説明

脂肪由来前駆細胞の細胞分化

本発明は、脂肪由来前駆細胞の制御された簡便な分化の方法を提供する。本方法は、分化細胞を調製するための方法であって、A)a)脂肪由来前駆細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞と、を混合して混合物を得る工程;およびB)該脂肪由来前駆細胞の分化が生じるに十分な条件で該混合物を培養する工程、を包含する、方法が提供される。本発明はまた、細胞移植のための組成物であって、a)脂肪由来前駆細胞;およびb)所望の部位に対応する分化細胞、を含有する、組成物を提供する。この方法は、特に、美容状態を改善するために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分化の分野に関する。より詳細には、本発明は、脂肪由来前駆細胞の分化およびそれを利用した移植療法および美容療法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞の利用を中心とした、再生医療は、ここ数年で、かなりの発展を遂げてきた。従来であれば、存在しないと考えられていた、種々の組織幹細胞が種々の組織から発見され、同定されてきた。このように、再生医療による疾患治療が注目を浴びている。
【0003】
しかし、再生医療は、臓器ないし組織機能不全を呈する多くの患者に対して日常的に適応するまでには至っていない。今日まで、臓器移植のほか、医療機器での補助システムの利用がごく限られたこのような患者に適応されているにすぎない。これらの治療法には、ドナー不足、拒絶、感染、耐用年数などの問題がある。特に、ドナー不足は深刻な問題であり、骨髄移植の場合、国内外で骨髄および臍帯血バンクが次第に使用されるようになってきたといっても、限られたサンプルを多くの患者に提供することは未だ困難である。従って、これらの問題を克服するために幹細胞治療とそれを用いた再生医学に対する需要がますます高まっている。臓器(例えば、心臓、血管など)の移植に外来性組織を使用する際の主な障害は免疫拒絶反応である。同種異系移植片(または同種移植片、allograft)と異種移植片(xenograft)で起こる変化がよく知られている。
【0004】
受精卵は、原腸陥入の後、内胚葉、中胚葉および外胚葉の3つの胚葉に分かれ、外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞などが含まれる。
【0005】
脂肪細胞、骨、靭帯、心筋などを含む間葉系細胞は、身体の骨格を形成するに重要な働きを有していることから、その細胞の集団、組織など、再生医療および移植医療への応用の期待が高まっている。特に、骨髄間葉系幹細胞は、中胚葉系の臓器に分化することが報告されるようになっており、再生医療の分野において中心として注目を浴びている。しかし、そのような細胞の分化は、分化誘導剤(例えば、デキサメサゾンなど)を含む特殊な培地を必要とする特殊な条件を必要とする(非特許文献1)。
【0006】
間葉系幹細胞は、組織幹細胞の一種であり、天然にはごく少量(ヒト新生児の骨髄全細胞の1万分の1存在し、その後急速に減少する。高齢者では骨髄全細胞の200万分の1といわれる)存在するだけであり、分離することが困難である。間葉系幹細胞は、中胚葉以外の胚葉にも分化することが報告されていることから、その応用範囲は広がっている。しかし、そのような分化の条件は、上述のもの以上に特殊である。間葉系幹細胞の公知の表面抗原は、CD105(+)、CD73(+)、CD29(+)、CD44(+)、CD14(−)、CD34(−)およびCD45(−)である。
【0007】
一方、脂肪にも幹細胞があることが分かってきた(特許文献1〜3、非特許文献2〜3)。脂肪は、他の組織(例えば、骨髄など)に比べて、幹細胞の供給量が豊富であり、存在率も多いようであることから、その利用が注目されている。しかし、幹細胞の処置方法については、未知な部分が多い。
【0008】
骨髄由来の幹細胞などでは、インビトロで目的の細胞へと分化誘導する種々の方法が知られている(特許文献4〜8)。インビトロでの分化誘導についてはまた、骨髄由来間葉系幹細胞と同様な方法が行われ、分化可能であることが示されている。しかし、脂肪由来前駆細胞では、そのような報告はない。また、インビボで分化誘導についての報告は全く知られていない。組織幹細胞は、その由来によって、運命付けられた方向がある程度決定されており、同じ条件で処理する場合でも、組織幹細胞が違えば、その分化の程度は異なると考えられている。脂肪細胞に関し、医療において利用することが試みられている(特許文献9〜11)が、脂肪由来前駆細胞についての臨床試験の報告はない。
【0009】
また、脂肪そのものを取り出して、移植する美容医療が行われているが、この方法では、所望の形状になりにくいこと、および定着率が低いことなどから、所望の美容手術の結果が得られているとは言いがたい情況にある。従って、所望の美容効果が得られる手術法およびそれに使用する材料または医薬の需要がある。
【特許文献1】国際公開第00/53795号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/022988号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/62901号パンフレット
【特許文献4】国際公開第96/39035号パンフレット
【特許文献5】国際公開第97/41208号パンフレット
【特許文献6】国際公開第99/64565号パンフレット
【特許文献7】国際公開第97/40137号パンフレット
【特許文献8】国際公開第00/06701号パンフレット
【特許文献9】特開2001−103963号公報
【特許文献10】特開2001−103965号公報
【特許文献11】国際公開第99/28444号パンフレット
【非特許文献1】幹細胞・クローン 研究プロトコール 中辻編、羊土社(2001)
【非特許文献2】Zuk,P.A.,et al.、Tissue Engineering,Vol.7,211−228、2001
【非特許文献3】Zuk,P.A.,et al.、Molecular Biology of the Cell Vol.,13,4279−4295、2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、当該分野において、脂肪由来前駆細胞の制御された簡便な分化の方法への需要が高まっている。本発明は、このような需要に応えることを課題とする。さらに、本発明は、所望の美容効果が得られる手術法およびそれに使用する材料または医薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、本発明者らが上記課題を鋭意検討した結果、意外にも所望の部位に対応する細胞(例えば、脂肪であれば、脂肪細胞、骨であれば骨細胞など)と、脂肪由来前駆細胞またはその粗製物とを混合して移植することによって、前駆細胞が所望の細胞へと分化することを見出したことによって一部完成された。
【0012】
したがって、本発明は、以下を提供する。
(項目1)
分化細胞を調製するための方法であって、以下の工程:
A)a)脂肪由来前駆細胞と、
b)所望の部位に対応する分化細胞と、
を混合して混合物を得る工程;および
B)該脂肪由来前駆細胞の分化が生じるに十分な条件で該混合物を培養する工程、を包含する、方法。
(項目2)
前記分化細胞は、間葉系細胞である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記分化細胞は、脂肪細胞、骨髄細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、肝細胞および膵細胞からなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記脂肪由来前駆細胞が、CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD69、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151およびSH3からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する細胞である、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記脂肪由来前駆細胞が、CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD69、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151およびSH3を発現する細胞である、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記脂肪由来前駆細胞が、CD31、CD45、CD117およびCD146からなる群から選択されるタンパク質の少なくとも1つをさらに発現する細胞である、項目4に記載の方法。
(項目7)
前記脂肪由来前駆細胞が、CD56を発現しない細胞である、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記脂肪由来前駆細胞が、CD49dを発現し、CD56を発現しない細胞である、項目1に記載の方法。
(項目9)
分化細胞への分化を促進する因子を提供する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記混合物は、副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲン、エストロゲンの誘導体、プロゲステロン、プロゲステロンの誘導体、アンドロゲン、アンドロゲンの誘導体、増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸塩、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、脱メチル化剤、ヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、サイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレンおよびセレンからなる群より選択される成分のうち少なくとも1つを含む培養液中で培養される、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記脂肪由来前駆細胞と、前記所望の部位に対応する分化細胞との比率は、該所望の部位の健常組織に存在する分化細胞よりも該脂肪由来前駆細胞の比率が高い、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記脂肪由来前駆細胞は、該所望の部位の健常組織に存在する該脂肪由来前駆細胞の比率より多い比率で前記混合物中に存在する、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記脂肪由来前駆細胞は、該所望の部位の健常組織に存在する該脂肪由来前駆細胞の比率の約2〜約10倍高い比率で前記混合物中に存在する、項目1に記載の方法。
(項目14)
脂肪由来前駆細胞と、所望の部位に対応する分化細胞とを含む、細胞混合物。
(項目15)
前記脂肪由来前駆細胞と、前記所望の部位に対応する分化細胞との比率は、該所望の部位の健常組織に存在する分化細胞よりも該脂肪由来前駆細胞の比率が高い、項目14に記載の細胞混合物。
(項目16)
前記脂肪由来前駆細胞と、前記所望の部位に対応する分化細胞との比率は、該所望の部位の健常組織に存在する分化細胞よりも該脂肪由来前駆細胞が約2〜約10倍高い比率である、項目14に記載の細胞混合物。
(項目17)
前記脂肪由来前駆細胞と、前記所望の部位に対応する分化細胞との比率は、該所望の部位の健常組織に存在する分化細胞よりも該脂肪由来前駆細胞が約2〜約5倍高い比率である、項目14に記載の細胞混合物。
(項目18)
前記細胞混合物は、前記脂肪幹細胞の分化が生じるに十分な条件に暴露されたものである、項目14に記載の細胞混合物。
(項目19)
前記所望の部位に対応する分化細胞は脂肪細胞であり、前記脂肪由来前駆細胞は、脂肪組織に存在する該脂肪由来前駆細胞よりも高い存在比で前記混合物中に存在する、項目14に記載の細胞混合物。
(項目20)
前記脂肪由来前駆細胞は、該所望の部位の健常組織に存在する該脂肪由来前駆細胞の比率より多い比率で前記混合物中に存在する、項目19に記載の細胞混合物。
(項目21)
前記脂肪由来前駆細胞は、該所望の部位の健常組織に存在する該脂肪由来前駆細胞の比率の約2〜約10倍高い比率で前記混合物中に存在する、項目19に記載の細胞混合物。
(項目22)
前記脂肪由来前駆細胞は、吸引脂肪に由来する、項目19に記載の細胞混合物。
(項目23)
前記脂肪由来前駆細胞は、脂肪吸引による吸引物の液体部分に由来する、項目19に記載の細胞混合物。
(項目24)
細胞移植のための組成物であって、
a)脂肪由来前駆細胞;および
b)所望の部位に対応する分化細胞、
を含有する、組成物。
(項目25)
前記組成物は、前記所望の部位に移植される、項目24に記載の組成物。
(項目26)
前記分化細胞は、間葉系細胞である、項目24に記載の組成物。
(項目27)
前記分化細胞は、脂肪細胞、骨髄細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、肝細胞および膵細胞からなる群より選択される、項目24に記載の組成物。
(項目28)
前記分化細胞は、吸引脂肪から得られた細胞である、項目24に記載の組成物。
(項目29)
前記分化細胞は、脂肪吸引による吸引物の液体部分から得られた細胞である、項目24に記載の組成物。
(項目30)
副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲン、エストロゲンの誘導体、プロゲステロン、プロゲステロンの誘導体、アンドロゲン、アンドロゲンの誘導体、増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸塩、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、脱メチル化剤、ヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、サイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレンおよびセレンからなる群より選択される成分のうち少なくとも1つをさらに含む、項目24に記載の組成物。
(項目31)
前記脂肪由来前駆細胞と、前記分化細胞とは、同種異系である、項目24に記載の組成物。
(項目32)
前記脂肪由来前駆細胞と、前記分化細胞とは、同系である、項目24記載の組成物。
(項目33)
分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するための方法であって、
