説明

脂肪酸エステルの製造方法

【課題】酵素を用いて油脂から脂肪酸エステルを製造するに際して、脂肪酸エステルの収率を増大させた方法を提供すること。
【解決手段】本発明は脂肪酸エステルの製造方法を提供する。この方法は、油脂および直鎖低級アルコールをリパーゼならびにモノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼによって反応させる工程を含む。本発明の方法によれば、バイオディーゼル燃料に適した脂肪酸エステルが効率的に得られ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を用いて油脂から脂肪酸エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃料として、一般に石油、軽油に代表される化石燃料が用いられている。これらの化石燃料、特にディーゼル自動車に用いられている軽油には、窒素化合物、イオウ化合物が多く含まれているため、ディーゼル自動車などの自動車からは、CO、NOx、SOxなどのガスが多量に排出されている。これらの排出ガスは、地球温暖化の原因、環境汚染の原因となっており、その排出量の削減が緊急の解決課題である。
【0003】
この軽油などの化石燃料に代わる燃料として、天然に存在する植物、動物、魚あるいは微生物が生産する油脂を用いる、いわゆるバイオディーゼル燃料が期待されている。これらの油脂のうち、食品製造のために用いられた油脂は環境に廃棄される場合が多く、環境問題を引き起こすので、廃油からのバイオディーゼル燃料は、大気汚染の防止と廃油の有効利用の点から、特に期待されている。
【0004】
バイオディーゼル燃料としては脂肪酸低級アルコールエステル(特に脂肪酸メチルエステル)が好ましく用いられる。脂肪酸エステルの製造のためには、グリセリド、特にトリグリセリド(以下、「TG」ともいう)を含む油脂を、グリセリンと該油脂を構成する脂肪酸とに分離し、次いでアルコールと脂肪酸とからエステルを製造する技術が要求される。その方法の一つとして、リパーゼを用いる脂肪酸エステルの製造研究が種々、行われている(特許文献1および2)。
【0005】
ところで、リパーゼの存在下で原料油脂と低級アルコールとを反応させた際に、トリグリセリド(TG)が完全に脂肪酸とグリセリンとに分解されず、モノグリセリド(以下、「MG」ともいう)またはジグリセリド(以下、「DG」ともいう)も生成される。このため、反応液中の脂肪酸エステルの含有率が抑えられてしまう。特に、モノグリセリドは、精製工程である蒸留において脂肪酸エステルと共に蒸留され、バイオディーゼル燃料の不純物となり、バイオディーゼル燃料の品質を損ない得る。したがって、バイオディーゼル燃料の製造においては、これらのMGおよびDGの残存を減らすことが求められている。
【0006】
非特許文献1には、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)のL2遺伝子による酵素が、MGおよびDGを加水分解するが、TGは加水分解しないことが記載されている。そのような加水分解性質のために、この酵素は、MGおよびDG分解性のリパーゼを意味するように「mdlB」と命名されている。
【特許文献1】国際特許出願公開第01/038553号公報
【特許文献2】国際特許出願公開第00/12743号公報
【特許文献3】特許第3343567号公報
【特許文献4】特許第3372087号公報
【非特許文献1】Tsuchiya, A.ら, FEMS Microbiology Letters, 143, (1996) 63-67
【非特許文献2】Minetoki, T.ら, Curr Genet (1996) 30: 432-438
【非特許文献3】Minetoki, T.ら, Appl Microbiol Biotechnol (1998) 50: 459-467
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、酵素を用いて油脂から脂肪酸エステルを製造するに際して、脂肪酸エステルの収率を増大させた方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、脂肪酸エステルの製造方法を提供し、この方法は、油脂と直鎖低級アルコールとを、リパーゼならびにモノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼによって反応させる工程を含む。
【0009】
1つの実施態様では、リパーゼならびにモノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼはそれぞれ、独立して、酵素または酵素を産生する菌体の形態である。
【0010】
別の実施態様では、モノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼは、アスペルギルス・オリゼ由来モノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼ(mdlB)である。
【0011】
さらなる実施態様では、本発明の方法において、上記アスペルギルス・オリゼ由来モノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼ(mdlB)活性を示すように形質転換された菌体が用いられる。
【0012】
1つの実施態様では、上記工程は、
(a)油脂および直鎖低級アルコールを含む反応液中でリパーゼを作用させる工程;および
(b)工程(a)で得られた反応液中でモノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼを作用させる工程
を含む。
【0013】
