説明

脂溶性物質の粉末調製物の製造方法

水溶性又は水分散性の非ゲル化性マトリックス中の脂溶性物質のビードレット調製物を製造する方法において、脂溶性物質の水性エマルション及びマトリックス成分を、噴霧ノズルを介して、垂直噴霧塔の上寄り部分に供給する。また、別個の送込み口を介して粉末状デンプン及び熱気流を垂直噴霧塔の上寄り部分に供給する。噴霧塔の下寄り部分に冷気流を供給して、マトリックス成分及び脂溶性物質を含むデンプン被覆ビードレットの流動床を形成する。ビードレットを流動床から捕集し、乾燥機に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂溶性物質の水分散性調製物を製造する新規な方法に関する。
【0002】
脂溶性物質、たとえば脂溶性ビタミン、カロテノイド、多価不飽和脂肪酸などの水分散性調製物は、人間及び動物の栄養摂取の分野で重要な役割を演じる。このような調製物は普通、その水不溶性又は多少なりとも顕著な安定性及び取り扱いやすさのため、エマルション又は乾燥粉末の形態で市販されている。そのような調製物に共通の特徴は、活性物質、すなわち脂溶性物質が普通、マトリックス成分(保護コロイド)、たとえばアラビアガム又はゼラチンで包まれているということである。このマトリックス成分は、とりわけ、活性物質の保護もしくはその安定化、最適な吸収及び求められるかもしれない最終調製物の水分散性を担う。マトリックス成分(保護コロイド)としては、通常、温血動物に由来し、したがって、特定の欠点を有するゼラチンが使用される。ここでは、単に例として、そのようなゼラチンに基づく調製物は宗教上の理由から世界中で使用することができるわけではなく、また、高価な製造工程なしには、このゼラチン、ひいてはこのゼラチンを用いて製造される微粉状調製物は冷水中で常に所望の分散性を有するわけではないという事実などが挙げられる。ゼラチンベースの調製物に固有のこのような欠点を解消するために、ゼラチンの代りに特定のリグニン誘導体をマトリックス成分として使用することが提案されている。たとえば米国特許第5,668,183号を参照。このようなリグニン誘導体ベースの粉末状調製物の製造に好ましい方法は、噴霧されたエマルション粒子がデンプン床で捕集される噴霧乾燥法であるデンプンキャッチ法である。こうして得られた生成物は、マトリックス成分及びその中に埋め込まれた脂溶性物質をデンプンの接着層によって覆ったものを含む粒子からなる。本明細書で使用する「ビードレット」とは、そのような粒子をいう。
【0003】
ビードレットは、ほこりを立てず、良好な流動特性を有するという点で優れた取り扱い性を提供する。しかし、デンプンキャッチ法によるリグニン誘導体ベースのビードレット及び一般には非ゲル化性マトリックス成分に基づくビードレットの製造は、噴霧塔における付着物の形成を伴い、それが、設備を清掃するために噴霧乾燥工程の中断を強いる。今、冷気流を噴霧塔の下寄り部分に導入し、それによって、噴霧ゾーンの温度よりも実質的に低い温度を有する流動床を形成させたのち、すぐにビードレットを流動床から乾燥機に排出させて乾燥工程を完了させるならば、噴霧塔における付着物の形成を有意に抑制又は実質的に回避することができることがわかった。
【0004】
したがって、一つの態様で、本発明は、水溶性又は水分散性の非ゲル化性マトリックス中の脂溶性物質のビードレット調製物を製造する方法であって、
(a)垂直噴霧塔の上寄り部分に、噴霧ノズルを介して前記脂溶性物質及び前記マトリックス成分の水性エマルションを供給し、別個の送込み口を介して粉末状デンプン及び熱気流を供給することと、
(b)前記噴霧塔の下寄り部分に冷気流を供給して、前記マトリックス成分、前記脂溶性物質を含むデンプン被覆ビードレットの流動床を形成することと、
(c)前記ビードレットを流動床から捕集し、それを乾燥機に排出することと
を含む方法に関する。さらなる態様で、本発明は、実質的に図2に示すとおりのノズルの構造に関する。
【0005】
さらに別の態様で、本発明は、実質的に図1に示すとおりの設備に関する。
【0006】
図1は、本発明の方法を実施するための設備を示す。噴霧塔は、その頂部に、脂溶性物質、マトリックス成分及び補助剤を含むエマルションの送込み口[1]、新鮮な熱気の送込み口[2]ならびに熱気及びデンプンを再循環させるための送込み口[6]を別個に有するいかなる従来の噴霧塔であってもよい。噴霧塔の中間部分には、新鮮なデンプン供給のための送込み口[4]及び乾燥機からの空気を再循環させるための送込み口[9]が設けられている。乾燥塔の下部には、冷気の送込み口[3]が設けられている。出口[5]を介して、噴霧塔を離れる空気及びデンプンが再循環される。ビードレット、すなわちマトリックスを脂溶性物質とともに含むデンプン被覆粒子が噴霧塔の下部で捕集され、必要に応じて残留水分を除去するため、出口[7]を介して乾燥機に排出される。
【0007】