A)a)脂肪由来前駆細胞;およびb)所望の部位に対応する分化細胞、を含有する、組成物を提供する工程、ならびに
B)被検体に、該組成物を投与する工程、
を包含する、方法。
(項目34)
分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するため医薬であって、
a)脂肪由来前駆細胞;
b)所望の部位に対応する分化細胞;および
c)薬学的に受容可能なキャリア、
を含む、医薬。
(項目35)
a)脂肪由来前駆細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞との混合物の、分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するための医薬の調製のための使用。
(項目36)
美容状態を処置または改善するための方法であって、以下の工程:
A)a)脂肪由来前駆細胞;およびb)所望の部位に対応する分化細胞、を含有する、組成物を提供する工程、ならびに
B)被検体に、該組成物を投与する工程、
を包含する、方法。
(項目37)
前記所望の部位に対応する分化細胞は、脂肪細胞である、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記所望の部位に対応する分化細胞は、腹部脂肪に由来する、項目36に記載の方法。
(項目39)
前記美容状態は、胸部である、項目36に記載の方法。
(項目40)
前記所望の部位に対応する分化細胞を、前記被検体の脂肪から得る工程をさらに包含する、項目36に記載の方法。
(項目41)
前記脂肪を得る工程は、脂肪を吸引することによって実施される、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記脂肪由来前駆細胞を、前記被検体の腹部から得る工程をさらに包含する、項目36に記載の方法。
(項目43)
前記脂肪由来前駆細胞を、前記被検体の吸引脂肪から得る工程をさらに包含する、項目36に記載の方法。
(項目44)
前記脂肪吸引による吸引物の液体部分から、前記脂肪由来前駆細胞を得る工程をさらに包含する、項目43に記載の方法。
(項目45)
美容状態を処置または改善するため医薬であって、
a)脂肪由来前駆細胞;
b)所望の部位に対応する分化細胞;および
c)薬学的に受容可能なキャリア、
を含む、医薬。
(項目46)
前記美容状態は、胸部の美容状態である、項目45に記載の医薬。
(項目47)
前記所望の部位に対応する分化細胞は、脂肪細胞である、項目45に記載の医薬。
(項目48)
前記所望の部位に対応する分化細胞は、腹部の脂肪細胞である、項目45に記載の医薬。
(項目49)
前記脂肪由来前駆細胞は、腹部の脂肪に由来する、項目45に記載の医薬。
(項目50)
前記脂肪由来前駆細胞は、該所望の部位の健常組織に存在する該脂肪由来前駆細胞の比率より高い比率で前記医薬中に存在する、項目45に記載の医薬。
(項目51)
前記薬学的に受容可能なキャリアは、細胞培養液または緩衝液を含む、項目45に記載の医薬。
(項目52)
a)脂肪由来前駆細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞との混合物の、美容状態を処置または改善するための医薬の調製のための使用。
(項目53)
前記脂肪由来前駆細胞と、前記所望の部位に対応する分化細胞との比率は、該所望の部位の健常組織に存在する分化細胞よりも該脂肪由来前駆細胞の比率が高いことを特徴とする、項目52に記載の使用。
(項目54)
前記脂肪由来前駆細胞は、該所望の部位の健常組織に存在する該脂肪由来前駆細胞の比率の約2〜約10倍高い比率で前記混合物中に存在する、項目52に記載の使用。
【0013】
従って、本発明のこれらおよび他の利点は、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明を読めば、明白である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、脂肪組織から取得した幹細胞を用いて再生治療および美容処置ができる。本発明は、さらに、脂肪由来前駆細胞と分化細胞とを混合することにより、脂肪由来前駆細胞がその所望の分化細胞への分化を誘導することができる。さらに、本発明はまた、脂肪由来前駆細胞が血管新生を誘導することにより、移植分化細胞および再生分化細胞の移植床への生着を容易にする。これらの処置は、ほとんど副作用が予測されないこと、およびその供給源が豊富なことから、再生および美容医療において簡易かつ効率のよい処置方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0016】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0017】
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味として定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界から生体を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本発明の方法においては、どのような細胞でも対象とされ得る。本発明で使用される「細胞」の数は、光学顕微鏡を通じて計数することができる。光学顕微鏡を通じて計数する場合は、核の数を数えることにより計数を行う。当該組織を組織切片スライスとし、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色を行うことにより細胞外マトリクス(例えば、エラスチンまたはコラーゲン)および細胞に由来する核を染め分ける。この組織切片を光学顕微鏡にて検鏡し、特定の面積(例えば、200μm×200μm)あたりの核の数を細胞数と見積って計数することができる。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞など)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織(例えば、脂肪組織)、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物などが挙げられるがそれらに限定されない。また、このような供給源をそのまま細胞として用いることもできる。
【0018】
本発明において使用される脂肪細胞(fat cellまたはadipocyte)およびその対応物は、以下の生物が脂肪細胞またはその対応物を有する限り、どの生物(例えば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)由来であってもよい。好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)由来であってもよい。1つの実施形態では、霊長類(例えば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞、特にヒト由来の細胞が用いられるがそれに限定されない。
【0019】
本明細書において使用される場合、用語「幹細胞」とは、分化細胞の前駆細胞(precursorまたはprogenitor)をいい、これは、単分化能性(monopotency)、多能性(multipotency)、全能性(totipotency)を有する細胞をいう。幹細胞は、特定の刺激に応答して分化され得る。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書で使用される幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)または他の前駆細胞であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(例えば、本明細書において使用される融合細胞、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞(pluripotent stem cell)である。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の程度が比較的限定されている細胞であり、組織中に存在し、未分化な細胞内構造をしている。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多能性(pluripotency)を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合は、幹細胞は好ましくは胚性幹細胞であり得るが、状況に応じて組織幹細胞も使用され得る。
【0020】
本明細書において使用される場合、用語「幹細胞」とは、幹細胞または前駆細胞を少なくとも一定量含む組織をさす。従って、幹細胞は、コラゲナーゼ処理して脂肪組織から採取した幹細胞(例えば、以下の実施例において使用される脂肪由来前駆細胞など)を用いることができるがそれらに限定されない。
【0021】
細胞が由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
【0022】
本明細書において使用される場合、用語「間葉系幹細胞」とは、間葉に見出される幹細胞をいう。用語「間葉系幹細胞」とは、本明細書では「MSC」と略されることがある。ここで、間葉とは、多細胞動物の発生各期に認められる、上皮組織間の間隙をうめる星状または不規則な突起をもつ遊離細胞の集団と,それに伴う細胞間質によって形成される組織をいう。間葉系幹細胞は、増殖能と、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、ストローマ細胞、腱細胞、脂肪細胞への分化能を有する。間葉系幹細胞は、患者から採取した骨髄細胞等を培養または増殖、軟骨細胞あるいは骨芽細胞に分化させるために使用され、また、例えば、歯槽骨、関節症等の骨、軟骨または関節などの再建材料として使用されており、その需要は大きい。また、間葉系幹細胞は、血液細胞、リンパ系細胞へも分化し得ることから、その需要がますます高まっている。
【0023】
本明細書において使用される場合、用語「脂肪由来前駆細胞」とは、脂肪吸引により得られる幹細胞をいい、そしてまた、他の前駆細胞(例えば、末梢血もしくは血管ストローマ細胞(vascular−stromal cell)(脂肪前駆細胞(preadipocyte))由来の幹細胞)をいう。脂肪由来前駆細胞は、脂肪組織に由来するか、または脂肪吸引手順により得られた任意の多能性前駆細胞(multipotent precursor cell))もしくは単分化能性前駆細胞(monopotent precursor cell)の集団を意味する。これらとしては、脂肪由来血管ストローマ細胞(脂肪前駆細胞(preadipocyte)、脂肪由来間質細胞(adipose−derived interstitial cell))、脂肪由来幹細胞、脂肪幹細胞、内皮前駆細胞、造血幹細胞などが挙げられる。このような幹細胞の分離方法の一部は公知であり、例えば、非特許文献1、特許文献1〜3に記載される。これらの文献に記載された事項は、本明細書において特に関連する場所が参考として援用される。本明細書において使用される場合、用語「脂肪由来前駆細胞」とは、これらの公知の分離方法によって得られる脂肪組織由来幹細胞を含む、すべての脂肪組織由来幹細胞のことを指す。本明細書において使用される場合、用語「前駆細胞」とは、多能性未分化細胞だけでなく、単分化能性未分化細胞も含まれる。本明細書において使用される場合、用語「幹細胞」とは、前駆細胞を含む。用語「PLA(吸引脂肪由来細胞(processed lipoaspirate cell))」とは、脂肪吸引による吸引物の脂肪部分(吸引脂肪(lipoaspirate)より得られる前駆細胞をいう。脂肪吸引による吸引物の液体部分に由来する前駆細胞は、「吸引廃液細胞(liquid−aspirate cell))と称され得る。脂肪由来前駆細胞は、PLA細胞および吸引廃液細胞を含む。
【0024】
本明細書において使用される場合、用語「体細胞」は、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、意図された処置を達成し得る限り、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。
【0025】
本明細書において使用される場合、用語「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。本発明において用いられる場合、分化細胞は、集団または組織の形態であってもよい。
【0026】
幹細胞の由来は、外胚葉、中胚葉および内胚葉に分類され得る。外胚葉由来の幹細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞が含まれる。中胚葉由来の幹細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞およびその分化細胞、造血幹細胞およびその分化細胞ならびに間葉系幹細胞およびその分化細胞などが含まれる。内胚葉由来の幹細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞およびその分化細胞、膵幹細胞およびその分化細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどのような胚葉由来でもよい。好ましくは、体細胞は、間葉系由来の細胞が使用され得る。
【0027】
本明細書において使用される場合、用語「脂肪細胞」とは、組織間に散在、あるいは疎性結合組織の一つとして毛細血管の走行に沿う集団として脂肪組織を形成する、多量の脂肪を含む細胞をいう。脂肪細胞には、黄色脂肪細胞と褐色脂肪細胞とがあるが、本明細書では、いずれも等価に用いることができる。細胞内の脂肪はスダンIIIまたは四酸化オスミウムにより容易に検出され得る。
【0028】
本明細書において使用される場合、用語「所望の部位」とは、被検体における任意の部位であって、処置が望まれる部位をいう。本発明では、そのような所望の部位は、被検体における任意の臓器または組織における部位が選択され得ることが理解される。
【0029】
本明細書において使用される場合、用語「組織」(tissue)とは、多細胞生物において、実質的に同一の機能および/または形態をもつ細胞集団をいう。通常「組織」は、同じ起源を有する細胞集団であるが、異なる起源を持つ細胞集団であっても、同一の機能および/または形態を有するのであればよい。従って、本発明の幹細胞を用いて組織を再生する場合、2以上の異なる起源を有する細胞集団が一つの組織を構成し得る。通常、組織は、臓器の一部を構成する。動物の組織は,形態的、機能的または発生的根拠に基づき、上皮組織、結合組織、筋肉組織、神経組織などに区別される。植物組織では、組織を構成する細胞の発達段階によって分裂組織と永久組織とに大別され、また構成細胞の種類によって単一組織と複合組織とに分けるなど、いろいろな分類が行われている。本明細書において、任意の組織が処置される対象として意図され得る。
