説明

肺炎連鎖球菌由来の核酸及びタンパク質

【課題】肺炎球菌疾患を予防し、制御し、診断し、又は治療する方法を改善する。
【解決手段】肺炎連鎖球菌由来の新規なタンパク質、それらをコードする核酸配列及びワクチン及びスクリーニング法におけるそれらの使用を供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺炎連鎖球菌(ストレプトコッカス・ニューモニエ)由来のタンパク質、このようなタンパク質をコードする核酸分子に関し、さらに該核酸分子及び/又はタンパク質の抗原/免疫原としての使用及び検出/診断における使用に関し、並びに潜在的抗微生物標的として該タンパク質配列/核酸配列をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肺炎連鎖球菌は、通常肺炎球菌(ニューモコッカス)と呼ばれ、重要な病原性生物である。開発途上国及び先進国における人の疾患に関して肺炎連鎖球菌感染の絶えざる重要性については権威ある総説が書かれている(ファイバー、G.R., Science, 265: 1385-1387 (1994)) 。この総説は、世界的規模で、この微生物が急性呼吸器感染の最も普通の原因細菌であると信じられており、多くの開発途上国においては毎年 100万人の子供達が死んでいると推定されていることを指摘する( スタンスフィールド、 S.K., Pediatr. Infect. Dis., 6: 622 (1987)) 。アメリカ合衆国では、肺炎球菌は今なお最も普通の細菌性肺炎の原因であり、死亡率は幼い子供、老人、及び無脾症、心臓、肺及び腎臓の疾患、糖尿病、アルコール中毒、若しくは免疫抑制性疾患、特にエイズなどの罹患し易い状態にある患者で、特に高いことが示唆されてきた(ブライマンら、 Arch. Intern. Med., 150: 1401 (1990)) 。これらのグループは肺炎球菌による敗血症従って髄膜炎の危険性が高く、それ故、肺炎球菌の感染による死亡の危険性が増大する。肺炎球菌は中耳炎や副鼻腔炎の原因ともなる。これは先進国における子供の感染に猛威をふるいつづけており、相当な費用を費やしている。
【0003】
肺炎球菌感染に対する有効な予防戦略の必要性が近年のペニシリン耐性肺炎球菌の出現により脚光を浴びている。12州の13の米国の病院で単離された肺炎球菌の6.6%がペニシリンに耐性であることが発見され、そして単離菌の一部は第3世代のサイクロ(登録商標)スポリン類を含む他の抗生物質にも耐性であったと報告された(シャパート、S.M., Vital and Health Statistics of the Centres for Disease Control/National Centre for Health Statistics, 214: 1 (1992))。ペニシリン耐性の割合は、一部の病院ではより高くなる(20%まで)ことがある(ブライマンら、 J. Am. Med. Assoc., 271: 1831 (1994)) 。肺炎球菌の中でのペニシリン耐性の増大は最近のことであり、突然でもあり、ペニシリンが有効な治療であった数十年の後にやってきたものであるから、これらの事実は警告と考えられる。
【0004】
上記の理由から、肺炎球菌疾患を予防し、制御し、診断し、又は治療する方法の改善を検討すべき説得力のある根拠がある。
【0005】
肺炎球菌感染の予防のためのワクチンを提供するために様々な取り組みがなされてきた。困難は、例えばこの生物を取り巻く多糖類莢膜の構造に基づく(少なくとも90の)多様な血清型のために生ずる。個々の血清型に対するワクチンは他の血清型に対しては有効でない。このことは、大多数の症例で有効であるためには、ワクチンが全ての範囲の血清型由来の多糖類抗原を含まねばならないことを意味する。さらなる問題は、莢膜多糖類(そのそれぞれが血清型を決定しそして主要な防御抗原である)が、これを精製しワクチンとして使用するとき、侵襲性の肺炎球菌感染及び髄膜塩の最も高い発症率を示す年齢層である二歳未満の幼児達には信頼性のある防御的抗体応答を誘発しないことが見出されたことから生ずる。
【0006】
莢膜抗原を用いる取り組みの改良として、特にその応答にT−細胞依存性を与えることにより免疫応答の増強を引き出すため、タンパク質に多糖類を結合させる方法がある。この取り組みは、例えば、ヘモフィルス・インフルエンザエに対するワクチンの開発に用いられてきた。しかしながら、多重−多糖類ワクチンと結合に基づくワクチンの両者に関する費用の問題がある。
【0007】
第三の取り組みはワクチン候補となる可能性を与える他の抗原成分を探索することである。これは本発明の基盤である。特別に開発された細菌系の発現システムを用いて、本発明者らは肺炎球菌由来の一群のタンパク質抗原を同定することができた。これはこの細菌のエンベロープと関連するか又は分泌されるものである。
【発明の開示】
【0008】
こうして、本発明は、第一の側面では、表1に示す配列群から選択される1配列を有する肺炎連鎖球菌のタンパク質又はポリペプチドを提供する。
【0009】
第二の側面では、本発明は表2に示す配列群から選択される1配列を有する肺炎連鎖球菌のタンパク質又はポリペプチドを提供する。
【0010】
本発明のタンパク質又はポリペプチドは実質的に純粋な形で提供されうる。例えば、それは他のタンパク質を実質的に含まない形で提供されうる。
【0011】
本明細書で論ずるように、本発明のタンパク質又はポリペプチドは抗原性物質として有用である。このような物質は「抗原性」及び/又は「免疫原性」であることができる。一般に、「抗原性」とは、そのタンパク質又はポリペプチドが抗体を生産させるために使用することができそして実際に患者において抗体応答を誘発させることができることを意味すると解される。「免疫原性」とは、そのタンパク質又はポリペプチドが患者において防御的免疫応答を誘発させることができることを意味すると解される。こうして、後者の場合には、このタンパク質又はポリペプチドは抗体応答を発生させ得るだけでなく、その上、抗体に基づかない免疫応答を発生させることができる。
【0012】
熟練者は本発明のタンパク質又はポリペプチドの同族体又は誘導体も本発明の論旨における使用、すなわち、抗原性/免疫原性物質として使用できることを見出すであろう。こうして、例えば、一以上の付加、欠失、置換等を含むタンパク質又はポリペプチドは本発明により包含される。さらに、一つのアミノ酸を別の一つの類似の「型」と置換することが可能である。例えば、一つの疎水性のアミノ酸を別のものと置換すること。
【0013】
アミノ酸の配列を比較するためには CLUSTALプログラムなどのプログラムを使用することができる。このプログラムはアミノ酸配列を比較しそしていずれかの配列に適当なスペースを挿入することにより最適整列を探し出す。最適整列に対するアミノ酸の同一性又は類似性(アミノ酸タイプの同一性プラス保存性)を計算することが可能である。BLASTxのようなプログラムは類似の配列の最長のストレッチを整列させ、その適合性に数値を割り当てる。こうして、それぞれが異なる点数を持つ幾つかの類似の領域が見出される場合には比較をすることが可能である。同一性分析の両方のタイプが本発明では予定される。
【0014】
同族体及び誘導体の場合には、本明細書で記述するようなタンパク質又はポリペプチドに関する同一性の程度は、該同族体又は誘導体が元のタンパク質又はポリペプチドの抗原性又は免疫原性を保持すべきであること程には重要ではない。しかしながら、本明細書で記述されるタンパク質又はポリペプチドと(上に論じたように)少なくとも60%類似性を持つ同族体又は誘導体が提供されることが適当である。少なくとも70%類似性、より好ましくは少なくとも80%類似性を持つ同族体又は誘導体が提供されることが好ましい。少なくとも90%又更には95%の類似性を持つ同族体又は誘導体が提供されることが最も好ましい。
【0015】
代わりのアプローチとして、これらの同族体又は誘導体は、例えば、所望のタンパク質又はポリペプチドを有効に標識することにより、精製をより容易にさせる部分を取り込んだ融合タンパク質であることもできよう。この「標識」は取り除くことが必要であることもあり、又はこの融合タンパク質それ自体が有用である程に十分な抗原性を保持している場合もありうる。
【0016】
本発明のさらなる側面では、本発明のタンパク質若しくはポリペプチド又はそれらの同族体若しくは誘導体の抗原性/免疫原性の断片が提供される。
【0017】
本明細書に記述されるタンパク質若しくはポリペプチド、又はそれらの同族体若しくは誘導体の断片については、状況がいささか異なる。エピトープ領域、すなわち、タンパク質又はポリペプチドの抗原性又は免疫原性の原因となる領域、を同定するために該抗原性タンパク質又はポリペプチドをスクリーニングすることが可能であることは良く知られている。このようなスクリーニングを行う方法は当分野では周知のことである。こうして、本発明の断片は、その抗原性/免疫原性の性質を保持するために、一つ以上のこのようなエピトープ領域を含むべきであり、又は該領域に十分に類似すべきである。従って、本発明の断片については、それらが本明細書に記述されるタンパク質若しくはポリペプチド、同族体若しくは誘導体の特定の一部と100%同一でありうるから、同一性の程度はおそらく無関係である。重要な点は、再び言うが、該断片が抗原性/免疫原性の性質を保持することである。