さらなる実施態様では、上記工程(b)において、直鎖低級アルコールがさらに添加される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酵素を用いて、モノグリセリドやジグリセリドの残留を減少して純度の高い脂肪酸エステルを製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、リパーゼとモノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼとの組合せを用いて、油脂および直鎖低級アルコールから脂肪酸エステルを製造することを特徴とする。
【0016】
(リパーゼ)
本明細書において、「リパーゼ」とは、グリセリド(アシルグリセロールともいう)に作用して、該グリセリドをグリセリンまたは部分グリセリドと脂肪酸とに分解する能力を有し、直鎖低級アルコールの存在下ではエステル交換により脂肪酸エステルを生成する能力を有する酵素を意味する。本発明においては、特に、直鎖低級アルコールの存在下でトリグリセリド(TG)に作用して脂肪酸エステルを生成し得るリパーゼをいう(この性質より、「トリグリセリド分解性のリパーゼ」ともいう)。なお、この用語は、以下で詳述する「モノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼ」とは区別して用いられる。トリグリセリド分解性のリパーゼは、単独で用いてもまたは組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明の方法で用いられるリパーゼは、リパーゼ酵素の形態であっても、リパーゼを産生する菌体の形態であってもよい。
【0018】
菌体としては、リパーゼを産生する任意の微生物が使用できる。リパーゼは、1,3−特異的であってもよく、非特異的であってもよい。リパーゼを産生する微生物としては、糸状菌、細菌、酵母等が例示される。
【0019】
糸状菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属、ガラクトミセス(Galactomyces)属、ゲオトリカム(Geotricum)属、ムコール(Mucor)属、フィコミセス(Phycomyces)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属、リゾプス(Rhizopus)属等に属する微生物が挙げられる。
【0020】
細菌としては、シュードモナス(Pseudomonas)属、アルカリゲネス(Alkaligenes)属等に属する細菌が挙げられる。
【0021】
酵母としては、キャンディダ(Candida)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、ピヒア(Pichia)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、ヤロウィア(Yarrowia)属に属する酵母が挙げられる。
【0022】
上記微生物が耐熱性であれば、反応温度を高くすることができる。
【0023】
また、リパーゼ遺伝子が導入された組換え微生物も用いられ得る。この組換え微生物は、リパーゼを微生物体外へ分泌してもしなくともよい。従来、リパーゼは分泌されて発現すると考えられていたが、遊離型の(すなわち、プレ配列を有しない)リパーゼは微生物体内で発現され、蓄積され、そして、微生物の細胞内に存在するにもかかわらず、何らの微生物の処理も行うことなく、細胞内のリパーゼは脂肪酸アルコールエステル合成に関与し得る。
【0024】
リパーゼを微生物体外へ分泌しない微生物は、分泌に関与する配列が欠失した組換えリパーゼを発現し得る微生物であり得る。ここで、「分泌に関与する配列」とは、いわゆるプレ配列(シグナル配列)をいい、欠失とは、すべてのプレ配列(シグナル配列)が欠失した場合、一部の欠失により分泌が起こらない場合、およびプレ配列が破壊されて(例えば、アミノ酸の置換、欠失、付加などにより)分泌機能が破壊された場合などの、分泌が生じないようなすべての変異が含まれる。このような分泌に関与する配列が欠失した遺伝子は、既知のリパーゼ遺伝子を基にして、当業者が通常用いる遺伝子組換え技法を用いて作成される。
【0025】
本発明においては、インタクトな微生物を用い得る。「インタクトな微生物」とは、細胞膜の透過性を良くするための処理(例えば、溶媒処理等)を施していない微生物を意味する。インタクトな微生物には、単に乾燥した微生物も含まれる。インタクトな微生物の使用は、従来細胞膜の透過性向上などの目的で行われていた溶媒(例えば、アルコール、アセトン、クロロホルムなど)による処理が不要となり、溶媒回収設備あるいは防爆設備が不要となり、製造コストも大きく低下できる。
【0026】
本発明においては、酵素(リパーゼ)自体を用いることができる。リパーゼとしては、上記微生物が微生物外に分泌するリパーゼおよび市販のリパーゼも用いられ得る。市販のリパーゼとしては、例えば、ナガセケムテックス(株)製の商品名リリパーゼA−10FG(リゾプス・ジャポニカス由来)、商品名SM酵素(セラチア・マルセセンス由来)、商品名リパーゼPなど;天野製薬(株)製の商品名リパーゼF(リゾプス・オリゼ由来)、商品名リパーゼL(キャンディダ・リポリティカ由来)など;および名糖産業(株)製のリパーゼ−OF(キャンディダ・ルゴーサ由来)などが挙げられる。
【0027】
上記微生物または酵素は固定化されていることが、再利用の点から好ましい。固定化は、当業者が微生物または酵素に応じて、適宜選択する適切な方法で行われる。例えば、包括法、物理的吸着法、担体への付着法、架橋法、イオン吸着法、疎水結合法等が挙げられる。担体に微生物を吸着ないし付着させる方法が、作製が容易であるので、好ましい。また、酵素を用いる場合、架橋法や疎水結合法も好ましい。また、市販の固定化リパーゼ、例えば、ノボザイム435、リポザイムIM60(いずれもノボノルディスク社製)も本発明に好適に用いられる。
