説明

胎盤機能の網羅的かつ非侵襲的評価方法および検査用試薬

【課題】胎盤機能の評価および胎盤機能の異常に関連する疾患の診断などに役立ち得る手段の提供。
【解決手段】妊娠している対象から採取された体液試料中の胎盤由来遺伝子群から選ばれる複数の遺伝子の発現量を測定することを含む、胎盤機能の評価方法;該遺伝子群から選ばれる複数の遺伝子の発現量を測定するための物質を含有する、胎盤機能の検査用試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胎盤機能の評価方法、胎盤機能の検査用試薬などに関する。
【背景技術】
【0002】
胎盤機能の推察は、妊娠合併症などの早期診断・治療につながることから、産科領域の重要課題の一つである。しかしながら、現在のところ胎盤機能を推察することはきわめて困難とされ、臨床的には羊水量や胎児発育の計測、あるいは胎児の心拍数図など総合的な臨床所見から間接的に推察しているに過ぎない。また、これらの方法で異常がある可能性が高い場合、羊水の採取などにより、より確かな診断を行う方法もあるが、羊水採取には流産の危険性がある。また、一般的にこれらの診断は、妊娠12週〜17週の患者が対象である。したがって、胎盤機能を推定するマーカーの同定が必要であり、これまでにもクレアチンキナーゼ(非特許文献1)あるいはα−フェト蛋白(非特許文献2)などの生体因子がその候補として注目されたが、いずれの仮説も証明されていない。
【0003】
近年、妊娠高血圧症候群、癒着胎盤、妊娠悪阻あるいは胎児発育遅延(IUGR)などの妊娠合併症を伴う症例において、母体血漿中へ流入する胎児DNA(cell free DNA:cff−DNA)量が増加していることから、cff−DNAは胎盤機能を推定する分子マーカーとして注目されている(非特許文献3)。また、妊娠7週〜11週には、母体血漿中の胎児DNAを用いて胎児の性別診断、RhD型判定あるいは遺伝子異常の有無を診断することが可能であり、すでに欧米では臨床応用されている(非特許文献4)。しかし、cff−DNAはY染色体上の遺伝子領域をターゲットにして検出されるため、対象が男児を妊娠した症例に限定されるという制約がある(非特許文献5)。
【0004】
一方、本発明者らは、リアルタイム定量的PCRを用いて、母体血漿中の胎児胎盤由来mRNA(cell free fetal/placental mRNA:cff−mRNA)を定量化することにより、癒着胎盤を伴う症例および絨毛癌を伴う症例の治療効果のモニターが可能であったことを報告している(非特許文献6)。しかし、リアルタイム定量的PCRでは、個々のcff−mRNAをそれぞれ定量化するため、分子機序に多数の遺伝子が関与する病態の評価には適さないという問題がある。
【非特許文献1】Ophir et al., Obdyry Gynecol 1999; 180: 1039-1040
【非特許文献2】Kupferminc et al., Obstet Gynecoll 1993; 82: 266-269
【非特許文献3】Bauer et al., Prenat Diagn. 2006; 26(9):831-836
【非特許文献4】Bianchiet al., Placenta. 2004; 25 Suppl A:S93-S101
【非特許文献5】Pertl et al., Obstet Gynecol. 2001; 98(3):483-90
【非特許文献6】Masuzaki et al., Clinical Chemistry 2005; 51: 1261-3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、非侵襲的で、かつ簡便で確実な胎盤機能の評価および胎盤機能の異常に関連する疾患の診断などに役立ち得る手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、羊水中のcff−DNAを用いたマイクロアレイCGH法の技術を母体血漿中の胎盤特異的cff−mRNAの定量化に応用すれば、胎盤機能を推察するcDNAチップの作製が可能となり検査キットの開発へつながると考えた。そこで、54,000個のcDNAをGeneChip法でスクリーニングし、母体白血球では発現を認めないが、胎盤では特異的に発現している49個の遺伝子、並びに胎盤機能により体液試料中の発現量が変動する遺伝子としてGAPDHを同定し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は次の通りである。
〔1〕妊娠している対象から採取された体液試料における、胎盤由来遺伝子群PLS−001〜PLS−050からなる群より選択される1または2以上の遺伝子の発現量を測定することを含む、胎盤機能の評価方法。
〔2〕少なくともPLS−041、PLS−044、PLS−049、PLS−025、PLS−050、PLS−005、PLS−048およびPLS−013からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量を測定することを含む、上記〔1〕記載の方法。
〔3〕遺伝子群PLS−001〜PLS−050の発現量を測定することを含む、上記〔1〕記載の方法。
〔4〕胎盤機能の異常に関連する疾患を発症しているか否か判定する方法である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕胎盤機能の異常に関連する疾患が、妊娠高血圧症候群、癒着胎盤、常位胎盤早期剥離、双胎間輸血症候群、前置胎盤、胎児発育遅延、子宮外妊娠、存続絨毛症、絨毛性疾患および習慣流産からなる群より選択される疾患である、上記〔4〕記載の試薬。
〔6〕胎盤由来遺伝子のcff−mRNA量を測定する、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕体液試料が血漿である、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕妊娠している対象から採取された体液試料における、胎盤由来遺伝子群PLS−001〜PLS−050からなる群より選択される1または2以上の遺伝子の発現量を測定するための物質を含有する、胎盤機能の検査用試薬。
〔9〕少なくともPLS−041、PLS−044、PLS−049、PLS−025、PLS−050、PLS−005、PLS−048およびPLS−013からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量を測定するための物質を含む、上記〔8〕記載の試薬。
〔10〕遺伝子の発現量を測定するための物質が、胎盤由来遺伝子群PLS−001〜PLS−050からなる群より選択される1または2以上の遺伝子の各ヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列を有する核酸分子またはその群が固定化された核酸アレイとして提供される、上記〔8〕記載の試薬。
〔11〕該核酸アレイ上に、PLS−041、PLS−044、PLS−049、PLS−025、PLS−050、PLS−005、PLS−048およびPLS−013からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列を有する核酸分子が固定化されている、上記〔10〕記載の試薬。
〔12〕該核酸アレイ上に、胎盤由来遺伝子群PLS−001〜PLS−050の各ヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列を有する核酸分子またはその群が固定化されている、上記〔10〕記載の試薬。
〔13〕胎盤機能の異常に関連する疾患を発症しているか否か評価するための試薬である、上記〔8〕〜〔12〕のいずれかに記載の試薬。
〔14〕胎盤機能の異常に関連する疾患が、妊娠高血圧症候群、癒着胎盤、常位胎盤早期剥離、双胎間輸血症候群、前置胎盤、胎児発育遅延、子宮外妊娠、存続絨毛症、絨毛性疾患および習慣流産からなる群より選択される疾患である、上記〔13〕記載の試薬。
〔15〕妊娠している対象から採取された体液試料における、cff−hPL−mRNAを定量することを含む、癒着胎盤または双胎間輸血症候群に罹患しているか否か評価する方法。
〔16〕妊娠している対象から採取された体液試料における、cff−hPL−mRNAを測定するための物質を含有する、癒着胎盤または双胎間輸血症候群に罹患しているか否か評価するための試薬。
【発明の効果】
【0008】
本発明の評価方法は、例えば、胎盤機能の異常の有無の判定、並びに胎盤機能の異常に関連する疾患の有無や重症度の判定に有用であり得る。本発明の評価方法はまた、簡便、迅速であり、高感度および特異性も高いというメリットを有し得る。
本発明の試薬は、例えば、胎盤機能の異常の有無の判定、並びに胎盤機能の異常に関連する疾患の有無や重症度の判定に有用であり得、また、本発明の評価方法を行うための簡便な手段としても有用であり得る。
疾患の発症には様々なタンパク質が関連するので、一度に様々な遺伝子を検出することができる本発明の評価方法および本発明の試薬は、より確実な疾患の診断に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、胎盤機能の評価方法(以下、本発明の評価方法)を提供する。
【0010】
本発明の評価方法は、妊娠している対象由来の体液試料中の胎盤由来遺伝子(以下、標的遺伝子ともいう)の発現量を測定することを含む。
【0011】
本発明において標的遺伝子の発現量を測定するために用いる体液試料は、妊娠している対象から採取された体液であり、具体的には、血液(血清、血漿など)、尿、羊水、頸管粘液、子宮内腔液、卵管内腔液などが挙げられる。この中でも羊水および血液が好ましく、羊水および血漿がより好ましい。なお、これらの体液試料は、所定の処理(例、分画処理)に供されたものであってもよい。体液試料が由来する対象としては、妊娠している哺乳動物であり、霊長類、げっ歯類、実験用動物、家畜、ペットなどが挙げられる。具体的には、ヒト、サル、ラット、マウス、ウサギ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコなどが挙げられる。好ましくは、体液試料が由来する対象は妊娠しているヒトである。体液試料が由来する対象の妊娠経過週は特に限定されず、いかなる妊娠経過週の対象由来の体液試料であっても、本発明の評価方法に用いることができる。本発明で用いられる体液試料は、妊娠している対象から採取された体液試料であるが、特定の局面では、本発明の評価方法は、妊娠している対象から体液試料を採取することを含み得る。
【0012】
胎盤由来遺伝子とは、母体白血球では実質的には発現を認めないが、胎盤では特異的に発現している遺伝子、並びに胎盤機能の異常に伴い体液中の発現量が変動する遺伝子をいい、具体的には、後述の表1中のPLS−001〜PLS−050で表される遺伝子群(PLS遺伝子群)をいう。PLS−051〜PLS−055は内部コントロールとして用いることができる。
