胸腔埋込デバイス
【課題】肺の正確な病変部位特定に適した胸腔埋込デバイスを提供する。
【解決手段】胸腔埋込デバイスは、肺の膨張収縮動作にともなって変化する肺の動作情報を検出する複数の検出器121と、複数の検出器同士の相対位置を規定するとともに、前記相対位置を変化させつつ変形する相対位置規定部材122と、を有し、複数の検出器が、相対位置規定部材の少なくとも一部とともに胸腔内に収容可能である。肺の動作情報が分散した複数箇所で検出されるため、病変部を特定し易い。
【解決手段】胸腔埋込デバイスは、肺の膨張収縮動作にともなって変化する肺の動作情報を検出する複数の検出器121と、複数の検出器同士の相対位置を規定するとともに、前記相対位置を変化させつつ変形する相対位置規定部材122と、を有し、複数の検出器が、相対位置規定部材の少なくとも一部とともに胸腔内に収容可能である。肺の動作情報が分散した複数箇所で検出されるため、病変部を特定し易い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺の病変部位を特定するための胸腔埋込デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、正常な呼吸を妨げる肺疾患の広範な群を意味する。即ち、肺気腫及び慢性気管支炎から選択される、少なくとも1つの疾患の存在により、気道が閉塞したり、気道内の空気が停滞したりする疾患である。COPDは、これらの症状がしばしば同時に存在し、個々の症例において、どの疾患が肺の閉塞を引き起こす原因であるか、あるいはその疾患が肺のどこの部位で発生しているのかを確認するのが難しい。一般に臨床的には、COPDは肺からの呼気流量の低下を、スパイロメーターのような体外に放出される呼気を測定する診断機器によって、包括的に肺の状態が診断される。
【0003】
このうち、肺気腫は、ガス交換の場となる呼吸細気管支、肺胞道、肺胞、及び肺胞嚢を含む肺胞実質と呼ばれる組織に破壊をともなった異常な拡大が生じた状態をいう。正常な肺胞実質は呼息時に収縮するが、気腫化した肺胞実質は呼吸により拡張した後は元には戻らない。このため、呼気を十分に行えない。その上、肺胞の有効面積や血管床(肺胞の表面に縦横に走る毛細血管)が減るため、肺全体のガス交換能力が低下する。加えて、炎症によりエラスチンやコラーゲンなどが破壊され、肺の弾力性が低下している為、呼息時に肺が縮むと、気管支が空気に満たされた周りの肺胞に圧迫されて狭くなり、空気が出にくくなる。
【0004】
肺気腫に対する処置では、病変部位を正確に特定し、正常部位への影響を抑えた低侵襲な処置が患者への負担を軽減する上で望ましいが、気管から先の呼吸域は複雑に分岐しているため呼吸域の末端に位置する病変部位を正確に特定するのは困難で、従って局所的処置が奏功し難いのが実状であった。
【0005】
病変部位を特定する手段として、例えば特許文献1に記載の装置を用い、患者の背中に当てられた複数のマイクロホンから集音される呼吸音を解析することによって、肺の病変部位をある程度予測することが可能となる。或いは、経験を積んだ術者であれば、患者の胸や背中に当てた聴診器を通じて聞こえる呼吸音から、肺の病変部位をある程度予測することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0326418号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これら従来の装置や方法では、体外から患者の体を通じて呼吸音を集音するため、心臓や血管を流れる血流の音等の様々なノイズが乗り、病変部位の正確な特定が妨げられ易い。
【0008】
また、胸部X線やコンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)によって得られる画像から病変部位の特定を試みる方法、及び口外における呼気・吸気流から病変部位の特定を試みる方法も考えられるが、前者では呼吸域の動きが不明で、病変部位の正確な特定が困難であり、このことに加え、他の処置を行いながら診断するのに不向きである。また、後者では方法(パルスオシレーション法など)によっては、病変が気道の中枢側にあるのか末梢側にあるのかの傾向を把握することは可能であるものの、末梢側のどの部位に病変があるのかといった局所的な病変部位の特定はできない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、肺の正確な病変部位特定に適した胸腔埋込デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の胸腔埋込デバイスは、肺の膨張収縮動作にともなって変化する前記肺の動作情報を検出する複数の検出器と、複数の当該検出器同士の相対位置を規定するとともに、前記相対位置を変化させつつ変形する相対位置規定部材と、を有し、複数の前記検出器が、前記相対位置規定部材の少なくとも一部とともに胸腔内に収容可能である。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成した本発明の胸腔埋込デバイスによれば、術者は、患者に設けた体外と胸腔とを連通させる開口部を通じ、相対位置規定部材を変形させつつ複数の検出器を体内に挿入し、そして複数の検出器を胸腔内に留置させることができ、その結果、複数の検出器が肺の動作情報を直接的に検出するため、ノイズ等の影響が抑制され、正確な病変部位の特定に適する。
【0012】
また、前記相対位置規定部材がシート状又は網状で、複数の前記検出器が前記相対位置規定部材に分散して配置されているようにすれば、肺の動作情報が分散した複数個所で検出されるため、病変部位を特定し易い。
【0013】
また、前記相対位置規定部材が管状で、複数の前記検出器が前記相対位置規定部材内で前記相対位置規定部材の軸方向に沿って配置されているようにすれば、検出器と相対位置規定部材とが組み合わさった構造体が線状であるため、検出器及び相対位置規定部材の胸腔への挿入又は胸腔からの取出しが容易である。
【0014】
また、前記検出器と電気的に接続し、無線通信によって前記動作情報を体外に送信する胸腔内に収容可能な送信部を有するようにすれば、通信のために体内から引き出されるケーブルが不要であるため、患者の動作が邪魔され難い。
【0015】
また、前記検出器と電気的に接続し前記動作情報を体外に送信するケーブルを有するようにすれば、術者は無線通信のための送信部を体内に留置する必要がないため、手技が容易である。
【0016】
また、前記検出器と電気的に接続し、体外から供給される電力を非接触で充電する胸腔内に収容可能な充電部を有するようにすれば、電力供給のために体内から引き出されるケーブルが不要であるため、患者の動作がケーブルによって邪魔され難い。
【0017】
また、前記検出器と電気的に接続し、電力を体外から前記検出器に供給するケーブルを有するようにすれば、術者は検出器へ電力を供給する充電部を体内に留置する必要がないため、手技が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】肺及び胸腔の概略図である。
【図2】第1実施形態の胸腔埋込デバイスの概略構成図である。
【図3】トロッカーの斜視図である。
【図4】デリバリーデバイスの概略構成図である。
【図5】充電/読取装置の概略構成図である。
【図6】肺の右葉及び胸腔の概略図である。
【図7】第1実施形態の検査方法の連通工程において、トロッカーを穿刺した状態を示す概略図である。
【図8】第1実施形態の検査方法の検出器配置工程において、デリバリーデバイスによって胸腔内にセンサ・アレイを挿入した状態を示す概略図である。
【図9】第1実施形態の検査方法の検出器配置工程において、センサ・アレイを肺の右上葉に配置した状態を示す概略図である。
【図10】第1実施形態の検査方法の検出器配置工程において、センサ・アレイを肺の右上葉、右中葉、右下葉に配置した状態を示す概略図である。
【図11】第1実施形態の検査方法のRFIDタグ付バッテリー配置工程において、デリバリーデバイスによって胸腔内にRFIDタグ付きバッテリーを挿入した状態を示す概略図である。
【図12】第1実施形態の検査方法の接続工程において、デリバリーデバイスを用いたRFIDタグ付きバッテリーとセンサ・アレイとの電気的接続を示す概略図である。
【図13】RFIDタグ付きバッテリーとセンサ・アレイとが電気的に接続された状態を示す概略図である。
【図14】第1実施形態の検査方法の減圧工程において、トロッカーを通じた吸引によって胸腔内が減圧された状態を示す概略図である。
【図15】第1実施形態の検査方法のトロッカー抜去工程後、RFIDタグ付きバッテリー及びセンサ・アレイが電気的に接続されて胸腔内に留置された状態を示す概略図である。
【図16】胸腔埋込デバイスの埋め込み位置に対応させて患者の体表から貼付パッチを貼り付けた状態を示す概略図である。
【図17】肺の機能が正常な場合に、第1実施形態の胸腔埋込デバイスを用いた検査によって得られるセンサ間距離の時間変化の例を示すグラフである。
【図18】肺が病変部位を有する場合に、第1実施形態の胸腔埋込デバイスを用いた検査によって得られるセンサ間距離の時間変化の例を示すグラフである。
【図19】第1実施形態の胸腔埋込デバイスによって得られるデータに基づき肺の機能が正常か否かを判定する判定手順を示すフローチャートである。
【図20】第2実施形態の胸腔埋込デバイスの概略構成図である。
【図21】第2実施形態の検査方法の検出器配置工程において、胸腔内にセンサ・アレイを挿入した状態を示す概略図である。
【図22】第2実施形態の検査方法の検出器配置工程において、胸腔内壁にセンサ・アレイを固定した状態を示す概略図である。
【図23】第2実施形態の検査方法の減圧工程において、トロッカーを通じた吸引によって胸腔内が減圧された状態を示す概略図である。
【図24】第2実施形態の検査方法のトロッカー抜去工程後、センサ・アレイが電気的に接続されて胸腔内に留置された状態を示す概略図である。
【図25】第2実施形態の胸腔埋込デバイスによって得られるデータに基づき肺の機能が正常か否かを判定する判定手順を示すフローチャートである。
【図26】変形例の呼吸域留置デバイスと第1実施形態の胸腔埋込デバイスとを併用した状態を示す概略図である。
【図27】呼吸域留置デバイスが気管支に留置された状態を示す概略図である。
【図28】呼吸域留置デバイスの断面図である。
【図29】呼吸域留置デバイスの他の例を示す断面図である。
【図30】他の例の呼吸域留置デバイスが気管支に留置された状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
<第1実施形態>
図1及び図2において概説すると、本発明の第1実施形態の胸腔埋込デバイス10は、肺1の膨張収縮動作にともなって変化する肺1の動作情報を胸腔2内で検出するための装置であり、胸腔2内に留置されるセンサ・アレイ12と、センサ・アレイ12に電気的に接続するRFID(Radio Frequency IDentification)タグ付バッテリー13と、を有する。本実施形態では、胸腔埋込デバイス10は、3つのセンサ・アレイ12と、1つのRFIDタグ付バッテリー13と、を有する。
【0021】
センサ・アレイ12は、肺1の動作情報を検出する複数の加速度センサ121(検出器)を含む。また、センサ・アレイ12は、複数の加速度センサ121を保持するシート状の保持部材122(相対位置規定部材)を有する。各センサ・アレイ12は、9つの加速度センサ121を有する。また、各センサ・アレイ12は、加速度センサ121同士を電気的に接続するケーブル123と、加速度センサ121及びRFIDタグ付バッテリー13を電気的に接続するためのコネクタ124と、を有する。
