説明

脂環式ポリエーテル、その製造方法及びその用途

【課題】低誘電率、高強度、高耐熱性及び高透明性を具備した脂環式ポリエーテル及びその製造方法。
【解決手段】下記式(1)で表される脂環式ポリエーテル。


(1)式のポリエーテルを、1種以上のアダマンタノン誘導体のヒドラジンとの縮合反応による二量化工程、トリアジン付加転位反応によるポリエーテル化工程、塩素共存下加水分解反応によるアゾ化工程、及び塩基共存下熱分解反応による脱窒素ガス工程を含む工程により製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子分野において、半導体の層間絶縁膜材料等として用いられる低誘電材料、高強度材料、耐熱材料として有用な、新規な脂環式ポリエーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
低誘電材料は電機・電子部品における材料として帯電や抵抗値上昇等の問題点を解消するために広く用いられている。低誘電材料には経済性向上、誘電率低下が求められるが、これ以外にも、発熱を伴う部分に用いられたり、薄膜として使用されることが多いため、耐熱性向上、強度向上等も同時に求められている。特に半導体の層間絶縁膜材料として有用であり、低誘電率、高耐熱性、高強度、経済性を具備した材料の開発が活発に行われている。
【0003】
低誘電材料の主な用途である半導体の層間絶縁膜材料としては、現在シロキサン系化合物が中心に用いられている。シロキサン系化合物は主にがケイ素、酸素から構成されている。分子の双極子モーメントが大きいほど誘電率は高くなるため非共有電子対を多く有するシロキサン系化合物等は不利である。しかし、今までは誘電率の要求値がk=4から3程度であったため、強度、シリコンウェハーに対する密着性のバランスから、シロキサン系化合物が用いられていた。
【0004】
半導体高性能化の要求から半導体回路幅の微細化が求められており、誘電率をさらに低くすることが必要になってきた。その際には半導体チップ全体の強度や物理的ストレス等による絶縁破壊の問題も深刻になるため薄膜としての強度も維持する必要がある。低誘電率化の観点からシロキサン系化合物は、無機シロキサン系化合物から有機シロキサン系化合物に、さらにコントロールされたナノメートルレベルの空孔の導入と技術が進展してきた。しかし、さらなる低誘電率化に対応するには空孔の導入量を増やすと強度の低下を招くことが問題になる。
【0005】
そこで有機系ポリマー等の新規材料が提案されてきたが、絶縁性、低誘電率と高強度に加えて、特に、半導体製造時にかかる熱負荷に耐える高耐熱性を具備する材料は見当たらない。また、特許文献1に例示されるボラジン−ケイ素系高分子のような有機/無機重合体も提案されているが、低誘電率、高強度、高耐熱性を具備するが重合に必要なプラチナ触媒を除去する工程がないため、残留プラチナ原子により生じる絶縁破壊や低安定性の点で問題が残っている。
【0006】
さらに、同様に低誘電率、高強度、高耐熱性を具備する特許文献2又は特許文献3に例示されるナフチルエーテル系高分子の提案があるが、将来の画像表示装置や半導体装置に適用するには、さらなる高透明性や低誘電率が求められている。
【0007】
現状のナノメートルレベルの空孔導入手法では強度低下せずに誘電率を低下させるのには限界があるため、オングストロームレベルの空孔を導入する必要があり、それは即ち原子レベルのサイズの空孔、即ち分子間自由体積を増加させることに他ならない。また、さらに誘電率を低下させるにはπ電子及び水素原子を減少させることにより分子の分極率を低下させる必要があるためアダマンタン構造に代表される脂環構造のみから構築される高分子化合物が適する。しかし、アダマンタン構造に代表される脂環構造のみから構築される高分子化合物は一般的に不溶、不溶性であり、薄膜構造として利用することができない。
【特許文献1】特開2002−359240号公報
【特許文献2】WO2004/083278号パンフレット
【特許文献3】WO2005/092946号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、従来公知の低誘電材料を用いる層間絶縁膜材料への空孔導入量の増加により生ずる種々の問題点を解消し、空孔導入を必要としない低誘電率、高強度、高耐熱性及び高透明性を具備した脂環式ポリエーテルを提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、前記脂環式ポリエーテルからなる電子材料、低誘電材料、半導体用層間絶縁膜材料、透明材料、光学材料、高強度材料、耐熱材料及び薄膜を提供することである。
本発明の他の目的は、前記薄膜を含む半導体装置、画像表示装置、電子回路装置及び表面保護膜を提供することである。
本発明の他の目的は、前記脂環式ポリエーテルを有機溶媒に溶解させた塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、脂環構造にエーテル結合を導入することにより、薄膜を容易に得ることができるとともに、誘電率低下、耐熱性向上、強度向上が可能となることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の脂環式ポリエーテル等が提供される。
1.下記式(1)で表される脂環式ポリエーテル。
【化6】

