説明

胎盤および/または臍帯から血液を抽出および/または採集する方法および装置

【課題】娩出された胎盤から増量された血液を効果的に得ることができる装置の提供。
【解決手段】娩出された胎盤から血液を抽出および採集する装置は、娩出された胎盤および臍帯を配置および支持する区画チャンバ1を備える。区画チャンバは、柔軟な薄膜7を備える。薄膜は、(好ましくは、薄膜の区画チャンバ側と非区画チャンバ側との間の流体圧、好ましくは、気圧の差の影響下)で変位し、圧力を胎盤に加え、胎盤に含まれた流体を臍帯の方に移動させる。区画チャンバは、臍帯が(好ましくは、密封されて)通過し得る少なくとも1つの出口開口を備え、これによって、柔軟な薄膜の圧力によって胎盤から引出された流体の流れが、区画チャンバから移動し、区画チャンバ外で採集されることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の器官から体液を抽出(extracting)および/または採集(collecting)する方法および装置に関する。特に、本発明は、臍帯血(umbilical cold blood)を抽出および/または採集する方法、装置、および/またはシステムに関する。特に、本発明は、一般的に、娩出された胎盤および/または臍帯から有用な量の血液を得る、臍帯血を抽出および/または採集する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臍帯血(UCB)は、幹細胞の豊富な源としてますます重要になっていることがよく知られている。幹細胞は、分化し、酸素を脳に運ぶ新しい赤血球、人体遺伝系に用いられる新しい白血球、および血液凝固を促進する新しい血小板を作ることが知られている。現在のところ、幹細胞は、45を超える悪性疾患および良性疾患の治療に用いられ得ると見なされている。このような疾患の例として、白血病のような一部の癌、ならびに免疫疾患および遺伝疾患が挙げられる。
【0003】
また、UCBは、骨髄が現在用いられている多くの状況における移植用の幹細胞の源として、容易に入手可能である。従って、例えば、骨髄および末梢血のような幹細胞の他の源の代わりにUCBを用いることは、多くの利点を有する。これらの利点の例として、例えば、UCBの採集に含まれる危険性が少ないまたは存在しないことが、挙げられる。
【0004】
また、UCBは、骨髄を抽出するのに必要とされる一般的な麻酔と関連する危険を冒さずに、採集および収穫することが容易である。また、UCBは、出生時に適切に採集かつ貯蔵されるなら、必要に応じて、容易に入手可能である。また、UCBは、移植に用いられるとき、大抵、ヒトと適合性があることが見出されている。さらに、UCBは、調達コストが安い。また、UCBは、神経修復ならびに骨成長および組織成長を改良する広範囲の潜在的な臨床用途を有することも、明らかになっている。
【0005】
このように、UCBの重要性は、現在、広く認識されている。世界的な規模の血液センタが、両親の承諾または要請を条件として、新生児の娩出の後、UCBを採集および貯蔵することができる。UCBは、新生児の命を守っているが、後半生を迎えるヒトにとっても、極めて有用かつ不可欠になっている。しかし、UCBと関連する1つの問題は、その採集が一回の可能性しかなく、採集される血液の量が現在の血液採集技術を用いた場合には制限されることである。このような現在の血液採集技術として、注射針によって支援される方法および重力によって支援される方法が挙げられる。
【0006】
例えば、非特許文献1に公開されているものを含むわずかな研究がなされている。このような方法は、手動で行なわれている。この仕事は、単調で、やり遂げるのが困難であるが、それと共に、血液を抽出する現在の手法は、その手法自体が、不要な汚染の危険性をもたらす。
非特許文献2によれば、UCB採集の現在の方法は、典型的には、20〜40mlを回収する。新生児の重量および採集時間のような産科的な因子は別として、採集に用いられる手順および機器が、最終的な歩留まりに影響を与える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ベルトリニ(Bertolini)F、ラザリ(Lazzari)L、ラウリ(Lauri)Eら:「臍帯血を採集および貯蔵する種々の手順の比較研究」、J.ヘマトザー(Hematother)、1995、4、29−36
