説明

脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤

【課題】脂肪酸メチルエステルの低温流動性及びCFPPを効率良く改善することができる低温流動性向上剤を提供する。
【解決手段】脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤は、下記(X)成分及び(Y)成分を含有するものである。(X)成分が、モノマー(a)(一般式(1))とモノマー(b)(一般式(2))とを共重合して得られるコポリマー(X1);及び/又はモノマー(a)と、モノマー(b)と、それ以外の炭素−炭素二重結合を持つモノマー(c)とを共重合して得られるコポリマー(X2)であり、(Y)成分が、モノマー(d)(一般式(3))とモノマー(e)(一般式(4))とを共重合して得られるコポリマー(Y1);及び/又は(e)を重合して得られるホモポリマー(Y2)である。R1CH=CHR(1)


CH=CH(3)(Rは水素原子又はフェニル基を表す)CH=CR(LR)(4)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤及び該低温流動性向上剤を含有するバイオディーゼル燃料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料油には、ガソリンや軽油、石油等の化石燃料が主に使用されているが、これらの燃料を消費すると大気中に二酸化炭素が放出され、地球温暖化等の環境問題を引き起こす主な要因になっていると考えられている。こうしたことから、二酸化炭素の環境への放出を少なくするために様々な方法が考えられている。
その一つの方法に、バイオ燃料を使用することが提案されている。バイオ燃料とは、主に植物から得られる燃料油のことであり、植物を原料とするエタノールやメタノール、脂肪酸メチルエステル等を100%あるいは、化石燃料と混合して自動車等の燃料に使用するものである。バイオ燃料は大気中の二酸化炭素を消費する植物から作られるため、燃焼によってバイオ燃料が大気中に二酸化炭素として放出されても、バイオ燃料の元となる新たな植物がその二酸化炭素を消費するため、大気中の二酸化炭素は増加しない(二酸化炭素の循環)。こうしたバイオ燃料は、前記のように様々な形態で取り組みが始められているが、既存のエンジンシステムにそのまま対応でき、エンジンの改良等が必要ないため、現在では化石燃料の中に脂肪酸メチルエステル等のバイオ燃料を含有させたバイオディーゼル燃料の検討が最も進んでいる。
【0003】
例えば、特許文献1には、バイオディーゼル燃料に酸化防止剤を添加したバイオディーゼル燃料組成物であって、上記バイオディーゼル燃料は、オレイン酸メチルエステル及び/又はリノール酸メチルエステルを1%以上含み、主成分として、炭素数がC4〜C25の脂肪酸メチルエステルを1種類又は2種類以上含んで成り、上記酸化防止剤は、天然成分及び/又は合成成分から成り、該脂肪酸メチルエステル合計質量に対して0.001%〜5%の割合で添加されることを特徴とするバイオディーゼル燃料組成物;前記バイオディーゼル燃料組成物の使用方法であって、該バイオディーゼル燃料組成物を、軽油に対し0.1〜100%の容量比で混合することを特徴とするバイオディーゼル燃料組成物の使用方法が開示されている。
しかしながら、脂肪酸メチルエステルを含有するバイオディーゼル燃料は流動点が高く、脂肪酸メチルエステルを高濃度で配合した場合や、低濃度でも寒冷地で使用した場合には燃料の流動性が悪化するため、フィルターやポンプの目詰まりを引き起こす場合があり、バイオディーゼル燃料を普及させるためには、バイオディーゼル燃料の低温流動性及び低温ろ過時の目詰り点(CFPP)を改良する必要があった。
【0004】
一方、既存のディーゼル燃料には様々な低温流動性向上剤が知られている。例えば、特許文献2には、下記一般式(1)で示される化合物Aと、下記一般式(2)で示される化合物Bを、その質量比(化合物A):(化合物B)が1:99乃至50:50となるように含有する燃料油用低温流動性向上剤:
【化1】

(式中、nは2以上の整数、X〜Xはそれぞれ独立して、水素、直鎖炭化水素又は分岐炭化水素基、もしくは炭素数3以上のシクロ炭化水素基を示す。)
【化2】

(式中、X、X10のうちいずれか一方は炭素数8乃至24の直鎖又は分岐の炭化水素基で、もう一方は水素を示し、X11はNR又はNHR、X12はH、HNHR又はHNである。また、R〜Rはそれぞれ独立して炭素数8乃至24の炭化水素基を示す)
が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、(A)炭素数8〜28の直鎖状飽和脂肪酸及び炭素数8〜28の直鎖状不飽和脂肪酸から選ばれた脂肪酸、並びに(B)流動点降下剤及び低温流動性向上剤から選ばれた少なくとも1種の改質剤を含有し、硫黄含量が0.05質量%以下の低硫黄軽油用油性向上剤;流動点降下剤が塩素化パラフィンとナフタリンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリアルキルメタクリレート、ポリブデン、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート及びポリアルキルアクリレートから選ばれた少なくとも1種である前記低硫黄軽油用油性向上剤;低温流動性向上剤がエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アルキルアクリレート及びアルケニルこはく酸アミドから選ばれた少なくとも1種である前記低硫黄軽油用油性向上剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−016089号公報
【特許文献2】特開2005−187581号公報
【特許文献3】特開平10−110175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、脂肪酸メチルエステルに、上述の特許文献2及び3に記載されているような低温流動性向上剤は、あまり効果がなく、より効果的な脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤が望まれている。
【0008】
従って、本発明の目的は、脂肪酸メチルエステルの低温流動性及びCFPPを効率良く改善することができる低温流動性向上剤を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、前記低温流動性向上剤を含有するバイオディーゼル燃料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者等は鋭意検討し、脂肪酸メチルエステルの低温流動性及びCFPPを大幅に改良することができる低温流動性向上剤を見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、下記(X)成分及び(Y)成分を含有してなる脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤であって、
(X)成分が、一般式(1)で表されるモノマー(a)と一般式(2)で表されるモノマー(b)とを共重合して得られるコポリマー(X1);及び/又はモノマー(a)と、モノマー(b)と、モノマー(a)及びモノマー(b)以外の炭素−炭素二重結合を持つモノマー(c)とを共重合して得られるコポリマー(X2)であり、
(Y)成分が、一般式(3)で表されるモノマー(d)と一般式(4)で表されるモノマー(e)とを共重合して得られるコポリマー(Y1);及び/又は(e)を重合して得られるホモポリマー(Y2)であることを特徴とする脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤:
1CH=CHR (1)
(式中、R及びRはそれぞれ独立した酸素原子、−C(=O)−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−OC(=O)O−で中断されていてもよい炭素数1〜100の炭化水素基、又は水素原子を表す)
【化3】

