説明

脂環式化合物の製造方法

【課題】脂環式化合物を高い収率で得ることができる脂環式化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】金属含有触媒の存在下、芳香族化合物と、水素とを反応させる脂環式化合物の製造方法であって、該金属含有触媒が、全自動昇温脱離スペクトル装置を用いて求められる水素消費量が500μmol/g以下である金属含有触媒を用いる脂環式化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂環式化合物は、芳香族化合物を水素化することにより製造できることが知られている。例えば、特許文献1には、β−フェネチルアルコールを水素ガスを用いて核水素化して2−シクロヘキシルエタノールを製造する方法において、触媒としてアルミナに担持されたルテニウム触媒を用いる2−シクロヘキシルエタノールの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平01−121226号公報(1989年5月12日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、脂環式化合物の収率の向上が求められていた。本発明の課題は、脂環式化合物を高い収率で得ることができる脂環式化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明は、金属含有触媒の存在下、芳香族化合物と、水素とを反応させる脂環式化合物の製造方法であって、該金属含有触媒が、全自動昇温脱離スペクトル装置を用いて求められる水素消費量が500μmol/g以下である金属含有触媒を用いる脂環式化合物の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、脂環式化合物を高い収率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の脂環式化合物の製造方法は、金属含有触媒の存在下、芳香族化合物と、水素とを反応させるものであって、該金属含有触媒の水素消費量が500μmol/g以下であるものである。本発明において、水素消費量とは、金属含有触媒0.1gを測定用セルに入れ、5体積%の水素ガスを含むヘリウムガスを50ml/分で気流下、10℃/分の速度で30℃から300℃に昇温した時に消費される水素の量を触媒重量当たりに換算したものである。また、水素消費量の測定装置は、全自動昇温脱離スペクトル装置(TPD−1−ATw、日本ベル(株)製)を用いた。
【0008】
本発明に用いる金属含有触媒は、その水素消費量が500μmol/g以下であり、好ましくは、300μmol/g以下である。水素消費量が500μmol/gよりも高いと脂環式化合物の収率が低くなり、脂環式化合物が高い収率で得ることができない。
【0009】
本発明において金属含有触媒の水素消費量を500μmol/g以下にする方法は、金属含有触媒を製造し得られた該金属含有触媒の水素消費量が500μmol/gになる製造方法であればいかなる方法でも良く、例えば、金属含有触媒を還元する方法等が挙げられる。金属含有触媒を還元する方法としては、直接金属を還元した後に金属含有触媒としても良いし、金属を含有させた触媒にしてから還元しても良い。
還元方法としては、水素または水素を含有するガスや通常還元反応に用いることのできる成分を用いることができ、例えば、ヒドラジン等が挙げられ、気相中で還元しても液相中で還元しても良い。
【0010】
本発明における金属含有触媒としては、芳香族化合物と水素とを反応させ、脂環式化合物を製造することができる金属含有触媒ならいかなるものでも良く、金属そのものでも良いし、金属が担体に担持されたものでも良い。金属としては、例えば、ニッケル、ルテニウム、鉄、オスミウム、ロジウム、白金、パラジウム、銅、クロム等が挙げられる。反応収率が向上する観点から、好ましくは、ルテニウム、鉄またはオスミウムである。担体としては、例えば、活性炭、シリカ、アルミナ、チタニア、ケイソウ土、ゼオライト等が挙げられる。金属を担体上に担持する場合、担持する金属量としては、担体に対して、好ましくは、0.1〜20重量%であり、より好ましくは0.5〜10重量%である。
【0011】
本発明に用いる金属含有触媒の平均粒子径として、好ましくは、1〜500μmである。平均粒子径は、金属含有触媒をヘキサメタリン酸ナトリウム溶液中に入れ、ホモジナイザで10分間分散した金属含有触媒にレーザー光線を照射し、その回折を測定して求めた。また、平均粒子径の測定装置は、マイクロトラック粒度分析計(MT−3000II、日機装(株)製)を用いた。
【0012】
本発明に用いる金属含有触媒の金属表面積として、好ましくは、1〜30m/gである。金属表面積は、金属含有触媒0.1gに対し、水素ガスを50ml/分で気流下、室温から150℃まで30℃/分の速度で昇温した後2時間保持し、水素ガスからヘリウムガスに切り替え、15分後に50℃まで冷却した後、50℃、ヘリウムガスの気流下で一酸化炭素を注入し、一酸化炭素の吸着量を測定し、さらに、1個の金属原子に一酸化炭素の1分子が吸着すると仮定し、以下の式に従い算出した。
<計算式>
金属表面積=K×6.02×1023×σ×10−18
金属表面積:金属含有触媒1g当たりの金属表面積[m/g]
σ:金属の断面積[nm/金属原子]
K=V/(22.4×10−3×10) [mol/g]
K:金属含有触媒1g当たり一酸化炭素の吸着量[mol]
V=(Vt/W)×(273/(273+t))×(P/101.325)
V:0℃、1気圧下の金属含有触媒1g当たりの一酸化炭素の吸着量
[ml/g]
t:測定温度[℃]
Vt:測定温度t[℃]における一酸化炭素の吸着量[ml]
W:金属含有触媒の試料量[g]
P:測定時の圧力[kPa]