【0018】
こうして、同族体、誘導体及び断片にとって重要なことは、それらが由来する元のタンパク質又はポリペプチドの抗原性/免疫原性の少なくともある程度を有することである。
【0019】
本発明のタンパク質を実質的に純粋な形で提供するために遺伝子クローニング技術が使用されうる。これらの技術は、例えば、ジェイ.サムブルックら、モレキュラー・クローニング、第二版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(1989)に開示されている。こうして、第三の側面では、本発明は下記の1配列、すなわち
(i) 表1に示すDNA配列群又はそれらのRNA等価物のいずれか、
(ii) (i)の配列群のいずれかに相補的な配列、
(iii) (i)又は(ii) の配列と同じタンパク質又はポリペプチドをコードする配列、(iv) (i)、(ii) 及び(iii)の配列のいずれかと実質的に同一な配列、
(v) 表1で定義されるタンパク質の同族体、誘導体又は断片をコードする配列、
を含む又は該配列から成る核酸分子を提供する。
【0020】
第四の側面では、本発明は下記の1配列、すなわち
(i) 表2に示すDNA配列群又はそれらのRNA等価物のいずれか、
(ii) (i)の配列群のいずれかに相補的な配列、
(iii) (i)又は(ii) の配列と同じタンパク質又はポリペプチドをコードする配列、(iv) (i)、(ii) 及び(iii)の配列のいずれかと実質的に同一な配列、
(v) 表2で定義されるタンパク質の同族体、誘導体又は断片をコードする配列、
を含む又は該配列から成る核酸分子を提供する。
【0021】
本発明の核酸分子はこのような配列及び/又は断片を複数含んでもよい。熟練者は本発明が本明細書に例示されるこれらの特定の新規な核酸分子の新規な変異型を含み得ることを認めるであろう。このような変異型は本発明に包含される。これらは、例えば、株の変異のため、自然界で生じうる。例えば、付加、置換及び/又は欠失が含まれる。さらに、そして特に微生物の発現システムを利用するとき、発現に使用される特定の生物における既知の好まれるコドン用語を利用することにより核酸配列を設計することが望まれる。こうして、合成の変異型又は天然に生じない変異型も本発明の範囲内に含まれる。
【0022】
上で使用された用語「RNA等価物」は所与のRNA分子が所与のDNA分子の配列に相補的な配列(RNAにおける「U」は遺伝子コードにおける「T」に置き換わるという事実を許容して)を有することを示す。
【0023】
相同性又は同一性の程度を決定する目的で核酸配列を比較するとき、BESTFIT 及び GAP(両方ともウィスコンシン・ジェネティクス・コンピューター・グループ(GCG)ソフトウエア・パッケージからのもの)などのプログラムを使用することができる。例えば、BESTFIT は二つの配列を比較し、最も似ている断片の最適整列を作りだす。 GAPは配列をそれらの全長に沿って整列させることができ、いずれかの配列に適当なスペースを挿入することにより最適整列を探し出す。核酸配列の同一性を論ずるとき、本発明の論旨では、この比較はそれらの全長に沿った配列の整列によりなされることが好ましい。
【0024】
実質的な同一性を持つ配列は、該配列と少なくとも50%の配列同一性、望ましくは少なくとも75%の配列同一性、そしてより望ましくは少なくとも90%又は少なくとも95%の配列同一性を持つことが好ましい。場合によっては、この配列同一性は99%又はそれ以上であることもある。
【0025】
この用語「実質的な同一性」は、該配列が先行技術の核酸配列とよりも本明細書に記載の配列のいずれかとより大きな程度の同一性を持つことを示すこくが望ましい。
【0026】
しかし、本発明の核酸配列が新規な遺伝子産物の少なくとも一部をコードする場合、本発明はその範囲内に該遺伝子産物又はその新規な部分をコードする全ての可能な配列を含むことを注意すべきである。
【0027】
この核酸分子は単離された形でも組換え型でもよい。それはベクターに組み込まれてもよい。該ベクターは宿主に組み込まれてもよい。このようなベクター及び適当な宿主は本発明のさらなる側面を形成する。
【0028】
従って、例えば、本明細書で提供される核酸配列に基づくプローブを用いることにより、肺炎連鎖球菌の遺伝子を同定することができる。ついで、それらを制限酵素を用いて切り出し、ベクター中にクローニングすることができる。このベクターを発現用の適当な宿主中に導入することができる。
【0029】
本発明の核酸分子は、該核酸分子の配列の一部に相補的な適当なプローブを使用することにより肺炎連鎖球菌から得ることができる。プローブ用の適当な大きさの断片を調製するために、制限酵素又は音波処理技術を使用することができる。
【0030】
また、必要な核酸配列を増幅するためにPCR技法を使用することができる。従って、本明細書で提供される配列データはPCRで使用する二つのプライマーを設計するために使用することができるため、遺伝子全長又はその断片などの望みの配列を標的化でき、次いで高度で増幅することができる。
【0031】
プライマーは、通常、少なくとも15〜25ヌクレオチド長である。
【0032】
さらなる別法として化学的合成を利用することができる。これは自動化してもよい。比較的短い配列は化学的に合成し、これらを連結してより長い配列を作ることができる。
【0033】
本明細書に記述される細菌性発現系を用いて同定された、肺炎連鎖球菌由来の別のタンパク質群がある。これらは肺炎連鎖球菌由来の既知のタンパク質であって、これまで抗原性タンパク質として同定されたことのないものであった。この群のタンパク質のアミノ酸配列は、それらをコードするDNA配列と共に、表3に示してある。これらのタンパク質、それらの同族体、誘導体及び/又は断片も抗原/免疫原として使用できる。従って、別の側面では、本発明は表1〜表3に示すものから選択される配列を有するタンパク質若しくはポリペプチド、又はその同族体、誘導体及び/若しくは断片の、免疫原/抗原としての使用を提供する。
【0034】
さらなる側面で、本発明は表1〜表3に示す配列群から選択されるタンパク質又はポリペプチド、又はそれらの同族体若しくは誘導体、及び/又はこれらのいずれかの断片の一つ以上を含む免疫原性/抗原性の組成物を提供する。好ましい態様では、この免疫原性/抗原性の組成物はワクチンであり、あるいは診断試験に使用するためのものである。
【0035】
ワクチンの場合には、適当な追加の賦形剤、希釈剤、アジュバントなどを含めることができる。これらの無数の実例が当分野で良く知られている。
【0036】
いわゆるDNAワクチンの調製において表1〜表3に示す核酸配列を利用することも可能である。従って、本発明は本明細書で定義される核酸配列の一つ以上を含むワクチン組成物をも提供する。DNAワクチンは当分野で記述されており(例えば、ドンネリら、Ann. Rev. Immunol., 15: 617-648 (1997)を参照) 、熟練者は本発明に従ってDNAワクチンを製造し使用するため、このような開示された技術を使用することができる。
【0037】
本明細書で既に論じたように、本明細書に記述したタンパク質又はポリペプチド、それらの同族体若しくは誘導体、及び/又はこれらのいずれかの断片は、肺炎連鎖球菌の検出/診断方法において使用することができる。このような方法は患者中に存在しうるこのようなタンパク質に対する抗体の検出に基づくものである。従って、本発明は、本明細書で記述されるようなタンパク質、又はその同族体、誘導体若しくは断片の少なくとも一つと検体試料とを接触させる工程を含む肺炎連鎖球菌の検出/診断方法を提供する。この試料は試験すべき患者から得られる組織試料又は血液若しくは唾液の試料などの生物試料であることが好ましい。
【0038】
別のアプローチにおいて、本明細書に記述されるタンパク質、又はそれらの同族体、誘導体及び/又は断片は、抗体を生産するために使用することができ、得られる抗体は次いで対応する抗原、従って、肺炎連鎖球菌、を検出するために使用することができる。このような抗体は本発明の別の側面を構成する。本発明の範囲内の抗体はモノクローナルでもポリクローナルでもよい。
【0039】
ポリクローナル抗体は、本明細書で記述されるようなタンパク質、又はその同族体、誘導体若しくは断片が適当な動物宿主(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、又はサル)に注射されると、該動物中でその生産が刺激され形成される。必要なときは、該タンパク質と共にアジュバントを投与してもよい。周知のアジュバントにはフロイントのアジュバント(完全又は不完全)や水酸化アルミニウムが含まれる。この抗体は次に本明細書に記述されるタンパク質へのその結合を利用して精製することができる。
【0040】
モノクローナル抗体はハイブリドーマにより生産することができる。これらは、不死的細胞系を形成させるため骨髄腫細胞と望みの抗体を生産する脾臓細胞とを融合させることにより形成できる。こうして、周知のコーラー及びミルシュタイン法(Nature 256 (1975))又はこの方法のその後の変法を使用することができる。