(式(1)中、Rは、それぞれ独立して水素、置換又は非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数1〜20の分岐状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基、置換又は非置換の炭素数4〜50の脂環式エーテル基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シリル基、シロキシ基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基を表す。
は、それぞれ独立して上記Rで表される水素又は置換基、又は下記式(2)で表される脂環式置換基を表す。
は、置換又は非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数1〜20の分岐状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基、シリル基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基を表す。
nは、0以上1万以下の整数である。
【化7】

(式(2)中、R,Rは上記式(1)中のR,Rと同じであるが、式(2)のR,Rと式(1)のR,Rは互いに独立している。−X−はエーテル結合又は単結合である。mは、0以上1万以下の整数である。))
2.下記式(3a)及び(3b)で表される化合物から選択される1種以上のアダマンタノン誘導体を、ヒドラジンと縮合反応させて二量化する工程、得られた二量体をトリアゾン付加転位反応によりポリエーテル化する工程、得られたポリエーテルを塩基共存下加水分解反応してアゾ化する工程、及び得られたアゾ化ポリエーテルを塩基共存下熱分解反応して脱窒素ガスする工程を含む1記載の脂環式ポリエーテルの製造方法。
【化8】

(式(3a)及び(3b)中、R,Rは、上記式(1)中のR,Rと同じである。)
3.1記載の脂環式ポリエーテルからなる電子材料。
4.1記載の脂環式ポリエーテルからなる低誘電材料。
5.1記載の脂環式ポリエーテルからなる半導体用層間絶縁膜材料。
6.1記載の脂環式ポリエーテルからなる透明材料。
7.1記載の脂環式ポリエーテルからなる光学材料。
8.1記載の脂環式ポリエーテルからなる高強度材料。
9.1記載の脂環式ポリエーテルからなる耐熱材料。
10.1記載の脂環式ポリエーテルからなる薄膜。
11.10に記載の薄膜を含む半導体装置。
12.10に記載の薄膜を含む画像表示装置。
13.10に記載の薄膜を含む電子回路装置。
14.10に記載の薄膜を含む表面保護膜。
15.1記載の脂環式ポリエーテルを有機溶媒に溶解させた塗料。
16.下記式で表されるポリトリアゾンアダマンチルエーテル誘導体。
【化9】

(式中、Rは、それぞれ独立して水素、置換又は非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数1〜20の分岐状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、又は置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基を表す。
,R,R,nは、上記式(1)中のR,R,R,nと同じである。)
17.下記式で表されるポリジアゾアダマンチルエーテル誘導体。
【化10】

(式中、R,R,R,nは、上記式(1)中のR,R,R,nと同じである。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低誘電率、高強度、高耐熱性及び高透明性を具備した脂環式ポリエーテルが提供できる。
本発明によれば、前記脂環式ポリエーテルからなる電子材料、低誘電材料、半導体用層間絶縁膜材料、透明材料、光学材料、高強度材料、耐熱材料及び薄膜を提供できる。
本発明によれば、前記薄膜を含む半導体装置、画像表示装置、電子回路装置及び表面保護膜を提供できる。
本発明によれば、前記脂環式ポリエーテルを有機溶媒に溶解させた塗料を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(1)脂環式ポリエーテルの構造及び性質
本発明の脂環式ポリエーテルは、下記式(1)で示される。
【化11】

