説明

脂肪細胞分化促進剤

【課題】糖尿病の予防及び治療に有用で、安全性が高く、副作用を引き起こすリスクを有意に低減可能な脂肪細胞分化促進剤を提供。
【解決手段】分化した脂肪細胞の働きにより、糖尿病のみならず、高脂血症の予防や治療に繋がる、ハラタケ科マッシュルームの水またはエタノール水溶液による抽出物である、細胞分化促進活性を有する脂肪細胞分化促進剤、及びそれを有効成分として含有する糖尿病及び高脂血症の予防や治療が可能な医薬品または食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪細胞分化促進剤、及びこれを含有する医薬品または食品に関する。
【背景技術】
【0002】
国際糖尿病連合(IDF)の発表によると、世界の2007年現在の糖尿病人口は2億4,600万人であり、2025年には3億8,000万人に増加すると予測されている。糖尿病は、未治療の状態、または血糖値管理が不十分の状態で放置すると、三大合併症である神経障害、網膜症及び腎症に加えて、脳梗塞、脳卒中、心筋梗塞、皮膚合併症や下肢合併症など、様々な病気を引き起こすことが知られている。そして、現在、世界中で年間約380万人が、糖尿病に起因して命を落としている。
【0003】
糖尿病の原因の一つに、インスリン抵抗性(グルコース代謝の異常)が挙げられる。インスリン抵抗性とは、インスリンの作用効果が低下している状態であり、場合によっては、血糖を調節しようとして体内のインスリン分泌が過剰になり、高インスリン血症に至る。インスリン抵抗性は、肥満体の人に比較的多く見られる。基礎代謝を上回る栄養分が継続的に細胞に取り込まれると脂肪細胞が肥大化し、これにより、インスリンの働きを向上させる物質(アディポネクチン)の分泌量が減る一方、インスリンの働きを阻害する物質(TNA−αや遊離脂肪酸)が多く分泌されるようになる。そのため、インスリンの作用効果が低下していき、やがて糖尿病を疾患しうる。
【0004】
さらに、インスリン抵抗性は、遺伝的影響、並びに特定の栄養素の欠乏、過剰なカロリー摂取及び運動不足などの環境の影響によって生じるものとされている。インスリン抵抗性は、メタボリックシンドロームの主要な因子の1つであることも分かっている。メタボリックシンドロームとは、空腹時の血糖値が高く、糖尿病、高血圧、異常脂血症、腹部肥満、痛風やアテローム性の動脈硬化などを発症させうる総合的な代謝異常をいう。米国では、約4,700万人もの人間(成人の約4人に1人)がメタボリックシンドロームに罹患していると報告されている(非特許文献1)。
【0005】
インスリン抵抗性を改善する治療薬の成分として、チアゾリジン誘導体が知られている。該治療薬の作用機序について説明すると、該誘導体が受容体であるPPARγに結合し、PPARγの活性を上昇させて、前駆脂肪細胞を肥大化していない正常な脂肪細胞に分化誘導すると同時に、肥大化した脂肪細胞のアポトーシスを誘導する。分化した脂肪細胞は、アディポネクチンを積極的に分泌するため、糖や脂質の代謝が活発になり、血液中からの糖の取り込みが促進され、インスリン抵抗性を改善する。このような脂肪細胞の働きは、糖尿病のみならず、高脂血症の予防や治療に繋がる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JAMA,287,p.356−359,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記治療薬は、肝機能障害、浮腫、心肥大やなどの副作用を引き起こす可能性があるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、安全性が高く、副作用を引き起こすリスクを低減可能な脂肪細胞分化促進剤を提供することである。
【0009】
また、本発明の他の目的は、かような脂肪細胞分化促進剤を含有する医薬品または食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、安全性が十分に高いと推測される食品を広範にスクリーニングした結果、マッシュルームの抽出物がマウス前駆脂肪細胞(3T3−L1)の分化誘導促進作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、本発明者らは、該抽出物は、糖尿病の予防及び治療に有用であるだけでなく、高脂血症の予防や治療にも有用であることを見出した。
【0011】
そこで、上記目的を達成するための本発明は、マッシュルームに由来する抽出物から得られ、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への細胞分化促進活性を有する、脂肪細胞分化促進剤である。
【0012】
また、上記目的を達成するための本発明は、前記脂肪細胞分化促進剤を有効成分として含有する、医薬品または食品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化が促進されることによって、糖や脂質の代謝が活発になり、血中の糖及び中性脂肪の濃度を低下させることが可能であることから、糖尿病及び高脂血症の予防や治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例2における抽出物5を用いたマウス前駆脂肪細胞(3T3−L1)の細胞実験の結果を示す光学顕微鏡写真である。