【0041】
特定のポリペプチド/タンパク質に結合するモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を製造する技法は今日では当分野では十分に開発されている。これらは標準的な免疫学の教科書、例えば、ロイトら、Immunology第二版(1989)、チャーチル・リビングストン、 ロンドンで論じられている。
【0042】
完全抗体に加え、本発明はそれらの誘導体であって、本明細書に記述されるタンパク質に結合することができるものを含む。こうして、本発明は抗体の断片及び合成的構築物を含む。抗体断片及び合成的構築物の例は、ダゴールらにより Tibtech 12 372-379 (9月、1994)に記載されている。
【0043】
抗体断片には、例えば、Fab、F(ab’)2 及びFv断片が含まれる。Fab断片(これらはロイトら(上記)で論じられている)。Fv断片は修飾して、一本鎖Fv(scFv)分子として知られる合成構築物を作ることができる。これはVh 領域及びVl 領域に共有結合しているペプチドリンカーを含んでいる。このリンカーはこの分子の安定性に寄与している。使用しうる他の合成構築物にはCDRペプチドが含まれる。これらは抗原結合決定基を含む合成ペプチドである。ペプチド擬似体も使用しうる。これらの分子は通常CDRループの構造を模倣しそして抗原と相互作用する側鎖を含むコンフォメーション的に制限された有機環である。
【0044】
合成構築物はキメラ分子を含む。従って、例えば、それらのヒト化(霊長類化)抗体又は誘導体も本発明の範囲に入る。ヒト化抗体の一例はヒトの枠領域を持つ一方で、げっ歯類の超可変領域を持つ抗体である。キメラ抗体を作る方法は、例えば、モリソンらにより PNAS, 81, 6851-6855 (1984) に、そしてタケダらにより Nature, 314, 452-454 (1985)において議論されている。
【0045】
合成構築物は、抗原結合性に加え幾つかの望ましい性質を持つ分子を提供する付加的部分を含む分子をも含む。例えば、この部分は標識(例えば、蛍光性又は放射性の標識)であってもよい。また、それは薬学的に活性な物質であってもよい。
【0046】
抗体、又はそれらの誘導体は肺炎連鎖球菌の検出/診断に使用することができる。こうして、別の側面では本発明は肺炎連鎖球菌の検出/診断方法であって、本明細書に記述したタンパク質、又はその同族体、誘導体及び/又は断片の一つ以上に結合し得る抗体と検体試料とを接触させる工程を含む方法を提供する。
【0047】
さらに、いわゆる「アフィボディ(Affibodies) 」を利用することもできる。これらは細菌のα−ヘリックス受容体ドメイン(ノードら)のコンビナトリアル・ライブラリーから選択される結合性タンパク質である。こうして、異なる標的タンパク質群に特異的に結合することができる小さなタンパク質ドメインをコンビナトリアル・アプローチを用いて選択することができる。
【0048】
本明細書に記述した核酸配列を肺炎連鎖球菌を検出/診断するために使用することができることも明らかである。従って、さらなる側面において、本発明は、肺炎連鎖球菌を検出/診断する方法であって、本明細書に記述した核酸配列の少なくとも一つと検体試料とを接触させる工程を含む方法を提供する。この試料は検査される患者から得られる組織試料又は血液若しくは唾液の試料などの生物試料が適当である。このような試料は本発明の方法に使用する前に前処理してもよい。こうして、例えば、DNAを抽出するために試料を処理してもよい。次いで、本明細書に記述した核酸配列に基づくDNAプローブ(すなわち、通常かかる配列の断片)を用いて肺炎連鎖球菌由来の核酸を検出することができる。
【0049】
さらなる側面において、本発明は
(a) 患者に、肺炎連鎖球菌に対するワクチン注射をする方法であって、本発明のタンパク質若しくはポリペプチド、又はその誘導体、同族体若しくは断片、又は本発明の免疫原性組成物を患者に投与する工程を含む方法、
(b) 患者に、肺炎連鎖球菌に対するワクチン注射をする方法であって、本明細書で定義される核酸分子を患者に投与する工程を含む方法、
(c) 肺炎連鎖球菌感染を予防又は治療する方法であって、本発明のタンパク質若しくはポリペプチド、又はその誘導体、同族体若しくは断片、又は本発明の免疫原性組成物を患者に投与する工程を含む方法、
(d) 肺炎連鎖球菌感染を予防又は治療する方法であって、本明細書で定義される核酸分子を患者に投与する工程を含む方法、
(e) 肺炎連鎖球菌感染を検出/診断する際に使用するキットであって、本発明のタンパク質若しくはポリペプチド、又はそれらの同族体、誘導体若しくは断片、又は本発明の抗原性組成物の一つ以上を含むキット、
(f) 肺炎連鎖球菌感染を検出/診断する際に使用するキットであって、本明細書で定義した核酸分子の一つ以上を含むキット、
を提供する。
【0050】
本発明者らが一群の重要なタンパク質を同定したとすれば、このようなタンパク質は抗微生物治療のための潜在的な標的である。しかしながら、個々のタンパク質のそれぞれが該微生物の生存にとって必須のものであるか否かを決定することが必要である。こうして、本発明は、本明細書に記述したタンパク質又はポリペプチドが潜在的抗微生物標的に該当するか否かを決定する方法であって、該タンパク質の機能又は発現に拮抗させ、これらを阻害し又はその他の方法で妨害する工程及び肺炎連鎖球菌がなお生存しているか否かを決定する工程を含む方法を提供する。
【0051】
該タンパク質を不活性化する適当な方法は選択的な遺伝子ノックアウトを行うこと、すなわち、該タンパク質の発現を阻止して、これが致死的変化を生ずるか否かを決定することである。このような遺伝子ノックアウトを実施する適当な方法はリーら、P.N.A.S., 94: 13251-13256 (1997)及び コルクマンら、
178: 3736-3741 (1996) に記述されている。
【0052】
最後の側面において、本発明は肺炎連鎖球菌感染の治療又は予防に使用のための医薬の製造における、本発明のタンパク質又はポリペプチドの機能又は発現に拮抗し、これを阻害し又は他の方法で妨害することができる作用物質の使用を提供する。
【0053】
上記のように、本発明者らは表面に結合し、又は分泌若しくは放出(exported) され、従って抗原として使用することができるであろうこれらのタンパク質を同定する手段として細菌の発現系を使用した。
【0054】
タンパク質の分泌/放出に必要な情報は細菌で深く研究されてきた。殆どの場合、タンパク質の放出はそれが細胞質膜上の移動装置に向かっていくための前駆体タンパク質のN末端に存在するシグナルペプチドを必要とする。移動の間又は移動の後、このシグナルペプチドは膜に結合したシグナルペプチダーゼにより除去される。最終的にこのタンパク質の局在(すなわち、それが分泌されるべきか、完全な膜タンパク質であるべきか、又は細胞壁に付着しているべきか)はこのリーダーペプチドそれ自体以外の配列により決定される。
【0055】
本発明者らは表面に局在するタンパク質又は放出されるタンパク質に特に関心がある。何故なら、これらは新規な化学的実体を持つ診断試薬又は治療のための標的としてワクチンに使用するための抗原である可能性が高いからである。従って、本発明者らは放出されるタンパク質をコードする遺伝子を同定し単離することを可能とする、ラクトコッカス・ラクティスにおけるスクリーニング・ベクター・システムを開発した。本発明者らは、所与の肺炎連鎖球菌由来の新規な表面結合タンパク質が如何にして同定されそして特性決定されたかを示す代表的な例を以下に提供する。このスクリーニングベクターには、分泌レポーターとして、それ自体の放出シグナルを欠くスタフィロコッカスのヌクレアーゼ遺伝子 nucが組み込まれている。スタフィロコッカスのヌクレアーゼは天然で分泌される熱安定なモノマーの酵素であって、グラム陽性の細菌の範囲で効率的に発現され分泌される(ショートル、Gene, 22: 181-189 (1983)、コバセヴィックら、J. Bacteriol., 162: 521-528 (1985)、ミラーら、 J. Bacteriol., 169: 3508-3514 (1987)、リーブルら、J. Bacteriol., 174: 1854-1861 (1992)、ルロアールら、 J. Bacteriol., 176: 5135-5139 (1994)、ポケットら、 J. Bacteriol., 180: 1904-1912 (1998)) 。
【0056】
最近、ポケットら((1998)、 上記) は、グラム陽性細菌中の放出されるタンパク質を同定するためのレポーターとして、それ自体のシグナルリーダーを欠く nuc遺伝子を組み込んであるスクリーニングベクターを記述し、そしてそれをエル.ラクティスに適用した。このベクター(pFUN)は、大腸菌及びある種の他のグラム陰性細菌の複製を促進するColE1レプリコンに加え、グラム陽性細菌の広範囲の宿主で機能するpAMβ1レプリコンを含む。このベクター中に存在するユニークなクローニング部位は、クローニングされたゲノムDNA断片とそれ自体のシグナル分泌リーダーを欠いている先端の切られたnuc遺伝子のオープン・リーディング・フレームとの間の転写用及び翻訳用の融合体を作成するために使用することができる。このnuc遺伝子は理想的なレポーター遺伝子となる。何故なら、ヌクレアーゼの分泌が簡単で感度の高いプレート試験で容易に検出することができるからである。すなわち、このヌクレアーゼを分泌する組換体コロニーはピンクのハローを形成するのに対し、対照のコロニーは白色のままである(ショートル、(11983)、上記、ルロアールら、(1994)、上記)。
