胃がんのリンパ節転移判定方法
【課題】胃がんのリンパ節転移判定方法、判定装置及び試薬キットを提供する。
【解決手段】胃がんの患者から採取されたリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを、定量RT−PCR又は定量RT−LAMP法により増幅・定量する工程と、前記mRNAの定量値に基づいて前記胃がんのリンパ節への転移を判定する工程と、を含む胃がんのリンパ節転移判定方法、及び該方法に基づく判定装置、並びに該方法に使用される試薬キット。
【解決手段】胃がんの患者から採取されたリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを、定量RT−PCR又は定量RT−LAMP法により増幅・定量する工程と、前記mRNAの定量値に基づいて前記胃がんのリンパ節への転移を判定する工程と、を含む胃がんのリンパ節転移判定方法、及び該方法に基づく判定装置、並びに該方法に使用される試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃がんのリンパ節転移判定方法、判定装置、及びそれに使用される試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年臨床診断の分野において遺伝子検査が急速に普及している。遺伝子検査の一例として、がんのリンパ節転移診断がある。がん細胞は、原発巣を離れ、血管やリンパ管を経由して全身に転移する。がんの手術では、できるだけ確実に病巣を取り除くことが必要であるため、転移を正確に検出し、転移の度合いに応じて適切な処置をすることが要求される。このため、術中のがん細胞のリンパ節転移診断は極めて重要な意義を有している。がんのリンパ節転移診断の一手法として、正常細胞には発現しないか若しくは発現量が低く、がん細胞には多く発現するタンパク質の核酸を標的核酸として検出する方法がある。近年の遺伝子解析技術の発展により、生体から切除したリンパ節組織に含まれる標的核酸を増幅し、検出することで、効果的にがん診断を行うことが可能になってきている。
【0003】
このような、遺伝子検査による特定の組織へのがん転移を検査するために、現在、LAMP法(loop-mediated isothermal amplification method)やPCR(polymerase chain reaction)法などを用いたがんの遺伝子検査の研究が盛んに行われるようになっている。この遺伝子検査は、組織や細胞などに含まれるがんマーカー(例えば、がん細胞に特異的に発現するタンパク質のmRNAなど)を検出することにより行うことができる。
【0004】
がんマーカー(以下、単にマーカーともいう)の一つであるサイトケラチン19(CK19)は、乳がんのリンパ節転移を判定するためのマーカーとして有用であることが知られている。CK19は、正常なリンパ節での発現量とリンパ節に転移してきた乳がん細胞での発現量とに有意な差が認められる分子である。
【0005】
胃がんは、中国、日本、韓国などアジアや南米に患者が多い。日本における胃がんは、2003年のがんの死亡者数の統計では、男性では肺がんに次いで第2位、女性では大腸がんに次いで第2位である。また、胃がんは自覚症状が少ないため、早期発見が難しく、進行してリンパ節等にも転移することが多い。
【0006】
従来、胃がんのリンパ節転移を判定するためのマーカーとしては、サイトケラチン20や癌胎児性抗原が用いられている。しかしながら、胃がんの遺伝子検査に関する報告は少なく、胃がんのリンパ節転移を判定するための、さらなる方法の開発が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、胃がんのリンパ節転移判定方法、判定装置及び試薬キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の実施形態は、胃がんの転移が疑われるリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを定量する工程と、得られた前記mRNAの定量値に基づいて胃がんのリンパ節への転移を判定する工程と、を含む胃がんのリンパ節転移判定方法である。
本発明の第二の実施形態は、胃がんの転移が疑われるリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを定量する定量手段と、得られたmRNAの定量値に基づいて胃がんのリンパ節への転移を判定する判定手段と、を備える胃がんのリンパ節転移判定装置である。
本発明の第三の実施形態は、検出試料を調製するためのリンパ節組織の前処理液と、サイトケラチン19を検出し得るプライマを含むプライマ溶液と、核酸増幅法を実施するための酵素を含む酵素溶液と、を有する胃がんのリンパ節転移判定用試薬キットである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、胃がんのリンパ節転移判定方法、判定装置及び試薬キットを提供することができる。これにより、効果的な胃がんの遺伝子検査を行うことができる。さらに、本発明によれば、胃がんが転移したリンパ節組織における転移巣の転移レベルを判定することができる。転移巣レベルを判定することにより、手術の要否決定のための指標、あるいは術式を決定するための指標を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一実施形態において、転移レベルは、胃がんが転移したリンパ節組織において、転移の程度または転移巣の状態を反映するものであれば特に限定されない。転移レベルの指標は、たとえば、転移巣のサイズまたは転移巣におけるがん細胞数として表される。
【0011】
リンパ節における転移は、大きさに基づいてマイクロメタスタシス(微小転移)とマクロメタスタシスに分類される。転移巣が長径2mm未満のとき、マイクロメタスタシス(Micro metastasis:微小転移)と呼ばれる。転移巣が長径2mm以上のとき、マクロメタスタシス(Macro metastasis)と呼ばれる。さらに、0.2mm未満の転移巣は、遊離がん細胞(Isolated Tumor Cell:ITC)と呼ばれる。一般に、マクロメタスタシスと診断されると、転移巣の摘出が必要とされる。マイクロメタスタシスは、転移巣がそれ以上大きくなるかが判断できない状態とされる。本発明の一実施形態において、マイクロメタスタシスとマクロメタスタシスとを識別可能な値に閾値を設定することができる。また、転移巣の大きさに応じて複数の閾値を設定してもよい。
【0012】
本発明の一実施形態において、用いられる検体としては、胃がんの患者から採取されたリンパ節組織を含む試料を例示することができる。より具体的な検体としては、生検の目的で採取された胃がん近傍のリンパ節組織が挙げられる。
【0013】
検出試料としては、検体中のサイトケラチン19のmRNAを定量できるものであれば、特に制限されるものではない。例えば検体と前処理液とを混合し、前処理液中の検体に対して化学的及び/又は物理的処理を行うことによって、検体に含まれる細胞中のmRNAを液中に移行(可溶化)させ、mRNAを得る。この溶液を検出試料とすることができる。
【0014】
前処理液としては、検体に含まれる細胞中のmRNAを可溶化できるものであれば、特に限定されない。前処理液としては、例えば、緩衝液等が挙げられる。緩衝液は、RNAの分解を抑制するために酸性であることが好ましく、より具体的にはpH2.5〜5.0が好ましく、特に3.0〜4.0が好ましい。pHをこの範囲に保つために、公知の緩衝剤を用いることができ、具体的な緩衝剤としてはグリシン−塩酸緩衝剤などが挙げられる。緩衝剤の濃度は、緩衝液のpHを上記の範囲に保つことができるものであれば特に限定されない。
【0015】
また、前処理液には界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤によって細胞膜や核膜が損傷するため、この損傷を通して細胞中の核酸が溶液中に移行しやすくなる。このような作用を有するものであれば界面活性剤の種類は特に限定されないが、非イオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤がよりこのましい。
特に、次のような一般式:
R1−R2−(CH2CH2O)n−H
(ここで、R1は炭素数10〜22のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、イソオクチル基;R2は−O−又は−(C6H4)−O−;nは8〜120の整数)で表されるポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤が好適である。例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテルなどを用いることができる。具体的には、Brij35(ポリオキシエチレン(35)ラウリルエーテル)などが好適である。前処理液中の界面活性剤の濃度は0.1〜6%(v/v)が好ましく、より好ましくは1〜5%(v/v)である。
【0016】
また、mRNAの定量を後述の核酸増幅法により行う場合は、前処理液にジメチルスルホキシド(DMSO)を含有させることが好ましい。リンパ節には、核酸増幅における酵素反応を阻害する物質(阻害物質)が含まれていることがあるが、DMSOの作用によってこの阻害物質の影響を効果的に低減することができる。また、DMSOには核酸増幅酵素の活性の低下を抑制する効果もある。前処理液中のDMSOの濃度としては、1〜50%(v/v)が好ましく、5〜30%(v/v)がより好ましく、10〜25%(v/v)が最も好ましい。
【0017】
上記のような前処理液を用いることにより、市販の精製キットなどを用いて一般的に行われる核酸の抽出・精製を行うことなく、簡便かつ短時間で検出試料を調製することができる。
【0018】
上記の検体と前処理液との混合割合は、特に限定されないが、検体1mgに対して0.0001〜0.005mL程度の前処理液を用いることができる。上記の混合は、特に限定されないが、例えば室温で検体と前処理液とが充分に混合される程度の時間行うことができる。
【0019】
検体と前処理液の混合において、検体を前処理液中で破砕するのが好ましい。破砕する方法としては、ホモジナイザーによるホモジナイズ、凍結融解などが挙げられる。ホモジナイザーとしては、当該分野において通常用いられるものを用いることができ、例えばワーリングブレンダー、ポッター・エルベージェム型ホモジナイザー、ポリトロン型ホモジナイザー、ダウンス型ホモジナイザー、フレンチプレス、超音波破砕機などが挙げられる。破砕の条件は、用いる方法及び装置に応じて適宜設定され得る。
【0020】
上記の方法により破砕された破砕液を、遠心分離、フィルターろ過、カラムクロマトグラフィーなどの通常の精製方法を用いて粗精製することにより検出試料を調製することができる。また、検出試料の状態に応じて、核酸抽出法などの方法によりさらに精製してもよい。
【0021】
本発明の一実施形態において、検出試料中のサイトケラチン19のmRNAの定量は、たとえば、核酸増幅法やDNAチップ等を用いて公知の方法により行うことができる。特に核酸増幅法を用いることが好ましい。
【0022】
サイトケラチン19のmRNAの定量に用いることのできるDNAチップとしては、サイトケラチン19のcDNAとハイブリダイズ可能なポリデオキシリボヌクレオチド及び/又はその断片を固定化した基盤を用いることができる。DNAチップを用いたRNAの検出は、一般的に用いられる公知の方法により行うことができる。例えば、以下のようにして行うことができる。先ず、検出用試料中のmRNAの3'末端に存在するポリA配列に結合するプライマーを用いて逆転写反応を行う。逆転写反応の際に例えばCy3やCy5などの蛍光物質で標識されたヌクレオチドを用いることにより、蛍光標識されたcDNAが合成される。これを上記のポリデオキシリボヌクレオチドを固定化した基盤と接触させ、このポリヌクレオチドと標識されたcDNAとの二本鎖を形成させる。ついで、cDNAの蛍光を測定することにより、サイトケラチン19のmRNAを定量することができる。
【0023】
サイトケラチン19のmRNAの定量に用いることのできる核酸増幅法としては、核酸増幅反応の前に逆転写反応を含む核酸増幅法、例えば、RT−PCR(Reverse Transcription PCR)やRT−LAMP(Reverse Transcription LAMP:LAMP法については米国特許6410278号公報参照)等の公知の核酸増幅方法を用いることができる。より具体的には、上記の検出試料と、サイトケラチン19を検出し得るプライマと、核酸増幅法を実施するための酵素とを含む反応液を調製し、得られた反応液を用いて核酸増幅を行い、増幅されたcDNAを測定することができる。
【0024】
本発明の一実施形態において、プライマは、プライマ溶液として1つの試薬として提供されてもよい。プライマ溶液は、サイトケラチン19を検出するためのプライマを含有する溶液であれば、特に制限されるものではない。プライマ溶液としては、溶液中でプライマが安定であり、保存が可能であるものが好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態において、核酸増幅法を実施するための酵素は、酵素溶液として1つの試薬として提供されてもよい。酵素溶液としては、核酸増幅法を実施することができるものであれば、特に制限されるものではない。酵素溶液としては、たとえば、RNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)及びDNA依存性DNAポリメラーゼ(以下、単にDNAポリメラーゼともいう)をそれぞれ単独に独立して調製された酵素溶液、又は逆転写酵素及びDNAポリメラーゼを共に含有する酵素溶液を用いることができる。特に、逆転写酵素及びDNAポリメラーゼを共に含む酵素溶液が、反応液の調製における簡便性の観点から望ましい。
【0026】
逆転写反応及び核酸増幅反応は、プライマの配列等に応じて適宜条件を変更することができる。逆転写反応及び核酸増幅反応の条件は、例えばSambrook, J. et al. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載されたものを用いることができる。