【0030】
本発明において、臓器が対象とされる場合、そのような臓器はどのような臓器でもよく、また本発明が対象とする組織または細胞は、生物のどの臓器または器官に由来するものでもよい。本明細書において使用される場合、用語「臓器」は、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。多細胞生物(例えば、動物、植物)では臓器は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、各組織は多数の細胞からなる。そのような臓器としては、血管系に関連する臓器が挙げられる。1つの実施形態では、本発明が対象とする臓器は、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、四肢末梢、網膜などが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において臓器が対象として使用される場合、どのような臓器が対象であってもよいが、好ましくは、間葉系の組織(例えば、脂肪、骨、靭帯など)が対象とされ得るがそれに限定されない。
【0031】
本明細書において使用される場合、用語「分化が生じるに十分な条件」とは、分化が生じるような時間、培地、温度、湿度などを指す。本発明では、脂肪由来前駆細胞と、分化細胞とを混合すれば、その分化細胞への分化が進捗することが始めて見出されたが、本明細書の内容を考慮すれば、このような条件は、脂肪由来前駆細胞または分化細胞を単独で維持するような条件と重複し得ることが理解される。したがって、そのような条件は、適宜変更することができるが、好ましくは、本発明の脂肪由来前駆細胞と、組み合わされる分化細胞およびその混合物における組成に応じて変更するとよい。また、いったんそのような好ましい条件が設定されると、以後、そのような条件は、同様の混合物を処置するために用いられ得る。本発明では、このような分化が生じるに十分な条件は、インビトロであってもインビボであってもエキソビボであっても使用され得る。インビボの場合は、移植された体内の部分における条件がそのまま適用される。本発明では、幹細胞と分化細胞とを混合した後は、すぐに移植してインビボの環境においてもよく、インビトロで混合培養をしてもよい。自家移植の場合はエキソビボ移植とも呼ばれ得る。
【0032】
本明細書において使用される場合、用語「インビボ」(in vivo)は、生物の内部をいう。特定の文脈において、「インビボ」は、対象とする組織または臓器が配置されるべき位置(例えば、本明細書にいう所望の部位)をいう。
【0033】
本明細書において使用される場合、用語「インビトロ」(in vitro)は、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
【0034】
本明細書において使用される場合、用語「エキソビボ」(ex vivo)は、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を細胞に導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
【0035】
そのような分化が生じるに十分な条件としては、それぞれ独立して、5時間以上の培養、pH5〜10、20℃〜45℃の温度(例えば、37℃)、80%以上の湿度(例えば、100%)、M199培地の使用、ヘパリン5mg/500mlの添加、酸性FGF2μg/500mlの添加、FBS(15%)の添加、NaHCOの添加、酸素濃度10−30%(例えば、20%)、CO濃度2−10%(例えば、5%)、ゼラチンコートディッシュの使用、フィーダー細胞の存在から選択される。一例として、5時間以上の培養、M199培地(500mlに、NaHCOを2.2g、FBS(15%)、酸性FGF2μg、ヘパリン5mgを加える)にて37度、酸素20%、炭酸ガス5%、湿度100%、ゼラチンコートディッシュにて培養するという条件である。
【0036】
上記の条件は、分化細胞(例えば、脂肪細胞)および脂肪由来前駆細胞を維持するために採用され得るがそれに限定されない。
【0037】
脂肪由来前駆細胞を分化させるには、分化細胞への分化を促進する因子を含む任意の培養培地を用いることができる。そのような培地としては、例えば、DMEMに10%FBS、0.5 mMイソブチルメチルキサンチン(IBMX)、1 μM デキサメタゾン、10 μMインスリン、および200 μMインドメタシンを加えた培地中での培養が挙げられ得るがそれらに限定されない。この培地は、37℃、酸素20%、炭酸ガス5%および湿度100%で使用され得る。
【0038】
本明細書において使用される場合、用語「分化細胞への分化を促進する因子」または「分化促進因子」とは、分化細胞への分化を促進することが知られている因子(例えば、化学物質、温度など)であれば、どのような因子であってもよい。そのような因子としては、例えば、種々の環境要因を挙げることができ、そのような因子としては、例えば、温度、湿度、pH、塩濃度、栄養、金属、ガス、有機溶媒、圧力、化学物質(例えば、ステロイド、抗生物質など)などまたはそれらの任意の組み合わせが挙げられるがそれらに限定されない。そのような因子のうち代表的なものとしては、DNA脱メチル化剤(5−アザシチジンなど)、ヒストン脱アセチル化剤(トリコスタチンなど)、核内レセプターリガンド(例えば、レチノイン酸(ATRA)、ビタミンD、T3など)、細胞増殖因子(アクチビン、IGF−1、FGF,PDGF、TGF−β、BMP2/4など)、サイトカイン(例えば、LIF、IL−2、IL−6など)、ヘキサメチレンビスアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジブチルcAMP、ジメチルスルホキシド、ヨードデオキシウリジン、ヒドロキシル尿素、シトシンアラビノシド、マイトマイシンC、酪酸ナトリウム、アフィディコリン、フルオロデオキシウリジン、ポリブレン、セレンなどが挙げられるがそれらに限定されない。しかし、従来は、分化促進因子として、分化した細胞を使用することは想定されていなかった。分化した細胞は、むしろ、分化を抑制するような因子を放出すると考えられていたからである。
【0039】
本明細書において使用される場合、用語「所望の部位に対応する」とは、細胞、組織、臓器などに言及する場合、本発明における移植または再生などについての使用が意図されるときの、所望の部位から取得したか(例えば、心臓であれば、心臓由来の細胞など)または所望の部位に存在する細胞などと実質的に同じ性質を有する細胞など(例えば、心臓細胞へと分化させた細胞など)を示す。したがって、所望の部位に対応する細胞は、その細胞が、所望の部位における細胞と細胞表面マーカーなどの指標において実質的に同一であることによって確認することができる。
【0040】
そのような所望の部位に対応する細胞などを判別するために有用なマーカーとしては、例えば、(1)脂肪:細胞質内におけるトリグリセリドの存在、OilRed−O染色、グリセロホスフェートデヒドロゲナーゼ(Glycerophosphate dehydrogenase=GPDH)活性、細胞質内のGLUT4 、Ap2(脂肪酸結合タンパク質)、LPL(リポタンパク質リパーゼ)、PPARγ1,2(ペルオキシソーム増殖活性化レセプターγ1,2)、およびレプチン(Leptin)の発現;(2)骨細胞、骨組織:アルカリフォスファターゼの存在、骨石灰化(カルシウムの沈着)の程度を確認する、オステオカルシン(Osteocalcin)、オステオポンチン(Osteopontin)またはオステオネクチン(Osteonectin)の発現;(3)軟骨細胞、軟骨組織:ムコ多糖の存在、タイプ2コラーゲン、コンドロイチン−4−サルフェート(chondroitin−4−sulfate)の発現・存在;(4)骨格筋細胞:細胞質内のミオシンの豊富な存在などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0041】
本明細書において使用される場合、用語「移植」とは、本発明の細胞、組成物、医薬などを、単独で、または他の治療剤と組み合わせて体内に移入することをいう。本発明は、以下のような治療部位(例えば、骨など)への導入方法,導入形態および導入量が使用され得る:本発明の医薬などを障害部位へ直接注入し、貼付後に縫合し、挿入する等の方法があげられる。本発明の脂肪由来前駆細胞と、分化細胞との組み合わせは、例えば、混合物として同時に、別々であるが同時にもしくは並行して;または逐次的にかのいずれかで投与され得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療混合物としてともに投与される提示を含み、そして組み合わせた薬剤が、別々であるが同時に(例えば、分化促進因子など)投与される手順もまた含む。「組み合わせ」投与は、第1に与えられ、続いて第2に与えられる化合物または薬剤のうちの1つを別々に投与することをさらに含む。
【0042】
本明細書において使用される場合、用語「自己」または「自家」とは、ある個体についていうとき、その個体に由来する個体またはその一部(例えば、細胞、組織、臓器など)をいう。本明細書において使用される場合、用語「自己」または「自家」というときは、広義には遺伝的に同じ他個体(例えば一卵性双生児)からの移植片をも含み得る。
【0043】
本明細書において使用される場合、用語「同種」(同種異系)とは、同種であっても遺伝的には異なる他個体から移植される個体またはその一部(例えば、細胞、組織、臓器など)をいう。同種異系の個体は、遺伝的に異なることから、同種異系のものは、移植された個体(レシピエント)において免疫反応を惹起し得る。そのような細胞などの例としては、親由来の細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0044】
本明細書において使用される場合、用語「異種」とは、異種個体から移植されるものをいう。従って、例えば、ヒトがレシピエントである場合、ブタからの移植物は異種移植物という。
【0045】
本明細書において使用される場合、用語「レシピエント」(受容者)とは、移植される細胞などを受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植される細胞などを提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。レシピエントとドナーとは同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
本発明で使用される細胞は、同系由来(自己(自家)由来)でも、同種異系由来(他個体(他家)由来)でも、異種由来でもよい。拒絶反応が考えられることから、自己由来の細胞が好ましいが、拒絶反応が問題でない場合、同種異系由来であってもよい。
【0047】
本明細書において「分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態」とは、分化細胞が関与する任意の疾患、障害または異常状態をいう。このような分化細胞は、好ましくは、間葉系細胞であり得るがそれらに限定されない。
【0048】
1つの実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、循環器系(血液細胞など)であり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、貧血(例えば、再生不良性貧血(特に重症再生不良性貧血)、腎性貧血、癌性貧血、二次性貧血、不応性貧血など)、癌または腫瘍(例えば、白血病)およびその化学療法処置後の造血不全、血小板減少症、急性骨髄性白血病(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、急性リンパ性白血病(特に、第1寛解期、第2寛解期以降の寛解期)、慢性骨髄性白血病(特に、慢性期、移行期)、悪性リンパ腫(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、多発性骨髄腫(特に、発症後早期)など;心不全、狭心症、心筋梗塞、不整脈、弁膜症、心筋・心膜疾患、先天性心疾患(例えば、心房中隔欠損、動脈管開存、ファロー四徴など)、動脈疾患(例えば、動脈硬化、動脈瘤)、静脈疾患(例えば、静脈瘤など)、リンパ管疾患(例えば、リンパ浮腫など)が挙げられるがそれらに限定されない。
【0049】
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、神経系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、痴呆症、脳卒中およびその後遺症、脳腫瘍、脊髄損傷などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0050】
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、免疫系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、T細胞欠損症、白血病などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0051】
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、運動器・骨格系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、骨折、骨粗鬆症、関節の脱臼、亜脱臼、捻挫、靱帯損傷、変形性関節症、骨肉腫、ユーイング肉腫、筋ジストロフィー、骨形成不全症、骨軟骨異形成症などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0052】
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、皮膚系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、無毛症、黒色腫、皮膚悪性リンパ腫、血管肉腫、組織球症、水疱症、膿疱症、皮膚炎、湿疹などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0053】
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、内分泌系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、視床下部・下垂体疾患、甲状腺疾患、副甲状腺(上皮小体)疾患、副腎皮質・髄質疾患、糖代謝異常、脂質代謝異常、タンパク質代謝異常、核酸代謝異常、先天性代謝異常(フェニールケトン尿症、ガラクトース血症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症)、無アルブミン血症、アスコルビン酸合成能欠如、高ビリルビン血症、高ビリルビン尿症、カリクレイン欠損、肥満細胞欠損、尿崩症、バソプレッシン分泌異常、小人症、ウオルマン病(酸リパーゼ(Acid lipase)欠損症)、ムコ多糖症VI型などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0054】