【0022】
複数の加速度センサ121は、保持部材122に分散して配置されている。より具体的には、複数の加速度センサ121は、保持部材122の面に沿う互いに交差する方向D1及び方向D2に互いに離隔して並んでいる。方向D1と方向D2とは直交し、また、複数の加速度センサ121は等間隔に並んでいる。
【0023】
各加速度センサ121は、加速度センサ121自身の動きによって生ずる加速度を検出する。また、各加速度センサ121は、方向D1の加速度、及び方向D2の加速度を検出する。
【0024】
各加速度センサ121は、肺1の膨張収縮動作に追従して動くため、各加速度センサ121によって検出される加速度は、膨張収縮動作によって生じる肺1の局部の加速度(肺1の動作情報)に相当する。
【0025】
保持部材122は、一方の面で複数の加速度センサ121を保持し、他方の面で肺1に接する。保持部材122は、例えば保持部材122と加速度センサ121との間に塗布された接着剤によって複数の加速度センサ121を保持し、複数の加速度センサ121同士の相対位置を規定する。
【0026】
保持部材122は、可撓性を有し、複数の加速度センサ121の相対位置を変化させつつ変形する。このため、術者は、患者に設けた体外と胸腔2とを連通させる開口部に、複数の加速度センサ121とともに保持部材122を挿入でき、また、これらを胸腔2内に留置できる。例えば、術者は、保持部材122を円筒状に丸め、複数の加速度センサ121とともに保持部材122を開口部に挿入する。また、保持部材122は、加速度センサ121による正確な加速度検出のため、好ましくは、肺1の表面に密着して肺1の膨張収縮動作に追従し得る弾性材料によって形成される。弾性材料は、例えば、シリコーン系のエラストマーである。
【0027】
ケーブル123は、加速度センサ121と加速度センサ121との間に配置される。ケーブル123は、コイル形状を有し、伸縮自在である。このため、ケーブル123は、肺1の膨張収縮動作にともなって増減する加速度センサ121の間の距離に合わせて伸縮する。従って、加速度センサ121が、肺1の膨張収縮動作に追従して動き易い。
【0028】
コネクタ124は、保持部材122における加速度センサ121と同じ面に設けられており、ケーブル123を介して全ての加速度センサ121と電気的に接続している。
【0029】
RFIDタグ付バッテリー13は、直方体形状のケース133、ケース133内に収められるRFIDタグ131(送信部)及び充電装置132(充電部)、並びにケース133から引き出されたケーブル134を有する。RFIDタグ付バッテリー13は、3つのケーブル134を有しており、3つのケーブル134の各々は、各コネクタ124を介して各センサ・アレイ12と電気的に接続する。RFIDタグ付バッテリー13は、体外と胸腔とを連通させる開口部に挿通可能である。
【0030】
充電装置132は、ケーブル134、並びにコネクタ124及びケーブル123を介して、各加速度センサ121と電気的に接続し、体外から供給される電力を非接触で充電する。充電装置132は、主な構成として、体外から送られる交流電力を受けるコイルと、交流電力を整流し直流電力に変換する整流器と、変換された直流電力を充電し、またケーブル134と電気的に接続するバッテリーと、を含む。
【0031】
RFIDタグ131は、ケーブル134、並びにコネクタ124及びケーブル123を介して各加速度センサ121と電気的に接続する。各加速度センサ121からの電気信号情報は、RFIDタグ131に書き込まれる。RFIDタグ131は、この書き込まれた肺1の動作情報を無線通信によって体外に送信可能である。RFIDタグ131として従来公知の技術を適用できる。
【0032】
次に、図3、図4、及び図5において、体外と胸腔2とを連通させる開口部を形成するためのトロッカー11、センサ・アレイ12とRFIDタグ付バッテリー13を胸腔2へ搬送するためのデリバリーデバイス100、及び、RFIDタグ付バッテリー13を充電するとともにRFIDタグ131から情報を読み取るための充電/読取装置109について説明する。
【0033】
図3に示すように、トロッカー11は、可撓性を有する管部111と、管部111の一端に設けられたフランジ部112とを有する。トロッカー11は、肋骨と肋骨との間(以下、単に肋間と称す。)に臨む胸腔2の内壁を通るように患者に穿刺され、センサ・アレイ12及びRFIDタグ付バッテリー13を胸腔2に案内するアクセスポートとして機能する。管部111及びフランジ部112は、例えば金属および/または合成樹脂等によって一体的に形成される。なお、センサ・アレイ12及びRFIDタグ付バッテリー13がトロッカー11を通過するときの滑りを良くするため、好ましくは管部111の内側表面に潤滑コーティングが施されていてもよい。
【0034】
図4に示すように、デリバリーデバイス100は、センサ・アレイ12及びRFIDタグ付バッテリー13を把持可能な鉗子102と、管状のシース101と、を有する。シース101は、可撓性を有し、例えば合成樹脂等によって形成される。シース101はトロッカー11より長く、鉗子102はシース101より長い。センサ・アレイ12及びRFIDタグ付バッテリー13、鉗子102はシース101に挿通可能である。また、シース101はトロッカー11に挿通可能である。なお、胸腔内の観察が可能となるように、シース101は先端部分に内視鏡(不図示)が内蔵されていてもよい。また、患者個々によって異なる胸腔内での手技操作を行いやすくする為に、鉗子102はシャフト先端部分が予め曲がっているものを、曲率を変えていくつか品揃えすることが好ましい。あるいは、手元部操作で先端部分の湾曲が可能で、シャフト先端部分の曲率を自在に操作できるようなものでもよい。
【0035】
図5に示すように、充電/読取装置109は、患者の体に貼り付けられるシート状の貼付パッチ103、並びに貼付パッチ103に電気的に接続されたRFIDリーダー107及び給電装置105を有する。
【0036】
貼付パッチ103は、充電装置132へ交流電力を送るためのコイルを含む。また、貼付パッチ103は、RFIDタグ131との間で信号を送受信するためのアンテナを含む。
【0037】
RFIDリーダー107は、貼付パッチ103に含まれるアンテナと電気的に接続している。また、RFIDリーダー107は、貼付パッチ103とRFIDタグ131との間で送受信される送受信信号を変換するための通信回路、及び送受信信号をデコードするための演算処理部を含む。RFIDリーダー107は、USBケーブル108を介して、パーソナルコンピユータ(PC)やエンジニアリングワークステーション(EWS)等のコンピュータ(不図示)に接続する。RFIDタグ131から読み取られた情報は、これらのコンピュータに取り込まれる。
【0038】
給電装置105は、貼付パッチ103に含まれる上記コイルと電気的に接続している。また、給電装置105は、電力伝送用のキャリア信号を出力するキャリア発振器、キャリア信号に制御信号を重畳する変調器、及び変調された交流電力を増幅する電力増幅器を含む。給電装置105は、差込プラグ106を介して交流電源に電気的に接続する。
【0039】
次に、胸腔埋込デバイス10を用いた検査方法について述べる。
【0040】
概説すると、第1実施形態の検査方法は、体外と胸腔2とを連通させる連通工程と、連通工程後、胸腔2内に肺の動作情報を検出する検出器を配置する検出器配置工程と、検出器配置工程後、胸腔2内にRFIDタグ付バッテリー13を配置するRFIDタグ付バッテリー配置工程と、を有する。
【0041】
また、第1実施形態の検査方法は、RFIDタグ付バッテリー配置工程後、センサ・アレイ12とRFIDタグ付バッテリー13とを電気的に接続する接続工程と、接続工程後、胸腔2内を減圧する減圧工程と、減圧工程後、トロッカー11を抜去するトロッカー抜去工程と、を有する。
【0042】
また、第1実施形態の検査方法は、トロッカー抜去工程後、RFIDタグ付バッテリー13を充電する充電工程と、充電工程後、肺1の動作情報を検出する検出工程と、検出工程後、検出された動作情報に基づき、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する判定工程と、を有する。
【0043】
図6及び図7に示すように、連通工程において、術者は、トロッカー11を患者に穿刺することによって体外と胸腔2とを連通させる。トロッカー11を穿刺する際、術者は、長尺状で先端が鋭利な補強材であるダイレーター(不図示)をトロッカー11の内腔に通した状態で、ダイレーターとともにトロッカー11を体表から患者の肋間に穿刺する。穿刺後、ダイレーターはトロッカー11から抜去され、トロッカー11が肋間に残る。トロッカー11の穿刺前、胸腔2内は陰圧であるが、トロッカー11によって胸腔2が外気開放されるため大気圧と等しくなり、その結果、肺1が収縮する。なお、トロッカー11を穿刺する代わりに、メスで切開した後に一般手術器具として市販される開創器等(不図示)を設置して開口部を設けてもよい。また、胸腔内を観察する手段として、X線透視装置(不図示)、内視鏡(不図示)のいずれか、または両方を用いることができる。内視鏡は、トロッカー11に挿通して用いてもよいし、別の肋間部位に開口部を設けてそこを挿通して用いてもよいし、両方を用いてもよい。
【0044】
図8〜10に示すように、検出器配置工程において、術者は、デリバリーデバイス100を用いてセンサ・アレイ12を胸腔2内に配置する。より具体的に述べると、術者は、保持部材122を筒状に丸めることによってセンサ・アレイ12を、シース101、より好ましくはシース101の先端に入れ、その状態で、トロッカー11を介してシース101を胸腔2内に挿入する。そして、図8に示すように、術者は、シース101の先端を、目的部位、ここでは肺1の右上葉に近接させ、鉗子102によってシース101からセンサ・アレイ12を押し出す。
【0045】
センサ・アレイ12の押し出し後、図9に示すように、術者は、鉗子102を用いて丸められていたセンサ・アレイ12を肺1の上に広げ、広がったセンサ・アレイ12を、一般的な胸腔鏡下手術で行われる糸あるいはステープル針等を用いた縫合、又は、接着効果がある薬剤(タルク、フィブリン、シアノアクリレートなど)をもちいた接着によって肺1に固定する。また、センサ・アレイ12の上にシート材(不図示)を被せて固定してもよい。シート材は術後の気胸予防のために外科手術(主に胸腔鏡下手術で行われる)で一般に用いられ、ポリグリコール酸、酸化セルロースなどが原材料に含まれる。この際、前述したように、胸腔内を観察する手段として、X線透視装置、内視鏡のいずれか、または両方を用いることができる。
【0046】
また、図10に示すように、同様にして、術者は、他のセンサ・アレイ12を中葉及び下葉に配置し、そしてこれらを固定する。センサ・アレイ12の固定後、術者は、シース101及び鉗子102をトロッカー11から抜去する。
【0047】
次に、図11〜13に示すように、RFIDタグ付バッテリー配置工程において、術者は、デリバリーデバイス100を用いてRFIDタグ付バッテリー13を胸腔2内に配置する。より具体的に述べると、術者は、RFIDタグ付バッテリー13を、シース101、好ましくはシース101の先端に入れ、その状態で、トロッカー11を通じてシース101を胸腔2内に挿入する。そして、図11に示すように、術者は、シース101の先端を、目的部位、ここでは肋間に臨む胸腔2の内壁(望ましくは中葉近傍)に近接させ、鉗子102によってシース101からRFIDタグ付バッテリー13を押し出す。そして、術者は、鉗子102を用いて、一般的な胸腔鏡下手術で行われる縫合又は接着によってRFIDタグ付バッテリー13を胸腔2の内壁に固定する。この際、前述したように、胸腔内を観察する手段として、X線透視装置、内視鏡のいずれか、または両方を用いることができる。
