説明

脂肪分解促進用皮膚外用剤

【課題】蓄積した脂肪組織、特に皮下脂肪の分解を促進して痩身作用を発揮し、且つ安全性が高い皮膚外用剤の提供。
【解決手段】ラクトバチルス属に属する乳酸菌の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物を有効成分とする脂肪分解促進用皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪組織の減量に有用な皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は消費エネルギーに対して過剰な摂取エネルギーが、白色脂肪細胞に中性脂肪として蓄積して生じるものである。内臓脂肪としての蓄積が大きい肥満は、インスリン抵抗性や動脈硬化などの病態との関係が指摘されており、また、皮下脂肪として蓄積が大きい肥満は美容の観点からも男女を問わず、大きな問題となっている。
【0003】
従来、肥満の抑制、防止及び改善のための外用剤としては、脂肪分解酵素を配合した外用ダイエット剤(特許文献1)やキサンチン誘導体を含む皮膚外用剤(特許文献2)など、数多く知られている。
【0004】
また、ノルアドレナリンやアドレナリン等の生体内ホルモンが、脂肪分解促進効果を有することは従来から知られており、カフェイン、テオフィリン等の化合物が当該ホルモンの脂肪分解活性を促進することが報告されている(特許文献3)。しかし、斯かるホルモン類を痩身目的で長期間投与することは安全性の点から好ましいことではない。
【0005】
一方、乳酸菌は、抗酸化作用(特許文献4)、vero毒減弱作用(特許文献5)他、豆乳の乳酸発酵液が代謝促進作用を有すること(特許文献6)等、多様な機能を有することが報告されている。
しかしながら、ラクトバチルス属に属する乳酸菌に脂肪分解促進作用があることはこれまでに知られていない。
【特許文献1】特開2006−241128号公報
【特許文献2】特開2005−232058号公報
【特許文献3】特開昭53−59038号公報
【特許文献4】特開平5−276912号公報
【特許文献5】特開2004−51581号公報
【特許文献6】特開2006−22050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、蓄積した脂肪組織、特に皮下脂肪の分解を促進して痩身作用を発揮し、且つ安全性が高い皮膚外用剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、脂肪の分解を促し、且つ安全性の高い天然物を探索したところ、ラクトバチルス属に属する乳酸菌が、脂肪組織に蓄積された中性脂肪の分解促進作用を有し、痩身効果を発揮する皮膚外用の医薬品、化粧品等として有用であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
1)ラクトバチルス属に属する乳酸菌の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物を有効成分とする脂肪分解促進用皮膚外用剤。
2)ラクトバチルス属に属する乳酸菌の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物を有効成分とする痩身用皮膚外用剤。
3)ラクトバチルス属に属する乳酸菌の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物を皮膚に適用する痩身方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮膚外用剤によれば、肥満の抑制又は防止、肥満体質の改善、局所あるいは全身の脂肪組織の減量が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明におけるラクトバチルス属に属する乳酸菌としては、例えばラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・デルブルッキー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)等が挙げられ、具体的には、例えば、ラクトバチルス・ヘルベティクスJCM1120、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactobacillus delbrueckii subsp.lactis)JCM1248、ラクトバチルス・ガセリJCM1131、ラクトバチルス・プランタラムNCFB1752等を用いることができる。このうち、ラクトバチルス・ヘルベティクスが好ましく、ラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)SBT0064(FERM P-21079)がより好ましい。
【0011】
上記乳酸菌のうちラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)SBT0064(FERM P-21079)は、16SrDNAの塩基配列がラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)およびラクトバチルス・ガリナーラム(Lactobacillus gallinarum)と99%の相同性を示し、スクロース、フルクトース、セロビオース、サリシン、メリビオース、ラフィノース、アミグダリンを資化しないことからラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)と同定された。
当該乳酸菌の菌体としては、菌体破壊物や乾燥菌体が挙げられる。
【0012】
本発明の乳酸菌培養物とは、上記乳酸菌を、それが生育可能な適当な培地で培養した培養・発酵液(培養上清)、その濃縮液をいう。ここで、培地としては、例えば、酵母エキスを添加した脱脂粉乳培地、MRS培地、GAM培地が挙げられる。培養方法は、静置培養又はpHを一定にした中和培養や、回分培養及び連続培養等、菌体が良好に生育する条件であれば、特に制限はない。
【0013】
本発明のラクトバチルス属に属する乳酸菌の菌体又は菌体培養物の抽出物とは、菌体又は菌体培養物を、溶媒抽出することにより得られる各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末を意味するものである。
【0014】
本発明の抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類等が挙げられ、このうち、酢酸エチル等のエステル類、エタノール等のアルコール類が好ましく、特に酢酸エチルを用いるのが好ましい。