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、呼吸器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、肺疾患(例えば、肺炎、肺癌など)、気管支疾患などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0055】
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、消化器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、食道疾患(例えば、食道癌など)、胃・十二指腸疾患(例えば、胃癌、十二指腸癌など)、小腸疾患・大腸疾患(例えば、大腸ポリープ、結腸癌、直腸癌など)、胆管疾患、肝臓疾患(例えば、肝硬変、肝炎(A型、B型、C型、D型、E型など)、劇症肝炎、慢性肝炎、原発性肝癌、アルコール性肝障害、薬物性肝障害など)、膵臓疾患(急性膵炎、慢性膵炎、膵臓癌、嚢胞性膵疾患など)、腹膜・腹壁・横隔膜疾患(ヘルニアなど)、ヒルシュスプラング病などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0056】
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、泌尿器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、腎疾患(例えば、腎不全、原発性糸球体疾患、腎血管障害、尿細管機能異常、間質性腎疾患、全身性疾患による腎障害、腎癌など)、膀胱疾患(例えば、膀胱炎、膀胱癌など)などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0057】
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、生殖器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、男性生殖器疾患(例えば、男性不妊、前立腺肥大症、前立腺癌、精巣癌など)、女性生殖器疾患(例えば、女性不妊、卵巣機能障害、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮癌、子宮内膜症、卵巣癌、絨毛性疾患など)などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0058】
本明細書において使用される場合、用語「診断、予防、処置または予後上有効な量」とは、それぞれ、診断、予防、処置(または治療)または予後において、医療上有効であると認められる程度の量をいう。このような量は、当該分野において周知の技法を用いて当業者が種々のパラメータを参酌しながら決定することができる。
【0059】
別の実施形態において、本発明は、美容目的の治療、処置または改善において使用され得る。そのような美容目的としては、純粋に健常状態への美容を目的とするのみならず、手術後または外傷後の変形および先天性の変形に対する美容治療も含まれる。例えば、本発明は、限定ではないが、乳房の組織増大術(豊胸術)、頬もしくは上下眼瞼の陥凹に対する組織増大術、ならびに顔面半側萎縮症、顔面神経麻痺後の組織萎縮、または漏斗胸への組織増大術に利用し得る。さらに、隆鼻術、整鼻術、オトガイ形成術(組織増大術)、前額形成術(組織増大術)、小耳症など耳介変形・奇形に対する耳介軟骨形成術などへも利用できるがそれに限定されない。
【0060】
本発明が対象とする動物は、脂肪細胞を有する動物であれば、どのような動物(例えば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)であってもよい。好ましくは、そのような動物は、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)であり得る。例示的な被験体としては、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどの動物が挙げられるがそれらに限定されない。さらに好ましくは、霊長類(例えば、チンパンジー、ニホンザル、ヒトなど)が用いられる。最も好ましくはヒトが用いられる。
【0061】
本発明が医薬として使用される場合、そのような医薬は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬において、当該分野において公知の任意の薬学的に受容可能なキャリアが使用され得る。
【0062】
適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクルおよび/または薬学的アジュバントが挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、本発明の細胞および他の有効成分を、少なくとも1つの生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射溶液、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的に使用される他の物質を補充することが可能である。
【0063】
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、好ましくは、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、好ましくは、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリン);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))などが挙げられる。
【0064】
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH約7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH約4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
【0065】
以下に本発明の医薬組成物の一般的な調製法を示す。なお、動物薬組成物、医薬部外品、水産薬組成物、食品組成物および化粧品組成物等についても公知の調製法により製造することができることに注意されたい。
【0066】
本発明の細胞などは、薬学的に受容可能なキャリアと必要に応じて配合し、例えば、注射剤、懸濁剤、溶液剤、スプレー剤等の液状製剤として非経口的に投与することができる。薬学的に受容可能なキャリアの例としては、賦形剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤、崩壊阻害剤、吸収促進剤、吸収剤、湿潤剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等が挙げられる。また、必要に応じ、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の製剤添加物を用いることができる。また、本発明の組成物には本発明のポリヌクレオチド、ポリペプチドなど以外の物質を配合することも可能である。非経口の投与経路としては、静脈内、筋肉内、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、局所投与、皮膚投与など等が挙げられるがそれらに限定されない。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製について、pH、等張性、安定性などを考慮することは、当業者の技術範囲内である。
【0067】
液状製剤における溶剤の好適な例としては、注射溶液、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油およびトウモロコシ油等が挙げられる。
【0068】
液状製剤における溶解補助剤の好適な例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウム等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0069】
液状製剤における懸濁化剤の好適な例としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が挙げられる。
【0070】
液状製剤における等張化剤の好適な例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0071】
液状製剤における緩衝剤の好適な例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩およびクエン酸塩等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0072】
液状製剤における無痛化剤の好適な例としては、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウムおよび塩酸プロカイン等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0073】
液状製剤における防腐剤の好適な例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0074】
液状製剤における抗酸化剤の好適な例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α−トコフェロールおよびシステイン等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0075】
注射剤として調製する際には、液剤および懸濁剤は殺菌され、かつ血液または他の目的のための注射部位における溶媒と等張であることが好ましい。通常、これらは、細菌保留フィルター等を用いるろ過、殺菌剤の配合または照射などによって無菌化する。さらにこれらの処理後、凍結乾燥等の方法により固形物とし、使用直前に無菌水または無菌の注射用希釈剤(塩酸リドカイン水溶液、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノールまたはこれらの混合溶液等)を添加してもよい。
【0076】
さらに、本発明の医薬組成物は、着色料、保存剤、香料、矯味矯臭剤、甘味料等、ならびに他の薬剤を含んでいてもよい。
【0077】
本発明の処置方法において使用される組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。投与する量は、処置されるべき部位が必要とする量を見積もることによって確定することができる。
【0078】
本明細書において使用される場合、用語「指示書」とは、本発明の医薬を投与する方法または診断する方法などを、本発明の医薬などの投与を行う人または投与を行われる人、診断する人または診断される人(例えば、医師、患者など)に対して記載したものである。この指示書は、本発明の診断薬、医薬などを投与する適切な方法を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メールなど)のような形態でも提供され得る。
【0079】
本発明の方法による治療の終了の判断は、商業的に利用できるアッセイもしくは機器使用による標準的な臨床検査の結果または意図された治療に関連する疾患(例えば、骨疾患、心臓疾患、神経疾患など)に特徴的な臨床症状の消滅あるいは美容状態の回復(例えば、視覚的な回復など)によって支持され得る。治療は、分化細胞の欠損などに関連する疾患(例えば、神経疾患)の再発または美容状態の損傷により再開することができる。
【0080】
本発明はまた、医薬組成物の1つ以上の成分を満たした1つ以上の容器を備える薬学的パックまたはキットを提供する。医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関が定めた形式の通知が、このような容器に任意に付属し得、この通知は、ヒトへの投与に対する製造、使用または販売に関する政府機関による承認を表す。このキットは、注入デバイスを備え得る。
【0081】
毒性研究は、血液細胞組成物を測定することによって行われ得る。例えば、毒性研究は、以下のような適切な動物モデルにおいて行われ得る:(1)化合物がマウスに投与される(未処置のコントロールマウスもまた、使用されるべきである);(2)各々の処置群中の1匹のマウスから尾静脈を介して血液サンプルを周期的に得る;そして(3)上記サンプルを、赤血球および白血球の数、血液細胞組成物ならびにリンパ球と多形核細胞との割合について分析する。各々の投薬レジメンについての結果とコントロールとの比較は、毒性が存在するか否かを示す。
【0082】
各々の毒性研究の終了の際に、動物を屠殺することによって、さらなる研究を行い得る(好ましくは、American Veterinary Medical Association guidelines Report of the American Veterinary Medical Assoc.Panel on Euthanasia,(1993)J.Am.Vet.Med.Assoc.202:229−249に従う)。次いで、各処置群からの代表的な動物が、転移、異常な病気または毒性の直接的な証拠のために全体的な検屍によって試験され得る。組織における全体の異常が記載され、組織が組織学的に試験される。体重の減少または血液成分の減少を引き起こす医薬は、主要な臓器に対する有害作用を有する化合物と同様に好ましくない。一般的に、有害作用が大きいほど、その化合物は好ましくない。
【0083】
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0084】
(分化細胞を調製するための方法)
1つの局面において、本発明は、分化細胞を調製するための方法を提供する。この方法によって、所望の性質を、好ましくは均質に含有する分化細胞を一定量以上で提供することができる。この方法は、A)a)脂肪由来前駆細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞と、を混合して混合物を得る工程;およびB)該脂肪由来前駆細胞の分化が生じるに十分な条件で該混合物を培養する工程、を包含する。
【0085】