CH=CH (3)
(Rは水素原子又はフェニル基を表す)
CH=CR(LR) (4)
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Lは−C(=O)O−又は−OC(=O)−を表し、Rは炭素数1〜40の炭化水素基を表す。)
である。
【0010】
また、本発明のバイオディーゼル燃料組成物は、上記脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤と、バイオディーゼル燃料とを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果は、脂肪酸メチルエステルの低温流動性及びCFPPを効率よく改善させることのできる低温流動性向上剤を提供したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書で使用する術語「ホモポリマー」及び「重合体」は、特に記載がない限り、ラジカル重合、イオン重合、共縮合等の各種重合方法により得られた重合体を表し、「コポリマー」及び「共重合体」は特に記載がない限り、ラジカル重合、イオン重合、共縮合等の各種重合方法により得られたランダム共重合体、ブロック共重合体、ランダム/ブロック共重合体のいずれかを表す。
【0013】
まず(X)成分について説明する。(X)成分は、一般式(1)で表されるモノマー(a)と一般式(2)で表されるモノマー(b)とを共重合して得られるコポリマー(X1);及び/又は(a)と、(b)と、(a)及び(b)以外の炭素−炭素二重結合を持つモノマー(c)とを共重合して得られるコポリマー(X2)である。
【0014】
一般式(1)で表される(a)において、R及びRはそれぞれ独立して酸素原子、−C(=O)−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−OC(=O)O−で中断されていてもよい炭素数1〜100の炭化水素基又は水素原子である。
【0015】
酸素原子、−C(=O)−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−OC(=O)O−で中断されていない炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等が挙げられる。
【0016】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ドデシル(ラウリル)基、トリデシル基、テトラデシル(ミリスチル)基、ペンタデシル基、ヘキサデシル(パルミチル)基、へプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル)基、ノナデシル基、イコシル基、エイコシル基、ヘンイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、トリアコンチル基、テトラコンチル基、ペンタコンチル基、ヘキサコンチル基、ヘプタコンチル基、オクタコンチル基、ノナコンチル基、ヘクチル基等が挙げられる。
【0017】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−メチルエテニル基、2−メチルエテニル基、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ペンタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、ペンタコセニル基、トリアコンテニル基等が挙げられる。
【0018】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、メチルシクロペンテニル基、メチルシクロヘキセニル基、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0019】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−ビニルフェニル基、3−イソプロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−イソブチルフェニル基、4−ターシャリブチルフェニル基、4−ヘキシルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−オクチルフェニル基、4−(2−エチルヘキシル)フェニル基、4−ドデシルフェニル基等が挙げられる。
【0020】
一般式(1)で表される(a)において、R及びRは、それぞれ、酸素原子、−C(=O)−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−OC(=O)O−で中断されている炭化水素基でもよく、こうした基としては、例えば、ケトン基、エステル基、カーボネート基、エーテル基、ヒドロキシル基等を含んだ炭化水素基が挙げられ、同一分子中に一つ又は二つ以上含んでも良い。R及びRは酸素原子、−C(=O)−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−OC(=O)O−で中断することができる基の中でも好ましくは以下の一般式(9)〜(13)で表す基が挙げられ、中でも、エステル基を持つ一般式(10)又は一般式(11)を使用することがより好ましい:
【化4】