【0057】
こうして、本発明を、本明細書に記述したタンパク質、ポリペプチド及び核酸配列が如何にして抗原性標的として同定されたかの詳細を提供する下記の代表的な例を参照してここに説明する。
【0058】
本発明者らは、3種のレポーターベクターの構築及び分泌されたタンパク質又は表面結合タンパク質をコードする肺炎連鎖球菌由来のゲノムDNA断片を同定し単離するためのそれらのエル.ラクティスにおける使用をここに記述する。
【0059】
本発明は実施例を参照してここに記述するが、これらの実施例は本発明を如何なる意味でも制限するものと解すべきでない。実施例では図を参照する。
【実施例】
【0060】
実施例1
(i)pTREP1−nucシリーズのレポーターベクターの構築
(a)発現プラスミドpTREP1の構築
pTREP1プラスミドは高コピー数(細胞当たり40〜80)のθ−複製グラム陽性プラスミドであり、それ自体が先に発表されたpIL253プラスミドの誘導体であるpTREXプラスミドの誘導体である。pIL253はpAMβ1(シモン及びショパン、Biochimie, 70: 559-567 (1988))の広範囲グラム陽性宿主レプリコンを組み込んでおり、エル.ラクティスの性因子により非可動性である。pIL253もpIL501により例示される親の接合性プラスミドによる転移又は効率的動態化に必要なtra機能を欠いている。エンテロコッカスのpAMβ1レプリコンはクロストリディウム・アセトブチニクム並びにストレプトコッカス、ラクトバチルス及びバチルス種を含む種々の種に既に転移されており(オウルトラム及びクレンハンマー、FEMS Microbiological Letters, 27: 129-134 (1985)、ギブソンら、 (1979)、ルブランクら、Proceedings of the National Academy of Science USA, 75: 3484-3487 (1978)、その潜在的広範囲宿主有用性が示されている。このpTREP1プラスミドは一つの転写ベクター構築物である。
【0061】
該pTREXベクターは次のようにして構築された。RNA安定化配列と考えられる配列、翻訳開始領域(TIR)、標的遺伝子及び転写終結区の挿入のための多重クローニング部位を含む人工的DNA断片を、2個の相補的オリゴヌクレオチドをアニーリングしそしてTflDNAポリメラーゼで伸長することにより作成した。このセンス及びアンチ−センスのオリゴヌクレオチドには、クローニングを容易にするためそれらの5’末端にNheI及びBamHIに対する認識部位をそれぞれ含めた。この断片を、EcoRI部位とHindIII 部位の間にクローニングされたpLET1(ウエルズら、J. Appl. Bacteriol., 74: 629-636 (1993) 由来のT7発現カセットを含むpUC19の誘導体であるpUC19NT7のXbaI部位とBamHI部位の間にクローニングした。得られた構築物をpUCLEXと命名した。このpUCLEXの完全な発現カセットを次にHindIII で切断して除去し、平滑末端化した後EcoRIで切断し、その後pIL253のEcoRI部位とSacI(平滑末端化した)部位の間にクローニングしてベクターpTREXを作成した(ウエルズ及びショフィールド、Current advances in metabolism, genetics and applications-NATO ASI Series, H 98: 37-62 (1996))。この推定的RNA安定化配列及びTIRは、大腸菌T7バクテリオファージ配列に由来し、そしてラクトバチルス・ラクティスのリボゾームの16sRNAに対するシャイン・ダルガーノ(SD)モチーフの相補性を増強するために一つのヌクレオチド位置で修飾されている(ショフィールドら、私信、ケンブリッジ大学病理学部)。
【0062】
プロモーター活性を示すラクトバチルス・ラクティスMG1363の染色体DNA断片は後にP7と命名したが、これを発現カセット中に存在するEcoRI部位とBglIIの間にクローニングして、pTREX7を作成した。この活性なプロモーター領域はプロモーター・プローブ・ベクターであるpSB292を用いて先に単離されていた(ウォーターフィールドら、Gene, 165: 9-15 (1995)) 。このプロモーター断片を Vent DNAポリメラーゼを用い製造者に従ってPCRにより増幅した。
【0063】
pTREP1ベクターは次に下記のようにして構築した。転写終結区、前向きpUC配列決定用プライマー、多重クローニング部位を持つプロモーター及び普遍的翻訳停止配列を含む人工的DNA断片を、二つの部分的に重なり合う相補的な合成オリゴヌクレオチドを一緒にアニーリングし、製造者の指示に従ってシークエナーゼで伸長することにより作成した。このセンス及びアンチ−センス(pTREPF 及びpTREPR )のオリゴヌクレオチドには、pTREX7中へのクローニングを容易にするためそれらの5’末端にEcoRV及びBamHIに対する認識部位をそれぞれ含めた。その転写停止区はバチルスのペニシリナーゼ遺伝子の転写停止区であり、これはラクトコッカスで有効であることが示されていた(ジョスら、Applied and Environmental Microbiology, 50: 540-542 (1985)) 。これは、pTREXベクター中の標的遺伝子の発現が漏出性であると観察され、起点領域におけるクリプティックプロモーター活性の結果であると考えられる(ショフィールドら、私信、ケンブリッジ大学、病理学部)ので、必要であると考えられた。前向きpUC配列決定プライマーはクローニングされたDNA断片の直接配列決定を可能とするために含められた。3種の異なるフレームにおいて一つの停止コドンをコードする前記翻訳停止配列はベクター遺伝子とクローニングされたDNA断片の間の翻訳の融合を阻止するために含められた。このpTREX7ベクターを先ずEcoRIで消化し、そして製造者の指示に従ってT4DNAポリメラーゼ(NEB)の5’−3’ポリメラーゼ活性を用いて平滑末端化した。EcoRIで消化し平滑末端化されたpTREX7ベクターを次いでBglIIで消化してP7プロモーターを除去した。アニーリングされた合成オリゴヌクレオチドから誘導された人工的DNA断片を次にEcoRVとBamHIで消化し、EcoRI(平滑末端化)−BglII消化されたpTREX7ベクター中にクローニングしてpTREPを作成した。P1と命名されたラクトコッカス・ラクティスMG1363の染色体プロモーターを次にpTREP発現カセット中に存在するEcoRI部位とBglII部位の間にクローニングしてpTREP1を形成させた。このプロモーターもウォーターフィールドら、(1995)、 上記によりプロモータープローブベクターpSB292を用いて単離され、特性決定された。このP1プロモーター断片は初めに製造者の指示に従って vent DNAポリメラーゼを用いてPCRにより増幅し、EcoRI−BglIIDNA断片としてpTREX中にクローニングした。この断片を含むEcoRI−BglII P1プロモーターを制限酵素消化によりpTREX1から切り取り、pTREP中にクローニングするために使用した(ショフィールドら、私信、ケンブリッジ大学、病理学部)。
【0064】
(b)エス.アウレウスのnuc遺伝子のPCR増幅
エス.アウレウスのnuc遺伝子のヌクレオチド配列(EMBLデータベース受託番号V01281)を使用してPCR増幅のための合成オリゴヌクレオチドプライマーを設計した。これらのプライマーは、エスナーゼ(Snase)Bと命名された(ショートル、(1983)、 上記)分泌プロぺプチドのN末端19−21アミノ酸のプロテアーゼによる切断により形成されるnucAと命名されたnuc遺伝子の成熟型を増幅するように設計された。3種のセンスプライマー(nucS1,nucS2及びnucS3、補遺1)を設計した。そのそれぞれはnuc遺伝子に関して異なる読み取り枠にあるEcoRV又はSmaIに対する平滑末端化された制限酵素切断部位を持っている。BamHIとBglIIで切断されたpTREP1中へのクローニングを容易にするため、BglIIとBamHIがセンス及びアンチ−センスプライマーの5’末端に付加的にそれぞれ組み込まれた。全てのプライマーの配列は補遺1に示してある。ヌクレアーゼ遺伝子(NucA)の成熟型をコードする3種のnuc遺伝子DNA断片を、センスプライマーのそれぞれを上記のアンチ−センスプライマーと組み合わせて使用してPCRにより増幅した。このnuc遺伝子断片を、エス.アウレウスのゲノムDNA鋳型、Vent DNAポリメラーゼ(NEB)及び製造者により推奨された条件を用いてPCRにより増幅した。最初の変性工程93℃で2分の後、30サイクルの93℃で45秒の変性、50℃で45秒のアニーリング及び73℃で1分の伸長を行い、最後に73℃で5分間の伸長を行った。このPCR増幅産物をウィザード・クリーン・アップ・カラム(プロメガ)を用いて精製し、組み込まれなかったヌクレオチド及びプライマーを除去した。
