説明

脂肪族カルボン酸アミドの製造方法

【課題】脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステルとモノ又はジアルキルアミンを反応させる際に、高い反応性を有し、かつ触媒を分離する際の濾過性に優れた脂肪族カルボン酸アミドの製造方法を提供する。
【解決手段】酸化チタンを主成分として、長周期型周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の中から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有し、平均粒子径が2μm以上である固体酸触媒の存在下で、脂肪族カルボン酸又は炭素数1〜4のアルキル基を有する、該脂肪族カルボン酸のアルキルエステルと、炭素数1〜4のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミンとを反応させる工程を有する脂肪族カルボン酸アミドの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法に関し、更に詳しくは、脂肪族カルボン酸又はその誘導体とアルキルアミンとを反応させて脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族カルボン酸又はそのアルキルエステルから脂肪族カルボン酸アミドを製造する場合、通常種々の触媒を使用して行う。
例えば、特許文献1には、アミド化反応を常圧で行い、触媒として、第IVb族又は第Vb族の金属の化合物、好ましくはチタン、ジルコニウム又はタンタルの錯体を使用することが開示され、特許文献2には、第IVa族、第IVb族又は第Va族の元素の水和酸化物、好ましくはチタン、ジルコニウム及びスズの水和酸化物を使用することを開示されている。更に、特許文献3には、有機カルボン酸とアンモニア又はモノあるいはジアルキルアミンとを粒子状二酸化チタン存在下に反応させる方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭47−168号公報
【特許文献2】特開昭60−36450号公報
【特許文献3】特開2001−270855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載の方法はいずれも使用する触媒の活性が未だ不十分であり、その結果反応性が十分ではなかった。また、上記特許文献に記載の触媒を用いた場合、反応後に使用済みの触媒等を分離するために濾過工程を行う際に、その濾過性が十分でないため高圧条件や長時間を要し効率的ではなかった。
本発明は、脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステルとモノ又はジアルキルアミンを反応させる際に、高い反応性を有し、かつ触媒を分離する際の濾過性に優れた脂肪族カルボン酸アミドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、酸化チタンを主成分として、長周期型周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の中から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有し、平均粒子径が2μm以上である固体酸触媒の存在下で、脂肪族カルボン酸又は炭素数1〜4のアルキル基を有する、該脂肪族カルボン酸のアルキルエステルと、炭素数1〜4のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミンとを反応させる工程を有する脂肪族カルボン酸アミドの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステルとモノ又はジアルキルアミンを反応させる際に、高い反応性が得られ、かつ触媒を分離する際の濾過性を大幅に改善でき、高い生産性で経済的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の脂肪族カルボン酸アミドの製造方法は、酸化チタンを主成分として、長周期型周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の中から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有し、平均粒子径が2μm以上である固体酸触媒の存在下で、脂肪族カルボン酸又は炭素数1〜4のアルキル基を有する、該脂肪族カルボン酸のアルキルエステルと、炭素数1〜4のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミンとを反応させる工程を有するものである。
【0008】
(固体酸触媒)
本発明に使用する固体酸触媒は、酸化チタンを主成分として、長周期型周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の中から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有する。