【0013】
本発明の評価方法において発現量が測定される遺伝子の数は、特に限定されず、上記PLS遺伝子群から選択された少なくとも1つの遺伝子の発現量を測定すればよい。評価の精度を向上させる目的で、上記PLS遺伝子群から選択された、例えば2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、更により好ましくは30以上、一層より好ましくは40以上、最も好ましくは50の遺伝子の発現量を測定してもよい。
一実施態様において、本発明の評価方法で発現量が測定される遺伝子には、少なくともPLS−041(hPL(CSH1))、PLS−044(hCG−β(CGB))、PLS−049(PSG2)、PLS−025(PSG3)、PLS−050(GAPDH)、PLS−005(Syncytin(ERVWE1))、PLS−048(Syncytin2(HERV−FRD))およびPLS−013(ADAM12)からなる群から選択された少なくとも1つ、好ましくは2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、最も好ましくは8つが含まれている。この場合、前述の8遺伝子以外のPLS遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子が更に含まれていてもよい。
前述の8遺伝子以外のPLS遺伝子を更に含む場合、更に含まれる遺伝子の数は、例えば1以上、好ましくは4以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは19以上、更により好ましくは29以上、一層より好ましくは39以上、最も好ましくは42である。
【0014】
また、別の一実施態様において、本発明の評価方法で発現量が測定される遺伝子には、少なくともPLS−041(hPL(CSH1))、PLS−044(hCG−β(CGB))、PLS−049(PSG2)、PLS−025(PSG3)、PLS−050(GAPDH)、PLS−005(Syncytin(ERVWE1))、PLS−048(Syncytin2(HERV−FRD))、PLS−013(ADAM12)、PLS−008(TGPI)、PLS−016(PSG9)、PLS−024(CYP19A1)、PLS−040(ALPP)、PLS−006(INHBA)、PLS−026(PPAP2B)、PLS−027(P11)、PLS−033(PKIB)、PLS−034(CXCL14)、PLS−035(PEG3)、PLS−036(ESRRG)、PLS−041(CSH1)からなる群から選択された少なくとも1、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、最も好ましくは20が含まれている。この場合、前述の20遺伝子以外のPLS遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子が更に含まれていてもよい。
前述の20遺伝子以外のPLS遺伝子を更に含む場合、更に含まれる遺伝子の数は、例えば1以上、好ましくは4以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは19以上、更により好ましくは29以上、最も好ましくは30である。
【0015】
具体的には、本発明の評価方法は、i)妊娠している対象から採取した体液試料における、PLS遺伝子群から選択された1または2以上の遺伝子の発現量を測定し、ii)測定された発現量に基づき、対象の胎盤機能を評価することを含む。遺伝子の発現量の測定は、各遺伝子の遺伝子産物(転写産物または翻訳産物)の発現量を測定することにより行われる。
【0016】
本発明の評価方法の工程i)において、遺伝子の転写産物の発現量を測定する場合、まず体液試料より遺伝子の転写産物を調製する。転写産物の調製は、当該分野で周知の方法によって行うことができ、また、市販のキットを用いて行ってもよい。体液試料としては血液(血清、血漿など)、尿、羊水、頸管粘液、子宮内腔液、卵管内腔液などを、転写産物としては成熟mRNAまたはこれを含む全RNAを用いることが好ましい。母体血漿中には、無細胞胎児胎盤由来mRNA(cell free fetal/placental mRNA(cff−mRNA))が流入することが知られている(Masuzaki et
al., Clinical Chemistry 2005; 51: 923-5)。本発明の評価方法においては、転写産物として、無細胞mRNA(cf−mRNA)、とりわけcff−mRNAを用いることが特に好ましい。転写産物としてcf−mRNA(例えばcff−mRNA)を用いる場合、cf−mRNAの調製は以下のようにして行うことができる。例えば、EDTAを添加した体液試料(血液等)を16,000xg、10分間遠心し、得られた上清をさらに同様に遠心する2段階遠心分離法に付すことにより、体液上清(血漿等)を採取する。得られた上清をトライゾール処理した後、市販のRNA抽出用キット(QIAGEN RNeasy mini kit等)を用いて、RNAを抽出することによりcf−mRNAを得ることができる。
【0017】
標的遺伝子の発現量の測定は、標的遺伝子の転写産物または翻訳産物を対象として自体公知の方法により行うことができる。例えば、標的遺伝子の転写産物の発現量は、体液試料からの総RNAの調製後、PCR(例、RT−PCR、リアルタイムPCR、定量的PCR)、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)(例えば、WO00/28082参照)、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)(例えば、WO00/56877参照)等の遺伝子増幅法、あるいはノザンブロッティング、核酸アレイなどにより測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、体液試料からの抽出液の調製後、免疫学的手法により測定され得る。このような免疫学的手法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、サンドイッチELISA)、放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、免疫クロマト法、ルミネッセンス免疫測定法、スピン免疫測定法、ウエスタンブロット法、免疫組織化学的染色法が挙げられる。標的遺伝子の発現量の測定を可能とする上記以外の方法としては、例えば、質量分析法が挙げられる。標的遺伝子の発現量の測定はまた、後述の試薬および核酸アレイを用いて行われ得る。特に好ましくは、標的遺伝子の発現量の測定は、核酸アレイを用いて行われ得る。
【0018】
転写産物の発現量を測定する場合には、測定値を公知の方法によって補正することが出来る。補正により、独立した複数の体液試料における転写産物の発現量をより正確に比較することが可能となる。測定値の補正は、上記体液試料において、発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、ハウスキーピング遺伝子)の発現量の測定値に基づいて、上記遺伝子の発現量の測定値を補正することにより行われる。発現レベルが大きく変動しない遺伝子の例としては、β−アクチン等を挙げることが出来る。
【0019】
次いで、標的遺伝子の発現量の測定結果に基づき、妊娠している対象の胎盤機能が評価され得る。胎盤機能が正常な対象と胎盤機能が異常な対象との間では標的遺伝子の発現量に差異が認められることから、例えば、胎盤機能が正常な対象および胎盤機能が異常な対象を識別し得るカットオフ値を適宜設定することで、このような評価が可能となる。
【0020】
本発明の評価方法の工程ii)では、測定された発現量に基づき、妊娠している対象の哺乳動物の胎盤機能が評価される。例えば、測定された遺伝子の発現量を、健常な妊娠している哺乳動物から採取した体液試料における当該遺伝子の発現量と比較して、有意に発現量が高いまたは低い場合に、測定対象の哺乳動物は胎盤機能が異常である可能性が高いと判断される。発現量の上昇または低下が有意である限り、発現量の上昇または低下の程度は特に限定されないが、測定された発現量が、例えば約1.2倍以上、好ましくは約2倍以上、より好ましくは約5倍以上、最も好ましくは約10倍以上健常哺乳動物における発現量と比較して高いまたは低い場合に、測定対象の哺乳動物は胎盤機能が異常である可能性があると判断され得る。発現量の比較は、例えば核酸アレイにより測定を行った場合には、そのシグナル強度に基づき行うことが出来る。
【0021】
あるいは、予め蓄積されていた胎盤機能の異常の有無と、PLS遺伝子の発現量との相関データと照合し、単独または複数のPLS遺伝子の絶対的または相対的な発現量の有意差などに基づいて哺乳動物の胎盤機能が異常であるか否かを評価してもよい。
【0022】
例えば、予め胎盤機能が異常である対象におけるPLS遺伝子の発現量を測定し、胎盤機能が異常でない対象における標準値を設定する。この標準値をもとに、例えば±2S.D.の範囲が許容範囲とされる。遺伝子発現量の測定値に基づいて、標準値や許容範囲を設定する手法は公知である。標準値を設定した後には、被験哺乳動物から採取された体液試料におけるPLS遺伝子の発現量のみを測定し、予め設定された標準値との比較に基づいて、胎盤機能が異常であるか否かを評価することができる。
【0023】
また、予め蓄積されていた発現量データとしては、本発明で提供されるPLS遺伝子群の各遺伝子に関する既存の如何なる発現量データも用いることができ、例えば、後述の本発明の作成方法で提供される胎盤機能の異常に関連する疾患の検査基準用データを用いてもよい。
【0024】
胎盤機能とは、胎児の正常な発育・発達に必要な酸素、血液および栄養を供給することであり、その異常により子宮内胎児発育遅延、胎児仮死、妊娠高血圧症候群など様々な病態を引き起こすと考えられている。一実施態様において、胎盤機能の評価とは、胎盤機能の異常の有無の評価であり、具体的には、胎児への酸素、血液又は栄養供給の異常の有無やそれにより引き起こされる種々の病態の評価である。現在ではその評価方法として、超音波断層法による羊水量の測定およびドプラ法による血管抵抗の測定、あるいは胎児心拍数モニター、母体血中のhPLまたはE3の測定などが用いられている。また、別の一実施態様において、胎盤機能の評価とは、胎盤機能の異常の程度(重症度)の評価である。
【0025】