【図2】実施例4のヒトモニター試験における空腹時血糖値の測定試験の総合的な推移の結果を示すグラフである。
【図3】実施例4のヒトモニター試験における空腹時血糖値の測定試験の検体ごとの推移の結果を示すグラフである。
【図4A】実施例4のヒトモニター試験における空腹時中性脂肪の測定試験のうち、150mg/dL以上300mg/dL未満の群についての総合的な推移の結果を示すグラフである。
【図4B】実施例4のヒトモニター試験における空腹時中性脂肪の測定試験のうち、300mg/dL以上の群についての総合的な推移の結果を示すグラフである。
【図5A】実施例4のヒトモニター試験における空腹時中性脂肪の測定試験のうち、150mg/dL以上300mg/dL未満の群についての検体ごとの推移の結果を示すグラフである。
【図5B】実施例4のヒトモニター試験における空腹時中性脂肪の測定試験のうち、300mg/dL以上の群についての検体ごとの推移の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第一態様は、マッシュルームに由来する抽出物から得られ、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への細胞分化促進活性を有する脂肪細胞分化促進剤である。
【0016】
前記マッシュルームは、生物学的分類でいえば、ハラタケ科(Agaricaceae)ハラタケ属(Agaricus)に属するAgaricus bisporusまたはAgaricus campestrisと表される。
【0017】
品種に関しては、特に限定されることはなく、ホワイト種、オフホワイト種、クリーム種、ブラウン種、Agaricus bitorquis種などが例示され、いずれも好ましく使用することができる。
【0018】
また、前記マッシュルームの利用可能な部位についても特に限定されることはなく、傘、ひだ、管孔、柄、肉、つば、つぼ、石突き、グレバ等よりなる部位から選択される一種以上が挙げられる。すなわち、一部位を単独で用いてもよく、また、複数の部位を混合して用いてもよい。
【0019】
前記マッシュルームに由来する抽出物は、子実体の任意の部位自体若しくはこれを粉砕したもの、各種の溶媒で抽出することにより得ることができる。
【0020】
前記溶媒としては、水、メタノール、無水エタノール及びエタノール等の低級アルコール、プロピレングリコール及び1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル及びジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、酢酸エチルエステル等のエステル類、ベンゼン及びキシレン等の芳香族類、クロロホルム等の含ハロゲン有機溶媒、ヘキサン及びヘプタン等の脂肪族炭化水素などの有機溶媒よりなる群から選択される一種以上を使用することができる。前記脂肪細胞分化促進剤を食品に含有させる場合には、水及び/またはエタノールを使用することが好ましく、水を使用することがより好ましい。なお、水及びエタノールを混合して使用する場合には、該混合液に対する水の含有率は、1〜99質量%であることが好ましく、5〜80質量%であることがより好ましい。
【0021】
抽出方法については、特に制限されることはないが、常圧または加圧下で、4〜200℃の温度帯で行われることが好ましく、40〜150℃であることがより好ましい。また、抽出時のpHは、1〜10であることが好ましく、3〜9であることがより好ましい。
【0022】
上記した条件で抽出を行うことにより、前記抽出物から、脂肪細胞分化促進活性を低下させることなく、脂肪細胞分化促進剤に相当する成分を抽出できる。抽出物そのままの状態で使用することもできるが、抽出物の安定性や品質などの観点から、濾過、合成吸着剤イオン交換樹脂、または活性炭などを用いて吸着、脱色及び/または精製することにより、溶液状、ペースト状、ゲル状または粉末状とすることが好ましい。
【0023】
また、本発明の第二態様は、前記脂肪細胞分化促進剤を有効成分として含有する、医薬品または食品である。上記第一態様により得られる、マッシュルームに由来する抽出物を、乾燥、濃縮または希釈などにより適宜調製し、場合によってはさらに精製することによって、多様な剤型や形態などを有する医薬品及び食品が得られる。以下、本態様による医薬品及び食品について説明する。
【0024】
本態様の医薬品としては、インスリン抵抗性に起因する疾病に対する予防剤若しくは治療剤であれば特に制限させることはなく、例えば、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症などに対する予防剤または治療剤などが挙げられる。
【0025】
前記医薬品の剤型は、錠剤、丸剤、散剤、粉剤、顆粒剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤またはカプセル剤などがありえ、これらを患者に経口投与することができる。また、前記医薬品は、軟膏、クリーム、粉状もしくは液状の塗布剤、または貼付剤などの外用剤として経皮的に投与されてもよい。本態様による医薬品の好ましい剤型や投与形態などは、患者の年齢、性別、体質、症状や処置時期などに応じて、医師によって適宜選択される。
【0026】