【0065】
(c)pTREP1−nucベクターの構築
セクションbで記述した精製されたnuc遺伝子断片を、標準的条件下でBglII及びBamHIで消化し、BamHI及びBglIIで切断し脱リン酸化したpTREP1に連結してpTREP1−nuc1、pTREP1−nuc2及びpTREP1−nuc3シリーズのレポーターベクターを作成した。一般的分子生物学の技法は製造者により供給された試薬及び緩衝液を用いるか、又は標準的条件を用いて実施した(サムブルック及びマニアティス、(1989)、 上記)。pTREP1−nucベクター類のそれぞれで、その発現カセットは転写停止区、ラクトコッカスのプロモーターP1、nuc遺伝子の成熟型と第二の転写停止区が後ろに続くユニークなクローニング部位(BglII、EcoRV又はSmaI)を含む。nuc遺伝子の翻訳及び分泌に必要な配列はこの構築において慎重に排除されたことに注意されたい。このような要素は、nuc遺伝子の直ぐ上流に存在するユニークな制限部位中にクローニングされ得る適切に消化された外来DNA断片(標的となる細菌を代表する)によってのみ提供され得る。
【0066】
プロモーターを持っている点で、このpTREP1−nucベクターはポケットら(1998)、上記により記述されたpFUNベクターと異なる。これは、エル.ラクティス中のNuc活性を直接スクリーニングすることによりエル.ラクティスの放出されたタンパク質を同定するために使用された。pFUNベクターはnucのオープンリーディングフレームの上流にプロモーターを含まないから、クローニングされたゲノムDNA断片はNucの翻訳開始及び分泌に必要な要素の他に転写のためのシグナルをも供給せねばならない。この制約は、プロモーターから遠位にある遺伝子、例えばポリシストロンのオペロン内にある遺伝子の単離を阻害しうる。さらに、他の種の細菌由来のプロモーターがエル.ラクティスで認識され機能するという保証はあり得ない。あるプロモーターは天然の宿主中で厳格な制御を受けるがエル.ラクティス中ではそうでない。反対に、pTREP1−nucシリーズのベクター中のP1プロモーターの存在は、プロモーターを持たないDNA断片(又はエル.ラクティス中で活性でないプロモーター配列を含むDNA断片)がそれでも転写されることを保証する。
【0067】
(d)肺炎連鎖球菌の分泌タンパク質のスクリーニング
肺炎連鎖球菌から単離されたゲノムDNAを制限酵素Tru9Iで消化した。配列5’−TTAA−3’を認識するこの酵素を用いたのは、それがA/Tリッチなゲノムを効率的に切断しそして好ましいサイズ範囲内の(通常、平均して0.5〜1.0kb)無作為なゲノムDNA断片を作成することができるからである。このサイズ範囲が好ましいのは、新規な遺伝子配列を転写するためにP1プロモーターを利用し得る確率が増加するからである。しかしながら、ストレプトコッカスのプロモーターはエル.ラクティスで認識される可能性が高いから、P1プロモーターは全ての場合に必要ではないかも知れない。異なるサイズ範囲のDNA断片を肺炎連鎖球菌ゲノムDNAのTru9I部分消化物から精製した。Tru9I制限酵素はスタガード末端を作るから、このDNA断片はEcoRV又はSmaI切断されたpTREP1−nucベクターに連結する前に平滑末端化されねばならなかった。これは、クレノウ酵素の5’−3’ポリメラーゼ活性を用いる部分的充填酵素反応により達成された。簡単に述べると、Tru9Iで消化されたDNAを、T4DNAリガーゼ緩衝液(ニューイングランド・バイオラブズ、NEB)(1×)及び必要なdNTPs、この実験ではdATPとdTTPのそれぞれ33μMを補充した溶液(通常、総量10−20μl)中に溶解した。クレノウ酵素を添加し(DNAのμg当たり、1ユニットのクレノウ酵素(NEB))そしてこの反応物を25℃で15分間インキュベートした。この混合物を75℃で20分間インキュベートすることにより反応を停止させた。次いで、EcoRV又はSmaIで消化したpTREP−nucプラスミドDNAを添加した(通常、200−400ngの間)。この混合物に次に400ユニットのT4DNAリガーゼ(NEB)及びT4DNAリガーゼ緩衝液(1×)を補充し、16℃で一晩インキュベートした。連結混合物を100%エタノール及び1/10容量の3M酢酸ナトリウム(pH5.2)中で直接沈澱させ、そしてエル.ラクティスMG1363(ガッソン、1983)を形質転換するために使用した。また、pTREP−nucベクターの遺伝子クローニング部位は、例えばSau3AIで消化されたゲノムDNA断片をクローニングするために使用することができるBglII部位をも含んでいる。
【0068】
エル.ラクティス形質転換体のコロニーはブレイン・ハート・インフュージョン・アガー上で生育させ、ヌクレアーゼ分泌性(Nuc+ )クローンはトルイジン・ブルーDNA−アガー(0.05MトリスpH9.0、10gの寒天/リットル、10gのNaCl/リットル、0.1mMのCaCl2 、0.03%w/vの鮭精子DNA及び90mgのトルイジン・ブルーO色素)の重層により、ほぼショートル、1983、 上記、及びルロアールら、1994、 上記により記述されたように検出した。次いで、これらのプレートを37℃で2時間までインキュベートした。ヌクレアーゼ分泌性のクローンは容易に同定可能なピンクのハローを形成する。Nuc+ 組換え体エル.ラクティスのクローンからプラスミドDNAを単離し、DNA挿入体の配列を、補遺1に記述した該DNA挿入体を通して直接配列決定するNucSeq配列決定用プライマーを用いて一方の鎖について決定した。
【0069】
肺炎連鎖球菌から放出タンパク質(Exported proteins)をコードする遺伝子の単離
肺炎連鎖球菌において放出されるタンパク質をコードすると推定される多数の遺伝子配列を、ヌクレアーゼ・スクリーニング系を用いて同定した。これらについて、人工産物を除去するためにさらに分析した。このスクリーニング系を用いて同定された配列を幾つかのパラメータを用いて分析した。
【0070】
1. 推定される表面タンパク質はすべてソフトウエア・プログラムのシーケンチャー(ジーン・コーズ・コーポレーション)及びDNAストライダー(マーク、Nucleic Acids Res., 16: 1829-1836 (1988)) を用いてリーダー/シグナルぺプチド配列を分析した。細菌のシグナルぺプチド配列は共通のデザインを共有する。これらは疎水性残基領域(中央部分−h領域)の直ぐ前に短い陽電荷を帯びたN−末端(N領域)及びその後ろに開裂部分を含む極性のより高いC−末端部分(c−領域)を持つという特徴がある。推定的タンパク質のヒドロパシー(hydropathy) な輪郭作成を可能にしそしてリーダーぺプチド配列を代表する極めて特徴的な疎水性部分(h−領域)を容易に同定することができるコンピューター・ソフトウエアが入手可能である。さらに、これらの配列は、推定的nucレポーター融合タンパク質の翻訳開始に必要な潜在的リボソーム結合部位(シャイン−ダルガーノモチーフ)の有無もチェックされた。
【0071】
2. 推定的表面タンパク質配列はすべて、公表されたデータベース(スイスプロット及びゲンバンク翻訳を含むOWL−タンパク質)を用いてタンパク質配列/DNA配列の全てとも比較された。これは何らかの機能が確認されている既知の遺伝子又は遺伝子の同族体と類似の配列を同定することを可能にする。従って、LEEP系を用いて同定された遺伝子の一部の機能を予想し、そして表面結合タンパク質の遺伝子配列を同定し単離するためにこの系を使用することができることを疑問の余地なく確立することが可能となった。本発明者らはこれらのタンパク質が実際に表面に関係しており人工産物ではないことを確認することもできる。このLEEP系はワクチン及び治療用の新規な遺伝子標的を同定するために用いられてきた。
【0072】
3. 遺伝子を同定されたタンパク質の一部は典型的なリーダーぺプチド配列を持っておらず、データベースではいかなるDNA配列/タンパク質配列とも相同性を示さなかった。実際、これらのタンパク質は本発明者らのスクリーニング方法の第1の利点、すなわち配列の相同性探索に基づくこれまでに記述されたすべてのスクリーニング方法又はアプローチでは見逃されてきた可能性のある非典型的な表面関連タンパク質の単離を示すものといえる。
【0073】
全ての場合に、最初は部分的遺伝子配列しか得られなかった。全長遺伝子はTIGR肺炎連鎖球菌のデータベース(www@tigr.org)を参照することにより全ての場合に得られた。こうして、最初に得られた部分的配列をこのデータベースと適合させることにより、本発明者らは全長の遺伝子配列を同定することができた。このようにして、本明細書に記述したように、3群の遺伝子を明確に同定した。すなわち、これまで同定されなかった肺炎連鎖球菌タンパク質をコードする遺伝子の群、様々な起源からの既知タンパク質と一部の相同性を示す第2の群、及び既知の肺炎連鎖球菌タンパク質であるが抗原として知られていなかったものをコードする第3の群である。