急激な胎児仮死や胎児死亡の症例で胎盤の一部または全部が子宮壁より剥離していたり(常位胎盤早期剥離)、極端な低出生体重児の胎盤でモザイクが認められたり(CPM)、妊娠高血圧症候群や胎児仮死の胎盤に梗塞巣がみられるなど、胎盤機能の異常は様々な疾患と関連している。従って、本発明の胎盤機能の評価方法は、胎盤機能の異常に関連する疾患を発症しているか否か(または発症する可能性があるか否か、或いは該疾患の重症度)を判定する方法であり得る。ここで胎盤機能の異常に関連する疾患としては、具体的には、妊娠高血圧症候群(胎盤の血管の異常)、癒着胎盤(胎盤の接着に関わる異常)、常位胎盤早期剥離(胎盤の接着に関わる異常)、双胎間輸血症候群(胎盤の血管の異常)、前置胎盤(胎盤の接着に関わる異常)、胎児発育遅延(胎盤の接着および血管の異常)、などが挙げられる。また、胎盤の構成組織である絨毛の異常の評価という観点からは、子宮外妊娠、存続絨毛症、胞状奇胎・絨毛癌などの絨毛性疾患(治療効果の判定)、習慣流産(原因の検索)等が挙げられる。本発明の方法を、胎盤機能の研究に使用することも可能である。
【0026】
胎盤機能が異常である対象の体液試料で特異的に発現が亢進または低下している遺伝子としては、後述の表1に記載される遺伝子(例、PLS001〜PLS−050)が挙げられる。表1にはPLS遺伝子のcDNA配列に対応する配列番号を併せて示す。
【0027】
体液試料中の上記遺伝子の発現と、胎盤機能の異常に関連する疾患との関連をまとめると以下の通りになる。
【0028】
1.遺伝子発現の上昇が予想される疾患
癒着胎盤、存続絨毛症、重症悪阻、絨毛性疾患、双胎間輸血症候群、切迫早産
【0029】
2.遺伝子発現の低下が予想される疾患
胎盤機能不全、胎児ジストレス、流産、妊娠高血圧症候群、子宮内胎児発育遅延、常位胎盤剥離、妊娠糖尿病、子宮外妊娠、習慣流産
【0030】
3.hPLの上昇が認められる疾患
癒着胎盤、存続絨毛症、重症悪阻、絨毛性疾患、双胎間輸血症候群、切迫早産
【0031】
4.双胎間輸血症候群
発現が上昇する遺伝子群
hPL(CSH1)、PSG2、PSG3、GAPDH、hCG(CGB)
発現が低下する遺伝子群
Syncytin(ERVWE1)、Syncytin2(HERV-FRD) 、ADAM12
【0032】
5.子宮筋層への絨毛の進入低下が認められる妊娠高血圧症候群
発現が低下する遺伝子群
Syncytin(ERVWE1)、Syncytin2(HERV-FRD)、ADAM12、PSG2およびPSG3
【0033】
6.絨毛性疾患(例、全胞状奇胎、部分胞状奇胎、絨毛癌)
発現が上昇する遺伝子群
hPL(CSH1)、PSG2、PSG3、GAPDH、hCG(CGB)
【0034】
7.子宮筋層への絨毛の進入過剰が認められる癒着胎盤および前置胎盤
発現が上昇する遺伝子群
hPL(CSH1) 、PSG2、PSG3、GAPDH、hCG(CGB) 、Syncytin(ERVWE1) 、Syncytin2(HERV-FRD) 、ADAM12
【0035】
8.妊娠高血圧症候群
遺伝子発現レベルが重症度と正の相関を示す遺伝子群
TFPI、ADAM12、PSG9、CYP19A1、ALPP
遺伝子発現レベルが重症度と負の相関を示す遺伝子群
ERVWE1、INHBA、PPAP2B、P11、PKIB、CXCL14、PEG3、ESRRG、CSH1、Syncytin2
【0036】
上記リストに基づき、体液試料中の特定の遺伝子の発現量の増加(又は低下)が、特定の疾患と関連していることが容易に把握され、体液試料中の特定の遺伝子の発現量を測定することにより、特定の疾患の発症、発症可能性又は重症度を判定することができる。試料中の特定の遺伝子の発現量が、胎盤機能が正常な対象における該遺伝子の発現量と比較して有意に増加(又は低下)していれば、特定の疾患を発症している可能性が高いと判定することができる。また、試料中の特定の遺伝子の発現量が、胎盤機能が正常な対象における該遺伝子の発現量と比較して有意に増加(又は低下)していれば、より重症度が高いと判定することができる。どの遺伝子発現量を測定すれば、どの疾患の発症、発症可能性または重症度を判定することができるかは、上記リストから明らかである。
【0037】
また、上記リストに基づき、特定の疾患と体液試料中の発現量の変動(増加又は低下)とが関連している複数(例えば2、3、4、5、6、7又は8個)の遺伝子の発現量を測定することにより、より高い精度で特定の疾患の発症、発症可能性または重症度を判定することができる。
【0038】
一実施態様において、PLS遺伝子群から選択された少なくとも2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、更により好ましくは30以上、一層より好ましくは40以上、最も好ましくは50の遺伝子の発現量を測定し、発現量が胎盤機能が正常な対象における発現量と比較して有意に増加(又は低下)した遺伝子種の数に基づき、上記疾患の発症、発症可能性または重症度を判定することができる。例えば、妊娠高血圧症候群においては、発現量が胎盤機能が正常な対象における発現量と比較して有意に増加(又は低下)した遺伝子種の数が疾患の重症度と正の相関を示すので、発現量が有意に増加(又は低下)した遺伝子種の数が多いほど、よりその疾患が重症である可能性が高いと判定することが出来る。より具体的には、複数種類のPLS遺伝子の発現量が有意に増加(又は低下)した場合には、そうではない場合と比較して、妊娠高血圧症候群が重症である可能性が高いと判定することが出来る。この方法により妊娠高血圧症候群の重症度を判定する場合においては、少なくとも、TFPI、ADAM12、PSG9、CYP19A1、ALPP、ERVWE1、INHBA、PPAP2B、P11、PKIB、CXCL14、PEG3、ESRRG、CSH1及びSyncytin2から選択される2以上、好ましくは4以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは12以上、最も好ましくは15以上の遺伝子の発現量を測定することが好ましい。
【0039】
また、本発明は、本発明の評価方法を行い得る胎盤機能の検査用試薬(以下、本発明の試薬)を提供する。
【0040】
胎盤機能とは、胎児の正常な発育・発達に必要な酸素、血液および栄養を供給することである。
一実施態様において、胎盤機能の検査とは、胎盤機能の異常の有無の検査であり、具体的には、胎児への酸素、血液又は栄養供給の異常の有無やそれにより引き起こされる子宮内胎児発育遅延、胎児仮死、妊娠高血圧症候群など様々な病態の検査である。
【0041】
本発明の試薬は、1以上の標的遺伝子の発現量を測定するための物質を含み得る。本発明の試薬に含まれる物質で発現量が測定される標的遺伝子の数は、特に限定されず、上記PLS遺伝子群から選択された少なくとも1つの遺伝子の発現量を測定する物質であればよい。評価の精度を向上させる目的で、本発明の試薬は、上記PLS遺伝子群から選択された、例えば2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、更により好ましくは30以上、一層より好ましくは40以上、最も好ましくは50の遺伝子の発現量を測定する物質を含んでいてもよい。
一実施態様において、本発明の試薬に含まれる物質で発現量が測定される遺伝子には、少なくともPLS−041(hPL(CSH1))、PLS−044(hCG−β(CGB))、PLS−049(PSG2)、PLS−025(PSG3)、PLS−050(GAPDH)、PLS−005(Syncytin(ERVWE1))、PLS−048(Syncytin2(HERV−FRD))およびPLS−013(ADAM12)からなる群から選択された少なくとも1つ、好ましくは2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、最も好ましくは8つが含まれている。この場合、前述の8遺伝子以外のPLS遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子が更に含まれていてもよい。前述の8遺伝子以外のPLS遺伝子を更に含む場合、更に含まれる遺伝子の数は、例えば1以上、好ましくは4以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは19以上、更により好ましくは29以上、一層より好ましくは39以上、最も好ましくは42である。
【0042】
また、別の一実施態様において、本発明の試薬に含まれる物質で発現量が測定される遺伝子には、少なくともPLS−041(hPL(CSH1))、PLS−044(hCG−β(CGB))、PLS−049(PSG2)、PLS−025(PSG3)、PLS−050(GAPDH)、PLS−005(Syncytin(ERVWE1))、PLS−048(Syncytin2(HERV−FRD))、PLS−013(ADAM12)、PLS−008(TGPI)、PLS−016(PSG9)、PLS−024(CYP19A1)、PLS−040(ALPP)、PLS−006(INHBA)、PLS−026(PPAP2B)、PLS−027(P11)、PLS−033(PKIB)、PLS−034(CXCL14)、PLS−035(PEG3)、PLS−036(ESRRG)、PLS−041(CSH1)からなる群から選択された少なくとも1、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、最も好ましくは20が含まれている。この場合、前述の20遺伝子以外のPLS遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子が更に含まれていてもよい。前述の20遺伝子以外のPLS遺伝子を更に含む場合、更に含まれる遺伝子の数は、例えば1以上、好ましくは4以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは19以上、更により好ましくは29以上、最も好ましくは30である。
【0043】
このような標的遺伝子の発現量を測定するための物質としては、例えば、プライマー、核酸プローブ、核酸アレイ、抗体が挙げられる。本発明はまた、このような物質自体をも提供する。本発明の試薬は、例えば、本発明の評価方法を簡便に行うことを可能にする。
【0044】
プライマーとは、核酸の合成反応にあたりポリヌクレオチド鎖が伸長して行く出発点として働く核酸分子をいう。本発明の試薬に含まれ得るプライマーは、標的遺伝子の増幅および検出を可能とする限り特に限定されない。該プライマーは、標的遺伝子のヌクレオチド配列の部分配列またはその相補配列を有する核酸分子(好ましくは、DNA)であり得る。
【0045】
ここで、遺伝子のヌクレオチド配列とは、遺伝子がコードされる染色体DNA、mRNA、またはcDNAの全長ヌクレオチド配列であり、特に限定されないが、好ましくはmRNA又はcDNAの全長ヌクレオチド配列である。mRNAは、未成熟mRNA又は成熟mRNAであり、特に限定されないが、好ましくは成熟mRNAである。標的遺伝子のヌクレオチド配列としては、配列番号1〜50で表されるヌクレオチド配列が例示される。
【0046】
各プライマーが有する部分配列の長さは、標的遺伝子の伸長反応に十分な長さであれば特に限定されないが、通常15〜100bp、好ましくは18〜50bp、更に好ましくは18〜35bpである。プライマーのサイズは、通常15〜100bp、好ましくは18〜50bp、更に好ましくは18〜35bpであり得る。また、遺伝子増幅法の種類に応じて必要とされるプライマー数が異なるため、本発明の試薬に含まれ得るプライマー数は特に限定されないが、例えば、本発明の試薬は、2以上のプライマーを含み得る。2以上のプライマーは、予め混合されていても、混合されていなくてもよい。このようなプライマーは、自体公知の方法により作製できる。