【非特許文献2】マックロー(McCullough)J、ハー(Herr)G,レノン(Lennon)Sら:「貯蔵および移植用の臍帯血の利用可能性に影響を与える因子」、トランスフュージョン(Transfusion)、1998、38、508−510
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、周知の従来技術のいくつかと比較して、娩出された胎盤から増量された血液を効果的に得ることができる臍帯血を採集する装置一式が、当技術分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、娩出された胎盤および/または臍帯から体液を抽出および/または採集する方法において、娩出された胎盤および/または臍帯を用意し、胎盤および/または臍帯に圧力を加え、これによって、体液を抽出および/または採集することを含むことを特徴とする方法が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、−娩出された胎盤および/または臍帯を用意するステップと、−胎盤および/または臍帯を装置の区画チャンバ内に配置するステップと、−臍帯を収集手段に接続するステップと、胎盤および/または臍帯に圧力を加え、これによって、体液を抽出および/または採集するステップとを含み、体液が血液であることを特徴とする方法が提供される。この方法は、脱落を防ぐために、胎盤または臍帯を保持することをさらに含む。
【0011】
さらに、圧力の付加は、流体圧によって達成される。流体は、空気またはガス(気体)、または、液体である。
【0012】
本発明の方法によれば、圧力の付加は、胎盤の周辺から中心に向かう方向において、胎盤に対してなされる。代替的または付加的に、圧力の付加は、母端から新生児端に向かう方向において、臍帯に対してなされてもよい。
【0013】
本発明によれば、娩出された胎盤および/または臍帯から体液を抽出および/または採集する装置において、胎盤および/または臍帯を収容および/または支持する区画チャンバと、流体採集手段とを備える装置が提供される。区画チャンバは、漏斗形状を有しているとよい。
【0014】
装置は、圧力伝達手段と、胎盤および/または臍帯の脱落を防ぐ保持手段とをさらに備える。圧力伝達手段は、一体化シールリングを備える加圧パッドから構成される。この加圧パッドは、場所によって異なる厚みを有し、および/または中心におけるよりも縁において厚い。
【0015】
装置は、区画チャンバに接続可能である圧力作用蓋を備えてもよい。この圧力作用蓋は、圧力源に対する少なくとも1つの入口インターフェイスを備える。圧力源は、圧縮ガスタンク、ガスライン、または液体源であればよい。蓋は、圧力ゲージに対する少なくとも1つのインターフェイスおよび/または出口インターフェイスを備えてもよい。この出口インターフェイスは、真空ポンプに接続される。
【0016】
装置の流体採集手段は、臍帯ポジショナーおよび/またはベンチュリをさらに備えてもよい。ベンチュリは、吸収材料をさらに備えてもよい。流体採集手段は、臍帯の少なくとも1つの血管に挿入される少なくとも1つの管状の注射針および/または大気圧よりも低い圧力を有し得る採集容器をさらに備える。
【0017】
装置は、振動器を用いて胎盤および/または臍帯に振動を加える手段をさらに備えてもよい。装置の区画チャンバは、流体採集手段よりも高く配置されるとよい。
また、本発明によれば、娩出された胎盤および/または臍帯から体液を抽出および/または採集するシステムにおいて、上記の段落で述べた抽出および/または採集装置と、制御手段とを備えるシステムが提供される。制御手段は、制御ソフトウエアを有する少なくとも1つの演算装置と、圧力作用蓋への吸入空気を制御する少なくとも1つの電気機械装置と、を備える。制御手段は、圧力作用蓋内の空気圧を検知する少なくとも1つの電気機械装置および/または圧力作用蓋内の圧力を逃す少なくとも1つの電気機械装置をさらに備えてもよい。制御手段は、振動器用の少なくとも1つの制御手段をさらに備えてもよく、制御ソフトウエアは、オープンアーキテクチャを有していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】制御装置と流体連通する血液採取ユニットの説明図である。