【0028】
本発明において、「担体」とは、微生物または酵素を固定化することができる物質を意味し、好ましくは、水またはある特定の溶媒に対して不溶性の物質である。本発明に用いる担体の材質としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリアクリルアミド、ポリビニルフォルマール樹脂多孔質体、シリコンフォーム、セルロース多孔質体、発泡セラミック等の発泡体あるいは樹脂が好ましい。多孔質体あるいは発泡体の開口部の大きさは、固定化する微生物または酵素によっても異なるが、微生物を固定する場合は細胞が十分に入り込めて、増殖できる大きさが適当である。大腸菌、枯草菌などのバクテリアの場合は、約10μm〜500μm、糸状菌、酵母などの場合は50μm〜1,000μmが好適であるが、これに限定されない。酵素を固定化する場合は、多孔質担体の場合、その開口部は必ずしも上記の大きさでなくともよく、10μm以下であってもよい。
【0029】
また、担体の形状は問わない。担体の強度、培養効率等を考慮すると、球状あるいは立方体状で、大きさは、球状の場合、直径が2mm〜50mm、立方体状の場合、2mm〜50mm角が好ましい。
【0030】
上記のように、微生物と担体とを混合して培養するだけで、微生物は担体に固定され、アセトン、アルコール等の処理を行うことなく、そのまま使用され得るか、あるいは乾燥されて(すなわち、インタクトな固定化微生物として)使用され得る。
【0031】
このようにして得られるインタクトな固定化微生物は、浮遊状態で反応に用いられるか、カラム等に充填されて、いわゆるバイオリアクターとして用いることができ、連続的にあるいはバッチで繰り返し反応に用いることができる。
【0032】
(モノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼ)
本明細書において、「モノグリセリド(MG)およびジグリセリド(DG)分解性リパーゼ」とは、MGまたはDGあるいはその両方に作用して、グリセリドをグリセリンと脂肪酸とに分解する能力を有する酵素を意味する。特に、直鎖低級アルコールの存在下でMGまたはDG、あるいはその両方に作用して、脂肪酸エステルを生成し得るリパーゼをいう。このようなリパーゼは、さらにTGに作用するものを除外しない。TGに対するよりも、MGまたはDGあるいはその両方に対して作用する能力が顕著に大きいリパーゼが好ましい。
【0033】
MGおよびDG分解性リパーゼとしては、アスペルギルス・オリゼ由来のMGおよびDG分解性リパーゼ(mdlB)、およびペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)由来のMGおよびDG分解性リパーゼが挙げられる。このような酵素は、単独で用いられてもまたは組合せで用いられてもよい。
【0034】
MGおよびDG分解性リパーゼにおいても、酵素自体の形態であっても、該酵素を産生する菌体の形態であってもよい。酵素自体の形態としては、上記微生物が微生物外に分泌する酵素または市販の酵素であり得る。MGおよびDGに主に作用するリパーゼとして公知の市販の酵素に、ペニシリウム・カマンベルティ由来のリパーゼである商品名リパーゼG「アマノ」50(天野エンザイム株式会社)がある。
【0035】
リパーゼと同様に、MGおよびDG分解性リパーゼ遺伝子が導入された組換え微生物も用いられ得る。この組換え微生物も、リパーゼと同様に、MGおよびDG分解性リパーゼを微生物体外へ分泌してもしなくともよい。MGおよびDG分解性リパーゼを微生物体外へ分泌しない微生物は、分泌に関与する配列が欠失した組換え酵素を発現し得る微生物であり得る。組換え微生物は、MGおよびDG分解性リパーゼ遺伝子の遺伝子情報を基にして、当業者が通常用いる遺伝子組換え技法を用いて作成される。
【0036】
例えば、mdlB遺伝子をアスペルギルス・オリゼからクローニングして(分泌に関与する配列を欠失させてもさせなくてもよい)、(例えば、特許文献3および4に記載のように)強度の強いプロモーターの存在下で発現するようにアスペルギルス・オリゼ菌体に導入して該菌体を形質転換することで、mdlB酵素活性をより良好に発揮し得るアスペルギルス・オリゼ菌体を作出することができる。また、mdlB遺伝子を、リパーゼを産生する微生物(例えば、リゾプス・オリゼ)に導入して、リパーゼとMGおよびDG分解性リパーゼとの両方を発現させるようにしてもよい。
【0037】
リパーゼと同様に、インタクトな微生物を用い得る。再利用の点からは、上記微生物または酵素は固定化されていることが好ましい。
【0038】
(油脂)
本明細書において、「油脂」とは、グリセリド、特にTGを多く含む材料を意味する。グリセリドを構成するアシル基の種類および結合位置は限定されない。
【0039】
本発明において、油脂としては、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物が生産する油脂、これらの混合油脂、あるいはこれらの廃油が用いられ得る。植物油脂としては、大豆油、菜種油、パーム油、オリーブ油等が挙げられる。動物油脂としては、牛脂、豚脂、鯨油、羊脂等が挙げられる。魚油としては、イワシ油、マグロ油、イカ油等が挙げられる。微生物が生産する油脂としては、モルティエレラ属(Mortierella)やシゾキトリウム属(Schizochytrium)等に属する微生物によって生産される油脂が挙げられる。本発明においては、廃油とは、使用済みの植物および動物油脂をいい、例えば、天ぷら廃油などを意味する。廃油は、高温にさらされているので、水素化され、酸化され、あるいは過酸化された油を含んでいるが、これらも原料となり得る。水分を含んでいてもよい。
