステップサイズが0.05の2シータ角度及び1秒間の滞留時間を用いて、10〜40の2シータ角度の範囲で、平坦に均した粉末を測定した。対応するタクロリムスピークは同定することができない。
【0031】
経口製剤の溶出(n=6):USPによる2型装置(Vanderkamp社製VK650A型加熱器/循環器を伴うVanKel社製VK6010型溶出試験器)を用いて、粉末試料に対する溶出試験を実施した。0.02%のDPPCを伴う900mlの改変模擬肺液による溶出溶媒に、4mg等量のタクロリムスを添加し、100rpmで撹拌した。該溶出溶媒は、37.0±0.2℃に維持された。10、20、30、60、及び120分後の時点で5ミリリットルの試料を採取し、0.45μmのGHP Acrodiscフィルターを用いて濾過し、Shimadzu LC-10型液体クロマトグラフ(日本、京都、島津製作所製)を用いて解析した。1ml/分でアセトニトリル:水比が70:30の移動相により、6分後にTACピークが溶出された。図5に調製された製剤について、λ=220nmでタクロリムスの吸光度を測定した。
【0032】
【表2】

【0033】
良好なエアゾール化効能が達成された。Aeroneb(登録商標)Professional噴霧器を用いると、すべての製剤に対して70%を超える呼吸性画分が示される。この噴霧器を用いると、すべての製剤に対して1〜5μmの空気動力学的中央粒子径も示される。
【0034】
本試験は、超急速冷凍(URF:ultra-rapid freezing)法を用いる肺内送達を意図するタクロリムス(TAC)のナノ構造凝集物を生成し、TACのアモルファスナノ粒子又は結晶ナノ粒子を含有するナノ構造凝集物の物理化学特性及び薬物動態特性を検討することを目的とした。2種類のURF製剤を肺内送達について検討し、バルクの未加工TACと比較したが、2種類のURF製剤とは、TAC及びラクトース(URF−TAC:LAC、1:1の比率)並びにTAC単独(URF−TAC)であった。TAC及び水溶性の賦形剤、すなわちラクトースを、それぞれ、アセトニトリル及び水に溶解させた。2種類の溶液を混合して、結果として得られる60:40の比率の有機/水性共溶媒系を得、次いで、これを極低温基板上で冷凍した。次いで、共溶媒をURF極低温基板上で冷凍し、冷凍された組成物を回収及び凍結乾燥させて、噴霧用の乾燥粉末を形成した。インビトロにおける結果により、いずれのURF製剤についても同様の物理化学特性が示された。BET解析により、URF−TAC:LAC及びURF−TACについて、それぞれ、29.3m/g及び25.9m/gの高表面積が示され、未加工TACには0.53m/gの表面積が示された。走査電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscopy)法により、TACのナノ粒子を含有するナノ構造凝集物が示された。TACの溶出は、それぞれ、URF−TACについての80.5%の溶出及び未加工TACについての30%の溶出と比較して、URF−TAC:LACについては1時間後に83.6%であった。カスケードインパクターデータにより、URF−TAC:LAC及びURF−TACについて、同様の空気動力学的粒子径である2〜3μm及び70〜75%の微粒子画分が決定された。X線回折(XRD:X-ray diffraction)法の結果により、URF−TACが結晶であるのに対し、URF−TAC:LACはアモルファスであることが示された。過飽和溶出プロファイルは、これらの結果と一致した。URF−TAC:LACは、溶出溶媒中において、結晶平衡溶解度の約11倍までの過飽和能を示した。URF製剤を脱イオン化水中で分散させ、特別に設計された経鼻専用投与装置を用いて分散されたURF製剤を噴霧することにより、マウスにおけるインビボ試験を実施した。得られた薬物動態プロファイルにより、URF−TACと比較して同等のAUC(0−24)、高値のCmax、及び低値のTmaxが、URF−TAC:LACについて示された。こうして、URF法を用いて、アモルファスTAC又は結晶TACのナノ構造凝集物を含有する速溶性肺用製剤が開発された。URF法により加工された製剤は、噴霧を介して、TACナノ粒子の水性分散液として有効に送達され、同等の薬剤吸収度を示すことにより、同様のインビボ効能を有することが裏付けられた。
【0035】
タクロリムス(TAC)は、ストレプトミセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)から単離され広く用いられる免疫抑制剤である。TACは、臓器拒絶反応を治療する移植医療、並びに、肺線維症及び気管支喘息などの異なる免疫疾患における強力な免疫抑制剤であることが分かっている(Hooks, M. A. (1994) Tacrolimus, A New Immunosuppressant - A review of the literature. Ann. Pharmacother. 28, 501-511、Waldrep, J. C. (1998) New aerosol drug delivery systems for the treatment of immune-mediated pulmonary diseases. Drugs of Today 34, 549-561、Loser, K., Balkow, S., Higuchi, T., Apelt, J., Kuhn, A., Luger, T. A., and Beissert, S. (2006) FK506 Controls CD40L-Induced Systemic Autoimmunity in Mice126, 1307-1315)。TACはまず、シクロスポリンA(CsA:cyclosporin A)療法がグラフト拒絶反応を防止できない場合のレスキュー療法として導入された。TACは、CsAの場合と同様の作用機構を有するが、その免疫抑制活性は、CsAよりも10〜100倍強力である(Tacca, M. D. (2004) Prospects for personalized immunosuppression: pharmacologic tools--a review. Transplant. Proc. 36, 687-689、Jain, A. B., and Fung, J. J. (1996) Cyclosporin and tacrolimus in clinical transplantation - A comparative review. Clinical Immunotherapeutics 5, 351-373)。TACは、現在のところ、静脈内剤形及び経口剤形の両方で市販される(市販品はPrograf(登録商標)として知られる)。しかし、該薬剤の現在市販されるこれらの剤形は忍容性が低く、ばらつきがあり、且つ/又は、低度のバイオアベイラビリティをもたらす(Tamura, S., Tokunaga, Y., Ibuki, R., Amidon, G. L., Sezaki, H., and Yamashita, S. (2003) The Site-Specific Transport and Metabolism of Tacrolimus in Rat Small Intestine. J Pharmacol Exp Ther 306, 310-316)。TACは水中でほとんど不溶性であり、CYP3A4代謝、及び、腸上皮内におけるp−糖タンパク質の排出輸送のいずれからも大幅に代謝されるので、その経口製剤は、考慮に値する難題を提示している(Venkataramanan R, J. A., Warty VW, et al. (1991) Pharmacokinetics of FK506 following oral administration: a comparison of FK506 and cyclosporine. Transplant. Proc. 23, 931-933)。TACの経口バイオアベイラビリティは、4%〜93%で変化する(Venkataramanan, R., Swaminathan, A., Prasad, T., Jain, A., Zuckerman, S., Warty, V., McMichael, J., Lever, J., Burckart, G., and Starzl, T. (1995) Clinical pharmacokinetics of tacrolimus. Clin. Pharmacokinet. 29, 404-430)。不十分又は不安定な薬剤吸収はおもに、消化管からの不完全な吸収及び初回通過代謝の結果であり、個体間の無視できないばらつきを示しやすい(Venkataramanan, R., Swaminathan, A., Prasad, T., Jain, A., Zuckerman, S., Warty, V., McMichael, J., Lever, J., Burckart, G., and Starzl, T. (1995) Clinical pharmacokinetics of tacrolimus. Clin. Pharmacokinet. 29, 404-430)。
【0036】
本発明は、上述の問題を克服してバイオアベイラビリティを改善するために、TACのナノ粒子に基づく肺用薬剤送達システムに焦点を絞る。吸入用薬剤ナノ粒子の主要な態様は、肺内におけるナノ粒子の急速溶出、及び、肝臓の初回通過代謝の回避(これは、肝臓において大幅な代謝を受ける薬剤の場合、特に有用である)を含む(Kawashima, Y. (2001) Nanoparticulate systems for improved drug delivery. Adv. Drug Deliv. Rev. 47, 1-2、Taylor, K. M. G., and McCallion, O. N. M. (1997) Ultrasonic nebulisers for pulmonary drug delivery. Int. J Pharm. 153, 93-104)。加えて、吸入用ナノ粒子により、肺内における局所的な薬剤濃度を上昇させることができ、肺移植及び肺疾患における潜在的な治療的使用が可能となる。肺移植受容者の治療は、経口又は静脈内投与後における薬剤の肺内への浸透が低度であるために、制限されることが多い(Martinet, Y., Pinkston, P., Saltini, C., Spurzem, J., Muller-Quernheim, J., and Crystal, R. G. (1988) Evaluation of the in vitro and in vivo effects of cyclosporine on the lung T-lymphocyte alveolitis of active pulmonary sarcoidosis. Am. Rev. Respir. Dis. 138, 1242-1248)。