一方、前記医薬品のローション剤、クリーム剤及び軟膏などの半固形製剤は、前記医薬品を、脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、蝋、硬膏剤、樹脂、プラスチック、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤及び懸濁化剤などよりなる群から選択される一種以上と適宜混和することにより得られる。
【0027】
前記医薬品に含まれる、本発明による抽出物由来成分の含有量は、抽出方法・条件、投与形態、重篤度や目的とする投与量などによって様々であるが、製剤の全質量に対して0.01〜80質量%であることが好ましく、0.1〜50質量%であることがより好ましい。
【0028】
また、前記医薬品の投与量は、患者の年齢、体重及び症状、目的とする投与の形態及び方法、治療効果、並びに処置期間などによって異なり、正確な量は医師により決定されるものである。例を挙げるならば、前記医薬品が経口投与される場合には、前記抽出物の投与量換算で、成人に対し1日当り0.1〜2,000mgを1回または数回に分けて投与されうる。
【0029】
次に、本態様の食品の種類などについては、特に限定されることはない。すなわち、本発明によるマッシュルームに由来する抽出物には、インスリン抵抗性を改善し、かつ、肝機能障害などの副作用を引き起こすリスクを従来よりも顕著に低減できる脂肪細胞分化促進剤が含まれている。そこで、食事療法は、インスリン抵抗性を改善し、メタボリックシンドロームに罹患するであろう人間に対して、前記食品がメタボリックシンドローム疾患への予防や改善に貢献しうる。
【0030】
前記食品に含まれる、本発明による抽出物由来成分の含有量は、各食品の組成などによって様々であるため特に限定されることはないが、前記食品の全質量に対して0.01〜80質量%であることが好ましく、0.1〜60質量%であることがより好ましい。上記した範囲内の場合、上記した食事療法などの効果が有意に向上しうる。
【0031】
前記食品の具体例としては、飴、チューインガム、牛乳、ヨーグルト、乳清飲料、乳酸菌飲料、ジュース、お茶、飲料、アイスクリーム、プディング、水ようかん等が挙げられる。前記食品は、以下に限定されることはないが、前記抽出物に、通常の食品原料として使用されているもの、すなわち、デキストリン、セルロース、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料及び保存剤よりなる群から選択される1種以上を適宜配合することによっても得られる。
【0032】
なお、本発明の範囲は、上記した実施態様に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0033】
本発明について、下記の実施例によりさらに詳細に説明するが、当該実施例はあくまで例示にすぎず、本発明は以下に限定されることはない。
【0034】
[実施例1]
(抽出物1〜7の調製方法・条件)
市販のマッシュルーム(Agaricus bitorquis)200gを包丁にて細断後、600mlの溶媒を加えて攪拌し、有効成分の抽出を行った。なお、抽出条件(抽出温度、時間及び溶媒の種類)を下記表1に示す。なお、抽出に用いた水は、蒸留水であり、pH調整は行っていない。その後、不溶物をろ過し、得られた上澄み液をエバポレーターで部分濃縮後、凍結乾燥機にて処理を行い、粉末を得た。
【0035】
(抽出物8の調製方法・条件)
市販のマッシュルーム(Agaricus bitorquis)200gを包丁にて細断後、pH1に調整した水を600ml加えて、攪拌し、有効成分の抽出を行った。なお、抽出条件(抽出温度、時間など)を下記表1に示す。抽出後、不溶物をろ過し、得られた上澄み液のpHを水酸化ナトリウム水溶液により7とした。該上澄み液をエバポレーターで部分濃縮後、凍結乾燥機にて処理を行い、粉末を得た。
【0036】
(抽出物9の調製方法・条件)
市販のマッシュルーム(Agaricus bitorquis)200gを包丁にて細断後、水を600ml加えて、オートクレーブ処理による抽出を行った。なお、抽出条件(抽出温度、時間及び溶媒の種類)を下記表1に示す。オートクレーブ終了後、不溶物をろ過し、得られた上澄み液をエバポレーターで部分濃縮後、凍結乾燥機にて処理を行い、粉末を得た。
【0037】
上記の各抽出物における収率(固形分率)を下記表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
[実施例2]
マッシュルーム抽出物のマウス前駆脂肪細胞(3T3−L1)の分化促進活性の評価
マウス前駆脂肪細胞(3T3−L1)は、通常培養の条件下においては、線維芽細胞様の形態を示す。しかし、インスリン刺激を与えることにより、3T3−L1細胞は、その細胞内に脂肪粒を形成し、脂肪細胞に分化する。よって、前駆脂肪細胞内への脂肪の取り込み量を指標として、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化促進活性を評価することができる。
【0040】