本発明において、上記固体酸触媒は酸化チタンを主成分とするが、触媒活性の観点から、触媒中の酸化チタンの含有量はチタン金属として、好ましくは30質量%以上、より好ましくは42質量%以上、更に好ましくは48質量%以上含有する。触媒中の酸化チタンの含有量の上限値は、チタン金属として60質量%を除き特に制限はないが、好ましくは59.5質量%、より好ましくは59質量%である。
【0009】
本発明においては、固体酸触媒中に、上記酸化チタンとともに、長周期型周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の酸化物が含有され、これらの酸化物は単独でも二種以上組み合わせて使用することもできる。上記周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素としては、触媒活性及び触媒の濾過性の観点から、ジルコニウム、ニオブ、珪素及びゲルマニウムの中から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0010】
固体酸触媒中における、酸化チタンに対する周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の中から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物の割合は、触媒活性及び触媒の濾過の観点から、チタンに対する前記周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の中から選ばれる少なくとも1種の元素の割合(周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の中から選ばれる少なくとも1種の元素/チタン)(質量比)で0.005〜0.8であることが好ましい。上記割合は、より好ましくは0.01〜0.7であり、更に好ましくは0.02〜0.6である。
【0011】
本発明においては、上記固体酸触媒は、触媒活性及び触媒の濾過性の観点から、その平均粒子径は2μm以上である。ここでいう平均粒子径とは、体積基準のメジアン径を意味する。濾過性や取り扱い容易性(粉飛散抑制)の観点から、その粒子径は3μm以上であることが好ましく、より好ましくは5μm以上である。上記平均粒子径の上限値は特に制限はないが、反応溶液中の触媒分散性の観点から通常は20μm程度である。
また、上記固体酸触媒は、濾過性の観点から、1μm以下の粒子径を有する触媒粒子を体積基準で、全体粒子の30%以下含有することが好ましく、より好ましくは20%以下であり、更に好ましくは15%以下である。
【0012】
本発明において、上記固体酸触媒の粒子径及び粒度分布の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置による粒度分布測定により行うことができ、具体的には後述の通りである。
本発明においては、上記固体酸触媒の比表面積については特に制限はないが、触媒活性の観点から、50m2/g以上であることが好ましく、より好ましくは100m2/g以上であり、更に好ましくは150m2/g以上である。上記比表面積は通常のBET法により測定することができる。
【0013】
本発明においては、固体酸触媒は、酸化チタンを主成分として、長周期型周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の中から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有するものであれば、各酸化物の含有形態等には特に制限はなく、上記酸化チタンと周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の酸化物からなる複合酸化物であってもよいし、チタンを、周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の酸化物を含む担体上に酸化物として担持させてもよい。担持方法については特に制限はなく、従来公知の方法、例えば含浸法、沈殿法、イオン交換法、共沈法、混練法などを適宣選択することができる。
【0014】
上記固体酸触媒の調製方法については特に制限はないが、例えば、以下の(イ)又は(ロ)のようにして行うことができる。
(イ)前記チタン及び周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の各々の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物、アルコキシド、アンミン錯体など、好ましくは硝酸塩、硫酸塩、塩化物又はアルコキシドを含有する水溶液を調製し、これらを同時に加水分解させて沈殿物を得た後、この沈殿物を濾過、遠心分離などの方法で固液分離して得られた固形分をイオン交換水で洗浄後、乾燥させる。その後、必要に応じ、出発金属塩の残留対イオンの除去又は触媒活性の安定化の観点から、好ましくは100〜600℃、より好ましくは100〜400℃の温度で焼成処理する。
