説明

脂環式オレフィン化合物および脂環式エポキシ化合物の製造方法

【課題】 着色のない脂環式エポキシ化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートと2〜6官能のアルコール性水酸基を有する化合物とをエステル交換反応させることを特徴とする脂環式オレフィン多価エステル化合物の製造方法および3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートと2〜6官能のアルコール性水酸基を有する化合物でエステル交換反応させることにより脂環式オレフィン多価エステル化合物を製造後、同脂環式オレフィン化合物を過酸又は過酸化水素にてエポキシ化することを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂環式オレフィン化合物および脂環式エポキシ化合物の製造方法に関する。脂環式エポキシ化合物は、グリシジルエーテル型のエポキシ化合物に比べて電気絶縁性が良く、耐熱性が有り、透明性に優れた硬化物を作ることから透明封止材料、UVカチオンコーティングなどに使用されている。一方、欠点としては、硬化物が硬く、靭性にやや劣るため密着性、機械物性の改良が望まれている。
【背景技術】
【0002】
これらを改良するため代表的な脂環式エポキシ化合物である3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートにカプロラクトンを挿入した化合物
【化1】

及びアジピン酸を含む以下の化合物
【化2】

などがあるが、ガラス転移点が大きく低下したり、吸水率が高くなり好ましい硬化物が得られなかった。
【0003】
一方、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートにポリエステル等の可とう性付与剤を添加する方法も上記化合物の配合と同様に、脂環式エポキシ化合物の特長を生かしたまま機械物性を改良する手法としては十分ではない。
上記問題点を解決するため脂環式エポキシ化合物の架橋点間を延長し、かつ、ガラス転移点の低下を押さえられる化合物として以下の脂環式エポキシ多価エステル化合物が期待されている。
【化3】

上記化合物の製造方法としては、特開平5−170753に開示されているが、エポキシ化合物をエステル交換するため、エポキシ基の開環反応が起こり、目的とするエポキシ化合物のオキシラン酸素濃度が低くなり、副生成物によるエポキシ化合物自身の色相の悪化及び硬化物における色相の悪化、物性低下が避けられない。
【0004】
【特許文献1】特開平5−170753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記エポキシ化合物は、透明性を要求されるLED(発光素子)などの封止材料、液晶パネルなどのフィルム、シートに用いる際は、エポキシ化合物自身にも良好な色相が要求される。エステル交換反応の際に用いた触媒を含有させたまま加熱、濃縮すると著しい着色が生じ、これは、後記するエポキシ化反応における目的生成物であるエポキシ化合物の色相に反映される。そのため硬化物の光線透過率が低下、または、低下しやすくなりこのエポキシ化合物を用いる製品の品質を低下させる。
本発明は、エステル交換反応による前記のような脂環式オレフィン多価エステル化合物の製造方法および同脂環式オレフィン多価エステル化合物をエポキシ化することによる脂環式エポキシ化合物の製造方法であり、エステル交換反応終了後に水洗を行なうことにより、脂環式エポキシ化合物およびその硬化物における着色を防ぐことができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の第1は、下記式(1)で表される3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートと2〜6官能のアルコール性水酸基を有する化合物とをエステル交換反応させることを特徴とする脂環式オレフィン多価エステル化合物の製造方法を提供する。
【化4】

本発明の第2は、下記式(1)で表される3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートと2〜6官能のアルコール性水酸基を有する化合物でエステル交換反応させることにより脂環式オレフィン多価エステル化合物を製造後、同脂環式オレフィン化合物を過酸又は過酸化水素にてエポキシ化することを特徴とするエポキシ化合物の製造方法を提供する。
【化5】

本発明の第3は、2〜6官能のアルコール性水酸基を持つ化合物が下記式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジメタノールである上記発明2に記載のエポキシ化合物の製造方法を提供する。
【化6】

本発明の第4は、脂環式オレフィン化合物を製造後、未反応物および残存副生成物を減圧下で留去する前に水洗を行なう上記発明2に記載のエポキシ化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法により製造された脂環式エポキシ化合物は色相がよく、かつ、副生成物による物性低下がない硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<エステル交換反応>
出発原料は、下記式(1)で表される3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレート及び下記式(2)で表される1,4−シクロヘキサンジメタノールのような2〜6官能のアルコール性水酸基を有する化合物であり、この2つの化合物のエステル交換反応により脂環式オレフィン多価エステル化合物が得られ、これがエポキシ化反応における前駆体となる。2〜6官能のアルコール性水酸基を有する化合物としては、1,4−シクロヘキサンジメタノールの他にエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、グリセリン等がある。中でも、透明性、耐熱性、機械特性の観点から脂環式構造を有する化合物が好ましく用いられる。
【化7】