【0048】
図12示すように、接続工程において、術者は、鉗子102を用いてケーブル134をコネクタ124に接続し、その後、図13に示すように、シース101及び鉗子102を胸腔2内から抜去する。この際、前述したように、胸腔内を観察する手段として、X線透視装置、内視鏡のいずれか、または両方を用いることができる。
【0049】
図14に示すように、減圧工程において、術者は、トロッカー11を通じポンプ等の吸引装置によって胸腔2内のガスを吸引し、胸腔2内を減圧してトロッカー11穿刺前の陰圧状態に戻す。胸腔2内が元の陰圧状態に戻る際、肺1が膨張するため、術者は、固定したセンサ・アレイ12及びRFIDタグ付バッテリー13が脱落していないかX線透視などの方法で確認する。そして、図15に示すように、トロッカー抜去工程において、術者は、トロッカー11を抜去し、切開された部位を縫合する。
【0050】
図16に示すように、充電工程において、術者は、RFIDタグ付バッテリー13が留置された肋間部位に対向させて体表から貼付パッチ103を貼り付け、充電装置132を充電する。貼付パッチ103から送られた交流電力は、充電装置132によって直流電力に変換されるとともに充電される。なお、充電装置132が既に充電されている場合、充電工程を省略できる。
【0051】
検出工程では、各加速度センサ121が、方向D1の加速度、及び方向D2の加速度を検出する。検出された加速度に関する情報は、RFIDタグ131に書き込まれ、そして、RFIDタグ131から貼付パッチ103に伝わり、RFIDリーダー107を経てコンピュータに取り込まれる。
【0052】
判定工程では、コンピュータが、検出された加速度から、加速度センサ121と加速度センサ121との間の距離(以下、単にセンサ間距離と称す。)の時間変化を算出し、そのセンサ間距離の時間変化から、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する。
【0053】
より具体的に述べると、コンピュータは、過去に患者から得られたデータから図17に示すような正常時におけるセンサ間距離の振幅A1を算出しておき、この正常時における振幅A1と、検査から得られる現状でのセンサ間距離の振幅とを比較することによって、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する。
【0054】
コンピュータは、加速度センサ121が検出する加速度を積分することによって、加速度センサ121の速度を求め、その速度をさらに積分することによって加速度センサ121の変位を求める。そして、コンピュータは、一の加速度センサ121の変位及び隣接する他の加速度センサ121の変位からセンサ間距離を求める。コンピュータは、このような計算によって、複数の加速度センサ121の各々について、方向D1の変位及び方向D2の変位を算出し、そして全てのセンサ間距離についてその振幅を算出する。
【0055】
肺1の一部が気腫化する等の原因によって膨張収縮機能が低下すると、部分的な肺1の動きが鈍る。また、センサ間距離の振幅は、肺1の局部の方向D1又は方向D2における長さの経時変化を意味する。従って、例えば図18に示すように、検査によって得られる現状でのセンサ間距離の振幅A2が、正常時のセンサ間距離の振幅A1より小さい場合、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮動作に異常があると判定する。一方、検査によって得られる現状でのセンサ間距離の振幅A2が正常時のセンサ間距離の振幅A1と略等しい、又は大きい場合、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮動作が正常であると判定する。
【0056】
図19においてコンピュータによる判定手順を説明すると、まず、正常時における患者のデータがコンピュータに入力される(S11)。ここで、正常時における患者のデータは、患者の呼吸が正常であるときに各加速度センサ121によって検出された過去の加速度の履歴を含んでいる。また、コンピュータは、正常時における患者のデータから上記計算によってセンサ間距離の振幅(以下、この正常時におけるセンサ間距離の振幅を単に正常下限値と称す。)を算出する。
【0057】
次に、コンピュータは、各加速度センサ121が検出する加速度のデータを、RFIDリーダー107を介して読み込み、現状におけるセンサ間距離の振幅を算出する(S12)。そして、コンピュータは、このセンサ間距離の振幅と正常下限値とを比較する(S13)。
【0058】
センサ間距離の振幅が正常下限値以上であれば、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮機能が正常であると判定する(S14)。一方、センサ間距離の振幅が正常下限値より小さければ、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮機能が異常であると判定する(S15)。
【0059】
コンピュータは、全てのセンサ間距離の振幅について以上の判定を行い、全ての判定結果をディスプレイに表示する。そして、術者は、表示される判定結果から、肺1の病変部位を特定する。
【0060】
本実施形態の効果を述べる。
【0061】
本実施形態の胸腔埋込デバイス10によれば、複数の加速度センサ121が胸腔2内で肺1の動作情報を直接的に検出するため、ノイズ等の影響が抑制され、正確な病変部位の特定に適する。
【0062】
また、複数の加速度センサ121がシート状の保持部材122に分散して配置されており、肺1の動作情報が分散した複数個所で検出されるため、病変部位を特定し易い。
【0063】
また、胸腔埋込デバイス10は、無線通信によって肺1の動作情報を体外に送信可能なRFIDタグ131を有するため、通信のために体内から引き出されるケーブルが不要であり、患者の動作が邪魔され難い。
【0064】
また、胸腔埋込デバイス10は、体外から供給される電力を非接触で充電可能な充電装置132を有するため、加速度センサ121への電力供給のために体内から引き出されるケーブルが不要であり、患者の動作が邪魔され難い。
【0065】
<第2実施形態>
図20において概説すると、本発明の第2実施形態の胸腔埋込デバイス20は、肺1の膨張収縮動作にともなって変化する肺1の動作情報を胸腔2内で検出するための装置であり、呼吸音(肺1の動作情報)を検出する複数のマイクロホン22(検出器)と、複数のマイクロホン22を保持する管状の保持部材23(相対位置規定部材)と、を有する。本実施形態では、胸腔埋込デバイス20は6つのマイクロホン22を有する。また、胸腔埋込デバイス20は、マイクロホン22それぞれに電気的に接続されるケーブル24と、ケーブル24を介してマイクロホン22と電気的に接続し保持部材23から引き出されたUSBケーブル25(ケーブル)と、を有する。
【0066】
保持部材23は、例えば保持部材23とマイクロホン22との間に塗布された接着剤によってマイクロホン22を内腔に保持し、複数のマイクロホン22同士の相対位置を規定する。また、保持部材23は、可撓性を有し、マイクロホン22同士の相対位置を変化させつつ変形する。このため、術者は、体外と胸腔2とを連通させる開口部に、複数のマイクロホン22とともに保持部材23を挿入し、胸腔2内にこれらを留置できる。
【0067】
保持部材23は、例えば、直線形状、又はカーブ形状を有する。カーブ形状の場合、保持部材23の形状は、胸腔2内の留置箇所、本実施形態では胸腔2の内壁に合った曲率を有することが好ましい。このような形状によって、胸腔2内への胸腔埋込デバイス20の留置が容易となる。また、直線形状の場合であっても、保持部材23が、例えばステンレス等の金属材料のような塑性変形可能な材料で形成されることによって、術者は留置箇所の形状に合った曲がりぐせを保持部材23につけることができ、胸腔埋込デバイス20の留置が容易となる。
【0068】
保持部材23は、好ましくは弾性を有する材料によって形成される。保持部材23が、弾性を有することによって、胸腔2内の留置箇所の形状に合わせて変形するため、胸腔2内への保持部材23の留置が容易となる。弾性を有する材料は、例えば、ステンレス及びニッケルチタン合金等の金属材料、又はポリウレタン及びポリイミド等のプラスチック材料である。
【0069】
複数のマイクロホン22は、互いに離隔して並んでいる。最も先端側に位置するマイクロホン22と最も基端側に位置するマイクロホン22との間の距離は、特に限定されないが、好ましくは、肺1の右葉の上葉から下葉、又は肺1の左葉の上葉から下葉に達する長さであり、例えば、100mm以上である。
【0070】
USBケーブル25は、ケーブル24を介して全てのマイクロホン22と電気的に接続している。USBケーブル25は、各マイクロホン22が検出する呼吸音を体外に送信する。また、USBケーブル25は、体外の電源と電気的に接続し、電力を体外から各マイクロホン22に供給する。
【0071】
次に、胸腔埋込デバイス20を用いた検査方法について述べる。
【0072】
概説すると、第2実施形態の検査方法は、体外と胸腔2とを連通させる連通工程と、連通工程後、胸腔2内に肺の動作情報を検出する検出器を配置する検出器配置工程と、検出器配置工程後、胸腔2内を減圧する減圧工程と、減圧工程後、トロッカー11を抜去するトロッカー11抜去工程と、を有する。連通工程については第1実施形態と同様であるので、これについての重複する説明を省略する。また、トロッカー11は第1実施形態と同様であるので、これについての重複する説明を省略する。
【0073】
上記工程に加え、第2実施形態の検査方法は、トロッカー抜去工程後、肺1の動作情報を検出する検出工程と、検出工程後、検出された動作情報に基づき、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する判定工程と、を有する。
【0074】
図21に示すように、検出器配置工程において、術者は、肋間に穿刺されたトロッカー11を通じて胸腔埋込デバイス20を胸腔2内に挿入する。挿入後、術者は、X線透視等の画像観察によって、胸腔埋込デバイス20の位置を確認しつつ、胸腔埋込デバイス20の位置決めを行う。
【0075】
位置決め後、図22に示すように、術者は、胸腔埋込デバイス20を胸腔2の内壁表面に固定する。術者は、例えば、糸26が付いた針を体表から肋間に通し、糸26を胸腔埋込デバイス20の端部にかける。そして、胸腔埋込デバイス20を糸26で縛ることによって、術者は、胸腔埋込デバイス20を固定する。胸腔埋込デバイス20を縛る箇所は、1箇所でもよいが、好ましくは2箇所以上である。
【0076】
図23に示すように、減圧工程において、術者は、トロッカー11を通じポンプ等の吸引装置によって胸腔2内のガスを吸引し、胸腔2内をトロッカー11穿刺前の陰圧状態に戻す。胸腔2内が元の陰圧状態に戻る際、肺1が膨張する。そして、図23に示すように、トロッカー11抜去工程において、術者は、トロッカー11を抜去し、切開された部位を縫合する。
【0077】
検出工程では、呼吸の際に空気が肺1の内部を通過することによって生ずる呼吸音を、各マイクロホン22が検出する。検出された呼吸音に関する情報は、ケーブル24、及びUSBケーブル25を介して、USBケーブル25が接続しているコンピュータに取り込まれる。マイクロホン22の駆動電力は、このコンピュータから供給される。