ここで、脂肪由来前駆細胞は、特許文献1〜3、および非特許文献2および3などに記載される方法またはその改変のように脂肪吸引による吸引物(吸引脂肪(lipoaspirate))の脂肪部分から分離することができる。具体的には、例えば、(1)吸引脂肪(suctioned fat)を1リットル大の分液漏斗を用いて生理食塩水で十分に洗浄し;(2)上層に吸引脂肪、下層に生理食塩水が十分に分離したのを確認し、下層を捨てる。肉眼で見て生理食塩水がほぼ透明になるまでこれを繰り返し;(3)吸引脂肪と同量の0.075%コラゲナーゼ/PBSを加え、37℃でよく攪拌しながら30分間インキュベートし;(4)上記の試料に等量の10%血清加DMEMを加え;(5)上記の試料を1200gで10分間遠心分離し;(6)得られたペレットに0.16M NHCl/PBSを加えて懸濁し、室温で10分間インキュベートし;(7)上記の試料を口径100μmのメッシュを用いて吸引ろ過し;および(8)得られたろ過物を1200gで5分間遠心分離することによって分離することができる。ここで、調製量に応じて、上記プロトコールをスケールアップまたはスケールダウンすることは、当業者の技術範囲内である。
【0086】
他方、脂肪由来前駆細胞は、例えば、以下のような脂肪吸引による吸引物の液体部分(液体吸引物)より単離され得る:(1)脂肪吸引による吸引物の液体部分が調製される;(2)この液体部分は、細胞画分を得るために遠心分離される;(3)この細胞画分は、密度勾配遠心分離に供され、そして細胞分離は、比重に基づいて実施される;そして(4)細胞は、赤血球よりも低い比重を有する細胞層から回収される。吸引物の液体部分は、生理食塩水またはリンガー注入液を用いて調製され得る。遠心分離は、約800×g以下、または約400×g以上の速度で実施され得る。密度勾配遠心分離は、約370×g〜1,100×gの速度で実施される。密度勾配遠心分離は、約1.076g/ml〜1.078g/mlの比重(20℃)を有する溶媒を用いて実施される。密度勾配遠心分離において使用される溶媒は、FicollTM、PercollTMまたはスクロースであり得る。回収される細胞層の比重は、約1.050〜1.075の範囲であり得る。細胞層は、ピペットを用いて回収され得る。
【0087】
所望の部位に対応する分化細胞は、当該分野において周知の技法を用いて調製することができる。あるいは、そのような分化細胞は、市販の細胞株(例えば、ATCCなどから分譲される細胞株など)を用いることができる。分化細胞は、移植を目的とする被検体から初代培養された細胞(例えば、肝細胞、腎細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞など)を用いてもよい。そのような初代培養および細胞株の培養方法は、当該分野において周知であり、例えば、AMBOマニュアル 細胞研究法、畠中 寛・淺野 朗 共編、TaKaRa;バイオ実験イラストレイテッド(6)すくすく育て細胞培養、渡邊利雄編、秀潤社(1996)などに記載されており、本明細書においてその内容が援用される。
【0088】
本発明では、分化細胞としては、所望の部位に対応するものであれば、どのような細胞を用いてもよいが、好ましくは、間葉系細胞が用いられ、そのような間葉系細胞としては、例えば、脂肪細胞、骨髄細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、肝細胞および膵細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような分化細胞は、同定された細胞を用いてもよいが、性質が未知の細胞であったとしても、例えば、マーカーを用いることによって、FACSなどの分別技術を用いて調製することができる。そのようなマーカーの例:(1)脂肪:細胞質内におけるトリグリセリドの存在、OilRed−O染色、グリセロホスフェートデヒドロゲナーゼ(Glycerophosphate dehydrogenase=GPDH)活性、細胞質内のGLUT4 、Ap2(脂肪酸結合タンパク質)、LPL(リポタンパク質リパーゼ)、PPARγ1,2(ペルオキシソーム増殖活性化レセプターγ1,2)、およびレプチン(Leptin)の発現;(2)骨細胞、骨組織:アルカリフォスファターゼの存在、骨石灰化(カルシウムの沈着)の程度を確認する、オステオカルシン(Osteocalcin)、オステオポンチン(Osteopontin)またはオステオネクチン(Osteonectin)の発現;(3)軟骨細胞、軟骨組織:ムコ多糖の存在、タイプ2コラーゲン、コンドロイチン−4−サルフェート(chondroitin−4−sulfate)の発現・存在;(4)骨格筋細胞:細胞質内のミオシンの豊富な存在など。また、FACSの使用方法は、例えば、フローサイトメトリー自由自在 細胞工学別冊(秀潤社)、中内編、1999などに記載されており、本明細書においてその内容を参考として援用する。
【0089】
本発明の細胞混合物には、所望の部位に対応する分化細胞への分化を促進する因子がさらに含有されていてもよい。そのような因子は、所望の部位に対応する分化細胞への分化を促進することが知られているまたは確認されたものであれば、どのようなものでもよい。好ましい分化促進因子の例としては、例えば、デキサメタゾン(dexamethasone)などの副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルベート−2−ホスフェート(ascorbate−2−phosphate)、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、グリセロホスフェート(glycerophosphate)、エストロゲン、エストロゲンの誘導体、プロゲステロン、プロゲステロンの誘導体、アンドロゲン、アンドロゲンの誘導体、例えば、aFGF、bFGF、EGF、IGF、TGFβ、ECGF、BMP、PDGFなどの増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸(例えば、亜セレン酸ナトリウムなど)、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、例えば、5−アザンシチジンなどの脱メチル化剤、例えば、トリコスタチンなどのヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、例えば、LIF、IL−2、IL−6などのサイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレン、セレンが挙げられるがそれらに限定されない。
【0090】
本発明の細胞混合物は、混合される細胞の維持および所望の部位に対応する分化細胞への分化を維持し得る限り、任意の培養液を用いることができる。そのような培養液としては、例えば、DMEM、P199、MEM、HBSS(Hanks’Balanced Salt Solution)、Ham’s F12、BME、RPMI1640、MCDB104、MCDB153 (KGM)などが挙げられるがそれらに限定されない。このような培養液には、例えば、デキサメタゾン(dexamethasone)などの副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルベート−2−ホスフェート(ascorbate−2−phosphate)、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、グリセロホスフェート(glycerophosphate)、エストロゲン、エストロゲンの誘導体、プロゲステロン、プロゲステロンの誘導体、アンドロゲン、アンドロゲンの誘導体、例えば、aFGF、bFGF、EGF、IGF、TGFβ、ECGF、BMP、PDGFなどの増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸(例えば、亜セレン酸ナトリウムなど)、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、例えば、5−アザンシチジンなどの脱メチル化剤、例えば、トリコスタチンなどのヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、例えば、LIF、IL−2、IL−6などのサイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレン、セレンなどを1つまたはその組み合わせとして含ませておいてもよい。
【0091】
本発明において使用される脂肪由来前駆細胞は、CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、およびSH3からなる群より選択される少なくとも1つ(好ましくは、2つ、3つ、...n個)のタンパク質を発現し得るものであり得る。さらに好ましくは、本発明において用いられる脂肪由来前駆細胞は、CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、およびSH3のすべてを発現し得るものである。これらの幹細胞は、新規の幹細胞であり、本発明において、再生治療(特に豊胸手術、乳房形成術)において有用であることが判明している。
【0092】
これらのCD抗原の判定は、当該分野において公知の方法(例えば、抗体を使用する免疫学的手法など)を用いて行うことができる。ここで、発現しているかしていないかは、免疫学的方法などによって、適宜選択することができる。
【0093】
好ましくは、本発明において用いられる脂肪由来前駆細胞は、CD3、CD4、CD14、CD15、CD16、CD19、CD33、CD38、CD56、CD61、CD62e、CD62p、CD69、CD104、CD135、およびCD144の少なくとも1つ(特に、CD56)を発現しない。そのようなCD抗原は、分化細胞のマーカーであり、発現しないことが幹細胞の指標であり得るからであるがそれらに限定されない。従って、好ましい実施形態では、本発明において使用される脂肪由来前駆細胞は、CD3、CD4、CD14、CD15、CD16、CD19、CD33、CD38、CD56、CD61、CD62e、CD62p、CD69、CD104、CD135、およびCD144のいずれも発現しない細胞であることが有利であり得る。
【0094】
別の実施形態では、簡便に、脂肪由来前駆細胞として、CD49dを発現し、CD56を発現しない細胞を選択してもよい。
【0095】
本発明の方法の好ましい実施形態では、本明細書で使用される脂肪由来前駆細胞と、所望の部位に対応する分化細胞との比率は、健常組織に存在する分化細胞に対する幹細胞の比率よりも脂肪由来前駆細胞が高いことが有利であり得る。このような場合、例えば、吸引脂肪を用いる場合、インビボでの比率よりも、吸引脂肪に高い比率で脂肪由来前駆細胞を存在させることによって、美容効果が高まり得ることが証明された。このような脂肪由来前駆細胞の存在比は、天然に存在する比率に対する相対比として表すことができる。従って、好ましくは、使用される脂肪由来前駆細胞は、本発明の細胞混合物または組成物中において、天然の脂肪組織において存在する比率より多く、限定ではないが、通常例えば、天然の脂肪組織において存在する比率の少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍などであり得、好ましくは少なくとも約10倍であり得る。好ましくは、その比率は、天然の状態で存在する脂肪組織において約2〜10倍の範囲であり得る。理論に束縛されないが、通常、処置される組織において固有に存在するかまたは予備的に存在する幹細胞のいくつかは、すでに消費されているかまたは壊死に陥っている(すなわち、幹細胞の数は減少している)からである。幹細胞は、組織壊死、機械的障害、障害された循環、慢性炎症などに起因して損傷された組織を修復するために消費される。この場合、組織を発生させる能力のある補充細胞が減少される。
【0096】
本発明において用いられる脂肪由来前駆細胞は、吸引脂肪に由来し得る。従来、吸引脂肪は、捨てられていたが、本発明において、実際に治療および美容に用いることができる幹細胞の供給源として使用できることが明らかになった。従って、そのような吸引脂肪は、例えば、脂肪吸引による吸引物の液体部分または脂肪部分であってもよい。
【0097】
(細胞混合物)
別の局面において、本発明は、脂肪由来前駆細胞と、所望の部位に対応する分化細胞とを含む、細胞混合物を提供する。このような細胞混合物は、細胞移植に有用であり、従来技術の分化細胞単独を用いた移植に比べて、各々の成分が少なくてすむという利点もある。このほかに、従来技術と比べて有利な点としては、例えば、(1)生体外で再生組織を作る(エキソビボ産生)必要がない;(2)より確実に大きな組織の再生が可能である;(3)簡便かつ短時間の処理により再生が可能である;(4)皮膚など臓器を切開する手術を必要とせず、針を刺すことによって細胞および組織を投与(移植)することが可能であることなどが挙げられる。
【0098】
ここで、細胞混合物は、移植前に、脂肪由来前駆細胞の分化が生じるに十分な条件に暴露されたものであることが好ましいが、それに限定されない。分化が生じた後のものは、そのまま移植に使用することができ、あるいは、組織または臓器に分化させた後に使用してもよい。
【0099】
本発明の細胞混合物の好ましい実施形態では、本発明で使用される脂肪由来前駆細胞と、所望の部位に対応する分化細胞との比率は、健常組織に存在する分化細胞に対する幹細胞の比率よりも脂肪由来前駆細胞が高いことが有利であり得る。このような場合、例えば、吸引脂肪を用いる場合、インビボでの比率よりも、吸引脂肪に高い比率で脂肪由来前駆細胞を存在させることによって、美容効果が高まり得ることが証明された。このような、所望の部位に対応する分化細胞に対する脂肪由来前駆細胞の比率は、例えば、限定ではないが、通常、0.1:1〜5:1、好ましくは、1:1〜5:1であり得る。
このような脂肪由来前駆細胞の存在比は、天然に存在する比率に対する相対比として表すことができる。従って、好ましくは、本発明において使用される脂肪由来前駆細胞は、本発明の細胞混合物または組成物中において、天然の脂肪組織において存在する比率より多く、限定ではないが、通常例えば、天然の脂肪組織において存在する比率の少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍などであり得、好ましくは少なくとも約10倍であり得る。
【0100】
本発明において用いられる脂肪由来前駆細胞は、吸引脂肪に由来し得る。従来、吸引脂肪は、捨てられていたが、本発明において、実際に治療および美容に用いることができる幹細胞の供給源として使用できることが明らかになった。従って、そのような吸引脂肪は、例えば、脂肪吸引による吸引物の液体部分または脂肪部分であってもよい。
【0101】
本発明において用いられる分化細胞および脂肪由来前駆細胞には、分離されたものを使用しても良いが、部分精製したものまたは完全に精製したものを使用しても良い。
【0102】
好ましい実施形態では、本発明の細胞混合物に含まれる所望の部位に対応する分化細胞は、脂肪細胞であり得る。そのような場合、現代人が不要とする部分の脂肪(例えば、腹部、胸部、臀部、大腿部、上腕部、顔部などの脂肪)から脂肪細胞を調製することができる。腹部、臀部などが好ましい。腹部、臀部などは、脂肪がたまりやすい部位であり、除去することが所望されることが多いからである。