3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化誘導は以下の方法で行った。培養細胞(3T3−L1)をトリプシン処理により回収し、4℃、1000rpmで3分間遠心分離を行った後、成長培地(growth medium)で細胞を懸濁させ、24穴プレートの各ウェルに4.2×10個となるように細胞をまいた。5%CO存在下、37℃で72時間培養後、実施例1で得られた抽出物を水に溶解させ100mg/mlの濃度とし、ろ過滅菌後、培養液中の最終濃度が1mg/mlとなるようにウェルに添加し、5%CO存在下、37℃で30分間静置した。その後、デキサメタゾン(Wako社)、イソブチルメチルキサンチン(Wako社)及びインスリン(Roche社)をそれぞれ最終濃度20μM、10μM及び0.085μMとなるように添加した。48時間後、成長培地を交換し、同濃度の抽出物を再度添加した。さらに、インスリンを最終濃度0.085μMとなるように加えた。その後、3日間隔で、培地交換、抽出物添加及びインスリンの添加を反復して行い、計9日間培養を行った。得られた細胞をPBS(−)0.5mlを用いて2回洗浄した後、10%中性緩衝ホルマリン液0.5mlを静かに加え、30分間静置することにより固定した。その後、PBS(−)0.5mlを用いて1回洗浄し、Oil Red O 染色液(Oil Red O 60%イソプロパノール飽和溶液)0.5mlを静かに加え、90分間静置した。さらにPBS(−)0.5mlを用いて1回洗浄した後、染色された脂肪粒を光学顕微鏡を用いて観察することにより、分化誘導の有無を下記の方法で評価した。
【0041】
なお、ポジティブコントロールの細胞群として、上記抽出物を細胞に添加せず、インスリンを最終濃度が1.7μMとなるように添加した点以外は、上記の方法・条件と同様にして分化誘導させた細胞群を用意した。さらに、ネガティブコントロールの細胞群として、上記抽出物を細胞に添加しない点以外は、上記の方法・条件と同様にして分化誘導させた細胞群を用意した。そして、上記各抽出物を与えられた細胞群(インスリン濃度0.085μM)、ポジティブコントロールの細胞群(インスリン濃度1.7μM)、及びネガティブコントロールの細胞群(インスリン濃度0.085μM)における分化誘導促進活性を比較した。具体的には、インスリン濃度1.7μMにおける分化度を100%、0.085μMにおける分化度を0%とした時の、各抽出物を添加した細胞群における分化度の割合で、分化誘導の促進度を評価した。その際の基準を下記表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
結果を下記表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
上記表3に示した結果より、抽出物1、2、5、6、7、8及び9において、約80〜100%の分化度、すなわち優れた分化誘導促進活性が認められることを見出した。
【0046】
ここで、図1は、上記の抽出物5を用いたマウス前駆脂肪細胞(3T3−L1)の細胞実験の結果を示す光学顕微鏡写真である。図中、左はネガティブコントロール群の3T3−L1、右は抽出物5を添加した(抽出物濃度:1mg/ml)3T3−L1をそれぞれ染色した結果を示している。抽出物5を添加すると、脂肪粒が多数発生することが分かる。
【0047】
[実施例3:マウスを用いたマッシュルーム抽出物の効果試験(動物実験)]
<試験動物及び飼育条件>
試験には、薬効薬理試験に一般的に用いられている動物種で、その系統維持が明らかな雄性マウスであるKK−Ay Ta/Jcl(SPF、日本クレア株式会社)を使用した。動物は、5週齢を入手した。入手後1日の体重範囲は、23.3〜28.9gであった。入手した動物は、5日間の検疫期間、その後3日間の馴化期間を設け、この間に体重測定を3回、一般状態の観察を1日1回行って、これらに異常の認められなかった動物を試験に用いた。
【0048】
動物は、設定温度23℃(実測値:21.5〜24.0℃)、設定湿度55%(実測値:39.6〜58.2%)、明暗各12時間(照明:午前6時〜午後6時)、換気回数12回/時(フィルターを通した新鮮空気)に維持された飼育室で飼育した。動物は、検疫・馴化期間中及び群分け後を通じて、オートクレーブ処理した床敷を入れた平床式プラスチック製ケージ(W:175×D:245×H:125mm)を用いて個別飼育をした。ケージ(床敷を含む)及び給水瓶の交換は1週間に2回以上行い、給餌器の交換は2週間に1回以上行った。動物飼育室の清掃・消毒は毎日行った。
【0049】
飼料は、検疫・馴化期間中及び群分け後のコントロール群では、製造後5ヵ月以内の粉末飼料(CRF−1、オリエンタル酵母工業株式会社)を給餌器に入れ、自由に摂取させた。群分け後の抽出物5群では、抽出物5を3%(w/w)混合した飼料を給餌器に入れ、自由に摂取させた。
【0050】
飲料水は、水道水を、給水瓶を用いて自由に摂取させた。
【0051】
<群分け法及び個体識別法>
群分けは、コンピュータを用いた無作為法により、群分け日の血中グルコース(Glu)及び群分け日の体重がほぼ等しくなるよう、投与開始日に行った。なお、群分け時には、Gluの低値または高値を示した動物を群分け対象から除外した。
【0052】
<投与>
投与は、上記の抽出物を混合した飼料を、マウス用粉末給餌器を用いて自由に摂取させた。投与期間は、投与開始日を投与1日とし、33日間とした。
【0053】
<試験群>
試験群等の詳細について、下記表4にまとめて示す。
【0054】
【表4】