(ロ)周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の酸化物を懸濁させた溶液中でチタンの上記塩を加水分解させて沈殿物を得た後、この沈殿物を濾過、遠心分離などの方法で固液分離して得られた固形分をイオン交換水で洗浄後、乾燥させる。その後、必要に応じ、出発金属塩の残留対イオンの除去又は触媒活性の安定化の観点から、好ましくは100〜600℃、より好ましくは100〜400℃の温度で焼成処理する。
【0015】
(脂肪族カルボン酸アミドの製造)
本発明に使用する脂肪族カルボン酸としては、得られる脂肪族カルボン酸アミドの有用性の観点から、好ましくは直鎖又は分岐鎖の炭素数6〜24、より好ましくは炭素数6〜22の炭化水素鎖を有する脂肪族カルボン酸が挙げられ、更に好ましくは上記炭素数の直鎖又は分岐鎖のアルキル鎖又はアルケニル鎖を有する脂肪族カルボン酸が挙げられる。これらの脂肪族カルボン酸は、飽和又は不飽和のいずれであってもよく、各々単独で若しくは2種以上混合して使用することができる。上記脂肪族カルボン酸のアルキルアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜4)において、炭素数1〜4のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、特にメチル基が好ましい。
【0016】
前記脂肪族カルボン酸の具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、ジメチルオクタン酸、ブチルヘペチルノナン酸、ヘキセン酸、オクテン酸、デセン酸、ドデセン酸、テトラデセン酸、ヘキサデセン酸、オクタデセン酸、エイコセン酸、ドコセン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リノール酸、リノレン酸等の脂肪族モノカルボン酸又はデカメチレンジカルボン酸、ヘキサデカメチレンジカルボン酸、オクタデカメチレンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられ、本発明においては、反応選択性の観点から、脂肪族モノカルボン酸が好ましい。
【0017】
本発明に使用する炭素数1〜4のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミンは、炭素数1〜4のアルキル基を一つ又は二つ持ったものであり、モノアルキルアミンの具体例としては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン等が挙げられ、ジアルキルアミンの具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、ジプロピルアミン等が挙げられる。これらの中でも、脂肪族カルボン酸アミドの有用性の観点から、特にモノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミンが好ましく、モノメチルアミン又はジメチルアミンがより好ましい。
【0018】
本発明の脂肪族カルボン酸アミドの製造方法は、懸濁床による回分、半回分、連続式でも、また固定床流通式でも実施できる。回分、半回分を用いた製造方法では、脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステルを溶解させ、所定量の触媒を仕込み、反応槽を充分に窒素置換した後、反応させる温度まで昇温させた後にモノ又はジアルキルアミンガスを流入させる方法で製造できる。連続式、固定床流通式を用いた製造方法では、触媒を充填し、反応させる温度まで昇温させた後に溶解した脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステルとモノ又はジアルキルアミンガスを流入させる方法で製造できる。
【0019】
上記脂肪族カルボン酸又はそのアルキルエステルとモノ又はジアルキルアミンとの反応時の圧力については、加圧された状態でも常圧でも行うことができる。反応温度は、通常110〜300℃、反応性、選択性の観点からは、好ましくは150〜280℃、より好ましくは170〜270℃である。
本発明に使用する炭素数1〜4のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミンの使用量は脂肪族カルボン酸又はそのアルキルエステル1モルに対して、通常0.01〜15倍モル/時、好ましくは0.1〜5倍モル/時、より好ましくは0.3〜3倍モル/時である。
触媒の使用量は任意でよいが、反応性、選択性及び製造コストの観点からは、脂肪族カルボン酸又はそのアルキルエステルに対して、通常0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.1〜10質量%の範囲である。