【化8】

3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートの比率は、1,4−シクロヘキサンジメタノールのような2〜6官能のアルコール性水酸基を持つ化合物の水酸基当量に対して2.5〜7.5当量、好ましくは、3.5〜6当量である。3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートの比率が2.5当量より低い場合、着色しやすくなり、比率が7.5当量より大きい場合は、生産性が悪くなる。
エステル交換反応は、減圧下で行うことが望ましい。圧力は、10〜100torrで行うが、100torrより高いと3-シクロヘキセニルメタノールのような脱離したアルコールが留出しにくくなり、低すぎるのは、装置上の制約が多くなる。温度は、140〜200℃、好ましくは、150〜190℃で反応させることが望ましい。温度が低いと反応が進みにくく、高すぎると反応制御が難しくなる上、製品の着色が起こりやすい。
エステル交換反応は、蒸留塔を用いて行うことが望ましい。これは、3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートを留出させず3-シクロヘキセニルメタノールのような脱離したアルコールを留出させて反応を効率よく進めるためである。蒸留塔の段数は、5〜20段程度のものでよい。
エステル交換反応の際には触媒を使用するのが好ましく、使用可能な触媒は、種々の有機及び無機の金属化合物であるが、好ましい触媒は、塩化第一スズ、モノブチルスズトリス−2−エチルヘキサネート、オクタン酸第一スズ、ジブチルスズジラウレートのようなスズ系化合物等やテトラブトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシチタネート等のようなチタン系の触媒である。
これら以外にも重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸バリウム、チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸セシウム、チオシアン酸コバルト、チオシアン酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、酢酸及び炭酸その他の金属塩、シュウ酸金属塩、水素化カルシウムなどである。触媒の使用量は、エステル交換反応における出発原料に対して重量基準で3〜300ppm好ましくは、5〜100ppmである。多すぎると目的生成物の着色が生じ、少なすぎると反応が進みにくい。触媒添加の際は、触媒の失活を防ぐため系内の水分を極力減らした状態で添加を行うことが望ましい。これら触媒は、一度に又は数回に分けて仕込むことも可能である。
エステル交換反応終了後は、反応生成物の水洗を行い触媒の失活又は除去することが必須である。水洗を行なわないと未反応の3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートを留去する際に着色が生じ、後述するエポキシ化反応における目的生成物である脂環式エポキシ化合物の品質を大きく低下させるためである。
水洗の条件は、30〜90℃にて1〜2時間程度水と共に撹拌を行えば十分である。水洗時の温度が高すぎたり、時間が長すぎると、生産性が低下したり、逆に水洗時の温度が低すぎたり、時間が短かすぎると十分触媒を除去できないため、好ましくない。
水の仕込比率は、エステル交換反応により得られる脂環式オレフィン多価エステル化合物の0.1〜2重量倍、好ましくは、0.3〜1重量倍である。水の仕込み比率が高すぎると、生産性が低下し、逆に低すぎると十分触媒を除去できないので好ましくない。
水洗後に未反応の3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートの留去を行う。
条件は、150〜200℃、好ましくは、160℃〜180℃であり、圧力は、1〜5torr、好ましくは、2〜4torrの範囲である。装置は、反応器ないしエバボレーター等を用いることも可能であるが、流下液膜式薄膜蒸発装置(FFE)やかきとり式薄膜蒸発装置(WFE)などの薄膜蒸発機を用いた方が製造効率、着色防止の点から好ましい。
【0009】
<エポキシ化反応>
本発明における脂環式エポキシ化合物は、例えば、上記エステル交換反応で得られた下記脂環式オレフィン多価エステル化合物を過酢酸のようなエポキシ化剤と反応させることによって製造することができる。
【化9】