エアゾール剤は、肺移植におけるグラフトに対して直接に到達し、はるかに高い薬剤レベルの可能性を与える(McConville, J. T., Overhoff, K. A., Sinswat, P., Vaughn, J. M., Frei, B. L., Burgess, D. S., Talbert, R. L., Peters, J. I., Johnston, K. P., and Williams, R. O. (2006) Targeted high lung concentrations of itraconazole using nebulized dispersions in a murine model. Pharmaceutical Research 23, 901-911)。しかし、TACなどの薬剤の肺内送達の主要な欠点は、肺用製剤に用いるのに安全だと考えられる賦形剤のレベル及び種類の制約である。多くの研究試験において、シクロデキストリン、ポロキサマー、ポリエチレングリコール(PEG:polyethylene glycols)、及びグリセロールなど多くの界面活性剤又はポリマーが、薬剤の可溶化を促進する肺用製剤中で調べられている(Steckel, H., Eskandar, F., and Witthohn, K. (2003) The effect of formulation variables on the stability of nebulized aviscumine. Int. J Pharm. 257, 181-194、Fu, J., Fiegel, J., Krauland, E., and Hanes, J. (2002) New polymeric carriers for controlled drug delivery following inhalation or injection. Biomaterials 23, 4425-4433、Brambilla, G., Ganderton, D., Garzia, R., Lewis, D., Meakin, B., and Ventura, P. (1999) Modulation of aerosol clouds produced by pressurised inhalation aerosols. Int. J Pharm.186, 53-61)が、これらの賦形剤は、肺内における潜在的な毒性のために、FDAによる市販使用の承認がいまだになされていない。いくつかの臨床試験では、肺移植モデルにおいて、エアゾール化の前にエタノール又はプロピレングリコール中で可溶化したCsAの有効な肺内送達が示された(Keenan, R. J., Zeevi, A., Iacono, A. T., Spichty, K. J., Cai, J. Z., Yousem, S. A., Ohori, P., Paradis, I. L., Kawai, A., and Griffith, B. P. (1995) Efficacy of inhaled cyclosporine in lung transplant patients with refractory rejection: correlation of intragraft cytokine gene expression with pulmonary function and histologic characteristics. Surgery 118, 385-392、Keenan, R. J., Duncan, A. J., Yousem, S. A., Zenati, M., Schaper, M., Dowling, R. D., Alarie, Y., Burckart, G. J., and Griffith, B. P. (1992) Improved immunosuppression with aerosolized cyclosporine in experimental pulmonary transplantation. Transplantation 53, 20-25、Blot, F., Tavakoli, R., Sellam, S., Epardeau, B., Faurisson, F., Bernard, N., Becquemin, M.-H., Frachon, I., Stern, M., Pocidalo, J.-J., Carbon, C., Bisson, A., and Caubarrere, I. (1995) Nebulized cyclosporine for prevention of acute pulmonary allograft rejection in the rat: Pharmacokinetic and histologic study. J. Heart Lung Transplant. 14, 1162-1172)。しかし、該溶媒がもたらした結果は、これらの溶媒の気道に対する刺激特性のために、不満足なものであることが示された。加えて、肺内送達を目的とする製剤中における高レベルのエタノール又はプロピレングリコールの使用は、ヒトにおいていまだ広くは調べられていない。近年、CsAの肺内送達用の非刺激性代替物としてリポソーム技術が検討されているが、該製剤は、薬剤充填量が低量であり、したがって、長い噴霧時間を必要とする(Waldrep, J. C., Arppe, J., Jansa, K. A., and Vidgren, M. (1998) Experimental pulmonary delivery of cyclosporin A by liposome aerosol. Int. J Pharm. 160, 239-249)。
【0037】
界面活性剤又はポリマー賦形剤の含有なしに、超急速冷凍(URF)法により製造されたTACを含有する肺用製剤が検討された。URF法は、高度に増強された薬剤溶出速度をもたらす高表面積を伴うナノ構造凝集物を生成する、連続的で拡張可能な極低温工程である。かつては、液化冷凍スプレー(SFL:spray freezing into liquid)法が報告された(Rogers TL, Nelsen AC, Hu J, Johnston KP, Williams III RO. (2002) A novel particle engineering technology to enhance dissolution of poorly water soluble drugs: spray-freezing into liquid. Eur. J. Pharm. Biopharm. 54: 271-280、Rogers TL, Hu J, Yu Z, Johnston KP, Williams III RO. (2002) A novel particle engineering technology: spray-freezing into liquid. Int. J Pharm. 242: 93-100、Rogers TL, Nelsen AC, Sarkari M, Young TJ, Johnston KP, Williams III RO. (2003) Enhanced aqueous dissolution of a poorly water soluble drug by novel particle engineering technology: Spray-freezing into liquid with atmospheric freeze-drying. Pharm. Res.20: 485-493、Rogers TL, Overhoff KA, Shah P, Johnston KP, Williams III RO. (2003) Micronized powders of a poorly water soluble drug produced by a spray-freezing into liquid-emulsion process. Eur. J. Pharm. Biopharm. 55: 161-172、Hu, J., Johnston, K. P., Williams III, R. O. (2004) Stable amorphous danazol nanostructured powders with rapid dissolution rates produced by spray freezing into liquid. Drug Dev. Ind.Pharm. 30: 695-704、Yu Z, Rogers TL, Hu J, Johnston KP, Williams III RO. (2002) Preparation and characterization of microparticles containing peptide produced by a novel process: spray freezing into liquid. Eur. J. Pharm. Biopharm. 54: 221-228)。SFL工程を用いて達成された急速冷凍速度により、高表面積、高湿潤性、及び著明に増強された溶出速度を有する、100〜200nmの範囲の一次粒子からなるアモルファスナノ構造凝集物が生成される。URF工程では、SFL法により生成された粒子と同様の特性を有する粒子が産出される。URF法では、適切な有機溶媒又は水性共溶媒中における有効成分及び賦形剤の溶液が、極低温の固体基板の表面上に塗布される。スプレー液は、連続的な形で、極低温固体基板表面上において、50ms〜1sで瞬間的に冷凍される(Evans, J. C., Scherzer, B. D., Tocco, C. D., Kupperblatt, G. B., Becker, J. N., Wilson, D. L., Saghir, S., and Elder, E. J.: Preparation of nanostructured particles of poorly water soluble drugs via a novel ultrarapid freezing technology. In Polymeric Drug Delivery Ii: Polymeric Matrices and Drug Particle Engineering, vol. 924, pp. 320-328, 2006、Overhoff, K. A., Engstrom, J. D., Chen, B., Scherzer, B. D., Milner, T. E., Johnston, K. P., and III, R. O. W. Novel Ultra-rapid Freezing Particle Engineering Process for Enhancement of Dissolution Rates of Poorly Water Soluble Drugs. in press. 2006)。URF粉末は、高表面積、薬剤溶出速度の上昇、及びアモルファス特性など、バイオアベイラビリティを増強するのに望ましい特性を示す。
【0038】