【0027】
サイトケラチン19を検出するためのプライマとしては、サイトケラチン19のmRNAまたはそのcDNAを増幅することができるポリヌクレオチドが挙げられる。その配列は特に限定されないが、具体的には以下の配列番号で示されるプライマが挙げられる。尚、配列番号1及び2に示されるプライマはRT−PCRに好適なプライマのセットであり、配列番号5〜10に示されるプライマはRT−LAMPに好適なプライマのセットである。
<RT−PCRのプライマ>
配列番号1:5'-CAGATCGAAGGCCTGAAGGA-3'
配列番号2:5'- CTTGGCCCCTCAGCGTACT-3'
<RT−LAMPのプライマ>
配列番号5:5'-GGAGTTCTCAATGGTGGCACCAACTACTACACGACCATCCA-3'
配列番号6:5'-GTCCTGCAGATCGACAACGCCTCCGTCTCAAACTTGGTTCG-3'
配列番号7:5'-TGGTACCAGAAGCAGGGG-3'
配列番号8:5'-GTTGATGTCGGCCTCCACG-3'
配列番号9:5'-AGAATCTTGTCCCGCAGG-3'
配列番号10:5'-CGTCTGGCTGCAGATGA-3'
【0028】
上記のプライマは、当該技術において通常用いられる技術により修飾されていてもよい。上記プライマの標識は、放射活性元素又は非放射活性分子を用いて行うことができる。用いられる放射活性同位体としては、32P、33P、35S、3H又は125Iを挙げることができる。非放射活性物質は、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン又はジゴキシゲニンのようなリガンド、ハプテン、色素及び放射線発光性、化学発光性、生物発光性、蛍光又はリン光性の試薬のような発光性試薬から選択される。
【0029】
逆転写活性を有する酵素及びDNAポリメラーゼは、当該技術においてよく知られたものを用いることができる。逆転写活性を有する酵素としては、AMV (Avian Myeloblastosis Virus) 逆転写酵素、M-MLV (Molony Murine Leukemia Virus) 逆転写酵素などが挙げられる。また、DNAポリメラーゼとしては、Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、Bst DNAポリメラーゼなどを用いることができる。
【0030】
上記の核酸増幅により生成した核酸増幅産物を測定することにより、サイトケラチン19のmRNAを定量することができる。この際、定量RT−PCR(Quantitative Reverse Transcription-PCR)や定量RT−LAMP(Quantitative Reverse Transcription-LAMP)等が好ましく用いられる。これらの方法によると、核酸(cDNA)増幅に伴って反応液の光学的状態(濁度、吸光度、蛍光強度など)が変化するため、これをリアルタイムに測定することにより、サイトケラチン19のmRNAの定量を行うことができる。
【0031】
RT−PCRの具体例としては、TaqMan(登録商標)法や、核酸増幅反応前の反応液にSYBR Greenを予め添加しておき、増幅反応中にcDNAの増幅に伴って増加する蛍光強度をリアルタイムに測定するSYBR Green法など、公知のものを用いることができる。サイトケラチン19のmRNAの定量値は、反応液の蛍光強度が所定の値に達するまでのサイクル数に基づいて算出することができる。
【0032】
RT−LAMPを用いる場合、cDNAの増幅に伴い副産物としてピロリン酸マグネシウムが多量に生成される。このピロリン酸マグネシウムは不溶性であるため、ピロリン酸マグネシウムの増加に伴って反応液が白濁する。よって、反応液の濁度(又は吸光度)をリアルタイムで光学的に測定することにより、サイトケラチン19のmRNAを定量することができる。また、RT−LAMP法においても、上記SYBR Green法を用いることができる。サイトケラチン19のmRNAの定量値は、たとえば、反応液の濁度、吸光度、蛍光強度などが所定の値に達するまでの時間に基づいて算出することができる。
【0033】
本発明の一実施形態において、胃がんのリンパ節への転移を判定する工程としては、上述した検出試料中のサイトケラチン19のmRNAの定量値に基づいて、絶対的又は相対的に胃がんのリンパ節への転移を判定できるものであれば、特に制限されるものではないが、サイトケラチン19のmRNAの定量値と閾値とを比較するのが好ましい。
【0034】
サイトケラチン19のmRNAの定量値は、標準化の処理の有無に関わらず、胃がんのリンパ節転移の判定工程に用いることができるが、標準化を行わず、サイトケラチン19のmRNAの絶対量を、定量値として用いることが好ましい。
【0035】
ここで、標準化とは、上記のサイトケラチン19のmRNAの定量で得られた定量値を、胃がんの患者から採取されたリンパ節組織を含む試料、即ち検体の量に応じた値に換算することをいう。より具体的には、上記のサイトケラチン19のmRNAの定量で得られた定量値を、検体の量あるいは該量を反映する情報、好ましくは内部標準、より好ましくはハウスキーピング遺伝子のmRNAの量あるいは該量を反映する情報で除すること等を示す。
【0036】
ハウスキーピング遺伝子とは、多くの組織や細胞に一定量発現していると一般に考えられている遺伝子である。ハウスキーピング遺伝子としては、例えば、β−アクチン、GAPDH(グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、β2−マイクログロブリン、HPRT1(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1)などの遺伝子が挙げられる。また、ハウスキーピング遺伝子のmRNAの量を反映する情報とは、サイトケラチン19と同様の方法でハウスキーピング遺伝子の定量を行ったときに得られる情報のことである。
【0037】
本発明の一実施形態において、検体のハウスキーピング遺伝子のmRNAの測定値は、標準化のためではなく、正確に核酸増幅反応が行われたか否かを判定するためのコントロールとして用いることもできる。ハウスキーピング遺伝子は殆どの種類の細胞で発現が認められるため、ハウスキーピング遺伝子のmRNAが検出される場合は、がんマーカーの核酸増幅反応も適切に行われたと考えられる。一方、ハウスキーピング遺伝子のmRNAが検出されない場合は、たとえば酵素の失活により、核酸増幅反応が正確に行われなかった可能性が考えられる。
【0038】
本発明の一実施形態において、サイトケラチン19のmRNAの絶対量とは、mRNAの定量に付された検出試料中における、サイトケラチン19のmRNAの絶対量又は該絶対量を反映する情報を示す。絶対量を求める際には、上述のような標準化を行なわない。このような、該絶対量を定量値として用い、予め決められた閾値と直接比較すると、標準化を行ったものより正確に胃がんのリンパ節転移を判定することができる。
【0039】
従来行われている組織診によるがん転移判定は、組織切片を作成し、染色等の処理を行って検鏡することにより行われる。しかし、検鏡による組織診では組織の一部しか検査できないため、がん細胞を含まない面で切片を作製するとがん細胞を見落とす可能性がある。一方、分子検査によるがん転移判定では、切除した組織試料全体(あるいは切片作製後の余剰の組織試料)を用いることができるため、一部の断面のみで検査する組織診とは違い見落としの可能性が低い。
【0040】
本発明の一実施形態において、閾値は、胃がんのリンパ節転移が確認された陽性検体に含まれるmRNAの定量値以下であって、胃がんのリンパ節転移がないことが確認された陰性検体に含まれるmRNAの定量値よりも高い値に設定することができる。複数の陽性検体のmRNA定量値と複数の陰性検体のmRNA定量値とを予め測定し、最も高確率に陽性検体と陰性検体とを区別できる値を閾値として設定することが好ましい。より具体的な閾値としては、サイトケラチン19のmRNAの定量に定量RT−PCRを用いた場合は、8〜690コピーが好ましく、定量RT−LAMPを用いた場合は、10〜270コピーが好ましい。
【0041】
本発明の判定方法の判定工程は、サイトケラチン19のmRNAの定量値に基づいて前記胃がんのリンパ節への転移を判定する。また、サイトケラチン19のmRNAの定量値と閾値とを比較し、mRNAの定量値が閾値よりも高い場合はリンパ節転移が陽性であり、閾値よりも低い場合は陰性であると判定することができる。このような判定結果を得ることにより、術式、切除範囲、術後の治療方針などの決定の指標となり得る。
【0042】
mRNAの定量値は、がん転移レベルに応じて、転移巣の大きさや転移巣に含まれるがん細胞数に相関する。そのため、上記したようにmRNAの定量値に基づき、リンパ節における転移巣の定量的な測定や段階的な測定を行うことができる。段階的な測定を行う場合は、mRNAの定量値と、予め設定された複数の閾値とが比較される。この場合、少なくとも1つの閾値(第1の閾値)は、がん陰性およびがん陽性を識別可能に設定されることが好ましい。これらの閾値は、がんや腫瘍マーカーの種類に応じて適宜設定される。また、転移巣を定量的に測定する場合でも、この第1の閾値を用いて陰性と陽性とを識別し、転移陽性のものに関してがん病巣の定量的測定を行うことが好ましい。
【0043】
本発明の一実施形態において、第1の閾値は、がん細胞の存在が確認されたリンパ節(陽性検体)に含まれるmRNAの定量値以下であって、がん細胞が存在しないことが確認されたリンパ節(陰性検体)に含まれるmNRAの定量値よりも高い値に設定することができる。複数の陽性検体のmRNA定量値と複数の陰性検体のmRNA定量値とを予め測定し、最も高確率に陽性検体と陰性検体とを区別できる値を閾値として設定することが好ましい。
【0044】
上記のような段階的な情報を得る場合は、第1の閾値の他にさらに第2の閾値が用いられる。たとえば、上記第1の閾値と、弱陽性と強陽性とを識別可能な第2の閾値とを予め設定する。mRNAの定量値が第1の閾値未満であった場合、実質的にがん病巣が存在しない(即ち、がん陰性)と判定することができる。また、mRNAの定量値が第1の閾値以上、第2の閾値未満であった場合は、サイズの比較的小さいがん病巣が存在する(がん弱陽性)と判定することができる。さらに、mRNAの定量値が第2の閾値以上であった場合は、サイズの比較的大きいがん病巣が存在する(がん強陽性)と判定することができる。
【0045】
リンパ節における転移は、大きさに基づいてマイクロメタスタシス(微小転移)とマクロメタスタシスに分類される。転移巣が長径2mm未満のとき、マイクロメタスタシス(Micro metastasis:微小転移)と呼ばれる。転移巣が長径2mm以上のとき、マクロメタスタシス(Macro metastasis)と呼ばれる。さらに、0.2mm未満の転移巣は、遊離がん細胞(Isolated Tumor Cell:ITC)と呼ばれる。一般に、マクロメタスタシスと診断されると、転移巣の摘出が必要とされる。マイクロメタスタシスは、転移巣がそれ以上大きくなるかが判断できない状態とされる。本発明の一実施形態において、上記の第2の閾値は、マイクロメタスタシスとマクロメタスタシスとを識別可能な値に設定することができる。また、第2の閾値以外にも転移巣の大きさに応じて複数の閾値を設定してもよい。
【0046】
サイトケラチン19のmRNAの発現量を測定することにより、リンパ節中のがん細胞の数やがん病巣のサイズ(面積、体積、質量等)を測定することができる。すなわち、リンパ節におけるサイトケラチン19のmRNA発現量は、胃がん患者のリンパ節摘出範囲を決定するための指標となり得る。たとえば、検査したリンパ節に大きな転移巣がなければ、それ以上範囲を広げて摘出する必要はない。検査したリンパ節に大きな転移巣があれば、さらに広範囲のリンパ節の摘出を行う必要がある。現在の病理診断では、2mmのマクロメタスタシスを確実に検出できるのは、理屈上、リンパ節径が4mm以下であり、それ以上の大きさのリンパ節では転移巣を見落とす可能性がある。病理診断と本発明の方法を併用すれば、転移巣を見落とす可能性を低下させることができる。
【0047】
本発明の一実施形態である胃がんのリンパ節転移判定装置は、胃がんの患者から採取されたリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを定量する定量手段と、前記mRNAの定量値に基づいて胃がんのリンパ節への転移を判定する判定手段を備えている。
【0048】
本発明の一実施形態において、定量手段は、胃がんの患者から採取されたリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを定量することができるものであれば、特に限定されない。定量手段としては、LAMP法やPCR法により増幅された核酸を定量し得る核酸増幅測定装置が好ましい。該核酸増幅測定装置は、検出試料中のサイトケラチン19のmRNAをプライマと核酸増幅酵素とにより増幅して得られる核酸増幅産物を測定する測定部を備える。
【0049】
本発明の一実施形態において、判定手段は、上記の定量手段で定量されたサイトケラチン19のmRNAの定量値に基づいて胃がんのリンパ節への転移を、絶対的又は相対的に判定できるものであれば、特に限定されない。判定手段としては、定量値と予め決定された閾値とを比較することによりがんの転移を判定するものが好ましい。定量値は、検出用試料中の前記サイトケラチン19のmRNAの絶対量であることが、特に好ましい。また、この装置は、得られた判定結果を表示する表示部を備えていてもよい。
本発明の一実施形態において、装置は、リンパ節組織における転移巣の転移レベルを判定するための指標を得る手段を備える。転移レベルの指標を得る手段は、がんの転移を判定するがん転移判定手段と別の手段であってもよいし、双方の機能を備える1つの手段であってもよい。
【0050】