【0074】
実施例2:ワクチン試行
DNAワクチンベクターとしてのpcDNA3.1+
pcDNA3.1+
DNAワクチンベクターとして使用するために選ばれたベクターはpcDNA3.1(インビトロゲン)(実際にはpcDNA3.1+、ここではpcDNA3.1と呼ぶが、全ての場合に、その前向きが使用された。)であった。このベクターは、文献では(ザングら、クラール及びスプリッター、アンダーソンら)病原体から防御するワクチン候補遺伝子を試験するための宿主ベクターとして広く採用され成功してきた。このベクターは哺乳類細胞において高いレベルで安定なかつ複製しない一過性の発現を狙って設計された。pcDNA3.1は大腸菌で簡便に高コピー数の複製及び増殖を可能にするColE1複製起点を含む。これは今度は多数の遺伝子の迅速かつ効率的なクローニング及び試験を可能にする。このpcDNA3.1ベクターは多数のクローニング部位を有し、そしてクローンの選択を助けるためのアンピシリン耐性をコードする遺伝子及び組換えタンパク質の効率的な高レベル発現を可能にするヒト・サイトメガロウイルス(CMV)の直初期プロモーター/エンハンサーをも含む。このCMVプロモーターは筋肉細胞及び免疫(抗原提示)細胞の両者を含む広範囲の細胞型での強力なウイルスプロモーターである。イン・ビボでの防御的応答を作りだす場合にどの細胞型が最も重要であるかに関して未だ分かっていないから、これは最適免疫応答のために重要である。多重クローニング部位の上流のT7プロモーターは目的の修飾された挿入体を効率的に発現させ、そしてセンス方向にあるクローニングされた遺伝子のイン・ビトロ転写を可能とする。
【0075】
ザング,ディー.,ヤング,エックス.,ベリー,ジェイ.,シェン,シー.,マックラーティ,ジー.及びブルンハム,アール.シー.(1997) 「主要な外膜タンパク質遺伝子を用いるDNAワクチン注射はクラミディア・トラコマティス( マウスの肺炎) 感染にたいする免疫獲得を誘発する。」, Infection and Immunity, 176, 1035-40。
【0076】
クラール,イー.及びスプリッター,ジー.エイ.(1997)「ブルセラ・アボルツスのリボゾームL7/L12遺伝子の核酸ワクチン注射は免疫応答を誘発する。」 Vaccine, 15. 1851-57 。
【0077】
アンダーソン,アール.,ガオ,エックス.−エム.,パパコンスタンチノポウロウ,エイ.,ロバーツ,エム.及びドウガン,ジー.(1996)「破傷風毒素の断片CをコードするDNAで免疫化した後のマウスにおける免疫応答。」Infection and Immunity, 64, 3168-3173 。
【0078】
DNAワクチンの調製
オリゴヌクレオチドプライマーは、LEEP系を用いて誘導された目的の個々の遺伝子のそれぞれに対して設計された。各遺伝子は徹底的に検討し、可能な場合は、プライマーは遺伝子タンパク質の成熟部分のみをコードすると考えられる遺伝子の部分を標的とするように設計された。標的遺伝子タンパク質の成熟部分のみをコードするこれらの配列を発現することは哺乳類細胞で発現するときその正確な折り畳みを容易にするであろうと期待された。例えば、大部分の場合に、プライマーは、pcDNA3.1発現ベクター中にクローニングされる最終増幅産物には推定的N末端シグナルぺプチド配列が含まれないように、設計された。このシグナルぺプチドはポリペプチド前駆体を、そこで通常それがシグナルぺプチダーゼI(又はリポタンパク質のときはシグナルぺプチダーゼII) により切り離されるタンパク質放出経路を経て細胞膜へと向かわせる。従って、このシグナルぺプチドは成熟タンパク質が細菌の表面で提示されようと分泌されようと該成熟タンパク質の如何なる部分をも構成しない。N末端リーダーぺプチド配列が直ちに明らかでなかったときは、プライマーはクローニング用及び最終的にpcDNA3.1発現用該遺伝子配列の全体を標的とするように設計された。
【0079】
そうは言うものの、しかし、タンパク質の他の付加的な特徴も可溶性タンパク質の発現及び提示に影響しうる。目的のタンパク質をコードする遺伝子におけるこのような特徴をコードするDNA配列はオリゴヌクレオチドの設計中に排除された。これらの特徴には下記のものが含まれる。
1. LPXTG細胞壁結合モチーフ。
2. LXXCリポプロテイン付着部位。
3. 疎水性C末端ドメイン。
4. N末端シグナルぺプチド又はLXXCが存在しなかった場合、開始コドンは除外された。
5. 疎水性C末端ドメイン又はLPXTGモチーフが存在しなかった場合、停止コドンは除去された。
【0080】
目的の各遺伝子に対し適切なPCRプライマーを設計し、そしてこれらのプライマーを設計するとき上記の特徴をコードする領域のいずれか及び全てを該遺伝子から除去した。これらのプライマーは、適当な制限酵素部位及びその後に保存されたコザックヌクレオチド配列(多くの場合(例えばID59などの特別の場合を除き)GCCACCが用いられた。このコザック配列は真核性リボゾームによる開始配列の認識を容易にする。)及び目的遺伝子の挿入体の上流にATG開始コドンを持つように設計された。例えば、BamHI部位を用いる前向きプライマーはGCGGGATCCGCCACCATGで始まり、その後に目的の遺伝子の5’末端の小さな部分が続く。その逆向きプライマーは前向きプライマーと矛盾しないように設計され、多くの場合、5’末端にNotI制限部位(この部位はTTGCGGCCGCである)を持つように設計された(例えばXhoI部位がNotIの代わりに使用されるID59の特別な例を除き)。
【0081】
PCRプライマー
下記のPCRプライマーを設計し、先端が切り離された目的の遺伝子を増幅するために使用した。
ID5
前向きプライマー
5’CGGATCCGCCACCATGGGTCTAATTGAAGACTTAAAAAATCAA3’ 逆向きプライマー5’TTGCGGCCGCCAATGCTAGACTAAACACAAGACTCA3’ID59
前向きプライマー
5’CGCGGATCCATGAAAAAAATCTATTCATTTTTAGCA3’逆向きプライマー
5’CCCTCGAGGGCTACTTCCGATACATTTTAAACTGTAGG3’
ID51
前向きプライマー
5’CGGATCCGCCACCATGAGTCATGTCGCTGCAAATG3’
逆向きプライマー
5’TTGCGGCCGCATACCAAACGCTGACATCTACG3’
ID29
前向きプライマー
5’CGGATCCGCCACCATGCAAAAAGAGCGGTATGGTTATG3’
逆向きプライマー
5’TTGCGGCCGCACCCCCATTCTTAATCCCTT3’
ID50
前向きプライマー
5’CGGATCCGCCACCATGGAGGTATGTGAAATGTCACGTAAA3’
逆向きプライマー
5’TTGCGGCCGCTTTTACAAAGTCAAGCAAAGCC3’
【0082】
クローニング
上述の両脇に挟む特徴を持った挿入体がナショナル・コレクション・オブ・タイプ・カルチャーから得たタイプ4の肺炎連鎖球菌株11886から単離されたゲノムDNAを鋳型にしてPCRを用いて増幅された。このPCR産物を、適当な制限酵素で切断し、通常の分子生物学的技法を用いてpcDNA3.1の多重クローニング部位中にクローニングした。目的の遺伝子の適切にマップ上に位置付けられたクローンを培養し、プラスミド・メガ・キット(クイアゲン)を用いてプラスミドを大規模に(>1.5mg)単離した。遺伝子のクローニング及び維持の成功は、各構築物の大規模調製のそれぞれの制限地図の作成及び5’クローニング連結により約700塩基対の配列決定により確認した。
【0083】
株の有効性の確認
肺炎連鎖球菌ゲノムの配列決定がなされた株であるタイプ4の株をクローニング法及び攻撃法に用いた。タイプ4肺炎連鎖球菌株NCTC11886の均一な実験室株の凍結乾燥アンプルをナショナル・コレクション・オブ・タイプ・ストレインズから入手した。このアンプルを開き、培養物を0.5mlのトリプティックソイブロス(0.5%グルコース、5%血液)で再懸濁した。この懸濁液を10mlのトリプティック・ソイ・ブロス(0.5%グルコース、5%血液)中に継代培養し、37℃で一晩静置してインキュベートした。この培養を5%血液寒天プレートに塗布して汚染をチェックしそして生存を確認し、血液寒天斜面上に塗布した。培養物の残りは20%グリセロールストックを作るために使用した。前記斜面をタイプ4血清型を確認する場所であるパブリック・ヘルス・ラボラトリー・サービスに送付した。
【0084】
NCTC11886のグリセロールストックを5%血液寒天プレート上に塗布し、37℃でCO2 ガス槽中で一晩インキュベートした。新鮮な塗布菌を作り、オプトヒン感受性を確認した。
【0085】
肺炎球菌による攻撃
タイプ4の肺炎連鎖球菌の標準接種原は、肺炎球菌の培養1×をマウスを通して継代培養し、感染した動物の血液から収穫し、そして凍結前にブロス中約109 cfu/mlの予め定めておいた生存菌数まで成長させることにより調製し、そして凍結した。この調製はフローチャートにより以下に示す。
肺炎球菌の培養を塗布しそして同一性を確認する