【0040】
(脂肪酸エステルの製造)
本発明による脂肪酸エステルの製造方法は、油脂および直鎖低級アルコールをリパーゼならびにMGおよびDG分解性リパーゼによって反応させる工程を含む。この工程により、油脂および直鎖低級アルコールはエステル交換反応を生じ、脂肪酸エステルが生成される(以下、「脂肪酸直鎖低級アルコールエステル生成反応」ともいう)。
【0041】
本明細書において、「直鎖低級アルコール」とは、炭素数1〜8の直鎖アルコールをいう。特に、メタノール、エタノール、プロパノールが好適である。バイオディーゼル燃料の生産のためには、適切にはメタノールが用いられ得る。
【0042】
上記脂肪酸直鎖低級アルコールエステル生成反応には、リパーゼまたはMGおよびDG分解性リパーゼ、またはそれらの組合せの存在下で、油脂および直鎖低級アルコールがエステル交換反応を生じ得る限り、任意の系(すなわち溶液)が用いられ得る。無溶媒系または微溶媒系が使用され得る。「無溶媒系」とは、油脂を溶解するための溶媒を含まない意味であり、エステル化反応に用いられる直鎖低級アルコールは、本願明細書に言う溶媒ではない。「微溶媒系」とは、油脂をエステル化反応に用いる直鎖低級アルコールに溶解させるために、補助的に溶媒が添加された系を意味する。油脂が直鎖低級アルコールに完全に溶解しない場合でも、反応は進行するため、必ずしも、溶媒を添加する必要もない。溶媒の添加により油脂が溶解され、反応速度が大きくなる可能性がある。
【0043】
上記工程において、リパーゼとMGおよびDG分解性リパーゼとは、組み合わせて同時に反応に用いてもよく、または後述するようにリパーゼによる反応後にMGおよびDG分解性リパーゼによる反応を行ってもよい。
【0044】
1つの実施態様では、上記の脂肪酸直鎖低級アルコールエステル生成反応の工程は、(a)油脂および第一の直鎖低級アルコールを含む反応液中でリパーゼを作用させる工程;および(b)工程(a)で得られた反応液中でMGおよびDG分解性リパーゼを作用させる工程を含む。
【0045】
具体的な実施態様では、二段以上のカラムを用いることが考えられ、上流の段のカラムにリパーゼを産生する菌体(例えば、リゾプス・オリゼ)が固定化して詰められ、下流の段のカラムにMGおよびDG分解性リパーゼを産生する菌体(例えば、以下の実施例に記載のような形質転換アスペルギルス・オリゼ)が固定化して詰められる。もちろん、一段のカラムにリパーゼを産生する菌体とMGおよびDG分解性リパーゼを産生する菌体とが混合して固定化されていてもよい。
【0046】
上記工程(b)において、直鎖低級アルコールがさらに添加されてもよい。直鎖低級アルコールは、以下に説明するように分割添加され得る。
【0047】
本発明においては、水の存在下で、脂肪酸直鎖低級アルコールエステル生成反応を行い得る。一般に、リパーゼ(特にトリグリセリド(TG)分解性のリパーゼ)による脂肪酸直鎖低級アルコールエステル生成反応において、水分はエステル分解反応が生じるので好ましくないと考えられていた。他方で、油脂のうち、トリグリセリド(TG)と直鎖低級アルコールとから脂肪酸直鎖低級アルコールエステルを最も効率よく生じさせるには、理論的には、TG1モル(mol)に対して、直鎖低級アルコールを3モル(mol)加える必要がある。しかし、直鎖低級アルコールがある濃度以上になると、反応液中のリパーゼまたは微生物中のリパーゼを阻害ないし失活する傾向にある。これらに関して、リパーゼ、あるいはインタクトな微生物を用いて、水の存在下、脂肪酸直鎖低級アルコールエステル生成反応を行うことにより、上記2つの問題が一度に解決されることが見出されている(特許文献1)。すなわち、水を添加することにより、リパーゼの不活性化あるいは不可逆的失活が防止できること、および水の存在下でも、合成された脂肪酸エステルが分解されないことが見出されている。その結果、脂肪酸エステルが効率的に生成される。さらに、水の存在下、アルコールを分割添加することにより、脂肪酸エステルが効率よく生成されることも見出されている(特許文献1)。
【0048】
水は、反応系全量に対して、0.3質量%以上含まれることが好ましく、約1〜50質量%含まれることがより好ましく、約3〜30質量%含まれることがさらに好ましい。
【0049】
水を添加して反応を行う場合、直鎖低級アルコールの濃度は、用いるアルコールの種類によって適切な範囲が異なるが、要は、アルコールによる阻害が生じない程度であればよい。メタノールの場合は、メタノールと水との合計量に対して30質量%以下とすることが好ましい。25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。この場合、反応系に直鎖低級アルコールが油脂1モルに対して3モル以上存在しても、微生物のリパーゼは阻害されず、また不活性化もされない。従って、微生物はリサイクルできる。
【0050】
水と直鎖低級アルコールとは、別々に加えてもよいが、適切な濃度を有する水溶液として、油脂(例えばTG)に加えてもよい。
【0051】
また、本発明においては、直鎖低級アルコールを添加し、このアルコール濃度を、上記適切な濃度となるように維持しながら、反応物を回収し、生じる脂肪酸エステルとグリセリンとを分離(例えば静置分離)することにより、連続的に、脂肪酸エステル生成を行うこともできる。
【0052】
さらに、別の方法として、直鎖低級アルコール阻害を回避するために、直鎖低級アルコールを分割添加することもできる。すなわち、反応に用いられるリパーゼ(TG分解性のリパーゼならびに/またはMGおよびTG分解性リパーゼ)の阻害濃度(以下、「リパーゼ阻害濃度」ともいう)よりも低い濃度となるように、直鎖低級アルコールを添加する。なお、「リパーゼ阻害濃度」とは、微生物中のリパーゼの活性が阻害され、あるいはリパーゼが不可逆的に失活する濃度をいう。