(式中、mは0又は1を表し、R及びRは炭素数1〜99の炭化水素基を表す。R及びRの炭素数の和は99以下である)
【化5】

(式中、mは0又は1を表し、R及びRは炭素数1〜99の炭化水素基を表す。R及びRの炭素数の和は99以下である)
【化6】

(式中、mは0又は1を表し、R及びRは炭素数1〜99の炭化水素基を表す。R及びRの炭素数の和は99以下である)
【化7】

(式中、mは0又は1を表し、R及びRは炭素数1〜99の炭化水素基を表す。R及びRの炭素数の和は99以下である)
−(R−O−R (13)
(式中、nは0又は1を表し、R及びRは炭素数1〜100の炭化水素基を表す。R及びRの炭素数の和は100以下である)
【0021】
低温流動性向上剤としての効果が高いため、R及びRは酸素原子、−C(=O)−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−OC(=O)O−で中断されていない炭化水素基又は水素原子であることが好ましい。特に、Rがアルキル基、Rが水素原子の組み合わせが好ましく、Rの炭素数は1〜40が好ましく、4〜22がより好ましい。なお、ポリオレフィンは単純なオレフィン類やアルケンをモノマーとして合成されるポリマーの総称であるが、本発明では、ポリオレフィンでも炭素−炭素二重結合があるものは(a)として扱うこととする。
【0022】
なお、(a)は、1種のみからなるものであっても良いし、2種以上の混合物であっても良い。
【0023】
(X)成分を重合する時の(a)及び(b)の使用量が合計100質量%以外の場合は(c)を含有するコポリマー(X2)となる。(c)は炭素−炭素二重結合を持つモノマーであればよく、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸トルイル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸−2−メトキシエチル、メタクリル酸−3−メトキシブチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸2,2,2‐トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル等の(メタ)アクリル酸系モノマー、クロルスチレン、酢酸2−ビニルフェニルスチレンスルホン酸及びその塩等のスチレン系モノマー、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル等が挙げられる。なお、モノマー(c)は、1種のみからなるものであってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0024】
なお、(X)成分を共重合する時の(c)の使用量は任意の割合で良いが、低温流動性向上剤としての効果が高いため、(a)、(b)及び(c)の合計量に対して(c)が50モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく10モル%以下が更に好ましく、使用しないことが最も好ましい。つまり本発明の(X)成分は、(X1)のみを使用することが好ましい。
【0025】
また、上記共重合する時の(a)及び(b)の使用量は低温流動性向上剤としての効果が高いため(c)の使用量にかかわらず、(a)/(b)=10/90〜90/10(モル比)が好ましく、(a)/(b)=10/90〜60/40(モル比)がより好ましく、(a)/(b)=40/60〜60/40(モル比)が更に好ましい。
【0026】
(a)であるオレフィン、(b)である無水マレイン酸、及び適宜(c)とを重合反応するには、公知の方法を用いて反応すればよく、例えば、無水マレイン酸(b)に対してオレフィン(a)及び適宜(c)を、40〜250℃で2〜30時間加熱反応することで一般式(14)で表されるオレフィンと無水マレイン酸のランダムコポリマーを得ることができる。なお、触媒は使用しなくても良いが、反応収率が高いという理由からアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や過酸化ベンゾイル等の重合開始剤を使用することが好ましい。また、ポリマーの分子量を調整する目的で、1−デカンチオールや四塩化炭素などの連鎖移動剤を使用することも可能である。上記の(a)、(b)、(c)の重合方法は、例えば、(a)及び(b)を重合したコポリマーに、(c)を公知の方法を用いて重合する方法があり、これらはランダム重合でもブロック重合でも良いが、製造が容易なためランダム重合の方が好ましい。
【0027】
【化8】

[式中、R、R、R及びRは、モノマー(c)成分由来の置換基を表し、l1は1以上、好ましくは1〜20の整数、m1は1以上、好ましくは1〜20の整数、n1は0または1以上、好ましくは0又は1〜20の整数、o1は1以上、好ましくは2〜300の整数を表す]
【0028】
(X)成分として使用できるポリマーの重量平均分子量は触媒の量や種類、反応温度、反応時間等の調整によって常法により制御することができ、分子量に制限はないが、あまりに分子量が低すぎると低温流動性向上剤としての効果が低くなり、分子量が高すぎると取り扱いが困難になる場合や、脂肪酸メチルエステルに溶解しない場合が出るため、500〜500000が好ましく、500〜80000がより好ましく、5000〜80000が更に好ましく、5000〜40000が最も好ましい。重量平均分子量を調整したい場合、反応温度を低くすることにより高分子量化し、反応温度を高くすることで低分子量化させることができる。
なお、(X)成分は、上記1種又は2種以上のポリマーから構成される。
【0029】
次に(Y)成分について説明する。(Y)成分は、一般式(3)で表されるモノマー(d)と一般式(4)で表されるモノマー(e)とを共重合して得られるコポリマー(Y1);及び/又は(e)を重合して得られるホモポリマー(Y2)である。(Y)成分が(Y1)の場合、任意の比率で重合したコポリマーを使用できるが、低温流動性向上剤としての効果が高いため、モノマー(d)/モノマー(e)の重合する比率は、(d)/(e)=1/9〜20/1が好ましい。(Y1)の重合方法はランダム、ブロック又はランダム/ブロック重合でもよいが、製造が容易なためランダム重合が好ましい。(Y)成分は市販品を用いるか、公知の方法を用いて重合すれば良い。
【0030】
なお、一般式(4)のRは炭素数1〜40の炭化水素基であり、使用できる炭化水素基としては一般式(1)のR及びRとして前述した炭素数1〜40の炭化水素基が挙げられる。これらの中でも低温流動性向上剤としての効果が高いため、アルキル基が好ましく、炭素数は1〜22が好ましい。
【0031】
(Y)成分の中でも低温流動性向上剤としての効果が高いため、特に一般式(3)が一般式(5)で表されるモノマー(f)又は一般式(7)で表されるモノマー(h)であり、一般式(4)が一般式(6)で表されるモノマー(g)又は一般式(8)で表されるモノマー(i)であり、(Y)成分が、(f)と(g)とを共重合して得られるコポリマー(Y3);(g)を重合して得られるホモポリマー(Y5);(h)と(i)とを共重合して得られるコポリマー(Y4);及び(g)を重合して得られるホモポリマー(Y6)であることが好ましく、(Y3)、(Y4)又は(Y5)を使用することがより好ましい。
【0032】
PhCH=CH (5)
(Phはフェニル基を表す)
【0033】
CH=CR(C(=O)OR) (6)
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数1〜40の炭化水素基を表す)
【0034】
CH=CH (7)
【0035】
CH=CHOC(=O)Me (8)
(式中、Meはメチル基を表す)
【0036】
以下に(Y3)〜(Y6)の詳細について説明する。
まず、(Y3)について説明する。
(f)及び(g)を共重合する時の使用量は、任意の割合で良いが、低温流動性向上剤としての効果が高いため(f)/(g)=1/9〜9/1(モル比)が好ましく、1/4〜4/1(モル比)がより好ましく、1/4〜2/1(モル比)が更に好ましい。
【0037】
一般式(6)のRは炭素数1〜40の炭化水素基であり、使用できる炭化水素基としては一般式(1)のR及びRとして前述した炭素数1〜40の炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基の中でも低温流動性向上剤としての効果を高いためアルキル基が好ましい。炭素数は1〜30が好ましく、1〜22がより好ましく、4〜18が更に好ましい。分子量に制限はないが、あまりに分子量が低すぎると低温流動性向上剤としての効果が低くなり、分子量が高すぎると取り扱いが困難になる場合や、脂肪酸メチルエステルに溶解しない場合が出るため、重量平均分子量が1000〜600000が好ましく、2000〜300000がより好ましく、3000〜200000が更に好ましく、3000〜150000が最も好ましい。
【0038】
(Y3)は市販品を用いるか、公知の方法を用いて重合すれば良く、重合方法はランダム又はブロック重合でもよいが、製造が容易なためランダム重合の方が好ましい。
例えば、スチレン[モノマー(f)]と(メタ)アクリル酸エステル[モノマー(g)]と重合開始剤としてAIBNを用いてを重合反応させれば、一般式(15)で表されるスチレン−(メタ)アクリル酸エステルコポリマーが得られる:
【化9】