URF工程により生成される、アモルファス又は結晶のTAC一次ナノ粒子からなるナノ構造凝集物は、噴霧による肺内送達に適し、肺内及び血中の高濃度をもたらす。TACのナノ構造凝集物から得られる高表面積及び急速溶出速度により、肺を介する薬剤の高度な全身吸収が促進される一方でなお、潜在的な局所療法に望ましい肺内滞留時間も維持されるという仮説が成り立つ。TACナノ構造凝集物が、該粒子分散液の単回投与での噴霧後、いかにしてインビボの薬剤吸収に影響を及ぼすかを理解するために、該凝集物の重要な物理化学特性(例えば、表面積、溶解、結晶性)を特徴づけた。
【0039】
TACは、Dow Chemical社(ミシガン州、ミッドランド)のご厚意で提供された。ラクトース、塩化マグネシウム六水和物、塩化ナトリウム、塩化カリウム、二塩基性無水リン酸ナトリウム、無水硫酸ナトリウム、塩化カルシウム二水和物、酢酸ナトリウム三水和物、重炭酸ナトリウム、及びクエン酸ナトリウム二水和物は、分析グレードであり、Spectrum Chemicals社(カリフォルニア州、ガーデナ)から購入した。ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC:dipalmitoylphosphatidylcholine)は、Sigma-Aldrich Chemicals社(ワイオミング州、ミルウォーキー)から購入した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC:high performance liquid chromatography)グレードのアセトニトリル(ACN:acetonitrile)は、EM Industries社(ニュージャージー州、ギブスタウン)から購入した。液体窒素は、Boc Gases社(ニュージャージー州、マレーヒル)から入手した。脱イオン化水は、Millipore社(フランス、モルスハイム)製のMilli-Q精製システムにより調製した。
【0040】
URF製剤の例示的な調製:TAC製剤は、URF法を用いて加工された。肺内送達用と考えられる2種類のURF製剤とは、1:1の比率によるTAC:ラクトース(URF−TAC:LAC)及びTAC単独(URF−TAC)であった。該組成物は、TAC及び親水性賦形剤(用いられる場合)を1:1の比率で、また、アセトニトリル及び水の60/40混合液中に0.75%の固体を溶解させることにより調製した。−50℃に保持された極低温基板を用いて冷却された固体基板表面に薬剤溶液を塗布した。次いで、冷凍された組成物を回収し、VirTis Advantage Tray乾燥凍結器(ニューヨーク州、ガーディナー、VirTis社製)を用いる乾燥凍結化により溶媒を除去した。本試験で用いられる乾燥凍結化法を付録Aで概観する。室温真空下で乾燥粉末を保存した。
【0041】
肺用粉末のインビトロにおける特徴づけ。粉末のX線回折(XRD)法:銅製標的及びニッケル製フィルターを有するPhilips 1710型x線回折計(ニュージャージー州、マーワー、Philips Electronic Instruments社製)を用いて、粉末のXRDパターンを解析した。ステップサイズが0.05の2シータ角度及び1秒間の滞留時間を用いて、5〜45の2シータ角度の範囲で各試料を測定した。
【0042】
BET法による比表面積の解析:Nova 2000型v.6.11測定器(フロリダ州、ボイントンビーチ、Quantachrome Instruments社製)を用いて、比表面積を測定した。12mmのQuantachrome社製バルブ試料セルに既知重量の粉末を添加し、最低3時間にわたり脱気した。次いで、BET理論により、NOVA Enhanced Data Reductionソフトウェアv. 2.13を用いて、記録されたデータを解析した。
【0043】
走査電子顕微鏡(SEM)法:Hitachi S-4500型電界放射型走査電子顕微鏡(日本、東京、日立ハイテク社製)を用いて、粉末試料のSEM顕微鏡写真を得た。試料は、導電性テープ上にマウントし、K575型スパッタリング被覆器(米国、テキサス州、ヒューストン、Emitech Products社製)を用いて、30秒間にわたり金−パラジウムでスパッタリング被覆した。5〜15kVの加速電圧を用いて画像を観察した。
【0044】
平衡溶解度未満における溶出試験:米国薬局方(USP:United States Pharmacopeia)第27条の2型溶出装置(Vanderkamp社製VK650A型加熱器/循環器を伴うVanKel社製VK6010型溶出試験器、カリフォルニア州、パロアルト、Varian社製)を用いて、URF粉末試料に対して、平衡溶解度未満における溶出試験を実施した。溶出溶媒としての0.02%のDPPCを伴う100mLの改変模擬肺液(SLF)に、平衡溶解度(6.8μg/mL)の約59%と等量の粉末試料(0.4mgのTAC)を添加した(Davies, N. M., and Feddah, M. R. (2003) A novel method for assessing dissolution of aerosol inhaler products. Int. J Pharm. 255, 175-187)。溶出溶媒は、37.0±0.2℃に保持し、50rpmの一定速度で撹拌した。10、20、30、60、及び120分後の時点で試料(1mL)を採取し、0.45μmのGHP Acrodiscフィルター(ペンシルベニア州、ウェストチェスター、VWR社製)を用いて濾過し、Alltech ODS-2型5μm C18カラム(イリノイ州、ディアフィールド、Alltech Associates社製)を装備したShimadzu LC-10型液体クロマトグラフ(日本、京都、島津製作所製)を用いて解析した。移動相は、1mL/分の流速で用いられた、70:30(v/v)のACN:水混合物からなった。吸光度の最大値は、波長λmax=214nmで測定された。
【0045】
過飽和溶液の形成における溶出挙動:パドル撹拌機構を装備した小容量溶出装置を用いることを除き、既に述べた方法により過飽和溶出プロファイルを生成した。0.02%のDPPCを伴う100mLの改変模擬肺液中において、TACの水性結晶溶解度の約15倍に対応する各薬剤製剤が秤量された。パドル速度及び水浴温度は、それぞれ、100rpm及び37℃に保持された。10、20、30、及び60分後、次いで、2、4及び24時間後において、小容量溶出容器からアリコート(1mL)を除去した。0.2μmのナイロンフィルターを介して各アリコートを濾過し、濾過された各溶液の0.5mLずつのアリコートを、1mLのアセトニトリルと速やかに混合(して、37℃で既に溶出した薬剤の再結晶化がないことを確認)した。既に述べた手順と同じHPLC手順を用いて、TAC濃度について試料を解析した。すべての試験は、3連で実施した。
【0046】
インビトロにおけるエアゾール効能:非活性8段階カスケードインパクター(non-viable 8-stage cascade impactor)(米国、ジョージア州、スミルナ、Thermo-Electron社製)を用いて、TACの分散噴霧製剤のインビトロにおける沈着特性を検討した。総放出用量(TED:total emitted dose)、微粒子画分(FPF:fine particle fractions)、空気動力学的中央粒子径(MMAD)、及び幾何標準偏差(GSD)により、エアゾール化挙動を説明した。USP第601試験法に従ってカスケードインパクターを組み立て作動させ、送達された薬剤を評価した。粉末は水中に分散させ(10mg/mL)、28.3L/分の気流速度で10分間にわたり、 Aeroneb(登録商標)Professionalマイクロポンプ式噴霧器(カリフォルニア州、サンカルロス、Nektar社製)を用いて噴霧した。流速は、真空ポンプ(米国、ミズーリ州、セントルイス、Emerson Electric社製)により保持し、TSI粒子流計(4000型、米国、ミネソタ州、セントポール、TSI社製)により較正した。各段階において沈着された粒子を回収し、本明細書に記載のHPLC法により解析した。各試験は、3連で反復した。
【0047】
インビボにおけるマウス試験。URF製剤の肺内投与:健常雄ICRマウス(インディアナ州、インディアナポリス、Harlan Sprague Dawley社製)において、URF製剤の肺内投与を実施した。試験プロトコールは、オースチンのテキサス大学に所在の動物実験委員会(IACUC:Institutional Animal Care and Use Committee)により承認され、すべての動物は、米国実験動物管理公認協会に従い維持された。マウスは、投与前の少なくとも2日間、10〜15分間/日にわたり拘束チューブ(オハイオ州、コロンバス、Battelle社製)を装着して順応させ馴らした。適正な馴らしは、マウスに対するストレスを軽減し、動物に均一な呼吸速度を保持するのに不可欠である。本試験では、小動物吸入用投与装置を用いてマウスに投与した。投与装置は、ドリルにより7cm間隔で開けられた1.75cmのアダプター用の穴4つ(各側に沿って2つずつの穴)を伴う20×4.5cmの寸法(公称壁厚0.4cm)を有する小容量中空管を含む。アダプター用の穴は、Battelle社製毒性試験ユニットからのげっ歯動物拘束チューブに対応するように設置された。
【0048】
URF法により加工された粉末を水中に再分散させた(10mg/mL)後で、投与前に1分間にわたり超音波処理した。10分間の投与時間にわたり、Aeroneb Professionalマイクロポンプ式噴霧器を用いて、3mLの分散液を噴霧した。肺内投与後、マウスを投与装置から取り外し、15分間にわたり休息させた。各時点(0.5、1、2、3、6、12、24、及び48時間後)において2匹ずつのマウスをCOナルコーシスにより安楽死させた。心穿刺により全血液(1mLのアリコート)を得、本明細書の以下で概括する標準的なELISA法手順により解析した。加えて、各マウスに対して剖検を実施し、肺組織を抽出した。アッセイを行うまで、−20℃で試料を保存した。既に述べたHPLC法(下記)を用いて、肺組織内のTAC濃度を決定した。
【0049】
血中TAC濃度を解析するELISA(酵素免疫測定:enzyme-linked immunosorbent assay)法:製造元の使用説明書に従い、FK 506用PRO-Trac(商標)II型ELISA法キット(米国、スティルウォーター、Diasorin社製)を用いて、全血液中のTACの決定を実施した。具体的には、1.5mLのポリプロピレン製コニカルチューブ内に、50μLの全血液試料又は基準試料を入れた。消化試薬を新規に再構成し、すべてのチューブに300μLずつを添加した。該チューブを30秒間にわたりボルテックスし、室温で15分間にわたりインキュベートした。次いで、これらのチューブを75℃の浴水が循環するアルミニウム製加熱ブロック上に15分間置き、タンパク質分解を停止させた。ボルテックス後、室温、1,800×gで10分間にわたりチューブを遠心分離した。遠心分離された各チューブからマイクロ滴定プレートウェルに、2連で上清(100μL)を移した。各ウェルにキャプチャーモノクローナル抗FK506抗体(50μL)を添加し、室温、700rpmで30分間にわたってプレートを振とうした。次いで、各ウェルにTAC西洋わさびペルオキシダーゼ抱合体(50μL)を添加し、室温、700rpmでさらに60分間にわたってプレートを振とうした。200μLの色原体の添加前に、プレートを洗浄した。次いで、室温、700rpmでさらに15分間にわたってプレートを振とうした。100μLの停止溶液の添加により、各プレートウェルにおけるその後の反応を終了させた。450nm及び630nmの2つの波長で、各ウェルにおける吸光度を読み取った。4パラメータロジスティック(4PL:four-parameter logistic)曲線近似プログラムにより、データをプロットした。