【0020】
本発明の触媒は、濾過性に優れる性質を示すことから、上記反応工程で得られた脂肪族カルボン酸アミドを含む反応液から、触媒やその他の不純物を分離除去するために、濾過器を用いて濾過を行うことが好ましい。濾過の温度、圧力についてはいずれも特に制限はないが、例えば、濾過温度については、反応生成物の粘度を低下させて濾過性を向上させる観点から、少なくとも反応生成物の融点以上の温度、具体的には室温以上の温度で行うことが好ましい。圧力については、加圧、減圧のいずれでも行うことができるが、0.01MPaG(G:ゲージ圧)以上の加圧された状態で行うことが好ましい。
本発明においては、前記高い活性を有する触媒を用いて反応を行うことにより反応性を向上させることができ、かつ、上記濾過を低い圧力で短時間で効率的に行うことができる。
【実施例】
【0021】
(触媒の物性測定)
以下の実施例において、得られた触媒等の組成、比表面積、粒子径及び粒度分布の測定は以下の方法で行う。
触媒の組成
構成元素の中で、チタン、ジルコニウム及び珪素の含有量については蛍光X線による測定で、それ以外の金属元素の含有量についてはIPC発光分析法による測定で定量する。具体的には、チタン、ジルコニウム及び珪素については、試料0.1gに四ホウ酸リチウム5g及び剥離剤(炭酸リチウム:臭化リチウム:硝酸リチウム=5:1:5)を加えて、1050℃でアルカリ溶融し、ガラスビードを作成する。これを波長分散型蛍光X線装置(理学電機製ZSX100e)を使用して評価する。得られたX線強度を高純度の各元素試料を目的濃度に合わせて混合したものから得た検量線に照合して各金属の含有量を求める。また、チタン、ジルコニウム及び珪素以外の金属元素については、試料0.1gに硫酸2mLを加えて加熱し、更に過酸化水素及び硝酸を適宜に加え、加熱の繰り返しを液が透明になるまで行う。冷却後、メスフラスコに入れ替え、純水で50mLにメスアップし、ICP発光分析装置で測定して求める。
【0022】
触媒の比表面積
BET比表面積測定装置(島津製作所製フローソープ2300装置)を用い、100℃で十分に加熱脱気した試料について、窒素ガスを吸着させる一点法により求める。
触媒の粒子径及び粒度分布
レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−500)を用いて、粒子径は体積基準で、平均粒子径(メジアン径)および粒度分布を求める。
【0023】
(酸価の測定)
以下の実施例においては、反応で得られた生成物中の未反応脂肪族カルボン酸量を評価するため、反応生成物を窒素バブリングして溶存しているアミンガスを放出させた後、酸価の測定を行う。
酸価とは、試料1g中に含まれる遊離脂肪族カルボン酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数をいい、その測定方法は公定書「JIS K 0070,AOCS Te 2a−64」に記載の試験法に準拠して行う。即ち、試料(例えば、予想される酸価が1未満の場合は20g、酸価が1〜5の場合は20〜5gなど)を、三角フラスコに正しくはかりとり、そこに1%フェノ−ルフタレイン指示薬溶液を加えて使用直前に微紅色に中和したトルエン(1級)−エタノ−ル(1級)混合溶剤(2+1)を約30 mL加えて溶解させる(試料が溶解しにくい場合は、湯浴で加温溶解して冷却させる)。0.1mol/Lアルコ−ル性水酸化カリウム標準溶液で滴定し、微紅色が30秒間続いたところを終点とする。滴定に要したアルコ−ル性水酸化カリウム標準溶液の使用量A(mL)、アルコ−ル性水酸化カリウム標準溶液のファクタ−f、係数K(5.611(0.1 mol/L アルコ−ル性水酸化カリウム標準溶液使用時)及び試料採取量(g)を用いて下式より酸価を算出する。
酸価 = (A×f×K)/試料採取量
【0024】
調製例1(触媒Aの調製)
セパラブルフラスコにイソプロパノール250gを仕込んだ後、テトライソプロポキシチタン44gとテトラプロポキシジルコニウムのイソプロパノール溶液(有効分75%)2.3gを加え、攪拌しながら80℃まで昇温した。その溶液にイオン交換水15gを滴下した後、3時間熟成した。得られた懸濁溶液を冷却して濾過・水洗を行い、110℃で一昼夜乾燥した後、空気流通下300℃で3時間焼成した。焼成品は網目幅150μmのふるいを通過するまで粉砕した。蛍光X線及びICP発光分析による元素分析、BET法による比表面積測定、及び粒度分布測定を行い、表1に示す組成、比表面積、平均粒子径(メジアン径)及び粒度分布を持つ触媒Aを得た。
【0025】
調製例2(触媒Bの調製)
調製例1において、テトライソプロポキシチタンを35g、テトラプロポキシジルコニウムのイソプロパノール溶液を11.6g使用した以外は調製例1と同様の操作を行い、表1に示す組成、比表面積、平均粒子径(メジアン径)及び粒度分布を持つ触媒Bを得た。
【0026】
調製例3(触媒Cの調製)