【図2】血液採集ユニットの部分的な断面透視図である。
【図3】制御装置と流体連通して係合する胎盤トレイの説明図である。
【図4】図2の血液採集ユニットを分解して示す部分的な断面透視図である。
【図5】蓋を取り外した状態の胎盤の透視図である。
【図6A】胎盤トレイの臍帯ポジショナーの透視図である。
【図6B】胎盤、臍帯ポジションナー、および包装材の概略図である。
【図7】蓋は取り外されているが、カバー、すなわち、加圧パッドがトレイの内部空洞の上方に配置されている状態のトレイの透視図である。
【図8】図1に示されるような血液採集ユニットを備える臍帯血採集装置一式の概略図である。
【図9】加圧パッドの部分透視図である。
【図10】図9の他の透視図である。
【図11】制御システムのユーザインターフェイスを示す図である。
【図12】加圧パッドの直径方向における厚みの好ましい変化、具体的には、パッドの周囲に設けられた加圧領域の厚い部分を示す、加圧パッドの断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、器官から体液を抽出および採集する方法、装置、および/またはシステムに関する。特に、本発明は、娩出された胎盤および/または臍帯から臍帯血を抽出および/または採集する方法に関する。また、この方法を実施する装置または装置一式、およびシステムの示唆も含む。
【0020】
母親から分離、すなわち、娩出されるとき、胎盤は、母親に付着した母側と、新生児に付着した臍帯の側である新生児側とを有する。同様に、臍帯が胎盤から分離、すなわち、切断されるとき、臍帯は、胎盤に最も近い端である母端と、新生児に最も近い端である新生児端とを有する。
【0021】
本発明では、器官(この例では、胎盤および/または臍帯)は、収容および/または支持され、脱落を防ぐために、さらに固定または保持されてもよい。次いで、血液を臍帯から外に押し出すために、圧力が、胎盤の母側から胎盤の新生児側に向かう方向において、胎盤に加えられる。これは、血液が(例えば、注射器による)真空力のみによって抽出されるかまたは重量のみによって排出される従来技術の方法とは、対照的である。本発明のいくつかの実施形態では、胎盤は、胎盤の母側の面が最も高く、臍帯が胎盤の下側の中心にくる位置に、配置される。このような位置で、圧力が胎盤の周辺から胎盤の中心に向かう方向に加えられる。
【0022】
もし臍帯のみが用意される場合、圧力は、臍帯の母端から臍帯の新生児端に向かう方向に加えられる。
【0023】
圧力は、液体または気体のような流体、好ましくは、空気のような気体によって、供給されるとよい。圧力は、加圧パッドのような圧力伝達手段に対して加えられる。代替的に、圧力は、手動によって加えられてもよく、またはローラのような他の機械的な手段によって、加えられてもよい。
【0024】
このようにして抽出された血液は、負気圧下にあってもよいし負気圧下になくてもよい容器に採集される。代替的に、血液は、臍帯の1つまたは複数の血管に挿入される管状注射針によって、採集されてもよい。
【0025】
本発明の好ましい実施形態は、本発明の装置または装置一式を含み、本発明の方法を実施する自動化システムである。
【0026】
好ましい実施形態は、以下の4つの主要部品、すなわち、臍帯ポジショナーを有する胎盤トレイであって、第1区画チャンバをなす胎盤トレイと、制御された圧力分布をもたらす空気圧作用システムを有する気密チャンバであって、第1チャンバと圧力作用蓋から形成される気密チャンバと、調整可能な一体化振動構造体と、システムの全体の機能を実行するオープンアーキテクチャ・ソフトウエア制御システムを備えている。
【0027】
「部品」
【0028】
「胎盤トレイおよび臍帯ポジショナー(区画チャンバ)」
【0029】