【0012】
式(1)中、それぞれ独立してRは水素、置換又は非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数1〜20の分岐状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基、置換又は非置換の炭素数4〜50の脂環式エーテル基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シリル基、シロキシ基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基を表す。
【0013】
式(1)中、Rは、それぞれ独立して上記Rで表される水素又は置換基、又は下記式(2)で表される脂環式置換基を表す。
【化12】

【0014】
式(2)のR,Rは上記R,Rと同じである。
式(2)の−X−はエーテル結合又は単結合である。
【0015】
式(1)中、Rは、置換又は非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数1〜20の分岐状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基、シリル基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基を表す。
【0016】
式(1),(2)中、n,mはそれぞれ独立して0以上1万以下の整数であり、好ましくは3以上1000以下であり、より好ましくは3以上50以下である。3未満では耐熱性、安定性が低くなり、1000を越えると有機溶媒への溶解度が低下し薄膜等の所望の形体への成型が困難になる恐れがある。
【0017】
としては、具体的には、水素;メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基等の炭素数1〜20の(シクロ)アルキル基;ビニル基、イソプロペニル基、アリル基等の炭素数1〜20のアルケニル基;エチニル基等の炭素数1〜20のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナンスレニル基等の炭素数6〜20の芳香族基;トリル基、クミル基等の炭素数1〜20のアルキル基で置換された炭素数6〜20の芳香族基;メトキシ基、エトキシ基、アダマンチルオキシ基、ビアダマンチルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等の炭素数1〜20のアルケニルオキシ基;フェノキシ基;メチルチオ基、アダマンチルチオ基等の炭素数1〜20の(シクロ)アルキルチオ基;ビニルチオ基等の炭素数1〜20のアルケニルチオ基;フェニルチオ基;アセトキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基等のエステル基;エポキシ基;エポキシメチル基等の炭素数1〜20のアルキルエポキシ基;シリル基;トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等のトリアルキルシリル基;トリフェニルシリル基;シロキシ基;トリメチルシロキシ基、tert−ブチルジメチルシロキシ基等のトリアルキルシロキシ基;トリフェニルシロキシ基;フッ素;トリフルオロメチル基等の炭素数1〜20のフッ素化アルキル基;ヘキサフルオロイソプロペニル基等の炭素数1〜20のフッ素化アルケニル基;ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメトキシ基等の炭素数1〜20のフッ素化アルコキシ基;ヘキサフルオロイソプロペノキシ基等の炭素数1〜20のフッ素化アルケニルオキシ基;ペンタフルオロフェノキシ基;p−トリフルオロメチルフェニル基、p−トリフルオロメチルフェノキシ基、ビニルアダマンチル基、ビニルアダマンチルオキシ基、ビニルビアダマンチルオキシ基、ジメチルビアダマンチル基、ジブチルビアダマンチル基、ジシクロヘキシルビアダマンチル基、ジデシルビアダマンチル基等の上記の置換基が2種以上組み合わさって形成される置換基が例示される。
【0018】
好ましくは、Rは、水素、ブチル基、デシル基、シクロヘキシル基、ノルボニル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基、ジメチルビアダマンチル基、ジブチルビアダマンチル基、ジシクロヘキシルビアダマンチル基、ジデシルビアダマンチル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチル基である。
これらを用いることで、誘電率が低下し、また、透明性も向上できる。
【0019】
本発明の脂環式ポリエーテルの誘電率(k)は、置換基R、Rの種類、置換位置、置換数により異なる値となるが、好ましくは2.8以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.3以下である。本発明の脂環式ポリエーテルは、主鎖構造、分子量、置換基の種類、置換位置、置換数を適宜選択して、誘電率を上記範囲内に調整できる。
【0020】
本発明の脂環式ポリエーテルの耐熱性は、アダマンタン骨格及びエーテル結合によりもたらされ、アダマンタン骨格は文献(Chemical Review,277,64,1964)に述べられているように、ダイヤモンドの結晶格子に相当する三次元構造を持ちひずみが極めて小さく熱的、化学的に安定である。また、エーテル結合も一般に知られているように熱的、化学的に安定なことから、本発明の脂環式ポリエーテルは高い耐熱性を有する。
【0021】
耐熱性の評価方法は、示差走査熱量計(DSC)、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)等、一般的な熱物性評価により行える。評価サンプルの形状は薄膜の状態でも、その前駆体である粉体やブロック状であっても、評価方法の際に用いる装置の制限の範囲内で適宜選択できる。
【0022】
耐熱温度としては以上の方法により求められたガラス転移温度、及び溶融温度又は熱分解開始温度のうちいずれか低い温度の2種類の温度により規定される。耐熱温度は、主鎖構造、分子量、置換基の種類、置換位置、置換数により変化するが、好ましくは300℃から700℃の範囲、より好ましくは350℃〜700℃の範囲である。
【0023】
本発明の脂環式ポリエーテルの強度、基板密着性及び安定性は、脂環式ポリエーテルの構造、それぞれの評価方法等により異なる評価結果となるため一概に定義できないが、半導体製造におけるULSI多層配線構造の層間絶縁膜材料としては充分な値を有する。
【0024】
本発明の脂環式ポリエーテルは、前述の通り、アダマンタン骨格のダイヤモンドの結晶格子に相当する三次元構造を持ちひずみが極めて小さく熱的、化学的に安定であり、かつ剛直な構造であるため、応力を加えた際の分子間のずれ、化学結合の切断、各分子の立体的構造変化が小さいため、強度が高い。また、エーテル結合を有するため酸素原子と基板表面の水酸基等の極性基との相互作用が生じるため、基板との界面での密着性が高い。さらに、その熱的、化学的な安定性から、本発明の脂環式ポリエーテルが特定の条件下において経時的な変質をほとんど生じない。
【0025】
(2)脂環式ポリエーテルの製造方法
本発明の脂環式ポリエーテルは、ア)一般に入手可能な下記式(3a)及び(3b)で表されるアダマンタン誘導体から選択される一種類以上の原料を用いた、ヒドラジンとの縮合反応による二量化反応、イ)トリアゾン付加によるポリーテル化反応、ウ)塩基処理によるアゾ化反応、エ)塩基共存下の加熱による脱窒素化反応を順番に実施することにより適宜合成することが可能である。
【化13】