調製例1において、テトライソプロポキシチタンを41.8g、テトラプロポキシジルコニウムのイソプロパノール溶液2.3gの代わりにペンタブトキシニオビウム2.1gを使用した以外は調製例1と同様の操作を行い、表1に示す組成、比表面積、平均粒子径(メジアン径)及び粒度分布を持つ触媒Cを得た。
【0027】
調製例4(触媒Dの調製)
調製例1において、テトラプロポキシジルコニウムのイソプロパノール溶液2.3gの代わりにテトライソプロポキシゲルマニウム1.9gを使用した以外は調製例1と同様の操作を行い、表1に示す組成、比表面積、平均粒子径(メジアン径)及び粒度分布を持つ触媒Dを得た。
【0028】
調製例5(触媒Eの調製)
セパラブルフラスコにオキシ硫酸チタン34g、シリカゾル水溶液270g(シリカとして3g)を加えて、撹拌しながら90℃まで加熱した。オキシ硫酸チタンが溶解したことを確認した後、その溶液(90℃)にアンモニア水を滴下して中和し、2時間撹拌した。得られた沈殿生成物は濾過、イオン交換水1Lで4回水洗してから130℃で一晩乾燥した。乾燥品は網目幅150μmのふるいを通過するまで粉砕した。蛍光X線及びICP発光分析による元素分析、BET法による比表面積測定、及び粒度分布測定を行い、表1に示す組成、比表面積、平均粒子径(メジアン径)及び粒度分布を持つ触媒Eを得た。
【0029】
調製例6(触媒Fの調製)
調製例1において、テトラプロポキシジルコニウムのイソプロパノール溶液2.3gの代わりに珪酸テトラエチル2.2gを使用した以外は調製例1と同様の操作を行い、表1に示す組成、比表面積、平均粒子径(メジアン径)及び粒度分布を持つ触媒Fを得た。
【0030】
比較調製例1(触媒Gの調製)
セパラブルフラスコにイソプロパノール250gを仕込んだ後、テトライソプロポキシチタン46gを加え、攪拌しながら80℃まで昇温した。その溶液にイオン交換水15gを滴下した後、3時間熟成した。得られた懸濁溶液を冷却して濾過・水洗を行い、110℃で一昼夜乾燥した後、空気流通下300℃で3時間焼成した。焼成品は網目幅150μmのふるいを通過するまで粉砕した。蛍光X線及びICP発光分析による元素分析、BET法による比表面積測定、及び粒度分布測定を行い、表1に示す組成、比表面積、平均粒子径(メジアン径)及び粒度分布を持つ触媒Gを得た。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例1
回転式オートクレーブに、ステアリン酸400g、調製例1で調製した触媒Aを原料脂肪酸に対して0.5質量%仕込み、窒素を流通しながら260℃まで昇温した。反応温度が260℃に到達した時点で窒素からジメチルアミンに切り替え、1時間当たり35〜38Lの流通量(原料脂肪酸に対して1.1〜1.2倍モル/時)でジメチルアミンを反応系内に導入し、反応生成物の酸価が0.2以下になるまで反応を行った。反応生成物の酸価が0.2以下に達するまでに要した時間は3.0時間であった。一方、筒型濾過器(直径2.8cm×高さ100cm)のろ板上にろ紙(No.5C、アドバンテック製)を取り付け、70℃に保温した。そこに得られた反応終了品を全量仕込んだ後、0.3MPaG(G:ゲージ圧)の圧力をかけて触媒分離のための定圧濾過を行った。加圧した時点を開始時間として、ろ液(N,N−ジメチルステアロイルアミド)を400g得るのに13分かかった。
【0033】
比較例1
実施例1において、触媒Aに代えて比較調製例1の触媒Gを使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。反応生成物の酸価が0.2以下に達するまでに要した時間は3.4時間であった。また、実施例1と同様の濾過操作で触媒分離を行ったところ、ろ液(N,N−ジメチルステアロイルアミド)を400g得るのに40分かかった。
【0034】
実施例2〜5及び比較例2、3
実施例1において、ステアリン酸400gに代えてラウリン酸400gを使用し、触媒Aに代えて調製例2〜5及び比較調製例1の各々で調製した触媒B〜F、及び市販の二酸化チタン[石原産業製MC−150(比表面積:283m2/g、平均粒子径:1.0μm、粒子径1μmの粒子の比率:50.7%)、触媒H]を用いて、1時間当たりのジメチルアミン流通量を49〜54L(原料脂肪酸に対して1.1〜1.2倍モル/時)で反応系内に導入した以外は実施例1と同様の操作で反応を行った。また、得られた反応終了品は実施例1と同様の濾過操作で反応生成物から触媒の分離を行った。表2に、反応生成物の酸価が0.2以下に到達するまでの所要時間とろ液(N,N−ジメチルラウロイルアミド)を400g得るのに要した時間を示す。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例6
実施例2において、触媒Bに代えて調製例6の触媒Fを使用し、この触媒を1.0質量%(対原料脂肪酸)を仕込んだ以外は実施例2と同様の操作で反応を行った。反応生成物の酸価は、反応3時間時点で0.06であった。また、得られた反応終了品は実施例2と同様の濾過操作で触媒分離を行ったところ、ろ液(N,N−ジメチルラウロイルアミド)を400g得るのに21分かかった。
【0037】
比較例4