【0103】
(細胞移植組成物)
別の局面において、本発明は、a)脂肪由来前駆細胞;およびb)所望の部位に対応する分化細胞、を含有する、細胞移植のための組成物を提供する。この組成物は、所望の部位に対応する分化細胞の欠損または劣化などに伴う疾患、障害または異常状態を処置または予防するため、あるいは美容状態を処置または改善するためであれば、任意の目的で使用することができる。好ましくは、組成物は、所望の部位に移植され得るがそれに限定されず、最終的に所望の部位の処置または予防が可能なのであれば、本発明の細胞含有組成物は、任意の部位に投与または移植することができる。
【0104】
本発明では、脂肪由来前駆細胞と、分化細胞との比率は、所望の分化が生じる限り、どのような比率でもよいが、通常、約1:100〜約100:1であり、代表的に、約1:10〜約10:1であり、好ましくは、約1:5〜約5:1であり、より好ましくは、約1:2〜約2:1であり、最も好ましくはほぼ等量であり得る。使用される細胞混合物中の分化細胞および脂肪由来前駆細胞は、本明細書において、「分化細胞を調製するための方法」および「細胞混合物」において説明したような任意の形態であり得る。
【0105】
ここで、分化細胞および脂肪由来前駆細胞は、それぞれ独立して、移植されるべき宿主に対して、異種、同種異系または同系であり得る。好ましくは、同種異系または同系であり、より好ましくは同系であるが、それに限定されない。理論に束縛されないが、同系であれば、免疫拒絶反応が抑制できるからである。しかし、拒絶反応が予測される場合は、拒絶反応を回避する工程をさらに包含してもよい。拒絶反応を回避する手順は当該分野において公知であり、例えば、新外科学体系、第12巻、心臓移植・肺移植 技術的,倫理的整備から実施に向けて(改訂第3版)、中山書店を参照のこと。そのような方法としては、例えば、免疫抑制剤、ステロイド剤の使用などの方法が挙げられるが、それらに限定されない。拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、例えば、現在、「シクロスポリン」(サンディミュン/ネオーラル)、「タクロリムス」(プログラフ)、「アザチオプリン」(イムラン)、「ステロイドホルモン」(プレドニン、メチルプレドニン)、および「T細胞抗体」(OKT3、ATGなど)があり、予防的免疫抑制療法として世界の多くの施設で行われている方法は、「シクロスポリン、アザチオプリンおよびステロイドホルモン」の3剤併用である。免疫抑制剤は、本発明の薬剤と同時期に投与されることが望ましいが、必ずしも必要ではない。従って、免疫抑制効果が達成される限り免疫抑制剤は本発明の再生療法・治療の前または後にも投与され得る。
【0106】
分化細胞と、脂肪由来前駆細胞とは、各々異種、同種異系または同系であり得、好ましくは、同種異系または同系であり、より好ましくは同系である。理論に束縛されないが、同種異系または同系(好ましくは同系)の方が、分化細胞と脂肪由来前駆細胞とが均一の細胞集団となりやすいからである。
【0107】
このような細胞混合物または組成物は、医薬として提供され得る。このような医薬は、所望の部位に対応する分化細胞の欠損または劣化などに伴う疾患、障害または異常状態を処置または予防するため、あるいは美容状態を処置または改善するために用いられる。本発明の医薬には、細胞混合物またはそれを含む組成物のほか、薬学的に受容可能なキャリアが含まれていてもよい。そのようなキャリアとしては、その用途に応じて当業者によって、本明細書において記載される任意のキャリアが選択され、そして用いらることができる。このような医薬は、美容を改善することを目的とする場合、脂肪の増強を望む部位の美容の処置において好ましくは使用され得る。そのような部位は、手術を受ける被験体によって異なるが、例えば、胸部(乳房を含む)、臀部、顔面(整形手術など)、手背などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0108】
好ましい実施形態では、本発明の組成物に含まれる所望の部位に対応する分化細胞は、脂肪細胞であり得る。そのような場合、脂肪細胞は、現代人が不要とする部分の脂肪(例えば、腹部、胸部、臀部、大腿部、上腕部、顔部などの脂肪)から調製することができる。腹部、臀部などが好ましい。腹部、臀部などは、脂肪がたまりやすい部位であり、除去することが所望されることが多いからである。
【0109】
(細胞混合を用いた治療、美容および予防法)
別の局面において、本発明は、所望の部位に対応する分化細胞の欠損または劣化に伴う疾患、障害または異常状態を処置または予防するため、あるいは美容状態を処置または改善するための方法を提供する。この方法は、A)a)脂肪由来前駆細胞;およびb)所望の部位に対応する分化細胞、を含有する、組成物を提供する工程、ならびにB)被検体に、該組成物を投与する工程、を包含する。ここで、移植に使用される細胞混合物中の分化細胞および脂肪由来前駆細胞は、本明細書において、「分化細胞を調製するための方法」および「細胞混合物」において説明したような任意の形態であり得る。
【0110】
好ましい実施形態において、本発明の細胞混合物または組成物に含まれる所望の部位に対応する分化細胞は、脂肪細胞であり得る。そのような場合、脂肪細胞は、現代人が不要とする部分の脂肪(例えば、腹部、胸部、臀部、大腿部、上腕部、顔部などの脂肪)から調製することができる。腹部、臀部などが好ましい。腹部、臀部などは、脂肪がたまりやすい部位であり、除去することが所望されることが多いからである。
【0111】
本発明の方法では、美容を改善するために、好ましくは、この組成物は、脂肪の増強を望む部位の美容の処置において使用される。そのような部位は、手術を受ける被験体によって異なるが、例えば、胸部(乳房を含む)、臀部、顔面(整形手術など))、手背などを挙げることができるがそれらに限定されない。好ましい実施形態において、本発明の方法では、脂肪を得る工程は、脂肪を吸引することにより実施されることが好ましい。
【0112】
より好ましくは、本発明の方法は、所望の部位に対応する分化細胞を、処置される被検体の脂肪から得る工程を包含し得る。免疫拒絶反応を回避できるからである。また、この場合、被検体が除去を望む脂肪を除くことができ、増強を望む部位に効率よくかつ定着性よく移植することができるからである。これは、従来技術のように脂肪を吸引しそれをそのまま利用することに比べて、術後の経過が改善されることからも実証される。
【0113】
1つの好ましい実施形態において、本発明は、本発明の方法で用いられる脂肪由来前駆細胞を、前記被検体の腹部から得る工程をさらに包含し得る。そのような場合、脂肪細胞は、現代人が不要とする部分の脂肪(例えば、腹部、胸部、臀部、大腿部、上腕部、顔部などの脂肪)から調製することができる。腹部、臀部などが好ましい。腹部、臀部などは、脂肪がたまりやすい部位であり、除去することが所望されることが多いからである。このような除去は、例えば、吸引除去などを挙げることができるがそれらに限定されない。脂肪由来前駆細胞を含む吸引された脂肪は、改変することなくそのまま利用することもできるが、脂肪由来前駆細胞は、脂肪吸引による吸引物の液体部分または脂肪部分から得てもよい。
【0114】
この組成物は、当該分野において公知の任意の方法によって投与することができる。例えば、この組成物は、シリンジ、カテーテル、チューブなどを用いて注入され得るがそれらに限定されない。好ましくは、例示的な投与形態としては、局所注入(皮下注入、筋肉や脂肪など臓器内注入)、静脈内注入、動脈内注入、組織上投与などが挙げられるが、それらに限定されない。本発明のこの移植による処置または予防方法がもたらす、例えば、従来技術と比べて有利な点としては、例えば、(1)生体外で再生組織を作る(エキソビボ産生)必要がない;(2)より確実に大きな組織の再生が可能である;(3)簡便かつ短時間の処理により産生が可能である;(4)皮膚など臓器を切開する手術を必要とせず、針を刺すことによって細胞および組織を投与(移植)することが可能であることなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0115】
(使用)
別の局面において、本発明は、a)脂肪由来前駆細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞との混合物の、所望の部位に対応する分化細胞の欠損または劣化に伴う疾患、障害または異常状態を処置または予防するため、あるいは美容状態を処置または改善するための細胞移植物のための使用を提供する。ここで、移植に使用される細胞混合物中の分化細胞および脂肪由来前駆細胞は、本明細書において、「分化細胞を調製するための方法」、「細胞混合物」および「細胞混合を用いた治療、美容および予防法」において説明したような任意の形態であり得る。
【0116】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記実施形態にも下記実施例にも限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0117】
以下に示した実施例において使用した試薬は、特に言及しない限り和光純薬、Sigmaから得た。動物の飼育は、National Society for Medical Researchg作成した「Principles of Laboratory Animal Care」およびInstitute of Laboratory Animal Resourceが作成、National Institute of Healthが公表した「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(NIH Publication, No. 86−23, 1985,改訂)に遵って、動物愛護精神に則って行った。ヒトを対象とする場合は、事前に同意を得た上で実験を行った。
【0118】
(実施例1:コラゲナーゼを用いる脂肪由来前駆細胞の調製)
本実施例では、まず、脂肪由来前駆細胞を、本実験に対して同意を示したヒトから吸引脂肪より調製した。詳細には、吸引脂肪を1リットル大の分液漏斗を用いて生理食塩水で十分に洗浄した。上層に吸引脂肪、下層に生理食塩水が十分に分離したのを確認し、下層を捨て、肉眼で見て生理食塩水がほぼ透明になるまでこれを繰り返した。この実施例では、5回行った。
【0119】
吸引脂肪を10mlと同量の0.075%コラゲナーゼ/PBSを加え、37℃でよく攪拌しながら30分間インキュベートした。この試料に、同量の10%血清加DMEMを加え、1200×gで10分間遠心分離した。
【0120】
遠心分離により得られたペレットに0.16M NHCl/PBSを加えて懸濁し、室温で10分間インキュベートした。この試料を口径100μmのメッシュ(Whatman)を用いて吸引ろ過した。この得られたろ過物を1200×gで5分間遠心分離した。この細胞調製物は、PLAとも呼ぶ。幹細胞であることは、細胞マーカー(例えば、CD4、CD13、CD34、CD36、CD49d、CD71、CD90、CD105、CD117、CD151等)を用いて確認する。
【0121】
(実施例2:脂肪吸引による吸引物の液体部分からの、細胞懸濁液の調製)
脂肪吸引による吸引物の液体部分について、以下の2方法のいずれかを用いて処理することによって、幹細胞懸濁液を調製した。以下の2方法のいずれも、コラゲナーゼなどの酵素を用いる処理が不要であるため、コラゲナーゼなどの酵素の混入がない点において、従来法とは異なる。
【0122】
(I)調製方法1
1)脂肪吸引による吸引物の液体部分(通常、2〜4リットル程度)を400×g、10分間、遠心分離した。
2)上清を捨てた。ただし、沈殿した細胞は浮遊しやすいため、アスピレーターを用いて、細胞を損傷しないよう慎重に吸引した。
3)沈殿した細胞(ほとんどが赤血球)を50mlのポリプロピレン製チューブ数本に移し、遠心分離(400×g、5分間)した。
4)上清を吸引し、総量が15〜20mlとなるように沈殿細胞を集めた。マトリクス成分が多く含まれる場合は、マトリクス成分を、100μmフィルターで濾過・除去した。その後必要に応じて、遠心分離を行なった。
5)50mlのチューブにフィコール(登録商標)15mlを入れ、その上に層を作るように極力ゆっくりと細胞液15〜20mlを加えた。
6)チューブを400×g、30分間、遠心分離した。(18〜20℃)
7)遠心分離後、細胞溶液を4層に分離した。上から(A層)無細胞層(透明)、(B層)単核球層(淡赤色)、(C層)フィコール層(透明)、(D層)赤血球層(濃赤色)で、幹細胞を含む接着細胞群が、B層およびC層に含まれていた。A層を吸引後、B層および約3ml程度のC層を細胞懸濁液として回収し、50mlのチューブに移した。
8)回収した細胞懸濁液に、血清加PBS(10%FBS、もしくは10%ヒト血清を加えたPBS)を加えて50mlとし、ピペッティングによる混和後、遠心分離(400×g、5分間)した。
9)上清を吸引し、再度血清加PBSを加えて50mlとし、ピペッティングによる混和後、遠心分離(400×g、5分間)した。
10)上清を吸引し、沈殿した幹細胞を含む細胞群を回収した。
【0123】
(II)調製方法2
1)クリーンベンチ内で、吸引管を用いて脂肪吸引による吸引物の液体部分を吸引し、フィルター(ポアサイズ;120μm)付きリザーバーを通して、ろ過液を閉鎖分離バックに封入した。
2)セルセパレーター(血液成分分離装置ASTEC204、(株)アムコ、東京、日本)で遠心分離法にて3回プロセシングを行い、比重の軽い血小板成分、比重の重い赤血球、顆粒球成分を可及的に除去した。
3)幹細胞を高濃度に含む分画(約30〜40ml)を採取した。単離した細胞の比重は、1.050〜1.075の範囲であった。
【0124】
おおまかな細胞の比重は、パーコールTM、レディグラッドTMなどのような密度勾配遠心分離媒体を塩化ナトリウム溶液またはスクロース溶液に配合し、収集した細胞およびデンシティーマーカービーズ(density marker beads)を混合物に加えて遠心し、ビーズによって分けられた5−10層のうち、どの層に細胞があるか(細胞を含む層が細胞の比重を示す)を確認することで、調べることが可能である。
【0125】
単離した細胞の写真を、図1に示す。
(実施例3:回収した幹細胞の特徴付け)
実施例2において回収した幹細胞を、以下の手順でFACSを用いて特徴付けした。
【0126】
約5mlの細胞懸濁液を、染色培地(SM;0.5% ウシ血清アルブミンおよび0.05% NaN3を含むPBS)で2回洗浄した。必要に応じて、細胞を計数した。
【0127】
約1〜10×10細胞/mlの細胞懸濁液に対して、最終濃度として0.001〜0.1μg/mlの標識化抗体(標識には、フィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)および/またはフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を用いた)を添加した。