(式中、l2は1以上、好ましくは1〜20の整数、m2は1以上、好ましくは1〜20の整数及びn2は1以上、好ましくは3〜100の整数を表す)
【0039】
次に、(Y4)について説明する。
(h)及び(i)を共重合する時の使用量は、任意の割合で良いが、低温流動性向上剤としての効果が高いため(h)/(i)=1/9〜20/1が好ましく、1/4〜15/1がより好ましく、1/2〜15/1が更に好ましく、4/5〜9/1が最も好ましい。
【0040】
分子量に制限はないが、あまりに分子量が低すぎると低温流動性向上剤としての効果が低くなり、分子量が高すぎると取り扱いが困難になる場合や、脂肪酸メチルエステルに溶解しない場合が出るため、重量平均分子量が1000〜600000が好ましく、2000〜300000がより好ましく、3000〜100000が更に好ましい。(Y4)の重合方法はランダム又はブロック重合でもよいが、製造が容易なためランダム重合の方が好ましい。例えば、エチレン(h)と、酢酸ビニル(i)と重合開始剤としてAIBNを用いて重合反応させれば、一般式(16)で表されるエチレン−酢酸ビニルコポリマーが得られる:
【0041】
【化10】

(式中、l3は1以上、好ましくは1〜20の整数、m3は1以上、好ましくは1〜20の整数及びn3は1以上、好ましくは10〜1000の整数を表す)
【0042】
次に、(Y5)について説明する。
(Y5)のRの炭素数の好ましい範囲は(Y3)と同様である。分子量に制限はないが、あまりに分子量が低すぎると低温流動性向上剤としての効果が低くなり、分子量が高すぎると取り扱いが困難になる場合や、脂肪酸メチルエステルに溶解しない場合が出るため、重量平均分子量が1000〜600000が好ましく、2000〜400000がより好ましく、3000〜200000が更に好ましく、3000〜100000が最も好ましい。(Y5)は市販品を使用するか公知の方法を用いて重合すればよい。例えば、(メタ)アクリル酸エステル(g)及び重合開始剤としてAIBNを用いてラジカル重合することにより一般式(17)で表される(メタ)アクリル酸エステルホモポリマーが得られる:
【0043】
【化11】

(式中、l4は2〜6000、好ましくは10〜300の整数を表す。)
【0044】
次に、(Y6)について説明する。
分子量に制限はないが、あまりに分子量が低すぎると低温流動性向上剤としての効果が低くなり、分子量が高すぎると取り扱いが困難になる場合や、脂肪酸メチルエステルに溶解しない場合が出るため、重量平均分子量が1000〜600000が好ましく、2000〜300000がより好ましく、3000〜150000が更に好ましく、3000〜100000が最も好ましい。(Y6)は市販品を使用するか公知の方法を用いて重合すればよい。例えば、酢酸ビニル及び重合開始剤としてAIBNを用いてラジカル重合することにより一般式(18)で表される酢酸ビニルホモポリマーが得られる:
【0045】
【化12】