【0047】
プローブとは、標的核酸分子(例えばPLS遺伝子のmRNA、cDNA、染色体DNA等)に対する特異的なハイブリダイゼーションによって、標的核酸分子の検出の用に供される核酸分子をいう。本発明の試薬に含まれ得る核酸プローブは、標的遺伝子の転写産物の検出を可能とする限り特に限定されない。核酸プローブはDNA、RNA、修飾核酸またはそれらのキメラ分子などであり得るが、安定性、簡便性等を考慮するとDNAが好ましい。核酸プローブはまた、1本鎖または2本鎖のいずれでもよい。該プローブは、標的遺伝子のヌクレオチド配列(好ましくは、mRNA配列又はcDNA配列;例えば、配列番号1〜50で表されるヌクレオチド配列)若しくはその部分配列またはその相補配列を有する核酸分子(好ましくは、DNA)であり得る。各核酸分子が有する部分配列の長さは、標的遺伝子の転写産物に対する特異的ハイブリダイゼーションを達成するのに十分な長さであれば特に限定されないが、例えば、少なくとも15bp、好ましくは少なくとも20bp、より好ましくは少なくとも25bp、さらにより好ましくは少なくとも30bp以上であり得る。核酸プローブのサイズは、標的遺伝子の転写産物に特異的にハイブリダイズし得る限り特に限定されないが、例えば約15または16bp以上、好ましくは約15〜1000bp、より好ましくは約50〜500bpである。核酸プローブは、核酸アレイのように基板上に固定された形態で提供され、本発明の試薬に含まれていてもよい。このような核酸プローブは、自体公知の方法により作製できる。
【0048】
本発明の試薬に含まれ得る核酸アレイは、好ましくは、PLS遺伝子群から選択される1または2以上の遺伝子の各ヌクレオチド配列(好ましくは、mRNA配列又はcDNA配列;例えば、配列番号1〜50で表されるヌクレオチド配列)若しくはその部分配列またはそれらの相補配列を有する核酸分子またはその群が固定化された核酸アレイである。
【0049】
本発明の試薬に含まれ得る核酸アレイに固定化された核酸分子の群に含まれる核酸分子の数(即ち、核酸分子の種類の数)は、特に限定されないが、当該群は、上記遺伝子群PLS−001〜PLS−050から選択された、通常2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、更により好ましくは30以上、一層より好ましくは40以上、最も好ましくは50の遺伝子の各ヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列をそれぞれ有する核酸分子を含む。
一実施態様において、本発明の試薬における核酸アレイには、少なくともPLS−041(hPL(CSH1))、PLS−044(hCG−β(CGB))、PLS−049(PSG2)、PLS−025(PSG3)、PLS−050(GAPDH)、PLS−005(Syncytin(ERVWE1))、PLS−048(Syncytin2(HERV−FRD))およびPLS−013(ADAM12)からなる群から選択された少なくとも1つ、好ましくは2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、最も好ましくは8つの遺伝子の各ヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列をそれぞれ有する核酸分子が含まれている。この場合、前述の8遺伝子以外のPLS遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子のヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列を有する核酸分子が更に含まれていてもよい。この場合、前述の8遺伝子以外のPLS遺伝子の各ヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列をそれぞれ有する核酸分子が含まれる場合、更に含まれる核酸分子の数は、例えば1以上、好ましくは4以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは19以上、更により好ましくは29以上、一層より好ましくは39以上、最も好ましくは42である。
【0050】
また、別の一実施態様において、本発明の試薬における核酸アレイには、少なくともPLS−041(hPL(CSH1))、PLS−044(hCG−β(CGB))、PLS−049(PSG2)、PLS−025(PSG3)、PLS−050(GAPDH)、PLS−005(Syncytin(ERVWE1))、PLS−048(Syncytin2(HERV−FRD))、PLS−013(ADAM12)、PLS−008(TGPI)、PLS−016(PSG9)、PLS−024(CYP19A1)、PLS−040(ALPP)、PLS−006(INHBA)、PLS−026(PPAP2B)、PLS−027(P11)、PLS−033(PKIB)、PLS−034(CXCL14)、PLS−035(PEG3)、PLS−036(ESRRG)、PLS−041(CSH1)からなる群から選択された少なくとも1、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、最も好ましくは20が含まれている。この場合、前述の20遺伝子以外のPLS遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子が更に含まれていてもよい。前述の20遺伝子以外のPLS遺伝子を更に含む場合、更に含まれる遺伝子の数は、例えば1以上、好ましくは4以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは19以上、更により好ましくは29以上、最も好ましくは30である。
【0051】
なお、本発明の試薬における核酸アレイには、MRPS16、IL8RA、P2RY13、ヒトでは存在していないプラスミド遺伝子の各ヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列などが対照として固定化されていてもよい。一実施態様において、本発明の試薬における核酸アレイには、上述の核酸分子に加え、さらにGenBankアクセッション番号NM_016065.3(PLS−051)、NT_007299.12(PLS−052)、NW_923184.1(PLS−053)、NM_000634.2(PLS−054)、NM_023914.2(PLS−055)で表される遺伝子の各ヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列が固定化されている。
【0052】
核酸分子の群とは、単離された核酸分子の集合を意味し、特に限定されるものではないが、一度にその用に供することができる状態であるもの、例えば、単一または複数の固相上に各核酸分子が固定されているもの、単一または複数の液相中に各核酸分子が溶解しているものなどであり得る。例えば、核酸分子の群は、例えば、マイクロタイタープレートのようなプレート上に各核酸分子が個別に分注された状態で群となっているものでもよい。
【0053】
核酸アレイ上に固定化された核酸分子はDNA、RNA、修飾核酸またはそれらのキメラ分子などであり得るが、安定性、簡便性等を考慮するとDNAが好ましい。RNAの場合はDNAにおいてT(チミジン)で記載されている塩基はU(ウリジン)に読み替えられるものとする。核酸分子は、1本鎖または2本鎖のいずれでもよい。核酸アレイ上に固定化された核酸分子に含まれるPLS遺伝子のヌクレオチド配列の部分配列の長さは、標的遺伝子の転写産物に対する特異的ハイブリダイゼーションを達成するのに十分な長さであれば特に限定されないが、例えば、少なくとも15bp、好ましくは少なくとも20bp、より好ましくは少なくとも25bp、さらにより好ましくは少なくとも30bp以上であり得る。核酸分子のサイズは、標的遺伝子の転写産物に特異的にハイブリダイズし得る限り特に限定されないが、例えば約15または16bp以上、好ましくは約15〜1000bp、より好ましくは約50〜500bpである。
【0054】
核酸アレイ上に固定化された各核酸分子は、上述したヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列を個別に有している限り特に限定されない。例えば、当該各核酸分子は、i)上述したヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列自体からなる核酸分子、ii)上述したヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列に加え、さらに任意のヌクレオチド配列を含む核酸分子であり得る。
【0055】
上述したii)の核酸分子の一態様としては、例えば、当該核酸分子がインサートとして任意のベクター(例えば、サブクローニング用ベクター、発現ベクターなど)に導入されたものを挙げることができる。例えば、上記の任意のベクターとして発現ベクターを用いる場合、インサートとしての核酸分子は、機能可能であるように発現調節エレメントに連結されていてもよい。発現調節エレメントとしては、例えば、任意のプロモーターを挙げることができ、例えば大腸菌における発現が意図された場合、lac、taqなどのプロモーターが好適に用いられ、哺乳動物由来の細胞における発現が意図された場合、CAGプロモーター、SRαプロモーター、EF1αプロモーター、CMVプロモーター、PGKプロモーター、U6プロモーター、SV40プロモーター、アデノウイルスの初期または後期プロモーターなどのプロモーターが好適に用いられる。
【0056】
核酸アレイ上に固定化された各核酸分子は、当該分野で周知の方法により作製することができる。例えば、約100bp以下の大きさの核酸分子であれば有機化学的方法により作製することができる。また、核酸分子のサイズが大きい場合には、生物学的方法(細胞系、無細胞系を含む)により作製することも可能である。具体的には、生物学的方法としては、核酸合成酵素を用いる方法(例えば、PCR、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)(例えば国際公開第00/56877号パンフレット参照)、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)(例えば国際公開第00/28082号パンフレット参照)など)、核酸アレイ上の各核酸分子をインサートとして含む任意のベクター(例えば、プラスミド、BAC、YAC、ファージDNAなど)を細菌に導入し、当該ベクターを増幅させる方法などが挙げられる。
【0057】