胎盤トレイ1は、好ましくは、わずかな逆勾配の付いた(円錐形状)、すなわち、円錐の中心が円錐の周辺よりも低い形状を有するモジュール式部品である。この胎盤トレイは、(好ましくは、ステンレス鋼製の)支持構造体2の全体の一部をなす。胎盤トレイは、胎盤をその母側を上に向けて新生児側を下に向けて支持する支持基部として機能する。臍帯は、新生児側を先にして、図6Bに示されるように、プラスチック製の臍帯ポジショナー3によって形成される漏斗状要素のベンチュリ構造内に通される。ベンチュリ構造と臍帯ポジショナーは、血液採集手段の一部をなす。胎盤は、汚染の可能性を低減させるために、トレイ内に配置される前、包装材4に包み込まれてもよい。臍帯ポジショナー3は、好ましくは、使い捨て吸収剤によって囲まれる。臍帯ポジショナーは、胎盤から臍帯ポジショナーに流れる流体が、他の部分の上およびベンチュリ内を流れることなく、吸収されるように、使い捨て吸収材料を含むか、または使い捨て吸収材料によって囲まれる。従って、どのような吸収材料も設けられていない場合と比べて、この吸収材料によって、装置を清浄に保つことができる。すなわち、このポジショナーは、血液を吸収する吸収材料によって、胎盤の表面からベンチュリ内に滴下する汚染された血液に対して、機械的なフィルターとして作用する。
【0030】
一体化シールリング8を有する、場所によって厚みが異なるシリコーン製の加圧パッド7は、圧力伝達手段として機能し、好ましい実施形態では、胎盤の脱落を防ぐ保持手段としても機能する。このパッドは、胎盤を胎盤トレイ内に捕捉するために、胎盤の母側の上方の位置にスナップ嵌合される。このパッドは、3つの機能を果たす。すなわち、このパッドは、滑りやすい胎盤を適所に維持するように機能し、圧力作用蓋9と胎盤トレイ基板10との間の間隙を空気密閉するように機能し、さらに、場所によって厚みを異ならせるように意図した設計によって、空気圧が加えられるとき、その空気圧を、胎盤の母側の全域にわたって、胎盤の周辺から胎盤の中心の臍帯に向かって半径方向に均一に分布させるように機能する。これによって、圧力が、胎盤の母側から胎盤の新生児側の臍帯に向かう全方向において、加えられる。図12を参照すると、シリコーン製の加圧パッドは、加圧パッドの中央およびその近傍よりも加圧パッドの圧力部となる周辺において、より厚い肉厚を有している。また、加圧パッドは、平坦な形状ではなく、下側または内側に、パッドの直径に沿ってわずかに湾曲した2つの凹面を有している。
【0031】
「空気圧作用システム」
【0032】
空気圧作用システムは、スナップ嵌合または固着によって胎盤トレイ1に接続される圧力作用蓋9を備えている。この圧力作用蓋9は、胎盤トレイ1およびポジショナー3と一緒に、気密チャンバ13をなす。加圧パッド7の一体部品であるシールリング8は、空気漏れをなくすために用いられる。蓋9は、標準的な空気管類への3つのインターフェイスを収容している。1つのインターフェイス14は、圧縮空気源とサーボ弁を介して繋がっている空気管類に接続される。圧縮空気源は、空気圧縮機(図示せず)に接続される空気シリンダーまたは空気ラインであればよい。第2インターフェイス15は、ボックス17の内側の圧力センサに接続される。この圧力センサは、チャンバ圧を測定し、制御ループの一部をなす。圧力制御装置によって弁開口を直接操作することによって、実際のチャンバ圧を所望のプロファイルに従って変化させることができる。このようにして、胎盤から血液をより早くかつより滑らかに流出させるマッサージ運動が、胎盤に与えられる。第3インターフェイス16は、チャンバ内の空気圧を大気圧と平衡に保つように排気過程を促進するために、真空ポンプに接続される。
【0033】
「振動構造体」
【0034】
ステンレス鋼構造体は、この構造の全体に対して高周波振動を生成することができる振動器20と一体化される。このようにして、胎盤は、常に自然に傾斜した位置に保持される。換言すると、胎盤は、最小のエネルギーの自然な位置で配置されると、装置の振動によって、血液の充分な抽出を確実にする適切な位置に移動することができる。従って、血液の流れを遮る隘路と凝固を低減させることができる。振動の量は、振動制御装置を介して、調整可能である。
【0035】
「オープンアーキテクチャ・ソフトウエア制御システム」
【0036】