【0055】
<試験方法>
共通事項として、投与期間中は1日1回、一般状態の観察を行った。以下、各試験方法及びその結果について具体的に説明する。
【0056】
<空腹時血糖値の測定試験及びその結果>
上記の混餌(経口)投与後32日目に実施した。前日より給水下にて18時間以上絶食させた動物に対して眼窩静脈叢から約50μL採血し、グルコースCII−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を使用し、分光光度計(U−3010、日立ハイテクフィールディング)にてGluを測定した。
【0057】
結果として、コントロール群では、血糖値は130.2±3.8mg/dLであったのに対し、抽出物5の3%群の血糖値は119.1±7.6mg/dLであり、コントロール群と比較して低値を示した。なお、各個体及び全体の結果を下記表5に示す(Glu(mg/dL))。
【0058】
【表5】

【0059】
<HbA1cの測定試験及びその結果>
投与33日に実施した。4%ペントバルビタール麻酔(1mL/kg,i.p.)後、注射針を取り付けたポリプロピレン製注射筒を用いてヘパリン存在下で、腹大動脈から採血(約0.8mL)した。そして、生化学自動分析装置(AU400、オリンパス株式会社)を用いて、遠心分離後の残渣についてHbA1cを測定した。
【0060】
結果として、コントロール群ではHbA1cが5.9±0.3%であったのに対し、抽出物5の3%群ではHbA1cが5.1±0.3%であり、コントロール群と比較してHbA1cは有意に低値であった(p<0.05 vs コントロール群、t検定)。なお、各個体及び全体の結果を下記表6に示す(HbA1c(%):検体投与後33日)。
【0061】
【表6】