【0078】
判定工程では、コンピュータが、検出された呼吸音の音圧の振幅から、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する。より具体的に述べると、コンピュータは、過去に患者から得られたデータから、正常時における呼吸音の音圧の振幅を求めておき、この正常時における音圧の振幅と、検査から得られる現状での呼吸音の音圧の振幅とを比較することによって、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する。
【0079】
検査によって得られる現状での音圧の振幅が、正常時の音圧の振幅より小さい場合、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮動作に異常があると判定する。一方、検査によって得られる現状での音圧の振幅が正常時の音圧の振幅と略等しい、又は大きい場合、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮動作が正常であると判定する。
【0080】
図25においてコンピュータによる判定手順を説明すると、まず、正常時における患者のデータがコンピュータに入力される(S21)。ここで、正常時における患者のデータは、患者の呼吸が正常であるときに各マイクロホン22によって検出された過去の呼吸音の履歴を含んでいる。また、コンピュータは、正常時における患者のデータから音圧の振幅(以下、この正常時における音圧の振幅を単に正常下限値と称す。)を求める。
【0081】
次に、コンピュータは、各マイクロホン22が検出する呼吸音のデータを、USBケーブル25を介して読み込み、現状での音圧の振幅を求める(S22)。そして、コンピュータは、現状における音圧の振幅と正常下限値とを比較する(S23)。
【0082】
音圧の振幅が正常下限値以上であれば、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮機能が正常であると判定する(S24)。一方、音圧の振幅が正常下限値より小さければ、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮機能が異常であると判定する(S25)。
【0083】
コンピュータは、複数のマイクロホン22から得られる全ての音圧の振幅について以上の判定を行い、全ての判定結果をディスプレイに表示する。そして、術者は、表示される判定結果から、肺1の病変部位を特定する。
【0084】
本実施形態の効果を述べる。
【0085】
本実施形態の胸腔埋込デバイス20によれば、複数のマイクロホン22が胸腔2内で呼吸音を直接的に検出するため、ノイズ等の影響が抑制され、正確な病変部位の特定に適する。
【0086】
また、胸腔埋込デバイス20が線状であるため、胸腔埋込デバイス20の胸腔2への挿入又は胸腔2からの取り出しが容易である。
【0087】
また、胸腔埋込デバイス20は、肺1の動作情報をUSBケーブル25によって体外に送信するため、無線通信のための送信装置を体内に留置する必要がなく、手技が容易である。
【0088】
また、胸腔埋込デバイス20は、USBケーブル25によって電力を体外からマイクロホン22に供給するため、マイクロホン22へ電力を供給する充電装置を体内に留置する必要がなく、手技が容易である。
【0089】
<変形例>
図26及び図27に示すように、変形例では、肺1の内部に留置されて肺1の動作情報を検出する呼吸域留置デバイス30が、第1実施形態の胸腔埋込デバイス10とともに用いられる。図26及び図27では肺1における呼吸域3の一部だけを示しているが、呼吸域3は、気管、主気管支、葉気管支、気管支、細気管支、終末細気管支、呼吸細気管支、肺胞管(肺胞道)、肺胞、及び肺胞嚢からなる。
【0090】
図28に示すように、呼吸域留置デバイス30は、肺1の動作情報を検出する検出器31と、検出器31に電力を供給する電源部33と、検出器31及び電源部33を保持する保持部材32と、を有する。呼吸域留置デバイス30は、検出器31を1つ有する。
【0091】
検出器31は、例えば、マイクロホン、又はフローセンサである。マイクロホンの場合、検出器31は、肺1の動作情報として呼吸音を検出する。フローセンサの場合、検出器31は、肺1の動作情報として呼吸域3を流れる空気の流量を検出する。電源部33は、検出器31と電気的に接続している。電源部33は、例えば小型の電池であり、交換可能である。
【0092】
保持部材32は、管状であり、軸方向に空気を通す内腔を有する。保持部材32は、内腔に検出器31及び電源部33を保持している。保持部材32は、呼吸域3の気管支等の屈曲に追従できる柔軟性を有する材料によって形成される。このような材料として、例えばポリウレタンが挙げられる。あるいは、臨床で一般に用いられているステント(冠動脈などの血管に留置するステンレス製の管状物)と同様な構造物であってもよい。
【0093】
次に、呼吸域留置デバイス30を用いた検査方法について述べる。
【0094】
呼吸域留置デバイス30を用いた検査方法は、呼吸域3に呼吸域留置デバイス30を配置する配置工程と、配置工程後、肺1の動作情報を検出する検出工程と、検出工程後、検出された動作情報に基づき、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する判定工程と、を有する。
【0095】
配置工程では、術者は、カテーテル等の呼吸域3に挿通可能な部材を用いて呼吸域3に呼吸域留置デバイス30を配置する。配置箇所は、例えば気管支である。また、配置箇所は、1箇所でもよいし、複数個所であってもよい。
【0096】
次に、検出工程において、検出器31が肺1の動作情報を検出する。検出された動作情報は、有線又は無線で体外に送信され、コンピュータに取り込まれる。
【0097】
判定工程では、第2実施形態と略同様の手順によって、コンピュータが、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する。例えば、検出器31がマイクロホンの場合、コンピュータは、検出された呼吸音の音圧の振幅と、正常下限値(正常時における音圧の振幅)とを比較することによって、正常か否かを判定する。また、例えば、検出器31がフローセンサの場合、コンピュータは、時間とともに変化する検出された空気の流量の振幅と、正常下限値(正常時における空気の流量の振幅)とを比較することによって、正常か否かを判定する。
【0098】
コンピュータは、呼吸域留置デバイス30を用いた検査によって得られた判定結果とともに、胸腔埋込デバイス10によって得られた判定結果をディスプレイに表示する。術者は、これら両判定結果を比較参照し、肺1の病変部位を特定する。
【0099】
本変形例では、胸腔埋込デバイス10に加えて呼吸域留置デバイス30によっても検査が行われるため、第1実施形態の効果に加え、より正確に肺1の病変部位を特定できるという効果を奏する。
【0100】
本変形例では、胸腔埋込デバイス10及び呼吸域留置デバイス30を併用して検査が行われたが、第2実施形態の胸腔埋込デバイス20及び呼吸域留置デバイス30を併用して検査が行われてもよい。なお、本変形例と異なるが、第1実施形態又は第2実施形態の胸腔埋込デバイス10と併用するのではなく、呼吸域留置デバイス30を単独で用いて検査することも可能である。
【0101】
また、保持部材32は、図28に示したような比較的短い管状に限定されず、図29に示すように長尺な管状の保持部材41であってもよい。この場合も、上述のように、呼吸域留置デバイス40は、図30に示すように、呼吸域3に留置されて用いられる。
【0102】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変できる。
【0103】
例えば、第1及び第2実施形態においては、肺の右葉へ検出器を配置する実施形態を説明したが、左葉へも同様に配置することができる。
また、第1実施形態の保持部材(相対位置規定部材)122は網状であってもよい。また、相対位置規定部材は、分散した複数の検出器の間に配置され、隣接する検出器同士をつなぐ部材であってもよい。また、センサ・アレイ、加速度センサ、及びマイクロホンの数は実施形態に限定されず、適宜設定できる。
【0104】
また、第1実施形態の加速度センサ121に代えてマイクロホンを適用した胸腔埋込デバイスを本発明は含む。また、第2実施形態のマイクロホン22に代えて加速度センサを適用した胸腔埋込デバイスを含む。この場合、胸腔埋込デバイスは、肺表面に固定されて用いられる。
【0105】
また、第1実施形態の加速度センサ121から有線によって情報を読込む胸腔埋込デバイスを本発明は含む。また、第1実施形態の加速度センサ121に有線によって体外から電力が供給される胸腔埋込デバイスを本発明は含む。
【0106】
また、第2実施形態のマイクロホン22からワイヤレスで情報を読込む胸腔埋込デバイスを本発明は含む。また、第2実施形態のマイクロホン22へワイヤレスで充電された充電装置から電力が供給される胸腔埋込デバイスを本発明は含む。また、第2実施形態において胸腔埋込デバイス20を複数配置してもよい。複数配置することによって、より正確に病変部位を特定できる。
【0107】
また、検出器はカメラであってもよく、肺の動作情報として肺表面の画像が得られる。また、相対位置規定部材を形成する材料は、上記実施形態に限定されず、検出器が肺又は胸腔の内壁に密着した状態を維持したまま生体反応によって吸収されるような生体吸収材料であってもよい。
【符号の説明】
【0108】
10 胸腔埋込デバイス、
121 加速度センサ(検出器)、
122 保持部材(相対位置規定部材)、
131 RFIDタグ(送信部)、
132 充電装置(充電部)、
20 胸腔埋込デバイス、
22 マイクロホン(検出器)、
23 保持部材(相対位置規定部材)、
25 USBケーブル(ケーブル)、
30、40 呼吸域留置デバイス。
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺の病変部位を特定するための胸腔埋込デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、正常な呼吸を妨げる肺疾患の広範な群を意味する。即ち、肺気腫及び慢性気管支炎から選択される、少なくとも1つの疾患の存在により、気道が閉塞したり、気道内の空気が停滞したりする疾患である。COPDは、これらの症状がしばしば同時に存在し、個々の症例において、どの疾患が肺の閉塞を引き起こす原因であるか、あるいはその疾患が肺のどこの部位で発生しているのかを確認するのが難しい。一般に臨床的には、COPDは肺からの呼気流量の低下を、スパイロメーターのような体外に放出される呼気を測定する診断機器によって、包括的に肺の状態が診断される。
【0003】
このうち、肺気腫は、ガス交換の場となる呼吸細気管支、肺胞道、肺胞、及び肺胞嚢を含む肺胞実質と呼ばれる組織に破壊をともなった異常な拡大が生じた状態をいう。正常な肺胞実質は呼息時に収縮するが、気腫化した肺胞実質は呼吸により拡張した後は元には戻らない。このため、呼気を十分に行えない。その上、肺胞の有効面積や血管床(肺胞の表面に縦横に走る毛細血管)が減るため、肺全体のガス交換能力が低下する。加えて、炎症によりエラスチンやコラーゲンなどが破壊され、肺の弾力性が低下している為、呼息時に肺が縮むと、気管支が空気に満たされた周りの肺胞に圧迫されて狭くなり、空気が出にくくなる。
【0004】