胃がんのリンパ節転移判定装置の一実施形態を、図1〜3に示す。図1は、本発明の一実施形態による判定装置の全体構成を示した斜視図である。図2は、図1に示した定量手段としての核酸増幅測定装置の全体構成を示した斜視図である。図3は、図2の核酸増幅測定装置の概略平面図である。
【0051】
本発明のある実施形態の判定装置は、図1に示すように、核酸増幅測定装置101と、該核酸増幅測定装置と有線又は無線による通信ができるように接続された判定手段としてのパーソナルコンピュータ(PC)102とにより構成され得る。
【0052】
核酸増幅測定装置101は、図2に示すように分注機構部10と、試料セット部20と、チップセット部30と、チップ廃棄部40と、5つの反応検出ブロック50aからなる反応検出部50と、分注機構部10をX軸方向及びY軸方向に移送するための移送部60とを含んでいる。
【0053】
分注機構部10は、図2に示すように、移送部60によりX軸方向及びY軸方向(水平方向)に移動されるアーム部11と、アーム部11に対してそれぞれ独立してZ軸方向(垂直方向)に移動可能な2連(2本)のシリンジ部12とを含んでいる。
【0054】
図2及び図3に示すように、試料セット部20には、装置の手前から順番に、10個の試料容器セット孔21a〜21jと、1つの酵素試薬容器セット孔21k及び1つのプライマ試薬容器セット孔21lとが設けられている。また、10個の試料容器セット孔21a〜21jは、5行2列に配列するように設けられている。そして、試料容器セット孔21c及び21dと、試料容器セット孔21e及び21fと、試料容器セット孔21g及び21hと、試料容器セット孔21i及び21jとは、それぞれ、装置の奥側から順に、試料セット位置1、試料セット位置2、試料セット位置3及び試料セット位置4に設けられている。
【0055】
本実施形態では、正面左側の試料容器セット孔21c、21e、21g及び21iには、予め切除生体組織(リンパ節)を処理(ホモジナイズ、ろ過など)して作製された可溶化抽出液(検出試料)が収容された試料容器22がセットされる。正面右側の試料容器セット孔21d、21f、21h及び21jには、上記した試料を10倍に希釈した希釈試料が収容された試料容器23がセットされる。
【0056】
試料容器セット孔21aには、増幅するべき核酸が正常に増幅することを確認するための陽性コントロールが収容された容器24が載置されるとともに、試料容器セット孔21bには、増幅するべきでない核酸が正常に増幅しないことを確認するための陰性コントロールを収容した容器25がセットされる。
【0057】
酵素試薬容器セット孔21k及びプライマ試薬容器セット孔21lには、それぞれ、サイトケラチン19のmRNAに対応するcDNA(以下、単にCK19ともいう)を増幅するための核酸増幅酵素試薬が収容された酵素試薬容器26と、CK19のプライマ試薬が収容されたプライマ試薬容器27とがセットされている。
【0058】
反応検出部50の各反応検出ブロック50aは、図2及び図3に示すように、反応部51と、2つの濁度検出部52と、蓋閉機構部53(図2参照)とから構成されている。各反応検出ブロック50aに設けられる反応部51には、図3に示すように、検出セル54をセットするための2つの検出セルセット孔51aが設けられている。各反応検出ブロック50aは、装置の奥側から順に、セルセット位置1、セルセット位置2、セルセット位置3、セルセット位置4及びセルセット位置5に配置されている。
【0059】
また、濁度検出部52は、反応部51の一方の側面側に配置された基板55aに取り付けられた465nmの波長を有する青色LEDからなるLED光源部52aと、反応部51の他方の側面側に配置された基板55bに取り付けられたフォトダイオード受光部52bとによって構成されている。各反応検出ブロック50aには、1つのLED光源部52aと1つのフォトダイオード受光部52bとからなる1組の濁度検出部52が2組ずつ配置されている。
【0060】
また、検出セル54は、試料を収容するため2つのセル部54aと、2つのセル部54aを塞ぐ2つの蓋部54bとを有している。
【0061】
また、移送部60は、図2に示すように、分注機構部10をY軸方向に移送するための直動ガイド61及びボールネジ62と、ボールネジ62を駆動するためのステッピングモータ63と、分注機構部10をX軸方向に移送するための直動ガイド64及びボールネジ65と、ボールネジ65を駆動するためのステッピングモータ66とを含んでいる。なお、分注機構部10のX軸方向及びY軸方向への移送は、ステッピングモータ63及び66により、それぞれ、ボールネジ62及び65を回転させることにより行う。
【0062】
パーソナルコンピュータ102は、図1に示すように、入力機器のキーボード102a及びマウス102bと、モニタからなる表示部102cと、試料の測定結果を分析するCPU102dとを含む。
【0063】
次に、図1〜図3を参照して、本実施形態による判定装置1の動作について説明する。この実施形態では、上記したように、胃がん手術での切除リンパ節組織中に存在するサイトケラチン19のmRNAをLAMP法により増幅させ、増幅に伴い発生するピロリン酸マグネシウムによる白濁による濁度の変化を測定することによりサイトケラチン19のmRNAを定量し、定量値を閾値と比較して該リンパ節へのがんの転移を判定する装置について説明する。
【0064】
予め切除組織を処理(たとえば、ホモジナイズ、ろ過など)して作製された可溶化抽出液(以下、試料という)が収容された試料容器22を、試料容器セット孔21c〜21jにセットする(図2及び図3参照)。陽性コントロールが収容された容器24及び陰性コントロールが収容された容器25を、それぞれ、試料容器セット孔21a及び21b(図3参照)にセットする。酵素試薬容器セット孔21k及びプライマ試薬容器セット孔21lには、それぞれ、CK19の増幅のための核酸増幅酵素試薬が収容された酵素試薬容器26と、CK19の増幅のためのプライマ試薬が収容されたプライマ試薬容器27とをセットする(図3参照)。チップセット部30には、それぞれ36本の使い捨て用のピペットチップ31が収納された2つのラック32を設置する。
【0065】
核酸増幅測定装置101の動作がスタートすると、まず、図2に示した移送部60により分注機構部10のアーム部11が初期位置からチップセット部30に移動され、チップセット部30において、分注機構部10の2つのシリンジ部12が下方向に移動される。これにより、2つのシリンジ部12のノズル部の先端が2つのピペットチップ31の上部開口部内に圧入されるので、2つのシリンジ部12のノズル部の先端にピペットチップ31が自動的に装着される。そして、2つのシリンジ部12が上方に移動された後、分注機構部10のアーム部11は、CK19のプライマ試薬が収容されたプライマ試薬容器27の上方に向かってX軸方向に移動される。そして、プライマ試薬容器27の上方に位置する一方のシリンジ部12が下方向に移動されてプライマ試薬が吸引された後、その一方のシリンジ部12が上方向に移動される。その後、他方のシリンジ部12が同じプライマ試薬容器27の上方に位置するまで、移送部60により分注機構部10のアーム部11がY軸方向に移動される。そして、他方のシリンジ部12が下方向に移動されて同じプライマ試薬容器27からプライマ試薬が吸引された後、その他方のシリンジ部12が上方向に移動される。このようにして、シリンジ部12に装着される2つのピペットチップ31により、プライマ試薬容器27内のCK19のプライマ試薬が吸引される。
【0066】
プライマ試薬を吸引した2つのシリンジ部12が上方に移動された後、分注機構部10のアーム部11は、移送部60により、最も奥側(装置正面奥側)であるセルセット位置1に位置する反応検出ブロック50aの上方に移動される。そして、最も奥側の反応検出ブロック50aにおいて、2つのシリンジ部12が下方向に移動されることにより、2つのシリンジ部12に装着された2つのピペットチップ31が、それぞれ、検出セル54の2つのセル部54a内に挿入される。そして、シリンジ部12を用いて、CK19のプライマ試薬がそれぞれ2つのセル部54aに吐出される。シリンジ部12は、プライマ試薬を吐出したのち、上方に移動される。
【0067】
プライマ試薬を吐出した2つのシリンジ部12が上方に移動された後、分注機構部10のアーム部11は、移送部60によりチップ廃棄部40の上方に向かってX軸方向に移動される。そして、チップ廃棄部40において、ピペットチップ31の廃棄が行われる。具体的には、2つのシリンジ部12が下方向に移動されることにより、チップ廃棄部40の2つのチップ廃棄孔40a(図3参照)内にピペットチップ31が挿入される。この状態で、分注機構部10のアーム部11が移送部60によりY軸方向に移動されることにより、ピペットチップ31が溝部40bの下に移動される。そして、2つのシリンジ部12が上方向に移動されることにより、ピペットチップ31の上面のつば部は、溝部40bの両側の下面に当接してその下面から下方向の力を受けるので、ピペットチップ31が2つのシリンジ部12のノズル部から自動的に脱離される。これにより、ピペットチップ31がチップ廃棄部40に廃棄される。
【0068】
次に、同様の動作により、酵素試薬容器26から酵素試薬が上記のセル部54aに吐出され、さらに同様の動作により、試料容器22及び試料容器23から試料が上記のセル部54aに吐出される。
【0069】
そして、上記のセル部54a内へのプライマ試薬、酵素試薬、試料の吐出が行われた後、検出セル54の蓋部54bの蓋閉め動作が行われる。この蓋閉め動作が完了した後、検出セル54内の液温を約20℃から約65℃に加温することにより、RT−LAMP反応によりCK19のmRNAに対応するcDNAを増幅する。そして、増幅に伴い生成されるピロリン酸マグネシウムによる白濁を比濁法により検出する。具体的には、図3に示したLED光源部52a及びフォトダイオード受光部52bを用いて、増幅反応時の検出セル54内の濁度を検出(モニタリング)することによって、濁度の検出を行う。
【0070】
試料の濁度データは、核酸増幅測定装置101からパーソナルコンピュータ102へリアルタイムに送信される。パーソナルコンピュータ102のCPU102dは、試料の濁度データを予め決められた閾値と比較することにより胃がんのリンパ節転移を判定する。ここで同時に、リンパ節への転移巣のサイズを判定してもよい。
【0071】
ここで、図4を参照して、パーソナルコンピュータ102のCPU102dの処理について説明する。まず、ステップS1において、CPU102dは、核酸増幅測定装置101から試料の濁度データを受信する。次に、ステップS2において、CPU102dは、該濁度データと予め設定された閾値とを比較することにより、胃がんのリンパ節転移が陽性であるか、陰性であるかを判定する。そして、ステップS3において、CPU102dは、ステップS2において判定された結果を表示部102cに送信する。
【実施例】
【0072】
本実施例は、胃がんの患者から採取されたリンパ節組織中のCK19のmRNAの定量することによる、胃がんのリンパ節転移判定方法について説明する。
【0073】
実施例1(定量RT−PCRによる胃がんのリンパ節転移判定)
(1)検出試料の調製
胃がんの転移が組織学的に認められたリンパ節(陽性リンパ節)10個及び胃がんの転移が組織学的に認められなかったリンパ節(陰性リンパ節)10個を用いて、下記のようにして検出試料を調製した。
まず、各リンパ節(約50〜600mg/個)に、DMSOを含むpH3.4の処理液(200mMグリシン−HCl、5% Brij35(ポリオキシエチレン(35)ラウリルエーテル、SIGMA社製)及び20% DMSO(和光純薬)を含む)4mLを添加し、ブレンダーでホモジナイズした。得られたホモジネートを10,000×g、室温で1分間遠心分離し、上清200μLからRNeasy Miniキット(キアゲン社製、カタログ番号74014)を用いてRNAを抽出・精製して検出試料を得た。
【0074】
(2)CK19のmRNAの定量
上記のようにして得られた陽性リンパ節及び陰性リンパ節からの検出試料について、下記のプライマを用いて、リアルタイムPCR装置(ABI Prism(登録商標) 7000 Sequence Detection System、アプライドバイオシステムズ社)を用いてリアルタイムRT−PCRを行ない、CK19のmRNAの定量を行なった。
【0075】
リアルタイムRT−PCRは、RT−PCRキットであるQuanti Tect SYBR Green RT-PCRキット(キアゲン社製、カタログ番号204245)を用い、その使用説明書に従って行なった。反応液の組成及び反応条件は、以下のとおりである。
【0076】
CK19を検出するためのプライマ:
フォワードプライマ:5'-CAGATCGAAGGCCTGAAGGA-3' (配列番号1)
リバースプライマ:5'- CTTGGCCCCTCAGCGTACT-3' (配列番号2)
【0077】
反応液:
RNase free H2O 11.1μL
2×マスターミックス 12.50μL
100μMフォワードプライマ(最終濃度500nM) 0.075μL
100μMリバースプライマ(最終濃度500nM) 0.075μL
Quanti Tect RTミックス 0.25μL
検出試料 1.00μL
合計 25.00μL
【0078】
反応条件
50℃、30分
95℃、15分
PCR:以下の工程を40サイクル;
95℃、15秒
53℃、30秒
72℃、30秒。
【0079】
反応液の蛍光強度が基準値(Threshold:上記のリアルタイムPCR装置に搭載されたSDSソフトウェアで自動的に設定された値)を超えたときのPCRサイクル数を求め、この値に基づいてmRNAコピー数を算出した。結果を図5に示す。図5の結果から、閾値を検出試料当たり350コピーに設定することにより、組織診の結果に合致して胃がんの転移を判定することができることがわかる。
【0080】
実施例2
ハウスキーピング遺伝子として、上記の検出試料中のβ−アクチンのmRNAの量を測定した。測定は実施例1のCK19のmRNAの測定と同様にして行った。なお、PCRに用いたプライマは次のとおりであった。
β−アクチンを検出するためのプライマ:
フォワードプライマ:5'- CCACACTGTGCCCATCTACG-3' (配列番号3)