(式中、l5は2以上、好ましくは10〜1000の整数を表す)
【0046】
(Y)成分は、上記コポリマー及びホモポリマーからなる群から選択される1種又は2種以上のポリマーから構成される。例えば、(Y3)、(Y4)、(Y5)又は(Y6)から選択して、2種以上を添加してもよい。
【0047】
(X)成分と(Y)成分の比率は任意の割合で使用することができるが、低温流動性向上剤としての効果が高いため(X)/(Y)=10/90〜90/10(質量比)が好ましく、(X)/(Y)=10/90〜75/25(質量比)がより好ましく、(X)/(Y)=10/90〜60/40(質量比)が更に好ましく、(X)/(Y)=40/60〜60/40(質量比)が最も好ましい。
【0048】
本明細書に記載する述語「バイオディーゼル燃料」とは、100質量%の脂肪酸メチルエステル又は軽油と脂肪酸メチルエステルを含有した燃料であり、軽油としては、JIS K2204で規格化されている1号軽油や2号軽油、3号軽油等のディーゼルエンジンに使用できる一般的な軽油であればいずれも使用することができる。
【0049】
また、脂肪酸メチルエステルとしては、植物から得られる天然油脂を原料にしたもの、動物から得られる天然油脂を原料にしたもの、及び、これらの廃食油を原料にしたものであればいずれも使用することができる。植物系の天然油脂としては、例えば、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ脂、カポック油、白カラシ油、ゴマ油、コメヌカ油、サフラワー油、シアナット油、シナキリ油、大豆油、茶実油、ツバキ油、コーン油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまし油、ひまわり油、綿実油、ヤシ油、木ロウ、落花生油、ヤトロファ油、砂桃油、花椒油及びこれらの混合物等が挙げられ、動物系の天然油脂としては牛脂、豚脂等が挙げられる。脂肪酸メチルエステルの製造方法は公知の方法であればいずれの方法で製造してもよく、例えば、上記の天然油脂とメタノールとを、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ触媒下で加熱してエステル交換をし、不純物として出るグリセリンを除去して得る方法が挙げられる。
【0050】
軽油と脂肪酸メチルエステルとを配合する場合は、バイオディーゼル燃料全量に対して脂肪酸メチルエステルが2質量%以上になるように配合することが好ましい。脂肪酸メチルエステルが2質量%未満であると、化石燃料の使用量を削減して二酸化炭素排出量を低減するという、バイオディーゼル燃料本来の目的を達成させるには不十分であり、バイオディーゼル燃料の意義が薄れてしまう場合があるために好ましくない。
【0051】
本発明のバイオディーゼル燃料組成物は、上記のバイオディーゼル燃料と、本発明の脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤とを含有してなるものである。バイオディーゼル燃料に対する本発明の低温流動性向上剤の配合量は特に限定されるものではないが、バイオディーゼル燃料全量に対して0.001〜5質量%配合することが好ましく、0.001〜2質量%がより好ましく、0.005〜2質量%が更に好ましく、0.01〜1.5質量%が最も好ましい。配合量が0.001質量%未満になると十分な効果が現れない場合があり、また、5質量%を超えると、配合量に見合った効果が得られない場合や、バイオディーゼル燃料の種類によっては不溶物が発生する場合があるために好ましくない。
【0052】
本発明のバイオディーゼル燃料組成物には、必要に応じてセタン価向上剤を配合することができる。セタン価向上剤としては、軽油のセタン価向上剤として知られる各種の化合物を任意に使用することができ、例えば、2−クロロエチルナイトレート、2−エトキシエチルナイトレート、イソプロピルナイトレート、ブチルナイトレート、第一アミルナイトレート、第二アミルナイトレート、イソアミルナイトレート、第一ヘキシルナイトレート、第二ヘキシルナイトレート、n−ヘプチルナイトレート、n−オクチルナイトレート、2−エチルヘキシルナイトレート、シクロヘキシルナイトレート、エチレングリコールジナイトレート等が挙げることができるが、特に、炭素数6〜8のアルキルナイトレートが好ましい。セタン価向上剤の含有量は、バイオディーゼル燃料組成物全量に対して500〜1400質量ppm、好ましくは600〜1250質量ppm、更に好ましくは700〜1100質量ppmの範囲内である。セタン価向上剤を配合する場合、その配合量が500質量ppm未満であると、十分なセタン価向上効果が得られず、ディーゼルエンジン排出ガス中の粒子状物質(PM)、アルデヒド類、さらにはNOxが十分に低減できないことがあるために好ましくない。また、セタン価向上剤の配合量が1400質量ppmを超えても、それに見合う効果が期待できず、経済的に不利になる場合がある。
【0053】
また、本発明のバイオディーゼル燃料組成物には、必要に応じて清浄剤を配合することができる。清浄剤としては、例えば、イミド系化合物;ポリブテニルコハク酸無水物とエチレンポリアミン類とから合成されるポリブテニルコハク酸イミドなどのアルケニルコハク酸イミド;ペンタエリスリトールなどの多価アルコールとポリブテニルコハク酸無水物から合成されるポリブテニルコハク酸エステルなどのコハク酸エステル;ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドンなどとアルキルメタクリレートとのコポリマーなどの共重合系ポリマー、カルボン酸とアミンの反応生成物等の無灰清浄剤等が挙げられ、中でもアルケニルコハク酸イミド及びカルボン酸とアミンとの反応生成物が好ましい。これらの清浄剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。清浄剤の配合量は、特に限定されるものではないが、清浄剤を配合した効果、具体的には、燃料噴射ノズルの閉塞抑制効果を引き出すため、清浄剤の配合量は、バイオディーゼル燃料組成物全量に対して30〜300質量ppm、好ましくは60〜200質量ppmの範囲内である。清浄剤の配合量が30質量ppm未満の場合、上記の効果が現れない場合があり、また、300質量ppmを超えてもそれに見合う効果が期待できず、逆に、ディーゼルエンジン排出ガス中のNOx、PM、アルデヒド類等を増加させる場合がある。
【0054】
更に、本発明のバイオディーゼル燃料組成物には、性能を更に高める目的で、その他の公知の燃料油添加剤を単独で、または数種類組み合わせて添加することもできる。その他の添加剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、トリエタノールアミン、アルキルジエタノールアミン等のアミン類、ヘキサン、トルエン、トリメチルベンゼン、鉱油等の炭化水素溶剤;アルキルメタルエステル、多価アルコールエステル等のエステル類、フェノール系、アミン系、ビタミン系などの酸化防止剤;脂肪酸、グリセリンエステル、アルキルアミン、脂肪酸アミドなどの潤滑性向上剤;サリチリデン誘導体などの金属不活性化剤;ポリグリコールエーテルなどの氷結防止剤;脂肪族アミン、アルケニルコハク酸エステルなどの腐食防止剤;アニオン系、カチオン系、両性系界面活性剤などの帯電防止剤;アゾ染料などの着色剤;シリコン系などの消泡剤等、メタノール、2−プロパノールなどの水抜き剤が挙げられる。その他の添加剤の配合量は任意に決めることができるが、添加剤個々の配合量は、バイオディーゼル燃料組成物全量に対して、0.001〜0.5質量%、より好ましくは0.001〜0.2質量%の範囲内である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明する。尚、以下の実施例等において、「%」及び「ppm」は、特に記載が無い限り質量基準であり、Mwは重量平均分子量を表し、配合比は全て質量比とする。