【0050】
HPLC法を用いる肺組織の固相抽出及び薬剤解析:固相抽出法を用いて肺抽出を実施し、逆相HPLC法を用いてTACレベルを得た。各マウスから個別に、総肺重量を記録した。1mLの通常生理食塩水中で40秒間にわたり、Polytronローターステーター型ホモジナイザー(ペンシルベニア州、ウェストチェスター、VWR Scientific社製)を用いて肺組織をホモジナイズした。次いで、メタノール/水混合液(70:30)中において、ホモジナイズされた肺試料を0.5mLの0.4N硫酸亜鉛七水和物溶液と混合し、30秒間にわたりボルテックスで混合した。1.5分間にわたってさらにボルテックス混合する前に、ホモジナイズされた試料にアセトニトリル(1mL)を添加した後、3000rpmで15分間にわたる遠心分離により透明な上清を得た。次に、1mLの精製水を含有する清浄なバイアル内に該上清を回収した。その間、固相抽出用C18カートリッジ(ペンシルベニア州、ベルフォンテ、Supelco社製)をプレコンディショニングした。第1に、2mLのアセトニトリルによりこれらのカラムを前処置した後、1mLのメタノールで処置し、次いで、カラム中に上清を投入する前に、1mLの水により洗浄した。真空を低下させることにより、カラムからゆっくりと試料を移し回収した。1.5mLのメタノール/水混合液(70:30)を通すことにより再びカラムを洗浄した後、0.5mLのn−ヘキサンで洗浄し、真空下でカラムを乾燥させた。最後に、2mLのアセトニトリル(0.5mL×4)で試料を溶出させた。乾燥した窒素蒸気下で溶出された物質を蒸発させ、次いで、既に述べたHPLC法(下記)を用いる250μLの移動相により再構成した。データは、TACμg/解析された湿潤肺組織グラムとして表した。
【0051】
薬物動態及び統計学的解析:ノンコンパートメントモデルを用いて肺組織内濃度対時間を検討する一方で、血管外投与に由来する1コンパートメント解析を用いて(肺コンパートメントを介して)全血液中濃度対時間を評価した。薬物動態パラメータは、WinNonlin version 4.1(カリフォルニア州、マウンテンビュー、Pharsight社製)を用いて計算した。TACの薬物動態プロファイルは、最大濃度(Cmax:maximum concentration)、Cmaxまでの時間(Tmax:time to Cmax)、半減期(T1/2:half-life)、及び、0〜24時間における曲線下面積(AUC:area-under-the-curve)により特徴づけた。AUCは台形法を用いて計算し、Cmax及びTmaxは濃度−時間プロファイルから決定し、T1/2は消失速度定数(Kel:elimination rate constant)を用いて計算し、Kelは自然対数による濃度−時間プロファイルから得た。
【0052】
URF製剤のインビトロにおける特徴づけ:URF法により生成されるTAC粉末の物理化学特性を検討し、未加工TACと比較した。URF製剤及び未加工TACのXRDパターンを図4に示す。URF−TACのディフラクトグラムは、未加工TACのディフラクトグラムと同様であり、高度の結晶性を示した。しかし、URF−TAC:LACのXRDパターンでは、この組成物がアモルファスであることが確認された。これは、ラクトースによりTACの結晶化が阻害されたことを示唆する。ラクトースなどの糖を用いて、乾燥時及びその後の保存時におけるアモルファス薬剤、アモルファスペプチド、及びアモルファスタンパク質を安定化させうることはよく知られている(D.J. Van Drooge, W. L. J. H., H.W. Frijlink,. (2004) Incorporation of lipophilic drugs in sugar glasses by lyophilization using a mixture of water and tertiary butyl alcohol as solvent. J Pharm. Sci. 93, 713-725、Eriksson, J. H. C., Hinrichs, W. L. J., de Jong, G. J., Somsen, G. W., and Frijlink, H. W. (2003) Investigations into the Stabilization of Drugs by Sugar Glasses: III. The Influence of Various High-pH Buffers. Pharm. Res. 20, 1437-1443)。糖の添加は、結晶化を妨げることによりアモルファス系の保管寿命を延長することが示されている。加えて、ラクトースは、吸入システム中の賦形剤としての使用に一般に安全とみなされて(GRAS:generally regarded as safe)いる(Bosquillon, C., Lombry, C., Preat, V., and Vanbever, R. (2001) Influence of formulation excipients and physical characteristics of inhalation dry powders on their aerosolization performance. J. Control. Release 70, 329-339)。これは、投与後におけるその非毒性及び分解性の特性による(Wierik, H., and Diepenmaat, P. (2002) Formulation of lactose for inhaled delivery systems. Pharm. Tech. Eur. 11, 1-5)。
【0053】
URF法により加工された2種類の製剤のSEM顕微鏡画像を図5に示すと、これらは形態の顕著な違いを示す。URF−TAC:LACの形態(図5a〜5b)は、高度に多孔質のナノ構造凝集物を示した。図5bにおける高倍率での顕微鏡画像は、該凝集物が、直径約100〜200nmの相互に接続された分枝状ナノロッドからなることを示した。URF−TAC(図5c〜5d)は、サブミクロンの一次粒子からなるより稠密な凝集物として示された。これに対して、未加工TACのSEM顕微鏡画像では、50〜100μmの大きさが測定される不規則、稠密で大型の結晶プレートが示された(図5e)。したがって、URF法で加工された製剤により得られた表面積(URF−TAC:LAC及びURF−TACは、それぞれ、25.9及び29.3m/gであった)は、未加工薬剤(0.53m/g)の表面積よりも著明に高値であった(p<0.05)。この結果は、SEM法により観察されたURF粉末の多孔質ナノ構造凝集物により裏付けられた。
【0054】
URF法により加工された粉末から調製された水性分散液に対してカスケードインパクション法により測定されたインビトロにおけるエアゾール効能を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
データの比較により、2種類のURF製剤からエアゾール化された薬剤粒子の同様の空気動力学的特性が示唆される。URF−TAC:LAC及びURF−TACのMMADは、それぞれ、2.86及び2.57μmであり、GSDは2.2未満であった(表3)。エアゾールの液滴は、噴霧により呼吸域にあるナノ粒子凝集物を含有すると結論することができる。空気動力学的粒子径は、肺における薬剤沈着を決定する最も重要なパラメータであり、肺内送達用製剤を開発する場合に考慮しなければならない(de Boer, A. H., Gjaltema, D., Hagedoorn, P., and Frijlink, H. W. (2002) Characterization of inhalation aerosols: a critical evaluation of cascade impactor analysis and laser diffraction technique. Int. J Pharm. 249, 219-231)。1〜5μmの範囲のMMADを有するエアゾール化された粒子又は液滴は、最大の吸収が生じうる肺胞部位における高度の肺沈着に適する(Zeng, X. M., Martin, G. P., and Marriott, C. (1995) The controlled delivery of drugs to the lung. Int. J Pharm. 124, 149-164)。両方のURF製剤の最適のエアゾール化特性はまた、70%〜75%の範囲の高FPF百分率において反映され、薬剤粒子の効果的な肺内送達を示す。TEDは、URF−TACの場合(4823μg/分)と比較して、URF−TAC:LACの場合(5082μg/分)の方がやや高値であるに過ぎなかった。これらの値は、有意差を示さなかった(p>0.05)。
【0057】
シンク状態下のSLF溶媒中におけるインビトロでのTAC溶出プロファイルを、図6に示す。URF法により加工された両方の粉末に対する溶出速度とも、未加工TACと比較して有意に高値であった(p<0.05)。URF法により加工された粉末のナノ構造凝集物は湿潤性で、0.02%DPPCを含有するSLFと接触すると速やかに溶出することができたが、該製剤は界面活性剤を含有しなかった。URF−TAC:LAC(すなわち、アモルファスのナノ構造凝集物)の場合、TACの溶出は、URF−TAC(すなわち、結晶性のナノ構造凝集物)の67%及び未加工TACの30%とそれぞれ比較して、30分間で72%であった。該増強は、URF法により加工された粉末の高度の多孔性及び表面積の増強に起因する可能性がきわめて高い。
【0058】
同じ溶媒中において、過飽和状態でのTACの溶出もまた実施された。平衡溶解度の15倍のTACを含有する、URF法により加工された製剤の過飽和溶出プロファイルを、図7において比較する。URF−TAC:LACについて得られた濃度は、TACの平衡溶解度を超え、製剤中における界面活性剤又はポリマーの存在なしに、DPPCを含有するSLF中における高度の過飽和に対応する。過飽和レベルは、平衡溶解度の約11倍に対応する。これは、アモルファスTAC粒子の高エネルギー相に起因した。最高濃度は1時間後に生じ、次いで、次の4時間を経て平衡溶解度の約3倍に低下した。その結晶性の性格のため、URF−TACでは、過飽和溶出プロファイルは観察されなかった。
【0059】
インビボでの肺試験:マウスにおいて薬物動態吸収試験を実施した。小規模の吸入試験では、マウスモデルがきわめて有効であった(Miller, F. J., Mercer, R. R., and Crapo, J. D. (1993) Lower Respiratory-Tract Structure of Laboratory-Animals and Humans - Dosimetry Implications. Aerosol Sci. Tech. 18, 257-271)。単回吸入投与後における肺組織濃度−時間プロファイルを図8に示す一方、対応する薬物動態パラメータを表4にまとめる。