上のプレート上のコロニー4〜5個の一晩培養を生育させる

肺炎球菌の動物継代培養
(採取された心臓採血の腹腔内注射)

動物継代培養した肺炎球菌から一晩培養を生育させる

動物継代培養の一晩培養から一日培養(予め定めておいた光学密度まで)を
生育させそして−70℃で凍結させる。これは標準的最低値である。

標準接種原の1本の部分標本を解凍して生菌数を計測する。

効果的な投与量を決定するため標準接種原を用いる
(ビルレンステストと呼ばれる)

その後の攻撃は全て−標準接種原を有効な投与量まで使用する。
標準接種原の部分標本をPBSで500倍に希釈してマウスに接種するために使用した。
マウスはハロタンを用いて軽く麻酔させ、次いで各マウスの鼻に1.4×105 cfuの肺炎球菌の投与量を適用した。摂取はマウスの正常な呼吸により促進された。マウスは放置して元に回復させた。
【0086】
肺炎連鎖球菌ワクチンの試行
マウスにおけるワクチンの試行は6週齢CBA/caマウス(ハルラン、UK)にDNAを投与することにより行われた。ワクチン注射されるマウスを6群に分け、各群は目的の特定の標的遺伝子配列を含む組換えpcDNA3.1+プラスミドDNAで免疫化された。ダルベッコのPBS(シグマ)中総量100μgのDNAを両脚の前脛骨筋中に筋肉内注射した(各脚に50μl)。4週間後に同じ操作で増強を行った。比較のため、すべてのワクチン試行に対照群を含めた。これらの対照群は、ワクチン注射されなかった動物か又は上記の同じタイムコースにより非組換えpcDNA3.1+DNA(偽ワクチン注射)のみを投与されたものであった。第2の免疫化の後3週間目に、全てのマウス群に対し致死量の肺炎連鎖球菌血清型4(株NCTC11886)を用いて鼻孔内経由で攻撃した。投与された細菌の数は5%血液寒天プレート上に接種原の希釈系列を塗布することによりモニターした。鼻孔内免疫化についての問題は、一部のマウスで鼻孔から接種原が泡になって排出されることであり、これは結果の表で注意し、計算の際に考慮した。あまりはっきりしない問題としては、各マウスに対する接種原の一部の量がのみ込まれることである。この量は各マウスで同じであり、接種の過程で平均化されると推定される。しかし、使用された試料の量が少なく、一部の実験ではこの問題は無視できない効果を持つこともありうる。攻撃の後に生き残っているマウスはすべて、感染後3又は4日目に殺した。感染プロセスの間、肺炎連鎖球菌に誘発された疾病の発症と関連する症状の形成について、攻撃されたマウスを監視した。典型的な症状としては、適当な順序で立毛、猫背の増大、眼からの分泌、嗜眠の増加、及び動きへの抵抗が挙げられる。後者の症状は、さらなる苦痛を防止するためマウスを取り除く状態である通常瀕死の状態の形成と一致した。これらのマウスは死、そして統計的分析のための生存期間を決定するために用いられる除去の時間に極めて近いように思われた。マウスの死が見出されたとき、その生存時間はマウスが生きて監視された時の最後の時とされた。
【0087】
結果の解釈
陽性の結果は、クローニングされそして上記の攻撃実験に使用されたいずれかのDNA配列で、その攻撃に対する防御を与えたものとされた。防御は、統計的に有意な防御(95%信頼レベルまで(p<0.05)を与えたDNA配列そしてマン−ホイットニーを用い有意ぎりぎりか又は有意に近かったDNA配列又は幾つかの防御的特徴、例えば1匹以上の範囲外のマウスがいる、又は最初の死までの時間が増加したこと、を示すDNA配列とされた。これらの結果の明白性が鼻孔内投与感染と関連する問題により曇らされると考えるとき、限界的な又は非−有意性の結果を潜在的陽性と考えることは許容されうることである。
【0088】
結果
試行1〜6(図1を参照)
【0089】
【表1】