<成分(X)及び(Y)の重合方法>
A−1は、下記の方法によって合成した。
窒素導入管、還流管、攪拌装置及び温度計を備えた窒素吹き込み管及びコンデンサーを備えた1000mlフラスコに、1−オクタデセン0.25mol(63g)と無水マレイン酸0.25mol(25g)、メチルエチルケトン350g、及びAIBN0.01mol(0.3g)仕込み、70℃まで加熱し、同温で5時間反応を行ない、反応を終了した。得られた反応生成物から溶媒を減圧留去して1−オクタデセンと無水マレイン酸のランダムコポリマーを88g得た。
【0056】
A−2、A−3はA−1のモノマーの仕込み比を変え、A−1と同様の方法で反応させて合成した。
A−4は1−オクタデセンの代わりに1−ドデセンを用い、A−1と同様の方法で反応させ合成した。
A−5は1−オクタデセンの代わりにプロペンを用い、A−1と同様の方法で反応させ合成した。
A−6は1−オクタデセンの代わりに1−トリコセンを用い、A−1と同様の方法で反応させ合成した。
A−7は1−オクタデセンの代わりに酢酸ビニルを用い、A−1と同様の方法で反応させ合成した。
A−8は1−オクタデセンの代わりにアクリル酸ドデシルを用い、A−1と同様の方法で反応させ合成した。
A−9は1−オクタデセンの代わりにスチレンを用い、A−1と同様の方法で反応させ合成した。
A−10はA−1と同様の原料とメタクリル酸メチルを用い、A−1と同様の方法で反応させ合成した。
A−11〜A−13はA−1同様の原料を使用し、反応温度を調節し合成した。
【0057】
B−1は下記の方法によって合成した。
窒素導入管、還流管、攪拌装置及び温度計を備えた窒素吹き込み管及びコンデンサーを備えた1000mlフラスコにエチレン0.5mol(14g)、酢酸ビニル0.5mol(43g)及びヘキサン230gを加え、60℃ にて撹拌し溶解した。次いで、これを−20℃ にて4時間静置後、−20℃にて遠心分離(10000rpm×30分間)し、不溶分を単離した。得られた反応生成物から溶媒を減圧留去して目的物を57g得た。
【0058】
B−6、B−8はB−1のモノマーの仕込み比を変え、B−1と同様の方法で反応させ合成した。
B−7、B−9はB−6と同様の原料を使用し、反応温度を調節し合成した。
【0059】
B−2は下記の方法によって合成した。
窒素導入管、還流管、攪拌装置及び温度計を備えた窒素吹き込み管及びコンデンサーを備えた1000mlフラスコに、メタクリル酸ドデシル0.5mol(127g)、メチルエチルケトン350g及びAIBN0.01mol(0.3g)仕込み、70℃、5時間攪拌し、反応を終了した。得られた反応生成物から溶媒を減圧留去して目的物を127g得た。
【0060】
B−3はメタクリル酸ドデシルの代わりにアクリル酸ドデシルを用い、B−2と同様の方法で反応させ合成した。
B−10、B−11はB−2と同様の原料を使用し、反応温度を調節し、合成した。
B−12はメタクリル酸ドデシルの代わりにメタクリル酸ブチルを用い、B−2と同様の方法で反応させ合成した。
B−13はメタクリル酸ドデシルの代わりにメタクリル酸オクタデシルを用い、B−2と同様の方法で反応させ合成した。
【0061】
B−4は下記の方法によって合成した。
窒素導入管、還流管、攪拌装置及び温度計を備えた窒素吹き込み管及びコンデンサーを備えた1000mlフラスコに、スチレン0.25mol(26g)とメタクリル酸ドデシル0.25mol(64g)、メチルエチルケトン350g、アゾビスイソブチロニトリル0.01mol(0.3g)仕込み、70℃まで加熱し、同温で5時間反応を行ない、反応を終了した。得られた反応生成物から溶媒を減圧留去して目的物を90g得た。
【0062】
B−5はメタクリル酸ドデシルの代わりにメタクリル酸ブチルを用い、B−4と同様の方法で反応させ合成した。
B−14、B−15はB−4と同様の原料を使用し、反応温度を調節し、合成した。
B−16はメタクリル酸ドデシルの代わりにメタクリル酸オクタデシルを用い、B−4と同様の方法で反応させ合成した。
B−17はB−4のモノマーの仕込み比を変え、B−4と同様の方法で反応させ合成した。
B−18はメタクリル酸ドデシルの代わりにアクリル酸ドデシルを用い、B−4と同様の方法で反応させ合成した。
【0063】
<重量平均分子量の測定方法>
重量平均分子量は、GPCにより算出した。測定に用いた機器及び測定条件は以下の通りである。
検出器:RI検出器 HLC−8120GPC[東ソー(株)]
カラム:TSKgel G4000Hxl、TSKgel G3000Hxl、TSKgel
G2000Hxl[いずれも東ソー(株)]を直列に接続
展開溶媒:THF(テトラヒドロフラン)
展開溶媒流速:1ml/分
サンプル濃度:0.5質量%
測定温度:40℃
【0064】
<流動点試験>
上記低温流動性向上剤を表1〜7に示した配合で、基油1(大豆油由来脂肪酸メチルエステル100%)、基油2(大豆油由来脂肪酸メチルエステルを5%含む軽油)及び基油3(ナタネ油由来脂肪酸メチルエステル100%)を用いてバイオディーゼル燃料組成物を調整し、JIS K2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に記載の方法で測定を行った。即ち、試験管に45mlの試料(バイオディーゼル燃料組成物)を入れて45℃に加温し、次いで、冷却浴を用い、試料を冷却する。試料の温度が2.5℃下がるごとに試験管を冷却浴から取り出して傾け、試料が5秒間、全く動かなくなった時の温度を読み取り、この値に2.5℃を加えた値を流動点とした。なお、実験に使用した軽油は、JIS K2204で規格化されている1号軽油に相当するものである。基油1を使用して試験した結果1、基油2を使用して試験した結果2、基油3を使用して試験した結果3を表1〜7に記載した。
【0065】
<CFPP試験>
流動点試験と同様に、上記低温流動性向上剤を表1〜7に示した配合で、基油1(大豆油由来脂肪酸メチルエステル100%)を用いてバイオディーゼル燃料組成物を調整し、JIS K2288「軽油−目詰まり点試験方法」に記載の方法に準拠して測定を行った。即ち、45mlの試料を試験管にとり、冷却する。試料の温度が1℃下がるごとに2kPa(水柱200mm)の減圧下で、目開き45μmの金網付きろ過器を通して試料を吸い上げ、試料20mlが金網付きろ過器を通過するのに要する時間を測定した。
このようにして、試料のろ過通過時間が60秒を超えたときの温度を読み取り、目詰まり点とし、結果4として表1〜7に記載した。
【0066】
<試験サンプル>
試験に使用した(X)成分は下記の重合物である(下記は全てモル比を表す)。
A−1:(a)(一般式(1)において、R=ヘキサデシル基、R=水素原子)/( b)=50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=9800)
A−2:(a)(一般式(1)において、R=ヘキサデシル基、R=水素原子)/( b)=75/25を共重合して得られるコポリマー(Mw=12000)