核酸分子の群における各核酸分子は、修飾されていてもよい。当該修飾としては、特に限定されないが、例えば、蛍光(FITC、ローダミン、テキサスレッド、6−カルボキシ-フルオレッセイン(FAM)、テトラクロロ−6−カルボキシフルオレッセイン(TET)、2,7−ジメトキシ−4,5−ジクロロ−6−カルボキシフルオレッセイン(JOE)、ヘキソクロロ−6−カルボキシフルオレッセイン(HEX)、6−カルボキシ-テトラメチル-ローダミン(TAMRA)等)標識、ビオチン標識、ジゴキシゲニン標識、アルカリフォスファターゼ標識、放射性同位体(32P、H)標識等が挙げられる。
【0058】
核酸アレイの支持体としては、当該分野で通常用いられている支持体であれば特に限定されず、例えば、メンブレン(例えば、ナイロン膜)、ガラス、プラスチック、金属などが挙げられる。
【0059】
核酸アレイの形態としては、当該分野で周知の形態を用いることができ、例えば、支持体上で核酸が直接合成されるアレイ(いわゆるアフィメトリクス方式)、支持体上に核酸が固定化されるアレイ(いわゆるスタンフォード方式)、繊維型アレイ、電気化学的アレイ(ECA)等が挙げられる(例、特開2005−102694参照)。
【0060】
アフィメトリクス方式のアレイとは、光リソグラフィー技術および固相法核酸合成技術によりシリコン支持体上に一定の長さの核酸プローブを搭載した核酸チップをいう。本アレイは、例えば、支持体をマスクと呼ばれる遮光板で覆って露光させるという工程を繰り返すことによって、核酸分子を支持体上で1塩基ずつ合成することにより作製することができる。本アレイは、目的のヌクレオチド配列を有する核酸プローブを高密度で固定できるため遺伝子を網羅的に検出できる、核酸プローブを支持体に対し垂直に固定できるのでハイブリダイゼーション効率が高い、定量性や再現性に優れるなどの利点を有する。
【0061】
スタンフォード方式のアレイとは、支持体上に核酸プローブが共有結合によりまたは非共有結合により貼り付けられている核酸アレイをいう。本アレイは、例えば、予め調製されたcDNAや合成オリゴDNAなどの核酸プローブを支持体上にスポットすることによって作製される。本アレイは、アフィメトリクス方式のアレイと比較して、1スポット中に大量の未精製cDNA等が含まれている場合にはクロスハイブリダイゼーションが多い・ハイブリダイゼーションが生じにくい、洗浄操作の際に核酸プローブが支持体上から剥がれやすいため定量性・再現性が低いなどの欠点を有するものの、これらの欠点は、核酸プローブとして精製した合成オリゴDNAを用いたり、核酸プローブを支持体上に共有結合によって固定することによって改善することができる。一方、本アレイは、アフィメトリクス方式のアレイと比較して、任意の核酸プローブを搭載できる、ランニングコストが安いなどの利点を有する。また、スタンフォード方式のDNAチップは自作が容易という利点も有する。
【0062】
繊維型アレイとは、核酸プローブを含む繊維が集合してなるアレイをいう。本アレイは、例えば、中空繊維に核酸プローブを染み込ませ、異なる核酸プローブが染み込んだ中空繊維を束ね、この中空繊維の集合体をスライスすることによって作製することができる。本アレイは、同品質で大量に生産できるため再現性に優れる、DNAが自由度のある構造で固定されておりハイブリダイゼーションの効率が高いため高感度であるなどの利点を有する。
【0063】
電気化学的アレイ(ECA)とは、ハイブリダイゼーションの検出を電気化学的に行う核酸アレイをいう。本アレイは、他の核酸アレイとは異なり、核酸を標識せずに、例えば、インターカレート剤(intercalator)を用いることによって核酸を検出する。検出方法としては、例えば、インターカレート剤が挿入したときに生じる電流の差を測定する方法、電圧差が発生すると発光するインターカレート剤から生じる発光を検出する方法などが挙げられる。本アレイは、mRNAにおいて直接測定が可能であり感度や定量性に優れる、PCRが不要、サンプル標識をしないためハイブリダイゼーションの効率が高いなどの利点を有する。
【0064】
核酸アレイによるPLS遺伝子の転写産物の測定は、使用する核酸アレイの形態によっても異なるが、例えば、サンプルのmRNA(具体的には、例えば、血漿中のcff−mRNA、羊水中のcff−mRNAなど)を標識し、次いでこれを核酸アレイにハイブリダイズさせることにより行なうことができる。標識は、直接検出可能なシグナルを発するものでもよいし、検出可能なシグナルを発する物質に特異的に結合する物質でもよい。直接検出可能なシグナルを発する標識の例としては、蛍光性物質、アルカリフォスファターゼ、放射性同位元素などが挙げられる。検出可能なシグナルを発する物質に特異的に結合する物質の例としては、ビオチン、アビジン、ジゴキシゲニン、抗体などが挙げられる。標識の方法としては、核酸合成酵素を用いて、サンプルの核酸を複製しつつ、標識されたヌクレオチドを取りこませる方法、化学反応でサンプルの核酸に直接結合させる方法などが挙げられる。また、電気化学的に検出する場合には、核酸の標識は必要とされず、例えば、インターカレート剤を用いて電流の差を測定することによって、または電圧差が発生すると発光するインターカレート剤から生じる発光を検出することによって、PLS遺伝子の転写産物を測定することができる。
【0065】
当業者は、アッセイの目的に応じて、上述した核酸アレイの内、適切な核酸アレイを適宜選択することができ、また、当該分野で周知の方法により、例えば、上述したように、これら核酸アレイを作製することができる。
【0066】
核酸アレイは、PLS遺伝子群の転写産物の発現を網羅的に解析することを可能とし、胎盤機能の評価および胎盤機能の異常に関連する疾患の検査などに利用することができるため本発明の試薬に極めて有用である。
【0067】
本発明の試薬に含まれ得る抗体は、標的遺伝子の翻訳産物に特異的に結合し得る抗体である限り特に限定されない。例えば、翻訳産物に対する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよい。抗体はまた、抗体のフラグメント(例、Fab、F(ab’))、組換え抗体(例、scFv)であってもよい。抗体は、プレート等の基板上に固定された形態で提供されてもよい。抗体は、自体公知の方法により作製できる。
【0068】
例えば、ポリクローナル抗体は、標的遺伝子の翻訳産物あるいはその部分ペプチド(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリアタンパク質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
【0069】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん―基礎と臨床―」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作製できる。例えば、マウスに該因子を市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例、NS-1、P3X63Ag8など)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods,81(2):223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得できる。
【0070】
測定するための物質は、必要に応じて、標識用物質で標識された形態で提供され得る。標識用物質としては、例えば、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質などが挙げられる。
【0071】
本発明の試薬は、測定するための物質に加え、さらなる構成要素を含むキットの形態で提供されてもよい。この場合、キットに含まれる各構成要素は、互いに隔離された形態、例えば、異なる容器に格納された形態で提供され得る。例えば、測定するための物質が標識用物質で標識されていない場合、このようなキットは、標識用物質をさらに含み得る。
【0072】
より詳細には、本発明の試薬がキットの形態で提供される場合、測定するための物質の種類に応じたさらなる構成要素を含み得る。例えば、測定するための物質がプライマーである場合、キットは、逆転写酵素、核酸抽出液をさらに含み得る。測定するための物質が核酸プローブである場合、キットは、核酸抽出液をさらに含んでいてもよい。測定するための物質が抗体である場合、キットは、2次抗体(例、抗IgG抗体)、2次抗体の検出用試薬をさらに含んでいてもよい。
【0073】
また、本発明の試薬がキットの形態で提供される場合、動物から体液試料を採取し得る手段をさらに含み得る。動物から体液試料を採取し得る手段は、動物から体液サンプルを入手可能である限り特に限定されないが、例えば、採血器具、生検針等の生検器具が挙げられる。
【0074】
本発明の試薬は、コントロールとして、胎盤機能が異常である動物の体液試料で発現が亢進または低下していない遺伝子を測定するための物質をさらに含んでいてもよい。このような遺伝子は、ハウスキーピング遺伝子、または非ハウスキーピング遺伝子(例、OA13、OA14)であり得る。ハウスキーピング遺伝子としては、例えば、β-アクチン、β2−マイクログロブリン、HPRT1(ヒポキサンチン ホスホリボシルトランスフェラーゼ1)が挙げられる。
【0075】
上述のように、胎盤機能の異常は様々な疾患と関連している。従って、本発明の胎盤機能の検査用試薬は、胎盤機能の異常に関連する疾患を発症しているか否か(または発症する可能性があるか否か)を評価することに用いることもできる。ここで胎盤機能の異常に関連する疾患としては、具体的には、妊娠高血圧症候群(胎盤の血管の異常)、癒着胎盤(胎盤の接着に関わる異常)、常位胎盤早期剥離(胎盤の接着に関わる異常)、双胎間輸血症候群(胎盤の血管の異常)、前置胎盤(胎盤の接着に関わる異常)、胎児発育遅延(胎盤の接着および血管の異常)、などが挙げられる。また、胎盤の構成組織である絨毛の異常の評価という観点からは、子宮外妊娠、存続絨毛症、胞状奇胎・絨毛癌などの絨毛性疾患(治療効果の判定)、習慣流産(原因の検索)等が挙げられる。本発明の試薬は、胎盤機能の研究に使用することも可能である。
【0076】
例えば、本発明の試薬に含まれる物質で発現量が測定される遺伝子が少なくともhPLを含む場合、胎盤剥離不可能な前置胎盤、双胎間輸血症候群(TTTS)を発症しているか否かまたは発症する可能性があるか否かを評価することができる。
【0077】
上記リストに基づき、本発明の試薬に、特定遺伝子の発現量を測定するための物質を含有させることにより、特定の疾患の発症、発症可能性又は重症度を判定するための試薬を得ることができる。どの遺伝子の発現量を測定するための物質を含有させれば、どの疾患の発症、発症可能性又は重症度を判定するための試薬を得ることができるかは、上記リストから明確に特定することができる。
【0078】