【0015】
抽出条件は、使用する溶剤によっても異なるが、例えば酢酸エチルにより抽出する場合、培養液1質量部に対して1/10〜10質量部の溶剤を用い、0〜40℃、好ましくは 15〜30℃の温度で、1/10時間〜12時間、特に1/2時間〜5時間抽出するのが好ましい。
【0016】
上記の抽出物は、そのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、必要に応じて粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。また、液々分配等の技術により、適宜精製して用いることもできる。
【0017】
後記実施例に示すように、ラクトバチルス属に属する乳酸菌の菌体培養抽出物は、ラット鼠径部組織において、ノルエピネフリンによる脂肪分解活性を相乗的に増強する。従って、ラクトバチルス属に属する乳酸菌の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物は、体内に蓄積された中性脂肪を分解し、身体のスリム化を可能とし、肥満の抑制、防止又は改善等の痩身効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品又は化粧品として使用可能である。また、これらは、当該医薬品、医薬部外品又は化粧品を製造するために使用することができる。また、医薬部外品及び化粧品は、脂肪分解促進、痩身又はスリム化等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した医薬部外品又は化粧品として使用することができる。
【0018】
本発明の皮膚外用剤の形態は、使用方法に応じて、ローション、乳液、ゲル、クリーム、軟膏剤、粉末、顆粒、経皮吸収剤等の種々の剤型の製剤とすることができる。このような製剤は、本発明の乳酸菌の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物を単独で、又は医薬品に配合される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤や、医薬部外品、皮膚化粧料等に配合される、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬剤(例えば、抗炎症剤、殺菌剤、酸化防止剤、ビタミン類、脂肪代謝促進作用又は脱共役蛋白質発現促進作用が知られている薬物或いは天然物)、香料、樹脂、防菌防黴剤、植物抽出物、アルコール類等を適宜組み合わせることにより調製することができる。
【0019】
本発明の皮膚外用剤における乳酸菌(菌体)若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物の含有量は、一般的に0.01〜10質量%とするのが好ましく、0.1〜10質量%とするのがより好ましい。
【0020】
本発明の皮膚外用剤を医薬品として使用する場合、成人1人当たりの1日の投与量は、本発明の乳酸菌の菌数を、例えば1×106〜1×1012cfuとなるようにするのが好ましく、特に1×108〜1×1010cfuとするのが好ましい。
【0021】
本発明の痩身方法は、本発明の乳酸菌の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物を身体に適用することを特徴とするものである。ここでいう痩身方法とは、外観をスリムにし、美しく見せるための美容方法であり、例えば医師ではないエステシシャン等が行う美容行為であって、いわゆる医師等が行う医療行為は含まないものである。
【実施例】
【0022】
実施例1 乳酸菌発酵抽出物の調製
MRS寒天培地(Oxoid)で37℃、2日培養したLactobacillus helveticus SBT0064株の一白金耳を40mLのA培地(脱脂粉乳11.5%、酵母エキス0.5%)に接種し、37℃で3日静置培養した。培養液に40mLの酢酸エチルを添加して抽出した後、乾燥して抽出物の乾燥重量を測定した。また、他の7菌株に関しては、A培地またはMRS培地を用いて培養し、40mLの酢酸エチルを用いて抽出操作を行った。この時、未使用の培地からの抽出物を培地コントロールとした。表1に抽出物の一覧を示した。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例2 脂肪分解促進活性
ロッドベルの方法〔Rodbell,M.,J.Biol.Chem.,239(2)375-380(1964)〕に従って遊離脂肪細胞を調製した。ウイスター系ラット(雄、8週令)を日本SLC(株)より購入し、通常食(CE−2)にて飼育した。購入後2週間以内のラットを頚椎脱臼後、鼠径部組織からコラゲナーゼ溶液を用いて遊離細胞を調製した。被験物は、表1に示す抽出物をエタノールに溶解し、乾燥物換算で被験物濃度が10μg/mL及びノルエピネフリンが0.03μg/mLとなるように調製した牛血清アルブミンを含むハンクス緩衝液中で、上記細胞を37℃にて2時間インキュベートし、遊離したグリセロールを酵素法により定量した。対照は、被験物を含まないノルエピネフリンのみでインキュベートし、下記の式により脂肪分解促進活性を算出した。
【0025】
【数1】

【0026】
【表2】

【0027】
表2より、ラクトバチルス属に属する乳酸菌は、優れた脂肪分解促進活性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス属に属する乳酸菌の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物を有効成分とする脂肪分解促進用皮膚外用剤。
【請求項2】
ラクトバチルス属に属する乳酸菌の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物を有効成分とする痩身用皮膚外用剤。
【請求項3】
ラクトバチルス属に属する乳酸菌の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物を皮膚に適用する痩身方法。

【公開番号】特開2008−156299(P2008−156299A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348191(P2006−348191)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】