使用できるエポキシ化剤としては、過酸又は過酸化水素が挙げられるが、過酸、特に水分を実質的に含まない過カルボン酸を使用することが好ましい。これは、水存在下でのエポキシ化反応は、エポキシ基の開環反応が進みエポキシ化合物の収率が低下するためである。
本発明でいう実質的に水分を含まない過カルボン酸とは、アセトアルデヒドの空気酸化により製造される過カルボン酸のことである。このような過カルボン酸の製造方法としては、例えば特開昭54-3006号公報に記載の方法が挙げられる。本発明で使用される過カルボン酸の水分含量としては、0.8〜0.1%、好ましくは、0.6〜0.3%である。
これは、過酸化水素から過カルボン酸を合成し、溶媒に抽出し過カルボン酸を製造する場合に比べて連続して低い水分含量の過カルボン酸を大量に高濃度で合成できるため、実質的に安価なプロセスを作ることができる。
過酸類としては過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、トリフルオロ過酢酸等を用いることができる。このうち特に過酢酸は工業的に安価に製造可能で、かつ安定度も高く、好ましいエポキシ化剤である。
エポキシ化剤の量に厳密な制限はなく、それぞれの場合における最適量は、使用する個々のエポキシ化剤、所望されるエポキシ化度、使用する個々の被エポキシ化物等のごとき可変要因によって決まる。
エポキシ化反応は、装置や原料物性に応じて不活性溶媒使用の有無や反応温度を調節して行なう。不活性溶媒としては、原料粘度の低下、エポキシ化剤の希釈による安定化などの目的で使用することができ、過酢酸の場合であれば芳香族化合物、エーテル類、エステル類などを用いることができる。特に好ましい溶媒は、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼン、酢酸エチルである。用いるエポキシ化剤の反応性によって使用できる反応温度域は定まる。
好ましいエポキシ化剤である過酢酸についていえば20〜70℃が好ましい。20℃以下では反応が遅く、70℃では過酢酸の分解が起きる。
不飽和結合に対するエポキシ化剤の仕込みモル比は不飽和結合をどれくらい残存させたいかなどの目的に応じて変化させることができる。エポキシ基が多い化合物が目的の場合、エポキシ化剤は不飽和基に対して等モルかそれ以上加えるのが好ましい。ただし、経済性、及び次に述べる副反応の問題から2倍モルを越えることは通常不利であり、過酢酸の場合1.3〜1.8倍モルが好ましい。
反応混合物の特別な操作は必要なく、例えば混合物を1〜5時間攪拌すればよい。得られたエポキシ化物の単離は適当な方法、例えば貧溶媒で沈殿させる方法、エポキシ化物を熱水中に攪拌の下で投入し溶媒を蒸留除去する方法、直接脱溶媒法などで行うことができる。
【0010】
本発明の製造方法で製造される脂環式エポキシ化合物は、単独重合、共重合又はさらに他の化合物と反応させることによってさまざまなコーティング、インキ、接着剤、シーラント、透明封止材、フィルム、シートなどの成形又は成形品、又は、これらを用いた他の用途のための中間体を生成することができる。
本発明の製造方法で製造される脂環式エポキシ化合物を用いることができる用途の例としては、酸除去剤、家具コーティング、装飾コーティング、自動車下塗り、シーラー、仕上げ塗り、飲料缶及びその他の缶コーティング、文字情報又は画像情報のインキ、電子部品用のシーラント、LEDなどの透明封止材料、液晶表示材料に用いられるTFT(薄膜トランジスタ)膜、ITO(インジウムスズオキサイド)膜に用いられる透明基板、印刷版又は印刷回路版を開発するのに適したフォトレジスト、注型印刷ロール、不飽和ポリエステル及びスチレンを主体としガラス、炭素、グラファイト又は、他の繊維によって強化された成形配合物又はシート形成配合物によって作られた成形品、溶媒、難燃剤などがある。
(実施例)
【0011】
以下の実施例は、本発明を例示するためのものであり、その範囲を何ら限定するものではない。例中の「%」は、「重量%」を表わす。
【0012】
≪エステル交換反応≫
<実施例1>
10段の蒸留塔のついた10リットル反応器に出発原料である3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレート[表1中ではオレフィンと記す]を6110g、1,4-シクロヘキサンジメタノール[表1中ではポリオールと記す]を400g反応器に仕込み、90℃で溶解させた。溶解確認後、塩化スズを出発原料に対して10ppm相当仕込み、170℃、8torrまで減圧にした。副生する3-シクロヘキセニルメタノールを留出させながら反応させ、3-シクロヘキセニルメタノールの留出がほぼ停止したところで加熱を停止しエステル交換反応を終了させた。エステル交換反応終了液は、透明であった。
その後、反応粗液の0.5重量倍のイオン交換水を用いて60℃で1時間水洗を行い30分静置した。水層を分離後、薄膜蒸発機にてジャケット温度178℃、圧力3.2torrで水洗液中に残存する3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレート及び3-シクロヘキセニルメタノールを留去することにより、脂環式オレフィン多価エステル化合物が821g得られた。この化合物の色相(APHA)は、50であった。
【0013】
<実施例2>
10段の蒸留塔のついた10リットル反応器に出発原料である3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートを6110g、1,4-シクロヘキサンジメタノールを400g反応器に仕込み、90℃で溶解させた。溶解確認後、テトラブトキシチタネートを出発原料に対して10ppm相当仕込み、175℃、10torrまで減圧にした。副生する3-シクロヘキセニルメタノールを留出させながら反応させ、3-シクロヘキセニルメタノールの留出がほぼ停止したところで加熱を停止しエステル交換反応を終了させた。エステル交換反応終了液は、透明であった。