【0053】
直鎖低級アルコールの分割添加の方法は、特に制限されない。バッチ式でもよく、連続式でもよい。バッチ式の場合、リパーゼ阻害濃度より低い直鎖低級アルコール濃度で反応を行い、ついで、この反応終了液に、直鎖低級アルコールを、リパーゼ阻害濃度よりも低い濃度となるように加えて、さらにエステル交換反応を行う方法(多段形式)でもよい。直鎖低級アルコールの濃度により、2バッチ(2段反応)で反応を終了させることもできるし、3バッチ(3段)またはそれ以上で反応を終了させてもよい。例えば、インタクトな固定化微生物を用い、直鎖低級アルコールとしてメタノールを用いる場合は、TG1モルに対して約2モルのメタノールでリパーゼ阻害が起こるように思われる(特許文献1)ので、それ以下のメタノール濃度とすることが好ましい。例えば、最初にTG1モルに対してメタノールを1モル加えて第1段階の反応を行い、第1段階の反応が終了した後に、さらにTG1モルに対してメタノールを1モル加えて第2段階の反応を行い、第2段階の反応終了後、さらにTG1モルに対してメタノール1モル加えて第3段階の反応を行って、反応が完結する。
【0054】
また、生じる脂肪酸低級アルコールエステルあるいは消費されるアルコールの量をモニターしながら、直鎖低級アルコールが常にTG1モルに対して1モル以下の濃度となるように、直鎖低級アルコールを滴下することも、分割添加の一態様である。
【0055】
さらに、脂肪酸エステルによってリパーゼ阻害が解除されるので、予め、脂肪酸エステルと直鎖低級アルコールとを混合した溶液を分割添加してもよい。分割添加はバッチ式でも、連続式でもよい。添加する脂肪酸エステルは、油脂と直鎖低級アルコールとの反応により生じる脂肪酸エステルと同じでも良いし、異なっていてもよい。脂肪酸エステルは、反応開始時に、反応液の5〜80質量%、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは、20〜70質量%、最も好ましくは、30〜50質量%となるように添加される。エステル合成反応により新たに脂肪酸エステルが生成するので、脂肪酸エステルの添加量は、阻害を解除できる範囲で、できるだけ少ない方がよい。
【0056】
酵素含有微生物または酵素の存在下での油脂と直鎖低級アルコールとの間のエステル交換反応は、一般的には、約5〜80℃、好ましくは、約15〜50℃、より好ましくは、約25〜45℃で行われ得る。反応温度は用いる微生物または酵素により決定すればよく、例えば、耐熱性の微生物または酵素であれば、比較的高温で反応できる。
【0057】
TG分解性のリパーゼとMGおよびTG分解性リパーゼとを同時に反応させる場合も別に反応させる場合も、それらの微生物または酵素に固有の反応温度に依存して決定される。特に、MGおよびTG分解性リパーゼは、一般的には、20〜50℃、好ましくは、20〜40℃、より好ましくは、30〜40℃で行われ得る。
【0058】
反応時間は、油脂と直鎖低級アルコールの組成と酵素(TG分解性のリパーゼならびに/またはMGおよびTG分解性リパーゼ)の量とに依存して決定される。
【0059】
反応終了後、生じた脂肪酸エステルは、静置、遠心分離、膜分離、分子蒸留、精密蒸留等の分離操作の常法により、グリセリン、未反応のグリセリドおよび直鎖低級アルコールから分離され、回収される。
【0060】
本発明の方法によれば、従来の方法に比較して、エステルの回収率がより高められ(特に95質量%以上に向上)、モノグリセリドやジグリセリドは検出不能となるまで減少できる。したがって、本発明の方法により得られる生成物は、バイオディーゼル燃料として好適に使用できる。さらに、本発明の方法によれば、バイオディーゼル燃料として好適に使用できる生成物をより効率的に得ることができる。
【実施例】
【0061】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
1.ゲノム抽出方法
以下に示す手順を用いて、アスペルギルス・オリゼniaD300株からゲノムを抽出した。
【0063】
100ml容の坂口フラスコに入れた100mlのデキストリンペプトンDP1培地(ポリペプトン10g/l、KH2PO4 5g/l、NaNO3 1g/l、グルコース20g/l、MgSO4 0.5g/l)に、アスペルギルス・オリゼniaD300株(非特許文献2および3)の胞子を懸濁させた0.01%Tween80を500μl添加し、そして振盪数150opmのバイオシェーカーで30℃にて2日間培養した。次いで、ガラスフィルターを用いて集菌し、菌体に10mlのトリス−EDTA(TE)(トリス塩酸1.2g/l、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)1.3g/l)を添加し、次いで10mlの10%SDSを添加してよく撹拌し、そして振盪数150opmのバイオシェーカーで30℃にて5〜6時間振盪させた。次いで、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1の溶液10mlを用いて以下に示すようにフェノール/クロロホルム(PCI)抽出を行い、これをさらに2回繰り返した後、次いで、上記フェノール/クロロホルム抽出により得られた溶液に等量のクロロホルム溶液を添加してよく撹拌し、次いで8500rpmにて10分間遠心分離した。この上清に酢酸ナトリウム2mlおよび2−プロパノール15mlを添加してよく撹拌し、室温にて15分間放置した。8500rpmにて10分間遠心分離して沈殿を回収し、70%エタノールで洗浄して乾燥させ、1mlのTEに溶解させた。次いで、5μlのRNaseを添加して37℃にて1時間インキュベーションした。