A−3:(a)(一般式(1)において、R=ヘキサデシル基、R=水素原子)/( b)=25/75を共重合して得られるコポリマー(Mw=7200)
A−4:(a)(一般式(1)において、R=デシル基、R=水素原子)/(b)= 50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=7500)
A−5:(a)(一般式(1)において、R=メチル基、R=水素原子)/(b)= 50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=3900)
A−6:(a)(一般式(1)において、R=ヘンイコシル基、R=水素原子)/( b)=50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=12000)
A−7:(a)(一般式(1)において、R=−OC(=O)Me、R=水素原子) /(b)=50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=5200)
A−8:(a)(一般式(1)において、R=−C(=O)OC1225、R=水 素原子)/(b)=50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=950 0)
A−9:(a)(一般式(1)において、R=フェニル基、R=水素原子)/(b) =50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=6100)
A−10:(a)(一般式(1)において、R=ヘキサデシル基、R=水素原子)/ (b)/(g)(一般式(6)において、R=メチル基、R=メチル基)= 45/45/10を共重合して得られるコポリマー(Mw=9800)
A−11:(a)(一般式(1)において、R=ヘキサデシル基、R=水素原子)/ (b)=50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=3200)
A−12:(a)(一般式(1)において、R=ヘキサデシル基、R=水素原子)/ (b)=50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=48000)
A−13:(a)(一般式(1)において、R=ヘキサデシル基、R=水素原子)/ (b)=50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=98000)
【0067】
試験に使用した(Y)成分は下記の重合物である(下記は全てモル比を表す)。
B−1:(h)/(i)=50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=4500 )
B−2:(g)(一般式(6)において、R=メチル基、R=ドデシル基)を重合し て得られるホモポリマー(Mw=90000)
B−3:(g)(一般式(6)において、R=水素原子、R=ドデシル基)を重合し て得られるホモポリマー(Mw=38000)
B−4:(f)/(g)(一般式(6)において、R=メチル基、R=ドデシル基) =50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=66000)
B−5:(f)/(g)(一般式(6)において、R=メチル基、R=ブチル基)= 50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=47000)
B−6:(h)/(i)=90/10を共重合して得られるコポリマー(Mw=4000 )
B−7:(h)/(i)=90/10を共重合して得られるコポリマー(Mw=9800 0)
B−8:(h)/(i)=25/75を共重合して得られるコポリマー(Mw=4800 )
B−9:(h)/(i)=90/10を共重合して得られるコポリマー(Mw=1000 0)
B−10:(g)(一般式(6)において、R=メチル基、R=ドデシル基)を重合 して得られるホモポリマーMw=3000)
B−11:(g)(一般式(6)において、R=メチル基、R=ドデシル基)を重合 して得られるホモポリマー(Mw=100000)
B−12:(g)(一般式(6)において、R=メチル基、R=ブチル基)を重合し て得られるホモポリマー(Mw=40000)
B−13:(g)(一般式(6)において、R=メチル基、R=オクタデシル基)を 重合して得られるホモポリマー(Mw=30000)
B−14:(f)/(g)(一般式(6)において、R=メチル基、R=ドデシル基 )=50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=3200)
B−15:(f)/(g)(一般式(6)において、R=メチル基、R=ドデシル基 )=50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=200000)
B−16:(f)/(g)(一般式(6)において、R=メチル基、R=オクタデシ ル基)=50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=32000)
B−17:(f)/(g)(一般式(6)において、R=メチル基、R=ドデシル基 )=20/80を共重合して得られるコポリマー(Mw=28000)
B−18:(f)/(g)(一般式(6)において、R=水素原子、R=ドデシル基 )=50/50を共重合して得られるコポリマー(Mw=45000)
B−19:(i)を重合して得られるホモポリマー(Aldrich製、試薬コード:1 89480)(Mw=100000)
【0068】
(X)成分と(Y)成分以外のその他の成分は以下の通りである。
C−1:市販のポリプロピレンを使用した(Aldrich製、試薬コード:45214 9)(Mw=174000)。
C−2:市販のポリスチレンを使用した(Fluka製、試薬コード:81407)(M w=20000)。
C−3:市販のポリ(アクリル酸ナトリウム塩)使用した(Fluka製、試薬コード:8 1123)(Mw=16000)。
以下に試験結果を示した(配合比は全て質量比とする)。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(X)成分及び(Y)成分を含有してなる脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤であって、
(X)成分が、一般式(1)で表されるモノマー(a)と一般式(2)で表されるモノマー(b)とを共重合して得られるコポリマー(X1);及び/又はモノマー(a)と、モノマー(b)と、モノマー(a)及びモノマー(b)以外の炭素−炭素二重結合を持つモノマー(c)とを共重合して得られるコポリマー(X2)であり、
(Y)成分が、一般式(3)で表されるモノマー(d)と一般式(4)で表されるモノマー(e)とを共重合して得られるコポリマー(Y1);及び/又は(e)を重合して得られるホモポリマー(Y2)であることを特徴とする脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤:
1CH=CHR (1)
(式中、R及びRはそれぞれ独立した酸素原子、−C(=O)−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−OC(=O)O−で中断されていてもよい炭素数1〜100の炭化水素基、又は水素原子を表す)
【化1】