その後、反応粗液の0.5重量倍のイオン交換水を用いて60℃で2時間水洗を行い、30分静置した。水層を分離後、薄膜蒸発機にてジャケット温度180℃、圧力3.1torrで水洗液中に残存する3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレート及び3-シクロヘキセニルメタノールを留去することにより、脂環式オレフィン多価エステル化合物が841g得られた。この化合物の色相(APHA)は、45であった。
【0014】
<実施例3>
10段の蒸留塔のついた10リットル反応器に出発原料である3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートを6110g、1,4-シクロヘキサンジメタノールを400g反応器に仕込み、90℃で溶解させた。溶解確認後、テトラブトキシチタネートを出発原料に対して30ppm相当仕込み、170℃、8torrまで減圧にした。副生する3-シクロヘキセニルメタノールを留出させながら反応させ、3-シクロヘキセニルメタノールの留出がほぼ停止したところで加熱を停止しエステル交換反応を終了させた。エステル交換反応終了液は、ほぼ透明であった。その後、反応粗液の1.0重量倍のイオン交換水を用いて60℃で1時間水洗を行い、30分静置した。水層を分離後、薄膜蒸発機にてジャケット温度177℃、圧力4.5torrで水洗液中に残存する3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレート及び3-シクロヘキセニルメタノールを留去することにより、脂環式オレフィン多価エステル化合物が838g得られた。この化合物の色相(APHA)は、60であった。
【0015】
<実施例4>
10段の蒸留塔のついた10リットル反応器に出発原料である3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートを6110g、1,4-シクロヘキサンジメタノールを400g反応器に仕込み、90℃で溶解させた。溶解確認後、テトラブトキシチタネートを出発原料に対して30ppm相当仕込み、170℃、8torrまで減圧にした。副生する3-シクロヘキセニルメタノールを留出させながら反応させ、3-シクロヘキセニルメタノールの留出がほぼ停止したところで加熱を停止しエステル交換反応を終了させた。エステル交換反応終了液は、ほぼ透明であった。その後、薄膜蒸発機にてジャケット温度177℃、圧力4.5torrで反応液中に残存する3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレート及び3-シクロヘキセニルメタノールを留去することにより、脂環式オレフィン多価エステル化合物が836g得られた。この化合物の色相(APHA)は、400であった。
【0016】
<実施例5>
10段の蒸留塔のついた10リットル反応器に出発原料である3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートを4885g、1,4-シクロヘキサンジメタノールを400g反応器に仕込み、90℃で溶解させた。溶解確認後、テトラブトキシチタネートを出発原料に対して500ppm相当仕込み、170℃、8torrまで減圧にした。副生する3-シクロヘキセニルメタノールを留出させながら反応させ、3-シクロヘキセニルメタノールの留出がほぼ停止したところで加熱を停止しエステル交換反応を終了させた。エステル交換反応終了液は、黄色に着色していた。反応終了液は、その後、反応粗液の1.0重量倍のイオン交換水を用いて60℃で1時間水洗を行い、30分静置した。水層を分離後、薄膜蒸発機にてジャケット温度177℃、圧力4.5torrで水洗液中に残存する3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレート及び3-シクロヘキセニルメタノールを留去することにより、脂環式オレフィン多価エステル化合物が821g得られた。この化合物の色相(APHA)は、300であった。
【0017】
<実施例6>
10段の蒸留塔のついた5リットル反応器に出発原料である3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートを2442g、1,4-シクロヘキサンジメタノールを400g反応器に仕込み、90℃で溶解させた。溶解確認後、テトラブトキシチタネートを出発原料に対して50ppm相当仕込み、170℃、8torrまで減圧にした。副生する3-シクロヘキセニルメタノールを留出させながら反応させ、3-シクロヘキセニルメタノールの留出がほぼ停止したところで加熱を停止しエステル交換反応を終了させた。エステル交換反応終了液は、淡黄色に着色していた。
その後、反応粗液の1.0重量倍のイオン交換水を用いて60℃で1時間水洗を行い、30分静置した。水層を分離後、薄膜蒸発機にてジャケット温度177℃、圧力4.1torrで水洗液中に残存する3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレート及び3-シクロヘキセニルメタノールを留去することにより、脂環式オレフィン多価エステル化合物が788g得られた。この化合物の色相(APHA)は、500以上であった。色相値が高いのは、仕込みの3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートオレフィンがの量が1,4-シクロヘキサンジメタノールに比べ少ないためであると考えられる。
【0018】
上記各実施例で得られた化合物の色相(APHA)、同外観、オレフィンのポリオールに対する当量比を表1にまとめて記載した。
【表1】