【0060】
【表4】

【0061】
URF−TAC:LACのCmax(14.09μg/g)は、URF−TAC(10.86μg/g)と比較して有意に高値である一方、Tmaxは2時間で有意に低値(p<0.05)であった。これはおそらく、インビトロでの過飽和結果おいてみられた通り、より高い溶出濃度の結果でありうる。しかし、2種類のURF製剤の間において、AUC値(0〜24時間)の有意差は観察されなかった(p>0.05)。結果は、粒子のアモルファスの性格が、薬剤吸収速度に影響を及ぼすことを示した。URF−TAC:LAC中のTACは、分布相及び消失相を伴う2相パターンに従い消失した。URF−TACにおいても、同様の消失パターンが見出された。Kel値は、2種類のURF製剤間で有意差を示さなかった(p>0.05)。両方のURF製剤の肺におけるTAC濃度の低下は、全身循環への薬剤の分布及び輸送のほか、肺からの粒子消失の結果である。ナノ構造凝集物の肺から全身循環への移送は、6時間後においても持続的な形でなされた可能性が高いことが明らかに認められる。48時間後における両方のURF製剤についての測定レベルは、アッセイの定量限界未満(1μg/gであると決定された)であった。
【0062】
マウスにおいて、肺からの薬剤吸収のインビボでの全身薬物動態を検討した。図9は、各製剤に由来する全血液中平均濃度−時間プロファイルの比較を示し、肺内投与後における薬物動態パラメータの計算値は、表5に示される。
【0063】
【表5】

【0064】
各製剤の全血液中濃度プロファイルは、肺内濃度プロファイルと比較して同様の吸収パターン、例えば、Tmaxを有する(図8)。しかし、いずれのURF製剤も、肺組織内で見られたTAC濃度よりも実質的に低いTAC濃度を血中において示した。URF−TAC:LAC及びURF−TACの肺内投与後における全血液中プロファイルは、濃度が低下する前に、それぞれ、2時間後における402.11ng/mL及び3時間後における300.67ng/mLのピーク濃度を有した。URF法により加工されたURF−TAC:LACのAUC(O−24)(1235.66ng時間/mL)は、URF−TACの場合(1324.35ng時間/mL)よりもやや低値であったが、統計学的な差は見られなかった(p>0.05)。URF−TAC:LACのTACレベルは急速に低下し、検出可能なレベルを有する最終時点は24時間後に生じたのに対し、URF−TACでは、同様の形でありながらもより緩徐な形で低下した(Kel値に有意差は見られなかった(p>0.05))。48時間後において、TACの全血液中濃度は、いずれの製剤でも定量限界未満であった。マウスにおけるいずれのURF製剤の噴霧後においても観察される全身濃度及び肺内濃度は、TACに対する実質的な肺及び全身の曝露が、URF法により生成されるアモルファスのナノ構造凝集物又は結晶性のナノ構造凝集物において達成されうることを示唆する。アモルファス粒子又は結晶性粒子により高値の全身濃度がもたらされるという観察は、高表面積が重要な因子であったことを示唆しうる。URF−TAC:LAC中のアモルファス粒子を送達する結果としての高度の過飽和は、URF−TAC中の結晶性粒子と比較して、血中及び肺組織内のいずれにおいてもより急速な吸収と相関した。肺内における過飽和状態の使用は、いまだかつて研究されたことがない。しかし、それは、溶解度の低い薬剤の経皮吸収及び経口吸収を増強することが示されている(Yamashita, K., Nakate, T., Okimoto, K., Ohike, A., Tokunaga, Y., Ibuki, R., Higaki, K., and Kimura, T. (2003) Establishment of new preparation method for solid dispersion formulation of tacrolimus. Int. J Pharm. 267, 79-91、Gao, P., Guyton, M. E., Huang, T., Bauer, J. M., Stefanski, K. J., and Lu, Q. (2004) Enhanced Oral Bioavailability of a Poorly Water Soluble Drug PNU-91325 by Supersaturatable Formulations. Drug Dev. Ind. Pharm. 30, 221-229、Iervolino, M., Cappello, B., Raghavan, S. L., and Hadgraft, J. (2001) Penetration enhancement of ibuprofen from supersaturated solutions through human skin. Int. J Pharm. 212, 131-141)。Yamashita, K., Nakate, T., Okimoto, K., Ohike, A., Tokunaga, Y., Ibuki, R., Higaki, K., and Kimura, T. (2003) Establishment of new preparation method for solid dispersion formulation of tacrolimus. Int. J Pharm. 267, 79-91により報告されたインビボデータは、HPMCを伴うアモルファス固体分散物のビーグル犬への経口投与後において、TACの高度で広範囲にわたる全身吸収を示した。同文献Yamashitaら中の試験では、溶媒蒸発法によりHPMCを伴うTACの固体分散物が調製され、0.1NのHCl中で2時間に25倍まで過飽和することも示され、このレベルは24時間超にわたり維持された。本発明者らの試験において、URF−TAC:LACに由来するTACの過飽和は、肺組織及び全身循環のいずれにおける薬剤吸収の程度に対しても効果を示さなかった。これは、過飽和が、吸収相の短い時間にわたり生じ、次いで、消失相では、TAC濃度が急速に低下した事実によって説明することができる。
【0065】
TACのアモルファスナノ粒子又は結晶性ナノ粒子を含有する、高表面積のナノ構造凝集物は、URF工程により生成され、噴霧により水性分散液中で効果的にエアゾール化されることが示された。ラクトースの組み入れにより、TACの結晶化が妨げられ、アモルファス粉末がもたらされた。URF−TAC:LAC(すなわち、アモルファスナノ構造凝集物)は、URF−TAC(すなわち、結晶性ナノ構造凝集物)と比較して、SLF中において過飽和する能力を示した。噴霧されたURF製剤の分散液は、高度の肺内濃度及び全身濃度を示した。24時間にわたり吸収された全薬剤量を反映するURF製剤のAUC(0−24)は、肺内プロファイル又は血中プロファイルについて有意差を示さなかった(p>0.05)。結果は、肺内投与後における肺組織内及び血中における高度の薬剤吸収は、両方の製剤に由来するナノ構造凝集物の高表面積におもに起因した。肺内において高溶解度を達成する能力は、インビボ試験の結果に基づくCmax値の上昇及びTmax値の低下に変換された。本発明者らは、ポリマー又は界面活性剤なしに、TACのナノ粒子を肺に良好な形で送達しうることを示した。
【実施例1】
【0066】
1:1の比率におけるタクロリムス(TAC)及びラクトース(LAC:lactose)を用いて、TAC製剤を生成した。超急速冷凍(URF)工程を用いて、1:1のTAC:LAC製剤を調製した。該組成物は、TAC及びLACを1:1の比率で、また、アセトニトリル及び水の60/40混合液中に0.75%の固体を溶解させることにより調製した。−50℃に保持された極低温基板を用いて冷却された固体基板表面に薬剤及び賦形剤からなる溶液を塗布した。次いで、冷凍された組成物を回収し、VirTis Advantage乾燥凍結器(ニューヨーク州、ガーディナー、VirTis社製)を用いる乾燥凍結化により溶媒を除去した。室温真空下で乾燥粉末を保存した。
【実施例2】
【0067】
X線粉末回折(XRD)法を用いて、実施例1の組成物を特徴づけた。銅製標的及びニッケル製フィルターを有するPhilips 1710型x線回折計(ニュージャージー州、マーワー、Philips Electronic Instruments社製)を用いて、粉末のXRDパターンを解析した。ステップサイズが0.05の2シータ角度及び1秒間の滞留時間を用いて、5〜45の2シータ角度の範囲で各試料を測定した。
【実施例3】
【0068】
BET法による比表面積解析を用いて、実施例1の組成物を特徴づけた。Nova 2000型v.6.11測定器(フロリダ州、ボイントンビーチ、Quantachrome Instruments社製)を用いて、比表面積を測定した。12mmのQuantachrome社製バルブ試料セルに既知重量の粉末を添加し、最低3時間にわたり脱気した。次いで、BET理論により、NOVA Enhanced Data Reductionソフトウェアv. 2.13を用いて、記録されたデータを解析した。結果は、組成物が、未加工TACの0.53m/gと比較して、25.9m/gのBET法による比表面積を有することを示した。
【実施例4】
【0069】
生成された粒子の形態を可視化するため、走査電子顕微鏡(SEM)法を用いて、実施例1の組成物を特徴づけた。Hitachi S-4500型電界放射型走査電子顕微鏡(日本、東京、日立ハイテク社製)を用いて、粉末試料のSEM顕微鏡写真を得た。試料は、導電性テープ上にマウントし、K575型スパッタリング被覆器(テキサス州、ヒューストン、Emitech Products社製)を用いて、30秒間にわたり金/パラジウムでスパッタリング被覆した。5〜15kVの加速電圧を用いて画像を観察した。SEM法による粉末の特徴づけの結果は、TAC/LACの高度な多孔質ナノ構造凝集物を示した。高倍率での顕微鏡画像では、該凝集物が、直径約100〜200nmの相互に接続されたナノ粒子からなることを示した。
【実施例5】
【0070】
TACの平衡溶解度未満のシンク状態(本明細書では、溶出溶媒中における平衡溶解度の59%と定義される)におけるその溶出特性について、実施例1の組成物を調べた。米国薬局方(USP)第27条の2型溶出装置(Vanderkamp社製VK650A型加熱器/循環器を伴うVanKel社製VK6010型溶出試験器カリフォルニア州、パロアルト、Varian社製)を用いて、TAC:LAC製剤に対して、平衡溶解度未満の状態における溶出試験を実施した。溶出溶媒としての0.02%のDPPCを伴う100mLの改変模擬肺液(SLF)に、平衡溶解度(6.8μg/mL)の約59%と等量の粉末試料(0.4mgのTAC)を添加した。溶出溶媒は、37.0±0.2℃に保持し、100RPMの一定速度で撹拌した。10、20、30、60、及び120分後の時点で試料(1mL)を採取し、0.45μmのGHP Acrodiscフィルター(ペンシルベニア州、ウェストチェスター、VWR社製)を用いて濾過し、Altech ODS-2型5μm C18カラム(イリノイ州、ディアフィールド、Altech Associates社製)を装備したShimadzu LC-10液体クロマトグラフ(日本、京都、島津製作所製)を用いて解析した。移動相は、1mL/分の流速を用いる70:30(v/v)のACN:水混合物からなった。吸光度の最大値は、波長λ=214nmで測定された。平衡溶解度未満における溶出試験の結果を、表6に示す。