肺気腫に対する処置では、病変部位を正確に特定し、正常部位への影響を抑えた低侵襲な処置が患者への負担を軽減する上で望ましいが、気管から先の呼吸域は複雑に分岐しているため呼吸域の末端に位置する病変部位を正確に特定するのは困難で、従って局所的処置が奏功し難いのが実状であった。
【0005】
病変部位を特定する手段として、例えば特許文献1に記載の装置を用い、患者の背中に当てられた複数のマイクロホンから集音される呼吸音を解析することによって、肺の病変部位をある程度予測することが可能となる。或いは、経験を積んだ術者であれば、患者の胸や背中に当てた聴診器を通じて聞こえる呼吸音から、肺の病変部位をある程度予測することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0326418号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これら従来の装置や方法では、体外から患者の体を通じて呼吸音を集音するため、心臓や血管を流れる血流の音等の様々なノイズが乗り、病変部位の正確な特定が妨げられ易い。
【0008】
また、胸部X線やコンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)によって得られる画像から病変部位の特定を試みる方法、及び口外における呼気・吸気流から病変部位の特定を試みる方法も考えられるが、前者では呼吸域の動きが不明で、病変部位の正確な特定が困難であり、このことに加え、他の処置を行いながら診断するのに不向きである。また、後者では方法(パルスオシレーション法など)によっては、病変が気道の中枢側にあるのか末梢側にあるのかの傾向を把握することは可能であるものの、末梢側のどの部位に病変があるのかといった局所的な病変部位の特定はできない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、肺の正確な病変部位特定に適した胸腔埋込デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の胸腔埋込デバイスは、肺の膨張収縮動作にともなって変化する前記肺の動作情報を検出する複数の検出器と、複数の当該検出器同士の相対位置を規定するとともに、前記相対位置を変化させつつ変形する相対位置規定部材と、を有し、複数の前記検出器が、前記相対位置規定部材の少なくとも一部とともに胸腔内に収容可能である。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成した本発明の胸腔埋込デバイスによれば、術者は、患者に設けた体外と胸腔とを連通させる開口部を通じ、相対位置規定部材を変形させつつ複数の検出器を体内に挿入し、そして複数の検出器を胸腔内に留置させることができ、その結果、複数の検出器が肺の動作情報を直接的に検出するため、ノイズ等の影響が抑制され、正確な病変部位の特定に適する。
【0012】
また、前記相対位置規定部材がシート状又は網状で、複数の前記検出器が前記相対位置規定部材に分散して配置されているようにすれば、肺の動作情報が分散した複数個所で検出されるため、病変部位を特定し易い。
【0013】
また、前記相対位置規定部材が管状で、複数の前記検出器が前記相対位置規定部材内で前記相対位置規定部材の軸方向に沿って配置されているようにすれば、検出器と相対位置規定部材とが組み合わさった構造体が線状であるため、検出器及び相対位置規定部材の胸腔への挿入又は胸腔からの取出しが容易である。
【0014】
また、前記検出器と電気的に接続し、無線通信によって前記動作情報を体外に送信する胸腔内に収容可能な送信部を有するようにすれば、通信のために体内から引き出されるケーブルが不要であるため、患者の動作が邪魔され難い。
【0015】
また、前記検出器と電気的に接続し前記動作情報を体外に送信するケーブルを有するようにすれば、術者は無線通信のための送信部を体内に留置する必要がないため、手技が容易である。
【0016】
また、前記検出器と電気的に接続し、体外から供給される電力を非接触で充電する胸腔内に収容可能な充電部を有するようにすれば、電力供給のために体内から引き出されるケーブルが不要であるため、患者の動作がケーブルによって邪魔され難い。
【0017】
また、前記検出器と電気的に接続し、電力を体外から前記検出器に供給するケーブルを有するようにすれば、術者は検出器へ電力を供給する充電部を体内に留置する必要がないため、手技が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】肺及び胸腔の概略図である。
【図2】第1実施形態の胸腔埋込デバイスの概略構成図である。
【図3】トロッカーの斜視図である。
【図4】デリバリーデバイスの概略構成図である。
【図5】充電/読取装置の概略構成図である。
【図6】肺の右葉及び胸腔の概略図である。
【図7】第1実施形態の検査方法の連通工程において、トロッカーを穿刺した状態を示す概略図である。
【図8】第1実施形態の検査方法の検出器配置工程において、デリバリーデバイスによって胸腔内にセンサ・アレイを挿入した状態を示す概略図である。
【図9】第1実施形態の検査方法の検出器配置工程において、センサ・アレイを肺の右上葉に配置した状態を示す概略図である。
【図10】第1実施形態の検査方法の検出器配置工程において、センサ・アレイを肺の右上葉、右中葉、右下葉に配置した状態を示す概略図である。
【図11】第1実施形態の検査方法のRFIDタグ付バッテリー配置工程において、デリバリーデバイスによって胸腔内にRFIDタグ付きバッテリーを挿入した状態を示す概略図である。
【図12】第1実施形態の検査方法の接続工程において、デリバリーデバイスを用いたRFIDタグ付きバッテリーとセンサ・アレイとの電気的接続を示す概略図である。
【図13】RFIDタグ付きバッテリーとセンサ・アレイとが電気的に接続された状態を示す概略図である。
【図14】第1実施形態の検査方法の減圧工程において、トロッカーを通じた吸引によって胸腔内が減圧された状態を示す概略図である。
【図15】第1実施形態の検査方法のトロッカー抜去工程後、RFIDタグ付きバッテリー及びセンサ・アレイが電気的に接続されて胸腔内に留置された状態を示す概略図である。
【図16】胸腔埋込デバイスの埋め込み位置に対応させて患者の体表から貼付パッチを貼り付けた状態を示す概略図である。
【図17】肺の機能が正常な場合に、第1実施形態の胸腔埋込デバイスを用いた検査によって得られるセンサ間距離の時間変化の例を示すグラフである。
【図18】肺が病変部位を有する場合に、第1実施形態の胸腔埋込デバイスを用いた検査によって得られるセンサ間距離の時間変化の例を示すグラフである。
【図19】第1実施形態の胸腔埋込デバイスによって得られるデータに基づき肺の機能が正常か否かを判定する判定手順を示すフローチャートである。
【図20】第2実施形態の胸腔埋込デバイスの概略構成図である。
【図21】第2実施形態の検査方法の検出器配置工程において、胸腔内にセンサ・アレイを挿入した状態を示す概略図である。
【図22】第2実施形態の検査方法の検出器配置工程において、胸腔内壁にセンサ・アレイを固定した状態を示す概略図である。
【図23】第2実施形態の検査方法の減圧工程において、トロッカーを通じた吸引によって胸腔内が減圧された状態を示す概略図である。
【図24】第2実施形態の検査方法のトロッカー抜去工程後、センサ・アレイが電気的に接続されて胸腔内に留置された状態を示す概略図である。
【図25】第2実施形態の胸腔埋込デバイスによって得られるデータに基づき肺の機能が正常か否かを判定する判定手順を示すフローチャートである。
【図26】変形例の呼吸域留置デバイスと第1実施形態の胸腔埋込デバイスとを併用した状態を示す概略図である。
【図27】呼吸域留置デバイスが気管支に留置された状態を示す概略図である。
【図28】呼吸域留置デバイスの断面図である。
【図29】呼吸域留置デバイスの他の例を示す断面図である。
【図30】他の例の呼吸域留置デバイスが気管支に留置された状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
<第1実施形態>
図1及び図2において概説すると、本発明の第1実施形態の胸腔埋込デバイス10は、肺1の膨張収縮動作にともなって変化する肺1の動作情報を胸腔2内で検出するための装置であり、胸腔2内に留置されるセンサ・アレイ12と、センサ・アレイ12に電気的に接続するRFID(Radio Frequency IDentification)タグ付バッテリー13と、を有する。本実施形態では、胸腔埋込デバイス10は、3つのセンサ・アレイ12と、1つのRFIDタグ付バッテリー13と、を有する。
【0021】
センサ・アレイ12は、肺1の動作情報を検出する複数の加速度センサ121(検出器)を含む。また、センサ・アレイ12は、複数の加速度センサ121を保持するシート状の保持部材122(相対位置規定部材)を有する。各センサ・アレイ12は、9つの加速度センサ121を有する。また、各センサ・アレイ12は、加速度センサ121同士を電気的に接続するケーブル123と、加速度センサ121及びRFIDタグ付バッテリー13を電気的に接続するためのコネクタ124と、を有する。
【0022】
複数の加速度センサ121は、保持部材122に分散して配置されている。より具体的には、複数の加速度センサ121は、保持部材122の面に沿う互いに交差する方向D1及び方向D2に互いに離隔して並んでいる。方向D1と方向D2とは直交し、また、複数の加速度センサ121は等間隔に並んでいる。
【0023】
各加速度センサ121は、加速度センサ121自身の動きによって生ずる加速度を検出する。また、各加速度センサ121は、方向D1の加速度、及び方向D2の加速度を検出する。
【0024】
各加速度センサ121は、肺1の膨張収縮動作に追従して動くため、各加速度センサ121によって検出される加速度は、膨張収縮動作によって生じる肺1の局部の加速度(肺1の動作情報)に相当する。
【0025】
保持部材122は、一方の面で複数の加速度センサ121を保持し、他方の面で肺1に接する。保持部材122は、例えば保持部材122と加速度センサ121との間に塗布された接着剤によって複数の加速度センサ121を保持し、複数の加速度センサ121同士の相対位置を規定する。
【0026】
保持部材122は、可撓性を有し、複数の加速度センサ121の相対位置を変化させつつ変形する。このため、術者は、患者に設けた体外と胸腔2とを連通させる開口部に、複数の加速度センサ121とともに保持部材122を挿入でき、また、これらを胸腔2内に留置できる。例えば、術者は、保持部材122を円筒状に丸め、複数の加速度センサ121とともに保持部材122を開口部に挿入する。また、保持部材122は、加速度センサ121による正確な加速度検出のため、好ましくは、肺1の表面に密着して肺1の膨張収縮動作に追従し得る弾性材料によって形成される。弾性材料は、例えば、シリコーン系のエラストマーである。
【0027】
ケーブル123は、加速度センサ121と加速度センサ121との間に配置される。ケーブル123は、コイル形状を有し、伸縮自在である。このため、ケーブル123は、肺1の膨張収縮動作にともなって増減する加速度センサ121の間の距離に合わせて伸縮する。従って、加速度センサ121が、肺1の膨張収縮動作に追従して動き易い。
【0028】
コネクタ124は、保持部材122における加速度センサ121と同じ面に設けられており、ケーブル123を介して全ての加速度センサ121と電気的に接続している。
【0029】