リバースプライマ:5'- AGGATCTTCATGAGGTAGTCAGTCAG-3' (配列番号4)
【0081】
実施例1で得られたCK19のmRNAのコピー数を、ここで得られたβ−アクチンのmRNAのコピー数で除した(標準化を行った)結果を図6に示す。図6の結果から、CK19のmRNAのコピー数を、ハウスキーピング遺伝子であるβ-アクチンのmRNAのコピー数で除して標準化した場合も、胃がんのリンパ節転移を判定できることが分かる。
【0082】
実施例1及び2の結果から、定量RT−PCRによるCK19のmRNAの定量値から、胃がんのリンパ節転移を判定することが可能であることが、明らかになった。また、定量値は、CK19のmRNAの絶対量のほうが、陽性検体と陰性検体の区別が明瞭であることが、明らかとなった。
【0083】
実施例3(定量RT−LAMPによる胃がんのリンパ節転移判定)
(1)検出試料の調製
胃がんの転移が組織学的に認められたリンパ節(陽性リンパ節)7個及び胃がんの転移が組織学的に認められなかったリンパ節(陰性リンパ節)8個を用いて、下記のようにして検出試料を調製した。
【0084】
まず、各リンパ節(約50〜600mg/個)に、DMSOを含むpH3.4の処理液(200mMグリシン−HCl、5% Brij35(ポリオキシエチレン(35)ラウリルエーテル、SIGMA社製)及び20% DMSO(和光純薬)を含む)4mLを添加し、ブレンダーでホモジナイズした。得られたホモジネートを10,000×g、室温で1分間遠心分離し、上清20μLに処理液180μLを加えた200μLを検出試料とした。
【0085】
(2)反応液の調製
以下の各成分を混合して13.97μlの反応液を調製した。
750mM トリス緩衝液(pH8.0) 1.00μl
10×Thermopol緩衝液
(ニューイングランドバイオラボラトリー社製) 2.50μl
10mM dNTPs 2.00μl
100mM MgSO4 0.75μl
100mM ジチオスレイトール 1.25μl
2% Tergitol(シグマアルドリッチジャパン株式会社製) 2.50μl
H2O 3.97μl
【0086】
(3)酵素試薬の調製
以下の各成分を混合して3.04μlの酵素試薬を調製した。
10U/μl AMV逆転写酵素(プロメガ株式会社製) 0.14μl
8U/μl Bst DNAポリメラーゼ
(ニューイングランドバイオラボラトリー社製) 2.27μl
RNase inhibitor(プロメガ株式会社製) 0.63μl
【0087】
(4)プライマの調製
以下の各成分を混合して6.00μlのプライマ溶液を調製した。
80pmol/μl forward inner primer 1.00μl
(配列番号5:5'-GGAGTTCTCAATGGTGGCACCAACTACTACACGACCATCCA-3')
80pmol/μl reverse inner primer 1.00μl
(配列番号6:5'-GTCCTGCAGATCGACAACGCCTCCGTCTCAAACTTGGTTCG-3')
5pmol/μl forward outer primer 1.00μl
(配列番号7:5'-TGGTACCAGAAGCAGGGG-3')
5pmol/μl reverse outer primer 1.00μl
(配列番号8:5'-GTTGATGTCGGCCTCCACG-3')
60pmol/μl forward loop primer 1.00μl
(配列番号9:5'-AGAATCTTGTCCCGCAGG-3')
60pmol/μl reverse loop primer 1.00μl
(配列番号10:5'-CGTCTGGCTGCAGATGA-3')
【0088】
(5)RT−LAMP反応液の調製
上記反応液、酵素試薬およびプライマ試薬からなるRT−LAMP反応液を調製した。RT−LAMP反応液は、CK19のmRNAを鋳型として、RT−LAMP法によりcDNAを増幅させるための反応液である。
【0089】
(6)CK19のmRNAの定量
上記検出試料2μlを、RT−LAMP反応液23μlに添加して、リアルタイム濁度測定装置(テラメックス社製LA−200)を用い、核酸増幅と同時に副産物として生成する不溶性のピロリン酸マグネシウムの白濁をリアルタイムで測定した。
【0090】
RT−LAMP法により各検出試料に含まれるmRNAに対応するcDNAが増幅して濁度が0.1に達するまで時間(検出時間)を測定し、この値に基づいて、CK19のmRNAの絶対量を算出した。結果を図7に示す。図7の結果から、閾値を検出試料当たり140コピーに設定することにより、組織診の結果に合致して胃がんの転移を判定することができることがわかる。
【0091】
実施例3の結果から、定量RT−LAMPであっても、CK19のmRNAの定量値から、胃がんのリンパ節転移を判定することが可能であることが、明らかとなった。
【0092】
以上より、検出試料中のサイトケラチン19のmRNAの定量値に基づいて、胃がんのリンパ節転の正確な判定結果を得られることがわかった。また、本発明の胃がんのリンパ節転移判定方法は、mRNAの定量方法、特に核酸増幅法の種類を問わず、有効な判定を行うことができることが明らかとなった。
【0093】
実施例4(定量RT−PCRによるリンパ節転移巣サイズの測定)
胃がん患者9名から得たリンパ節11個について、がん細胞数とCK19 mRNA発現量とを測定した。
【0094】
(1)転移巣サイズの測定およびがん細胞数の計数
胃がん(非充実低分化腺癌)が転移したリンパ節11個から、厚さ10μmの切片を作成し、スライドガラスに載置した。この切片に対して、抗CK19抗体及びEnvision Kit(何れもDAKO社)を用いて免疫組織化学染色を行った。GS-710 Calibrated Densitometer(バイオラッド社)を用いてこの切片のがん細胞の転移巣サイズ(mm2)の測定を行った。また、WinROOF(三谷商事株式会社)を用いて、がん細胞の数(細胞数/セクション)を計数した。
【0095】
(2)CK19mRNA定量
上記(1)で切り取った切片に隣接する切片(厚さ約10μm)を切り取り、RNeasy Mini Kit(キアゲン社)を用いてRNA抽出を行い、RNA試料を調製した。このRNA試料を用いて以下の組成の反応液を調製し、TaqMan法によって、CK19mRNAのコピー数(コピー/セクション)を算出した。なお、TaqMan法による測定は、TaqMan One-step RT-PCR Master Mix及びPrism 7000 Realtime PCR system(何れもアプライドバイオシステムズ社)を用いて添付の使用説明書に従って行われた。
【0096】
反応液:
RNase free H2O 10.205μL
TaqMan 2x Universal PCR Master Mix 12.5μL
40X MultiScribe and RNase Inhibitor Mix 0.63μL
100μM フォワードプライマ 0.075μL
100μM リバースプライマ 0.075μL
9.7pmol/μL(終濃度200nm) TaqManプローブ 0.515μL
検出試料 1μL
合計 25.00μL
【0097】
また、CK19 mRNA検出のためのプライマ配列及びTaqManプローブの配列は以下の通りである。
フォワードプライマ:5'-CAGATCGAAGGCCTGAAGGA-3'(配列番号1)
リバースプライマ:5'-CTTGGCCCCTCAGCGTACT-3'(配列番号2)
TaqManプローブ:5'-GCCTACCTGAAGAAGAACCATGAGGAGGAA-3'(配列番号11)
【0098】
なお、このTaqManプローブは、5'末端には6−カルボキシフルオレセイン(FAM)、3'末端には6−カルボキシ−テトラメチル−ローダミン(TAMRA)を有する。
【0099】
反応条件
48℃、30分
95℃、10分
PCR:以下の工程を40サイクル
95℃、15秒
60℃、1分。
【0100】
mRNAの定量値(コピー/セクション)と、胃がんの転移巣サイズとの関係を図8に示す。定量値とがん細胞数との関係を図9に示す。図8および図9より、CK19mRNAの定量値は、転移巣のサイズおよびがん細胞数に相関することが認められた。従って、リンパ節のCK19mRNAを定量することにより、転移巣のサイズを予測できることが確認された。
【0101】
実施例5(定量RT−LAMPによるリンパ節転移巣サイズの測定)
胃がん患者9名から得たリンパ節11個について、がん細胞数とCK19 mRNA発現量とを測定した。
【0102】
(1)転移巣サイズの測定およびがん細胞数の計数
実施例4(1)に記載の方法にしたがい、胃がん(非充実低分化腺癌)が転移したリンパ節11個から、厚さ10μmの切片を作成し、免疫組織化学染色を行った。ついで、実施例4(1)記載の方法にしたがい、それらの切片のがん細胞の転移巣サイズ(mm2)を測定した。また、実施例4(1)記載の方法にしたがい、がん細胞の数(細胞数/セクション)を計数した。
【0103】
(2)CK19mRNA定量
上記(1)で切り取った切片に隣接する切片(厚さ約10μm)を切り取り、RNeasy Mini Kit(キアゲン社)を用いてRNA抽出を行い、RNA試料を調製した。ついで、実施例3記載の方法にしたがい、反応液を調製し、RT−LAMPを実施した。
【0104】
mRNAの定量値(コピー/セクション)と、胃がんの転移巣サイズとの関係を図10に示す。定量値とがん細胞数との関係を図11に示す。図10および図11より、CK19mRNAの定量値は、転移巣のサイズおよびがん細胞数に相関することが認められた。従って、リンパ節のCK19mRNAを定量することにより、転移巣のサイズを予測できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の一実施形態による判定装置の全体構成を示した斜視図である。
【図2】図1に示した判定装置の定量手段としての核酸増幅測定装置の全体構成を示した斜視図である。
【図3】図2の核酸増幅測定装置の概略平面図である。
【図4】本発明の一実施形態による判定装置の判定手段としてのパーソナルコンピュータのCPUの転移判定フローである。
【図5】実施例1において算出された、胃がんのリンパ節組織中のCK19のmRNAのコピー数を示すグラフである。
【図6】実施例2において算出された、胃がんのリンパ節組織中のCK19のmRNAの標準化された値を示すグラフである。
【図7】実施例3において算出された、胃がんのリンパ節組織中のCK19のmRNAのコピー数を示すグラフである。
【図8】CK19のmRNA定量値と転移巣サイズとの関係を示すグラフである。
【図9】CK19のmRNA定量値とがん細胞数との関係を示すグラフである。
【図10】CK19のmRNA定量値と転移巣サイズとの関係を示すグラフである。
【図11】CK19のmRNA定量値とがん細胞数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0106】
1 がんの転移判定装置
101 核酸増幅測定装置
51 反応部
52 濁度検出部
102 パーソナルコンピュータ
102c 表示部
102d CPU
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃がんのリンパ節転移判定方法、判定装置、及びそれに使用される試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年臨床診断の分野において遺伝子検査が急速に普及している。遺伝子検査の一例として、がんのリンパ節転移診断がある。がん細胞は、原発巣を離れ、血管やリンパ管を経由して全身に転移する。がんの手術では、できるだけ確実に病巣を取り除くことが必要であるため、転移を正確に検出し、転移の度合いに応じて適切な処置をすることが要求される。このため、術中のがん細胞のリンパ節転移診断は極めて重要な意義を有している。がんのリンパ節転移診断の一手法として、正常細胞には発現しないか若しくは発現量が低く、がん細胞には多く発現するタンパク質の核酸を標的核酸として検出する方法がある。近年の遺伝子解析技術の発展により、生体から切除したリンパ節組織に含まれる標的核酸を増幅し、検出することで、効果的にがん診断を行うことが可能になってきている。
【0003】
このような、遺伝子検査による特定の組織へのがん転移を検査するために、現在、LAMP法(loop-mediated isothermal amplification method)やPCR(polymerase chain reaction)法などを用いたがんの遺伝子検査の研究が盛んに行われるようになっている。この遺伝子検査は、組織や細胞などに含まれるがんマーカー(例えば、がん細胞に特異的に発現するタンパク質のmRNAなど)を検出することにより行うことができる。
【0004】
がんマーカー(以下、単にマーカーともいう)の一つであるサイトケラチン19(CK19)は、乳がんのリンパ節転移を判定するためのマーカーとして有用であることが知られている。CK19は、正常なリンパ節での発現量とリンパ節に転移してきた乳がん細胞での発現量とに有意な差が認められる分子である。
【0005】
胃がんは、中国、日本、韓国などアジアや南米に患者が多い。日本における胃がんは、2003年のがんの死亡者数の統計では、男性では肺がんに次いで第2位、女性では大腸がんに次いで第2位である。また、胃がんは自覚症状が少ないため、早期発見が難しく、進行してリンパ節等にも転移することが多い。
【0006】
従来、胃がんのリンパ節転移を判定するためのマーカーとしては、サイトケラチン20や癌胎児性抗原が用いられている。しかしながら、胃がんの遺伝子検査に関する報告は少なく、胃がんのリンパ節転移を判定するための、さらなる方法の開発が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、胃がんのリンパ節転移判定方法、判定装置及び試薬キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の実施形態は、胃がんの転移が疑われるリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを定量する工程と、得られた前記mRNAの定量値に基づいて胃がんのリンパ節への転移を判定する工程と、を含む胃がんのリンパ節転移判定方法である。