【0026】
式(3a)及び(3b)中、R,Rは上記式(1)で説明したR,Rと同じである。また、R、R、ヒドロキシル基、カルボニル基の置換位置は任意である。
【0027】
,Rが水素の場合、式(3a)及び(3b)で表される化合物は、具体的には、1−ヒドロキシ−2−アダマンタノン、3−ヒドロキシ−2−アダマンタノン、4−ヒドロキシ−2−アダマンタノン、5−ヒドロキシ−2−アダマンタノン、6−ヒドロキシ−2−アダマンタノン、7−ヒドロキシ−2−アダマンタノン、8−ヒドロキシ−2−アダマンタノン、9−ヒドロキシ−2−アダマンタノン、又は10−ヒドロキシ−2−アダマンタノンである。
【0028】
上記工程を、アダマンタン誘導体として、ヒドロキシル基が5位、オキソ基が2位に結合している式(3a)で表される化合物を用いる場合を例として以下に具体的に説明する。以下の説明は、他のアダマンタン誘導体についても同様である。
ア)ヒドラジンとの縮合反応による二量化反応
アダマンタン誘導体を、ヒドラジンと縮合させることによりジアザビアダマンタノール誘導体が得られる。反応温度は、通常−78℃から100℃の範囲である、溶媒、それぞれの化合物仕込量の比率、反応時間は用いる化合物により異なるため一概に規定できないが、同類の反応に用いる一般的な条件と同様である。
【化14】