【0071】
【表6】

【実施例6】
【0072】
過飽和状態下におけるその溶出特性について、実施例1の組成物を調べた。パドル撹拌機構を装備した小容量溶出装置を用いて、実施例5に述べた方法により過飽和溶出プロファイルを生成した。0.02%のDPPCを伴う100mLの改変模擬肺液中において、TACの水性結晶溶解度の約15倍に対応する薬剤製剤が秤量された。パドル速度及び水浴温度は、それぞれ、100RPM及び37.0℃に保持された。10、20、30、及び60分後、次いで、2、4及び24時間後において、小容量容器からアリコート(1mL)を除去した。0.2μmのナイロンフィルターを介して各アリコートを濾過し、濾過された各溶液の0.5mLずつのアリコートを、1mLのアセトニトリルと速やかに混合(して、37℃で既に溶出した薬剤の再結晶化がないことを確認)した。実施例5に述べた手順と同じHPLC手順を用いて、TAC濃度について試料を解析した。過飽和溶出試験の結果を、以下の表7に示す。
【0073】
【表7】

【実施例7】
【0074】
実施例1の組成物の肺内投与を用いて、マウスにおけるそのインビボ効能について、実施例1の組成物を調べた。健常ICRマウス(インディアナ州、インディアナポリス、Harlan Sprague Dawley社製)において、製剤の肺内投与を実施した。試験プロトコールは、オースチンのテキサス大学に所在の動物実験委員会(IACUC)により承認され、すべての動物は、米国実験動物管理公認協会に従い維持された。マウスは、投与前の2日間、10〜15分間/日にわたり拘束チューブ(オハイオ州、コロンバス、Battelle社製)を装着して順応させた。本試験では、小動物吸入用投与装置を用いてマウスに投与した。投与装置は、投与時点当たり4匹までのマウスを保持するよう設計された。投与装置は、Battelle社製毒性試験ユニットからのげっ歯動物拘束チューブに対応するように、ドリルにより7cm間隔で開けられた1.75cmのアダプター用の穴4つを伴う20×4.5cmの寸法を有する小容量中空管からなる。実施例1の組成物を水中に再分散させた(10mg/mL)後で、投与前に1分間にわたり超音波処理し、噴霧用懸濁液を調製した。10分間にわたり、Aeroneb(登録商標)Professionalマイクロポンプ式噴霧器を用いて、調製された3mLの分散液を噴霧した。肺内投与後、マウスを投与装置から取り外し、15分間にわたり休息させた。各時点(0.5、1、2、3、6、12、24、及び48時間後)において2匹ずつのマウスをCOナルコーシスにより安楽死させた。心穿刺により全血液(1mLのアリコート)を得、FK 506用PRO-Trac(商標)II型ELISA法キット(オクラホマ州、スティルウォーター、Diasorin社製)の説明書に詳述された手順に従い、FK 506用PRO-Trac II型ELISAを用いて解析した。加えて、各マウスに対して剖検を実施し、肺組織を抽出した。アッセイを行うまで、−20℃で試料を保存した。実施例5に述べたHPLC法を用いることにより、肺組織内のTAC濃度を決定した。血液中及び肺組織内のTAC濃度についての結果を、表8及び9に示す。
【0075】
【表8】

【0076】
【表9】

【実施例8】
【0077】
1:1の比率におけるタクロリムス(TAC)及びグルコース(GLU:glucose)を用いて、TAC製剤を生成した。超急速冷凍(URF)工程を用いて、1:1のTAC:GLU製剤を調製した。該組成物は、TAC及びGLUを1:1の比率で、また、アセトニトリル及び水の60/40混合液中に0.75%の固体を溶解させることにより調製した。−50℃に保持された極低温基板を用いて冷却された固体基板表面に薬剤及び賦形剤からなる溶液を塗布した。次いで、冷凍された組成物を回収し、VirTis Advantage Tray乾燥凍結器(ニューヨーク州、ガーディナー、VirTis社製)を用いる乾燥凍結化により溶媒を除去した。室温真空下で乾燥粉末を保存した。XRD法による特徴づけ(実施例2の手順に従う)の結果は、製剤がアモルファスであるということである。SEM法の結果(実施例4の手順に従う)は、形態が、約100〜300nmの一次粒子径を有するTAC及びGLUからなる小型の一次粒子によるナノ構造凝集物であるということである。
【実施例9】
【0078】
1:1の比率におけるタクロリムス(TAC)及びマンニトール(MAN:mannitol)を用いて、TAC製剤を生成した。超急速冷凍(URF)工程を用いて、1:1のTAC:MAN製剤を調製した。該組成物は、TAC及びMANを1:1の比率で、また、アセトニトリル及び水の60/40混合液中に0.75%の固体を溶解させることにより調製した。−50℃に保持された極低温基板を用いて冷却された固体基板表面に薬剤及び賦形剤からなる溶液を塗布した。次いで、冷凍された組成物を回収し、VirTis Advantage乾燥凍結器(ニューヨーク州、ガーディナー、VirTis社製)を用いる乾燥凍結化により溶媒を除去した。室温真空下で乾燥粉末を保存した。XRD法による特徴づけ(実施例2の手順に従う)の結果は、組成物がアモルファスであるということである。SEM法の結果(実施例4の手順に従う)は、形態が、約100〜200nmの一次粒子径を有するTAC及びMANからなる小型の一次粒子によるナノ構造凝集物であるということである。
【実施例10】
【0079】
1:1の比率におけるタクロリムス(TAC)及びイヌリン(INL:inulin)を用いて、TAC製剤を生成した。超急速冷凍(URF)工程を用いて、1:1のTAC:INL製剤を調製した。該組成物は、TAC及びINLを1:1の比率で、また、アセトニトリル及び水の60/40混合液中に0.75%の固体を溶解させることにより調製した。−50℃に保持された極低温基板を用いて冷却された固体基板表面に薬剤及び賦形剤からなる溶液を塗布した。次いで、冷凍された組成物を回収し、VirTis Advantage乾燥凍結器(ニューヨーク州、ガーディナー、VirTis社製)を用いる乾燥凍結化により溶媒を除去した。室温真空下で乾燥粉末を保存した。XRD法による特徴づけ(実施例2の手順に従う)の結果は、製剤がアモルファスであるということである。SEM視覚化の結果(実施例4の手順に従う)は、製剤の形態が、約100〜200nmの一次粒子径を有するTAC及びINLからなる小型の一次粒子によるナノ構造凝集物であるということである。
【実施例11】
【0080】
これらの試験で用いられたげっ歯動物用投与装置を評価するため、イトラコナゾール(ITZ:itraconazole)を用いて、該装置のインビトロ及びインビボ試験を実施した。ドリルにより7cm間隔で開けられた1.75cmのアダプター用の穴4つ(各側に沿って2つずつの穴)を有する中空管(20×4.5cm、公称壁厚0.4cm)からなる動物投与用吸入装置を構築した。アダプター用の穴は、Battelle社製毒性試験ユニットからのげっ歯動物拘束チューブに対応するように設置された。マイクロポンプ式噴霧器を用いて、5分間にわたり、該装置内にITZコロイド懸濁液を噴霧した。1mL/分の流速で、ITZを含有する霧化された液滴をチャンバー内に導入した。4つのアダプターポートにおいてインビトロで、また、アダプターポートにおいて適切なマウス拘束チューブを装着した雄の非近交系ICRマウスの肺からインビボで、ITZ濃度を測定した。インビトロの結果は、5分間の噴霧後におけるアダプターポートでのITZ濃度(S.D.)が、3.35(0.75)μg/mLであることを示した。インビボの結果は、ITZの肺内濃度が、32(3.0)μg/湿潤肺重量g(n=8)であることを示した。これは、曝露時間を2倍として、同じ株のマウスにおける拘束のない全身曝露ユニットを用いて過去に決定した値よりも3倍高値であることが判明した。げっ歯動物の肺では、ITZの高濃度が低いばらつきで達成された。侵襲性でばらつきがある投与法を用いる必要のない市販の噴霧器を、短時間の投与に用いることができる。インビボマウス試験のデータを表10に示す。
【0081】
【表10】

【実施例12】
【0082】
複数回投与後のマウスモデルにおけるそのインビボ効能について、実施例1の組成物を調べた。実施例7に記載の投与装置を用いた。実施例7に記載の再分散濃度及び投与濃度もまた用いたが、投与は毎日1回行った。複数回の投与後に、イソフルラン吸入により4匹ずつ2組のマウスを安楽死させた。4匹からなる1組は6回の投与を受け、他の組は13回の投与を受けた。最終回投与の24時間後に動物を安楽死させ、トラフ時の血液試料を採取した。全血液試料及び肺組織試料を抽出し、実施例7に記載の通りにアッセイを行った。血中及び肺組織内のTAC濃度についての結果を、表11及び12に示す。
【0083】
【表11】

【0084】
【表12】

【実施例13】
【0085】
実施例12で実施された試験に由来する肺組織を、組織学的検査にかけた。安楽死後、10%ホルマリン溶液で肺を膨張させ、気管で縛り、抽出した。肺切片を採取し、染色し、パラフィンろう内に包埋した。実施例12に記載の実薬投与群と共に、6及び13日間にわたりラクトース溶液を投与された対照群も評価した。いずれの場合も、組織損傷の証拠は観察されなかった。顕微鏡評価に由来する画像を、図10A〜10Dに示す。
【実施例14】
【0086】
実施例7における容量と比較した低用量で、ラットモデルにおけるそのインビボ効能について、実施例1の組成物を調べた。健常なSprague Dawleyラット(インディアナ州、インディアナポリス、Harlan社製)において、該製剤の肺内投与を実施した。試験プロトコールは、オースチンのテキサス大学に所在の動物実験委員会(IACUC)により承認され、すべての動物は、米国実験動物管理公認協会に従い維持された。ラットは、投与前の2日間、10〜15分間/日にわたり拘束チューブ(オハイオ州、コロンバス、Battelle社製)を装着して順応させた。本試験では、小動物吸入用投与装置を用いてラットに投与した。投与装置は、投与時点毎に4匹のラットまで保持するよう設計された。投与装置は、Battelle社製毒性試験ユニットからのげっ歯動物拘束チューブに対応するように、ドリルにより7cm間隔で各側面互い違いに開けられた1.75cmのアダプター用の穴4つを伴う2×4.5cmの寸法を有する小容量中空管からなる。実施例1の組成物を水中に再分散させた(1.1mg/mL)後で、投与前に1分間にわたり超音波処理し、噴霧用懸濁液を調製した。10分間にわたり、Aeroneb(登録商標)Professionalマイクロポンプ式噴霧器を用いて、調製された3mLの分散液を噴霧した。肺内投与後、ラットを投与装置から取り外し、1時間にわたり休息させ、次いで、CO2ナルコーシスにより安楽死させた。実施例7に記載の通りに、全血液アリコートを抽出し、アッセイした。全血液中TAC濃度についての結果を、表13に示す。