一体化された完全なシステムが、図8に概略的に示されている。オープンアーキテクチャ・ソフトウエア制御システムは、システムの全機能を実施する。このシステムは、異なるチャンバ圧プロファイルを与えるように、プログラムを作成することができる。閉ループ制御によって、所望のプロファイルに従った正確な圧力の制御が、確実になされる。チャンバ圧を許容できる閾値内に維持するように、警報機能および安全機能を実施することができる。システムを操作するユーザインターフェイスが、図11に示されている。
【0037】
「試験結果」
【0038】
6つの娩出された胎盤を用いて、この装置を試験した。採集したUCBの全量の平均値は、58.25mlであった。また、追加的な改良に関して、この装置を試験した。注射針によって支援された採集手順が完了した後、この試験を行なった。注射針によって支援された採集に対するこの装置の平均的な収率は、28.6%であった。この収率は、採集された全量に対するこの装置によって追加的に採集された量の比率を表している。
【0039】
<他の利点>
【0040】
これらの4つの主要部品は、事実上、モジュール化されているので、各部品を他の部品が使用されている間に修正または置換することができる。この特徴によって、同じ装置を用いる繰り返し操作が容易になる。総括的に述べると、これらの4つの部品は、胎盤を高周波振動と制御される空気圧の組合せによって、胎盤から採集管に向かう血液の流れを最大にするように胎盤を処理する電気機械装置一式をなす。加えて、胎盤と直接的または間接的に接触する可能性のある重要な部品の全てを容易に殺菌することができ、また採集した血液から汚染物をろ過によって除去するように設計することもできる。当業者であれば、この装置の部品は、好ましくは、病源菌による汚染を最小にするために、予め殺菌した部品として設けられることも認めるだろう。圧力チャンバの一部をなす部品に対して、いくつかの材料(例えば、ステンレス鋼)を用いたが、当業者であれば、本発明は、このような材料に制限されず、他の材料も適切に用いられ得ることを理解するだろう。従って、これらの部品を殺菌する適切な手段(例えば、ガンマ線照射または紫外線放射、エチレンオキシドへの暴露、化学的殺菌または蒸気オートクレーブ処理)が用いられてもよい。
【0041】
本発明の好ましい実施形態のこれまでの記述は、例示の目的でなされたものである。従って、本発明を網羅するものではなく、または本発明を開示された緻密な形態に制限するものでもない。何故なら、本発明の多くの修正または変更が、前述の示唆に照らして可能だからである。このような修正および変更は、全て、本発明の範囲内に含まれる。ここに記載された実施形態は、本発明の原理とその実際の用途を最もよく説明するために選択され、かつ説明されたものである。従って、当業者であれば、本発明を、意図された特定の用途に適する種々の実施形態および種々の修正形態で、利用することができるだろう。添付の特許請求の範囲が法的かつ公平に適合する充分な広さに従って解釈されるとき、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって定義されることが、意図されている。
【0042】
当業者であれば、本発明が、胎盤から切除または摘出された臍帯に適合するように容易に修正され得ることを認めるだろう。臍帯を保持または固定する胎盤トレイの代わりに、浅い樋または2つの互いに平行に延在する隆起支持体を有するトレイを用いて、臍帯を支持することができる。本発明の一実施形態では、臍帯血の抽出および採集を、胎盤から隔離された臍帯に対して行なうことができる。隔離された臍帯は、適切な幅と深さを有する浅い樋内に支持され、臍帯の母端が保持手段によって保持される。採集手段が、臍帯の新生児端に取り付けられる。樋は、臍帯の母端が新生児端よりも高いレベルに位置するように、水平から傾斜した角度で支持される。次いで、適切な直径のローラが、樋の上端に配置され、手動で回転されるか、または樋に沿ってゆっくりと均一に下方に自転し、圧力を母端から胎児端に向かう方向に沿って臍帯に加え、臍帯の血管内の血液を抽出し、その血液が採集手段によって採集される。
【0043】