更に、上記リストに基づき、特定の疾患と体液試料中の発現量の変動(増加又は低下)とが関連している複数(例えば2、3、4、5、6、7又は8個)の遺伝子の発現量を測定するための物質をそれぞれ本発明の試薬に含有させることにより、高い精度で特定の疾患の発症、発症可能性又は重症度を判定することが可能な試薬を得ることができる。
【0079】
本発明はまた、胎盤機能の異常に関連する疾患の検査基準用データの作成方法を提供する。
【0080】
本発明で提供される胎盤機能の異常に関連する疾患の検査基準用データの作成方法(以下、本発明の作成方法)は、PLS遺伝子群から選択された1または2以上の遺伝子を解析し、胎盤機能の異常に関連する疾患の有無との相関を見出すことを特徴とする。
【0081】
具体的には、本発明の作成方法は、i)妊娠している対象から採取された体液試料中のPLS遺伝子群から選択された1または2以上の遺伝子の発現量について、胎盤機能の異常に関連する疾患の有無との相関を見出し、ii)当該相関を胎盤機能の異常に関連する疾患の検査基準用データとして取得することを含む。
【0082】
本発明の作成方法の工程i)の、PLS遺伝子の発現量と胎盤機能の異常に関連する疾患の有無との相関の解析においては、解析の対象となるPLS遺伝子の数は、特に限定されず、PLS遺伝子群から選択された少なくとも1つの遺伝子の絶対的および/または相対的な発現量に基づけばよい。しかし、遺伝子の種類によってはその発現量の絶対値は個人差や生活習慣などにより影響を受けやすいものもあると考えられる。また、病気の発症の際には複数の遺伝子が関与するのが一般的である。さらに、遺伝子の種類によっては、胎盤機能の異常に関連する疾患の有無や病態に何ら影響を及ぼさないものもあり得ると考えられるため、好ましくは、PLS遺伝子群から選択された複数の遺伝子、例えば2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、更により好ましくは30以上、一層より好ましくは40以上、最も好ましくは50の遺伝子の絶対的および/または相対的な発現量を測定し、総合的に考慮してもよい。一実施態様において、本発明の作成方法で解析の対象となる遺伝子には、少なくともPLS−041(hPL(CSH1))、PLS−044(hCG−β(CGB))、PLS−049(PSG2)、PLS−025(PSG3)、PLS−050(GAPDH)、PLS−005(Syncytin(ERVWE1))、PLS−048(Syncytin2(HERV−FRD))およびPLS−013(ADAM12)が含まれており、かつ上記PLS遺伝子群から選択される少なくとも1つのその他の遺伝子を含んでいてもよい。その他の遺伝子を含む場合、含まれる他の遺伝子の数は、例えば1以上、好ましくは4以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは19以上、更により好ましくは29以上、一層より好ましくは39以上、最も好ましくは42である。
【0083】
また、別の一実施態様において、本発明の作成方法で解析の対象となる遺伝子には、少なくともPLS−041(hPL(CSH1))、PLS−044(hCG−β(CGB))、PLS−049(PSG2)、PLS−025(PSG3)、PLS−050(GAPDH)、PLS−005(Syncytin(ERVWE1))、PLS−048(Syncytin2(HERV−FRD))、PLS−013(ADAM12)、PLS−008(TGPI)、PLS−016(PSG9)、PLS−024(CYP19A1)、PLS−040(ALPP)、PLS−006(INHBA)、PLS−026(PPAP2B)、PLS−027(P11)、PLS−033(PKIB)、PLS−034(CXCL14)、PLS−035(PEG3)、PLS−036(ESRRG)、PLS−041(CSH1)からなる群から選択された少なくとも1、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、最も好ましくは20が含まれている。この場合、前述の20遺伝子以外のPLS遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子が更に含まれていてもよい。前述の20遺伝子以外のPLS遺伝子を更に含む場合、更に含まれる遺伝子の数は、例えば1以上、好ましくは4以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは19以上、更により好ましくは29以上、最も好ましくは30である。
【0084】
具体的には、初めに、胎盤機能の異常に関連する疾患を罹患している哺乳動物および健常哺乳動物から体液試料(例えば、血液(血清、血漿など)、尿、羊水、頸管粘液、子宮内腔液、卵管内腔液など)を採取し、当該試料を適宜処理した上で、PLS遺伝子の発現量について網羅的に解析する。PLS遺伝子の発現量の測定は、上記本発明の評価方法および本発明の試薬において用いられた方法と同様にして行なわれる。
【0085】
次いで、測定されたPLS遺伝子の発現量と、胎盤機能の異常に関連する疾患の有無や重症度との相関を解析する。当該相関は、当該分野で周知の方法により数学的に解析することで見出すことができる。
【0086】
例えば、本発明の作成方法で解析の対象となる遺伝子がPLS−041を含む場合、PLS−041遺伝子の発現量と前置胎盤または双胎間輸血症候群(TTTS)の有無との相関が解析される。他の遺伝子についても同様に解析される。
【0087】
本発明の作成方法の工程ii)では、工程i)にて見出された相関が、胎盤機能の異常に関連する疾患の検査基準用データとして取得される。取得された検査基準用データは、記録媒体、例えば書面やコンピュータ読み取り可能な記録媒体などに記録される。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、電子データを記録することができ、且つ必要に応じてコンピュータが読み出すことができる任意の記録媒体をいい、例えば、磁気テープ、磁気ディスク、磁気ドラム、ICカード、光読み取り式ディスク(例えば、CD、DVD)、ハードディスクなどが挙げられる。
【0088】
本発明の作成方法は、PLS遺伝子の発現に基づき、胎盤機能の異常に関連する疾患の有無を評価し得る、より精度の高い検査基準用データを提供し得るため極めて有用である。
【0089】
また、本発明は、本発明の作成方法により作成されうる胎盤機能の異常に関連する疾患の検査基準用データを提供する。本検査基準用データは、記録媒体などに記録された形態で提供される。本検査基準用データは、例えば、本発明の評価方法および本発明の試薬に用いることができ、また、当該評価方法を行い得るまたは当該試薬に含み得る胎盤機能の異常に関連する疾患の検査用キットの構成要素として用いることができるため極めて有用である。
【0090】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0091】
以下に実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0092】
(実施例1:PLS遺伝子群の単離およびcDNAマイクロアレイの作製)
胎盤組織とその妊娠中の母体血を一組として、妊娠8週、妊娠19週および妊娠36週の計3組について解析を加えた。そして、GeneChipHuman Genome U133 Plus 2.0 Arrayにより54,000個の遺伝子をスクリーニングし、母体血球での発現量と比較して胎盤組織での発現量が2,500倍以上の遺伝子を選択した。このうち、H19を除く以下の表1に示されるPLS−001〜PLS−049の49個の遺伝子についてはABIsequence Detection System7900を用いて行った定量的リアルタイムRT-PCRにより母体血漿中に確かに定量されることを確認した。内部コントロールとしてGAPDH(PLS−050)(GenBankアクセッション番号:NM_002046.3)、MRPS16(PLS−051)(GenBankアクセッション番号:NM_016065.3)、Homo sapiens chromosome 6 genomic contig, reference assembly(GenBankアクセッション番号:NT_007299.12(PLS−052)、NW_923184.1(PLS−053))、IL8RA(PLS−054)(NM_000634.2)、P2RY13(PLS−055)(GenBankアクセッション番号:NM_023914.2)まで計6個の遺伝子を選択し、cDNAマイクロアレイには55個のスポットを打ち込んだ。デザインを図1に示す。
【0093】
【表1−1】

【0094】
【表1−2】

【0095】
(実施例2:胎盤由来cf-mRNAの定量化と胎盤機能評価への試み)
近年、胎盤由来のcf-mRNAであるcf-hCG-β mRNAおよびcf-hPL mRNAの妊娠経過に伴う推移について、定量的リアルタイムRT-PCR法を用いて検討されている。cf-hCG-β mRNAレベルは妊娠12-14週をピークに減少傾向を呈し、一方のcf-hPL mRNAレベルは妊娠経過と伴に上昇傾向を認めた。これら胎盤由来cf-mRNAの推移は、RIAによるhCGタンパクおよびhPLタンパクレベルの妊娠経過に伴う推移と類似していた。
本発明者らは、膀胱への浸潤を伴う前置胎盤の症例において、定量的リアルタイムRT-PCR法を用いた胎盤由来cf-mRNA定量化の胎盤機能評価への応用の可能性を検討した。本例は、妊娠37週に多量の性器出血を認め、緊急帝王切開術を施行されている。この際、膀胱の剥離が困難であったため、腟上部切断術のみ施行され、胎盤の一部が残存していた。したがって、術後、メトトレキセート(MTX)療法を3回施行した後、二次的に子宮を全摘出した。本症例の治療経過中におけるcf-hCG-β mRNA、cf-hPL mRNAおよびcf-GAPDH mRNAレベルを定量し、同時にIRMA法を用いてhCGプロテインレベルも定量した。cf-mRNAの定量法に際しては、特異性と操作の簡便性の観点も考慮し、TaqMan法で1ステップ・定量的リアルタイムRT-PCRを用いた絶対定量法を採用した。治療経過に伴い、hCGプロテインは減少傾向を示す一方、cf-hCG mRNAおよびcf-hPL mRNAは低下傾向を示したもののメトトレキセートの初回治療後に一過性の上昇を呈していた。しかし、2回目の化学療法後には、cf-hPL mRNAの一過性の上昇を認めたが、cf-hCG mRNAの一過性の上昇は認めなかった。
MTXは細胞分裂中の細胞に著効するが、妊娠終期の胎盤を構成する細胞の大部分は成熟したsyncytiotrophoblastである。したがって、初回のMTX療法により、cf-hCG mRNAを放出する分化過程のcytotrophoblastおよびintermediate trophoblastのほとんどが消失し、2回目の治療後には、syncytiotrophoblastから放出されたcf-hPL mRNAのみが一過性に上昇したものと推察される。このように、血漿中hCG-β mRNAレベルの定量化は、抗癌剤の細胞に対する効果をリアルタイムにモニターする可能性が示された。血漿中cf-mRNAレベルの定量化は、治療に伴う細胞の活性を鋭敏にモニターしえる可能性がある点で、従来のIRMA法より優れているかもしれない。