CH=CH (3)
(Rは水素原子又はフェニル基を表す)
CH=CR(LR) (4)
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Lは−C(=O)O−又は−OC(=O)−を表し、Rは炭素数1〜40の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
(a)、(b)及び(c)の合計量に対する(c)の使用量が50モル%以下である、請求項1記載の脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤。
【請求項3】
(X)成分が(X1)である、請求項1記載の脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤。
【請求項4】
(a)と、(b)の比率が(a)/(b)=10/90〜90/10(モル比)である、請求項1ないし3項のいずれか1項記載の脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤。
【請求項5】
(X)成分と(Y)成分の比率が(X)/(Y)=10/90〜90/10(質量比)である、請求項1ないし4項のいずれか1項記載の脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤。
【請求項6】
一般式(3)が一般式(5)で表されるモノマー(f)又は一般式(7)で表されるモノマー(h)であり、一般式(4)が一般式(6)で表されるモノマー(g)又は一般式(8)で表されるモノマー(i)であり、(Y)成分が、(f)と(g)とを共重合して得られるコポリマー(Y3);(g)を重合して得られるホモポリマー(Y5);(h)と(i)とを共重合して得られるコポリマー(Y4);及び(g)を重合して得られるホモポリマー(Y6)の群から選択される1種又は2種以上のポリマーからなる(Y)成分を含有することを特徴とする請求項1ないし5項のいずれか1項記載の脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤;
PhCH=CH (5)
(Phはフェニル基を表す)
CH=CR(C(=O)OR) (6)
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数1〜40の炭化水素基を表す)
CH=CH (7)
CH=CHOC(=O)Me (8)
(式中、Meはメチル基を表す)
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項記載の脂肪酸メチルエステル用低温流動性向上剤と、バイオディーゼル燃料とを含有することを特徴とするバイオディーゼル燃料組成物。
【請求項8】
更に、セタン価向上剤、清浄剤溶剤、炭化水素溶剤、酸化防止剤、潤滑性向上剤、金属不活性剤、氷結防止剤、腐食防止剤、帯電防止剤、着色剤、水抜き剤及び消泡剤からなる群から選択される1種または2種以上のその他の添加剤を配合してなる、請求項7記載のバイオディーゼル燃料組成物。