【0029】
イ)トリアゾン付加によるポリエーテル化反応
前工程で得られたジアザビアダマンタノール誘導体を、下記反応式に示されるトリアゾンを用いて付加することにより、ポリトリアゾンアダマンチルエーテル誘導体が得られる。反応温度は、通常0℃から100℃の範囲である。溶媒は、それぞれの化合物仕込量の比率、反応時間は用いる化合物により異なるため一概に規定できないが、同類の反応に用いる一般的な条件と同様である。
尚、式(5)で表される化合物の右末端の−ORは、重合停止剤として水を加えた場合、Rは水素となって−OHとなり、任意のアルコールROHで停止した場合は−ORとなる。
【化15】

【0030】
トリアゾンのRは、水素、置換又は非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数1〜20の分岐状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基又は置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基を表す。
【0031】
Rとしては、具体的には、水素;メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基等の炭素数1〜20の(シクロ)アルキル基;ビニル基、イソプロペニル基、アリル基等の炭素数1〜20のアルケニル基;エチニル基等の炭素数1〜20のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナンスレニル基等の炭素数6〜20の芳香族基;トリル基、クミル基等の炭素数1〜20のアルキル基で置換された炭素数6〜20の芳香族基;メトキシ基、エトキシ基、アダマンチルオキシ基、ビアダマンチルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等の炭素数1〜20のアルケニルオキシ基;フェノキシ基;メチルチオ基、アダマンチルチオ基等の炭素数1〜20の(シクロ)アルキルチオ基;ビニルチオ基等の炭素数1〜20のアルケニルチオ基;フェニルチオ基;アセトキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基等のエステル基;エポキシ基;エポキシメチル基等の炭素数1〜20のアルキルエポキシ基;シリル基;トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等のトリアルキルシリル基;トリフェニルシリル基;シロキシ基;トリメチルシロキシ基、tert−ブチルジメチルシロキシ基等のトリアルキルシロキシ基;トリフェニルシロキシ基;フッ素;トリフルオロメチル基等の炭素数1〜20のフッ素化アルキル基;ヘキサフルオロイソプロペニル基等の炭素数1〜20のフッ素化アルケニル基;ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメトキシ基等の炭素数1〜20のフッ素化アルコキシ基;ヘキサフルオロイソプロペノキシ基等の炭素数1〜20のフッ素化アルケニルオキシ基;ペンタフルオロフェノキシ基;p−トリフルオロメチルフェニル基、p−トリフルオロメチルフェノキシ基、ビニルアダマンチル基、ビニルアダマンチルオキシ基、ビニルビアダマンチルオキシ基、ペンタメチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチル基等の上記の置換基が2種以上組み合わさって形成される置換基が例示される。
【0032】
好ましくは、Rは、フェニル基、トリル基、クミル基、ペンタメチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチル基、ナフチル基、アントラセニル基である。
これらを用いることで、耐熱性及び安定性が向上できる。
【0033】
ウ)塩基処理によるアゾ化反応
前工程で得られたポリトリアゾンアダマンチルエーテル誘導体を、塩基共存下加水分解反応することにより、ポリジアゾアダマンチルエーテル誘導体が得られる。反応温度は、通常0℃から200℃の範囲である。それぞれの化合物仕込量の比率、反応時間は用いる化合物により異なるため一概に規定できないが、同類の反応に用いる一般的な条件と同様である。溶媒は、使用しなくても、一般に知られている有機溶媒、水等を使用しても反応に悪影響を及ぼさない範囲においていずれでも好適である。また、塩基として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基類、ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基類が好適に使用できる。
【化16】