また、化学療法および手術療法後に、cf-GAPDH mRNAレベルの一過性の上昇を認めた。これは、cf-mRNAレベルの定量化が、治療による侵襲の程度を反映する可能性を示唆するとともに、定量法はハウスキーピング遺伝子に対する相対定量ではなく、絶対定量が必要であることを裏付けている。
【0096】
cf-hCG mRNA定量化の利点と腫瘍マーカーとしての可能性
RIA法によるタンパクレベルの定量は交差反応などの問題があり、タンパク特異的な抗体作製が困難である。一方、定量的リアルタイムRT-PCR法を用いたcf-mRNAレベルの定量化は、同一遺伝子内に複数の特異的PCRプライマーを容易に作製可能であること、さらには、TaqManプローブを用いることによりバックグラウンドを低く抑えることが可能であるなどの利点がある。
絨毛性疾患は、胞状奇胎、絨毛癌、Placental site trophoblastic tumor (PSTT)、存続絨毛症(奇胎後hCG存続症、臨床的侵入奇胎あるいは転移性奇胎、臨床的絨毛癌)に分類され、臨床的に多様な疾患であるが、いずれもRIAあるいはIRMA法などで測定したhCGレベルを腫瘍マーカーとして管理されている点で共通している。そこで、定量的リアルタイムRT-PCR法によるcf-hCG mRNAレベルの定量化と絨毛性疾患への臨床応用の可能性について、検討した。
【0097】
絨毛性疾患への応用
血漿中cf-mRNAの抽出とリアルタイムPCR反応
cf-mRNA抽出には、血漿を2段階の遠心分離で分取することが重要である。施設間により抽出条件の相違はあるが、本発明者らは、インフォームドコンセントを得て、治療経過に伴い静脈血4mlをEDTA加採血し、1,600xg、4℃の条件で10分間遠心し、さらに、上清を16,000xg、4℃の条件で10分間遠心分離した。このように、2段階遠心分離法で採取した
血漿1.6mlを2mlTRIzol LS regent(Invitrogen)および0.4mlクロロホルムと混合し、11,900g、4℃で15分間遠心した後、その上清をエタノール処理した。ついで、キアゲン社のRNeasyキットを使用して、添付のプロトコールに従いcf-mRNAを抽出した。ABI PRISM 7900HTを用いて定量的リアルタイムRT-PCRをおこなった。標準曲線の作成には、HPLC処理した単鎖合成オリゴヌクレオチドを用いた。また、hCGタンパクレベルはIRMA法で定量した。
【0098】
全胞状奇胎
まず、肉眼および病理所見で確定診断された3例の全胞状奇胎について、治療に伴う血中hCGタンパクレベル、cf-hCG mRNAレベルおよびGAPDHmRNAレベルの推移を検討した。いずれの症例も、胸部エックス線検査で肺病変は認められていない。初回の子宮内容掻爬術を施行した日を第0日とし、第7日目に再掻爬術を施行した。hCGタンパクレベルおよびcf-hCG-β mRNAレベルは、ともに治療経過につれて減少して行き、奇胎娩出後のhCG値の推移は経過順調型であった。hCGタンパクレベルは、全例で掻爬後5週間には1,000mIU/ml未満まで低下しているが、比較的長期間にわたり検出された。一方、cf-hCG-β mRNAレベルは第7日目にはすでに検出感度以下まで低下し、その後のフォローアップでも検出感度以下であった。妊婦における胎盤由来のcf-hPL mRNAレベルの検討では、分娩後24時間以内に検出レベル以下まで体外へ排除されている。全胞状奇胎についても同様に、掻爬術により胞状奇胎成分が体外へ除去されたことに伴い、直ちに血漿中の奇胎由来cf-hCG-β mRNAが排除されたのかもしれない。
【0099】
臨床的絨毛癌
本例は、先行妊娠は全胞状奇胎、3cm未満の肺病変を認め、基礎体温は二相性であった。絨毛癌診断スコアは5点で、臨床的絨毛癌と診断された。初回化学治療の開始日を第0日とし、エトポシドおよびアクチノマイシンDの併用療法(EA療法)を第0-3日、第15-18日、第29-32日および第43-46日に計4回施行した。全胞状奇胎の症例と同じく、治療経過に伴いhCGタンパクレベルおよびhCG-βmRNAレベルは治療経過とともに減少していた。しかし、hCGタンパクレベルは常に減少を示したのに対して、血漿中hCG-βmRNA量は、初回の化学療法(第 0-3日)では、治療前の901 copy/mlから治療後の954 copy/mlへと一旦上昇した後 44 copy/mlまで低下し、その後の治療でも同一の傾向を認めた。このメカニズムは不明であるが、血清中においてアポトーシス小体中の腫瘍由来tyrosinase mRNAのみが断片化を免れていたという報告から、癌特異的なcf-mRNAはアポトーシス小体に存在していると推察されている。したがって、化学療法に伴う一過性のcf-hCG mRNAレベルの上昇は、アポトーシス効果を反映しているのかもしれない。また、胞状奇胎では掻爬術後にcf-hCG mRNAの速やかな消失を認めたが、臨床的絨毛癌では掻爬後もcf-hCG mRNAが検出された。このことは、これまでの他の悪性腫瘍と同様に、残存病変あるいは転移の存在を反映していると考えられた。
【0100】
GAPDH mRNAの推移
cf-GAPDH mRNAレベルは、胞状奇胎および絨毛癌のいずれにおいても、掻爬術後あるいは化学療法後に一過性の上昇を示した。手術あるいは外傷などの侵襲に対して、cf-DNAレベルが上昇することが知られている。したがって、治療後に認めるcf-GAPDH mRNAレベルの一過性の上昇は、加療による細胞・組織へのダメージを反映しているものと推察される。
さらに、胞状奇胎例におけるcf-GAPDH mRNAレベルは、コントロールのそれと比較して有意に上昇していた(p<0.05)。また、0.22μmフィルター処理したところ、有意なcf-GAPDH mRNAレベルの低下を示した(p<0.005)。このことから、絨毛性疾患におけるcf-mRNAも、これまでの報告と同様に、比較的断片化を免れていると思われる。
【0101】
前置胎盤
近年、超音波検査あるいはMRI検査などの画像診断を用いて、分娩前に前置胎盤のなかから癒着胎盤を鑑別する試みがなされているが、その診断は必ずしも容易ではない。本研究では、分娩前のcfp-mRNA量と癒着胎盤の程度との関連を検討し、前置胎盤のリスク評価への超音波検査およびcfp-mRNA定量化の有用性について考察した。
超音波検査で前置胎盤と診断され、管理入院した26例を対象とした。
分娩時期は、妊娠29週から37週であった。帝王切開で児を娩出した後、胎盤を剥離し子宮を温存し得た22例を剥離可能群とし、胎盤剥離が困難で子宮を摘出した4例を剥離不可能群とした。摘出子宮は、病理検査を施行した。
帝王切開の施行前7日以内に採取された母体血漿1.6mLより、Qiagen RNeasy kitを用いてcfp-mRNAを抽出した。胎盤特異的遺伝子としてhuman placental lactogen (hPL)遺伝子を選択し、血漿中へ流入するcfp-hPL mRNA量を1ステップリアルタイム RT-PCR法を用いてABI7900 sequence detectorで絶対定量した。Mann-WhitneyのU検定を用いて、両群間におけるcfp-hPL mRNA量について比較検討した。p値が0.05未満のとき、有意差ありと判定した。
超音波検査の結果、剥離可能群22例の胎盤のうち5例が前壁より、19例のそれは後壁より内子宮口を覆っていた。一方、剥離不可能群4例の胎盤はいずれも前壁より内子宮口を覆っており、3例が嵌入胎盤、1例が穿通胎盤と病理診断された。剥離可能群におけるcff hPL mRNAの流入量は35680.1±8910.4 copy/ml(mean±SD)、一方の剥離不可能群におけるそれは54001.2±12724.1 copy/mlであった(p=0.013)。両群間における母体血漿中へ流入するhPL mRNA量には有意差が認められた。
前置胎盤のなかでも胎盤剥離が不可能であった群では、剥離可能であった群と比較して、妊娠末期におけるcff-hPL mRNAの流入量は高値を呈していた。超音波検査で胎盤が前壁より内子宮口を覆い、妊娠末期のcff-hPL mRNA流入量が多い場合には、胎盤の剥離が困難である可能性を考慮した管理が必要と思われた。
【0102】
双胎間輸血症候群において母体血漿中へ流入する胎盤由来mRNA定量化の意味
双胎間輸血症候群(Twin to Twin Transfusion Syndrome: TTTS)のリスクを推定する分子マーカーとして、母体血漿中へ流入する胎盤特異的mRNA定量化の有用性について検討した。
一絨毛膜性双胎を妊娠した妊婦17例について、妊娠12週-22週に母体血6ccを採取した。TTTSを発症したものをTTTS群(n=5)、発症しなかったものを非TTTS群(n=12)とした。RNAeasyキットを用いて、血漿1.6ccよりcff-mRNAを抽出した。胎盤特異的遺伝子としてhPL(CSH1)遺伝子を選択し、また全体のmRNA量を計測する目的でGAPDH遺伝子を選択し、血漿中へ流入するcff-hPL mRNA量を1ステップリアルタイム RT-PCR法を用いてABI7900 sequence detectorで絶対定量した。Mann-WhitneyのU検定を用いて、両群間におけるcff-hPL mRNA量について比較検討した。P値が0.05未満のとき、有意差ありと判定した。計測値は正常妊娠例の各妊娠週数における中央値で計測対象の計測値を割った値つまりMultiple of Median (MoM)値で算出された。
TTTS群におけるcff hPL mRNAの流入量は1.80 (0.89-3.81) multiple of median(MoM)(minimum-maximum)、一方の非TTTS群におけるそれは1.14(0.77-1.35)であった(p=0.035)(図1)。GAPDH mRNAも同様に、TTTS群におけるcff GAPDH mRNAの流入量は2.20 (1.30-2.68) median (minimum-maximum)、一方の非TTTS群におけるそれは1.14(0.77-1.35)であった(p<0.045)(図2)。
cff-HPL(CSH1)およびGAPDH mRNAの定量化は、多胎に伴う合併症のリスク、とくにTTTSの発症を推定しうる分子マーカーとして有用であることが考えられた。
【0103】
新たな双胎間輸血症候群(TTTS)の分子マーカーに関する検討