【0128】
氷上で30分間ほど、混合物をインキュベーションした後、細胞を洗浄し、SMを用いて細胞浮遊液の濃度を5×10細胞/ml程度に調整した。
【0129】
FACS Vantage(Becton Dickinson社)を使用した。抗体の標識を指標として、単離した幹細胞における各種CDタンパク質の発現を解析した。その結果、脂肪吸引による吸引物の液体部分由来の幹細胞は、表1に示すように、CD90およびCD49dを発現することが判明した。
【0130】
単離した幹細胞を、DMEM培地において2回継代培養した。継代は、80%のコンフルエンス時に行った。2度の継代培養後の細胞を、上記と同様の手順でFACSによる分析を行った。その結果を以下の表1に示す。
【0131】
(表1:2回継代培養した後の幹細胞における種々のCDの発現)
CD 発現量
3 −
4 −
11c −
13 ++
14 −
15 −
16 −
19 −
29 ++
31 +
33 −
34 +
36 ++
38 −
44 +
45 +
49d ++
54 +
56 −
58 +
61 −
62E −
62P −
69 −
71 ++
73 ++
90 ++
104 −
105 ++
106 −
117 +
135 −
144 −
146 +
151 ++
235a −
SH3 +
STRO−1 +
「−」=発現検出されず、
「+」=20%以下の細胞に検出される
「++」=20%以上の細胞に検出される
以上の結果から、脂肪吸引による吸引物の液体部分から調製された幹細胞には、間葉系幹細胞は含まれるものの、従来法によって調製される脂肪由来幹細胞群と異なり、CD31、34陽性細胞が含まれた。従って、本発明の方法によって調製された幹細胞は、血管内皮への分化(血管新生)が容易かつ高効率で可能な細胞群であることが理解できる。さらに、本明細書中で指標として用いたCD発現は、2回継代培養した後に確認されていることから、本発明の幹細胞は、2回程度の継代培養後もその表現型をほとんど変化しないことが理解される。
(実施例4:複数の被検体から脂肪吸引により得た吸引物の液体部分より回収した幹細胞の特徴付け)
さらに、複数の被検体から脂肪吸引により得た吸引物の液体部分より幹細胞を回収し、その特徴付を行った。その結果を以下に示す。
【0132】
(表2:複数の被検体から脂肪吸引により得た吸引物の液体部分より回収した幹細胞の特徴付けの結果)
【0133】
【表2】

数字は、細胞集団中で、各タンパク質を発現する幹細胞の割合(%)を示す。
「−」=発現検出されず、「+」=発現検出された、N.T.=試験せず。
【0134】
収集された幹細胞は、その集団のほとんどの細胞が、CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、およびSH3について陽性であった。従って、本発明の脂肪由来前駆細胞は、CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、およびSH3からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する細胞である。CD106を発現する幹細胞であることが、本発明において使用される脂肪由来前駆細胞の特徴の1つである。また、CD31、CD45、CD117、およびCD146については、その幹細胞の集団の一部が陽性であり、一部は陰性であった。
【0135】
その幹細胞の集団は、CD3、CD4、CD14、CD15、CD16、CD19、CD33、CD38、CD56、CD61、CD62e、CD62p、CD69、CD104、CD135、およびCD144については、陰性であった。従って、本発明の脂肪由来前駆細胞は、CD3、CD4、CD14、CD15、CD16、CD19、CD33、CD38、CD56、CD61、CD62e、CD62p、CD69、CD104、CD135、およびCD144の少なくとも1つを発現しない細胞である。
【0136】
この幹細胞の集団を、分化誘導培地で培養する場合、2−3週間で骨、軟骨、脂肪など臓器特異的なタンパク質の発現が認められた。この幹細胞の集団は、ヒト真皮由来培養線維芽細胞とは異なり、線維芽細胞の多くの細胞で発現するCD56を、発現しなかった。逆に、この幹細胞の集団が発現するCD105の発現は、線維芽細胞では、通常は見られなかった。また、この幹細胞の集団が発現するCD49dの発現は、骨髄由来間葉系幹細胞では通常は見られなかった。
【0137】
また、CD31、CD34、CD36、CD45、CD106、およびCD117は培養期間が長くなると発現が無くなる傾向が見られた。そのため、継代培養を続けた場合、継代培養前に見られたCD106発現が見られなくなる場合がある。
【0138】
(実施例5:脂肪組織の調製)
次に、分化細胞として、同意を得たヒト被験体の脂肪組織を調製した。分離は、当該分野において周知の技法を用いて行った。簡単に述べると、同意を得たヒト被験体から得た脂肪組織吸引物からヒトの脂肪組織を無菌条件下で分離した。この組織塊は、脂肪細胞用の培地((500ml)組成=イーグル培地* 4.75g;10%NaHCO 10ml;グルタミン 0.3g;カナマイシン(20mg/ml) 1.5ml;ペニシリンストレプトマイシン5ml;FBS(10%))中に保存した。組織塊は、組織のまま使用してもよいし、さらに分離して脂肪細胞として使用してもよい。
*イーグル培地成分組成 (9.5g中)
塩化ナトリウム 6400mg
塩化カリウム 400mg
塩化カルシウム(無水) 200mg
硫酸マグネシウム(無水) 97.7mg
リン酸二水素ナトリウム(無水) 108mg
硝酸第二鉄(九水塩) 0.1mg
ブドウ糖 1000mg
ピルビン酸ナトリウム 110mg
コハク酸 106mg
コハク酸ナトリウム(六水塩) 27mg
L-アルギニン塩酸塩 84mg
L-システイン塩酸塩(一水塩) 70.3mg
グリシン 30mg
L-ヒスチジン塩酸塩(一水塩) 42mg
L-イソロイシン 104.8mg
L-ロイシン 104.8mg
L-リジン塩酸塩 146.2mg
L-メチオニン 30mg
L-フェニルアラニン 66mg
L-セリン 42mg
L-スレオニン 95.2mg
L-トリプトファン 16mg
L-チロシン二ナトリウム 89.5mg
L-バリン 93.6mg
重酒石酸コリン 7.2mg
葉酸 4mg
ニコチン酸アミド 4mg
パントテン酸カルシウム 4mg
塩酸ピリドキサール 4mg
リボフラビン 0.4mg
塩酸チアミン 4mg
i-イノシトール 7.2mg
フェノールレッド 5mg。
【0139】
(実施例6:脂肪細胞の混合)
次に、実施例1で調製した脂肪由来前駆細胞(PLA)をさらなる処理をせずに、実施例2で調製した分化細胞である脂肪組織(脂肪細胞集団)と混合し、分化が促進し再生されるかどうかを確認した。
【0140】
まず、実施例2で調製した脂肪組織塊1ml(900mg)(A)、またはその脂肪組織1ml(900mg)に、実施例1で調製した10mlの吸引脂肪由来のPLA混合したもの(B)を、SCID(重症複合免疫不全症)マウス(日本チャールズリバー)の背部皮下に注入した。注入は、シリンジを用いて行った。4週間後の注入部位の組織を採取し、移植された脂肪組織の重量を測定し組織を調べた。
【0141】
(A)から移植4週間後に採取した組織の切片の細胞の写真を、それぞれ2例図2および3((A)について)示す。(B)から移植4週間後に採取した組織の切片の細胞の写真を、それぞれ2例図4および5((B)について)示す。明らかなように、PLAの混合による組織重量の維持における影響が明らかであった。
【0142】
(脂肪細胞の混合により脂肪組織再生)
PLAと脂肪組織を混合した場合、再生脂肪の平均重量は、814mg(n=8)であり、他方、脂肪組織のみの場合、平均重量は、408mg(n=5)であり、PLAの影響は(p<0.001)で明らかであった(図6)。図7は、SCIDマウスを移植後4週間に開いた様子を示す。また、図8は、このSCIDマウスから取り出した脂肪組織を示す。図7および8は、それぞれ脂肪組織のみを示し、右はPLAを加えた混合物を投与した組織を示す。図7および8からも明らかなように、PLAを含む混合物を投与した方が、顕著に組織が大きい様子が分かる。
【0143】
脂肪組織のみを注入すると、脂肪組織は、4週間後には約半分の重量になった。これは、脂肪組織の壊死が起こったためと考えられる。PLAを含む混合物を投与した場合に重量が保たれたのは、PLAが脂肪組織に分化誘導されたか、PLAが組織の破壊を防止する機能を有していたかのいずれかまたは両方の機能を有するからであると考えられる。
【0144】
(実施例7:DMEMで維持培養したPLAでの効果)
実施例1で調製したPLAをDMEM(実施例3におけるものと同一)中で維持したものを使用して同様の効果を確認した。具体的には、この調製物を、実施例1において調整し、実施例3において使用した脂肪由来前駆細胞(PLA)の代わりに用いた。その結果、900mgの脂肪に250万個のPLAを加えると約4〜5割脂肪組織が増殖していた。したがって、幹細胞は、取得後、培養し増殖させて維持したものであっても用いることができることがわかった。
【0145】
(実施例8:P199で培養したPLAでの効果)
M−199で培養した脂肪由来前駆細胞を、実施例1において調製し実施例3で使用した脂肪由来前駆細胞(PLA)の代わりに用いた。M−199の組成は以下のとおりである。
【0146】
M−199組成:
血管内皮細胞用培地(1リットル分の組成)
*medium199 9.5g
NaHCO 2.2g
FBS (15%)
acidic-FGF 2μg
ヘパリン 5mg
Antibiotic-Antimycotic(抗生剤) 10ml
(注)*M199組成mg/ml
L-アラニン 50
L-アルギニン・HCl 70
L-アスパラギン酸 60
L-システイン 0.1
L-シスチン 20
L-グルタミン酸 150(H2O)
L-グルタミン 100
グリシン 50
L-ヒスチジン・HCl・H2O 20
ヒドロキシ-L-プロリン 10
L-イソロイシン 40
L-ロイシン 120
L-リシン・HCl 70
L-メチオニン 30
L-フェニルアラニン 50
L-プロリン 40
L-セリン 50
L-トレオニン 60
L-トリプトファン 20
L-チロシン 40
L-バリン 50
グルタチオン(還元型) 0.05
CaCl2・2H2O 264.9
KCl 400
MgSO4・7H2O 97.7(無水型)
NaCl 6800
NaHCO3 2200
NaH2PO4 140(2H2O)
Fe(NO3)3・9H2O 0.72
CH3COONa・3H2O 83
フェノールレッド 15
D-ビオチン 0.01
葉酸 0.01
ニコチンアミド 0.025
パントテン酸カルシウム 0.01
ピリドキサール・HCl 0.025
ピリドキシン・HCl 0.025
リボフラビン 0.01
チアミン・HCl 0.01
アデニン 10(SO4)
塩化コリン 0.5
ヒポキサンチン 0.3
i-イノシトール 0.05
p−アミノ安息香酸 0.05
グアニン・HCl 0.3
キサンチン 0.3
チミン 0.3
ウラシル 0.3
ニコチン酸 0.025
ビタミンA 0.1
カルシフェロール 0.1
メナジオン 0.01
α-トコフェロール 0.05
アスコルビン酸 20
Tween80 20
コレステロール 0.2
ATP・2Na 1
アデニル酸 0.2
リボース 0.5
デオキシリボース 0.5。
【0147】
その結果、M−199培地で培養した脂肪由来前駆細胞を脂肪に加えると脂肪組織が増殖していることが分かった。したがって、幹細胞は、取得後、任意の培地において維持したものであっても用いることができることがわかった。
【0148】
(実施例9:骨細胞での応用)
次に、骨細胞を用いて、本発明の細胞混合物を移植するのと同様の移植実験を行う。骨細胞は、当該分野において周知の技法を用いて、骨をマウスから採取し、骨組織とする。この骨組織と実施例1で調製したPLAとを混合して、骨に移植する。すると、骨の再生を本発明の混合移植物が支持することが分かる。
【0149】
(実施例10:血管新生での応用)
次に、血管細胞を用いて、同様の混合移植実験を行う。血管細胞は、当該分野において周知の技法を用いて、血管をマウスから採取し、血管組織とする。この血管組織と実施例1で調製したPLAとを混合して、血管に移植する。すると、血管の再生を本発明の混合移植物が支持することが分かる。
【0150】
(実施例11:インビボでの効果)
次に、乳房の容量を増強させたいヒト患者に対して、本発明の細胞混合物の移植を実施して、実際に所望の効果があるかどうかを確認する。
【0151】
被検体は、37歳の女性(胸囲、他の乳房を評価する基準(例えば、AAAカップなど)を対象とした。
【0152】
この女性患者から脂肪を1300ml吸引した。このうち、脂肪600mlおよび脂肪を洗浄した液体および幹細胞を採取した。脂肪の洗浄には、生理食塩水(0.9% NaCl)を用いた。具体的には、脂肪は、以下のように調製した。
【0153】
1)女性被験体を全身麻酔し、トゥメセント液(1000mlの生理食塩水、1mgのアドレナリン)を脂肪吸引予定部に注入した。
【0154】
2)SAL PUMP(SAL 76−A、Keisei Ika−Kogyo、東京、日本)を用いて脂肪吸引した。
【0155】
3)吸引組織を洗浄した。洗浄には、生理食塩水(0.9% NaCl、大塚製薬株式会社)を使用した。得られた液体と洗浄後の吸引脂肪にわけた。
【0156】
4)液体の全部、洗浄後の吸引脂肪の一部(600ml)を用いて、実施例1に記載の手順に従って、細胞を採取した。
【0157】
600mlの脂肪から、約3.7×10細胞を得ることができた。この中には、幹細胞およびそれ以外の細胞が含まれていたが、幹細胞は天然の状態の脂肪組織よりも濃縮されていた。液体からは、約8.2×10細胞を得ることができた。幹細胞は、実施例1に記載の方法に準じて調製した。
【0158】
手術では、残りの700mlの吸引脂肪のうち660mlを半分に分けて、注入脂肪量として330mlずつを左右の乳房に注入した。注入には、10−cc LeVeenTMインフレーター(Boston Scientific Corp,MA)を使用した。その後、上記のように調製した幹細胞を乳房に注入移植した。幹細胞画分として、上記のように調製した、細胞をすべて(1.19×10細胞=このうち、幹細胞は5×10〜2×10個程度存在すると見積もられる)を使用した。
【0159】
(結果)
術後2ヶ月で、胸囲は、Bカップにまで増強し、形状も自然であった。従来技術の脂肪のみの注入では、形状が安定せず、時間経過とともにもとに戻ることもしばしばあったが、本発明の方法では、定着性がよく、形状も自然になり得ることから、美容改善には顕著な効果を示すといえる。これは、従来の豊胸手術はシリコーンまたは脂肪をそのまま使うが、老化で皮膚が委縮して変形したり、体内に吸収されて効果が薄れたりすることが多かった。本発明の方法では、脂肪のみを使うより定着率が20〜50%またはそれ以上高まったことから、本発明は、美容、整形、形成などの分野において有用な画期的な方法が提供される。