本発明の第二の実施形態は、胃がんの転移が疑われるリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを定量する定量手段と、得られたmRNAの定量値に基づいて胃がんのリンパ節への転移を判定する判定手段と、を備える胃がんのリンパ節転移判定装置である。
本発明の第三の実施形態は、検出試料を調製するためのリンパ節組織の前処理液と、サイトケラチン19を検出し得るプライマを含むプライマ溶液と、核酸増幅法を実施するための酵素を含む酵素溶液と、を有する胃がんのリンパ節転移判定用試薬キットである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、胃がんのリンパ節転移判定方法、判定装置及び試薬キットを提供することができる。これにより、効果的な胃がんの遺伝子検査を行うことができる。さらに、本発明によれば、胃がんが転移したリンパ節組織における転移巣の転移レベルを判定することができる。転移巣レベルを判定することにより、手術の要否決定のための指標、あるいは術式を決定するための指標を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一実施形態において、転移レベルは、胃がんが転移したリンパ節組織において、転移の程度または転移巣の状態を反映するものであれば特に限定されない。転移レベルの指標は、たとえば、転移巣のサイズまたは転移巣におけるがん細胞数として表される。
【0011】
リンパ節における転移は、大きさに基づいてマイクロメタスタシス(微小転移)とマクロメタスタシスに分類される。転移巣が長径2mm未満のとき、マイクロメタスタシス(Micro metastasis:微小転移)と呼ばれる。転移巣が長径2mm以上のとき、マクロメタスタシス(Macro metastasis)と呼ばれる。さらに、0.2mm未満の転移巣は、遊離がん細胞(Isolated Tumor Cell:ITC)と呼ばれる。一般に、マクロメタスタシスと診断されると、転移巣の摘出が必要とされる。マイクロメタスタシスは、転移巣がそれ以上大きくなるかが判断できない状態とされる。本発明の一実施形態において、マイクロメタスタシスとマクロメタスタシスとを識別可能な値に閾値を設定することができる。また、転移巣の大きさに応じて複数の閾値を設定してもよい。
【0012】
本発明の一実施形態において、用いられる検体としては、胃がんの患者から採取されたリンパ節組織を含む試料を例示することができる。より具体的な検体としては、生検の目的で採取された胃がん近傍のリンパ節組織が挙げられる。
【0013】
検出試料としては、検体中のサイトケラチン19のmRNAを定量できるものであれば、特に制限されるものではない。例えば検体と前処理液とを混合し、前処理液中の検体に対して化学的及び/又は物理的処理を行うことによって、検体に含まれる細胞中のmRNAを液中に移行(可溶化)させ、mRNAを得る。この溶液を検出試料とすることができる。
【0014】
前処理液としては、検体に含まれる細胞中のmRNAを可溶化できるものであれば、特に限定されない。前処理液としては、例えば、緩衝液等が挙げられる。緩衝液は、RNAの分解を抑制するために酸性であることが好ましく、より具体的にはpH2.5〜5.0が好ましく、特に3.0〜4.0が好ましい。pHをこの範囲に保つために、公知の緩衝剤を用いることができ、具体的な緩衝剤としてはグリシン−塩酸緩衝剤などが挙げられる。緩衝剤の濃度は、緩衝液のpHを上記の範囲に保つことができるものであれば特に限定されない。
【0015】
また、前処理液には界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤によって細胞膜や核膜が損傷するため、この損傷を通して細胞中の核酸が溶液中に移行しやすくなる。このような作用を有するものであれば界面活性剤の種類は特に限定されないが、非イオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤がよりこのましい。
特に、次のような一般式:
R1−R2−(CH2CH2O)n−H
(ここで、R1は炭素数10〜22のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、イソオクチル基;R2は−O−又は−(C6H4)−O−;nは8〜120の整数)で表されるポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤が好適である。例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテルなどを用いることができる。具体的には、Brij35(ポリオキシエチレン(35)ラウリルエーテル)などが好適である。前処理液中の界面活性剤の濃度は0.1〜6%(v/v)が好ましく、より好ましくは1〜5%(v/v)である。
【0016】
また、mRNAの定量を後述の核酸増幅法により行う場合は、前処理液にジメチルスルホキシド(DMSO)を含有させることが好ましい。リンパ節には、核酸増幅における酵素反応を阻害する物質(阻害物質)が含まれていることがあるが、DMSOの作用によってこの阻害物質の影響を効果的に低減することができる。また、DMSOには核酸増幅酵素の活性の低下を抑制する効果もある。前処理液中のDMSOの濃度としては、1〜50%(v/v)が好ましく、5〜30%(v/v)がより好ましく、10〜25%(v/v)が最も好ましい。
【0017】
上記のような前処理液を用いることにより、市販の精製キットなどを用いて一般的に行われる核酸の抽出・精製を行うことなく、簡便かつ短時間で検出試料を調製することができる。
【0018】
上記の検体と前処理液との混合割合は、特に限定されないが、検体1mgに対して0.0001〜0.005mL程度の前処理液を用いることができる。上記の混合は、特に限定されないが、例えば室温で検体と前処理液とが充分に混合される程度の時間行うことができる。
【0019】
検体と前処理液の混合において、検体を前処理液中で破砕するのが好ましい。破砕する方法としては、ホモジナイザーによるホモジナイズ、凍結融解などが挙げられる。ホモジナイザーとしては、当該分野において通常用いられるものを用いることができ、例えばワーリングブレンダー、ポッター・エルベージェム型ホモジナイザー、ポリトロン型ホモジナイザー、ダウンス型ホモジナイザー、フレンチプレス、超音波破砕機などが挙げられる。破砕の条件は、用いる方法及び装置に応じて適宜設定され得る。
【0020】
上記の方法により破砕された破砕液を、遠心分離、フィルターろ過、カラムクロマトグラフィーなどの通常の精製方法を用いて粗精製することにより検出試料を調製することができる。また、検出試料の状態に応じて、核酸抽出法などの方法によりさらに精製してもよい。
【0021】
本発明の一実施形態において、検出試料中のサイトケラチン19のmRNAの定量は、たとえば、核酸増幅法やDNAチップ等を用いて公知の方法により行うことができる。特に核酸増幅法を用いることが好ましい。
【0022】
サイトケラチン19のmRNAの定量に用いることのできるDNAチップとしては、サイトケラチン19のcDNAとハイブリダイズ可能なポリデオキシリボヌクレオチド及び/又はその断片を固定化した基盤を用いることができる。DNAチップを用いたRNAの検出は、一般的に用いられる公知の方法により行うことができる。例えば、以下のようにして行うことができる。先ず、検出用試料中のmRNAの3'末端に存在するポリA配列に結合するプライマーを用いて逆転写反応を行う。逆転写反応の際に例えばCy3やCy5などの蛍光物質で標識されたヌクレオチドを用いることにより、蛍光標識されたcDNAが合成される。これを上記のポリデオキシリボヌクレオチドを固定化した基盤と接触させ、このポリヌクレオチドと標識されたcDNAとの二本鎖を形成させる。ついで、cDNAの蛍光を測定することにより、サイトケラチン19のmRNAを定量することができる。
【0023】
サイトケラチン19のmRNAの定量に用いることのできる核酸増幅法としては、核酸増幅反応の前に逆転写反応を含む核酸増幅法、例えば、RT−PCR(Reverse Transcription PCR)やRT−LAMP(Reverse Transcription LAMP:LAMP法については米国特許6410278号公報参照)等の公知の核酸増幅方法を用いることができる。より具体的には、上記の検出試料と、サイトケラチン19を検出し得るプライマと、核酸増幅法を実施するための酵素とを含む反応液を調製し、得られた反応液を用いて核酸増幅を行い、増幅されたcDNAを測定することができる。
【0024】
本発明の一実施形態において、プライマは、プライマ溶液として1つの試薬として提供されてもよい。プライマ溶液は、サイトケラチン19を検出するためのプライマを含有する溶液であれば、特に制限されるものではない。プライマ溶液としては、溶液中でプライマが安定であり、保存が可能であるものが好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態において、核酸増幅法を実施するための酵素は、酵素溶液として1つの試薬として提供されてもよい。酵素溶液としては、核酸増幅法を実施することができるものであれば、特に制限されるものではない。酵素溶液としては、たとえば、RNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)及びDNA依存性DNAポリメラーゼ(以下、単にDNAポリメラーゼともいう)をそれぞれ単独に独立して調製された酵素溶液、又は逆転写酵素及びDNAポリメラーゼを共に含有する酵素溶液を用いることができる。特に、逆転写酵素及びDNAポリメラーゼを共に含む酵素溶液が、反応液の調製における簡便性の観点から望ましい。
【0026】
逆転写反応及び核酸増幅反応は、プライマの配列等に応じて適宜条件を変更することができる。逆転写反応及び核酸増幅反応の条件は、例えばSambrook, J. et al. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載されたものを用いることができる。
【0027】
サイトケラチン19を検出するためのプライマとしては、サイトケラチン19のmRNAまたはそのcDNAを増幅することができるポリヌクレオチドが挙げられる。その配列は特に限定されないが、具体的には以下の配列番号で示されるプライマが挙げられる。尚、配列番号1及び2に示されるプライマはRT−PCRに好適なプライマのセットであり、配列番号5〜10に示されるプライマはRT−LAMPに好適なプライマのセットである。
<RT−PCRのプライマ>
配列番号1:5'-CAGATCGAAGGCCTGAAGGA-3'
配列番号2:5'- CTTGGCCCCTCAGCGTACT-3'
<RT−LAMPのプライマ>
配列番号5:5'-GGAGTTCTCAATGGTGGCACCAACTACTACACGACCATCCA-3'
配列番号6:5'-GTCCTGCAGATCGACAACGCCTCCGTCTCAAACTTGGTTCG-3'
配列番号7:5'-TGGTACCAGAAGCAGGGG-3'
配列番号8:5'-GTTGATGTCGGCCTCCACG-3'
配列番号9:5'-AGAATCTTGTCCCGCAGG-3'
配列番号10:5'-CGTCTGGCTGCAGATGA-3'
【0028】
上記のプライマは、当該技術において通常用いられる技術により修飾されていてもよい。上記プライマの標識は、放射活性元素又は非放射活性分子を用いて行うことができる。用いられる放射活性同位体としては、32P、33P、35S、3H又は125Iを挙げることができる。非放射活性物質は、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン又はジゴキシゲニンのようなリガンド、ハプテン、色素及び放射線発光性、化学発光性、生物発光性、蛍光又はリン光性の試薬のような発光性試薬から選択される。
【0029】
逆転写活性を有する酵素及びDNAポリメラーゼは、当該技術においてよく知られたものを用いることができる。逆転写活性を有する酵素としては、AMV (Avian Myeloblastosis Virus) 逆転写酵素、M-MLV (Molony Murine Leukemia Virus) 逆転写酵素などが挙げられる。また、DNAポリメラーゼとしては、Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、Bst DNAポリメラーゼなどを用いることができる。
【0030】
上記の核酸増幅により生成した核酸増幅産物を測定することにより、サイトケラチン19のmRNAを定量することができる。この際、定量RT−PCR(Quantitative Reverse Transcription-PCR)や定量RT−LAMP(Quantitative Reverse Transcription-LAMP)等が好ましく用いられる。これらの方法によると、核酸(cDNA)増幅に伴って反応液の光学的状態(濁度、吸光度、蛍光強度など)が変化するため、これをリアルタイムに測定することにより、サイトケラチン19のmRNAの定量を行うことができる。
【0031】
RT−PCRの具体例としては、TaqMan(登録商標)法や、核酸増幅反応前の反応液にSYBR Greenを予め添加しておき、増幅反応中にcDNAの増幅に伴って増加する蛍光強度をリアルタイムに測定するSYBR Green法など、公知のものを用いることができる。サイトケラチン19のmRNAの定量値は、反応液の蛍光強度が所定の値に達するまでのサイクル数に基づいて算出することができる。
【0032】
RT−LAMPを用いる場合、cDNAの増幅に伴い副産物としてピロリン酸マグネシウムが多量に生成される。このピロリン酸マグネシウムは不溶性であるため、ピロリン酸マグネシウムの増加に伴って反応液が白濁する。よって、反応液の濁度(又は吸光度)をリアルタイムで光学的に測定することにより、サイトケラチン19のmRNAを定量することができる。また、RT−LAMP法においても、上記SYBR Green法を用いることができる。サイトケラチン19のmRNAの定量値は、たとえば、反応液の濁度、吸光度、蛍光強度などが所定の値に達するまでの時間に基づいて算出することができる。