また、金属表面積の測定装置は、金属分散度測定装置(BEL−METAL−3SP、日本ベル(株)製)を用いた。
【0013】
本発明に用いる芳香族化合物は、芳香環を含む化合物であって、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、フェノール、ベンジルアルコール、1−フェニルエチルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、1−フェニル−1−プロパノール、4−フェニル−2−ブタノール、アセトフェノン、1−フェニル−2−プロパノン等が挙げられる。
【0014】
本発明に用いる水素は、例えば、純水素、不活性ガスを含んでいる水素等が挙げられる。不活性ガスとしては、例えば、メタン等が挙げられる。
【0015】
本発明において製造される脂環式化合物としては、例えば、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキセン、ジメチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキセン、エチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、シクロヘキサノール、シクロヘキサンメタノール、1−シクロヘキシルエタノール、2-シクロシクロヘキシルエタノール、1−シクロヘキシル−1−プロパノール、4−シクロヘキシル−2−ブタノール、メチルシクロヘキシルケトン、1−シクロヘキシル−2−プロパノン、1−シクロヘキシル−2−プロパノール等が挙げられる。
【0016】
本発明において、反応形式としては、例えば、槽型反応器を用いる回分式、半連続式若しくは連続式のスラリー法、又は管型反応器を用いる連続式の固定床法等が挙げられる。槽型反応器としては、通常、一段又は多段の混合槽が使用される。管型反応器としては、単管又は多数の管を並列に配列した多環式熱交換型の構造を持つものを単一又は複数を直列にさせた固定床反応器が挙げられる。
【0017】
本発明において、反応温度は、通常、50〜200℃であり、好ましくは70〜150℃である。反応圧力は、通常、0.5〜10MPaGであり、好ましくは1〜7MPaGである。反応時間は通常、0.1〜24時間である。金属含有触媒の使用量は、芳香族化合物に対して、0.1重量%以上であり、好ましくは、0.5重量%以上である。
【0018】
本発明において得られる脂環式化合物は、有機溶剤、添加剤、石油化学品の中間体として有用な化合物である。
【実施例】
【0019】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【0020】
異なる製造条件で3種類の5重量%ルテニウム/アルミナ触媒(ルテニウム5重量部と、アルミナ95重量部とが含有されたもの)(以下、それぞれ、「A触媒」、「B触媒」、「C触媒」と記載する。)を製造した。A触媒0.103gを全自動昇温脱離スペクトル装置(TPD−1−ATw、日本ベル(株)製)の測定用セルに入れ、5体積%の水素ガスを含むヘリウムガスを50ml/分で気流下、10℃/分の速度で30℃から300℃に昇温した時に消費された水素の量は27.7μmolであり、A触媒の水素消費量は270μmol/gであった。同様に、B触媒0.101gを測定したところ、消費された水素の量は18.2μmolであり、B触媒の水素消費量は180μmol/gであった。さらに同様に、C触媒0.100gを測定したところ、消費された水素の量は73.2μmolであり、C触媒の水素消費量は730μmol/gであった。
【0021】
〔実施例1〕
金属製200mlオートクレーブに、2−フェニルエチルアルコール80gと、5重量%ルテニウム/アルミナ触媒であるA触媒(金属表面積:6.8m/g)3.20gを仕込み、純水素ガスを供給しながら、液温度80℃、反応器内圧力2MPa−Gの条件下、6時間反応させた。
冷却後、得られた反応液を10μm焼結金属フィルターで濾過し、得られた濾液をガスクロマトグラフィーにより分析した。その結果、2−フェニルエチルアルコールの転化率は86%、2−シクロヘキシルエタノールの収率は83%であった。
【0022】
〔実施例2〕
金属製200mlオートクレーブに、1−フェニルエチルアルコールとアセトフェノンの混合液80gと、5重量%ルテニウム/アルミナ触媒であるB触媒1.2gを仕込み、純水素ガスを供給しながら、液温度80℃、反応器内圧力2MPa−Gの条件下、5時間反応させた。
冷却後、得られた反応液を10μm焼結金属フィルターで濾過し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。その結果、1−シクロヘキシルエタノールの濃度は80重量%であった。
【0023】
〔比較例1〕
5重量%ルテニウム/アルミナ触媒であるC触媒(平均粒子径:57μm)を用いた以外は実施例1と同様に実施したところ、2−フェニルエチルアルコールの転化率は57%、2−シクロヘキシルエタノールの収率は55%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有触媒の存在下、芳香族化合物と、水素とを反応させる脂環式化合物の製造方法であって、該金属含有触媒が、全自動昇温脱離スペクトル装置を用いて求められる水素消費量が500μmol/g以下である金属含有触媒を用いる脂環式化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−285373(P2010−285373A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139900(P2009−139900)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】