このシステムは、ユーザの要望に応じて簡素化または複雑化されてもよい。例えば、本発明は、1つのみの手動制御される空気入口を有するように実施されてもよい。同様に、振動器は、手動でスイッチを入れるようにされてもよく、圧力作用蓋内の空気は、手動操作される逃し弁によって大気と平衡を保つようにされてもよい。このように、本発明は、必要に応じて、自動化部品を昇格させまたは簡単な部品に降格させる能力を有するモジュール式である。
【0044】
当業者であれば、本発明の一態様の好ましい実施形態が、娩出された胎盤から血液を抽出および採集する装置であって、娩出された胎盤および臍帯を配置および支持する区画チャンバを画定する手段を備える装置であることを理解するだろう。前記区画チャンバは、柔軟な薄膜を備える。この薄膜は、(好ましくは、薄膜の区画チャンバ側と非区画チャンバ側との間の流体圧、好ましくは、気圧の差の影響下)で変位し、圧力を少なくとも胎盤に加え、前記胎盤に含まれた流体を臍帯の方に移動させる。前記区画チャンバは、前記臍帯が(好ましくは、密封されて)通過し得る少なくとも1つの出口開口を備え、これによって、柔軟な薄膜の圧力によって前記胎盤から引出された流体の流れが、前記区画チャンバから少なくとも部分的に移動し、区画チャンバ外で採集されることが可能になる。
【0045】
装置の区画チャンバは、前記臍帯が前記出口開口を通過し得るように、前記胎盤を(直接的にまたは間接的に)支持することができるトレイ状領域を備える。区画チャンバは、加圧されてもよい。
【0046】
柔軟な薄膜は、蓋をするようにして、前記トレイ状領域に設けられ、前記区画チャンバを画定する。装置は、前記区画チャンバと隔膜ポンプの関係が得られるように、前記柔軟な薄膜の上方に配置され得る加圧キャップを有していてもよい。圧力キャップは、前記柔軟な薄膜の反対側、すなわち、前記柔軟な薄膜の前記トレイ側に加圧可能な囲いを形成する。圧力キャップは、剛性であるとよい。トレイも剛性であるとよい。
【0047】
当業者であれば、本発明の他の態様の好ましい実施形態が、娩出された胎盤から血液を採集するUCB採集システムであることを理解するだろう。このシステムは、(a)胎盤と臍帯を配置する手段と、(b)胎盤を空気封止し、その場に保持する手段と、(c)均一に分布した空気圧を所望の圧力プロファイルに従って胎盤の母側面の全域にわたって加える手段と、(d)手段(a),(b),(c)に振動を生じさせる手段と、(e)システムの全体の制御を行なう手段と、を備える。
【0048】
システムの胎盤配置手段は、胎盤が着座する好ましくはわずかに円錐状のモジュール式要素と、臍帯を採集点に導くのに、好ましくはプラスチック部品を用いるベンチュリと、を有する。
【0049】
ベンチュリは、胎盤の表面の汚染された血液を濾過によって除去する硬質の機械的なフィルターとしても作用する。空気封止および胎盤保持手段は、好ましくは、場所によって厚みが異なるシリコーン製の加圧パッドから構成される。
【0050】
本発明のシステムでは、空気封止および胎盤保持手段は、胎盤の上方の位置にスナップ嵌合される一体化シールリングを有する。この空気封止および胎盤保持手段は、空気チャンバを密封し、胎盤を適所に保持し、空気圧を、胎盤の周辺から胎盤の中心の臍帯に向けて均一に分散させて、胎盤に加える。空気圧作用手段は、気密チャンバから構成され、空気が圧縮空気源からこの気密チャンバ内に制御して流入され、これによって、空気圧を加圧パッドに加える。
【0051】
システムの振動生成手段は、手段(a),(b),(c)を保持または支持する構造体に取り付けられる振動器から構成される。この振動器は、高周波振動をこの構造体に生じさせ、これによって、胎盤を自然な位置に保持し、血液の流れに対する隘路および凝固を低減させる。
【0052】
このシステムの制御手段は、所望の圧力プロファイルを生成し、これらのプロファイルに正確に追従してチャンバ圧力を制御し、さらに警報手段と逃し手段を備えてもよいオープンアーキテクチャ・ソフトウエア制御システムから構成される。
【0053】
[文献]
Bertolini F., Lazzari L., Lauri E. et al. Comparative study of different procedures for the collection and banking of umbilical cord blood. J Hematother 1995:4:29-36.