【0019】
≪エポキシ化反応≫
<実施例7>
実施例2で得られた化合物200g、酢酸エチル200gを仕込み、窒素を気相部に吹き込みながら、反応系内の温度を30℃になるように約2時間かけて実質的に無水の過酢酸401g(過酢酸濃度:29.5%、水分含量0.35%)を滴下した。過酢酸滴下終了後、40℃で3時間熟成し反応を終了した。さらに40℃で反応終了液を水洗し、70℃/10mmHgで脱低沸を行い、脂環式エポキシ化合物を209.4gを得た。得られた脂環式エポキシ化合物の性状は、オキシラン酸素濃度7.92%、白色の結晶が得られた。
1HNMRによる分析結果からδ5.0〜5.8ppm付近の二重結合に由来するピークがほとんど消失し、δ2.9〜3.11ppm付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認された。
【0020】
<実施例8>
実施例3で得られた化合物200gと酢酸エチル200g、を仕込み、窒素を気相部に吹き込みながら、反応系内の温度を25℃になるように約3時間かけて実質的に無水の過酢酸400g(過酢酸濃度:29.5%、水分0.35%)を滴下した。過酢酸滴下終了後、25℃で5時間熟成し反応を終了した。さらに30℃で粗液を水洗し、70℃/20mmHgで脱低沸を行い、脂環式エポキシ化合物214.6gを得た。得られた脂環式エポキシ化合物の性状は、オキシラン酸素濃度7.89%、白色の結晶が得られた。1HNMRによる分析結果からδ5.0〜5.8付近の二重結合に由来するピークがほとんど消失し、δ2.9〜3.3付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認された。
【0021】
<実施例9>
実施例3で得られた化合物100gと酢酸エチル300g、を仕込み、気相部に窒素を吹込みながら、反応系内の温度を40℃になるように約2時間かけて過酢酸186g(過酢酸濃度:29.1%、水分含量 0.41%)を滴下した。過酢酸滴下終了後、40℃で4時間熟成し反応を終了した。さらに30℃で粗液を水洗し、70℃/30mmHgで脱低沸を行い、脂環式エポキシ化合物207.0gを得た。得られた脂環式エポキシ化合物の性状は、オキシラン酸素濃度7.90%であった。1HNMRによる分析結果からδ5.0〜5.8付近の二重結合に由来するピークがほとんど消失し、δ2.9〜3.3付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認された。
【0022】
<実施例10>
実施例1で得られた化合物200gと酢酸エチル200g、を仕込み、窒素を気相部に吹き込みながら、反応系内の温度を25℃になるように約3時間かけて実質的に無水の過酢酸402g(過酢酸濃度:29.5%、水分含量0.35%)を滴下した。過酢酸滴下終了後、25℃で5時間熟成し反応を終了した。さらに30℃で粗液を水洗し、70℃/20mmHgで脱低沸を行い、脂環式エポキシ化合物212.5gを得た。得られた脂環式エポキシ化合物の性状は、オキシラン酸素濃度7.88%、白色の結晶が得られた。1HNMRによる分析結果からδ5.0〜5.8付近の二重結合に由来するピークがほとんど消失し、δ2.9〜3.3付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認された。
【0023】
<比較例1>
実施例4で得られた化合物200gと酢酸エチル300g、を仕込み、気相部に窒素を吹込みながら、反応系内の温度を40℃になるように約3時間かけて過酢酸401g(過酢酸濃度:29.5%、水分含量:0.35%)を滴下した。過酢酸滴下終了後、40℃で4時間熟成し反応を終了した。さらに30℃で粗液を水洗し、70℃/10mmHgで脱低沸を行い、脂環式エポキシ化合物207.3gを得た。得られた脂環式エポキシ化合物の性状は、オキシラン酸素濃度7.88%、製品は、固体になったが黄色がかっていた。1HNMRによる分析結果からδ5.0〜5.8付近の二重結合に由来するピークがほとんど消失し、δ2.9〜3.3付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認された。
【0024】
<比較例2>