【0090】
*−投与したとき泡となったので、接種原を全て受けてはいない可能性がある。T−感染の症状を示さず実験の終了時点で終了させた。
括弧内の数−不完全投与と考え、生存期間を無視した。
p値1はワクチン注射を受けていない対照と比較した有意検定を指す。
p値2はpcDNA3.1+をワクチン注射された対照と比較した有意検定を指す。
【0091】
統計的分析
試行1−他の群はいずれも対照よりも有意に長い生存期間を示さなかった。ワクチン注射されなかった対照群とpcDNA3.1の対照群の生存期間は有意に異ならなかった。ID5からのマウスの1匹は範囲外の結果であり、そしてID5の平均生存期間は延びたが有意に延びたわけではなかった。
試行2−ID59でワクチン注射された群はワクチン注射されなかった群よりも有意に長い生存期間を持った。
試行5−ID59でワクチン注射された群は、再び、対照よりも平均してほぼ10時間長く生存した。しかし、この結果は統計的には有意でなかった。
試行6−ID51でワクチン注射された群はワクチン注射されなかった対照よりも有意に高い生存期間を持たなかった(p=<36.0)が、ワクチン注射された群には2匹の範囲外のマウスがいた。
【0092】
ワクチン試行7及び8(図2を参照)
【0093】
【表2】

【0094】
*−投与したとき泡となったので、接種原を全て受けてはいない可能性がある。T−感染の症状を示さず実験の終了時点で終了させた。
括弧内の数−不完全投与と考え、生存期間を無視した。
p値1はワクチン注射を受けていない対照と比較した有意検定を指す。
【0095】
統計的分析
試行7−ID29をワクチン注射した群は最初の死までの時間の延長を示した。
試行8−ID50をワクチン注射した群はワクチン注射をしなかった対照よりも有意に長く生存した。
【0096】
【表3】

【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
【表6】

【0100】
【表7】

【0101】
【表8】

【0102】
【表9】

【0103】
【表10】

【0104】
【表11】

【0105】
【表12】

【0106】
【表13】

【0107】
【表14】

【0108】
【表15】

【0109】
【表16】

【0110】
【表17】

【0111】
【表18】

【0112】
【表19】

【0113】
【表20】

【0114】
【表21】

【0115】
【表22】

【0116】
【表23】

【0117】
【表24】

【0118】
【表25】

【0119】
【表26】

【0120】
【表27】

【0121】
【表28】

【0122】
【表29】

【0123】
【表30】

【0124】
【表31】

【0125】
【表32】

【0126】
【表33】

【0127】
【表34】

【0128】
【表35】

【0129】
【表36】

【0130】
【表37】

【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】図1は幾つかのDNAワクチンの試行の結果を示す。
【図2】図2はさらなるDNAワクチン試行の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表1に示される配列から選択される配列を有する肺炎連鎖球菌のタンパク質又はポリペプチド。
【請求項2】
表2に示される配列から選択される配列を有する肺炎連鎖球菌のタンパク質又はポリペプチド。
【請求項3】
実質的に純粋な形で提供される請求項1又は請求項2記載のタンパク質又はポリペプチド。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のタンパク質又はポリペプチドと実質的に同一のタンパク質又はポリペプチド。
【請求項5】
請求項1〜請求項4いずれか1項に記載のタンパク質又はポリペプチドの同族体又は誘導体。
【請求項6】
表1〜表3で定義されるタンパク質又はポリペプチドの抗原性及び/又は免疫原性断片。
【請求項7】
下記の1配列
(i) 表1に記載されるDNA配列群又はそれらのRNA等価物のいずれか、
(ii) (i)の配列のいずれかに相補的な配列、
(iii) (i)又は(ii) の配列と同じタンパク質又はポリペプチドをコードする配列、(iv) (i)、(ii) 及び (iii)の配列群のいずれかと実質的に同一な配列、
(v) 表1で定義されるタンパク質の同族体、誘導体又は断片をコードする配列、
を含む又は該配列から成る核酸分子。
【請求項8】
下記の1配列
(i) 表2に記載されるDNA配列群又はそれらのRNA等価物のいずれか、
(ii) (i)の配列のいずれかに相補的な配列、
(iii) (i)又は(ii) の配列と同じタンパク質又はポリペプチドをコードする配列、(iv) (i)、(ii) 及び (iii)の配列群のいずれかと実質的に同一な配列、
(v) 表2で定義されるタンパク質の同族体、誘導体又は断片をコードする配列、
を含む又は該配列から成る核酸分子。
【請求項9】
表1〜表3に示される配列群、又はその同族体、誘導体及び/若しくは断片から選択される1配列を有するタンパク質又はポリペプチドの、免疫原及び/又は抗原としての使用。
【請求項10】
一以上のタンパク質若しくはポリペプチドを含む免疫原性及び/又は抗原性の組成物であって、該タンパク質又はポリペプチドの配列が表1〜表3に示される配列、又はそれらの同族体、誘導体及び/又はそれらのいずれかの断片から選択されるものである組成物。
【請求項11】
ワクチン又は診断試験に使用するためのものである請求項10記載の免疫原性及び/又は抗原性組成物。
【請求項12】
賦形剤、希釈剤、アジュバントなどから選択される一以上の追加成分を含む請求項11記載のワクチン。
【請求項13】
表1〜表3で定義される一以上の核酸配列を含むワクチン組成物。
【請求項14】
表1〜表3で定義される少なくとも一つのタンパク質若しくはポリペプチド、又はそれらの同族体、誘導体若しくは断片と被験試料を接触させる工程を含む、肺炎連鎖球菌の検出/診断方法。
【請求項15】
表1〜表3で定義されるタンパク質若しくはポリペプチド、又はそれらの同族体、誘導体若しくは断片に結合することができる抗体。
【請求項16】
モノクローナル抗体である請求項15記載の抗体。
【請求項17】
被験試料を請求項15又は請求項16に記載の抗体の少なくとも一つと接触させる工程を含む、肺炎連鎖球菌の検出/診断方法。
【請求項18】
被験試料を請求項7又は請求項8に記載の核酸配列の少なくとも一つと接触させる工程を含む、肺炎連鎖球菌の検出/診断方法。
【請求項19】
表1〜表3に記載のタンパク質又はポリペプチドが潜在的抗微生物標的であるか否かを決定する方法であって、該タンパク質又はポリペプチドを不活性化する工程及び肺炎連鎖球菌がなお生きているかどうかを決定する工程を含む方法。
【請求項20】
肺炎連鎖球菌感染の治療又は予防に使用するための医薬の製造における、表1〜表3に記載のタンパク質又はポリペプチドの機能又は発現に拮抗し、これを阻害し若しくはその他の方法で妨害することができる作用物質の使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−22856(P2008−22856A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221409(P2007−221409)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【分割の表示】特願2000−562520(P2000−562520)の分割
【原出願日】平成11年7月27日(1999.7.27)
【出願人】(501035239)
【Fターム(参考)】