【0033】
本発明の一実施形態において、胃がんのリンパ節への転移を判定する工程としては、上述した検出試料中のサイトケラチン19のmRNAの定量値に基づいて、絶対的又は相対的に胃がんのリンパ節への転移を判定できるものであれば、特に制限されるものではないが、サイトケラチン19のmRNAの定量値と閾値とを比較するのが好ましい。
【0034】
サイトケラチン19のmRNAの定量値は、標準化の処理の有無に関わらず、胃がんのリンパ節転移の判定工程に用いることができるが、標準化を行わず、サイトケラチン19のmRNAの絶対量を、定量値として用いることが好ましい。
【0035】
ここで、標準化とは、上記のサイトケラチン19のmRNAの定量で得られた定量値を、胃がんの患者から採取されたリンパ節組織を含む試料、即ち検体の量に応じた値に換算することをいう。より具体的には、上記のサイトケラチン19のmRNAの定量で得られた定量値を、検体の量あるいは該量を反映する情報、好ましくは内部標準、より好ましくはハウスキーピング遺伝子のmRNAの量あるいは該量を反映する情報で除すること等を示す。
【0036】
ハウスキーピング遺伝子とは、多くの組織や細胞に一定量発現していると一般に考えられている遺伝子である。ハウスキーピング遺伝子としては、例えば、β−アクチン、GAPDH(グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、β2−マイクログロブリン、HPRT1(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1)などの遺伝子が挙げられる。また、ハウスキーピング遺伝子のmRNAの量を反映する情報とは、サイトケラチン19と同様の方法でハウスキーピング遺伝子の定量を行ったときに得られる情報のことである。
【0037】
本発明の一実施形態において、検体のハウスキーピング遺伝子のmRNAの測定値は、標準化のためではなく、正確に核酸増幅反応が行われたか否かを判定するためのコントロールとして用いることもできる。ハウスキーピング遺伝子は殆どの種類の細胞で発現が認められるため、ハウスキーピング遺伝子のmRNAが検出される場合は、がんマーカーの核酸増幅反応も適切に行われたと考えられる。一方、ハウスキーピング遺伝子のmRNAが検出されない場合は、たとえば酵素の失活により、核酸増幅反応が正確に行われなかった可能性が考えられる。
【0038】
本発明の一実施形態において、サイトケラチン19のmRNAの絶対量とは、mRNAの定量に付された検出試料中における、サイトケラチン19のmRNAの絶対量又は該絶対量を反映する情報を示す。絶対量を求める際には、上述のような標準化を行なわない。このような、該絶対量を定量値として用い、予め決められた閾値と直接比較すると、標準化を行ったものより正確に胃がんのリンパ節転移を判定することができる。
【0039】
従来行われている組織診によるがん転移判定は、組織切片を作成し、染色等の処理を行って検鏡することにより行われる。しかし、検鏡による組織診では組織の一部しか検査できないため、がん細胞を含まない面で切片を作製するとがん細胞を見落とす可能性がある。一方、分子検査によるがん転移判定では、切除した組織試料全体(あるいは切片作製後の余剰の組織試料)を用いることができるため、一部の断面のみで検査する組織診とは違い見落としの可能性が低い。
【0040】
本発明の一実施形態において、閾値は、胃がんのリンパ節転移が確認された陽性検体に含まれるmRNAの定量値以下であって、胃がんのリンパ節転移がないことが確認された陰性検体に含まれるmRNAの定量値よりも高い値に設定することができる。複数の陽性検体のmRNA定量値と複数の陰性検体のmRNA定量値とを予め測定し、最も高確率に陽性検体と陰性検体とを区別できる値を閾値として設定することが好ましい。より具体的な閾値としては、サイトケラチン19のmRNAの定量に定量RT−PCRを用いた場合は、8〜690コピーが好ましく、定量RT−LAMPを用いた場合は、10〜270コピーが好ましい。
【0041】
本発明の判定方法の判定工程は、サイトケラチン19のmRNAの定量値に基づいて前記胃がんのリンパ節への転移を判定する。また、サイトケラチン19のmRNAの定量値と閾値とを比較し、mRNAの定量値が閾値よりも高い場合はリンパ節転移が陽性であり、閾値よりも低い場合は陰性であると判定することができる。このような判定結果を得ることにより、術式、切除範囲、術後の治療方針などの決定の指標となり得る。
【0042】
mRNAの定量値は、がん転移レベルに応じて、転移巣の大きさや転移巣に含まれるがん細胞数に相関する。そのため、上記したようにmRNAの定量値に基づき、リンパ節における転移巣の定量的な測定や段階的な測定を行うことができる。段階的な測定を行う場合は、mRNAの定量値と、予め設定された複数の閾値とが比較される。この場合、少なくとも1つの閾値(第1の閾値)は、がん陰性およびがん陽性を識別可能に設定されることが好ましい。これらの閾値は、がんや腫瘍マーカーの種類に応じて適宜設定される。また、転移巣を定量的に測定する場合でも、この第1の閾値を用いて陰性と陽性とを識別し、転移陽性のものに関してがん病巣の定量的測定を行うことが好ましい。
【0043】
本発明の一実施形態において、第1の閾値は、がん細胞の存在が確認されたリンパ節(陽性検体)に含まれるmRNAの定量値以下であって、がん細胞が存在しないことが確認されたリンパ節(陰性検体)に含まれるmNRAの定量値よりも高い値に設定することができる。複数の陽性検体のmRNA定量値と複数の陰性検体のmRNA定量値とを予め測定し、最も高確率に陽性検体と陰性検体とを区別できる値を閾値として設定することが好ましい。
【0044】
上記のような段階的な情報を得る場合は、第1の閾値の他にさらに第2の閾値が用いられる。たとえば、上記第1の閾値と、弱陽性と強陽性とを識別可能な第2の閾値とを予め設定する。mRNAの定量値が第1の閾値未満であった場合、実質的にがん病巣が存在しない(即ち、がん陰性)と判定することができる。また、mRNAの定量値が第1の閾値以上、第2の閾値未満であった場合は、サイズの比較的小さいがん病巣が存在する(がん弱陽性)と判定することができる。さらに、mRNAの定量値が第2の閾値以上であった場合は、サイズの比較的大きいがん病巣が存在する(がん強陽性)と判定することができる。
【0045】
リンパ節における転移は、大きさに基づいてマイクロメタスタシス(微小転移)とマクロメタスタシスに分類される。転移巣が長径2mm未満のとき、マイクロメタスタシス(Micro metastasis:微小転移)と呼ばれる。転移巣が長径2mm以上のとき、マクロメタスタシス(Macro metastasis)と呼ばれる。さらに、0.2mm未満の転移巣は、遊離がん細胞(Isolated Tumor Cell:ITC)と呼ばれる。一般に、マクロメタスタシスと診断されると、転移巣の摘出が必要とされる。マイクロメタスタシスは、転移巣がそれ以上大きくなるかが判断できない状態とされる。本発明の一実施形態において、上記の第2の閾値は、マイクロメタスタシスとマクロメタスタシスとを識別可能な値に設定することができる。また、第2の閾値以外にも転移巣の大きさに応じて複数の閾値を設定してもよい。
【0046】
サイトケラチン19のmRNAの発現量を測定することにより、リンパ節中のがん細胞の数やがん病巣のサイズ(面積、体積、質量等)を測定することができる。すなわち、リンパ節におけるサイトケラチン19のmRNA発現量は、胃がん患者のリンパ節摘出範囲を決定するための指標となり得る。たとえば、検査したリンパ節に大きな転移巣がなければ、それ以上範囲を広げて摘出する必要はない。検査したリンパ節に大きな転移巣があれば、さらに広範囲のリンパ節の摘出を行う必要がある。現在の病理診断では、2mmのマクロメタスタシスを確実に検出できるのは、理屈上、リンパ節径が4mm以下であり、それ以上の大きさのリンパ節では転移巣を見落とす可能性がある。病理診断と本発明の方法を併用すれば、転移巣を見落とす可能性を低下させることができる。
【0047】
本発明の一実施形態である胃がんのリンパ節転移判定装置は、胃がんの患者から採取されたリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを定量する定量手段と、前記mRNAの定量値に基づいて胃がんのリンパ節への転移を判定する判定手段を備えている。
【0048】
本発明の一実施形態において、定量手段は、胃がんの患者から採取されたリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを定量することができるものであれば、特に限定されない。定量手段としては、LAMP法やPCR法により増幅された核酸を定量し得る核酸増幅測定装置が好ましい。該核酸増幅測定装置は、検出試料中のサイトケラチン19のmRNAをプライマと核酸増幅酵素とにより増幅して得られる核酸増幅産物を測定する測定部を備える。
【0049】
本発明の一実施形態において、判定手段は、上記の定量手段で定量されたサイトケラチン19のmRNAの定量値に基づいて胃がんのリンパ節への転移を、絶対的又は相対的に判定できるものであれば、特に限定されない。判定手段としては、定量値と予め決定された閾値とを比較することによりがんの転移を判定するものが好ましい。定量値は、検出用試料中の前記サイトケラチン19のmRNAの絶対量であることが、特に好ましい。また、この装置は、得られた判定結果を表示する表示部を備えていてもよい。
本発明の一実施形態において、装置は、リンパ節組織における転移巣の転移レベルを判定するための指標を得る手段を備える。転移レベルの指標を得る手段は、がんの転移を判定するがん転移判定手段と別の手段であってもよいし、双方の機能を備える1つの手段であってもよい。
【0050】
胃がんのリンパ節転移判定装置の一実施形態を、図1〜3に示す。図1は、本発明の一実施形態による判定装置の全体構成を示した斜視図である。図2は、図1に示した定量手段としての核酸増幅測定装置の全体構成を示した斜視図である。図3は、図2の核酸増幅測定装置の概略平面図である。
【0051】
本発明のある実施形態の判定装置は、図1に示すように、核酸増幅測定装置101と、該核酸増幅測定装置と有線又は無線による通信ができるように接続された判定手段としてのパーソナルコンピュータ(PC)102とにより構成され得る。
【0052】
核酸増幅測定装置101は、図2に示すように分注機構部10と、試料セット部20と、チップセット部30と、チップ廃棄部40と、5つの反応検出ブロック50aからなる反応検出部50と、分注機構部10をX軸方向及びY軸方向に移送するための移送部60とを含んでいる。
【0053】
分注機構部10は、図2に示すように、移送部60によりX軸方向及びY軸方向(水平方向)に移動されるアーム部11と、アーム部11に対してそれぞれ独立してZ軸方向(垂直方向)に移動可能な2連(2本)のシリンジ部12とを含んでいる。
【0054】
図2及び図3に示すように、試料セット部20には、装置の手前から順番に、10個の試料容器セット孔21a〜21jと、1つの酵素試薬容器セット孔21k及び1つのプライマ試薬容器セット孔21lとが設けられている。また、10個の試料容器セット孔21a〜21jは、5行2列に配列するように設けられている。そして、試料容器セット孔21c及び21dと、試料容器セット孔21e及び21fと、試料容器セット孔21g及び21hと、試料容器セット孔21i及び21jとは、それぞれ、装置の奥側から順に、試料セット位置1、試料セット位置2、試料セット位置3及び試料セット位置4に設けられている。
【0055】
本実施形態では、正面左側の試料容器セット孔21c、21e、21g及び21iには、予め切除生体組織(リンパ節)を処理(ホモジナイズ、ろ過など)して作製された可溶化抽出液(検出試料)が収容された試料容器22がセットされる。正面右側の試料容器セット孔21d、21f、21h及び21jには、上記した試料を10倍に希釈した希釈試料が収容された試料容器23がセットされる。
【0056】
試料容器セット孔21aには、増幅するべき核酸が正常に増幅することを確認するための陽性コントロールが収容された容器24が載置されるとともに、試料容器セット孔21bには、増幅するべきでない核酸が正常に増幅しないことを確認するための陰性コントロールを収容した容器25がセットされる。
【0057】
酵素試薬容器セット孔21k及びプライマ試薬容器セット孔21lには、それぞれ、サイトケラチン19のmRNAに対応するcDNA(以下、単にCK19ともいう)を増幅するための核酸増幅酵素試薬が収容された酵素試薬容器26と、CK19のプライマ試薬が収容されたプライマ試薬容器27とがセットされている。
【0058】
反応検出部50の各反応検出ブロック50aは、図2及び図3に示すように、反応部51と、2つの濁度検出部52と、蓋閉機構部53(図2参照)とから構成されている。各反応検出ブロック50aに設けられる反応部51には、図3に示すように、検出セル54をセットするための2つの検出セルセット孔51aが設けられている。各反応検出ブロック50aは、装置の奥側から順に、セルセット位置1、セルセット位置2、セルセット位置3、セルセット位置4及びセルセット位置5に配置されている。
【0059】
また、濁度検出部52は、反応部51の一方の側面側に配置された基板55aに取り付けられた465nmの波長を有する青色LEDからなるLED光源部52aと、反応部51の他方の側面側に配置された基板55bに取り付けられたフォトダイオード受光部52bとによって構成されている。各反応検出ブロック50aには、1つのLED光源部52aと1つのフォトダイオード受光部52bとからなる1組の濁度検出部52が2組ずつ配置されている。
【0060】
また、検出セル54は、試料を収容するため2つのセル部54aと、2つのセル部54aを塞ぐ2つの蓋部54bとを有している。
【0061】