【0064】
2.PCRによるmdlB遺伝子の取得
PCR法により、アスペルギルス・オリゼ由来のリパーゼmdlB全長を増幅した。PCRには、配列番号1のフォワードプライマーおよび配列番号2のリバースプライマーを用い、そして反応組成は、以下の通りである:蒸留水33μl;10×クローン化Pfu DNAポリメラーゼ反応バッファー5μl;2mM dNTPs 5μl;25mM MgSO4 2μl;DNA鋳型(上記1節で抽出したゲノム溶液)1μl;フォワードプライマー1.5μl;リバースプライマー1.5μl;KOD-plus-(DNAポリメラーゼ) 1μl)。上記の反応混合物を以下の反応サイクルで反応させた:94℃−2分;94℃−30秒、55℃−30秒、68℃−2.5分を35サイクル;68℃−3.5分;4℃。PCRにより得られた産物を、以下に示すフェノール/クロロホルム(PCI)抽出、クロロホルム抽出、およびエタノール沈殿によって精製した。
【0065】
精製の手順は以下の通りである。まず、核酸を含む水溶液に等量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1の溶液を添加し、これをよく撹拌し、次いで12000rpmにて10分間遠心分離し、水層である上層を取り出した。次いで、上記フェノール/クロロホルム抽出により得られた溶液に等量のクロロホルム溶液を添加してよく撹拌し、12000rpmにて10分間遠心分離し、上層を取り出した。次いで、上記クロロホルム抽出により得られた溶液に、3M酢酸ナトリウムを0.2M以上になるように添加し、さらにその溶液に2倍量の100%エタノールを加えてよく撹拌した。次いでこれを−80℃にて20分間冷却し、そして14000rpmにて10分間遠心分離した。次いで、減圧下(デシケーター中)で10〜15分間乾燥させ、TEバッファーに溶解した。
【0066】
3.形質転換ベクターpNAN8142-mdlBの作製
上記2節で増幅させたmdlBフラグメントおよびpNAN8142ベクター(非特許文献2に記載のpNAGG1または特許文献3および非特許文献3に記載のpNAGL142においてプロモーター領域をNo.8株プロモーター(特許文献4)に改変したもの)のそれぞれを、SalIおよびSphI(共にNew England Bio Labs社製)で切断し、次いでこれらの切断産物に10μlのLigation Mix(TAKARA)を加えて16℃にて25分間インキュベートして、mdlBとpNAN8142とを連結してpNAN8142-mdlBを得た。pNAN8142-mdlBを図1に示す。このプラスミドを、形質転換の際にプラスミドの導入効率を上げるため、制限酵素BamHI(New England Bio Labs社製)で切断して線状にした。
【0067】
4.pNAN8142-mdlBによるアスペルギルス・オリゼniaD300株の形質転換
以下に示すプロトプラスト−PEG法を用いてアスペルギルス・オリゼniaD300株の形質転換を行った。500ml坂口フラスコに入れてオートクレーブ滅菌したDP培地100mlにアスペルギルス・オリゼniaD300株を植菌し、30℃にて振盪数150opmのバイオシェーカーで2日間培養した。ガラスフィルターを用いて集菌し、洗浄して2gずつ50ml容コーニングチューブに移し、これにプロトプラスト化溶液(Yatalase(TaKaRa)5g/l;NaCl 47g/l;NaH2PO4 108g/l;Na2HPO4 14g/l)20mlを加え、バイオシェーカーで30℃にて3時間の条件で緩やかに振盪させてナイロンメッシュで濾過し、2000rpmにて5分間遠心分離した。生じた沈殿を0.8MのNaCl 5mlで懸濁して2000rpmにて5分間遠心分離し、そして再度この操作を行った。得られた産物を溶液I(NaCl 46.4g/l;CaCl2 1.1g/l;Tris-HCl(pH7.5) 6.1g/l)に懸濁させ、菌数を確認した後、2000rpmにて5分間遠心分離し、菌数が2.5×108/mlになるように溶液Iを加えた。この総量の4分の1量の溶液II(40%(w/v)PEG 4000 40 g/l;CaCl2 5.5g/l;Tris-HCl(pH7.5) 6.1g/l)を加え、200μlずつ15ml容コーニングチューブに分注した。これに1μg/μlの線状プラスミドDNAを10μl加えて氷上に30分間放置した。さらに1mlの溶液IIを加えて室温にて20分間放置した。次いで、10mlの溶液Iを加えて転倒混合し、2000rpmにて5分間遠心分離した。得られた溶液を400μlほど残して捨て、沈殿を懸濁させ、CDNaNO3培地(KH2PO4 1g/l;MgSO4・7H2O 0.5g/l;KCl 2g/l;NaNO3 2g/l;グルコース20g/l;NaCl 46.7g/l;寒天末 15g/l;CuSO4・5H2O 0.02g/l;FeSO4・7H2O 0.01g/l;ZnSO4・7H2O 0.001g/l;MnSO4・5H2O 0.001g/l;AlCl3 0.001g/l)のプレートの中央にまき、5% CD軟寒天(KH2PO4 1g/l;MgSO4・7H2O 0.5 g/l;KCl 2g/l;NaNO3 2g/l;グルコース 20g/l;NaCl 46.7g/l;寒天末15g/l;CuSO4・5H2O 0.02g/l;FeSO4・7H2O 0.01g/l;ZnSO4・7H2O 0.001g/l;MnSO4・5H2O 0.001g/l;AlCl3 0.001g/l)を直接かけないように撒いた後、均一に広げて30分間放置した。次いで、30℃にて4〜7日間インキュベートし、形質転換アスペルギルス・オリゼを得た。
【0068】
5.形質転換アスペルギルス・オリゼの固定化