【0034】
エ)塩基共存下の加熱による脱窒素化反応
前工程で得られたポリジアゾアダマンチルエーテル誘導体を、塩基共存下熱分解反応して脱窒素ガスすることにより脂環式ポリエーテルが得られる。反応温度は、通常0℃から200℃の範囲である。それぞれの化合物仕込量の比率、反応時間は用いる化合物により異なるため一概に規定できないが、同類の反応に用いる一般的な条件と同様である。溶媒は、使用しなくても、一般に知られている有機溶媒、水等を使用しても反応に悪影響を及ぼさない範囲においていずれでも好適である。また、塩基として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基類、ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基類が好適に使用できる。本反応は、前段のアゾ化反応と連続的に実施しても、溶媒を除去する等の後処理を実施した後に実施してもよい。
【化17】

【0035】
本発明の脂環式ポリエーテルは、洗浄、イオン交換樹脂処理、再沈殿、再結晶、精密ろ過、乾燥等の精製より、例えば、Fe3+、Cl、Na、Ca2+等のイオン性不純物、反応溶媒、後処理溶媒、水分等を除去することにより、その誘電率は低下し、耐熱性又は強度が向上する。
【0036】
上記ア)〜エ)の反応工程で得られる中間体(式(4)〜(6))は、他の反応と組み合すことにより多様な化合物を合成することが可能となり、本発明の脂環式ポリエーテルの製造に使用されることのみならず、それら自体も工業的に有用である。
【0037】
(3)脂環式ポリエーテルの用途
半導体製造におけるULSI多層配線構造の層間絶縁膜材料として用いる場合に必要な特徴として挙げられる、誘電率、耐熱性、強度、基板密着性、安定性等の特性は、該材料を用いる部位の要求値は変化するため、それらの具体的な値については一概に定義ができない。
【0038】
一般に誘電率等は低く、耐熱性、強度、基板密着性、安定性等は高くなることが望ましく、本発明の脂環式ポリエーテルはこれらの性質を具備するものである。さらに、薄膜化後の高温での重合(熱キュア)が不要な上、化学構造も単純で安価な原料より製造できるため、従来用いられていたり、提案されたりしている熱硬化性有機系層間絶縁膜材料に対して経済的である上、熱硬化させるために必要となる触媒や架橋剤を必要としないため、これらの残留がないため層間絶縁膜材料として好適に使用できる。
【0039】
本発明の脂環式ポリエーテルは一般的に知られている有機溶媒に溶解させることが可能なためスピンコーティング法、スプレーコーティング法等の有機溶媒溶液を用いる塗布法や、CVD法等の一般に公知の方法により、厚さ10nm〜10μmの薄膜形成が可能であるため半導体回路用層間絶縁膜として好適に利用できる。
【0040】
塗布法において用いる一般的な有機溶媒としては、ジクロロメタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、乳酸エチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、メトキシエタノール、ジメチルホルムアミド、トルエン等が具体的に例示される。
【実施例】
【0041】
本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。また、実施例で使用した5−ヒドロキシ−2−アダマンタノンはシグマ・アルドリッチ社製を用い、その他の触媒、試薬は、市販の製品、又は公知文献記載の方法に従い調製したものである。
【0042】
製造例1
[中間体ジアザビアダマンタノールの合成(工程ア)]
窒素雰囲気下、滴下ロートとジム・ロート氏冷却管を備えた容量200ミリリットルのフラスコ中で、加熱還流させながら、5−ヒドロキシ−2−アダマンタノン(5.3g、35ミリモル)のtert−ブチルアルコール(60ミリリットル)溶液に対して、ヒドラジン・モノハイドレート(1.3g、26ミリモル)を45分間かけて滴下した。滴下終了後、12時間加熱還流した後、加熱を停止し24時間室温にて攪拌を継続した。反応液を回収しロータリーエバポレーターを用い濃縮し、n−ヘキサンに溶解させることによりジアザビアダマンタノールを得た(4.3g、収率75%)。構造はH−NMR(図1)により確認した。
【0043】
製造例2
[中間体ポリトリアゾンアダマンチルエーテルの合成(工程イ)]