【0062】
[実施例4:ヒトを用いたマッシュルーム抽出物の効果試験(臨床実験)]
<ヒトのモニター試験用の抽出物の調製方法>
市販の生マッシュルーム70kgを測り採り、水洗したものに、等量の水道水70kgを加え、マスコロイダーにて破砕し、マッシュルーム破砕物を得た。得られたマッシュルーム破砕物に、水道水140kgを加えた。その後、生マッシュルームの質量に対して、1.05質量%となるようにクエン酸735g添加し、pHを4とした。その後、マッシュルーム破砕物の細胞壁を部分的に分解し、且つ殺菌工程として85℃で10分間加熱して、マッシュルーム破砕加熱物を得た。
【0063】
次に、マッシュルーム破砕加熱物を40℃まで冷却した後、マッシュルーム破砕加熱物に、生マッシュルームの質量に対して、0.1質量%となるようにセルラーゼ製剤70gを水道水200mlに懸濁させながら添加し、40℃で1時間緩やかに攪拌させながら酵素処理を行い、マッシュルーム破砕酵素処理物を得た。
【0064】
次に、マッシュルーム破砕酵素処理物を60℃まで加温し、2時間、緩やかに攪拌させながら熱水抽出を行い、マッシュルーム抽出物を得た。
【0065】
その後、多板式遠心分離機にて遠心分離を行った後、濾紙及びセライト#2000で濾過を行い、残渣を除いて抽出液を得た。
【0066】
得られた抽出液を減圧濃縮機にて60℃で濃縮して濃縮液を得た。その後、110℃で5分間滅菌処理を行い、滅菌抽出液を得た。そして、滅菌抽出液のBrixを測定し、固形物換算値に対してデキストリンを30%添加し、スプレードライ処理により抽出物の乾燥粉末5.49kgを得た。
【0067】
<ヒトモニター試験方法>
下記の表7に試験項目及び試験内容を纏める。
【0068】
【表7】

【0069】
さらに、表8に対象者の内訳を示し、表9に評価項目等を示す。
【0070】
【表8】

【0071】
【表9】

【0072】
<空腹時血糖値の測定試験及びその推移の結果>
空腹時血糖値は、ヘキソキナーゼUV法を用いて測定した。その際、機器としてJCA−BMシリーズ 自動分析装置 クリナライザ(JCA−BM9020、日本電子株式会社)を用い、試薬としてクイックオート ネオGLU−HK(シノテスト社)を用いた。
【0073】
試験前の空腹時血糖値が100mg/dL以上の群(7人)において、試験前の血糖値は111.0±14.1mg/dLであったのに対し、試験後の血糖値は107.0±14.8mg/dLとなった。かかる結果より、試験前の血糖値と比較して、試験後の血糖値は平均値として約96%となり、血糖値が低下することが分かった。なお、各個体及び全体の試験前後での結果を下記表10に示す(Glu(mg/dL))。
【0074】
【表10】

【0075】
ここで、表10に示した結果を図2及び図3に示す。
【0076】
<空腹時の中性脂肪値の測定及びその推移の結果>
中性脂肪(TG)は、酵素法(GK−GPO・遊離グリセロール)を用いて測定した。その際、機器として日立7600を用い、試薬としてピュアオートS TG−N(積水メディカル株式会社)を用いた。
【0077】
試験前の空腹時血糖値が150mg/dL以上300mg/dL未満の群(8人)において、試験前の中性脂肪値は204.9±42.0mg/dLであったのに対し、試験後の中性脂肪値は134.1±43.1mg/dLであった(p<0.01 vs 試験前、t検定)。一方、300mg/dL以上の群(3人)において、試験前の中性脂肪値は430.3±47.0mg/dLであったのに対し、試験後の中性脂肪値は275±60.8mg/dLであった。かかる結果より、試験前の中性脂肪値と比較して、試験後の中性脂肪値は平均値として、それぞれ約65%(150mg/dL以上300mg/dL未満の群)及び約64%(300mg/dL以上の群)となり、試験前後で顕著に中性脂肪値が低下することが分かった。なお、各個体及び全体の試験前後での結果を下記表11に示す(単位:mg/dL)。
【0078】
【表11】

【0079】
ここで、表11に示した結果を図4A及び図4B、並びに図5A及び5Bに示す。なお、図4A及び図5Aは150mg/dL以上300mg/dL未満の群についての結果を表し、図4B及び図5Bは300mg/dL以上の群についての結果を表す。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、優れた前駆脂肪細胞分化促進作用を有し、かつ安全性も高いため、各種の医薬品または食品に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マッシュルームに由来する抽出物から得られ、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への細胞分化促進活性を有する、脂肪細胞分化促進剤。
【請求項2】
前記抽出物は、水またはエタノール水溶液により抽出されたものである、請求項1に記載の脂肪細胞分化促進剤。
【請求項3】
前記脂肪細胞分化促進剤を有効成分として含有する、医薬品または食品。

【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−263344(P2009−263344A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70586(P2009−70586)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】