RFIDタグ付バッテリー13は、直方体形状のケース133、ケース133内に収められるRFIDタグ131(送信部)及び充電装置132(充電部)、並びにケース133から引き出されたケーブル134を有する。RFIDタグ付バッテリー13は、3つのケーブル134を有しており、3つのケーブル134の各々は、各コネクタ124を介して各センサ・アレイ12と電気的に接続する。RFIDタグ付バッテリー13は、体外と胸腔とを連通させる開口部に挿通可能である。
【0030】
充電装置132は、ケーブル134、並びにコネクタ124及びケーブル123を介して、各加速度センサ121と電気的に接続し、体外から供給される電力を非接触で充電する。充電装置132は、主な構成として、体外から送られる交流電力を受けるコイルと、交流電力を整流し直流電力に変換する整流器と、変換された直流電力を充電し、またケーブル134と電気的に接続するバッテリーと、を含む。
【0031】
RFIDタグ131は、ケーブル134、並びにコネクタ124及びケーブル123を介して各加速度センサ121と電気的に接続する。各加速度センサ121からの電気信号情報は、RFIDタグ131に書き込まれる。RFIDタグ131は、この書き込まれた肺1の動作情報を無線通信によって体外に送信可能である。RFIDタグ131として従来公知の技術を適用できる。
【0032】
次に、図3、図4、及び図5において、体外と胸腔2とを連通させる開口部を形成するためのトロッカー11、センサ・アレイ12とRFIDタグ付バッテリー13を胸腔2へ搬送するためのデリバリーデバイス100、及び、RFIDタグ付バッテリー13を充電するとともにRFIDタグ131から情報を読み取るための充電/読取装置109について説明する。
【0033】
図3に示すように、トロッカー11は、可撓性を有する管部111と、管部111の一端に設けられたフランジ部112とを有する。トロッカー11は、肋骨と肋骨との間(以下、単に肋間と称す。)に臨む胸腔2の内壁を通るように患者に穿刺され、センサ・アレイ12及びRFIDタグ付バッテリー13を胸腔2に案内するアクセスポートとして機能する。管部111及びフランジ部112は、例えば金属および/または合成樹脂等によって一体的に形成される。なお、センサ・アレイ12及びRFIDタグ付バッテリー13がトロッカー11を通過するときの滑りを良くするため、好ましくは管部111の内側表面に潤滑コーティングが施されていてもよい。
【0034】
図4に示すように、デリバリーデバイス100は、センサ・アレイ12及びRFIDタグ付バッテリー13を把持可能な鉗子102と、管状のシース101と、を有する。シース101は、可撓性を有し、例えば合成樹脂等によって形成される。シース101はトロッカー11より長く、鉗子102はシース101より長い。センサ・アレイ12及びRFIDタグ付バッテリー13、鉗子102はシース101に挿通可能である。また、シース101はトロッカー11に挿通可能である。なお、胸腔内の観察が可能となるように、シース101は先端部分に内視鏡(不図示)が内蔵されていてもよい。また、患者個々によって異なる胸腔内での手技操作を行いやすくする為に、鉗子102はシャフト先端部分が予め曲がっているものを、曲率を変えていくつか品揃えすることが好ましい。あるいは、手元部操作で先端部分の湾曲が可能で、シャフト先端部分の曲率を自在に操作できるようなものでもよい。
【0035】
図5に示すように、充電/読取装置109は、患者の体に貼り付けられるシート状の貼付パッチ103、並びに貼付パッチ103に電気的に接続されたRFIDリーダー107及び給電装置105を有する。
【0036】
貼付パッチ103は、充電装置132へ交流電力を送るためのコイルを含む。また、貼付パッチ103は、RFIDタグ131との間で信号を送受信するためのアンテナを含む。
【0037】
RFIDリーダー107は、貼付パッチ103に含まれるアンテナと電気的に接続している。また、RFIDリーダー107は、貼付パッチ103とRFIDタグ131との間で送受信される送受信信号を変換するための通信回路、及び送受信信号をデコードするための演算処理部を含む。RFIDリーダー107は、USBケーブル108を介して、パーソナルコンピユータ(PC)やエンジニアリングワークステーション(EWS)等のコンピュータ(不図示)に接続する。RFIDタグ131から読み取られた情報は、これらのコンピュータに取り込まれる。
【0038】
給電装置105は、貼付パッチ103に含まれる上記コイルと電気的に接続している。また、給電装置105は、電力伝送用のキャリア信号を出力するキャリア発振器、キャリア信号に制御信号を重畳する変調器、及び変調された交流電力を増幅する電力増幅器を含む。給電装置105は、差込プラグ106を介して交流電源に電気的に接続する。
【0039】
次に、胸腔埋込デバイス10を用いた検査方法について述べる。
【0040】
概説すると、第1実施形態の検査方法は、体外と胸腔2とを連通させる連通工程と、連通工程後、胸腔2内に肺の動作情報を検出する検出器を配置する検出器配置工程と、検出器配置工程後、胸腔2内にRFIDタグ付バッテリー13を配置するRFIDタグ付バッテリー配置工程と、を有する。
【0041】
また、第1実施形態の検査方法は、RFIDタグ付バッテリー配置工程後、センサ・アレイ12とRFIDタグ付バッテリー13とを電気的に接続する接続工程と、接続工程後、胸腔2内を減圧する減圧工程と、減圧工程後、トロッカー11を抜去するトロッカー抜去工程と、を有する。
【0042】
また、第1実施形態の検査方法は、トロッカー抜去工程後、RFIDタグ付バッテリー13を充電する充電工程と、充電工程後、肺1の動作情報を検出する検出工程と、検出工程後、検出された動作情報に基づき、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する判定工程と、を有する。
【0043】
図6及び図7に示すように、連通工程において、術者は、トロッカー11を患者に穿刺することによって体外と胸腔2とを連通させる。トロッカー11を穿刺する際、術者は、長尺状で先端が鋭利な補強材であるダイレーター(不図示)をトロッカー11の内腔に通した状態で、ダイレーターとともにトロッカー11を体表から患者の肋間に穿刺する。穿刺後、ダイレーターはトロッカー11から抜去され、トロッカー11が肋間に残る。トロッカー11の穿刺前、胸腔2内は陰圧であるが、トロッカー11によって胸腔2が外気開放されるため大気圧と等しくなり、その結果、肺1が収縮する。なお、トロッカー11を穿刺する代わりに、メスで切開した後に一般手術器具として市販される開創器等(不図示)を設置して開口部を設けてもよい。また、胸腔内を観察する手段として、X線透視装置(不図示)、内視鏡(不図示)のいずれか、または両方を用いることができる。内視鏡は、トロッカー11に挿通して用いてもよいし、別の肋間部位に開口部を設けてそこを挿通して用いてもよいし、両方を用いてもよい。
【0044】
図8〜10に示すように、検出器配置工程において、術者は、デリバリーデバイス100を用いてセンサ・アレイ12を胸腔2内に配置する。より具体的に述べると、術者は、保持部材122を筒状に丸めることによってセンサ・アレイ12を、シース101、より好ましくはシース101の先端に入れ、その状態で、トロッカー11を介してシース101を胸腔2内に挿入する。そして、図8に示すように、術者は、シース101の先端を、目的部位、ここでは肺1の右上葉に近接させ、鉗子102によってシース101からセンサ・アレイ12を押し出す。
【0045】
センサ・アレイ12の押し出し後、図9に示すように、術者は、鉗子102を用いて丸められていたセンサ・アレイ12を肺1の上に広げ、広がったセンサ・アレイ12を、一般的な胸腔鏡下手術で行われる糸あるいはステープル針等を用いた縫合、又は、接着効果がある薬剤(タルク、フィブリン、シアノアクリレートなど)をもちいた接着によって肺1に固定する。また、センサ・アレイ12の上にシート材(不図示)を被せて固定してもよい。シート材は術後の気胸予防のために外科手術(主に胸腔鏡下手術で行われる)で一般に用いられ、ポリグリコール酸、酸化セルロースなどが原材料に含まれる。この際、前述したように、胸腔内を観察する手段として、X線透視装置、内視鏡のいずれか、または両方を用いることができる。
【0046】
また、図10に示すように、同様にして、術者は、他のセンサ・アレイ12を中葉及び下葉に配置し、そしてこれらを固定する。センサ・アレイ12の固定後、術者は、シース101及び鉗子102をトロッカー11から抜去する。
【0047】
次に、図11〜13に示すように、RFIDタグ付バッテリー配置工程において、術者は、デリバリーデバイス100を用いてRFIDタグ付バッテリー13を胸腔2内に配置する。より具体的に述べると、術者は、RFIDタグ付バッテリー13を、シース101、好ましくはシース101の先端に入れ、その状態で、トロッカー11を通じてシース101を胸腔2内に挿入する。そして、図11に示すように、術者は、シース101の先端を、目的部位、ここでは肋間に臨む胸腔2の内壁(望ましくは中葉近傍)に近接させ、鉗子102によってシース101からRFIDタグ付バッテリー13を押し出す。そして、術者は、鉗子102を用いて、一般的な胸腔鏡下手術で行われる縫合又は接着によってRFIDタグ付バッテリー13を胸腔2の内壁に固定する。この際、前述したように、胸腔内を観察する手段として、X線透視装置、内視鏡のいずれか、または両方を用いることができる。
【0048】
図12示すように、接続工程において、術者は、鉗子102を用いてケーブル134をコネクタ124に接続し、その後、図13に示すように、シース101及び鉗子102を胸腔2内から抜去する。この際、前述したように、胸腔内を観察する手段として、X線透視装置、内視鏡のいずれか、または両方を用いることができる。
【0049】
図14に示すように、減圧工程において、術者は、トロッカー11を通じポンプ等の吸引装置によって胸腔2内のガスを吸引し、胸腔2内を減圧してトロッカー11穿刺前の陰圧状態に戻す。胸腔2内が元の陰圧状態に戻る際、肺1が膨張するため、術者は、固定したセンサ・アレイ12及びRFIDタグ付バッテリー13が脱落していないかX線透視などの方法で確認する。そして、図15に示すように、トロッカー抜去工程において、術者は、トロッカー11を抜去し、切開された部位を縫合する。
【0050】
図16に示すように、充電工程において、術者は、RFIDタグ付バッテリー13が留置された肋間部位に対向させて体表から貼付パッチ103を貼り付け、充電装置132を充電する。貼付パッチ103から送られた交流電力は、充電装置132によって直流電力に変換されるとともに充電される。なお、充電装置132が既に充電されている場合、充電工程を省略できる。
【0051】
検出工程では、各加速度センサ121が、方向D1の加速度、及び方向D2の加速度を検出する。検出された加速度に関する情報は、RFIDタグ131に書き込まれ、そして、RFIDタグ131から貼付パッチ103に伝わり、RFIDリーダー107を経てコンピュータに取り込まれる。
【0052】
判定工程では、コンピュータが、検出された加速度から、加速度センサ121と加速度センサ121との間の距離(以下、単にセンサ間距離と称す。)の時間変化を算出し、そのセンサ間距離の時間変化から、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する。
【0053】
より具体的に述べると、コンピュータは、過去に患者から得られたデータから図17に示すような正常時におけるセンサ間距離の振幅A1を算出しておき、この正常時における振幅A1と、検査から得られる現状でのセンサ間距離の振幅とを比較することによって、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する。