【0160】
これらの方法を、他の患者に同様に試験したが、形状・安定性・定着性などに優れた効果が見られた。患者の中には、従来のシリコーンおよび/または脂肪のみの移植によって満足いく結果が得られていない患者が含まれていた。
【0161】
また、本発明の方法は、患者が所望しない部分の脂肪を除去し、患者の精神的満足も得られたことから、従来の方法では達成できない効果をもたらしたといえる。
【0162】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明は、簡便な方法で取得できる脂肪由来前駆細胞が、再生医療に応用できることを証明した。したがって、本発明の産業上の利用は、医薬品業界において見出される。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】図1は、実施例2に記載の方法によって調製した、脂肪吸引による吸引物の液体部分由来の幹細胞の写真である。
【図2】脂肪組織の切片写真である(40倍)。
【図3】脂肪組織の別の切片写真である(100倍)。
【図4】本発明の脂肪組織に脂肪由来前駆細胞を加えたものの切片写真である(40倍)。
【図5】本発明の脂肪組織に脂肪由来前駆細胞を加えたものの別の切片写真である(100倍)。
【図6】脂肪由来前駆細胞の脂肪組織における再生の影響を示す。左は脂肪組織のみを移植した場合(移植後4週間の重量)を示し、右は脂肪組織を脂肪由来前駆細胞とともに移植した場合(移植後4週間の重量)を示す。
【図7】実施例3において、SCIDマウスを移植後4週間に開いた様子を示す。
【図8】実施例3において、SCIDマウスから取り出した脂肪組織を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分化細胞を調製するための方法であって、以下の工程:
A)a)脂肪由来前駆細胞(adipose−derived precursor cell)と、
b)所望の部位に対応する分化細胞と、
を混合して混合物を得る工程;および
B)該脂肪由来前駆細胞の分化が生じるに十分な条件で該混合物を培養する工程、を包含する、方法。
【請求項2】
前記分化細胞は、間葉系細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分化細胞は、脂肪細胞、骨髄細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、肝細胞および膵細胞からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記脂肪由来前駆細胞が、CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD69、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151およびSH3からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記脂肪由来前駆細胞が、CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD69、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151およびSH3を発現する細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記脂肪由来前駆細胞が、CD31、CD45、CD117およびCD146からなる群から選択されるタンパク質の少なくとも1つをさらに発現する細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記脂肪由来前駆細胞が、CD56を発現しない細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記脂肪由来前駆細胞が、CD49dを発現し、CD56を発現しない細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
分化細胞への分化を促進する因子を提供する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記混合物は、副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲン、エストロゲンの誘導体、プロゲステロン、プロゲステロンの誘導体、アンドロゲン、アンドロゲンの誘導体、増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸塩、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、脱メチル化剤、ヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、サイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレンおよびセレンからなる群より選択される成分のうち少なくとも1つを含む培養液中で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記脂肪由来前駆細胞と、前記所望の部位に対応する分化細胞との比率は、該所望の部位の健常組織に存在する分化細胞よりも該脂肪由来前駆細胞の比率が高い、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記脂肪由来前駆細胞は、該所望の部位の健常組織に存在する該脂肪由来前駆細胞の比率より多い比率で前記混合物中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記脂肪由来前駆細胞は、該所望の部位の健常組織に存在する該脂肪由来前駆細胞の比率の約2〜約10倍高い比率で前記混合物中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
脂肪由来前駆細胞と、所望の部位に対応する分化細胞とを含む、細胞混合物。
【請求項15】
前記脂肪由来前駆細胞と、前記所望の部位に対応する分化細胞との比率は、該所望の部位の健常組織に存在する分化細胞よりも該脂肪由来前駆細胞の比率が高い、請求項14に記載の細胞混合物。
【請求項16】
前記脂肪由来前駆細胞と、前記所望の部位に対応する分化細胞との比率は、該所望の部位の健常組織に存在する分化細胞よりも該脂肪由来前駆細胞が約2〜約10倍高い比率である、請求項14に記載の細胞混合物。
【請求項17】
前記脂肪由来前駆細胞と、前記所望の部位に対応する分化細胞との比率は、該所望の部位の健常組織に存在する分化細胞よりも該脂肪由来前駆細胞が約2〜約5倍高い比率である、請求項14に記載の細胞混合物。
【請求項18】
前記細胞混合物は、前記脂肪幹細胞の分化が生じるに十分な条件に暴露されたものである、請求項14に記載の細胞混合物。
【請求項19】
前記所望の部位に対応する分化細胞は脂肪細胞であり、前記脂肪由来前駆細胞は、脂肪組織に存在する該脂肪由来前駆細胞よりも高い存在比で前記混合物中に存在する、請求項14に記載の細胞混合物。
【請求項20】
前記脂肪由来前駆細胞は、該所望の部位の健常組織に存在する該脂肪由来前駆細胞の比率より多い比率で前記混合物中に存在する、請求項19に記載の細胞混合物。
【請求項21】
前記脂肪由来前駆細胞は、該所望の部位の健常組織に存在する該脂肪由来前駆細胞の比率の約2〜約10倍高い比率で前記混合物中に存在する、請求項19に記載の細胞混合物。
【請求項22】
前記脂肪由来前駆細胞は、吸引脂肪に由来する、請求項19に記載の細胞混合物。
【請求項23】
前記脂肪由来前駆細胞は、脂肪吸引による吸引物の液体部分に由来する、請求項19に記載の細胞混合物。
【請求項24】
細胞移植のための組成物であって、
a)脂肪由来前駆細胞;および
b)所望の部位に対応する分化細胞、
を含有する、組成物。
【請求項25】
前記組成物は、前記所望の部位に移植される、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記分化細胞は、間葉系細胞である、請求項24に記載の組成物。
【請求項27】
前記分化細胞は、脂肪細胞、骨髄細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、肝細胞および膵細胞からなる群より選択される、請求項24に記載の組成物。
【請求項28】
前記分化細胞は、吸引脂肪から得られた細胞である、請求項24に記載の組成物。
【請求項29】
前記分化細胞は、脂肪吸引による吸引物の液体部分から得られた細胞である、請求項24に記載の組成物。
【請求項30】
副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲン、エストロゲンの誘導体、プロゲステロン、プロゲステロンの誘導体、アンドロゲン、アンドロゲンの誘導体、増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸塩、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、脱メチル化剤、ヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、サイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレンおよびセレンからなる群より選択される成分のうち少なくとも1つをさらに含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項31】
前記脂肪由来前駆細胞と、前記分化細胞とは、同種異系である、請求項24に記載の組成物。
【請求項32】
前記脂肪由来前駆細胞と、前記分化細胞とは、同系である、請求項24記載の組成物。
【請求項33】
分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するための方法であって、
A)a)脂肪由来前駆細胞;およびb)所望の部位に対応する分化細胞、を含有する、組成物を提供する工程、ならびに
B)被検体に、該組成物を投与する工程、
を包含する、方法。
【請求項34】
分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するため医薬であって、
a)脂肪由来前駆細胞;
b)所望の部位に対応する分化細胞;および
c)薬学的に受容可能なキャリア、
を含む、医薬。
【請求項35】
a)脂肪由来前駆細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞との混合物の、分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するための医薬の調製のための使用。
【請求項36】
美容状態を処置または改善するための方法であって、以下の工程:
A)a)脂肪由来前駆細胞;およびb)所望の部位に対応する分化細胞、を含有する、組成物を提供する工程、ならびに
B)被検体に、該組成物を投与する工程、
を包含する、方法。
【請求項37】
前記所望の部位に対応する分化細胞は、脂肪細胞である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記所望の部位に対応する分化細胞は、腹部脂肪に由来する、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記美容状態は、胸部である、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記所望の部位に対応する分化細胞を、前記被検体の脂肪から得る工程をさらに包含する、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
前記脂肪を得る工程は、脂肪を吸引することによって実施される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記脂肪由来前駆細胞を、前記被検体の腹部から得る工程をさらに包含する、請求項36に記載の方法。
【請求項43】
前記脂肪由来前駆細胞を、前記被検体の吸引脂肪から得る工程をさらに包含する、請求項36に記載の方法。
【請求項44】
前記脂肪吸引による吸引物の液体部分から、前記脂肪由来前駆細胞を得る工程をさらに包含する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
美容状態を処置または改善するため医薬であって、
a)脂肪由来前駆細胞;
b)所望の部位に対応する分化細胞;および
c)薬学的に受容可能なキャリア、
を含む、医薬。
【請求項46】
前記美容状態は、胸部の美容状態である、請求項45に記載の医薬。
【請求項47】
前記所望の部位に対応する分化細胞は、脂肪細胞である、請求項45に記載の医薬。
【請求項48】
前記所望の部位に対応する分化細胞は、腹部の脂肪細胞である、請求項45に記載の医薬。
【請求項49】
前記脂肪由来前駆細胞は、腹部の脂肪に由来する、請求項45に記載の医薬。
【請求項50】
前記脂肪由来前駆細胞は、該所望の部位の健常組織に存在する該脂肪由来前駆細胞の比率より高い比率で前記医薬中に存在する、請求項45に記載の医薬。
【請求項51】
前記薬学的に受容可能なキャリアは、細胞培養液または緩衝液を含む、請求項45に記載の医薬。
【請求項52】
a)脂肪由来前駆細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞との混合物の、美容状態を処置または改善するための医薬の調製のための使用。
【請求項53】
前記脂肪由来前駆細胞と、前記所望の部位に対応する分化細胞との比率は、該所望の部位の健常組織に存在する分化細胞よりも該脂肪由来前駆細胞の比率が高いことを特徴とする、請求項52に記載の使用。
【請求項54】
前記脂肪由来前駆細胞は、該所望の部位の健常組織に存在する該脂肪由来前駆細胞の比率の約2〜約10倍高い比率で前記混合物中に存在する、請求項52に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−507202(P2007−507202A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515477(P2006−515477)
【出願日】平成16年3月10日(2004.3.10)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003143
【国際公開番号】WO2005/035738
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(503368498)株式会社バイオマスター (11)
【Fターム(参考)】