4−フェニル−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン(1.8g、10ミリモル)と製造例1で合成したジアザビアダマンタノール(1.6g、5ミリモル)を容量50ミリリットルのステンレス製密閉容器に入れ循環窒素で満たされたグローブボックス中に設置した。該グローブボックス中において、ステンレス製密閉容器にクロロホルム(20ミリリットル)を入れて密封後、3時間100℃で攪拌した。攪拌後、n−ヘキサンを添加することにより再沈殿し、得られた固体を吸引ろ過によりろ別することによりポリトリアゾンアダマンチルエーテルを得た(1.6g、収率95%、n:14)。構造はH−NMR(図2)により確認した。
【0044】
製造例3
[中間体ポリトリアゾンアダマンチルエーテルの合成(工程イ)]
製造例2において反応に用いたクロロホルムの代わりにジメチルスルホキシド、再沈殿に用いたn−ヘキサンの代わりにエタノールを5%含んだn−ヘキサンを用いた以外は、製造例2と同様に実施し、ポリトリアゾンアダマンチルエーテルを得た(1.5、収率90%、n:14)。構造はH−NMR(図3により確認し、製造例2で得られたポリトリアゾンアダマンチルエーテルと同一の構造であった。
【0045】
製造例4
[中間体ポリジアゾアダマンチルエーテルの合成(工程ウ)]
製造例2及び製造例3で合成したポリトリアゾンアダマンチルエーテル(1.5g、モノマー単位当り4.5ミリモル)、トリエチルアミン(5ミリリットル)、クロロホルム(20ミリリットル)を、窒素雰囲気下、ジム・ロート氏冷却管を備えた容量50ミリリットルのフラスコ中で、3時間0℃で攪拌した。攪拌後、n−ヘキサンを添加することにより再沈殿し、得られた固体を吸引ろ過によりろ別することによりポリジアゾアダマンチルエーテルを得た(0.7g、収率85%、n:14)。構造はH−NMR(図4)により確認した。
【0046】
実施例1
[脂環式ポリエーテルの合成(工程エ)]
製造例4で合成したポリジアゾアダマンチルエーテル(0.7g、モノマー単位当り3.9ミリモル)、トリエチルアミン(5ミリリットル)、クロロホルム(20ミリリットル)を窒素雰囲気下、ジム・ロート氏冷却管を備えた容量50ミリリットルのフラスコ中で、3時間50℃で攪拌した。攪拌後、n−ヘキサンを添加することにより再沈殿し、得られた固体を吸引ろ過によりろ別することにより脂環部にアダマンタチル構造を有する脂環式ポリエーテルを得た(0.6g、収率98%、n:14)。構造はH−NMR(図5)により確認した。
【0047】
評価例1
[脂環式ポリエーテルの性能評価]
実施例1で得られた脂環部にアダマンタチル構造を有する脂環式ポリエーテルを用いて、窒素気流下においてTG/DTAで測定したところ熱分解開始温度は410℃であり、極めて高い耐熱性を有することが判明した。また、1,1,2,2−テトラクロロエタン溶液(濃度:10重量パーセント)としてから、スピンコート法によりシリコン基板上に500nm厚の薄膜を作成したところ、膜厚が均一な薄膜が得られ、極めて高い製膜性であることが判明した。該薄膜を用いナノインデンテーション法により、その弾性率は6GPaであり、高い薄膜強度を有することが判明した。また、該薄膜を用い全光線透過率を測定したところ88%と極めて高い透明性を有することが判明した。さらに、該薄膜を用い水銀プローブ法により誘電率を測定したところ2.5と低い誘電率を有することが判明した。
【0048】
以上の結果から、得られた脂環式ポリエーテルは、電子材料、低誘電材料、半導体用層間絶縁膜材料、透明材料、光学材料、高強度材料又は耐熱材料として好適に用いることができ、かつ、極めて高い性能を示すことを証明した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の脂環式ポリエーテルは、電子材料、低誘電材料、半導体用層間絶縁膜材料、透明材料、光学材料、高強度材料及び耐熱材料として使用できる。また、本発明の脂環式ポリエーテルからなる薄膜は、半導体装置、画像表示装置、電子回路装置及び表面保護膜等に使用できる。特に、本発明の脂環式ポリエーテルからなる低誘電材料は、層間絶縁膜材料として使用でき、ULSI等半導体の性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】製造例1で得られたジアザビアダマンタノールのH−NMRチャートである。
【図2】製造例2で得られたポリトリアゾンアダマンチルエーテルのH−NMRチャートである。
【図3】製造例3で得られたポリトリアゾンアダマンチルエーテルのH−NMRチャートである。
【図4】製造例4で得られたポリジアゾアダマンチルエーテルのH−NMRチャートである。
【図5】実施例1で得られた脂環式ポリエーテルのH−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される脂環式ポリエーテル。
【化1】