【0054】
コンピュータは、加速度センサ121が検出する加速度を積分することによって、加速度センサ121の速度を求め、その速度をさらに積分することによって加速度センサ121の変位を求める。そして、コンピュータは、一の加速度センサ121の変位及び隣接する他の加速度センサ121の変位からセンサ間距離を求める。コンピュータは、このような計算によって、複数の加速度センサ121の各々について、方向D1の変位及び方向D2の変位を算出し、そして全てのセンサ間距離についてその振幅を算出する。
【0055】
肺1の一部が気腫化する等の原因によって膨張収縮機能が低下すると、部分的な肺1の動きが鈍る。また、センサ間距離の振幅は、肺1の局部の方向D1又は方向D2における長さの経時変化を意味する。従って、例えば図18に示すように、検査によって得られる現状でのセンサ間距離の振幅A2が、正常時のセンサ間距離の振幅A1より小さい場合、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮動作に異常があると判定する。一方、検査によって得られる現状でのセンサ間距離の振幅A2が正常時のセンサ間距離の振幅A1と略等しい、又は大きい場合、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮動作が正常であると判定する。
【0056】
図19においてコンピュータによる判定手順を説明すると、まず、正常時における患者のデータがコンピュータに入力される(S11)。ここで、正常時における患者のデータは、患者の呼吸が正常であるときに各加速度センサ121によって検出された過去の加速度の履歴を含んでいる。また、コンピュータは、正常時における患者のデータから上記計算によってセンサ間距離の振幅(以下、この正常時におけるセンサ間距離の振幅を単に正常下限値と称す。)を算出する。
【0057】
次に、コンピュータは、各加速度センサ121が検出する加速度のデータを、RFIDリーダー107を介して読み込み、現状におけるセンサ間距離の振幅を算出する(S12)。そして、コンピュータは、このセンサ間距離の振幅と正常下限値とを比較する(S13)。
【0058】
センサ間距離の振幅が正常下限値以上であれば、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮機能が正常であると判定する(S14)。一方、センサ間距離の振幅が正常下限値より小さければ、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮機能が異常であると判定する(S15)。
【0059】
コンピュータは、全てのセンサ間距離の振幅について以上の判定を行い、全ての判定結果をディスプレイに表示する。そして、術者は、表示される判定結果から、肺1の病変部位を特定する。
【0060】
本実施形態の効果を述べる。
【0061】
本実施形態の胸腔埋込デバイス10によれば、複数の加速度センサ121が胸腔2内で肺1の動作情報を直接的に検出するため、ノイズ等の影響が抑制され、正確な病変部位の特定に適する。
【0062】
また、複数の加速度センサ121がシート状の保持部材122に分散して配置されており、肺1の動作情報が分散した複数個所で検出されるため、病変部位を特定し易い。
【0063】
また、胸腔埋込デバイス10は、無線通信によって肺1の動作情報を体外に送信可能なRFIDタグ131を有するため、通信のために体内から引き出されるケーブルが不要であり、患者の動作が邪魔され難い。
【0064】
また、胸腔埋込デバイス10は、体外から供給される電力を非接触で充電可能な充電装置132を有するため、加速度センサ121への電力供給のために体内から引き出されるケーブルが不要であり、患者の動作が邪魔され難い。
【0065】
<第2実施形態>
図20において概説すると、本発明の第2実施形態の胸腔埋込デバイス20は、肺1の膨張収縮動作にともなって変化する肺1の動作情報を胸腔2内で検出するための装置であり、呼吸音(肺1の動作情報)を検出する複数のマイクロホン22(検出器)と、複数のマイクロホン22を保持する管状の保持部材23(相対位置規定部材)と、を有する。本実施形態では、胸腔埋込デバイス20は6つのマイクロホン22を有する。また、胸腔埋込デバイス20は、マイクロホン22それぞれに電気的に接続されるケーブル24と、ケーブル24を介してマイクロホン22と電気的に接続し保持部材23から引き出されたUSBケーブル25(ケーブル)と、を有する。
【0066】
保持部材23は、例えば保持部材23とマイクロホン22との間に塗布された接着剤によってマイクロホン22を内腔に保持し、複数のマイクロホン22同士の相対位置を規定する。また、保持部材23は、可撓性を有し、マイクロホン22同士の相対位置を変化させつつ変形する。このため、術者は、体外と胸腔2とを連通させる開口部に、複数のマイクロホン22とともに保持部材23を挿入し、胸腔2内にこれらを留置できる。
【0067】
保持部材23は、例えば、直線形状、又はカーブ形状を有する。カーブ形状の場合、保持部材23の形状は、胸腔2内の留置箇所、本実施形態では胸腔2の内壁に合った曲率を有することが好ましい。このような形状によって、胸腔2内への胸腔埋込デバイス20の留置が容易となる。また、直線形状の場合であっても、保持部材23が、例えばステンレス等の金属材料のような塑性変形可能な材料で形成されることによって、術者は留置箇所の形状に合った曲がりぐせを保持部材23につけることができ、胸腔埋込デバイス20の留置が容易となる。
【0068】
保持部材23は、好ましくは弾性を有する材料によって形成される。保持部材23が、弾性を有することによって、胸腔2内の留置箇所の形状に合わせて変形するため、胸腔2内への保持部材23の留置が容易となる。弾性を有する材料は、例えば、ステンレス及びニッケルチタン合金等の金属材料、又はポリウレタン及びポリイミド等のプラスチック材料である。
【0069】
複数のマイクロホン22は、互いに離隔して並んでいる。最も先端側に位置するマイクロホン22と最も基端側に位置するマイクロホン22との間の距離は、特に限定されないが、好ましくは、肺1の右葉の上葉から下葉、又は肺1の左葉の上葉から下葉に達する長さであり、例えば、100mm以上である。
【0070】
USBケーブル25は、ケーブル24を介して全てのマイクロホン22と電気的に接続している。USBケーブル25は、各マイクロホン22が検出する呼吸音を体外に送信する。また、USBケーブル25は、体外の電源と電気的に接続し、電力を体外から各マイクロホン22に供給する。
【0071】
次に、胸腔埋込デバイス20を用いた検査方法について述べる。
【0072】
概説すると、第2実施形態の検査方法は、体外と胸腔2とを連通させる連通工程と、連通工程後、胸腔2内に肺の動作情報を検出する検出器を配置する検出器配置工程と、検出器配置工程後、胸腔2内を減圧する減圧工程と、減圧工程後、トロッカー11を抜去するトロッカー11抜去工程と、を有する。連通工程については第1実施形態と同様であるので、これについての重複する説明を省略する。また、トロッカー11は第1実施形態と同様であるので、これについての重複する説明を省略する。
【0073】
上記工程に加え、第2実施形態の検査方法は、トロッカー抜去工程後、肺1の動作情報を検出する検出工程と、検出工程後、検出された動作情報に基づき、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する判定工程と、を有する。
【0074】
図21に示すように、検出器配置工程において、術者は、肋間に穿刺されたトロッカー11を通じて胸腔埋込デバイス20を胸腔2内に挿入する。挿入後、術者は、X線透視等の画像観察によって、胸腔埋込デバイス20の位置を確認しつつ、胸腔埋込デバイス20の位置決めを行う。
【0075】
位置決め後、図22に示すように、術者は、胸腔埋込デバイス20を胸腔2の内壁表面に固定する。術者は、例えば、糸26が付いた針を体表から肋間に通し、糸26を胸腔埋込デバイス20の端部にかける。そして、胸腔埋込デバイス20を糸26で縛ることによって、術者は、胸腔埋込デバイス20を固定する。胸腔埋込デバイス20を縛る箇所は、1箇所でもよいが、好ましくは2箇所以上である。
【0076】
図23に示すように、減圧工程において、術者は、トロッカー11を通じポンプ等の吸引装置によって胸腔2内のガスを吸引し、胸腔2内をトロッカー11穿刺前の陰圧状態に戻す。胸腔2内が元の陰圧状態に戻る際、肺1が膨張する。そして、図23に示すように、トロッカー11抜去工程において、術者は、トロッカー11を抜去し、切開された部位を縫合する。
【0077】
検出工程では、呼吸の際に空気が肺1の内部を通過することによって生ずる呼吸音を、各マイクロホン22が検出する。検出された呼吸音に関する情報は、ケーブル24、及びUSBケーブル25を介して、USBケーブル25が接続しているコンピュータに取り込まれる。マイクロホン22の駆動電力は、このコンピュータから供給される。
【0078】
判定工程では、コンピュータが、検出された呼吸音の音圧の振幅から、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する。より具体的に述べると、コンピュータは、過去に患者から得られたデータから、正常時における呼吸音の音圧の振幅を求めておき、この正常時における音圧の振幅と、検査から得られる現状での呼吸音の音圧の振幅とを比較することによって、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する。
【0079】
検査によって得られる現状での音圧の振幅が、正常時の音圧の振幅より小さい場合、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮動作に異常があると判定する。一方、検査によって得られる現状での音圧の振幅が正常時の音圧の振幅と略等しい、又は大きい場合、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮動作が正常であると判定する。
【0080】
図25においてコンピュータによる判定手順を説明すると、まず、正常時における患者のデータがコンピュータに入力される(S21)。ここで、正常時における患者のデータは、患者の呼吸が正常であるときに各マイクロホン22によって検出された過去の呼吸音の履歴を含んでいる。また、コンピュータは、正常時における患者のデータから音圧の振幅(以下、この正常時における音圧の振幅を単に正常下限値と称す。)を求める。
【0081】
次に、コンピュータは、各マイクロホン22が検出する呼吸音のデータを、USBケーブル25を介して読み込み、現状での音圧の振幅を求める(S22)。そして、コンピュータは、現状における音圧の振幅と正常下限値とを比較する(S23)。
【0082】
音圧の振幅が正常下限値以上であれば、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮機能が正常であると判定する(S24)。一方、音圧の振幅が正常下限値より小さければ、コンピュータは、肺1の局所的膨張収縮機能が異常であると判定する(S25)。
【0083】
コンピュータは、複数のマイクロホン22から得られる全ての音圧の振幅について以上の判定を行い、全ての判定結果をディスプレイに表示する。そして、術者は、表示される判定結果から、肺1の病変部位を特定する。