【0087】
【表13】

【実施例15】
【0088】
複数回投与後のラットにおけるそのインビボ効能について、実施例1の組成物を調べた。実施例14に記載の投与装置を用いた。実施例14に記載の再分散濃度及び投与濃度もまた用いたが、投与は毎日1回行った。21回の投与後に、イソフルラン吸入により8匹のラットを安楽死させた。最終回投与の24時間後に動物を安楽死させ、トラフ時の血液試料を採取した。実施例14に記載の通りに、全血液試料にアッセイを行った。全血液中TAC濃度についての結果を、表14に示す。
【0089】
【表14】

【実施例16】
【0090】
実施例14において用いられた低用量で、ラット肺移植モデルにおけるそのインビボ効能について、実施例1の組成物を調べた。肺移植を受けた健常なSprague Dawleyラット(インディアナ州、インディアナポリス、Harlan社製)において、該製剤の肺内投与を実施した。左肺を同じ種に由来する健常な左肺で置換する手術を実施した。投与を実施する前に少なくとも7日間がラットに与えられた。試験プロトコールは、サンアントニオのテキサス健康科学センター大学に所在の動物実験委員会(IACUC)により承認され、すべての動物は、米国実験動物管理公認協会に従い維持された。投与は、実施例14に詳述した通りに実施したが、イソフルラン麻酔後の組織剖検により、安楽死を実施した。実施例7に記載の通りに、移植を受けた3匹のラットから、2つの時点にわたり全血液のアリコートを抽出した。6時間後及び12時間後における全血液中のTAC濃度についての結果は、それぞれ、2.97±0.3及び2.55±0.3ng/mLであった。左右の肺組織試料もまた回収し、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS:liquid chromatography/mass spectrometry)法により、移植された3匹のラットに由来するTAC含量について、2つの時点で解析した。略述すると、肺組織をホモジナイズし、タンパク質を沈殿させて、解析物を分離した。試料を内部標準物質と共にスパイクし、抽出効率を評価しこれについて補正した。6時間後及び12時間後における左(移植された)肺のTAC濃度についての結果は、それぞれ、319.8±80及び160.4±46ng/gであった。6時間後及び12時間後における右肺のTAC濃度についての結果は、それぞれ、125.0±5及び62.6.4±17ng/gであった。
【実施例17】
【0091】
実施例14において用いられた低用量で、実施例16に記載のラット肺移植モデルにおけるそのインビボ効能について、実施例1の組成物を調べた。安楽死後、肺を抽出し、近位気道部分と遠位気道部分とに切片化した。実施例16に従うLC/MS法により、総肺内TACの質量百分率について、これらの切片を解析した。肺移植を受けた3匹のラットにおける右近位、右遠位、左近位、及び左遠位についての6時間後の時点における結果は、それぞれ、4.0±6%、49.3±4%、33.6±4%、及び13.1±5%の総TAC沈着量であった。同じ試験の移植を受けなかった1匹のラットにおける右近位、右遠位、左近位、及び左遠位についての6時間後の時点における結果は、それぞれ、2.6%、49.0%、25.1%、及び23.3%の総TAC沈着量であった。
【実施例18】
【0092】
混合リンパ球培養(MLC:mixed lymphocyte culture)法による免疫反応解析におけるそのインビトロ効能について、実施例1の組成物を調べた。この試験は、移植宿主に由来する骨髄細胞を、移植ドナーに由来する細胞と共に培養することにより開始される。タクロリムスなしで、エタノール中に溶解させたPrograf(登録商標)の添加後において、及び、水中に分散させたTAC:LAC組成物の添加後において、この培養物におけるリンパ球増殖を、免疫適合性について評価した。タクロリムスの存在しない培養物のリンパ球カウントに対する阻害百分率を決定した。4回の反復後における平均阻害率を計算した。同等の投与量において、エタノール中に溶解させたPrograf(登録商標)ではリンパ球増殖が45%阻害されるのに対し、水中に分散させたTAC:LACでは増殖が86%阻害されることが判明した。
【0093】
本明細書で論じられる任意の実施形態は、本発明の任意の方法、キット、試薬、又は組成物により実装することができ、この逆もまた成り立つことが意図される。さらに、本発明の組成物を用いて、本発明の方法を達成することができる。
【0094】
本明細書に記載される具体的な実施形態は、本発明の例示のために示されるものであり、本発明の限定として示されるものではないことを理解されたい。本発明の範囲から逸脱しない限りにおいて、本発明の主要な特徴を各種の実施形態に用いることができる。当業者は、通例の試験のみを用いて、本明細書に記載された特定の手順に対する多数の同等物を認識し、又は確認することができるであろう。こうした同等物は、本発明の範囲内にあると考えられ、特許請求の範囲の対象となる。
【0095】
本明細書において言及されるすべての刊行物及び特許出願は、本発明が関連する当技術分野における当業者のレベルを示すものである。すべての刊行物及び特許出願は、各刊行物又は特許出願が参照により具体的且つ個別に組み込まれることを表示されたと仮定する場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0096】
本特許請求の範囲及び/又は本明細書における「〜を含む」という用語と組み合わせて用いられる場合の「a」又は「an」という語の使用は、「1の」を意味しうるが、「1以上の」、「少なくとも1の」、及び「1又は複数の」の意味とも符合する。特許請求の範囲における「又は(or)」という用語の使用は、代替物のみを指すことが明示的に示されるか、又は、代替物が相互に排他的でない限り、「及び/又は」を意味するのに用いられるが、開示では、代替物のみ、並びに「及び/又は」を指す定義が支持される。本出願の全体において、「約」という用語は、値を決定するのに用いられる機器、方法に固有の誤差のばらつき、又は、被験者間に存在するばらつきを示すのに用いられる。
【0097】
本明細書及び(1又は複数の)請求項で用いられる「〜を含む(comprising)」(並びに、「〜を含む(comprise)」及び「〜を含む(comprises)」など、「〜を含む(comprising)」の任意の形)、「〜を有する(having)」(並びに、「〜を有する(have)」及び「〜を有する(has)」など、「〜を有する(having)」の任意の形)、「〜を含む(including)」という語(並びに、「〜を含む(includes)」及び「〜を含む(include)」など、「〜を含む(including)」の任意の形)、又は「〜を含有する(containing)」(並びに、「〜を含有する(contains)」及び「〜を含有する(contain)」など、「〜を含有する(containing)」の任意の形)という語は、包含的又はオープンエンドであり、列挙されない付加的なエレメント又は方法ステップを排除するものではない。
【0098】
本明細書で用いられる「又はこれらの組み合わせ」という用語は、該用語に先立つ列挙された項目のすべての順列及び組み合わせを指す。例えば、「A、B、C、又はこれらの組み合わせ」は、A、B、C、AB、AC、BC、又はABCの少なくとも1を含み、また、具体的な文脈において順序が重要である場合は、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC、又はCABの少なくとも1も含むことを意図する。この例を続けると、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなど、1又は複数の項目又は項の反復を含む組み合わせが明示的に含まれる。当業者は、文脈から別段に明らかでない限り、任意の組み合わせにおける項目又は項の数に制約が存在しないことが典型的であることを理解するであろう。
【0099】
本開示に照らして不適切な実験を含むのでない限り、本明細書で開示及び主張されるすべての組成物及び/又は方法を作製及び実施することができる。好ましい実施形態との関係で本発明の組成物及び方法を説明してきたが、本発明のコンセプト、精神、及び範囲から逸脱しない限りにおいて、本明細書に記載の組成物及び/又は方法に対して、また、該方法のステップ又はその一連のステップにおいて変更を適用しうることは、当業者に明らかであろう。当業者に明らかな、すべてのこうした同様の代替及び改変は、付属の特許請求の範囲により定義される本発明の精神、範囲及びコンセプト内にあるとみなされる。
【0100】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
タクロリムスと、ポリマー若しくは非ポリマーの界面活性剤、ポリマー若しくは非ポリマーの単糖類、又はその両方を任意で含む安定剤マトリックスとを含む、速溶性、高力価、実質的にアモルファスのナノ構造凝集物を含み、
前記凝集物が、BET解析により測定される5m/gを超える表面積を含み、模擬肺液に水性結晶溶解度の11〜15倍のタクロリムスを添加すると少なくとも0.5時間にわたり過飽和を示す、
肺内送達用組成物。
【請求項2】
模擬肺液が、小容量の溶出装置内において37℃に維持され100RPMのパドル速度で撹拌される0.02%w/vのL−α−ホスファチジルコリンジパルミトイル(DPPC)を伴う100mLの改変模擬肺液を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
小容量の溶出装置内において37℃に維持され100RPMのパドル速度で撹拌される0.02%w/vのDPPCを伴う100mLの改変模擬肺液に、水性結晶溶解度の約0.59倍と等量のタクロリムスを添加すると薬剤の約80%超が約1時間で溶出する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
過飽和が、少なくとも1、2、3、又は4時間にわたる、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ナノ構造凝集物が、小容量の溶出装置内において37℃に維持され100RPMのパドル速度で撹拌される0.02%w/vのDPPCを伴う改変模擬肺液中において結晶溶解度を超える溶解度を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前臨床げっ歯動物用投与装置を用いて、体重16g〜32gのマウスに対して噴霧により投与すると、凝集物が湿潤全肺組織重量1g当たり約0.10μgを超える肺内沈着を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ナノ構造凝集物が、約5m/gを超える表面積を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