上記の症例を対象として、GeneChipマイクロアレイにより54,000個の遺伝子をスクリーニングし、母体血球では発現していないが胎盤組織で発現を認める遺伝子を50個抽出した。それぞれの遺伝子に特異的なTaqManプローブキットを作製し、定量的リアルタイムRT-PCR法を施行した。そのうち、no-TTTS群と比較してPSG2(図3)、PSG3(図3)およびCSH1は有意な上昇を認め、一方のSyncytin(図4)、Syncytin2(図4)、およびADAM12(図5)については有意な流入量の減少を認めた。TTTS群におけるcff PSG2 mRNAの流入量は2.70(1.93-3.02) multiple of median(MoM)(minimum-maximum)、一方の非TTTS群におけるそれは1.00(0.59-2.19)であった(p=0.002)。TTTS群におけるcff PSG3 mRNAの流入量は9.42(3.84-16.7)multiple of median(MoM)(minimum-maximum)、一方の非TTTS群におけるそれは1.00(0.50-1.62)であった(p=0.0016)。TTTS群におけるcff syncytin mRNAの流入量は0.22(0.17-0.25)multiple of median(MoM)(minimum-maximum)、一方の非TTTS群におけるそれは1.00(0.61-1.31)であった(p=0.0016)。TTTS群におけるcff syncytin mRNAの流入量は0.57(0.48-0.76)multiple of median(MoM)(minimum-maximum)、一方の非TTTS群におけるそれは1.00(0.50-4.10)であった(p=0.0016)。
【0104】
(実施例3.羊水中のcff-mRNAのマイクロアレイ解析)
1.検体集積とcff-mRNAの抽出:キアゲンRNeasyキットを用いる。
羊水検査(妊娠16週)、妊娠経過に異常なく選択的に帝王切開される症例および胎児心拍数図あるいは超音波検査で胎児ジストレスと診断され帝王切開された症例を対象として、同意をえて羊水10ccを採取し、cff-mRNAの抽出を行なう。
2.自作の胎児・胎盤特異的なcDNAマイクロアレイの精度を確認する。
同一症例から得られたサンプルを複数に分け、いずれも同一の結果が得られるのか確認する。
3.羊水中のcff-mRNAを用いたマイクロアレイ解析で胎児成熟の程度を評価する。
羊水検査(妊娠16週)あるいは妊娠経過に異常なく選択的に帝王切開された症例のcff-mRNAをターゲットにしたマイクロアレイによる遺伝子解析の結果と、従来から胎児の肺成熟の評価に臨床的に用いているシェイクテストの結果および新生児の診察所見とを比較することにより、両者の関連性および本検査法の有用性について検討し新知見を得る。
4.羊水中のcff-mRNAをターゲットにしたマイクロアレイ解析で胎盤機能を評価する。
胎児心拍数図あるいは超音波検査で胎児仮死と診断され帝王切開された症例を対象とする。cff-mRNAをターゲットにしたマイクロアレイによる遺伝子解析の結果と臍帯血の血液ガス所見などの臨床所見とを比較し、両者の関連性および有用性について検討し新知見を得る。
【0105】
(実施例4.妊娠高血圧症候群患者(PIH)血漿中の胎盤由来mRNAの解析)
PIHにおけるcff-mRNA流入量の変化を胎盤特異的cDNAアレイで解析し、臨床所見との関連性を調べた。
本試験は長崎大学倫理委員会の承認を得て、説明と同意のもとに行われた。妊娠28週から35週にPIHと診断された8例を対象とした。臨床所見は、高血圧、蛋白尿および発症時期について日産婦の定義にしたがって病型分類された。妊娠合併症を認めない同じ妊娠週数の妊婦をコントロールとした。PIHおよびコントロールから抽出したcff-mRNAをそれぞれ等量ずつ蛍光標識し、胎盤特異的cDNAアレイ(胎盤由来遺伝子群PLS−001〜PLS−050を検出し得る核酸プローブが固定されている)を用いてcomparative genomic hybridization解析を行った。Y軸にPIHの信号強度をX軸にコントロールのそれをプロットして散布図を作成し、個々の症例の流入パターンを検討した。コントロールと比較して複数の遺伝子でcff-mRNA流入量に2倍以上の変化を認めるものをパターンA、変化を認めないものをパターンBとした。
その結果、PIH8例のうちcff-mRNA流入量の変化がパターンAを示したものは3例、パターンBを呈したものは5例であった(表2)。
【0106】
【表2】

【0107】
高血圧の病型については、パターンAの3例はいずれも重症、パターンBの5例はいずれも軽症であり、cfp-mRNA流入量の変化と有意な関連が認められた(Fisher直接法、P値=0.018)。一方、蛋白尿および発症時期の病型と流入パターンには有意な関連は認められなかった(いずれもp>0.05)。重症PIHの患者において血漿中cfp-mRNA流入量が2倍以上変化した遺伝子のリストを表3に示す。
【0108】
【表3】

【0109】
cff-mRNA流入量の全体的な変化を把握することで、高血圧が重症のPIHと関連する流入パターンが同定された。母体血漿中cff-mRNAを用いた胎盤特異的cDNAアレイによる網羅的解析は、PIHにおける胎盤機能の検査や病態の解明に有用であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の評価方法および本発明の試薬は、胎盤機能不全の診断、胎児仮死の診断、流産の診断;癒着胎盤、妊娠高血圧症候群およびそれに伴う合併症、切迫早産、子宮内胎児発育遅延、常位胎盤剥離、妊娠糖尿病および双胎間輸血症候群のリスク予測;子宮外妊娠、存続絨毛症、および重症悪阻の重症度評価;絨毛性疾患の診断および治療効果判定;習慣流産の原因検査;胎盤機能の研究;などに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】cDNAマイクロアレイのデザインを示す図である。
【図2】TTTS群におけるcff-hPL mRNA流入量およびGAPDH mRNAの流入量の上昇を示す図である。
【図3】TTTS群におけるPSG2 mRNA流入量およびPSG3 mRNAの流入量の上昇を示す図である。
【図4】TTTS群におけるSyncytin mRNA流入量およびSyncytin2 mRNAの流入量の減少を示す図である。
【図5】TTTS群におけるADAM12 mRNA流入量の減少を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
妊娠している対象から採取された体液試料における、胎盤由来遺伝子群PLS−001〜PLS−050からなる群より選択される1または2以上の遺伝子の発現量を測定することを含む、胎盤機能の評価方法。
【請求項2】
少なくともPLS−041、PLS−044、PLS−049、PLS−025、PLS−050、PLS−005、PLS−048およびPLS−013からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量を測定することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
遺伝子群PLS−001〜PLS−050の発現量を測定することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
胎盤機能の異常に関連する疾患を発症しているか否か判定する方法である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
胎盤機能の異常に関連する疾患が、妊娠高血圧症候群、癒着胎盤、常位胎盤早期剥離、双胎間輸血症候群、前置胎盤、胎児発育遅延、子宮外妊娠、存続絨毛症、絨毛性疾患および習慣流産からなる群より選択される疾患である、請求項4記載の試薬。
【請求項6】
胎盤由来遺伝子のcff−mRNA量を測定する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
体液試料が血漿である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
妊娠している対象から採取された体液試料における、胎盤由来遺伝子群PLS−001〜PLS−050からなる群より選択される1または2以上の遺伝子の発現量を測定するための物質を含有する、胎盤機能の検査用試薬。
【請求項9】
少なくともPLS−041、PLS−044、PLS−049、PLS−025、PLS−050、PLS−005、PLS−048およびPLS−013からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量を測定するための物質を含む、請求項8記載の試薬。
【請求項10】
遺伝子の発現量を測定するための物質が、胎盤由来遺伝子群PLS−001〜PLS−050からなる群より選択される1または2以上の遺伝子の各ヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列を有する核酸分子またはその群が固定化された核酸アレイとして提供される、請求項8記載の試薬。
【請求項11】
該核酸アレイ上に、PLS−041、PLS−044、PLS−049、PLS−025、PLS−050、PLS−005、PLS−048およびPLS−013からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列を有する核酸分子が固定化されている、請求項10記載の試薬。
【請求項12】
該核酸アレイ上に、胎盤由来遺伝子群PLS−001〜PLS−050の各ヌクレオチド配列若しくはその部分配列またはそれらの相補配列を有する核酸分子またはその群が固定化されている、請求項10記載の試薬。
【請求項13】
胎盤機能の異常に関連する疾患を発症しているか否か評価するための試薬である、請求項8〜12のいずれかに記載の試薬。
【請求項14】
胎盤機能の異常に関連する疾患が、妊娠高血圧症候群、癒着胎盤、常位胎盤早期剥離、双胎間輸血症候群、前置胎盤、胎児発育遅延、子宮外妊娠、存続絨毛症、絨毛性疾患および習慣流産からなる群より選択される疾患である、請求項13記載の試薬。
【請求項15】
妊娠している対象から採取された体液試料における、cff−hPL−mRNAを定量することを含む、癒着胎盤または双胎間輸血症候群に罹患しているか否か評価する方法。
【請求項16】
妊娠している対象から採取された体液試料における、cff−hPL−mRNAを測定するための物質を含有する、癒着胎盤または双胎間輸血症候群に罹患しているか否か評価するための試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−278886(P2008−278886A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103399(P2008−103399)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月1日社団法人産科婦人科学会発行の「日本産科婦人科学会雑誌第60巻第2号(第60回学術講演会 抄録)」 に発表
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】