【0084】
本実施形態の効果を述べる。
【0085】
本実施形態の胸腔埋込デバイス20によれば、複数のマイクロホン22が胸腔2内で呼吸音を直接的に検出するため、ノイズ等の影響が抑制され、正確な病変部位の特定に適する。
【0086】
また、胸腔埋込デバイス20が線状であるため、胸腔埋込デバイス20の胸腔2への挿入又は胸腔2からの取り出しが容易である。
【0087】
また、胸腔埋込デバイス20は、肺1の動作情報をUSBケーブル25によって体外に送信するため、無線通信のための送信装置を体内に留置する必要がなく、手技が容易である。
【0088】
また、胸腔埋込デバイス20は、USBケーブル25によって電力を体外からマイクロホン22に供給するため、マイクロホン22へ電力を供給する充電装置を体内に留置する必要がなく、手技が容易である。
【0089】
<変形例>
図26及び図27に示すように、変形例では、肺1の内部に留置されて肺1の動作情報を検出する呼吸域留置デバイス30が、第1実施形態の胸腔埋込デバイス10とともに用いられる。図26及び図27では肺1における呼吸域3の一部だけを示しているが、呼吸域3は、気管、主気管支、葉気管支、気管支、細気管支、終末細気管支、呼吸細気管支、肺胞管(肺胞道)、肺胞、及び肺胞嚢からなる。
【0090】
図28に示すように、呼吸域留置デバイス30は、肺1の動作情報を検出する検出器31と、検出器31に電力を供給する電源部33と、検出器31及び電源部33を保持する保持部材32と、を有する。呼吸域留置デバイス30は、検出器31を1つ有する。
【0091】
検出器31は、例えば、マイクロホン、又はフローセンサである。マイクロホンの場合、検出器31は、肺1の動作情報として呼吸音を検出する。フローセンサの場合、検出器31は、肺1の動作情報として呼吸域3を流れる空気の流量を検出する。電源部33は、検出器31と電気的に接続している。電源部33は、例えば小型の電池であり、交換可能である。
【0092】
保持部材32は、管状であり、軸方向に空気を通す内腔を有する。保持部材32は、内腔に検出器31及び電源部33を保持している。保持部材32は、呼吸域3の気管支等の屈曲に追従できる柔軟性を有する材料によって形成される。このような材料として、例えばポリウレタンが挙げられる。あるいは、臨床で一般に用いられているステント(冠動脈などの血管に留置するステンレス製の管状物)と同様な構造物であってもよい。
【0093】
次に、呼吸域留置デバイス30を用いた検査方法について述べる。
【0094】
呼吸域留置デバイス30を用いた検査方法は、呼吸域3に呼吸域留置デバイス30を配置する配置工程と、配置工程後、肺1の動作情報を検出する検出工程と、検出工程後、検出された動作情報に基づき、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する判定工程と、を有する。
【0095】
配置工程では、術者は、カテーテル等の呼吸域3に挿通可能な部材を用いて呼吸域3に呼吸域留置デバイス30を配置する。配置箇所は、例えば気管支である。また、配置箇所は、1箇所でもよいし、複数個所であってもよい。
【0096】
次に、検出工程において、検出器31が肺1の動作情報を検出する。検出された動作情報は、有線又は無線で体外に送信され、コンピュータに取り込まれる。
【0097】
判定工程では、第2実施形態と略同様の手順によって、コンピュータが、肺1の局所的膨張収縮動作が正常か否かを判定する。例えば、検出器31がマイクロホンの場合、コンピュータは、検出された呼吸音の音圧の振幅と、正常下限値(正常時における音圧の振幅)とを比較することによって、正常か否かを判定する。また、例えば、検出器31がフローセンサの場合、コンピュータは、時間とともに変化する検出された空気の流量の振幅と、正常下限値(正常時における空気の流量の振幅)とを比較することによって、正常か否かを判定する。
【0098】
コンピュータは、呼吸域留置デバイス30を用いた検査によって得られた判定結果とともに、胸腔埋込デバイス10によって得られた判定結果をディスプレイに表示する。術者は、これら両判定結果を比較参照し、肺1の病変部位を特定する。
【0099】
本変形例では、胸腔埋込デバイス10に加えて呼吸域留置デバイス30によっても検査が行われるため、第1実施形態の効果に加え、より正確に肺1の病変部位を特定できるという効果を奏する。
【0100】
本変形例では、胸腔埋込デバイス10及び呼吸域留置デバイス30を併用して検査が行われたが、第2実施形態の胸腔埋込デバイス20及び呼吸域留置デバイス30を併用して検査が行われてもよい。なお、本変形例と異なるが、第1実施形態又は第2実施形態の胸腔埋込デバイス10と併用するのではなく、呼吸域留置デバイス30を単独で用いて検査することも可能である。
【0101】
また、保持部材32は、図28に示したような比較的短い管状に限定されず、図29に示すように長尺な管状の保持部材41であってもよい。この場合も、上述のように、呼吸域留置デバイス40は、図30に示すように、呼吸域3に留置されて用いられる。
【0102】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変できる。
【0103】
例えば、第1及び第2実施形態においては、肺の右葉へ検出器を配置する実施形態を説明したが、左葉へも同様に配置することができる。
また、第1実施形態の保持部材(相対位置規定部材)122は網状であってもよい。また、相対位置規定部材は、分散した複数の検出器の間に配置され、隣接する検出器同士をつなぐ部材であってもよい。また、センサ・アレイ、加速度センサ、及びマイクロホンの数は実施形態に限定されず、適宜設定できる。
【0104】
また、第1実施形態の加速度センサ121に代えてマイクロホンを適用した胸腔埋込デバイスを本発明は含む。また、第2実施形態のマイクロホン22に代えて加速度センサを適用した胸腔埋込デバイスを含む。この場合、胸腔埋込デバイスは、肺表面に固定されて用いられる。
【0105】
また、第1実施形態の加速度センサ121から有線によって情報を読込む胸腔埋込デバイスを本発明は含む。また、第1実施形態の加速度センサ121に有線によって体外から電力が供給される胸腔埋込デバイスを本発明は含む。
【0106】
また、第2実施形態のマイクロホン22からワイヤレスで情報を読込む胸腔埋込デバイスを本発明は含む。また、第2実施形態のマイクロホン22へワイヤレスで充電された充電装置から電力が供給される胸腔埋込デバイスを本発明は含む。また、第2実施形態において胸腔埋込デバイス20を複数配置してもよい。複数配置することによって、より正確に病変部位を特定できる。
【0107】
また、検出器はカメラであってもよく、肺の動作情報として肺表面の画像が得られる。また、相対位置規定部材を形成する材料は、上記実施形態に限定されず、検出器が肺又は胸腔の内壁に密着した状態を維持したまま生体反応によって吸収されるような生体吸収材料であってもよい。
【符号の説明】
【0108】
10 胸腔埋込デバイス、
121 加速度センサ(検出器)、
122 保持部材(相対位置規定部材)、
131 RFIDタグ(送信部)、
132 充電装置(充電部)、
20 胸腔埋込デバイス、
22 マイクロホン(検出器)、
23 保持部材(相対位置規定部材)、
25 USBケーブル(ケーブル)、
30、40 呼吸域留置デバイス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺の膨張収縮動作にともなって変化する前記肺の動作情報を検出する複数の検出器と、
複数の当該検出器同士の相対位置を規定するとともに、前記相対位置を変化させつつ変形する相対位置規定部材と、を有し、
複数の前記検出器は、前記相対位置規定部材の少なくとも一部とともに胸腔内に収容可能である、胸腔埋込デバイス。
【請求項2】
前記相対位置規定部材はシート状又は網状で、複数の前記検出器は前記相対位置規定部材に分散して配置されている、請求項1に記載の胸腔埋込デバイス。
【請求項3】
前記相対位置規定部材は管状で、複数の前記検出器は前記相対位置規定部材内で前記相対位置規定部材の軸方向に沿って配置されている、請求項1に記載の胸腔埋込デバイス。
【請求項4】
前記検出器と電気的に接続し、無線通信によって前記動作情報を体外に送信する胸腔内に収容可能な送信部を有する、請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の胸腔埋込デバイス。
【請求項5】
前記検出器と電気的に接続し、前記動作情報を体外に送信するケーブルを有する、請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の胸腔埋込デバイス。
【請求項6】
前記検出器と電気的に接続し、体外から供給される電力を非接触で充電する胸腔内に収容可能な充電部を有する、請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載の胸腔埋込デバイス。
【請求項7】
前記検出器と電気的に接続し、電力を体外から前記検出器に供給するケーブルを有する、請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載の胸腔埋込デバイス。
【請求項1】
肺の膨張収縮動作にともなって変化する前記肺の動作情報を検出する複数の検出器と、
複数の当該検出器同士の相対位置を規定するとともに、前記相対位置を変化させつつ変形する相対位置規定部材と、を有し、
複数の前記検出器は、前記相対位置規定部材の少なくとも一部とともに胸腔内に収容可能である、胸腔埋込デバイス。
【請求項2】
前記相対位置規定部材はシート状又は網状で、複数の前記検出器は前記相対位置規定部材に分散して配置されている、請求項1に記載の胸腔埋込デバイス。
【請求項3】
前記相対位置規定部材は管状で、複数の前記検出器は前記相対位置規定部材内で前記相対位置規定部材の軸方向に沿って配置されている、請求項1に記載の胸腔埋込デバイス。
【請求項4】
前記検出器と電気的に接続し、無線通信によって前記動作情報を体外に送信する胸腔内に収容可能な送信部を有する、請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の胸腔埋込デバイス。
【請求項5】
前記検出器と電気的に接続し、前記動作情報を体外に送信するケーブルを有する、請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の胸腔埋込デバイス。
【請求項6】
前記検出器と電気的に接続し、体外から供給される電力を非接触で充電する胸腔内に収容可能な充電部を有する、請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載の胸腔埋込デバイス。
【請求項7】
前記検出器と電気的に接続し、電力を体外から前記検出器に供給するケーブルを有する、請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載の胸腔埋込デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2012−139356(P2012−139356A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293832(P2010−293832)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
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