また、移送部60は、図2に示すように、分注機構部10をY軸方向に移送するための直動ガイド61及びボールネジ62と、ボールネジ62を駆動するためのステッピングモータ63と、分注機構部10をX軸方向に移送するための直動ガイド64及びボールネジ65と、ボールネジ65を駆動するためのステッピングモータ66とを含んでいる。なお、分注機構部10のX軸方向及びY軸方向への移送は、ステッピングモータ63及び66により、それぞれ、ボールネジ62及び65を回転させることにより行う。
【0062】
パーソナルコンピュータ102は、図1に示すように、入力機器のキーボード102a及びマウス102bと、モニタからなる表示部102cと、試料の測定結果を分析するCPU102dとを含む。
【0063】
次に、図1〜図3を参照して、本実施形態による判定装置1の動作について説明する。この実施形態では、上記したように、胃がん手術での切除リンパ節組織中に存在するサイトケラチン19のmRNAをLAMP法により増幅させ、増幅に伴い発生するピロリン酸マグネシウムによる白濁による濁度の変化を測定することによりサイトケラチン19のmRNAを定量し、定量値を閾値と比較して該リンパ節へのがんの転移を判定する装置について説明する。
【0064】
予め切除組織を処理(たとえば、ホモジナイズ、ろ過など)して作製された可溶化抽出液(以下、試料という)が収容された試料容器22を、試料容器セット孔21c〜21jにセットする(図2及び図3参照)。陽性コントロールが収容された容器24及び陰性コントロールが収容された容器25を、それぞれ、試料容器セット孔21a及び21b(図3参照)にセットする。酵素試薬容器セット孔21k及びプライマ試薬容器セット孔21lには、それぞれ、CK19の増幅のための核酸増幅酵素試薬が収容された酵素試薬容器26と、CK19の増幅のためのプライマ試薬が収容されたプライマ試薬容器27とをセットする(図3参照)。チップセット部30には、それぞれ36本の使い捨て用のピペットチップ31が収納された2つのラック32を設置する。
【0065】
核酸増幅測定装置101の動作がスタートすると、まず、図2に示した移送部60により分注機構部10のアーム部11が初期位置からチップセット部30に移動され、チップセット部30において、分注機構部10の2つのシリンジ部12が下方向に移動される。これにより、2つのシリンジ部12のノズル部の先端が2つのピペットチップ31の上部開口部内に圧入されるので、2つのシリンジ部12のノズル部の先端にピペットチップ31が自動的に装着される。そして、2つのシリンジ部12が上方に移動された後、分注機構部10のアーム部11は、CK19のプライマ試薬が収容されたプライマ試薬容器27の上方に向かってX軸方向に移動される。そして、プライマ試薬容器27の上方に位置する一方のシリンジ部12が下方向に移動されてプライマ試薬が吸引された後、その一方のシリンジ部12が上方向に移動される。その後、他方のシリンジ部12が同じプライマ試薬容器27の上方に位置するまで、移送部60により分注機構部10のアーム部11がY軸方向に移動される。そして、他方のシリンジ部12が下方向に移動されて同じプライマ試薬容器27からプライマ試薬が吸引された後、その他方のシリンジ部12が上方向に移動される。このようにして、シリンジ部12に装着される2つのピペットチップ31により、プライマ試薬容器27内のCK19のプライマ試薬が吸引される。
【0066】
プライマ試薬を吸引した2つのシリンジ部12が上方に移動された後、分注機構部10のアーム部11は、移送部60により、最も奥側(装置正面奥側)であるセルセット位置1に位置する反応検出ブロック50aの上方に移動される。そして、最も奥側の反応検出ブロック50aにおいて、2つのシリンジ部12が下方向に移動されることにより、2つのシリンジ部12に装着された2つのピペットチップ31が、それぞれ、検出セル54の2つのセル部54a内に挿入される。そして、シリンジ部12を用いて、CK19のプライマ試薬がそれぞれ2つのセル部54aに吐出される。シリンジ部12は、プライマ試薬を吐出したのち、上方に移動される。
【0067】
プライマ試薬を吐出した2つのシリンジ部12が上方に移動された後、分注機構部10のアーム部11は、移送部60によりチップ廃棄部40の上方に向かってX軸方向に移動される。そして、チップ廃棄部40において、ピペットチップ31の廃棄が行われる。具体的には、2つのシリンジ部12が下方向に移動されることにより、チップ廃棄部40の2つのチップ廃棄孔40a(図3参照)内にピペットチップ31が挿入される。この状態で、分注機構部10のアーム部11が移送部60によりY軸方向に移動されることにより、ピペットチップ31が溝部40bの下に移動される。そして、2つのシリンジ部12が上方向に移動されることにより、ピペットチップ31の上面のつば部は、溝部40bの両側の下面に当接してその下面から下方向の力を受けるので、ピペットチップ31が2つのシリンジ部12のノズル部から自動的に脱離される。これにより、ピペットチップ31がチップ廃棄部40に廃棄される。
【0068】
次に、同様の動作により、酵素試薬容器26から酵素試薬が上記のセル部54aに吐出され、さらに同様の動作により、試料容器22及び試料容器23から試料が上記のセル部54aに吐出される。
【0069】
そして、上記のセル部54a内へのプライマ試薬、酵素試薬、試料の吐出が行われた後、検出セル54の蓋部54bの蓋閉め動作が行われる。この蓋閉め動作が完了した後、検出セル54内の液温を約20℃から約65℃に加温することにより、RT−LAMP反応によりCK19のmRNAに対応するcDNAを増幅する。そして、増幅に伴い生成されるピロリン酸マグネシウムによる白濁を比濁法により検出する。具体的には、図3に示したLED光源部52a及びフォトダイオード受光部52bを用いて、増幅反応時の検出セル54内の濁度を検出(モニタリング)することによって、濁度の検出を行う。
【0070】
試料の濁度データは、核酸増幅測定装置101からパーソナルコンピュータ102へリアルタイムに送信される。パーソナルコンピュータ102のCPU102dは、試料の濁度データを予め決められた閾値と比較することにより胃がんのリンパ節転移を判定する。ここで同時に、リンパ節への転移巣のサイズを判定してもよい。
【0071】
ここで、図4を参照して、パーソナルコンピュータ102のCPU102dの処理について説明する。まず、ステップS1において、CPU102dは、核酸増幅測定装置101から試料の濁度データを受信する。次に、ステップS2において、CPU102dは、該濁度データと予め設定された閾値とを比較することにより、胃がんのリンパ節転移が陽性であるか、陰性であるかを判定する。そして、ステップS3において、CPU102dは、ステップS2において判定された結果を表示部102cに送信する。
【実施例】
【0072】
本実施例は、胃がんの患者から採取されたリンパ節組織中のCK19のmRNAの定量することによる、胃がんのリンパ節転移判定方法について説明する。
【0073】
実施例1(定量RT−PCRによる胃がんのリンパ節転移判定)
(1)検出試料の調製
胃がんの転移が組織学的に認められたリンパ節(陽性リンパ節)10個及び胃がんの転移が組織学的に認められなかったリンパ節(陰性リンパ節)10個を用いて、下記のようにして検出試料を調製した。
まず、各リンパ節(約50〜600mg/個)に、DMSOを含むpH3.4の処理液(200mMグリシン−HCl、5% Brij35(ポリオキシエチレン(35)ラウリルエーテル、SIGMA社製)及び20% DMSO(和光純薬)を含む)4mLを添加し、ブレンダーでホモジナイズした。得られたホモジネートを10,000×g、室温で1分間遠心分離し、上清200μLからRNeasy Miniキット(キアゲン社製、カタログ番号74014)を用いてRNAを抽出・精製して検出試料を得た。
【0074】
(2)CK19のmRNAの定量
上記のようにして得られた陽性リンパ節及び陰性リンパ節からの検出試料について、下記のプライマを用いて、リアルタイムPCR装置(ABI Prism(登録商標) 7000 Sequence Detection System、アプライドバイオシステムズ社)を用いてリアルタイムRT−PCRを行ない、CK19のmRNAの定量を行なった。
【0075】
リアルタイムRT−PCRは、RT−PCRキットであるQuanti Tect SYBR Green RT-PCRキット(キアゲン社製、カタログ番号204245)を用い、その使用説明書に従って行なった。反応液の組成及び反応条件は、以下のとおりである。
【0076】
CK19を検出するためのプライマ:
フォワードプライマ:5'-CAGATCGAAGGCCTGAAGGA-3' (配列番号1)
リバースプライマ:5'- CTTGGCCCCTCAGCGTACT-3' (配列番号2)
【0077】
反応液:
RNase free H2O 11.1μL
2×マスターミックス 12.50μL
100μMフォワードプライマ(最終濃度500nM) 0.075μL
100μMリバースプライマ(最終濃度500nM) 0.075μL
Quanti Tect RTミックス 0.25μL
検出試料 1.00μL
合計 25.00μL
【0078】
反応条件
50℃、30分
95℃、15分
PCR:以下の工程を40サイクル;
95℃、15秒
53℃、30秒
72℃、30秒。
【0079】
反応液の蛍光強度が基準値(Threshold:上記のリアルタイムPCR装置に搭載されたSDSソフトウェアで自動的に設定された値)を超えたときのPCRサイクル数を求め、この値に基づいてmRNAコピー数を算出した。結果を図5に示す。図5の結果から、閾値を検出試料当たり350コピーに設定することにより、組織診の結果に合致して胃がんの転移を判定することができることがわかる。
【0080】
実施例2
ハウスキーピング遺伝子として、上記の検出試料中のβ−アクチンのmRNAの量を測定した。測定は実施例1のCK19のmRNAの測定と同様にして行った。なお、PCRに用いたプライマは次のとおりであった。
β−アクチンを検出するためのプライマ:
フォワードプライマ:5'- CCACACTGTGCCCATCTACG-3' (配列番号3)
リバースプライマ:5'- AGGATCTTCATGAGGTAGTCAGTCAG-3' (配列番号4)
【0081】
実施例1で得られたCK19のmRNAのコピー数を、ここで得られたβ−アクチンのmRNAのコピー数で除した(標準化を行った)結果を図6に示す。図6の結果から、CK19のmRNAのコピー数を、ハウスキーピング遺伝子であるβ-アクチンのmRNAのコピー数で除して標準化した場合も、胃がんのリンパ節転移を判定できることが分かる。
【0082】
実施例1及び2の結果から、定量RT−PCRによるCK19のmRNAの定量値から、胃がんのリンパ節転移を判定することが可能であることが、明らかになった。また、定量値は、CK19のmRNAの絶対量のほうが、陽性検体と陰性検体の区別が明瞭であることが、明らかとなった。
【0083】
実施例3(定量RT−LAMPによる胃がんのリンパ節転移判定)
(1)検出試料の調製
胃がんの転移が組織学的に認められたリンパ節(陽性リンパ節)7個及び胃がんの転移が組織学的に認められなかったリンパ節(陰性リンパ節)8個を用いて、下記のようにして検出試料を調製した。
【0084】
まず、各リンパ節(約50〜600mg/個)に、DMSOを含むpH3.4の処理液(200mMグリシン−HCl、5% Brij35(ポリオキシエチレン(35)ラウリルエーテル、SIGMA社製)及び20% DMSO(和光純薬)を含む)4mLを添加し、ブレンダーでホモジナイズした。得られたホモジネートを10,000×g、室温で1分間遠心分離し、上清20μLに処理液180μLを加えた200μLを検出試料とした。
【0085】
(2)反応液の調製
以下の各成分を混合して13.97μlの反応液を調製した。
750mM トリス緩衝液(pH8.0) 1.00μl
10×Thermopol緩衝液
(ニューイングランドバイオラボラトリー社製) 2.50μl
10mM dNTPs 2.00μl
100mM MgSO4 0.75μl
100mM ジチオスレイトール 1.25μl
2% Tergitol(シグマアルドリッチジャパン株式会社製) 2.50μl
H2O 3.97μl
【0086】
(3)酵素試薬の調製
以下の各成分を混合して3.04μlの酵素試薬を調製した。
10U/μl AMV逆転写酵素(プロメガ株式会社製) 0.14μl
8U/μl Bst DNAポリメラーゼ
(ニューイングランドバイオラボラトリー社製) 2.27μl
RNase inhibitor(プロメガ株式会社製) 0.63μl
【0087】
(4)プライマの調製
以下の各成分を混合して6.00μlのプライマ溶液を調製した。
80pmol/μl forward inner primer 1.00μl
(配列番号5:5'-GGAGTTCTCAATGGTGGCACCAACTACTACACGACCATCCA-3')
80pmol/μl reverse inner primer 1.00μl
(配列番号6:5'-GTCCTGCAGATCGACAACGCCTCCGTCTCAAACTTGGTTCG-3')
5pmol/μl forward outer primer 1.00μl
(配列番号7:5'-TGGTACCAGAAGCAGGGG-3')
5pmol/μl reverse outer primer 1.00μl
(配列番号8:5'-GTTGATGTCGGCCTCCACG-3')
60pmol/μl forward loop primer 1.00μl
(配列番号9:5'-AGAATCTTGTCCCGCAGG-3')
60pmol/μl reverse loop primer 1.00μl
(配列番号10:5'-CGTCTGGCTGCAGATGA-3')
【0088】
(5)RT−LAMP反応液の調製
上記反応液、酵素試薬およびプライマ試薬からなるRT−LAMP反応液を調製した。RT−LAMP反応液は、CK19のmRNAを鋳型として、RT−LAMP法によりcDNAを増幅させるための反応液である。
【0089】
(6)CK19のmRNAの定量