以下の組成のデキストリンペプトンDP2培地(D-グルコース 20g/l、ポリペプトン 20g/l、KH2PO4 5g/l、NaNO3 1g/l、MgSO4・7H2O 0.5g/l)4リットルに6mm角のポリウレタンフォーム(ブリジストン社製:形式HR−50:以下、BSPsという)4800個をエアリフト型培養装置の培養槽(全高500mm、気層部:直径130mmおよび高さ440mm)内に入れてBSPsに培地を十分に馴染ませながら、上記4節で得た形質転換アスペルギルス・オリゼを加え、供給空気量25リットル/分下で30℃にて72時間培養して、BSPsに固定化した形質転換アスペルギルス・オリゼ(以下、BSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼという)を得た。このBSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼを、−83℃にて24時間、2.0mBar下で真空凍結乾燥した。
【0069】
6.BSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼを用いたグリセリドからのメチルエステル生成
BSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼを、メタノールと共に(A)ジグリセリド(DG)、(B)モノグリセリド(MG)、または(C)トリグリセリド(TG)のいずれかを含む反応基質と、振盪数150opmのバイオシェーカーで30℃にて24時間インキュベートした。各反応基質は、形質転換アスペルギルス・オリゼが固定化したBSPs20個当たり、水0.2g(5質量%)、ならびに以下の油脂およびメタノールの組合せを含む:(A)ジオレイン酸グリセロール3.80g、メタノール0.20g;(B)モノオレイン酸グリセロール3.68g、メタノール0.32g;(C)ダイズ油3.86g、メタノール0.14g(全量で4.00g)。
【0070】
反応液上層を逐次採取して、ガスクロマトグラフィーによって、トリカプリリンを内部標準としてメチルエステル(ME)を分析し、液中のメチルエステル(ME)含有率(質量%)を決定した。ガスクロマトグラフィー分析条件は以下の通りである:
カラム:DB−5、0.25mm×15m
カラム温度:
初期:150℃、0.5分
昇温:150〜300℃、10℃/分
最終温度:300℃、3分
インジェクター温度:245℃
ディテクター温度:320℃
キャリアガス:窒素ガス(2.5cm/分)
スピリット比:1/50。
【0071】
図2は、BSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼによる(A)DGを含む反応基質での反応、(B)MGを含む反応基質での反応、および(C)TGを含む反応基質での反応についてのメチルエステル含量の経時変化を示すグラフである。図2の縦軸は反応液中に生成した脂肪酸のメチルエステルの含量(質量%)を、そして横軸は反応時間(時間)を示す。図2中、四角は(A)DGを含む反応基質、菱形は(B)MGを含む反応基質、そして三角は(C)TGを含む反応基質を用いた結果を表す。反応24時間後、(A)DGを含む反応基質および(B)MGを含む反応基質を用いた場合にメチルエステルの生成が見られたのに対し、(C)TGを含む反応基質を用いた場合にはメチルエステルの生成がほとんど見られなかった。これは、BSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼが、TGに対する反応性はほとんどないがMGおよびDGと反応して脂肪酸メチルエステルを生成したことを示している。したがって、mdlBをアスペルギルス・オリゼからクローニングして、そして強度の強いプロモーターの存在下で発現するようにして、アスペルギルス・オリゼniaD300株に導入したところ、mdlBは、MGおよびDGと反応して脂肪酸メチルエステルを生成した。
【0072】
(実施例2)
BSPs固定化リゾプス・オリゼを以下のようにして作製した。蒸留水にポテトデキストロースアガー(Difco製)を40g/l、およびアガー(Difco製)を20g/l加えて攪拌しながら溶解した後、試験管に5mlずつ加え、オートクレーブで121℃にて20分滅菌してスラントを作製し、このスラントにリゾプス・オリゼIFO4697菌体を接種し、振盪数150opmのバイオシェーカーで30℃にて70時間培養した。次いで、上記菌体を、ポリペプトン30g/l、KH2PO4 1g/l、NaNO3 1g/l、およびMgSO4・7H2O 0.5g/lを含む基本培地100mlにグルコース10g/lを添加した培地中で、振盪数150opmのバイオシェーカーで30℃にて24時間インキュベートした。さらに、エアリフト型培養装置の培養槽(全高795mm、気層部:直径200mmおよび高さ350mm、液層部:直径150mmおよび高さ415mm、ループ直径80mm)内に上記基本培地10リットル、BSPs1800個/リットル、オリーブ油30g/リットルを入れ、これに菌体を加え、供給空気量25リットル/分下で30℃にて44時間培養し、菌体をBSPsに固定化した(以下、この産物をBSPs固定化リゾプス・オリゼともいう)。
【0073】
リゾプス・オリゼが固定化されたBSPs500個をダイズ油48.25g、メタノール1.75g、および水2.50g(5質量%)に添加し、そして30℃にて96時間インキュベートした。なお、メタノールは24時間毎に1.75gずつ計7.0gとなるように添加した。反応終了後に反応液上層を採取し、実施例1と同様の条件下でガスクロマトグラフィーにて反応液中のメチルエステルの含有率(質量%)を調べた。MGおよびDGの含有率(質量%)もまた実施例1と同様の条件下でガスクロマトグラフィーによって決定した。その結果、メチルエステル含有率が約85質量%であり、MGが1.26質量%、DGが9.23質量%残存していた。以下、この溶液を中間生成物という。