(式(1)中、Rは、それぞれ独立して水素、置換又は非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数1〜20の分岐状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基、置換又は非置換の炭素数4〜50の脂環式エーテル基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シリル基、シロキシ基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基を表す。
は、それぞれ独立して上記Rで表される水素又は置換基、又は下記式(2)で表される脂環式置換基を表す。
は、置換又は非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数1〜20の分岐状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基、シリル基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基を表す。
nは、0以上1万以下の整数である。
【化2】

(式(2)中、R,Rは上記式(1)中のR,Rと同じであるが、式(2)のR,Rと式(1)のR,Rは互いに独立している。−X−はエーテル結合又は単結合である。mは、0以上1万以下の整数である。))
【請求項2】
下記式(3a)及び(3b)で表される化合物から選択される1種以上のアダマンタノン誘導体を、ヒドラジンと縮合反応させて二量化する工程、
得られた二量体をトリアゾン付加転位反応によりポリエーテル化する工程、
得られたポリエーテルを塩基共存下加水分解反応してアゾ化する工程、及び
得られたアゾ化ポリエーテルを塩基共存下熱分解反応して脱窒素ガスする工程を含む請求項1記載の脂環式ポリエーテルの製造方法。
【化3】

(式(3a)及び(3b)中、R,Rは、上記式(1)中のR,Rと同じである。)
【請求項3】
請求項1記載の脂環式ポリエーテルからなる電子材料。
【請求項4】
請求項1記載の脂環式ポリエーテルからなる低誘電材料。
【請求項5】
請求項1記載の脂環式ポリエーテルからなる半導体用層間絶縁膜材料。
【請求項6】
請求項1記載の脂環式ポリエーテルからなる透明材料。
【請求項7】
請求項1記載の脂環式ポリエーテルからなる光学材料。
【請求項8】
請求項1記載の脂環式ポリエーテルからなる高強度材料。
【請求項9】
請求項1記載の脂環式ポリエーテルからなる耐熱材料。
【請求項10】
請求項1記載の脂環式ポリエーテルからなる薄膜。
【請求項11】
請求項10に記載の薄膜を含む半導体装置。
【請求項12】
請求項10に記載の薄膜を含む画像表示装置。
【請求項13】
請求項10に記載の薄膜を含む電子回路装置。
【請求項14】
請求項10に記載の薄膜を含む表面保護膜。
【請求項15】
請求項1記載の脂環式ポリエーテルを有機溶媒に溶解させた塗料。
【請求項16】
下記式で表されるポリトリアゾンアダマンチルエーテル誘導体。
【化4】

(式中、Rは、それぞれ独立して水素、置換又は非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数1〜20の分岐状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、又は置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基を表す。
,R,R,nは、上記式(1)中のR,R,R,nと同じである。)
【請求項17】
下記式で表されるポリジアゾアダマンチルエーテル誘導体。
【化5】

(式中、R,R,R,nは、上記式(1)中のR,R,R,nと同じである。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−211138(P2007−211138A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32620(P2006−32620)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】