上記検出試料2μlを、RT−LAMP反応液23μlに添加して、リアルタイム濁度測定装置(テラメックス社製LA−200)を用い、核酸増幅と同時に副産物として生成する不溶性のピロリン酸マグネシウムの白濁をリアルタイムで測定した。
【0090】
RT−LAMP法により各検出試料に含まれるmRNAに対応するcDNAが増幅して濁度が0.1に達するまで時間(検出時間)を測定し、この値に基づいて、CK19のmRNAの絶対量を算出した。結果を図7に示す。図7の結果から、閾値を検出試料当たり140コピーに設定することにより、組織診の結果に合致して胃がんの転移を判定することができることがわかる。
【0091】
実施例3の結果から、定量RT−LAMPであっても、CK19のmRNAの定量値から、胃がんのリンパ節転移を判定することが可能であることが、明らかとなった。
【0092】
以上より、検出試料中のサイトケラチン19のmRNAの定量値に基づいて、胃がんのリンパ節転の正確な判定結果を得られることがわかった。また、本発明の胃がんのリンパ節転移判定方法は、mRNAの定量方法、特に核酸増幅法の種類を問わず、有効な判定を行うことができることが明らかとなった。
【0093】
実施例4(定量RT−PCRによるリンパ節転移巣サイズの測定)
胃がん患者9名から得たリンパ節11個について、がん細胞数とCK19 mRNA発現量とを測定した。
【0094】
(1)転移巣サイズの測定およびがん細胞数の計数
胃がん(非充実低分化腺癌)が転移したリンパ節11個から、厚さ10μmの切片を作成し、スライドガラスに載置した。この切片に対して、抗CK19抗体及びEnvision Kit(何れもDAKO社)を用いて免疫組織化学染色を行った。GS-710 Calibrated Densitometer(バイオラッド社)を用いてこの切片のがん細胞の転移巣サイズ(mm2)の測定を行った。また、WinROOF(三谷商事株式会社)を用いて、がん細胞の数(細胞数/セクション)を計数した。
【0095】
(2)CK19mRNA定量
上記(1)で切り取った切片に隣接する切片(厚さ約10μm)を切り取り、RNeasy Mini Kit(キアゲン社)を用いてRNA抽出を行い、RNA試料を調製した。このRNA試料を用いて以下の組成の反応液を調製し、TaqMan法によって、CK19mRNAのコピー数(コピー/セクション)を算出した。なお、TaqMan法による測定は、TaqMan One-step RT-PCR Master Mix及びPrism 7000 Realtime PCR system(何れもアプライドバイオシステムズ社)を用いて添付の使用説明書に従って行われた。
【0096】
反応液:
RNase free H2O 10.205μL
TaqMan 2x Universal PCR Master Mix 12.5μL
40X MultiScribe and RNase Inhibitor Mix 0.63μL
100μM フォワードプライマ 0.075μL
100μM リバースプライマ 0.075μL
9.7pmol/μL(終濃度200nm) TaqManプローブ 0.515μL
検出試料 1μL
合計 25.00μL
【0097】
また、CK19 mRNA検出のためのプライマ配列及びTaqManプローブの配列は以下の通りである。
フォワードプライマ:5'-CAGATCGAAGGCCTGAAGGA-3'(配列番号1)
リバースプライマ:5'-CTTGGCCCCTCAGCGTACT-3'(配列番号2)
TaqManプローブ:5'-GCCTACCTGAAGAAGAACCATGAGGAGGAA-3'(配列番号11)
【0098】
なお、このTaqManプローブは、5'末端には6−カルボキシフルオレセイン(FAM)、3'末端には6−カルボキシ−テトラメチル−ローダミン(TAMRA)を有する。
【0099】
反応条件
48℃、30分
95℃、10分
PCR:以下の工程を40サイクル
95℃、15秒
60℃、1分。
【0100】
mRNAの定量値(コピー/セクション)と、胃がんの転移巣サイズとの関係を図8に示す。定量値とがん細胞数との関係を図9に示す。図8および図9より、CK19mRNAの定量値は、転移巣のサイズおよびがん細胞数に相関することが認められた。従って、リンパ節のCK19mRNAを定量することにより、転移巣のサイズを予測できることが確認された。
【0101】
実施例5(定量RT−LAMPによるリンパ節転移巣サイズの測定)
胃がん患者9名から得たリンパ節11個について、がん細胞数とCK19 mRNA発現量とを測定した。
【0102】
(1)転移巣サイズの測定およびがん細胞数の計数
実施例4(1)に記載の方法にしたがい、胃がん(非充実低分化腺癌)が転移したリンパ節11個から、厚さ10μmの切片を作成し、免疫組織化学染色を行った。ついで、実施例4(1)記載の方法にしたがい、それらの切片のがん細胞の転移巣サイズ(mm2)を測定した。また、実施例4(1)記載の方法にしたがい、がん細胞の数(細胞数/セクション)を計数した。
【0103】
(2)CK19mRNA定量
上記(1)で切り取った切片に隣接する切片(厚さ約10μm)を切り取り、RNeasy Mini Kit(キアゲン社)を用いてRNA抽出を行い、RNA試料を調製した。ついで、実施例3記載の方法にしたがい、反応液を調製し、RT−LAMPを実施した。
【0104】
mRNAの定量値(コピー/セクション)と、胃がんの転移巣サイズとの関係を図10に示す。定量値とがん細胞数との関係を図11に示す。図10および図11より、CK19mRNAの定量値は、転移巣のサイズおよびがん細胞数に相関することが認められた。従って、リンパ節のCK19mRNAを定量することにより、転移巣のサイズを予測できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の一実施形態による判定装置の全体構成を示した斜視図である。
【図2】図1に示した判定装置の定量手段としての核酸増幅測定装置の全体構成を示した斜視図である。
【図3】図2の核酸増幅測定装置の概略平面図である。
【図4】本発明の一実施形態による判定装置の判定手段としてのパーソナルコンピュータのCPUの転移判定フローである。
【図5】実施例1において算出された、胃がんのリンパ節組織中のCK19のmRNAのコピー数を示すグラフである。
【図6】実施例2において算出された、胃がんのリンパ節組織中のCK19のmRNAの標準化された値を示すグラフである。
【図7】実施例3において算出された、胃がんのリンパ節組織中のCK19のmRNAのコピー数を示すグラフである。
【図8】CK19のmRNA定量値と転移巣サイズとの関係を示すグラフである。
【図9】CK19のmRNA定量値とがん細胞数との関係を示すグラフである。
【図10】CK19のmRNA定量値と転移巣サイズとの関係を示すグラフである。
【図11】CK19のmRNA定量値とがん細胞数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0106】
1 がんの転移判定装置
101 核酸増幅測定装置
51 反応部
52 濁度検出部
102 パーソナルコンピュータ
102c 表示部
102d CPU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃がんの転移が疑われるリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを定量する工程と、
得られたmRNAの定量値に基づいて前記胃がんのリンパ節への転移を判定する工程と、を含む胃がんのリンパ節転移判定方法。
【請求項2】
mRNAの定量値に基づき、胃がんの転移レベルを判定するための指標を得る工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記指標が、転移巣サイズである請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記指標が、転移巣のがん細胞数である請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記定量工程において、前記サイトケラチン19のmRNAが、核酸増幅法を用いて定量される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸増幅法が、定量RT−PCR又は定量RT−LAMPである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記判定工程が、前記mRNAの定量値が過剰のとき、リンパ節転移が陽性であると決定する工程である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記判定工程が、前記mRNAの定量値と予め決定された閾値とを比較し、定量値が閾値と同じまたは閾値未満であるときは胃がんのリンパ節転移陰性であると判定することを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記判定工程が、前記mRNAの定量値と予め決定された閾値とを比較し、定量値が閾値同じまたは閾値を超えるときは胃がんのリンパ節転移陽性であると判定することを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記mRNAの定量値が、前記検出用試料中の前記サイトケラチン19のmRNAの絶対量である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
胃がんの転移が疑われるリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを定量する定量手段と、
得られたmRNAの定量値に基づいて胃がんのリンパ節への転移を判定する判定手段と、を備える胃がんのリンパ節転移判定装置。
【請求項12】
得られたmRNAの定量値に基づき、胃がんの転移レベルを判定するための指標を得る手段を備える、請求項11記載の装置。
【請求項13】
検出試料を調製するためのリンパ節組織の前処理液と、
サイトケラチン19を検出し得るプライマを含むプライマ溶液と、
核酸増幅法を実施するための酵素を含む酵素溶液と、を有する胃がんのリンパ節転移判定用試薬キット。
【請求項14】
前記前処理液がジメチルスルホキシドを含有する緩衝液である、請求項11記載のキット。
【請求項15】
前記酵素溶液が、RNA依存性DNAポリメラーゼ及びDNA依存性DNAポリメラーゼを含有する、請求項13又は14記載のキット。
【請求項1】
胃がんの転移が疑われるリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを定量する工程と、
得られたmRNAの定量値に基づいて前記胃がんのリンパ節への転移を判定する工程と、を含む胃がんのリンパ節転移判定方法。
【請求項2】
mRNAの定量値に基づき、胃がんの転移レベルを判定するための指標を得る工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記指標が、転移巣サイズである請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記指標が、転移巣のがん細胞数である請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記定量工程において、前記サイトケラチン19のmRNAが、核酸増幅法を用いて定量される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸増幅法が、定量RT−PCR又は定量RT−LAMPである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記判定工程が、前記mRNAの定量値が過剰のとき、リンパ節転移が陽性であると決定する工程である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記判定工程が、前記mRNAの定量値と予め決定された閾値とを比較し、定量値が閾値と同じまたは閾値未満であるときは胃がんのリンパ節転移陰性であると判定することを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記判定工程が、前記mRNAの定量値と予め決定された閾値とを比較し、定量値が閾値同じまたは閾値を超えるときは胃がんのリンパ節転移陽性であると判定することを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記mRNAの定量値が、前記検出用試料中の前記サイトケラチン19のmRNAの絶対量である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
胃がんの転移が疑われるリンパ節組織を用いて調製された検出試料中のサイトケラチン19のmRNAを定量する定量手段と、
得られたmRNAの定量値に基づいて胃がんのリンパ節への転移を判定する判定手段と、を備える胃がんのリンパ節転移判定装置。
【請求項12】
得られたmRNAの定量値に基づき、胃がんの転移レベルを判定するための指標を得る手段を備える、請求項11記載の装置。
【請求項13】
検出試料を調製するためのリンパ節組織の前処理液と、
サイトケラチン19を検出し得るプライマを含むプライマ溶液と、
核酸増幅法を実施するための酵素を含む酵素溶液と、を有する胃がんのリンパ節転移判定用試薬キット。
【請求項14】
前記前処理液がジメチルスルホキシドを含有する緩衝液である、請求項11記載のキット。
【請求項15】
前記酵素溶液が、RNA依存性DNAポリメラーゼ及びDNA依存性DNAポリメラーゼを含有する、請求項13又は14記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−194028(P2008−194028A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338580(P2007−338580)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
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