【0074】
次いで、この中間生成物を基質として、BSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼを用いてさらに反応を進行させた。対照にBSPs固定化リゾプス・オリゼを用いた。菌体が固定化しているBSPs20個を、水0.20g(5質量%)中に中間生成物3.80gおよびメタノール0.20g(全量で4.00g)を含む反応液と、振盪数150opmのバイオシェーカーで30℃にて24時間インキュベートした。実施例1と同様に、反応液上層を逐次採取して、ガスクロマトグラフィーにて反応液中のメチルエステル(ME)含有率(質量%)を分析した。また、MGおよびDGの含有率(質量%)もガスクロマトグラフィーによって決定した。
【0075】
図3は、BSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼを利用した反応およびBSPs固定化リゾプス・オリゼを利用した反応におけるメチルエステル含量の経時変化を示すグラフである。図3の縦軸は反応液中に生成した脂肪酸のメチルエステルの含量(質量%)、そして横軸は反応時間(時間)を示す。図3中、菱形はBSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼを用いた場合、そして四角はBSPs固定化リゾプス・オリゼを用いた場合の結果を表す。BSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼを用いた場合、メチルエステル含量は5時間後には93質量%に上昇し、24時間後では95質量%を上回ったのに対し、BSPs固定化リゾプス・オリゼを用いた場合、24時間後に91質量%に留まった。また、BSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼを用いた場合、24時間後には反応液からMG、DGはほとんど検出されなかったのに対し、BSPs固定化リゾプス・オリゼを用いた場合、24時間後、MGが0.095質量%、DGが3.10質量%残存していた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のエステル製造方法によれば、モノグリセリドやジグリセリドの残留を減少して純度の高い脂肪酸エステルが得られる。本発明の方法により得られる脂肪酸エステルは、バイオディーゼル燃料としての使用に適し得る。本発明の方法によれば、このような燃料が効率的に得られ得る。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】形質転換ベクターpNAN8142-mdlBを示す図である。
【図2】BSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼによる(A)DGを含む反応基質での反応、(B)MGを含む反応基質での反応、および(C)TGを含む反応基質での反応についてのメチルエステル含量の経時変化を示すグラフである。
【図3】BSPs固定化形質転換アスペルギルス・オリゼを利用した反応およびBSPs固定化リゾプス・オリゼを利用した反応におけるメチルエステル含量の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸エステルの製造方法であって、油脂と直鎖低級アルコールとを、リパーゼならびにモノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼによって反応させる工程を含む、方法。
【請求項2】
前記リパーゼならびに前記モノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼがそれぞれ、独立して、酵素または該酵素を産生する菌体の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼがアスペルギルス・オリゼ由来モノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼ(mdlB)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アスペルギルス・オリゼ由来モノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼ(mdlB)活性を示すように形質転換された菌体が用いられる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程が、
(a)前記油脂および前記直鎖低級アルコールを含む反応液中で前記リパーゼを作用させる工程;および
(b)工程(a)で得られた反応液中で前記モノグリセリドおよびジグリセリド分解性リパーゼを作用させる工程
を含む、請求項1から4のいずれかの項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、前記直鎖低級アルコールがさらに添加される、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−65887(P2009−65887A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236780(P2007−236780)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(502059825)Bio−energy株式会社 (16)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】