実施例1で得られた化合物200gと酢酸エチル200g、を仕込み、気相部に窒素を吹込みながら、反応系内の温度を40℃になるように約3時間かけて過酢酸314.8g(過酢酸濃度:29.5%、水分含量:0.35%)を滴下した。過酢酸滴下終了後、40℃で4時間熟成し反応を終了した。さらに30℃で粗液を水洗し、70℃/10mmHgで脱低沸を行い、脂環式エポキシ化合物199.4gを得た。得られた脂環式エポキシ化合物の性状は、オキシラン酸素濃度7.48%、製品は、固体になったが若干黄色がかっていた。1HNMRによる分析結果からδ5.0〜5.8付近の二重結合に由来するピークがほとんど消失し、δ2.9〜3.3付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認された。
【0025】
<比較例3>
3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート4000g及び1,4-シクロヘキサンジメタノール456gを反応器に仕込み、90℃で溶解させた。溶解確認後、テトラブトキシチタネートを出発原料に対して30ppm相当仕込み、170℃、10torrまで減圧にした。副生する3,4-エポキシシクロヘキシルメタノールを留出させながら反応させ、3,4-エポキシシクロヘキシルメタノールの留出がほぼ停止したところで加熱を停止しエステル交換反応を終了させた。反応終了液は、黄色であった。
その後、反応粗液の1.0重量倍のイオン交換水を用いて60℃で1時間水洗を行い、30分静置した。水層を分離後、薄膜蒸発機にてジャケット温度177℃、圧力4.1torrで残存する3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメタノールの留去をおこなった。
オキシラン酸素を測定すると、5.14%であった。また、エステル交換反応時に他の実施例では見られない3,4-エポキシシクロヘキシルメタノールの留出配管には、ゲル状の物質が一部付着しており製造方法としても不適当であることがわかった。
【0026】
上記各実施例および比較例で得られた脂環式エポキシ化合物の外観、オキシラン酸素濃度、残存二重結合を表2および表3にまとめて記載した。
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
残存二重結合(%)は以下の計算式による。
(A/A+B)×100
A:二重結合の積分値:5.0〜5.8ppmまでの積分値
B:エポキシの積分値:2.9〜3.1ppmの積分値
オキシラン酸素濃度はASTM D1652(臭化水素酸法)により測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートと2〜6官能のアルコール性水酸基を有する化合物とをエステル交換反応させることを特徴とする脂環式オレフィン多価エステル化合物の製造方法。
【化1】

【請求項2】
下記式(1)で表される3-シクロヘキセニルメチル-3-シクロヘキセンカルボキシレートと2〜6官能のアルコール性水酸基を有する化合物でエステル交換反応させることにより脂環式オレフィン多価エステル化合物を製造後、同脂環式オレフィン化合物を過酸又は過酸化水素にてエポキシ化することを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
【化2】

【請求項3】
2〜6官能のアルコール性水酸基を持つ化合物が下記式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジメタノールである請求項2に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【化3】

【請求項4】
脂環式オレフィン化合物を製造後、未反応物および残存副生成物を減圧下で留去する前に水洗を行なう請求項2に記載のエポキシ化合物の製造方法。

【公開番号】特開2006−52187(P2006−52187A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236505(P2004−236505)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】