ナノ構造凝集物が、5m/g、10m/g、20m/g、又は30m/gを超える表面積を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ナノ構造凝集物が、即時放出、持続放出、パルス放出、遅延放出、制御放出、及びこれらの組み合わせ用に提供される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
噴霧用分散液が、ナノ構造凝集物を水溶性担体と混合することにより調製され、かつ、噴霧器、エアジェット式噴霧器、超音波式噴霧器、又はマイクロポンプ式噴霧器により噴霧される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
噴霧される液滴の呼吸性画分が、28.3L/分の気流速度でのThermo-Electron社(旧Anderson社)製の非活性8段階カスケードインパクターによる測定で約40、50、60、70、又は80%を超える、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
加圧式定量送達器を用いる送達に適切に適合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
乾燥粉末吸入器を用いる送達に適切に適合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
実質的にアモルファスのナノ構造凝集物が、冷凍スプレー法、液化冷凍法、気化冷凍スプレー法、超急速冷凍法、又はスプレー乾燥法により作製される、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
実質的にアモルファスのナノ構造凝集物が、溶媒沈殿法、貧溶媒沈殿法、連続沈殿法、又は水溶液中への蒸発沈殿法により作製される、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
タクロリムスが、組成物のすべての成分を溶出させることができる溶媒又は共溶媒混合物中に薬剤担体と共に溶解され、液化冷凍スプレー時又は超急速冷凍時に、個々の粒子中にタクロリムスが5重量%〜99重量%で存在する乾燥粉末が生成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
液化冷凍スプレー時又は超急速冷凍時に粉末を生成する炭水化物、有機塩、アミノ酸、ペプチド、又はタンパク質を含む薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
マンニトール、ラフィノース、ラクトース、マルトデキストリン、トレハロース、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される炭水化物を含む薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
ナノ構造凝集物が、1又は複数の高湿潤性ナノ粒子ドメインを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
ナノ構造凝集物が、水溶液中で速やかに湿潤し溶出する、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
タクロリムスを界面活性剤若しくは安定剤マトリックス、又は界面活性剤と安定剤マトリックスとの組み合わせと混合するステップと、
液化冷凍スプレー法又は超急速冷凍法により、タクロリムスと界面活性剤/安定剤マトリックスとを速溶性、高力価アモルファスナノ粒子に超急速冷凍するステップとを含み、
ナノ粒子がBET解析による測定で5m/gを超える表面積を含み、改変模擬肺液に水性結晶溶解度の11〜15倍のタクロリムスを添加すると少なくとも0.5時間にわたり過飽和を示す、
肺用組成物を作製する方法。
【請求項22】
模擬肺液が、小容量の溶出装置内において37℃に維持され、100RPMのパドル速度で撹拌される0.02%w/vのL−α−ホスファチジルコリンジパルミトイル(DPPC)を伴う100mLの改変模擬肺液を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
小容量の溶出装置内において37℃に維持され、100RPMのパドル速度で撹拌される0.02%w/vのDPPCを伴う100mLの改変模擬肺液に、水性結晶溶解度の約0.59倍と等量のタクロリムスを添加すると薬剤の約80%超が約1時間で溶出する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
過飽和が、少なくとも1、2、3、又は4時間にわたる、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
ナノ構造凝集物が、小容量の溶出装置内において37℃に維持され100RPMのパドル速度で撹拌される0.02%w/vのDPPCを伴う改変模擬肺液中において結晶溶解度を超える溶解度を示す、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前臨床げっ歯動物用投与装置を用いて、体重16g〜32gのマウスに対して噴霧により投与すると、凝集物が湿潤全肺組織重量1g当たり約0.10μgを超える肺内沈着を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
ナノ構造凝集物が、約5m/gを超える表面積を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
ナノ構造凝集物が、5m/g、10m/g、20m/g、又は30m/gを超える表面積を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
ナノ構造凝集物が、即時放出、持続放出、パルス放出、遅延放出、制御放出、及びこれらの組み合わせ用に提供される、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
噴霧用分散液が、ナノ構造凝集物を水溶性担体と混合することにより調製され、かつ、噴霧器、エアジェット式噴霧器、超音波式噴霧器、又はマイクロポンプ式噴霧器により噴霧される、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
噴霧される液滴の呼吸性画分が、28.3L/分の気流速度でのThermo-Electron社製の非活性8段階カスケードインパクターによる測定で約40、50、60、70、又は80%を超える、請求項10に記載の方法。
【請求項32】
加圧式定量送達器を用いる送達に適切に適合される、請求項21に記載の方法。
【請求項33】
乾燥粉末吸入器を用いる送達に適切に適合される、請求項21に記載の方法。
【請求項34】
実質的にアモルファスのナノ構造凝集物が、冷凍スプレー法、液化冷凍法、気化冷凍スプレー法、超急速冷凍法、又はスプレー乾燥法により作製される、請求項21に記載の方法。
【請求項35】
実質的にアモルファスのナノ構造凝集物が、溶媒沈殿法、貧溶媒沈殿法、連続沈殿法、又は水溶液中への蒸発沈殿法により作製される、請求項21に記載の方法。
【請求項36】
タクロリムスが、組成物のすべての成分を溶出させることができる溶媒又は共溶媒混合物中に薬学的に許容される担体と共にタクロリムスを溶解され、液化冷凍スプレー時又は超急速冷凍時に、個々の粒子中にタクロリムスが5重量%〜99重量%で存在する乾燥粉末が生成される、請求項21に記載の方法。
【請求項37】
液化冷凍スプレー時又は超急速冷凍時に粉末を生成する炭水化物、有機塩、アミノ酸、ペプチド、又はタンパク質を含む薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項38】
マンニトール、ラフィノース、ラクトース、マルトデキストリン、トレハロース、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される炭水化物を含む薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項39】
ナノ構造凝集物が、1又は複数の高湿潤性ナノ粒子ドメインを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項40】
ナノ構造凝集物が、水溶液中で速やかに湿潤し溶出する、請求項21に記載の方法。
【請求項41】
タクロリムスを界面活性剤若しくは安定剤マトリックス、又は界面活性剤と安定剤マトリックスとの組み合わせと混合するステップと、
液化冷凍スプレー又は超急速冷凍によりタクロリムスと界面活性剤/安定剤マトリックスとを速溶性、高力価アモルファスナノ粒子に超急速冷凍して、タクロリムスナノ粒子を形成するステップであって、
タクロリムスナノ粒子がBET解析による測定で5m/gを超える表面積を含み、改変模擬肺液に水性結晶溶解度の11〜15倍のタクロリムスを添加すると少なくとも0.5時間にわたり過飽和を示すステップと、
移植拒絶反応を防止する有効量のタクロリムスナノ粒子組成物により対象を治療するステップと
を含む、対象における移植拒絶反応を軽減する方法。
【請求項42】
タクロリムスナノ粒子が肺内送達に適合される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
タクロリムスナノ粒子が肺移植拒絶反応を予防するために提供される、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
タクロリムスナノ粒子が0.1mg/ml〜100mg/mlで提供される、請求項41に記載の方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1A−1B】
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【図2A−2B】
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【図3】
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【図10A−10D】
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【公表番号】特表2010−515753(P2010−515753A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545689(P2009−545689)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/050795
【国際公開番号】WO2008/127746
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【出願人】(590000020)ザ ダウ ケミカル カンパニー (24)
【氏名又は名称原語表記】THE DOW CHEMICAL COMPANY
【Fターム(参考)】