McCullough J., Herr G., Lennon S. et al. Factors influencing the availability of umbilical cord blood for banking and transplantation. Transfusion 1998:38:508-510.







【特許請求の範囲】
【請求項1】
娩出された胎盤および/または臍帯から体液を抽出および/または採集する装置において、
前記胎盤および/または臍帯を収容および/または支持する区画チャンバと、
圧力伝達手段であって、前記圧力伝達手段は、加圧パッドから構成され、前記加圧パッドは、場所によって異なる厚みを有する、圧力伝達手段と、
体液採集手段と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記加圧パッドは、中心よりも縁において厚いことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記加圧パッドは、その下側または内側に、前記加圧パッドの直径に沿った2つの凹面を有することを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記加圧パッドは、一体化シールリングを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
娩出された胎盤および/または臍帯から体液を抽出および/または採集する方法において、
娩出された胎盤および/または臍帯を用意するステップと、
圧力伝達手段を用いることによって圧力を加え、前記胎盤および/または臍帯に振動を加える手段を用いることによって振動を加え、これによって、前記体液を抽出および/または採集するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記振動を加えるステップは、前記胎盤および/または臍帯を自然に傾斜した位置に保持するステップを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
娩出された胎盤および/または臍帯から体液を抽出および/または採集する装置において、
前記胎盤および/または臍帯を収容および/または支持する区画チャンバと、
圧力伝達手段と、
振動を加える手段と、
流体採集手段と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項8】
前記振動を加える手段は、振動器であることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記振動を加える手段は、前記胎盤および/または臍帯を自然に傾斜した位置に保持することを含むことを特徴とする請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
胎盤および/または臍帯から体液を抽出および採集する駆動システムにおいて、請求項7〜9のいずれか1項に記載の抽出および/または採集装置と、圧力制御手段と、を備えることを特徴とする駆動システム。
【請求項11】
胎盤および/または臍帯から体液を抽出および/または採集する駆動システムにおいて、
請求項5〜8いずれか1項に記載の抽出および/または採集装置と、
圧力制御手段と、
を備えることを特徴とする駆動システム。
【請求項12】
前記圧力制御手段は、
制御ソフトウエアを有する少なくとも1つの演算装置と、
圧力作用蓋への吸入空気を制御する少なくとも1つの電気機械装置であって、前記圧力作用蓋は、前記区画チャンバと接続可能である、少なくとも1つの電気機械装置と、
を備えることを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記圧力制御手段は、圧力作用蓋内の空気圧を検知する少なくとも1つの電気機械装置をさらに備えることを特徴とする請求項11または12に記載のシステム。
【請求項14】
前記圧力制御手段は、前記圧力作用蓋内の圧力を逃す少なくとも1つの電気機械装置をさらに備えることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記圧力制御手段は、振動器用の少なくとも1つの制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載のシステム。




【図6B】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−206575(P2011−206575A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140413(P2011−140413)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【分割の表示】特願2007−544312(P2007−544312)の分割
【原出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(507335687)ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール (28)
【Fターム(参考)】