好ましい実施態様では、本発明の噴霧乾燥法は、実質的に図2に示すとおりのノズル構造を使用して実施される。この構造は、第一の中空円錐体を含み、その幅広の上端は閉じられ、デンプン/空気分散系のための1個以上の送込み口を保持している。第二の内側円錐体が、第一の中空外側円錐体の中に、前記第一の円錐体中で上を向くような方法で装着されて、その端部で、その外面と第一の円錐体の内面との間に小さな円形の溝孔を残して、デンプン分散系が円錐体を通過することができるようになっている。両円錐の軸には、エマルション供給のための送込み管が下向きに第二の円錐体の上方に突出して、回転噴霧器又は加圧噴霧器で終端している。噴霧器は、エマルション、空気及びデンプン流を噴霧塔中に分配する。この構造はさらに、外側円錐体を包囲し、両円錐体によって形成される円形溝孔よりもわずかに上方で終端する従来の円形の空気送込み路を有している。最後に、この構造は、噴霧塔中に固着するための適切な手段、たとえばねじを有している。
【0008】
ノズル構造の寸法は厳密に決定的ではなく、噴霧能力の要件に依存する。第一の外側円錐体は、その上端で約30〜約40cmの半径及び約40〜約50cmの高さを有することができる。第二の内側円錐体は、その下端で約20〜約26cmの半径及び約15〜約25cmの高さを有することができる。内側円錐体と外側円錐体との間に形成される溝孔の幅は、好適には約3〜約10mmである。エマルション供給のための送込み管は、好適には直径が約80〜約110mmであり、回転噴霧器は、好適には直径が約32〜約42mmである。デンプン供給のための送込み管は、好適には直径が約3〜約7mmである。熱気供給のための円形路は、好適には幅が約50〜約70cmである。
【0009】
エマルションの温度は、好適には15℃〜80℃の範囲である。熱気流と冷気流との比は、たとえば1:8〜1:4(熱:冷)の範囲であることができる。熱気は、好適には、約40℃〜約200℃、好ましくは約60℃〜約120℃の温度を噴霧ゾーンに提供するだけの温度を有する。好ましくは、熱気は、たとえば約3g/kg未満の水分含量まで除湿されている。塔の下部の内部流動床の流動化のためには、約3g/kg未満の水分含量を有する冷乾気(約5〜15℃)が好適に使用される。内部流動床の温度は、冷気の供給量及び温度を制御することによって約0℃〜約40℃、好ましくは約5℃〜約20℃の範囲内に維持される。
【0010】
内部流動床中の生成物の流動性を改善するために、ケイ酸[10]を加えてもよい。ケイ酸はデンプン流[4]に連続的に加えられ、このデンプン流が必要に応じて内部流動床に供給されてデンプン吸収分を補う。また、ここで補助剤を加えてもよい。
【0011】
本発明の方法で使用されるデンプンは、好ましくはコーンスターチである。「脂溶性物質」は、本発明の範囲において、特に脂溶性ビタミンA、D、E及びK、カロテノイド、たとえばβ−カロテン、アスタキサンチン、アポカロテナール、カンタキサンチン、アポエステル、シトラナキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン及びリコペンを包含する。多価不飽和脂肪酸の例は、たとえば、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸などである。しかし、人間又は動物の栄養摂取で役割を演じする他の脂溶性物質が容易に考慮される。これらの物質、たとえば前述の物質は普通、それらの水不溶性又は多少なりとも顕著な安定性及び取り扱いやすさのため、エマルション又は乾燥粉末の形態で市販されている。ここでは、特に油脂、たとえばヒマワリ油、パーム油及び牛脂を挙げることができる。
【0012】
本発明の方法で使用することができるエマルション中のマトリックス成分は、好ましくは、リグニン誘導体、特に、内容を引用のための本明細書に取り込む米国特許第5,668,183号に記載されているリグニン誘導体である。リグニンスルホン酸ナトリウム、カルシウム及びアンモニウムが特に対象である。いくつかのリグニン誘導体の混合物を使用することができる。本発明にしたがって好都合にビードレット調製物(ビードレット)に加工することができるエマルションのための非ゲル化性マトリックス成分のさらなる例は、変性デンプン、ペクチン及びセルロース誘導体である。本発明にしたがって加工されるエマルションはさらに、そのような調製物で従来から使用される補助剤、たとえば酸化防止剤、たとえばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、エトキシキン、トコフェロール又は湿潤剤、たとえばグリセロール、ソルビトール、ポリエチレングリコールもしくはプロピレングリコールを含有することができる。
【0013】
以下の実施例によって本発明をさらに例示する。
【0014】
実施例
有効成分、たとえば酢酸dl−α−トコフェロール3重量%、水43重量%、リグニンスルホン酸塩50重量%及び添加物4重量%を含むエマルションを調製し、図1に示す設備で処理した。以下、括弧内の参照番号は図1中の各参照番号を指す。
【0015】
送込み口[4]を介してコーンスターチを噴霧塔に導入した。続いて、図2に示すノズル構造を介してエマルション流[1]を噴霧塔に吹き込んだ。水分含量8g/kgの80℃の熱気[2]を塔の頂部に供給した。
【0016】
内部流動床の流動化のために、水分含量1g/kgの10℃の冷乾気[3]を塔の下部に供給した。
【0017】