実施例6において、触媒Fに代えて比較調製例1の触媒Gを使用した以外は実施例6と同様の操作で反応を行った。反応生成物の酸価は、反応3時間時点で0.07であった。また、得られた反応終了品は実施例6と同様の濾過操作で触媒分離を行ったところ、ろ液(N,N−ジメチルラウロイルアミド)を400g得るのに146分かかった。
【0038】
実施例7
実施例1において、ステアリン酸400gに代えてラウリン酸400gを使用し、1時間当たりのジメチルアミン流通量を94〜98L(原料脂肪酸に対して2.1〜2.2倍モル/時)で反応系内に導入した以外は実施例1と同様の操作で反応を行った。反応生成物の酸価が0.2以下に達するまでに要した時間は3.8時間であった。また、得られた反応終了品は実施例1と同様の濾過操作で反応生成物から触媒の分離を行った。ろ液(N,N−ジメチルラウロイルアミド)を400g得るのに10分かかった。
【0039】
実施例8
実施例2において、ジメチルアミンに代えてモノメチルアミンを使用した以外は実施例2と同様の操作で反応を行った。反応生成物の酸価が0.2以下に達するまでに要した時間は4.0時間であった。また、得られた反応終了品は実施例2と同様の濾過操作で反応生成物から触媒の分離を行った。ろ液(N−メチルラウロイルアミド)を400g得るのに25分かかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の製造方法は、高い反応性を与え、触媒分離の際の濾過性に優れていることから、得られた脂肪族カルボン酸アミドは家庭用や工業用分野における重要な中間体である脂肪族3級アミンの原料等に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンを主成分として、長周期型周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の中から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有し、平均粒子径が2μm以上である固体酸触媒の存在下で、脂肪族カルボン酸又は炭素数1〜4のアルキル基を有する、該脂肪族カルボン酸のアルキルエステルと、炭素数1〜4のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミンとを反応させる工程を有する脂肪族カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項2】
前記周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の中から選ばれる少なくとも1種の元素が、ジルコニウム、ニオブ、珪素及びゲルマニウムの中から選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の脂肪族カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項3】
チタンに対する前記周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の中から選ばれる少なくとも1種の元素の割合が質量比で0.005〜0.8である、請求項1又は2に記載の脂肪族カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項4】
固体酸触媒が、1μm以下の粒子径を有する粒子を体積基準で全体粒子の30%以下含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪族カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項5】
脂肪族カルボン酸が、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数6〜24の脂肪族カルボン酸である、請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪族カルボン酸アミドの製造方法。
【請求項6】
脂肪族カルボン酸又は炭素数1〜4のアルキル基を有する、該脂肪族カルボン酸のアルキルエステルと、炭素数1〜4のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミンとを反応させる際に用いる触媒であって、酸化チタンを主成分として、長周期型周期表第4族、第5族及び第14族に属する元素(チタンを除く)の中から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有し、平均粒子径が2μm以上である固体酸触媒。

【公開番号】特開2009−120496(P2009−120496A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293466(P2007−293466)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】