必要に応じて新鮮なコーンスターチ[4]を加えて、ビードレット形成によるデンプン吸収を補った。内部流動床中の生成物の流動化のために、ケイ酸[10]を連続的にデンプン流に加えてもよい。ケイ酸だけでなく、新鮮なコーンスターチを直接、内部流動床に加えた。
【0018】
排気[5]が塔の下部の円錐体の中央の円筒部を通って塔から出た。この空気中のコーンスターチをサイクロンによって分離し、塔に(噴霧ゾーンに直接)再循環させた。この空気の温度は約60℃であり、水分含量は12g/kgであった。再循環コーンスターチ[6]を噴霧装置の内部円錐体中の2個のノズルによって噴霧した。微分散したコーンスターチは、円錐体の上に円錐体に対して落下し、その後、塔中の2個の円錐体によって形成された溝孔を通ってしたたり落ちた。
【0019】
噴霧塔を離れた、いくらか水分を含有する粒子(ビードレット)を、除湿気を使用して作動する外部乾燥機に移した。外部乾燥機を離れたビードレット[11]は、平均直径が約150〜500μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の方法を実施するための設備を示す図である。
【図2】本発明の方法を実施するためのノズル構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性又は水分散性の非ゲル化性マトリックス中の脂溶性物質のビードレット調製物を製造する方法であって、
(a)垂直噴霧塔の上寄り部分に、噴霧ノズルを介して前記脂溶性物質及び前記マトリックス成分の水性エマルションを供給し、別個の送込み口を介して粉末状デンプン及び熱気流を供給することと、
(b)前記噴霧塔の下寄り部分に冷気流を供給して、前記マトリックス成分、前記脂溶性物質を含むデンプン被覆ビードレットの流動床を形成することと、
(c)前記ビードレットを流動床から捕集し、それを乾燥機に排出することと
を含む方法。
【請求項2】
噴霧ゾーンが約40℃〜約200℃、好ましくは約60℃〜約120℃の温度を有し、流動床が約0℃〜約40℃、好ましくは約5〜約20℃の温度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(a)幅広の上端が閉じられ、デンプン/空気分散系のための1個以上の送込み口を保持する第一の中空円錐体と、
(b)第一の中空外側円錐体の中に、前記第一の円錐体中で上を向くような方法で装着されて、端部で、外面と第一の円錐体の内面との間に小さな円形の溝孔を残す第二の内側円錐体と、
(c)下向きに第二の円錐体の上方に突出し、回転噴霧器又は加圧噴霧器で終端する、閉じた端部及び回転噴霧器を有する送込み管と、
(d)外側円錐体を包囲し、両円錐体によって形成される円形溝孔よりもわずかに上方で終端する円形の空気送込み路と
を含む、実質的に図2に示すとおりであるノズル構造を介して水性エマルション、デンプン及び熱気流を噴霧塔に供給する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
マトリックス成分がリグニン誘導体である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
リグニン誘導体がリグニンスルホン酸塩である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
脂溶性物質が、ビタミンA、D、E及びK、カロテノイド、多価不飽和脂肪酸、油又は脂肪である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
脂溶性物質が、β−カロテン、アスタキサンチン、アポカロテナール、カンタキサンチン、アポエステル、シトラナキサンチン又はゼアキサンチンである、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
(a)幅広の上端が閉じられ、デンプン/空気分散系のための1個以上の送込み口を保持する第一の中空円錐体と、
(b)第一の中空外側円錐体の中に、前記第一の円錐体中で上を向くような方法で装着されて、端部で、外面と第一の円錐体の内面との間に小さな円形の溝孔を残す第二の内側円錐体と、
(c)下向きに第二の円錐体の上方に突出し、回転噴霧器又は加圧噴霧器で終端する、閉じた端部及び小さな側方開口部を有する回転送込み管と、
(d)外側円錐体を包囲し、両円錐体によって形成される円形溝孔よりもわずかに上方で終端する円形の空気送込み路と
を含む、実質的に図2に示すとおりであるノズル構造。
【請求項9】
特に実施例及び図面を参照しながら明細書に記載するとおりの発明。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−517099(P2006−517099A)
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500518(P2006−500518)
【出願日】平成16年1月6日(2004.1.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000028
【国際公開番号】WO2004/062382
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】